霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一章 榛並樹(はんなみき)〔一二一一〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第46巻 舎身活躍 酉の巻 篇:第1篇 仕組の縺糸 よみ(新仮名遣い):しぐみのれんし
章:第1章 榛並樹 よみ(新仮名遣い):はんなみき 通し章番号:1211
口述日:1922(大正11)年12月15日(旧10月27日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年9月25日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
五三公の一行はお民、蠑螈別、お寅、魔我彦の走って行った後を追いかけ、ようやく一本橋を渡り二三町ばかり北進し、榛の樹の道の両方に立ち並ぶ木蔭までやってきた。
お寅と魔我彦は互いにつまづいて重なり合い、唸っていた。五三公たちは二人をみつけてからかい、お寅と魔我彦はののしりあっている。万公とアクは、三五教の神力で逃げた二人が帰ってくるように祈ってやるから、ひとまず小北山へ帰ろうと連れて戻った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-03-08 17:43:51 文字数:5025 OBC :rm4601
愛善世界社版:7頁 八幡書店版:第8輯 363頁 修補版: 校定版:7頁 普及版:3頁 初版: ページ備考:
派生[?]この文献を底本として書かれたと思われる文献です。[×閉じる]:出口王仁三郎著作集 > 第三巻 愛と美といのち > [2] 人生 > [2-5] 仕事に生きる > [2-5-15] 働くということ
001末(すゑ)遂(つひ)に海(うみ)となるべき山水(やまみづ)も
002志(し)ばし木(こ)の葉(は)の下(した)潜(くぐ)るなり。
003此(この)世(よ)を造(つく)り固(かた)めたる
004天地(てんち)の御祖(みおや)と現(あ)れませる
005国治立(くにはるたち)の大神(おほかみ)の
006世人(よびと)を救(すく)ふ御教(みをしへ)は
007天(あま)つ御空(みそら)の青雲(あをくも)の
008棚引(たなび)くきはみ白雲(しらくも)の
009墜居(おりゐ)向伏(むかふ)す其(その)極(きは)み
010平和(へいわ)の風(かぜ)は吹(ふ)きすさみ
011仁慈(じんじ)の雨(あめ)は降(ふ)りしきる
012天地(あめつち)四方(よも)の人草(ひとぐさ)や
013草(くさ)の片葉(かきは)に至(いた)る迄(まで)
014恵(めぐ)みの露(つゆ)を与(あた)へむと
015豊栄昇(とよさかのぼ)る日(ひ)の御影(みかげ)
016大空(おほぞら)伝(つた)ふ月(つき)の影(かげ)
017きらめく星(ほし)の数多(かずおほ)く
018世人(よびと)を導(みちび)く宣伝使(せんでんし)
019四方(よも)に遣(つか)はし三五(あななひ)の
020教(をしへ)を天下(てんか)に宣(の)べ給(たま)ふ
021さはさりながら曲津霊(まがつひ)の
022神(かみ)も同(おな)じく神(かみ)の御子(みこ)
023陰(いん)と陽(やう)との御水火(みいき)より
024現(あら)はれ出(い)でしものなれば
025広(ひろ)き尊(たふと)き皇神(すめかみ)の
026御目(みめ)より之(これ)を見給(みたま)へば
027宇内(うだい)同胞(どうはう)神(かみ)の御子(みこ)
028仁慈(じんじ)の心(こころ)変(かは)るべき
029日(ひ)はゆき月(つき)はひた走(はし)り
030星(ほし)移(うつ)ろふに従(したが)ひて
031八岐(やまた)大蛇(をろち)や醜神(しこがみ)の
032彼方(かなた)此方(こなた)に現(あら)はれて
033軽生(けいせい)重死(ぢゆうし)の教(をしへ)をば
034四方(よも)に開(ひら)くぞうたてけれ
035バラモン教(けう)やウラル教(けう)
036ウラナイ教(けう)と各自(めいめい)に
037体主(たいしゆ)霊従(れいじう)の魂(たましひ)の
038向(むか)ふ所(ところ)に従(したが)ひて
039あらぬ教(をしへ)を拡充(くわくじう)し
040神(かみ)の御子(みこ)たる神人(しんじん)を
041惑(まど)はしゆくこそ忌々(ゆゆ)しけれ
042高姫司(たかひめつかさ)の後(あと)をうけ
043北山村(きたやまむら)を立出(たちい)でて
044小北(こぎた)の山(やま)に立籠(たてこも)り
045支離(しり)滅裂(めつれつ)の教理(けうり)をば
046道理(だうり)を知(し)らぬ愚者(ぐしや)共(ども)に
047有難(ありがた)さうに説(と)きつけて
048漸(やうや)う茲(ここ)に神殿(しんでん)や
049教(をしへ)の射場(いば)を建並(たてなら)べ
050蠑螈別(いもりわけ)を教主(けうしゆ)とし
051魔我彦(まがひこ)、お寅(とら)に文助(ぶんすけ)や
052其(その)外(ほか)百(もも)の幹部(かんぶ)たち
053神(かみ)の御(おん)為(ため)世(よ)の為(ため)と
054迷(まよ)ひ切(き)つたる心(こころ)より
055一心(いつしん)不乱(ふらん)に妖言(えうげん)を
056コケ徳利(どつくり)のドブドブと
057吐(は)き出(だ)し世人(よびと)の魂(たましひ)を
058酔(よ)はせ濁(にご)らせ曇(くも)らせつ
059世界(せかい)唯一(ゆゐいつ)の御教(みをしへ)と
060自(みづか)ら信(しん)じ又(また)迷(まよ)ひ
061盲(めくら)聾(つんぼ)も同様(どうやう)に
062身(み)もたなしらに進(すす)み行(ゆ)く
063蠑螈別(いもりわけ)は曲神(まがかみ)に
064魂(たま)を破(やぶ)られ朝夕(あさゆふ)に
065神(かみ)の出入(でいり)の肉宮(にくみや)と
066言(い)ひつつ酒(さけ)に酔(よ)ひくらひ
067呂律(ろれつ)もまはらぬ舌(した)の根(ね)で
068数多(あまた)の男女(だんじよ)を根(ね)の国(くに)や
069底(そこ)の国(くに)までおとしゆく
070何(なん)にも知(し)らぬ信徒(まめひと)は
071盲(めくら)の手引(てびき)と知(し)らずして
072自分(じぶん)も盲(めくら)となりすまし
073尊(たふと)き道(みち)と信(しん)じつつ
074随喜(ずいき)の涙(なみだ)と諸共(もろとも)に
075暗黒界(あんこくかい)へ一心(いつしん)に
076知(し)らず知(し)らずに堕(お)ちて行(ゆ)く
077其(その)惨状(さんじやう)を救(すく)はむと
078神(かみ)の御言(みこと)を畏(かしこ)みて
079三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)
080治国別(はるくにわけ)に仕(つか)へたる
081万公(まんこう)、五三公(いそこう)始(はじ)めとし
082バラモン教(けう)の信徒(しんと)なる
083松彦(まつひこ)、アク、タク、テク四(よ)人(にん)
084神(かみ)のまにまに河鹿川(かじかがは)
085一本橋(いつぽんばし)の袂(たもと)にて
086不思議(ふしぎ)の綱(つな)にまとはれつ
087小北(こぎた)の山(やま)の神殿(しんでん)に
088登(のぼ)り来(きた)れば曲神(まがかみ)は
089何(なん)とはなしに怖(お)ぢ恐(おそ)れ
090次第(しだい)々々(しだい)に逃(に)げ去(さ)りて
091蠑螈別(いもりわけ)や魔我彦(まがひこ)や
092お寅(とら)婆(ば)さまを飾(かざ)りたる
093金箔(きんぱく)忽(たちま)ち剥脱(はくだつ)し
094思(おも)ひもよらぬ醜状(しうじやう)を
095演出(えんしゆつ)せしぞ可笑(をか)しけれ
096蠑螈別(いもりわけ)は高姫(たかひめ)を
097束(つか)の間(あひだ)も忘(わす)れ得(え)ず
098恋(こひ)の焔(ほのほ)に胸(むね)こがし
099欝(うつ)を散(さん)ぜむ其(その)為(ため)に
100毒(どく)と知(し)りつつ無理(むり)無体(むたい)
101酒(さけ)に紛(まぎ)らす果敢(はか)なさよ
102箸(はし)とる事(こと)にまめやかな
103彼(かれ)は又(また)もや衣笠(きぬがさ)の
104村(むら)より来(きた)るお民(たみ)をば
105此上(こよ)なきナイスと思(おも)ひつめ
106お寅(とら)婆(ば)さまの目(め)を忍(しの)び
107互(たがひ)に秋波(しうは)の交換(かうくわん)を
108開始(かいし)しゐたる折(をり)もあれ
109松彦(まつひこ)さまや熊公(くまこう)が
110突然(とつぜん)ここに現(あら)はれて
111身(み)の置所(おきどころ)なきままに
112お寅(とら)の隙(すき)を窺(うかが)ひて
113命(いのち)より大事(だいじ)と貯(たくは)へし
114金(かね)を懐中(くわいちゆう)に托(たく)しこみ
115恋(こひ)しきお民(たみ)と手(て)をとつて
116暗(やみ)に紛(まぎ)れて随徳寺(ずゐとくじ)
117あと白浪(しらなみ)と消(き)えてゆく
118お寅(とら)婆(ば)さまは腹(はら)を立(た)て
119髪(かみ)ふり乱(みだ)し阿修羅(あしゆら)王(わう)が
120荒(あ)れたる如(ごと)き勢(いきほひ)で
121言霊(ことたま)濁(にご)るひきがへる
122ガアガア声(こゑ)を張上(はりあ)げて
123尻(しり)ひつからげ坂道(さかみち)を
124おのれ蠑螈別(いもりわけ)の奴(やつ)
125どこの何処(いづこ)に潜(ひそ)むとも
126後(あと)つけねらひ素首(そつくび)を
127とつつかまへて泡(あわ)吹(ふ)かせ
128思(おも)ふ存分(ぞんぶん)鼻(はな)をねぢ
129恨(うらみ)を晴(は)らさにやおくべきか
130それについてもお民(たみ)奴(め)を
131許(ゆる)しておいちや身(み)の破目(はめ)と
132金(かね)と恋(こひ)とに村肝(むらきも)の
133心(こころ)を紊(みだ)しあとさきも
134水音(みなおと)清(きよ)き河鹿川(かじかがは)
135一本橋(いつぽんばし)を打(う)ち渡(わた)り
136野中(のなか)の森(もり)に逃(に)げて行(ゆ)く
137二人(ふたり)の後(あと)を追(お)つかける
138悪(わる)い時(とき)には悪(わる)いもの
139蠑螈別(いもりわけ)が逃(に)げしなに
140道(みち)の片方(かたへ)の木(き)の幹(みき)に
141綱(つな)をしばりて追(お)ひ来(きた)る
142お寅(とら)婆(ば)さまの足(あし)さらへ
143こかして泡(あわ)を吹(ふ)かせむと
144企(たく)みおいたる其(その)罠(わな)に
145もろくもかかりステンドと
146こけた拍子(ひやうし)に鼻(はな)をうち
147ウンウンウンと唸(うな)りつつ
148気絶(きぜつ)したるぞ是非(ぜひ)なけれ
149後(あと)に残(のこ)りし松彦(まつひこ)は
150お寅(とら)婆(ば)さまや蠑螈別(いもりわけ)
151逃(に)げ行(ゆ)く後(あと)を打眺(うちなが)め
152五三公(いそこう)、万公(まんこう)其(その)外(ほか)の
153三人(みたり)の男(をとこ)を遣(つか)はして
154二人(ふたり)の後(あと)を追(お)はしめぬ
155又(また)魔我彦(まがひこ)は恋慕(こひした)ふ
156お民(たみ)の姿(すがた)の消(き)えしより
157仮令(たとへ)お民(たみ)が天(あま)かけり
158地下(ちか)鉄道(てつだう)に打乗(うちの)つて
159何処(いづこ)の果(はて)へかくるとも
160探(さが)さにやおかぬと気(き)をいらち
161鼻息(はないき)荒(あら)くトントンと
162これ亦(また)後(あと)を追(お)うてゆく
163かかる怪体(けたい)な騒動(さうだう)を
164無心(むしん)の月(つき)は山(やま)の端(は)に
165利鎌(とがま)のやうな光(ひかり)なげ
166遥(はるか)に地上(ちじやう)を瞰下(かんか)して
167ニコニコ笑(わら)ひ眺(なが)めゐる
168五三公(いそこう)、万公(まんこう)外(ほか)三人(みたり)
169松彦(まつひこ)さまの命令(めいれい)で
170これ亦(また)尻(しり)をひんまくり
171三人(みたり)の行衛(ゆくゑ)を探(さが)さむと
172一生(いつしやう)懸命(けんめい)汗(あせ)をかき
173矢(や)を射(い)る如(ごと)く大地(だいち)をば
174ドンドンドンと威喝(ゐかつ)させ
175一本橋(いつぽんばし)をギクギクと
176弓張月(ゆみはりづき)に撓(たわ)ませつ
177危(あやふ)く渡(わた)る大野原(おほのはら)
178野中(のなか)の森(もり)を目当(めあて)とし
179月(つき)の光(ひかり)を浴(あ)びながら
180ゲラゲラゲラと笑(わら)ひつつ
181くり出(だ)し進(すす)むぞ可笑(をか)しけれ
182あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
183此(この)面白(おもしろ)き物語(ものがたり)
184洩(も)らさず落(おと)さずまつぶさに
185述(の)べさせ給(たま)へ惟神(かむながら)
186月照彦(つきてるひこ)の御(おん)前(まへ)に
187畏(かしこ)み畏(かしこ)み願(ね)ぎまつる。
188 五三公(いそこう)の一行(いつかう)はお民(たみ)、189蠑螈別(いもりわけ)、190お寅(とら)、191魔我彦(まがひこ)の遁走(とんそう)した後(あと)を追(お)つかけ、192漸(やうや)く一本橋(いつぽんばし)を渡(わた)り二三(にさん)町(ちやう)ばかり北進(ほくしん)し、193榛(はん)の樹(き)の道(みち)の両方(りやうはう)に立並(たちなら)ぶ樹蔭(こかげ)までやつて来(き)た。194ウンウンと怪(あや)しき声(こゑ)が聞(きこ)えて来(き)た。
195万公(まんこう)『オイ御(ご)一同(いちどう)、196どうやらお寅(とら)婆(ば)アさまが芋(いも)をいけてをるとみえて、197ウンウンと気張(きば)つてゐるぢやないか。198どうもウンの悪(わる)い婆(ば)アさまと見(み)えるワイ。199一寸(ちよつと)ここらでウン動(どう)中止(ちうし)をやらうぢやないか』
200アク『中下(ちうげ)先生(せんせい)のお言葉(ことば)に従(したが)つて、201ここで一先(ひとま)づ停車(ていしや)する事(こと)にしよう。202何(なん)だか榛(はん)のかげでシツカリ分(わか)らないが二人(ふたり)ゐるやうだ』
203万公『そりや大方(おほかた)蠑螈別(いもりわけ)さまと此処(ここ)にやつてゐるのだらう、204そりや都合(つがふ)が好(よ)い、205オイ、206イヤもうし、207ウラナイ教(けう)の教主(けうしゆ)様(さま)、208立派(りつぱ)な家(いへ)がありながら、209物好(ものずき)な、210こんな所(とこ)まで出(で)て来(き)て安眠(あんみん)するといふ事(こと)がありますか、211サア起(お)きたり起(お)きたり』
212と側(そば)に寄(よ)つてよく顔(かほ)をのぞいて見(み)れば魔我彦(まがひこ)であつた。213魔我彦(まがひこ)はお寅(とら)婆(ば)アさまの倒(たふ)れた体(からだ)に躓(つまづ)いて、214ここに足(あし)をひつかけ、215ひつくり返(かへ)り、216膝(ひざ)をしたたか打(う)つて痛(いた)さをこらへ、217僅(わづか)にウンウンと息(いき)をもらしてゐたのである。218お寅(とら)婆(ば)アさまも一旦(いつたん)気絶(きぜつ)してゐたが、219魔我彦(まがひこ)に踏(ふ)まれてハツとして気(き)がつき、220めしやげた鼻(はな)を両手(りやうて)で押(おさ)へ地上(ちじやう)に倒(たふ)れて居(ゐ)たので、221魔我彦(まがひこ)が側(そば)にこけてゐることには気(き)がつかなかつたのである。
222タク『ヤア、223これはこれは互(たがひ)違(ちが)ひの御(ご)夫婦(ふうふ)だ。224これ魔我彦(まがひこ)さま、225俺(わし)ぢやからよいが、226蠑螈別(いもりわけ)さまの目(め)についたら、227それこそ大変(たいへん)に怒(おこ)られますよ。228お寅(とら)さまと枕(まくら)を並(なら)べて、229草(くさ)の褥(しとね)に星(ほし)の夜着(よぎ)、230余(あま)り物好(ものずき)にも程(ほど)があるぢやないか、231サア起(お)きたり起(お)きたり』
232 魔我彦(まがひこ)はお寅(とら)婆(ば)アさまをお民(たみ)だと思(おも)ひつめ、233一生(いつしやう)懸命(けんめい)に裾(すそ)を握(にぎ)つて、234一方(いつぱう)の手(て)で膝(ひざ)を撫(な)でて居(を)つたが、235お寅(とら)婆(ば)アさまと聞(き)いて、236稍(やや)落胆(らくたん)失望(しつばう)的(てき)の声(こゑ)をあげ、
237魔我彦『あゝあ、238何(なん)だ、239人違(ひとちが)ひか、240お民(たみ)の奴(やつ)、241どこへ行(ゆ)きやがつた。242大方(おほかた)蠑螈別(いもりわけ)と逐電(ちくでん)しやがつたのだろ。243何処(どこ)までも追(お)つかけて、244とつつかまへねば俺(おれ)の男(をとこ)が立(た)たぬ。245これお寅(とら)さま、246お前(まへ)は蠑螈別(いもりわけ)を、247とつつかまへて、248十分(じふぶん)に鼻(はな)でも捻(ね)ぢて、249お民(たみ)の事(こと)を思(おも)ひ切(き)らして下(くだ)さい。250さうすりや、251お前(まへ)もよし、252私(わし)もよし、253かたみ恨(うら)みもなし、254こんな上分別(じやうふんべつ)はありませぬ』
255と半泣声(はんなきごゑ)で膝(ひざ)の疵(きず)を撫(な)でながら口説(くど)いてゐる。
256お寅(とら)『エヽ残念(ざんねん)やな、257高姫(たかひめ)にお民(たみ)、258たのつく奴(やつ)は何処(どこ)までも私(わし)に祟(たた)ると見(み)える。259仮令(たとへ)他国(たこく)へ走(はし)るとも尋(たづ)ね出(だ)して叩(たた)きつけ、260沢山(たくさん)膏(あぶら)を取(と)つてやらねば、261ただでは済(す)まされぬ。262エヽ口惜(くちを)しい』
263万公(まんこう)『ハツハヽヽヽ、264失恋党(しつれんたう)の秘密(ひみつ)会議(くわいぎ)が開催(かいさい)されてゐるワイ。265これお寅(とら)さま、266みつともないぢやないか、267チツトしつかりせぬかい、268エヽー、269何(なに)をメソメソ泣(な)いてゐるのだ。270海千(うみせん)山千(やません)川千(かはせん)の下(した)つ腹(ぱら)に毛(け)のない所(ところ)を御覧(ごらん)なさいと云(い)ふ様(やう)なシタタカ者(もの)の癖(くせ)に、271さてもさても戸惑(とまど)うたものだなア。272蠑螈別(いもりわけ)一人(ひとり)が男(をとこ)ぢやあるまいし、273何(なん)ならここにテクが一人(ひとり)、274お前(まへ)さまの事(こと)を大変(たいへん)に褒(ほ)めてゐたから、275一(ひと)つ鞍替(くらがへ)をしたらどうだい。276河鹿川(かじかがは)でサツパリ洗(あら)ひ張(は)りと云(い)ふ幕(まく)を開(ひら)くのだな。277さうすりや恋(こひ)の執着(しふちやく)もスツクリ晴(は)れて、278新(あたら)しい立派(りつぱ)な若(わか)い夫(をつと)が持(も)てると云(い)ふものだ。279なア、280テク公(こう)、281お前(まへ)もお寅(とら)さまなら満足(まんぞく)だらう』
282テク『馬鹿(ばか)にするない、283太平洋(たいへいやう)で牛蒡(ごばう)洗(あら)つてる様(やう)な大(おほ)きな代物(しろもの)は御免(ごめん)だ。284一(ひと)つ暴風(ばうふう)が吹(ふ)いて見(み)よ、285忽(たちま)ち帆柱(ほばしら)まで沈没(ちんぼつ)の厄(やく)に遭(あ)ふからなア』
286万公(まんこう)『イツヒツヒツヒ、287これ魔我(まが)さま、288チツトしつかりせぬかいな、289何時(なんどき)だと思(おも)つてゐるのだい、290物好(ものずき)に、291こんな老朽船(らうきうせん)の後(あと)を追(お)うて来(く)るといふ事(こと)があるものか、292サア小北山(こぎたやま)へ帰(かへ)らうぢやないか』
293魔我(まが)『アイタヽヽ、294此(この)魔我彦(まがひこ)も男(をとこ)だ。295トベラに焼酎(せうちう)をふいたやうな臭(にほひ)のするやうなお婆(ば)アさまを、296何(なん)ぼ俺(おれ)だつて追跡(つゐせき)するものかい、297俺(おれ)はこんな梅干婆(うめぼしば)アさまは元(もと)より眼中(がんちう)にないのだ』
298 お寅(とら)はめしやげた鼻(はな)で、299妙(めう)な声(こゑ)を出(だ)しながら、
300お寅『コリヤ、301魔我公(まがこう)、302失礼(しつれい)な事(こと)申(まを)すと承知(しようち)せぬぞ、303どこが梅干(うめぼし)だ、304梅干(うめぼし)といふのは皺苦茶(しわくちや)婆(ばば)の事(こと)だよ。305まだ此(この)通(とほ)りデツプリと肉付(にくつき)のよい白浪婆(しらなみば)アさま、306元気(げんき)盛(ざか)りを、307余(あま)り見下(みさ)げるものぢやない。308そんな失礼(しつれい)な事(こと)申(まを)すと、309蠑螈別(いもりわけ)さまのやうに鼻(はな)を捻(ねぢ)つてやろか』
310魔我(まが)『エヽ滅相(めつさう)な、311梅干(うめぼし)……と云(い)つたのは粋人(すゐじん)と云(い)つたのだ、312梅(うめ)位(くらゐ)すいなものはないからな。313さう悪取(わるど)りして貰(もら)つちや、314魔我彦(まがひこ)もマガ悪(わる)くて困(こま)りますワイ』
315お寅(とら)『お前(まへ)の云(い)ふ事(こと)に詐(いつは)りがなければ、316それでよい、317ヤツパリわたしは粋人(すゐじん)だらうがな、318コラ魔我(まが)、319そんな甘(うま)い事(こと)云(い)つても、320このお寅(とら)さまは駄目(だめ)だから諦(あきら)めたがよからうぞ』
321タク『ウワツハツハツハ、322自惚(うぬぼれ)とカサケのない者(もの)はないと云(い)ふ事(こと)だが、323本当(ほんたう)に妙(めう)チキ珍(ちん)だ、324イツヒヽヽ』
325魔我(まが)『此(この)お寅(とら)さまはエライものだよ、326横根(よこね)疳瘡(かんさう)骨(ほね)うづきの関門(くわんもん)をとほの昔(むかし)に突破(とつぱ)し、327トベラ峠(たうげ)を打越(うちこ)え、328屏風(びやうぶ)ケ岳(だけ)を進行中(しんかうちう)だからなア、329何(なん)せよ両屏風(りやうびやうぶ)の豪傑(がうけつ)だからな、330ウツフツフフ、331フツフ』
332タク『両屏風(りやうびやうぶ)つて何(なん)だい、333妙(めう)な事(こと)を云(い)ふぢやないか、334家(いへ)の中(なか)ぢやあるまいし、335こんな所(ところ)へ屏風(びやうぶ)持(も)つて来(き)て何(なん)にするのだい、336こんな道(みち)の真中(まんなか)で屏風(びやうぶ)引(ひ)きまはして結婚(けつこん)でもあるまいし』
337魔我(まが)『ハツハヽヽヽ、338余程(よほど)世間見(せけんみ)ずだな、339貴様(きさま)は未(ま)だおぼこいワイ、340両屏風(りやうびやうぶ)と云(い)つたら両方(りやうはう)の横根(よこね)だ、341片(かた)つ方(ぽう)の横根(よこね)を片屏風(かたびやうぶ)と云(い)ふのだ。342そしてなア、343お寅(とら)さまのやうに毎木毒(まいぼくどく)で頭髪(とうはつ)のうすくなつたのを、344トヤといふのだ。345此(この)道(みち)にかけたら魔我(まが)さまもマガなスキがな研究(けんきう)してゐるから随分(ずゐぶん)博士(はかせ)だよ』
346万公(まんこう)『何時(いつ)までもこんな所(ところ)でグヅグヅしてゐても仕方(しかた)がないぢやないか、347兎(と)も角(かく)、348小北山(こぎたやま)まで帰(かへ)らう、349俺(おれ)が神変(しんぺん)不思議(ふしぎ)の神術(かむわざ)で、350お民(たみ)や蠑螈別(いもりわけ)の足止(あしど)めをしてやるから、351安心(あんしん)せい』
352アク『三五教(あななひけう)の神力(しんりき)で足止(あしど)めのみならず、353小北山(こぎたやま)へ両人(りやうにん)が帰(かへ)つて来(く)る様(やう)に神(かみ)さまに願(ねが)つて鎮魂(ちんこん)をしてやるワ、354サアお寅(とら)婆(ば)アさま、355魔我(まが)さま、356帰(い)なう、357小北山(こぎたやま)の狸(たぬき)も足(あし)を洗(あら)うて寝(ね)る時分(じぶん)だ、358モウ子(ね)の刻(こく)だ。359気(き)の利(き)いた化物(ばけもの)も引込(ひつこ)む時分(じぶん)だぞ。360サア下腹(したはら)に毛(け)のない婆(ば)アさま、361帰(かへ)らう帰(かへ)らう、362偕老(かいらう)同穴(どうけつ)だ。363アツハツハツハ』
364お寅(とら)『何(なに)、365三五教(あななひけう)の神力(しんりき)で蠑螈別(いもりわけ)とお民(たみ)を返(かへ)してやらうと云(い)ふのかい。366実際(じつさい)にそんな事(こと)が出来(でき)るとすれば、367此(この)お寅(とら)もこんなに骨(ほね)を折(を)る必要(ひつえう)がない、368あ、369それなら一先(ひとま)づ帰(かへ)る事(こと)にしよう。370併(しか)しお民(たみ)はモウ返(かへ)していらないから、371蠑螈別(いもりわけ)だけを此方(こちら)へ引寄(ひきよ)せて貰(もら)ひたいものだ。372さうすりや、373私(わたし)も三五教(あななひけう)にスツパリと帰順(きじゆん)して了(しま)ひますワ』
374万公(まんこう)『ハヽヽヽヽ、375随分(ずゐぶん)現金(げんきん)な婆(ば)アさまだな。376モシ先生(せんせい)、377どうでせう、378蠑螈別(いもりわけ)を引戻(ひきもど)す予算(よさん)は成立(せいりつ)してゐますかな』
379五三(いそ)『確(たし)かに成立(せいりつ)してゐる、380併(しか)しこれも婆(ば)アさまの心次第(こころしだい)だ。381ヤアお寅(とら)さま、382帰(い)なう帰(い)なう』
383お寅(とら)『何(なに)は兎(と)もあれ、384旅装束(たびしやうぞく)もせず、385腹立紛(はらだちまぎ)れにまつ跣足(ぱだし)でやつて来(き)たのだから、386旅(たび)をしようと云(い)つても此(この)儘(まま)ではいかない、387一遍(いつぺん)帰(かへ)りませう。388コレ魔我(まが)さま、389お前(まへ)は蠑螈別(いもりわけ)の後(あと)を追(お)うて、390お民(たみ)の手(て)を取(と)りドツカの山奥(やまおく)へでも暫(しばら)く隠(かく)れてゐなさい、391モウ小北山(こぎたやま)へ帰(かへ)る必要(ひつえう)はないから……』
392魔我(まが)『俺(わし)だつて、393まつ跣足(ぱだし)で、394此(この)通(とほ)り帯取裸(おびとりはだか)だ。395一本橋(いつぽんばし)を渡(わた)る時(とき)に履物(はきもの)をおとし、396帯(おび)も褌(ふんどし)も川(かは)の中(なか)へおち込(こ)んで了(しま)つた、397懐中物(くわいちうもの)もドコで落(おと)したか分(わか)らぬ、398兎(と)も角(かく)一遍(いつぺん)帰(かへ)らな何(ど)うする事(こと)も出来(でき)ない。399私(わし)は私(わし)でウラナイ教(けう)の副教主(ふくけうしゆ)といふ絶対(ぜつたい)権威(けんゐ)を持(も)つてゐるのだから、400是非(ぜひ)帰(かへ)らなくてはならない、401教主(けうしゆ)の出(で)た後(あと)は副教主(ふくけうしゆ)が教権(けうけん)を掌握(しやうあく)するのは当然(たうぜん)だ』
402お寅(とら)『それなら仕方(しかた)が無(な)い。403魔我(まが)さまもお帰(かへ)りなさい』
404万公(まんこう)『魔我(まが)さまが副教主(ふくけうしゆ)で、405之(これ)からは全権(ぜんけん)を握(にぎ)るのだから、406さうするとヤツパリお寅(とら)さまは、407蠑螈別(いもりわけ)に対(たい)する同様(どうやう)の待遇振(たいぐうぶり)を、408魔我(まが)さまに対(たい)して捧(ささ)ぐるのだな』
409お寅(とら)『ヘン、410阿呆(あはう)らしい、411玉(たま)が違(ちが)ひますわいな、412ホツホヽヽヽ』
413 五三公(いそこう)、414お寅(とら)外(ほか)五(ご)人(にん)は、415ヤツトの事(こと)で小北山(こぎたやま)の教主館(けうしゆやかた)まで帰(かへ)つて来(き)た。
416(大正一一・一二・一五 旧一〇・二七 松村真澄録)
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