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霊界物語
真善美愛(第49~60巻)
第49巻(子の巻)
序文
総説
第1篇 神示の社殿
第1章 地上天国
第2章 大神人
第3章 地鎮祭
第4章 人情
第5章 復命
第2篇 立春薫香
第6章 梅の初花
第7章 剛胆娘
第8章 スマート
第3篇 暁山の妖雲
第9章 善幻非志
第10章 添書
第11章 水呑同志
第12章 お客さん
第13章 胸の轟
第14章 大妨言
第15章 彗星
第4篇 鷹魅糞倒
第16章 魔法使
第17章 五身玉
第18章 毒酸
第19章 神丹
第20章 山彦
余白歌
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<<< 善幻非志
(B)
(N)
水呑同志 >>>
第一〇章
添書
(
てんしよ
)
〔一二八四〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第49巻 真善美愛 子の巻
篇:
第3篇 暁山の妖雲
よみ(新仮名遣い):
ぎょうざんのよううん
章:
第10章 添書
よみ(新仮名遣い):
てんしょ
通し章番号:
1284
口述日:
1923(大正12)年01月18日(旧12月2日)
口述場所:
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年11月5日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
治国別は道々、新参のランチ、片彦、ガリヤ、ケース、お寅、お民たちに三五教の教理を説き諭しながら進んで行った。そしてお寅に向かい、一度斎苑館に参拝し、正式な宣伝使となるよう修業をしてはどうかと勧めた。お寅も同意し、治国別は紹介状を書いて持たせた。
お寅は得意の色を満面にうかべ、治国別一行に別れを告げて斎苑館をさして一人進んで行った。途中、小北山に立ち寄った。
お寅は受付の文助に挨拶し、奥へ進んでお菊や魔我彦と面会した。お寅は、斎苑館への修業の旅について話し、魔我彦にも参拝を勧めた。松姫もやってきて、魔我彦がお寅に同道して参拝することに賛成した。
お寅はしばし休息の上、魔我彦を伴って各神社を遙拝し、信者たちに挨拶を終えたのち、河鹿峠の山口さして神文を唱えながら進んで行った。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2023-06-19 16:08:01
OBC :
rm4910
愛善世界社版:
136頁
八幡書店版:
第9輯 82頁
修補版:
校定版:
141頁
普及版:
63頁
初版:
ページ備考:
001
治国別
(
はるくにわけ
)
は
浮木
(
うきき
)
の
森
(
もり
)
のランチ
将軍
(
しやうぐん
)
、
002
片彦
(
かたひこ
)
将軍
(
しやうぐん
)
其
(
その
)
他
(
た
)
を
帰順
(
きじゆん
)
せしめ
道々
(
みちみち
)
三五
(
あななひ
)
の
教理
(
けうり
)
を
説
(
と
)
き
諭
(
さと
)
し
乍
(
なが
)
らクルスの
森
(
もり
)
迄
(
まで
)
進
(
すす
)
んで
行
(
い
)
つた。
003
さうしてお
寅
(
とら
)
に
向
(
むか
)
ひ、
004
治国
(
はるくに
)
『お
寅
(
とら
)
さま、
005
お
前
(
まへ
)
さまはウラナイ
教
(
けう
)
の
熱心
(
ねつしん
)
な
肝煎
(
きもいり
)
であつたが、
006
かうして
三五教
(
あななひけう
)
に
帰順
(
きじゆん
)
し
立派
(
りつぱ
)
な
信者
(
しんじや
)
となられたのは
実
(
じつ
)
に
吾々
(
われわれ
)
も
大慶
(
たいけい
)
です。
007
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら、
008
之
(
これ
)
から
一度
(
いちど
)
イソの
館
(
やかた
)
へ
御
(
ご
)
参拝
(
さんぱい
)
になり、
009
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
許
(
ゆる
)
しを
受
(
う
)
けて
立派
(
りつぱ
)
な
宣伝使
(
せんでんし
)
となつてお
尽
(
つく
)
しになつては
如何
(
いかが
)
です。
010
平
(
ひら
)
の
信者
(
しんじや
)
となつて
行
(
ゆ
)
くよりも
余程
(
よほど
)
便宜
(
べんぎ
)
かも
知
(
し
)
れませぬよ』
011
お
寅
(
とら
)
『はい、
012
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
ります。
013
私
(
わたし
)
の
様
(
やう
)
な
婆
(
ばば
)
でも
宣伝使
(
せんでんし
)
にして
頂
(
いただ
)
けませうかな』
014
治国
(
はるくに
)
『
婆
(
ばば
)
だつて、
015
何
(
なん
)
だつて
貴方
(
あなた
)
の
身魂
(
みたま
)
其
(
その
)
者
(
もの
)
は
決
(
けつ
)
して
老若
(
らうにやく
)
の
区別
(
くべつ
)
はありませぬ。
016
老人
(
らうじん
)
は
如何
(
どう
)
しても
無垢
(
むく
)
な
者
(
もの
)
ですから
却
(
かへつ
)
て
吾々
(
われわれ
)
よりも
立派
(
りつぱ
)
な
宣伝使
(
せんでんし
)
になれませう。
017
私
(
わたし
)
が
手紙
(
てがみ
)
を
書
(
か
)
きますから
此
(
これ
)
を
以
(
もつ
)
て
河鹿
(
かじか
)
峠
(
たうげ
)
を
渡
(
わた
)
りイソの
館
(
やかた
)
に
参拝
(
さんぱい
)
し
八島主
(
やしまぬし
)
さまに
御
(
ご
)
面会
(
めんくわい
)
の
上
(
うへ
)
、
018
百
(
ひやく
)
日
(
にち
)
ばかりも
修行
(
しうぎやう
)
して
其
(
その
)
上
(
うへ
)
立派
(
りつぱ
)
なる
宣伝使
(
せんでんし
)
となり
神界
(
しんかい
)
のためにお
尽
(
つく
)
しなされ。
019
それが
何
(
なに
)
よりの
後生
(
ごしやう
)
の
為
(
た
)
めですよ』
020
お
寅
(
とら
)
『
私
(
わたくし
)
の
様
(
やう
)
な
悪
(
あく
)
たれ
婆
(
ばば
)
でも
改心
(
かいしん
)
さへすれば
貴方
(
あなた
)
の
爪
(
つめ
)
の
垢
(
あか
)
位
(
ぐらゐ
)
な
働
(
はたら
)
きが
出来
(
でき
)
ませうかな。
021
それなら
之
(
これ
)
から
仰
(
あふ
)
せに
従
(
したが
)
ひ
一度
(
いちど
)
参拝
(
さんぱい
)
をして
参
(
まゐ
)
りませう』
022
治国
(
はるくに
)
『そんなら
今
(
いま
)
手紙
(
てがみ
)
を
書
(
か
)
いてあげませう。
023
之
(
これ
)
を
以
(
もつ
)
ておいでなさいませ』
024
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
025
腰
(
こし
)
の
矢立
(
やたて
)
をとり
出
(
いだ
)
し
一
(
いち
)
枚
(
まい
)
の
紙
(
かみ
)
にスラスラと
何事
(
なにごと
)
か
書
(
か
)
き
記
(
しる
)
した。
026
其
(
その
)
文面
(
ぶんめん
)
によると、
027
(文面)
『
治国別
(
はるくにわけ
)
より
八島主
(
やしまぬしの
)
命
(
みこと
)
様
(
さま
)
に
御
(
ご
)
紹介
(
せうかい
)
申上
(
まをしあ
)
げます。
028
私
(
わたし
)
は
今
(
いま
)
や
途中
(
とちう
)
に
於
(
おい
)
て
種々
(
しゆじゆ
)
雑多
(
ざつた
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
試
(
ため
)
しを
頂
(
いただ
)
き
広大
(
くわうだい
)
無辺
(
むへん
)
の
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
を
蒙
(
かうむ
)
り、
029
神恩
(
しんおん
)
の
深
(
ふか
)
きを
感謝
(
かんしや
)
し
乍
(
なが
)
ら
漸
(
やうや
)
くクルスの
森
(
もり
)
迄
(
まで
)
安着
(
あんちやく
)
致
(
いた
)
しました。
030
さうしてバラモン
軍
(
ぐん
)
の
先鋒隊
(
せんぽうたい
)
、
031
ランチ、
032
片彦
(
かたひこ
)
将軍
(
しやうぐん
)
は
今
(
いま
)
は
全
(
まつた
)
く
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
によつて
三五教
(
あななひけう
)
に
帰順
(
きじゆん
)
致
(
いた
)
しました
故
(
ゆゑ
)
、
033
何卒
(
どうぞ
)
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
へ
御
(
ご
)
奏上
(
そうじやう
)
の
程
(
ほど
)
願
(
ねがひ
)
上
(
あ
)
げ
奉
(
たてまつ
)
ります。
034
何
(
いづ
)
れ
之
(
これ
)
等
(
ら
)
の
人々
(
ひとびと
)
はも
少
(
すこ
)
し
予備
(
よび
)
教育
(
けういく
)
を
施
(
ほどこ
)
した
上
(
うへ
)
、
035
手紙
(
てがみ
)
を
以
(
もつ
)
て
御
(
お
)
館
(
やかた
)
へ
参籠
(
さんろう
)
致
(
いた
)
させ
修行
(
しうぎやう
)
の
結果
(
けつくわ
)
宣伝使
(
せんでんし
)
にお
取立
(
とりた
)
て
下
(
くだ
)
さる
様
(
やう
)
御
(
お
)
願
(
ねが
)
ひ
致
(
いた
)
す
考
(
かんが
)
へなれば
万事
(
ばんじ
)
よろしく
願
(
ねが
)
ひます。
036
扨
(
さ
)
て
此
(
この
)
手紙
(
てがみ
)
の
持参者
(
ぢさんしや
)
は
小北山
(
こぎたやま
)
のウラナイ
教
(
けう
)
に
牛耳
(
ぎうじ
)
を
執
(
と
)
つて
居
(
ゐ
)
た、
037
もとは
浮木
(
うきき
)
の
村
(
むら
)
の
女侠客
(
をんなけふかく
)
お
寅
(
とら
)
と
云
(
い
)
ふ
婦人
(
ふじん
)
で
厶
(
ござ
)
ります。
038
治国別
(
はるくにわけ
)
が
出征
(
しゆつせい
)
の
途中
(
とちう
)
祠
(
ほこら
)
の
森
(
もり
)
に
於
(
おい
)
て
片彦
(
かたひこ
)
将軍
(
しやうぐん
)
の
秘書役
(
ひしよやく
)
たりし
愚弟
(
ぐてい
)
松彦
(
まつひこ
)
に
巡
(
めぐ
)
り
合
(
あ
)
ひ、
039
彼
(
かれ
)
松彦
(
まつひこ
)
は
直
(
ただち
)
に
三五
(
あななひ
)
の
道
(
みち
)
に
帰順
(
きじゆん
)
致
(
いた
)
し
小北山
(
こぎたやま
)
のウラナイ
教
(
けう
)
の
本山
(
ほんざん
)
に
参
(
まゐ
)
り
蠑螈別
(
いもりわけ
)
、
040
魔我彦
(
まがひこ
)
及
(
および
)
お
寅
(
とら
)
を
漸
(
やうや
)
くにして
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
のもとに
帰順
(
きじゆん
)
せしめたる
者
(
もの
)
で
厶
(
ござ
)
ります。
041
就
(
つ
)
いては
此
(
この
)
手紙
(
てがみ
)
の
持参人
(
ぢさんにん
)
即
(
すなは
)
ちお
寅
(
とら
)
さまを
宜
(
よろ
)
しく
願
(
ねが
)
ひます。
042
稍
(
やや
)
迷信
(
めいしん
)
深
(
ふか
)
く
脱線
(
だつせん
)
の
気味
(
きみ
)
が
厶
(
ござ
)
りますれど
十分
(
じふぶん
)
御
(
ご
)
教育
(
けういく
)
下
(
くだ
)
さるれば
相当
(
さうたう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
にならうかと
存
(
ぞん
)
じます。
043
左様
(
さやう
)
ならば』
044
と
書
(
か
)
き
記
(
しる
)
しお
寅
(
とら
)
に
渡
(
わた
)
した。
045
お
寅
(
とら
)
は
得意
(
とくい
)
の
色
(
いろ
)
を
満面
(
まんめん
)
に
泛
(
うか
)
べ
肩
(
かた
)
を
怒
(
いか
)
らし
治国別
(
はるくにわけ
)
及
(
およ
)
び
一行
(
いつかう
)
に
別
(
わか
)
れを
告
(
つ
)
げイソの
館
(
やかた
)
をさして
只
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
046
途中
(
とちう
)
小北山
(
こぎたやま
)
の
傍
(
かたはら
)
を
通
(
とほ
)
り
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
一度
(
いちど
)
立寄
(
たちよ
)
つて
最愛
(
さいあい
)
のお
菊
(
きく
)
に
巡
(
めぐ
)
り
合
(
あ
)
ひ
且
(
かつ
)
松姫
(
まつひめ
)
、
047
魔我彦
(
まがひこ
)
其
(
その
)
他
(
た
)
に
面会
(
めんくわい
)
し
自分
(
じぶん
)
の
悟
(
さと
)
り
得
(
え
)
た
教義
(
けうぎ
)
を
云
(
い
)
ひ
聞
(
き
)
かし、
048
小北山
(
こぎたやま
)
の
聖場
(
せいぢやう
)
をして
益々
(
ますます
)
栄
(
さか
)
えしめむと、
049
参拝
(
さんぱい
)
の
途中
(
とちう
)
意気
(
いき
)
揚々
(
やうやう
)
として
立帰
(
たちかへ
)
つた。
050
小北山
(
こぎたやま
)
の
聖場
(
せいぢやう
)
は
依然
(
いぜん
)
として
信者
(
しんじや
)
が
相当
(
さうたう
)
に
集
(
あつ
)
まつてゐる。
051
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
らお
寅
(
とら
)
の
見覚
(
みおぼ
)
えのある
顔
(
かほ
)
は
余
(
あま
)
り
沢山
(
たくさん
)
に
見当
(
みあた
)
らなかつた。
052
何故
(
なぜ
)
ならば
小北山
(
こぎたやま
)
のヘグレ
神社
(
じんしや
)
、
053
其
(
その
)
他
(
た
)
の
神々
(
かみがみ
)
を
誠
(
まこと
)
の
神
(
かみ
)
と
信
(
しん
)
じてゐたが、
054
サツパリ
名
(
な
)
もなき
邪神
(
じやしん
)
たりし
事
(
こと
)
を
曝露
(
ばくろ
)
され、
055
親族
(
しんぞく
)
朋友
(
ほういう
)
知己
(
ちき
)
等
(
など
)
より
嘲笑
(
てうせう
)
さるるのが
馬鹿
(
ばか
)
らしさに、
056
前
(
まへ
)
の
信者
(
しんじや
)
はあまり
寄
(
よ
)
り
付
(
つ
)
かなかつたからである。
057
さうして
改革
(
かいかく
)
以来
(
いらい
)
何
(
なん
)
とはなしに
前
(
まへ
)
の
信者
(
しんじや
)
は
不平
(
ふへい
)
に
充
(
み
)
たされたからである。
058
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
尊
(
たふと
)
き
神
(
かみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
又
(
また
)
は
霊魂
(
みたま
)
の
因縁
(
いんねん
)
を
信
(
しん
)
じ
得意
(
とくい
)
になつて
信仰
(
しんかう
)
してゐたのが、
059
何
(
なん
)
でもない
邪神
(
じやしん
)
であつた
事
(
こと
)
をスツパぬかれ
大難
(
だいなん
)
を
小難
(
せうなん
)
に
救
(
すく
)
はれ
乍
(
なが
)
ら
何
(
なん
)
とはなしに
心
(
こころ
)
面白
(
おもしろ
)
くなくなつた
者
(
もの
)
もあるからである。
060
お
寅
(
とら
)
はスツと
受付
(
うけつけ
)
に
立寄
(
たちよ
)
り
見
(
み
)
れば
文助
(
ぶんすけ
)
が
依然
(
いぜん
)
として
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
画
(
ゑ
)
を
書
(
か
)
いてゐる。
061
よくよく
見
(
み
)
れば
蕪
(
かぶら
)
でもなく
大根
(
だいこん
)
でもなく
黒蛇
(
くろくちなは
)
でもない。
062
傍
(
そば
)
に
日
(
ひ
)
の
出
(
で
)
の
守護
(
しゆご
)
と
書
(
か
)
き
記
(
しる
)
し
老松
(
らうしよう
)
の
幹
(
みき
)
に
紅
(
べに
)
の
様
(
やう
)
な
太陽
(
たいやう
)
が
輝
(
かがや
)
いてゐる。
063
かなり
立派
(
りつぱ
)
な
画
(
ゑ
)
を
描
(
ゑが
)
いて
居
(
ゐ
)
た。
064
お
寅
(
とら
)
は
突然
(
とつぜん
)
声
(
こゑ
)
をかけ、
065
お
寅
(
とら
)
『これ
文助
(
ぶんすけ
)
さま、
066
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
宜
(
よろ
)
しう。
067
相変
(
あひかは
)
らず
立派
(
りつぱ
)
な
御
(
お
)
掛軸
(
かけぢく
)
が
画
(
か
)
けますな。
068
竜神
(
りうじん
)
様
(
さま
)
はモウお
止
(
よ
)
しなさつたのですか』
069
目
(
め
)
のうとい
文助
(
ぶんすけ
)
はお
寅
(
とら
)
とは
夢
(
ゆめ
)
にも
知
(
し
)
らず、
070
文助
(
ぶんすけ
)
『ようお
詣
(
まゐ
)
りなさいませ。
071
誰方
(
どなた
)
か
知
(
し
)
りませぬが
奥
(
おく
)
へ
御
(
お
)
通
(
とほ
)
り
下
(
くだ
)
さいませ。
072
さうして
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
は
此
(
この
)
聖地
(
せいち
)
もヘグレ
神社
(
じんしや
)
や
種物
(
たねもの
)
神社
(
じんしや
)
、
073
其
(
その
)
外
(
ほか
)
いろいろの
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
祀
(
まつ
)
つて
厶
(
ござ
)
りましたが、
074
教祖
(
けうそ
)
の
蠑螈別
(
いもりわけ
)
さまやお
寅
(
とら
)
さまが
逐電
(
ちくでん
)
されましてから、
075
三五教
(
あななひけう
)
の
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
を
祀
(
まつ
)
り
代
(
か
)
へました。
076
それで
掛軸
(
かけぢく
)
も
亦
(
また
)
画
(
か
)
き
替
(
か
)
へねばなりませぬので、
077
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
のお
許
(
ゆる
)
しを
得
(
え
)
て
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り、
078
松
(
まつ
)
に
日
(
ひ
)
の
出
(
で
)
の
御
(
お
)
掛軸
(
かけぢく
)
を
認
(
したた
)
めております。
079
貴方
(
あなた
)
も
御
(
ご
)
信仰
(
しんかう
)
遊
(
あそ
)
ばすなら
上
(
あ
)
げますから
表具
(
へうぐ
)
をしてお
祀
(
まつ
)
りなさい。
080
日
(
ひ
)
の
出
(
で
)
の
世
(
よ
)
、
081
松
(
まつ
)
の
世
(
よ
)
といつて
之
(
これ
)
さへ
祀
(
まつ
)
つて
居
(
を
)
れば
家内
(
かない
)
安全
(
あんぜん
)
商売
(
しやうばい
)
繁昌
(
はんじやう
)
、
082
霊
(
みたま
)
になつても
天国
(
てんごく
)
へ
行
(
ゆ
)
く
旅券
(
りよけん
)
になりますよ』
083
お
寅
(
とら
)
『これ
文助
(
ぶんすけ
)
さま、
084
シツカリしなさらぬか。
085
松
(
まつ
)
に
日
(
ひ
)
の
出
(
で
)
は
誠
(
まこと
)
に
結構
(
けつこう
)
だが、
086
私
(
わたし
)
はお
寅
(
とら
)
ですよ』
087
文助
(
ぶんすけ
)
『
何
(
なん
)
だか
聞
(
き
)
き
覚
(
おぼ
)
えのある
方
(
かた
)
だと
思
(
おも
)
つてゐました。
088
アヽお
寅
(
とら
)
さまですか、
089
それはマア、
090
よう
帰
(
かへ
)
つて
下
(
くだ
)
さいました、
091
お
菊
(
きく
)
さまは
申
(
まを
)
すに
及
(
およ
)
ばず
皆
(
みな
)
さまお
喜
(
よろこ
)
びでせう。
092
私
(
わたし
)
も
何
(
なん
)
だか
気
(
き
)
がいそいそして
来
(
き
)
ました。
093
それでは
松姫
(
まつひめ
)
さまや
魔我彦
(
まがひこ
)
さまに
申上
(
まをしあ
)
げませう。
094
一寸
(
ちよつと
)
待
(
ま
)
つてゐて
下
(
くだ
)
さい』
095
お
寅
(
とら
)
『いえいえお
前
(
まへ
)
はここに
受付
(
うけつけ
)
をしてゐて
下
(
くだ
)
さい。
096
目
(
め
)
の
悪
(
わる
)
い
人
(
ひと
)
に
動
(
うご
)
いて
貰
(
もら
)
ふよりも
此
(
この
)
達者
(
たつしや
)
なお
寅
(
とら
)
が
私
(
わたし
)
の
居間
(
ゐま
)
へ
帰
(
かへ
)
りますから……お
菊
(
きく
)
もゐるでせう。
097
さうすればお
菊
(
きく
)
を
以
(
もつ
)
て
松姫
(
まつひめ
)
様
(
さま
)
や
魔我彦
(
まがひこ
)
に
通知
(
つうち
)
をさせますから』
098
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
自分
(
じぶん
)
の
居間
(
ゐま
)
をさして
急
(
いそ
)
ぎ
行
(
ゆ
)
く。
099
後
(
あと
)
に
文助
(
ぶんすけ
)
は
首
(
くび
)
を
頻
(
しき
)
りにかたげて
独言
(
ひとりごと
)
、
100
文助
(
ぶんすけ
)
『あゝお
寅
(
とら
)
さまも
大変
(
たいへん
)
に
人格
(
じんかく
)
が
上
(
あが
)
つたものだな。
101
丸
(
まる
)
で
別人
(
べつじん
)
の
様
(
やう
)
だつた。
102
物
(
もの
)
の
云
(
い
)
ひ
様
(
やう
)
と
云
(
い
)
ひ
何
(
なん
)
とはなしに
身体
(
からだ
)
から
光
(
ひかり
)
が
出
(
で
)
る
様
(
やう
)
だつた。
103
之
(
これ
)
丈
(
だけ
)
長
(
なが
)
らくつき
合
(
あ
)
ふて
居
(
を
)
つた
私
(
わし
)
でさへも
見違
(
みちが
)
へる
位
(
くらゐ
)
だから、
104
神徳
(
しんとく
)
と
云
(
い
)
ふものは
偉
(
えら
)
いものだな。
105
どれどれお
寅
(
とら
)
さまが
帰
(
かへ
)
つて
下
(
くだ
)
さつた
此
(
この
)
嬉
(
うれ
)
しさを
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
へお
礼
(
れい
)
申
(
まを
)
して
来
(
こ
)
う』
106
と
独語
(
ひとりごち
)
つつトボトボと
神殿
(
しんでん
)
さして
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
107
お
寅
(
とら
)
は
吾
(
わが
)
居間
(
ゐま
)
に
帰
(
かへ
)
るに
先立
(
さきだ
)
ち
小北山
(
こぎたやま
)
のお
宮
(
みや
)
を
一々
(
いちいち
)
巡拝
(
じゆんぱい
)
し、
108
吾
(
わが
)
居間
(
ゐま
)
に
帰
(
かへ
)
つて
休息
(
きうそく
)
せむとする
処
(
ところ
)
へ、
109
何時
(
いつ
)
のまにかお
寅
(
とら
)
さまが
帰
(
かへ
)
つたと
云
(
い
)
ふ
噂
(
うはさ
)
が
立
(
た
)
つたので
魔我彦
(
まがひこ
)
、
110
お
菊
(
きく
)
は
慌
(
あわ
)
てて
松姫館
(
まつひめやかた
)
から
走
(
はし
)
り
来
(
きた
)
り、
111
お
菊
(
きく
)
『お
母
(
か
)
アさま、
112
貴方
(
あなた
)
は
松彦
(
まつひこ
)
様
(
さま
)
と
宣伝
(
せんでん
)
のためにおいでになつてから、
113
未
(
ま
)
だ
幾何
(
いくら
)
も
日
(
ひ
)
が
経
(
た
)
たないのにお
帰
(
かへ
)
りになつたのですか。
114
又
(
また
)
我
(
が
)
でも
出
(
だ
)
して
縮尻
(
しくじ
)
つたのではありませぬか』
115
お
寅
(
とら
)
『
何
(
なに
)
、
116
縮尻
(
しくじ
)
る
処
(
どころ
)
か、
117
結構
(
けつこう
)
なお
神徳
(
かげ
)
を
頂
(
いただ
)
いて
来
(
き
)
たのだよ。
118
お
菊
(
きく
)
、
119
お
前
(
まへ
)
も
其
(
その
)
後
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
よう
御用
(
ごよう
)
をして
居
(
ゐ
)
たのか』
120
お
菊
(
きく
)
『はい、
121
機嫌
(
きげん
)
ようしてゐました。
122
何卒
(
どうぞ
)
私
(
わたくし
)
の
事
(
こと
)
は
案
(
あん
)
じて
下
(
くだ
)
さいますな。
123
さうして
万公
(
まんこう
)
さまは
機嫌
(
きげん
)
ようしてゐましたかな』
124
お
寅
(
とら
)
『ホヽヽヽヽ、
125
ヤツパリ
万公
(
まんこう
)
のことが
気
(
き
)
にかかるかな。
126
いや
頼
(
たの
)
もしいお
前
(
まへ
)
の
心掛
(
こころがけ
)
、
127
私
(
わたし
)
もそれ
聞
(
き
)
いて
安心
(
あんしん
)
を
致
(
いた
)
したぞや』
128
お
菊
(
きく
)
『お
母
(
かあ
)
さまの……マア
嫌
(
いや
)
な
事
(
こと
)
、
129
直
(
ぢき
)
に
妙
(
めう
)
な
処
(
ところ
)
へ
気
(
き
)
を
廻
(
まは
)
しなさるのだね』
130
お
寅
(
とら
)
『それだつて、
131
五三公
(
いそこう
)
さまは
如何
(
どう
)
だとも、
132
アクさまは
如何
(
どう
)
だとも
云
(
い
)
はぬぢやないか』
133
魔我
(
まが
)
『お
寅
(
とら
)
さま、
134
よう
帰
(
かへ
)
つて
下
(
くだ
)
さつた。
135
其
(
その
)
後
(
ご
)
は
此
(
この
)
聖地
(
せいち
)
も
極
(
きは
)
めて
円満
(
ゑんまん
)
に
御
(
ご
)
神業
(
しんげふ
)
が
発達
(
はつたつ
)
してゐますから、
136
安心
(
あんしん
)
して
下
(
くだ
)
さいませ』
137
お
寅
(
とら
)
『
魔我彦
(
まがひこ
)
さま、
138
どうか
脱線
(
だつせん
)
せぬ
様
(
やう
)
に
此
(
この
)
聖場
(
せいぢやう
)
を
守
(
まも
)
つて
下
(
くだ
)
さいや。
139
私
(
わたし
)
は、
140
松彦
(
まつひこ
)
さまの
先生
(
せんせい
)
の
治国別
(
はるくにわけ
)
と
云
(
い
)
ふ
立派
(
りつぱ
)
なお
方
(
かた
)
から
添
(
そ
)
へ
手紙
(
てがみ
)
を
頂
(
いただ
)
いてイソの
館
(
やかた
)
へ
参
(
まゐ
)
り、
141
百
(
ひやく
)
日
(
にち
)
の
行
(
ぎやう
)
をして
立派
(
りつぱ
)
な
宣伝使
(
せんでんし
)
となつて
来
(
く
)
る
積
(
つも
)
りだから
喜
(
よろこ
)
んで
下
(
くだ
)
さい』
142
魔我
(
まが
)
『それは
至極
(
しごく
)
結構
(
けつこう
)
です。
143
何卒
(
どうぞ
)
、
144
不調法
(
ぶてうはふ
)
のない
様
(
やう
)
に
修行
(
しうぎやう
)
して
立派
(
りつぱ
)
な
宣伝使
(
せんでんし
)
となつて
帰
(
かへ
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
145
私
(
わたし
)
もお
許
(
ゆる
)
しさへあれば
一度
(
いちど
)
改心
(
かいしん
)
の
記念
(
きねん
)
に
参拝
(
さんぱい
)
したいものですがな』
146
お
寅
(
とら
)
『お
前
(
まへ
)
も
松姫
(
まつひめ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
都合
(
つがふ
)
を
伺
(
うかが
)
つてお
暇
(
ひま
)
を
頂
(
いただ
)
き、
147
私
(
わたし
)
と
一所
(
いつしよ
)
に
参拝
(
さんぱい
)
したら
如何
(
どう
)
だい。
148
百聞
(
ひやくぶん
)
は
一見
(
いつけん
)
に
如
(
し
)
かずと
云
(
い
)
ふから、
149
ヤツパリ
一度
(
いちど
)
ウブスナ
山
(
やま
)
の
聖地
(
せいち
)
を
拝
(
をが
)
んで
来
(
こ
)
ねば、
150
満足
(
まんぞく
)
の
教
(
をしへ
)
も
出来
(
でき
)
ず、
151
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
も
貰
(
もら
)
へませぬぞや』
152
魔我
(
まが
)
『さう
願
(
ねが
)
へば
結構
(
けつこう
)
ですがな……』
153
お
菊
(
きく
)
『お
母
(
かあ
)
さま、
154
魔我彦
(
まがひこ
)
さま、
155
之
(
これ
)
から
私
(
わたし
)
が
松姫
(
まつひめ
)
様
(
さま
)
に
伺
(
うかが
)
つて
来
(
き
)
ませう。
156
まアゆつくりと
魔我彦
(
まがひこ
)
さまとお
茶
(
ちや
)
なと
飲
(
あが
)
つて
待
(
ま
)
つてゐて
下
(
くだ
)
さい』
157
と
云
(
い
)
ひ
捨
(
す
)
て
足早
(
あしばや
)
に
細
(
ほそ
)
い
二百
(
にひやく
)
の
石
(
いし
)
の
階段
(
かいだん
)
を
上
(
のぼ
)
つて
松姫
(
まつひめ
)
の
館
(
やかた
)
へ
急
(
いそ
)
ぎ
行
(
ゆ
)
く。
158
後
(
あと
)
に
魔我彦
(
まがひこ
)
はお
寅
(
とら
)
に
向
(
むか
)
ひ、
159
魔我
(
まが
)
『お
寅
(
とら
)
さま、
160
貴方
(
あなた
)
はスツカリ
御
(
ご
)
人格
(
じんかく
)
が
変
(
かは
)
つた
様
(
やう
)
ですな。
161
お
顔
(
かほ
)
の
艶
(
つや
)
と
云
(
い
)
ひ
髪
(
かみ
)
の
毛
(
け
)
迄
(
まで
)
が
黒
(
くろ
)
くなつたぢやありませぬか。
162
本当
(
ほんたう
)
に
声
(
こゑ
)
迄
(
まで
)
が
変
(
かは
)
つてゐるので
別人
(
べつじん
)
の
様
(
やう
)
ですわ』
163
お
寅
(
とら
)
『お
蔭様
(
かげさま
)
で
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
愛
(
あい
)
の
熱
(
ねつ
)
に
若
(
わか
)
やぎました。
164
さうして
信仰
(
しんかう
)
の
光
(
ひかり
)
に
照
(
て
)
らされて
何処
(
どこ
)
ともなしに
身体
(
からだ
)
から
光
(
ひかり
)
が
出
(
で
)
る
様
(
やう
)
な
気分
(
きぶん
)
ですよ、
165
ホヽヽヽヽ、
166
又
(
また
)
褒
(
ほ
)
められて
慢心
(
まんしん
)
をすると
谷底
(
たにそこ
)
へ
落
(
お
)
ちますから、
167
もう
此
(
これ
)
位
(
くらゐ
)
でやめておきませう』
168
魔我
(
まが
)
『
時
(
とき
)
にお
寅
(
とら
)
さま、
169
蠑螈別
(
いもりわけ
)
さまの
持
(
も
)
ち
逃
(
に
)
げしたお
金
(
かね
)
は
手
(
て
)
に
入
(
い
)
りましたか』
170
お
寅
(
とら
)
『
魔我彦
(
まがひこ
)
さま、
171
お
金
(
かね
)
の
事
(
こと
)
なんか、
172
まだ
貴方
(
あなた
)
は
思
(
おも
)
つてゐるのかい。
173
此
(
この
)
お
寅
(
とら
)
は
金
(
かね
)
なんかは
話
(
はなし
)
を
聞
(
き
)
いても
気持
(
きもち
)
が
悪
(
わる
)
うなります。
174
蠑螈別
(
いもりわけ
)
さまも
生来
(
しやうらい
)
が
淡白
(
たんぱく
)
な
人
(
ひと
)
だから、
175
あの
金
(
かね
)
をスツカリ
人
(
ひと
)
にやつて
了
(
しま
)
ひ、
176
今
(
いま
)
では
無一物
(
むいちぶつ
)
ですよ。
177
そしてお
民
(
たみ
)
と
仲
(
なか
)
ようして
居
(
を
)
ります』
178
魔我
(
まが
)
『
何
(
なに
)
、
179
お
民
(
たみ
)
と
一所
(
いつしよ
)
に
居
(
を
)
りますか。
180
エーエー』
181
お
寅
(
とら
)
『これ、
182
魔我彦
(
まがひこ
)
さま、
183
エーとは
何
(
なん
)
だ。
184
お
前
(
まへ
)
はヤツパリお
民
(
たみ
)
に
対
(
たい
)
し
恋着心
(
れんちやくしん
)
が
残
(
のこ
)
つてゐるのかな。
185
それでは
改心
(
かいしん
)
が
出来
(
でき
)
ませぬぞや。
186
何
(
なに
)
がエーだい』
187
魔我
(
まが
)
『エー
事
(
こと
)
をなされましたな、
188
と
云
(
い
)
ひかけたのですよ。
189
エー、
190
エーン(
縁
(
えん
)
)と
云
(
い
)
ふものは
不思議
(
ふしぎ
)
なものですな』
191
お
寅
(
とら
)
『エー
加減
(
かげん
)
な
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
つて
誤魔化
(
ごまくわ
)
さうと
思
(
おも
)
つても
駄目
(
だめ
)
ですよ。
192
お
民
(
たみ
)
も
如何
(
どう
)
やら
目
(
め
)
が
覚
(
さ
)
めて
蠑螈別
(
いもりわけ
)
さまと、
193
今
(
いま
)
はホンの
教
(
をしへ
)
の
友
(
とも
)
として、
194
つき
合
(
あ
)
つてる
丈
(
だ
)
けのものですよ。
195
お
民
(
たみ
)
も
随分
(
ずいぶん
)
改心
(
かいしん
)
が
出来
(
でき
)
ましたからな。
196
何
(
いづ
)
れお
前
(
まへ
)
が
立派
(
りつぱ
)
な
神徳
(
しんとく
)
を
頂
(
いただ
)
いたら
私
(
わたし
)
が
媒介
(
なかうど
)
をしてお
前
(
まへ
)
と
夫婦
(
ふうふ
)
にして
上
(
あ
)
げたいと
思
(
おも
)
ふて
考
(
かんが
)
へてゐるのよ』
197
魔我
(
まが
)
『
本当
(
ほんたう
)
に
世話
(
せわ
)
をして
下
(
くだ
)
さいますか』
198
お
寅
(
とら
)
『
何
(
なに
)
、
199
嘘
(
うそ
)
を
云
(
い
)
ふものか。
200
私
(
わし
)
はお
民
(
たみ
)
と
蠑螈別
(
いもりわけ
)
さまの
様子
(
やうす
)
を
気
(
き
)
をつけて
考
(
かんが
)
へてゐたが、
201
どちらにも
未練
(
みれん
)
がない
様
(
やう
)
だ。
202
却
(
かへつ
)
て
魔我彦
(
まがひこ
)
さまの
方
(
はう
)
がお
民
(
たみ
)
の
気
(
き
)
に
入
(
い
)
つてる
様
(
やう
)
だから、
203
マア
喜
(
よろこ
)
びなさい』
204
魔我
(
まが
)
『エーヘツヘヽヽヽ、
205
違
(
ちが
)
やしませぬかな』
206
お
寅
(
とら
)
『
最前
(
さいぜん
)
のエーとは
同
(
おな
)
じエーでも
大変
(
たいへん
)
に
調子
(
てうし
)
が
違
(
ちがひ
)
ますな。
207
オホヽヽヽ、
208
何
(
なん
)
と
現銀
(
げんぎん
)
な
男
(
をとこ
)
だ
事
(
こと
)
』
209
魔我
(
まが
)
『お
寅
(
とら
)
さま、
210
お
前
(
まへ
)
さまは
蠑螈別
(
いもりわけ
)
さまに
対
(
たい
)
する
恋着
(
れんちやく
)
は、
211
最早
(
もはや
)
、
212
とれたのですか。
213
何
(
ど
)
うも
怪
(
あや
)
しいものですな。
214
貴女
(
あなた
)
の
御
(
ご
)
様子
(
やうす
)
と
云
(
い
)
ひ、
215
何
(
なん
)
だか
嬉
(
うれ
)
し
相
(
さう
)
に
若々
(
わかわか
)
してゐられます。
216
之
(
これ
)
には
何
(
なに
)
か
嬉
(
うれ
)
しい
事
(
こと
)
がなくては
叶
(
かな
)
はぬ
事
(
こと
)
だ』
217
お
寅
(
とら
)
『これ
魔我
(
まが
)
ヤン……』
218
と
肩
(
かた
)
を
平手
(
ひらて
)
で
二
(
ふた
)
つ
三
(
み
)
つ
叩
(
たた
)
き、
219
お
寅
(
とら
)
『
馬鹿
(
ばか
)
にしておくれな。
220
此
(
この
)
お
寅
(
とら
)
はそんな
事
(
こと
)
が
嬉
(
うれ
)
しいのではありませぬよ。
221
一旦
(
いつたん
)
誠
(
まこと
)
の
道
(
みち
)
に
目
(
め
)
が
覚
(
さ
)
めた
上
(
うへ
)
は……
阿呆
(
あほ
)
らしい……
恋
(
こひ
)
の、
222
金
(
かね
)
のと、
223
よい
年
(
とし
)
をして、
224
そんな
馬鹿
(
ばか
)
げた
事
(
こと
)
が
夢
(
ゆめ
)
にも
思
(
おも
)
へますか。
225
あまり
人
(
ひと
)
を
見下
(
みさ
)
げて
下
(
くだ
)
さいますな。
226
お
寅
(
とら
)
はそんな
柔弱
(
じうじやく
)
な
女
(
をんな
)
とはチツと
違
(
ちが
)
ひますよ。
227
ヘン、
228
自分
(
じぶん
)
の
心
(
こころ
)
に
引
(
ひ
)
き
比
(
くら
)
べて
私
(
わし
)
の
心
(
こころ
)
を
忖度
(
そんたく
)
しようとは、
229
怪
(
け
)
しからぬ
男
(
をとこ
)
だな』
230
魔我
(
まが
)
『こりや
失礼
(
しつれい
)
致
(
いた
)
しました。
231
雀
(
すずめ
)
百
(
ひやく
)
迄
(
まで
)
雄鳥
(
をんどり
)
を
忘
(
わす
)
れぬと
云
(
い
)
ふ
譬
(
たとへ
)
もありますから……ツイお
尋
(
たづ
)
ねしたのです。
232
御
(
ご
)
無礼
(
ぶれい
)
の
段
(
だん
)
は
何卒
(
なにとぞ
)
、
233
見直
(
みなほ
)
し
聞直
(
ききなほ
)
しを
願
(
ねが
)
ひます。
234
どうか
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
を
直
(
なほ
)
して
松姫
(
まつひめ
)
さまの
許
(
ゆる
)
しがあれば
此
(
この
)
魔我彦
(
まがひこ
)
を
一度
(
いちど
)
ウブスナ
山
(
やま
)
の
聖場
(
せいぢやう
)
へ
連
(
つ
)
れて
行
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さいませ』
235
お
寅
(
とら
)
『あゝよしよし、
236
井戸
(
ゐど
)
の
底
(
そこ
)
の
蛙
(
かはづ
)
で
世間見
(
せけんみ
)
ずでは
宣伝使
(
せんでんし
)
等
(
など
)
は
出来
(
でき
)
ないから、
237
一度
(
いちど
)
見聞
(
けんぶん
)
を
広
(
ひろ
)
くするために
大神
(
おほかみ
)
の
御
(
ご
)
出現地
(
しゆつげんち
)
へ
参拝
(
さんぱい
)
するのは
結構
(
けつこう
)
だ』
238
かく
話
(
はな
)
す
処
(
ところ
)
へお
菊
(
きく
)
は
松姫
(
まつひめ
)
、
239
お
千代
(
ちよ
)
と
共
(
とも
)
に
帰
(
かへ
)
り
来
(
きた
)
り、
240
お
菊
(
きく
)
『お
母
(
かあ
)
さま、
241
松姫
(
まつひめ
)
様
(
さま
)
がお
越
(
こ
)
しで
厶
(
ござ
)
りますよ。
242
さア
御
(
ご
)
挨拶
(
あいさつ
)
なさいませ』
243
お
寅
(
とら
)
は
後
(
あと
)
ふり
返
(
かへ
)
り
松姫
(
まつひめ
)
の
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
て、
244
さも
嬉
(
うれ
)
しげに
打笑
(
うちゑ
)
み
乍
(
なが
)
ら
言葉
(
ことば
)
穏
(
おだや
)
かに
両手
(
りやうて
)
をつき、
245
お
寅
(
とら
)
『これはこれは
松姫
(
まつひめ
)
様
(
さま
)
、
246
日々
(
にちにち
)
御
(
ご
)
神務
(
しんむ
)
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
様
(
さま
)
で
厶
(
ござ
)
ります。
247
お
菊
(
きく
)
のヤンチヤがお
世話
(
せわ
)
に
預
(
あづ
)
かりまして
嘸
(
さぞ
)
御
(
ご
)
迷惑
(
めいわく
)
で
厶
(
ござ
)
りませう。
248
私
(
わたくし
)
は
治国別
(
はるくにわけ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
から
御
(
お
)
手紙
(
てがみ
)
を
頂
(
いただ
)
いてイソの
館
(
やかた
)
へ
修行
(
しうぎやう
)
に
参
(
まゐ
)
る
途中
(
とちう
)
、
249
一寸
(
ちよつと
)
御
(
ご
)
挨拶
(
あいさつ
)
旁
(
かたがた
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
へ
参拝
(
さんぱい
)
致
(
いた
)
しました。
250
何卒
(
なにとぞ
)
お
菊
(
きく
)
の
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
、
251
宜
(
よろ
)
しくお
願
(
ねが
)
ひ
致
(
いた
)
します』
252
松姫
(
まつひめ
)
『お
寅
(
とら
)
様
(
さま
)
で
厶
(
ござ
)
りますか、
253
よう
御
(
お
)
立寄
(
たちよ
)
り
下
(
くだ
)
さいました。
254
お
菊
(
きく
)
さまの
事
(
こと
)
は
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
下
(
くだ
)
さいますな。
255
貴女
(
あなた
)
が
御
(
ご
)
出立
(
しゆつたつ
)
の
後
(
あと
)
はお
菊
(
きく
)
さまも、
256
文助
(
ぶんすけ
)
さまも、
257
魔我彦
(
まがひこ
)
さまも、
258
大勉強
(
だいべんきやう
)
で
厶
(
ござ
)
ります。
259
其
(
その
)
お
蔭
(
かげ
)
で
信者
(
しんじや
)
も
日々
(
にちにち
)
御
(
ご
)
参拝
(
さんぱい
)
なされ
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
は
日
(
ひ
)
に
日
(
ひ
)
に
上
(
あが
)
りまして
誠
(
まこと
)
に
御
(
ご
)
結構
(
けつこう
)
で
厶
(
ござ
)
ります。
260
そしてお
寅
(
とら
)
さま、
261
貴女
(
あなた
)
は
大変
(
たいへん
)
にお
顔
(
かほ
)
に
艶
(
つや
)
が
出来
(
でき
)
ましたな。
262
お
髪
(
つむ
)
の
色
(
いろ
)
と
云
(
い
)
ひ
一寸
(
ちよつと
)
見
(
み
)
ても
二十
(
にじふ
)
年
(
ねん
)
ばかりお
若
(
わか
)
うお
成
(
な
)
りなさつた
様
(
やう
)
に
厶
(
ござ
)
りますわ。
263
本当
(
ほんたう
)
に
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
と
云
(
い
)
ふものは
有難
(
ありがた
)
いもので
厶
(
ござ
)
りますな』
264
お
寅
(
とら
)
『はい、
265
何分
(
なにぶん
)
雪隠
(
せつちん
)
の
水
(
みづ
)
つきで
厶
(
ござ
)
りますからな、
266
ホヽヽヽヽ』
267
魔我
(
まが
)
『アハヽヽヽ、
268
さうするとお
寅
(
とら
)
さまは、
269
浮木
(
うきき
)
の
森
(
もり
)
で
余程
(
よほど
)
浮
(
う
)
いて
来
(
き
)
たと
見
(
み
)
えますな』
270
お
寅
(
とら
)
『オホヽヽヽ、
271
私
(
わたし
)
は
恋人
(
こひびと
)
が
出来
(
でき
)
ました。
272
それ
故
(
ゆゑ
)
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り
若
(
わか
)
くなつたのですよ』
273
魔我
(
まが
)
『アハヽヽヽ、
274
何
(
なん
)
だか
可笑
(
をか
)
しいと
思
(
おも
)
つてゐたて、
275
到頭
(
たうとう
)
本音
(
ほんね
)
を
吹
(
ふ
)
きましたね』
276
松姫
(
まつひめ
)
『お
寅
(
とら
)
さまの
恋人
(
こひびと
)
と
云
(
い
)
ふのは
瑞
(
みづ
)
の
御霊
(
みたま
)
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのをの
)
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
でせう。
277
それは
本当
(
ほんたう
)
によい
恋人
(
こひびと
)
をお
定
(
さだ
)
め
遊
(
あそ
)
ばしましたね。
278
妾
(
わらは
)
も
矢張
(
やは
)
り
素盞嗚
(
すさのをの
)
尊
(
みこと
)
様
(
さま
)
を
唯一
(
ゆゐいつ
)
の
恋人
(
こひびと
)
と
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
りますよ、
279
ホヽヽヽヽ』
280
魔我
(
まが
)
『これは
怪
(
け
)
しからぬ、
281
お
寅
(
とら
)
さまはそれで
宜
(
よ
)
いとして、
282
松姫
(
まつひめ
)
さまは
立派
(
りつぱ
)
な
松彦
(
まつひこ
)
さまと
云
(
い
)
ふ
恋人
(
こひびと
)
否
(
いな
)
二世
(
にせ
)
を
契
(
ちぎ
)
つた
夫
(
をつと
)
があるぢやありませぬか。
283
チと
不貞腐
(
ふていくさ
)
れぢやありませぬか』
284
松姫
(
まつひめ
)
『
第一
(
だいいち
)
に
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
を
恋
(
こ
)
ひ
慕
(
した
)
ひ
第二
(
だいに
)
に
夫
(
をつと
)
を
慕
(
した
)
つてゐます。
285
それで
二世
(
にせ
)
の
夫
(
つま
)
と
云
(
い
)
ふのですよ』
286
魔我
(
まが
)
『ヤア、
287
自惚気
(
おのろけ
)
をタツプリと
聞
(
き
)
かして
頂
(
いただ
)
きました。
288
魔我彦
(
まがひこ
)
も
之
(
これ
)
で
満足
(
まんぞく
)
致
(
いた
)
します。
289
併
(
しか
)
し
一
(
ひと
)
つお
願
(
ねが
)
ひが
厶
(
ござ
)
りますが、
290
暫
(
しばら
)
く
私
(
わたし
)
はお
寅
(
とら
)
さまのお
伴
(
とも
)
してウブスナ
山
(
やま
)
の
聖場
(
せいぢやう
)
へ
詣
(
まゐ
)
り
度
(
た
)
いのですが
許
(
ゆる
)
して
頂
(
いただ
)
けませぬか』
291
松姫
(
まつひめ
)
『それは
願
(
ねが
)
うてもなき
事
(
こと
)
、
292
実
(
じつ
)
は
妾
(
わらは
)
より
一度
(
いちど
)
魔我彦
(
まがひこ
)
さまに
御
(
ご
)
修行
(
しうぎやう
)
に
行
(
い
)
つて
貰
(
もら
)
ひたいと
思
(
おも
)
つて
居
(
ゐ
)
たのです。
293
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
女
(
をんな
)
の
差出口
(
さしでぐち
)
と
思
(
おも
)
はれちやならないと
差控
(
さしひか
)
へて
居
(
を
)
りました。
294
それは
結構
(
けつこう
)
で
厶
(
ござ
)
りますが、
295
お
寅
(
とら
)
さま、
296
何卒
(
どうぞ
)
魔我彦
(
まがひこ
)
さまをお
預
(
あづ
)
けしますから
宜
(
よろ
)
しくお
願
(
ねが
)
ひ
申
(
まを
)
します』
297
お
寅
(
とら
)
『はいはい
私
(
わたし
)
が
預
(
あづ
)
かりました
以上
(
いじやう
)
はメツタの
事
(
こと
)
はさせませぬ。
298
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
下
(
くだ
)
さいませ』
299
魔我
(
まが
)
『
然
(
しか
)
らば
松姫
(
まつひめ
)
様
(
さま
)
、
300
暫
(
しばら
)
く
御
(
お
)
暇
(
いとま
)
を
頂戴
(
ちやうだい
)
致
(
いた
)
します』
301
松姫
(
まつひめ
)
『
何卒
(
なにとぞ
)
聖地
(
せいち
)
へお
詣
(
まゐ
)
りになりましたら、
302
松姫
(
まつひめ
)
が
宜
(
よろ
)
しう
申上
(
まをしあ
)
げたと
云
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さいませ』
303
お
寅
(
とら
)
『はい、
304
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました』
305
とお
寅
(
とら
)
は
暫
(
しば
)
し
休息
(
きうそく
)
の
上
(
うへ
)
、
306
魔我彦
(
まがひこ
)
を
伴
(
ともな
)
ひ
各
(
かく
)
神社
(
じんじや
)
を
遥拝
(
えうはい
)
し、
307
受付
(
うけつけ
)
の
文助
(
ぶんすけ
)
や
数多
(
あまた
)
の
信者
(
しんじや
)
へ
挨拶
(
あいさつ
)
を
終
(
をは
)
り
一本橋
(
いつぽんばし
)
を
打渡
(
うちわた
)
り
河鹿
(
かじか
)
峠
(
たうげ
)
の
山口
(
やまぐち
)
さして
老
(
おい
)
の
足
(
あし
)
もともいと
健
(
すこや
)
かに、
308
神文
(
しんもん
)
を
称
(
とな
)
へ
乍
(
なが
)
ら、
309
勢
(
いきほ
)
ひ
込
(
こ
)
んで
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
310
(
大正一二・一・一八
旧一一・一二・二
北村隆光
録)
Δこのページの一番上に戻るΔ
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(B)
(N)
水呑同志 >>>
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