霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一三章 三(み)つ巴(どもゑ)〔七七八〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第26巻 海洋万里 丑の巻 篇:第4篇 波瀾重畳 よみ(新仮名遣い):はらんちょうじょう
章:第13章 三つ巴 よみ(新仮名遣い):みつどもえ 通し章番号:778
口述日:1922(大正11)年07月19日(旧閏05月25日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年6月5日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
高姫、黒姫、高山彦らは、国依別の偽神懸り(第25巻第18章)に乗せられて、神素盞嗚大神の誓約から生まれた三女神を祀った竹生島に、社殿の下から玉を掘り出そうと、それぞれ一人ずつやってきた。
天の安河にて神素盞嗚大神が誓約をなし給いしとき、瑞の御魂の表徴として三女神が現れた。この竹生島に三女神の御魂が留め置かれた後、女神たちを慰めるために竜神がときどきやってきて琵琶を弾じた。そのため、島のある湖は琵琶湖と呼ばれるようになったのである。
言霊学者は、琵琶湖を天の真奈井とも唱えている。現代の竹生島は湖の北側にあるが、この物語の時代にはほぼ中央にあり、また松の島・竹の島・梅の島の三つがあって、それぞれに三女神が祀られていた。
高姫は、舟をこいでまず、竹の島にやってきた。闇夜の中、黒姫と高山彦も竹の島にこぎつけて上陸した。三人はそれと知らず、同じ社の床下に集まってくることになった。
竹生島の司・英子姫と亀彦は、社で夕拝をしていると、高姫が舟から上陸して社にやってきて、天津祝詞を唱えるのを聞いた。英子姫は見るに忍びず独り館に帰って行った。
亀彦は闇の中、声を潜めて社の中に隠れた。高姫は、亀彦が社の中に居るとも知らず、三つの宝珠を授けたまえと祈願すると、床下に潜り込んで行った。続いて黒姫と高山彦が同じようにやってきて、床下に潜った。
三人はときどき頭をぶつけて火花を出しながら、床下を探っていた。高姫は二人も同じ目的でやってきていることに気付き、もし自分以外が玉を掘り出したら、変性男子の系統を楯に取って玉を取ってやろうと考えながら、執着心を露にしつつ、すでに四五尺も穴を掘っていた。
一方黒姫も、誰か二人やってきて社の床下を掘っているのは、てっきり言依別命の差配だと思い込んでいた。そして言依別や杢助をアフンとさせてやろうと必死で玉を探して一生懸命に掘っていた。
高山彦は次第に、他の二人の人影が高姫と黒姫ではないかと疑い始めたが、天狗が嘘をつくはずがないと思い直す。そして、自分は別に玉探しも興味がないのだが、妻の黒姫が騒ぐので、執着の心の雲を晴らしてやろうとしていたのだ、と独り思いながら掘っている。
高山彦は、高姫・黒姫に懸っている神が神力が足りないやくざ神であると気付きながらも、二人の心の雲の執着が払われるように、と心の中に祈願している。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:0000-00-00 00:00:00 文字数:5688 OBC :rm2613
愛善世界社版:179頁 八幡書店版:第5輯 205頁 修補版: 校定版:197頁 普及版:64頁 初版: ページ備考:
001炎熱(えんねつ)火房(くわばう)に坐(ざ)す如(ごと)く
002恰(あだか)も釜中(ふちう)に居(を)る如(ごと)し
003酷暑(こくしよ)の空(そら)に瑞月(ずゐげつ)が
004身(み)を横(よこ)たへて述(の)べ立(た)つる
005廻(まは)すハンドル力(ちから)なく
006半(なかば)破(やぶ)れしレコードも
007針(はり)の疲(つか)れにキシキシと
008鳴(な)り出(い)で兼(か)ねしかすり声(ごゑ)
009妙音(めうおん)菩薩(ぼさつ)の山上(やまがみ)氏(し)
010傍(そば)に現(あら)はれましませど
011泣(な)き嗄(から)したる時鳥(ほととぎす)
012八千八(はつせんや)声(こゑ)も尽(つ)き果(は)てて
013唇(くちびる)加藤(かとう)明(あ)きかぬる
014珍(うづ)の言霊(ことたま)松村(まつむら)氏(し)
015真澄(ますみ)の空(そら)を眺(なが)めつつ
016此処迄(ここまで)述(の)べて北村(きたむら)の
017錦(にしき)の宮(みや)の隆光(たかひか)る
018三五(さんご)の月(つき)の神教(みをしへ)を
019守(まも)る神人(しんじん)言依別(ことよりわけ)の
020瑞(みづ)の命(みこと)を始(はじ)めとし
021玉照彦(たまてるひこ)や玉照姫(たまてるひめ)の
022瑞(みづ)の命(みこと)の聖顔(かんばせ)は
023外山(とやま)の霞(かすみ)掻(か)き分(わ)けて
024豊二(ゆたかに)昇(のぼ)る朝日子(あさひこ)の
025日(ひ)の出神(でのかみ)の如(ごと)くなり
026五六七(みろく)太夫(だいふ)の谷村(たにむら)氏(し)
027真(まこと)の友(とも)と水火(いき)合(あは)せ
028汗(あせ)に眼鏡(めがね)を曇(くも)らせつ
029万年筆(まんねんひつ)と口(くち)の先(さき)
030素的(すてき)滅法(めつぱふ)に尖(とが)らせて
031松雲閣(しよううんかく)の中(なか)の間(ま)で
032鼻高姫(はなたかひめ)や黒姫(くろひめ)が
033御玉探(みたまさが)しの大騒(おほさわ)ぎ
034神(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)が
035帯(お)ばせ給(たま)ひし御佩刀(みはかせ)の
036三段(みきだ)に折(を)りし誓約(うけひ)より
037現(あら)はれませる三女神(さんぢよしん)
038市杵嶋(いちきしま)姫(ひめ)、多紀理(たぎり)姫(ひめ)
039多岐都(たきつ)の姫(ひめ)を祀(まつ)りたる
040御稜威(みいづ)輝(かがや)く竹生島(ちくぶじま)
041社殿(しやでん)の下(した)に瑞宝(ずゐはう)の
042匿(かく)されありと国依別(くによりわけ)の
043俄天狗(にはかてんぐ)にそそられて
044此処(ここ)に三人(みたり)の玉抜(たまぬ)けや
045ヤツサモツサの経緯(いきさつ)を
046筆(ふで)に写(うつ)して止(とど)め置(お)く
047あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
048御霊(みたま)幸(さち)はへましませよ。
049○
050三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)
051変性(へんじやう)男子(なんし)の系統(ひつぽう)を
052唯一(ゆゐいつ)の楯(たて)と頼(たの)みたる
053日(ひ)の出神(でのかみ)の肉(にく)の宮(みや)
054嘘(うそ)か真(まこと)か知(し)らねども
055天狗(てんぐ)の鼻(はな)の高姫(たかひめ)が
056尊(たふと)き御魂(みたま)を持(も)ちながら
057肝腎要(かんじんかなめ)の神業(かむわざ)に
058取(と)り除(のぞ)かれし妬(ねた)ましさ
059言依別(ことよりわけ)が匿(かく)したる
060玉(たま)の在処(ありか)を何処迄(どこまで)も
061仮令(たとへ)火(ひ)になり蛇(へび)になり
062骨(ほね)になるとも執拗(しつえう)に
063探(さぐ)り当(あ)てねば置(お)かないと
064執着心(しふちやくしん)の鬼(おに)大蛇(をろち)
065醜(しこ)の曲津(まがつ)に誘(さそ)はれて
066自転倒(おのころ)島(じま)は云(い)ふも更(さら)
067明石(あかし)の海(うみ)や淡路島(あはぢしま)
068家島(えじま)を越(こ)えて小豆島(せうどしま)
069波濤(はたう)に浮(うか)ぶ南洋(なんやう)の
070蘇鉄(そてつ)の茂(しげ)る大島(おほしま)や
071バナヽの薫(かほ)り香(かう)ばしき
072南洋一(なんやういち)のアンボイナ
073谷水(たにみづ)清(きよ)く苔(こけ)青(あを)く
074竜宮島(りうぐうじま)と聞(きこ)えたる
075これの聖地(せいち)を後(あと)にして
076流(なが)れ流(なが)れて一(ひと)つ島(じま)
077黄金(こがね)の島(しま)に上陸(じやうりく)し
078地恩(ちおん)の城(しろ)に現(あら)はれて
079黄竜姫(わうりようひめ)に玉(たま)抜(ぬ)かれ
080流石(さすが)剛気(がうき)の高姫(たかひめ)も
081胸(むね)轟(とどろ)かし黒姫(くろひめ)や
082高山彦(たかやまひこ)を伴(ともな)ひて
083潮(しほ)の八百路(やほぢ)の八潮路(やしほぢ)の
084潮(しほ)の八百会(やほあひ)漕(こ)ぎ帰(かへ)り
085淡路(あはぢ)の島(しま)の東助(とうすけ)が
086鉄門(かなど)を守(まも)る虻蜂(あぶはち)に
087鼻(はな)を折(を)られて再度(ふたたび)の
088山(やま)を目蒐(めが)けて漕(こ)ぎ帰(かへ)り
089生田(いくた)の森(もり)に名(な)も高(たか)き
090玉能(たまの)の姫(ひめ)の神館(かむやかた)
091執念深(しふねんぶか)くも訪(たづ)ぬれば
092国依別(くによりわけ)や秋(あき)、駒(こま)の
093思(おも)ひも寄(よ)らぬ三人(みたり)連(づ)れ
094やつさもつさと争論(あげつら)ひ
095揚句(あげく)の果(はて)は竹生島(ちくぶじま)
096憑依(ひようい)もしない天狗(てんぐ)の口(くち)に
097鼻高姫(はなたかひめ)は勇(いさ)み立(た)ち
098今度(こんど)は願望(ぐわんまう)成就(じやうじゆ)と
099館(やかた)の裏口(うらぐち)走(はし)りぬけ
100闇(やみ)に紛(まぎ)れて細道(ほそみち)を
101進(すす)み行(ゆ)くこそ可憐(いぢ)らしき
102上野(うへの)、篠原(しのはら)乗(の)り越(こ)えて
103秋(あき)の御空(みそら)も住吉(すみよし)の
104郷(さと)に漸(やうや)く辿(たど)り着(つ)き
105東(あづま)の空(そら)を眺(なが)むれば
106金剛(こんがう)不壊(ふゑ)の如意(によい)宝珠(ほつしゆ)
107光(ひかり)争(あらそ)ふ朝日子(あさひこ)の
108日(ひ)の出神(でのかみ)の御(おん)姿(すがた)
109両手(りやうて)を合(あは)せ伏(ふ)し拝(をが)み
110中野(なかの)の郷(さと)もいつしかに
111葭(よし)と芦屋(あしや)の忙(いそが)しく
112運(はこ)ぶ歩(あゆ)みも立花(たちばな)や
113小田郷(をだがう)、柴島(くにじま)、淀(よど)の川(かは)
114漸(やうや)く道(みち)も枚方(ひらかた)や
115いつしか廻(まは)り大塚(おほつか)の
116此(この)坂道(さかみち)も高槻(たかつき)や
117山崎(やまざき)越(こ)えて美豆(みづ)の郷(さと)
118河(かは)の流(なが)れも淀(よど)の町(まち)
119銀波(ぎんぱ)漂(ただよ)ふ巨椋池(おぐらいけ)
120宇治(うぢ)の流(なが)れに下(お)り立(た)ちて
121飲(の)み干(ほ)す水(みづ)は醍醐味(だいごみ)や
122小山(をやま)、大谷(おほたに)早(はや)越(こ)えて
123逢坂山(あふさかやま)の真葛(さねかづら)
124人(ひと)に知(し)らされ来(く)る由(よし)も
125嬉(うれ)しき玉(たま)を三井(みゐ)の寺(てら)
126ミロクの神世(みよ)に大津辺(おほつべ)の
127幾多(いくた)の船(ふね)の其(その)中(なか)に
128殊更(ことさら)堅固(けんご)な船(ふね)を選(よ)り
129高姫(たかひめ)艪(ろ)をば操(あやつ)りて
130心(こころ)は後(あと)に沖(おき)の島(しま)
131波(なみ)を辷(すべ)つて進(すす)み行(ゆ)く
132向(むか)ふに見(み)ゆるは竹生島(ちくぶじま)
133月(つき)西山(せいざん)に傾(かたむ)きて
134闇(やみ)の帳(とばり)は水(みづ)の面(おも)
135四辺(あたり)を包(つつ)む大空(おほぞら)に
136閃(ひらめ)き渡(わた)る星(ほし)の影(かげ)
137船(ふね)漕(こ)ぎ浪(なみ)を砕(くだ)きつつ
138浅黄(あさぎ)に星(ほし)の紋(もん)つけた
139黒(くろ)い婆(ば)さまがやつて来(く)る
140又(また)もや続(つづ)いて来(く)る船(ふね)は
141頭(あたま)の光(ひか)る福禄寿(げほう)さま
142弁天(べんてん)さまの此(この)島(しま)に
143女布袋(をんなほてい)や大黒(だいこく)が
144黄金(こがね)の槌(つち)はなけれども
145土(つち)の中(なか)より瑞宝(ずゐはう)を
146探(さぐ)り当(あ)てむと執着(しふちやく)の
147心(こころ)の暗(やみ)に塞(とざ)されて
148星影(ほしかげ)映(うつ)る湖(うみ)の上(うへ)
149互(たがひ)に息(いき)を凝(こ)らしつつ
150進(すす)み寄(よ)るこそ訝(いぶ)かしき。
151 近江(あふみ)の国(くに)の琵琶(びは)の湖水(こすゐ)は、152其(その)形(かたち)楽器(がくき)の琵琶(びは)に似(に)たるをもつて、153此(この)名(な)ありと巷間(こうかん)伝(つた)へらる。154併(しか)し乍(なが)ら此(この)湖中(こちう)に浮(うか)べる竹生島(ちくぶしま)に、155神(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)の佩(は)かせ給(たま)ひし十握(とつか)の剣(つるぎ)を、156天(あま)の安河(やすかは)に於(おい)て誓約(うけひ)し給(たま)ひし時(とき)、157瑞(みづ)の御霊(みたま)の表徴(へうちよう)として、158温順(をんじゆん)貞淑(ていしゆく)の誉(ほまれ)高(たか)き三女神(さんぢよしん)現(あら)はれ給(たま)ひ、159此処(ここ)に其(その)御霊(みたま)を止(とど)めさせられ、160時々(ときどき)竜神(りうじん)来(きた)りて、161姫神(ひめがみ)の御心(みこころ)を慰(なぐさ)め奉(たてまつ)るため、162琵琶(びは)を弾(だん)じたるより琵琶(びは)の湖(うみ)と称(とな)ふるに至(いた)つたのである。163又(また)一名(いちめい)天(あめ)の真奈井(まなゐ)とも言霊(げんれい)学者(がくしや)は称(とな)へて居(ゐ)る。164今(いま)の竹生島(ちくぶじま)は湖水(こすゐ)の極北(きよくほく)にあれども、165此(この)時代(じだい)は湖水(こすゐ)の殆(ほとん)ど中央(ちうあう)に松(まつ)の島(しま)、166竹(たけ)の島(しま)、167梅(うめ)の島(しま)の三島嶼(さんたうしよ)相(あひ)浮(うか)び三(み)つ巴(どもゑ)となつて其(その)雄姿(ゆうし)を紺碧(こんぺき)の波上(はじやう)に浮(うか)べて居(ゐ)たのである。168松(まつ)の島(しま)には多紀理(たぎり)姫(ひめの)神(かみ)鎮座(ちんざ)在(まし)まし、169竹(たけ)の島(しま)には市杵島(いちきしま)姫(ひめの)神(かみ)鎮(しづ)まり給(たま)ひ、170梅(うめ)の島(しま)には多岐都(たきつ)姫(ひめの)神(かみ)鎮(しづ)まらせ給(たま)ひ、171各島(かくたう)各(おのおの)百間(ひやくけん)許(ばか)りの位置(ゐち)を保(たも)つて行儀(ぎやうぎ)よく配列(はいれつ)されてあつた。172高姫(たかひめ)は先(ま)ず竹(たけ)の島(しま)の市杵島(いちきしま)姫(ひめ)を祀(まつ)りたる社(やしろ)を指(さ)して漕(こ)ぎつけた。
173 黒姫(くろひめ)、174高山彦(たかやまひこ)も期(き)せずして闇夜(やみよ)の悲(かな)しさ、175同(おな)じ竹(たけ)の島(しま)に船(ふね)を寄(よ)せ、176同(おな)じ社(やしろ)の床下(ゆかした)に玉探(たまさが)しの為(た)め頭(あたま)を集(あつ)めた。
177神(かむ)素盞嗚(すさのを)の貴(うづ)の子(こ)と
178生(うま)れ給(たま)ひし英子姫(ひでこひめ)
179万世(よろづよ)祝(いは)ふ亀彦(かめひこ)は
180神(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)の
181厳(いづ)の神業(かむわざ)詳細(まつぶさ)に
182遂(と)げさせ給(たま)へと朝夕(あさゆふ)に
183天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し
184天(あま)の数歌(かずうた)潔(いさぎよ)く
185一(ひと)二(ふた)三(みい)四(よ)五(いつ)つ六(む)つ
186七(なな)八(や)つ九(ここの)つ十(とう)たらり
187百(もも)千(ち)万(よろづ)と村肝(むらきも)の
188心(こころ)を籠(こ)めて祈(いの)る折(をり)
189磯(いそ)の彼方(かなた)に船(ふね)繋(つな)ぎ
190しとしと来(きた)る黒(くろ)い影(かげ)
191気(き)にも止(と)めずに一向(ひたすら)に
192祈(いの)る最中(もなか)に神(かみ)の前(まへ)
193忽(たちま)ち現(あら)はれ額(ぬかづ)きて
194天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏(の)り上(あ)ぐる
195暗(やみ)に確(しか)とは分(わか)らねど
196皺嗄(しわが)れ声(ごゑ)は高姫(たかひめ)か
197執着心(しふちやくしん)に搦(から)まれて
198当所(あてど)も知(し)らぬ玉探(たまさが)し
199見(み)るも無残(むざん)と英子姫(ひでこひめ)
200そつと此(この)場(ば)を立(た)ち出(い)でて
201己(おの)が館(やかた)に静々(しづしづ)と
202星(ほし)の光(ひかり)を力(ちから)とし
203闇路(やみぢ)を分(わ)けて島影(しまかげ)の
204清(きよ)き館(やかた)に帰(かへ)りけり
205後(あと)に亀彦(かめひこ)唯(ただ)一人(ひとり)
206声(こゑ)を密(ひそ)めて御扉(みとびら)を
207そつと開(ひら)いて中(なか)に入(い)り
208様子(やうす)如何(いか)にと窺(うかが)へば
209神(かみ)ならぬ身(み)の高姫(たかひめ)は
210社(やしろ)の中(なか)に人(ひと)ありと
211知(し)らぬが仏(ほとけ)一心(いつしん)に
212無事(ぶじ)の安着(あんちやく)感謝(かんしや)しつ
213拍手(はくしゆ)の音(おと)も湿(しめ)やかに
214金剛(こんがう)不壊(ふゑ)の如意(によい)宝珠(ほつしゆ)
215黄金(こがね)の玉(たま)や紫(むらさき)の
216珍(うづ)の宝珠(ほつしゆ)を高姫(たかひめ)の
217両手(もろて)に授(さづ)け給(たま)へよと
218声(こゑ)を震(ふる)はせ祈(いの)り居(ゐ)る
219暫(しばら)くありて高姫(たかひめ)は
220珍(うづ)の社(やしろ)の床下(ゆかした)に
221鼠(ねずみ)の如(ごと)く這(は)ひ寄(よ)つて
222黒白(あやめ)も分(わ)かぬ闇(やみ)の中(なか)
223小声(こごゑ)に神名(しんめい)唱(とな)へつつ
224探(さぐ)り居(ゐ)るこそ可笑(をか)しけれ
225又(また)もや近(ちか)づく足音(あしおと)は
226社(やしろ)の前(まへ)に手(て)を拍(う)つて
227心(こころ)の秘密(ひみつ)を語(かた)りつつ
228暗祈(あんき)黙祷(もくたう)稍(やや)暫(しば)し
229心(こころ)いそいそ御社(みやしろ)の
230四辺(あたり)を密(ひそ)かに窺(うかが)ひつ
231土竜(もぐら)の如(ごと)く床下(ゆかした)に
232又(また)もや姿(すがた)を匿(かく)しける
233月(つき)の光(ひかり)は無(な)けれども
234星(ほし)の光(ひかり)に照(て)らされて
235長(なが)い頭(あたま)の唯(ただ)一(ひと)つ
236闇(やみ)を掻(か)き別(わ)け進(すす)み来(く)る
237入日(いりひ)の影(かげ)か竿竹(さをだけ)か
238見越(みこし)入道(にふだう)の大男(おほをとこ)
239又(また)もや社前(しやぜん)に手(て)を拍(う)つて
240感謝(かんしや)の声(こゑ)も口(くち)の中(なか)
241何(なに)か細々(こまごま)願(ね)ぎ終(を)へて
242忽(たちま)ち社殿(しやでん)の床(ゆか)の下(した)
243長(なが)き頭(あたま)を匿(かく)しける
244あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
245迷(まよ)ふ身魂(みたま)の三(み)つ巴(どもゑ)
246誠(まこと)の仕組(しぐみ)も白浪(しらなみ)の
247沖(おき)に浮(うか)べる神島(かみしま)に
248胸(むね)に荒波(あらなみ)打(う)たせつつ
249心(こころ)の鬼(おに)に爪(つま)立(た)てて
250無暗(むやみ)矢鱈(やたら)に掻(か)き廻(まは)し
251汗(あせ)をたらたら三(さん)人(にん)が
252時々(ときどき)頭(あたま)を衝突(しようとつ)し
253ピカリピカリと火(ひ)を出(だ)して
254四辺(あたり)の闇(やみ)を照(て)らせども
255心(こころ)の闇(やみ)は晴(は)れやらず
256互(たがひ)に顔(かほ)を不知火(しらぬひ)の
257心(こころ)砕(くだ)くる思(おも)ひなり
258高姫(たかひめ)心(こころ)に思(おも)ふやう
259国依別(くによりわけ)の云(い)うたには
260言依別(ことよりわけ)のハイカラが
261二人(ふたり)の使(つかひ)を遣(つか)はして
262肝腎要(かんじんかなめ)の神宝(しんぱう)を
263掘(ほ)り出(いだ)させてうまうまと
264再(ふたた)びどこかに埋(うづ)め置(お)き
265初稚姫(はつわかひめ)や玉能姫(たまのひめ)
266可愛(かあい)や二人(ふたり)に鼻(はな)明(あ)かせ
267折角(せつかく)立(た)てた功績(いさをし)を
268オジヤンにしようとの悪戯(いたづら)か
269憎(にく)さも悪(にく)い言依別(ことよりわけ)の
270醜(しこ)の命(みこと)のドハイカラ
271初稚姫(はつわかひめ)や玉能姫(たまのひめ)
272思(おも)へば思(おも)へばお気(き)の毒(どく)
273吾(わが)子(こ)の功績(いさを)を鼻(はな)にかけ
274高天原(たかあまはら)に参上(まゐのぼ)り
275総務(そうむ)々々(そうむ)と敬(うやま)はれ
276威張(ゐば)つて御座(ござ)つた杢助(もくすけ)も
277今度(こんど)はアフンと口(くち)あけて
278吠面(ほえづら)かわくも目(ま)のあたり
279嗚呼(ああ)面白(おもしろ)い面白(おもしろ)い
280さはさりながら何者(なにもの)か
281此(この)場(ば)に二人(ふたり)もやつて来(き)て
282玉(たま)を掘(ほ)り出(だ)し帰(かへ)らうと
283一生(いつしやう)懸命(けんめい)探(さが)し居(ゐ)る
284何処(どこ)の奴(やつ)かは知(し)らねども
285愈(いよいよ)玉(たま)の出(で)た時(とき)は
286変性(へんじやう)男子(なんし)の系統(ひつぽう)や
287日(ひ)の出神(でのかみ)を楯(たて)に取(と)り
288此(この)高姫(たかひめ)が恙(つつが)なく
289大(おほ)きな顔(かほ)で受(う)け取(と)らう
290それにつけても黒姫(くろひめ)や
291高山彦(たかやまひこ)は今(いま)何処(いづこ)
292黄金(こがね)の玉(たま)や紫(むらさき)の
293宝(たから)はもはや分(わか)りしか
294心(こころ)もとなき吾(わが)思(おも)ひ
295仮令(たとへ)小爪(こづめ)は抜(ぬ)けるとも
296金輪(こんりん)奈落(ならく)土(つち)の底(そこ)
297土竜(もぐら)蚯蚓(みみづ)にあらねども
298土(つち)掻(か)き分(わ)けて探(さが)し出(だ)し
299吾(わが)手(て)に取(と)らねば措(お)くものか
300あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
301叶(かな)はぬ時(とき)の神頼(かみだの)み
302南洋(なんやう)諸島(しよたう)へ遥々(はるばる)と
303危険(きけん)を冒(をか)して玉探(たまさが)し
304往(い)た事(こと)思(おも)へば一丈(いちぢやう)や
305二丈(にぢやう)三丈(さんぢやう)掘(ほ)つたとて
306何(なん)の手間暇(てまひま)要(い)るものか
307国依別(くによりわけ)の云(い)うたには
308三角石(さんかくいし)を取(と)り除(の)けて
309下(した)三尺(さんじやく)の深(ふか)さぞと
310天狗(てんぐ)に急(せ)かれて已(や)むを得(え)ず
311白状(はくじやう)致(いた)した面白(おもしろ)さ
312天狗(てんぐ)の申(まを)した其(その)如(ごと)く
313三角形(さんかくけい)の石(いし)はある
314早(はや)三尺(さんじやく)も掘(ほ)り終(を)へて
315もはや四五(しご)尺(しやく)掘(ほ)りぬいた
316されども玉(たま)は現(あら)はれぬ
317是(これ)はてつきり三丈(さんぢやう)の
318深(ふか)さのきつと間違(まちが)ひだ
319三丈(さんぢやう)四丈(しぢやう)はまだ愚(おろか)
320仮令(たとへ)地獄(ぢごく)の底(そこ)迄(まで)も
321掘(ほ)つて掘(ほ)つて掘(ほ)り抜(ぬ)いて
322探(さが)し当(あ)てねば措(お)くものか
323苦労(くらう)と苦労(くらう)の塊(かたまり)で
324尊(たふと)い花(はな)の咲(さ)くと云(い)ふ
325神(かみ)の教(をしへ)を聞(き)くからは
326仮令(たとへ)百(ひやく)年(ねん)かかるとも
327掘(ほ)らねば措(お)かぬ吾(わが)心(こころ)
328女(をんな)の誠(まこと)の一心(いつしん)は
329岩(いは)をも射貫(いぬ)くためしあり
330きつと掘(ほ)り出(だ)し見(み)せてやろ
331目出度(めでた)く玉(たま)が手(て)に入(い)らば
332意気(いき)揚々(やうやう)と立(た)ち帰(かへ)り
333言依別(ことよりわけ)を始(はじ)めとし
334杢助(もくすけ)お初(はつ)やお節(せつ)等(ら)の
335顔(かほ)の色(いろ)迄(まで)変(か)へさせて
336改心(かいしん)さして救(すく)はねば
337日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)の
338どうして顔(かほ)が立(た)つものか
339あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
340御霊(みたま)幸(さち)はへましませよ。
341と心(こころ)の底(そこ)に迷(まよ)ひの雲(くも)を起(おこ)しながら、342一生(いつしやう)懸命(けんめい)汗(あせ)を流(なが)して火鼠(ひねずみ)か土竜(もぐらもち)のやうに砂(すな)混(まじ)りの土(つち)を掻(か)き上(あ)げて居(ゐ)る。
343○
344黒姫(くろひめ)心(こころ)に思(おも)ふやう
345再度山(ふたたびやま)の大天狗(だいてんぐ)
346国依別(くによりわけ)の口(くち)借(か)つて
347黄金(こがね)の玉(たま)の匿(かく)し場所(ばしよ)
348近江(あふみ)の国(くに)の竹生島(ちくぶじま)
349弁天社(べんてんやしろ)の床下(ゆかした)と
350確(たしか)に確(たしか)に云(い)ひよつた
351国依別(くによりわけ)が云(い)ふのなら
352些(すこ)しは疑(うたが)ふ余地(よち)もある
353天狗(てんぐ)は心(こころ)潔白(けつぱく)で
354些(ちつ)とも嘘(うそ)は云(い)はぬもの
355間違(まちが)ふ気遣(きづか)ひあるものか
356天狗(てんぐ)の仰(あふ)せの其(その)如(ごと)く
357言依別(ことよりわけ)のハイカラが
358あらぬ智慧(ちゑ)をば絞(しぼ)り出(だ)し
359此処(ここ)に匿(かく)して置(お)きながら
360高姫(たかひめ)さまや黒姫(くろひめ)の
361昼夜(ちうや)不断(ふだん)の活動(くわつどう)に
362肝(きも)を潰(つぶ)して狼狽(らうばい)し
363見付(みつ)けられない其(その)中(うち)に
364外(ほか)へこつそり匿(かく)さうと
365猿智慧(さるぢゑ)絞(しぼ)つて態人(わざびと)を
366一足先(ひとあしさき)に此(この)島(しま)へ
367掘(ほ)らしに来(こ)したに違(ちが)ひない
368あの熱心(ねつしん)な探(さが)しやう
369如何(いか)に剛気(がうき)な黒姫(くろひめ)も
370呆(あき)れて物(もの)が云(い)はれない
371宝(たから)探(さが)しの神業(かむわざ)は
372唯(ただ)一言(ひとこと)も言霊(ことたま)を
373使(つか)つちやならない神(かみ)の告(つげ)
374迂濶(うつかり)言葉(ことば)を出(だ)すならば
375折角(せつかく)見(み)つけた宝玉(ほうぎよく)も
376煙(けむり)となつて消(き)え失(う)せむ
377嚔(くしやみ)一(ひと)つ息(いき)一(ひと)つ
378ほんに碌々(ろくろく)出来(でき)はせぬ
379苦(くる)しい時(とき)の神頼(かみだの)み
380祝詞(のりと)を唱(とな)へて神(かみ)様(さま)に
381お願(ねが)ひする事(こと)は知(し)つて居(ゐ)る
382云(い)ふに云(い)はれぬ玉探(たまさが)し
383こんな苦(くる)しい事(こと)あらうか
384言依別(ことよりわけ)の使(つかひ)等(ら)が
385黄金(こがね)の玉(たま)を発見(はつけん)し
386持(も)ち帰(かへ)らうとした所(とこ)で
387竜宮(りうぐう)に在(ま)す乙姫(おとひめ)の
388鎮(しづ)まりいます肉(にく)の宮(みや)
389千騎(せんき)一騎(いつき)の此(この)場合(ばあひ)
390黒姫(くろひめ)中々(なかなか)承知(しようち)せぬ
391仮令(たとへ)地獄(ぢごく)の底(そこ)までも
392掘(ほ)つて掘(ほ)つて掘(ほ)つて掘(ほ)り抜(ぬ)いて
393光(ひかり)眩(まばゆ)き金玉(きんぎよく)を
394再(ふたた)び吾(わが)手(て)に納(をさ)めつつ
395綾(あや)の聖地(せいち)に持(も)ち帰(かへ)り
396言依別(ことよりわけ)や杢助(もくすけ)を
397アフンとさせてやりませう
398あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
399叶(かな)はぬ時(とき)の神頼(かみだの)み
400頼(たよ)りもならぬ口無(くちな)しの
401息(いき)をつまへる鴛鴦(をしどり)の
402番(つがひ)離(はな)れぬハズバンド
403高山彦(たかやまひこ)は今(いま)何処(いづこ)
404紫色(むらさきいろ)の宝玉(ほうぎよく)は
405何処(いづこ)の島(しま)か知(し)らねども
406もはや手(て)に入(い)れ給(たま)ひしか
407高姫(たかひめ)さまは今(いま)何処(いづこ)
408金剛(こんがう)不壊(ふゑ)の如意(によい)宝珠(ほつしゆ)
409首尾(しゆび)よく御(おん)手(て)に返(かへ)りしか
410あちらこちらと気(き)が揉(も)める
411あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
412叶(かな)はぬ迄(まで)も探(さが)し出(だ)し
413初心(しよしん)を貫徹(くわんてつ)せにやおかぬ
414苦労(くらう)と苦労(くらう)の塊(かたまり)の
415花(はな)の咲(さ)くのはこんな時(とき)
416又(また)と出(で)て来(こ)ぬ此(この)時節(じせつ)
417琵琶(びは)の湖水(こすゐ)は深(ふか)くとも
418闇(やみ)の帳(とばり)は厚(あつ)くとも
419三五教(あななひけう)の神司(かむづかさ)
420高山彦(たかやまひこ)や黒姫(くろひめ)が
421言依別(ことよりわけ)に着(き)せられた
422恥(はぢ)の衣(ころも)を脱(ぬ)ぎ捨(す)てて
423神国(みくに)魂(だましひ)をどこ迄(まで)も
424見(み)せねばならぬ此(この)立場(たちば)
425何処(どこ)の奴(やつ)かは知(し)らねども
426高山(たかやま)さまに好(よ)く似(に)たる
427茶瓶頭(ちやびんあたま)がやつて来(き)て
428又(また)もや がさがさ探(さが)し出(だ)す
429欲(よく)と欲(よく)とのかちあひで
430玉(たま)の詮議(せんぎ)に頭(あたま)うち
431火花(ひばな)を散(ち)らす苦(くる)しさよ
432仮令(たとへ)天地(てんち)が覆(かへ)るとも
433黄金(こがね)の玉(たま)は何処迄(どこまで)も
434探(さが)し当(あ)てねば措(お)くものか
435岩(いは)をも射貫(いぬ)く一心(いつしん)は
436女(をんな)たる身(み)の天性(もちまへ)だ
437あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
438御霊(みたま)幸倍(さちはへ)ましませよ。
439とひそかに思(おも)ひ、440ひそかに念(ねん)じながら、441汗(あせ)をたらたら搾(しぼ)り出(だ)し、442一生(いつしやう)懸命(けんめい)に砂(すな)を掻(か)き上(あ)げて居(ゐ)る。
443○
444高山彦(たかやまひこ)は訝(いぶ)かりつ
445心(こころ)の中(うち)に思(おも)ふやう
446再度山(ふたたびやま)の大天狗(だいてんぐ)
447国依別(くによりわけ)の口(くち)借(か)つて
448竹生(ちくぶ)の島(しま)の神社(かむやしろ)
449其(その)床下(ゆかした)に三角(さんかく)の
450石(いし)を蓋(かぶ)せて紫(むらさき)の
451宝玉(ほうぎよく)深(ふか)く荒金(あらがね)の
452土中(どちう)に埋没(まいぼつ)せしと聞(き)く
453三角石(さんかくいし)は此処(ここ)にある
454さはさりながら訝(いぶ)かしや
455言依別(ことよりわけ)の使(つかひ)とも
456思(おも)へぬ節(ふし)が一(ひと)つある
457闇(やみ)の帳(とばり)は下(おろ)されて
458さだかにそれとは分(わか)らねど
459体(からだ)の恰好(かくかう)動(うご)きやう
460頭(かしら)をぶりぶり振(ふ)る所(ところ)
461高姫(たかひめ)さまや黒姫(くろひめ)に
462どこやら似(に)て居(ゐ)る気配(けはい)ぢやぞ
463天狗(てんぐ)は至(いた)つて正直(しやうぢき)と
464昔(むかし)の人(ひと)も云(い)うて居(ゐ)る
465滅多(めつた)に嘘(うそ)は申(まを)すまい
466高姫(たかひめ)さまや黒姫(くろひめ)に
467よく似(に)た者(もの)は世(よ)の中(なか)に
468一人(ひとり)や二人(ふたり)はあるだらう
469何(なに)を云(い)うても鴛鴦(をしどり)の
470名乗(なのり)もならぬ玉探(たまさが)し
471実際(じつさい)俺(おれ)は言依別(ことよりわけ)の
472神(かみ)の命(みこと)が神界(しんかい)の
473仕組(しぐみ)によりて匿(かく)されし
474宝(たから)の在処(ありか)を探(さが)そとは
475夢(ゆめ)にも思(おも)うた事(こと)はない
476さはさりながら高姫(たかひめ)や
477黒姫(くろひめ)までが焦(い)ら立(だ)つて
478玉(たま)よ玉(たま)よとやかましく
479騒(さわ)ぎ廻(まは)るが煩(うるさ)さに
480己(おれ)も何(なん)とか工夫(くふう)して
481玉(たま)の在処(ありか)を探(さが)し出(だ)し
482二人(ふたり)の婆(ばば)に執着(しふちやく)の
483雲(くも)を晴(は)らさしやらうかと
484牛(うし)に牽(ひ)かれて善光寺(ぜんくわうじ)
485心(こころ)ならずも竜宮(りうぐう)の
486一(ひと)つ島(じま)迄(まで)駆廻(かけまは)り
487地恩(ちおん)の城(しろ)にブランヂー
488クロンバー迄(まで)も勤(つと)めつつ
489数多(あまた)の国人(くにびと)使役(しえき)して
490玉(たま)の在処(ありか)を探(さが)したが
491これ程(ほど)広(ひろ)い世(よ)の中(なか)を
492土中(どちう)に深(ふか)く隠(かく)されし
493玉(たま)の分(わか)らう筈(はず)がない
494高山彦(たかやまひこ)も今日(けふ)限(かぎ)り
495此処(ここ)で失敗(しつぱい)したならば
496これきり思(おも)ひ切(き)りませう
497日(ひ)の出神(でのかみ)や竜宮(りうぐう)の
498乙姫(おとひめ)さまかは知(し)らねども
499俺(おれ)にはチツと腑(ふ)に落(お)ちぬ
500真(まこと)日(ひ)の出神(でのかみ)なれば
501玉(たま)の在処(ありか)は何処(どこ)其処(そこ)と
502ハツキリ知(し)らして呉(く)れるだらう
503竜宮(りうぐう)の乙姫(おとひめ)さまならば
504猶更(なほさら)玉(たま)の匿(かく)し場所(ばしよ)
505知(し)らない道理(だうり)がどこにあろ
506同(おな)じ名(な)のつく神(かみ)様(さま)も
507沢山(たくさん)あると見(み)えるわい
508高姫(たかひめ)さまや黒姫(くろひめ)に
509憑(うつ)つて御座(ござ)る神(かみ)さまは
510神力(しんりき)足(た)らぬ厄雑神(やくざがみ)
511それでなければどうしても
512俺(おれ)の心(こころ)にはまらない
513六十路(むそぢ)の坂(さか)を見(み)ながらも
514五十(ごじふ)女(をんな)に操(あやつ)られ
515玉(たま)を探(さが)しに何処迄(どこまで)も
516往(ゆ)かねばならぬか情(なさけ)ない
517あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
518叶(かな)ひませぬから高姫(たかひめ)や
519黒姫(くろひめ)二人(ふたり)の執着(しふちやく)を
520科戸(しなど)の風(かぜ)に吹(ふ)き払(はら)ひ
521生(うま)れ赤子(あかご)に立(た)てかへて
522何卒(どうぞ)助(たす)けて下(くだ)しやんせ
523竹生(ちくぶ)の島(しま)の御(おん)神(かみ)に
524心(こころ)を籠(こ)めて願(ね)ぎまつる
525あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
526御霊(みたま)幸(さち)はへましませよ。
527と心(こころ)の中(なか)に呟(つぶや)きながら、528高姫(たかひめ)、529黒姫(くろひめ)の改心(かいしん)を専一(せんいつ)と祈願(きぐわん)し、530紫(むらさき)の玉(たま)は殆(ほとん)ど念頭(ねんとう)に置(お)かぬものの如(ごと)くであつた。
531(大正一一・七・一九 旧閏五・二五 加藤明子録)
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