霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一六章 魔法使(まはふつかひ)〔一二九〇〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第49巻 真善美愛 子の巻 篇:第4篇 鷹魅糞倒 よみ:ようみふんとう
章:第16章 魔法使 よみ:まほうつかい 通し章番号:1290
口述日:1923(大正12)年01月19日(旧12月3日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年11月5日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
高姫は、お寅、魔我彦、ヨルがイソ館に向かって出立してしまったので、これはたいへんだと心も心ならず、守護神のふがいなさを嘆き、イル、イク、サール、ハル、テルらに悪態をついている。
イル、イク、サールは高姫の暴言に反抗して、世界を自在にする義理天上日の出神がなんとかすればいいではないかと揶揄した。高姫は怒ってイクを締め上げる。サールはみかねて高姫の足をさらえて転ばせた。
高姫は怒って金切り声を出してわめきたてる。そこへ杢助がやってきて高姫をなだめた。高姫はイク、イル、サールを放逐すると宣言し、ハルとテルを代わりに取り立てた。
高姫はハルとテルに、早速お寅、魔我彦、ヨルの三人を引き戻してくるようにと命じた。ハルは、自分にはバラモン教で習い覚えた引っ掛け戻しの魔法があると言って高姫を煙にまいてしまった。
ハルは、放逐されたイク、イル、サールに蓑笠をつけさせて旅の装いをさせ、酒を飲ませて道に待機させた。そして太鼓の合図がなったら、お寅・魔我彦・ヨルのふりをして坂を下って戻ってくるようにと言い含めた。
ハルとテルは魔法の準備ができたと高姫を呼んできた。そして、魔法を使うためには沢山の魔神の眷属に酒を飲ませる必要があるといってグイグイ飲み始めた。
ハルとテルは眷属の声色を使って高姫をしばらくからかった後、文言を唱えて太鼓をたたいた。するとお寅に扮したイルが、受付の前を取って坂の下に戻って行ってしまった。そして順番に魔我彦とヨルに扮したイルとサールを合図で呼び戻した。
ハルは魔法の術式だと言って、自分の股ぐらへ突っ込んだ鞭を高姫の鼻に当ててにおいをかがせた。そして鞭で鼻をついたため、高姫は倒れて目まいを起こしてしまった。
ハルとテルはまんまと魔法で三人を引き戻したと高姫に思い込ませた。高姫は二人の魔法に感心し、酒と御馳走をふるまうと、安心して杢助との居間に戻って行った。
杢助は高姫からハルとテルが魔法で三人を引き戻したと聞くと、感心しながらも、ただ引き戻しただけでは、遠回りをして結局イソ館に行ってしまうと指摘した。それを聞いて不安になった高姫に、杢助は今度は自分が魔法を使って三人をここへ呼び寄せてやると言った。
杢助は、高姫を木魚の代わりに長煙管でうち、呪文を唱えた。高姫はまたのぼせてあたりが回りだした。するとお寅の姿が目の前に現れた。杢助は今度は、魔我彦とヨルを引き戻す魔法だと言って高姫に目をつぶらせて、火鉢の灰を口に突っ込んだ。
高姫が杢助の合図で目を開くと、魔我彦とヨルが目の前に座っている。高姫は説教を始めるが、魔我彦は地獄の灰を口にねじ込んであげたと高姫を愚弄した。高姫が怒って怒鳴りつけると、お寅・魔我彦・ヨルの三人は怪獣となって高姫に唸りだした。
高姫はアッと叫んでその場に正気を失ってしまった。怪獣は玄関口めがけて飛び出した。ハルとテルは頭をかかえて縮こまり、怪獣が帰り去るのを待っていた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: OBC :rm4916
愛善世界社版:233頁 八幡書店版:第9輯 117頁 修補版: 校定版:239頁 普及版:106頁 初版: ページ備考:
001 高姫(たかひめ)はお(とら)002魔我彦(まがひこ)003ヨルの三人(さんにん)数千言(すうせんげん)(つく)しての、004高姫(たかひめ)勧告(くわんこく)一蹴(いつしう)して、005強行的(きやうかうてき)出立(しゆつたつ)したので、006コリヤ大変(たいへん)だと、007(こころ)(こころ)ならず、008()れと(わが)()(むね)をかきむしり(なが)ら、
009高姫(たかひめ)『エーエ、010義理天上(ぎりてんじやう)さまも、011(なに)をして(ござ)る、012こんな(とき)にこそ、013なぜ不動(ふどう)金縛(かなしば)りをかけてとめて(くだ)さらぬのだい。014コレコレ、015イル、016イク、017サール、018ハル、019テル、020(なに)をしてゐるのだ、021なぜ(はや)(あと)()つかけて()かぬのかいな。022エーエもどかしい、023荒男(あらをとこ)五人(ごにん)()つて、024これ(ほど)()()めるのに、025なぜ(つか)まへて()ぬのだい。026日出神(ひのでのかみ)命令(めいれい)()きなさらぬか』
027イル『高姫(たかひめ)さま、028それより義理天上(ぎりてんじやう)さまに直接(ちよくせつ)にお(きき)になつたら()うです、029貴女(あなた)何時(いつ)三千世界(さんぜんせかい)自由(じいう)(いた)すと仰有(おつしや)つたぢやありませぬか。030それ(だけ)神力(しんりき)のある義理天上(ぎりてんじやう)生宮(いきみや)が、031引戻(ひきもど)せぬといふ(こと)がありますか、032かふいふ(とき)にこそ貴女(あなた)御神力(ごしんりき)()せて(いただ)かねば、033吾々(われわれ)(こころ)(そこ)から心服(しんぷく)するこた出来(でき)ませぬワ』
034高姫(たかひめ)『コレ、035イルや、036(まへ)(なん)といふ(わか)らぬ(こと)をいふのだい。037日出神(ひのでのかみ)(さま)といへば(てん)大神様(おほかみさま)だ、038大取締(おほとりしま)りをして(ござ)るのだよ。039つまりいへば総理大臣(そうりだいじん)のやうなものだ、040人間(にんげん)(とら)へに()くのはポリスの(やく)だぞえ、041大臣(だいじん)位地(ゐち)()神様(かみさま)がポリスの(やく)をなさるといふやうな、042そんな、043(みち)(はづ)れた(こと)がどこにあるものか。044それだからお前等(まへら)五人(ごにん)が、045ポリスやスパイになつて、046(つか)まへて()いといふのだよ』
047イル『貴女(あなた)神様(かみさま)総理大臣(そうりだいじん)ならば、048吾々(われわれ)知事(ちじ)(くらゐ)なものです。049知事(ちじ)がスパイやポリスの(やく)出来(でき)ませぬからな』
050高姫(たかひめ)『エーエ、051()()かぬ(をとこ)だな。052神様(かみさま)変幻出没(へんげんしゆつぼつ)自由自在(じいうじざい)なるべきものだ。053(だい)にしては宇宙(うちう)一切(いつさい)統轄(とうかつ)し、054(せう)にしては微塵(みぢん)(うち)にも(かく)(たま)ふが神様(かみさま)(はたら)きだよ。055そんな(こと)出来(でき)ぬやうな(こと)で、056()うして(ほこら)(もり)御用(ごよう)出来(でき)ますか』
057イル『それ(ほど)大神様(おほかみさま)大小(だいせう)いろいろに変幻出没(へんげんしゆつぼつ)なさるのなら、058ポリスやスパイになつて(つか)まへに()つたつて()いぢやありませぬか』
059高姫(たかひめ)『それは日出神(ひのでのかみ)生宮(いきみや)060一人(ひとり)(とき)(はたら)きだよ。061かうして五人(ごにん)荒男(あらをとこ)があるのに、062(わたし)(ばか)りに苦労(くらう)をかけようといふ、063(まへ)不了見(ふれうけん)(ひと)だ。064そんな(こと)(かみ)さまの(みち)()へますか。065(なに)もかも日出神(ひのでのかみ)一人(ひとり)でするならば、066前達(まへたち)(やう)(わか)らずやを五人(ごにん)()いとく(はづ)がないぢやないか』
067イク『コレ高姫(たかひめ)さま、068前達(まへたち)のやうな(わか)らずやをおいとくと仰有(おつしや)つたが、069ヘン、070すみませぬが、071(わたし)はお(まへ)さまに命令(めいれい)()けてるのぢやありませぬぞや。072(まへ)さまこそ勝手(かつて)居候(ゐさふらふ)()たのぢやないか、073それ(ほど)ゴテゴテ()ふのなら()んで(もら)ひませう』
074 高姫(たかひめ)はクワツと(いか)り、075()をつり()げて、076矢庭(やには)にイクの胸倉(むなぐら)をグツと()り、
077『コリヤ、078イク、079(をんな)(おも)(あなど)つての雑言無礼(ざふごんぶれい)080用捨(ようしや)(いた)さぬぞや。081勿体(もつたい)なくも義理天上(ぎりてんじやう)日出神(ひのでのかみ)生宮(いきみや)082三五教(あななひけう)立派(りつぱ)立派(りつぱ)宣伝使(せんでんし)083生田(いくた)(もり)神司(かむつかさ)084(りう)(たま)守護神(しゆごじん)085()れさへあるに、086三五教(あななひけう)三羽烏(さんばがらす)087イソ(やかた)総務(そうむ)時置師(ときおかし)(かみ)杢助(もくすけ)(つま)088一度(いちど)無礼(ぶれい)(こと)()ふなら、089()つてみやれ、090(あご)(なに)()()つて(しま)ふぞや』
091(ちから)(まか)せて、092(ほほ)をグツとねぢる。093イクは、
094『アイタヽヽヽ、095カヽ堪忍(かんにん)々々(かんにん)
096高姫(たかひめ)(あま)貴様(きさま)頬桁(ほほげた)がいいから、097(この)頬桁(ほほげた)下駄(げた)()一本(いつぽん)もない(ところ)(まで)()いてやるのだ』
098益々(ますます)(つめ)る。099サールは()るに()かねて、100高姫(たかひめ)(うしろ)から、101両足(りやうあし)をグツと(さら)へた、102拍子(ひやうし)高姫(たかひめ)筋斗(もんどり)うつて玄関(げんくわん)飛出(とびだ)し、103饅頭(まんじう)(まで)天覧(てんらん)(きよう)して、104(あわ)ただしく起上(おきあが)り、
105高姫(たかひめ)『サ、106イクを此処(ここ)()せ、107高姫(たかひめ)(あし)をさらへた(やつ)何奴(どいつ)ぢや』
108金切声(かなきりごゑ)()して(わめ)()てる。109そこへ()んで()たのは杢助(もくすけ)であつた。
110高姫(たかひめ)『ヤ、111(まへ)はこちの(ひと)112女房(にようばう)がこんな()()ふてるのに、113(なに)して(ござ)つたのだえ』
114杢助(もくすけ)『つい、115そこら(ぢう)散歩(さんぽ)してをつたのだ。116(なん)だか義理天上(ぎりてんじやう)さまの(こゑ)カ…………天上(てんじやう)喚声(わめきごゑ)(きこ)えたので、117スワ一大事(いちだいじ)と、118(あわ)てて()()れば、119(なん)(こと)はない、120斯様(かやう)(をとこ)(つか)まへての、121ホテテンゴ、122イヤハヤ(あき)れて(もの)()はれぬ(わい)123ワツハヽヽヽヽ』
124高姫(たかひめ)『コレ、125こちの(ひと)126女房(にようばう)がこんな()()ふてゐるのに、127(まへ)(なん)ともないのかえ』
128杢助(もくすけ)『イヤ、129(なん)ともない(こと)はない。130(しか)(なが)(もと)(ただ)せばお(まへ)(わる)いのだ、131イクの頬辺(ほほべた)(をんな)だてら、132一生懸命(いつしやうけんめい)(つめ)つただないか。133そんな(こと)をするに()つて、134自然(しぜん)成行(なりゆき)として、135サールが(あし)をさらへたのだ。136(じつ)(ところ)椿(つばき)()(した)から様子(やうす)()()つた。137これは公平(こうへい)判断(はんだん)から()れば、138どちらが(わる)いとも()へぬ。139高姫(たかひめ)140(まへ)もチツと上気(じやうき)してゐるから、141()落着(おちつ)(まで)142杢助(もくすけ)一所(いつしよ)(おく)()つて、143(さけ)でも()んだら()うだい』
144高姫(たかひめ)『お(まへ)一体(いつたい)何処(どこ)()つてゐらしたの。145(とら)といふ(ばば)アや、146魔我彦(まがひこ)147それに受付(うけつけ)のヨル(まで)が、148義理天上(ぎりてんじやう)言葉(ことば)反対(はんたい)して、149無理(むり)無体(むたい)にイソの(やかた)参拝(さんぱい)しよつたのですよ。150(まへ)さまが()つてさへくれたら、151()()めるのだつたに、152あゝあ残念(ざんねん)(こと)をしたわいな。153(まへ)さまと(わたし)此処(ここ)(こし)(おろ)し、154イソの(やかた)()(やつ)一人(ひとり)(のこ)らず食止(くひと)めて、155本山(ほんざん)をアフンとさしてやらうと(おも)つてゐたのに、156(こま)つた(こと)をしたものだ。157五人(ごにん)荒男(あらをとこ)()つても、158(さけ)(くら)ふのと理窟(りくつ)()れるのが芸当(げいたう)で、159チツとも()しやく()やせぬワ。160あゝあ(ひと)使(つか)へば()使(つか)ふとは()()ふたものだ。161(わたし)何程(なにほど)(おく)()つて一杯(いつぱい)やらうと仰有(おつしや)つても()()ぢやありませぬ(わい)ナ、162コリヤ、163イク、164イル、165サール、166(まへ)今日(けふ)(かぎ)り、167(たれ)(なん)()つても、168放逐(はうちく)する、169サ、170何処(どこ)なつと()かつしやれ。171(その)(かは)り、172ハルを受付(うけつけ)にして、173テルを内事(ないじ)取締(とりしまり)任命(にんめい)します』
174ハル『エツヘヽヽヽ、175これはこれは(じつ)有難(ありがた)(ござ)ります。176いつ(まで)もヨルが頑張(ぐわんば)つて()ると、177拙者(せつしや)登竜門(とうりうもん)閉塞(へいそく)してゐるやうなものだ、178あゝ(ひと)(わざはひ)自分(じぶん)(さいは)ひ、179有難(ありがた)くお()(いた)します。180オイ、181テル、182貴様(きさま)もイルが失敗(しくじ)つたお(かげ)で、183内事(ないじ)(つかさ)になつたのだ。184(はや)御礼(おれい)(まを)さぬかえ』
185テル『これはこれは高姫(たかひめ)(さま)186特別(とくべつ)御恩命(ごおんめい)(かうむ)りまして、187有難(ありがた)(ぞん)じます。188サ、189どうぞ、190シツポりと(おく)這入(はい)つて、191エヘヽヽヽ、192一杯(いつぱい)あがつて御機嫌(ごきげん)(なほ)して(くだ)さい。193ハル、194テル両人(りやうにん)(ひか)へある以上(いじやう)大丈夫(だいぢやうぶ)(ござ)います』
195高姫(たかひめ)『コレ、196ハル、197テルや、198(まへ)はバラモン(けう)でも随分(ずいぶん)羽振(はぶり)()かして()つた(をとこ)()ふぢやないか。199(まへ)には(なに)見所(みどころ)があると(おも)ふて()つたのだ。200どうだい(ひと)出世(しゆつせ)をさして(もら)つた恩返(おんがへ)しに、201三人(さんにん)(やつ)引戻(ひきもど)して()(くだ)さるまいかな。202まだ十丁(じつちやう)(ばか)りより()つて()らうまいから、203チツと(ばか)(いそ)いだら追着(おひつ)けない(こと)もなからうから、204……』
205ハル『(じつ)(ところ)はバラモン(けう)にて(なら)(おぼ)えた、206引掛戻(ひつかけもど)しの(はふ)(ござ)います。207(この)ハル、208テル両人(りやうにん)(おも)(やく)御任命(ごにんめい)(くだ)さつた御恩返(ごおんがへ)しとして、209(いま)三人(さんにん)引戻(ひきもど)して()せます。210これから(しばら)大自在天(だいじざいてん)(さま)にお(いの)りをかけねばなりませぬから、211引戻(ひきもど)(じゆつ)(ととの)ひましたら、212()らせ(いた)します。213どうぞ()(まで)(おく)()つて御休息(ごきうそく)(くだ)さいませ。214仮令(たとへ)一日(いちにち)二日(ふつか)215十里(じふり)(むか)ふへ()つてゐましても、216引掛戻(ひつかけもどし)(はふ)()つて、217三人(さんにん)(とも)此処(ここ)引寄(ひきよ)せて御覧(ごらん)()れます。218それは御安心(ごあんしん)(くだ)さいませ、219(たしか)にやつて()せますから……』
220 高姫(たかひめ)はニコニコし(なが)ら、
221『オツホヽヽヽ、222(まへ)はどこともなしに()()いた(をとこ)だと(おも)つて()つた。223神様(かみさま)がチヤンと、224それ相応(さうおう)のお(やく)をあてがうて(くだ)さるのだ。225これだから義理天上(ぎりてんじやう)(さま)御神力(ごしんりき)(えら)いといふのだ。226コリヤ、227イク、228イル、229サール、230(なに)をグヅグヅしてゐるのだい。231アタ(けが)らはしい。232トツトと()んで(くだ)さい』
233イル『それ(ほど)(やかま)しう仰有(おつしや)るのなら()にますワ。234(また)(もと)のバラモン(けう)這入(はい)つて大活動(だいくわつどう)をなし、235(いま)(ほこら)(もり)占領(せんりやう)して、236アフンとさして()げるから(たのし)んで()つてゐるがいいワ。237オイ、238イク、239サール、240ゲンタクソの(わる)いサア()なうぢやないか。241(ついで)にハルとテルのドタマかち()つて(かへ)らうかい』
242ハル『コリヤコリヤ(おれ)引掛戻(ひつかけもど)しの(はふ)()つてるかい。243指一本(ゆびいつぽん)でもさへやうものなら、244(たちま)ちふん()ばして(しま)ふぞ』
245イル『ヤ、246(おそ)()つた。247バラモン(けう)(なか)でも魔術使(まじゆつつかひ)名人(めいじん)だと()(こと)は、248(かね)()いてゐた。249ヤ、250もうお(まへ)には降参(かうさん)だ。251そんなら三人(さんにん)はこれから(かへ)ります』
252ハル『ゴテゴテ(ぬか)さずに(すぐ)(かへ)つたがよからう。253()()(ぬか)すと(ため)にならないぞ』
254イル『エツ、255仕方(しかた)がないなア、256イク、257サール、258そんなら浮木(うきき)(もり)逆転(ぎやくてん)せうかい』
259高姫(たかひめ)『オホヽヽヽ、260小気味(こぎみ)のよい(こと)だわい。261イヒヽヽヽ』
262(あご)をしやくり、263貧乏町(びんばふまち)家並(やなみ)のやうな、264()けさがした()をむき()し、265(そで)()ばたきし(なが)杢助(もくすけ)居間(ゐま)()して、266欣々(いそいそ)(すす)()る。
267 イルはハル、268テル両人(りやうにん)(まへ)にヌツと(くび)をつき()し、269(みみ)(くち)よせ、
270イル『オイ両人(りやうにん)271(うま)くやつたねえ。272サ、273これから蓑笠(みのかさ)()してくれんかい。274丁度(ちやうど)275(とら)魔我彦(まがひこ)276ヨルの、277俺達(おれたち)三人(さんにん)がなつて此処(ここ)(とほ)るから、278(その)(とき)高姫(たかひめ)()せてやるのだなア、279ウツフヽヽヽ』
280ハル『(おほ)きな(こゑ)(わら)ふない。281サヽ、282(はや)(はや)う、283受付(うけつけ)(たま)りに蓑笠(みのかさ)沢山(たくさん)あるから、284(をんな)のなつと(をとこ)のなつと、285一着(いつちやく)づつ()つて、286(おれ)合図(あひづ)するから、287ドーン、288太鼓(たいこ)()つたら五分(ごふん)(ばか)りしてから、289(この)(さか)(くだ)つて()るのだ。290それ(まで)あの(たに)(まが)りで、291(さけ)でも()んで()つとつてくれ』
292(たちま)協議(けふぎ)一決(いつけつ)し、293イク、294イル、295サールの三人(さんにん)旅装束(たびしやうぞく)をなし、296(わづか)一丁(いつちやう)(ばか)りの上手(かみて)(やま)(すそ)曲角(まがりかど)姿(すがた)(かく)し、297(さけ)をグイグイ()(なが)太鼓(たいこ)()るのを()つてゐた。
298 ハルは三人(さんにん)用意(ようい)(めい)じおき、299テルに受付(うけつけ)(かま)はせ(なが)ら、300高姫(たかひめ)居間(ゐま)足音(あしおと)(たか)(すす)んで()つた。301受付(うけつけ)沢山(たくさん)参拝者(さんぱいしや)で、302中々(なかなか)雑踏(ざつたふ)してゐる。303テルは今日(けふ)神界(しんかい)都合(つがふ)だと()つて、304全部(ぜんぶ)参拝者(さんぱいしや)八尋殿(やひろどの)(こも)るべく命令(めいれい)した。305ハルはソツと(ふすま)(おし)あけ、
306ハル『エヘヽヽヽ、307これはこれは高姫(たかひめ)(さま)308二人(ふたり)309(たのし)みの(ところ)を、310御面倒(ごめんだう)(いた)しました。311(ほとん)準備(じゆんび)(ととの)ひましたから、312一寸(ちよつと)()(くだ)さいませ』
313高姫(たかひめ)準備(じゆんび)(ととの)つたら、314()れで()いぢやないか』
315ハル『貴女(あなた)(ひと)つ、316引掛戻(ひつかけもど)しの芸当(げいたう)を、317実地(じつち)目撃(もくげき)して(いただ)きたいのですから……(その)(かは)(すこ)眷族(けんぞく)(さけ)()まさななりませんから(その)(つも)りで()つて(くだ)さいや、318(なん)()つてもバラモン(けう)()つての魔法使(まはふつかひ)ですから、319……一度(いちど)(わたし)(かく)(げい)御覧(ごらん)()れますから……』
320高姫(たかひめ)杢助(もくすけ)さま、321貴方(あなた)御覧(ごらん)になつたら()うですか』
322杢助(もくすけ)『アハヽヽヽ、323それ(くらゐ)なこた、324(この)杢助(もくすけ)だつて(なん)でもないワ。325(しか)(なが)(すこ)(ばか)(ほね)()れるから、326ハル、327テルにやらしておくがよからう。328(おれ)もお(まへ)にいぢめられたので(ねむ)たいなり、329チツと(ばか)り、330(こし)(へん)だから、331……アツハヽヽヽ』
332高姫(たかひめ)『コレ杢助(もくすけ)さま、333みつともない。334ハルが()いてるぢやありませぬか』
335杢助(もくすけ)最早(もはや)ハル()てるのだから、336(うぐひす)()くだらう。337(まへ)(こゑ)(ねづみ)のやうにもあり、338(うぐひす)のやうにもあるからな、339アハヽヽヽ』
340高姫(たかひめ)『エー、341千騎一騎(せんきいつき)場合(ばあひ)に、342気楽(きらく)(をとこ)だな……女房(にようばう)(こころ)()らずに……』
343(つぶや)(なが)らハル(こう)(あと)(したが)ひ、344受付(うけつけ)(まで)やつて()た。
345テル『これはこれは日出神(ひのでのかみ)(さま)346(いま)スパイが(ひと)魔法(まはふ)使(つか)つてお()にかけます。347それに()いては沢山(たくさん)眷族(けんぞく)使(つか)つて、348三人(さんにん)(やつ)引戻(ひきもど)して()ねばなりませぬ。349沢山(たくさん)魔神(まがみ)使(つか)ふには、350()うしても(さけ)()ましてやらねば()けませぬから、351ドツサリ(さけ)此処(ここ)()して(くだ)さい』
352高姫(たかひめ)勝手(かつて)にお()しなさい。353御馳走(ごちそう)()るなら、354まだ夜前(やぜん)杢助様(もくすけさま)のお(いはひ)のが(のこ)つてゐるから、355それを()つて()て、356(さかな)にして眷族(けんぞく)(ども)()まして(くだ)さい』
357『ヤ有難(ありがた)い』といひ(なが)ら、358ハル、359テルは酒肴(さけさかな)(なか)におき、360(むか)()ひになつて、361グイグイと()()した、362(のど)(なか)から(めう)(こゑ)()()る、363丁度(ちやうど)(ふえ)()くやうに(きこ)えて()た。364ハルは(とが)つた(くち)(まへ)へつき()し、
365『おれは大雲山(だいうんざん)(おほかみ)だ、366一杯(いつぱい)()ましてくれ』
367(つく)(ごゑ)し、368(また)今度(こんど)真面目(まじめ)(こゑ)で、
369『ウン、370ヨシヨシ、371ハル(こう)肉体(にくたい)這入(はい)つて()よつたかな、372サ、373一杯(いつぱい)()め』
374自分(じぶん)(くち)自分(じぶん)がついで、375グーツと()んだ。376(はら)(なか)から、
377『ウマイ ウマイ、378(おれ)大雲山(だいうんざん)(きつね)だ、379(おれ)にも一杯(いつぱい)()ましてくれ』
380ハル『ウン、381よしよし、382貴様(きさま)一杯(いつぱい)()んで、383寅婆(とらばば)(ほか)二人(ふたり)(くわ)へて()るのだぞ』
384(はら)(なか)『ハイ、385承知(しようち)(いた)しました、386(さけ)(ばか)りでははづみませぬ、387(さかな)一口(ひとくち)()れて(くだ)さいな』
388ハル『ウン、389よしよし(もつと)もだ、390遠慮(ゑんりよ)はいらぬ、391御苦労(ごくらう)にならねばならぬのだから、392ドツサリ()つたがよからう』
393 テルは(また)(つく)(ごゑ)394(のど)から(こゑ)()るやうな(ふり)をして、
395高姫(たかひめ)さま、396(わたし)北山村(きたやまむら)()つた古狐(ふるぎつね)(ござ)います、397(ひさ)しうお()にかかりませぬ、398今日(けふ)御恩報(ごおんほう)じに、399(とら)400魔我彦(まがひこ)401ヨルの三人(さんにん)(くわ)へてイソの(やかた)()かないやうに(いた)します、402どうぞ一杯(いつぱい)よんで(くだ)さいな』
403高姫(たかひめ)御苦労様(ごくらうさま)だ、404ドツサリ()んで(はたら)いて(くだ)さいや、405千騎一騎(せんきいつき)場合(ばあひ)だからな。406(まへ)さまも首尾(しゆび)よく御用(ごよう)(つと)まつたら、407(また)ヘグレ神社(じんしや)()てて(まつ)つて()げるぞや』
408 テル(こう)(はら)(なか)から、
409『ハイ有難(ありがた)(ござ)んす、410(はや)一杯(いつぱい)()まして頂戴(ちやうだい)ね、411(ついで)(うま)(さかな)もねえ』
412テル『ヨシヨシ、413貴様(きさま)仕合(しあは)(もの)だ、414(おれ)肉体(にくたい)宿(やど)をかりよつて、415……充分(じゆうぶん)活動(くわつどう)するんだぞ、416一杯(いつぱい)()ましてやらう』
417(また)自分(じぶん)()いでグツと()み、418(たひ)刺身(さしみ)をムシヤムシヤと頬張(ほほば)り、
419テル『あゝあ、420(なん)(くち)使(つか)はれても、421(みな)副守先生(ふくしゆせんせい)()ふのだから、422(くち)のだるいこつちや、423(うま)くも(なん)ともありやせぬワ』
424 テルの(はら)(なか)から『それでも(のど)三寸(さんずん)()える(あひだ)は、425チツとは(うま)からうがな』
426テル『コリヤ、427守護人(しゆごじん)428偉相(えらさう)()ふな、429(のど)(とほ)(あひだ)(くらゐ)(うま)かつたつて、430たまるかい。431チツと(しづか)にせぬかい、432(はら)(なか)(さわ)ぎやがつて……』
433 テルの(はら)(なか)より『臍下丹田(さいかたんでん)吾々(われわれ)同志(どうし)(あつ)まつて、434散財(さんざい)をして()るのだ、435モツとドツサリ注入(ちゆうにふ)してくれないと、436()つからお()()てぬワイ』
437テル『高姫(たかひめ)さま、438(こま)つたものですな、439()うしませう』
440高姫(たかひめ)『コレ、441テル、442(あま)()はすと、443(また)()()はぬやうになつちや()けないから天晴(あつぱれ)御用(ごよう)がすんでから()ますからと()つて(くだ)さいな。444御用(ごよう)さへすんだらば(なん)ぼなつと()まして()げるから……と』
445テル『コリヤ(はら)(なか)連中(れんちう)446御用(ごよう)がすんだら(いく)らでも()ましてやるから、447(いま)それ(くらゐ)辛抱(しんばう)したら()うだ』
448 テルの(はら)(なか)から『それだと()つて、449まだ一杯(いつぱい)づつも(わた)つてゐないぢやないか、450せめて、451(さかづき)についだのは邪魔臭(じやまくさ)いから、452徳利(とくり)グチ、453一升(いつしよう)(ばか)注入(ちゆうにふ)してくれ』
454テル『エ……チエツ厄介(やくかい)(やつ)だな、455(いや)でもない(さけ)()ましやがつて……チエツ、456コラ守護神(しゆごじん)457御苦労(ごくらう)(まを)せ』
458()(なが)ら、459徳利(とくり)(くち)からラツパ()みを(はじ)めた。460ハル(こう)(さかな)二膳(にぜん)かたしでつかみては頬張(ほほば)頬張(ほほば)り、461(また)一升(いつしよう)徳利(とくり)(くち)からテル(こう)同様(どうやう)にガブガブと()みほした。
462 ハルは(ひたひ)をピシヤツと(たた)き、
463ハル『ゲーエー、464あゝ()ふた()うた、465オイ、466テル、467貴様(きさま)随分(ずいぶん)もう()ふただらう、468(いや)貴様(きさま)眷族(けんぞく)()ふただらう、469(なん)だか(おれ)守護神(しゆごじん)(はら)(なか)でクダまいてけつかるワイ、470……コリヤ高姫(たかひめ)471昨夜(さくや)()うだい、472……コレ高姫(たかひめ)さま、473あんな(こと)いひますワ、474仕方(しかた)のないヤンチヤがをりますわい、475(しか)(なが)らかういふヤンチヤでないと、476寅婆(とらばば)引戻(ひきもど)しの芸当(げいたう)出来(でき)ませぬからな』
477高姫(たかひめ)『サ(はや)くお(とら)(ほか)三人(さんにん)引戻(ひきもど)して()せて(くだ)さい』
478 ハルは(なん)だか(くち)(なか)文言(もんごん)(とな)へ、479座太鼓(ざだいこ)をポンポンポンと()つた。480さうするとお寅婆(とらばば)(ふん)したイルが、481(くび)をプリンプリン()り、482(あや)しい腰付(こしつき)をし(なが)ら、483何物(なにもの)にか引張(ひつぱ)られる(やう)素振(そぶり)をして、484受付(うけつけ)(まへ)横切(よこぎ)り、485(さか)(した)へトツトツトツと()(しま)つた。
486ハル『サア、487()うでげす、488高姫(たかひめ)さま、489引掛戻(ひつかけもど)しの魔法(まはふ)はズイ(ぶん)エライものでげせうがな。490(とら)(やつ)491眷族(けんぞく)(そで)をくわへられて、492折角(せつかく)河鹿峠(かじかたうげ)半分(はんぶん)(ほど)(あが)つたら、493たうとう(ひつ)ぱりよせられよつた、494()うだす、495エーエ』
496高姫(たかひめ)『いかにもアリヤお(とら)(ちが)ひない、497(えら)いものだな。498(しか)しお(とら)(だけ)ではつまらぬぢやないかい、499ヨルと魔我彦(まがひこ)(もど)つて()なくちや、500一人(ひとり)でも向方(むかふ)へやつたら大変(たいへん)だから……』
501ハル『エー、502今度(こんど)はテルの(ばん)です、503オイ、504テル(こう)505魔我彦(まがひこ)引張(ひつぱ)()すのだよ』
506 テルは『ウーン、507ヨシツ』と()(なが)ら、508(むち)()り、509座太鼓(ざだいこ)をポンポンポンと(みつ)()つた。510魔我彦(まがひこ)()蓑笠(みのかさ)(かぶ)つた(をとこ)511金剛杖(こんがうづゑ)をつき、512以前(いぜん)(ごと)く、513(くび)身体(からだ)前後左右(ぜんごさいう)()(なが)ら、514(また)(まへ)(とほ)()ぎた。
515テル『高姫(たかひめ)さま、516()うです、517(めう)でせうがなア』
518高姫(たかひめ)成程(なるほど)519ヤツパリ神様(かみさま)(みづ)()らさぬ仕組(しぐみ)をして(ござ)るワイ、520日出神(ひのでのかみ)(さま)筆先(ふでさき)にチヤンと()てますぞよ、521キチリキチリと(はこ)さしたやうにゆくぞよと(あら)はれてるのは(この)(こと)だな。522(なに)()つても日出神(ひのでのかみ)さまは(えら)いわい、523()相当(さうたう)守護神(しゆごじん)をお使(つか)(あそ)ばすのだから……(とき)にテルや、524ヨルの(やつ)525まだ(あと)(かへ)つて()ぬぢやないか』
526テル『其奴(そいつ)ア、527ハルが(いま)やる(ばん)になつて()ります、528守護神(しゆごじん)かつため(やす)ましてやらんなりませぬからな』
529高姫(たかひめ)成程(なるほど)530サ、531ハルや、532(たの)んますぞや』
533 ハルは『エヘン』と咳払(せきばらひ)(なが)ら、534太鼓(たいこ)(むち)をグツと(にぎ)り、535座太鼓(ざだいこ)(おもて)仔細(しさい)ありげに(しばら)(にら)みつめ、536空中(くうちう)(むち)七八(しちはち)へんもかくやうな真似(まね)をして、537(むち)(さき)高姫(たかひめ)(くち)一寸(ちよつと)()てた。
538高姫(たかひめ)『コレコレ、539ハルや、540(なに)をテンゴーして(ござ)る、541(はや)引掛戻(ひつかけもど)しをなさらぬかいな』
542ハル『高姫(たかひめ)さま、543(これ)(さん)べん、544(じや)()(まを)しまして、545(わざ)終局(しうきよく)ですから一寸(ちよつと)(むつ)かしいのですよ、546(これ)(うま)()けばヨルが(あと)(もど)つて()ます。547此奴(こいつ)失敗(しくじ)つたら大変(たいへん)ですから……日出神(ひのでのかみ)(さま)が、548(えう)するに、549吾々(われわれ)をお使(つか)ひなさつてるのです。550(むち)仕掛(しかけ)がしてあるのですから、551日出神(ひのでのかみ)(さま)のお(くち)一寸(ちよつと)()つて()きまして、552(この)(つぎ)一寸(ちよつと)(はな)へさわるかも()れませぬ……』
553高姫(たかひめ)『ヤ、554(わざ)作法(さはふ)とあれば、555()うも仕方(しかた)ありませぬ、556どうなりと御好(おす)きなやうにして(くだ)さい』
557 ハルは(むち)前後左右(ぜんごさいう)に、558(しづか)()り、
559東方(とうはう)日出神(ひのでのかみ)(さま)560西方(せいはう)夕日(ゆふひ)大神様(おほかみさま)561南方(なんぱう)(ほし)大神様(おほかみさま)562北方(ほくぱう)(つき)大神様(おほかみさま)563北極(ほくきよく)明星(みやうじやう)564北斗七星大菩薩(ほくとしちせいだいぼさつ)(まも)(たま)(さきは)(たま)へ』
565(むち)を、566益々(ますます)急速度(きふそくど)(はたら)かせ、567自分(じぶん)股倉(またぐら)へつつ()み、568高姫(たかひめ)(はな)へピタリと()てた。569高姫(たかひめ)()れがバラモン(けう)魔法使(まはふつかひ)(はふ)だ、570(くさ)くても辛抱(しんばう)せなくてはヨルが(かへ)つて()ないと(おも)ひつめ、571(しり)()てた(むち)(さき)(はな)()てられ、572(かほ)をしかめて、573()つてゐる。
574高姫(たかひめ)『コレ、575ハルや、576そないキツク()てると(いき)出来(でき)ぬぢやないか、577(なん)(くさ)(むち)だなア』
578ハル『ソリヤ、579チツと(くさ)うごんせうとも、580(なに)せよあなた、581(むか)ふへ()(やつ)引戻(ひきもど)すといふ魔法(まはふ)ですもの、582つまり、583(しり)(にほ)ひを(たか)(ところ)(はな)(まで)持運(もちはこ)ばなくちや、584相応(さうおう)道理(だうり)(かな)ひますまい、585(しり)所謂(いはゆる)外臭(ぐわいしう)を、586(また)(はな)から引込(ひきこ)んで内臭(ないしう)(みた)さなくちや(わざ)()きませぬからねえ、587エヘヽヽヽ。588サ、589(これ)から本芸(ほんげい)()りかかりまーす』
590(むち)(はな)しがけに、591グツと()()ばし、592高姫(たかひめ)(はな)をついた。593高姫(たかひめ)鼻柱(はなばしら)をつかれて、594ウンと仰向(あふむ)けに(たふ)れて(しま)つた。
595 高姫(たかひめ)()がクラクラとして、596そこらが(まは)るやうになつて()た。597(みみ)のはたで無暗(むやみ)矢鱈(やたら)太鼓(たいこ)(たた)()した。598高姫(たかひめ)益々(ますます)逆上(のぼせ)て、599()がまひ、600(つひ)には(いへ)身体(からだ)(やま)もグレリグレリと()()した。601サールはヨルに(ふん)して(とほ)つて()く、602(その)姿(すがた)(うへ)になり、603(した)になりし(なが)らどつかに(かく)れて(しま)つた。604少時(しばらく)すると、605高姫(たかひめ)起上(おきあが)り、
606『あゝあ御苦労(ごくらう)だつた、607前達(まへたち)大変(たいへん)魔法(まはふ)(おぼ)えてるものだな。608(いへ)逆様(さかさま)にしたり、609(やま)自由(じいう)(うご)かしたり、610(なん)(えら)いものだよ。611ヤツパリお(まへ)は、612受付(うけつけ)(だけ)値打(ねうち)はあるわい、613テルも内司(ないじ)(つかさ)(だけ)値打(ねうち)十分(じふぶん)あるわい。614これからお前等(まへら)二人(ふたり)魔法使(まはふつかひ)大将(たいしやう)とし、615イソの(やかた)()(やつ)()ひとめ、616きかぬ(やつ)(いま)のやうに(やま)まで(うご)かして、617往生(わうじやう)させるのだ。618これから(ほこら)(もり)大門(おほもん)神社(じんしや)改名(かいめい)いたすぞや。619サ、620前達(まへたち)御苦労(ごくらう)だつた、621(ゆつ)くり(やす)んで(くだ)さい。622(わたし)杢助(もくすけ)さまに、623前達(まへたち)手柄(てがら)按配(あんばい)よう報告(はうこく)しておくから……キツと御褒美(ごほうび)()るだらうからなア』
624ハル『どうぞ、625(さけ)をドツサリ(いただ)くように(ねが)ひますよ』
626高姫(たかひめ)『アレ、627マアあれ(だけ)沢山(たくさん)()んでおいて、628まだ()みたいのかい、629余程(よほど)よい(たる)だなア』
630ハル『高姫(たかひめ)さま、631ありや(みな)魔法使(まはふつかひ)(ため)守護神(しゆごじん)()んだのですよ。632ハルやテルが()んだと(おも)はれちやたまりませぬワ』
633高姫(たかひめ)『あゝさうだつたな、634まア一寸(ちよつと)()つてゐて(くだ)さい、635御馳走(ごちそう)をして()げるから……』
636といそいそと(おく)()る。
637ハル『アハヽヽ、638オイ、639テル、640(うま)くやつたぢやないか』
641テル『貴様(きさま)ア、642ヒドいぢやないか、643エヽン、644自分(じぶん)(しり)高姫(たかひめ)にかがしたり、645(はな)をついて高姫(たかひめ)()をまかしたり、646()しからぬことをするね』
647ハル『それだつて、648一番(いちばん)しまひに回天動地(くわいてんどうち)実況(じつきやう)()せておかなくちや、649(うたがひ)(ふか)(をんな)だから、650ああいふ具合(ぐあひ)にしたんだよ、651(おれ)智慧(ちゑ)(えら)いものだらうがな』
652テル『ウン、653感心(かんしん)だ、654(しか)し、655イル、656イク、657サールに一杯(いつぱい)658(あらた)めて()ましてやらなくちやなるまい、659ソツと宿舎(しゆくしや)酒肴(さけさかな)持運(もちはこ)び、660慰労会(ゐらうくわい)でもやつてやらうかな』
661ハル『(かへで)さまを、662酒注(さけつ)(やく)として、663(しづか)宿舎(しゆくしや)()むやうにしておいてくれ、664(あま)(おほ)きな(こゑ)(うた)つたり(なに)かすると(わか)るから(おほ)きな(こゑ)をしない(やう)注意(ちゆうい)をしてくれよ』
665 かく両人(りやうにん)相談(さうだん)結果(けつくわ)宿舎(しゆくしや)三人(さんにん)(しの)ばせ、666楓姫(かへでひめ)(しやく)にてクビリクビリと小酒宴(せうしゆえん)(ひら)いてゐる。667高姫(たかひめ)居間(ゐま)(かへ)り、668ニコニコし(なが)ら、
669『コレ杢助(もくすけ)さま、670(よろこ)んで(くだ)さい。671(くさ)(なは)にも取柄(とりえ)とかいひましてな、672日出神(ひのでのかみ)義理天上(ぎりてんじやう)目鏡(めがね)(かな)ふた、673テル、674ハルの両人(りやうにん)は、675バラモン(けう)魔法使(まはふつかひ)()()つた(だけ)あつて、676(えら)(こと)をしましたよ。677寅婆(とらばば)引戻(ひきもど)すやら、678魔我彦(まがひこ)679ヨルまでが(ひき)つけられて(みぢ)めな(さま)(さか)(かへ)つて()可笑(をか)しさ、680そしてまた不思議(ふしぎ)芸当(げいたう)()つてゐますよ。681(いへ)をまいまいこんこをさしたり、682(やま)をグラグラ(うご)かしたりするのですもの、683義理天上(ぎりてんじやう)日出神(ひのでのかみ)もあんな弟子(でし)()つて()れば、684正勝(まさか)(とき)にや(やま)(なに)(ひつ)くりかへしますワ、685あゝあ有難(ありがた)(ござ)います日出神(ひのでのかみ)(さま)686よい家来(けらい)御授(おさづ)(くだ)さいまして、687……あゝ惟神(かむながら)(たま)()はへませ惟神(かむながら)(たま)()はへませ』
688杢助(もくすけ)『アハヽヽヽ、689其奴(そいつ)(えら)(こと)をやつたね、690ウン、691感心(かんしん)感心(かんしん)692(しか)(なが)(その)三人(さんにん)(いま)どこに()るのか』
693高姫(たかひめ)『サ、694今頃(いまごろ)にやモウ山口(やまぐち)(もり)あたり(まで)()げて()つたでせうよ』
695杢助(もくすけ)其奴(そいつ)ア、696(なん)にもならぬぢやないか、697イソの(やかた)()かうと(おも)へば、698ここ(ばか)りが(みち)ぢやない、699遠廻(とほまは)りをしてゆけば()けるのだから、700彼奴等(あいつら)三人(さんにん)此処(ここ)(ひき)つけて十分(じふぶん)()()かすか、701(ただし)はどうしても()かねば、702(あな)でも()つて、703末代(まつだい)(あが)れぬ(こと)にしておかぬ(こと)にや、704(まへ)謀反(むほん)成就(じやうじゆ)しないだないか、705(かしこ)いやうでも(をんな)だなア』
706高姫(たかひめ)『いかにもそうで(ござ)いましたなア、707()(いた)しませう』
708杢助(もくすけ)『それ(くらゐ)(こと)朝飯前(あさめしまへ)だ、709(おれ)(ひと)つここへ()んで()ようかな』
710高姫(たかひめ)杢助(もくすけ)さま、711貴方(あなた)にそんな(こと)出来(でき)ますかい』
712杢助(もくすけ)『アハヽヽヽ、713出来(でき)えでかい、714それ(くらゐ)(こと)出来(でき)いで、715(いま)(まで)イソの(やかた)総務(そうむ)(つと)まらうかい、716(いま)(この)杢助(もくすけ)(ひと)文言(もんごん)(とな)へたが最後(さいご)717(のぞ)(どほり)人間(にんげん)をここへよせてみせう、718(その)(かは)高姫(たかひめ)719(まへ)もチツと(いた)辛抱(しんばう)をせなくちやならぬぞ』
720高姫(たかひめ)『お(まへ)さまの(ため)なら、721少々(せうせう)(いた)(こと)しましても辛抱(しんばう)しますワ』
722杢助(もくすけ)『ヨシヨシ一寸(ちよつと)(たか)ちやん、723ここへお()で、724(まへ)木魚(もくぎよ)(かは)りになるのだよ』
725()(なが)ら、726高姫(たかひめ)長煙管(ながぎせる)()り、
727『ブビヨウ、728マフス、729ベナ、730マカ、731(とら)()サンよ、732杢助如来(もくすけによらい)が、733魔法(まはふ)功徳(くどく)()つて、734(この)()(きた)れ、735(はや)(きた)れ』
736 「クワン、737グリン グリン グリン グリン」と(つづ)(うち)に、738高姫(たかひめ)前頭部(ぜんとうぶ)(いつ)()つた。739高姫(たかひめ)(また)もや(すこ)しく逆上(のぼせ)たと()え、740そこらがクルクル()()して()た。741パツと(あら)はれたのは、742(とら)ソツクリの姿(すがた)である。
743高姫(たかひめ)『ヤ、744(まへ)はお(とら)ぢやないか、745どうだ、746義理天上(ぎりてんじやう)神力(しんりき)には往生(わうじやう)(いた)したか』
747(とら)『ハイ、748サツパリ往生(わうじやう)(いた)し……ま……せぬワイ』
749高姫(たかひめ)『アハヽヽ(なん)負惜(まけをし)みの(つよ)(ばば)だなア、750サ、751もう()うなる(うへ)はビク(とも)(うご)かさぬのだ。752義理天上(ぎりてんじやう)には、753ハル、754テルといふ立派(りつぱ)魔法使(まはふつかひ)がついて()りますぞや。755(とら)さま、756もう駄目(だめ)だから、757スツカリ()()つて、758日出神(ひのでのかみ)(まを)すやうになさるが、759おのしのお(とく)だぞえ』
760(とら)『ハイ有難(ありがた)(ござ)いませぬ。761何分(なにぶん)(よろ)しく御願(おねが)(いた)しませぬ』
762高姫(たかひめ)『それ()なさい、763(はや)改心(かいしん)すればいいものを、764いつ(まで)()()つてゐると、765(この)(とほ)りだぞえ、766ドンあとで首尾悪(しゆびわる)うすがりて()ねばならぬぞよ……とお(ふで)(あら)はれて()るぞえ』
767(とら)『ハイ何分(なにぶん)(よろ)しく御願(おねがひ)(まを)します。768モウこれきり()()しまする。769どうぞ高姫(たかひめ)さまの御弟子(おでし)にして(くだ)さいますな』
770 高姫(たかひめ)握拳(げんこつ)(かた)め、771両腕(りやううで)(ちから)一杯(いつぱい)(のば)し、772(たち)あがり、773六方(ろつぱう)をふみ(なが)ら、774雄健(をたけ)びして()ふ。
775高姫(たかひめ)三五教(あななひけう)()(たか)き、776高姫(たかひめ)さまとは(この)(はう)(こと)777(わか)(とき)から男女(をとこをんな)()ばれたる、778変性男子(へんじやうなんし)生宮(いきみや)(はら)をかつて、779(うま)()でたる(がう)(をんな)780(いま)(ほこら)(もり)杢助(もくすけ)(つま)となり、781(やま)のほでらの茅屋住(あばらやずま)ひ、782(さき)()てゐて(くだ)されよ……と○をまくつて、783大音声(だいおんじやう)
784(みづか)呶鳴(どな)り、785芝居(しばゐ)気取(きど)りになつて、786伊猛(いたけ)(くる)ふた、787(その)(いきほひ)(すさま)じさ。788杢助(もくすけ)(おも)はず『ワツハツハヽヽ』と吹出(ふきだ)し、789(また)もや高姫(たかひめ)(むか)ひ、
790杢助(もくすけ)『オイ(たか)ちやん、791まだ(いさ)(ところ)へはいかぬ。792魔我彦(まがひこ)ヨルの両人(りやうにん)此処(ここ)引付(ひきつ)けなくちや駄目(だめ)だよ』
793 高姫(たかひめ)はハツと()がつき、
794『なる(ほど)杢助(もくすけ)さま、795魔我彦(まがひこ)796ヨルは()うしたらいいでせうかな、797モウ(あたま)(たた)かれるのはたまりませぬがな』
798杢助(もくすけ)『さうだらう、799モウ(あたま)(たた)必要(ひつえう)はない。800一寸(ちよつと)(まへ)(わたし)()(とほ)り、801()をつぶつて(した)()してくれさへすりや、802それで呪禁(まじなひ)()くのだ、803さうすりやキツと二人(ふたり)此処(ここ)引付(ひきつ)けてみせるよ』
804高姫(たかひめ)『そんな(こと)なら、805(あたま)(たた)かれるよりもおやすいことです。806サア(はや)呪禁(まじなひ)をして(くだ)さい』
807()(なが)ら、808()をシツカと(ふさ)ぎ、809馬鹿正直(ばかしやうぢき)(した)をニユツと()した。810杢助(もくすけ)火鉢(ひばち)(はひ)(つか)んで、811高姫(たかひめ)(した)へ、812(くち)があかぬ(ほど)突込(つつこ)んだ。813高姫(たかひめ)(はひ)(のど)(ひか)かつたとみえて『クワツ クワツ』と(せき)をし あたりに(はひ)()ばした。814そして両眼(りやうがん)から(なみだ)をポロポロと(なが)してゐる。815それでもまだ杢助(もくすけ)がよいといはぬので、816(つら)(げふ)だと(おも)(なが)気張(きば)つてゐる。817杢助(もくすけ)は、
818杢助(もくすけ)『オイ高姫(たかひめ)819モウ()をあけたら()いよ』
820 高姫(たかひめ)はパツと()()けば、821豈計(あにはか)らむや魔我彦(まがひこ)822ヨルが自分(じぶん)(まへ)にキチンと(すわ)つてゐる。823高姫(たかひめ)は、
824高姫(たかひめ)『ヤ、825魔我彦(まがひこ)か、826ヨルか』
827()はむとして、828(くち)につまつた(はひ)(また)むせ(かへ)り、829クワツ クワツと、830(せき)(なが)ら、831(くるし)んでゐる。832(その)()杢助(もくすけ)金盥(かなだらひ)(みづ)()んで(くち)をそそがした。833(はな)(した)(はひ)だらけになつた高姫(たかひめ)は、834ヤツとの(こと)(はひ)(あら)ひおとし、835(くち)(きよ)め、836魔我彦(まがひこ)(ねめ)つけて、837ソロソロと(にく)まれ(ぐち)(たた)()したり。
838高姫(たかひめ)『コレ魔我彦(まがひこ)839(まへ)一体(いつたい)どこへいつとつたのだ、840エヽー。841(この)御神徳(ごしんとく)には(かな)ふまいがな。842それだから、843日出神(ひのでのかみ)(まを)(こと)(きき)なさいと、844あれ(ほど)()ふのに、845(なん)(こと)だいな、846大本(おほもと)大橋(おほはし)()えてまだ(さき)行方(ゆくへ)(わか)らぬ(あと)もどり、847慢心(まんしん)すると(その)(とほ)り……と日出神(ひのでのかみ)真似(まね)筆先(ふでさき)()()りませうがな』
848魔我(まが)『アハヽヽヽ、849(じつ)(ところ)はお(まへ)さまにお土産(みやげ)()つて()たのだよ。850(あま)(なん)だか()ひた(さう)(した)()してゐらつしやるものだから、851地獄(ぢごく)(かま)(した)から死人(しびと)(はひ)()つて()て、852(くち)にねぢ()んであげました、853イヒヽヽヽ』
854高姫(たかひめ)『コレ魔我(まが)ツ、855(なん)といふ失礼(しつれい)(こと)(いた)すのだ。856サ、857もう了見(れうけん)ならぬ。858(あな)でも()つて()()んでやりませう。859コレ杢助(もくすけ)さま、860もう()うなる(うへ)了見(れうけん)なりませぬぞや、861魔我(まが)とヨルと、862(あな)でも()つて(いは)でも(かぶ)せて末代(まつだい)(あが)れぬやうにして(くだ)さいナ』
863 魔我彦(まがひこ)(くち)(には)かに(とが)()した。864そして(おほ)きな(みみ)()えて()た。865ヨルはと()れば、866これも(みみ)()やし、867(きば)()し、868キツキツキツト(さる)のやうに()()した、869(とら)獅子神楽(ししかぐら)のやうな(くち)()けて、870体中(からだぢう)(まんだら)(とら)となり、871高姫(たかひめ)(むか)ひ、872『ウーウー』と(うな)()した。873三人(さんにん)一度(いちど)怪獣(くわいじう)となり、874(やま)(くだ)けむ(ばか)りに(うな)(はじ)めた。875高姫(たかひめ)はアツと(さけ)んで(その)()正気(しやうき)(うしな)つて(しま)つた。876怪獣(くわいじう)はのそりのそりと()(あし)還元(くわんげん)し、877玄関口(げんくわんぐち)めがけて飛出(とびだ)した。878ハル、879テルの両人(りやうにん)両手(りやうて)(あたま)(かか)へ、880(いき)をこらして(ちぢ)こまり、881怪獣(くわいじう)(かへ)()るを()つて()た。882(にはか)(やま)(うな)()し、883岩石(がんせき)()(やう)(かぜ)()いて()た。
884大正一二・一・一九 旧一一・一二・三 松村真澄録)
   
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