霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第三章 仇花(あだばな)〔一四三三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第56巻 真善美愛 未の巻 篇:第1篇 自愛之柵 よみ(新仮名遣い):じあいのしがらみ
章:第3章 仇花 よみ(新仮名遣い):あだばな 通し章番号:1433
口述日:1923(大正12)年03月14日(旧01月27日) 口述場所:竜宮館 筆録者:外山豊二 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年5月3日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
ケリナ姫はいつのまにか、花が咲く野を夫の鎌彦を尋ねてとぼとぼと歩いていた。向こうからとぼとぼと歩いてくる男をよく見れば、探していた鎌彦であった。
ケリナ姫は嬉しさに抱きついたが、鎌彦は振り放した。そして、自分はケリナ姫をものにするために、恋敵のベルジーを殺害したことを懺悔した。そして行商に出た後、三人組の盗賊に殺されて、今は冥途の八衢にさまよっているのだ、と身の上を話した。
ケリナ姫は自分が幽冥界に来たこと、鎌彦はもう死んでいることを悟った。そしてベルジーは、自分の異母兄だから親しくしていたことを明かし、鎌彦の所業を嘆き非難した。
鎌彦はケリナ姫に詫び、そしてベルジーに対してもお詫びをして赦しを乞おうと幽冥界を尋ねまわっていたが、どうやらベルジーはすでに天国に召されたようだと語った。そして、ケリナ姫がベルジーの妹であれば、代わりに赦しを乞いたいと願い出た。
ケリナ姫は、ベルジーの代わりに赦すなどということはできないし、兄の仇である鎌彦と夫婦になってしまった自分の身魂の因縁を嘆いた。鎌彦もその場に坐して悔悟の涙に暮れている。
そこへベル、ヘル、シャルの泥棒組がやってきた。鎌彦を殺したのはこの三人であった。自分たちが幽冥界に来たことに納得できない三人に対し、鎌彦は伊吹戸主の裁き所へ案内した。八衢の関所に着くと、いつの間にか鎌彦の姿は見えなくなっていた。
八衢の守衛は、裁きの前にエンゼルがそれぞれの身魂に接見し、神の教えを説いて聞かせるのだと説明した。それによって悔い改め改心すれば、生前の罪人も天国へ救われることができるという。しかし自らの心が地獄に向いていれば、エンゼルの言葉は苦しく、お顔も恐ろしくていたたまらず自ら地獄に飛び込んでしまうのだ、と説いた。
ベルは、自分は自由意志を束縛されるのが何より苦しいから、天国へ行くよりも地獄へ行って力いっぱい活動してみたい、と答えた。しかし守衛は、生死簿を見るとまだベルの寿命が尽きていないと言って、金棒でベルを突きたてた。ベルは傍らの草の中に倒れてしまった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2024-06-09 18:43:30 文字数:4845 OBC :rm5603
愛善世界社版:30頁 八幡書店版:第10輯 156頁 修補版: 校定版:32頁 普及版:13頁 初版: ページ備考:
001さつき待(ま)つ花(はな)橘(たちばな)の香(か)を嗅(か)げば
002昔(むかし)の人(ひと)の袖(そで)の香(か)ぞする
003 夢(ゆめ)にも結(むす)ぶ恋(こひ)しき吾(わが)背(せ)の君(きみ)は如何(いかが)なしつらむと、004恋路(こひぢ)も深(ふか)き思(おも)ひ草(ぐさ)。
005 花(はな)いろいろのブラックリストを経(へ)て咲(さ)き出(い)づる卯(う)の花(はな)や、006燕子花(かきつばた)、007紫(むらさき)に染(そむ)る山吹(やまぶき)の色香(いろか)に愛(め)でて唯(ただ)一人(ひとり)トボトボと青野(あをの)ケ原(はら)を辿(たど)り行(ゆ)く。008花(はな)は吾(わが)身(み)の進(すす)み行(ゆ)く道(みち)の辺(べ)に笑(わら)へども、009唯(ただ)一声(ひとこゑ)の訪(おとづ)れもせず、010其(その)足音(あしおと)さへも聞(きこ)えず、011百鳥(ももどり)は四辺(あたり)の山林(さんりん)に啼(な)き叫(さけ)べども、012吾(わが)涙(なみだ)未(いま)だ尽(つ)きず。013実(げ)にも尽(つ)きざる恋(こひ)の色(いろ)、014百花(ももばな)の種子(たね)、015緑(みどり)、016紅(くれなゐ)、017白(しろ)、018赤(あか)、019黄(き)、020爛漫(らんまん)と咲(さ)き出(い)づる恨(うらみ)は深(ふか)し深百合(ふかゆり)や、021神(かみ)の恵(めぐみ)の深見草(ふかみぐさ)、022心(こころ)を寄(よ)せて進(すす)む身(み)の、023恋(こひ)しき吾(わ)が夫(をつと)は妾(わらは)の心(こころ)を白露(しらつゆ)の、024梢(こずゑ)に霜(しも)はおくとても、025尚(なほ)常磐(ときは)なれや、026橘(たちばな)の目覚草(めざめぐさ)のいと清(きよ)し、027君(きみ)の御(おん)身(み)には何事(なにごと)も恙在(つつま)せ玉(たま)ふ事(こと)は無(な)くとも、028何方(いづかた)に坐(おは)しますか、029昔(むかし)の恋(こひ)を忍(しの)ぶ草(ぐさ)、030春(はる)めき渡(わた)りて花霞(はながすみ)、031立上(たちのぼ)り行(ゆ)く空(そら)を見(み)すてて行(ゆ)く雁(かり)は、032花(はな)無(な)き里(さと)に住(す)みや習(なら)へるかと、033心(こころ)空(そら)なる疑(うたが)ひに満(み)ちぬ。034テルモン山(ざん)の神苑(しんゑん)に咲(さ)き誇(ほこ)りたる若芽(わかめ)の花(はな)を見捨(みす)ててはや一年(ひととせ)、035顧(かへり)み玉(たま)はぬ夫(をつと)の情無(つれな)さ。036仮令(たとへ)此(この)身(み)は屍(かばね)を野辺(のべ)に晒(さら)すとも、037思(おも)ひつめたる恋(こひ)の意地(いぢ)、038足乳根(たらちね)の父母(ふぼ)の許(ゆる)さぬ恋(こひ)に焦(こが)れし身(み)は、039款冬(くわんとう)誤(あやま)つて晩春(ばんしゆん)の風(かぜ)に綻(ほころ)び、040躑躅(つつじ)は夜遊(やいう)の人(ひと)の折(をり)を得(え)て、041驚(おどろ)く春(はる)の夢(ゆめ)の中(うち)、042胡蝶(こてふ)の戯(たはむ)れ色香(いろか)に愛(め)でしも、043今(いま)となり思(おも)ひ廻(まは)せば心(こころ)の仇花(あだばな)なりしか。044今(いま)や吾(わ)が身(み)は夏草(なつぐさ)の、045湿茸(しめじ)に交(まじは)る姫百合(ひめゆり)の、046手折(たを)る人(ひと)なき身(み)の浅間(あさま)しさ。047アア恋(こひ)しき鎌彦(かまひこ)の君(きみ)は、048何(いづ)れにましますか、049唯(ただ)一目(ひとめ)会(あ)はまほしやと、050吹来(ふきく)る風(かぜ)の響(ひびき)にも、051とつおひつ心(こころ)を悩(なや)ませ乍(なが)ら、052北(きた)へ北(きた)へと進(すす)み行(ゆ)く。
053 斯(かか)る処(ところ)へ前方(むかふ)より、
054 とぼとぼ来(きた)る一人(ひとり)の男(をとこ)、
055 女(をんな)を見(み)るより佇(たたず)みて、
056 いぶかし気(げ)にも眺(なが)め入(い)る。
057 女(をんな)は見(み)るより驚(おどろ)きの声(こゑ)を張(は)り上(あ)げて、
058ケリナ『アア貴方(あなた)は恋(こひ)しき鎌彦(かまひこ)さまぢや厶(ござ)いませぬか、059何(ど)うしてマアこんな処(ところ)に居(を)られましたか。060妾(わたし)は貴方(あなた)がエルシナ谷(だに)の庵(いほり)を出(で)て、061些(ちつ)とばかり商売(あきなひ)をして金(かね)を儲(まう)けて来(く)るからと仰有(おつしや)つて、062駱駝(らくだ)を引(ひき)つれ御(お)出(い)でになつた其(その)後(あと)は、063訪(おとな)ふ人(ひと)も無(な)き一人(ひとり)住居(ずまゐ)、064晨夕(あしたゆふべ)の一人寝(ひとりね)も猛獣(まうじう)の声(こゑ)に驚(おど)[※ルビは「おどろ」ではなく「おど」]かされ、065秋(あき)の夕(ゆふべ)の虫(むし)の音(ね)を聞(き)いては哀傷(あいしやう)の涙(なみだ)にくれ、066憂(うき)重(かさな)つて心(こころ)は益々(ますます)感傷(かんしやう)的(てき)となり身(み)も世(よ)もあられぬ思(おも)ひに世(よ)を果敢(はか)なみて、067エルシナ川(がは)に身(み)を投(な)げたと思(おも)ひきや、068名(な)も知(し)らぬ斯様(かやう)な処(ところ)へ迷(まよ)つて参(まゐ)りました。069さても嬉(うれ)しや斯様(かやう)な処(ところ)で貴方(あなた)に御(お)目(め)に掛(かか)らうとは夢(ゆめ)にも存(ぞん)じませなんだ、070お懐(なつか)しう厶(ござ)います』
071と抱(だ)きつけば鎌彦(かまひこ)は振(ふ)り放(はな)し、
072鎌彦(かまひこ)『ケリナ姫(ひめ)、073お前(まへ)も定(さだ)めて苦労(くらう)をしたであらう、074誠(まこと)にすまなかつた。075併(しか)し乍(なが)ら私(わし)はお前(まへ)には未(ま)だ隠(かく)して云(い)はなかつたが、076お前(まへ)と結婚(けつこん)する前(まへ)に、077恋(こひ)の仇(かたき)と思(おも)ひ込(こ)み、078ベルジーと云(い)ふ男(をとこ)をうまくチヨロマカして淵(ふち)に投(な)げ込(こ)み、079生命(いのち)をとつた其(そ)のお蔭(かげ)で、080お前(まへ)と嬉(うれ)しい仲(なか)となり、081両親(りやうしん)の目(め)を忍(しの)んでエルシナ谷(だに)に庵(いほり)を結(むす)び、082偕老(かいらう)同穴(どうけつ)を契(ちぎ)る折(をり)しも夜(よ)な夜(よ)なベルジーの怨霊(をんりやう)現(あら)はれ、083恐(おそ)ろしい顔(かほ)をして睨(にら)みつけるのでお前(まへ)の側(そば)に居(を)る事(こと)も出来(でき)ず、084又(また)お前(まへ)の顔(かほ)がベルジーに見(み)えて来(き)て怖(おそ)ろしくて仕方(しかた)が無(な)いので、085行商(ぎやうしやう)に事寄(ことよ)せ、086駱駝(らくだ)を引連(ひきつ)れて、087お前(まへ)に別(わか)れ、088彼方(あなた)此方(こなた)と彷徨(さまよ)ふうち三人組(さんにんぐみ)の泥坊(どろばう)に出逢(であ)ひ、089持物(もちもの)一切(いつさい)を掠奪(りやくだつ)され赤裸(まつぱだか)の儘(まま)、090ライオン河(がは)に投(な)げこまれ、091罪(つみ)の報(むく)ひで今(いま)は冥途(めいど)の八衢(やちまた)に彷徨(さまよ)ふて居(ゐ)るのだ。092何卒(どうぞ)私(わし)の事(こと)は思(おも)ひ切(き)つてくれぬと何時(いつ)迄(まで)も天国(てんごく)へ行(ゆ)く事(こと)が出来(でき)ないのだ。093お前(まへ)は未(ま)だ此処(ここ)へ来(く)る精霊(せいれい)ではないやうだ。094何(なん)とかして早(はや)く引返(ひきかへ)し、095御(ご)両親(りやうしん)様(さま)に御(お)詫(わび)をなし、096相当(さうたう)の夫(をつと)を持(も)ち一生(いつしやう)を送(おく)つてくれ。097それが私(わし)の頼(たの)みだ』
098と掌(て)を合(あは)し涙(なみだ)と共(とも)に拝(をが)んでゐる。
099 ケリナは鎌彦(かまひこ)の言葉(ことば)に不審(ふしん)の胸(むね)を抱(いだ)き乍(なが)ら頭(かしら)を傾(かたむ)けて、100寸時(しばし)思案(しあん)に沈(しづ)んでゐた。101暫(しばら)くあつて顔(かほ)を上(あ)げ、
102ケリナ『モシ鎌彦(かまひこ)さま、103今(いま)初(はじ)めて貴方(あなた)の御(お)言葉(ことば)を聞(き)いて驚(おどろ)きました。104お前(まへ)は彼(あ)の愛(あい)らしいベルジーさまを殺(ころ)したのですか。105何故(なぜ)そんな悪(わる)い事(こと)をして下(くだ)さいました。106あのベルジーさまは実(じつ)の所(ところ)は妾(わたし)の兄(あに)で厶(ござ)います。107お父(とう)さまが内証(ないしよう)女(をんな)を孕(はら)ませて母(はは)に隠(かく)して首陀(しゆだ)の家(いへ)へやつたので厶(ござ)いますよ。108妾(わたし)は其(その)事(こと)を父(ちち)から聞(き)いて居(を)りましたから、109是(これ)迄(まで)ベルジーさまが私(わたし)を妹(いもうと)と知(し)らず幾度(いくたび)も言(い)ひ寄(よ)り遊(あそ)ばした事(こと)が厶(ござ)いますが、110そこは体(てい)よく断(ことわ)つて居(を)りました。111思(おも)へば思(おも)へば恋(こひ)しき夫(をつと)は兄(あに)の仇(かたき)であつたか。112其(その)お話(はなし)を聞(き)くにつけ、113貴方(あなた)が憎(にく)らしいやら、114恋(こひ)しいやら吾(われ)乍(なが)ら吾(わが)心(こころ)が怪(あや)しうなつて参(まゐ)りました』
115鎌彦(かまひこ)『私(わし)は一度(いちど)ベルジーさまに御(お)目(め)に掛(かか)つてお詫(わび)をせなくてはなりませぬ。116夫(それ)故(ゆゑ)霊界(れいかい)へ来(き)てから所々(しよしよ)方々(はうばう)と其(その)所在(ありか)を探(さが)し一言(ひとこと)御(お)許(ゆる)しを頂(いただ)きたいとあせつて居(を)りますが、117噂(うはさ)に聞(き)けば、118何(ど)うやら天国(てんごく)にお出(い)でになつたさうで御(お)目(め)にかかる事(こと)も出来(でき)ず、119実(じつ)に困(こま)り切(き)つて居(を)ります。120貴方(あなた)が兄妹(きやうだい)とあれば御(お)兄(あにい)さまに代(かは)つて何卒(どうぞ)一言(ひとこと)許(ゆる)すと言(い)つて下(くだ)さいませ。121さうすれば此(この)鎌彦(かまひこ)も罪(つみ)が解(ほど)けて天国(てんごく)の生涯(しやうがい)が送(おく)れるでせう。122何卒(どうぞ)今(いま)迄(まで)の厚誼(よしみ)に一言(ひとこと)許(ゆる)すとの御(お)言葉(ことば)を頂(いただ)き度(た)う厶(ござ)います』
123ケリナ『妾(わたし)が貴方(あなた)を許(ゆる)すといふ資格(しかく)は厶(ござ)いませぬ。124又(また)妾(わたし)も兄(あに)の仇(あだ)と知(し)らずに夫婦(ふうふ)になつた罪(つみ)は中々(なかなか)容易(ようい)なものでは厶(ござ)いますまい。125屹度(きつと)地獄(ぢごく)のドン底(ぞこ)に堕(お)ちねばならぬ此(この)霊魂(みたま)、126どうして左様(さやう)な事(こと)が出来(でき)ませうか。127アア残念(ざんねん)で厶(ござ)います』
128と泣(な)き倒(たふ)れる。
129 鎌彦(かまひこ)は双手(もろて)を組(く)み草(くさ)生茂(おひしげ)る地上(ちじやう)にドツカと坐(ざ)し、130悔悟(くわいご)の涙(なみだ)に暮(く)れてゐる。131斯(かか)る処(ところ)ヘスタスタとベル、132シャル、133ヘルの三(さん)人(にん)、134覆面(ふくめん)頭巾(づきん)の黒装束(くろしやうぞく)、135長(なが)い剣(けん)を腰(こし)にぶら下(さ)げ乍(なが)ら、136ドシドシとやつて来(き)た。137ベルは鎌彦(かまひこ)の姿(すがた)を見(み)るより驚(おどろ)いて、
138ベル『ヤア、139お前(まへ)はライオン河(がは)の川縁(かはべり)に於(おい)て駱駝(らくだ)を率(ひき)ゐ行商(ぎやうしやう)にやつて来(き)た旅人(たびびと)ではなかつたか』
140鎌彦(かまひこ)『ウン、141さうだ。142あの時(とき)の泥坊(どろばう)はお前(まへ)等(ら)三(さん)人(にん)であつたなア。143到頭(たうとう)天命(てんめい)尽(つ)きてお前(まへ)も冥途(めいど)へ送(おく)られたのだな』
144ベル『馬鹿(ばか)をいふない。145貴様(きさま)は気(き)が違(ちが)ふたのか。146此処(ここ)は冥途(めいど)ぢやないぞ。147俺(おれ)達(たち)は今(いま)テルモン山(ざん)の麓(ふもと)を通(とほ)り、148泥坊稼(どろぼうかせ)ぎに歩(ある)いて居(ゐ)る最中(さいちう)だ。149ライオン河(がは)の激流(げきりう)へ落(おと)し込(こ)んでやつた以上(いじやう)は其(その)方(はう)は最早(もはや)冥途(めいど)へ行(い)つたと思(おも)ひしに、150さてもさても生命(いのち)冥加(めうが)の奴(やつ)ぢや。151何処(どこ)かの奴(やつ)に助(たす)けられ、152こんな処(ところ)へ彷徨(さまよ)うてゐやがるのだな。153アハハハハ、154……アツお前(まへ)はケリナとかいふナイスぢやないか。155何時(いつ)の間(ま)にこんな処(ところ)へ出(で)て来(き)たのぢや。156サア、157此処(ここ)で見(み)つけたを幸(さいは)ひ俺(おれ)の女房(にようばう)になるのだぞ』
158ケリナ『ホホホホホ、159これはこれは泥坊(どろばう)の親方(おやかた)様(さま)、160貴方(あなた)はエルシナ川(がは)に落(お)ち込(こ)んで妾(わたし)等(たち)と一緒(いつしよ)に冥途(めいど)へ彷徨(さまよ)ひ来(きた)り乍(なが)ら、161未(ま)だ泥坊(どろばう)をやらうとなさるのか。162好加減(いいかげん)に改心(かいしん)をなさいませ』
163ベル『ハテナ、164さう聞(き)くと、165エー、166此奴(こいつ)等(ら)二人(ふたり)の奴(やつ)とお前(まへ)の取合(とりあ)ひから格闘(かくとう)を始(はじ)め、167深淵(ふかぶち)へ落込(おちこ)んだと思(おも)つたら、168其(その)時(とき)に矢張(やつぱ)り死(し)んだのかなア。169ハテ、170合点(がてん)の行(ゆ)かぬ事(こと)ぢやワイ。171俺(わし)が殺(ころ)したと思(おも)ふ男(をとこ)は此処(ここ)に立(た)つている。172又(また)ナイスも此処(ここ)にゐる。173さうして四辺(あたり)の景色(けしき)も別(べつ)に変(かは)つてゐないやうだし、174合点(がつてん)の行(ゆ)かぬ事(こと)だ。175オイ、176ヘル、177シャル、178貴様(きさま)は此処(ここ)を何(なん)と思(おも)ふか』
179ヘル『ウン、180どうも俺(おれ)達(たち)には現界(げんかい)とも幽界(いうかい)とも見当(けんたう)はつかないわ』
181シャル『夢(ゆめ)でも見(み)てゐるのぢやなからうかなア』
182鎌彦(かまひこ)『決(けつ)して此処(ここ)は現界(げんかい)ぢやありませぬよ。183モウ少(すこ)し向(むか)ふへ行(い)つて見(み)なさい。184伊吹戸主(いぶきどぬしの)神(かみ)様(さま)のお関所(せきしよ)が厶(ござ)います。185さうしたらスツカリとお前(まへ)は死(し)んでゐるか、186生(い)きてゐるか判(わか)るでせう。187私(わたし)もお前(まへ)の御(お)蔭(かげ)で生命(いのち)をとられ、188霊界(れいかい)へ来(き)たので生前(せいぜん)に人(ひと)を殺(ころ)した罪(つみ)に苦(くる)しめられてゐるよりは、189少(すこ)し許(ばか)り苦(くる)しさが薄(うす)らいだやうに思(おも)ふ。190併(しか)し乍(なが)ら人(ひと)を殺(ころ)した罪(つみ)は何処(どこ)迄(まで)も消(き)ゆるものではない。191お前(まへ)も又(また)私(わたし)の肉体(にくたい)を殺(ころ)したのだから、192屹度(きつと)其(その)罪(つみ)は除(と)れまい。193併(しか)し乍(なが)ら神(かみ)様(さま)は吾々(われわれ)を地獄(ぢごく)へ堕(おと)さうとはなさらぬ。194此(この)中有界(ちううかい)へ彷徨(さまよ)はして天晴(あつば)れ誠(まこと)の霊身(れいしん)になり、195神(かみ)の光(ひかり)を身(み)に浴(あ)び天国(てんごく)の生涯(しやうがい)を送(おく)る日(ひ)を待(ま)たせ玉(たま)ふのだ。196これからお前(まへ)もモウ斯(か)うなつては仕方(しかた)がないから悔(く)い改(あらた)めて善道(ぜんだう)へ立帰(たちかへ)り、197天国(てんごく)の生涯(しやうがい)を送(おく)つたがよからう』
198ベル『ハーテ、199訳(わけ)の分(わか)らぬ事(こと)ばかり言(い)ふ奴(やつ)が現(あら)はれたものだなア』
200鎌彦(かまひこ)『サア、201皆(みな)さま、202これから私(わたし)が案内(あんない)を致(いた)しませう』
203と先(さき)に立(た)つ。204男女(なんによ)四(よ)人(にん)は後(あと)に従(したが)ひ、205草(くさ)茫々(ばうばう)と生(は)え、206種々(いろいろ)の花(はな)咲(さ)き匂(にほ)ふ青芝道(あをしばみち)を心(こころ)欣々(いそいそ)進(すす)み行(ゆ)く。
207 漸(やうや)くにして八衢(やちまた)の関所(せきしよ)に着(つ)いた。208白(しろ)と赤(あか)との守衛(しゆゑい)は例(れい)の如(ごと)く儼然(げんぜん)として控(ひか)へてゐる。209鎌彦(かまひこ)は何時(いつ)の間(ま)にやら姿(すがた)は見(み)えなくなつてゐた。210赤(あか)の守衛(しゆゑい)は四(よ)人(にん)の姿(すがた)を見(み)て、211まづ第一(だいいち)にベルを呼(よ)び出(だ)し、212一々(いちいち)生前(せいぜん)の罪状(ざいじやう)を取(と)り調(しら)べ、
213赤(あか)『アアお前(まへ)は何(ど)うしても地獄行(ぢごくゆ)きだなア。214可愛相(かあいさう)だけれど、215自分(じぶん)が造(つく)つた地獄(ぢごく)だから、216アア仕方(しかた)がないわ』
217ベル『成(な)る程(ほど)、218私(わたし)は仰(おほ)せの如(ごと)くよからぬ事(こと)を致(いた)して来(き)ました。219併(しか)し乍(なが)らコレも不知(しらず)不識(しらず)の過(あやま)ちで厶(ござ)いますから、220何卒(どうぞ)許(ゆる)して頂(いただ)きたう厶(ござ)います。221神(かみ)様(さま)は愛(あい)を以(もつ)て御(ご)本体(ほんたい)となさるぢやありませぬか。222何処(どこ)迄(まで)も悪人(あくにん)を悪人(あくにん)として罰(ばつ)せず、223地獄(ぢごく)の苦(くる)しみを課(くわ)せず、224天国(てんごく)に救(すく)つて下(くだ)さるが神(かみ)様(さま)だと思(おも)ひます。225悪人(あくにん)を罰(ばつ)するのならそれは決(けつ)して愛(あい)とは申(まを)されますまい。226愛(あい)の欠(か)けた神(かみ)は最早(もはや)神(かみ)ではありますまい』
227赤(あか)『お前(まへ)は直(ただち)に地獄(ぢごく)へ行(ゆ)くべきものだが、228今(いま)此処(ここ)でエンゼルが御(お)説教(せつけう)をなさるから、229夫(それ)に依(よ)つて悔改(くいあらた)め、230エンゼルの御(お)言葉(ことば)が耳(みみ)に入(い)り、231心(こころ)に浸潤(しみこま)したならば屹度(きつと)天国(てんごく)へ救(すく)はれるだらう。232併(しか)し乍(なが)らお前(まへ)の造(つく)つた悪業(あくごふ)では、233エンゼルの御(お)言葉(ことば)は耳(みみ)に入(い)るまい。234人間(にんげん)が霊肉(れいにく)脱離(だつり)して霊界(れいかい)に来(きた)り八衢(やちまた)の関所(せきしよ)を越(こ)えて伊吹戸主(いぶきどぬし)の館(やかた)に導(みちび)き入(い)れられた時(とき)には、235エンゼルが冥官(めいくわん)の調(しら)べる以前(いぜん)に一応(いちおう)接見(せつけん)して、236大神(おほかみ)様(さま)や高天原(たかあまはら)及(およ)び天人(てんにん)的(てき)生涯(しやうがい)の事(こと)をお知(し)らせになり、237諸々(もろもろ)の善(ぜん)や、238真実(しんじつ)を教(をし)へて下(くだ)さるやうになつてゐる。239併(しか)し乍(なが)らお前(まへ)の精霊(せいれい)が世(よ)に在(あ)つた時(とき)に、240神(かみ)は屹度(きつと)八衢(やちまた)に於(おい)て善悪(ぜんあく)の教(をしへ)をなし其(その)心(こころ)の向(む)けやうに由(よ)つて或(あるひ)は天国(てんごく)へ、241或(あるひ)は地獄(ぢごく)へ自(みづか)ら行(ゆ)くと云(い)ふ事(こと)は生前(せいぜん)より既(すで)に承知(しようち)し乍(なが)らも心(こころ)の中(うち)に之(これ)を否(いな)んだり、242或(あるひ)は之(これ)を軽(かる)く見(み)てゐたから、243何(ど)うしてもエンゼルの言葉(ことば)を苦(くる)しくて聞(き)く事(こと)は出来(でき)まい。244エンゼルの御(お)面(かほ)が怖(おそ)ろしくなり胸(むね)は痛(いた)み、245居堪(ゐた)たまらず悦(よろこ)んで自分(じぶん)の向(むか)ふ地獄(ぢごく)へ自(みづか)ら飛(と)び込(こ)むであらう。246神(かみ)は決(けつ)して世界(せかい)の人間(にんげん)の精霊(せいれい)を一人(ひとり)も地獄(ぢごく)へ堕(おと)さうとは御(お)考(かんが)へなさるのではない。247其(その)人(ひと)が自(みづか)ら神(かみ)様(さま)に背(せな)を向(む)け光(ひかり)に反(そむ)き地獄(ぢごく)に向(むか)ふのである。248其(その)地獄(ぢごく)はお前(まへ)が現世(げんせ)に居(を)つた時(とき)既(すで)に和合(わがふ)した所(ところ)のもので、249悪(あく)と虚偽(きよぎ)とを愛(あい)する心(こころ)の集(あつ)まり場所(ばしよ)である。250大神(おほかみ)様(さま)はエンゼルの手(て)を経(へ)たり、251且(かつ)高天原(たかあまはら)の内流(ないりう)に依(よ)つて各(おのおの)精霊(せいれい)を自分(じぶん)の方(はう)へ引寄(ひきよ)せむと遊(あそ)ばすけれども、252素(もと)より悪(あく)と虚偽(きよぎ)とに染(し)み切(き)つたお前(まへ)達(たち)の精霊(せいれい)は、253仁慈(じんじ)無限(むげん)の神(かみ)様(さま)の御(お)取計(とりはか)らひを忌嫌(いみきら)ひ、254力(ちから)限(かぎ)り之(これ)に抵抗(ていかう)し、255自分(じぶん)の方(はう)から神(かみ)様(さま)を振(ふ)り棄(す)て離(はな)れ行(ゆ)くものである。256自分(じぶん)が所有(しよいう)する処(ところ)の悪(あく)と虚偽(きよぎ)は鉄(かね)の鎖(くさり)を以(もつ)て地獄(ぢごく)へ自(みづか)ら引入(ひきい)るるが如(ごと)きものである。257謂(ゐ)はばお前(まへ)等(たち)が自由(じいう)の意志(いし)を以(もつ)て自(みづか)ら地獄(ぢごく)へ堕落(だらく)するものだから神(かみ)様(さま)は之(これ)を見(み)て愛(あい)と善(ぜん)と真(しん)との力(ちから)を与(あた)へ、258一人(ひとり)も地獄(ぢごく)へ堕(おと)そまいと焦(あ)せつて厶(ござ)るのだ。259どうぢやこれからエンゼルの御(お)話(はなし)を聞(き)いて、260神(かみ)様(さま)に反(そむ)いた悪(あく)と虚偽(きよぎ)とをスツカリと払拭(ふつしき)し天国(てんごく)の生涯(しやうがい)を送(おく)る気(き)はないか』
261ベル『ハイ、262兎(と)も角(かく)人間(にんげん)は意志(いし)の自由(じいう)を束縛(そくばく)される位(ぐらゐ)苦(くる)しい事(こと)は厶(ござ)いませぬ。263天国(てんごく)へ行(い)つて自分(じぶん)の意志(いし)に合(あ)はぬ苦(くる)しい生活(せいくわつ)をするよりも、264一層(いつそう)の事(こと)地獄(ぢごく)へ行(い)つて力(ちから)一杯(いつぱい)活動(くわつどう)して見(み)たう厶(ござ)います』
265赤(あか)『ウン、266さうだらう。267お前(まへ)はどうしても地獄(ぢごく)代物(しろもの)だ。268各(おのおの)所主(しよしゆ)の愛(あい)に依(よ)つて精霊(せいれい)の籍(せき)が定(さだ)まるものだから、269どうしても助(たす)けやうがないワ。270併(しか)し乍(なが)ら此(この)生死簿(せいしぼ)には未(ま)だお前(まへ)は此処(ここ)へ来(く)る精霊(せいれい)ぢやないから、271此(この)関所(せきしよ)は越(こ)ゆる事(こと)は出来(でき)ない』
272ベル『ハテ、273合点(がてん)が行(ゆ)かぬ事(こと)だなア。274生(い)きて居(を)るのか、275死(し)んで居(を)るのか、276自分(じぶん)には少(すこ)しも合点(がてん)が行(ゆ)かぬ。277どうも死(し)んだやうな覚(おぼ)えもなし、278だと云(い)ふてエルシナ川(がは)へ飛(と)び込(こ)んだ事(こと)は確(たしか)だし、279其(その)間(あひだ)に人(ひと)に救(すく)はれて生(い)きてゐるのか、280或(あるひ)は死(し)んでからも残(のこ)つて居(ゐ)る意志(いし)がハツキリしてゐるのか、281どうも其(その)点(てん)が私(わたし)には分(わか)りませぬがなア』
282赤(あか)『ウン、283そらさうだ、284わかるまい。285仮令(たとへ)肉体(にくたい)は亡(ほろ)ぶるとも、286人間(にんげん)の本体(ほんたい)たる精霊(せいれい)は意志(いし)想念(さうねん)を継続(けいぞく)してゐるなり、287又(また)生前(せいぜん)と同様(どうやう)の肉体(にくたい)を保(たも)つて居(ゐ)るのだから、288合点(がつてん)の行(ゆ)かぬのは無理(むり)もない。289併(しか)し乍(なが)ら此処(ここ)は幽冥界(いうめいかい)だ。290霊肉(れいにく)脱離後(だつりご)の人間(にんげん)(即(すなは)ち精霊(せいれい))の来(く)る処(ところ)だ。291サア、292早(はや)く此処(ここ)を立去(たちさ)れ。293やがて誰(たれ)かが迎(むか)へに来(く)るだらう。294モシ迎(むか)へに来(こ)なかつたならば、295お前(まへ)の好(す)きな地獄(ぢごく)へ行(ゆ)くだらう。296サア早(はや)く立(た)てツ』
297と金棒(かなぼう)を以(もつ)て突出(つきだ)せば、298ベルはヨロヨロとし乍(なが)ら、299傍(かたはら)の茫々(ばうばう)たる草(くさ)の中(なか)に倒(たふ)れて了(しま)つた。
300(大正一二・三・一四 旧一・二七 於竜宮館二階 外山豊二録)
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