霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一三章 胸(むね)の轟(とどろき)〔一二八七〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第49巻 真善美愛 子の巻 篇:第3篇 暁山の妖雲 よみ(新仮名遣い):ぎょうざんのよううん
章:第13章 胸の轟 よみ(新仮名遣い):むねのとどろき 通し章番号:1287
口述日:1923(大正12)年01月18日(旧12月2日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年11月5日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
高姫は杢助のような立派な男を夫に持つことができ、鼻息荒く、翌日からは義理天上日の出神をやたらに振り回しだした。
高姫はヨルに朝食の用意を言いつけた。そこへ杢助が朝の礼拝から帰ってきた。高姫は、杢助の耳がよく動くのに気が付いて指摘した。杢助は、神格に充たされた神人は耳が動くのだとごまかした。
高姫と杢助は、ヨルが朝食を一膳しか用意しなかったことで喧嘩を始め、ヨルがうまく言ってその場を収めた。杢助は祠の森の境内を巡視すると言って一人で出て行った。高姫は装束を着かえて日の出神と成りすまし、参拝者が来るのを待っている。
ヨルが受付に控えていると、お寅と魔我彦がやってきた。二人はヨルから、高姫が日の出神の生き宮としてここに現れたと聞いて、高姫に合わせてもらようヨルに頼んだ。
高姫はヨルの報告を聞いて、蠑螈別と魔我彦がやってきたと勘違いし、まずは魔我彦だけを呼んで話を聞いた。魔我彦は、高姫が三五教に改心してから蠑螈別が小北山にウラナイ教を開いたこと、その後三五教の宣伝使がやってきて皆三五教に改心したことを話した。
高姫は、魔我彦の連れが、お寅という蠑螈別と一緒に小北山を開いた元幹部だと聞いて、義理天上日の出神から言って聞かせることがあるからと、お寅を自室に呼んだ。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-06-27 09:47:28 文字数:5892 OBC :rm4913
愛善世界社版:184頁 八幡書店版:第9輯 99頁 修補版: 校定版:190頁 普及版:85頁 初版: ページ備考:
001 高姫(たかひめ)は思(おも)ひもよらぬ立派(りつぱ)な夫(をつと)を持(も)ち、002ますます鼻息(はないき)荒(あら)く、003翌朝(よくてう)よりは義理(ぎり)天上(てんじやう)日(ひ)の出神(でのかみ)を又(また)もや矢鱈(やたら)にふり廻(まは)し出(だ)した。004時置師(ときおかしの)神(かみ)は朝(あさ)の間(ま)早(はや)うから、005神殿(しんでん)に参拝(さんぱい)すると云(い)つて出(で)て行(い)つた。006跡(あと)に高姫(たかひめ)は火鉢(ひばち)を前(まへ)におき、007キチンと坐(すわ)り乍(なが)ら長(なが)い煙管(きせる)で煙草(たばこ)をポカポカふかしてゐる、008そして鈴(りん)をチンチンと叩(たた)いた。009ヨルはコワゴワ乍(なが)ら頭(あたま)を掻(か)きもつて、010襖(ふすま)をソツとひらき、
011ヨル『へ、012御免(ごめん)なさいませ』
013と身体(からだ)を半分(はんぶん)つき出(だ)し、014早(はや)くも逃(に)げ腰(ごし)になつてゐる。
015高姫(たかひめ)『コレ、016ヨル公(こう)、017何(なん)と云(い)ふ恰好(かつかう)だいな。018其(その)腰(こし)は何(なん)だい、019みつともない、020サツサとお這入(はい)りなさい』
021ヨル『ヘー、022何分(なにぶん)夜通(よどほ)し、023使(つか)つたものですから、024とうとこんな腰(こし)になりました。025本当(ほんたう)に世界中(せかいぢう)一所(いつしよ)によつた様(やう)な心持(こころもち)で厶(ござ)いましたよ、026エヘヽヽヽ』
027高姫(たかひめ)『お前(まへ)は、028私(わたし)たちのヒソヒソ話(ばなし)を聞(き)いてゐたのだな』
029ヨル『ハイ、030エヽヽ、031世界中(せかいぢう)、032よつた様(やう)だと、033貴女(あなた)が仰有(おつしや)つたものだから、034私(わたし)も気(き)が気(き)でなく、035もしもこんな所(ところ)へ世界中(せかいぢう)押寄(おしよ)せて来(こ)うものなら、036貴女(あなた)の前(まへ)の夫(をつと)が交(まじ)つてゐるに違(ちが)ひない。037さうすりや大喧嘩(おほげんくわ)が始(はじ)まるだらうと、038捻鉢巻(ねぢはちまき)でチヤンと夜通(よどほ)し控(ひか)えてゐました、039先(ま)づ先(ま)づ無事(ぶじ)で岩戸(いはと)開(びら)きも相(あひ)すみ、040お目出度(めでた)う厶(ござ)います、041エツヘヽヽヽ、042何分(なにぶん)ヨルの守護(しゆご)で厶(ござ)いますから、043此(この)ヨル公(こう)は夜分(やぶん)は寝(ね)られませぬので……』
044高姫(たかひめ)『外(ほか)の連中(れんちう)は何(ど)うして居(を)つたのだい』
045ヨル『ハイ、046次(つぎ)の間(ま)で六(ろく)人(にん)乍(なが)ら、047並列(へいれつ)致(いた)しまして、048御(お)招伴(せうばん)に、049ラマ教(けう)の修業(しうげふ)を致(いた)して居(を)りました。050随分(ずいぶん)勢(いきほひ)のよいものでしたよ』
051高姫(たかひめ)『エーエ、052困(こま)つた連中(れんちう)だなア、053サ早(はや)く御(お)膳(ぜん)の拵(こしら)へをしておくれ』
054ヨル『ハイ畏(かしこ)まりました。055併(しか)しお膳(ぜん)は一(ひと)つですか、056二(ふた)つにしませうか』
057高姫(たかひめ)『そんなこた言(い)はいでも、058大抵(たいてい)気(き)を利(き)かしたら何(ど)うだいなア』
059ヨル『そんならお二人(ふたり)さまですから、060二(ふた)つに致(いた)しませうか』
061高姫(たかひめ)『エーエ、062気(き)の利(き)かぬ男(をとこ)だなア、063二(ふた)つは即(すなは)ち一(ひと)つ、064一(いち)といへば二(に)を悟(さと)る男(をとこ)でないと誠(まこと)の御用(ごよう)には立(た)ちませぬぞや』
065ヨル『どうぞハツキリ云(い)つて下(くだ)さいませ。066二(ふた)つか一(ひと)つかと云(い)ふ事(こと)を……』
067高姫(たかひめ)『エーエ、068よいかげんに考(かんが)へておきなさい。069大抵(たいてい)分(わか)つて居(ゐ)るだらう』
070ヨル『なる程(ほど)、071ヤ分(わか)りました。072昨夕(ゆうべ)は二(ふた)つでしたな、073そんなら二(ふた)つに致(いた)しませう。074据膳(すゑぜん)くはぬは男(をとこ)の中(うち)でないと云(い)ひますから、075イツヒヽヽヽ』
076と云(い)ひ乍(なが)ら、077舌(した)をチヨツとかみ出(だ)し、078腮(あご)を二(ふた)つ三(み)つしやくり出(い)でて行(ゆ)く。
079 高姫(たかひめ)は煙管(きせる)で火鉢(ひばち)をポンと叩(たた)き乍(なが)ら、
080高姫(たかひめ)『あゝ惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)。081何卒(なにとぞ)々々(なにとぞ)時(とき)さまと末永(すゑなが)く添(そ)はれまして、082神界(しんかい)の為(ため)に結構(けつこう)な御用(ごよう)が出来(でき)ます様(やう)に……』
083と祈(いの)つてゐる。084そこへ時置師(ときおかし)の神(かみ)は神殿(しんでん)の礼拝(れいはい)を了(をは)り、085ニコニコし乍(なが)ら帰(かへ)り来(きた)り、
086時置(ときおか)『ヤア高(たか)ちやん、087えらう待(ま)たせました。088さぞお淋(さむ)しいこつて厶(ござ)りませう』
089高姫(たかひめ)『コレ時置師(ときおかし)の神(かみ)さま、090誰(たれ)が聞(き)いてるか分(わか)りませぬよ。091高(たか)ちやんなんて言(い)つて貰(もら)ふと、092サツパリ威信(ゐしん)が地(ち)におちます。093義理(ぎり)天上(てんじやう)日出(ひのでの)神(かみ)と云(い)つて貰(もら)はにやなりませぬぞや』
094時置(ときおか)『ヤツパリ日出(ひのでの)神(かみ)で立(た)て通(とほ)す積(つも)りですかな。095成程(なるほど)そいつあ妙(めう)だ。096宜(よろ)しい、097そんならこれから日出(ひのでの)神(かみ)様(さま)と申上(まをしあ)げませう』
098高姫(たかひめ)『何(なん)ですか、099改(あらた)まつた物(もの)の云(い)ひやうをして、100本当(ほんたう)に白々(しらじら)しい』
101時置(ときおか)『そんなら、102山(やま)の神(かみ)様(さま)、103何(なん)と申(まを)したらいいのですか』
104高姫(たかひめ)『義理(ぎり)天上(てんじやう)日出(ひのでの)神(かみ)といふのだよ』
105時置(ときおか)『よしよし、106そんなら、107これから、108さう申(まを)しませうかな』
109 高姫(たかひめ)はツーンとすねて、110肩(かた)をプリツとふり、111背中(せなか)を向(む)け、
112高姫(たかひめ)『勝手(かつて)になさいませ。113どうでこんなお多福(たふく)はお気(き)に召(め)しますまいからなア、114ヘン』
115時置(ときおか)『アツハヽヽヽ、116芋虫(いもむし)の様(やう)に、117能(よ)うプリンプリンと遊(あそ)ばすお方(かた)だなア』
118高姫(たかひめ)『あゝ貴方(あなた)、119耳(みみ)が動(うご)くぢやありませぬか、120あらマア不思議(ふしぎ)なこと』
121時置(ときおか)『私(わたし)の耳(みみ)の時々(ときどき)動(うご)くのは、122生(うま)れつきだよ。123それだから時(とき)と云(い)ふのだ。124お前(まへ)だつて、125歩(ある)く拍子(ひやうし)に尻(しり)をふるだらう。126夫(そ)れ位(くらゐ)な大(おほ)きな尻(しり)でさへもプリン プリンふるのだから小(ちひ)さい耳(みみ)が動(うご)く位(くらゐ)、127何(なに)が可怪(をか)しいのだ。128お前(まへ)たちの耳(みみ)は不随意(ふずゐい)筋(きん)と云(い)つて、129思(おも)ふやうに動(うご)かないのだらう。130祝詞(のりと)の文句(もんく)にもあるだないか、131天(あめ)の斑駒(ふちこま)の耳(みみ)ふりたてて聞(き)こしめせとか、132小男鹿(さをしか)の八(や)つの耳(みみ)ふり立(た)てて……とか書(か)いてあるだらう。133すべて神格(しんかく)に満(み)たされた大神人(だいしんじん)は耳(みみ)が動(うご)くのだよ。134国治立(くにはるたち)の大神(おほかみ)様(さま)でさへも、135大変(たいへん)によく耳(みみ)が動(うご)いたのだ。136それだから、137あれ丈(だけ)の大神業(だいしんげふ)が出来(でき)たのだ。138暫(しばら)く其(その)御(ご)神力(しんりき)を隠(かく)させ玉(たま)ふたのを、139耳(みみ)をかくし玉(たま)ふと祝詞(のりと)に書(か)いてあるのだ。140耳(みみ)の動(うご)くのは大神人(だいしんじん)の生(うま)れ代(かは)りたる証拠(しようこ)だよ。141義理(ぎり)天上(てんじやう)さま、142此(この)時置師(ときおかし)の耳(みみ)が動(うご)くのが厭(いや)なら、143これきり私(わたし)は、144お前(まへ)さまのお気(き)にいらぬに違(ちが)ひないから、145別(わか)れませうよ』
146高姫(たかひめ)『さう怒(おこ)つて貰(もら)つちや困(こま)るぢやありませぬか。147互(たがひ)に打解(うちと)けた夫婦(ふうふ)の仲(なか)、148耳(みみ)が動(うご)くと云(い)つて褒(ほ)めた位(くらゐ)に、149さう怒(おこ)るといふ事(こと)がありますか』
150時置(ときおか)『アハヽヽヽ、151お前(まへ)が余(あま)りプリンプリンするので、152何(なに)か一(ひと)つ返報(へんぱう)がへしをせうと思(おも)つてた所(ところ)だ。153それで一寸(ちよつと)すねて見(み)たのだよ。154アハヽヽヽ』
155高姫(たかひめ)『おきやんせいなア[※「おきやん」は「おきゃん(御侠)」か?「おてんば、軽はずみ」の意。]、156よい年(とし)をしてゐて、157みつともない』
158時置(ときおか)『エツヘツヘツヘ』
159 かかる所(ところ)へ楓(かへで)は襖(ふすま)をソツとあけ、
160楓(かへで)『もし日出(ひのでの)神(かみ)の小母(をば)様(さま)、161御(お)膳(ぜん)が出来(でき)ました』
162と膳部(ぜんぶ)を持(も)ち運(はこ)んで来(き)た。
163高姫(たかひめ)『あゝ御(ご)苦労(くらう)さま、164どうぞ其処(そこ)においといておくれ、165そして御(お)膳(ぜん)はたつた一(ひと)つだなア、166早(はや)くもう一膳(いちぜん)持(も)つて来(き)て下(くだ)さい』
167楓(かへで)『あの、168小母(をば)さま、169御(お)膳(ぜん)はこれきりのよ、170ヨルさまが一膳(いちぜん)持(も)つて行(ゆ)けばよいと云(い)ひましたの』
171高姫(たかひめ)『エヽ、172気(き)の利(き)かぬ男(をとこ)だなア。173コレ楓(かへで)さま、174ヨルを一寸(ちよつと)此処(ここ)へお出(い)でといつて下(くだ)さい』
175楓(かへで)『ハイ』
176と云(い)ひ乍(なが)ら此(この)場(ば)を立(た)つて行(ゆ)く。
177時置(ときおか)『オイ日出(ひのでの)神(かみ)さま、178僕(ぼく)はモウお暇(いとま)する。179これ丈(だけ)虐待(ぎやくたい)されちや、180居(を)りたくても居(を)られないからな。181俺(おれ)だつて木像(もくざう)ではなし、182なんぼ杢助(もくすけ)だと云(い)つてもヤツパリ食物(しよくもつ)は必要(ひつえう)だ。183朝飯(あさめし)もよんで貰(もら)へぬやうな所(ところ)に居(を)つても約(つ)まらないから……』
184と憤然(ふんぜん)として立上(たちあが)るを、185高姫(たかひめ)は慌(あわ)てて取(とり)すがり、186金切声(かなきりごゑ)を出(だ)して、
187高姫(たかひめ)『コレ、188時(とき)さま、189さう短気(たんき)を出(だ)すものぢや厶(ござ)んせぬわいな、190昨夕(ゆうべ)のことを覚(おぼ)えてますか、191気(き)の利(き)かない奴(やつ)許(ばか)りだからこんな不都合(ふつがふ)致(いた)しましたのですよ。192私(わたし)がトツクリと言(い)ひ聞(き)かせますから、193御(ご)機嫌(きげん)を直(なほ)して、194此(この)お膳(ぜん)を召上(めしあが)つて下(くだ)さいな』
195時置(ときおか)『一人前(いちにんまへ)の男(をとこ)を化物扱(ばけものあつか)ひ致(いた)して、196耳(みみ)が動(うご)くの何(なん)のと侮辱(ぶじよく)を加(くは)へた上(うへ)、197何(なん)だ。198貴様(きさま)の膳部(ぜんぶ)許(ばか)り持(も)て来(き)て、199俺(おれ)をてらしよつた。200馬鹿(ばか)らしい、201そんな所(ところ)にのめのめと居(ゐ)る時(とき)さまぢやないぞ』
202高姫(たかひめ)『お前(まへ)さまは此(この)高姫(たかひめ)の心(こころ)が分(わか)りませぬのかい、203……コレコレ、204ヨル、205一寸(ちよつと)お出(い)で』
206 此(この)声(こゑ)にヨルは、207ソツと襖(ふすま)をあけ、
208ヨル『ハイ、209何(なん)ぞ御用(ごよう)で厶(ござ)いますか』
210高姫(たかひめ)『お前(まへ)なぜ、211お膳(ぜん)を二(ふた)つして来(こ)ないのだい』
212ヨル『ハイ、213夜前(やぜん)ソツと聞(き)いて居(を)りましたら、214二(ふた)つにせうか、215イヤイヤ今度(こんど)は始(はじ)めてだから、216一(ひと)つにしておかうと仰有(おつしや)つたぢや厶(ござ)いませぬか、217それ故(ゆゑ)仰有(おつしや)つた通(とほ)り致(いた)しました』
218高姫(たかひめ)『何(なん)と、219気(き)の利(き)かぬ男(をとこ)だなア。220コレからキツと二人(ふたり)居(を)つたら、221二人前(ににんまへ)持(も)つて来(く)るのだよ』
222ヨル『ハイ、223今後(こんご)は心得(こころえ)ます。224実(じつ)の所(ところ)は貴女(あなた)は何時(いつ)も断食(だんじき)断食(だんじき)と仰有(おつしや)るものですから、225今朝(けさ)から断食(だんじき)をお始(はじ)めなさつたかと思(おも)ひ、226お客様(きやくさま)の丈(だけ)持(も)つて来(き)たので厶(ござ)います。227楓(かへで)さまが何(なん)と云(い)つたか知(し)りませぬが、228此(この)お膳(ぜん)は貴女(あなた)のぢや厶(ござ)いませぬ。229トさまので厶(ござ)います』
230 高姫(たかひめ)は機嫌(きげん)を直(なほ)し、
231高姫『あゝさうかな、232さうだらう さうだらう、233そんな気(き)の利(き)かぬ男(をとこ)は此処(ここ)には居(を)らない筈(はず)だ。234併(しか)し今朝(けさ)は私(わし)も頂(いただ)くのだから、235どうぞモウ一膳(いちぜん)拵(こしら)へして来(き)て下(くだ)さい……コレ時置師(ときおかし)様(さま)、236今(いま)お聞(きき)の通(とほ)りで厶(ござ)います、237これで御(ご)合点(がつてん)が参(まゐ)りましただらう』
238時置(ときおか)『ヤア、239済(す)まなかつた。240あ、241それを聞(き)いて、242私(わし)も満足(まんぞく)した。243高姫(たかひめ)、244エライ心配(しんぱい)をかけてすまなかつた。245コレ此(この)通(とほ)り杢助(もくすけ)が両手(りやうて)を合(あは)せて、246お詫(わび)を致(いた)します。247惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)』
248高姫(たかひめ)『オツホヽヽヽ、249おきやんせいなア、250人(ひと)を困(こま)らせようと思(おも)ふて、251本当(ほんたう)に仕方(しかた)のない人(ひと)だ。252私(わたし)に気(き)許(ばか)り揉(も)まして、253憎(にく)らしいワ』
254時置(ときおか)『ワハツハヽヽ、255マア能(よ)いワイ。256犬(いぬ)も食(く)はぬ喧嘩(けんくわ)をして居(を)つても、257はづまぬからなア』
258 ヨルは膳部(ぜんぶ)の用意(ようい)をなすべく、259急(いそ)いで此(この)場(ば)を立去(たちさ)つた。260漸(やうや)くにして二人(ふたり)は機嫌(きげん)よく朝餉(あさげ)をすまし、261時置師(ときおかし)は祠(ほこら)の森(もり)の境内(けいだい)を一々(いちいち)巡視(じゆんし)すると云(い)つて、262只(ただ)一人(ひとり)瓢然(へうぜん)と出(で)て行(い)つた。263高姫(たかひめ)はソロソロ寄(よ)つて来(く)る参詣者(さんけいしや)に対(たい)し、264教(をしへ)を伝(つた)ふべく装束(しやうぞく)をキチンと着替(きか)へて、265日出(ひのでの)神(かみ)と成(な)りすまし、266簾(みす)を吊(つ)つて、267鉛(なまり)の天神(てんじん)さま然(ぜん)と脇息(けふそく)に凭(もた)れ乍(なが)ら、268客(きやく)待(ま)ち顔(がほ)である。
269 ヨルは例(れい)の如(ごと)く朝餉(あさげ)をすまし、270受付(うけつけ)にすました顔(かほ)で、271賓頭盧(びんづる)尊者(そんじや)宜(よろ)しくといふ態(てい)で控(ひか)えてゐる。272そこへスタスタやつて来(き)たのはお寅(とら)、273魔我彦(まがひこ)の両人(りやうにん)であつた。
274お寅(とら)『何(なん)でも此処(ここ)に御(ご)普請(ふしん)が出来(でき)てると聞(き)いて居(を)りましたが、275立派(りつぱ)な御(ご)普請(ふしん)だなア、276十曜(とえう)の紋(もん)の旗(はた)が閃(ひらめ)いてゐる。277イソの館(やかた)へ参(まゐ)るには此処(ここ)を通(とほ)りぬけにする訳(わけ)にも行(ゆ)くまい。278心(こころ)が急(せ)くけれど、279一(ひと)つ参拝(さんぱい)して参(まゐ)りませうか』
280魔我(まが)『同(おな)じ三五教(あななひけう)の神(かみ)さまぢやありませぬか、281是非(ぜひ)共(とも)参拝(さんぱい)致(いた)しませう』
282と受付(うけつけ)にツカツカと進(すす)みより、
283魔我(まが)『モシ、284私(わたくし)は元(もと)は小北山(こぎたやま)のウラナイ教(けう)の副教主(ふくけうしゆ)で厶(ござ)いましたが、285三五教(あななひけう)の松彦(まつひこ)様(さま)に教(をしへ)を承(うけたま)はり、286両人(ふたり)連(づ)れでイソの館(やかた)へ参(まゐ)る途中(とちう)、287一寸(ちよつと)お邪魔(じやま)を致(いた)しました。288どうぞ参拝(さんぱい)をさして頂(いただ)きたいもので厶(ござ)います』
289ヨル『それは能(よ)う御(お)参(まゐ)りで厶(ござ)います。290私(わたくし)も斯(か)うして受付(うけつけ)を致(いた)して居(を)りますが、291元(もと)はバラモン教(けう)の信者(しんじや)で厶(ござ)いました。292そしてイソの館(やかた)へ宮潰(みやつぶ)しにゆく軍(いくさ)の中(うち)に加(くは)はり乍(なが)ら其(その)神(かみ)様(さま)の御(ご)家来(けらい)となつて、293御用(ごよう)をするとは、294本当(ほんたう)に人間(にんげん)の運命(うんめい)といふものは不思議(ふしぎ)なものですよ。295お前(まへ)さまもウラナイ教(けう)では立派(りつぱ)なお方(かた)だと承(うけたま)はりますが、296さぞ神(かみ)様(さま)はお喜(よろこ)びでせう。297ここには義理(ぎり)天上(てんじやう)日出(ひのでの)神(かみ)様(さま)の生宮(いきみや)様(さま)が御(ご)降臨(かうりん)遊(あそ)ばし それはそれは エライ御(ご)威勢(ゐせい)で厶(ござ)いますよ』
298魔我(まが)『エ、299何(なん)と仰(おほ)せられます、300日出(ひのでの)神(かみ)の生宮(いきみや)様(さま)とは……それは何方(どなた)で厶(ござ)いますか』
301ヨル『ハイ、302楓姫(かへでひめ)といふ若(わか)い娘(むすめ)に御(お)神懸(かむがか)り遊(あそ)ばしてゐられましたが、303それはホンの四五(しご)日(にち)の間(あひだ)で、304本当(ほんたう)の日出(ひのでの)神(かみ)の生宮(いきみや)、305三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)高姫(たかひめ)様(さま)がお出(い)でになつて居(を)られます、306それはそれはエライ御(ご)神力(しんりき)で厶(ござ)りますわ』
307魔我(まが)『ヤア、308其奴(そいつ)ア不思議(ふしぎ)だ。309こんな所(ところ)で高姫(たかひめ)様(さま)にお目(め)にかかるとは夢(ゆめ)にも知(し)らなかつた。310あゝあ蠑螈別(いもりわけ)さまが居(を)つたら、311さぞ喜(よろこ)ぶことだらうに……コレお寅(とら)さま、312蠑螈別(いもりわけ)さまのレコですよ。313腹(はら)を立(た)てちや可(い)けませぬよ』
314お寅(とら)『オツホヽヽヽ、315コレ魔我(まが)ヤン、316いつ迄(まで)も何(なに)を言(い)ふのだい。317此(この)お寅(とら)は最早(もはや)そんな恋着心(れんちやくしん)は露(つゆ)程(ほど)も有(あ)りませぬぞや。318それより早(はや)く、319高姫(たかひめ)様(さま)とやらに会(あ)はして頂(いただ)きたいものだ』
320魔我(まが)『早(はや)く高姫(たかひめ)様(さま)に魔我彦(まがひこ)が来(き)たと伝(つた)へて下(くだ)さい。321さういへば高姫(たかひめ)様(さま)は御存(ごぞん)じですから』
322ヨル『ハイハイ、323承知(しようち)致(いた)しました。324何(なん)と高姫(たかひめ)さまはお顔(かほ)の広(ひろ)い人(ひと)だなア。325昨日(きのふ)も高姫(たかひめ)さまを尋(たづ)ねてトさまとやらがお出(い)でになるなり、326今日(けふ)も亦(また)マさまとやらがお越(こ)し遊(あそ)ばす、327此奴(こいつ)もヤツパリ、328レコだなア』
329と呟(つぶや)きつつ、330二人(ふたり)を受付(うけつけ)に待(ま)たせおき、331高姫(たかひめ)の居間(ゐま)に慌(あわ)ただしく駆(か)け込(こ)んだ。
332ヨル『もしもし高姫(たかひめ)さま、333マヽヽマヽヽガヽヽヒヽヽコとかいふお方(かた)が見(み)えました』
334高姫(たかひめ)『ナニ、335魔我彦(まがひこ)が来(き)たといふのかい』
336ヨル『ハイ、337魔我彦(まがひこ)さまと、338そして何(なん)でも蠑螈別(いもりわけ)とか……云(い)つてゐらつしやいました、339訪問者(はうもんしや)はお二人(ふたり)で厶(ござ)います』
340高姫(たかひめ)『コレ、341ヨルや、342魔我彦(まがひこ)さま丈(だけ)、343一寸(ちよつと)此方(こちら)へ来(き)て貰(もら)つておくれ、344そして一人(ひとり)の方(かた)は私(わたし)が会(あ)ひに行(ゆ)く迄(まで)、345都合(つがふ)があるから待(ま)つて下(くだ)さるやうにいつておくれ、346余(あま)り急(いそ)いで行(い)つちや可(い)けないよ、347此(この)長廊下(ながらうか)の椽板(えんいた)を一(いち)枚(まい)一(いち)枚(まい)間違(まちが)はぬやうに、348読(よ)みもつて行(ゆ)くのだよ』
349ヨル『椽板(えんいた)は百八十(ひやくはちじふ)枚(まい)キチンと有(あ)ります。350今更(いまさら)よまなくつても分(わか)つて居(を)りますがな』
351高姫(たかひめ)『エーエ、352気(き)の利(き)かぬ男(をとこ)だな、353ボツボツ行(ゆ)きなと云(い)ふのだ』
354ヨル『エヘヽヽヽヽ、355又(また)其(その)間(ま)におやつし[※「おやつし」は「お+やつし」か?「やつす(俏す・窶す)」は「化粧する」の意。]の時間(じかん)が入(い)りますからな、356随分(ずいぶん)貴女(あなた)も凄(すご)い腕前(うでまへ)ですな、357イツヒヽヽヽ』
358高姫(たかひめ)『エーツ、359此(この)心配(しんぱい)なのに、360そんな気楽(きらく)な事(こと)どこかいな。361サ、362彼方(あつち)へ往(い)つて下(くだ)さい』
363 ヨルは『ヘーエ』と云(い)ひ乍(なが)ら、364舌(した)をニユツと出(だ)し、365頭(あたま)をかき、366腰(こし)を蝦(えび)に屈(かが)め、367スゴスゴと出(で)て行(ゆ)く。368高姫(たかひめ)は窓(まど)の外(そと)を見(み)まはし、369時置師(ときおかしの)神(かみ)の姿(すがた)の見(み)えぬのにヤツと胸(むね)撫(な)でおろし独言(ひとりごと)、
370高姫(たかひめ)『あゝあ、371蠑螈別(いもりわけ)さまも、372気(き)の利(き)かぬ方(かた)だなア。373モチツと早(はや)く来(き)て下(くだ)されば可(い)いのに、374折角(せつかく)こがれ慕(した)ふて来(き)て下(くだ)さつても、375高姫(たかひめ)にはモウ時(とき)さまと云(い)ふ夫(をつと)が出来(でき)たのだから、376大(おほ)きな顔(かほ)でお目(め)にかかる訳(わけ)にもゆかず、377あゝ何(ど)うしたらよからうかな。378歯抜婆(はぬけばば)でも、379ヤツパリどこかによい所(ところ)があるとみえる……とはいふものの困(こま)つた事(こと)だワイ』
380 かかる所(ところ)へ、381ヨルは魔我彦(まがひこ)の手(て)をひいてやつて来(き)た。
382魔我(まが)『これはこれは高姫(たかひめ)さま、383久(ひさ)し振(ぶり)でお目(め)にかかります。384私(わたし)もたうとう三五教(あななひけう)になりました。385貴女(あなた)は偉(えら)う御(ご)出世(しゆつせ)をなさいましたなア。386イヤお目出度(めでた)う厶(ござ)います』
387高姫(たかひめ)『ヤア魔我彦(まがひこ)さま、388御(ご)機嫌(きげん)宜(よろ)しう、389久(ひさ)しくお目(め)にかからなかつたが、390一体(いつたい)お前(まへ)はどこに居(を)つたのだえ、391どれ丈(だけ)捜(さが)してゐたか知(し)れやしないワ』
392魔我(まが)『ハイ、393有難(ありがた)う厶(ござ)います。394実(じつ)の所(ところ)は貴女(あなた)が三五教(あななひけう)へお入信(はい)りになつてから、395蠑螈別(いもりわけ)様(さま)が北山村(きたやまむら)を立退(たちの)き、396坂照山(さかてるやま)に貴女(あなた)のお筆先(ふでさき)を元(もと)として、397ユラリ彦様(ひこさま)や、398ヘグレ神社(じんしや)様(さま)、399種物(たねもの)神社(じんしや)、400其(その)外(ほか)の神々(かみがみ)を祭(まつ)り、401小北山(こぎたやま)の神殿(しんでん)と称(しよう)して、402蠑螈別(いもりわけ)様(さま)が教主(けうしゆ)となり、403私(わたし)が副教主(ふくけうしゆ)として活動(くわつどう)してゐました。404そこへ三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)がみえまして結構(けつこう)な教(をしへ)を聞(き)かして頂(いただ)きまして、405たうとう帰順(きじゆん)致(いた)しました。406貴女(あなた)にここでお目(め)にかからうとは思(おも)ひませなんだ』
407高姫(たかひめ)『さすが蠑螈別(いもりわけ)さまだ。408エライものだ、409お前(まへ)も頑固(ぐわんこ)な男(をとこ)だが、410高姫(たかひめ)の教(をしへ)を仮令(たとへ)ゆがみなりにせよ、411よう立(た)てて下(くだ)さつた、412マア三五教(あななひけう)に帰順(きじゆん)すれば之(これ)に越(こ)した事(こと)はない。413そして蠑螈別(いもりわけ)はヤハリ三五教(あななひけう)に帰順(きじゆん)されたのかな』
414魔我(まが)『ハイ、415サツパリ、416心(こころ)の底(そこ)から改心(かいしん)されまして、417今(いま)では治国別(はるくにわけ)さまに従(したが)ひ、418宣伝(せんでん)に歩(ある)いてゐられます』
419高姫(たかひめ)『今(いま)ここへお前(まへ)さまのつらつて来(き)た、420モ一人(ひとり)の方(かた)は蠑螈別(いもりわけ)さまぢやありませぬか』
421魔我(まが)『ハイ違(ちが)ひます、422蠑螈別(いもりわけ)さまの……実(じつ)は御(お)敷蒲団(しきぶとん)で厶(ござ)います。423今(いま)にお目(め)にかけませう』
424高姫(たかひめ)『定(さだ)めて若(わか)い奇麗(きれい)な御(お)方(かた)でせうなア、425本当(ほんたう)に蠑螈別(いもりわけ)さまは、426何(なん)と云(い)つても色男(いろをとこ)だ、427私(わたし)のやうな者(もの)は見限(みかぎ)り遊(あそ)ばすのは無理(むり)はない、428併(しか)し乍(なが)ら今(いま)となつては却(かへつ)て結構(けつこう)だ』
429魔我(まが)『イエイエ滅相(めつさう)もない、430六十(ろくじふ)許(ばか)りのお寅(とら)といふお婆(ば)アさまですよ、431元(もと)は浮木(うきき)の村(むら)の女侠客(をんなけふかく)、432白波(しらなみ)の艮(うしとら)婆(ばあ)さまといふ剛(がう)の者(もの)ですよ。433それがスツカリ改心(かいしん)して、434治国別(はるくにわけ)様(さま)の添書(てんしよ)を戴(いただ)き、435これからイソの館(やかた)へ参拝(さんぱい)して、436宣伝使(せんでんし)にならうといふとこです。437此(この)魔我彦(まがひこ)もお寅(とら)さまのお伴(とも)してウブスナ山(やま)の聖場(せいぢやう)へ修行(しうぎやう)に参(まゐ)る積(つも)りです』
438高姫(たかひめ)『それは誠(まこと)に結構(けつこう)だ。439併(しか)し乍(なが)らお寅(とら)さまとやらにも、440お前(まへ)にも、441トツクリと義理(ぎり)天上(てんじやう)日出(ひのでの)神(かみ)から云(い)つておかねばならぬ事(こと)があるから、442其(その)お寅(とら)さまを此処(ここ)へよんで来(き)て下(くだ)さい……コレコレ ヨルや、443お前(まへ)其(その)お寅(とら)さまとやらを、444ここ迄(まで)御(ご)案内(あんない)申(まを)しや』
445 『ハイ』と答(こた)へてヨルは受付(うけつけ)を指(さ)して、446長廊下(ながらうか)をドシドシ威喝(ゐかつ)させ乍(なが)ら走(はし)り行(ゆ)く。
447(大正一二・一・一八 旧一一・一二・二 松村真澄録)
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