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霊界物語
舎身活躍(第37~48巻)
第46巻(酉の巻)
序文
総説
第1篇 仕組の縺糸
第1章 榛並樹
第2章 慰労会
第3章 噛言
第4章 沸騰
第5章 菊の薫
第6章 千代心
第7章 妻難
第2篇 狐運怪会
第8章 黒狐
第9章 文明
第10章 唖狐外れ
第11章 変化神
第12章 怪段
第13章 通夜話
第3篇 神明照赫
第14章 打合せ
第15章 黎明
第16章 想曖
第17章 惟神の道
第18章 エンゼル
第4篇 謎の黄板
第19章 怪しの森
第20章 金の力
第21章 民の虎声
第22章 五三嵐
第23章 黄金華
余白歌
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第46巻(酉の巻)
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<<< 妻難
(B)
(N)
文明 >>>
第八章
黒狐
(
くろぎつね
)
〔一二一八〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第46巻 舎身活躍 酉の巻
篇:
第2篇 狐運怪会
よみ(新仮名遣い):
こうんかいかい
章:
第8章 黒狐
よみ(新仮名遣い):
くろぎつね
通し章番号:
1218
口述日:
1922(大正11)年12月15日(旧10月27日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年9月25日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
お寅は昼過ぎになっても蠑螈別が帰ってこないので業を煮やし、松姫館に乗り込んで松彦と松姫に文句を言い始めた。
そこへお菊がやってきてお寅を呼びに来た。聞けば蠑螈別が帰ってきたのだという。お寅は喜んで飛び出していくが、それは蠑螈別に化けた狐であった。
狐の蠑螈別はお寅に三万両を渡すと、自分は二十七万両持っているから、それを持ってお民と一緒にどこかで暮らすのだという。
お寅はびっくりして蠑螈別に武者ぶりつくが、蠑螈別の姿はどこかえ消えて代わりに長い毛の生えた牛の子のような大狐がのそりのそりと森林へ逃げて行った。
この狐はお寅の副守護神で小北山の狐の親玉であった。松彦、松姫、五三公の神威におそれをなして姿を現し、お寅の肉体から離れて行ったのであった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2023-03-11 18:06:50
OBC :
rm4608
愛善世界社版:
107頁
八幡書店版:
第8輯 397頁
修補版:
校定版:
111頁
普及版:
43頁
初版:
ページ備考:
001
お
寅
(
とら
)
は
昼過
(
ひるすぎ
)
になつても
蠑螈別
(
いもりわけ
)
が
帰
(
かへ
)
つて
来
(
こ
)
ないので、
002
ソロソロ
神
(
かみ
)
の
神力
(
しんりき
)
を
疑
(
うたが
)
ひ
出
(
だ
)
し、
003
松姫館
(
まつひめやかた
)
に
駆
(
か
)
け
込
(
こ
)
んだ。
004
お
寅
(
とら
)
『ご
免
(
めん
)
なさいませ、
005
お
邪魔
(
じやま
)
にはなりませぬかな、
006
下
(
した
)
の
御
(
お
)
広間
(
ひろま
)
は
随分
(
ずゐぶん
)
乱痴気
(
らんちき
)
騒
(
さわ
)
ぎが
起
(
おこ
)
つてゐましたが、
007
余
(
あま
)
り
御
(
ご
)
夫婦
(
ふうふ
)
仲
(
なか
)
がいいので、
008
お
耳
(
みみ
)
に
達
(
たつ
)
せなかつたと
見
(
み
)
えますな。
009
ソリヤ
無理
(
むり
)
も
厶
(
ござ
)
いませぬワ』
010
松姫
(
まつひめ
)
『あゝお
寅
(
とら
)
さま、
011
よう
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいました、
012
何
(
なに
)
か
急用
(
きふよう
)
でも
出来
(
でき
)
ましたのですか』
013
お寅
『コレ、
014
贋
(
にせ
)
の
上義姫
(
じやうぎひめ
)
様
(
さま
)
、
015
ようそんな
事
(
こと
)
をヌツケリコと
言
(
い
)
うてゐられますな。
016
蠑螈別
(
いもりわけ
)
さまはどうして
下
(
くだ
)
さつたのです。
017
早
(
はや
)
うて
夜明
(
よあけ
)
、
018
遅
(
おそ
)
くて
昼
(
ひる
)
時分
(
じぶん
)
には
引寄
(
ひきよ
)
せてやらうと
仰有
(
おつしや
)
つたぢやありませぬか。
019
モウ
殆
(
ほとん
)
ど
八
(
や
)
つ
時
(
どき
)
、
020
蠑螈別
(
いもりわけ
)
さまの
影
(
かげ
)
もささぬぢやありませぬか』
021
松姫
『あゝさうでしたねえ、
022
お
気
(
き
)
のもめた
事
(
こと
)
でせう。
023
もし
松彦
(
まつひこ
)
さま、
024
蠑螈別
(
いもりわけ
)
さまはどうなつたのでせうかな』
025
松彦
(
まつひこ
)
『さうだなア、
026
お
寅
(
とら
)
さまの
改心
(
かいしん
)
次第
(
しだい
)
だ。
027
二
(
ふた
)
つ
目
(
め
)
にはつねられたり、
028
鼻
(
はな
)
をねぢられたりしられちや、
029
誰
(
たれ
)
だつてコリコリするからな』
030
お
寅
(
とら
)
『コレ、
031
贋
(
にせ
)
の
末代
(
まつだい
)
様
(
さま
)
、
032
お
前
(
まへ
)
さまは
私
(
わたし
)
に
何
(
なん
)
と
仰有
(
おつしや
)
つた。
033
そんなウソを
言
(
い
)
つて、
034
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御用
(
ごよう
)
する
人
(
ひと
)
が、
035
よいのですか。
036
他
(
ほか
)
の
人
(
ひと
)
の
守護神
(
しゆごじん
)
はウソにした
所
(
ところ
)
で、
037
松姫
(
まつひめ
)
さまは
上義姫
(
じやうぎひめ
)
様
(
さま
)
、
038
あなたは
末代
(
まつだい
)
様
(
さま
)
に
違
(
ちがひ
)
ないと、
039
今
(
いま
)
の
今
(
いま
)
まで
深
(
ふか
)
く
信
(
しん
)
じて
居
(
を
)
りましたが、
040
そんなこと
仰有
(
おつしや
)
ると、
041
末代
(
まつだい
)
様
(
さま
)
も
上義姫
(
じやうぎひめ
)
様
(
さま
)
も、
042
疑
(
うたが
)
はずには
居
(
を
)
られませぬぞや』
043
松姫
(
まつひめ
)
『ホヽヽヽヽ、
044
あのお
寅
(
とら
)
さまの
六
(
むつ
)
かしいお
顔
(
かほ
)
わいの。
045
私
(
わたし
)
は
松姫
(
まつひめ
)
だと
云
(
い
)
つてるのに、
046
お
前
(
まへ
)
さま
等
(
ら
)
が
勝手
(
かつて
)
に
松
(
まつ
)
と
云
(
い
)
ふ
字
(
じ
)
がついとる
以上
(
いじやう
)
は、
047
末代
(
まつだい
)
様
(
さま
)
の
奥様
(
おくさま
)
の
霊
(
みたま
)
に
違
(
ちが
)
ひない。
048
さうすると
上義姫
(
じやうぎひめ
)
の
生宮
(
いきみや
)
だと、
049
お
前
(
まへ
)
さま
等
(
ら
)
がよつてかかつて
祭
(
まつ
)
り
上
(
あ
)
げたのぢやないか。
050
決
(
けつ
)
して
私
(
わたし
)
の
方
(
はう
)
から
上義姫
(
じやうぎひめ
)
だと
名告
(
なの
)
つたのぢやありませぬよ。
051
今更
(
いまさら
)
贋
(
にせ
)
だの
本物
(
ほんもの
)
だと
云
(
い
)
つて
貰
(
もら
)
つても、
052
私
(
わたし
)
に
関係
(
くわんけい
)
も
責任
(
せきにん
)
もないぢやありませぬか』
053
お寅
『そんなこた、
054
あとで
承
(
うけたま
)
はりませう。
055
一体
(
いつたい
)
全体
(
ぜんたい
)
、
056
蠑螈別
(
いもりわけ
)
さまは
何
(
ど
)
うなさつたのですか。
057
今日
(
けふ
)
帰
(
かへ
)
るとか
明日
(
あす
)
帰
(
かへ
)
るとか、
058
ハツキリと
白状
(
はくじやう
)
しなさい』
059
松姫
『ホヽヽヽヽ、
060
私
(
わたし
)
がかくしたものか
何
(
なん
)
ぞのやうに、
061
白状
(
はくじやう
)
しなさいとは
痛
(
いた
)
み
入
(
い
)
ります。
062
あんな
酒飲
(
さけのみ
)
男
(
をとこ
)
が
二日
(
ふつか
)
や
三日
(
みつか
)
居
(
を
)
らなくてもいいぢやありませぬか。
063
何一
(
なにひと
)
つ
世間
(
せけん
)
の
間
(
ま
)
にも
合
(
あ
)
はず、
064
酒
(
さけ
)
ばかり
飲
(
の
)
んでゐられちや、
065
どんな
物好
(
ものずき
)
な
人
(
ひと
)
だつて、
066
愛想
(
あいさう
)
をつかして
放
(
ほ
)
り
出
(
だ
)
して
了
(
しま
)
ひますよ。
067
さうすりや
止
(
や
)
むなく
此処
(
ここ
)
へ
帰
(
かへ
)
つて
来
(
こ
)
な
仕方
(
しかた
)
がないぢやありませぬか』
068
お寅
『お
金
(
かね
)
なしに
出
(
で
)
て
居
(
ゐ
)
るのなら
帰
(
かへ
)
つて
来
(
く
)
るかも
知
(
し
)
れませぬが、
069
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
九千
(
きうせん
)
両
(
りやう
)
の
金
(
かね
)
を
持
(
も
)
つてゐたのですから、
070
其
(
その
)
金
(
かね
)
を
持
(
も
)
つて、
071
そこら
中
(
ぢう
)
をお
民
(
たみ
)
の
奴
(
やつ
)
とウロつきますわいな』
072
松姫
『
何程
(
なにほど
)
ウロついたつて、
073
遊
(
あそ
)
んで
食
(
く
)
へば
山
(
やま
)
もなくなるとか
言
(
い
)
ひますから、
074
金
(
かね
)
さへなくなれば
帰
(
かへ
)
つて
来
(
こ
)
られますワイ。
075
何程
(
なにほど
)
沢山
(
たくさん
)
に
使
(
つか
)
つても、
076
九千
(
きうせん
)
両
(
りやう
)
あれば、
077
お
民
(
たみ
)
さまと
夫婦
(
ふうふ
)
が
二十
(
にじふ
)
年
(
ねん
)
や
三十
(
さんじふ
)
年
(
ねん
)
は
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
ですからなア、
078
マアそれ
迄
(
まで
)
お
待
(
ま
)
ちやしたら
何
(
ど
)
うです』
079
松彦
(
まつひこ
)
『ウツフヽヽヽ』
080
お
寅
(
とら
)
『コレ、
081
末代
(
まつだい
)
さま、
082
何
(
なに
)
が
可笑
(
をか
)
しい、
083
私
(
わたし
)
がこれだけ
気
(
き
)
をもんでるのに、
084
お
笑
(
わら
)
ひ
遊
(
あそ
)
ばすのか。
085
人
(
ひと
)
の
悲
(
かな
)
しみがあなたは
可笑
(
をか
)
しいのですか』
086
と
喰
(
く
)
つてかからうとする。
087
松姫
(
まつひめ
)
『
事情
(
じじやう
)
を
聞
(
き
)
けばお
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
ですが、
088
併
(
しか
)
しこれも
自分
(
じぶん
)
から
出
(
で
)
た
錆
(
さび
)
だから
仕方
(
しかた
)
がないぢやありませぬか。
089
チイと
金
(
かね
)
のありさうな
信者
(
しんじや
)
に、
090
リントウビテン
大臣
(
だいじん
)
とか、
091
五六七
(
みろく
)
成就
(
じやうじゆ
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
だとか、
092
旭
(
あさひ
)
の
豊栄昇
(
とよさかのぼ
)
り
姫
(
ひめ
)
、
093
岩照姫
(
いはてるひめ
)
、
094
木曽
(
きそ
)
義姫
(
よしひめ
)
などと、
095
ありもせぬ
名
(
な
)
をお
附
(
つ
)
け
遊
(
あそ
)
ばして、
096
随喜
(
ずいき
)
の
涙
(
なみだ
)
をこぼさせて
集
(
あつ
)
めたお
金
(
かね
)
が、
097
なぜあなたの
身
(
み
)
につきますか。
098
蠑螈別
(
いもりわけ
)
さまは、
099
お
前
(
まへ
)
さまの
罪
(
つみ
)
を
取
(
と
)
つて
上
(
あ
)
げようと
思
(
おも
)
つて、
100
其
(
その
)
金
(
かね
)
を
持
(
も
)
つてお
逃
(
に
)
げ
遊
(
あそ
)
ばしたのですよ。
101
つまり
蠑螈別
(
いもりわけ
)
さまとお
民
(
たみ
)
さまはお
前
(
まへ
)
さまの
罪取主
(
つみとりぬし
)
、
102
助
(
たす
)
け
舟
(
ぶね
)
、
103
命
(
いのち
)
の
御
(
ご
)
恩人
(
おんじん
)
だから
御
(
お
)
喜
(
よろこ
)
びなさい。
104
正
(
ただ
)
しき
信仰
(
しんかう
)
上
(
じやう
)
の
目
(
め
)
から
見
(
み
)
れば、
105
お
寅
(
とら
)
さま、
106
あなたは
随分
(
ずゐぶん
)
よい
御
(
お
)
かげを
頂
(
いただ
)
きましたね』
107
お
寅
(
とら
)
『
馬鹿
(
ばか
)
らしい、
108
こんな
御
(
お
)
かげが
何処
(
どこ
)
にありますか。
109
私
(
わたし
)
もこれから、
110
蠑螈別
(
いもりわけ
)
の
後
(
あと
)
を
追
(
お
)
つかけて、
111
金
(
かね
)
を
取返
(
とりかへ
)
し、
112
恨
(
うら
)
みを
言
(
い
)
はねば
承知
(
しようち
)
しませぬ』
113
松姫
『オホヽヽヽ、
114
貴女
(
あなた
)
の
恨
(
うらみ
)
はよう
利
(
き
)
きませうよ。
115
清浄
(
せいじやう
)
潔白
(
けつぱく
)
の
貴女
(
あなた
)
のお
言葉
(
ことば
)
なら
釘
(
くぎ
)
も
利
(
き
)
きませうが、
116
弱点
(
じやくてん
)
を
知
(
し
)
り
合
(
あ
)
うた
仲
(
なか
)
、
117
犬
(
いぬ
)
も
食
(
く
)
はぬ
夫婦
(
ふうふ
)
喧嘩
(
げんくわ
)
になつて
了
(
しま
)
ひますよ。
118
それにお
民
(
たみ
)
さまは
娘盛
(
むすめざか
)
りのキレイなお
方
(
かた
)
、
119
お
前
(
まへ
)
さまは
五十
(
ごじふ
)
の
尻
(
しり
)
を
作
(
つく
)
つた、
120
言
(
い
)
ふとすまぬが
古手婆
(
ふるてば
)
アさま、
121
誰
(
たれ
)
だつて
浮気者
(
うはきもの
)
だつたらお
民
(
たみ
)
さまの
方
(
はう
)
へ
肩
(
かた
)
をもつのは
当然
(
たうぜん
)
ですわ。
122
お
前
(
まへ
)
さまもいい
年
(
とし
)
して
蠑螈別
(
いもりわけ
)
様
(
さま
)
の
愛
(
あい
)
を
独占
(
どくせん
)
しようなぞとは
余
(
あま
)
り
虫
(
むし
)
がよ
過
(
す
)
ぎるぢやありませぬか。
123
貴女
(
あなた
)
、
124
其
(
その
)
鼻
(
はな
)
何
(
ど
)
うなさいました。
125
ハヂケてゐるぢやありませぬか。
126
大方
(
おほかた
)
夜前
(
やぜん
)
追
(
お
)
つかけていた
時
(
とき
)
に
転
(
こ
)
けて
打
(
う
)
ちなさつたのでせう。
127
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
教
(
をしへ
)
にも、
128
改心
(
かいしん
)
致
(
いた
)
さぬと
鼻
(
はな
)
を
打
(
う
)
たねばならぬ
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
るぞよと
示
(
しめ
)
されてあるぢやありませぬか。
129
貴方
(
あなた
)
は
実地
(
じつち
)
教育
(
けういく
)
をうけ、
130
結構
(
けつこう
)
な
御
(
お
)
かげを
頂
(
いただ
)
きやしたねえ、
131
本当
(
ほんたう
)
にお
羨
(
うらや
)
ましう
厶
(
ござ
)
いますワ』
132
お寅
『ヘン、
133
馬鹿
(
ばか
)
にしなさるな、
134
よい
加減
(
かげん
)
に
人
(
ひと
)
を
嘲斎坊
(
てうさいばう
)
にしておきなさい。
135
此
(
この
)
お
寅
(
とら
)
だつて
石地蔵
(
いしぢざう
)
や
人形
(
にんぎやう
)
ぢやありませぬから、
136
チツとは
性念
(
しやうねん
)
がありますよ。
137
お
前
(
まへ
)
さまは
松彦
(
まつひこ
)
さまといふ
夫
(
をつと
)
に
会
(
あ
)
ひ、
138
吾
(
わが
)
子
(
こ
)
が
分
(
わか
)
つたのだからソラ
嬉
(
うれ
)
しいでせう、
139
又
(
また
)
勢
(
いきほひ
)
も
強
(
つよ
)
いでせう。
140
それだからそんな
気強
(
きづよ
)
い
事
(
こと
)
がいへるのだ。
141
私
(
わたし
)
の
身
(
み
)
になつて
御覧
(
ごらん
)
なさい』
142
松彦
(
まつひこ
)
『モシお
寅
(
とら
)
さま、
143
モウいい
加減
(
かげん
)
に
蠑螈別
(
いもりわけ
)
さまのこたア
思
(
おも
)
ひ
切
(
き
)
られたら
何
(
ど
)
うです。
144
又
(
また
)
何
(
ど
)
うしても
夫
(
をつと
)
がなくちやならぬのならば、
145
適当
(
てきたう
)
な
男
(
をとこ
)
をお
世話
(
せわ
)
致
(
いた
)
しますワ』
146
お寅
『ヘン、
147
余
(
あま
)
り
馬鹿
(
ばか
)
にして
下
(
くだ
)
さるな、
148
私
(
わたし
)
は
男
(
をとこ
)
が
欲
(
ほ
)
しいので
騒
(
さわ
)
いでるのぢやありませぬ。
149
只
(
ただ
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
為
(
ため
)
、
150
世人
(
よびと
)
の
為
(
ため
)
になくてはならぬ
蠑螈別
(
いもりわけ
)
さまだから、
151
天下
(
てんか
)
の
為
(
ため
)
に
気
(
き
)
をいらつてゐるのですよ。
152
五十
(
ごじふ
)
の
尻
(
しり
)
を
作
(
つく
)
つて
男
(
をとこ
)
なんか
要
(
い
)
つてたまりますか。
153
そんな
柔弱
(
じうじやく
)
な
魂
(
たましひ
)
だと
思
(
おも
)
つて
貰
(
もら
)
ひますと、
154
ヘン、
155
チツト
片腹痛
(
かたはらいた
)
い』
156
松彦
『あゝさうですか。
157
それで
時々
(
ときどき
)
徳利
(
とくり
)
が
舞
(
ま
)
うたり、
158
盃
(
さかづき
)
が
砕
(
くだ
)
けたり、
159
鼻
(
はな
)
をねぢつたり、
160
気絶
(
きぜつ
)
したり、
161
いろいろな
珍妙
(
ちんめう
)
な
活劇
(
くわつげき
)
をおやりなさるのですな』
162
お寅
『エヽなになつと
勝手
(
かつて
)
に
言
(
い
)
つておかつしやい。
163
御
(
ご
)
夫婦
(
ふうふ
)
仲
(
なか
)
よう、
164
しつぽりとお
楽
(
たの
)
しみ、
165
左様
(
さやう
)
なら、
166
永
(
なが
)
らく
殺風景
(
さつぷうけい
)
な
婆
(
ばば
)
アが
久
(
ひさ
)
しぶりの
御
(
ご
)
対面
(
たいめん
)
、
167
嬉
(
うれ
)
し
泣
(
な
)
きの
場面
(
ばめん
)
を
汚
(
けが
)
しましてはすみませぬ。
168
エライお
邪魔
(
じやま
)
を
致
(
いた
)
しました。
169
気
(
き
)
の
利
(
き
)
かぬ
婆
(
ばば
)
アで
厶
(
ござ
)
いますから、
170
どうぞお
許
(
ゆる
)
し
下
(
くだ
)
さいませ』
171
かく
毒
(
どく
)
ついてる
所
(
ところ
)
へ、
172
スタスタと
上
(
あが
)
つて
来
(
き
)
たのはお
菊
(
きく
)
であつた。
173
お
菊
(
きく
)
『ご
免
(
めん
)
なさいませ、
174
お
寅
(
とら
)
さま、
175
否
(
いや
)
お
母
(
あ
)
アさまは
来
(
き
)
てゐられますかな』
176
お
寅
(
とら
)
『コレお
菊
(
きく
)
、
177
お
前
(
まへ
)
は
何
(
なに
)
しに、
178
こんな
所
(
ところ
)
へ
来
(
く
)
るのだい、
179
サアお
帰
(
かへ
)
りお
帰
(
かへ
)
り、
180
年
(
とし
)
も
行
(
ゆ
)
かぬくせに
小
(
こ
)
マしやくれた、
181
ぢきに
私
(
わたし
)
の
内証話
(
ないしようばなし
)
を
聞
(
き
)
きに
来
(
く
)
るのぢやな』
182
お菊
『
別
(
べつ
)
に
聞
(
き
)
きに
来
(
き
)
たいこたないのだけれど、
183
何時
(
いつ
)
も
蠑螈別
(
いもりわけ
)
さまと
酒
(
さけ
)
に
酔
(
よ
)
うて、
184
大
(
おほ
)
きな
声
(
こゑ
)
で
悋気
(
りんき
)
喧嘩
(
げんくわ
)
をなさるものだから、
185
又
(
また
)
ここへ
岡焼
(
をかやき
)
にでもしに
厶
(
ござ
)
つたのかと
案
(
あん
)
じて
来
(
き
)
て
見
(
み
)
たのよ。
186
お
母
(
か
)
アさまは
法界
(
ほふかい
)
悋気
(
りんき
)
が
上手
(
じやうづ
)
だからねえ』
187
お寅
『
早
(
はや
)
く
帰
(
かへ
)
りなさい』
188
お菊
『
五六七
(
みろく
)
成就
(
じやうじゆ
)
の
生宮
(
いきみや
)
さまと、
189
旭
(
あさひ
)
の
豊栄昇
(
とよさかのぼ
)
り
姫
(
ひめ
)
の
生宮
(
いきみや
)
さまとが
大広間
(
おほひろま
)
を
飛出
(
とびだ
)
し、
190
春
(
はる
)
さままでが
後
(
あと
)
について、
191
悪口
(
あくこう
)
タラダラ
坂
(
さか
)
を
降
(
くだ
)
り、
192
神政松
(
しんせいまつ
)
の
下
(
した
)
へ
行
(
い
)
つて、
193
十六本
(
じふろくぽん
)
の
松
(
まつ
)
を
引抜
(
ひきぬ
)
き、
194
岩
(
いは
)
を
砕
(
くだ
)
かうとして
居
(
ゐ
)
るさうぢやから、
195
一寸
(
ちよつと
)
知
(
し
)
らしに
来
(
き
)
たのよ』
196
お寅
『
松
(
まつ
)
位
(
ぐらゐ
)
引
(
ひ
)
いたつて、
197
また
植
(
う
)
ゑ
替
(
か
)
へたらいいのだ。
198
何程
(
なにほど
)
お
福
(
ふく
)
さまや
竹
(
たけ
)
さまが
力
(
ちから
)
が
強
(
つよ
)
うても、
199
あの
石
(
いし
)
はビクツともならないから、
200
放
(
ほ
)
つときなさい。
201
それよりも
早
(
はや
)
くお
帰
(
かへ
)
り』
202
お菊
『それなら
帰
(
かへ
)
りますワ。
203
万公
(
まんこう
)
さまが
首
(
くび
)
を
伸
(
の
)
ばして
待
(
ま
)
つてゐますからねえ』
204
松姫
(
まつひめ
)
『オホヽヽヽ』
205
お
寅
(
とら
)
『
親
(
おや
)
を
弄
(
なぶ
)
るといふ
事
(
こと
)
があるものかいな、
206
お
前
(
まへ
)
はそれ
程
(
ほど
)
万公
(
まんこう
)
さまに
惚
(
ほ
)
れてゐるのかい』
207
お
菊
(
きく
)
『
惚
(
ほ
)
れてますとも……ほれたほれた、
208
何
(
なに
)
がほれた、
209
馬
(
うま
)
が
小便
(
せうべん
)
して
地
(
ち
)
がほれた……といふ
程
(
ほど
)
惚
(
ほ
)
れてますのよ。
210
ホツホヽヽヽ、
211
併
(
しか
)
しお
母
(
か
)
アさま、
212
あなたの
喜
(
よろこ
)
ぶ
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
たのだけれど、
213
余
(
あま
)
り
憎
(
にく
)
らしい
事
(
こと
)
をいふから、
214
もう
言
(
い
)
はないワ、
215
ねえ
松姫
(
まつひめ
)
さま、
216
こんな
憎
(
にく
)
い
口
(
くち
)
を
叩
(
たた
)
くお
母
(
か
)
アさまには、
217
何
(
なん
)
ぼ
娘
(
むすめ
)
だつて、
218
バカらしうて
言
(
い
)
つてやれませぬわねえ』
219
松姫
(
まつひめ
)
『
結構
(
けつこう
)
な
方
(
かた
)
がみえましたね、
220
定
(
さだ
)
めてお
喜
(
よろこ
)
びでせう、
221
お
母
(
か
)
アさまは……』
222
お
寅
(
とら
)
『ナアニ、
223
結構
(
けつこう
)
な
事
(
こと
)
とは、
224
コレお
菊
(
きく
)
何
(
なん
)
ぢやいなア、
225
早
(
はや
)
く
言
(
い
)
つておくれ、
226
私
(
わたし
)
も
都合
(
つがふ
)
があるから』
227
お
菊
(
きく
)
『そらさうでせう。
228
言
(
い
)
はうかなア、
229
ヤツパリ
言
(
い
)
はうまいかなア、
230
こんな
事
(
こと
)
さうヅケヅケといつて
了
(
しま
)
ふと、
231
互
(
たがひ
)
に
楽
(
たのし
)
みが
薄
(
うす
)
くなるから、
232
これは
夢
(
ゆめ
)
にしておきませうかい』
233
お寅
『エヽ
焦心
(
じれつ
)
たい、
234
早
(
はや
)
く
言
(
い
)
はぬのかいなア』
235
お菊
『イのつく
人
(
ひと
)
が、
236
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のおかげで、
237
スタスタと
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
ましたよ』
238
お寅
『ナアニ、
239
蠑螈別
(
いもりわけ
)
さまがな、
240
さうだろさうだろ、
241
ヤア
松彦
(
まつひこ
)
さま、
242
松姫
(
まつひめ
)
さま、
243
誠
(
まこと
)
にすみませなんだ。
244
貴方
(
あなた
)
の
御
(
ご
)
神力
(
しんりき
)
は
偉
(
えら
)
いものですな。
245
御教
(
みをしへ
)
とは
一時半
(
ひとときはん
)
程
(
ほど
)
遅
(
おく
)
れましたけれど、
246
帰
(
かへ
)
つてさへくれたら、
247
これで
神政
(
しんせい
)
成就
(
じやうじゆ
)
の
太柱
(
ふとばしら
)
がつかめます。
248
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
もさぞお
喜
(
よろこ
)
びで
厶
(
ござ
)
いませう』
249
お菊
『
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
はお
喜
(
よろこ
)
びなさるか、
250
なさらぬか
知
(
し
)
りませぬが、
251
お
母
(
か
)
アさまは
嘸
(
さぞ
)
お
喜
(
よろこ
)
びでせうね。
252
私
(
わたし
)
だつて
余
(
あま
)
りイヤな
事
(
こと
)
は、
253
ない
事
(
こと
)
はありませぬわねえ、
254
ホツホヽヽヽ』
255
夢寐
(
むび
)
にも
忘
(
わす
)
れぬ
恋男
(
こひをとこ
)
256
待
(
ま
)
ちあぐみたる
其
(
その
)
時
(
とき
)
に
257
蠑螈別
(
いもりわけ
)
が
帰
(
かへ
)
つたと
258
聞
(
き
)
いてお
寅
(
とら
)
は
飛
(
と
)
び
上
(
あが
)
り
259
閻魔
(
えんま
)
のやうなきつい
顔
(
かほ
)
260
忽
(
たちま
)
ち
変
(
かは
)
る
地蔵
(
ぢざう
)
さま
261
松彦
(
まつひこ
)
夫婦
(
ふうふ
)
に
打向
(
うちむか
)
ひ
262
失礼
(
しつれい
)
な
事
(
こと
)
をベラベラと
263
お
喋
(
しやべ
)
り
申
(
まを
)
してすみませぬ
264
コレコレお
菊
(
きく
)
、お
前
(
まへ
)
さま
265
ここで
暫
(
しばら
)
く
御
(
おん
)
世話
(
せわ
)
に
266
なつてゐなされ
又
(
また
)
しても
267
内証話
(
ないしようばなし
)
をきかれては
268
みつともないと
言
(
い
)
ひながら
269
狐
(
きつね
)
のお
化
(
ばけ
)
と
知
(
し
)
らずして
270
誠
(
まこと
)
の
恋
(
こひ
)
しき
男
(
をとこ
)
だと
271
細
(
ほそ
)
き
階段
(
かいだん
)
トントンと
272
二
(
ふた
)
つ
三
(
みつ
)
つもふみまたげ
273
眼
(
まなこ
)
くらんでガラガラと
274
ころがる
拍子
(
ひやうし
)
に
頭
(
あたま
)
打
(
う
)
ち
275
アイタヽタツタと
言
(
い
)
ひながら
276
男
(
をとこ
)
に
心
(
こころ
)
を
取
(
と
)
られてや
277
頭
(
あたま
)
や
腰
(
こし
)
の
痛
(
いた
)
みをも
278
さのみ
心
(
こころ
)
にかけずして
279
転
(
ころ
)
げるやうに
下
(
くだ
)
りゆく
280
何
(
なに
)
は
兎
(
と
)
もあれ
教祖殿
(
けうそでん
)
281
帰
(
かへ
)
つて
蠑螈別
(
いもりわけ
)
さまに
282
不足
(
ふそく
)
のありだけ
言
(
い
)
ひ
並
(
なら
)
べ
283
お
金
(
かね
)
をこちらへボツたくり
284
動
(
うご
)
きの
取
(
と
)
れぬやうにして
285
男
(
をとこ
)
の
愛
(
あい
)
を
独占
(
どくせん
)
し
286
此
(
この
)
喜
(
よろこ
)
びはここよりは
287
外
(
ほか
)
にやらじと
酒
(
さけ
)
でつり
288
チツとも
外
(
そと
)
へは
出
(
だ
)
さぬよに
289
守
(
まも
)
らにやならぬと
囁
(
ささや
)
きつ
290
帰
(
かへ
)
つて
見
(
み
)
れば
蠑螈別
(
いもりわけ
)
291
火鉢
(
ひばち
)
の
前
(
まへ
)
に
丹前
(
たんぜん
)
を
292
かぶつたままに
泰然
(
たいぜん
)
と
293
すわつてゐるぞ
嬉
(
うれ
)
しけれ。
294
お
寅
(
とら
)
『マアマアマア、
295
よう
家
(
うち
)
を
覚
(
おぼ
)
えて
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
なさつたな。
296
私
(
わたし
)
は
又
(
また
)
、
297
どこのどなたか
知
(
し
)
らぬと
思
(
おも
)
ひましたよ。
298
あのマアすましたお
顔
(
かほ
)
わいの』
299
蠑螈
(
いもり
)
『
帰
(
かへ
)
つてくる
積
(
つもり
)
ではなかつたのだが、
300
どうしても
思
(
おも
)
ひ
切
(
き
)
れないものが
一
(
ひと
)
つあつたので
引返
(
ひつかへ
)
して
来
(
き
)
たのだ。
301
マア
酒
(
さけ
)
でも
出
(
だ
)
してくれ』
302
お寅
『
思
(
おも
)
ひ
切
(
き
)
れないものとは、
303
此
(
この
)
燗徳利
(
かんどくり
)
と
猪口
(
ちよく
)
でせう。
304
サアサアこんな
所
(
ところ
)
で
飲
(
の
)
んで
貰
(
もら
)
ふと、
305
又
(
また
)
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
をそこねるとすみませぬから、
306
早
(
はや
)
く
狐
(
きつね
)
の
森
(
もり
)
へでもいつて、
307
お
民
(
たみ
)
とシツポリやつて
来
(
き
)
なさい』
308
蠑螈別
『さう
悪気
(
わるぎ
)
をまはして
貰
(
もら
)
つちや
困
(
こま
)
るぢやないか。
309
お
民
(
たみ
)
の
奴
(
やつ
)
、
310
一本橋
(
いつぽんばし
)
を
渡
(
わた
)
る
時
(
とき
)
、
311
あわてて
川
(
かは
)
へおち
込
(
こ
)
み、
312
それきりになつて
了
(
しま
)
つたのだ』
313
お寅
『
何
(
なに
)
、
314
お
民
(
たみ
)
……が……
川
(
かは
)
へはまつて
死
(
し
)
にましたとな。
315
エヽ
気味
(
きみ
)
のよい………イヤイヤ
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
な
事
(
こと
)
だなア。
316
さぞお
前
(
まへ
)
さまも
悲
(
かな
)
しかつただらうな。
317
なぜ
飛込
(
とびこ
)
んで
一緒
(
いつしよ
)
に
心中
(
しんぢう
)
なさらぬのだい、
318
随分
(
ずゐぶん
)
水臭
(
みづくさ
)
いぢやありませぬか』
319
とツンとして
他人
(
たにん
)
行儀
(
ぎやうぎ
)
になつてゐる。
320
蠑螈
(
いもり
)
『
何
(
なん
)
ともはや、
321
魔我彦
(
まがひこ
)
は
惜
(
をし
)
い
事
(
こと
)
をしたものだ。
322
魔我彦
(
まがひこ
)
が
聞
(
き
)
いたらさぞ
悔
(
くや
)
むだろ、
323
不憫
(
ふびん
)
な
者
(
もの
)
だ』
324
お
寅
(
とら
)
『
悔
(
くや
)
む
人
(
ひと
)
が
違
(
ちが
)
ひませう、
325
ヘン、
326
仰有
(
おつしや
)
いますワイ。
327
そんな
事
(
こと
)
に
化
(
ば
)
かされる、
328
海千
(
うみせん
)
山千
(
やません
)
ぢやありませぬぞえ。
329
モツトモツトすぐれた
劫
(
ごふ
)
を
経
(
へ
)
た
狸婆
(
たぬきばば
)
アを
騙
(
だま
)
さうと
思
(
おも
)
つても、
330
ダメですよ。
331
時
(
とき
)
に
蠑螈別
(
いもりわけ
)
さま、
332
お
金
(
かね
)
はどうなさつたの』
333
蠑螈別
『お
金
(
かね
)
か、
334
ありやお
前
(
まへ
)
、
335
余
(
あま
)
りあわてたものだから、
336
一本橋
(
いつぽんばし
)
の
上
(
うへ
)
からパラパラと
落
(
おと
)
して
了
(
しま
)
つたのだ。
337
拾
(
ひろ
)
つてみようと
思
(
おも
)
つたけれど、
338
何分
(
なにぶん
)
夜叉
(
やしや
)
のやうな
勢
(
いきほひ
)
で、
339
どこの
婆
(
ば
)
アさまか
知
(
し
)
らぬが、
340
追
(
お
)
つかけて
来
(
く
)
るものだから、
341
つい
恐
(
おそ
)
ろしくなつて
野中
(
のなか
)
の
森
(
もり
)
までに
逃
(
に
)
げていつたのだよ』
342
お寅
『そんなウソを
云
(
い
)
つたつて
駄目
(
だめ
)
ですよ。
343
お
前
(
まへ
)
さまの
懐
(
ふところ
)
にチヤンとあるぢやないか』
344
蠑螈別
『ソリアある、
345
併
(
しか
)
しこれは
拾
(
ひろ
)
うた
金
(
かね
)
だ、
346
お
前
(
まへ
)
の
金
(
かね
)
は
一旦
(
いつたん
)
落
(
おと
)
したのだ、
347
落
(
おと
)
したものを
拾
(
ひろ
)
はうと
云
(
い
)
つたつてダメだらう。
348
それを
改
(
あらた
)
めて
蠑螈別
(
いもりわけ
)
が
拾
(
ひろ
)
うて
来
(
き
)
たのだから、
349
所有権
(
しよいうけん
)
は
俺
(
おれ
)
にうつつてるのだ。
350
最早
(
もはや
)
指一本
(
ゆびいつぽん
)
さへる
事
(
こと
)
はさせないから、
351
此
(
この
)
金
(
かね
)
に
未練
(
みれん
)
はかけてくれるなよ。
352
其
(
その
)
時
(
とき
)
の
用意
(
ようい
)
の
金
(
かね
)
だからなア』
353
お寅
『
盗人
(
ぬすびと
)
たけだけしいとはお
前
(
まへ
)
さまの
事
(
こと
)
だ。
354
どうあつても
斯
(
か
)
うあつても、
355
此方
(
こちら
)
へひつたくらねばおきませぬ』
356
蠑螈別
『アハヽヽヽ、
357
お
前
(
まへ
)
の
力
(
ちから
)
で
取
(
と
)
れるものなら
取
(
と
)
つてみろよ。
358
此
(
この
)
蠑螈別
(
いもりわけ
)
は
今
(
いま
)
までとはチツト
様子
(
やうす
)
が
違
(
ちが
)
ふのだから、
359
ウツカリ
指一本
(
ゆびいつぽん
)
でもさへようものなら、
360
大変
(
たいへん
)
な
目
(
め
)
に
会
(
あ
)
ふぞ』
361
お寅
『ナアニ、
362
グヅグヅ
言
(
い
)
ふと
又
(
また
)
鼻
(
はな
)
をねぢようか。
363
そんな
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
はずに
素直
(
すなほ
)
に
出
(
だ
)
しなさいよ。
364
又
(
また
)
要
(
い
)
る
時
(
とき
)
にや
私
(
わたし
)
にこたへてさへ
下
(
くだ
)
さつたら、
365
惜気
(
をしげ
)
もなく
出
(
だ
)
して
上
(
あ
)
げますから、
366
今日
(
けふ
)
はお
酒
(
さけ
)
を
上
(
あが
)
つて
宵
(
よひ
)
からグツスリとお
休
(
やす
)
みなさい。
367
お
前
(
まへ
)
さまが
飛
(
と
)
んで
出
(
で
)
たものだから、
368
此
(
この
)
神館
(
かむやかた
)
は
大騒動
(
おほさうどう
)
が
起
(
おこ
)
つてゐるのよ。
369
信者
(
しんじや
)
の
信仰
(
しんかう
)
がグラつき
始
(
はじ
)
めて、
370
此
(
この
)
城
(
しろ
)
が
持
(
も
)
てるか
持
(
も
)
てぬか
分
(
わか
)
らないといふ
九死
(
きうし
)
一生
(
いつしやう
)
の
場合
(
ばあひ
)
だから、
371
せめて
此
(
この
)
お
金
(
かね
)
なつと
持
(
も
)
つてゐなくちや
心細
(
こころぼそ
)
くて
仕方
(
しかた
)
がない。
372
千
(
せん
)
両
(
りやう
)
だけお
前
(
まへ
)
に
持
(
も
)
たしておくから、
373
八千
(
はつせん
)
両
(
りやう
)
こちやへお
返
(
かへ
)
しなさい』
374
蠑螈別
『それならモウ
邪魔臭
(
じやまくさ
)
いから、
375
十分
(
じふぶん
)
の
一
(
いち
)
だけお
前
(
まへ
)
にやらう。
376
サア
検
(
あらた
)
めて
受取
(
うけと
)
つてくれ』
377
とポンと
前
(
まへ
)
へつき
出
(
だ
)
したのは、
378
三万
(
さんまん
)
両
(
りやう
)
の
大判
(
おほばん
)
であつた。
379
お
寅婆
(
とらばば
)
アはビツクリして、
380
お寅
『コレ
蠑螈別
(
いもりわけ
)
さま、
381
コリヤ、
382
サヽ
三万
(
さんまん
)
両
(
りやう
)
ぢやないかい』
383
蠑螈
(
いもり
)
『ウン
三万
(
さんまん
)
両
(
りやう
)
だ、
384
まだ
二十七万
(
にじふしちまん
)
両
(
りやう
)
懐
(
ふところ
)
にあるのだ。
385
これだけあれば、
386
一代
(
いちだい
)
遊
(
あそ
)
んで
暮
(
くら
)
しても
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
だ』
387
お寅
『
其
(
その
)
お
金
(
かね
)
、
388
こちらへ
預
(
あづか
)
つて
上
(
あ
)
げませう』
389
蠑螈別
『お
前
(
まへ
)
の
金
(
かね
)
は
九千
(
きうせん
)
両
(
りやう
)
、
390
二万
(
にまん
)
一千
(
いつせん
)
両
(
りやう
)
も
利
(
り
)
をつけてやつたぢやないか。
391
お
前
(
まへ
)
もそれだけあれば
得心
(
とくしん
)
だろ、
392
二十七万
(
にじふしちまん
)
両
(
りやう
)
は
俺
(
おれ
)
の
使用
(
しよう
)
権利
(
けんり
)
があるのだから
決
(
けつ
)
して
渡
(
わた
)
さない。
393
もしも
之
(
これ
)
を
無理
(
むり
)
にも
取
(
と
)
らうものなら、
394
それこそ
泥棒
(
どろばう
)
だ』
395
お寅
『
決
(
けつ
)
して
取
(
と
)
らうといふのぢやない、
396
預
(
あづか
)
つておかうといふのだ。
397
お
前
(
まへ
)
さまに
此
(
この
)
金
(
かね
)
持
(
も
)
たしておいては
険難
(
けんのん
)
だから、
398
預
(
あづか
)
らうといふのだよ』
399
蠑螈別
『
此
(
この
)
金
(
かね
)
を
以
(
もつ
)
て、
400
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
はお
民
(
たみ
)
を
或
(
ある
)
所
(
ところ
)
へ
預
(
あづ
)
けて
来
(
き
)
たのだ。
401
お
民
(
たみ
)
にも
二十万
(
にじふまん
)
両
(
りやう
)
の
金
(
かね
)
がもたしてあるのだ。
402
サア
之
(
これ
)
から
御免
(
ごめん
)
蒙
(
かうむ
)
らう、
403
お
寅
(
とら
)
婆
(
ば
)
アさま、
404
随分
(
ずゐぶん
)
まめ
で
暮
(
くら
)
して
下
(
くだ
)
さい、
405
左様
(
さやう
)
なら』
406
と
立
(
た
)
ち
上
(
あが
)
らうとする。
407
お
寅
(
とら
)
はビツクリして
立上
(
たちあが
)
り、
408
大手
(
おほで
)
をひろげ、
409
お寅
『エヽそれ
聞
(
き
)
くからは、
410
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
行
(
ゆ
)
かしはせぬ。
411
命
(
いのち
)
にかけてもお
前
(
まへ
)
をお
民
(
たみ
)
に
渡
(
わた
)
してなるものか』
412
と
武者
(
むしや
)
ぶりつく
途端
(
とたん
)
に、
413
蠑螈別
(
いもりわけ
)
の
体
(
からだ
)
は
長
(
なが
)
い
毛
(
け
)
だらけであつた。
414
ハツと
驚
(
おどろ
)
き
手
(
て
)
をはなす
途端
(
とたん
)
に、
415
蠑螈別
(
いもりわけ
)
の
姿
(
すがた
)
はどこへやら、
416
黒
(
くろ
)
い
牛
(
うし
)
の
子
(
こ
)
のやうな
大狐
(
おほぎつね
)
がのそりのそりと
後
(
あと
)
ふり
返
(
かへ
)
りながら
向
(
むか
)
ふの
森林
(
しんりん
)
さして
逃
(
に
)
げて
行
(
ゆ
)
く。
417
これはお
寅婆
(
とらばば
)
アの
副
(
ふく
)
守護神
(
しゆごじん
)
で、
418
小北山
(
こぎたやま
)
の
発頭人
(
ほつとうにん
)
ともいふべき
親玉
(
おやだま
)
であつた。
419
松彦
(
まつひこ
)
、
420
松姫
(
まつひめ
)
、
421
五三公
(
いそこう
)
の
神威
(
しんゐ
)
に
恐
(
おそ
)
れて
姿
(
すがた
)
を
現
(
あら
)
はし、
422
お
寅
(
とら
)
の
肉体
(
にくたい
)
からスツカリと
放
(
はな
)
れて
了
(
しま
)
つたのであつた。
423
(
大正一一・一二・一五
旧一〇・二七
松村真澄
録)
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