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霊界物語
真善美愛(第49~60巻)
第56巻(未の巻)
序文
総説
第1篇 自愛之柵
第1章 神慮
第2章 恋淵
第3章 仇花
第4章 盗歌
第5章 鷹魅
第2篇 宿縁妄執
第6章 高圧
第7章 高鳴
第8章 愛米
第9章 我執
第3篇 月照荒野
第10章 十字
第11章 惚泥
第12章 照門颪
第13章 不動滝
第14章 方岩
第4篇 三五開道
第15章 猫背
第16章 不臣
第17章 強請
第18章 寛恕
第19章 痴漢
第20章 犬嘘
余白歌
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<<< 恋淵
(B)
(N)
盗歌 >>>
第三章
仇花
(
あだばな
)
〔一四三三〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第56巻 真善美愛 未の巻
篇:
第1篇 自愛之柵
よみ(新仮名遣い):
じあいのしがらみ
章:
第3章 仇花
よみ(新仮名遣い):
あだばな
通し章番号:
1433
口述日:
1923(大正12)年03月14日(旧01月27日)
口述場所:
竜宮館
筆録者:
外山豊二
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年5月3日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
ケリナ姫はいつのまにか、花が咲く野を夫の鎌彦を尋ねてとぼとぼと歩いていた。向こうからとぼとぼと歩いてくる男をよく見れば、探していた鎌彦であった。
ケリナ姫は嬉しさに抱きついたが、鎌彦は振り放した。そして、自分はケリナ姫をものにするために、恋敵のベルジーを殺害したことを懺悔した。そして行商に出た後、三人組の盗賊に殺されて、今は冥途の八衢にさまよっているのだ、と身の上を話した。
ケリナ姫は自分が幽冥界に来たこと、鎌彦はもう死んでいることを悟った。そしてベルジーは、自分の異母兄だから親しくしていたことを明かし、鎌彦の所業を嘆き非難した。
鎌彦はケリナ姫に詫び、そしてベルジーに対してもお詫びをして赦しを乞おうと幽冥界を尋ねまわっていたが、どうやらベルジーはすでに天国に召されたようだと語った。そして、ケリナ姫がベルジーの妹であれば、代わりに赦しを乞いたいと願い出た。
ケリナ姫は、ベルジーの代わりに赦すなどということはできないし、兄の仇である鎌彦と夫婦になってしまった自分の身魂の因縁を嘆いた。鎌彦もその場に坐して悔悟の涙に暮れている。
そこへベル、ヘル、シャルの泥棒組がやってきた。鎌彦を殺したのはこの三人であった。自分たちが幽冥界に来たことに納得できない三人に対し、鎌彦は伊吹戸主の裁き所へ案内した。八衢の関所に着くと、いつの間にか鎌彦の姿は見えなくなっていた。
八衢の守衛は、裁きの前にエンゼルがそれぞれの身魂に接見し、神の教えを説いて聞かせるのだと説明した。それによって悔い改め改心すれば、生前の罪人も天国へ救われることができるという。しかし自らの心が地獄に向いていれば、エンゼルの言葉は苦しく、お顔も恐ろしくていたたまらず自ら地獄に飛び込んでしまうのだ、と説いた。
ベルは、自分は自由意志を束縛されるのが何より苦しいから、天国へ行くよりも地獄へ行って力いっぱい活動してみたい、と答えた。しかし守衛は、生死簿を見るとまだベルの寿命が尽きていないと言って、金棒でベルを突きたてた。ベルは傍らの草の中に倒れてしまった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2024-06-09 18:43:30
OBC :
rm5603
愛善世界社版:
30頁
八幡書店版:
第10輯 156頁
修補版:
校定版:
32頁
普及版:
13頁
初版:
ページ備考:
001
さつき
待
(
ま
)
つ
花
(
はな
)
橘
(
たちばな
)
の
香
(
か
)
を
嗅
(
か
)
げば
002
昔
(
むかし
)
の
人
(
ひと
)
の
袖
(
そで
)
の
香
(
か
)
ぞする
003
夢
(
ゆめ
)
にも
結
(
むす
)
ぶ
恋
(
こひ
)
しき
吾
(
わが
)
背
(
せ
)
の
君
(
きみ
)
は
如何
(
いかが
)
なしつらむと、
004
恋路
(
こひぢ
)
も
深
(
ふか
)
き
思
(
おも
)
ひ
草
(
ぐさ
)
。
005
花
(
はな
)
いろいろのブラックリストを
経
(
へ
)
て
咲
(
さ
)
き
出
(
い
)
づる
卯
(
う
)
の
花
(
はな
)
や、
006
燕子花
(
かきつばた
)
、
007
紫
(
むらさき
)
に
染
(
そむ
)
る
山吹
(
やまぶき
)
の
色香
(
いろか
)
に
愛
(
め
)
でて
唯
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
トボトボと
青野
(
あをの
)
ケ
原
(
はら
)
を
辿
(
たど
)
り
行
(
ゆ
)
く。
008
花
(
はな
)
は
吾
(
わが
)
身
(
み
)
の
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く
道
(
みち
)
の
辺
(
べ
)
に
笑
(
わら
)
へども、
009
唯
(
ただ
)
一声
(
ひとこゑ
)
の
訪
(
おとづ
)
れもせず、
010
其
(
その
)
足音
(
あしおと
)
さへも
聞
(
きこ
)
えず、
011
百鳥
(
ももどり
)
は
四辺
(
あたり
)
の
山林
(
さんりん
)
に
啼
(
な
)
き
叫
(
さけ
)
べども、
012
吾
(
わが
)
涙
(
なみだ
)
未
(
いま
)
だ
尽
(
つ
)
きず。
013
実
(
げ
)
にも
尽
(
つ
)
きざる
恋
(
こひ
)
の
色
(
いろ
)
、
014
百花
(
ももばな
)
の
種子
(
たね
)
、
015
緑
(
みどり
)
、
016
紅
(
くれなゐ
)
、
017
白
(
しろ
)
、
018
赤
(
あか
)
、
019
黄
(
き
)
、
020
爛漫
(
らんまん
)
と
咲
(
さ
)
き
出
(
い
)
づる
恨
(
うらみ
)
は
深
(
ふか
)
し
深百合
(
ふかゆり
)
や、
021
神
(
かみ
)
の
恵
(
めぐみ
)
の
深見草
(
ふかみぐさ
)
、
022
心
(
こころ
)
を
寄
(
よ
)
せて
進
(
すす
)
む
身
(
み
)
の、
023
恋
(
こひ
)
しき
吾
(
わ
)
が
夫
(
をつと
)
は
妾
(
わらは
)
の
心
(
こころ
)
を
白露
(
しらつゆ
)
の、
024
梢
(
こずゑ
)
に
霜
(
しも
)
はおくとても、
025
尚
(
なほ
)
常磐
(
ときは
)
なれや、
026
橘
(
たちばな
)
の
目覚草
(
めざめぐさ
)
のいと
清
(
きよ
)
し、
027
君
(
きみ
)
の
御
(
おん
)
身
(
み
)
には
何事
(
なにごと
)
も
恙在
(
つつま
)
せ
玉
(
たま
)
ふ
事
(
こと
)
は
無
(
な
)
くとも、
028
何方
(
いづかた
)
に
坐
(
おは
)
しますか、
029
昔
(
むかし
)
の
恋
(
こひ
)
を
忍
(
しの
)
ぶ
草
(
ぐさ
)
、
030
春
(
はる
)
めき
渡
(
わた
)
りて
花霞
(
はながすみ
)
、
031
立上
(
たちのぼ
)
り
行
(
ゆ
)
く
空
(
そら
)
を
見
(
み
)
すてて
行
(
ゆ
)
く
雁
(
かり
)
は、
032
花
(
はな
)
無
(
な
)
き
里
(
さと
)
に
住
(
す
)
みや
習
(
なら
)
へるかと、
033
心
(
こころ
)
空
(
そら
)
なる
疑
(
うたが
)
ひに
満
(
み
)
ちぬ。
034
テルモン
山
(
ざん
)
の
神苑
(
しんゑん
)
に
咲
(
さ
)
き
誇
(
ほこ
)
りたる
若芽
(
わかめ
)
の
花
(
はな
)
を
見捨
(
みす
)
ててはや
一年
(
ひととせ
)
、
035
顧
(
かへり
)
み
玉
(
たま
)
はぬ
夫
(
をつと
)
の
情無
(
つれな
)
さ。
036
仮令
(
たとへ
)
此
(
この
)
身
(
み
)
は
屍
(
かばね
)
を
野辺
(
のべ
)
に
晒
(
さら
)
すとも、
037
思
(
おも
)
ひつめたる
恋
(
こひ
)
の
意地
(
いぢ
)
、
038
足乳根
(
たらちね
)
の
父母
(
ふぼ
)
の
許
(
ゆる
)
さぬ
恋
(
こひ
)
に
焦
(
こが
)
れし
身
(
み
)
は、
039
款冬
(
くわんとう
)
誤
(
あやま
)
つて
晩春
(
ばんしゆん
)
の
風
(
かぜ
)
に
綻
(
ほころ
)
び、
040
躑躅
(
つつじ
)
は
夜遊
(
やいう
)
の
人
(
ひと
)
の
折
(
をり
)
を
得
(
え
)
て、
041
驚
(
おどろ
)
く
春
(
はる
)
の
夢
(
ゆめ
)
の
中
(
うち
)
、
042
胡蝶
(
こてふ
)
の
戯
(
たはむ
)
れ
色香
(
いろか
)
に
愛
(
め
)
でしも、
043
今
(
いま
)
となり
思
(
おも
)
ひ
廻
(
まは
)
せば
心
(
こころ
)
の
仇花
(
あだばな
)
なりしか。
044
今
(
いま
)
や
吾
(
わ
)
が
身
(
み
)
は
夏草
(
なつぐさ
)
の、
045
湿茸
(
しめじ
)
に
交
(
まじは
)
る
姫百合
(
ひめゆり
)
の、
046
手折
(
たを
)
る
人
(
ひと
)
なき
身
(
み
)
の
浅間
(
あさま
)
しさ。
047
アア
恋
(
こひ
)
しき
鎌彦
(
かまひこ
)
の
君
(
きみ
)
は、
048
何
(
いづ
)
れにましますか、
049
唯
(
ただ
)
一目
(
ひとめ
)
会
(
あ
)
はまほしやと、
050
吹来
(
ふきく
)
る
風
(
かぜ
)
の
響
(
ひびき
)
にも、
051
とつおひつ
心
(
こころ
)
を
悩
(
なや
)
ませ
乍
(
なが
)
ら、
052
北
(
きた
)
へ
北
(
きた
)
へと
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
053
斯
(
かか
)
る
処
(
ところ
)
へ
前方
(
むかふ
)
より、
054
とぼとぼ
来
(
きた
)
る
一人
(
ひとり
)
の
男
(
をとこ
)
、
055
女
(
をんな
)
を
見
(
み
)
るより
佇
(
たたず
)
みて、
056
いぶかし
気
(
げ
)
にも
眺
(
なが
)
め
入
(
い
)
る。
057
女
(
をんな
)
は
見
(
み
)
るより
驚
(
おどろ
)
きの
声
(
こゑ
)
を
張
(
は
)
り
上
(
あ
)
げて、
058
ケリナ『アア
貴方
(
あなた
)
は
恋
(
こひ
)
しき
鎌彦
(
かまひこ
)
さまぢや
厶
(
ござ
)
いませぬか、
059
何
(
ど
)
うしてマアこんな
処
(
ところ
)
に
居
(
を
)
られましたか。
060
妾
(
わたし
)
は
貴方
(
あなた
)
がエルシナ
谷
(
だに
)
の
庵
(
いほり
)
を
出
(
で
)
て、
061
些
(
ちつ
)
とばかり
商売
(
あきなひ
)
をして
金
(
かね
)
を
儲
(
まう
)
けて
来
(
く
)
るからと
仰有
(
おつしや
)
つて、
062
駱駝
(
らくだ
)
を
引
(
ひき
)
つれ
御
(
お
)
出
(
い
)
でになつた
其
(
その
)
後
(
あと
)
は、
063
訪
(
おとな
)
ふ
人
(
ひと
)
も
無
(
な
)
き
一人
(
ひとり
)
住居
(
ずまゐ
)
、
064
晨夕
(
あしたゆふべ
)
の
一人寝
(
ひとりね
)
も
猛獣
(
まうじう
)
の
声
(
こゑ
)
に
驚
(
おど
)
[
※
ルビは「おどろ」ではなく「おど」
]
かされ、
065
秋
(
あき
)
の
夕
(
ゆふべ
)
の
虫
(
むし
)
の
音
(
ね
)
を
聞
(
き
)
いては
哀傷
(
あいしやう
)
の
涙
(
なみだ
)
にくれ、
066
憂
(
うき
)
重
(
かさな
)
つて
心
(
こころ
)
は
益々
(
ますます
)
感傷
(
かんしやう
)
的
(
てき
)
となり
身
(
み
)
も
世
(
よ
)
もあられぬ
思
(
おも
)
ひに
世
(
よ
)
を
果敢
(
はか
)
なみて、
067
エルシナ
川
(
がは
)
に
身
(
み
)
を
投
(
な
)
げたと
思
(
おも
)
ひきや、
068
名
(
な
)
も
知
(
し
)
らぬ
斯様
(
かやう
)
な
処
(
ところ
)
へ
迷
(
まよ
)
つて
参
(
まゐ
)
りました。
069
さても
嬉
(
うれ
)
しや
斯様
(
かやう
)
な
処
(
ところ
)
で
貴方
(
あなた
)
に
御
(
お
)
目
(
め
)
に
掛
(
かか
)
らうとは
夢
(
ゆめ
)
にも
存
(
ぞん
)
じませなんだ、
070
お
懐
(
なつか
)
しう
厶
(
ござ
)
います』
071
と
抱
(
だ
)
きつけば
鎌彦
(
かまひこ
)
は
振
(
ふ
)
り
放
(
はな
)
し、
072
鎌彦
(
かまひこ
)
『ケリナ
姫
(
ひめ
)
、
073
お
前
(
まへ
)
も
定
(
さだ
)
めて
苦労
(
くらう
)
をしたであらう、
074
誠
(
まこと
)
にすまなかつた。
075
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
私
(
わし
)
はお
前
(
まへ
)
には
未
(
ま
)
だ
隠
(
かく
)
して
云
(
い
)
はなかつたが、
076
お
前
(
まへ
)
と
結婚
(
けつこん
)
する
前
(
まへ
)
に、
077
恋
(
こひ
)
の
仇
(
かたき
)
と
思
(
おも
)
ひ
込
(
こ
)
み、
078
ベルジーと
云
(
い
)
ふ
男
(
をとこ
)
をうまくチヨロマカして
淵
(
ふち
)
に
投
(
な
)
げ
込
(
こ
)
み、
079
生命
(
いのち
)
をとつた
其
(
そ
)
のお
蔭
(
かげ
)
で、
080
お
前
(
まへ
)
と
嬉
(
うれ
)
しい
仲
(
なか
)
となり、
081
両親
(
りやうしん
)
の
目
(
め
)
を
忍
(
しの
)
んでエルシナ
谷
(
だに
)
に
庵
(
いほり
)
を
結
(
むす
)
び、
082
偕老
(
かいらう
)
同穴
(
どうけつ
)
を
契
(
ちぎ
)
る
折
(
をり
)
しも
夜
(
よ
)
な
夜
(
よ
)
なベルジーの
怨霊
(
をんりやう
)
現
(
あら
)
はれ、
083
恐
(
おそ
)
ろしい
顔
(
かほ
)
をして
睨
(
にら
)
みつけるのでお
前
(
まへ
)
の
側
(
そば
)
に
居
(
を
)
る
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
ず、
084
又
(
また
)
お
前
(
まへ
)
の
顔
(
かほ
)
がベルジーに
見
(
み
)
えて
来
(
き
)
て
怖
(
おそ
)
ろしくて
仕方
(
しかた
)
が
無
(
な
)
いので、
085
行商
(
ぎやうしやう
)
に
事寄
(
ことよ
)
せ、
086
駱駝
(
らくだ
)
を
引連
(
ひきつ
)
れて、
087
お
前
(
まへ
)
に
別
(
わか
)
れ、
088
彼方
(
あなた
)
此方
(
こなた
)
と
彷徨
(
さまよ
)
ふうち
三人組
(
さんにんぐみ
)
の
泥坊
(
どろばう
)
に
出逢
(
であ
)
ひ、
089
持物
(
もちもの
)
一切
(
いつさい
)
を
掠奪
(
りやくだつ
)
され
赤裸
(
まつぱだか
)
の
儘
(
まま
)
、
090
ライオン
河
(
がは
)
に
投
(
な
)
げこまれ、
091
罪
(
つみ
)
の
報
(
むく
)
ひで
今
(
いま
)
は
冥途
(
めいど
)
の
八衢
(
やちまた
)
に
彷徨
(
さまよ
)
ふて
居
(
ゐ
)
るのだ。
092
何卒
(
どうぞ
)
私
(
わし
)
の
事
(
こと
)
は
思
(
おも
)
ひ
切
(
き
)
つてくれぬと
何時
(
いつ
)
迄
(
まで
)
も
天国
(
てんごく
)
へ
行
(
ゆ
)
く
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ないのだ。
093
お
前
(
まへ
)
は
未
(
ま
)
だ
此処
(
ここ
)
へ
来
(
く
)
る
精霊
(
せいれい
)
ではないやうだ。
094
何
(
なん
)
とかして
早
(
はや
)
く
引返
(
ひきかへ
)
し、
095
御
(
ご
)
両親
(
りやうしん
)
様
(
さま
)
に
御
(
お
)
詫
(
わび
)
をなし、
096
相当
(
さうたう
)
の
夫
(
をつと
)
を
持
(
も
)
ち
一生
(
いつしやう
)
を
送
(
おく
)
つてくれ。
097
それが
私
(
わし
)
の
頼
(
たの
)
みだ』
098
と
掌
(
て
)
を
合
(
あは
)
し
涙
(
なみだ
)
と
共
(
とも
)
に
拝
(
をが
)
んでゐる。
099
ケリナは
鎌彦
(
かまひこ
)
の
言葉
(
ことば
)
に
不審
(
ふしん
)
の
胸
(
むね
)
を
抱
(
いだ
)
き
乍
(
なが
)
ら
頭
(
かしら
)
を
傾
(
かたむ
)
けて、
100
寸時
(
しばし
)
思案
(
しあん
)
に
沈
(
しづ
)
んでゐた。
101
暫
(
しばら
)
くあつて
顔
(
かほ
)
を
上
(
あ
)
げ、
102
ケリナ『モシ
鎌彦
(
かまひこ
)
さま、
103
今
(
いま
)
初
(
はじ
)
めて
貴方
(
あなた
)
の
御
(
お
)
言葉
(
ことば
)
を
聞
(
き
)
いて
驚
(
おどろ
)
きました。
104
お
前
(
まへ
)
は
彼
(
あ
)
の
愛
(
あい
)
らしいベルジーさまを
殺
(
ころ
)
したのですか。
105
何故
(
なぜ
)
そんな
悪
(
わる
)
い
事
(
こと
)
をして
下
(
くだ
)
さいました。
106
あのベルジーさまは
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
は
妾
(
わたし
)
の
兄
(
あに
)
で
厶
(
ござ
)
います。
107
お
父
(
とう
)
さまが
内証
(
ないしよう
)
女
(
をんな
)
を
孕
(
はら
)
ませて
母
(
はは
)
に
隠
(
かく
)
して
首陀
(
しゆだ
)
の
家
(
いへ
)
へやつたので
厶
(
ござ
)
いますよ。
108
妾
(
わたし
)
は
其
(
その
)
事
(
こと
)
を
父
(
ちち
)
から
聞
(
き
)
いて
居
(
を
)
りましたから、
109
是
(
これ
)
迄
(
まで
)
ベルジーさまが
私
(
わたし
)
を
妹
(
いもうと
)
と
知
(
し
)
らず
幾度
(
いくたび
)
も
言
(
い
)
ひ
寄
(
よ
)
り
遊
(
あそ
)
ばした
事
(
こと
)
が
厶
(
ござ
)
いますが、
110
そこは
体
(
てい
)
よく
断
(
ことわ
)
つて
居
(
を
)
りました。
111
思
(
おも
)
へば
思
(
おも
)
へば
恋
(
こひ
)
しき
夫
(
をつと
)
は
兄
(
あに
)
の
仇
(
かたき
)
であつたか。
112
其
(
その
)
お
話
(
はなし
)
を
聞
(
き
)
くにつけ、
113
貴方
(
あなた
)
が
憎
(
にく
)
らしいやら、
114
恋
(
こひ
)
しいやら
吾
(
われ
)
乍
(
なが
)
ら
吾
(
わが
)
心
(
こころ
)
が
怪
(
あや
)
しうなつて
参
(
まゐ
)
りました』
115
鎌彦
(
かまひこ
)
『
私
(
わし
)
は
一度
(
いちど
)
ベルジーさまに
御
(
お
)
目
(
め
)
に
掛
(
かか
)
つてお
詫
(
わび
)
をせなくてはなりませぬ。
116
夫
(
それ
)
故
(
ゆゑ
)
霊界
(
れいかい
)
へ
来
(
き
)
てから
所々
(
しよしよ
)
方々
(
はうばう
)
と
其
(
その
)
所在
(
ありか
)
を
探
(
さが
)
し
一言
(
ひとこと
)
御
(
お
)
許
(
ゆる
)
しを
頂
(
いただ
)
きたいとあせつて
居
(
を
)
りますが、
117
噂
(
うはさ
)
に
聞
(
き
)
けば、
118
何
(
ど
)
うやら
天国
(
てんごく
)
にお
出
(
い
)
でになつたさうで
御
(
お
)
目
(
め
)
にかかる
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
ず、
119
実
(
じつ
)
に
困
(
こま
)
り
切
(
き
)
つて
居
(
を
)
ります。
120
貴方
(
あなた
)
が
兄妹
(
きやうだい
)
とあれば
御
(
お
)
兄
(
あにい
)
さまに
代
(
かは
)
つて
何卒
(
どうぞ
)
一言
(
ひとこと
)
許
(
ゆる
)
すと
言
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さいませ。
121
さうすれば
此
(
この
)
鎌彦
(
かまひこ
)
も
罪
(
つみ
)
が
解
(
ほど
)
けて
天国
(
てんごく
)
の
生涯
(
しやうがい
)
が
送
(
おく
)
れるでせう。
122
何卒
(
どうぞ
)
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
の
厚誼
(
よしみ
)
に
一言
(
ひとこと
)
許
(
ゆる
)
すとの
御
(
お
)
言葉
(
ことば
)
を
頂
(
いただ
)
き
度
(
た
)
う
厶
(
ござ
)
います』
123
ケリナ『
妾
(
わたし
)
が
貴方
(
あなた
)
を
許
(
ゆる
)
すといふ
資格
(
しかく
)
は
厶
(
ござ
)
いませぬ。
124
又
(
また
)
妾
(
わたし
)
も
兄
(
あに
)
の
仇
(
あだ
)
と
知
(
し
)
らずに
夫婦
(
ふうふ
)
になつた
罪
(
つみ
)
は
中々
(
なかなか
)
容易
(
ようい
)
なものでは
厶
(
ござ
)
いますまい。
125
屹度
(
きつと
)
地獄
(
ぢごく
)
のドン
底
(
ぞこ
)
に
堕
(
お
)
ちねばならぬ
此
(
この
)
霊魂
(
みたま
)
、
126
どうして
左様
(
さやう
)
な
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ませうか。
127
アア
残念
(
ざんねん
)
で
厶
(
ござ
)
います』
128
と
泣
(
な
)
き
倒
(
たふ
)
れる。
129
鎌彦
(
かまひこ
)
は
双手
(
もろて
)
を
組
(
く
)
み
草
(
くさ
)
生茂
(
おひしげ
)
る
地上
(
ちじやう
)
にドツカと
坐
(
ざ
)
し、
130
悔悟
(
くわいご
)
の
涙
(
なみだ
)
に
暮
(
く
)
れてゐる。
131
斯
(
かか
)
る
処
(
ところ
)
ヘスタスタとベル、
132
シャル、
133
ヘルの
三
(
さん
)
人
(
にん
)
、
134
覆面
(
ふくめん
)
頭巾
(
づきん
)
の
黒装束
(
くろしやうぞく
)
、
135
長
(
なが
)
い
剣
(
けん
)
を
腰
(
こし
)
にぶら
下
(
さ
)
げ
乍
(
なが
)
ら、
136
ドシドシとやつて
来
(
き
)
た。
137
ベルは
鎌彦
(
かまひこ
)
の
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
るより
驚
(
おどろ
)
いて、
138
ベル『ヤア、
139
お
前
(
まへ
)
はライオン
河
(
がは
)
の
川縁
(
かはべり
)
に
於
(
おい
)
て
駱駝
(
らくだ
)
を
率
(
ひき
)
ゐ
行商
(
ぎやうしやう
)
にやつて
来
(
き
)
た
旅人
(
たびびと
)
ではなかつたか』
140
鎌彦
(
かまひこ
)
『ウン、
141
さうだ。
142
あの
時
(
とき
)
の
泥坊
(
どろばう
)
はお
前
(
まへ
)
等
(
ら
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
であつたなア。
143
到頭
(
たうとう
)
天命
(
てんめい
)
尽
(
つ
)
きてお
前
(
まへ
)
も
冥途
(
めいど
)
へ
送
(
おく
)
られたのだな』
144
ベル『
馬鹿
(
ばか
)
をいふない。
145
貴様
(
きさま
)
は
気
(
き
)
が
違
(
ちが
)
ふたのか。
146
此処
(
ここ
)
は
冥途
(
めいど
)
ぢやないぞ。
147
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
は
今
(
いま
)
テルモン
山
(
ざん
)
の
麓
(
ふもと
)
を
通
(
とほ
)
り、
148
泥坊稼
(
どろぼうかせ
)
ぎに
歩
(
ある
)
いて
居
(
ゐ
)
る
最中
(
さいちう
)
だ。
149
ライオン
河
(
がは
)
の
激流
(
げきりう
)
へ
落
(
おと
)
し
込
(
こ
)
んでやつた
以上
(
いじやう
)
は
其
(
その
)
方
(
はう
)
は
最早
(
もはや
)
冥途
(
めいど
)
へ
行
(
い
)
つたと
思
(
おも
)
ひしに、
150
さてもさても
生命
(
いのち
)
冥加
(
めうが
)
の
奴
(
やつ
)
ぢや。
151
何処
(
どこ
)
かの
奴
(
やつ
)
に
助
(
たす
)
けられ、
152
こんな
処
(
ところ
)
へ
彷徨
(
さまよ
)
うてゐやがるのだな。
153
アハハハハ、
154
……アツお
前
(
まへ
)
はケリナとかいふナイスぢやないか。
155
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にこんな
処
(
ところ
)
へ
出
(
で
)
て
来
(
き
)
たのぢや。
156
サア、
157
此処
(
ここ
)
で
見
(
み
)
つけたを
幸
(
さいは
)
ひ
俺
(
おれ
)
の
女房
(
にようばう
)
になるのだぞ』
158
ケリナ『ホホホホホ、
159
これはこれは
泥坊
(
どろばう
)
の
親方
(
おやかた
)
様
(
さま
)
、
160
貴方
(
あなた
)
はエルシナ
川
(
がは
)
に
落
(
お
)
ち
込
(
こ
)
んで
妾
(
わたし
)
等
(
たち
)
と
一緒
(
いつしよ
)
に
冥途
(
めいど
)
へ
彷徨
(
さまよ
)
ひ
来
(
きた
)
り
乍
(
なが
)
ら、
161
未
(
ま
)
だ
泥坊
(
どろばう
)
をやらうとなさるのか。
162
好加減
(
いいかげん
)
に
改心
(
かいしん
)
をなさいませ』
163
ベル『ハテナ、
164
さう
聞
(
き
)
くと、
165
エー、
166
此奴
(
こいつ
)
等
(
ら
)
二人
(
ふたり
)
の
奴
(
やつ
)
とお
前
(
まへ
)
の
取合
(
とりあ
)
ひから
格闘
(
かくとう
)
を
始
(
はじ
)
め、
167
深淵
(
ふかぶち
)
へ
落込
(
おちこ
)
んだと
思
(
おも
)
つたら、
168
其
(
その
)
時
(
とき
)
に
矢張
(
やつぱ
)
り
死
(
し
)
んだのかなア。
169
ハテ、
170
合点
(
がてん
)
の
行
(
ゆ
)
かぬ
事
(
こと
)
ぢやワイ。
171
俺
(
わし
)
が
殺
(
ころ
)
したと
思
(
おも
)
ふ
男
(
をとこ
)
は
此処
(
ここ
)
に
立
(
た
)
つている。
172
又
(
また
)
ナイスも
此処
(
ここ
)
にゐる。
173
さうして
四辺
(
あたり
)
の
景色
(
けしき
)
も
別
(
べつ
)
に
変
(
かは
)
つてゐないやうだし、
174
合点
(
がつてん
)
の
行
(
ゆ
)
かぬ
事
(
こと
)
だ。
175
オイ、
176
ヘル、
177
シャル、
178
貴様
(
きさま
)
は
此処
(
ここ
)
を
何
(
なん
)
と
思
(
おも
)
ふか』
179
ヘル『ウン、
180
どうも
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
には
現界
(
げんかい
)
とも
幽界
(
いうかい
)
とも
見当
(
けんたう
)
はつかないわ』
181
シャル『
夢
(
ゆめ
)
でも
見
(
み
)
てゐるのぢやなからうかなア』
182
鎌彦
(
かまひこ
)
『
決
(
けつ
)
して
此処
(
ここ
)
は
現界
(
げんかい
)
ぢやありませぬよ。
183
モウ
少
(
すこ
)
し
向
(
むか
)
ふへ
行
(
い
)
つて
見
(
み
)
なさい。
184
伊吹戸主
(
いぶきどぬしの
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
関所
(
せきしよ
)
が
厶
(
ござ
)
います。
185
さうしたらスツカリとお
前
(
まへ
)
は
死
(
し
)
んでゐるか、
186
生
(
い
)
きてゐるか
判
(
わか
)
るでせう。
187
私
(
わたし
)
もお
前
(
まへ
)
の
御
(
お
)
蔭
(
かげ
)
で
生命
(
いのち
)
をとられ、
188
霊界
(
れいかい
)
へ
来
(
き
)
たので
生前
(
せいぜん
)
に
人
(
ひと
)
を
殺
(
ころ
)
した
罪
(
つみ
)
に
苦
(
くる
)
しめられてゐるよりは、
189
少
(
すこ
)
し
許
(
ばか
)
り
苦
(
くる
)
しさが
薄
(
うす
)
らいだやうに
思
(
おも
)
ふ。
190
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
人
(
ひと
)
を
殺
(
ころ
)
した
罪
(
つみ
)
は
何処
(
どこ
)
迄
(
まで
)
も
消
(
き
)
ゆるものではない。
191
お
前
(
まへ
)
も
又
(
また
)
私
(
わたし
)
の
肉体
(
にくたい
)
を
殺
(
ころ
)
したのだから、
192
屹度
(
きつと
)
其
(
その
)
罪
(
つみ
)
は
除
(
と
)
れまい。
193
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
は
吾々
(
われわれ
)
を
地獄
(
ぢごく
)
へ
堕
(
おと
)
さうとはなさらぬ。
194
此
(
この
)
中有界
(
ちううかい
)
へ
彷徨
(
さまよ
)
はして
天晴
(
あつば
)
れ
誠
(
まこと
)
の
霊身
(
れいしん
)
になり、
195
神
(
かみ
)
の
光
(
ひかり
)
を
身
(
み
)
に
浴
(
あ
)
び
天国
(
てんごく
)
の
生涯
(
しやうがい
)
を
送
(
おく
)
る
日
(
ひ
)
を
待
(
ま
)
たせ
玉
(
たま
)
ふのだ。
196
これからお
前
(
まへ
)
もモウ
斯
(
か
)
うなつては
仕方
(
しかた
)
がないから
悔
(
く
)
い
改
(
あらた
)
めて
善道
(
ぜんだう
)
へ
立帰
(
たちかへ
)
り、
197
天国
(
てんごく
)
の
生涯
(
しやうがい
)
を
送
(
おく
)
つたがよからう』
198
ベル『ハーテ、
199
訳
(
わけ
)
の
分
(
わか
)
らぬ
事
(
こと
)
ばかり
言
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
が
現
(
あら
)
はれたものだなア』
200
鎌彦
(
かまひこ
)
『サア、
201
皆
(
みな
)
さま、
202
これから
私
(
わたし
)
が
案内
(
あんない
)
を
致
(
いた
)
しませう』
203
と
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
つ。
204
男女
(
なんによ
)
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
後
(
あと
)
に
従
(
したが
)
ひ、
205
草
(
くさ
)
茫々
(
ばうばう
)
と
生
(
は
)
え、
206
種々
(
いろいろ
)
の
花
(
はな
)
咲
(
さ
)
き
匂
(
にほ
)
ふ
青芝道
(
あをしばみち
)
を
心
(
こころ
)
欣々
(
いそいそ
)
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
207
漸
(
やうや
)
くにして
八衢
(
やちまた
)
の
関所
(
せきしよ
)
に
着
(
つ
)
いた。
208
白
(
しろ
)
と
赤
(
あか
)
との
守衛
(
しゆゑい
)
は
例
(
れい
)
の
如
(
ごと
)
く
儼然
(
げんぜん
)
として
控
(
ひか
)
へてゐる。
209
鎌彦
(
かまひこ
)
は
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にやら
姿
(
すがた
)
は
見
(
み
)
えなくなつてゐた。
210
赤
(
あか
)
の
守衛
(
しゆゑい
)
は
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
て、
211
まづ
第一
(
だいいち
)
にベルを
呼
(
よ
)
び
出
(
だ
)
し、
212
一々
(
いちいち
)
生前
(
せいぜん
)
の
罪状
(
ざいじやう
)
を
取
(
と
)
り
調
(
しら
)
べ、
213
赤
(
あか
)
『アアお
前
(
まへ
)
は
何
(
ど
)
うしても
地獄行
(
ぢごくゆ
)
きだなア。
214
可愛相
(
かあいさう
)
だけれど、
215
自分
(
じぶん
)
が
造
(
つく
)
つた
地獄
(
ぢごく
)
だから、
216
アア
仕方
(
しかた
)
がないわ』
217
ベル『
成
(
な
)
る
程
(
ほど
)
、
218
私
(
わたし
)
は
仰
(
おほ
)
せの
如
(
ごと
)
くよからぬ
事
(
こと
)
を
致
(
いた
)
して
来
(
き
)
ました。
219
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
らコレも
不知
(
しらず
)
不識
(
しらず
)
の
過
(
あやま
)
ちで
厶
(
ござ
)
いますから、
220
何卒
(
どうぞ
)
許
(
ゆる
)
して
頂
(
いただ
)
きたう
厶
(
ござ
)
います。
221
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
は
愛
(
あい
)
を
以
(
もつ
)
て
御
(
ご
)
本体
(
ほんたい
)
となさるぢやありませぬか。
222
何処
(
どこ
)
迄
(
まで
)
も
悪人
(
あくにん
)
を
悪人
(
あくにん
)
として
罰
(
ばつ
)
せず、
223
地獄
(
ぢごく
)
の
苦
(
くる
)
しみを
課
(
くわ
)
せず、
224
天国
(
てんごく
)
に
救
(
すく
)
つて
下
(
くだ
)
さるが
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
だと
思
(
おも
)
ひます。
225
悪人
(
あくにん
)
を
罰
(
ばつ
)
するのならそれは
決
(
けつ
)
して
愛
(
あい
)
とは
申
(
まを
)
されますまい。
226
愛
(
あい
)
の
欠
(
か
)
けた
神
(
かみ
)
は
最早
(
もはや
)
神
(
かみ
)
ではありますまい』
227
赤
(
あか
)
『お
前
(
まへ
)
は
直
(
ただち
)
に
地獄
(
ぢごく
)
へ
行
(
ゆ
)
くべきものだが、
228
今
(
いま
)
此処
(
ここ
)
でエンゼルが
御
(
お
)
説教
(
せつけう
)
をなさるから、
229
夫
(
それ
)
に
依
(
よ
)
つて
悔改
(
くいあらた
)
め、
230
エンゼルの
御
(
お
)
言葉
(
ことば
)
が
耳
(
みみ
)
に
入
(
い
)
り、
231
心
(
こころ
)
に
浸潤
(
しみこま
)
したならば
屹度
(
きつと
)
天国
(
てんごく
)
へ
救
(
すく
)
はれるだらう。
232
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
らお
前
(
まへ
)
の
造
(
つく
)
つた
悪業
(
あくごふ
)
では、
233
エンゼルの
御
(
お
)
言葉
(
ことば
)
は
耳
(
みみ
)
に
入
(
い
)
るまい。
234
人間
(
にんげん
)
が
霊肉
(
れいにく
)
脱離
(
だつり
)
して
霊界
(
れいかい
)
に
来
(
きた
)
り
八衢
(
やちまた
)
の
関所
(
せきしよ
)
を
越
(
こ
)
えて
伊吹戸主
(
いぶきどぬし
)
の
館
(
やかた
)
に
導
(
みちび
)
き
入
(
い
)
れられた
時
(
とき
)
には、
235
エンゼルが
冥官
(
めいくわん
)
の
調
(
しら
)
べる
以前
(
いぜん
)
に
一応
(
いちおう
)
接見
(
せつけん
)
して、
236
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
や
高天原
(
たかあまはら
)
及
(
およ
)
び
天人
(
てんにん
)
的
(
てき
)
生涯
(
しやうがい
)
の
事
(
こと
)
をお
知
(
し
)
らせになり、
237
諸々
(
もろもろ
)
の
善
(
ぜん
)
や、
238
真実
(
しんじつ
)
を
教
(
をし
)
へて
下
(
くだ
)
さるやうになつてゐる。
239
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
らお
前
(
まへ
)
の
精霊
(
せいれい
)
が
世
(
よ
)
に
在
(
あ
)
つた
時
(
とき
)
に、
240
神
(
かみ
)
は
屹度
(
きつと
)
八衢
(
やちまた
)
に
於
(
おい
)
て
善悪
(
ぜんあく
)
の
教
(
をしへ
)
をなし
其
(
その
)
心
(
こころ
)
の
向
(
む
)
けやうに
由
(
よ
)
つて
或
(
あるひ
)
は
天国
(
てんごく
)
へ、
241
或
(
あるひ
)
は
地獄
(
ぢごく
)
へ
自
(
みづか
)
ら
行
(
ゆ
)
くと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は
生前
(
せいぜん
)
より
既
(
すで
)
に
承知
(
しようち
)
し
乍
(
なが
)
らも
心
(
こころ
)
の
中
(
うち
)
に
之
(
これ
)
を
否
(
いな
)
んだり、
242
或
(
あるひ
)
は
之
(
これ
)
を
軽
(
かる
)
く
見
(
み
)
てゐたから、
243
何
(
ど
)
うしてもエンゼルの
言葉
(
ことば
)
を
苦
(
くる
)
しくて
聞
(
き
)
く
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
まい。
244
エンゼルの
御
(
お
)
面
(
かほ
)
が
怖
(
おそ
)
ろしくなり
胸
(
むね
)
は
痛
(
いた
)
み、
245
居堪
(
ゐた
)
たまらず
悦
(
よろこ
)
んで
自分
(
じぶん
)
の
向
(
むか
)
ふ
地獄
(
ぢごく
)
へ
自
(
みづか
)
ら
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
むであらう。
246
神
(
かみ
)
は
決
(
けつ
)
して
世界
(
せかい
)
の
人間
(
にんげん
)
の
精霊
(
せいれい
)
を
一人
(
ひとり
)
も
地獄
(
ぢごく
)
へ
堕
(
おと
)
さうとは
御
(
お
)
考
(
かんが
)
へなさるのではない。
247
其
(
その
)
人
(
ひと
)
が
自
(
みづか
)
ら
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
背
(
せな
)
を
向
(
む
)
け
光
(
ひかり
)
に
反
(
そむ
)
き
地獄
(
ぢごく
)
に
向
(
むか
)
ふのである。
248
其
(
その
)
地獄
(
ぢごく
)
はお
前
(
まへ
)
が
現世
(
げんせ
)
に
居
(
を
)
つた
時
(
とき
)
既
(
すで
)
に
和合
(
わがふ
)
した
所
(
ところ
)
のもので、
249
悪
(
あく
)
と
虚偽
(
きよぎ
)
とを
愛
(
あい
)
する
心
(
こころ
)
の
集
(
あつ
)
まり
場所
(
ばしよ
)
である。
250
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
はエンゼルの
手
(
て
)
を
経
(
へ
)
たり、
251
且
(
かつ
)
高天原
(
たかあまはら
)
の
内流
(
ないりう
)
に
依
(
よ
)
つて
各
(
おのおの
)
精霊
(
せいれい
)
を
自分
(
じぶん
)
の
方
(
はう
)
へ
引寄
(
ひきよ
)
せむと
遊
(
あそ
)
ばすけれども、
252
素
(
もと
)
より
悪
(
あく
)
と
虚偽
(
きよぎ
)
とに
染
(
し
)
み
切
(
き
)
つたお
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
の
精霊
(
せいれい
)
は、
253
仁慈
(
じんじ
)
無限
(
むげん
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
取計
(
とりはか
)
らひを
忌嫌
(
いみきら
)
ひ、
254
力
(
ちから
)
限
(
かぎ
)
り
之
(
これ
)
に
抵抗
(
ていかう
)
し、
255
自分
(
じぶん
)
の
方
(
はう
)
から
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
を
振
(
ふ
)
り
棄
(
す
)
て
離
(
はな
)
れ
行
(
ゆ
)
くものである。
256
自分
(
じぶん
)
が
所有
(
しよいう
)
する
処
(
ところ
)
の
悪
(
あく
)
と
虚偽
(
きよぎ
)
は
鉄
(
かね
)
の
鎖
(
くさり
)
を
以
(
もつ
)
て
地獄
(
ぢごく
)
へ
自
(
みづか
)
ら
引入
(
ひきい
)
るるが
如
(
ごと
)
きものである。
257
謂
(
ゐ
)
はばお
前
(
まへ
)
等
(
たち
)
が
自由
(
じいう
)
の
意志
(
いし
)
を
以
(
もつ
)
て
自
(
みづか
)
ら
地獄
(
ぢごく
)
へ
堕落
(
だらく
)
するものだから
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
は
之
(
これ
)
を
見
(
み
)
て
愛
(
あい
)
と
善
(
ぜん
)
と
真
(
しん
)
との
力
(
ちから
)
を
与
(
あた
)
へ、
258
一人
(
ひとり
)
も
地獄
(
ぢごく
)
へ
堕
(
おと
)
そまいと
焦
(
あ
)
せつて
厶
(
ござ
)
るのだ。
259
どうぢやこれからエンゼルの
御
(
お
)
話
(
はなし
)
を
聞
(
き
)
いて、
260
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
反
(
そむ
)
いた
悪
(
あく
)
と
虚偽
(
きよぎ
)
とをスツカリと
払拭
(
ふつしき
)
し
天国
(
てんごく
)
の
生涯
(
しやうがい
)
を
送
(
おく
)
る
気
(
き
)
はないか』
261
ベル『ハイ、
262
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
人間
(
にんげん
)
は
意志
(
いし
)
の
自由
(
じいう
)
を
束縛
(
そくばく
)
される
位
(
ぐらゐ
)
苦
(
くる
)
しい
事
(
こと
)
は
厶
(
ござ
)
いませぬ。
263
天国
(
てんごく
)
へ
行
(
い
)
つて
自分
(
じぶん
)
の
意志
(
いし
)
に
合
(
あ
)
はぬ
苦
(
くる
)
しい
生活
(
せいくわつ
)
をするよりも、
264
一層
(
いつそう
)
の
事
(
こと
)
地獄
(
ぢごく
)
へ
行
(
い
)
つて
力
(
ちから
)
一杯
(
いつぱい
)
活動
(
くわつどう
)
して
見
(
み
)
たう
厶
(
ござ
)
います』
265
赤
(
あか
)
『ウン、
266
さうだらう。
267
お
前
(
まへ
)
はどうしても
地獄
(
ぢごく
)
代物
(
しろもの
)
だ。
268
各
(
おのおの
)
所主
(
しよしゆ
)
の
愛
(
あい
)
に
依
(
よ
)
つて
精霊
(
せいれい
)
の
籍
(
せき
)
が
定
(
さだ
)
まるものだから、
269
どうしても
助
(
たす
)
けやうがないワ。
270
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
此
(
この
)
生死簿
(
せいしぼ
)
には
未
(
ま
)
だお
前
(
まへ
)
は
此処
(
ここ
)
へ
来
(
く
)
る
精霊
(
せいれい
)
ぢやないから、
271
此
(
この
)
関所
(
せきしよ
)
は
越
(
こ
)
ゆる
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ない』
272
ベル『ハテ、
273
合点
(
がてん
)
が
行
(
ゆ
)
かぬ
事
(
こと
)
だなア。
274
生
(
い
)
きて
居
(
を
)
るのか、
275
死
(
し
)
んで
居
(
を
)
るのか、
276
自分
(
じぶん
)
には
少
(
すこ
)
しも
合点
(
がてん
)
が
行
(
ゆ
)
かぬ。
277
どうも
死
(
し
)
んだやうな
覚
(
おぼ
)
えもなし、
278
だと
云
(
い
)
ふてエルシナ
川
(
がは
)
へ
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
んだ
事
(
こと
)
は
確
(
たしか
)
だし、
279
其
(
その
)
間
(
あひだ
)
に
人
(
ひと
)
に
救
(
すく
)
はれて
生
(
い
)
きてゐるのか、
280
或
(
あるひ
)
は
死
(
し
)
んでからも
残
(
のこ
)
つて
居
(
ゐ
)
る
意志
(
いし
)
がハツキリしてゐるのか、
281
どうも
其
(
その
)
点
(
てん
)
が
私
(
わたし
)
には
分
(
わか
)
りませぬがなア』
282
赤
(
あか
)
『ウン、
283
そらさうだ、
284
わかるまい。
285
仮令
(
たとへ
)
肉体
(
にくたい
)
は
亡
(
ほろ
)
ぶるとも、
286
人間
(
にんげん
)
の
本体
(
ほんたい
)
たる
精霊
(
せいれい
)
は
意志
(
いし
)
想念
(
さうねん
)
を
継続
(
けいぞく
)
してゐるなり、
287
又
(
また
)
生前
(
せいぜん
)
と
同様
(
どうやう
)
の
肉体
(
にくたい
)
を
保
(
たも
)
つて
居
(
ゐ
)
るのだから、
288
合点
(
がつてん
)
の
行
(
ゆ
)
かぬのは
無理
(
むり
)
もない。
289
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
此処
(
ここ
)
は
幽冥界
(
いうめいかい
)
だ。
290
霊肉
(
れいにく
)
脱離後
(
だつりご
)
の
人間
(
にんげん
)
(
即
(
すなは
)
ち
精霊
(
せいれい
)
)の
来
(
く
)
る
処
(
ところ
)
だ。
291
サア、
292
早
(
はや
)
く
此処
(
ここ
)
を
立去
(
たちさ
)
れ。
293
やがて
誰
(
たれ
)
かが
迎
(
むか
)
へに
来
(
く
)
るだらう。
294
モシ
迎
(
むか
)
へに
来
(
こ
)
なかつたならば、
295
お
前
(
まへ
)
の
好
(
す
)
きな
地獄
(
ぢごく
)
へ
行
(
ゆ
)
くだらう。
296
サア
早
(
はや
)
く
立
(
た
)
てツ』
297
と
金棒
(
かなぼう
)
を
以
(
もつ
)
て
突出
(
つきだ
)
せば、
298
ベルはヨロヨロとし
乍
(
なが
)
ら、
299
傍
(
かたはら
)
の
茫々
(
ばうばう
)
たる
草
(
くさ
)
の
中
(
なか
)
に
倒
(
たふ
)
れて
了
(
しま
)
つた。
300
(
大正一二・三・一四
旧一・二七
於竜宮館二階
外山豊二
録)
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