霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二〇章 金(かね)の力(ちから)〔一二三〇〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第46巻 舎身活躍 酉の巻 篇:第4篇 謎の黄板 よみ(新仮名遣い):なぞのおうばん
章:第20章 金の力 よみ(新仮名遣い):かねのちから 通し章番号:1230
口述日:1922(大正11)年12月16日(旧10月28日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年9月25日
概要: 舞台:怪志の森 あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
バラモン軍の目付、コー、ワク、エムはお民に投げられては起き上がり、投げられては起き上がり戦っている。そこへ蠑螈別が走ってきたが、この様を見るなり腰を抜かして倒れてしまった。
お民は蠑螈別に助けを求めるが、腰を抜かした蠑螈別は、これしきの相手に自分が出る幕ではないと強がりを言う。蠑螈別の異変を察したお民は、バラモンの目付たちに一時休戦を申し入れて、休息を取った。
蠑螈別の様子がおかしいことに気付いた目付たちは、蠑螈別に立ってみろと騒ぎ立てる。蠑螈別は五人の目付たちに四千両の小判を渡して買収した。五人は小判を受け取りホクホクしている。
そこへ大目付のエキスがやってきた。蠑螈別は、残りの五千両をエキスにわいろとして渡し、その代わりにランチ将軍の家来になれるように取り計らってほしいと頼み込んだ。エキスは承諾し、蠑螈別とお民を駕籠に乗せてランチ将軍の陣営に送り届けることになった(その続きは第47巻第5章)。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-03-18 19:37:34 文字数:4237 OBC :rm4620
愛善世界社版:250頁 八幡書店版:第8輯 448頁 修補版: 校定版:262頁 普及版:103頁 初版: ページ備考:
派生[?]この文献を底本として書かれたと思われる文献です。[×閉じる]:出口王仁三郎全集 > 第五巻 言霊解・其他 > 【随筆・其他】 > 三つの問題 > 金の問題
001 コー、002ワク、003エムは一人(ひとり)のお民(たみ)を相手(あひて)に、004投(な)げられては起(お)き、005投(な)げつけられては起(お)き、006武者(むしや)振(ぶ)りついて挑(いど)み戦(たたか)うてゐる。007そこへ、008枯草(かれくさ)の野道(のぢ)を分(わ)けて「おーい おーい」と呼(よば)はりながら近寄(ちかよ)つて来(き)た一人(ひとり)の男(をとこ)、009此(この)態(てい)を見(み)て、
010男(蠑螈別)『やあ、011お前(まへ)はお民(たみ)か』
012と云(い)つたきり、013ドスンと腰(こし)を抜(ぬ)かし倒(たふ)れて了(しま)つた。014お民(たみ)は、015三(さん)人(にん)を相手(あひて)にしながら、
016お民『あゝ蠑螈別(いもりわけ)さま、017よう来(き)て下(くだ)さつた。018私(わたし)、019野中(のなか)の森(もり)まで行(い)つた処(ところ)、020あまり沢山(たくさん)の人声(ひとごゑ)がするので、021本街道(ほんかいだう)へ出(で)ようと思(おも)つて此処(ここ)までやつて来(き)た処(ところ)、022泥棒(どろばう)の様(やう)な奴(やつ)が出(で)て無体(むたい)な事(こと)を云(い)つて通(とほ)そまいとするのよ。023それで此方(こちら)も仕方(しかた)がないから一(ひと)つ思(おも)ひ知(し)らしてやらうと思(おも)つて活劇(くわつげき)をやつてゐる所(ところ)だ。024よい所(ところ)へ来(き)て下(くだ)さつた。025さあ、026一(ひと)つ貴方(あなた)も手伝(てつだ)つて下(くだ)さい』
027 蠑螈別(いもりわけ)は腰(こし)を抜(ぬ)かして身体(からだ)の自由(じいう)が利(き)かなくなつてゐる。028然(しか)し敵(てき)に弱身(よわみ)を見(み)せては一大事(いちだいじ)と心(こころ)を定(さだ)め、
029蠑螈別『アツハヽヽヽ、030お民(たみ)、031それしきの蠅虫(はへむし)を俺(おれ)が出(で)るまでもないぢやないか。032俺(おれ)や此処(ここ)でゆつくりと、033煙草(たばこ)でも飲(の)んで見物(けんぶつ)するから、034一(ひと)つお前(まへ)の活動(くわつどう)振(ぶ)りを見(み)せて貰(もら)はう』
035お民『最前(さいぜん)から永(なが)らく揉(も)み合(あ)つてゐるのだから、036私(わたし)息(いき)が絶(き)れさうなのよ。037さあ貴方(あなた)、038入(い)れ替(かは)つて一(ひと)つ此奴(こいつ)を懲(こら)してやつて下(くだ)さい。039何(なに)ゆつくりして居(ゐ)なさるの』
040蠑螈別『さあ、041さう急(いそ)いだつて仕方(しかた)がないぢやないか』
042 お民(たみ)は蠑螈別(いもりわけ)の吃驚腰(びつくりごし)が抜(ぬ)けた事(こと)を直覚(ちよくかく)した。
043お民(たみ)『こりや三(さん)人(にん)の男(をとこ)ども、044大将軍(だいしやうぐん)のお出(で)ましだから一(ひと)つ此処(ここ)で水(みづ)を入(い)れたら如何(どう)だ。045いづれ勝敗(しようはい)はきまつてゐるが、046お前(まへ)も随分(ずゐぶん)喉(のど)がひつついただらう』
047コー『それなら一寸(ちよつと)一服(いつぷく)しようかな。048おい、049ワク、050エム、051もとから親(おや)の敵(かたき)でもなし、052怪我(けが)しちや互(たがひ)によい損恥(そんはぢ)だ。053国(くに)には妻子(さいし)もあるのだからな』
054ワク『うん、055そりや、056さうだ。057それならまあ、058一寸(ちよつと)休戦(きうせん)かな』
059エム『俺(おれ)は中立国(ちうりつこく)となつて平和(へいわ)の調停(てうてい)に努(つと)むる事(こと)としよう』
060お民(たみ)『ホヽヽヽ、061まあ皆(みな)さま、062多少(たせう)負傷(ふしやう)をなさつた塩梅(あんばい)だから、063此処(ここ)を赤十字(せきじふじ)病院(びやうゐん)として敵味方(てきみかた)の区別(くべつ)なく傷(きず)の癒(い)えるまで休戦(きうせん)しようかな』
064エム『至極(しごく)妙案(めうあん)だ。065そいつあ面白(おもしろ)い、066一(いち)、067二(に)、068三(さん)』
069と云(い)ひながら三(さん)人(にん)は蠑螈別(いもりわけ)の一間(いつけん)ばかり隔(へだ)たつた処(ところ)に、070単縦陣(たんじうぢん)を張(は)つて腰(こし)を下(おろ)し休息(きうそく)しながら汗(あせ)を拭(ふ)いてゐる。
071お民(たみ)『もし、072蠑螈別(いもりわけ)さま、073貴方(あなた)あまり冷淡(れいたん)ぢやありませぬか。074女房(にようばう)がこれ程(ほど)苦戦(くせん)してるのに、075高見(たかみ)から見物(けんぶつ)するとは不人情(ふにんじやう)極(きは)まる、076併(しか)し大方(おほかた)、077吃驚腰(びつくりごし)が抜(ぬ)けたのだらうね。078敵(てき)の中(なか)だから、079そんなに慌(あわ)ててはなりませぬよ』
080と耳(みみ)の端(はた)で囁(ささや)く。081コーは早(はや)くも此(この)声(こゑ)を聞(き)きとつた。
082コー『ハヽヽヽヽ、083何(なん)だ、084俺(おれ)達(たち)の武勇(ぶゆう)に恐縮(きようしゆく)して吃驚腰(びつくりごし)を抜(ぬ)かしよつたのだよ。085おい、086ワク、087エム、088最早(もはや)大丈夫(だいぢやうぶ)だ。089恐(おそ)るる事(こと)は少(すこ)しもないぞ。090糞落着(くそおちつ)きに落着(おちつ)いて居(ゐ)やがると思(おも)つたら、091アハヽヽヽ抜(ぬ)かしよつたのだ』
092 ワク、093エム一度(いちど)に、
094ワク、エム『アツハヽヽヽ』
095蠑螈(いもり)『吾々(われわれ)は神(かみ)の国(くに)の軍人(ぐんじん)だ。096肉体(にくたい)の人間(にんげん)に対(たい)しては門外漢(もんぐわいかん)だ。097これしきの敵(てき)に対(たい)して腰(こし)を抜(ぬ)かすやうな卑怯者(ひけふもの)が何処(どこ)にあるか。098見違(みちが)ひするにも程(ほど)があるぞ』
099コー『ヘン、100惚(ほ)れた女(をんな)の前(まへ)だと思(おも)つて痩我慢(やせがまん)を張(は)つたつて、101チヤンと見抜(みぬ)いてあるのだ。102それが若(も)し見違(みちが)つて居(ゐ)るのなら立(た)つて御覧(ごらん)』
103蠑螈(いもり)『いや其(その)儀(ぎ)なら、104たつてお断(ことわ)り申(まを)す。105腰(こし)は立(た)たないが腹(はら)は随分(ずゐぶん)立(た)つてゐる』
106コー『俺(おれ)も何(なん)だかナイスの顔(かほ)を見(み)ると立(た)つて来(き)たやうだワイ。107立(た)つて立(た)つて立(た)ち向(むか)ふと云(い)ふ塩梅(あんばい)式(しき)だ。108「武士(もののふ)のさちやた挟(ばさ)み立(た)ち向(むか)ひ、109いるまとかたは見(み)るにさやけし」と云(い)つて、110まとかたと云(い)つて気分(きぶん)のよい名所(めいしよ)だな』
111蠑螈(いもり)『こりやこりや三(さん)人(にん)の奴(やつ)、112こんな処(ところ)にまとかたがあるか。113そんな地名(ちめい)は自凝島(おのころじま)の名所(めいしよ)だ』
114エム『何(なん)だか知(し)らねえが、115吾々(われわれ)は一(ひと)つのまとかたがあつて活動(くわつどう)を開始(かいし)してるのだ』
116蠑螈(いもり)『そのまとと云(い)ふのは一体(いつたい)何(なん)だ』
117エム『云(い)はいでも推量(すゐりやう)したが宜(よ)からうぞ。118軍人(ぐんじん)兼(けん)泥棒(どろばう)さまだ。119おれさまの要求(えうきう)する所(ところ)は決(けつ)して石(いし)でも瓦(かはら)でもない、120又(また)水(みづ)でも茶(ちや)でもないのだ』
121蠑螈(いもり)『アハヽヽヽ、122貴様(きさま)は金(かね)さへ与(や)れば済(す)むのだな。123金(かね)で済(す)むのなら安(やす)い事(こと)だ。124此処(ここ)にちつとだけれど九千(きうせん)持(も)つてゐる。125如何(どう)だ、126之(これ)をちつとばかり貴様(きさま)にやらうか』
127コー『そんな目腐(めくさ)れ金(がね)に目(め)をかける泥棒(どろばう)があると思(おも)つて居(ゐ)るか』
128蠑螈(いもり)『一千(いつせん)ばかり与(や)らうか』
129エム『三(さん)人(にん)の中(なか)へ一銭(いつせん)位(くらゐ)貰(もら)つても三厘(さんりん)三毛(さんまう)よりならぬぢやないか。130馬鹿(ばか)にしやがるない。131まだ此処(ここ)に弱虫(よわむし)が二人(ふたり)も慄(ふる)つて居(ゐ)るのだから、132頭割(あたまわ)りにすれば二厘(にりん)にしかならない。133饅頭(まんぢう)の半分(はんぶん)も買(か)へない様(やう)な目腐(めくさ)れ金(がね)を持(も)ちやがつて、134金(かね)だなんて、135あまり人(ひと)を馬鹿(ばか)にするない』
136蠑螈(いもり)『ハヽヽヽヽ感違(かんちが)へしやがつたのだな。137俺(おれ)の九千(きうせん)と云(い)ふのは九千(きうせん)円(ゑん)の事(こと)だ。138それだからお前(まへ)達(たち)に一千(いつせん)円(ゑん)やらうと云(い)ふのだ』
139コー『ヤア、140そいつは結構(けつこう)だ。141頂戴(ちやうだい)する事(こと)にしようかな。142強奪(がうだつ)すれば純然(じゆんぜん)たる泥棒(どろばう)だが、143向(むか)ふから与(や)らうと云(い)ふのに貰(もら)ふのは当然(あたりまへ)だ』
144蠑螈(いもり)『貰(もら)つても盗(と)つても同(おな)じ事(こと)ぢやないか。145名分(めいぶん)のみ貰(もら)つたにした処(ところ)で、146実際(じつさい)は脅迫(けうはく)されて与(や)るのだから盗(と)られたやうなものだ。147オイ泥棒(どろばう)、148それなら千(せん)円(ゑん)此処(ここ)にあるから受取(うけと)れ』
149エム『オイ、150ワク、151コー、152貰(もら)つても泥棒(どろばう)同様(どうやう)だと云(い)ふぢやないか。153泥棒(どろばう)と云(い)はれちや馬鹿(ばか)らしい。154一千(いつせん)円(ゑん)位(ぐらゐ)貰(もら)つても、155つまらぬぢやないか。156九千(きうせん)円(ゑん)全部(ぜんぶ)強奪(がうだつ)してやらうかい。157同(おな)じ泥棒(どろばう)と云(い)はれるのなら太(ふと)い方(はう)が得(とく)だからな』
158蠑螈(いもり)『実(じつ)の処(ところ)は、159俺(おれ)もお寅婆(とらばあ)さまが貯(たくは)へて居(を)つたのを泥棒(どろばう)して来(き)たのだ。160此(この)お民(たみ)だつて共謀(きようぼう)の上(うへ)だ。161さうすりや俺(おれ)もお民(たみ)も其(その)一部分(いちぶぶん)に加(くは)はるだけの資格(しかく)が具備(ぐび)してるのだから、162貴様(きさま)等(ら)三(さん)人(にん)に三千(さんぜん)円(ゑん)やらう。163さうして、164そこに居(を)る人足(にんそく)には二人(ふたり)に千(せん)円(ゑん)やる事(こと)にしよう。165残(のこ)り五千(ごせん)円(ゑん)はまあ俺(おれ)の所得(しよとく)にして置(お)かうかい。166俺(おれ)は之(これ)からまだまだ遠国(ゑんごく)へ行(ゆ)かなくちやならないからな』
167コー『何(なん)と比較(ひかく)的(てき)欲(よく)のない腰抜(こしぬ)けだな』
168蠑螈(いもり)『ウン、169腰抜(こしぬ)けだ。170腰(こし)さへ立(た)てば一文(いちもん)だつてやる気遣(きづか)ひはないのだが、171何(いづ)れ貴様(きさま)等(ら)に盗(と)られて了(しま)ふ可能性(かのうせい)があるのだから、172俺(おれ)の方(はう)から、173くだけて出(で)たのだ。174一人(ひとり)に千(せん)円(ゑん)と云(い)ふ銭儲(ぜにまう)けは、175貴様(きさま)が一生(いつしやう)働(はたら)いたつて出来(でき)やしないぞ。176オイ、177三(さん)人(にん)の奴(やつ)、178按摩賃(あんまちん)だと思(おも)つて俺(おれ)の腰(こし)を揉(も)んで呉(く)れ。179さうすりや。180又(また)三(さん)円(ゑん)ばかり改(あらた)めて恵(めぐ)んでやらぬ事(こと)もないから』
181ワク『イヤ、182生(うま)れてから見(み)た事(こと)もない千(せん)円(ゑん)の金(かね)を貰(もら)つて、183又(また)其(その)上(うへ)頂(いただ)くやうな事(こと)をしちや冥加(みやうが)につきます。184もう一厘(いちりん)も要(い)りませぬから腰(こし)を揉(も)まして下(くだ)さいな』
185蠑螈(いもり)『ウン、186差許(さしゆる)す。187さあ、188しつかり揉(も)め』
189お民(たみ)『千(せん)円(ゑん)がとこ、190親切(しんせつ)に揉(も)むのですよ。191然(しか)し腰(こし)から下(した)は揉(も)んじやなりませぬよ』
192エム『アハヽヽヽ、193御(ご)心配(しんぱい)なさいますな。194仮令(たとへ)揉(も)んだ所(ところ)で吾々(われわれ)は女(をんな)ぢやありませぬから、195何卒(どうぞ)御(ご)心配(しんぱい)はなさいますな』
196 五(ご)人(にん)は蠑螈別(いもりわけ)より四千(よんせん)両(りやう)の小判(こばん)を受取(うけと)りホクホクものである。197そこへやつて来(き)たのは一人(ひとり)の大目附(おほめつけ)であつた。
198大目附(エキス)『こりやこりや、199コー、200ワク、201エム、202何(なに)を致(いた)して居(を)るか』
203ワク『やあ、204これはこれは大目附(おほめつけ)のエキスさまですか。205今(いま)吾々(われわれ)この怪(あや)しの森(もり)の辻番(つじばん)を致(いた)して居(を)ります所(ところ)へ、206向(むか)ふの方(はう)より「スタスタスタ」と勢(いきほ)ひ凄(すさま)じくやつて来(き)たのは此(この)女(をんな)、207なかなかの強者(したたかもの)で此(この)関門(くわんもん)に通(とほ)らうとするので、208此(この)女(をんな)の襟(えり)を取(と)り無理(むり)に叩(たた)いてゐました所(ところ)へ、209又(また)もや此(この)女(をんな)の夫(をつと)と見(み)えて、210矢(や)を射(い)る如(ごと)く飛(と)んで来(く)るものがある。211見(み)ればウラナイ教(けう)の神力(しんりき)無双(むさう)の蠑螈別(いもりわけ)、212エム、213コー他(ほか)二人(ふたり)は倉皇(さうくわう)ワクワクとして縮(ちぢ)み上(あが)つてゐるにも拘(かかは)らず、214此(この)ワクは襟髪(えりがみ)握(にぎ)りスツテンドウと投(な)げやれば……流石(さすが)の蠑螈別(いもりわけ)も、215斯(か)くの如(ごと)くクタばつて身動(みうご)きもならぬ此(この)浅間(あさま)しさ、216何卒(どうぞ)お褒(ほ)め下(くだ)さいませ』
217エキス『アハヽヽヽ、218うまく芝居(しばゐ)を致(いた)すのう。219内職(ないしよく)は如何(どう)であつたか、220随分(ずゐぶん)懐(ふところ)が膨(ふく)れただらうな』
221エム『エー、222大切(たいせつ)な軍人(ぐんじん)の職(しよく)にありながら、223内職(ないしよく)等(など)とは思(おも)ひもよりませぬ。224軍律(ぐんりつ)厳(きび)しい此(この)陣中(ぢんちう)、225如何(どう)して左様(さやう)な内職(ないしよく)なんか出来(でき)ませう』
226エキス『それでも役徳(やくとく)と云(い)ふものがあるだらう。227オイ、228コー、229ワク、230其(その)方(はう)も役徳(やくとく)の収入(しうにふ)があつた筈(はず)だ。231各(かく)二分(にぶん)の一(いち)づつ此(この)方(はう)に納(をさ)めたらよからう』
232コー『折角(せつかく)千(せん)円(ゑん)の金(かね)を手(て)に入(い)れたと思(おも)へば、233二分(にぶん)の一(いち)出(だ)せなんて、234あまりだ、235五百(ごひやく)円(ゑん)になつて了(しま)ふわ』
236エキス『コーが五百(ごひやく)円(ゑん)、237ワクが五百(ごひやく)円(ゑん)、238エムが五百(ごひやく)円(ゑん)、239両人(りやうにん)の名(な)もなき供人(ともびと)どもは二百(にひやく)五十(ごじふ)円(ゑん)づつ此(この)大目附(おほめつけ)に献(たてまつ)るのだ』
240エム『もし、241エキスさま、242貴方(あなた)は泥棒(どろばう)の上前(うはまへ)をはねる大泥棒(おほどろばう)ですな。243吾々(われわれ)は折角(せつかく)、244骨折(ほねを)つて五百(ごひやく)円(ゑん)の収入(しうにふ)、245貴方(あなた)は手(て)を濡(ぬ)らさずに、246しめて二千(にせん)円(ゑん)の収入(しうにふ)があるぢやありませぬか。247せめて十分(じふぶん)の一(いち)位(ぐらゐ)にして貰(もら)ひたいものですな』
248エキス『それが上(かみ)に立(た)つものの役徳(やくとく)だ。249人間(にんげん)は一段(いちだん)でも上(うへ)の役人(やくにん)になるに限(かぎ)る。250大臣(だいじん)なんかになつて見(み)よ。251知(し)らぬ間(ま)に何十万(なんじふまん)円(ゑん)、252何百万(なんびやくまん)円(ゑん)の株券(かぶけん)が一文(いちもん)もかけないのに降(ふ)つて来(く)る。253山林(さんりん)田畑(でんぱた)が何時(いつ)の間(ま)にかチヤンと登記済(とうきずみ)になつてる様(やう)なものだ。254それだから大目附役(おほめつけやく)の地位(ちゐ)は棄(す)てられないのだ』
255蠑螈(いもり)『エキスさまとやら、256私(わたし)は蠑螈別(いもりわけ)と云(い)ふウラナイ教(けう)の教祖(けうそ)ですが、257此処(ここ)に五千(ごせん)円(ゑん)ばかり金(かね)を持(も)つて居(ゐ)ます。258此(この)内(うち)千(せん)円(ゑん)ばかり献上(けんじやう)致(いた)しませうかな。259あまり沢山(たくさん)胴巻(どうまき)に巻(ま)いて居(を)ると、260重(おも)くて困(こま)つて居(ゐ)ます。261ちと助(たす)けて貰(もら)ひたいものですな』
262エキス『何(なに)、263助(たす)けてほしいと申(まを)すか、264よし五千(ごせん)円(ゑん)全部(ぜんぶ)でも助(たす)けてやらう』
265お民(たみ)『オホヽヽヽ、266あの蠑螈別(いもりわけ)さまの綺麗(きれい)な事(こと)、267あたい、268それが好(す)きで惚(ほ)れたのよ』
269蠑螈(いもり)『それならエキスさま、270お前(まへ)エキス(益(えき)吸(す)ふ)と云(い)ふ名(な)だから、271綺麗(きれい)薩張(さつぱり)持(も)つて去(い)んで下(くだ)さい。272其(その)代(かは)り一(ひと)つお頼(たの)みがある。273聞(き)いて貰(もら)へるだらうかな』
274エキス『頼(たの)みとは何(なん)で厶(ござ)るか』
275蠑螈(いもり)『外(ほか)でも厶(ござ)らぬ。276実(じつ)はランチ将軍(しやうぐん)の家来(けらい)にして欲(ほ)しいのだ』
277エキス『そりや大変(たいへん)都合(つがふ)の好(よ)い事(こと)だ。278実(じつ)の処(ところ)、279吾々(われわれ)の軍隊(ぐんたい)は三五教(あななひけう)の言霊戦(ことたません)に、280もちあぐんで居(ゐ)る所(ところ)だ。281お前(まへ)さまはウラナイ教(けう)の教祖(けうそ)だと聞(き)いて居(ゐ)る。282ウラナイ教(けう)は人(ひと)は少(すく)なくても大変(たいへん)な神徳(しんとく)があるさうだ。283素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)さまさへも如何(いかん)ともする事(こと)が出来(でき)ないと聞(き)いた上(うへ)は末(すゑ)頼(たの)もしい。284屹度(きつと)ランチ将軍(しやうぐん)も二(ふた)つ返事(へんじ)でお取(と)り上(あ)げになるのは請合(うけあ)つて置(お)きます。285さあ蠑螈別(いもりわけ)さま、286陣中(ぢんちう)へは最早(もはや)何程(いくら)もありませぬ。287然(しか)らば賓客(ひんきやく)としてバラモン軍(ぐん)の参謀(さんぼう)として御(ご)採用(さいよう)になるやうに私(わたし)が努(つと)めます』
288蠑螈(いもり)『然(しか)し生(は)え腰(ごし)が抜(ぬ)けて動(うご)けないのだ。289あまり俄(にはか)に走(はし)つたものだから、290腰(こし)の蝶番(てふつがひ)が如何(どう)かなつたと見(み)える。291何分(なにぶん)朝(あさ)から晩(ばん)まで坐(すわ)り通(どほ)しで、292道(みち)を歩(ある)いた事(こと)がないのだから』
293エキス『御(ご)心配(しんぱい)なさいますな。294今(いま)に駕籠(かご)を呼(よ)んで来(き)て、295従卒(じゆうそつ)に担(かつ)がせて御(ご)夫婦(ふうふ)ともランチ将軍(しやうぐん)の陣営(ぢんえい)へ鄭重(ていちよう)に送(おく)り届(とど)けます。296そして此(この)エキスも及(およ)ばずながらお伴(とも)致(いた)し、297将軍(しやうぐん)様(さま)の許(もと)へ執(と)りもち致(いた)す考(かんが)へなれば御(ご)安心(あんしん)なさい』
298蠑螈(いもり)『ハイ、299有難(ありがた)う厶(ござ)ります。300お民(たみ)、301もう安心(あんしん)せい。302これだけの軍隊(ぐんたい)の中(なか)へ入(はい)つて居(ゐ)る以上(いじやう)は、303お前(まへ)も最早(もはや)大丈夫(だいぢやうぶ)だ』
304お民(たみ)『仮令(たとへ)何(ど)んな処(ところ)へでも私(わたし)をお見捨(みす)てなく連(つ)れて行(い)つてさへ下(くだ)さいますれば、305何(ど)んな処(ところ)へでもお伴(とも)を致(いた)します』[※エキス・蠑螈別・お民が浮木の森に到着するシーンは第47巻第5章]
306(大正一一・一二・一六 旧一〇・二八 北村隆光録)
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