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霊界物語
舎身活躍(第37~48巻)
第46巻(酉の巻)
序文
総説
第1篇 仕組の縺糸
第1章 榛並樹
第2章 慰労会
第3章 噛言
第4章 沸騰
第5章 菊の薫
第6章 千代心
第7章 妻難
第2篇 狐運怪会
第8章 黒狐
第9章 文明
第10章 唖狐外れ
第11章 変化神
第12章 怪段
第13章 通夜話
第3篇 神明照赫
第14章 打合せ
第15章 黎明
第16章 想曖
第17章 惟神の道
第18章 エンゼル
第4篇 謎の黄板
第19章 怪しの森
第20章 金の力
第21章 民の虎声
第22章 五三嵐
第23章 黄金華
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第46巻(酉の巻)
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<<< 五三嵐
(B)
(N)
余白歌 >>>
第二三章
黄金華
(
わうごんくわ
)
〔一二三三〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第46巻 舎身活躍 酉の巻
篇:
第4篇 謎の黄板
よみ(新仮名遣い):
なぞのおうばん
章:
第23章 黄金華
よみ(新仮名遣い):
おうごんか
通し章番号:
1233
口述日:
1922(大正11)年12月16日(旧10月28日)
口述場所:
筆録者:
外山豊二
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年9月25日
概要:
舞台:
間道~怪志の森
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
お寅は怪しの森が本街道と間道の分かれ道になっていることを知っており、バラモン軍が見張りを立てているに違いないと一同に気を付けた。またお寅は自分は年寄りだからちょっとここで休息させてほしいと言って休みを取った。
お寅が腰をかけると、湯津爪櫛が落ちていた。自分が侠客時代にお金をかけて作った鼈甲のもので、長らく紛失していたものであった。
お寅は失くしたと思っていたこの櫛は、蠑螈別がくすねてお民に与えていたものだと気が付いた。そしてお民が逃げる時にここに落としていったのだろうと推測した。しかしすでに神の光に照らされて執着心を捨てていたお寅は、顔色一つ変えなかった。
万公はお寅が櫛を拾ってみている様を見て話しかけ、お民が落としていった櫛だと悟った。お寅は人が欲しいと思って盗んだこの櫛には霊が宿っているから、万公にあげようとするが万公は断った。
再び一行は怪しの森を指して歩いていく。コー、ワク、エムは三五教がやってきたことを知り、恐れて相談し合っている。その間に松彦たちは早くもやってきて、蠑螈別とお民の行方を尋ねた。
バラモン教の捕り手たちは蠑螈別のときのように、三五教の一行からもわいろを取ろうとするが、松彦と話しているうちに、ゆすり取ったお金を懐に持っていると不安にさいなまれることに気が付き、明かした。
コー、ワク、エムはもともとはお寅の金を蠑螈別が盗み取ったと聞いて、金をお寅に返そうとする。しかしお寅はもうお金に執着がなかった。かえって、自分の罪障を取ると思って使ってくれとバラモンの目付たちに頼み込んだ。
松彦は、お寅が許可した以上は喜んでその金を使用するがよいとコー、ワク、エムたちに言い渡した。(松彦一行の話は第48巻第16章へ続く)
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2023-03-24 17:50:46
OBC :
rm4623
愛善世界社版:
282頁
八幡書店版:
第8輯 459頁
修補版:
校定版:
297頁
普及版:
115頁
初版:
ページ備考:
001
お
寅
(
とら
)
は
途中
(
とちう
)
に
立止
(
たちど
)
まり、
002
一行
(
いつかう
)
を
顧
(
かへり
)
みて、
003
お寅
『モシ
皆
(
みな
)
さま、
004
あの
向方
(
むかふ
)
にスンと
立
(
た
)
つて
見
(
み
)
える
野中
(
のなか
)
の
森
(
もり
)
は、
005
怪
(
あや
)
しの
森
(
もり
)
といつて、
006
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
はランチ
将軍
(
しやうぐん
)
の
部下
(
ぶか
)
が
見張
(
みはり
)
をしてゐるさうです。
007
あの
森
(
もり
)
の
角
(
かど
)
から
左
(
ひだり
)
へとれば
本街道
(
ほんかいだう
)
、
008
今
(
いま
)
此
(
この
)
道
(
みち
)
は
間道
(
かんだう
)
となつてゐるのですから、
009
あの
人字
(
じんじ
)
街頭
(
がいとう
)
に
往来
(
ゆきき
)
の
人
(
ひと
)
を、
010
どうせ
査
(
しら
)
べてゐるに
違
(
ちが
)
ひありませぬ。
011
一
(
ひと
)
つ
此処
(
ここ
)
で
相談
(
さうだん
)
をして
無事
(
ぶじ
)
突破
(
とつぱ
)
する
用意
(
ようい
)
をいたしませうか』
012
松彦
(
まつひこ
)
『
吾々
(
われわれ
)
は
天下
(
てんか
)
晴
(
は
)
れての
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
候補者
(
こうほしや
)
だ。
013
たとへ
幾十
(
いくじふ
)
人
(
にん
)
の
敵
(
てき
)
が
張
(
は
)
つて
居
(
を
)
らうとも、
014
別
(
べつ
)
に
怖
(
おそ
)
れる
必要
(
ひつえう
)
はないぢやないか』
015
お
寅
(
とら
)
『イエ
滅相
(
めつさう
)
もない、
016
バラモンは
三五教
(
あななひけう
)
の
神館
(
かむやかた
)
ウブスナ
山
(
やま
)
を
目的
(
もくてき
)
として
進軍
(
しんぐん
)
の
最中
(
さいちう
)
ではありませぬか。
017
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
、
018
しかもウブスナ
山
(
やま
)
から
派遣
(
はけん
)
された
貴方
(
あなた
)
等
(
がた
)
が
御
(
お
)
出
(
いで
)
になるのは、
019
飛
(
と
)
んで
火
(
ひ
)
に
入
(
い
)
る
夏
(
なつ
)
の
虫
(
むし
)
、
020
可惜
(
あつたら
)
命
(
いのち
)
を
棒
(
ぼう
)
にふるやうなものです。
021
こんな
所
(
ところ
)
で
我
(
が
)
を
張
(
は
)
つちやなりませぬ。
022
皮
(
かは
)
固
(
かた
)
ければ
脆
(
もろ
)
くして
破
(
やぶ
)
れ
易
(
やす
)
く、
023
梢
(
こずゑ
)
軟
(
やは
)
らかなれば
風
(
かぜ
)
に
折
(
を
)
れず、
024
歯
(
は
)
は
如何
(
いか
)
に
固
(
かた
)
くとも、
025
柔
(
やは
)
らかき
舌
(
した
)
より
前
(
さき
)
に
亡
(
ほろ
)
ぶといふ
事
(
こと
)
がありますぞ。
026
強
(
つよ
)
いばかりが
神
(
かみ
)
の
心
(
こころ
)
ぢやありますまい。
027
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
此処
(
ここ
)
で
一服
(
いつぷく
)
致
(
いた
)
しませう。
028
妾
(
わたし
)
も
永
(
なが
)
らく
歩
(
あゆ
)
まなかつたので
交通
(
かうつう
)
機関
(
きくわん
)
が
怪
(
あや
)
しくなつて
来
(
き
)
ました。
029
何卒
(
どうぞ
)
休
(
やす
)
んで
下
(
くだ
)
さいな』
030
松彦
(
まつひこ
)
『コレだから
婆
(
ば
)
アさまの
道伴
(
みちづれ
)
は
困
(
こま
)
るのだ。
031
併
(
しか
)
し
仕方
(
しかた
)
がない。
032
オイ
一同
(
いちどう
)
、
033
お
寅
(
とら
)
さまの
提案
(
ていあん
)
に
賛成
(
さんせい
)
して
暫
(
しばら
)
くコンパスの
休養
(
きうやう
)
をしようぢやないか』
034
五三
(
いそ
)
『ハイ、
035
宜
(
よろ
)
しう
厶
(
ござ
)
いませう』
036
と
路傍
(
ろばう
)
の
草
(
くさ
)
の
上
(
うへ
)
に
蓑
(
みの
)
を
布
(
し
)
いて
腰
(
こし
)
を
下
(
おろ
)
した。
037
お
寅
(
とら
)
婆
(
ば
)
アさまの
坐
(
すわ
)
つた
前
(
まへ
)
に
湯津
(
ゆつ
)
爪櫛
(
つまぐし
)
が
一本
(
いつぽん
)
落
(
お
)
ちて
居
(
ゐ
)
る。
038
お
寅
(
とら
)
は
手早
(
てばや
)
く
拾
(
ひろ
)
ひ
上
(
あ
)
げ、
039
よくよく
見
(
み
)
れば
見覚
(
みおぼ
)
えのある
自分
(
じぶん
)
の
櫛
(
くし
)
である。
040
これはお
寅
(
とら
)
が
侠客
(
けふかく
)
時代
(
じだい
)
に
金
(
かね
)
にあかして
拵
(
こしら
)
へた
鼈甲
(
べつかふ
)
の
櫛
(
くし
)
であつた。
041
お
寅
(
とら
)
はつくづくと
打眺
(
うちなが
)
め、
042
お寅
『ハヽアー、
043
此
(
この
)
櫛
(
くし
)
は
永
(
なが
)
らく
小北山
(
こぎたやま
)
へ
来
(
き
)
てから
紛失
(
ふんしつ
)
してゐたが、
044
こんな
所
(
ところ
)
へ
落
(
お
)
ちてゐるとは、
045
夢
(
ゆめ
)
にも
知
(
し
)
らなかつた。
046
大方
(
おほかた
)
蠑螈別
(
いもりわけ
)
がソツと
何々
(
なになに
)
してお
民
(
たみ
)
に
与
(
あた
)
へたのだろ。
047
さうすれば、
048
お
民
(
たみ
)
が
此処
(
ここ
)
を
通
(
とほ
)
る
時
(
とき
)
落
(
おと
)
したのだろ。
049
お
民
(
たみ
)
が
通
(
とほ
)
つたとすれば、
050
矢張
(
やつぱ
)
り
蠑螈別
(
いもりわけ
)
も
通
(
とほ
)
つたに
違
(
ちが
)
ひない』
051
といふ
結論
(
けつろん
)
を
立
(
た
)
てた。
052
されど
只今
(
ただいま
)
のお
寅
(
とら
)
は
最早
(
もはや
)
昨日
(
きのふ
)
のお
寅
(
とら
)
でない。
053
執着心
(
しふちやくしん
)
も
悋気
(
りんき
)
も
綺麗
(
きれい
)
薩張
(
さつぱり
)
と
払拭
(
ふつしき
)
され、
054
青天
(
せいてん
)
白日
(
はくじつ
)
の
魂
(
みたま
)
になつてゐた。
055
昨日
(
さくじつ
)
までならば、
056
この
櫛
(
くし
)
を
見
(
み
)
て
忽
(
たちま
)
ち
形相
(
ぎやうさう
)
一変
(
いつぺん
)
し、
057
頭
(
あたま
)
に
無形
(
むけい
)
の
角
(
つの
)
を
生
(
は
)
やし、
058
獅子
(
しし
)
の
如
(
ごと
)
く、
059
虎
(
とら
)
の
如
(
ごと
)
く
吼
(
ほ
)
えたけるのであつたらう。
060
されどお
寅
(
とら
)
は、
061
神
(
かみ
)
の
光
(
ひかり
)
に
照
(
てら
)
されてより、
062
恋
(
こひ
)
の
仇
(
かたき
)
なるお
民
(
たみ
)
の
持
(
も
)
つてゐた
自分
(
じぶん
)
の
櫛
(
くし
)
を
拾
(
ひろ
)
ひ
上
(
あ
)
げても
少
(
すこ
)
しも
嫉妬
(
しつと
)
を
起
(
おこ
)
さず、
063
且
(
かつ
)
顔色
(
がんしよく
)
も
変
(
か
)
へず、
064
平然
(
へいぜん
)
として
微笑
(
びせう
)
することを
得
(
え
)
たのは、
065
全
(
まつた
)
く
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
の
賜
(
たまもの
)
である
事
(
こと
)
はいふまでもない。
066
万公
(
まんこう
)
はお
寅
(
とら
)
の
拾
(
ひろ
)
ひ
上
(
あ
)
げた
櫛
(
くし
)
を
覗
(
のぞ
)
き
込
(
こ
)
み、
067
万公
『お
寅
(
とら
)
さま、
068
意味
(
いみ
)
ありげな
櫛
(
くし
)
ぢやありませぬか。
069
此
(
この
)
櫛
(
くし
)
に
就
(
つい
)
ては
貴女
(
あなた
)
に
何
(
なに
)
か
不可思議
(
ふかしぎ
)
な
因縁
(
いんねん
)
がまつはつて
居
(
ゐ
)
るやうですなア』
070
お
寅
(
とら
)
『さうです。
071
昨日
(
きのふ
)
迄
(
まで
)
ならば
大
(
おほい
)
に
因縁
(
いんねん
)
の
糸
(
いと
)
がコンがらがつて
居
(
を
)
つたでせうが、
072
もはや
今日
(
こんにち
)
となつては
何
(
なん
)
にもありませぬ。
073
何処
(
どこ
)
かの
女
(
をんな
)
が
落
(
おと
)
して
行
(
い
)
つたのでせう。
074
何
(
いづ
)
れ
此
(
この
)
先
(
さき
)
で
追
(
お
)
ひつくか、
075
或
(
あるひ
)
は
出会
(
であ
)
ふかもしれませぬからネー。
076
万公
(
まんこう
)
さま、
077
貴方
(
あなた
)
何処
(
どこ
)
かに
入
(
い
)
れて
落失主
(
おとしぬし
)
に
会
(
あ
)
ふまで
保存
(
ほぞん
)
して
下
(
くだ
)
さるまいかなア』
078
万公
(
まんこう
)
『
鼈甲
(
べつかふ
)
の
櫛
(
くし
)
なんかは
男
(
をとこ
)
の
持
(
も
)
つものぢやありませぬ。
079
女
(
をんな
)
の
貴女
(
あなた
)
がお
持
(
も
)
ちになつて
居
(
を
)
れば、
080
似合
(
にあ
)
うたり
叶
(
かな
)
うたり、
081
こればつかりは
軽
(
かる
)
いものでは
厶
(
ござ
)
いますが、
082
平
(
ひら
)
に
御
(
お
)
断
(
ことわ
)
り
申
(
まを
)
したう
厶
(
ござ
)
います。
083
さうして
櫛
(
くし
)
を
拾
(
ひろ
)
うのはよくないぢやありませぬか。
084
悔
(
くや
)
み
事
(
ごと
)
が
出来
(
でき
)
るといふ
事
(
こと
)
です。
085
何
(
なん
)
でも
大変
(
たいへん
)
な
心配
(
しんぱい
)
があつてクシクシする
時
(
とき
)
には、
086
其
(
その
)
心配
(
しんぱい
)
を
免
(
のが
)
れるために
櫛
(
くし
)
を
道
(
みち
)
に
捨
(
す
)
てるさうです。
087
それを
拾
(
ひろ
)
うたものはクシクシを
拾
(
ひろ
)
ふのだから
災難
(
さいなん
)
に
会
(
あ
)
ふに
違
(
ちが
)
ひありませぬよ。
088
一層
(
いつそう
)
の
事
(
こと
)
、
089
其処
(
そこ
)
へ
打捨
(
うちす
)
ててはどうです』
090
お
寅
(
とら
)
『
此
(
この
)
櫛
(
くし
)
は
決
(
けつ
)
してそんなものぢやない。
091
あまり
嬉
(
うれ
)
しうて
落
(
おと
)
したのだから、
092
喜
(
よろこ
)
びを
拾
(
ひろ
)
ふやうなものだ。
093
これは
形見
(
かたみ
)
だから
万公
(
まんこう
)
さま、
094
お
前
(
まへ
)
も
若
(
わか
)
い
身体
(
からだ
)
で、
095
此
(
この
)
先
(
さき
)
で
妻帯
(
さいたい
)
をせなくてはならぬ
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
だ。
096
此
(
この
)
櫛
(
くし
)
を
持
(
も
)
つてあやかつたらどうです。
097
九千
(
きうせん
)
両
(
りやう
)
の
金子
(
きんす
)
をもつて
夫
(
をつと
)
が
屹度
(
きつと
)
後
(
あと
)
追
(
お
)
うて
来
(
き
)
てくれますよ、
098
オホヽヽヽ』
099
万公
(
まんこう
)
『
何
(
なん
)
だ、
100
お
民
(
たみ
)
の
櫛
(
くし
)
だなア、
101
アーさうすると
蠑螈別
(
いもりわけ
)
さまが
後
(
あと
)
を
追
(
お
)
うて
此処
(
ここ
)
を
通
(
とほ
)
つた
檜舞台
(
ひのきぶたい
)
だ。
102
オイ、
103
テク、
104
貴様
(
きさま
)
はあやかる
為
(
ため
)
に
此
(
この
)
櫛
(
くし
)
を
御
(
お
)
預
(
あづか
)
りしたら
何
(
ど
)
うだい』
105
テク『イヤだい、
106
何程
(
なにほど
)
女
(
をんな
)
にかつゑたつて、
107
他
(
ひと
)
の
惚
(
ほ
)
れて
居
(
ゐ
)
る
女
(
をんな
)
を
横取
(
よこど
)
りして
逃
(
に
)
げるやうな
不人情
(
ふにんじやう
)
な
事
(
こと
)
にはあやかりたくないワ』
108
万公
(
まんこう
)
『お
寅
(
とら
)
さま、
109
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り
誰
(
たれ
)
も
預
(
あづか
)
り
手
(
て
)
がありませぬ。
110
元
(
もと
)
は
貴女
(
あなた
)
の
所有品
(
しよいうひん
)
でせう。
111
貴女
(
あなた
)
のものが
貴女
(
あなた
)
に
返
(
かへ
)
るのは
当然
(
たうぜん
)
だ。
112
なかなか
二百
(
にひやく
)
両
(
りやう
)
や
三百
(
さんびやく
)
両
(
りやう
)
で
買
(
か
)
へる
物
(
もの
)
ぢやありませぬデー。
113
貴女
(
あなた
)
、
114
お
持
(
も
)
ちになつたら
何
(
ど
)
うです』
115
お
寅
(
とら
)
『
一旦
(
いつたん
)
欲
(
ほ
)
しいと
思
(
おも
)
つて
盗
(
ぬす
)
んだ
此
(
この
)
櫛
(
くし
)
には
霊
(
れい
)
がやどつて
居
(
ゐ
)
るから、
116
此
(
この
)
お
寅
(
とら
)
は
手
(
て
)
にふれるのも
嫌
(
いや
)
です。
117
頭
(
あたま
)
が
痛
(
いた
)
うなりますからなア』
118
万公
(
まんこう
)
『ハー、
119
やつぱりさうするとリーンとキツウ
頭
(
あたま
)
へ
来
(
く
)
るのだなア。
120
何程
(
なにほど
)
改心
(
かいしん
)
しても
悋気
(
りんき
)
といふものは
又
(
また
)
特別
(
とくべつ
)
と
見
(
み
)
えるワイ、
121
アハヽヽヽ』
122
松彦
(
まつひこ
)
『くしみたま
神
(
かみ
)
のまにまに
幸
(
さち
)
はひて
123
曲
(
まが
)
の
行方
(
ゆくへ
)
をさとし
給
(
たま
)
へり』
124
お
寅
(
とら
)
『わがくしにめぐり
会
(
あ
)
ひたる
今日
(
けふ
)
の
空
(
そら
)
125
くしき
御神
(
みかみ
)
の
守
(
まも
)
りなるらむ。
126
縺
(
もつ
)
れたる
毛
(
け
)
をときわけるくしみたま
127
神
(
かみ
)
のまにまに
通
(
とほ
)
り
行
(
ゆ
)
く
哉
(
かな
)
。
128
世
(
よ
)
のもつれときわくるてふ
[
※
世の縺れ、説き分けるという
]
くしみたま
129
思
(
おも
)
ひもよらず
此処
(
ここ
)
で
見
(
み
)
るかな』
130
松彦
(
まつひこ
)
『サア
参
(
まゐ
)
りませう』
131
と
又
(
また
)
もや
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
ひながら
怪
(
あや
)
しの
森
(
もり
)
指
(
さ
)
して
歩
(
あゆ
)
みを
急
(
いそ
)
ぐ。
132
コー、
133
ワク、
134
エムの
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
細
(
ほそ
)
い
道
(
みち
)
に
胡床
(
あぐら
)
をかき、
135
シブシブしながら
番卒
(
ばんそつ
)
をつとめてゐる。
136
コー『オイ、
137
又
(
また
)
誰
(
たれ
)
かやつて
来
(
き
)
たぞ。
138
どうやら
今度
(
こんど
)
は
痛手
(
いたで
)
らしいやうだ。
139
あの
宣伝歌
(
せんでんか
)
は
屹度
(
きつと
)
三五教
(
あななひけう
)
だ。
140
ウラル
教
(
けう
)
が
通
(
とほ
)
りよるとボロイんだけどなア』
141
ワク『オイ、
142
そんな
陽気
(
やうき
)
な
事
(
こと
)
をいつて
居
(
ゐ
)
る
処
(
どころ
)
ぢやない。
143
森
(
もり
)
の
木蔭
(
こかげ
)
へでも
隠
(
かく
)
れたらどうだ』
144
コー『
何
(
なん
)
のための
番卒
(
ばんそつ
)
だ。
145
仮令
(
たとへ
)
殺
(
ころ
)
されたつて
此処
(
ここ
)
を
離
(
はな
)
れる
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
るものか。
146
八
(
はつ
)
尺
(
しやく
)
の
男子
(
だんし
)
がサウ
無暗
(
むやみ
)
に
敵
(
てき
)
に
怖
(
おそ
)
れて
逃
(
に
)
げるといふ
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ようかい』
147
エム『ソレでも
片彦
(
かたひこ
)
将軍
(
しやうぐん
)
、
148
久米彦
(
くめひこ
)
将軍
(
しやうぐん
)
は
数百
(
すうひやく
)
名
(
めい
)
の
騎馬隊
(
きばたい
)
を
引率
(
ひきつ
)
れて、
149
言霊
(
ことたま
)
を
打出
(
うちだ
)
されて
脆
(
もろ
)
くも
敗走
(
はいそう
)
したぢやないか。
150
吾々
(
われわれ
)
の
如
(
ごと
)
き
一兵卒
(
いつぺいそつ
)
は
逃
(
に
)
げたつて
恥
(
はぢ
)
にもならねば、
151
職務
(
しよくむ
)
不忠実
(
ふちうじつ
)
の
罪
(
つみ
)
に
問
(
と
)
はれる
筈
(
はず
)
がないぢやないか』
152
コー『
大将
(
たいしやう
)
が
逃
(
に
)
げても
失敗
(
しつぱい
)
しても
決
(
けつ
)
して
咎
(
とが
)
めはないが、
153
吾々
(
われわれ
)
は
一
(
ひと
)
つ
失敗
(
しつぱい
)
しようものならソレこそ
首
(
くび
)
だよ。
154
それだから、
155
なるのなら
牛
(
うし
)
の
尻尾
(
しつぽ
)
になるよりも、
156
雀
(
すずめ
)
の
頭
(
あたま
)
になれといふのだ』
157
エム『そんな
不公平
(
ふこうへい
)
な
事
(
こと
)
が
何
(
ど
)
うしてあるのだらうな。
158
大将
(
たいしやう
)
だつて
俺
(
おれ
)
だつて、
159
生命
(
いのち
)
の
惜
(
を
)
しいのは
同様
(
どうやう
)
ぢやないか』
160
コー『なアに
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
は
戦
(
いくさ
)
に
臨
(
のぞ
)
めば
矢受
(
やう
)
けに
代用
(
だいよう
)
されるのだ。
161
一将
(
いつしやう
)
功
(
こう
)
成
(
な
)
らむとすれば
万卒
(
ばんそつ
)
骨
(
ほね
)
を
枯
(
か
)
らさなくてはならぬのだ。
162
つまり
言
(
い
)
へば
築港
(
ちくこう
)
の
埋草
(
うめぐさ
)
見
(
み
)
たやうなものだなア』
163
エム『そんな
事
(
こと
)
聞
(
き
)
くと
阿呆
(
あはう
)
らしくて、
164
こんな
職務
(
しよくむ
)
は
出来
(
でき
)
ないぢやないか』
165
コー『だつて
外
(
ほか
)
に
芸
(
げい
)
があるぢやなし、
166
学問
(
がくもん
)
があるぢやなし、
167
商売
(
しやうばい
)
しようにも
資本
(
もとで
)
はなし、
168
又
(
また
)
世間
(
せけん
)
の
奴
(
やつ
)
からはゲジゲジの
様
(
やう
)
に
嫌
(
きら
)
はれ、
169
行
(
ゆ
)
き
詰
(
つま
)
つたから
仕方
(
しかた
)
なしに、
170
こんな
処
(
ところ
)
へ
堕落
(
だらく
)
したのぢやないか。
171
今
(
いま
)
のポリスだつてさうだろ。
172
誰
(
たれ
)
も
相手
(
あひて
)
にしてくれないから、
173
安
(
やす
)
い
月給
(
げつきふ
)
で
人民
(
じんみん
)
に
威張
(
ゐば
)
るのを
役徳
(
やくとく
)
として
仕
(
つか
)
へてゐるのだ』
174
ワク『それだけ
信用
(
しんよう
)
のないものが、
175
ポリスになつても
人間
(
にんげん
)
が
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
くだらうかなア』
176
コー『
予言者
(
よげんしや
)
と
同様
(
どうやう
)
に
郷里
(
きやうり
)
では
駄目
(
だめ
)
だ。
177
それだから
百
(
ひやく
)
里
(
り
)
も
二百
(
にひやく
)
里
(
り
)
も
遠
(
とほ
)
い
処
(
ところ
)
へやつて
使
(
つか
)
ふのだ。
178
さうすればドンナ
極道
(
ごくだう
)
だつて、
179
戸倒
(
どたふ
)
しものだつて、
180
博奕打
(
ばくちうち
)
だつて、
181
立派
(
りつぱ
)
な
御
(
お
)
役人
(
やくにん
)
様
(
さま
)
になれるのだからなア。
182
俺
(
おれ
)
だつてさうだらう。
183
チヨイ
博奕
(
ばくち
)
も
打
(
う
)
ち、
184
バサンしやていに、
185
カヽしやてい、
186
さくい
女
(
をんな
)
のシリを
追
(
お
)
ひ
廻
(
まは
)
して
村中
(
むらぢう
)
から
忌
(
い
)
み
嫌
(
きら
)
はれ、
187
叩
(
たた
)
き
出
(
だ
)
され、
188
乞食
(
こじき
)
になつてハルナの
都
(
みやこ
)
へ
彷徨
(
さまよ
)
ひ、
189
到頭
(
たうとう
)
生命
(
いのち
)
の
的
(
まと
)
の
商売
(
しやうばい
)
にありつかして
貰
(
もら
)
つたのだ。
190
貴様
(
きさま
)
だつて
皆
(
みな
)
さうだらう。
191
宅
(
うち
)
に
女房
(
にようばう
)
が
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
るなんて、
192
何程
(
なにほど
)
偉
(
えら
)
さうにいつても
女房
(
にようばう
)
のあるやうなものが、
193
こんな
事
(
こと
)
をするものかい』
194
エム『ソレはさうだ。
195
自分
(
じぶん
)
の
親類
(
しんるゐ
)
や
近所
(
きんじよ
)
の
事
(
こと
)
をいつてゐるのだよ。
196
併
(
しか
)
し
俺
(
おれ
)
だつて、
197
ワクだつて、
198
貴様
(
きさま
)
だつて、
199
人交
(
ひとまじ
)
はりもせず、
200
家庭
(
かてい
)
もつくらずに、
201
此
(
この
)
儘
(
まま
)
朽
(
く
)
ち
果
(
は
)
つるやうな
事
(
こと
)
は
滅多
(
めつた
)
にあるまい。
202
併
(
しか
)
し
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
几帳面
(
きちやうめん
)
に
渡
(
わた
)
ると
損
(
そん
)
だ。
203
今
(
いま
)
彼処
(
あしこ
)
にやつて
来
(
く
)
る
宣伝使
(
せんでんし
)
に
対
(
たい
)
しても
甘
(
うま
)
く
下
(
した
)
から
出
(
で
)
るのだね』
204
斯
(
か
)
く
話
(
はな
)
す
処
(
ところ
)
へ、
205
松彦
(
まつひこ
)
一隊
(
いつたい
)
は
早
(
はや
)
くも
近付
(
ちかづ
)
き
来
(
きた
)
り
三
(
さん
)
人
(
にん
)
に
向
(
むか
)
つて、
206
松彦
(
まつひこ
)
『
一寸
(
ちよつと
)
物
(
もの
)
を
伺
(
うかが
)
ひます。
207
貴方
(
あなた
)
はバラモンの
軍人
(
ぐんじん
)
と
見
(
み
)
えますが、
208
此処
(
ここ
)
を
二十才
(
はたち
)
ばかりの
女
(
をんな
)
と、
209
四十
(
しじふ
)
格好
(
かくかう
)
の
男
(
をとこ
)
が
通
(
とほ
)
りは
致
(
いた
)
しませぬか』
210
コー『
其
(
その
)
方
(
はう
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
であらう。
211
若
(
わか
)
い
男女
(
だんぢよ
)
の
道
(
みち
)
行
(
ゆ
)
きを
尋
(
たづ
)
ねて
何
(
なん
)
といたすか。
212
それよりも
此
(
この
)
関門
(
くわんもん
)
を
通過
(
つうくわ
)
さす
事
(
こと
)
は
罷
(
まか
)
りならぬぞ。
213
浮木
(
うきき
)
の
村
(
むら
)
にはランチ
将軍
(
しやうぐん
)
様
(
さま
)
の
軍隊
(
ぐんたい
)
が
宿営
(
しゆくえい
)
して
仮本営
(
かりほんえい
)
が
出来
(
でき
)
て
居
(
ゐ
)
る。
214
それ
故
(
ゆゑ
)
汝
(
なんぢ
)
如
(
ごと
)
きものは
一歩
(
いつぽ
)
たりとも、
215
これより
踏
(
ふ
)
み
入
(
い
)
らす
事
(
こと
)
は
罷
(
まか
)
りならぬのだ。
216
サア
早
(
はや
)
く
帰
(
かへ
)
つたがよからうぞ。
217
召捕
(
めしとら
)
へられて
本陣
(
ほんぢん
)
にひき
行
(
ゆ
)
くべきところなれど、
218
其
(
その
)
方
(
はう
)
の
心次第
(
こころしだい
)
に
依
(
よ
)
つては
許
(
ゆる
)
してやらぬ
事
(
こと
)
もない』
219
松彦
『
別
(
べつ
)
に
貴方
(
あなた
)
の
許
(
ゆる
)
しを
受
(
う
)
けなくとも、
220
吾々
(
われわれ
)
は
自由
(
じいう
)
に
此処
(
ここ
)
を
通過
(
つうくわ
)
いたす
権利
(
けんり
)
を
保有
(
ほいう
)
してゐるのだ。
221
併
(
しか
)
し
何
(
なに
)
か
要求
(
えうきう
)
すべき
事
(
こと
)
があらば
聞
(
き
)
いてやらう。
222
それと
交換
(
かうくわん
)
に
此
(
この
)
関門
(
くわんもん
)
をゴテゴテ
言
(
い
)
はずに
通
(
とほ
)
したがよからう』
223
コー
『オツと
御
(
お
)
出
(
い
)
でたよ。
224
流石
(
さすが
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
、
225
実
(
じつ
)
の
処
(
ところ
)
はランチ
将軍
(
しやうぐん
)
も
片彦
(
かたひこ
)
将軍
(
しやうぐん
)
も
三五教
(
あななひけう
)
ときけばビリビリものです。
226
併
(
しか
)
しながら
今度
(
こんど
)
は
充分
(
じうぶん
)
の
軍備
(
ぐんび
)
を
整
(
ととの
)
へ、
227
手具脛
(
てぐすね
)
ひいて
待
(
ま
)
つてゐるのだから、
228
うつかり
御
(
お
)
出
(
い
)
でになれば
命
(
いのち
)
がない。
229
それだから
貴方
(
あなた
)
の
出様
(
でやう
)
一
(
ひと
)
つによつては
安全
(
あんぜん
)
な
間道
(
かんだう
)
を
教
(
をし
)
へてやらぬ
事
(
こと
)
もないのだ。
230
今
(
いま
)
通
(
とほ
)
つた
男
(
をとこ
)
は
蠑螈別
(
いもりわけ
)
といふ
気
(
き
)
の
利
(
き
)
いた
奴
(
やつ
)
で、
231
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
に
千
(
せん
)
円
(
ゑん
)
の
気
(
き
)
づけを
呉
(
く
)
れ
居
(
を
)
つた。
232
三
(
さん
)
人
(
にん
)
で
千
(
せん
)
円
(
ゑん
)
ぢやないぞ、
233
一人
(
ひとり
)
に
千
(
せん
)
円
(
ゑん
)
だぞ。
234
勘定
(
かんぢやう
)
違
(
ちが
)
ひをせぬやうに
其
(
その
)
方
(
はう
)
も
何
(
なん
)
とか
考
(
かんが
)
へねばいけない』
235
松彦
『ヤア
有難
(
ありがた
)
い、
236
重
(
おも
)
たいけれど
其
(
その
)
千
(
せん
)
円
(
ゑん
)
を
頂
(
いただ
)
いて
行
(
ゆ
)
かう。
237
今
(
いま
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
強
(
つよ
)
いものの
強
(
つよ
)
い、
238
弱
(
よわ
)
いものの
弱
(
よわ
)
い
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
だ。
239
弱
(
よわ
)
い
奴
(
やつ
)
に
金
(
かね
)
をやつてたまらうかい。
240
其
(
その
)
方
(
はう
)
は
三
(
さん
)
人
(
にん
)
で
三千
(
さんぜん
)
円
(
ゑん
)
持
(
も
)
つて
居
(
ゐ
)
ると
言
(
い
)
つたな。
241
其処
(
そこ
)
に
二人
(
ふたり
)
の
男
(
をとこ
)
が
居
(
ゐ
)
るやうだ。
242
其
(
その
)
方
(
はう
)
は
二人
(
ふたり
)
で
千
(
せん
)
円
(
ゑん
)
持
(
も
)
つてるのだろ。
243
さうすれば
四千
(
よんせん
)
円
(
ゑん
)
だ。
244
俺
(
おれ
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
兼
(
けん
)
大泥棒
(
おほどろばう
)
だ。
245
サア、
246
サツパリと
四千
(
よんせん
)
円
(
ゑん
)
耳
(
みみ
)
を
揃
(
そろ
)
へて
此処
(
ここ
)
へツン
出
(
だ
)
せばよし、
247
グヅグヅ
吐
(
ぬか
)
すと
承知
(
しようち
)
いたさぬぞ』
248
コー
『オイ、
249
ワク、
250
エム、
251
サツパリだ。
252
エーー、
253
モ
千
(
せん
)
円
(
ゑん
)
儲
(
まう
)
けようと
思
(
おも
)
つたに、
254
サツパリ
出
(
だ
)
せと
吐
(
ぬか
)
しやがる。
255
あんな
事
(
こと
)
をいつて
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
を
威
(
おど
)
かすのだらう』
256
松彦
『アハヽヽヽ、
257
威
(
おど
)
してゐるのだ。
258
其
(
その
)
方
(
はう
)
も
威
(
おど
)
して
取
(
と
)
つたのだらう。
259
今
(
いま
)
の
処世
(
しよせい
)
の
上手
(
じやうづ
)
な
奴
(
やつ
)
は
上
(
うへ
)
から
下
(
した
)
まで
皆
(
みな
)
威
(
おど
)
してゐるのだ。
260
弱点
(
じやくてん
)
のある
人間
(
にんげん
)
を
威
(
おど
)
さなくて
誰
(
たれ
)
を
威
(
おど
)
すのだ。
261
サ
其
(
その
)
方
(
はう
)
は
蠑螈別
(
いもりわけ
)
から
四千
(
よんせん
)
円
(
ゑん
)
の
金子
(
きんす
)
を
取
(
と
)
つた
泥棒
(
どろばう
)
だらう。
262
此
(
この
)
方
(
はう
)
に
渡
(
わた
)
せばとて
決
(
けつ
)
して
其
(
その
)
方
(
はう
)
の
会計
(
くわいけい
)
に
欠損
(
けつそん
)
の
行
(
ゆ
)
く
道理
(
だうり
)
はなからう。
263
其
(
そ
)
の
金
(
かね
)
は
今
(
いま
)
此処
(
ここ
)
にゐるお
寅
(
とら
)
さまの
臍繰金
(
へそくりがね
)
を
盗
(
ぬす
)
んで
逃
(
に
)
げた
性念
(
しやうねん
)
の
入
(
はい
)
つた
金
(
かね
)
だ。
264
サア、
265
キリキリチヤツと
渡
(
わた
)
さぬか』
266
コー
『モシ、
267
渡
(
わた
)
さぬ
事
(
こと
)
はありませぬが、
268
折角
(
せつかく
)
喜
(
よろこ
)
んで
目
(
め
)
の
正
(
しやう
)
月
(
ぐわつ
)
、
269
心
(
こころ
)
の
餓辛
(
がしん
)
では
堪
(
たま
)
りませぬからね。
270
何卒
(
どうぞ
)
百
(
ひやく
)
円
(
ゑん
)
だけ
私
(
わたし
)
に
貰
(
もら
)
ふ
訳
(
わけ
)
には
行
(
ゆ
)
きますまいかなア』
271
松彦
『アハヽヽヽ、
272
嘘
(
うそ
)
だ。
273
取
(
と
)
る
奴
(
やつ
)
も
取
(
と
)
られる
奴
(
やつ
)
も
因縁
(
いんねん
)
があるのだろ。
274
因縁
(
いんねん
)
がなくては
取
(
と
)
られようと
思
(
おも
)
つたつて
取
(
と
)
られず、
275
取
(
と
)
らうと
思
(
おも
)
つても
取
(
と
)
れるものぢやない。
276
やつぱり
貴様
(
きさま
)
が
御
(
お
)
蔭
(
かげ
)
を
頂
(
いただ
)
いたのだろ』
277
コー
『ハイ、
278
実
(
じつ
)
は
先方
(
むかう
)
の
方
(
はう
)
から
請求
(
せいきう
)
せないのに
下
(
くだ
)
さつたのです。
279
それで
味
(
あぢ
)
をしめて
又
(
また
)
お
前
(
まへ
)
さまに
一
(
ひと
)
つ
威
(
おど
)
して
見
(
み
)
たら
呉
(
く
)
れるだらうかと
思
(
おも
)
つたのに、
280
反対
(
あべこべ
)
に
威
(
おど
)
かされて
肝
(
きも
)
を
冷
(
ひや
)
しました』
281
松彦
(
まつひこ
)
『その
金
(
かね
)
が
懐
(
ふところ
)
にあると
愉快
(
ゆくわい
)
だらうなア』
282
エム『ヘー
不思議
(
ふしぎ
)
なものです。
283
寝
(
ね
)
ても
覚
(
さ
)
めても
千
(
せん
)
両
(
りやう
)
の
金
(
かね
)
があつたらあつたらと
思
(
おも
)
うてゐましたが、
284
今
(
いま
)
千
(
せん
)
両
(
りやう
)
の
金
(
かね
)
が
手
(
て
)
に
入
(
い
)
れば、
285
何
(
ど
)
れ
程
(
ほど
)
嬉
(
うれ
)
しいかと
思
(
おも
)
つてゐたのに、
286
どうしたものか
些
(
ちつと
)
も
嬉
(
うれ
)
しうはありませぬ。
287
貰
(
もら
)
うた
金
(
かね
)
でさへ
此
(
この
)
通
(
とほ
)
りですから、
288
盗
(
と
)
つた
金
(
かね
)
なら
尚更
(
なほさら
)
の
事
(
こと
)
でせう。
289
只今
(
ただいま
)
では
却
(
かへ
)
つて
心配
(
しんぱい
)
が
重
(
かさ
)
なつて
来
(
き
)
ました。
290
今
(
いま
)
も
貴方
(
あなた
)
に
威
(
おど
)
かされ、
291
此
(
この
)
金
(
かね
)
を
取
(
と
)
られちやならないと
思
(
おも
)
つて
大変
(
たいへん
)
に
気
(
き
)
をもみましたよ』
292
松彦
(
まつひこ
)
『アハヽヽヽ、
293
金
(
かね
)
が
仇
(
かたき
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
だなア。
294
コレお
寅
(
とら
)
さま、
295
お
前
(
まへ
)
さまの
一万
(
いちまん
)
両
(
りやう
)
の
金
(
かね
)
を
九千
(
きうせん
)
円
(
ゑん
)
まで
蠑螈別
(
いもりわけ
)
が
盗
(
ぬす
)
み
出
(
だ
)
して
此処迄
(
ここまで
)
やつて
来
(
き
)
たのだが、
296
どうも
気分
(
きぶん
)
が
悪
(
わる
)
いと
見
(
み
)
えて
四千
(
よんせん
)
円
(
ゑん
)
をバラまいて
行
(
い
)
つたのでせう。
297
蠑螈別
(
いもりわけ
)
も
嘸
(
さぞ
)
辛
(
つら
)
かつたでせう』
298
お
寅
(
とら
)
『
妾
(
わたし
)
だつて
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
社
(
やしろ
)
の
下
(
した
)
へ
一万
(
いちまん
)
両
(
りやう
)
を
隠
(
かく
)
し
置
(
お
)
き、
299
寒
(
さむ
)
い
晩
(
ばん
)
にもよう
寝
(
ね
)
もせずに、
300
何遍
(
なんべん
)
となくお
金
(
かね
)
の
面
(
かほ
)
をあらために
行
(
ゆ
)
き、
301
昼
(
ひる
)
は
昼
(
ひる
)
とて
随分
(
ずゐぶん
)
気
(
き
)
がもめましたが、
302
蠑螈別
(
いもりわけ
)
がもつて
行
(
い
)
つてくれてからは、
303
気楽
(
きらく
)
に
暖
(
ぬく
)
い
炬燵
(
こたつ
)
に
前後
(
ぜんご
)
も
知
(
し
)
らず
休
(
やす
)
まして
頂
(
いただ
)
きました。
304
かうなる
上
(
うへ
)
は
金
(
かね
)
の
必要
(
ひつえう
)
はありませぬ』
305
松彦
(
まつひこ
)
『
空
(
そら
)
飛
(
と
)
ぶ
鳥
(
とり
)
も、
306
野辺
(
のべ
)
に
咲
(
さ
)
く
山百合
(
やまゆり
)
の
花
(
はな
)
も、
307
神
(
かみ
)
は
之
(
これ
)
を
完全
(
くわんぜん
)
に
養
(
やしな
)
ひ
給
(
たま
)
ふのですから、
308
人間
(
にんげん
)
は
物質
(
ぶつしつ
)
上
(
じやう
)
の
欲
(
よく
)
を
去
(
さ
)
らねばなりませぬ。
309
禽獣
(
きんじう
)
虫魚
(
ちうぎよ
)
さへも
何
(
なん
)
の
貯蓄
(
ちよちく
)
もせず、
310
其
(
その
)
日
(
ひ
)
を
送
(
おく
)
つてゐます。
311
況
(
ま
)
して
吾々
(
われわれ
)
人間
(
にんげん
)
に
神
(
かみ
)
の
恵
(
めぐみ
)
の
降
(
くだ
)
らない
事
(
こと
)
がありませうか』
312
コー『モシモシ
此
(
この
)
千
(
せん
)
円
(
ゑん
)
の
金
(
かね
)
、
313
何卒
(
どうぞ
)
お
寅
(
とら
)
さまとやら
元
(
もと
)
へ
収
(
をさ
)
めて
下
(
くだ
)
さい、
314
モウ
要
(
い
)
りませぬワ。
315
そんな
話
(
はなし
)
を
聞
(
き
)
くと
怖
(
おそ
)
ろしくなつて
来
(
き
)
ました。
316
なあワク、
317
エム、
318
貴様
(
きさま
)
も
同感
(
どうかん
)
だらう』
319
ワク『
何
(
なん
)
だか
胸
(
むね
)
がワクワクして
来
(
き
)
たやうだ』
320
エム『エムに
襲
(
おそ
)
はれたやうな
気
(
き
)
がするよ』
321
松彦
(
まつひこ
)
『
金
(
かね
)
は
婦女子
(
ふぢよし
)
小人
(
せうじん
)
の
持
(
も
)
つべきものだ。
322
聖人
(
せいじん
)
君子
(
くんし
)
に
金
(
かね
)
はいらない。
323
お
寅
(
とら
)
さまも
今日
(
けふ
)
から
聖人
(
せいじん
)
になつたのだから
金
(
かね
)
の
必要
(
ひつえう
)
はない。
324
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
もこれから
聖人
(
せいじん
)
君子
(
くんし
)
の
域
(
ゐき
)
に
進
(
すす
)
むには
其
(
その
)
金
(
かね
)
の
必要
(
ひつえう
)
はあるだろ。
325
肝腎
(
かんじん
)
のお
寅
(
とら
)
さまが
許
(
ゆる
)
してくれた
以上
(
いじやう
)
は、
326
喜
(
よろこ
)
んで
使用
(
しよう
)
したがよからう。
327
ナアお
寅
(
とら
)
さま、
328
貴女
(
あなた
)
未練
(
みれん
)
はありますまいね』
329
お
寅
(
とら
)
『
決
(
けつ
)
して
決
(
けつ
)
して
未練
(
みれん
)
なんか
鵜
(
う
)
の
毛
(
け
)
の
露
(
つゆ
)
程
(
ほど
)
も
持
(
も
)
つて
居
(
を
)
りませぬ。
330
皆
(
みな
)
さま、
331
私
(
わたし
)
の
罪
(
めぐり
)
をとると
思
(
おも
)
うて
御
(
お
)
助
(
たす
)
けだ。
332
私
(
わたし
)
ばかりか
蠑螈別
(
いもりわけ
)
さまもそれで
安心
(
あんしん
)
が
出来
(
でき
)
るだらう』
333
(
大正一一・一二・一六
旧一〇・二八
外山豊二
録)
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