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霊界物語
舎身活躍(第37~48巻)
第46巻(酉の巻)
序文
総説
第1篇 仕組の縺糸
第1章 榛並樹
第2章 慰労会
第3章 噛言
第4章 沸騰
第5章 菊の薫
第6章 千代心
第7章 妻難
第2篇 狐運怪会
第8章 黒狐
第9章 文明
第10章 唖狐外れ
第11章 変化神
第12章 怪段
第13章 通夜話
第3篇 神明照赫
第14章 打合せ
第15章 黎明
第16章 想曖
第17章 惟神の道
第18章 エンゼル
第4篇 謎の黄板
第19章 怪しの森
第20章 金の力
第21章 民の虎声
第22章 五三嵐
第23章 黄金華
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第46巻(酉の巻)
> 第4篇 謎の黄板 > 第20章 金の力
<<< 怪しの森
(B)
(N)
民の虎声 >>>
第二〇章
金
(
かね
)
の
力
(
ちから
)
〔一二三〇〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第46巻 舎身活躍 酉の巻
篇:
第4篇 謎の黄板
よみ(新仮名遣い):
なぞのおうばん
章:
第20章 金の力
よみ(新仮名遣い):
かねのちから
通し章番号:
1230
口述日:
1922(大正11)年12月16日(旧10月28日)
口述場所:
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年9月25日
概要:
舞台:
怪志の森
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
バラモン軍の目付、コー、ワク、エムはお民に投げられては起き上がり、投げられては起き上がり戦っている。そこへ蠑螈別が走ってきたが、この様を見るなり腰を抜かして倒れてしまった。
お民は蠑螈別に助けを求めるが、腰を抜かした蠑螈別は、これしきの相手に自分が出る幕ではないと強がりを言う。蠑螈別の異変を察したお民は、バラモンの目付たちに一時休戦を申し入れて、休息を取った。
蠑螈別の様子がおかしいことに気付いた目付たちは、蠑螈別に立ってみろと騒ぎ立てる。蠑螈別は五人の目付たちに四千両の小判を渡して買収した。五人は小判を受け取りホクホクしている。
そこへ大目付のエキスがやってきた。蠑螈別は、残りの五千両をエキスにわいろとして渡し、その代わりにランチ将軍の家来になれるように取り計らってほしいと頼み込んだ。エキスは承諾し、蠑螈別とお民を駕籠に乗せてランチ将軍の陣営に送り届けることになった(その続きは第47巻第5章)。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2023-03-18 19:37:34
OBC :
rm4620
愛善世界社版:
250頁
八幡書店版:
第8輯 448頁
修補版:
校定版:
262頁
普及版:
103頁
初版:
ページ備考:
派生
[?]
この文献を底本として書かれたと思われる文献です。
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:
出口王仁三郎全集 > 第五巻 言霊解・其他 > 【随筆・其他】 > 三つの問題 > 金の問題
001
コー、
002
ワク、
003
エムは
一人
(
ひとり
)
のお
民
(
たみ
)
を
相手
(
あひて
)
に、
004
投
(
な
)
げられては
起
(
お
)
き、
005
投
(
な
)
げつけられては
起
(
お
)
き、
006
武者
(
むしや
)
振
(
ぶ
)
りついて
挑
(
いど
)
み
戦
(
たたか
)
うてゐる。
007
そこへ、
008
枯草
(
かれくさ
)
の
野道
(
のぢ
)
を
分
(
わ
)
けて「おーい おーい」と
呼
(
よば
)
はりながら
近寄
(
ちかよ
)
つて
来
(
き
)
た
一人
(
ひとり
)
の
男
(
をとこ
)
、
009
此
(
この
)
態
(
てい
)
を
見
(
み
)
て、
010
男(蠑螈別)
『やあ、
011
お
前
(
まへ
)
はお
民
(
たみ
)
か』
012
と
云
(
い
)
つたきり、
013
ドスンと
腰
(
こし
)
を
抜
(
ぬ
)
かし
倒
(
たふ
)
れて
了
(
しま
)
つた。
014
お
民
(
たみ
)
は、
015
三
(
さん
)
人
(
にん
)
を
相手
(
あひて
)
にしながら、
016
お民
『あゝ
蠑螈別
(
いもりわけ
)
さま、
017
よう
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さつた。
018
私
(
わたし
)
、
019
野中
(
のなか
)
の
森
(
もり
)
まで
行
(
い
)
つた
処
(
ところ
)
、
020
あまり
沢山
(
たくさん
)
の
人声
(
ひとごゑ
)
がするので、
021
本街道
(
ほんかいだう
)
へ
出
(
で
)
ようと
思
(
おも
)
つて
此処
(
ここ
)
までやつて
来
(
き
)
た
処
(
ところ
)
、
022
泥棒
(
どろばう
)
の
様
(
やう
)
な
奴
(
やつ
)
が
出
(
で
)
て
無体
(
むたい
)
な
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
つて
通
(
とほ
)
そまいとするのよ。
023
それで
此方
(
こちら
)
も
仕方
(
しかた
)
がないから
一
(
ひと
)
つ
思
(
おも
)
ひ
知
(
し
)
らしてやらうと
思
(
おも
)
つて
活劇
(
くわつげき
)
をやつてゐる
所
(
ところ
)
だ。
024
よい
所
(
ところ
)
へ
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さつた。
025
さあ、
026
一
(
ひと
)
つ
貴方
(
あなた
)
も
手伝
(
てつだ
)
つて
下
(
くだ
)
さい』
027
蠑螈別
(
いもりわけ
)
は
腰
(
こし
)
を
抜
(
ぬ
)
かして
身体
(
からだ
)
の
自由
(
じいう
)
が
利
(
き
)
かなくなつてゐる。
028
然
(
しか
)
し
敵
(
てき
)
に
弱身
(
よわみ
)
を
見
(
み
)
せては
一大事
(
いちだいじ
)
と
心
(
こころ
)
を
定
(
さだ
)
め、
029
蠑螈別
『アツハヽヽヽ、
030
お
民
(
たみ
)
、
031
それしきの
蠅虫
(
はへむし
)
を
俺
(
おれ
)
が
出
(
で
)
るまでもないぢやないか。
032
俺
(
おれ
)
や
此処
(
ここ
)
でゆつくりと、
033
煙草
(
たばこ
)
でも
飲
(
の
)
んで
見物
(
けんぶつ
)
するから、
034
一
(
ひと
)
つお
前
(
まへ
)
の
活動
(
くわつどう
)
振
(
ぶ
)
りを
見
(
み
)
せて
貰
(
もら
)
はう』
035
お民
『
最前
(
さいぜん
)
から
永
(
なが
)
らく
揉
(
も
)
み
合
(
あ
)
つてゐるのだから、
036
私
(
わたし
)
息
(
いき
)
が
絶
(
き
)
れさうなのよ。
037
さあ
貴方
(
あなた
)
、
038
入
(
い
)
れ
替
(
かは
)
つて
一
(
ひと
)
つ
此奴
(
こいつ
)
を
懲
(
こら
)
してやつて
下
(
くだ
)
さい。
039
何
(
なに
)
ゆつくりして
居
(
ゐ
)
なさるの』
040
蠑螈別
『さあ、
041
さう
急
(
いそ
)
いだつて
仕方
(
しかた
)
がないぢやないか』
042
お
民
(
たみ
)
は
蠑螈別
(
いもりわけ
)
の
吃驚腰
(
びつくりごし
)
が
抜
(
ぬ
)
けた
事
(
こと
)
を
直覚
(
ちよくかく
)
した。
043
お
民
(
たみ
)
『こりや
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
男
(
をとこ
)
ども、
044
大将軍
(
だいしやうぐん
)
のお
出
(
で
)
ましだから
一
(
ひと
)
つ
此処
(
ここ
)
で
水
(
みづ
)
を
入
(
い
)
れたら
如何
(
どう
)
だ。
045
いづれ
勝敗
(
しようはい
)
はきまつてゐるが、
046
お
前
(
まへ
)
も
随分
(
ずゐぶん
)
喉
(
のど
)
がひつついただらう』
047
コー『それなら
一寸
(
ちよつと
)
一服
(
いつぷく
)
しようかな。
048
おい、
049
ワク、
050
エム、
051
もとから
親
(
おや
)
の
敵
(
かたき
)
でもなし、
052
怪我
(
けが
)
しちや
互
(
たがひ
)
によい
損恥
(
そんはぢ
)
だ。
053
国
(
くに
)
には
妻子
(
さいし
)
もあるのだからな』
054
ワク『うん、
055
そりや、
056
さうだ。
057
それならまあ、
058
一寸
(
ちよつと
)
休戦
(
きうせん
)
かな』
059
エム『
俺
(
おれ
)
は
中立国
(
ちうりつこく
)
となつて
平和
(
へいわ
)
の
調停
(
てうてい
)
に
努
(
つと
)
むる
事
(
こと
)
としよう』
060
お
民
(
たみ
)
『ホヽヽヽ、
061
まあ
皆
(
みな
)
さま、
062
多少
(
たせう
)
負傷
(
ふしやう
)
をなさつた
塩梅
(
あんばい
)
だから、
063
此処
(
ここ
)
を
赤十字
(
せきじふじ
)
病院
(
びやうゐん
)
として
敵味方
(
てきみかた
)
の
区別
(
くべつ
)
なく
傷
(
きず
)
の
癒
(
い
)
えるまで
休戦
(
きうせん
)
しようかな』
064
エム『
至極
(
しごく
)
妙案
(
めうあん
)
だ。
065
そいつあ
面白
(
おもしろ
)
い、
066
一
(
いち
)
、
067
二
(
に
)
、
068
三
(
さん
)
』
069
と
云
(
い
)
ひながら
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
蠑螈別
(
いもりわけ
)
の
一間
(
いつけん
)
ばかり
隔
(
へだ
)
たつた
処
(
ところ
)
に、
070
単縦陣
(
たんじうぢん
)
を
張
(
は
)
つて
腰
(
こし
)
を
下
(
おろ
)
し
休息
(
きうそく
)
しながら
汗
(
あせ
)
を
拭
(
ふ
)
いてゐる。
071
お
民
(
たみ
)
『もし、
072
蠑螈別
(
いもりわけ
)
さま、
073
貴方
(
あなた
)
あまり
冷淡
(
れいたん
)
ぢやありませぬか。
074
女房
(
にようばう
)
がこれ
程
(
ほど
)
苦戦
(
くせん
)
してるのに、
075
高見
(
たかみ
)
から
見物
(
けんぶつ
)
するとは
不人情
(
ふにんじやう
)
極
(
きは
)
まる、
076
併
(
しか
)
し
大方
(
おほかた
)
、
077
吃驚腰
(
びつくりごし
)
が
抜
(
ぬ
)
けたのだらうね。
078
敵
(
てき
)
の
中
(
なか
)
だから、
079
そんなに
慌
(
あわ
)
ててはなりませぬよ』
080
と
耳
(
みみ
)
の
端
(
はた
)
で
囁
(
ささや
)
く。
081
コーは
早
(
はや
)
くも
此
(
この
)
声
(
こゑ
)
を
聞
(
き
)
きとつた。
082
コー
『ハヽヽヽヽ、
083
何
(
なん
)
だ、
084
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
武勇
(
ぶゆう
)
に
恐縮
(
きようしゆく
)
して
吃驚腰
(
びつくりごし
)
を
抜
(
ぬ
)
かしよつたのだよ。
085
おい、
086
ワク、
087
エム、
088
最早
(
もはや
)
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
だ。
089
恐
(
おそ
)
るる
事
(
こと
)
は
少
(
すこ
)
しもないぞ。
090
糞落着
(
くそおちつ
)
きに
落着
(
おちつ
)
いて
居
(
ゐ
)
やがると
思
(
おも
)
つたら、
091
アハヽヽヽ
抜
(
ぬ
)
かしよつたのだ』
092
ワク、
093
エム
一度
(
いちど
)
に、
094
ワク、エム
『アツハヽヽヽ』
095
蠑螈
(
いもり
)
『
吾々
(
われわれ
)
は
神
(
かみ
)
の
国
(
くに
)
の
軍人
(
ぐんじん
)
だ。
096
肉体
(
にくたい
)
の
人間
(
にんげん
)
に
対
(
たい
)
しては
門外漢
(
もんぐわいかん
)
だ。
097
これしきの
敵
(
てき
)
に
対
(
たい
)
して
腰
(
こし
)
を
抜
(
ぬ
)
かすやうな
卑怯者
(
ひけふもの
)
が
何処
(
どこ
)
にあるか。
098
見違
(
みちが
)
ひするにも
程
(
ほど
)
があるぞ』
099
コー『ヘン、
100
惚
(
ほ
)
れた
女
(
をんな
)
の
前
(
まへ
)
だと
思
(
おも
)
つて
痩我慢
(
やせがまん
)
を
張
(
は
)
つたつて、
101
チヤンと
見抜
(
みぬ
)
いてあるのだ。
102
それが
若
(
も
)
し
見違
(
みちが
)
つて
居
(
ゐ
)
るのなら
立
(
た
)
つて
御覧
(
ごらん
)
』
103
蠑螈
(
いもり
)
『いや
其
(
その
)
儀
(
ぎ
)
なら、
104
たつてお
断
(
ことわ
)
り
申
(
まを
)
す。
105
腰
(
こし
)
は
立
(
た
)
たないが
腹
(
はら
)
は
随分
(
ずゐぶん
)
立
(
た
)
つてゐる』
106
コー『
俺
(
おれ
)
も
何
(
なん
)
だかナイスの
顔
(
かほ
)
を
見
(
み
)
ると
立
(
た
)
つて
来
(
き
)
たやうだワイ。
107
立
(
た
)
つて
立
(
た
)
つて
立
(
た
)
ち
向
(
むか
)
ふと
云
(
い
)
ふ
塩梅
(
あんばい
)
式
(
しき
)
だ。
108
「
武士
(
もののふ
)
の
さちや
た
挟
(
ばさ
)
み
立
(
た
)
ち
向
(
むか
)
ひ、
109
いる
まとかた
は
見
(
み
)
るにさやけし」と
云
(
い
)
つて、
110
まとかたと
云
(
い
)
つて
気分
(
きぶん
)
のよい
名所
(
めいしよ
)
だな』
111
蠑螈
(
いもり
)
『こりやこりや
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
奴
(
やつ
)
、
112
こんな
処
(
ところ
)
に
まとかた
があるか。
113
そんな
地名
(
ちめい
)
は
自凝島
(
おのころじま
)
の
名所
(
めいしよ
)
だ』
114
エム『
何
(
なん
)
だか
知
(
し
)
らねえが、
115
吾々
(
われわれ
)
は
一
(
ひと
)
つの
まとかた
があつて
活動
(
くわつどう
)
を
開始
(
かいし
)
してるのだ』
116
蠑螈
(
いもり
)
『その
まと
と
云
(
い
)
ふのは
一体
(
いつたい
)
何
(
なん
)
だ』
117
エム『
云
(
い
)
はいでも
推量
(
すゐりやう
)
したが
宜
(
よ
)
からうぞ。
118
軍人
(
ぐんじん
)
兼
(
けん
)
泥棒
(
どろばう
)
さまだ。
119
おれさまの
要求
(
えうきう
)
する
所
(
ところ
)
は
決
(
けつ
)
して
石
(
いし
)
でも
瓦
(
かはら
)
でもない、
120
又
(
また
)
水
(
みづ
)
でも
茶
(
ちや
)
でもないのだ』
121
蠑螈
(
いもり
)
『アハヽヽヽ、
122
貴様
(
きさま
)
は
金
(
かね
)
さへ
与
(
や
)
れば
済
(
す
)
むのだな。
123
金
(
かね
)
で
済
(
す
)
むのなら
安
(
やす
)
い
事
(
こと
)
だ。
124
此処
(
ここ
)
にちつとだけれど
九千
(
きうせん
)
持
(
も
)
つてゐる。
125
如何
(
どう
)
だ、
126
之
(
これ
)
をちつとばかり
貴様
(
きさま
)
にやらうか』
127
コー『そんな
目腐
(
めくさ
)
れ
金
(
がね
)
に
目
(
め
)
をかける
泥棒
(
どろばう
)
があると
思
(
おも
)
つて
居
(
ゐ
)
るか』
128
蠑螈
(
いもり
)
『
一千
(
いつせん
)
ばかり
与
(
や
)
らうか』
129
エム『
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
中
(
なか
)
へ
一銭
(
いつせん
)
位
(
くらゐ
)
貰
(
もら
)
つても
三厘
(
さんりん
)
三毛
(
さんまう
)
よりならぬぢやないか。
130
馬鹿
(
ばか
)
にしやがるない。
131
まだ
此処
(
ここ
)
に
弱虫
(
よわむし
)
が
二人
(
ふたり
)
も
慄
(
ふる
)
つて
居
(
ゐ
)
るのだから、
132
頭割
(
あたまわ
)
りにすれば
二厘
(
にりん
)
にしかならない。
133
饅頭
(
まんぢう
)
の
半分
(
はんぶん
)
も
買
(
か
)
へない
様
(
やう
)
な
目腐
(
めくさ
)
れ
金
(
がね
)
を
持
(
も
)
ちやがつて、
134
金
(
かね
)
だなんて、
135
あまり
人
(
ひと
)
を
馬鹿
(
ばか
)
にするない』
136
蠑螈
(
いもり
)
『ハヽヽヽヽ
感違
(
かんちが
)
へしやがつたのだな。
137
俺
(
おれ
)
の
九千
(
きうせん
)
と
云
(
い
)
ふのは
九千
(
きうせん
)
円
(
ゑん
)
の
事
(
こと
)
だ。
138
それだからお
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
に
一千
(
いつせん
)
円
(
ゑん
)
やらうと
云
(
い
)
ふのだ』
139
コー『ヤア、
140
そいつは
結構
(
けつこう
)
だ。
141
頂戴
(
ちやうだい
)
する
事
(
こと
)
にしようかな。
142
強奪
(
がうだつ
)
すれば
純然
(
じゆんぜん
)
たる
泥棒
(
どろばう
)
だが、
143
向
(
むか
)
ふから
与
(
や
)
らうと
云
(
い
)
ふのに
貰
(
もら
)
ふのは
当然
(
あたりまへ
)
だ』
144
蠑螈
(
いもり
)
『
貰
(
もら
)
つても
盗
(
と
)
つても
同
(
おな
)
じ
事
(
こと
)
ぢやないか。
145
名分
(
めいぶん
)
のみ
貰
(
もら
)
つたにした
処
(
ところ
)
で、
146
実際
(
じつさい
)
は
脅迫
(
けうはく
)
されて
与
(
や
)
るのだから
盗
(
と
)
られたやうなものだ。
147
オイ
泥棒
(
どろばう
)
、
148
それなら
千
(
せん
)
円
(
ゑん
)
此処
(
ここ
)
にあるから
受取
(
うけと
)
れ』
149
エム『オイ、
150
ワク、
151
コー、
152
貰
(
もら
)
つても
泥棒
(
どろばう
)
同様
(
どうやう
)
だと
云
(
い
)
ふぢやないか。
153
泥棒
(
どろばう
)
と
云
(
い
)
はれちや
馬鹿
(
ばか
)
らしい。
154
一千
(
いつせん
)
円
(
ゑん
)
位
(
ぐらゐ
)
貰
(
もら
)
つても、
155
つまらぬぢやないか。
156
九千
(
きうせん
)
円
(
ゑん
)
全部
(
ぜんぶ
)
強奪
(
がうだつ
)
してやらうかい。
157
同
(
おな
)
じ
泥棒
(
どろばう
)
と
云
(
い
)
はれるのなら
太
(
ふと
)
い
方
(
はう
)
が
得
(
とく
)
だからな』
158
蠑螈
(
いもり
)
『
実
(
じつ
)
の
処
(
ところ
)
は、
159
俺
(
おれ
)
もお
寅婆
(
とらばあ
)
さまが
貯
(
たくは
)
へて
居
(
を
)
つたのを
泥棒
(
どろばう
)
して
来
(
き
)
たのだ。
160
此
(
この
)
お
民
(
たみ
)
だつて
共謀
(
きようぼう
)
の
上
(
うへ
)
だ。
161
さうすりや
俺
(
おれ
)
もお
民
(
たみ
)
も
其
(
その
)
一部分
(
いちぶぶん
)
に
加
(
くは
)
はるだけの
資格
(
しかく
)
が
具備
(
ぐび
)
してるのだから、
162
貴様
(
きさま
)
等
(
ら
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
に
三千
(
さんぜん
)
円
(
ゑん
)
やらう。
163
さうして、
164
そこに
居
(
を
)
る
人足
(
にんそく
)
には
二人
(
ふたり
)
に
千
(
せん
)
円
(
ゑん
)
やる
事
(
こと
)
にしよう。
165
残
(
のこ
)
り
五千
(
ごせん
)
円
(
ゑん
)
はまあ
俺
(
おれ
)
の
所得
(
しよとく
)
にして
置
(
お
)
かうかい。
166
俺
(
おれ
)
は
之
(
これ
)
からまだまだ
遠国
(
ゑんごく
)
へ
行
(
ゆ
)
かなくちやならないからな』
167
コー『
何
(
なん
)
と
比較
(
ひかく
)
的
(
てき
)
欲
(
よく
)
のない
腰抜
(
こしぬ
)
けだな』
168
蠑螈
(
いもり
)
『ウン、
169
腰抜
(
こしぬ
)
けだ。
170
腰
(
こし
)
さへ
立
(
た
)
てば
一文
(
いちもん
)
だつてやる
気遣
(
きづか
)
ひはないのだが、
171
何
(
いづ
)
れ
貴様
(
きさま
)
等
(
ら
)
に
盗
(
と
)
られて
了
(
しま
)
ふ
可能性
(
かのうせい
)
があるのだから、
172
俺
(
おれ
)
の
方
(
はう
)
から、
173
くだけて
出
(
で
)
たのだ。
174
一人
(
ひとり
)
に
千
(
せん
)
円
(
ゑん
)
と
云
(
い
)
ふ
銭儲
(
ぜにまう
)
けは、
175
貴様
(
きさま
)
が
一生
(
いつしやう
)
働
(
はたら
)
いたつて
出来
(
でき
)
やしないぞ。
176
オイ、
177
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
奴
(
やつ
)
、
178
按摩賃
(
あんまちん
)
だと
思
(
おも
)
つて
俺
(
おれ
)
の
腰
(
こし
)
を
揉
(
も
)
んで
呉
(
く
)
れ。
179
さうすりや。
180
又
(
また
)
三
(
さん
)
円
(
ゑん
)
ばかり
改
(
あらた
)
めて
恵
(
めぐ
)
んでやらぬ
事
(
こと
)
もないから』
181
ワク『イヤ、
182
生
(
うま
)
れてから
見
(
み
)
た
事
(
こと
)
もない
千
(
せん
)
円
(
ゑん
)
の
金
(
かね
)
を
貰
(
もら
)
つて、
183
又
(
また
)
其
(
その
)
上
(
うへ
)
頂
(
いただ
)
くやうな
事
(
こと
)
をしちや
冥加
(
みやうが
)
につきます。
184
もう
一厘
(
いちりん
)
も
要
(
い
)
りませぬから
腰
(
こし
)
を
揉
(
も
)
まして
下
(
くだ
)
さいな』
185
蠑螈
(
いもり
)
『ウン、
186
差許
(
さしゆる
)
す。
187
さあ、
188
しつかり
揉
(
も
)
め』
189
お
民
(
たみ
)
『
千
(
せん
)
円
(
ゑん
)
がとこ、
190
親切
(
しんせつ
)
に
揉
(
も
)
むのですよ。
191
然
(
しか
)
し
腰
(
こし
)
から
下
(
した
)
は
揉
(
も
)
んじやなりませぬよ』
192
エム『アハヽヽヽ、
193
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
なさいますな。
194
仮令
(
たとへ
)
揉
(
も
)
んだ
所
(
ところ
)
で
吾々
(
われわれ
)
は
女
(
をんな
)
ぢやありませぬから、
195
何卒
(
どうぞ
)
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
はなさいますな』
196
五
(
ご
)
人
(
にん
)
は
蠑螈別
(
いもりわけ
)
より
四千
(
よんせん
)
両
(
りやう
)
の
小判
(
こばん
)
を
受取
(
うけと
)
りホクホクものである。
197
そこへやつて
来
(
き
)
たのは
一人
(
ひとり
)
の
大目附
(
おほめつけ
)
であつた。
198
大目附(エキス)
『こりやこりや、
199
コー、
200
ワク、
201
エム、
202
何
(
なに
)
を
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
るか』
203
ワク『やあ、
204
これはこれは
大目附
(
おほめつけ
)
のエキスさまですか。
205
今
(
いま
)
吾々
(
われわれ
)
この
怪
(
あや
)
しの
森
(
もり
)
の
辻番
(
つじばん
)
を
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
ります
所
(
ところ
)
へ、
206
向
(
むか
)
ふの
方
(
はう
)
より「スタスタスタ」と
勢
(
いきほ
)
ひ
凄
(
すさま
)
じくやつて
来
(
き
)
たのは
此
(
この
)
女
(
をんな
)
、
207
なかなかの
強者
(
したたかもの
)
で
此
(
この
)
関門
(
くわんもん
)
に
通
(
とほ
)
らうとするので、
208
此
(
この
)
女
(
をんな
)
の
襟
(
えり
)
を
取
(
と
)
り
無理
(
むり
)
に
叩
(
たた
)
いてゐました
所
(
ところ
)
へ、
209
又
(
また
)
もや
此
(
この
)
女
(
をんな
)
の
夫
(
をつと
)
と
見
(
み
)
えて、
210
矢
(
や
)
を
射
(
い
)
る
如
(
ごと
)
く
飛
(
と
)
んで
来
(
く
)
るものがある。
211
見
(
み
)
ればウラナイ
教
(
けう
)
の
神力
(
しんりき
)
無双
(
むさう
)
の
蠑螈別
(
いもりわけ
)
、
212
エム、
213
コー
他
(
ほか
)
二人
(
ふたり
)
は
倉皇
(
さうくわう
)
ワクワクとして
縮
(
ちぢ
)
み
上
(
あが
)
つてゐるにも
拘
(
かかは
)
らず、
214
此
(
この
)
ワクは
襟髪
(
えりがみ
)
握
(
にぎ
)
りスツテンドウと
投
(
な
)
げやれば……
流石
(
さすが
)
の
蠑螈別
(
いもりわけ
)
も、
215
斯
(
か
)
くの
如
(
ごと
)
くクタばつて
身動
(
みうご
)
きもならぬ
此
(
この
)
浅間
(
あさま
)
しさ、
216
何卒
(
どうぞ
)
お
褒
(
ほ
)
め
下
(
くだ
)
さいませ』
217
エキス『アハヽヽヽ、
218
うまく
芝居
(
しばゐ
)
を
致
(
いた
)
すのう。
219
内職
(
ないしよく
)
は
如何
(
どう
)
であつたか、
220
随分
(
ずゐぶん
)
懐
(
ふところ
)
が
膨
(
ふく
)
れただらうな』
221
エム『エー、
222
大切
(
たいせつ
)
な
軍人
(
ぐんじん
)
の
職
(
しよく
)
にありながら、
223
内職
(
ないしよく
)
等
(
など
)
とは
思
(
おも
)
ひもよりませぬ。
224
軍律
(
ぐんりつ
)
厳
(
きび
)
しい
此
(
この
)
陣中
(
ぢんちう
)
、
225
如何
(
どう
)
して
左様
(
さやう
)
な
内職
(
ないしよく
)
なんか
出来
(
でき
)
ませう』
226
エキス『それでも
役徳
(
やくとく
)
と
云
(
い
)
ふものがあるだらう。
227
オイ、
228
コー、
229
ワク、
230
其
(
その
)
方
(
はう
)
も
役徳
(
やくとく
)
の
収入
(
しうにふ
)
があつた
筈
(
はず
)
だ。
231
各
(
かく
)
二分
(
にぶん
)
の
一
(
いち
)
づつ
此
(
この
)
方
(
はう
)
に
納
(
をさ
)
めたらよからう』
232
コー『
折角
(
せつかく
)
千
(
せん
)
円
(
ゑん
)
の
金
(
かね
)
を
手
(
て
)
に
入
(
い
)
れたと
思
(
おも
)
へば、
233
二分
(
にぶん
)
の
一
(
いち
)
出
(
だ
)
せなんて、
234
あまりだ、
235
五百
(
ごひやく
)
円
(
ゑん
)
になつて
了
(
しま
)
ふわ』
236
エキス『コーが
五百
(
ごひやく
)
円
(
ゑん
)
、
237
ワクが
五百
(
ごひやく
)
円
(
ゑん
)
、
238
エムが
五百
(
ごひやく
)
円
(
ゑん
)
、
239
両人
(
りやうにん
)
の
名
(
な
)
もなき
供人
(
ともびと
)
どもは
二百
(
にひやく
)
五十
(
ごじふ
)
円
(
ゑん
)
づつ
此
(
この
)
大目附
(
おほめつけ
)
に
献
(
たてまつ
)
るのだ』
240
エム『もし、
241
エキスさま、
242
貴方
(
あなた
)
は
泥棒
(
どろばう
)
の
上前
(
うはまへ
)
をはねる
大泥棒
(
おほどろばう
)
ですな。
243
吾々
(
われわれ
)
は
折角
(
せつかく
)
、
244
骨折
(
ほねを
)
つて
五百
(
ごひやく
)
円
(
ゑん
)
の
収入
(
しうにふ
)
、
245
貴方
(
あなた
)
は
手
(
て
)
を
濡
(
ぬ
)
らさずに、
246
しめて
二千
(
にせん
)
円
(
ゑん
)
の
収入
(
しうにふ
)
があるぢやありませぬか。
247
せめて
十分
(
じふぶん
)
の
一
(
いち
)
位
(
ぐらゐ
)
にして
貰
(
もら
)
ひたいものですな』
248
エキス『それが
上
(
かみ
)
に
立
(
た
)
つものの
役徳
(
やくとく
)
だ。
249
人間
(
にんげん
)
は
一段
(
いちだん
)
でも
上
(
うへ
)
の
役人
(
やくにん
)
になるに
限
(
かぎ
)
る。
250
大臣
(
だいじん
)
なんかになつて
見
(
み
)
よ。
251
知
(
し
)
らぬ
間
(
ま
)
に
何十万
(
なんじふまん
)
円
(
ゑん
)
、
252
何百万
(
なんびやくまん
)
円
(
ゑん
)
の
株券
(
かぶけん
)
が
一文
(
いちもん
)
もかけないのに
降
(
ふ
)
つて
来
(
く
)
る。
253
山林
(
さんりん
)
田畑
(
でんぱた
)
が
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にかチヤンと
登記済
(
とうきずみ
)
になつてる
様
(
やう
)
なものだ。
254
それだから
大目附役
(
おほめつけやく
)
の
地位
(
ちゐ
)
は
棄
(
す
)
てられないのだ』
255
蠑螈
(
いもり
)
『エキスさまとやら、
256
私
(
わたし
)
は
蠑螈別
(
いもりわけ
)
と
云
(
い
)
ふウラナイ
教
(
けう
)
の
教祖
(
けうそ
)
ですが、
257
此処
(
ここ
)
に
五千
(
ごせん
)
円
(
ゑん
)
ばかり
金
(
かね
)
を
持
(
も
)
つて
居
(
ゐ
)
ます。
258
此
(
この
)
内
(
うち
)
千
(
せん
)
円
(
ゑん
)
ばかり
献上
(
けんじやう
)
致
(
いた
)
しませうかな。
259
あまり
沢山
(
たくさん
)
胴巻
(
どうまき
)
に
巻
(
ま
)
いて
居
(
を
)
ると、
260
重
(
おも
)
くて
困
(
こま
)
つて
居
(
ゐ
)
ます。
261
ちと
助
(
たす
)
けて
貰
(
もら
)
ひたいものですな』
262
エキス『
何
(
なに
)
、
263
助
(
たす
)
けてほしいと
申
(
まを
)
すか、
264
よし
五千
(
ごせん
)
円
(
ゑん
)
全部
(
ぜんぶ
)
でも
助
(
たす
)
けてやらう』
265
お
民
(
たみ
)
『オホヽヽヽ、
266
あの
蠑螈別
(
いもりわけ
)
さまの
綺麗
(
きれい
)
な
事
(
こと
)
、
267
あたい、
268
それが
好
(
す
)
きで
惚
(
ほ
)
れたのよ』
269
蠑螈
(
いもり
)
『それならエキスさま、
270
お
前
(
まへ
)
エキス(
益
(
えき
)
吸
(
す
)
ふ)と
云
(
い
)
ふ
名
(
な
)
だから、
271
綺麗
(
きれい
)
薩張
(
さつぱり
)
持
(
も
)
つて
去
(
い
)
んで
下
(
くだ
)
さい。
272
其
(
その
)
代
(
かは
)
り
一
(
ひと
)
つお
頼
(
たの
)
みがある。
273
聞
(
き
)
いて
貰
(
もら
)
へるだらうかな』
274
エキス『
頼
(
たの
)
みとは
何
(
なん
)
で
厶
(
ござ
)
るか』
275
蠑螈
(
いもり
)
『
外
(
ほか
)
でも
厶
(
ござ
)
らぬ。
276
実
(
じつ
)
はランチ
将軍
(
しやうぐん
)
の
家来
(
けらい
)
にして
欲
(
ほ
)
しいのだ』
277
エキス『そりや
大変
(
たいへん
)
都合
(
つがふ
)
の
好
(
よ
)
い
事
(
こと
)
だ。
278
実
(
じつ
)
の
処
(
ところ
)
、
279
吾々
(
われわれ
)
の
軍隊
(
ぐんたい
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
言霊戦
(
ことたません
)
に、
280
もちあぐんで
居
(
ゐ
)
る
所
(
ところ
)
だ。
281
お
前
(
まへ
)
さまはウラナイ
教
(
けう
)
の
教祖
(
けうそ
)
だと
聞
(
き
)
いて
居
(
ゐ
)
る。
282
ウラナイ
教
(
けう
)
は
人
(
ひと
)
は
少
(
すく
)
なくても
大変
(
たいへん
)
な
神徳
(
しんとく
)
があるさうだ。
283
素盞嗚
(
すさのをの
)
尊
(
みこと
)
さまさへも
如何
(
いかん
)
ともする
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ないと
聞
(
き
)
いた
上
(
うへ
)
は
末
(
すゑ
)
頼
(
たの
)
もしい。
284
屹度
(
きつと
)
ランチ
将軍
(
しやうぐん
)
も
二
(
ふた
)
つ
返事
(
へんじ
)
でお
取
(
と
)
り
上
(
あ
)
げになるのは
請合
(
うけあ
)
つて
置
(
お
)
きます。
285
さあ
蠑螈別
(
いもりわけ
)
さま、
286
陣中
(
ぢんちう
)
へは
最早
(
もはや
)
何程
(
いくら
)
もありませぬ。
287
然
(
しか
)
らば
賓客
(
ひんきやく
)
としてバラモン
軍
(
ぐん
)
の
参謀
(
さんぼう
)
として
御
(
ご
)
採用
(
さいよう
)
になるやうに
私
(
わたし
)
が
努
(
つと
)
めます』
288
蠑螈
(
いもり
)
『
然
(
しか
)
し
生
(
は
)
え
腰
(
ごし
)
が
抜
(
ぬ
)
けて
動
(
うご
)
けないのだ。
289
あまり
俄
(
にはか
)
に
走
(
はし
)
つたものだから、
290
腰
(
こし
)
の
蝶番
(
てふつがひ
)
が
如何
(
どう
)
かなつたと
見
(
み
)
える。
291
何分
(
なにぶん
)
朝
(
あさ
)
から
晩
(
ばん
)
まで
坐
(
すわ
)
り
通
(
どほ
)
しで、
292
道
(
みち
)
を
歩
(
ある
)
いた
事
(
こと
)
がないのだから』
293
エキス『
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
なさいますな。
294
今
(
いま
)
に
駕籠
(
かご
)
を
呼
(
よ
)
んで
来
(
き
)
て、
295
従卒
(
じゆうそつ
)
に
担
(
かつ
)
がせて
御
(
ご
)
夫婦
(
ふうふ
)
ともランチ
将軍
(
しやうぐん
)
の
陣営
(
ぢんえい
)
へ
鄭重
(
ていちよう
)
に
送
(
おく
)
り
届
(
とど
)
けます。
296
そして
此
(
この
)
エキスも
及
(
およ
)
ばずながらお
伴
(
とも
)
致
(
いた
)
し、
297
将軍
(
しやうぐん
)
様
(
さま
)
の
許
(
もと
)
へ
執
(
と
)
りもち
致
(
いた
)
す
考
(
かんが
)
へなれば
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
なさい』
298
蠑螈
(
いもり
)
『ハイ、
299
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
ります。
300
お
民
(
たみ
)
、
301
もう
安心
(
あんしん
)
せい。
302
これだけの
軍隊
(
ぐんたい
)
の
中
(
なか
)
へ
入
(
はい
)
つて
居
(
ゐ
)
る
以上
(
いじやう
)
は、
303
お
前
(
まへ
)
も
最早
(
もはや
)
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
だ』
304
お
民
(
たみ
)
『
仮令
(
たとへ
)
何
(
ど
)
んな
処
(
ところ
)
へでも
私
(
わたし
)
をお
見捨
(
みす
)
てなく
連
(
つ
)
れて
行
(
い
)
つてさへ
下
(
くだ
)
さいますれば、
305
何
(
ど
)
んな
処
(
ところ
)
へでもお
伴
(
とも
)
を
致
(
いた
)
します』
[
※
エキス・蠑螈別・お民が浮木の森に到着するシーンは第47巻第5章
]
306
(
大正一一・一二・一六
旧一〇・二八
北村隆光
録)
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(B)
(N)
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