霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第四章 人情(にんじやう)〔一二七八〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第49巻 真善美愛 子の巻 篇:第1篇 神示の社殿 よみ(新仮名遣い):しんじのしゃでん
章:第4章 人情 よみ(新仮名遣い):にんじょう 通し章番号:1278
口述日:1923(大正12)年01月16日(旧11月30日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年11月5日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
地鎮祭も終わって直会の宴に移った。今日は飲酒を許され、バラモン軍から来た者たちも酔いつぶれて不平をしゃべりだした。
イルは普段酒を飲むことが許されないことに対して、大声で文句をいいはじめた。イクやサールがそれをなだめにかかる。イルはさらに、自分は治国別に心服して降参したのだ、猿に目をひっかかれるような玉国別やその弟子の道公に仕えるのは気に食わないと言い始めた。
そこに道公がやってきてイル、イク、サールの輪に入り、酒の席での言葉は気にかけないと一同をなだめ、盃を取って一緒に飲みながら歌を歌い始めた。四人は一段となって打ち解け、酒を酌み交わしている。
ヨル、ハル、テルはまた別の輪になって、イル、イク、サールたちの酒盛りを論評していると、晴公が徳利を下げてやってきて輪に入った。晴公は三人をねぎらい、三人の名を読み込んだ歌を歌って打ち解けた。
直会の宴は閉じ、一同は十二分に歓を尽くして寝に就いた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-06-09 16:53:04 文字数:4909 OBC :rm4904
愛善世界社版:42頁 八幡書店版:第9輯 47頁 修補版: 校定版:44頁 普及版:21頁 初版: ページ備考:
001 石搗(いしつき)は漸(やうや)く無事(ぶじ)に済(す)んで地鎮祭(ぢちんさい)も終(をは)り、002直会(なほらひ)の宴(えん)に移(うつ)つた。003今日(けふ)は玉国別(たまくにわけ)の許(ゆる)しを得(え)てさしも酒豪(しゆがう)のイル、004イク、005サール、006テル、007ハル、008ヨルのバラモン組(ぐみ)は天(てん)にも昇(のぼ)るやうな心地(ここち)で歌(うた)を唄(うた)ひ、009石(いし)などをケンケンと叩(たた)きならし、010堤(どて)を切(き)らして踊(をど)り狂(くる)ふた。011何人(なにびと)も酒(さけ)に酔(よ)ひ潰(つぶ)れた時(とき)は小供(こども)のやうになるものである。012又(また)平素(へいそ)から心(こころ)にもつて居(ゐ)た不平(ふへい)は残(のこ)らず喋(しやべ)るものである。
013イル『おい、014イク、015サール何(ど)うだ。016清春山(きよはるやま)に居(を)つた時(とき)は、017朝(あさ)から晩(ばん)迄(まで)甘(うめ)い酒(さけ)を鱈腹(たらふく)呑(の)んで、018新来(しんき)のお客(きやく)さま伊太公(いたこう)さま迄(まで)敵味方(てきみかた)の障壁(しやうへき)をとつて優遇(いうぐう)したぢやないか。019それに馬鹿(ばか)らしい三五教(あななひけう)に帰順(きじゆん)してから今日(けふ)迄(まで)一滴(いつてき)も呑(の)ましちや貰(もら)筈(はず)、020本当(ほんたう)に淋(さび)しくて、021矢張(やつぱり)元(もと)のバラモン教(けう)の方(はう)が余程(よつぽど)よいと思(おも)つたよ。022貴様(きさま)等(ら)が何時(いつ)迄(まで)もこんな所(ところ)に引(ひつ)いてけつかるものだから、023俺(おれ)も仕方(しかた)なしにひつ付(つ)いて居(ゐ)たのだ。024本当(ほんたう)にここの大将(たいしやう)はケチン坊(ばう)だからな。025なんだい道公(みちこう)なンて偉(えら)さうに監督面(かんとくづら)を提(さ)げやがつて、026俺(おれ)はあのしやつ面(つら)を見(み)てもむかつくのだ。027エーン』
028と副守(ふくしゆ)が発動(はつどう)して本音(ほんね)を吐(は)き出(だ)した。
029 イクはイルが大(おほ)きな声(こゑ)で不平(ふへい)を云(い)ふて管(くだ)をまくので道公(みちこう)の監督(かんとく)に聞(き)かれては大変(たいへん)と、030一生(いつしやう)懸命(けんめい)に左右(さいう)の手(て)で自分(じぶん)の耳(みみ)を押(おさ)へて居(ゐ)る。031そしてイルの耳許(みみもと)に口(くち)を寄(よ)せ、
032イク『オイ兄弟(きやうだい)、033そんな大(おほ)きな声(こゑ)で不平(ふへい)を云(い)ふものぢやない。034勿体(もつたい)ないぞ。035道公(みちこう)の耳(みみ)へ入(はい)つたらどうするのぢや』
036イル『ナヽ何(なん)だ、037何(なに)が勿体(もつたい)ないのだい。038道公(みちこう)の耳(みみ)へ入(はい)るのが、039それ程(ほど)われや恐(おそ)ろしいのか。040何(なん)だその手(て)は耳(みみ)を押(おさ)へやがつて』
041イク『それだつて、042余(あま)り貴様(きさま)が大(おほ)きな声(こゑ)で悪口(わるくち)を吐(ぬか)すものだから、043監督(かんとく)の耳(みみ)に入(い)らないやうにつめをして居(ゐ)るのだ』
044イル『何(なに)さらしやがるのだ。045馬鹿(ばか)だな、046耳(みみ)を押(おさ)へて鈴(すず)を盗(ぬす)むやうな事(こと)をしたつて何(なん)になる。047このイルの仰有(おつしや)る事(こと)は、048何程(なにほど)金挺(かなてこ)聾(つんぼ)でも直(す)ぐ耳(みみ)にイルやうに云(い)つて居(ゐ)るのだ。049骨(ほね)と皮(かは)との痩馬(やせうま)を河鹿(かじか)峠(たうげ)を引(ひ)いて通(とほ)るやうに、050ヘエヘエ ハイハイと盲従(まうじゆう)する奴(やつ)は、051それこそ気骨(きこつ)のない章魚(たこ)人間(にんげん)だ。052このイルはそんな卑怯(ひけふ)な事(こと)はなさらぬぞ。053も少(すこ)し大(おほ)きな声(こゑ)で不平(ふへい)を云(い)ふのぢや。054否(いな)大(おほい)に怨言(えんげん)非辞(ひじ)を連発(れんぱつ)するのだ。055のうサール、056貴様(きさま)もサール者(もの)だから、057きつと俺(おれ)と同感(どうかん)だらう』
058サール『馬鹿(ばか)云(い)ふな、059この目出度(めでた)い地鎮祭(ぢちんさい)に結構(けつこう)な酒(さけ)を頂(いただ)きやがつて何(なに)をグヅグヅ云(い)ふのだ。060ちと心得(こころえ)ぬかい』
061イル『ナヽ何(なに)が目出度(めでた)いのだ。062何(なに)がそれ程(ほど)結構(けつこう)なのだ。063よく考(かんが)へて見(み)い、064清春山(きよはるやま)は破壊(はくわい)され、065浮木(うきき)の森(もり)の陣営(ぢんえい)はメチヤ、066クチヤにされ、067何(ど)うして吾々(われわれ)バラモン勇士(ゆうし)の顔(かほ)が立(た)つか、068それに何(なん)ぞや三五教(あななひけう)の神(かみ)を祭(まつ)るお宮(みや)のお手伝(てつだ)ひをさして貰(もら)ひ、069嬉(うれ)しさうに嫌(いや)でもない酒(さけ)を強(しひ)られて何(なに)が有難(ありがた)いのだ。070勿体(もつたい)ないのだ。071フゲタが悪(わる)いぢやないか、072敵(てき)に兜(かぶと)をぬいで敵(てき)の馳走(ちそう)を頂(いただ)き、073感謝(かんしや)の涙(なみだ)をこぼすやうな者(もの)は人間(にんげん)ぢやないぞ。074俺(おれ)もかうして表面(へうめん)帰順(きじゆん)して居(ゐ)るものの、075心(こころ)の底(そこ)から貴様(きさま)のやうに帰順(きじゆん)して居(ゐ)るのぢやない。076かうして大勢(おほぜい)の中(なか)に紛(まぎ)れ込(こ)み、077様子(やうす)を探(さぐ)つた上(うへ)、078大(おほい)に手柄(てがら)をせうと思(おも)ふて居(ゐ)たのだ。079白夷(はくい)、080叔斉(しゆくせい)は首陽(しゆやう)の蕨(わらび)を食(くら)つて周(しう)の粟(ぞく)を喰(く)はず生(い)きて居(ゐ)たぢやないか。081夫(そ)れだけの気骨(きこつ)が無(な)くてバラモンの武士(ぶし)と云(い)はれるか。082エーン』
083サール『アハヽヽヽ、084それ程(ほど)三五教(あななひけう)の飲食(いんしよく)が気(き)に入(い)らぬのなら、085なぜ前後(ぜんご)も分(わか)らぬ所(ところ)迄(まで)酒(さけ)に喰(くら)ひ酔(よ)ふたのだ。086貴様(きさま)はいつも悪酒(わるざけ)だから困(こま)つたものだ。087ちと躾(たしな)まぬと、088俺(おれ)達(たち)迄(まで)が痛(いた)くない腹(はら)をさぐられては詰(つま)らない。089俺(おれ)達(たち)は、090貴様(きさま)のやうな二股(ふたまた)武士(ぶし)ぢやない、091帰順(きじゆん)したと云(い)ふたら心(こころ)の底(そこ)から帰順(きじゆん)して居(ゐ)るのだ』
092イル『俺(おれ)だつて、093松彦(まつひこ)や治国別(はるくにわけ)には心(こころ)の底(そこ)から帰順(きじゆん)したのだ。094玉国別(たまくにわけ)や道公(みちこう)て、095あんな宣伝使(せんでんし)に帰順(きじゆん)したのぢやない。096第一(だいいち)それが俺(おれ)は気(き)に喰(く)はないのだ。097よく考(かんがへ)えて見(み)よ、098天下(てんか)の宣伝使(せんでんし)ともあらうものが、099四(よ)つ手(で)に目玉(めだま)を引(ひ)つかかれるやうで何処(どこ)に神徳(しんとく)があるか、100俺(おれ)はあの玉国別(たまくにわけ)の面(つら)を見(み)るとムツとするのだ。101治国別(はるくにわけ)さまのやうな宣伝使(せんでんし)なら何程(なにほど)バラモン教(けう)の俺(おれ)だつて帰順(きじゆん)するのだけれどな』
102 道公(みちこう)は、103三(さん)人(にん)が隅(すみ)の方(はう)に片寄(かたよ)り大(おほ)きな声(こゑ)で囀(さへづ)つて居(ゐ)るので、104喧嘩(けんくわ)ぢやないか、105もし喧嘩(けんくわ)なら仲裁(ちうさい)して目出度(めでた)う納(をさ)めねばならぬ、106肝腎(かんじん)の地鎮祭(ぢちんさい)にケチを付(つ)けられては耐(たま)らないと、107三(さん)人(にん)の前(まへ)にホロ酔(よひ)機嫌(きげん)でヒヨロヒヨロと進(すす)み寄(よ)り、
108道公(みちこう)『おいイル、109イク、110サール、111何(なに)を夫(それ)程(ほど)喧(やかま)しう云(い)つて居(ゐ)るのだ。112何(なん)ぞ面白(おもしろ)い話(はなし)でもあるのか』
113イク『ハイ、114面白(おもしろ)い事(こと)があるのですよ。115このイルの奴(やつ)たうとう本音(ほんね)を吹(ふ)きやがつて仕様(しやう)もない事(こと)を云(い)ふのです』
116イル『コレヤ コレヤ イク、117幾何(いくら)酒(さけ)に酔(よ)ふても大事(だいじ)の事(こと)を云(い)ふてはいけないよ。118俺(おれ)が玉国別(たまくにわけ)が嫌(いや)になつた事(こと)や、119この普請(ふしん)の気(き)に入(い)らぬ事(こと)や、120矢張(やつぱり)バラモン教(けう)の方(はう)が結構(けつこう)だと云(い)つた事(こと)を決(けつ)して道公(みちこう)の監督(かんとく)に云(い)つてはならないぞ。121そこが友達(ともだち)の交誼(よしみ)だからな』
122道公(みちこう)『アハヽヽヽ、123や イルさま、124たつて聞(き)かうとは云(い)ひませぬよ。125併(しか)し皆(みんな)分(わか)りましたからな』
126イク『それ見(み)ろ、127イルの奴(やつ)矢張(やつぱ)りお神酒(みき)の神徳(しんとく)により、128腹(はら)の中(なか)のゴモクを薩張(さつぱ)り吐(は)き出(だ)されよつたな。129もし道公(みちこう)さま、130どうぞイルが何(なに)を云(い)つても、131あいつは副守(ふくしゆ)が云(い)つて居(ゐ)るのですから聞(き)き流(なが)してやつて下(くだ)さいませ』
132サール『道公(みちこう)の監督(かんとく)さま、133イルはこんな奴(やつ)です。134併(しか)し比較(ひかく)的(てき)正直者(しやうぢきもの)ですから、135玉国別(たまくにわけ)様(さま)にはどうぞ仰有(おつしや)らないやうにして許(ゆる)してやつて下(くだ)さいませ。136本当(ほんたう)に仕方(しかた)のない奴(やつ)で厶(ござ)います。137ウンウンガー、138アヽ酔(よ)ふた酔(よ)ふた、139ほんとに結構(けつこう)なお神酒(みき)を頂戴(ちやうだい)致(いた)しまして本(ほん)守護神(しゆごじん)は申(まを)すに及(およ)ばず、140正(せい)、141副(ふく)守護神(しゆごじん)迄(まで)恐悦(きようえつ)至極(しごく)に存(ぞん)じます』
142道公(みちこう)『ヤア三(さん)人(にん)共(とも)心配(しんぱい)するな。143酒酔(さけよひ)の云(い)ふ事(こと)を取(と)りあげるやうな俺(おれ)も馬鹿(ばか)ぢやないからな』
144イル『成程(なるほど)、145それ聞(き)いて俺(おれ)も道公(みちこう)さまが好(す)きになつた。146こんな気(き)の利(き)いた家来(けらい)をもつて居(ゐ)る玉国別(たまくにわけ)さまも好(す)きになつた。147其(その)盃(さかづき)を一(ひと)つ僕(ぼく)にさして下(くだ)さい。148今日(けふ)はお神酒(みき)に酔(よ)つてすつかり腹(はら)の中(なか)のごもくを吐(は)き出(だ)しました。149決(けつ)してイルの肉体(にくたい)であんな事(こと)を云(い)つたのぢやありませぬ。150腹(はら)の中(なか)に居(を)つた大黒主(おほくろぬし)の眷族(けんぞく)が囁(ささや)いたのですから、151私(わたし)は本当(ほんたう)に迷惑(めいわく)ですよ』
152道公(みちこう)『それやさうだらう。153まあ心配(しんぱい)したまふな。154サア一杯(いつぱい)いかう』
155と道公(みちこう)は心(こころ)よく、156イル、157イク、158サールに盃(さかづき)を与(あた)へ、159自(みづか)らついでやり、160自分(じぶん)も其処(そこ)に安坐(あぐら)をかいて歌(うた)を歌(うた)ひながら面白(おもしろ)をかしく酒(さけ)を引(ひ)つかけて居(ゐ)る。
161イルは『兄貴(あにき)まア一杯(いつぱい)』と道公(みちこう)に盃(さかづき)をさし唄(うた)ひ出(だ)した。
162イル『三五教(あななひけう)の道公(みちこう)さまが
163朝(あさ)から晩(ばん)迄(まで)ポンポンと
164拍手(かしはで)うつのはよけれども
165ヨイトサヽ ヨイトサヽ
166このイルさまを捉(とら)まへて
167ポンポン云(い)ふのにや困(こま)ります
168ヨイトサ ヨイトサぢや
169アハヽヽヽ、170まア一杯(いつぱい)僕(ぼく)についでくれたまへ、171なア道公(みちこう)さま、172酒酔(さけよひ)本性(ほんしやう)違(たが)はずと云(い)つて、173よく覚(おぼ)えて居(ゐ)るだらう』
174 道公(みちこう)は歌(うた)ふ、
175道公『道公司(みちこうつかさ)がポンポンと
176お前(まへ)に云(い)ふたのは訳(わけ)がある
177朝(あさ)から晩(ばん)迄(まで)酒(さけ)をのむ
178お前(まへ)を瓢箪(ふくべ)と思(おも)た故(ゆゑ)
179そして又(また)お前(まへ)は面(つら)の皮(かは)
180太鼓(たいこ)のやうに厚(あつ)うして
181サツパリ腹(はら)が空(から)故(ゆゑ)に
182太鼓(たいこ)と思(おも)うてポンポンと
183叩(たた)いて見(み)たのだイルさまよ
184俺(おれ)に怒(おこ)つちや見当違(あてちが)ひ
185俺(おれ)は役目(やくめ)でポンポンと
186石搗(いしづき)しなくちやならないで
187合図(あひづ)をしたのだと思(おも)ふて呉(く)れ
188ヨイトセ ヨイトセ
189ヤツトコセ、ヨウイヤナ
190アレワイセ、コレワイセ
191サアサ、ヨーイトセ』
192 イク、193サールは手(て)を拍(う)ち、
194イク『ヤア ポンポンだ、195甘(うま)い甘(うま)い、196ポンポンながらカンカン乍(なが)ら、197このイクさまが一(ひと)つ唄(うた)つて見(み)ませう。198エヘン、199オイ、200イルちつと手(て)を拍(う)つて囃(はや)して呉(く)れ、201囃(はやし)がまづいと歌(うた)が全(まつた)くいかぬからな』
202イル『ヨシ囃(はや)してやらう、203サア云(い)ふたり云(い)ふたり』
204イク『祠(ほこら)の森(もり)の神(かみ)さまは
205梵天(ぼんてん)帝釈(たいしやく)自在天(じざいてん)
206大国彦(おほくにひこ)と思(おも)ふたら
207サツパリ当(あて)が外(はづ)れよつて
208大国治立(おほくにはるたち)神(かみ)様(さま)だ
209今(いま)迄(まで)俺(おれ)はバラモンの
210神(かみ)程(ほど)偉(えら)い奴(やつ)は無(な)いと
211思(おも)ふて居(ゐ)たのにこれや何(なん)だ
212アテが外(はず)れて三五教(あななひけう)の
213いやな神(かみ)様(さま)を喜(よろこ)んで
214拝(をが)まにやならない羽目(はめ)となり
215不性(ふしやう)無精(ぶしやう)に朝夕(あさゆふ)に
216信者(しんじや)らしく見(み)せかけて
217今(いま)迄(まで)来(き)たのが偽善者(ぎぜんしや)の
218其(その)行(おこな)ひと知(し)つた故(ゆゑ)
219胸(むね)に手(て)を当(あ)て考(かんが)へた
220揚句(あげく)の果(はて)は三五教(あななひけう)の
221教(をしへ)は誠(まこと)と知(し)つた故(ゆゑ)
222心(こころ)の悩(なや)みも晴(は)れ渡(わた)り
223今(いま)は全(まつた)く三五(あななひ)の
224神(かみ)を信(しん)ずる身(み)となつた
225ほんとに心(こころ)の持(も)ちやうで
226どうでもなるのが人(ひと)の身(み)だ
227人(ひと)は神(かみ)の子(こ)神(かみ)の宮(みや)
228天地(てんち)経綸(けいりん)の主宰者(しゆさいしや)と
229教(をし)へられたる其(その)時(とき)は
230何(なん)だか怪体(けたい)の事(こと)を云(い)ふ
231慢心(まんしん)じみた教(をしへ)だと
232心(こころ)に蔑(さげす)み居(を)つたれど
233矢張(やつぱり)神(かみ)は嘘(うそ)つかぬ
234バラモン教(けう)では吾々(われわれ)を
235塵(ちり)や芥(あくた)の固(かたま)りの
236より損(ぞこな)ひのよに云(い)ふけれど
237矢張(やつぱり)人(ひと)は神(かみ)の子(こ)だ
238これを思(おも)へば飲(の)む酒(さけ)も
239一入(ひとしほ)味(あぢ)がよいやうだ
240今日(こんにち)の石搗(いしつき)お祝(いはひ)に
241どつさりお酒(さけ)を頂戴(ちやうだい)し
242魂(たま)は浮(うか)れて天国(てんごく)の
243御園(みその)に遊(あそ)ぶ思(おも)ひなり
244あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
245御霊(みたま)の恩頼(ふゆ)を慎(つつし)みて
246茲(ここ)に感謝(かんしや)し奉(たてまつ)る
247サア一盃(いつぱい)いきませう』
248 斯(か)く四(よ)人(にん)は一団(いちだん)となりて酒(さけ)汲(く)み交(かは)して居(ゐ)る。249一方(いつぱう)には又(また)バラモン組(ぐみ)のヨル、250ハル、251テルの三(さん)人(にん)三巴(みつどもゑ)となつて趺坐(あぐら)をかき、252管(くだ)を捲(ま)いて居(ゐ)る。
253ヨル『オイ、254あのイルを見(み)よ、255彼奴(あいつ)は最前(さいぜん)から結構(けつこう)な酒(さけ)に喰(くら)ひ酔(よひ)、256しようもない腹(はら)の中(なか)のごもくたをさらけ出(だ)したぢやないか、257彼奴(あいつ)はいつも酒(さけ)くらひやがると何(なに)も彼(か)もさらけ出(だ)しやがるのだ。258何(なに)か怪体(けたい)なものが憑(つ)いて居(ゐ)るのだよ』
259テル『さうだな、260可哀(かあい)さうなものだ。261彼(あれ)は村(むら)でも怠惰者(なまけもの)で仕事(しごと)が嫌(きら)ひなのだから仕方(しかた)がない。262いつも襤褸(ぼろ)を下(さ)げやがつて、263人(ひと)の門口(かどぐち)に立(た)ち酒(さけ)でも呑(の)んで居(ゐ)やうものなら、264汚(きたな)い風(ふう)をして坐(すわ)り込(こ)むのだから誰(たれ)しも迷惑(めいわく)して、265酒(さけ)を呑(の)ましてやり、266少(すこ)しばかり金(かね)をやつて帰(いな)してやるのだ。267其(それ)が今度(こんど)の戦争(せんそう)で安(やす)い金(かね)で雇(やと)はれた雇兵(やとひへい)だ。268元来(ぐわんらい)がノラクラ者(もの)の成上(なりあが)りだから、269一度(いちど)憐(あは)れみをかけると云(い)ふと好(よ)い気(き)になり、270メダレを見(み)て仕方(しかた)が無(な)いものだ。271道公(みちこう)さまがよい気(き)であんな奴(やつ)と盃(さかづき)の取(と)り交(かは)しをするなんて余(あま)りぢやないか、272俺(おれ)にだつて盃(さかづき)の一杯(いつぱい)位(くらゐ)さして呉(く)れたつて損(そん)はあるまいに、273あんな奴(やつ)より下(した)に見(み)られちや約(つ)まらないぢやないか』
274ハル『オイ、275テル、276貴様(きさま)は気(き)をつけないと額際(ひたひぎわ)に曇(くも)りがかかつてゐるぞ。277そこが曇(くも)つて居(ゐ)るのは貴様(きさま)の未来(みらい)に取(と)り不祥(ふしやう)なる事(こと)が来(く)るのを教(をし)へて居(ゐ)るのだ。278つまり死(し)ぬと云(い)ふ事(こと)を教(をし)へて居(ゐ)るのだ。279深酒(ふかざけ)を呑(の)まぬやうにせぬと危(あぶ)ないものだ。280たとへ身体(からだ)がピンピンして居(ゐ)ても人(ひと)の悪口(わるくち)ばかり云(い)ふて居(ゐ)ると、281憎(にく)まれてどんな災難(さいなん)を買(か)ふやら分(わか)らないぞ。282些(ちつ)と慎(つつし)むがよい』
283テル『そんな事(こと)を聞(き)くと折角(せつかく)の酔(よひ)がさめて仕舞(しま)ふぢやないか。284俺(おれ)は平常(ふだん)から顔色(かほいろ)が悪(わる)いのだ、285気(き)にかけて呉(く)れるな。286そんな事(こと)を聞(き)くと何(なん)だか俺(おれ)迄(まで)気分(きぶん)が悪(わる)くなるからな』
287 斯(か)く話(はな)す所(ところ)へ片手(かたて)に燗徳利(かんどくり)を下(さ)げ、288片手(かたて)に盃(さかづき)を持(も)ち進(すす)んで来(き)たのは晴公(はるこう)であつた。
289晴公(はるこう)『ヨルさま、290ハルさま、291テルさま、292石搗(いしづき)は大分(だいぶ)大層(たいそう)でしたが、293先(ま)づ貴方(あなた)方(がた)のおかげで無事(ぶじ)終了(しうれう)し、294斯(こ)んな目出度(めでた)い事(こと)はありませぬね。295お祝(いは)ひに一杯(いつぱい)つがして下(くだ)さい』
296と盃(さかづき)をさし出(だ)した。297ヨルはさも嬉(うれ)し気(げ)に晴公(はるこう)につがせながら、298一口(ひとくち)のんで額(ひたひ)をポンと叩(たた)き、
299ヨル『遉(さすが)は晴公(はるこう)さまだ。300治国別(はるくにわけ)さまのお仕込(しこ)みだけあつて道公(みちこう)さまとは大分(だいぶん)気(き)が利(き)いてゐるわい。301晴公(はるこう)さま、302宜敷(よろし)く頼(たの)みますよ。303吾々(われわれ)はバラモン教(けう)から帰化(きくわ)した所謂(いはゆる)異邦人(いほうじん)だから何(なに)かにつけて疎外(そぐわい)せられるやうに思(おも)はれてなりませぬワ。304これも心(こころ)のひがみでせうか。305人間(にんげん)といふものは妙(めう)なもので貴方(あなた)のやうにして下(くだ)さると本当(ほんたう)に心(こころ)の底(そこ)から打(う)ち解(と)けたやうで、306働(はたら)くのも何(なん)だか勢(せい)が出(で)るやうですわ。307ナア、308ハル、309テルさうぢやないか』
310テル『さうだなア、311人(ひと)の上(うへ)に立(た)つ人(ひと)は余程(よほど)気(き)をつけて下(くだ)さらぬと下(した)の者(もの)はやり切(き)れないからなア』
312ハル『同(おな)じハルのついた晴公(はるこう)さまだから、313同名(どうめい)異人(いじん)と云(い)ふだけで、314やつぱり身魂(みたま)が合(あ)ふて居(ゐ)るのだよ。315それだから晴公(はるこう)さまが俺(おれ)達(たち)の所(ところ)へ来(き)て下(くだ)さつたのだ。316ヨル、317テル、318晴公(はるこう)様(さま)に感謝(かんしや)すると共(とも)にこのハルさまにも感謝(かんしや)するのだぞ』
319ヨル、320テル『ヘーン、321何(なに)を吐(ぬか)しやがるのだえ、322鼻(はな)を捻折(ねぢを)るぞ』
323晴公(はるこう)『常暗(とこやみ)のヨルははれけり大空(おほぞら)に
324月(つき)は照(て)るなり星(ほし)は輝(かがや)く。
325空(そら)晴(はる)る月(つき)テルヨルの星影(ほしかげ)は
326いとも疎(まばら)に見(み)え渡(わた)るかな』
327ヨル『オイ、328テル、329ハル両人(りやうにん)喜(よろこ)べ、330俺(おれ)はヨルさま、331お前(まへ)はテル、332ハルの両人(りやうにん)、333それに晴公(はるこう)さまだから、334あのやうに目出度(めでた)い歌(うた)を詠(よ)んで下(くだ)さつた。335親切(しんせつ)と慈愛(じあい)の徳(とく)は曇(くも)つた空(そら)も晴(は)るるなり、336曇(くも)つた心(こころ)の月(つき)も照(て)るものだなア』
337 晴公(はるこう)は両手(りやうて)を合(あは)せ、338惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)と何(なに)を思(おも)ふてか、339感謝(かんしや)の声(こゑ)に涙(なみだ)を帯(お)びながら神文(しんもん)を奏上(そうじやう)した。340三(さん)人(にん)も手(て)を打(う)つて『惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)』と連呼(れんこ)した。341斯(か)くして直会(なほらひ)の宴(えん)は全(まつた)く閉(と)ぢ、342一同(いちどう)は十二分(じふにぶん)に歓(くわん)を尽(つく)して寝(しん)についた。
343(大正一二・一・一六 旧一一・一一・三〇 加藤明子録)
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