霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一〇章 添書(てんしよ)〔一二八四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第49巻 真善美愛 子の巻 篇:第3篇 暁山の妖雲 よみ(新仮名遣い):ぎょうざんのよううん
章:第10章 添書 よみ(新仮名遣い):てんしょ 通し章番号:1284
口述日:1923(大正12)年01月18日(旧12月2日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年11月5日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
治国別は道々、新参のランチ、片彦、ガリヤ、ケース、お寅、お民たちに三五教の教理を説き諭しながら進んで行った。そしてお寅に向かい、一度斎苑館に参拝し、正式な宣伝使となるよう修業をしてはどうかと勧めた。お寅も同意し、治国別は紹介状を書いて持たせた。
お寅は得意の色を満面にうかべ、治国別一行に別れを告げて斎苑館をさして一人進んで行った。途中、小北山に立ち寄った。
お寅は受付の文助に挨拶し、奥へ進んでお菊や魔我彦と面会した。お寅は、斎苑館への修業の旅について話し、魔我彦にも参拝を勧めた。松姫もやってきて、魔我彦がお寅に同道して参拝することに賛成した。
お寅はしばし休息の上、魔我彦を伴って各神社を遙拝し、信者たちに挨拶を終えたのち、河鹿峠の山口さして神文を唱えながら進んで行った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-06-19 16:08:01 文字数:5601 OBC :rm4910
愛善世界社版:136頁 八幡書店版:第9輯 82頁 修補版: 校定版:141頁 普及版:63頁 初版: ページ備考:
001 治国別(はるくにわけ)は浮木(うきき)の森(もり)のランチ将軍(しやうぐん)、002片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)其(その)他(た)を帰順(きじゆん)せしめ道々(みちみち)三五(あななひ)の教理(けうり)を説(と)き諭(さと)し乍(なが)らクルスの森(もり)迄(まで)進(すす)んで行(い)つた。003さうしてお寅(とら)に向(むか)ひ、
004治国(はるくに)『お寅(とら)さま、005お前(まへ)さまはウラナイ教(けう)の熱心(ねつしん)な肝煎(きもいり)であつたが、006かうして三五教(あななひけう)に帰順(きじゆん)し立派(りつぱ)な信者(しんじや)となられたのは実(じつ)に吾々(われわれ)も大慶(たいけい)です。007併(しか)し乍(なが)ら、008之(これ)から一度(いちど)イソの館(やかた)へ御(ご)参拝(さんぱい)になり、009大神(おほかみ)様(さま)の御(お)許(ゆる)しを受(う)けて立派(りつぱ)な宣伝使(せんでんし)となつてお尽(つく)しになつては如何(いかが)です。010平(ひら)の信者(しんじや)となつて行(ゆ)くよりも余程(よほど)便宜(べんぎ)かも知(し)れませぬよ』
011お寅(とら)『はい、012有難(ありがた)う厶(ござ)ります。013私(わたし)の様(やう)な婆(ばば)でも宣伝使(せんでんし)にして頂(いただ)けませうかな』
014治国(はるくに)『婆(ばば)だつて、015何(なん)だつて貴方(あなた)の身魂(みたま)其(その)者(もの)は決(けつ)して老若(らうにやく)の区別(くべつ)はありませぬ。016老人(らうじん)は如何(どう)しても無垢(むく)な者(もの)ですから却(かへつ)て吾々(われわれ)よりも立派(りつぱ)な宣伝使(せんでんし)になれませう。017私(わたし)が手紙(てがみ)を書(か)きますから此(これ)を以(もつ)て河鹿(かじか)峠(たうげ)を渡(わた)りイソの館(やかた)に参拝(さんぱい)し八島主(やしまぬし)さまに御(ご)面会(めんくわい)の上(うへ)、018百(ひやく)日(にち)ばかりも修行(しうぎやう)して其(その)上(うへ)立派(りつぱ)なる宣伝使(せんでんし)となり神界(しんかい)のためにお尽(つく)しなされ。019それが何(なに)よりの後生(ごしやう)の為(た)めですよ』
020お寅(とら)『私(わたくし)の様(やう)な悪(あく)たれ婆(ばば)でも改心(かいしん)さへすれば貴方(あなた)の爪(つめ)の垢(あか)位(ぐらゐ)な働(はたら)きが出来(でき)ませうかな。021それなら之(これ)から仰(あふ)せに従(したが)ひ一度(いちど)参拝(さんぱい)をして参(まゐ)りませう』
022治国(はるくに)『そんなら今(いま)手紙(てがみ)を書(か)いてあげませう。023之(これ)を以(もつ)ておいでなさいませ』
024と云(い)ひ乍(なが)ら、025腰(こし)の矢立(やたて)をとり出(いだ)し一(いち)枚(まい)の紙(かみ)にスラスラと何事(なにごと)か書(か)き記(しる)した。026其(その)文面(ぶんめん)によると、
027(文面)『治国別(はるくにわけ)より八島主(やしまぬしの)命(みこと)様(さま)に御(ご)紹介(せうかい)申上(まをしあ)げます。028私(わたし)は今(いま)や途中(とちう)に於(おい)て種々(しゆじゆ)雑多(ざつた)の神(かみ)様(さま)のお試(ため)しを頂(いただ)き広大(くわうだい)無辺(むへん)の御(ご)神徳(しんとく)を蒙(かうむ)り、029神恩(しんおん)の深(ふか)きを感謝(かんしや)し乍(なが)ら漸(やうや)くクルスの森(もり)迄(まで)安着(あんちやく)致(いた)しました。030さうしてバラモン軍(ぐん)の先鋒隊(せんぽうたい)、031ランチ、032片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)は今(いま)は全(まつた)く大神(おほかみ)様(さま)の御(ご)神徳(しんとく)によつて三五教(あななひけう)に帰順(きじゆん)致(いた)しました故(ゆゑ)、033何卒(どうぞ)大神(おほかみ)様(さま)へ御(ご)奏上(そうじやう)の程(ほど)願(ねがひ)上(あ)げ奉(たてまつ)ります。034何(いづ)れ之(これ)等(ら)の人々(ひとびと)はも少(すこ)し予備(よび)教育(けういく)を施(ほどこ)した上(うへ)、035手紙(てがみ)を以(もつ)て御(お)館(やかた)へ参籠(さんろう)致(いた)させ修行(しうぎやう)の結果(けつくわ)宣伝使(せんでんし)にお取立(とりた)て下(くだ)さる様(やう)御(お)願(ねが)ひ致(いた)す考(かんが)へなれば万事(ばんじ)よろしく願(ねが)ひます。036扨(さ)て此(この)手紙(てがみ)の持参者(ぢさんしや)は小北山(こぎたやま)のウラナイ教(けう)に牛耳(ぎうじ)を執(と)つて居(ゐ)た、037もとは浮木(うきき)の村(むら)の女侠客(をんなけふかく)お寅(とら)と云(い)ふ婦人(ふじん)で厶(ござ)ります。038治国別(はるくにわけ)が出征(しゆつせい)の途中(とちう)祠(ほこら)の森(もり)に於(おい)て片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)の秘書役(ひしよやく)たりし愚弟(ぐてい)松彦(まつひこ)に巡(めぐ)り合(あ)ひ、039彼(かれ)松彦(まつひこ)は直(ただち)に三五(あななひ)の道(みち)に帰順(きじゆん)致(いた)し小北山(こぎたやま)のウラナイ教(けう)の本山(ほんざん)に参(まゐ)り蠑螈別(いもりわけ)、040魔我彦(まがひこ)及(および)お寅(とら)を漸(やうや)くにして御(ご)神徳(しんとく)のもとに帰順(きじゆん)せしめたる者(もの)で厶(ござ)ります。041就(つ)いては此(この)手紙(てがみ)の持参人(ぢさんにん)即(すなは)ちお寅(とら)さまを宜(よろ)しく願(ねが)ひます。042稍(やや)迷信(めいしん)深(ふか)く脱線(だつせん)の気味(きみ)が厶(ござ)りますれど十分(じふぶん)御(ご)教育(けういく)下(くだ)さるれば相当(さうたう)の宣伝使(せんでんし)にならうかと存(ぞん)じます。043左様(さやう)ならば』
044と書(か)き記(しる)しお寅(とら)に渡(わた)した。045お寅(とら)は得意(とくい)の色(いろ)を満面(まんめん)に泛(うか)べ肩(かた)を怒(いか)らし治国別(はるくにわけ)及(およ)び一行(いつかう)に別(わか)れを告(つ)げイソの館(やかた)をさして只(ただ)一人(ひとり)進(すす)み行(ゆ)く。
046 途中(とちう)小北山(こぎたやま)の傍(かたはら)を通(とほ)り兎(と)も角(かく)一度(いちど)立寄(たちよ)つて最愛(さいあい)のお菊(きく)に巡(めぐ)り合(あ)ひ且(かつ)松姫(まつひめ)、047魔我彦(まがひこ)其(その)他(た)に面会(めんくわい)し自分(じぶん)の悟(さと)り得(え)た教義(けうぎ)を云(い)ひ聞(き)かし、048小北山(こぎたやま)の聖場(せいぢやう)をして益々(ますます)栄(さか)えしめむと、049参拝(さんぱい)の途中(とちう)意気(いき)揚々(やうやう)として立帰(たちかへ)つた。050小北山(こぎたやま)の聖場(せいぢやう)は依然(いぜん)として信者(しんじや)が相当(さうたう)に集(あつ)まつてゐる。051然(しか)し乍(なが)らお寅(とら)の見覚(みおぼ)えのある顔(かほ)は余(あま)り沢山(たくさん)に見当(みあた)らなかつた。052何故(なぜ)ならば小北山(こぎたやま)のヘグレ神社(じんしや)、053其(その)他(た)の神々(かみがみ)を誠(まこと)の神(かみ)と信(しん)じてゐたが、054サツパリ名(な)もなき邪神(じやしん)たりし事(こと)を曝露(ばくろ)され、055親族(しんぞく)朋友(ほういう)知己(ちき)等(など)より嘲笑(てうせう)さるるのが馬鹿(ばか)らしさに、056前(まへ)の信者(しんじや)はあまり寄(よ)り付(つ)かなかつたからである。057さうして改革(かいかく)以来(いらい)何(なん)とはなしに前(まへ)の信者(しんじや)は不平(ふへい)に充(み)たされたからである。058今(いま)迄(まで)尊(たふと)き神(かみ)の生宮(いきみや)又(また)は霊魂(みたま)の因縁(いんねん)を信(しん)じ得意(とくい)になつて信仰(しんかう)してゐたのが、059何(なん)でもない邪神(じやしん)であつた事(こと)をスツパぬかれ大難(だいなん)を小難(せうなん)に救(すく)はれ乍(なが)ら何(なん)とはなしに心(こころ)面白(おもしろ)くなくなつた者(もの)もあるからである。
060 お寅(とら)はスツと受付(うけつけ)に立寄(たちよ)り見(み)れば文助(ぶんすけ)が依然(いぜん)として一生(いつしやう)懸命(けんめい)に画(ゑ)を書(か)いてゐる。061よくよく見(み)れば蕪(かぶら)でもなく大根(だいこん)でもなく黒蛇(くろくちなは)でもない。062傍(そば)に日(ひ)の出(で)の守護(しゆご)と書(か)き記(しる)し老松(らうしよう)の幹(みき)に紅(べに)の様(やう)な太陽(たいやう)が輝(かがや)いてゐる。063かなり立派(りつぱ)な画(ゑ)を描(ゑが)いて居(ゐ)た。064お寅(とら)は突然(とつぜん)声(こゑ)をかけ、
065お寅(とら)『これ文助(ぶんすけ)さま、066御(ご)機嫌(きげん)宜(よろ)しう。067相変(あひかは)らず立派(りつぱ)な御(お)掛軸(かけぢく)が画(か)けますな。068竜神(りうじん)様(さま)はモウお止(よ)しなさつたのですか』
069 目(め)のうとい文助(ぶんすけ)はお寅(とら)とは夢(ゆめ)にも知(し)らず、
070文助(ぶんすけ)『ようお詣(まゐ)りなさいませ。071誰方(どなた)か知(し)りませぬが奥(おく)へ御(お)通(とほ)り下(くだ)さいませ。072さうして今(いま)迄(まで)は此(この)聖地(せいち)もヘグレ神社(じんしや)や種物(たねもの)神社(じんしや)、073其(その)外(ほか)いろいろの神(かみ)様(さま)が祀(まつ)つて厶(ござ)りましたが、074教祖(けうそ)の蠑螈別(いもりわけ)さまやお寅(とら)さまが逐電(ちくでん)されましてから、075三五教(あななひけう)の大神(おほかみ)様(さま)を祀(まつ)り代(か)へました。076それで掛軸(かけぢく)も亦(また)画(か)き替(か)へねばなりませぬので、077大神(おほかみ)様(さま)のお許(ゆる)しを得(え)て此(この)通(とほ)り、078松(まつ)に日(ひ)の出(で)の御(お)掛軸(かけぢく)を認(したた)めております。079貴方(あなた)も御(ご)信仰(しんかう)遊(あそ)ばすなら上(あ)げますから表具(へうぐ)をしてお祀(まつ)りなさい。080日(ひ)の出(で)の世(よ)、081松(まつ)の世(よ)といつて之(これ)さへ祀(まつ)つて居(を)れば家内(かない)安全(あんぜん)商売(しやうばい)繁昌(はんじやう)、082霊(みたま)になつても天国(てんごく)へ行(ゆ)く旅券(りよけん)になりますよ』
083お寅(とら)『これ文助(ぶんすけ)さま、084シツカリしなさらぬか。085松(まつ)に日(ひ)の出(で)は誠(まこと)に結構(けつこう)だが、086私(わたし)はお寅(とら)ですよ』
087文助(ぶんすけ)『何(なん)だか聞(き)き覚(おぼ)えのある方(かた)だと思(おも)つてゐました。088アヽお寅(とら)さまですか、089それはマア、090よう帰(かへ)つて下(くだ)さいました、091お菊(きく)さまは申(まを)すに及(およ)ばず皆(みな)さまお喜(よろこ)びでせう。092私(わたし)も何(なん)だか気(き)がいそいそして来(き)ました。093それでは松姫(まつひめ)さまや魔我彦(まがひこ)さまに申上(まをしあ)げませう。094一寸(ちよつと)待(ま)つてゐて下(くだ)さい』
095お寅(とら)『いえいえお前(まへ)はここに受付(うけつけ)をしてゐて下(くだ)さい。096目(め)の悪(わる)い人(ひと)に動(うご)いて貰(もら)ふよりも此(この)達者(たつしや)なお寅(とら)が私(わたし)の居間(ゐま)へ帰(かへ)りますから……お菊(きく)もゐるでせう。097さうすればお菊(きく)を以(もつ)て松姫(まつひめ)様(さま)や魔我彦(まがひこ)に通知(つうち)をさせますから』
098と云(い)ひ乍(なが)ら自分(じぶん)の居間(ゐま)をさして急(いそ)ぎ行(ゆ)く。099後(あと)に文助(ぶんすけ)は首(くび)を頻(しき)りにかたげて独言(ひとりごと)、
100文助(ぶんすけ)『あゝお寅(とら)さまも大変(たいへん)に人格(じんかく)が上(あが)つたものだな。101丸(まる)で別人(べつじん)の様(やう)だつた。102物(もの)の云(い)ひ様(やう)と云(い)ひ何(なん)とはなしに身体(からだ)から光(ひかり)が出(で)る様(やう)だつた。103之(これ)丈(だけ)長(なが)らくつき合(あ)ふて居(を)つた私(わし)でさへも見違(みちが)へる位(くらゐ)だから、104神徳(しんとく)と云(い)ふものは偉(えら)いものだな。105どれどれお寅(とら)さまが帰(かへ)つて下(くだ)さつた此(この)嬉(うれ)しさを神(かみ)様(さま)へお礼(れい)申(まを)して来(こ)う』
106と独語(ひとりごち)つつトボトボと神殿(しんでん)さして進(すす)み行(ゆ)く。107お寅(とら)は吾(わが)居間(ゐま)に帰(かへ)るに先立(さきだ)ち小北山(こぎたやま)のお宮(みや)を一々(いちいち)巡拝(じゆんぱい)し、108吾(わが)居間(ゐま)に帰(かへ)つて休息(きうそく)せむとする処(ところ)へ、109何時(いつ)のまにかお寅(とら)さまが帰(かへ)つたと云(い)ふ噂(うはさ)が立(た)つたので魔我彦(まがひこ)、110お菊(きく)は慌(あわ)てて松姫館(まつひめやかた)から走(はし)り来(きた)り、
111お菊(きく)『お母(か)アさま、112貴方(あなた)は松彦(まつひこ)様(さま)と宣伝(せんでん)のためにおいでになつてから、113未(ま)だ幾何(いくら)も日(ひ)が経(た)たないのにお帰(かへ)りになつたのですか。114又(また)我(が)でも出(だ)して縮尻(しくじ)つたのではありませぬか』
115お寅(とら)『何(なに)、116縮尻(しくじ)る処(どころ)か、117結構(けつこう)なお神徳(かげ)を頂(いただ)いて来(き)たのだよ。118お菊(きく)、119お前(まへ)も其(その)後(ご)機嫌(きげん)よう御用(ごよう)をして居(ゐ)たのか』
120お菊(きく)『はい、121機嫌(きげん)ようしてゐました。122何卒(どうぞ)私(わたくし)の事(こと)は案(あん)じて下(くだ)さいますな。123さうして万公(まんこう)さまは機嫌(きげん)ようしてゐましたかな』
124お寅(とら)『ホヽヽヽヽ、125ヤツパリ万公(まんこう)のことが気(き)にかかるかな。126いや頼(たの)もしいお前(まへ)の心掛(こころがけ)、127私(わたし)もそれ聞(き)いて安心(あんしん)を致(いた)したぞや』
128お菊(きく)『お母(かあ)さまの……マア嫌(いや)な事(こと)、129直(ぢき)に妙(めう)な処(ところ)へ気(き)を廻(まは)しなさるのだね』
130お寅(とら)『それだつて、131五三公(いそこう)さまは如何(どう)だとも、132アクさまは如何(どう)だとも云(い)はぬぢやないか』
133魔我(まが)『お寅(とら)さま、134よう帰(かへ)つて下(くだ)さつた。135其(その)後(ご)は此(この)聖地(せいち)も極(きは)めて円満(ゑんまん)に御(ご)神業(しんげふ)が発達(はつたつ)してゐますから、136安心(あんしん)して下(くだ)さいませ』
137お寅(とら)『魔我彦(まがひこ)さま、138どうか脱線(だつせん)せぬ様(やう)に此(この)聖場(せいぢやう)を守(まも)つて下(くだ)さいや。139私(わたし)は、140松彦(まつひこ)さまの先生(せんせい)の治国別(はるくにわけ)と云(い)ふ立派(りつぱ)なお方(かた)から添(そ)へ手紙(てがみ)を頂(いただ)いてイソの館(やかた)へ参(まゐ)り、141百(ひやく)日(にち)の行(ぎやう)をして立派(りつぱ)な宣伝使(せんでんし)となつて来(く)る積(つも)りだから喜(よろこ)んで下(くだ)さい』
142魔我(まが)『それは至極(しごく)結構(けつこう)です。143何卒(どうぞ)、144不調法(ぶてうはふ)のない様(やう)に修行(しうぎやう)して立派(りつぱ)な宣伝使(せんでんし)となつて帰(かへ)つて下(くだ)さい。145私(わたし)もお許(ゆる)しさへあれば一度(いちど)改心(かいしん)の記念(きねん)に参拝(さんぱい)したいものですがな』
146お寅(とら)『お前(まへ)も松姫(まつひめ)様(さま)の御(ご)都合(つがふ)を伺(うかが)つてお暇(ひま)を頂(いただ)き、147私(わたし)と一所(いつしよ)に参拝(さんぱい)したら如何(どう)だい。148百聞(ひやくぶん)は一見(いつけん)に如(し)かずと云(い)ふから、149ヤツパリ一度(いちど)ウブスナ山(やま)の聖地(せいち)を拝(をが)んで来(こ)ねば、150満足(まんぞく)の教(をしへ)も出来(でき)ず、151御(ご)神徳(しんとく)も貰(もら)へませぬぞや』
152魔我(まが)『さう願(ねが)へば結構(けつこう)ですがな……』
153お菊(きく)『お母(かあ)さま、154魔我彦(まがひこ)さま、155之(これ)から私(わたし)が松姫(まつひめ)様(さま)に伺(うかが)つて来(き)ませう。156まアゆつくりと魔我彦(まがひこ)さまとお茶(ちや)なと飲(あが)つて待(ま)つてゐて下(くだ)さい』
157と云(い)ひ捨(す)て足早(あしばや)に細(ほそ)い二百(にひやく)の石(いし)の階段(かいだん)を上(のぼ)つて松姫(まつひめ)の館(やかた)へ急(いそ)ぎ行(ゆ)く。158後(あと)に魔我彦(まがひこ)はお寅(とら)に向(むか)ひ、
159魔我(まが)『お寅(とら)さま、160貴方(あなた)はスツカリ御(ご)人格(じんかく)が変(かは)つた様(やう)ですな。161お顔(かほ)の艶(つや)と云(い)ひ髪(かみ)の毛(け)迄(まで)が黒(くろ)くなつたぢやありませぬか。162本当(ほんたう)に声(こゑ)迄(まで)が変(かは)つてゐるので別人(べつじん)の様(やう)ですわ』
163お寅(とら)『お蔭様(かげさま)で神(かみ)様(さま)の愛(あい)の熱(ねつ)に若(わか)やぎました。164さうして信仰(しんかう)の光(ひかり)に照(て)らされて何処(どこ)ともなしに身体(からだ)から光(ひかり)が出(で)る様(やう)な気分(きぶん)ですよ、165ホヽヽヽヽ、166又(また)褒(ほ)められて慢心(まんしん)をすると谷底(たにそこ)へ落(お)ちますから、167もう此(これ)位(くらゐ)でやめておきませう』
168魔我(まが)『時(とき)にお寅(とら)さま、169蠑螈別(いもりわけ)さまの持(も)ち逃(に)げしたお金(かね)は手(て)に入(い)りましたか』
170お寅(とら)『魔我彦(まがひこ)さま、171お金(かね)の事(こと)なんか、172まだ貴方(あなた)は思(おも)つてゐるのかい。173此(この)お寅(とら)は金(かね)なんかは話(はなし)を聞(き)いても気持(きもち)が悪(わる)うなります。174蠑螈別(いもりわけ)さまも生来(しやうらい)が淡白(たんぱく)な人(ひと)だから、175あの金(かね)をスツカリ人(ひと)にやつて了(しま)ひ、176今(いま)では無一物(むいちぶつ)ですよ。177そしてお民(たみ)と仲(なか)ようして居(を)ります』
178魔我(まが)『何(なに)、179お民(たみ)と一所(いつしよ)に居(を)りますか。180エーエー』
181お寅(とら)『これ、182魔我彦(まがひこ)さま、183エーとは何(なん)だ。184お前(まへ)はヤツパリお民(たみ)に対(たい)し恋着心(れんちやくしん)が残(のこ)つてゐるのかな。185それでは改心(かいしん)が出来(でき)ませぬぞや。186何(なに)がエーだい』
187魔我(まが)『エー事(こと)をなされましたな、188と云(い)ひかけたのですよ。189エー、190エーン(縁(えん))と云(い)ふものは不思議(ふしぎ)なものですな』
191お寅(とら)『エー加減(かげん)な事(こと)を云(い)つて誤魔化(ごまくわ)さうと思(おも)つても駄目(だめ)ですよ。192お民(たみ)も如何(どう)やら目(め)が覚(さ)めて蠑螈別(いもりわけ)さまと、193今(いま)はホンの教(をしへ)の友(とも)として、194つき合(あ)つてる丈(だ)けのものですよ。195お民(たみ)も随分(ずいぶん)改心(かいしん)が出来(でき)ましたからな。196何(いづ)れお前(まへ)が立派(りつぱ)な神徳(しんとく)を頂(いただ)いたら私(わたし)が媒介(なかうど)をしてお前(まへ)と夫婦(ふうふ)にして上(あ)げたいと思(おも)ふて考(かんが)へてゐるのよ』
197魔我(まが)『本当(ほんたう)に世話(せわ)をして下(くだ)さいますか』
198お寅(とら)『何(なに)、199嘘(うそ)を云(い)ふものか。200私(わし)はお民(たみ)と蠑螈別(いもりわけ)さまの様子(やうす)を気(き)をつけて考(かんが)へてゐたが、201どちらにも未練(みれん)がない様(やう)だ。202却(かへつ)て魔我彦(まがひこ)さまの方(はう)がお民(たみ)の気(き)に入(い)つてる様(やう)だから、203マア喜(よろこ)びなさい』
204魔我(まが)『エーヘツヘヽヽヽ、205違(ちが)やしませぬかな』
206お寅(とら)『最前(さいぜん)のエーとは同(おな)じエーでも大変(たいへん)に調子(てうし)が違(ちがひ)ますな。207オホヽヽヽ、208何(なん)と現銀(げんぎん)な男(をとこ)だ事(こと)』
209魔我(まが)『お寅(とら)さま、210お前(まへ)さまは蠑螈別(いもりわけ)さまに対(たい)する恋着(れんちやく)は、211最早(もはや)、212とれたのですか。213何(ど)うも怪(あや)しいものですな。214貴女(あなた)の御(ご)様子(やうす)と云(い)ひ、215何(なん)だか嬉(うれ)し相(さう)に若々(わかわか)してゐられます。216之(これ)には何(なに)か嬉(うれ)しい事(こと)がなくては叶(かな)はぬ事(こと)だ』
217お寅(とら)『これ魔我(まが)ヤン……』
218と肩(かた)を平手(ひらて)で二(ふた)つ三(み)つ叩(たた)き、
219お寅(とら)『馬鹿(ばか)にしておくれな。220此(この)お寅(とら)はそんな事(こと)が嬉(うれ)しいのではありませぬよ。221一旦(いつたん)誠(まこと)の道(みち)に目(め)が覚(さ)めた上(うへ)は……阿呆(あほ)らしい……恋(こひ)の、222金(かね)のと、223よい年(とし)をして、224そんな馬鹿(ばか)げた事(こと)が夢(ゆめ)にも思(おも)へますか。225あまり人(ひと)を見下(みさ)げて下(くだ)さいますな。226お寅(とら)はそんな柔弱(じうじやく)な女(をんな)とはチツと違(ちが)ひますよ。227ヘン、228自分(じぶん)の心(こころ)に引(ひ)き比(くら)べて私(わし)の心(こころ)を忖度(そんたく)しようとは、229怪(け)しからぬ男(をとこ)だな』
230魔我(まが)『こりや失礼(しつれい)致(いた)しました。231雀(すずめ)百(ひやく)迄(まで)雄鳥(をんどり)を忘(わす)れぬと云(い)ふ譬(たとへ)もありますから……ツイお尋(たづ)ねしたのです。232御(ご)無礼(ぶれい)の段(だん)は何卒(なにとぞ)、233見直(みなほ)し聞直(ききなほ)しを願(ねが)ひます。234どうか御(ご)機嫌(きげん)を直(なほ)して松姫(まつひめ)さまの許(ゆる)しがあれば此(この)魔我彦(まがひこ)を一度(いちど)ウブスナ山(やま)の聖場(せいぢやう)へ連(つ)れて行(い)つて下(くだ)さいませ』
235お寅(とら)『あゝよしよし、236井戸(ゐど)の底(そこ)の蛙(かはづ)で世間見(せけんみ)ずでは宣伝使(せんでんし)等(など)は出来(でき)ないから、237一度(いちど)見聞(けんぶん)を広(ひろ)くするために大神(おほかみ)の御(ご)出現地(しゆつげんち)へ参拝(さんぱい)するのは結構(けつこう)だ』
238 かく話(はな)す処(ところ)へお菊(きく)は松姫(まつひめ)、239お千代(ちよ)と共(とも)に帰(かへ)り来(きた)り、
240お菊(きく)『お母(かあ)さま、241松姫(まつひめ)様(さま)がお越(こ)しで厶(ござ)りますよ。242さア御(ご)挨拶(あいさつ)なさいませ』
243 お寅(とら)は後(あと)ふり返(かへ)り松姫(まつひめ)の姿(すがた)を見(み)て、244さも嬉(うれ)しげに打笑(うちゑ)み乍(なが)ら言葉(ことば)穏(おだや)かに両手(りやうて)をつき、
245お寅(とら)『これはこれは松姫(まつひめ)様(さま)、246日々(にちにち)御(ご)神務(しんむ)御(ご)苦労(くらう)様(さま)で厶(ござ)ります。247お菊(きく)のヤンチヤがお世話(せわ)に預(あづ)かりまして嘸(さぞ)御(ご)迷惑(めいわく)で厶(ござ)りませう。248私(わたくし)は治国別(はるくにわけ)の宣伝使(せんでんし)から御(お)手紙(てがみ)を頂(いただ)いてイソの館(やかた)へ修行(しうぎやう)に参(まゐ)る途中(とちう)、249一寸(ちよつと)御(ご)挨拶(あいさつ)旁(かたがた)神(かみ)様(さま)へ参拝(さんぱい)致(いた)しました。250何卒(なにとぞ)お菊(きく)の身(み)の上(うへ)、251宜(よろ)しくお願(ねが)ひ致(いた)します』
252松姫(まつひめ)『お寅(とら)様(さま)で厶(ござ)りますか、253よう御(お)立寄(たちよ)り下(くだ)さいました。254お菊(きく)さまの事(こと)は御(ご)心配(しんぱい)下(くだ)さいますな。255貴女(あなた)が御(ご)出立(しゆつたつ)の後(あと)はお菊(きく)さまも、256文助(ぶんすけ)さまも、257魔我彦(まがひこ)さまも、258大勉強(だいべんきやう)で厶(ござ)ります。259其(その)お蔭(かげ)で信者(しんじや)も日々(にちにち)御(ご)参拝(さんぱい)なされ御(ご)神徳(しんとく)は日(ひ)に日(ひ)に上(あが)りまして誠(まこと)に御(ご)結構(けつこう)で厶(ござ)ります。260そしてお寅(とら)さま、261貴女(あなた)は大変(たいへん)にお顔(かほ)に艶(つや)が出来(でき)ましたな。262お髪(つむ)の色(いろ)と云(い)ひ一寸(ちよつと)見(み)ても二十(にじふ)年(ねん)ばかりお若(わか)うお成(な)りなさつた様(やう)に厶(ござ)りますわ。263本当(ほんたう)に御(ご)神徳(しんとく)と云(い)ふものは有難(ありがた)いもので厶(ござ)りますな』
264お寅(とら)『はい、265何分(なにぶん)雪隠(せつちん)の水(みづ)つきで厶(ござ)りますからな、266ホヽヽヽヽ』
267魔我(まが)『アハヽヽヽ、268さうするとお寅(とら)さまは、269浮木(うきき)の森(もり)で余程(よほど)浮(う)いて来(き)たと見(み)えますな』
270お寅(とら)『オホヽヽヽ、271私(わたし)は恋人(こひびと)が出来(でき)ました。272それ故(ゆゑ)此(この)通(とほ)り若(わか)くなつたのですよ』
273魔我(まが)『アハヽヽヽ、274何(なん)だか可笑(をか)しいと思(おも)つてゐたて、275到頭(たうとう)本音(ほんね)を吹(ふ)きましたね』
276松姫(まつひめ)『お寅(とら)さまの恋人(こひびと)と云(い)ふのは瑞(みづ)の御霊(みたま)神(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)様(さま)でせう。277それは本当(ほんたう)によい恋人(こひびと)をお定(さだ)め遊(あそ)ばしましたね。278妾(わらは)も矢張(やは)り素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)様(さま)を唯一(ゆゐいつ)の恋人(こひびと)と致(いた)して居(を)りますよ、279ホヽヽヽヽ』
280魔我(まが)『これは怪(け)しからぬ、281お寅(とら)さまはそれで宜(よ)いとして、282松姫(まつひめ)さまは立派(りつぱ)な松彦(まつひこ)さまと云(い)ふ恋人(こひびと)否(いな)二世(にせ)を契(ちぎ)つた夫(をつと)があるぢやありませぬか。283チと不貞腐(ふていくさ)れぢやありませぬか』
284松姫(まつひめ)『第一(だいいち)に大神(おほかみ)様(さま)を恋(こ)ひ慕(した)ひ第二(だいに)に夫(をつと)を慕(した)つてゐます。285それで二世(にせ)の夫(つま)と云(い)ふのですよ』
286魔我(まが)『ヤア、287自惚気(おのろけ)をタツプリと聞(き)かして頂(いただ)きました。288魔我彦(まがひこ)も之(これ)で満足(まんぞく)致(いた)します。289併(しか)し一(ひと)つお願(ねが)ひが厶(ござ)りますが、290暫(しばら)く私(わたし)はお寅(とら)さまのお伴(とも)してウブスナ山(やま)の聖場(せいぢやう)へ詣(まゐ)り度(た)いのですが許(ゆる)して頂(いただ)けませぬか』
291松姫(まつひめ)『それは願(ねが)うてもなき事(こと)、292実(じつ)は妾(わらは)より一度(いちど)魔我彦(まがひこ)さまに御(ご)修行(しうぎやう)に行(い)つて貰(もら)ひたいと思(おも)つて居(ゐ)たのです。293併(しか)し乍(なが)ら女(をんな)の差出口(さしでぐち)と思(おも)はれちやならないと差控(さしひか)へて居(を)りました。294それは結構(けつこう)で厶(ござ)りますが、295お寅(とら)さま、296何卒(どうぞ)魔我彦(まがひこ)さまをお預(あづ)けしますから宜(よろ)しくお願(ねが)ひ申(まを)します』
297お寅(とら)『はいはい私(わたし)が預(あづ)かりました以上(いじやう)はメツタの事(こと)はさせませぬ。298御(ご)安心(あんしん)下(くだ)さいませ』
299魔我(まが)『然(しか)らば松姫(まつひめ)様(さま)、300暫(しばら)く御(お)暇(いとま)を頂戴(ちやうだい)致(いた)します』
301松姫(まつひめ)『何卒(なにとぞ)聖地(せいち)へお詣(まゐ)りになりましたら、302松姫(まつひめ)が宜(よろ)しう申上(まをしあ)げたと云(い)つて下(くだ)さいませ』
303お寅(とら)『はい、304承知(しようち)致(いた)しました』
305とお寅(とら)は暫(しば)し休息(きうそく)の上(うへ)、306魔我彦(まがひこ)を伴(ともな)ひ各(かく)神社(じんじや)を遥拝(えうはい)し、307受付(うけつけ)の文助(ぶんすけ)や数多(あまた)の信者(しんじや)へ挨拶(あいさつ)を終(をは)り一本橋(いつぽんばし)を打渡(うちわた)り河鹿(かじか)峠(たうげ)の山口(やまぐち)さして老(おい)の足(あし)もともいと健(すこや)かに、308神文(しんもん)を称(とな)へ乍(なが)ら、309勢(いきほ)ひ込(こ)んで進(すす)み行(ゆ)く。
310(大正一二・一・一八 旧一一・一二・二 北村隆光録)
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