霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一二章 不意(ふい)の客(きやく)〔七五八〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第25巻 海洋万里 子の巻 篇:第3篇 竜の宮居 よみ(新仮名遣い):たつのみやい
章:第12章 不意の客 よみ(新仮名遣い):ふいのきゃく 通し章番号:758
口述日:1922(大正11)年07月10日(旧閏05月16日) 口述場所: 筆録者:谷村真友 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年5月25日
概要: 舞台:地恩城 あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
地恩城の広場でマール、貫州、武公が雑談にふけっていると、友彦が女房のテールス姫を連れてたった二人で城にやってきた。友彦は旧知の貫州と武公に挨拶するが、貫州と武公は友彦に邪険にして城内に入れまいとする。
友彦は自分が改心したことを訴え、門内に入ったところ、門番たちは友彦とテールス姫を突き倒して打ち据えた。しかし友彦とテールス姫は、感謝祈願の祝詞を唱えるのみだった。
いつの間にか貫州たちも、友彦夫婦と共に感謝祈願の祝詞を奏上していた。そこへ通りかかった鶴公は、城内に戻って黄竜姫に見たことをつぶさに報告した。鶴公は友彦を疑っていたが、黄竜姫は自ら友彦夫婦のところに赴いた。
友彦はテールス姫が熱心な三五教の信者となり、今は自分の神務を補佐していると黄竜姫に紹介した。黄竜姫は二人を城の奥殿に招きいれた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-09-05 18:57:30 文字数:4791 OBC :rm2512
愛善世界社版:172頁 八幡書店版:第5輯 94頁 修補版: 校定版:178頁 普及版:78頁 初版: ページ備考:
001心(こころ)の鬼(おに)に責(せ)められて
002黄竜姫(わうりようひめ)が其(その)昔(むかし)
003年(とし)も二八(にはち)の花盛(はなざか)り
004大(だい)の男(をとこ)を素気(すげ)無(な)くも
005錫蘭島(セイロンとう)の山奥(やまおく)に
006義理(ぎり)も情(なさけ)も荒男(あらをとこ)
007淋(さび)しき閨(ねや)の友彦(ともひこ)を
008酒(さけ)に酔(よ)はせて籠抜(かごぬけ)の
009憂目(うきめ)に会(あ)はせた古疵(ふるきず)は
010女王(ぢよわう)となりし今日(けふ)までも
011心(こころ)の奥(おく)に蟠(わだ)かまり
012悩(なや)み苦(くるし)み居(ゐ)たりしが
013空(そら)澄(す)み渡(わた)る中秋(ちうしう)の
014月(つき)の光(ひかり)に照(て)らされて
015棄(す)てた男(をとこ)の心根(こころね)を
016思(おも)ひ浮(うか)べて矢(や)も楯(たて)も
017耐(たま)らぬ許(ばか)り苦(くる)しみの
018雲(くも)に包(つつ)まれ怖(おそ)ろしく
019空(そら)を眺(なが)めて居(ゐ)る内(うち)に
020天空(てんくう)俄(にはか)にかき曇(くも)り
021数多(あまた)の鬼(おに)を引率(ひきつ)れて
022鋼鉄(まがね)の矛(ほこ)の雨(あめ)降(ふ)らす
023友彦(ともひこ)幕下(ばくか)の鬼(おに)共(ども)が
024影(かげ)に戦(をのの)き千仭(せんじん)の
025谷間(たにま)に忽(たちま)ち顛落(てんらく)し
026続(つづ)いて母(はは)の蜈蚣姫(むかでひめ)
027黄竜姫(わうりようひめ)を救(すく)はむと
028階段(かいだん)降(くだ)り踏(ふ)みはづし
029同(おな)じく谷間(たにま)に顛落(てんらく)し
030罪(つみ)を償(つぐな)ふ谷(たに)の底(そこ)
031ヤレ恐(おそ)ろしや恐(おそ)ろしや
032昔(むかし)の罪(つみ)の廻(めぐ)り来(き)て
033根底(ねそこ)の国(くに)に落(お)ちたるか
034天地(てんち)の神(かみ)よ友彦(ともひこ)よ
035妾(わたし)の罪(つみ)を赦(ゆる)せよと
036祈(いの)る折(をり)しも秋風(あきかぜ)に
037吹(ふ)かれて落(お)ち来(く)る一葉(いちえう)の
038紅花(こうくわ)の吾(わが)眼(め)にヒラヒラと
039入(い)るよと見(み)れば夢(ゆめ)醒(さ)めて
040仰(あふ)げば元(もと)の高殿(たかどの)に
041梅子(うめこ)の姫(ひめ)や諸人(もろびと)と
042月(つき)の光(ひかり)を浴(あ)び居(ゐ)たる
043此(この)正夢(まさゆめ)に小糸姫(こいとひめ)
044愈(いよいよ)此処(ここ)に三五(あななひ)の
045神(かみ)の御前(みまへ)に手(て)を合(あは)せ
046月光神(げつくわうがみ)に心(こころ)より
047月見(つきみ)の無礼(ぶれい)を謝(しや)し乍(なが)ら
048奥殿(おくでん)深(ふか)く進(すす)み入(い)り
049神(かみ)の御前(みまへ)に太祝詞(ふとのりと)
050宣(の)れる折(をり)しも貫州(くわんしう)が
051息(いき)せき切(き)つて駆来(かけきた)り
052夢(ゆめ)の中(なか)なる出来事(できごと)を
053誠(まこと)しやかに宣(の)りつれば
054黄竜姫(わうりようひめ)は怪(あや)しみて
055スマートボールを門外(もんぐわい)に
056遣(つか)はし偵察(ていさつ)せしむるに
057敵(てき)の攻(せ)め来(き)し影(かげ)もなく
058月(つき)の光(ひかり)は皎々(かうかう)と
059四辺(あたり)隈(くま)なく照(て)り渡(わた)る
060黄竜姫(わうりようひめ)を始(はじ)めとし
061貫州(くわんしう)武公(たけこう)が胸(むね)の中(うち)
062まだ晴(は)れやらぬ黒雲(くろくも)に
063疑心(ぎしん)暗鬼(あんき)を生(う)み出(いだ)し
064吾(われ)と吾(わが)手(て)に悩(なや)みたる
065転迷(てんめい)開悟(かいご)の物語(ものがたり)
066横(よこ)に臥(ふ)しつつ瑞月(ずゐげつ)が
067天井(てんじやう)の棧(さん)を数(かぞ)へつつ
068形(かたち)も円(まる)き餡(あん)パンを
069頬張(ほほば)り頬張(ほほば)り述(の)べて行(ゆ)く
070黄竜姫(わうりようひめ)が物語(ものがたり)
071進(すす)むにつれて不思議(ふしぎ)なれ
072嗚呼(ああ)惟神(かむながら)々々(かむながら)
073御霊(みたま)幸倍(さちはへ)坐(ま)しませよ。
074○
075 地恩城(ちおんじやう)の城内(じやうない)の広場(ひろば)の木蔭(こかげ)に、076貫州(くわんしう)、077武公(たけこう)の大将株(たいしやうかぶ)を始(はじ)め、078門番(もんばん)其(その)他(た)一同(いちどう)、079芝生(しばふ)の上(うへ)に身(み)を横(よこ)たへ、080或(あるひ)は坐(すわ)りなどして雑談(ざつだん)に耽(ふけ)つて居(ゐ)る。
081 門番(もんばん)のマール(万蔵)は貫州(くわんしう)に向(むか)ひ、
082マール『モシモシ、083ボールさま(組長(くみちやう)の意(い))此(この)間(あひだ)は友彦(ともひこ)の軍勢(ぐんぜい)がやつて来(き)たさうですが、084如何(どう)なりましたかなア』
085貫州(くわんしう)『お前(まへ)の貫州(くわんしう)する所(ところ)でない。086マールで蜃気楼(しんきろう)の様(やう)な話(はなし)であつたよ』
087マール『貴方(あなた)の黄竜姫(わうりようひめ)様(さま)への御(ご)報告(はうこく)は、088マールで夢(ゆめ)の様(やう)だつたと言(い)ふことですが、089夢(ゆめ)にしても大袈裟(おほげさ)なことですな』
090貫州(くわんしう)『俺(おれ)ばつかりぢやない。091武公(たけこう)でさへも同(おな)じ夢(ゆめ)を見(み)たのだから、092貫武(くわんぶ)一途(いつと)だよ。093どうしても嘘(うそ)とは思(おも)へないものだから報告(はうこく)に及(およ)んだのだ。094併(しか)し乍(なが)ら俺(おれ)達(たち)は、095黄竜姫(わうりようひめ)様(さま)の御(お)身(み)の上(うへ)を案(あん)じ煩(わづら)ひ奉(たてまつ)つて居(ゐ)る忠臣(ちうしん)だから、096貴様(きさま)の見(み)る夢(ゆめ)とは、097稍(やや)選(せん)を異(こと)にして居(ゐ)るのだ』
098マール『選(せん)を異(こと)にして居(ゐ)られるから、099戦争(せんさう)の夢(ゆめ)を御覧(ごらん)になり、100戦々(せんせん)恟々(きようきよう)として戦況(せんきやう)を御(ご)報告(はうこく)なさつたのですなア。101……武公(たけこう)さま、102貴方(あなた)も本当(ほんたう)に其(そ)んな夢(ゆめ)を見(み)たのですか』
103武公(たけこう)『俺(おれ)は別(べつ)に夢(ゆめ)を見(み)たと云(い)ふ訳(わけ)ではないが、104常々(つねづね)そんな事(こと)が在(あ)りはせぬかと、105案(あん)じて居(を)つた矢先(やさ)き、106貫州(くわんしう)が周章(あわただ)しく話(はな)したものだから、107俺(おれ)も夢(ゆめ)か現(うつつ)か知(し)らぬが、108ツイ捲(ま)き込(こ)まれて報告(はうこく)に往(い)つたまでだ。109併(しか)し軽信(けいしん)報告(はうこく)(敬神(けいしん)報国(はうこく))の至誠(しせい)の発露(はつろ)だから、110黄竜姫(わうりようひめ)様(さま)も別(べつ)にお咎(とが)め遊(あそ)ばさず、111マア無事(ぶじ)で事済(ことずみ)となつたやうなものだ』
112マール『そんなら是(これ)から貴方(あなた)等(がた)両人(りやうにん)に対(たい)し、113蜃気楼(しんきろう)ボールと云(い)ふ尊名(そんめい)を奉(たてまつ)ることにしませうかい。114……のうミユーズ(妙州(めうしう))』
115ミユーズ『オウそれが宜(よ)からう。116蜃気楼(しんきろう)と云(い)ふやつは、117少(すこ)しくどんよりとしたやうなハツキリせぬ空(そら)に、118空中(くうちう)楼閣(ろうかく)が出来(でき)たり、119松林(まつばやし)が出来(でき)たり、120人馬(じんば)の往来(わうらい)する有様(ありさま)が映(うつ)つて来(く)るものだ。121何時(いつ)も春夏(はるなつ)の頃(ころ)になると、122ネルソン山(ざん)の上(うへ)の方(はう)に蜃気楼(しんきろう)が現(あら)はれ、123色々(いろいろ)の立派(りつぱ)な女神(めがみ)の姿(すがた)が見(み)えたり、124中(なか)には鬼(おに)や大蛇(をろち)の姿(すがた)が現(あら)はるる事(こと)がある。125大方(おほかた)貫州(くわんしう)さまは夢(ゆめ)ではなくて、126其(その)蜃気楼(しんきろう)を眺(なが)め、127ビツクリして本真物(ほんまもの)ぢやと思(おも)つて報告(はうこく)しられたのだらう』
128貫州(くわんしう)『俺(おれ)は自転倒(おのころ)島(じま)から此処(ここ)へやつて来(き)たものだから、129空中(くうちう)にそんな物(もの)が現(あら)はれると云(い)ふ事(こと)は、130話(はなし)は聞(き)いて居(ゐ)るがまだ見(み)た事(こと)はない。131一遍(いつぺん)見(み)たいものだなア』
132マール『此(この)竜宮島(りうぐうじま)には諏訪(すは)の湖(うみ)と云(い)つて、133立派(りつぱ)な金銀(きんぎん)の砂(すな)を以(もつ)て湖底(こてい)を固(かた)めた様(やう)な綺麗(きれい)な広(ひろ)い水溜(みづたま)りがあり、134其処(そこ)に竜神(りうじん)や沢山(たくさん)の女神(めがみ)が現(あらは)れて、135色々(いろいろ)の事(こと)を遊(あそ)ばして御座(ござ)る姿(すがた)が、136時(とき)あつて天上(てんじやう)に映(えい)じ我々(われわれ)国人(くにびと)を驚(おどろ)かし給(たま)ふ事(こと)が度々(たびたび)ありますよ。137併(しか)し乍(なが)ら近年(きんねん)は如何(どう)したものか、138今迄(いままで)の様(やう)にさう度々(たびたび)現(あら)はれなくなつた。139大方(おほかた)ネルソン山(ざん)を向(むか)ふに越(こ)えた秘密(ひみつ)郷(きやう)へ、140鼻曲(はなまが)りの友彦(ともひこ)が往(い)つたものだから、141竜神(りうじん)が怒(いか)つて諏訪(すは)の湖(うみ)の底(そこ)深(ふか)くお隠(かく)れ遊(あそ)ばし、142色々(いろいろ)の神業(しんげふ)を御(ご)中止(ちゆうし)になつて、143蜃気楼(しんきろう)が現(あら)はれないのかも知(し)れない。144本当(ほんたう)に竜神(りうじん)も友彦(ともひこ)の為(た)めに、145蜃気楼(しんきろう)一転(いつてん)遊(あそ)ばしたのかも知(し)れないよ。146アハヽヽヽ』
147貫州(くわんしう)『オイ向(むか)ふを見(み)よ。148噂(うはさ)をすれば影(かげ)とやら、149鼻先(はなさき)の赤(あか)い出歯(でば)の団栗眼(どんぐりまなこ)の友彦(ともひこ)に似(に)た奴(やつ)が綺麗(きれい)な女(をんな)を連(つ)れてやつて来(く)るぢやないか』
150武公(たけこう)『ヤア、151ホンによく似(に)た奴(やつ)だ。152然(しか)し彼奴(あいつ)はジヤンナの郷(さと)で非常(ひじやう)な勢(いきほひ)で郷人(さとびと)にもてはやされ、153殆(ほとん)どネルソン山(ざん)以西(いせい)は友彦(ともひこ)の勢力(せいりよく)範囲(はんゐ)になり、154言(い)はば黄竜姫(わうりようひめ)様(さま)に匹敵(ひつてき)する様(やう)な地位(ちゐ)に迄(まで)進(すす)んだと言(い)ふ噂(うはさ)だから、155仮令(たとへ)此処(ここ)へ来(く)るにしても、156十(じふ)人(にん)や二十(にじふ)人(にん)の供(とも)を連(つ)れて来(く)るべき筈(はず)だ。157鼻(はな)の曲(まが)つた奴(やつ)は広(ひろ)い世間(せけん)には、158二人(ふたり)や三(さん)人(にん)は無(な)いとも限(かぎ)らぬ。159よもや友彦(ともひこ)ではあるまいなア』
160貫州(くわんしう)『ソレでもよく見(み)よ。161友彦(ともひこ)に間違(まちが)ひない様(やう)だ。162彼奴(あいつ)は今迄(いままで)の地金(ぢがね)を出(だ)して、163ジヤンナの郷人(さとびと)に愛想(あいさう)をつかされ、164居(ゐ)たたまらなくなり、165テールス姫(ひめ)と手(て)に手(て)を取(と)つて駆落(かけおち)と出掛(でか)け、166地恩城(ちおんじやう)へ救援軍(きうゑんぐん)を願(ねが)ひに来(き)たのか、167但(ただし)は居候(ゐさふらふ)に舞(ま)ひ込(こ)んで来居(きを)つたのに間違(まちが)ひあるまいぞ』
168武公(たけこう)『果(はた)して友彦(ともひこ)だつたらどうする考(かんが)へだ』
169貫州(くわんしう)『無論(むろん)の事(こと)、170寄(よ)つて集(たか)つて懲(こら)しめの為(た)め打(ぶ)ちのめすのだ。171何程(なにほど)無抵抗(むていかう)主義(しゆぎ)の三五教(あななひけう)と言(い)つても、172あんな奴(やつ)を門内(もんない)に入(い)れて耐(たま)るものかい。173黄竜姫(わうりようひめ)様(さま)に対(たい)し、174どんな事(こと)をし居(を)るか分(わか)つたものでない。175又(また)黄竜姫(わうりようひめ)様(さま)も、176あんな男(をとこ)が仮令(たとへ)一(いち)年(ねん)でも夫(をつと)であつたと、177人(ひと)に思(おも)はれては恥(はづ)かしいと御(お)気(き)を揉(も)まれるに定(きま)つて居(ゐ)る。178それに又(また)嬶(かか)アを連(つ)れて来(き)て居(ゐ)るから、179そんな事(こと)が分(わか)らうものなら又(また)もや悋気(りんき)の角(つの)を生(は)やして、180どんな騒動(さうだう)をおつぱじめるか分(わか)らないから、181兎(と)も角(かく)此(この)門内(もんない)に一歩(いつぽ)たりとも入(い)れてはならぬ。182先年(せんねん)の様(やう)に放(ほう)り出(だ)して仕舞(しま)ふに限(かぎ)る』
183と話合(はなしあ)ふ所(ところ)へ夢(ゆめ)でもなく現(うつつ)でも蜃気楼(しんきろう)でもなく、184本当(ほんたう)の友彦(ともひこ)はテールス姫(ひめ)とただ二人(ふたり)スタスタと此(この)場(ば)に近(ちか)づき来(きた)り、
185友彦(ともひこ)『ヤア貫州(くわんしう)さま、186武公(たけこう)さま、187久(ひさ)し振(ぶ)りで、188御(ご)機嫌(きげん)宜(よろ)しう』
189貫州(くわんしう)『ヤア矢張(やつぱ)り貴様(きさま)は友彦(ともひこ)だな。190日頃(ひごろ)の地金(ぢがね)を出(だ)して、191又候(またぞろ)土人(どじん)の奴(やつ)に愛想(あいさう)をつかされ、192ノソノソと遣(や)つて来(き)たのだらうが、193此(この)城門(じやうもん)は我々(われわれ)の勢力(せいりよく)圏内(けんない)に置(お)かれてある関所(せきしよ)だから、194通(とほ)す事(こと)は罷(まか)りならぬ。195折角(せつかく)だがトツトと帰(かへ)つて呉(く)れ』
196友彦(ともひこ)『左様(さやう)で御座(ござ)いませうが、197今日(こんにち)の友彦(ともひこ)は今(いま)までの体主(たいしゆ)霊従(れいじう)の友彦(ともひこ)と違(ちが)ひますから、198御(ご)心配(しんぱい)なく通過(つうくわ)させて頂(いただ)きたい』
199マール『モシモシ、200ボールさま、201此(こ)んな奴(やつ)は絶対(ぜつたい)に通(とほ)す事(こと)は出来(でき)ませぬなア』
202貫州(くわんしう)『オウさうだ。203金輪際(こんりんざい)通(とほ)す事(こと)は出来(でき)ぬ。204諦(あきら)めて帰(かへ)つたがよからうぞ』
205友彦(ともひこ)『其(その)御(お)疑(うたが)ひは御尤(ごもつと)も乍(なが)ら、206我々(われわれ)はジヤンナイ教(けう)を立替(たてか)へ、207大慈(だいじ)大悲(だいひ)の三五教(あななひけう)の教(をしへ)を立(た)て、208今日(こんにち)の所(ところ)大変(たいへん)な勢力(せいりよく)になりましたので、209同(おな)じ一(ひと)つ島(じま)に於(お)ける神(かみ)様(さま)の御(お)道(みち)、210黄竜姫(わうりようひめ)様(さま)に一切(いつさい)報告(はうこく)し、211その部下(ぶか)に使(つか)つて貰(もら)ひ、212全島(ぜんたう)を統一(とういつ)して頂(いただ)かうと態(わざ)とに供(とも)をも連(つ)れず、213女房(にようばう)のテールス姫(ひめ)と只(ただ)二人(ふたり)遥々(はるばる)参(まゐ)りました。214どうぞ黄竜姫(わうりようひめ)様(さま)に御(ご)面会(めんくわい)叶(かな)はねば、215強(た)つてとは申(まを)しませぬ。216左守(さもり)様(さま)になりとも会(あ)はして頂(いただ)きたう御座(ござ)います』
217マール『ヤイヤイ友彦(ともひこ)、218供(とも)を連(つ)れずにやつて来(き)たと今(いま)言(い)つたが、219友(とも)に供(とも)が要(い)るかい。220テールス姫(ひめ)だとか言(い)つて、221妙(めう)なアトラスのやうな面(つら)した女房(にようばう)が、222それ程(ほど)有難(ありがた)いのか。223鼻(はな)の赤(あか)い奴(やつ)や、224顔(かほ)の斑(まだら)に赤(あか)い奴(やつ)が勿体(もつたい)なくも地恩城(ちおんじやう)にやつて来(き)て、225左守(さもり)様(さま)に御(ご)面会(めんくわい)を願(ねが)ひたいとは、226そりや何(なに)を戯(ふざ)けた事(こと)を吐(ほざ)くのだ。227チツト貴様(きさま)、228面(つら)と相談(さうだん)して見(み)ろ』
229テールス姫(ひめ)『友彦(ともひこ)さま、230サーチライス地恩城(ちおんじやう)、231エツプツプ、232エツパエツパ、233パーチクパーチク、234イツパーパー』
235と土人語(どじんご)で囀(さへづ)つて居(ゐ)る。236此(この)意味(いみ)は……友彦(ともひこ)の救世主(きうせいしゆ)を、237地恩城(ちおんじやう)の門番(もんばん)が、238訳(わけ)も分(わか)らずに我々(われわれ)を軽蔑(けいべつ)して入門(にふもん)を拒絶(きよぜつ)して居(ゐ)るが、239決(けつ)して躊躇(ちうちよ)に及(およ)ばぬ、240ドシドシ這入(はい)りませう……との意味(いみ)であつた。241友彦(ともひこ)は、
242友彦『貫州(くわんしう)、243武公(たけこう)其(その)他(た)の方々(かたがた)、244話(はなし)は後(あと)で分(わか)りませう。245兎(と)も角(かく)左守(さもり)様(さま)に御(ご)面会(めんくわい)の上(うへ)………』
246と言(い)ひ乍(なが)らテールス姫(ひめ)の手(て)を引(ひ)き、247表門(おもてもん)に向(むか)つて進(すす)み行(ゆ)かむとする。248貫州(くわんしう)、249武公(たけこう)は、
250貫州(くわんしう)『コリヤ大変(たいへん)だ、251貴様(きさま)を入(い)れてなるものか……』
252と、253マール、254ミユーズ其(その)他(た)の人々(ひとびと)に目配(めくば)せした。255マールを始(はじ)め一同(いちどう)は友彦(ともひこ)の後(あと)より追(お)ひ縋(すが)り、256寄(よ)つて集(たか)つて二人(ふたり)を其(その)場(ば)に突(つ)き倒(たふ)し、257踏(ふ)む、258蹴(け)る、259殴(たた)く、260殆(ほとん)ど半死(はんし)半生(はんしやう)の目(め)に遇(あ)はせた。261友彦(ともひこ)夫婦(ふうふ)は少(すこ)しも抵抗(ていかう)せず、262一同(いちどう)が打擲(ちやうちやく)する儘(まま)に身(み)を任(まか)せ両手(りやうて)を合(あは)せて感謝(かんしや)祈願(きぐわん)の祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)して居(ゐ)た。263一同(いちどう)は余(あま)り友彦(ともひこ)夫婦(ふうふ)が従順(じうじゆん)なるに、264少(すこ)しく小気味(こぎみ)悪(わる)くなり、265友彦(ともひこ)の言葉(ことば)につれ、266貫州(くわんしう)、267武公(たけこう)始(はじ)め一同(いちどう)は、268大地(だいち)に蹲踞(しやが)み乍(なが)ら声(こゑ)を揃(そろ)へて感謝(かんしや)祈願(きぐわん)の祝詞(のりと)を唱(とな)へて居(ゐ)る。
269 右守(うもり)の鶴公(つるこう)は門内(もんない)の木蔭(こかげ)を逍遥(せうえう)し居(を)る折(をり)しも、270門外(もんぐわい)に当(あた)つて大勢(おほぜい)の祝詞(のりと)の声(こゑ)が聞(きこ)えたのを訝(いぶ)かり乍(なが)ら、271声(こゑ)を尋(たづ)ねて表門(おもてもん)を潜(くぐ)り、272門前(もんぜん)の密樹(みつじゆ)茂(しげ)れる広(ひろ)き林(はやし)に立出(たちい)で、273一同(いちどう)の姿(すがた)を認(みと)めて此処(ここ)に現(あら)はれ来(きた)りて、274友彦(ともひこ)が大勢(おほぜい)の中(なか)に交(まじ)りて祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)するを見(み)て大(おほ)いに驚(おどろ)き、275無言(むごん)の儘(まま)、276踵(きびす)を返(かへ)し奥殿(おくでん)深(ふか)く黄竜姫(わうりようひめ)の前(まへ)に進(すす)み此(この)由(よし)を委曲(つぶさ)に報告(はうこく)した。277黄竜姫(わうりようひめ)は驚(おどろ)くかと思(おも)ひの外(ほか)、278ニツコリとして、
279黄竜姫『右守殿(うもりどの)、280友彦(ともひこ)が御(お)入来(いで)になつたとやら、281お供(とも)の方(かた)はいづれ沢山(たくさん)お在(あ)りでせうな』
282鶴公(つるこう)『ハイ、283別(べつ)に供(とも)らしき者(もの)は御座(ござ)いませぬ。284見慣(みな)れぬ女(をんな)の方(かた)が只(ただ)一人(ひとり)、285大方(おほかた)噂(うはさ)に高(たか)きテールス姫(ひめ)でせう』
286黄竜姫『ハテ不思議(ふしぎ)な事(こと)もあるものだ。287あれ丈(だ)け勢力(せいりよく)を得(え)たる旭日(きよくじつ)昇天(しようてん)の友彦(ともひこ)さまが、288供(とも)をも連(つ)れず夫婦(ふうふ)連(づれ)お越(こ)しになつたとは、289一体(いつたい)どうした訳(わけ)だらう』
290鶴公(つるこう)『私(わたし)の察(さつ)する所(ところ)、291友彦(ともひこ)さまは又(また)例(れい)の地金(ぢがね)を現(あら)はし、292土人(どじん)に愛想(あいさう)をつかされ夫婦(ふうふ)手(て)に手(て)を取(と)つて、293此処(ここ)へ命(いのち)からがら逃(に)げ来(こ)られたものと思(おも)はれます。294如何(いかが)致(いた)したら宜(よろ)しう御座(ござ)いますか。295御(お)指図(さしづ)を願(ねが)ひます』
296黄竜姫『決(けつ)して決(けつ)して左様(さやう)な事(こと)で御(お)入来(いで)になつたのではありますまい。297妾(わたし)は少(すこ)し心(こころ)に当(あた)る事(こと)がある。298兎(と)も角(かく)オーストラリヤに於(お)ける三五教(あななひけう)の太柱(ふとばしら)、299敬意(けいい)を払(はら)ふ為(た)めに、300黄竜姫(わうりようひめ)の妾(わたし)門外(もんぐわい)にお迎(むか)ひに参(まゐ)りませう』
301鶴公(つるこう)『右守(うもり)として申上(まをしあ)げます。302苟(いやしく)も地恩城(ちおんじやう)の女王(ぢよわう)たる御(おん)身(み)を以(もつ)て、303軽々(かるがる)しくお出(い)で遊(あそ)ばすは、304御(ご)威勢(ゐせい)にも関(かかは)りませう。305どうぞ此(この)事(こと)許(ばか)りは御(ご)中止(ちうし)を願(ねが)ひたう存(ぞん)じます。306私(わたし)がお迎(むか)へ申(まを)して参(まゐ)りますから、307奥殿(おくでん)にお待(ま)ち下(くだ)さいます様(やう)にお願(ねが)ひ申(まを)します』
308 黄竜姫(わうりようひめ)は首(くび)を左右(さいう)に振(ふ)り、
309黄竜姫『イエイエ、310同(おな)じ天地(てんち)の分霊(わけみたま)、311人間(にんげん)に上下(じやうげ)の区別(くべつ)はない。312又(また)今(いま)、313友彦(ともひこ)様(さま)はジヤンナの郷(さと)の国人(くにびと)を主宰(しゆさい)する立派(りつぱ)な御(お)方(かた)とお成(な)り遊(あそ)ばし、314妾(わたし)は地恩城(ちおんじやう)の女王(ぢよわう)とまで成(な)つて居(ゐ)るのも、315浅(あさ)からぬ因縁(いんねん)でせう。316仮令(たとへ)一(いつ)ケ年(ねん)でも夫婦(ふうふ)となつた間柄(あひだがら)、317お迎(むか)ひ申上(まをしあ)げねばなりますまい』
318と蜈蚣姫(むかでひめ)、319梅子姫(うめこひめ)の此(この)場(ば)に在(あ)らざるを幸(さいは)ひ、320自(みづか)らスタスタと門前(もんぜん)に現(あら)はれ、321友彦(ともひこ)が端坐(たんざ)する傍(かたはら)に寄(よ)り添(そ)ひ、
322黄竜姫『妾(わたし)は地恩城(ちおんじやう)の黄竜姫(わうりようひめ)、323昔(むかし)の小糸姫(こいとひめ)で御座(ござ)います。324友彦(ともひこ)様(さま)並(なら)びにテールス姫(ひめ)様(さま)、325サアどうぞ妾(わたし)と共(とも)に奥殿(おくでん)にお進(すす)み下(くだ)さいませ』
326 友彦(ともひこ)は此(この)声(こゑ)にフト見上(みあ)ぐれば、327昔(むかし)の面影(おもかげ)アリアリと顔(かほ)の何処(どこ)やらに残(のこ)つて居(ゐ)る小糸姫(こいとひめ)なので、328……友彦(ともひこ)はハツと頭(かしら)を下(さ)げ恭(うやうや)しく両手(りやうて)をつき、
329友彦(ともひこ)『これはこれは女王(ぢよわう)様(さま)、330勿体(もつたい)ない斯様(かやう)な所(ところ)迄(まで)お出(い)で下(くだ)さいまして、331……これなるは私(わたし)が女房(にようばう)テールス姫(ひめ)と申(まを)すもの、332今(いま)は熱心(ねつしん)な三五教(あななひけう)の信者(しんじや)として、333友彦(ともひこ)が神務(しんむ)を力(ちから)限(かぎ)り補助(ほじよ)致(いた)すもので御座(ござ)います。334申上(まをしあ)げたき事(こと)は山々(やまやま)御座(ござ)いますが、335然(しか)らば奥殿(おくでん)にて悠々(ゆるゆる)と申上(まをしあ)げませう』
336テールス姫(ひめ)『女王(ぢよわう)様(さま)、337始(はじ)めてお目(め)にかかります。338何分(なにぶん)宜(よろ)しくお願(ねが)ひ致(いた)します』
339と友彦(ともひこ)に連(つ)れられ、340黄竜姫(わうりようひめ)の後(あと)に従(つ)いて門内(もんない)深(ふか)く姿(すがた)を隠(かく)した。341右守(うもり)の鶴公(つるこう)は不承(ふしよう)不性(ぶしよう)に三(さん)人(にん)の後(あと)に従(したが)ひ行(ゆ)く。342貫州(くわんしう)、343武公(たけこう)其(その)他(た)一同(いちどう)は、344夢(ゆめ)か現(うつつ)か幻(まぼろし)かと、345互(たがひ)に顔(かほ)を見合(みあは)せ呆(あき)れて再(ふたた)び言葉(ことば)もなく、346空(そら)行(ゆ)く雲(くも)をアフンとして眺(なが)めて居(ゐ)る。
347(大正一一・七・一〇 旧閏五・一六 谷村真友録)
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