霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一二章 怪段(くわいだん)〔一二二二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第46巻 舎身活躍 酉の巻 篇:第2篇 狐運怪会 よみ(新仮名遣い):こうんかいかい
章:第12章 怪段 よみ(新仮名遣い):かいだん 通し章番号:1222
口述日:1922(大正11)年12月15日(旧10月27日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年9月25日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
万公は後髪を引かれる心地しながら、お菊への愛におぼれて神務を打ち忘れ、木枯らしすさぶ山の尾の上の薄雪を踏みしめながら、駆け落ちの道中歌いだした。
しかしお菊は足早に前を走って行き、万公は息が切れだした。万公はお菊に待ってくれと声をかけ、慌てて走って行くが追いつかない。
実際は万公はとぼけた面をして神社の細い階段を上っては下り、下っては上りを繰り返しているだけだった。お菊とお千代が石段のところに来ると、万公が何かわからぬことをブツブツ言いながら行ったり来たりしているのが見えた。
お菊が万公に呼びかけると、万公は大金を持ってお菊と逃げているつもりになってお菊に返事をした。お菊とお千代は狐につままれたのだろうと万公を笑っている。万公は下を向いて汗をたらたら垂らしながら階段を降って行ってしまった。
魔我彦は狐に膏をしぼられて松彦館を訪ねようと階段を上って行くと、万公が気の抜けた顔をして下ってくるのにばったり出会った。魔我彦に声をかけられてようやく正気に戻った万公は、今度は本物のお菊を狐だと思って掴みかかった。
魔我彦にたしなめられて、万公はお菊と駆け落ちをした気になっていたことを白状し反省した。そこへ五三公、アク、タク、テクの四人が松彦館を訪ねてやってきた。万公は反省の歌を歌い、一同は戒めの歌を交わした。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-03-14 18:14:31 文字数:3555 OBC :rm4612
愛善世界社版:156頁 八幡書店版:第8輯 414頁 修補版: 校定版:164頁 普及版:64頁 初版: ページ備考:
001 万公(まんこう)は後髪(うしろがみ)引(ひ)かるる心地(ここち)しながら、002肝腎要(かんじんかなめ)の神務(しんむ)を打(う)ち忘(わす)れ、003お菊(きく)の愛(あい)に溺(おぼ)れて、004金(かね)と色(いろ)との二道(ふたみち)かけ、005木枯(こがらし)荒(すさ)ぶ高山(たかやま)の尾(を)の上(へ)の薄雪(うすゆき)を踏(ふ)みしめながら、006お菊(きく)のやさしき後姿(うしろすがた)を打(う)ち眺(なが)め、007顔(かほ)の紐(ひも)まで解(ほど)いて道々(みちみち)歌(うた)ひ出(だ)した。
008万公『神(かみ)が表(おもて)に現(あら)はれて
009善(ぜん)と悪(あく)とを立(た)てわける
010此(この)世(よ)を造(つく)りし神直日(かむなほひ)
011心(こころ)も広(ひろ)き大直日(おほなほひ)
012唯(ただ)何事(なにごと)も人(ひと)の世(よ)は
013直日(なほひ)に見直(みなほ)し聞(き)き直(なほ)し
014身(み)の過(あやま)ちを宣(の)り直(なほ)す
015三五教(あななひけう)の神(かみ)様(さま)は
016この万公(まんこう)が恋(こひ)の暗(やみ)
017迷(まよ)うて脱線(だつせん)した事(こと)を
018心(こころ)安(やす)らに平(たひ)らかに
019必(かなら)ず許(ゆる)させたまふべし
020河鹿(かじか)峠(たうげ)をのり越(こ)えて
021治国別(はるくにわけ)と諸共(もろとも)に
022野中(のなか)の森(もり)迄(まで)やつて来(き)た
023時(とき)しもあれや亀彦(かめひこ)は
024弟子(でし)の万公(まんこう)を振(ふ)り捨(す)てて
025雲(くも)を霞(かすみ)とかくれけり
026これを思(おも)へば万公(まんこう)も
027もはや御用(ごよう)が済(す)んだのか
028一本橋(いつぽんばし)の袂(たもと)にて
029恋(こひ)しきお菊(きく)に廻(めぐ)り会(あ)ひ
030お寅(とら)婆(ば)さまにいろいろと
031苦(にが)い意見(いけん)を聞(き)かされて
032大分(だいぶん)心(こころ)も改(あらた)まり
033松彦(まつひこ)さまと諸共(もろとも)に
034悪魔(あくま)の征途(せいと)に上(のぼ)るべく
035喜(よろこ)び勇(いさ)んで居(ゐ)たものを
036どうした身魂(みたま)の因縁(いんねん)か
037結(むす)ぶの神(かみ)の引(ひ)き合(あは)せ
038いとし可愛(かあい)の愛娘(まなむすめ)
039お菊(きく)に深(ふか)く思(おも)はれて
040引(ひ)くに引(ひ)かれぬ羽目(はめ)となり
041心(こころ)ならずも神(かみ)の道(みち)
042暫(しばら)く捨(す)てて往(ゆ)きまする
043国治立(くにはるたちの)大御神(おほみかみ)
044豊国主(とよくにぬしの)大御神(おほみかみ)
045三五教(あななひけう)の太柱(ふとばしら)
046神(かむ)素盞嗚(すさのをの)大御神(おほみかみ)
047誠(まこと)に済(す)まぬ事(こと)ながら
048暫(しばら)くお暇(ひま)を下(くだ)しやんせ
049是(これ)から二人(ふたり)は山(やま)の尾(を)を
050伝(つた)ひ伝(つた)ひて月(つき)の国(くに)
051何処(いづく)の果(はて)にか身(み)を潜(ひそ)め
052二人(ふたり)仲(なか)よく世(よ)を送(おく)り
053さうした上(うへ)で神(かみ)様(さま)の
054きつと御用(ごよう)を致(いた)します
055今(いま)暫(しばら)くは是非(ぜひ)なしと
056何卒(なにとぞ)見直(みなほ)し下(くだ)さつて
057恋(こひ)を許(ゆる)させたまへかし
058まだ十七(じふしち)の愛娘(まなむすめ)
059肩揚(かたあげ)さへも取(と)れぬよな
060あれ程(ほど)可愛(かあい)い女(をんな)をば
061何程(なにほど)神(かみ)の道(みち)ぢやとて
062これが見捨(みす)ててやれませうか
063夫婦(ふうふ)となるも前世(さきのよ)の
064深(ふか)い縁(えにし)でありませう
065お菊(きく)の姉(あね)も中々(なかなか)に
066人(ひと)に勝(すぐ)れた器量(きりやう)もの
067ほんとに惜(を)しい事(こと)をした
068そのお里(さと)にも弥勝(いやまさ)り
069鈴(すず)のやうなる丸(まる)い目(め)に
070花(はな)のやうなる唇(くちびる)で
071ニツと笑(わら)うた其(その)時(とき)は
072知(し)らず知(し)らずに魂(たましひ)が
073中空(ちうくう)に飛(と)んで往(ゆ)くやうだ
074エヘヽヽヘツヘ何(なん)とまア
075面工(めんく)のよい事(こと)出来(でき)たのか
076矢張(やつぱ)り身魂(みたま)がよい故(ゆゑ)に
077心(こころ)の花(はな)が咲(さ)き初(そ)めて
078福(ふく)の神(かみ)めが降(ふ)つて来(き)て
079二人(ふたり)の仲(なか)をば円満(ゑんまん)に
080神聖(しんせい)な恋(こひ)を完全(くわんぜん)に
081お守(まも)りなさるに違(ちが)ひない
082思(おも)へば思(おも)へば俺(おれ)のよな
083幸福者(しあはせもの)が世(よ)にあろか
084これこれお菊(きく)ちよつと待(ま)て
085お前(まへ)は子供(こども)に似合(にあ)はない
086随分(ずゐぶん)早(はや)い足(あし)だなア
087道(みち)もないよな山(やま)の尾(を)を
088さう安々(やすやす)と歩(ある)くのは
089矢張(やは)り結(むす)ぶの神(かみ)様(さま)が
090お前(まへ)の体(からだ)を委曲(まつぶさ)に
091お守(まも)りなさるに違(ちが)ひない
092暫(しばら)く待(ま)つて呉(く)れぬかい
093俺(おい)等(ら)は呼吸(いき)が切(き)れさうだ』
094待(ま)てよ待(ま)てよと呼(よ)ばはれば
095お菊(きく)は後(うしろ)を振(ふ)り向(む)いて
096お菊『これ万(まん)さま焦(じれ)つたい
097今(いま)暫(しばら)くは身(み)の限(かぎ)り
098足(あし)の続(つづ)かむ其(その)限(かぎ)り
099走(はし)つて往(ゆ)かねばなりませぬ
100もしも追手(おつて)に見(み)つけられ
101捕(とら)はれようものならば
102それこそ甚(ひど)い事(こと)になる
103大泥棒(おほどろばう)の駆落(かけおち)奴(め)
104此(この)儘(まま)許(ゆる)しは致(いた)さぬと
105蠑螈別(いもりわけ)が腹(はら)を立(た)て
106どんな事(こと)をなさるやら
107分(わか)つたものぢやありませぬ
108それが私(わたし)は気(き)にかかる
109もう一息(ひといき)ぢや万(まん)さまよ
110サアサア早(はや)う往(ゆ)きませう』
111言葉(ことば)を後(あと)に残(のこ)しつつ
112小松(こまつ)茂(しげ)れる山(やま)の尾(を)を
113見(み)えつかくれつ走(はし)り往(ゆ)く
114万公(まんこう)は息(いき)を喘(はづ)まして
115万公『おいおい待(ま)つたお菊(きく)さま
116それ程(ほど)早(はや)く走(はし)るなよ
117姿(すがた)が見(み)えずなつたなら
118この深山(しんざん)で何(なん)とする
119お前(まへ)と俺(おれ)と唯(ただ)二人(ふたり)
120外(ほか)に力(ちから)になるものは
121猫(ねこ)の子(こ)一匹(いつぴき)居(を)らぬぞや
122まアまア待(ま)つて下(くだ)しやんせ
123アイタヽタツタ躓(つまづ)いた
124途(みち)なき処(ところ)をスタスタと
125ようまアそれだけ走(はし)られる
126遉(さすが)の万公(まんこう)も舌(した)を巻(ま)き
127尾(を)を巻(ま)き降参(かうさん)せにやならぬ
128そりや其(その)筈(はず)ぢや誰(たれ)だとて
129大胆(だいたん)至極(しごく)な事(こと)をして
130何(ど)うしてゆつくり歩(ある)かれよか
131これから肝玉(きもだま)放(はふ)り出(だ)して
132もう一気張(ひときば)りお菊(きく)さまの
133後(あと)を慕(した)うて往(い)つて見(み)よう
134何(なん)とはなしに呼吸(こきふ)めが
135苦(くる)しくなつて来(き)たわいな
136此処(ここ)で一服(いつぷく)しよぢやないか
137これだけ逃(に)げて来(き)た上(うへ)は
138よもや追手(おつて)もかかるまい
139アイタヽタツタ目(め)をついた
140松葉(まつば)の奴(やつ)めが出(で)しやばつて
141大事(だいじ)な大事(だいじ)な眼(まなこ)をば
142遠慮(ゑんりよ)もなしに突(つ)きよつた
143こりやこりやお菊(きく)どこへ往(い)つた
144子供(こども)の癖(くせ)にとんとんと
145はぐれて仕舞(しま)つたら何(なん)とする
146向(むか)ふ見(み)ずにも程(ほど)がある
147待(ま)て待(ま)て暫(しば)し待(ま)て暫(しば)し』
148と云(い)ひながら、149呆(とぼ)けたやうな面(つら)をして細(ほそ)い階段(かいだん)を登(のぼ)つては下(くだ)り、150下(くだ)つては登(のぼ)り、151何(なに)か口(くち)をもがもがと動(うご)かして幾度(いくど)となく上下(じやうげ)して居(ゐ)る。
152 お菊(きく)とお千代(ちよ)は手(て)を引(ひ)きながら石段(いしだん)の所(ところ)まで下(お)りて来(き)た。153見(み)れば万公(まんこう)が何(なに)かブツブツ分(わか)らぬ事(こと)を呟(つぶや)きながら、154石段(いしだん)をトントントンと下(くだ)つたり上(のぼ)つたりして居(ゐ)る。
155お菊(きく)『お千代(ちよ)さま、156あの万公(まんこう)さまを御覧(ごらん)、157間抜(まぬ)けた顔(かほ)して、158お千度(せんど)をして居(ゐ)るぢやありませぬか、159何(なん)で又(また)あんな妙(めう)な事(こと)をするのでせうなア』
160千代(ちよ)『万公(まんこう)さまが、161狐(きつね)に撮(つま)まれて居(ゐ)るのでせうよ。162随分(ずゐぶん)小北山(こぎたやま)には古狐(ふるぎつね)の穴(あな)が沢山(たんと)ありますからなア』
163お菊『一(ひと)つ背中(せなか)でも叩(たた)いて気(き)をつけてやりませうか』
164お千代『兎(と)も角(かく)「オイ」と云(い)つて見(み)なさい。165そしたら気(き)が付(つ)くかも知(し)れませぬぜ』
166 お菊(きく)は登(のぼ)つて来(く)る階段(かいだん)の上(うへ)に立(た)ち一間(いつけん)程(ほど)前(まへ)から、
167お菊『オイ万公(まんこう)さま、168確(しつか)りせぬかいな』
169と声(こゑ)をかけた。170万公(まんこう)は矢庭(やには)に口(くち)重(おも)たげに、
171万公『オーイお菊(きく)、172さう走(はし)つては追付(おつつ)かれない。173二十七万(にじふしちまん)両(りやう)の金(かね)を落(おと)しては大変(たいへん)だぞ。174まアちつと待(ま)つてはどうだ。175もう此処(ここ)まで逃(に)げて来(き)たら大丈夫(だいぢやうぶ)ぢや』
176お菊『ホヽヽヽ好(す)かぬたらしい。177万公(まんこう)さまは私(わたし)と駆落(かけおち)をして居(ゐ)る夢(ゆめ)でも見(み)て居(ゐ)るのだらうか、178なアお千代(ちよ)さま』
179お千代『きつとさうですよ、180あの顔(かほ)を御覧(ごらん)なさい。181あれは狐(きつね)に撮(つま)まれて居(ゐ)るのですよ。182さうして夢(ゆめ)を見(み)て居(ゐ)るのですよ。183困(こま)つた気(き)の利(き)かない男(をとこ)ですなア』
184 万公(まんこう)は又(また)下(した)を向(む)いてトントントンと汗(あせ)をタラタラ流(なが)しながら下(くだ)つて往(ゆ)く。185魔我彦(まがひこ)が散々(さんざん)狐(きつね)に膏(あぶら)を取(と)られ、186松彦館(まつひこやかた)を訪(たづ)ねむと階段(かいだん)を上(のぼ)り往(ゆ)くと、187万公(まんこう)が気(き)のぬけたやうな顔(かほ)して下(お)りて来(く)るのにベツタリと出会(であ)つた。188魔我彦(まがひこ)は、
189魔我彦『ハヽ此奴(こいつ)も悪(わる)い狐(きつね)にやられよつたのぢやな。190俺(おれ)ばかりかと思(おも)へば、191伴侶(つれ)もあるワイ。192こいつは大方(おほかた)、193お菊(きく)と駆落(かけおち)でもして居(ゐ)る積(つも)りで撮(つま)まれて居(ゐ)るのだらう、194オイ万公(まんこう)、195何(なに)をグヅグヅして居(ゐ)るのだ、196何(なに)を喋(しやべ)つて居(ゐ)るのだ』
197と云(い)ひながら、198力(ちから)をこめて背(せな)を三(みつ)つ四(よ)つ打(う)ち叩(たた)く途端(とたん)に万公(まんこう)は気(き)がつき、
199万公『アヽ一体(いつたい)此処(ここ)は何処(どこ)だ、200お菊(きく)は何処(どこ)へ往(い)つたのだ、201オーイ、202お菊(きく)ヤーイ、203オーイ』
204魔我(まが)『アハヽヽヽ、205これ万(まん)、206確(しつか)りして呉(く)れい、207最前(さいぜん)から随分(ずゐぶん)ここを上(あが)つたり下(くだ)つたりして居(ゐ)たさうだが、208大方(おほかた)狐(きつね)に撮(つま)まれたのだらう。209余(あま)りお菊(きく)を思(おも)つて居(ゐ)るから、210こんな目(め)に遇(あ)ふのだよ』
211万公(まんこう)『ここは一体(いつたい)何処(どこ)だと云(い)ふのだ』
212魔我彦『分(わか)らぬ奴(やつ)だなア、213小北山(こぎたやま)の階段(かいだん)だ。214目(め)を閉(ふさ)いどつては分(わか)らぬぢやないか。215何(なん)だい、216大(おほ)きな口(くち)を開(あ)けやがつて』
217万公『エヽ馬鹿(ばか)にしやがつた。218余(あま)りド狐(ぎつね)の悪口(わるくち)を言(い)つたものだから、219奴(やつこ)さん仕返(しかへ)しをしやがつたな』
220魔我彦『アハヽヽヽ、221俺(おれ)の二代目(にだいめ)が出来(でき)たわい、222ウフヽヽヽ』
223 お菊(きく)は傍(そば)に走(はし)り来(きた)り、
224お菊『これ万(まん)さま、225お前(まへ)最前(さいぜん)からここに何(なに)して居(ゐ)るの』
226 万公(まんこう)はお菊(きく)の首筋(くびすぢ)グツと握(にぎ)り、
227万公『これド狐(ぎつね)、228何(なん)で人(ひと)を馬鹿(ばか)にしやがるのだ。229サアもう了簡(れうけん)せぬぞ、230覚悟(かくご)せい』
231お菊(きく)『万(まん)さま恐(こは)い、232魔我(まが)さま助(たす)けてえ』
233魔我(まが)『こりやこりや万公(まんこう)、234狐(きつね)の化(ば)けたお菊(きく)と、235本物(ほんもの)のお菊(きく)とごつちやにしては困(こま)るぢやないか、236ちつと確(しつか)りさらさぬかい』
237万公(まんこう)『ウンさうだつたか、238そりや済(す)まぬ事(こと)をした。239神(かみ)さまは恐(こは)いものぢや、240もう斯(か)うなつては白状(はくじやう)するが、241実(じつ)はお菊(きく)と駆落(かけおち)をした積(つも)りだつた。242矢張(やつぱ)り神(かみ)様(さま)に気(き)を引(ひ)かれたのかなア』
243 斯(か)く云(い)ふ所(ところ)へ、244五三公(いそこう)、245アク、246タク、247テク四(よ)人(にん)は松彦館(まつひこやかた)を訪(たづ)ねむと階段(かいだん)の下(した)までやつて来(き)た。248魔我彦(まがひこ)は直(ただち)に、
249魔我彦『小北山(こぎたやま)醜(しこ)の狐(きつね)にだまされて
250この階段(かいだん)を上(のほ)りつ下(くだ)りつ。
251お菊(きく)さまと手(て)を引(ひ)きあうて駆落(かけおち)を
252してる覚悟(かくご)で同(おな)じとこゆく』
253五三(いそ)『お寅(とら)さま魔我彦(まがひこ)さまをたばかりし
254醜(しこ)の狐(きつね)の仕業(しわざ)なるらむ』
255万公(まんこう)『二十(にじふ)あまり七万(しちまん)両(りやう)の金(かね)もつて
256駆落(かけおち)せしと思(おも)ひけるかな』
257アク『馬鹿(ばか)だなアお菊(きく)にうつつ抜(ぬ)かしよつて
258狐(きつね)にまでも騙(だま)されてけり』
259万公(まんこう)『木石(ぼくせき)にあらぬ身(み)なれば俺(おれ)だとて
260女(をんな)に心(こころ)動(うご)かざらめや』
261タク『女(をんな)なら是非(ぜひ)はなけれどド狐(ぎつね)に
262まゆ毛(げ)よまれて馬鹿(ばか)を見(み)るかな』
263万公(まんこう)『俺(おれ)だとて狐(きつね)位(くらゐ)にやだまされぬ
264つもりぢやけれどまんが悪(わる)うて』
265タク『慢心(まんしん)が頂上(ちやうじやう)までも登(のぼ)りつめ
266この浅猿(あさま)しき態(ざま)となりぬる』
267万公(まんこう)『狐(きつね)まで化(ば)けて惚(ほ)れよる俺(おれ)の顔(かほ)は
268どこかに柔和(やさ)しいとこあるだらう』
269テク『テクテクと二百(にひやく)の階段(かいだん)下(お)り上(のぼ)り
270騙(だま)されきつた馬鹿者(ばかもの)あはれ』
271万公(まんこう)『ここは又(また)高天(たかま)に登(のぼ)る階段(かいだん)だ
272何(なに)も知(し)らずにゴテゴテ云(い)ふな。
273狐(きつね)にもせめて一度(いちど)は撮(つま)まれて
274見(み)ねば社会(しやくわい)の事(こと)は分(わか)らぬ』
275五三(いそ)『村肝(むらきも)の心(こころ)に迷(まよ)ひある時(とき)は
276醜(しこ)の曲津(まがつ)の誘(さそ)ふものなり。
277万公(まんこう)さま心(こころ)の駒(こま)を立(た)て直(なほ)せ
278狐(きつね)のやつにもてあそばれて。
279如何(いか)にして神(かみ)の御業(みわざ)がつとまろか
280ほうけ男(をとこ)を伴(ともな)ひし身(み)は』
281万公(まんこう)『恥(はづ)かしや恋(こひ)の狐(きつね)にたばかられ
282思(おも)はぬ醜態(しこざま)現(あら)はれにけり。
283大神(おほかみ)の道(みち)おろそかにした罪(つみ)は
284今(いま)目(ま)のあたり現(あら)はれてけり』
285(大正一一・一二・一五 旧一〇・二七 加藤明子録)
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