霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第八章 黒狐(くろぎつね)〔一二一八〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第46巻 舎身活躍 酉の巻 篇:第2篇 狐運怪会 よみ(新仮名遣い):こうんかいかい
章:第8章 黒狐 よみ(新仮名遣い):くろぎつね 通し章番号:1218
口述日:1922(大正11)年12月15日(旧10月27日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年9月25日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
お寅は昼過ぎになっても蠑螈別が帰ってこないので業を煮やし、松姫館に乗り込んで松彦と松姫に文句を言い始めた。
そこへお菊がやってきてお寅を呼びに来た。聞けば蠑螈別が帰ってきたのだという。お寅は喜んで飛び出していくが、それは蠑螈別に化けた狐であった。
狐の蠑螈別はお寅に三万両を渡すと、自分は二十七万両持っているから、それを持ってお民と一緒にどこかで暮らすのだという。
お寅はびっくりして蠑螈別に武者ぶりつくが、蠑螈別の姿はどこかえ消えて代わりに長い毛の生えた牛の子のような大狐がのそりのそりと森林へ逃げて行った。
この狐はお寅の副守護神で小北山の狐の親玉であった。松彦、松姫、五三公の神威におそれをなして姿を現し、お寅の肉体から離れて行ったのであった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: OBC :rm4608
愛善世界社版:107頁 八幡書店版:第8輯 397頁 修補版: 校定版:111頁 普及版:43頁 初版: ページ備考:
001 お(とら)昼過(ひるすぎ)になつても蠑螈別(いもりわけ)(かへ)つて()ないので、002ソロソロ(かみ)神力(しんりき)(うたが)()し、003松姫館(まつひめやかた)()()んだ。
004(とら)『ご(めん)なさいませ、005邪魔(じやま)にはなりませぬかな、006(した)()広間(ひろま)随分(ずゐぶん)乱痴気(らんちき)(さわ)ぎが(おこ)つてゐましたが、007(あま)()夫婦(ふうふ)(なか)がいいので、008(みみ)(たつ)せなかつたと()えますな。009ソリヤ無理(むり)(ござ)いませぬワ』
010松姫(まつひめ)『あゝお(とら)さま、011よう()(くだ)さいました、012(なに)急用(きふよう)でも出来(でき)ましたのですか』
013『コレ、014(にせ)上義姫(じやうぎひめ)(さま)015ようそんな(こと)をヌツケリコと()うてゐられますな。016蠑螈別(いもりわけ)さまはどうして(くだ)さつたのです。017(はや)うて夜明(よあけ)018(おそ)くて(ひる)時分(じぶん)には引寄(ひきよ)せてやらうと仰有(おつしや)つたぢやありませぬか。019モウ(ほとん)()(どき)020蠑螈別(いもりわけ)さまの(かげ)もささぬぢやありませぬか』
021『あゝさうでしたねえ、022()のもめた(こと)でせう。023もし松彦(まつひこ)さま、024蠑螈別(いもりわけ)さまはどうなつたのでせうかな』
025松彦(まつひこ)『さうだなア、026(とら)さまの改心(かいしん)次第(しだい)だ。027(ふた)()にはつねられたり、028(はな)をねぢられたりしられちや、029(たれ)だつてコリコリするからな』
030(とら)『コレ、031(にせ)末代(まつだい)(さま)032(まへ)さまは(わたし)(なん)仰有(おつしや)つた。033そんなウソを()つて、034(かみ)(さま)御用(ごよう)する(ひと)が、035よいのですか。036(ほか)(ひと)守護神(しゆごじん)はウソにした(ところ)で、037松姫(まつひめ)さまは上義姫(じやうぎひめ)(さま)038あなたは末代(まつだい)(さま)(ちがひ)ないと、039(いま)(いま)まで(ふか)(しん)じて()りましたが、040そんなこと仰有(おつしや)ると、041末代(まつだい)(さま)上義姫(じやうぎひめ)(さま)も、042(うたが)はずには()られませぬぞや』
043松姫(まつひめ)『ホヽヽヽヽ、044あのお(とら)さまの(むつ)かしいお(かほ)わいの。045(わたし)松姫(まつひめ)だと()つてるのに、046(まへ)さま()勝手(かつて)(まつ)()()がついとる以上(いじやう)は、047末代(まつだい)(さま)奥様(おくさま)(みたま)(ちが)ひない。048さうすると上義姫(じやうぎひめ)生宮(いきみや)だと、049(まへ)さま()がよつてかかつて(まつ)()げたのぢやないか。050(けつ)して(わたし)(はう)から上義姫(じやうぎひめ)だと名告(なの)つたのぢやありませぬよ。051今更(いまさら)(にせ)だの本物(ほんもの)だと()つて(もら)つても、052(わたし)関係(くわんけい)責任(せきにん)もないぢやありませぬか』
053『そんなこた、054あとで(うけたま)はりませう。055一体(いつたい)全体(ぜんたい)056蠑螈別(いもりわけ)さまは()うなさつたのですか。057今日(けふ)(かへ)るとか明日(あす)(かへ)るとか、058ハツキリと白状(はくじやう)しなさい』
059『ホヽヽヽヽ、060(わたし)がかくしたものか(なん)ぞのやうに、061白状(はくじやう)しなさいとは(いた)()ります。062あんな酒飲(さけのみ)(をとこ)二日(ふつか)三日(みつか)()らなくてもいいぢやありませぬか。063何一(なにひと)世間(せけん)()にも()はず、064(さけ)ばかり()んでゐられちや、065どんな物好(ものずき)(ひと)だつて、066愛想(あいさう)をつかして()()して(しま)ひますよ。067さうすりや()むなく此処(ここ)(かへ)つて()仕方(しかた)がないぢやありませぬか』
068『お(かね)なしに()()るのなら(かへ)つて()るかも()れませぬが、069(なん)()つても九千(きうせん)(りやう)(かね)()つてゐたのですから、070(その)(かね)()つて、071そこら(ぢう)をお(たみ)(やつ)とウロつきますわいな』
072何程(なにほど)ウロついたつて、073(あそ)んで()へば(やま)もなくなるとか()ひますから、074(かね)さへなくなれば(かへ)つて()られますワイ。075何程(なにほど)沢山(たくさん)使(つか)つても、076九千(きうせん)(りやう)あれば、077(たみ)さまと夫婦(ふうふ)二十(にじふ)(ねん)三十(さんじふ)(ねん)大丈夫(だいぢやうぶ)ですからなア、078マアそれ(まで)()ちやしたら()うです』
079松彦(まつひこ)『ウツフヽヽヽ』
080(とら)『コレ、081末代(まつだい)さま、082(なに)可笑(をか)しい、083(わたし)がこれだけ()をもんでるのに、084(わら)(あそ)ばすのか。085(ひと)(かな)しみがあなたは可笑(をか)しいのですか』
086()つてかからうとする。
087松姫(まつひめ)事情(じじやう)()けばお()(どく)ですが、088(しか)しこれも自分(じぶん)から()(さび)だから仕方(しかた)がないぢやありませぬか。089チイと(かね)のありさうな信者(しんじや)に、090リントウビテン大臣(だいじん)とか、091五六七(みろく)成就(じやうじゆ)(かみ)(さま)だとか、092(あさひ)豊栄昇(とよさかのぼ)(ひめ)093岩照姫(いはてるひめ)094木曽(きそ)義姫(よしひめ)などと、095ありもせぬ()をお()(あそ)ばして、096随喜(ずいき)(なみだ)をこぼさせて(あつ)めたお(かね)が、097なぜあなたの()につきますか。098蠑螈別(いもりわけ)さまは、099(まへ)さまの(つみ)()つて()げようと(おも)つて、100(その)(かね)()つてお()(あそ)ばしたのですよ。101つまり蠑螈別(いもりわけ)さまとお(たみ)さまはお(まへ)さまの罪取主(つみとりぬし)102(たす)(ぶね)103(いのち)()恩人(おんじん)だから()(よろこ)びなさい。104(ただ)しき信仰(しんかう)(じやう)()から()れば、105(とら)さま、106あなたは随分(ずゐぶん)よい()かげを(いただ)きましたね』
107(とら)馬鹿(ばか)らしい、108こんな()かげが何処(どこ)にありますか。109(わたし)もこれから、110蠑螈別(いもりわけ)(あと)()つかけて、111(かね)取返(とりかへ)し、112(うら)みを()はねば承知(しようち)しませぬ』
113『オホヽヽヽ、114貴女(あなた)(うらみ)はよう()きませうよ。115清浄(せいじやう)潔白(けつぱく)貴女(あなた)のお言葉(ことば)なら(くぎ)()きませうが、116弱点(じやくてん)()()うた(なか)117(いぬ)()はぬ夫婦(ふうふ)喧嘩(げんくわ)になつて(しま)ひますよ。118それにお(たみ)さまは娘盛(むすめざか)りのキレイなお(かた)119(まへ)さまは五十(ごじふ)(しり)(つく)つた、120()ふとすまぬが古手婆(ふるてば)アさま、121(たれ)だつて浮気者(うはきもの)だつたらお(たみ)さまの(はう)(かた)をもつのは当然(たうぜん)ですわ。122(まへ)さまもいい(とし)して蠑螈別(いもりわけ)(さま)(あい)独占(どくせん)しようなぞとは(あま)(むし)がよ()ぎるぢやありませぬか。123貴女(あなた)124(その)(はな)()うなさいました。125ハヂケてゐるぢやありませぬか。126大方(おほかた)夜前(やぜん)()つかけていた(とき)()けて()ちなさつたのでせう。127(かみ)(さま)(をしへ)にも、128改心(かいしん)(いた)さぬと(はな)()たねばならぬ(こと)出来(でき)るぞよと(しめ)されてあるぢやありませぬか。129貴方(あなた)実地(じつち)教育(けういく)をうけ、130結構(けつこう)()かげを(いただ)きやしたねえ、131本当(ほんたう)にお(うらや)ましう(ござ)いますワ』
132『ヘン、133馬鹿(ばか)にしなさるな、134よい加減(かげん)(ひと)嘲斎坊(てうさいばう)にしておきなさい。135(この)(とら)だつて石地蔵(いしぢざう)人形(にんぎやう)ぢやありませぬから、136チツとは性念(しやうねん)がありますよ。137(まへ)さまは松彦(まつひこ)さまといふ(をつと)()ひ、138(わが)()(わか)つたのだからソラ(うれ)しいでせう、139(また)(いきほひ)(つよ)いでせう。140それだからそんな気強(きづよ)(こと)がいへるのだ。141(わたし)()になつて御覧(ごらん)なさい』
142松彦(まつひこ)『モシお(とら)さま、143モウいい加減(かげん)蠑螈別(いもりわけ)さまのこたア(おも)()られたら()うです。144(また)()うしても(をつと)がなくちやならぬのならば、145適当(てきたう)(をとこ)をお世話(せわ)(いた)しますワ』
146『ヘン、147(あま)馬鹿(ばか)にして(くだ)さるな、148(わたし)(をとこ)()しいので(さわ)いでるのぢやありませぬ。149(ただ)(かみ)(さま)(ため)150世人(よびと)(ため)になくてはならぬ蠑螈別(いもりわけ)さまだから、151天下(てんか)(ため)()をいらつてゐるのですよ。152五十(ごじふ)(しり)(つく)つて(をとこ)なんか()つてたまりますか。153そんな柔弱(じうじやく)(たましひ)だと(おも)つて(もら)ひますと、154ヘン、155チツト片腹痛(かたはらいた)い』
156『あゝさうですか。157それで時々(ときどき)徳利(とくり)()うたり、158(さかづき)(くだ)けたり、159(はな)をねぢつたり、160気絶(きぜつ)したり、161いろいろな珍妙(ちんめう)活劇(くわつげき)をおやりなさるのですな』
162『エヽなになつと勝手(かつて)()つておかつしやい。163()夫婦(ふうふ)(なか)よう、164しつぽりとお(たの)しみ、165左様(さやう)なら、166(なが)らく殺風景(さつぷうけい)(ばば)アが(ひさ)しぶりの()対面(たいめん)167(うれ)()きの場面(ばめん)(けが)しましてはすみませぬ。168エライお邪魔(じやま)(いた)しました。169()()かぬ(ばば)アで(ござ)いますから、170どうぞお(ゆる)(くだ)さいませ』
171 かく(どく)ついてる(ところ)へ、172スタスタと(あが)つて()たのはお(きく)であつた。
173(きく)『ご(めん)なさいませ、174(とら)さま、175(いや)()アさまは()てゐられますかな』
176(とら)『コレお(きく)177(まへ)(なに)しに、178こんな(ところ)()るのだい、179サアお(かへ)りお(かへ)り、180(とし)()かぬくせに()マしやくれた、181ぢきに(わたし)内証話(ないしようばなし)()きに()るのぢやな』
182(べつ)()きに()たいこたないのだけれど、183何時(いつ)蠑螈別(いもりわけ)さまと(さけ)()うて、184(おほ)きな(こゑ)悋気(りんき)喧嘩(げんくわ)をなさるものだから、185(また)ここへ岡焼(をかやき)にでもしに(ござ)つたのかと(あん)じて()()たのよ。186()アさまは法界(ほふかい)悋気(りんき)上手(じやうづ)だからねえ』
187(はや)(かへ)りなさい』
188五六七(みろく)成就(じやうじゆ)生宮(いきみや)さまと、189(あさひ)豊栄昇(とよさかのぼ)(ひめ)生宮(いきみや)さまとが大広間(おほひろま)飛出(とびだ)し、190(はる)さままでが(あと)について、191悪口(あくこう)タラダラ(さか)(くだ)り、192神政松(しんせいまつ)(した)()つて、193十六本(じふろくぽん)(まつ)引抜(ひきぬ)き、194(いは)(くだ)かうとして()るさうぢやから、195一寸(ちよつと)()らしに()たのよ』
196(まつ)(ぐらゐ)()いたつて、197また()()へたらいいのだ。198何程(なにほど)(ふく)さまや(たけ)さまが(ちから)(つよ)うても、199あの(いし)はビクツともならないから、200()つときなさい。201それよりも(はや)くお(かへ)り』
202『それなら(かへ)りますワ。203万公(まんこう)さまが(くび)()ばして()つてゐますからねえ』
204松姫(まつひめ)『オホヽヽヽ』
205(とら)(おや)(なぶ)るといふ(こと)があるものかいな、206(まへ)はそれ(ほど)万公(まんこう)さまに()れてゐるのかい』
207(きく)()れてますとも……ほれたほれた、208(なに)がほれた、209(うま)小便(せうべん)して()がほれた……といふ(ほど)()れてますのよ。210ホツホヽヽヽ、211(しか)しお()アさま、212あなたの(よろこ)(こと)出来(でき)たのだけれど、213(あま)(にく)らしい(こと)をいふから、214もう()はないワ、215ねえ松姫(まつひめ)さま、216こんな(にく)(くち)(たた)くお()アさまには、217(なん)(むすめ)だつて、218バカらしうて()つてやれませぬわねえ』
219松姫(まつひめ)結構(けつこう)(かた)がみえましたね、220(さだ)めてお(よろこ)びでせう、221()アさまは……』
222(とら)『ナアニ、223結構(けつこう)(こと)とは、224コレお(きく)(なん)ぢやいなア、225(はや)()つておくれ、226(わたし)都合(つがふ)があるから』
227(きく)『そらさうでせう。228()はうなかなア、229ヤツパリ()はうまいかなア、230こんな(こと)さうヅケヅケといつて(しま)ふと、231(たがひ)(たのし)みが(うす)くなるから、232これは(ゆめ)にしておきませうかい』
233『エヽ焦心(じれつ)たい、234(はや)()はぬのかいなア』
235『イのつく(ひと)が、236(かみ)(さま)のおかげで、237スタスタと(かへ)つて()ましたよ』
238『ナアニ、239蠑螈別(いもりわけ)さまがな、240さうだろさうだろ、241ヤア松彦(まつひこ)さま、242松姫(まつひめ)さま、243(まこと)にすみませなんだ。244貴方(あなた)()神力(しんりき)(えら)いものですな。245御教(みをしへ)とは一時半(ひとときはん)(ほど)(おく)れましたけれど、246(かへ)つてさへくれたら、247これで神政(しんせい)成就(じやうじゆ)太柱(ふとばしら)がつかめます。248(かみ)(さま)もさぞお(よろこ)びで(ござ)いませう』
249(かみ)(さま)はお(よろこ)びなさるか、250なさらぬか()りませぬが、251()アさまは(さぞ)(よろこ)びでせうね。252(わたし)だつて(あま)りイヤな(こと)は、253ない(こと)はありませぬわねえ、254ホツホヽヽヽ』
255夢寐(むび)にも(わす)れぬ恋男(こひをとこ)
256()ちあぐみたる(その)(とき)
257蠑螈別(いもりわけ)(かへ)つたと
258()いてお(とら)()(あが)
259閻魔(えんま)のやうなきつい(かほ)
260(たちま)(かは)地蔵(ぢざう)さま
261松彦(まつひこ)夫婦(ふうふ)打向(うちむか)
262失礼(しつれい)(こと)をベラベラと
263(しやべ)(まを)してすみませぬ
264コレコレお(きく)、お(まへ)さま
265ここで(しばら)(おん)世話(せわ)
266なつてゐなされ(また)しても
267内証話(ないしようばなし)をきかれては
268みつともないと()ひながら
269(きつね)のお(ばけ)()らずして
270(まこと)(こひ)しき(をとこ)だと
271(ほそ)階段(かいだん)トントンと
272(ふた)(みつ)つもふみまたげ
273(まなこ)くらんでガラガラと
274ころがる拍子(ひやうし)(あたま)()
275アイタヽタツタと()ひながら
276(をとこ)(こころ)()られてや
277(あたま)(こし)(いた)みをも
278さのみ(こころ)にかけずして
279(ころ)げるやうに(くだ)りゆく
280(なに)()もあれ教祖殿(けうそでん)
281(かへ)つて蠑螈別(いもりわけ)さまに
282不足(ふそく)のありだけ()(なら)
283(かね)をこちらへボツたくり
284(うご)きの()れぬやうにして
285(をとこ)(あい)独占(どくせん)
286(この)(よろこ)びはここよりは
287(ほか)にやらじと(さけ)でつり
288チツとも(そと)へは()さぬよに
289(まも)らにやならぬと(ささや)きつ
290(かへ)つて()れば蠑螈別(いもりわけ)
291火鉢(ひばち)(まへ)丹前(たんぜん)
292かぶつたままに泰然(たいぜん)
293すわつてゐるぞ(うれ)しけれ。
294(とら)『マアマアマア、295よう(うち)(おぼ)えて(かへ)つて()なさつたな。296(わたし)(また)297どこのどなたか()らぬと(おも)ひましたよ。298あのマアすましたお(かほ)わいの』
299蠑螈(いもり)(かへ)つてくる(つもり)ではなかつたのだが、300どうしても(おも)()れないものが(ひと)つあつたので引返(ひつかへ)して()たのだ。301マア(さけ)でも()してくれ』
302(おも)()れないものとは、303(この)燗徳利(かんどくり)猪口(ちよく)でせう。304サアサアこんな(ところ)()んで(もら)ふと、305(また)()機嫌(きげん)をそこねるとすみませぬから、306(はや)(きつね)(もり)へでもいつて、307(たみ)とシツポリやつて()なさい』
308『さう悪気(わるぎ)をまはして(もら)つちや(こま)るぢやないか。309(たみ)(やつ)310一本橋(いつぽんばし)(わた)(とき)311あわてて(かは)へおち()み、312それきりになつて(しま)つたのだ』
313(なに)314(たみ)……が……(かは)へはまつて()にましたとな。315エヽ気味(きみ)のよい………イヤイヤ()(どく)(こと)だなア。316さぞお(まへ)さまも(かな)しかつただらうな。317なぜ飛込(とびこ)んで一緒(いつしよ)心中(しんぢう)なさらぬのだい、318随分(ずゐぶん)水臭(みづくさ)いぢやありませぬか』
319とツンとして他人(たにん)行儀(ぎやうぎ)になつてゐる。
320蠑螈(いもり)(なん)ともはや、321魔我彦(まがひこ)(をし)(こと)をしたものだ。322魔我彦(まがひこ)()いたらさぞ(くや)むだろ、323不憫(ふびん)(もの)だ』
324(とら)(くや)(ひと)(ちが)ひませう、325ヘン、326仰有(おつしや)いますワイ。327そんな(こと)(ばけ)かされる、328海千(うみせん)山千(やません)ぢやありませぬぞえ。329モツトモツトすぐれた(ごふ)()狸婆(たぬきばば)アを(だま)さうと(おも)つても、330ダメですよ。331(とき)蠑螈別(いもりわけ)さま、332(かね)はどうなさつたの』
333『お(かね)か、334ありやお(まへ)335(あま)りあわてたものだから、336一本橋(いつぽんばし)(うへ)からパラパラと(おと)して(しま)つたのだ。337(ひろ)つてみようと(おも)つたけれど、338何分(なにぶん)夜叉(やしや)のやうな(いきほひ)で、339どこの()アさまか()らぬが、340()つかけて()るものだから、341つい(おそ)ろしくなつて野中(のなか)(もり)までに()げていつたのだよ』
342『そんなウソを()つたつて駄目(だめ)ですよ。343(まへ)さまの(ふところ)にチヤンとあるぢやないか』
344『ソリアある、345(しか)しこれは(ひろ)うた(かね)だ、346(まへ)(かね)一旦(いつたん)(おと)したのだ、347(おと)したものを(ひろ)はうと()つたつてダメだらう。348それを(あらた)めて蠑螈別(いもりわけ)(ひろ)うて()たのだから、349所有権(しよいうけん)(おれ)にうつつてるのだ。350最早(もはや)指一本(ゆびいつぽん)さへる(こと)はさせないから、351(この)(かね)未練(みれん)はかけてくれるなよ。352(その)(とき)用意(ようい)(かね)だからなア』
353盗人(ぬすびと)たけだけしいとはお(まへ)さまの(こと)だ。354どうあつても()うあつても、355此方(こちら)へひつたくらねばおきませぬ』
356『アハヽヽヽ、357(まへ)(ちから)()れるものなら()つてみろよ。358(この)蠑螈別(いもりわけ)(いま)までとはチツト様子(やうす)(ちが)ふのだから、359ウツカリ指一本(ゆびいつぽん)でもさへようものなら、360大変(たいへん)()()ふぞ』
361『ナアニ、362グヅグヅ()ふと(また)(はな)をねぢようか。363そんな(こと)()はずに素直(すなほ)()しなさいよ。364(また)()(とき)にや(わたし)にこたへてさへ(くだ)さつたら、365惜気(をしげ)もなく()して()げますから、366今日(けふ)はお(さけ)(あが)つて(よひ)からグツスリとお(やす)()なさい。367(まへ)さまが()んで()たものだから、368(この)神館(かむやかた)大騒動(おほさうどう)(おこ)つてゐるのよ。369信者(しんじや)信仰(しんかう)がグラつき(はじ)めて、370(この)(しろ)()てるか()てぬか(わか)らないといふ九死(きうし)一生(いつしやう)場合(ばあひ)だから、371せめて(この)(かね)なつと()つてゐなくちや心細(こころぼそ)くて仕方(しかた)がない。372(せん)(りやう)だけお(まへ)()たしておくから、373八千(はつせん)(りやう)こちやへお(かへ)しなさい』
374『それならモウ邪魔臭(じやまくさ)いから、375十分(じふぶん)(いち)だけお(まへ)にやらう。376サア(あらた)めて受取(うけと)つてくれ』
377とポンと(まへ)へつき()したのは、378三万(さんまん)(りやう)大判(おほばん)であつた。379寅婆(とらばば)アはビツクリして、
380『コレ蠑螈別(いもりわけ)さま、381コリヤ、382サヽ三万(さんまん)(りやう)ぢやないかい』
383蠑螈(いもり)『ウン三万(さんまん)(りやう)だ、384まだ二十七万(にじふしちまん)(りやう)(ふところ)にあるのだ。385これだけあれば、386一代(いちだい)(あそ)んで(くら)しても大丈夫(だいぢやうぶ)だ』
387(その)(かね)388こちらへ(あづか)つて()げませう』
389『お(まへ)(かね)九千(きうせん)(りやう)390二万(にまん)一千(いつせん)(りやう)()をつけてやつたぢやないか。391(まへ)もそれだけあれば得心(とくしん)だろ、392二十七万(にじふしちまん)(りやう)(おれ)使用(しよう)権利(けんり)があるのだから(けつ)して(わた)さない。393もしも(これ)無理(むり)にも()らうものなら、394それこそ泥棒(どろばう)だ』
395(けつ)して()らうといふのぢやない、396(あづか)つておかうといふのだ。397(まへ)さまに(この)(かね)()たしておいては険難(けんのん)だから、398(あづか)らうといふのだよ』
399(この)(かね)(もつ)て、400(じつ)(ところ)はお(たみ)(ある)(ところ)(あづ)けて()たのだ。401(たみ)にも二十万(にじふまん)(りやう)(かね)がもたしてあるのだ。402サア(これ)から御免(ごめん)(かうむ)らう、403(とら)()アさま、404随分(ずゐぶん)まめ(くら)して(くだ)さい、405左様(さやう)なら』
406()(あが)らうとする。407(とら)はビツクリして立上(たちあが)り、408大手(おほで)をひろげ、
409『エヽそれ()くからは、410(なん)()つても()かしはせぬ。411(いのち)にかけてもお(まへ)をお(たみ)(わた)してなるものか』
412武者(むしや)ぶりつく途端(とたん)に、413蠑螈別(いもりわけ)(からだ)(なが)()だらけであつた。414ハツと(おどろ)()をはなす途端(とたん)に、415蠑螈別(いもりわけ)姿(すがた)はどこへやら、416(くろ)(うし)()のやうな大狐(おほぎつね)がのそりのそりと(あと)ふり(かへ)りながら(むか)ふの森林(しんりん)さして()げて()く。417これはお寅婆(とらばば)アの(ふく)守護神(しゆごじん)で、418小北山(こぎたやま)発頭人(ほつとうにん)ともいふべき親玉(おやだま)であつた。419松彦(まつひこ)420松姫(まつひめ)421五三公(いそこう)神威(しんゐ)(おそ)れて姿(すがた)(あら)はし、422(とら)肉体(にくたい)からスツカリと(はな)れて(しま)つたのであつた。
423大正一一・一二・一五 旧一〇・二七 松村真澄録)
 

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5/15【霊界物語ネット】加藤明子「をりをり物語」を掲載しました。
5/5霊界物語音読霊界物語朗読日記」を始めました。声のブログです。
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