霊界物語.ネット
~出口王仁三郎 大図書館~
設定
|
ヘルプ
ホーム
霊界物語
真善美愛(第49~60巻)
第56巻(未の巻)
序文
総説
第1篇 自愛之柵
第1章 神慮
第2章 恋淵
第3章 仇花
第4章 盗歌
第5章 鷹魅
第2篇 宿縁妄執
第6章 高圧
第7章 高鳴
第8章 愛米
第9章 我執
第3篇 月照荒野
第10章 十字
第11章 惚泥
第12章 照門颪
第13章 不動滝
第14章 方岩
第4篇 三五開道
第15章 猫背
第16章 不臣
第17章 強請
第18章 寛恕
第19章 痴漢
第20章 犬嘘
余白歌
×
設定
この文献を王仁DBで開く
印刷用画面を開く
[?]
プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。
[×閉じる]
話者名の追加表示
[?]
セリフの前に話者名が記していない場合、誰がしゃべっているセリフなのか分からなくなってしまう場合があります。底本にはありませんが、話者名を追加して表示します。
[×閉じる]
追加表示する
追加表示しない
【標準】
表示できる章
テキストのタイプ
[?]
ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。
[×閉じる]
通常のテキスト
【標準】
コピー用のテキスト
文字サイズ
S
【標準】
M
L
ルビの表示
通常表示
【標準】
括弧の中に表示
表示しない
アンカーの表示
[?]
本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。
[×閉じる]
左側だけに表示する
【標準】
表示しない
全てのアンカーを表示
宣伝歌
[?]
宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。
[×閉じる]
一段組
【標準】
二段組
脚注[※]用語解説
[?]
[※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。
[×閉じる]
脚注マークを表示する
【標準】
脚注マークを表示しない
脚注[*]編集用
[?]
[※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。
[×閉じる]
脚注マークを表示する
脚注マークを表示しない
【標準】
外字の外周色
[?]
一般のフォントに存在しない文字は専用の外字フォントを使用しています。目立つようにその文字の外周の色を変えます。
[×閉じる]
無色
【標準】
赤色
現在のページには外字は使われていません
表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。
【新着情報】
サイトをリニューアルしました。不具合がある場合は
従来バージョン
をお使い下さい|
サブスク
のお知らせ
霊界物語
>
真善美愛(第49~60巻)
>
第56巻(未の巻)
> 第3篇 月照荒野 > 第11章 惚泥
<<< 十字
(B)
(N)
照門颪 >>>
第一一章
惚泥
(
でれどろ
)
〔一四四一〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第56巻 真善美愛 未の巻
篇:
第3篇 月照荒野
よみ(新仮名遣い):
げっしょうこうや
章:
第11章 惚泥
よみ(新仮名遣い):
でれどろ
通し章番号:
1441
口述日:
1923(大正12)年03月16日(旧01月29日)
口述場所:
竜宮館
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年5月3日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
[×閉じる]
:
日は暮れて、三人は月の光をたよりにテルモン山へ進んで行く。草丈が短い場所に出て、毒蛇の危険から免れたと思ったが、向こうの松林の中に覆面をした黒装束の男が通っている。
求道居士とケリナは、早くもベルが金を奪いにやってきたことを悟った。しかしヘルの言動がだんだんおかしくなり、求道居士が持っているという一万両をなんとか渡してほしいと言いだした。
求道居士は、一万両は心の中に持っているので実際は持っていないのだとヘルに説明した。ケリナは、ヘルはベルと八百長芝居をして金を奪おうとしているだけだと看破した。
ヘルとベルは自棄になって正体を現し、求道居士に金を要求した。求道は着物を脱いで本当に一文も持っていないことを証明した。ヘルとベルは、こうなったらケリナをものにしようと求道居士に襲い掛かり、殴り倒してしまった。
ケリナは二人を争わせておいて、どちらにも身を任せることを拒絶した。ヘルとベルは怒ってケリナの頭に棒を打ち下ろした。
ケリナが打ち倒れると、一大火光が天を焦がして降ってきた。ヘルとベルは驚いて、森林の中を逃げて行ってしまった。これは第一霊国から月照彦命が、二人の危難を救うべく下られたのであった。
求道とケリナが気が付くと、桃色の薄絹を着した麗しきエンゼルが立っていた。うれし涙にかきくれる二人に月照彦命は、神の大道を誤らず身をもって道のために殉じた志を賞した。
月照彦命は、テルモン山に帰るまでにもう一度試みに遭うであろうことを二人に気を付けた。そして、自分の命を惜しむようなことでは世を救うことはできないから、何事も神に任せて救いの道を開くように諭した。
二人は、紫の雲に乗って帰らせ給う月照彦命の後ろ姿を伏し拝んだ。二人は感謝の涙に暮れつつ、天の数歌を称えながらテルモン山を指して進んで行く。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2024-06-21 16:57:59
OBC :
rm5611
愛善世界社版:
156頁
八幡書店版:
第10輯 204頁
修補版:
校定版:
164頁
普及版:
76頁
初版:
ページ備考:
001
求道
(
きうだう
)
居士
(
こじ
)
はヘル、
002
ケリナ
姫
(
ひめ
)
と
共
(
とも
)
に、
003
テルモン
山
(
ざん
)
の
小国別
(
をくにわけ
)
が
館
(
やかた
)
をさして、
004
草
(
くさ
)
茫々
(
ばうばう
)
たる
原野
(
げんや
)
を
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
005
人通
(
ひとどほ
)
りも
少
(
すくな
)
く、
006
一面
(
いちめん
)
の
原野
(
げんや
)
には
身
(
み
)
を
没
(
ぼつ
)
する
許
(
ばか
)
りの
雑草
(
ざつさう
)
生
(
は
)
え
茂
(
しげ
)
り、
007
所々
(
ところどころ
)
に
荊蕀
(
いばら
)
の
叢
(
むれ
)
点在
(
てんざい
)
し、
008
思
(
おも
)
つたやうに
道
(
みち
)
が
捗
(
はかど
)
らない。
009
種々
(
いろいろ
)
の
花
(
はな
)
は
原野
(
げんや
)
一面
(
いちめん
)
に
咲
(
さ
)
き
匂
(
にほ
)
うて
居
(
ゐ
)
る、
010
時々
(
ときどき
)
足許
(
あしもと
)
に
蚖蛇
(
ぐわんだ
)
現
(
あら
)
はれ
行歩
(
かうほ
)
甚
(
はなは
)
だ
危険
(
きけん
)
である。
011
日
(
ひ
)
はずつぽりと
暮
(
く
)
れて
来
(
き
)
た。
012
月
(
つき
)
は
東方
(
とうはう
)
の
叢
(
くさむら
)
の
中
(
なか
)
から
覗
(
のぞ
)
き
初
(
はじ
)
めた。
013
北
(
きた
)
にはテルモン
山
(
ざん
)
の
高峰
(
かうほう
)
が
巍然
(
ぎぜん
)
として
控
(
ひか
)
へて
居
(
ゐ
)
る。
014
夕
(
ゆふべ
)
の
風
(
かぜ
)
に
送
(
おく
)
られて
晩鐘
(
ばんしよう
)
の
声
(
こゑ
)
いと
淋
(
さび
)
しげに
諸行
(
しよぎやう
)
無常
(
むじやう
)
と
響
(
ひび
)
き
来
(
く
)
る。
015
白赤斑
(
しろあかまんだら
)
の
鴉
(
からす
)
は
空
(
そら
)
を
封
(
ふう
)
じてテルモン
山
(
ざん
)
の
方面
(
はうめん
)
さしてガアガアと
鳴
(
な
)
き
乍
(
なが
)
ら
帰
(
かへ
)
り
路
(
ぢ
)
を
急
(
いそ
)
いで
居
(
ゐ
)
る。
016
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
月
(
つき
)
の
光
(
ひかり
)
を
便
(
たよ
)
りに
進
(
すす
)
んで
行
(
い
)
つた。
017
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
足許
(
あしもと
)
に
匍匐
(
ほふく
)
してゐる
蚖蛇
(
ぐわんだ
)
の
危険
(
きけん
)
を
免
(
まぬが
)
るる
事
(
こと
)
は
到底
(
たうてい
)
出来
(
でき
)
ない。
018
何程
(
なにほど
)
月
(
つき
)
は
登
(
のぼ
)
りかけても
長細
(
ながほそ
)
き
雑草
(
ざつさう
)
に
隔
(
へだ
)
てられ、
019
且
(
か
)
つ
昼
(
ひる
)
の
如
(
ごと
)
くハツキリしない、
020
若
(
も
)
し
誤
(
あやま
)
つて
蚖蛇
(
ぐわんだ
)
の
尾
(
を
)
でも
踏
(
ふ
)
まうものなら、
021
忽
(
たちま
)
ち
噛
(
か
)
みつかれ、
022
即座
(
そくざ
)
に
命
(
いのち
)
を
落
(
おと
)
さねばならぬ
危険
(
きけん
)
がある。
023
求道
(
きうだう
)
居士
(
こじ
)
は
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
を
唱
(
とな
)
へ
又
(
また
)
、
024
天
(
あま
)
の
数歌
(
かずうた
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し
乍
(
なが
)
ら
進
(
すす
)
んで
行
(
ゆ
)
く、
025
ヘル
及
(
およ
)
びケリナ
姫
(
ひめ
)
は
未
(
いま
)
だ
神徳
(
しんとく
)
足
(
た
)
らずとして
数歌
(
かずうた
)
を
唱
(
とな
)
ふる
事
(
こと
)
を
遠慮
(
ゑんりよ
)
し、
026
ヘルはバラモンの
経
(
きやう
)
を
称
(
とな
)
へ
乍
(
なが
)
ら
二人
(
ふたり
)
の
後
(
あと
)
に
跟
(
つ
)
いて
行
(
ゆ
)
く。
027
或
(
わく
)
遇
(
ぐ
)
悪
(
あく
)
羅
(
ら
)
刹
(
せつ
)
毒
(
どく
)
竜
(
りう
)
諸
(
しよ
)
鬼
(
き
)
等
(
とう
)
028
念
(
ねん
)
彼
(
ぴ
)
観
(
くわん
)
音
(
のん
)
力
(
りき
)
時
(
じ
)
悉
(
しつ
)
不
(
ぶ
)
敢
(
かん
)
害
(
がい
)
029
若
(
にやく
)
悪
(
あく
)
獣
(
じう
)
囲
(
ゐ
)
繞
(
ねう
)
利
(
り
)
牙
(
げ
)
爪
(
さう
)
可
(
か
)
怖
(
ふ
)
030
念
(
ねん
)
彼
(
ぴ
)
観
(
くわん
)
音
(
のん
)
力
(
りき
)
疾
(
しつ
)
走
(
そう
)
無
(
む
)
辺
(
へん
)
方
(
ぱう
)
031
蚖
(
ぐわん
)
蛇
(
じや
)
及
(
ぎう
)
蝮
(
ぶく
)
蠍
(
かつ
)
気
(
き
)
毒
(
どく
)
焔
(
えん
)
火
(
くわ
)
然
(
ねん
)
032
念
(
ねん
)
彼
(
ぴ
)
観
(
くわん
)
音
(
のん
)
力
(
りき
)
尋
(
じん
)
声
(
じやう
)
自
(
じ
)
回
(
ゑ
)
去
(
こ
)
033
雲
(
うん
)
雷
(
らい
)
鼓
(
く
)
掣
(
せい
)
電
(
でん
)
降
(
ごう
)
雹
(
ばく
)
澍
(
じゆ
)
大
(
だい
)
雨
(
う
)
034
念
(
ねん
)
彼
(
ぴ
)
観
(
くわん
)
音
(
のん
)
力
(
りき
)
応
(
おう
)
時
(
じ
)
得
(
とく
)
消
(
せう
)
散
(
さん
)
[
※
観音経の一節
]
035
と
唱
(
とな
)
へながら
進
(
すす
)
んで
行
(
ゆ
)
く。
036
幸
(
さいはひ
)
に
経文
(
きやうもん
)
の
力
(
ちから
)
でもあらうか、
037
毒蛇
(
どくじや
)
も
現
(
あら
)
はれず
稍
(
やや
)
広
(
ひろ
)
き
草
(
くさ
)
の
短
(
みじか
)
き
所
(
ところ
)
へ
出
(
で
)
た。
038
まだこれからはテルモン
山
(
ざん
)
の
麓
(
ふもと
)
へは
我
(
わが
)
国
(
こく
)
の
里程
(
りてい
)
に
換算
(
なほ
)
して
二
(
に
)
里
(
り
)
以上
(
いじやう
)
もある。
039
さうして
山
(
やま
)
は
一
(
いち
)
里
(
り
)
許
(
ばか
)
り
上
(
あが
)
らねばならぬ。
040
そこが
小国別
(
をくにわけ
)
の
館
(
やかた
)
であつた。
041
三
(
さん
)
人
(
にん
)
はやつと
危険
(
きけん
)
区域
(
くゐき
)
を
脱
(
のが
)
れ、
042
白楊樹
(
はくやうじゆ
)
の
麓
(
ふもと
)
に、
043
折
(
をり
)
からさし
登
(
のぼ
)
る
月
(
つき
)
を
眺
(
なが
)
めながら、
044
腰
(
こし
)
を
卸
(
おろ
)
して
休息
(
きうそく
)
した。
045
此
(
この
)
時
(
とき
)
覆面
(
ふくめん
)
頭巾
(
づきん
)
の
黒装束
(
くろしやうぞく
)
をした
男
(
をとこ
)
、
046
ノソリノソリと
遥
(
はるか
)
向
(
むか
)
ふの
松林
(
まつばやし
)
を
通
(
とほ
)
るのが
見
(
み
)
えた。
047
ヘルは
目敏
(
めざと
)
く
之
(
これ
)
を
見
(
み
)
て、
048
ヘル『もし
先生
(
せんせい
)
、
049
今
(
いま
)
彼方
(
あちら
)
へ
怪
(
あや
)
しの
影
(
かげ
)
が
通
(
とほ
)
りましたが、
050
あれは
一体
(
いつたい
)
何
(
なん
)
でせうかな』
051
求道
(
きうだう
)
『ウン、
052
あれは
泥坊
(
どろばう
)
と
見
(
み
)
える。
053
何
(
なに
)
か
悪
(
わる
)
い
目的
(
もくてき
)
を
以
(
もつ
)
て
旅人
(
たびびと
)
を
掠
(
かす
)
めようとやつて
来
(
き
)
たのだらうが、
054
先方
(
せんぱう
)
は
一人
(
ひとり
)
、
055
此方
(
こちら
)
は
三
(
さん
)
人
(
にん
)
だから
到底
(
たうてい
)
駄目
(
だめ
)
だと
思
(
おも
)
うて、
056
道
(
みち
)
を
外
(
そ
)
れたのであらう。
057
アア
可愛
(
かあい
)
さうな
男
(
をとこ
)
だなア。
058
此
(
この
)
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
に
為
(
な
)
すべき
事業
(
じげふ
)
は
沢山
(
たくさん
)
あるに、
059
どうして
泥坊
(
どろばう
)
なんかするのか、
060
どうかして
助
(
たす
)
けてやりたいものだが、
061
もはや
何処
(
どこ
)
かへ
行
(
い
)
つて
了
(
しま
)
つた』
062
ヘル『もし
先生
(
せんせい
)
、
063
もう
泥坊
(
どろばう
)
を
助
(
たす
)
けるのはお
止
(
や
)
めなさい。
064
あのベルだつてあの
通
(
とほ
)
りですもの。
065
ゼネラルさまから
沢山
(
たくさん
)
のお
金
(
かね
)
を
頂
(
いただ
)
き、
066
もう
是
(
これ
)
切
(
き
)
り
泥坊
(
どろばう
)
はやらないと
云
(
い
)
うて
置
(
お
)
き
乍
(
なが
)
ら、
067
まだ
精神
(
せいしん
)
が
直
(
なほ
)
らないのですから、
068
駄目
(
だめ
)
ですよ』
069
求道
(
きうだう
)
『それでもお
前
(
まへ
)
は
改心
(
かいしん
)
したぢやないか。
070
ベルのやうな
男
(
をとこ
)
のみはあるまい。
071
あれでも
時節
(
じせつ
)
が
来
(
き
)
たならば、
072
きつと
改心
(
かいしん
)
するだらう』
073
ヘル『そりやさうです。
074
私
(
わたし
)
も
実
(
じつ
)
はゼネラル
様
(
さま
)
からお
金
(
かね
)
を
頂
(
いただ
)
き、
075
これつきり
泥坊
(
どろばう
)
を
止
(
や
)
めて
正業
(
せいげふ
)
に
就
(
つ
)
かうと
思
(
おも
)
ふて
居
(
ゐ
)
ましたに、
076
つい
悪友
(
あくいう
)
の
為
(
ため
)
に
折角
(
せつかく
)
の
決心
(
けつしん
)
が
鈍
(
にぶ
)
り、
077
益々
(
ますます
)
悪事
(
あくじ
)
が
増長
(
ぞうちよう
)
して
終
(
しまひ
)
には
人
(
ひと
)
を
殺
(
ころ
)
し、
078
其
(
その
)
天罰
(
てんばつ
)
であの
世
(
よ
)
の
関所
(
せきしよ
)
迄
(
まで
)
やられて
来
(
き
)
たやうな
悪人
(
あくにん
)
が、
079
今
(
いま
)
漸
(
やうや
)
く
改心
(
かいしん
)
して
貴方
(
あなた
)
のお
伴
(
とも
)
するやうになつたのですから、
080
泥坊
(
どろばう
)
だつて
改心
(
かいしん
)
せないには
限
(
かぎ
)
つて
居
(
を
)
りませぬ。
081
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
今日
(
けふ
)
はケリナさまを
送
(
おく
)
つて
行
(
ゆ
)
かねばなりませぬから、
082
途中
(
とちう
)
で
泥坊
(
どろばう
)
に
出会
(
であ
)
つても
相手
(
あひて
)
にならないやうにして
下
(
くだ
)
さいませや』
083
求道
(
きうだう
)
『ウン、
084
承知
(
しようち
)
した。
085
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
らベツタリ
出会
(
であ
)
つた
時
(
とき
)
にや、
086
先方
(
むかふ
)
が
改心
(
かいしん
)
せうと、
087
しまいと、
088
一応
(
いちおう
)
の
訓戒
(
くんかい
)
は
与
(
あた
)
へねばならぬ。
089
魔道
(
まだう
)
に
堕
(
お
)
ちたる
人間
(
にんげん
)
を、
090
修験者
(
しゆげんじや
)
として
見捨
(
みすて
)
る
訳
(
わけ
)
には
行
(
ゆ
)
かぬからなア』
091
ヘル『それもさうですなア。
092
成
(
な
)
る
可
(
べ
)
くそんなものに
出会
(
であ
)
はないやうに、
093
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
願
(
ねが
)
つて
参
(
まゐ
)
りませうか』
094
ケリナ『もしお
二人
(
ふたり
)
様
(
さま
)
、
095
あの
怪
(
あや
)
しい
影
(
かげ
)
は
何
(
ど
)
うも
私
(
わたし
)
はベルのやうに
思
(
おも
)
ひますが、
096
違
(
ちが
)
ひませうかな』
097
求道
(
きうだう
)
『ケリナさまのお
察
(
さつ
)
しの
通
(
とほ
)
りだ。
098
間違
(
まちが
)
ひはありますまい』
099
ヘル『エ、
100
あの
影
(
かげ
)
がベルぢやと
仰有
(
おつしや
)
るのですか、
101
そいつは
怪
(
け
)
しからぬ。
102
吾々
(
われわれ
)
が
疲労
(
くたぶ
)
れて
野宿
(
のじゆく
)
でもせうものなら、
103
寝込
(
ねこみ
)
を
考
(
かんが
)
へて
先生
(
せんせい
)
のお
金
(
かね
)
を
取
(
と
)
らうと
云
(
い
)
ふ
考
(
かんが
)
へで
来
(
き
)
よつたのでせう。
104
仕方
(
しかた
)
の
無
(
な
)
い
奴
(
やつ
)
ですなア』
105
求道
(
きうだう
)
『ウン
仕方
(
しかた
)
の
無
(
な
)
い
奴
(
やつ
)
だ。
106
何程
(
なにほど
)
改心
(
かいしん
)
して
居
(
ゐ
)
ても
金
(
かね
)
の
顔
(
かほ
)
を
見
(
み
)
ると、
107
直
(
すぐ
)
に
又
(
また
)
悪
(
あく
)
に
還
(
かへ
)
るのが
小人
(
せうじん
)
の
常
(
つね
)
だ。
108
お
前
(
まへ
)
は
俺
(
おれ
)
の
懐
(
ふところ
)
に
持
(
も
)
つて
居
(
ゐ
)
る
一万
(
いちまん
)
両
(
りやう
)
の
金
(
かね
)
は
欲
(
ほ
)
しい
事
(
こと
)
は
無
(
な
)
いか』
109
ヘル『
別
(
べつ
)
に……たつて
欲
(
ほ
)
しいとは
申
(
まを
)
しませぬ。
110
併
(
しか
)
し
貴方
(
あなた
)
が
与
(
や
)
らうと
仰有
(
おつしや
)
れば
頂
(
いただ
)
きます。
111
これから
修験者
(
しゆげんじや
)
になつて
世界
(
せかい
)
を
歩
(
ある
)
かうと
思
(
おも
)
へば
旅費
(
りよひ
)
も
要
(
い
)
りますからなア』
112
求道
(
きうだう
)
『さうすると
矢張
(
やつぱ
)
りお
前
(
まへ
)
も
油断
(
ゆだん
)
のならない
男
(
をとこ
)
だ。
113
トコトンの
改心
(
かいしん
)
は
中々
(
なかなか
)
出来
(
でき
)
ぬものと
見
(
み
)
えるのう』
114
ヘル『
人間
(
にんげん
)
は
如何
(
いか
)
に
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御子
(
みこ
)
ぢやと
云
(
い
)
つても、
115
天国
(
てんごく
)
と
地獄
(
ぢごく
)
との
間
(
あひだ
)
に
介在
(
かいざい
)
して
居
(
ゐ
)
る
以上
(
いじやう
)
は、
116
善
(
ぜん
)
許
(
ばか
)
りでは
到底
(
たうてい
)
世
(
よ
)
に
立
(
た
)
つていく
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ませぬ。
117
内的
(
ないてき
)
生活
(
せいくわつ
)
は
如何
(
いか
)
やうにも
出来
(
でき
)
ませうが、
118
衣食住
(
いしよくぢゆう
)
の
為
(
ため
)
に
苦
(
くる
)
しまねばならぬ
肉体
(
にくたい
)
は、
119
多少
(
たせう
)
の
自愛心
(
じあいしん
)
も
必要
(
ひつえう
)
で
厶
(
ござ
)
いますからなア』
120
求道
(
きうだう
)
『
刹帝利
(
せつていり
)
や
毘舎
(
びしや
)
や、
121
首陀
(
しゆだ
)
なれば、
122
多少
(
たせう
)
自愛
(
じあい
)
の
心
(
こころ
)
も
生存中
(
せいぞんちゆう
)
は
必要
(
ひつえう
)
だらうが、
123
最早
(
もはや
)
修験者
(
しゆげんじや
)
となると
定
(
きま
)
つた
以上
(
いじやう
)
は
金
(
かね
)
などは
必要
(
ひつえう
)
はない。
124
神
(
かみ
)
のまにまに
野山
(
のやま
)
に
伏
(
ふ
)
し、
125
食
(
しよく
)
あれば
食
(
しよく
)
を
取
(
と
)
り、
126
食
(
しよく
)
なければ
水
(
みづ
)
を
飲
(
の
)
み、
127
水
(
みづ
)
も
無
(
な
)
ければ
草
(
くさ
)
でも
噛
(
か
)
んで
行
(
ゆ
)
くのが
修験者
(
しゆげんじや
)
の
務
(
つと
)
めだ。
128
一切
(
いつさい
)
の
物欲
(
ぶつよく
)
を
捨
(
す
)
てねば
神
(
かみ
)
の
使
(
つかひ
)
となる
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ないからのう』
129
ヘル『
成程
(
なるほど
)
、
130
仰
(
おほ
)
せ
御尤
(
ごもつと
)
もで
厶
(
ござ
)
います。
131
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
貴方
(
あなた
)
は
修験者
(
しゆげんじや
)
の
身分
(
みぶん
)
であり
乍
(
なが
)
ら、
132
一万
(
いちまん
)
両
(
りやう
)
の
金
(
かね
)
を
持
(
も
)
つて
居
(
を
)
ると
仰有
(
おつしや
)
つたぢやありませぬか、
133
どうも
仰有
(
おつしや
)
る
事
(
こと
)
が
矛盾
(
ホコトン
)
して
居
(
ゐ
)
るやうに
思
(
おも
)
はれてなりませぬがなア』
134
求道
(
きうだう
)
『ハハハハハ、
135
私
(
わたし
)
は
実際
(
じつさい
)
は
無一物
(
むいつぶつ
)
だ。
136
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
心
(
こころ
)
の
中
(
うち
)
に
一万
(
いちまん
)
両
(
りやう
)
持
(
も
)
つて
居
(
ゐ
)
るのだ。
137
どうかして
是
(
これ
)
を
投
(
な
)
げ
出
(
だ
)
したいと
思
(
おも
)
ふて
居
(
ゐ
)
るが、
138
まだ
罪業
(
ざいごふ
)
が
充
(
み
)
たないと
見
(
み
)
えて
除去
(
ぢよきよ
)
する
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ないのだ。
139
俺
(
おれ
)
の
一万
(
いちまん
)
両
(
りやう
)
と
云
(
い
)
ふのは、
140
我慢
(
がまん
)
、
141
高慢
(
かうまん
)
、
142
自慢
(
じまん
)
、
143
忿慢
(
ふんまん
)
、
144
慢心
(
まんしん
)
と
云
(
い
)
ふ
悪竜
(
あくりう
)
が
一匹
(
いつぴき
)
残
(
のこ
)
つて
居
(
ゐ
)
ると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
なのだ。
145
此
(
この
)
一万竜
(
いちまんりよう
)
を
何
(
なん
)
とかして
放
(
ほ
)
り
出
(
だ
)
さなくては、
146
比丘
(
びく
)
になつても
天地
(
てんち
)
へ
恥
(
はづ
)
かしくて
仕方
(
しかた
)
がないから、
147
宣伝使
(
せんでんし
)
でもなければ
俗人
(
ぞくじん
)
でも
無
(
な
)
い、
148
半聖
(
はんせい
)
半俗
(
はんぞく
)
の
境遇
(
きやうぐう
)
に
彷徨
(
さまよ
)
ひ、
149
修験者
(
しゆげんじや
)
となつて
居
(
ゐ
)
るのだ。
150
どうぞして
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
を
頂
(
いただ
)
き、
151
宣伝使
(
せんでんし
)
の
候補者
(
こうほしや
)
にでもなりたいものだが、
152
仲々
(
なかなか
)
容易
(
ようい
)
の
事
(
こと
)
ではない、
153
それがために
実
(
じつ
)
は
困
(
こま
)
つて
居
(
ゐ
)
るのだ』
154
ヘル『
私
(
わたし
)
は
又
(
また
)
本当
(
ほんたう
)
のお
金
(
かね
)
を
一万
(
いちまん
)
両
(
りやう
)
懐中
(
ぽつぽ
)
に
持
(
も
)
つて
厶
(
ござ
)
るのかと、
155
固
(
かた
)
く
信
(
しん
)
じて
居
(
を
)
りました。
156
先生
(
せんせい
)
は
口
(
くち
)
でこそ
恬淡
(
てんたん
)
無欲
(
むよく
)
らしう
見
(
み
)
せて
厶
(
ござ
)
るが、
157
矢張
(
やつぱ
)
り
内心
(
ないしん
)
は、
158
マンモニストだと
思
(
おも
)
つて
居
(
ゐ
)
たに、
159
形
(
かたち
)
の
上
(
うへ
)
の
宝
(
たから
)
は
些
(
ちつと
)
も
持
(
も
)
つて
居
(
ゐ
)
られないのですか。
160
それで
私
(
わたし
)
の
疑団
(
ぎだん
)
も
晴
(
は
)
れました。
161
ベルの
奴
(
やつ
)
本当
(
ほんたう
)
に
貴方
(
あなた
)
が
現金
(
げんきん
)
を
所持
(
しよぢ
)
して
居
(
ゐ
)
ると
思
(
おも
)
ひ、
162
こんな
所
(
ところ
)
迄
(
まで
)
跟
(
つ
)
いて
来
(
き
)
たかと
思
(
おも
)
へば
可憐
(
かあい
)
さうぢやありませぬか』
163
ケリナ『ホホホホホ、
164
ヘルも
可憐
(
かあい
)
さうぢやありませぬか。
165
貴方
(
あなた
)
だつてベルと
八百長
(
やほちやう
)
喧嘩
(
げんくわ
)
をして、
166
旨
(
うま
)
く
修験者
(
しゆげんじや
)
を
誑
(
たぶら
)
かし、
167
一万
(
いちまん
)
両
(
りやう
)
の
金
(
かね
)
を
取
(
と
)
らうと
思
(
おも
)
つて
来
(
き
)
たのでせう。
168
そんな
事
(
こと
)
はチヤンと、
169
私
(
わたくし
)
も
先生
(
せんせい
)
も
看破
(
かんぱ
)
してゐたのですよ。
170
この
辺
(
あたり
)
で
諜合
(
しめしあ
)
はし、
171
ボツタクル
考
(
かんが
)
へであつたのでせう』
172
求道
(
きうだう
)
『アハハハハ、
173
オイ、
174
ヘル、
175
もう
駄目
(
だめ
)
だ。
176
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
前
(
まへ
)
にはどんな
悪
(
あく
)
も
施
(
ほどこ
)
すの
余地
(
よち
)
がないぞ。
177
本当
(
ほんたう
)
に
改心
(
かいしん
)
するか、
178
どうだ』
179
ヘル『ヘン
馬鹿
(
ばか
)
らしい、
180
素寒貧
(
すかんぴん
)
の
文
(
もん
)
なしに
跟
(
つ
)
いて
来
(
き
)
たかと
思
(
おも
)
へば
業腹
(
ごふはら
)
だ。
181
オーイ、
182
ベル
一寸
(
ちよつと
)
来
(
こ
)
い、
183
此奴
(
こいつ
)
はあんな
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
やがつて
一万
(
いちまん
)
両
(
りやう
)
持
(
も
)
つてけつかるに
違
(
ちが
)
ひない、
184
早
(
はや
)
う
来
(
こ
)
い、
185
ヤーイ』
186
と
呶鳴
(
どな
)
り
出
(
だ
)
した。
187
忽
(
たちま
)
ち
駆
(
か
)
けて
来
(
き
)
たベルは
威猛高
(
ゐたけだか
)
になり、
188
ベル『アハハハハ、
189
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
はバラモン
軍
(
ぐん
)
の
上官
(
じやうくわん
)
で、
190
カーネル カーネルと
尊敬
(
そんけい
)
して
来
(
き
)
たが、
191
もうそんな
態
(
ざま
)
になつて
零落
(
おちぶれ
)
て
来
(
き
)
た
以上
(
いじやう
)
は
一個
(
いつこ
)
の
修験者
(
しゆげんじや
)
だ。
192
サア
綺麗
(
きれい
)
薩張
(
さつぱ
)
りと
懐
(
ふところ
)
の
金
(
かね
)
を
渡
(
わた
)
せばよし、
193
グヅグヅ
吐
(
ぬか
)
すと
肝腎要
(
かんじんかなめ
)
の
命
(
いのち
)
が
危
(
あぶ
)
ないぞ。
194
サアどうだ、
195
返答
(
へんたふ
)
聞
(
き
)
かう』
196
求道
(
きうだう
)
『ハハハハハ、
197
分
(
わか
)
らん
奴
(
やつ
)
だなア、
198
俺
(
おれ
)
の
体
(
からだ
)
を
何処
(
どこ
)
なりと
調
(
しら
)
べて
見
(
み
)
よ、
199
一文
(
いちもん
)
も
持
(
も
)
つて
居
(
ゐ
)
やしないわ』
200
ベル『そんなら
早
(
はや
)
く
裸体
(
はだか
)
になつて
見
(
み
)
せろ』
201
求道
(
きうだう
)
はムクムクと
真裸体
(
まつぱだか
)
になり、
202
薄
(
うす
)
い
着物
(
きもの
)
をはたき
乍
(
なが
)
ら、
203
二人
(
ふたり
)
の
前
(
まへ
)
に
放
(
ほ
)
り
出
(
だ
)
した。
204
ヘル『ハハア、
205
矢張
(
やつぱ
)
り
駄目
(
だめ
)
だな。
206
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
らこのナイスをどうしても
自分
(
じぶん
)
の
物
(
もの
)
にせなくては
嘘
(
うそ
)
だ。
207
それについては
此
(
この
)
修験者
(
しゆげんじや
)
が
居
(
を
)
ると
何彼
(
なにか
)
の
邪魔
(
じやま
)
になる。
208
サア
序
(
ついで
)
に
バラ
さうぢやないか』
209
求道
(
きうだう
)
は
頻
(
しき
)
りに
天
(
あま
)
の
数歌
(
かずうた
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し
始
(
はじ
)
めた。
210
ヘル、
211
ベルの
両人
(
りやうにん
)
は
些
(
すこ
)
しも
頓着
(
とんちやく
)
せず、
212
ベルの
持
(
も
)
つて
来
(
き
)
た
二本
(
にほん
)
の
棒千切
(
ぼうちぎれ
)
を
持
(
も
)
つて
双方
(
さうはう
)
より
打
(
う
)
つてかかる。
213
ケリナは
白楊樹
(
はくやうじゆ
)
に
抱
(
だ
)
きついて
慄
(
ふる
)
うて
居
(
ゐ
)
る。
214
求道
(
きうだう
)
居士
(
こじ
)
は
真裸体
(
まつぱだか
)
のまま
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
防
(
ふせ
)
ぎ
戦
(
たたか
)
うた。
215
されど
一本
(
いつぽん
)
の
木切
(
きぎれ
)
も
持
(
も
)
つて
居
(
ゐ
)
ない
真裸体
(
まつぱだか
)
の
求道
(
きうだう
)
は、
216
二人
(
ふたり
)
の
為
(
ため
)
に
打
(
う
)
ち
のめ
され
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
絶命
(
ことぎれ
)
となつて
了
(
しま
)
つた。
217
両人
(
りやうにん
)
は
冷
(
ひや
)
やかに
笑
(
わら
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
218
ベル、ヘル
『アハハハハ、
219
どうやらこれで
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
にもハツピネスが
見舞
(
みま
)
うて
来
(
き
)
たらしい。
220
サア
是
(
これ
)
からがナイスの
番
(
ばん
)
だ。
221
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
斯
(
か
)
うなれば
此方
(
こつち
)
の
自由
(
じいう
)
だ。
222
オイ、
223
ケリナとやら、
224
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
二人
(
ふたり
)
の
意志
(
いし
)
に
従
(
したが
)
ふかどうだ』
225
ケリナ『
肝腎
(
かんじん
)
の
修験者
(
しゆげんじや
)
迄
(
まで
)
が、
226
此
(
この
)
通
(
とほ
)
りなられたので
厶
(
ござ
)
いますから、
227
女
(
をんな
)
の
細腕
(
ほそうで
)
で
抵抗
(
ていかう
)
して
見
(
み
)
た
所
(
ところ
)
で
仕様
(
しやう
)
が
厶
(
ござ
)
いませぬ。
228
御
(
ご
)
意見
(
いけん
)
に
従
(
したが
)
ひませう、
229
併
(
しか
)
しラマ
教
(
けう
)
のやうに
多夫
(
たふ
)
一妻
(
いつさい
)
主義
(
しゆぎ
)
はどうも
面白
(
おもしろ
)
う
厶
(
ござ
)
いませぬ。
230
何方
(
どちら
)
かお
一人
(
ひとり
)
に
願
(
ねが
)
ひ
度
(
た
)
いもので
厶
(
ござ
)
いますなア』
231
ベル『
成程
(
なるほど
)
お
前
(
まへ
)
の
云
(
い
)
ふのも
尤
(
もつと
)
もだ。
232
まだお
前
(
まへ
)
はバージン
姿
(
すがた
)
だから
到底
(
たうてい
)
誰
(
たれ
)
が
好
(
すき
)
だの
嫌
(
きら
)
ひだのと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
はよう
云
(
い
)
ふまいから、
233
一
(
ひと
)
つ
茲
(
ここ
)
で
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
二人
(
ふたり
)
が
抽籤
(
ちうせん
)
をやつて、
234
一
(
いち
)
の
出
(
で
)
た
方
(
はう
)
がお
前
(
まへ
)
を
女房
(
にようばう
)
にすると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
に
定
(
き
)
めようかなア』
235
ケリナ『
物品
(
ぶつぴん
)
か
何
(
なに
)
かのやうに
抽籤
(
ちうせん
)
とは
余
(
あま
)
りぢや
厶
(
ござ
)
いませぬか、
236
どうか
私
(
わたくし
)
に
選
(
えら
)
まして
頂
(
いただ
)
く
訳
(
わけ
)
には
行
(
ゆ
)
きますまいかなア』
237
ベル『ウン、
238
それも
一方法
(
いちはうはふ
)
だ。
239
善悪
(
ぜんあく
)
美醜
(
びしう
)
をトランセンドして、
240
お
前
(
まへ
)
の
本
(
ほん
)
守護神
(
しゆごじん
)
の
得心
(
とくしん
)
した
方
(
はう
)
に
向
(
む
)
いたが
好
(
よ
)
からう。
241
スタイルは
醜
(
みにく
)
うても
心
(
こころ
)
の
綺麗
(
きれい
)
な
男
(
をとこ
)
らしい
男
(
をとこ
)
もあり、
242
何程
(
なにほど
)
スタイルは
好
(
よ
)
くても、
243
心
(
こころ
)
の
汚
(
きたな
)
い
卑劣
(
ひれつ
)
の
男
(
をとこ
)
もあるからなア、
244
そこはそれ
選択
(
せんたく
)
を
誤
(
あやま
)
らない
様
(
やう
)
にしたがよろしからうぞ』
245
ケリナ『そりやさうで
厶
(
ござ
)
いますな。
246
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
男
(
をとこ
)
らしい
男
(
をとこ
)
で、
247
何処
(
どこ
)
ともなしに
同情心
(
どうじやうしん
)
のある
柔
(
やさ
)
し
味
(
み
)
のある
方
(
かた
)
が
好
(
す
)
きですわ、
248
人
(
ひと
)
を
叩
(
たた
)
き
殺
(
ころ
)
して
埋
(
い
)
けてもやらないやうな
方
(
かた
)
は
絶対
(
ぜつたい
)
に
嫌
(
きら
)
ひです』
249
ベル『
成程
(
なるほど
)
俺
(
おれ
)
も
最前
(
さいぜん
)
からヘルの
棒
(
ぼう
)
が
当
(
あた
)
つて
死
(
し
)
んだ
修験者
(
しゆげんじや
)
に
同情
(
どうじやう
)
の
涙
(
なみだ
)
を
濺
(
そそ
)
いで、
250
どうか
死骸
(
しがい
)
でも
隠
(
かく
)
して
上
(
あ
)
げ
度
(
た
)
いと
思
(
おも
)
うて
居
(
ゐ
)
た
所
(
ところ
)
だ。
251
余
(
あま
)
り
妻
(
つま
)
の
選択
(
せんたく
)
に
就
(
つ
)
いて
気
(
き
)
を
取
(
と
)
られて
居
(
を
)
つたものだから
ウツ
かりして
居
(
ゐ
)
た。
252
是
(
これ
)
もお
前
(
まへ
)
を
愛
(
あい
)
する
心
(
こころ
)
が
深
(
ふか
)
いのだから、
253
決
(
けつ
)
して
悪
(
わる
)
くは
思
(
おも
)
うて
下
(
くだ
)
さるな』
254
ケリナ『
女
(
をんな
)
の
美貌
(
びばう
)
に
現
(
うつつ
)
を
抜
(
ぬ
)
かして
仮令
(
たとへ
)
ヘルが
殺
(
ころ
)
したにもせよ、
255
死屍
(
しし
)
の
横
(
よこ
)
たはつて
居
(
ゐ
)
るのを
見
(
み
)
て
隠
(
かく
)
してやらうともせぬ
男
(
をとこ
)
は
嫌
(
きら
)
ひですわ、
256
お
前
(
まへ
)
の
棒
(
ぼう
)
が
当
(
あた
)
つて
死
(
し
)
ななくても
同
(
おな
)
じ
事
(
こと
)
ですよ。
257
矢張
(
やつぱ
)
り
二人
(
ふたり
)
して
殺
(
ころ
)
すといふ
考
(
かんが
)
へだつたのでせう。
258
同
(
おな
)
じ
悪人
(
あくにん
)
に
身
(
み
)
を
任
(
まか
)
す
程
(
ほど
)
なら、
259
スタイルの
美
(
うつく
)
しいヘルさまに
身
(
み
)
を
任
(
まか
)
しますわ』
260
ヘル『エヘヘヘヘ、
261
オイ、
262
ベルどうだ、
263
恋
(
こひ
)
の
凱旋
(
がいせん
)
将軍
(
しやうぐん
)
様
(
さま
)
だ。
264
畏
(
おそ
)
れ
入
(
い
)
つたか』
265
ベル『ヘン
馬鹿
(
ばか
)
にするない、
266
「
色
(
いろ
)
は
年増
(
としま
)
が
艮
(
とど
)
め
刺
(
さ
)
す」と
云
(
い
)
つて
最後
(
さいご
)
の
勝利
(
しようり
)
は
俺
(
おれ
)
の
手
(
て
)
に
握
(
にぎ
)
つて
居
(
を
)
るのだ』
267
ヘル『
馬鹿
(
ばか
)
云
(
い
)
へ、
268
御
(
ご
)
本人
(
ほんにん
)
が
承諾
(
しようだく
)
しない
恋
(
こひ
)
が
何
(
なん
)
になるか、
269
お
生憎
(
あいにく
)
様
(
さま
)
だ、
270
イヒヒヒヒ』
271
ケリナ『ホホホホホ、
272
揃
(
そろ
)
ひも
揃
(
そろ
)
ふたデレ
泥
(
どろ
)
だ
事
(
こと
)
、
273
誰
(
たれ
)
がお
前
(
まへ
)
のやうな
馬鹿者
(
ばかもの
)
に
身
(
み
)
を
任
(
まか
)
すものがありますか、
274
よい
加減
(
かげん
)
に
自惚
(
うぬぼれ
)
をして
置
(
お
)
きなさい』
275
ベル『オイ、
276
何程
(
なにほど
)
美人
(
びじん
)
だと
云
(
い
)
つてもこれだけ
侮辱
(
ぶじよく
)
せられては、
277
女房
(
にようばう
)
にする
訳
(
わけ
)
にも
馬鹿
(
ばか
)
らしくて
出来
(
でき
)
ぬぢやないか、
278
序
(
ついで
)
に
此奴
(
こいつ
)
も
一緒
(
いつしよ
)
にバラしてやらうかい』
279
ヘル『ウンさうだ。
280
かう
愛想
(
あいさう
)
尽
(
づ
)
かしを
云
(
い
)
はれては
仕
(
し
)
やうがない。
281
女
(
をんな
)
は
世界
(
せかい
)
に
幾人
(
いくら
)
でもある。
282
此
(
この
)
女
(
をんな
)
を
生
(
い
)
かして
置
(
お
)
いては
修験者
(
しゆげんじや
)
を
殺
(
ころ
)
したのは
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
だと
云
(
い
)
つて
貰
(
もら
)
うと、
283
些
(
ちつと
)
許
(
ばか
)
り
剣呑
(
けんのん
)
だから、
284
やつつけて
仕舞
(
しま
)
はうよ』
285
ベルは、
286
ベル
『よし
合点
(
がつてん
)
だ』
287
と
矢庭
(
やには
)
に
棒千切
(
ぼうちぎれ
)
をもつて
打
(
う
)
つてかかる。
288
ケリナは
白楊樹
(
はくやうじゆ
)
を
盾
(
たて
)
に
取
(
と
)
つて
身
(
み
)
を
脱
(
のが
)
れようとする。
289
ヘルは
又
(
また
)
もや
棒千切
(
ぼうちぎれ
)
をもつて
脳天
(
なうてん
)
目蒐
(
めが
)
けて
打
(
う
)
ち
卸
(
おろ
)
した。
290
憐
(
あはれ
)
やケリナはキヤツと
悲鳴
(
ひめい
)
を
上
(
あ
)
げ
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
打
(
う
)
ち
倒
(
たふ
)
れた。
291
此
(
こ
)
の
時
(
とき
)
天
(
てん
)
を
焦
(
こが
)
して
下
(
くだ
)
り
来
(
く
)
る
一大
(
いちだい
)
火光
(
くわくわう
)
があつた、
292
二人
(
ふたり
)
は
驚
(
おどろ
)
いて
雲
(
くも
)
を
霞
(
かすみ
)
と
森林
(
しんりん
)
の
中
(
なか
)
を
逃
(
に
)
げて
行
(
ゆ
)
く。
293
火団
(
くわだん
)
は
忽
(
たちま
)
ち
二人
(
ふたり
)
の
倒
(
たふ
)
れて
居
(
を
)
る
前
(
まへ
)
に
降下
(
かうか
)
した。
294
是
(
これ
)
は
第一
(
だいいち
)
霊国
(
れいごく
)
より
月照彦
(
つきてるひこの
)
命
(
みこと
)
が、
295
二人
(
ふたり
)
の
危難
(
きなん
)
を
救
(
すく
)
ふべく
神
(
かみ
)
の
命
(
めい
)
を
帯
(
お
)
びて
下
(
くだ
)
られたのである。
296
二人
(
ふたり
)
は
漸
(
やうや
)
く
火団
(
くわだん
)
の
落下
(
らくか
)
した
音
(
おと
)
に
気
(
き
)
が
付
(
つ
)
き、
297
四辺
(
あたり
)
を
見
(
み
)
れば、
298
桃色
(
ももいろ
)
の
薄絹
(
うすぎぬ
)
を
着
(
ちやく
)
した
麗
(
うるは
)
しきエンゼルが
立
(
た
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
299
求道
(
きうだう
)
居士
(
こじ
)
は
拍手
(
はくしゆ
)
再拝
(
さいはい
)
して
救命
(
きうめい
)
の
恩
(
おん
)
を
感謝
(
かんしや
)
した。
300
ケリナも
亦
(
また
)
エンゼルを
拝
(
をが
)
み
一言
(
ひとこと
)
も
発
(
はつ
)
せず、
301
嬉
(
うれ
)
し
涙
(
なみだ
)
にかき
暮
(
く
)
れて
居
(
ゐ
)
る。
302
エンゼルは
言葉
(
ことば
)
静
(
しづか
)
に
両人
(
りやうにん
)
に
向
(
むか
)
ひ、
303
エンゼル『
汝
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
両人
(
りやうにん
)
、
304
神
(
かみ
)
の
大道
(
だいだう
)
を
誤
(
あやま
)
らず、
305
身
(
み
)
をもつて
道
(
みち
)
の
為
(
ため
)
に
殉
(
じゆん
)
じたる
其
(
その
)
志
(
こころざし
)
は
見上
(
みあ
)
げたものだ。
306
其
(
その
)
方
(
はう
)
の
志
(
こころざし
)
に
免
(
めん
)
じ、
307
霊国
(
れいごく
)
より
汝
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
を
救
(
すく
)
ふべく
下
(
くだ
)
つて
来
(
き
)
た。
308
吾
(
われ
)
は
月照彦
(
つきてるひこの
)
神
(
かみ
)
なり。
309
随分
(
ずいぶん
)
気
(
き
)
をつけてテルモン
山
(
ざん
)
に
帰
(
かへ
)
つたがよからう。
310
それ
迄
(
まで
)
に、
311
も
一度
(
いちど
)
試
(
こころ
)
みに
遇
(
あ
)
ふ
事
(
こと
)
があるだらう。
312
屹度
(
きつと
)
自分
(
じぶん
)
の
命
(
いのち
)
を
惜
(
をし
)
むやうな
事
(
こと
)
では
世
(
よ
)
を
救
(
すく
)
ふ
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ないから、
313
何事
(
なにごと
)
も
神
(
かみ
)
に
任
(
まか
)
して
救
(
すく
)
ひの
道
(
みち
)
を
拓
(
ひら
)
いたらよからう。
314
さらば』
315
と
一言
(
ひとこと
)
を
残
(
のこ
)
し、
316
紫
(
むらさき
)
の
雲
(
くも
)
に
乗
(
の
)
つて
東
(
ひがし
)
の
空
(
そら
)
を
指
(
さ
)
して
帰
(
かへ
)
らせたまふた。
317
二人
(
ふたり
)
は
後姿
(
うしろすがた
)
を
伏拝
(
ふしをが
)
み、
318
感謝
(
かんしや
)
の
涙
(
なみだ
)
に
暮
(
く
)
れつつ、
319
天
(
あま
)
の
数歌
(
かずうた
)
を
称
(
とな
)
へながらテルモン
山
(
ざん
)
を
指
(
さ
)
して
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
320
赤心
(
まごころ
)
を
貫
(
つらぬ
)
き
通
(
とほ
)
す
桑
(
くは
)
の
弓
(
ゆみ
)
321
届
(
とど
)
かざらめや
神
(
かみ
)
の
御国
(
みくに
)
へ。
322
(
大正一二・三・一六
旧一・二九
於竜宮館
加藤明子
録)
Δこのページの一番上に戻るΔ
<<< 十字
(B)
(N)
照門颪 >>>
霊界物語
>
真善美愛(第49~60巻)
>
第56巻(未の巻)
> 第3篇 月照荒野 > 第11章 惚泥
このページに誤字・脱字や表示乱れなどを見つけたら教えて下さい。
返信が必要な場合はメールでお送り下さい。【
メールアドレス
】
【第11章 惚泥|第56巻|真善美愛|霊界物語|/rm5611】
合言葉「みろく」を入力して下さい→