霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一七章 森(もり)の囁(ささやき)〔七六三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第25巻 海洋万里 子の巻 篇:第5篇 千里彷徨 よみ(新仮名遣い):せんりほうこう
章:第17章 森の囁 よみ(新仮名遣い):もりのささやき 通し章番号:763
口述日:1922(大正11)年07月12日(旧閏05月18日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年5月25日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
高姫、黒姫、高山彦は、部下のアールとエースを連れて、大船に乗ってタカの港を出港していた。太平洋を横切って、淡路の洲本に帰還し、酋長の東助館にやってきた。
東助館の門番として、虻公と蜂公が控えていた。高姫は傲然として中に入れるように命令するが、虻公と蜂公は、東助から高姫が来ることを言い含められていたようで、取り合わない。
虻公と蜂公は、高姫を何とか誤魔化してこの場に釘付けにしようとするが、聖地で御用があることを匂わせる。高姫は勘違いして東助館の中に秘密があると思って入ろうとする。そこへ東助の妻・お百合が騒ぎを聞きつけて出てきた。
お百合は、館の中は至る所に暗渠があって、地図がないと歩けないのだ、と脅すと、ようやく高姫はあきらめて去っていった。
一方、生田の森の杢助館には、国依別、秋彦、駒彦の三人が留守をしていた。国依別は、今回の竜宮島の神宝納めの神業のために聖地に行かなければならないため、秋彦と駒彦に留守を頼む。
三人が高姫の噂をしていると、窓の外に高姫一行が夜叉のような顔をしてやってくるのが見えた。駒彦は二人を奥の間に隠れさせて、自分が応対係りになると買って出た。
駒彦は高姫らを馬鹿な話で煙に巻こうとする。その中で、すでに神宝は聖地に納まったことを仄めかす。高姫は奥の間にも人がいることに気が付き、国依別と秋彦を見つける。二人は鼠の真似をして高姫を馬鹿にする。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-09-16 19:29:18 文字数:7117 OBC :rm2517
愛善世界社版:243頁 八幡書店版:第5輯 120頁 修補版: 校定版:255頁 普及版:108頁 初版: ページ備考:
001 黄金(こがね)の玉(たま)を紛失(ふんしつ)し、002高姫(たかひめ)に追放(つゐはう)されて、003オセアニヤの一(ひと)つ島(じま)に玉(たま)の所在(ありか)を探(さぐ)らむと艱難(かんなん)辛苦(しんく)を冒(をか)して立向(たちむか)うた黒姫(くろひめ)は、004夫(をつと)高山彦(たかやまひこ)と共(とも)に、005一(ひと)つ島(じま)の酋長格(しうちやうかく)となり、006数多(あまた)の土人(どじん)を手(て)なづけ、007一(いち)時(じ)は武力(ぶりよく)を以(もつ)て東半分(ひがしはんぶん)の地(ち)に勢力(せいりよく)を扶植(ふしよく)しつつあつた。
008 其処(そこ)へ小糸姫(こいとひめ)、009五十子(いそこ)姫(ひめ)、010梅子姫(うめこひめ)、011今子姫(いまこひめ)、012宇豆姫(うづひめ)の容色(ようしよく)端麗(たんれい)なる美人(びじん)現(あら)はれ来(きた)り、013土人(どじん)の崇敬(すうけい)殊(こと)に甚(はなはだ)しく、014高山彦(たかやまひこ)、015黒姫(くろひめ)も之(これ)を排斥(はいせき)するの余地(よち)なきを悟(さと)り、016抜目(ぬけめ)なき両人(りやうにん)は直(ただち)に猫(ねこ)を被(かぶ)つて小糸姫(こいとひめ)が部下(ぶか)となり、017遂(つい)には心(こころ)より小糸姫(こいとひめ)に悦服(えつぷく)し、018地恩城(ちおんじやう)にブランジー、019クロンバーの職(しよく)を務(つと)め、020二年(ふたとせ)三年(みとせ)一意(いちい)専心(せんしん)に玉(たま)の所在(ありか)を、021土人(どじん)を以(もつ)て捜索(そうさく)せしめつつあつた。022されども玉(たま)らしき物(もの)は何一(なにひと)つ手(て)に入(い)らず、023殆(ほとん)ど絶望(ぜつばう)の思(おも)ひに沈(しづ)む時(とき)、024高姫(たかひめ)其(その)他(た)の一行(いつかう)が此島(ここ)に来(きた)るに会(くわい)し、025最早(もはや)本島(ほんたう)に用(よう)は無(な)し、026仮令(たとへ)オセアニヤ全島(ぜんたう)を我(わが)手(て)に握(にぎ)る共(とも)、027三千(さんぜん)世界(せかい)の宝(たから)たる三(みつ)つの神宝(しんぽう)には及(およ)ぶ可(べか)らず。028躊躇(ちうちよ)逡巡(しゆんじゆん)せば、029又(また)何人(なんぴと)にか宝玉(ほうぎよく)の所在(ありか)を探(さぐ)られむと、030高姫(たかひめ)、031黒姫(くろひめ)、032高山彦(たかやまひこ)は、033日頃(ひごろ)手撫(てな)づけ置(お)きたるアール(愛三)、034エース(栄三)の二人(ふたり)を引連(ひきつ)れ、035稍(やや)広(ひろ)く大(だい)なる樟製(くすせい)の船(ふね)に身(み)を任(まか)せ、036タカの港(みなと)を秘(ひそか)に立出(たちい)で、037後白浪(あとしらなみ)と漕(こ)ぎ出(いだ)す。
038 やうやうにして太平洋(たいへいやう)の波濤(なみ)を横断(よこぎ)り、039数多(あまた)の島嶼(たうしよ)を縫(ぬ)うて馬関(ばくわん)を過(よ)ぎり、040瀬戸(せと)の海(うみ)に帰還(きくわん)し、041淡路(あはぢ)の洲本(すもと)(今(いま)の岩屋(いはや)辺(あた)り)に漸(やうや)く船(ふね)を横(よこ)たへ高姫(たかひめ)を先頭(せんとう)に一行(いつかう)五(ご)人(にん)、042洲本(すもと)の酋長(しうちやう)東助(とうすけ)が館(やかた)を指(さ)して進(すす)み行(ゆ)く。043見(み)れば非常(ひじやう)に宏大(くわうだい)なる邸宅(ていたく)にして、044表門(おもてもん)には二人(ふたり)の門番(もんばん)阿吽(あうん)の仁王(にわう)の様(やう)に儼然(げんぜん)と扣(ひか)へて居(ゐ)る。045よくよく顔(かほ)を眺(なが)むれば、046生田(いくた)の森(もり)の杢助館(もくすけやかた)に於(おい)て出会(でつくわ)した虻公(あぶこう)、047蜂公(はちこう)の両人(りやうにん)である。
048高姫(たかひめ)『オヽお前(まへ)は虻公(あぶこう)、049蜂公(はちこう)……如何(どう)してマア泥棒(どろばう)がそこまで出世(しゆつせ)をしたのだい。050日(ひ)の出神(でのかみ)の御(ご)入来(にふらい)だから、051一時(いつとき)も早(はや)く館(やかた)の主(あるじ)東助殿(とうすけどの)に、052日(ひ)の出神(でのかみ)御(ご)光来(くわうらい)だと報告(はうこく)をしてお呉(く)れ』
053と横柄(わうへい)に命令(めいれい)する様(やう)に云(い)ふ。
054虻公(あぶこう)『此(この)頃(ごろ)は御(ご)主人(しゆじん)はお不在(るす)で御座(ござ)いますから、055何人(どなた)がお入来(いで)になつても、056此(この)門(もん)を通過(つうくわ)さしてはならないと言(い)はれて、057斯(か)う我々(われわれ)両人(りやうにん)が厳重(げんぢう)に固(かた)めて居(ゐ)るのだから、058日(ひ)の出神(でのかみ)さまであらうが、059仮令(たとへ)国治立(くにはるたちの)尊(みこと)様(さま)であらうが、060通(とほ)す事(こと)は罷(まか)りなりませぬワイ。061主人(しゆじん)の在宅(ざいたく)の時(とき)は門番(もんばん)は誰(たれ)も居(ゐ)ないのだが、062主人(しゆじん)が一寸(ちよつと)神(かみ)様(さま)の御用(ごよう)で、063何々(なになに)方面(はうめん)へ御(お)越(こ)し遊(あそ)ばし、064其(その)不在中(るすちう)に戸惑(とまど)ひ者(もの)……何々(なになに)が四五(しご)人連(にんづれ)でやつて来(く)るから、065決(けつ)して入(い)れてはならぬぞ。066若(も)し我(わが)命令(めいれい)を破(やぶ)つて門内(もんない)に通(とほ)す様(やう)な事(こと)があつたら、067其(その)方(はう)は直(すぐ)に暇(ひま)を呉(く)れる。068さうすれば貴様(きさま)も虻蜂(あぶはち)取(と)らずになつて了(しま)ふぞよ……と厳(きび)しき御(ご)命令(めいれい)だ絶対(ぜつたい)に通(とほ)す事(こと)はなりませぬ……なア蜂公(はちこう)、069さうぢやないか』
070蜂公(はちこう)『さうだ、071国依別(くによりわけ)さまが生田(いくた)の森(もり)からお迎(むか)へにお出(い)でた時(とき)、072鷹姫(たかひめ)とか、073鳶姫(とびひめ)とか、074烏姫(からすひめ)とか、075黒姫(くろひめ)とか云(い)ふ奴(やつ)がキツと此館(ここ)へゴテゴテ言(い)うて来(く)るに違(ちが)ひないから、076一度(いちど)でも顔(かほ)見知(みし)つた虻公(あぶこう)、077蜂公(はちこう)を門番(もんばん)にして置(お)くがよからう……と云(い)つて、078東助(とうすけ)さまと相談(さうだん)の上(うへ)、079臨時(りんじ)門番(もんばん)を勤(つと)めて居(ゐ)るのだ。080神(かみ)様(さま)と云(い)ふものは偉(えら)いものだ。081チヤンと日(ひ)の出神(でのかみ)様(さま)の様(やう)に、082前(さき)に知(し)つて御座(ござ)るのだから堪(たま)らぬワイ、083アツハヽヽヽ』
084 高姫(たかひめ)少(すこ)しく声(こゑ)を尖(とが)らし、
085高姫『泥棒(どろばう)上(あが)りの虻蜂(あぶはち)の分際(ぶんざい)として、086此(この)結構(けつこう)な神柱(かむばしら)を鷹(たか)だの、087鳶(とび)だの、088烏(からす)だのと、089何(なん)と云(い)ふ口汚(くちぎたな)い事(こと)を申(まを)すのだ。090大方(おほかた)言依別(ことよりわけ)の奴(ど)ハイカラから聞(き)かされたのだらう』
091虻公(あぶこう)『そんなこたア如何(どう)でもよい。092誰(たれ)が言(い)つたのか知(し)らぬが、093世界中(せかいぢう)知(し)らぬ者(もの)はありますまい。094つひこの近(ちか)くに結構(けつこう)な玉(たま)が隠(かく)してあるのに、095オーストラリヤ三界(さんかい)まで飛(と)んで行(ゆ)くと云(い)ふ羽(はね)の強(つよ)いお前(まへ)共(ども)だから、096鳥(とり)に譬(たとへ)られても仕方(しかた)があるまい。097グヅグヅして居(ゐ)ると国依別(くによりわけ)や東助(とうすけ)さまが玉(たま)の所在(ありか)を嗅(か)ぎ出(だ)して、098又(また)お前(まへ)さまに取(と)られぬ様(やう)にと宝(たから)の埋換(うめかへ)を遊(あそ)ばすと見(み)え、099何(なん)でも立派(りつぱ)な玉(たま)が聖地(せいち)へ納(をさ)まるから、100お迎(むか)へとか、101受取(うけと)りとかに行(ゆ)かはりました。102お前(まへ)さまの居(を)らぬ間(ま)に聖地(せいち)には……噂(うはさ)に聞(き)くと、103何(なん)でも近(ちか)い内(うち)、104五色(ごしき)の玉(たま)が納(をさ)まると云(い)ふ事(こと)、105それなつと受取(うけと)つて、106又(また)お前(まへ)さまに隠(かく)さしたら、107チツトは高姫(たかひめ)、108黒姫(くろひめ)の病気(びやうき)も癒(なほ)るだらうと、109国依別(くによりわけ)さまが笑(わら)ひ半分(はんぶん)に言(い)つてましたよ。110アハヽヽヽ』
111黒姫(くろひめ)『あの三(み)つの御(お)宝(たから)を、112言依別(ことよりわけ)が又(また)埋(い)けなほすと云(い)ふのかい、113エーエ胸(むね)がスイとした。114初稚姫(はつわかひめ)の様(やう)な小(こ)チツペや、115玉能姫(たまのひめ)などが末代(まつだい)の御用(ごよう)をしたと思(おも)つて……三十万(さんじふまん)年(ねん)未来(みらい)までは何(なん)と仰有(おつしや)つても申(まを)し上(あ)げられませぬ……なんて威張(ゐば)つて居(を)つたのが……思(おも)へば思(おも)へば可憐(いぢ)らしいわいの。116……それはさうと言依別(ことよりわけ)の奴(ど)ハイカラ、117クレクレと猫(ねこ)の目(め)程(ほど)精神(せいしん)が変(かは)るのだから、118今度(こんど)は又(また)国依別(くによりわけ)のヤンチヤや、119船頭(せんどう)あがりの東助(とうすけ)に御用(ごよう)をさすのらしい。120コリヤうつかりとして居(を)られますまい。121……サア虻(あぶ)、122蜂(はち)の御(ご)両人(りやうにん)、123そこまで聞(き)いて居(ゐ)る以上(いじやう)は、124モツと詳(くは)しい事(こと)を御(ご)承知(しようち)だらう。125お前(まへ)は中々(なかなか)正直者(しやうぢきもの)だ、126それでこそ御(ご)神業(しんげふ)が勤(つと)まると云(い)ふもの、127サア私(わたし)と一緒(いつしよ)に聖地(せいち)へ帰(かへ)り様子(やうす)を偵察(ていさつ)して、128末代(まつだい)の御(ご)神業(しんげふ)に仕(つか)へませう。129其(その)代(かは)り此(この)高姫(たかひめ)、130黒姫(くろひめ)の御用(ごよう)を聞(き)けば、131立派(りつぱ)な御(ご)出世(しゆつせ)が出来(でき)まする。132宜(よろ)しいかな、133分(わか)りましたか』
134と三歳児(みつご)をたらす様(やう)に、135甘(あま)つたるい声(こゑ)を出(だ)して抱(だ)き込(こ)まうとする。
136蜂公(はちこう)『グヅグヅして居(ゐ)ると、137国依別(くによりわけ)が肝腎(かんじん)の御用(ごよう)をしますで、138早(はや)うお帰(かへ)りなされ。139悪(わる)い事(こと)は言(い)ひませぬ……(小声(こごゑ))と斯(か)う言(い)うて門(もん)を潜(くぐ)らさぬ様(やう)に、140追(お)ひまくる様(やう)にする俺(おれ)の計略(けいりやく)だ』
141と小(ちひ)さい声(こゑ)で呟(つぶや)くのを、142高姫(たかひめ)は耳敏(みみざと)くも、143半分(はんぶん)計(ばか)り聴(き)き取(と)り、
144高姫『コリヤ門番(もんばん)の古狸(ふるだぬき)奴(め)が、145黒姫(くろひめ)さまはお前(まへ)にチヨロまかされても、146世界(せかい)の大門開(おほもんびら)きを致(いた)す日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)は東助(とうすけ)の門番(もんばん)位(くらゐ)に誤魔化(ごまくわ)されはせぬぞ。147黙(だま)つて聞(き)いて居(を)れば何(なに)を云(い)ふか分(わか)つたものぢやない。148察(さつ)する所(ところ)家島(えじま)(絵島(ゑじま))か、149神島(かみじま)四辺(あたり)に隠(かく)し置(お)いたる三個(さんこ)の宝玉(ほうぎよく)を、150我々(われわれ)が遠(とほ)い所(ところ)へ往(い)つたのを幸(さいは)ひ、151ヌツクリと取(と)り出(だ)し、152初稚姫(はつわかひめ)や玉能姫(たまのひめ)に揚壺(あげつぼ)を喰(く)はし、153此(この)館(やかた)に言依別(ことよりわけ)、154国依別(くによりわけ)、155東助(とうすけ)が潜(ひそ)んで、156玉(たま)相談(さうだん)をやつて居(ゐ)る事(こと)は、157日(ひ)の出神(でのかみ)の天眼通(てんがんつう)にチヤンと映(うつ)つて居(ゐ)る。158どうだ、159虻(あぶ)、160蜂(はち)、161恐(おそ)れ入(い)つたか』
162 虻(あぶ)、163蜂(はち)一度(いちど)に、
164虻公、蜂公『アハヽヽヽ、165エライ日(ひ)の出神(でのかみ)さまだなア。166何(なに)も彼(か)もよう御存(ごぞん)じだワイ』
167高姫(たかひめ)『定(き)まつた事(こと)だ。168世界(せかい)見(み)えすく水晶(すゐしやう)身魂(みたま)の日(ひ)の出神(でのかみ)様(さま)の仰有(おつしや)る事(こと)に間違(まちが)ひがあつてたまらうか。169……サアサア高山彦(たかやまひこ)さま、170黒姫(くろひめ)さま、171アール、172エース、173……虻(あぶ)、174蜂(はち)両人(りやうにん)を取押(とりおさ)へてフン縛(じば)り、175我々(われわれ)は奥(おく)へ進(すす)み入(い)つて、176三(さん)人(にん)の面(つら)の皮(かは)を剥(む)いてやりませう』
177高山彦(たかやまひこ)『高姫(たかひめ)さま、178コリヤ……一(ひと)つ考(かんが)へ物(もの)ですな。179多寡(たか)が知(し)れた虻(あぶ)、180蜂(はち)の門番(もんばん)、181そんな秘密(ひみつ)が分(わか)らう筈(はず)がない。182グヅグヅして居(ゐ)ると、183良(い)い翫弄物(おもちや)にしられるかも知(し)れませぬぞ』
184高姫(たかひめ)『そら何(なに)を仰有(おつしや)る高山(たかやま)さま、185千騎(せんき)一騎(いつき)の此(この)場合(ばあひ)、186チツト確乎(しつかり)なさらぬかいな。187……黒姫(くろひめ)さまも余程(よつぽど)耄碌(まうろく)しましたね』
188虻公(あぶこう)『俺(おれ)を取(と)り押(おさ)へるの、189フン縛(じば)るのと、190そりや何(なに)を言(い)ふのだ、191這(は)いるなら這入(はい)つて見(み)よ。192危(あぶ)ない事(こと)がして有(あ)るぞ。193忽(たちま)ち神(かみ)の罰(ばち)が当(あた)つて、194虻蜂(あぶはち)取(と)らずの目(め)に会(あ)つても良(よ)けら、195ドシドシとお通(とほ)りなさい……と云(い)ひたいが、196金輪(こんりん)奈落(ならく)此(この)門(もん)を通(とほ)しちやならぬと云(い)ふ厳命(げんめい)を受(う)けて居(ゐ)るのだから、197表門(おもてもん)は俺(おれ)の責任(せきにん)があるから、198入口(いりぐち)は一所(ひとところ)ぢやない。199貴様(きさま)勝手(かつて)に這入(はい)つたがよからうぞ。200此(この)前(まへ)にやつて来(き)たお前(まへ)に似(に)た様(やう)な宣教師(せんけうし)は廁(かはや)の中(なか)からでも逃(に)げ出(で)たのだから、201裏(うら)の方(はう)へそつと廻(まは)つて、202廁(かはや)の下(した)から糞(くそ)まぶれになつて這入(はい)らうと這入(はい)るまいと、203ソラお前(まへ)の勝手(かつて)だ。204此(この)門(もん)だけは、205絶対(ぜつたい)に通(とほ)る事(こと)は罷(まか)りならぬのだ。206ウツフヽヽヽ。207……三(みつ)つの玉(たま)とか、208五(いつ)つの玉(たま)とか、209今頃(いまごろ)には聖地(せいち)は玉(たま)の光(ひかり)で美(うつく)しい事(こと)だらうな。210初稚姫(はつわかひめ)さまも、211玉能姫(たまのひめ)さまも、212余(あま)り欲(よく)が深過(ふかす)ぎるワイ。213三(みつ)つの玉(たま)の御用(ごよう)をし乍(なが)ら、214今度(こんど)又(また)竜宮(りうぐう)の一(ひと)つ島(じま)で結構(けつこう)な玉(たま)を五(いつ)つも手(て)に入(い)れて八咫烏(やあたがらす)とかに乗(の)つて帰(かへ)つて御座(ござ)るとか、215御座(ござ)つたとか云(い)ふ無声(むせい)霊話(れいわ)が、216頻々(ひんぴん)と東助(とうすけ)さまの館(やかた)へかかつて来(き)た。217アヽさうぢや、218杢助(もくすけ)さまも結構(けつこう)な生田(いくた)の森(もり)の館(やかた)を棄(す)てて聖地(せいち)へ行(ゆ)かつしやる筈(はず)だ。219初稚姫(はつわかひめ)、220玉能姫(たまのひめ)さまは、221年(とし)は若(わか)うても、222流石(さすが)は立派(りつぱ)な方(かた)だ。223一度(いちど)ならぬ、224二度(にど)ならぬ、225三千(さんぜん)世界(せかい)の御(ご)神業(しんげふ)の花形(はながた)役者(やくしや)だ。226心(こころ)一(ひと)つの持様(もちやう)で、227あんな結構(けつこう)な御用(ごよう)が出来(でき)るのだからなア。228そこらの人(ひと)、229爪(つめ)の垢(あか)でも煎(せん)じて飲(の)んだら薬(くすり)になるだらう。230ウツフヽヽヽ』
231高姫(たかひめ)『誰(たれ)が何(なん)と云(い)つても聞(き)くものか。232そんな巧(うま)い事(こと)云(い)つて、233此(この)館(やかた)に高姫(たかひめ)を入(い)れまいと防禦線(ばうぎよせん)を張(は)るのだらうが。234そんな事(こと)を……ヘン喰(く)ふ高姫(たかひめ)で御座(ござ)いますかい。235そんなら宜(よろ)しい。236裏門(うらもん)から這入(はい)つてやらう。237さうすればお前(まへ)の顔(かほ)も立(た)つだらう』
238と掛合(かけあ)ふ所(ところ)へ、239東助(とうすけ)の妻(つま)お百合(ゆり)は門口(かどぐち)の喧(やかま)しき声(こゑ)に気(き)を取(と)られ、240座(ざ)を立(た)ちて一人(ひとり)の侍女(じぢよ)と共(とも)に此(この)場(ば)に現(あら)はれ来(きた)る。
241虻公(あぶこう)『これはこれは奥様(おくさま)、242よう来(き)て下(くだ)さいました。243三五教(あななひけう)のヤンチヤ組(ぐみ)の高姫(たかひめ)一行(いつかう)がお出(い)でになりやがつて、244此(この)門(もん)を通(とほ)せと仰有(おつしや)りやがるのです。245如何(どう)言(い)つて謝絶(ことわ)つても、246帰(かへ)らうと仰有(おつしや)りやがらず、247それ程(ほど)這入(はい)りたければ、248友彦(ともひこ)の様(やう)に廁(かはや)の穴(あな)からでも這入(はい)れと云(い)つてゐる所(ところ)で御座(ござ)います。249此(この)御(お)館(やかた)は表門(おもてもん)計(ばか)りで、250裏門(うらもん)と云(い)へば雪隠(せついん)の穴(あな)計(ばか)り、251そこからでも這入(はい)らうと云(い)ふ熱心(ねつしん)な方(かた)ですから……どうでせう、252御(ご)主人(しゆじん)はあれ丈(だけ)厳(きび)しくお戒(いまし)めになつて居(ゐ)ますけれども、253そこは又(また)臨機(りんき)応変(おうへん)、254どつと譲歩(はづ)んで通(とほ)してやつたら如何(どう)でせう』
255お百合(ゆり)『これはこれは高姫(たかひめ)様(さま)御(ご)一行(いつかう)で御座(ござ)いますか、256噂(うはさ)に承(うけたま)はつて居(を)りましたが、257ホンに立派(りつぱ)なお方(かた)計(ばか)り、258ようお入来(いで)なさいました』
259高姫(たかひめ)『私(わたし)は仰有(おつしや)る通(とほ)り、260高姫(たかひめ)、261高山彦(たかやまひこ)、262黒姫(くろひめ)の三(さん)人(にん)で御座(ござ)います。263何時(いつ)やらは御(ご)主人(しゆじん)の東助(とうすけ)どんに、264家島(えじま)まで送(おく)つて貰(もら)ひ、265アタ意地(いぢ)くねの悪(わる)い、266私(わたし)の家来(けらい)の清(きよ)、267鶴(つる)、268武(たけ)の三(さん)人(にん)を自分(じぶん)の船(ふね)に乗(の)せ、269私(わたし)を家島(えじま)に島流(しまなが)しも同様(どうやう)な目(め)に会(あ)はし、270其(その)後(のち)と云(い)ふものはイロイロ雑多(ざつた)と此(この)高姫(たかひめ)を苦(くるし)めて下(くだ)さいまして、271実(じつ)に有難(ありがた)う御座(ござ)います。272其(その)お蔭(かげ)で余程(よつぽど)私(わたし)は身魂(みたま)磨(みが)きをさして頂(いただ)きました』
273お百合(ゆり)『どう致(いた)しまして、274お礼(れい)には及(およ)びませぬ。275苦労(くらう)の塊(かたまり)の花(はな)の咲(さ)く三五教(あななひけう)で御座(ござ)いますから、276貴方(あなた)の様(やう)な肝腎(かんじん)のお方(かた)を改心(かいしん)させる御用(ごよう)を勤(つと)めた私(わたし)の主人(しゆじん)は、277謂(い)はば高姫(たかひめ)のお師匠(ししやう)さま格(かく)ですな。278オツホヽヽヽ』
279高姫(たかひめ)『何(なん)と、280理窟(りくつ)も有(あ)れば有(あ)るものだな。281海賊(かいぞく)上(あが)りの東助(とうすけ)の女房(にようばう)丈(だけ)の事(こと)あつて、282巧(うま)い逆理屈(さかりくつ)をお捏(こ)ね遊(あそ)ばす。283斯(こ)んな立派(りつぱ)な館(やかた)を建(た)てて、284酋長(しうちやう)々々(しうちやう)と言(い)つて居(を)つても、285人品(じんぴん)骨柄(こつがら)の下劣(げれつ)な事(こと)、286破(やぶ)れ船頭(せんどう)が性(しやう)に合(あ)ふとる。287海賊(かいぞく)をやつて沢山(たくさん)な宝(たから)を奪(うば)ひ取(と)り、288財産家(ざいさんか)となつて、289栄耀(えいよう)栄華(えいぐわ)の有(あ)りたけを尽(つく)し、290今度(こんど)は三(みつ)つの御(ご)神宝(しんぱう)にソロソロ目(め)を付(つ)け出(だ)した大泥棒(おほどろばう)の計画中(けいくわくちう)だらう。291何(なん)と云(い)つても奥(おく)へ踏(ふ)み込(こ)み、292言依別(ことよりわけ)、293国依別(くによりわけ)を助(たす)けて失敗(しつぱい)をさせない様(やう)に注意(ちうい)するのが男子(なんし)の系統(ひつぽう)の高姫(たかひめ)の役(やく)だ。294サア案内(あんない)をなされ』
295お百合(ゆり)『そんなら開放(かいはう)致(いた)しませう。296自由(じいう)自在(じざい)御(ご)勝手(かつて)にお探(さが)し遊(あそ)ばせ。297此(この)館(やかた)は四方(しはう)八方(はつぱう)蜘蛛(くも)の巣(す)の如(ごと)く、298到(いた)る所(ところ)に暗渠(あんきよ)が掘(ほ)つて御座(ござ)いますから、299うつかりお這入(はい)りになると生命(いのち)がお危(あぶ)なう御座(ござ)いますぞ。300これ程(ほど)広(ひろ)い屋敷(やしき)でも、301安心(あんしん)して歩行(ある)ける所(ところ)は、302ホンの帯(おび)程(ほど)より有(あ)りませぬ。303それも生憎(あひにく)東助殿(とうすけどの)が絵図面(ゑづめん)を持(も)つて出(で)て居(を)られるものですから、304私(わたし)達(たち)は庭先(にはさき)だとて迂濶(うつか)り歩(ある)けないので御座(ござ)います。305それ丈(だけ)前(さき)に御(ご)注意(ちうい)申(まを)し上(あ)げておきます』
306虻公(あぶこう)『日(ひ)の出(で)の神(かみ)の天眼通(てんがんつう)様(さま)、307貴女(あなた)はよく御存(ごぞん)じだらう。308サア、309トツトと早(はや)くお入(はい)りなされ』
310 高姫(たかひめ)は双手(もろて)を組(く)んで思案(しあん)に暮(く)れ乍(なが)ら、311一生(いつしやう)懸命(けんめい)に祈願(きぐわん)を凝(こ)らし出(だ)した。312稍(やや)あつて高姫(たかひめ)は、
313高姫『あゝ此処(ここ)にはヤツパリ居(を)りませぬワイ。314……サア黒姫(くろひめ)さま、315高山彦(たかやまひこ)さま、316一(いち)時(じ)も早(はや)く生田(いくた)の森(もり)へ参(まゐ)りませう。317彼(あ)の方面(はうめん)に三箇(さんこ)の宝玉(ほうぎよく)が現(あら)はれました。318私(わたし)の天眼通(てんがんつう)にチヤンと映(うつ)つた。319早(はや)く往(ゆ)かないと又(また)チヨロまかされると大変(たいへん)だ』
320お百合(ゆり)『どうぞ、321さう仰有(おつしや)らずと、322御(ご)ゆつくり遊(あそ)ばしませ』
323高姫(たかひめ)『ヘン京(きやう)のお茶漬(ちやづけ)は措(お)いて下(くだ)されや』
324とプリンプリンと肩(かた)や尻(しり)を互交(たがひちが)ひに揺(ゆ)り乍(なが)ら、325磯端(いそばた)の船(ふね)に身(み)を任(まか)せ、326アール、327エースの両人(りやうにん)に艪櫂(ろかい)を操(あやつ)らせ、328一目散(いちもくさん)に再度山(ふたたびやま)の峰(みね)を目標(めあて)に漕(こ)いで行(ゆ)く。
329執着心(しふちやくしん)に搦(からま)れて
330玉(たま)を抜(ぬ)かれた高姫(たかひめ)や
331黒姫(くろひめ)二人(ふたり)の玉(たま)探(さが)し
332太平洋(たいへいやう)の彼方(あなた)まで
333心(こころ)焦(いら)ちて駆(か)け出(い)だし
334どう探(さが)しても玉(たま)無(な)しの
335力(ちから)も落(お)ちて捨小舟(すてをぶね)
336高山彦(たかやまひこ)等(ら)と五人(ごにん)連(づ)れ
337折角(せつかく)永(なが)の肝煎(きもい)りも
338泡(あわ)と消(き)えゆく波(なみ)の上(うへ)
339誠明石(まことあかし)の向岸(むかふぎし)
340浪(なみ)の淡路(あはぢ)の島影(しまかげ)に
341船(ふね)を漕(こ)ぎつけ東助(とうすけ)が
342館(やかた)の門(もん)に走(は)せついて
343虻(あぶ)と蜂(はち)との門番(もんばん)に
344上(あ)げつ下(おろ)しつ、揶揄(からか)はれ
345心(こころ)を焦(いら)ちて高姫(たかひめ)は
346又(また)もや玉(たま)に執着(しふちやく)を
347益々(ますます)強(つよ)く起(お)こしつつ
348再度山(ふたたびやま)の山麓(さんろく)の
349生田(いくた)の森(もり)へと急(いそ)ぎ行(ゆ)く。
350 生田(いくた)の森(もり)の杢助館(もくすけやかた)には、351国依別(くによりわけ)、352秋彦(あきひこ)、353駒彦(こまひこ)の三(さん)人(にん)が、354臨時(りんじ)留守居(るすゐ)役(やく)として扣(ひか)へて居(ゐ)た。
355国依別(くによりわけ)『玉能姫(たまのひめ)さまも此(この)館(やかた)をお立(た)ちになつてから、356随分(ずゐぶん)月日(つきひ)も経(た)つたが、357どうやら今度(こんど)は竜宮(りうぐう)の一(ひと)つ島(じま)から結構(けつこう)な宝(たから)を受取(うけと)つて、358聖地(せいち)へお帰(かへ)りになると云(い)ふ事(こと)だ。359何(いづ)れ初稚姫(はつわかひめ)様(さま)、360玉治別(たまはるわけ)も一緒(いつしよ)だらう。361何時(いつ)までも私(わたし)も斯(か)うしては居(を)られないから、362聖地(せいち)へお迎(むか)へに行(ゆ)かねばならぬから、363……秋彦(あきひこ)さま、364駒彦(こまひこ)さまと両人(りやうにん)で此館(ここ)を守(まも)つて居(ゐ)て下(くだ)さい。365直(すぐ)に又(また)帰(かへ)つて来(き)ますから、366……』
367秋彦(あきひこ)『ハイ承知(しようち)致(いた)しました。368併(しか)し乍(なが)ら万々一(まんまんいち)、369例(れい)の高姫(たかひめ)一行(いつかう)が帰(かへ)つて来(き)て、370国依別(くによりわけ)さまは何処(どこ)へ行(い)つたと尋(たづ)ねた時(とき)には、371何(なん)と云(い)つて宜(よろ)しいか、372それを聞(き)かして置(お)いて貰(もら)ひたいですなア』
373国依別(くによりわけ)『滅多(めつた)に高姫(たかひめ)は帰(かへ)つて来(く)る様(やう)な事(こと)はあるまい。374併(しか)し万一(まんいち)来(き)たならば、375一層(いつそう)の事(こと)、376事実(じじつ)を以(もつ)て話(はな)すのだな』
377秋彦(あきひこ)『そんな事(こと)話(はな)さうものなら、378高姫(たかひめ)は気違(きちがひ)になつて了(しま)ひますよ。379三(みつ)つの玉(たま)の所在(ありか)は分(わか)らず、380それが為(ため)一生(いつしやう)懸命(けんめい)になつて居(ゐ)る矢先(やさき)、381又(また)もや結構(けつこう)な五(いつ)つの玉(たま)を、382同(おな)じ竜宮島(りうぐうじま)から、383初稚姫(はつわかひめ)様(さま)や玉能姫(たまのひめ)さまが頂(いただ)いて帰(かへ)つたのだと言(い)はうものなら、384大変(たいへん)ですからなア』
385駒彦(こまひこ)『オイ秋彦(あきひこ)、386取越(とりこ)し苦労(くらう)はせなくても良(い)いよ。387其(その)時(とき)は其(その)時(とき)の事(こと)だ。388……国依別(くによりわけ)さま、389何事(なにごと)も刹那心(せつなしん)で我々(われわれ)はやつてのけますから、390御(ご)安心(あんしん)下(くだ)さつて、391どうぞ一時(いつとき)も早(はや)く聖地(せいち)へお迎(むか)へに行(い)つて下(くだ)さいませ』
392国依別(くによりわけ)『それぢや安心(あんしん)して参(まゐ)りませう』
393と話(はなし)して居(ゐ)る。394窓(まど)を透(す)かしてフト外(そと)を見(み)れば、395夜叉(やしや)の様(やう)な顔(かほ)した高姫(たかひめ)、396黒姫(くろひめ)、397高山彦(たかやまひこ)外(ほか)二人(ふたり)、398此方(こなた)に向(むか)つて慌(あはただ)しく進(すす)んで来(く)る。
399駒彦(こまひこ)『ヤア国依別(くによりわけ)さま、400秋彦(あきひこ)、401あれを見(み)よ。402呼(よ)ぶより誹(そし)れだ。403高姫(たかひめ)が血相(けつさう)変(か)へて帰(かへ)つて来(き)よつた。404三(さん)人(にん)が斯(か)うして居(ゐ)ると面倒(めんだう)だから、405先(ま)づ此(この)駒彦(こまひこ)が瀬踏(せぶ)みを致(いた)します。406あなた方(がた)二人(ふたり)は奥(おく)へ這入(はい)つて、407様子(やうす)を考(かんが)へて居(を)つて下(くだ)さい。408私(わたし)が一(ひと)つ談判(だんぱん)委員(ゐゐん)になりますから……サアサア早(はや)く、409見(み)つけられぬ内(うち)に……』
410と促(うなが)せば、411国依別(くによりわけ)、412秋彦(あきひこ)はニタリと笑(わら)ひ乍(なが)ら、413次(つぎ)の間(ま)に入(い)り、414火鉢(ひばち)を中(なか)に松葉(まつば)煙草(たばこ)を燻(くす)べて様子(やうす)を考(かんが)へて居(ゐ)た、415漸(やうや)く近付(ちかづ)いて来(き)た高姫(たかひめ)、416表(おもて)の戸(と)を叩(たた)いて、
417高姫『モシモシ頼(たの)みます』
418 中(なか)より駒彦(こまひこ)はワザと婆(ばば)アの作(つく)り声(ごゑ)をし、
419駒彦『此(この)山中(さんちゆう)の一(ひと)つ家(や)を叩(たた)くは、420水鶏(くいな)か、421狸(たぬき)か、422狐(きつね)か、423高姫(たかひめ)か……オツトドツコイ鳶(とんび)か真黒(まつくろ)黒姫(くろひめ)の烏(からす)の親方(おやかた)か、424ダ……ダ……ダ……誰(たれ)だい』
425 外(そと)から高姫(たかひめ)、426婆声(ばばごゑ)を出(だ)して、
427高姫『誰(たれ)でもない、428日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)だ。429早(はや)く戸(と)を開(あ)けぬか』
430駒彦(こまひこ)『今(いま)は日(ひ)の暮(くれ)だ、431日(ひ)の出神(でのかみ)は朝方(あさがた)に出(で)て来(く)るものだ。432蝙蝠(かふもり)の神(かみ)なれば戸(と)を開(あ)けてやるが、433日(ひ)の出神(でのかみ)なればマアマア御免(ごめん)コウモリだよ。434オツホヽヽヽ』
435高姫(たかひめ)『此館(ここ)には国依別(くによりわけ)と云(い)ふ奴(ど)ハイカラが留守番(るすばん)をして居(ゐ)る筈(はず)だが、436お前(まへ)は一体(いつたい)、437何(なん)と云(い)ふ婆(ばば)アだ。438根(ね)つから聞(き)き慣(な)れぬ声(こゑ)だが、439誰(たれ)に頼(たの)まれて不在(るす)の家(いへ)を占領(せんりやう)して居(ゐ)るのだ』
440駒彦(こまひこ)『オツホヽヽヽ、441私(わし)かいな。442私(わし)は国依別(くによりわけ)の妾(めかけ)だ。443雀百(すずめひやく)まで牡鳥(をんどり)忘(わす)れぬと云(い)うて、444棺桶(くわんをけ)へ片足(かたあし)を突込(つつこ)んで居(を)る鰕腰(えびごし)の婆(ばば)アでも、445姑(しうとめ)の十八(じふはち)を言(い)ふぢやないが、446昔(むかし)は随分(ずゐぶん)あちらからも此方(こちら)からも袖(そで)を引(ひ)かれ、447引(ひ)く手(て)数多(あまた)の花菖蒲(はなあやめ)、448それはそれは随分(ずゐぶん)もてたものだよ。449残(のこ)りの色香(いろか)は棄(す)て難(がた)く、450どこやら、451好(い)い匂(にほ)ひがあると見(み)えて、452色(いろ)の道(みち)には苦労(くらう)をなされた国依別(くによりわけ)さまが、453ゾツコンわたしに惚込(ほれこ)んで五十(ごじふ)も違(ちが)ふ年(とし)をし乍(なが)ら朝(あさ)から晩(ばん)まで大事(だいじ)にして下(くだ)さるのだ。454思(おも)へば思(おも)へば私(わし)の様(やう)な運(うん)の好(よ)い者(もの)が何処(どこ)にあらうか。455男(をとこ)やもめに蛆(うぢ)が湧(わ)くと云(い)ふが、456女(をんな)やもを程(ほど)結構(けつこう)なものはないワイの。457お前(まへ)はどこの婆(ばば)アだか知(し)らぬが、458余程(よつぽど)よい因果者(いんぐわもの)と見(み)えて、459其(その)面(つら)は何(なん)だい。460汐風(しほかぜ)に吹(ふ)かれ顔(かほ)の色(いろ)は真黒(まつくろ)け、461何方(どちら)が黒姫(くろひめ)だか、462アカ姫(ひめ)だかテント見当(けんたう)の取(と)れぬお仕組(しぐみ)だ。463オツホヽヽヽ。464お気(き)の毒(どく)様(さま)乍(なが)ら、465婆(ばば)ア一人暮(ひとりぐら)し、466お茶(ちや)一(ひと)つ上(あ)げる訳(わけ)には行(ゆ)かぬから、467トツトと帰(かへ)つて下(くだ)され』
468 高姫(たかひめ)は戸(と)の節穴(ふしあな)から一寸(ちよつと)中(なか)を覗(のぞ)き、
469高姫『日(ひ)の暮(く)れの事(こと)とて確実(はつきり)は分(わか)らぬがお前(まへ)は婆(ばば)アの仮声(こわいろ)を使(つか)つて居(ゐ)るが男(をとこ)ぢやないか。470チツと怪(あや)しいと思(おも)つて居(ゐ)た。471白状(はくじやう)せぬかい。472日(ひ)の出神(でのかみ)の眼(め)を晦(くら)ます事(こと)は出来(でき)やしないぞ』
473 駒彦(こまひこ)ヤツパリ婆(ばば)の仮声(こわいろ)を出(だ)して、
474駒彦『言霊(ことたま)は女(をんな)で体(からだ)は男(をとこ)だ。475変性(へんじやう)男子(なんし)の根本(こんぽん)の生粋(きつすゐ)の神国魂(やまとだましひ)の御(おん)身魂(みたま)だよ』
476高姫(たかひめ)『ヘンお前(まへ)は元(もと)は馬公(うまこう)と云(い)つた駒彦(こまひこ)だらう。477馬(うま)い事(こと)言(い)つて私(わたし)達(たち)を駒(こま)らさうと思(おも)つても、478日(ひ)の出神(でのかみ)は……ヘン、479そんな事(こと)では困(こま)りませぬワイ。480グヅグヅ申(まを)さずに、481サツサと開(あ)けなされ』
482駒彦(こまひこ)『アツハヽヽヽ、483とうと日(ひ)の出神(でのかみ)に発見(はつけん)せられました。484……叩(たた)けば開(ひら)く門(かど)の口(くち)。485叩(たた)いて分(わか)る俺(おれ)の口(くち)。486サツパリ化(ば)けが現(あら)はれたか。487三千(さんぜん)世界(せかい)の大化物(おほばけもの)も薩張(さつぱり)駄目(だめ)だ』
488と無駄口(むだぐち)を叩(たた)き乍(なが)ら、489ガラリと戸(と)を押開(おしあ)け、490駒彦(こまひこ)は腰(こし)を屈(かが)め、491揉(も)み手(て)をし乍(なが)ら女(をんな)の声(こゑ)を使(つか)ひ、
492駒彦『これはこれは三五教(あななひけう)にて隠(かく)れなき御(ご)威勢(ゐせい)の高(たか)き、493変性(へんじやう)男子(なんし)の系統(ひつぽう)の高姫(たかひめ)様(さま)、494黒姫(くろひめ)様(さま)、495高山彦(たかやまひこ)様(さま)の御(ご)一行(いつかう)、496よくよくお訪(たづ)ね下(くだ)さいました、497私(わたし)は若彦(わかひこ)の妻(つま)玉能姫(たまのひめ)と申(まを)す者(もの)、498何時(いつ)も何時(いつ)も結構(けつこう)な御(ご)教訓(けうくん)を賜(たま)はりまして有難(ありがた)う御座(ござ)ります。499紀州(きしう)に於(おい)て高姫(たかひめ)様(さま)に夫婦(ふうふ)対面(たいめん)の所(ところ)を見付(みつ)けられ、500イヤモウ赤面(せきめん)を致(いた)しました。501オツホヽヽヽ』
502高姫(たかひめ)『コレ駒彦(こまひこ)さま、503人(ひと)を馬鹿(ばか)にするのかい。504大(おほ)きな口(くち)を無理(むり)におチヨボ口(ぐち)にしたり、505玉能姫(たまのひめ)の仮声(こわいろ)を使(つか)つて何(なん)の態(ざま)だ。506婆(ばば)になつたり、507娘(むすめ)になつたり、508此(この)頃(ごろ)はチツとどうかしとりますな』
509駒彦『ハイ、510大(おほい)にどうかしとります。511何分(なにぶん)三箇(さんこ)の玉(たま)は紛失(ふんしつ)致(いた)し、512玉能姫(たまのひめ)に、513折角(せつかく)御用(ごよう)を承(うけたま)はり乍(なが)ら、514蛸(たこ)の揚壺(あげつぼ)を喰(く)はされ、515此(この)頃(ごろ)又(また)五(いつ)つの玉(たま)が聖地(せいち)に這入(はい)つたとやら云(い)ふ事(こと)、516それで此(この)駒彦(こまひこ)も気(き)が気(き)でならず心配(しんぱい)をして居(ゐ)ると、517最前(さいぜん)の様(やう)に黒姫(くろひめ)とか云(い)ふ婆(ばば)アの霊(れい)が憑(うつ)つたり、518玉能姫(たまのひめ)の霊(れい)が憑(うつ)つたり、519時々(じじ)刻々(こくこく)に声(こゑ)までが変(かは)ります。520ハイハイ誠(まこと)に面目(めんぼく)次第(しだい)も御座(ござ)りませぬワイ。521アツハヽヽヽ』
522と肩(かた)を揺(ゆす)る。523黒姫(くろひめ)は、
524黒姫『お前(まへ)さまは黒姫(くろひめ)の霊(れい)が憑(うつ)つたと仰有(おつしや)つたが、525それは誰(たれ)の事(こと)ですか。526聞捨(ききずて)ならぬ今(いま)のお言葉(ことば)…』
527と鼻息(はないき)を荒(あら)くする。
528駒彦『駒彦(こまひこ)の身魂(みたま)は神(かみ)が御用(ごよう)に使(つか)ふて居(ゐ)るから、529イロイロの霊魂(みたま)が憑(うつ)るぞよ。530駒彦(こまひこ)が申(まを)しても駒彦(こまひこ)が云(い)ふのでないぞよ。531口(くち)を借(か)る計(ばか)りであるぞよ。532駒彦(こまひこ)を恨(うら)めて下(くだ)さるなよ。533何事(なにごと)も神(かみ)の仕組(しぐみ)であるぞよ。534駒彦(こまひこ)は何(なん)にも知(し)らず…ウンウン』
535 ドスン、536バタンと飛(と)びあがつて見(み)せた。
537黒姫(くろひめ)『エー馬鹿(ばか)にしなさるな。538併(しか)し此(この)館(やかた)はお前(まへ)一人(ひとり)かな』
539駒彦(こまひこ)『一人(ひとり)と言(い)へば一人(ひとり)、540大勢(おほぜい)と言(い)へばマア大勢(おほぜい)だ』
541黒姫(くろひめ)『其(その)大勢(おほぜい)は何処(どこ)に居(を)るのだい』
542駒彦(こまひこ)『何(なに)を言(い)うても神(かみ)様(さま)の容器(いれもの)に造(つく)られた此(この)肉体(にくたい)、543天津(あまつ)神(かみ)、544国津(くにつ)神(かみ)、545八百万(やほよろづ)の神(かみ)が出入(でい)り遊(あそ)ばす駒彦(こまひこ)の肉(にく)の宮(みや)、546チヨコチヨコ日(ひ)の出神(でのかみ)もおいで遊(あそ)ばすなり、547竜宮(りうぐう)の乙姫(おとひめ)さまもチヨコチヨコ見(み)えますぞよ。548真(まこと)の乙姫(おとひめ)は此(この)頃(ごろ)は駒彦(こまひこ)の肉(にく)の宮(みや)に宿換(やどがへ)を致(いた)したぞよ……と仰有(おつしや)つて結構(けつこう)な玉(たま)を見(み)せて下(くだ)さいますワイ。549ここにも現(げん)に天(てん)火(くわ)水(すゐ)地(ち)結(けつ)の五(いつ)つの玉(たま)が、550ヤツパリ……ヤツパリぢやつた。551マア言(い)はぬが花(はな)ですかいな』
552 高姫(たかひめ)得意顔(したりがほ)になり、
553高姫『それ、554黒姫(くろひめ)さま、555高山彦(たかやまひこ)さま、556私(わたし)の天眼通(てんがんつう)は違(ちが)ひますまい。557キツと生田(いくた)の森(もり)に隠(かく)して有(あ)るに違(ちが)ひないと言(い)つたぢやありませぬか。558東助館(とうすけやかた)にグヅグヅして居(ゐ)ようものなら又(また)後(あと)の祭(まつり)になる所(ところ)だつたが、559斯(か)う自分(じぶん)の口(くち)から白状(はくじやう)した以上(いじやう)は、560てつきり玉(たま)の所在(ありか)は此(この)館(やかた)に間違(まちがひ)ない。561……サア駒彦(こまひこ)、562モウ叶(かな)はぬ。563綺麗(きれい)サツパリと其(その)玉(たま)の所在(ありか)を系統(ひつぽう)の肉体(にくたい)にお明(あ)かしなされ』
564駒彦(こまひこ)『玉(たま)の所在(ありか)は竜宮島(りうぐうじま)の諏訪(すは)の湖(みづうみ)、565玉依姫(たまよりひめの)命(みこと)さまが、566モウ時節(じせつ)が到来(たうらい)したから、567身魂(みたま)の立派(りつぱ)な守護神(しゆごじん)に渡(わた)したい渡(わた)したいと仰有(おつしや)るので、568玉照姫(たまてるひめ)様(さま)の御(ご)命令(めいれい)に依(よ)り、569言依別(ことよりわけの)神(かみ)様(さま)から、570東助(とうすけ)さまや国依別(くによりわけ)さまに……お前(まへ)受取(うけと)りに往(い)つて来(こ)んか……と云(い)つて御(ご)命令(めいれい)が下(くだ)つたさうです、571私(わたし)も御用(ごよう)に行(ゆ)きたいのだが怪体(けつたい)の悪(わる)い、572留守番(るすばん)を命(めい)ぜられ、573指(ゆび)を啣(くは)へて人(ひと)の手柄(てがら)を遠(とほ)い所(ところ)から傍観(ばうくわん)して居(ゐ)るのだ。574本当(ほんたう)に羨(うらや)ましい事(こと)だワイな』
575高姫(たかひめ)『そりや又(また)本当(ほんたう)かい。576モウ既(すで)に聖地(せいち)へ納(をさ)まつたと云(い)ふぢやないか』
577駒彦『何分(なにぶん)、578時間(じかん)空間(くうかん)を超越(てうゑつ)した神界(しんかい)の御(ご)経綸(けいりん)だから、579過去(くわこ)とも未来(みらい)とも現在(げんざい)とも、580サツパリ凡夫(ぼんぶ)の我々(われわれ)にや分(わか)りませぬワイ。581アツハヽヽヽ』
582高姫(たかひめ)『どうやら奥(おく)の間(ま)に人(ひと)の気配(けはい)がする。583煙草(たばこ)を吸(す)うて居(を)るのか、584煙管(きせる)で火鉢(ひばち)をポンポン喰(くら)はして居(ゐ)るぢやないか。585松葉(まつば)臭(くさ)い薫(かをり)がして来出(きだ)した。586誰(たれ)が居(ゐ)るのだ、587白状(はくじやう)なされ』
588駒彦『ハイ鼠(ねずみ)が二三匹(にさんびき)奥(おく)の間(ま)に暴(あば)れて居(ゐ)るのでせう』
589高姫『それでも煙(けむり)が出(で)るぢやないか』
590駒彦『鼠(ねずみ)が煙草(たばこ)を吸(す)うて居(ゐ)るのでせうかい』
591 高姫(たかひめ)はスタスタと奥(おく)の間(ま)の襖(ふすま)を引(ひ)き開(あ)けて飛(と)びこみ、592二人(ふたり)の姿(すがた)を見(み)て、
593高姫『これはしたり、594国依別(くによりわけ)、595秋彦(あきひこ)の両人(りやうにん)、596卑怯(ひけふ)千万(せんばん)にも不在(るす)を使(つか)ひ、597奥(おく)の間(ま)に姿(すがた)を隠(かく)し、598我々(われわれ)を邪魔者(じやまもの)扱(あつかひ)になさるのかーツ』
599と言葉尻(ことばじり)に力(ちから)を入(い)れ、600角(かど)を立(た)てて呶鳴(どな)りつけた。601国依別(くによりわけ)は杢助流(もくすけりう)にグレンと仰向(あふむ)けにひつくり返(かへ)り、602手(て)と足(あし)を上(うへ)の方(はう)にニユウと伸(の)ばし、
603国依別『チユウ チユウ チユウ』
604と鼠(ねずみ)の鳴(な)き声(ごゑ)をして見(み)せる。605秋彦(あきひこ)は亦(また)グレンと転倒(ひつくりかへ)り、606同(おな)じく手足(てあし)を天井(てんじやう)の方(はう)へニユウと伸(の)ばし、
607秋彦『クツクツ キユツ キユツ キユツ』
608と脇(わき)の下(した)に笑(わら)ひを抑(おさ)へて居(ゐ)る。609高姫(たかひめ)は、
610高姫『何(なん)と云(い)ふ不作法(ぶさはふ)な事(こと)をなさるのだ。611四足(よつあし)の真似(まね)をしたりして、612本(ほん)守護神(しゆごじん)が現(あら)はれたのだ。613アヽ隠(かく)されぬものだ。614身魂(みたま)と云(い)ふものは……日(ひ)の出神(でのかみ)の御(ご)威光(ゐくわう)に照(て)らされて、615此(この)憐(あは)れな態(ざま)、616斯(こ)んな身魂(みたま)を言依別(ことよりわけ)の奴(ど)ハイカラが信用(しんよう)して居(ゐ)るのだから……本当(ほんたう)に悲(かな)しくなつて来(き)た。617幹部(かんぶ)の奴(やつ)は色盲(しきまう)計(ばか)りだから、618人物(じんぶつ)を視(み)る目(め)が無(な)いから困(こま)つたものだ。619誠(まこと)のものは排斥(はいせき)され、620斯(こ)んな者(もの)が雪隠虫(せんちむし)の高上(たかあが)りをするのだからなア』
621国依別(くによりわけ)『チウ チウ チウ』
622秋彦(あきひこ)『クウ クウ クウ』
623国依別(くによりわけ)『サツパリ………身魂(みたま)がチウクウに迷(まよ)うて居(ゐ)るワイの、624ウツフヽヽヽ。625キユツ キユツ キユツ キユツ』
626と体(からだ)一面(いちめん)に笑(わら)ひを忍(しの)んで、627波(なみ)を打(う)たせて居(ゐ)る。
628高姫(たかひめ)『コレコレ黒姫(くろひめ)さま、629高山彦(たかやまひこ)さま、630一寸(ちよつと)来(き)て御覧(ごらん)、631大変(たいへん)な事(こと)が出来(しゆつたい)致(いた)しました。632天(てん)が地(ち)となり、633地(ち)が天(てん)となり、634サツパリ身魂(みたま)の性来(しやうらい)が現(あら)はれて、635足(あし)が上(うへ)になつて歩(ある)く人間(にんげん)が現(あら)はれました。636どうぞ皆(みな)さま、637やつて来(き)て天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し、638元(もと)の人間(にんげん)になる様(やう)に拝(をが)んでやつて下(くだ)さい。639あゝ惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)、640惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)』
641と気(き)の毒(どく)さうな顔(かほ)して、642一生(いつしやう)懸命(けんめい)に祈願(きぐわん)をこめて居(ゐ)る。
643(大正一一・七・一二 旧閏五・一八 松村真澄録)
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