霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一二章 照門颪(てるもんおろし)〔一四四二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第56巻 真善美愛 未の巻 篇:第3篇 月照荒野 よみ(新仮名遣い):げっしょうこうや
章:第12章 照門颪 よみ(新仮名遣い):てるもんおろし 通し章番号:1442
口述日:1923(大正12)年03月16日(旧01月29日) 口述場所:竜宮館 筆録者:外山豊二 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年5月3日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
求道居士とケリナは、テルモン山のケリナの生家・小国別の館を目指して夜道を歩いていく。二人はそれぞれ述懐の歌を歌いながら進む。
猛獣の唸り声が前後左右から聞こえて来る。求道居士は天の数歌を歌い、経文を念じて力いっぱいほら貝を吹きたてた。ケリナは猛獣の声に戦慄し、求道居士にすがりついて経文を称えている。やがて猛獣の唸り声はぴたりと止まった。
これよりケリナは何となく求道居士を尊信愛慕する念が深くなるに至った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2024-06-24 17:32:43 文字数:4018 OBC :rm5612
愛善世界社版:169頁 八幡書店版:第10輯 209頁 修補版: 校定版:178頁 普及版:83頁 初版: ページ備考:
001 求道(きうだう)居士(こじ)はケリナ姫(ひめ)を伴(ともな)ひ乍(なが)ら、002テルモン山(ざん)の小国別(をくにわけ)の館(やかた)を指(さ)して送(おく)り行(ゆ)く途々(みちみち)歌(うた)ひ出(だ)したり。
003求道(きうだう)『有為(うゐ)転変(てんぺん)は世(よ)の習(なら)ひ
004とは云(い)ふものの人(ひと)の身(み)の
005行末(ゆくすゑ)こそは不思議(ふしぎ)なれ
006三国一(さんごくいち)の月(つき)の国(くに)
007ハルナの都(みやこ)に程近(ほどちか)き
008大国彦(おほくにひこ)の現(あ)れませる
009大雲山(だいうんざん)に立籠(たてこも)り
010バラモン教(けう)の御教(みをしへ)を
011朝(あさ)な夕(ゆふ)なに信仰(しんかう)し
012抜擢(ばつてき)されてバラモンの
013教司(をしへつかさ)と任(ま)けられつ
014追々(おひおひ)功績(いさを)を現(あら)はして
015大黒主(おほくろぬし)の御(お)見出(みだ)しに
016あづかり遂(つひ)にカーネルの
017尊(たふと)き職(しよく)を授(さづ)けられ
018神(かむ)素盞嗚(すさのを)の現(あ)れませる
019斎苑(いそ)の館(やかた)を屠(ほふ)らむと
020大黒主(おほくろぬし)の命(めい)を受(う)け
021鬼春別(おにはるわけ)や久米彦(くめひこ)の
022両将軍(りやうしやうぐん)に扈従(こじゆう)して
023旗鼓(きこ)堂々(だうだう)と月(つき)の国(くに)
024後(あと)に眺(なが)めて進(すす)み行(ゆ)く
025万里(ばんり)の山野(さんや)を跋渉(ばつせう)し
026蹄(ひづめ)の音(おと)も勇(いさ)ましく
027浮木(うきき)の森(もり)迄(まで)進軍(しんぐん)し
028片彦(かたひこ)、久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)と
029隊伍(たいご)を整(ととの)へ河鹿山(かじかやま)
030進(すす)む折(をり)しも三五(あななひ)の
031治国別(はるくにわけ)の言霊(ことたま)に
032打破(うちやぶ)られて敗走(はいそう)し
033浮木(うきき)の陣屋(ぢんや)へ引返(ひつかへ)し
034又(また)もや茲(ここ)に全軍(ぜんぐん)を
035二(ふた)つに分(わ)けてライオンの
036広(ひろ)き流(なが)れを相渡(あひわた)り
037ビクトル山(さん)の袂(たもと)にて
038仮(かり)の陣屋(ぢんや)を造(つく)りつつ
039ビクトリヤ城(じやう)を脅(おびや)かし
040味方(みかた)の軍勢(ぐんぜ)に驚(おどろ)いて
041ゼネラル様(さま)と諸共(もろとも)に
042総隊(そうたい)崩(くづ)れ逃(に)げ出(いだ)す
043戦(いくさ)の庭(には)に出(い)で乍(なが)ら
044薄(すすき)の穂(ほ)にも怖(お)ぢ恐(おそ)れ
045慄(ふる)ひ慄(ふる)ひて広野原(ひろのはら)
046漸(やうや)く渡(わた)りシメヂ坂(ざか)
047壁(かべ)立(た)つ如(ごと)き坂道(さかみち)を
048漸(やうや)く下(くだ)り猪倉(ゐのくら)の
049難攻(なんこう)不落(ふらく)の山寨(さんさい)に
050永久(えいきう)的(てき)の陣営(ぢんえい)を
051構(かま)へて時(とき)を待(ま)つ内(うち)に
052又(また)も聞(きこ)ゆる宣伝歌(せんでんか)
053三五教(あななひけう)に名(な)も高(たか)き
054神将軍(しんしやうぐん)と聞(きこ)えたる
055治国別(はるくにわけ)の一行(いつかう)に
056又(また)も攻(せ)められゼネラルは
057脆(もろ)くも茲(ここ)に兜(かぶと)脱(ぬ)ぎ
058バラモン教(けう)の軍職(ぐんしよく)を
059捨(すて)て忽(たちま)ち三五(あななひ)の
060教(をしへ)の道(みち)のピユリタンと
061変(かは)らせ玉(たま)ふ果敢(はか)なさよ
062吾(われ)等(ら)も共(とも)に進退(しんたい)を
063同(おな)じうせむとカーネルの
064職(しよく)をば止(や)めて修験者(しゆげんじや)
065名(な)も求道(きうだう)と改(あらた)めて
066ビクの御国(みくに)の清滝(きよたき)に
067霊(みたま)を洗(あら)ひビクトルの
068下津(したつ)岩根(いはね)に宮柱(みやばしら)
069太(ふと)しく立(た)てて永久(とこしへ)に
070鎮(しづ)まり居(ゐ)ます大神(おほかみ)の
071御前(みまへ)に日毎(ひごと)詣(まう)でつつ
072治道(ちだう)、道貫(だうくわん)、素道(そだう)居士(こじ)
073三人(みたり)の許(ゆる)しを受(う)け乍(なが)ら
074フサの国(くに)をば横断(わうだん)し
075猛獣(まうじう)毒蛇(どくじや)の荒(すさ)ぶ野(の)を
076神(かみ)の光(ひかり)を杖(つゑ)となし
077夜路(よぢ)の露(つゆ)をば浴(あ)び乍(なが)ら
078エルシナ川(がは)の麓(ふもと)まで
079来(きた)る折(をり)しも大空(おほぞら)の
080月(つき)は漸(やうや)く薄(うす)らぎて
081忽(たちま)ち聞(きこ)ゆる鳥(とり)の声(こゑ)
082川(かは)の水瀬(みなせ)のはやる音(おと)
083たよりに伝(つた)ひ下(くだ)る折(をり)
084淵(ふち)に浮(う)かんだ四(よ)人(にん)の姿(すがた)
085見逃(みの)がしならずと衣(きぬ)を脱(ぬ)ぎ
086法螺(ほら)を口(くち)に喰(くは)へつつ
087ザンブと許(ばか)り飛込(とびこ)んで
088四(よ)人(にん)の男女(なんによ)を空砂(からずな)の
089上(うへ)に救(すく)ひて耳元(みみもと)に
090大(おほ)法螺貝(ほらがひ)を吹立(ふきた)つる
091神(かみ)の恵(めぐみ)は忽(たちま)ちに
092シヤール一人(ひとり)を除(のぞ)く外(ほか)
093三人(みたり)は息(いき)を吹(ふ)き返(かへ)し
094やつと胸(むね)をば撫(な)で下(おろ)し
095三人(みたり)の男女(なんによ)に皇神(すめかみ)の
096御教(みのり)を完全(うまら)に諭(さと)しつつ
097大岩谷(おほいはだに)の麓(ふもと)まで
098来(きた)りて息(いき)を休(やす)めつつ
099十字(じふじ)の秘法(ひはふ)や数歌(かずうた)の
100功力(くりき)を伝(つた)へゐたる折(をり)
101悪逆(あくぎやく)無道(ぶだう)のベルの奴(やつ)
102わが懐(ふところ)に金子(かね)ありと
103早(はや)くも悟(さと)り悪心(あくしん)を
104起(おこ)して奪(と)らむと攻(せ)め来(きた)る
105ヘルとベルとは初(はじ)めより
106わが懐(ふところ)を狙(ねら)ひつつ
107八百長(やほちやう)喧嘩(げんくわ)を徐々(そろそろ)と
108真面目(しんめんもく)にやり出(いだ)し
109ベルの司(つかさ)は逸早(いちはや)く
110此(この)場(ば)を後(あと)に逃(に)げて行(ゆ)く
111さはさり乍(なが)らヘルの奴(やつ)
112色(いろ)と欲(よく)とに心(こころ)をば
113曇(くも)らせ吾(われ)等(ら)の後(あと)を追(お)ひ
114ケリナの姫(ひめ)を送(おく)らむと
115草野(くさの)を別(わ)けて進(すす)み来(く)る
116日(ひ)も黄昏(たそがれ)になりぬれば
117ポプラの蔭(かげ)に立寄(たちよ)りて
118息(いき)を休(やす)むる折(をり)もあれ
119又(また)もや来(きた)る黒(くろ)い影(かげ)
120これぞ正(まさ)しくベルの奴(やつ)
121ヘルと二人(ふたり)が言(い)ひ合(あは)せ
122吾(わ)が懐(ふところ)を狙(ねら)はむと
123来(きた)りしものと悟(さと)りしゆ
124いろいろ雑多(ざつた)と真道(まさみち)を
125説(と)き諭(さと)せども如何(いか)にせむ
126地獄(ぢごく)の境(さかひ)に堕(お)ち果(は)てし
127二人(ふたり)の霊(みたま)は飽(あ)く迄(まで)も
128悪(あく)の企(たく)みを遂(と)げなむと
129忽(たちま)ち棍棒(こんぼう)振(ふ)り翳(かざ)し
130吾(わ)が脳天(なうてん)を打(うち)すゑぬ
131何(なに)かは以(もつ)て耐(たま)るべき
132忽(たちま)ちウンと昏倒(こんたう)し
133夢路(ゆめぢ)を辿(たど)る折(をり)もあれ
134高天原(たかあまはら)の霊国(れいごく)を
135領有(うしは)ぎ玉(たま)ふエンゼルが
136鳩(はと)の如(ごと)くに下(くだ)りまし
137吾(われ)等(ら)二人(ふたり)の危難(きなん)をば
138救(すく)ひ玉(たま)ひし有難(ありがた)さ
139ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
140神(かみ)の恵(めぐみ)を目(ま)の当(あた)り
141受(う)けたる吾々(われわれ)両人(りやうにん)は
142仮令(たとへ)如何(いか)なる悩(なや)みにも
143撓(たゆ)まず屈(くつ)せず道(みち)の為(ため)
144世人(よびと)の為(た)めに真心(まごころ)の
145有(あ)らむ限(かぎ)りを尽(つく)しつつ
146進(すす)まにやならぬ両人(りやうにん)を
147守(まも)らせ玉(たま)へ惟神(かむながら)
148皇(すめ)大神(おほかみ)の御(おん)前(まへ)に
149畏(かしこ)み畏(かしこ)み願(ね)ぎ奉(まつ)る
150旭(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
151月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも
152星(ほし)は天(てん)より落(お)つるとも
153印度(いんど)の海(うみ)はあするとも
154此(この)大恩(だいおん)は何時(いつ)の世(よ)か
155報(むく)い奉(まつ)らで置(お)くべきぞ
156思(おも)へば思(おも)へば有難(ありがた)き
157恵(めぐみ)の露(つゆ)の天地(あめつち)に
158充(み)ち足(たら)ひたる神(かみ)の世(よ)は
159草野(くさの)の末(すゑ)に置(お)く露(つゆ)も
160一々(いちいち)月(つき)の御光(みひかり)を
161宿(やど)し玉(たま)ひて瑠璃光(るりくわう)の
162如(ごと)く光(ひか)らせ玉(たま)ふなり
163ああ天国(てんごく)か楽園(らくゑん)か
164際限(さいげん)もなき広野原(ひろのはら)
165進(すす)み行(ゆ)く身(み)ぞ楽(たの)しけれ』
166ケリナ『わが足乳根(たらちね)の父母(ちちはは)は
167月(つき)の都(みやこ)に現(あ)れませる
168バラモン教(けう)の太柱(ふとばしら)
169大黒主(おほくろぬし)の部下(ぶか)となり
170仁慈(じんじ)無限(むげん)の御教(みをしへ)を
171テルモン山(ざん)の山腹(さんぷく)に
172大宮柱(おほみやばしら)太知(ふとし)りて
173鎮(しづ)まりゐます皇神(すめかみ)に
174朝(あさ)な夕(ゆふ)なに仕(つか)へつつ
175四方(よも)の国人(くにびと)悉(ことごと)く
176神(かみ)の教(をしへ)に靡(なび)かせつ
177教(をしへ)を開(ひら)き玉(たま)ひしが
178ウラルの教(をしへ)の神司(かむづかさ)
179数多(あまた)の手下(てした)を引率(ひきつ)れて
180得物(えもの)を携(たづ)さへ堂々(だうだう)と
181勢(いきほひ)猛(たけ)く迫(せま)り来(く)る
182其(その)勢(いきほひ)に辟易(へきえき)し
183吾(わ)が足乳根(たらちね)は逸早(いちはや)く
184館(やかた)を捨(す)ててテルモンの
185高嶺(たかね)を渡(わた)り森林(しんりん)に
186暫(しば)し難(なん)をば避(さ)け玉(たま)ふ
187此(この)時(とき)信者(しんじや)と現(あ)れませる
188鎌彦司(かまひこつかさ)が現(あら)はれて
189神変(しんぺん)不思議(ふしぎ)の神力(しんりき)を
190現(あら)はし玉(たま)ひ攻(せ)め来(きた)る
191ウラルの教(をしへ)の司(つかさ)等(ら)を
192一人(ひとり)も残(のこ)らず退(しりぞ)けて
193難(なん)をば救(すく)ひ玉(たま)ひしゆ
194吾(わ)が足乳根(たらちね)は漸(やうや)くに
195元(もと)の館(やかた)に帰(かへ)りまし
196神(かみ)の教(をしへ)を詳細(まつぶさ)に
197開(ひら)かせ玉(たま)ふ折(をり)もあれ
198館(やかた)の難(なん)を救(すく)ひたる
199鎌彦司(かまひこつかさ)は妾(わらは)をば
200ラブし給(たま)ひて朝夕(あさゆふ)に
201言(い)ひよりたまひし果敢(はかな)さよ
202妾(わらは)は素(もと)より鎌彦(かまひこ)に
203少(すこ)しも心(こころ)はなけれ共(ども)
204度重(たびかさ)なれば何時(いつ)となく
205男(をとこ)の情(なさ)けを慕(した)ひ出(だ)し
206遂(つひ)には割(わり)なき仲(なか)となり
207父(ちち)と母(はは)との目(め)を忍(しの)び
208月夜(つきよ)を恨(うら)み暗(やみ)の夜(よ)を
209指折(ゆびを)り数(かぞ)へ待(ま)ち暮(くら)す
210怪(あや)しき仲(なか)とはなりにけり
211さはさり乍(なが)ら足乳根(たらちね)の
212吾(わ)が両親(りやうしん)は頭(かうべ)をば
213左右(さいう)にふりて両人(りやうにん)が
214恋(こひ)を許(ゆる)させ玉(たま)ふ可(べ)き
215気色(けはひ)なければ止(や)むを得(え)ず
216夜陰(やいん)に紛(まぎ)れて両人(りやうにん)は
217手(て)に手(て)をとつて逃(に)げ出(いだ)し
218エリシナ谷(だに)の山奥(やまおく)に
219形(かたち)ばかりの草庵(さうあん)を
220結(むす)びて暮(くら)す折(をり)もあれ
221吾(わ)が背(せ)の君(きみ)の鎌彦(かまひこ)は
222俄(にはか)に駱駝(らくだ)を引(ひき)つれて
223妾(わらは)を家(いへ)に残(のこ)しつつ
224何処(いづく)ともなく出(い)でましぬ
225深山(みやま)の奥(おく)に只(ただ)一人(ひとり)
226果実(このみ)を喰(くら)ひ芋(いも)を掘(ほ)り
227漸(やうや)く餓(うゑ)を凌(しの)ぎつつ
228悲(かな)しき月日(つきひ)を送(おく)ること
229早(はや)一年(ひととせ)に及(およ)べども
230夫(つま)の便(たよ)りは泣(な)く許(ばか)り
231袖(そで)をば濡(ぬ)らす草(くさ)の露(つゆ)
232衣(ころも)は破(やぶ)れ肉(にく)は痩(や)せ
233見(み)る影(かげ)も無(な)き状(さま)となり
234淋(さび)しき浮世(うきよ)を果敢(はかな)みて
235冥途(めいど)の旅(たび)を為(な)さむかと
236庵(いほり)を後(あと)に夜(よる)の道(みち)
237エルシナ川(がは)の川岸(かはぎし)に
238佇(たたず)み胸(むね)を押(おさ)へつつ
239少時(しばし)思案(しあん)に暮(く)れけるが
240何処(いづく)ともなく吾(わ)が耳(みみ)に
241死(し)ねよ死(し)ねよと教(をし)へ来(く)る
242醜(しこ)の曲津(まがつ)か知(し)らね共(ども)
243切迫(せつぱ)詰(つま)つた此(この)場合(ばあひ)
244死(し)ぬより外(ほか)に途(みち)無(な)しと
245心(こころ)を定(さだ)めて飛(と)び込(こ)めば
246千尋(ちひろ)の底(そこ)の青(あを)い淵(ふち)
247息(いき)も苦(くる)しくなりければ
248再(ふたた)び娑婆(しやば)が恋(こひ)しうなり
249ま一度(いちど)生命(いのち)を保(たも)たむと
250焦(あせ)れど詮(せん)なし女(をんな)の身(み)
251弊衣(へいい)に水(みづ)を含(ふく)みしゆ
252身(み)も儘(まま)ならず悶(もだ)え居(ゐ)る
253時(とき)しもあれや何物(なにもの)か
254吾(わ)が身(み)に触(ふ)るる物(もの)ありと
255矢庭(やには)にしかと抱(いだ)き付(つ)き
256浮(うき)つ沈(しづ)みつ争(あらそ)へば
257何時(いつ)しか息(いき)は絶(た)え果(は)てて
258前後(ぜんご)不覚(ふかく)となりにけり
259斯(か)かる処(ところ)へヘル司(つかさ)
260現(あら)はれ来(きた)り両人(りやうにん)を
261救(すく)ひ助(たす)けて森林(しんりん)の
262中(なか)に伴(ともな)ひ労(いたは)りつ
263種々(いろいろ)雑多(ざつた)の介抱(かいはう)に
264再(ふたた)び正気(しやうき)に復(ふく)しける
265悪逆(あくぎやく)非道(ひだう)の一(いち)人(にん)は
266妾(わらは)の姿(すがた)見(み)るよりも
267あやしき眼(まなこ)を光(ひか)らせて
268耳(みみ)も汚(けが)るる口説言(くどきごと)
269三人(みたり)の男(をとこ)は吾(わ)が身(み)をば
270妻(つま)になさむと争(あらそ)ひつ
271パインの蔭(かげ)に組(く)みついて
272組(く)んづ転(ころ)んづ又(また)元(もと)の
273青淵(あをぶち)目蒐(めが)けて落(お)ち込(こ)みぬ
274妾(わらは)を救(たす)けし恩人(おんじん)の
275生命(いのち)を助(たす)けにやなるまいと
276吾(わ)が身(み)を忘(わす)れて飛(と)び込(こ)めば
277又(また)もや溺(おぼ)れて人心(ひとごころ)
278無(な)き身(み)とこそはなりにけり
279これより一行(いつかう)四人(よにん)連(づ)れ
280青野(あをの)ケ原(はら)を打渡(うちわた)り
281当途(あてど)もなしに進(すす)み行(ゆ)く
282忽(たちま)ち関所(せきしよ)に突(つ)き当(あた)り
283容子(ようす)を聞(き)けば霊界(れいかい)の
284八衢(やちまた)関所(せきしよ)と聞(き)きしより
285吾(われ)等(ら)が一行(いつかう)驚(おどろ)いて
286再(ふたた)び元(もと)の道(みち)をとり
287帰(かへ)らむとする折(をり)もあれ
288酒(さけ)に酔(よ)ふたる六造(ろくざう)が
289又(また)もや途中(とちう)に塞(ふさ)がりて
290何(なん)ぢやかんぢやと口説(くどき)出(だ)す
291こりや怺(たま)らんと思(おも)ふ折(をり)
292向(むか)ふの方(かた)より足早(あしばや)に
293走(はし)り来(きた)れる婆々(ばばア)あり
294一行(いつかう)五(ご)人(にん)は怪(あや)しみて
295道(みち)の側(かた)への草原(くさはら)に
296身(み)を隠(かく)したる時(とき)もあれ
297婆々(ばばア)はツツと立止(たちどま)り
298不思議(ふしぎ)な手(て)つきで招(まね)きつつ
299日出(ひのでの)神(かみ)の義理(ぎり)天上(てんじやう)
300底津(そこつ)岩根(いはね)の太柱(ふとばしら)
301みろくの神(かみ)の生宮(いきみや)だ
302これからお前(まへ)等(ら)一同(いちどう)に
303天国(てんごく)浄土(じやうど)の真相(しんさう)を
304諭(さと)してやるから跟(つ)いて来(こ)い
305なぞと言葉(ことば)も滑(なめ)らかに
306いと熱心(ねつしん)に説(と)きつける
307何(なに)は兎(と)もあれ行(ゆ)き見(み)むと
308婆々(ばばア)の後(あと)に従(したが)ひて
309川(かは)を隔(へだ)てて岩山(いはやま)の
310賤(しづ)が伏屋(ふせや)に跟(つ)いて行(ゆ)く
311ウラナイ教(けう)の旗頭(はたがしら)
312高姫(たかひめ)さまが住家(すみか)ぞと
313聞(き)いて驚(おどろ)く胸(むね)の内(うち)
314さあらぬ顔(かほ)を装(よそほ)ひて
315様子(やうす)を伺(うかが)ひ居(ゐ)たりしが
316忽(たちま)ち聞(きこ)ゆる法螺(ほら)の声(こゑ)
317三五教(あななひけう)の修験者(しゆげんじや)
318求道(きうだう)居士(こじ)が現(あら)はれて
319吾(われ)等(ら)一同(いちどう)の危難(きなん)をば
320救(すく)はせ玉(たま)ふと見(み)る内(うち)に
321俄(にはか)に聞(きこ)ゆる水(みづ)の音(おと)
322小鳥(ことり)の声(こゑ)も爽(さはや)かに
323耳(みみ)に入(い)るよと見(み)るうちに
324再(ふたた)び息(いき)を吹返(ふきかへ)し
325又(また)もや救(すく)ひ上(あ)げられて
326漸(やうや)う此処(ここ)迄(まで)帰(かへ)りけり
327ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
328尊(たふと)き神(かみ)の御恵(みめぐみ)に
329守(まも)らせ玉(たま)ひて道(みち)の上(うへ)
330包(つつ)む隈(くま)なく足乳根(たらちね)の
331居(ゐ)ますわが家(や)へ速(すみやか)に
332帰(かへ)させ玉(たま)へ惟神(かむながら)
333神(かみ)の御前(みまへ)に願(ね)ぎ奉(まつ)る』
334と歌(うた)ひつつ求道(きうだう)居士(こじ)の後(あと)に従(したが)つて、335夜道(よみち)を辿(たど)るのは、336ケリナ姫(ひめ)であつた。
337 忽(たちま)ち聞(きこ)ゆる猛獣(まうじう)の唸(うな)り声(ごゑ)、338前後(ぜんご)左右(さいう)より一斉(いつせい)に山彦(やまびこ)を轟(とどろ)かして聞(きこ)え来(く)る。339求道(きうだう)居士(こじ)は天(あま)の数歌(かずうた)を歌(うた)ひ上(あ)げ、
340求道居士『真(しん)観(くわん)清(しやう)浄(じやう)観(くわん)
341広(くわう)大(だい)智(ち)慧(ゑ)観(くわん)
342悲(ひ)観(くわん)及(ぎう)慈(じ)観(くわん)
343常(じやう)願(ぐわん)常(じやう)瞻(せん)仰(がう)
344無(む)垢(く)清(しやう)浄(じやう)光(くわう)
345慧(ゑ)日(にち)破(は)諸(しよ)闇(あん)
346能(のう)伏(ぶく)災(さい)風(ふう)火(くわ)
347普(ふ)明(みやう)照(せう)世(せ)間(けん)
348悲(ひ)体(たい)戒(かい)雷(らい)震(しん)
349慈(じ)意(い)妙(めう)大(たい)雲(うん)
350澍(じゆ)甘(かん)露(ろ)法(ほふ)雨(う)
351滅(めつ)除(ぢよ)煩(ぼん)悩(なう)炎(ゑん)
352諍(じよう)訟(しよう)経(きやう)官(くわん)処(しよ)
353怖(ふ)畏(ゐ)軍(ぐん)陣(ぢん)中(ちう)
354念(ねん)彼(ぴ)観(くわん)音(のん)力(りき)
355衆(しう)怨(をん)悉(しつ)退(たい)散(さん)
356妙(めう)音(おん)観(くわん)世(ぜ)音(おん)
357梵(ぼん)音(のん)海(かい)潮(てう)音(おん)
358勝(しよう)彼(ひ)世(せ)間(けん)音(おん)
359是(ぜ)故(こ)須(しゆ)常(じやう)念(ねん)
360念(ねん)々(ねん)勿(もつ)生(しやう)疑(ぎ)
361観(くわん)世(ぜ)音(おん)浄(じやう)聖(しやう)
362於(お)苦(く)悩(なう)死(し)厄(やく)
363能(のう)為(ゐ)作(さ)依(え)怙(こ)
364具(ぐ)一(いつ)切(さい)功(く)徳(どく)
365慈(じ)眼(がん)視(し)衆(しう)生(じやう)
366福(ふく)聚(じゆ)海(かい)無(む)量(りやう)
367是(ぜ)故(こ)応(おう)頂(ちやう)礼(らい)』
368と念(ねん)じ乍(なが)ら、369負(まけ)ず劣(おと)らず、370力(ちから)一杯(いつぱい)法螺貝(ほらがひ)を吹(ふ)き立(た)てた。371法螺貝(ほらがひ)の声(こゑ)は山野(さんや)の邪気(じやき)を払(はら)ふものである。372ケリナ姫(ひめ)は猛獣(まうじう)の声(こゑ)に戦慄(せんりつ)し、373求道(きうだう)居士(こじ)の腰(こし)に喰(くら)ひつき、374泣(な)き声(ごゑ)になつて居士(こじ)に従(したが)ひ経文(きやうもん)を誦唱(じゆしやう)して居(ゐ)る。375暫(しばら)くにしてさしも激(はげ)しき猛獣(まうじう)の唸(うな)り声(ごゑ)はピタリと止(と)まつた。376天(てん)を封(ふう)じて居(ゐ)た雲(くも)は俄(にはか)に散(ち)つて夏(なつ)の月(つき)は洗(あら)ひ出(だ)した様(やう)に、377中天(ちうてん)低(ひく)く輝(かがや)き始(はじ)めた。378是(これ)よりケリナ姫(ひめ)は何(なん)となく求道(きうだう)居士(こじ)を尊信(そんしん)愛慕(あいぼ)するの念(ねん)益々(ますます)深(ふか)くなり、379ハートに折々(をりをり)波(なみ)を打(う)たせ胸(むね)を焦(こ)がすに至(いた)りたり。
380(大正一二・三・一六 旧一・二九 於竜宮館二階 外山豊二録)
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