霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第八章 スマート〔一二八二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第49巻 真善美愛 子の巻 篇:第2篇 立春薫香 よみ(新仮名遣い):りっしゅんくんこう
章:第8章 スマート よみ(新仮名遣い):すまーと 通し章番号:1282
口述日:1923(大正12)年01月18日(旧12月2日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年11月5日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
六と八が怖気づいてぶるぶる震えながら夜を過ごしていると、一本橋の向こうから提灯を下げて杢助がやってくるのが見えた。六と八は、恐ろしい剛胆なことを言って野宿に熟睡している初稚姫は、本物の姫ではなく、化け物が化けているのではないかと杢助に訴えた。
杢助と六と八のやり取りの中、初稚姫はやにわに旅支度を整えて起き上がり、斎苑館の総務として仕える父・杢助が、神務を忘れてわが子を気にかけて出てくるはずがないと言い残し、夜中にもかかわらずすたすたと進んで行ってしまった。
初稚姫は河鹿峠の坂口の岩に腰かけて休みながら、昨夜の杢助、六、八三人のことを不審に考えていた。そこへ三人がやってきて、杢助は言い残したことがあるから追いかけてきたのだ、と話しかけた。
初稚姫は、旅立ちにあたってわが子を気にかけて追いかけてくるような卑怯な父は持っていないときっぱり答えた。そして杢助に化けているのは、自分を邪道に導こうとする妖怪だろうと言い放った。
六と八はこれを聞いて、杢助を疑い始めた。杢助は初稚姫、六、八に対して怒ったが、初稚姫が天の数歌を歌いあげるとたちまち、唐獅子の正体を現した。
初稚姫は平然として天津祝詞を奏上し始めた。唐獅子が初稚姫にかみつこうとしたとき、後ろの方から山犬が現れ、疾風のように唐獅子に飛びついた。唐獅子は一目散に逃げて行き、山犬はその後を追跡して行った。
初稚姫は神様の試にあって及第したようだと喜び、驚いて倒れていた六と八に、館に帰って自分の無事を杢助に報告せよと告げ、足早に河鹿峠を登って行った。
初稚姫が峠を登って行くと、先ほどの猛犬が尾を振りながら駆けてきて後をついてきた。姫が坂の頂上で休息すると、猛犬も前にうずくまって尾を振っている。
初稚姫は犬の働きに感じ、スマートと名を与えて家来となし、ハルナの都までついてくるようにと告げた。初稚姫は犬を抱いていたわり、スマートはワンワンと鳴きながら尾を振り、感謝の意を表している。
初稚姫はスマートを得て心強くなり、宣伝歌を歌いながら河鹿峠の南坂を下って行った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-06-10 15:45:31 文字数:4087 OBC :rm4908
愛善世界社版:111頁 八幡書店版:第9輯 72頁 修補版: 校定版:114頁 普及版:51頁 初版: ページ備考:
001夜風(よかぜ)は寒(さむ)く吹雪(ふぶき)さへ
002まじりて淋(さび)しき草枕(くさまくら)
003露(つゆ)の蓐(しとね)をやすやすと
004初稚姫(はつわかひめ)は眠(ねむ)れ共(ども)
005臆病風(おくびやうかぜ)に誘(さそ)はれし
006六公(ろくこう)八公(はちこう)両人(りやうにん)は
007歯(は)の根(ね)も合(あ)はずガタガタと
008慄(ふる)ひ戦(をのの)き抱(いだ)き合(あ)ひ
009夜(よ)の明(あ)けゆくを一時(ひととき)も
010早(はや)かれかしと祈(いの)りつつ
011宙(ちう)に飛(と)ばした魂(たましひ)の
012据(す)ゑ所(どころ)なき憐(あは)れさよ
013暗(やみ)はますます深(ふか)くして
014天津空(あまつそら)には星(ほし)さへも
015見(み)えぬ許(ばか)りの黒雲(くろくも)に
016包(つつ)まれ胸(むね)はドキドキと
017戦(をのの)く折(をり)しも時置師(ときおかし)
018神(かみ)の命(みこと)の家(いへ)の紋(もん)
019付(つ)けた提灯(ちようちん)ブラブラと
020一本橋(いつぽんばし)の向方(むかふ)より
021此方(こなた)に向(むか)つて足早(あしばや)に
022進(すす)み来(きた)るを両人(りやうにん)は
023眺(なが)めてハツと胸(むね)を撫(な)で
024これぞ全(まつた)く時置師(ときおかし)
025神(かみ)の命(みこと)のわれわれを
026救(すく)はむ為(ため)に遥々(はるばる)と
027イソの館(やかた)を立出(たちい)でて
028来(きた)らせ玉(たま)ふものならむ
029卑怯(ひけふ)未練(みれん)な有様(ありさま)を
030見(み)せまいものと両人(りやうにん)は
031俄(にはか)にムツクと立上(たちあが)り
032近寄(ちかよ)る提灯(ちようちん)打(うち)ながめ
033貴方(あなた)は杢助(もくすけ)御(ご)主人(しゆじん)か
034六公(ろくこう)八公(はちこう)で厶(ござ)ります
035仰(あふ)せに従(したが)ひ姫(ひめ)様(さま)の
036度胸(どきよう)を甘(うま)くためさむと
037茲(ここ)まで進(すす)み来(き)て見(み)れば
038初稚姫(はつわかひめ)に似(に)たれ共(ども)
039まだ十七(じふしち)の初心娘(うぶむすめ)
040柄(がら)に合(あ)はないことを言(い)ふ
041此奴(こいつ)ア、テツキリ妖怪(えうくわい)奴(め)
042初稚姫(はつわかひめ)の御(おん)身(み)をば
043うまうま喰(くら)ひ吾々(われわれ)を
044騙(だま)さむ為(ため)に姫(ひめ)となり
045ここにグウスウ八兵衛(はちべゑ)と
046大胆(だいたん)至極(しごく)に寝(ね)てゐます
047何卒(なにとぞ)々々(なにとぞ)御(ご)主人(しゆじん)の
048お出(い)でありしを幸(さいはひ)に
049姫(ひめ)の仇(かたき)を吾々(われわれ)と
050力(ちから)を併(あは)せ討(う)つてたべ
051残念(ざんねん)至極(しごく)で厶(ござ)います
052私(わたし)もすでに妖怪(えうくわい)の
053餌食(ゑじき)たらむとせし所(ところ)
054ウブスナ山(やま)の神徳(しんとく)で
055貴方(あなた)を茲(ここ)に遣(つか)はして
056一(ひと)つは姫(ひめ)の仇(あだ)を討(う)ち
057一(ひと)つは家来(けらい)を助(たす)けむと
058お越(こ)しなさつた有難(ありがた)さ
059早(はや)く御(お)査(しら)べ下(くだ)さんせ
060それそれそこにあの通(とほ)り
061バツチヨ笠(かさ)をばひつかぶり
062グウグウ鼾(いびき)をかいてゐる
063大胆(だいたん)不敵(ふてき)の化物(ばけもの)と
064いふ声(こゑ)さへも慄(ふる)ひつつ
065語(かた)れば杢助(もくすけ)打笑(うちわら)ひ
066卑怯(ひけふ)未練(みれん)な六(ろく)八(はち)よ
067そも世(よ)の中(なか)に化物(ばけもの)と
068誠(まこと)のあるべき筈(はず)がない
069貴様(きさま)は余程(よほど)卑怯者(ひけふもの)
070其(その)化物(ばけもの)はどこにゐる
071早(はや)く案内(あんない)致(いた)せよと
072一声(ひとこゑ)呶鳴(どな)れば両人(りやうにん)は
073ハイハイ只今(ただいま)それ其処(そこ)に
074鼾(いびき)をかいて居(を)りまする
075貴方(あなた)は先(さき)へ御(ご)出張(しゆつちやう)
076遊(あそ)ばしませ腰(こし)の骨(ほね)
077何(なん)とはなしに慄(ふる)ひ出(だ)し
078私(わたし)の命令(めいれい)を聞(き)きませぬ
079自由(じいう)の身体(からだ)となつたなら
080どんなことでも聞(き)きませう
081斯(か)かる折(をり)しもムクムクと
082笠(かさ)を被(かぶ)つて立上(たちあが)る
083片方(かたへ)の長(なが)き芒原(すすきばら)
084初稚姫(はつわかひめ)は優(やさ)しげに
085三人(みたり)の男(をとこ)に打向(うちむか)ひ
086汝(なんぢ)等(ら)三人(みたり)の荒男(あらをとこ)
087何用(なによう)あつて真夜中(まよなか)に
088妾(わらは)が跡(あと)を慕(した)ひ来(く)る
089六(ろく)、八(はち)、二人(ふたり)は兎(と)も角(かく)も
090杢助(もくすけ)などと佯(いつは)つて
091ここに来(きた)れる可笑(をか)しさよ
092そも杢助(もくすけ)はイソ館(やかた)
093総務(そうむ)の役(やく)に仕(つか)へたる
094尊(たふと)き司(つかさ)の身(み)を以(もつ)て
095吾(わが)子(こ)のことが気(き)にかかり
096神務(しんむ)を忘(わす)れてはるばると
097慕(した)ふて出(で)て来(く)る向(むか)ふ見(み)ず
098左様(さやう)の訳(わけ)の分(わか)らない
099妾(わらは)は親(おや)は持(も)ちませぬ
100正(まさ)しく悪魔(あくま)の変化(へんげ)して
101吾(われ)等(ら)の行手(ゆくて)を妨害(ばうがい)し
102神務(しんむ)を遂行(すゐかう)させまいと
103企(たく)みしものと覚(おぼ)えたり
104早々(さうさう)此(この)場(ば)を立去(たちさ)れよ
105妾(わらは)は初稚姫(はつわかひめの)神(かみ)
106汝(なんぢ)に構(かま)つてゐる暇(ひま)は
107なければ是(これ)より出(い)でて行(ゆ)く
108汝(なんぢ)等(ら)三(さん)人(にん)トツクリと
109善(よ)からぬ相談(さうだん)するがよい
110お先(さき)へ御免(ごめん)と云(い)ひながら
111蓑(みの)を被(かぶ)つて杖(つゑ)をつき
112スタスタ進(すす)み出(い)でて行(ゆ)く
113杢助(もくすけ)後(あと)より声(こゑ)をかけ
114オーイオーイと云(い)ひ乍(なが)ら
115六(ろく)、八(はち)、二人(ふたり)を従(したが)へて
116姫(ひめ)の後(あと)をば追(お)ひ来(きた)る
117初稚姫(はつわかひめ)はトントンと
118天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し
119神歌(しんか)を歌(うた)ひ進(すす)み行(ゆ)く
120夜(よ)はホノボノと明(あ)けそめて
121あたりも明(あか)くなりぬれば
122道(みち)の片方(かたへ)の岩石(がんせき)に
123腰(こし)うちかけて息(いき)休(やす)め
124少時(しばし)思案(しあん)に暮(く)れにける。
125 初稚姫(はつわかひめ)は河鹿(かじか)峠(たうげ)の坂口(さかぐち)の岩(いは)の上(うへ)に腰(こし)うちかけ、
126初稚姫『昨夜(さくや)現(あら)はれし怪物(くわいぶつ)は合点(がつてん)のゆかぬ代物(しろもの)だナア。127六(ろく)、128八(はち)両人(りやうにん)と言(い)ひ、129父(ちち)の杢助(もくすけ)と云(い)ひ、130合点(がつてん)のゆかぬことだなア。131妾(わらは)が首途(かどで)の時(とき)、132あの様(やう)に素気(すげ)なく云(い)つた吾(わが)父(ちち)が、133妾(わらは)を慕(した)つて追(お)つかける位(くらゐ)ならば、134モウ少(すこ)し優(やさ)しい言葉(ことば)をかけさうな筈(はず)。135大神(おほかみ)様(さま)の、136妾(わたし)が心(こころ)を試(ため)さむ為(ため)の御(お)計(はか)らひだらうか、137何(なに)につけても合点(がつてん)のゆかぬことだなア』
138と差俯(さしうつむ)いて思案(しあん)に暮(く)れてゐる。139そこへ突然(とつぜん)現(あら)はれたのは杢助(もくすけ)、140六(ろく)、141八(はち)の三(さん)人(にん)であつた。
142杢助(もくすけ)『オイ其方(そなた)は初稚姫(はつわかひめ)だないか、143なぜ父(ちち)があれ程(ほど)呼(よ)び止(と)めるのに待(ま)つてくれないのだ。144一言(いちごん)お前(まへ)の旅立(たびだち)について言(い)つておきたいことがあつた。145それを忘(わす)れたに仍(よ)つて、146後(あと)追(お)つかけ、147言(い)ひきかしに来(き)たのだ』
148初稚(はつわか)『妾(わらは)はお前(まへ)さまの様(やう)な卑怯(ひけふ)未練(みれん)な親(おや)は持(も)ちませぬ。149能(よ)く考(かんが)へて御覧(ごらん)なさい。150貴方(あなた)が果(はた)して杢助(もくすけ)とやら言(い)ふお方(かた)ならば、151なぜイソの館(やかた)に専心(せんしん)お仕(つか)へなされませぬか。152何事(なにごと)も一身(いつしん)一家(いつか)を捧(ささ)げて神(かみ)に仕(つか)へるとお誓(ちか)ひなさつた杢助(もくすけ)ぢやありませぬか。153ヤツパリ貴方(あなた)も年(とし)が老(よ)つたとみえて耄碌(まうろく)しましたねえ。154妾(わらは)はイソの館(やかた)の大神(おほかみ)様(さま)より直接(ちよくせつ)使命(しめい)を受(う)けた、155年(とし)は若(わか)うても、156立派(りつぱ)な宣伝使(せんでんし)で厶(ござ)います。157最早(もはや)悪魔(あくま)の征途(せいと)に上(のぼ)つた上(うへ)は、158立派(りつぱ)に使命(しめい)を果(はた)す迄(まで)、159杢助(もくすけ)さま何(なん)かに用(よう)は厶(ござ)いませぬ。160早(はや)く御(お)帰(かへ)りなさいませ。161併(しか)しお前(まへ)は本当(ほんたう)の杢助(もくすけ)さまぢやありますまい。162其(その)耳(みみ)は何(なん)ですか、163獣(けもの)の様(やう)にペラペラと動(うご)いているぢやありませぬか。164初稚姫(はつわかひめ)がハルナの都(みやこ)に参(まゐ)ると聞(き)き、165手(て)をまはして出発(しゆつぱつ)の間際(まぎわ)に妾(わらは)を邪道(じやだう)に引入(ひきい)れ、166目的(もくてき)の妨(さまた)げを致(いた)さうとするのだらう。167いかなる魔術(まじゆつ)も初稚姫(はつわかひめ)に対(たい)しては一切(いつさい)駄目(だめ)ですよ。168ホヽヽヽヽ、169マアマア能(よ)くも巧(たくみ)に化(ば)けましたねえ』
170杢助(もくすけ)『其方(そなた)は父(ちち)に向(むか)つて何(なん)といふ無礼(ぶれい)なことを言(い)ふのだ。171これ見(み)よ、172何程(なにほど)耳(みみ)が動(うご)いても、173これは風(かぜ)が吹(ふ)いてゐるからだ。174風(かぜ)が吹(ふ)けば耳(みみ)許(ばか)りか、175木(こ)の葉(は)でさへも、176大木(たいぼく)でも動(うご)くだないか、177流石(さすが)は子供(こども)だなア。178親(おや)の心(こころ)は子(こ)知(し)らずとはお前(まへ)のことだ。179此(この)杢助(もくすけ)は何程(なにほど)冷淡(れいたん)に見(み)せて居(を)つても、180心(こころ)の中(うち)には愛(あい)の熱涙(ねつるゐ)が沸(わ)き立(た)つてゐるのだ。181左様(さやう)なことをいはずに人間(にんげん)は老少(らうせう)不定(ふぢやう)だ。182不惜(ふじやく)身命(しんめい)的(てき)神業(しんげふ)に参加(さんか)するお前(まへ)、183これが別(わか)れにならうも知(し)れぬと思(おも)ひ、184態々(わざわざ)ここ迄(まで)、185夜(よ)の目(め)も寝(ね)ずに、186御用(ごよう)の隙(すき)を考(かんが)へて追(お)つかけて来(き)たのだ。187親(おや)の心(こころ)もチツとは推量(すゐりやう)してくれ、188初稚姫(はつわかひめ)殿(どの)』
189初稚(はつわか)『ホツホヽヽヽ、190うまい事(こと)お化(ば)けなさいますなア。191妾(わらは)は二人(ふたり)の父(ちち)は持(も)ちませぬ、192いい加減(かげん)にお帰(かへ)りなさい。193何(なん)と云(い)つても駄目(だめ)ですよ』
194六(ろく)『もし姫(ひめ)様(さま)、195此(この)杢助(もくすけ)様(さま)はさうすると本真物(ほんまもの)ぢや厶(ござ)いませぬか』
196初稚(はつわか)『本真物(ほんまもの)か贋物(にせもの)か、197頭(あたま)の上(うへ)から足(あし)の爪先(つまさき)迄(まで)、198能(よ)く見(み)て御覧(ごらん)』
199八(はち)『オイ六(ろく)、200姫(ひめ)様(さま)の仰有(おつしや)る通(とほ)り、201様子(やうす)が変(へん)だぞ。202御(ご)主人(しゆじん)に本当(ほんたう)に能(よ)く似(に)てゐるが、203何(なん)となしに腑(ふ)におちぬ所(ところ)があるぢやないか』
204六(ろく)『コヽコラ、205モヽ杢助(もくすけ)のバヽ化物(ばけもの)、206ドヽ何(ど)うぢや、207姫(ひめ)様(さま)の眼力(がんりき)には往生(わうじやう)致(いた)したか』
208杢助(もくすけ)『コラ六(ろく)、209主人(しゆじん)に向(むか)つて不都合(ふつがふ)千万(せんばん)な、210化物扱(ばけものあつか)ひに致(いた)すことがあるか、211八(はち)、212貴様(きさま)も六(ろく)と同(おな)じやうな奴(やつ)だ。213今日(けふ)限(かぎ)り暇(ひま)を遣(つか)はすから、214モウ、215イソ館(やかた)へ帰(かへ)るには及(およ)ばぬツ』
216六(ろく)『貴様(きさま)の様(やう)な化物(ばけもの)の乾児(こぶん)になつてたまるかい。217のう八公(はちこう)、218さうではないか』
219八(はち)『さう共(とも)さう共(とも)、220本当(ほんたう)の杢助(もくすけ)様(さま)の御(ご)家来(けらい)だ。221こんな耳(みみ)の動(うご)く奴(やつ)の家来(けらい)になつてたまるかい。222コラ化州(ばけしう)、223何時(なんどき)だと考(かんが)へてる、224モウ夜明(よあ)けだないか。225可(い)いかげんスツ込(こ)まぬかい』
226杢助(もくすけ)『アツハヽヽヽ六(ろく)、227八(はち)の両人(りやうにん)、228若(もし)も此(この)方(はう)が本当(ほんたう)の杢助(もくすけ)であつたら何(なん)と致(いた)す』
229六(ろく)『ナアニ、230本当(ほんたう)の杢助(もくすけ)であつた所(ところ)が構(かま)ふものかい。231暇(ひま)を貰(もら)つたら姫(ひめ)様(さま)の後(あと)に従(つ)いて、232何処(どこ)迄(まで)でもお供(とも)するのだ。233のう八公(はちこう)』
234初稚(はつわか)『六(ろく)、235八(はち)の両人(りやうにん)、236一時(いつとき)も早(はや)く御(お)帰(かへ)りなさい、237妾(わらは)は飽迄(あくまで)一人旅(ひとりたび)でゆかねばならぬ。238今(いま)に此(この)化物(ばけもの)の正体(しやうたい)を現(あら)はし往生(わうじやう)さして見(み)せるから、239お前(まへ)さまは早(はや)く御(お)帰(かへ)りなさい』
240と云(い)ひ乍(なが)ら、241天(あま)の数歌(かずうた)を唱(とな)へ上(あ)げた。242杢助(もくすけ)は忽(たちま)ち、243牛(うし)の如(ごと)き怪物(くわいぶつ)となり、
244(杢助)『ウー』
245と唸(うな)りを立(た)て、246目(め)を怒(いか)らし、247牙(きば)を剥(む)き出(だ)し、248初稚姫(はつわかひめ)を目(め)がけて飛(と)びかからむとし、249前足(まへあし)の爪(つめ)を逆立(さかだ)て、250大地(だいち)の土(つち)をかいて、251爪(つめ)を尖(とが)らしてゐる。252初稚姫(はつわかひめ)は平然(へいぜん)として天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し始(はじ)めた。253六(ろく)、254八(はち)の両人(りやうにん)は此(この)姿(すがた)をみて、255顔色(がんしよく)土(つち)の如(ごと)くに変(かは)り、256其(その)場(ば)に打倒(うちたふ)れ、257チウの声(こゑ)も得上(えあ)げず慄(ふる)ふてゐる。258怪獣(くわいじう)の顔(かほ)をよくよくみれば、259巨大(きよだい)なる唐獅子(からしし)である。260唐獅子(からしし)は初稚姫(はつわかひめ)をグツと睨(ね)めつけ、261猛然(まうぜん)として咬(か)みつかむとする一刹那(いちせつな)、262後(うしろ)の方(かた)より『ウー』と又(また)唸(うな)り声(ごゑ)、263何者(なにもの)ならむと、264後(あと)ふり返(かへ)れば、265逞(たくま)しい大(おほ)きい山犬(やまいぬ)である。266山犬(やまいぬ)は大獅子(おほしし)に向(むか)つて、267疾風(しつぷう)の如(ごと)く飛(と)び付(つ)いた。268獅子(しし)は一目散(いちもくさん)に細(ほそ)くなつて、269逃(に)げてゆく、270山犬(やまいぬ)は獅子(しし)の跡(あと)を追跡(つゐせき)する。271初稚姫(はつわかひめ)は後(あと)見送(みおく)つて打笑(うちわら)ひ、
272初稚姫『ホツホヽヽ、273始(はじ)めての神(かみ)様(さま)の試(ため)しに会(あ)うて、274お蔭(かげ)で及第(きふだい)した様(やう)だ。275ヤア六(ろく)、276八(はち)、277最早(もはや)心配(しんぱい)は要(い)らぬ、278一時(いつとき)も早(はや)く吾(わが)家(や)へ立帰(たちかへ)り、279父(ちち)の杢助(もくすけ)に、280初稚姫(はつわかひめ)は大丈夫(だいぢやうぶ)だから御(ご)安心(あんしん)遊(あそ)ばせと伝(つた)へてくれ、281左様(さやう)ならば』
282といふより早(はや)く、283足早(あしばや)に河鹿(かじか)峠(たうげ)を登(のぼ)り行(ゆ)く。284六(ろく)、285八(はち)両人(りやうにん)はヤツと胸(むね)を撫(な)でおろし、286神言(かみごと)を称(とな)へ乍(なが)ら、287杢助館(もくすけやかた)を指(さ)して、288又(また)日(ひ)が暮(く)れては一大事(いちだいじ)と急(いそ)ぎ帰(かへ)り行(ゆ)く。289初稚姫(はつわかひめ)は只(ただ)一人(ひとり)宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ひ乍(なが)ら、290河鹿(かじか)峠(たうげ)を登(のぼ)り行(ゆ)く。291以前(いぜん)の猛犬(まうけん)慌(あわ)ただしく駆来(かけきた)り、292初稚姫(はつわかひめ)の前(まへ)になり、293後(あと)になり尾(を)を掉(ふ)つて、294嬉(うれ)しさうにワンワンとなき乍(なが)ら、295駆(か)けめぐる。296初稚姫(はつわかひめ)は漸(やうや)く坂(さか)の頂上(ちやうじやう)に達(たつ)し、297四方(よも)の景色(けしき)を眺(なが)め乍(なが)ら、298少時(しばし)腰(こし)を卸(おろ)して休息(きうそく)した。299以前(いぜん)の猛犬(まうけん)は初稚姫(はつわかひめ)の前(まへ)に蹲(うづく)まり、300耳(みみ)を垂(た)れ目(め)を細(ほそ)くし、301尾(を)を掉(ふ)つてゐる。
302初稚姫『其方(そなた)はどこの山犬(やまいぬ)か知(し)らぬが、303随分(ずいぶん)敏活(びんくわつ)な働(はたら)きをする者(もの)だ。304これから妾(わらは)の家来(けらい)として上(あ)げよう。305ハルナの都(みやこ)まで従(つ)いて来(く)るのだよ。306而(さう)してお前(まへ)には「スマート」といふ名(な)を上(あ)げませう』
307と云(い)ひ乍(なが)ら、308猛犬(まうけん)を抱(かか)へ、309首筋(くびすぢ)を撫(な)でなどして労(いた)はつてゐる。310スマートは頻(しき)りに尾(を)を掉(ふ)り、311ワンワンと叫(さけ)び乍(なが)ら、312感謝(かんしや)の意(い)を表(へう)してゐる。313初稚姫(はつわかひめ)は此(この)犬(いぬ)を得(え)て非常(ひじやう)に心強(こころづよ)くなり、314宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ひ乍(なが)ら、315河鹿(かじか)峠(たうげ)の南坂(みなみざか)を下(くだ)りつつ歌(うた)ふ。
316初稚姫『神(かみ)が表(おもて)に現(あら)はれて
317善(ぜん)と悪(あく)とを立別(たてわ)ける
318悪魔(あくま)の征途(せいと)に上(のぼ)り行(ゆ)く
319初稚姫(はつわかひめ)の魂(たましひ)を
320査(しら)べむ為(ため)か父(ちち)となり
321或(あるひ)は巨大(きよだい)な獅子(しし)となり
322妾(わらは)が首途(かどで)を遮(さへぎ)りて
323所存(しよぞん)の程(ほど)を調(しら)べしか
324但(ただ)しは誠(まこと)の曲神(まがかみ)か
325心(こころ)に解(げ)せぬ事(こと)あれど
326只(ただ)何事(なにごと)も一身(いつしん)を
327神(かみ)に任(まか)せし上(うへ)からは
328仮令(たとへ)如何(いか)なる事(こと)あるも
329初心(しよしん)を曲(ま)げずドシドシと
330人(ひと)にたよらず皇神(すめかみ)の
331神言(みこと)のままに真心(まごころ)を
332尽(つく)して往(ゆ)かむ吾(わが)心(こころ)
333仮令(たとへ)曲津(まがつ)は行先(ゆくさき)に
334さやりて仇(あだ)をなすとても
335吾(われ)には神(かみ)の守(まも)りあり
336今(いま)又(また)神(かみ)はスマートを
337吾(わが)行先(ゆくさき)の供(とも)となし
338与(あた)へ玉(たま)ひし尊(たふと)さよ
339神(かみ)は吾(われ)等(ら)と共(とも)にあり
340吾(われ)等(ら)は神(かみ)の子(こ)神(かみ)の宮(みや)
341いかでか恐(おそ)れむ敷島(しきしま)の
342大和心(やまとごころ)をふり起(おこ)し
343ハルナの都(みやこ)に蟠(わだか)まる
344八岐(やまた)大蛇(をろち)を言向(ことむ)けて
345神(かむ)素盞嗚(すさのを)の大神(おほかみ)の
346誠(まこと)をあらはし奉(たてまつ)り
347五六七(みろく)の御代(みよ)を詳細(まつぶさ)に
348普(あまね)く地上(ちじやう)に建設(けんせつ)し
349三五教(あななひけう)の神力(しんりき)を
350現(あら)はし奉(まつ)る神(かみ)の道(みち)
351進(すす)みゆくこそ嬉(うれ)しけれ
352あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
353御霊(みたま)幸(さちは)ひましませよ』
354と歌(うた)ひ乍(なが)ら進(すす)み行(ゆ)く。
355(大正一二・一・一八 旧一一・一二・二 松村真澄録)
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