霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一六章 不臣(ふしん)〔一四四六〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第56巻 真善美愛 未の巻 篇:第4篇 三五開道 よみ(新仮名遣い):あなないかいどう
章:第16章 不臣 よみ(新仮名遣い):ふしん 通し章番号:1446
口述日:1923(大正12)年03月17日(旧02月1日) 口述場所:竜宮館 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年5月3日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
朝食が済むと小国姫は三千彦のところにやってきて、テルモン山神館の問題について相談を始めた。この館のバラモン教の神宝である如意宝珠の玉が紛失し、百日以内に取り戻せなければ小国別・小国姫夫婦は死をもってお詫びをしなくてはならないという。
それを苦にして小国別は病に倒れてしまった。また次女のケリナが三年前に駆け落ちしたまま行方不明になり、このことも夫婦の気にかかっているという。小国姫は、これらの問題について神様に祈願し、託宣していただくように依頼した。
三千彦は一週間の時間を約束し、神殿に籠って祈願をこめはじめた。するとスマートの精霊が三千彦にお告げを聞かせはじめた。スマートは、玉国別一行には近いうちにこの館で会えるようになると三千彦を安堵した。そして、如意宝珠の玉は、この神館の家令のせがれのワックスという者が、ある目的のために隠していると託宣した。
スマートは、ワックスが玉を隠していることは小国姫には決して言わず、ただ近いうちに現れると答えるように教えた。また、小国別はもう寿命であること、妹娘のケリナは三五教の修験者に助けられて近いうちに帰ってくることを知らせた。
三千彦は天耳通が開けた者と思って、喜んで大神に感謝し、小国姫の居間に引き返して告げられたように、それぞれの問題の見通しを小国姫に答えた。小国姫は、小国別は残念ながら寿命だが、如意宝珠も妹娘も現れたのを見て国替えすることができる、と聞いて安心した。
そこへ小国別の容態が悪くなったということで、小国姫、三千彦、家令のオールスチンは枕頭に集まった。小国別はしきりに、ワックス、ワックス、と家令の息子の名前を呼んでいる。
小国姫は、何事が小国別とワックスの間にあったか調べるようにオールスチンに命じた。オールスチンは思い当ることがあるように首を傾けながら我が家に戻った。オールスチンが帰ってくると、二三人の人声が聞こえて来る。オールスチンは門の戸にもたれて話の様子を聞いている。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考:テルモン山の神館の小国別は、初版では「鬼国別」で、御校正本で「小国別」に直された。なぜか第56巻第16章「不臣」だけは「小国彦」(初版では「鬼国彦」)になっている。この章に4回出る。 タグ: データ凡例: データ最終更新日:2018-10-04 00:19:35 文字数:4707 OBC :rm5616
愛善世界社版:231頁 八幡書店版:第10輯 231頁 修補版: 校定版:244頁 普及版:109頁 初版: ページ備考:
001 神殿(しんでん)の拝礼(はいれい)が終(をは)ると共(とも)に三千彦(みちひこ)は小国姫(をくにひめ)の居間(ゐま)に招(せう)ぜられ、002茶菓(さくわ)の饗応(きやうおう)を受(う)け朝飯(あさめし)を頂(いただ)き等(など)して寛(くつろ)いでゐる。003朝飯(てうはん)が済(す)むと二人(ふたり)の侍女(じぢよ)は此(この)場(ば)を立(た)ち去(さ)り小国姫(をくにひめ)は憂(うれ)ひ顔(がほ)をし乍(なが)ら現(あら)はれ来(きた)り、
004姫(ひめ)『アン・ブラツク様(さま)、005よくまアお越(こ)し下(くだ)さいました。006折入(をりい)つてお願(ねがひ)致(いた)し度(た)い事(こと)が厶(ござ)いますが、007聞(き)いては下(くだ)さいますまいかな』
008三千(みち)『ハイ、009私(わたし)の力(ちから)に及(およ)ぶ事(こと)ならば如何(いか)なる御用(ごよう)も承(うけたま)はりませう。010御(ご)遠慮(ゑんりよ)なく仰(おほ)せ下(くだ)さいませ』
011姫(ひめ)『有難(ありがた)う厶(ござ)ります。012早速(さつそく)ながらお伺(うかが)ひ致(いた)しますが、013当館(たうやかた)は貴方(あなた)も御(ご)承知(しようち)の通(とほ)りバラモン教(けう)の大棟梁(だいとうりやう)大黒主(おほくろぬし)の神(かみ)様(さま)が、014まだ鬼雲彦(おにくもひこ)と仰(おほ)せられた時分(じぶん)、015ここを第一(だいいち)の聖場(せいぢやう)とお定(さだ)め遊(あそ)ばしたバラモン発祥(はつしやう)の旧跡(きうせき)で厶(ござ)います。016吾々(われわれ)夫婦(ふうふ)の名(な)は国彦(くにひこ)、017国姫(くにひめ)と申(まを)しましたが、018鬼雲彦(おにくもひこ)様(さま)より御(お)名(な)を頂(いただ)いて今(いま)は小国別(をくにわけ)[※底本では「小国彦」。他の章ではすべて「小国別」という名前だが、この章だけは何故か「小国彦」になっている。文脈上「小国別」が正しいので修正した。]、019小国姫(をくにひめ)と申(まを)して居(を)ります。020就(つ)いては当館(たうやかた)の重宝(ぢうはう)如意(によい)宝珠(ほつしゆ)の玉(たま)が紛失(ふんしつ)致(いた)しまして今(いま)に行衛(ゆくゑ)は知(し)れず、021百(ひやく)日(にち)の間(あひだ)に此(この)玉(たま)を発見(はつけん)せなければ吾々(われわれ)夫婦(ふうふ)は死(し)してお詫(わび)をせなくてはならない運命(うんめい)に陥(おちい)つて居(を)ります。022吾(わが)夫(をつと)はそれを苦(く)にして大病(たいびやう)に罹(かか)らせ玉(たま)ひ、023命(めい)旦夕(たんせき)に迫(せま)ると云(い)ふ今日(こんにち)の場合(ばあひ)で厶(ござ)います。024悪(わる)い事(こと)が重(かさ)なれば重(かさ)なるもので、025今(いま)より三(さん)年(ねん)以前(いぜん)に妹娘(いもうとむすめ)のケリナと云(い)ふもの、026仇(あだ)し男(をとこ)と共(とも)に家出(いへで)を致(いた)し、027今(いま)に行衛(ゆくゑ)も分(わか)らず、028夫婦(ふうふ)の心配(しんぱい)は口(くち)で申(まを)すやうの事(こと)では厶(ござ)いませぬ。029何卒(どうぞ)御(ご)神徳(しんとく)を以(もつ)て如意(によい)宝珠(ほつしゆ)の所在(ありか)をお知(し)らせ下(くだ)さる訳(わけ)には参(まゐ)りませぬか』
030 三千彦(みちひこ)は天眼通(てんがんつう)が些(ちつ)とも利(き)かないので、031こんな問題(もんだい)を提出(ていしゆつ)されても一言(いちごん)も答(こた)へる事(こと)が出来(でき)ない。032然(しか)し乍(なが)ら、033何(なん)とかして此(この)場(ば)のゴミを濁(にご)さねばならないと一生(いつしやう)懸命(けんめい)に大神(おほかみ)を念(ねん)じ乍(なが)ら事(こと)もなげに答(こた)へて云(い)ふ。
034三千(みち)『お話(はなし)を承(うけたま)はれば実(じつ)に同情(どうじやう)に堪(た)えませぬ。035必(かなら)ず御(ご)心配(しんぱい)なさいますな。036私(わたし)がここへ参(まゐ)りました以上(いじやう)は必(かなら)ず神(かみ)様(さま)のお綱(つな)がかかつて引寄(ひきよ)せられたに相違(さうゐ)厶(ござ)いませぬ。037ここ一(いつ)週間(しうかん)の間(あひだ)御(ご)祈念(きねん)致(いた)し、038玉(たま)の所在(ありか)を伺(うかが)つてみませう』
039と其(その)場(ば)逃(のが)れの覚束(おぼつか)なげの挨拶(あいさつ)をして居(ゐ)る。040溺(おぼ)るる者(もの)は藁条(わらすべ)一本(いつぽん)にも頼(たよ)らむとする喩(たとへ)の如(ごと)く、041小国姫(をくにひめ)は三千彦(みちひこ)の言葉(ことば)を唯一(ゆゐいつ)の力(ちから)とし大(おほい)に喜(よろこ)んで笑(ゑみ)を湛(たた)へ乍(なが)ら、
042姫(ひめ)『御(ご)親切(しんせつ)に有難(ありがた)う厶(ござ)います。043何分(なにぶん)に宜(よろ)しうお願(ねが)ひ致(いた)します。044そして厚(あつ)かましいお願(ねが)ひで厶(ござ)いますが、045夫(をつと)の病気(びやうき)は如何(いかが)で厶(ござ)いませうかな』
046三千(みち)『先(ま)づ一(いつ)週間(しうかん)心魂(しんこん)を籠(こ)めて祈(いの)る事(こと)に致(いた)しませう。047神(かみ)様(さま)は如何(どう)しても必要(ひつえう)があると思召(おぼしめ)したら命(いのち)を助(たす)けられるでせうし、048又(また)霊界(れいかい)にどうしても御用(ごよう)があると思召(おぼしめ)したら命(いのち)をお引(ひ)き取(と)りになるでせう。049生死(せいし)問題(もんだい)のみは如何(いかん)ともする事(こと)は出来(でき)ませぬ。050之(これ)は神(かみ)様(さま)にお任(まか)せなさるより外(ほか)に道(みち)はありますまい』
051姫(ひめ)『仰(おほ)せの如(ごと)く何時(いつ)も私(わたし)も信者(しんじや)に生死(せいし)問題(もんだい)に就(つ)いては、052人間(にんげん)の如何(いかん)ともする所(ところ)でないと説(と)いて居(ゐ)ますが、053さて自分(じぶん)の身(み)の上(うへ)に関(くわん)するとなるとツイ愚痴(ぐち)が出(で)たり、054迷(まよ)ふたりしてお恥(はづか)しき事(こと)で厶(ござ)います。055それから、056も一(ひと)つ申兼(まをしか)ねますが娘(むすめ)の行衛(ゆくゑ)で厶(ござ)います。057彼娘(あれ)はまだ無事(ぶじ)に此(この)世(よ)に残(のこ)つて居(を)るでせうか。058或(あるひ)は悪者(わるもの)の為(た)めに殺(ころ)されたやうな事(こと)は厶(ござ)いますまいか。059それ許(ばか)りが心配(しんぱい)で堪(たま)りませぬ』
060 三千彦(みちひこ)は何(ど)れも此(こ)れも宜(よ)い加減(かげん)な返事(へんじ)はして居(を)れない。061エー、062ままよ、063一(いち)か八(ばち)かと決心(けつしん)して、
064三千(みち)『娘(むすめ)さまの事(こと)は御(ご)心配(しんぱい)なさいますな。065屹度(きつと)神(かみ)様(さま)のお恵(めぐみ)で近(ちか)い内(うち)に無事(ぶじ)にお帰(かへ)りになります』
066姫(ひめ)『ハイ、067有難(ありがた)う厶(ござ)ります。068そして娘(むすめ)は今頃(いまごろ)は何処(どこ)の国(くに)に居(を)りますか。069一寸(ちよつと)それを聞(き)かして頂(いただ)き度(た)いもので厶(ござ)います』
070 三千彦(みちひこ)はハツと詰(つ)まり乍(なが)ら肝(きも)を放(ほ)り出(だ)して、
071三千(みち)『つい近(ちか)い所(ところ)に隠(かく)れて居(を)られます。072まア御(ご)心配(しんぱい)なさいますな。073軈(やが)て帰(かへ)られますから、074然(しか)し詳(くは)しい事(こと)は御(ご)神殿(しんでん)で伺(うかが)つて来(こ)なくては申上(まをしあげ)兼(か)ねますから』
075姫(ひめ)『成程(なるほど)、076さうで厶(ござ)いませう。077何卒(どうぞ)御緩(ごゆつく)りなさいましたら、078一度(いちど)御(ご)神勅(しんちよく)を伺(うかが)つて下(くだ)さいませ』
079三千(みち)『ハイ、080承知(しようち)致(いた)しました。081これから早速(さつそく)伺(うかが)つて参(まゐ)ります。082併(しか)し乍(なが)ら誰方(どなた)もお出(い)でにならぬやうに願(ねが)ひます』
083と云(い)ひ残(のこ)し神殿(しんでん)さして進(すす)み行(ゆ)く。
084 三千彦(みちひこ)は神殿(しんでん)に進(すす)み小声(こごゑ)になつて天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し、085終(をは)つて、
086三千(みち)『私(わたくし)は大変(たいへん)な難問題(なんもんだい)にぶつつかりました。087併(しか)し乍(なが)ら苟(いやし)くも三五(あななひ)の宣伝使(せんでんし)、088宜(い)い加減(かげん)な事(こと)は申(まを)されませぬ。089もし宜(い)い加減(かげん)の事(こと)を申(まを)し、090化(ば)けが露(あら)はれたなら、091それこそ神(かみ)様(さま)のお名(な)を穢(けが)し、092師(し)の君(きみ)に対(たい)しても相済(あひす)みませぬからハツキリした事(こと)を、093ここ一(いつ)週間(しうかん)の間(うち)に私(わたくし)の耳許(みみもと)にお聞(き)かせ下(くだ)さいますか、094但(ただし)は夢(ゆめ)になりと知(し)らして下(くだ)さいませ。095そしてなる事(こと)なら吾(わが)師(し)の君(きみ)の所在(ありか)のほどもお示(しめ)し願(ねが)ひます』
096 斯(か)く念(ねん)じて暫(しば)らく瞑目(めいもく)して居(ゐ)ると忽(たちま)ち背中(せなか)がムクムクと膨(ふく)れ出(だ)し、097犬(いぬ)の様(やう)なものが負(お)ぶさつた様(やう)な重味(おもみ)が感(かん)じて姿(すがた)は見(み)えねど、098少(すこ)し掠(かす)つた声(こゑ)で耳許(みみもと)に囁(ささや)いた者(もの)がある。099之(これ)はスマートの精霊(せいれい)が三千彦(みちひこ)の身(み)を守(まも)るべく諭(さと)して呉(く)れたのである。100さうして其(その)示言(じげん)は左(さ)の通(とほ)りであつた。
101精霊(せいれい)『三千彦(みちひこ)殿(どの)、102其方(そなた)は大変(たいへん)に心配(しんぱい)を致(いた)して居(を)るが、103玉国別(たまくにわけ)様(さま)一行(いつかう)は軈(やが)て近(ちか)い内(うち)に此(この)館(やかた)でお目(め)にかかれるであらう。104そして当館(たうやかた)の重宝(ぢうはう)如意(によい)の宝珠(ほつしゆ)は家令(かれい)の悴(せがれ)ワツクスと云(い)ふ者(もの)が或(ある)目的(もくてき)のために隠(かく)して居(を)るのだから、105之(これ)も只(たつた)今(いま)現(あら)はれるであらう。106儂(わし)は初稚姫(はつわかひめ)の身辺(しんぺん)を守(まも)るスマートと云(い)ふものだが、107小国姫(をくにひめ)に対(たい)しては決(けつ)してワツクスが匿(かく)して居(を)る等(など)と云(い)つてはなりませぬぞ。108然(しか)し直様(すぐさま)、109現(あら)はれる様(やう)に致(いた)すから心配(しんぱい)致(いた)すなと云(い)つて置(お)きなさい。110又(また)此(この)家(や)の主人(しゆじん)小国別(をくにわけ)[※底本では「小国彦」]はここ暫(しば)らくの寿命(じゆみやう)だから、111それは諦(あきら)める様(やう)に云(い)ふて置(お)くが宜(よ)い。112又(また)娘(むすめ)のケリナ姫(ひめ)は三五教(あななひけう)の修験者(しゆげんじや)に助(たす)けられ、113近(ちか)い中(うち)に帰(かへ)つて来(く)る。114之(これ)も安心(あんしん)するやうに知(し)らしてやりなさい。115尋(たづ)ねる事(こと)は、116もう之(これ)でないかな』
117と小(ちひ)さい声(こゑ)が聞(きこ)えて来(く)る。118三千彦(みちひこ)は初(はじ)めて天耳通(てんじつう)が開(ひら)けたものと考(かんが)へ、119非常(ひじやう)に喜(よろこ)んで大神(おほかみ)に感謝(かんしや)し、120莞爾(にこにこ)として小国姫(をくにひめ)の居間(ゐま)に引返(ひきかへ)した。121小国姫(をくにひめ)は三千彦(みちひこ)の何処(どこ)ともなく元気(げんき)に充(み)ちた顔色(がんしよく)を見(み)て、
122姫(ひめ)『こりや、123些(ちつ)と有望(いうばう)に違(ちが)ひない』
124と早(はや)くも合点(がつてん)し、125さも嬉(うれ)しげに、
126姫(ひめ)『これはこれはアンブラツク様(さま)、127御(ご)苦労(くらう)様(さま)で厶(ござ)いました。128御(ご)神徳(しんとく)高(たか)き貴方(あなた)、129定(さだ)めし神(かみ)様(さま)のお告(つ)げを直接(ちよくせつ)お聞(き)きなさいましたでせう。130何卒(どうぞ)お示(しめ)し下(くだ)さいませ』
131三千(みち)『イヤ、132さう褒(ほ)められては恐(おそ)れ入(い)ります。133何(なに)を云(い)つてもバラモン教(けう)へ這入(はい)つてから、134俄(にはか)に抜擢(ばつてき)されて宣伝使(せんでんし)になつたものの、135経文(きやうもん)も碌(ろく)にあがりませぬ。136只(ただ)信念(しんねん)堅実(けんじつ)と云(い)ふ廉(かど)を以(もつ)て宣伝使(せんでんし)にして貰(もら)つたのですから、137バラモン教(けう)の教理(けうり)は少(すこ)しも存(ぞん)じませぬが、138信仰(しんかう)の力(ちから)によりまして天眼通(てんがんつう)、139天耳通(てんじつう)を授(さづ)けて頂(いただ)いて居(を)ります。140それで何(ど)んな事(こと)でも鏡(かがみ)にかけた如(ごと)く知(し)らして頂(いただ)けます』
141姫(ひめ)『イヤ、142結構(けつこう)で厶(ござ)います。143今(いま)の宣伝使(せんでんし)は難(むつかし)い小理窟(こりくつ)ばかり云(い)つて、144朝(あさ)から晩(ばん)まで経文(きやうもん)の研究(けんきう)に日(ひ)を暮(くら)し、145肝腎(かんじん)の信仰(しんかう)が欠(か)けて居(ゐ)ますから、146神(かみ)様(さま)のお取次(とりつぎ)であり乍(なが)ら、147些(ちつ)とも大神(おほかみ)の意思(いし)が分(わか)らないので厶(ござ)いますよ。148何(なに)を云(い)つても不言(ふげん)実行(じつかう)が結構(けつこう)で厶(ござ)います。149さうして神(かみ)様(さま)は何(なん)と仰(おほ)せられましたかな』
150三千(みち)『はい、151明白(はつきり)した事(こと)は分(わか)りませぬが私(わたし)のインプレッションに拠(よ)りますれば、152此(この)お館(やかた)の重宝(ぢうはう)は近(ちか)い中(うち)にお手(て)に這入(はい)ります。153屹度(きつと)私(わたし)が貴女(あなた)にお手渡(てわた)しをしますから御(ご)安心(あんしん)下(くだ)さいませ。154さうしてお嬢(ぢやう)さまは日(ひ)ならずお帰(かへ)りになります。155然(しか)し乍(なが)ら旦那(だんな)様(さま)はお気(き)の毒(どく)ながら天国(てんごく)へ御用(ごよう)がおありなさるさうだから先(ま)づお諦(あきら)めなさるが宜(よろ)しからう』
156姫(ひめ)『どうも有難(ありがた)う厶(ござ)りました。157神(かみ)様(さま)の御用(ごよう)で昇天(しようてん)するとあれば止(や)むを得(え)ませぬが、158成(な)る事(こと)ならば夫(をつと)の生存中(せいぞんちゆう)に如意(によい)宝珠(ほつしゆ)の在所(ありか)が分(わか)り、159又(また)娘(むすめ)の顔(かほ)を一目(ひとめ)見(み)せ度(た)いもので厶(ござ)いますが、160如何(いかが)で厶(ござ)りませう、161これは叶(かな)ひますまいかな』
162三千(みち)『イヤ、163御(ご)心配(しんぱい)なさいますな。164之(これ)は屹度(きつと)現(あら)はれて参(まゐ)ります。165そして御(ご)主人(しゆじん)が如意(によい)宝珠(ほつしゆ)を抱(だ)き、166片手(かたて)に姫(ひめ)さまを抱(だ)いて喜(よろこ)び勇(いさ)んで国替(くにがへ)をなさいますから、167まア一(いち)時(じ)も早(はや)く神(かみ)様(さま)のお繰合(くりあは)せをして頂(いただ)くやう御(ご)祈願(きぐわん)を成(な)さいませ。168私(わたし)も一生(いつしやう)懸命(けんめい)に御(ご)祈願(きぐわん)致(いた)します』
169姫(ひめ)『ハイ、170有難(ありがた)う厶(ござ)います』
171と嬉(うれ)し涙(なみだ)にかき暮(く)れる。172斯(か)かる処(ところ)へ家令(かれい)のオールスチンは衣紋(えもん)を繕(つくろ)ひ現(あら)はれ来(きた)り、
173オールス『もし、174奥様(おくさま)、175旦那(だんな)様(さま)が大変(たいへん)お苦(くるし)みで厶(ござ)います。176そして奥(おく)を呼(よ)んで来(き)て呉(く)れと仰有(おつしや)いますから何卒(どうぞ)早(はや)く側(そば)へ行(い)つて下(くだ)さいませ。177私(わたくし)は宣伝使(せんでんし)のお側(そば)にお相手(あひて)を仕(つかまつ)りますから』
178姫(ひめ)『アン・ブラツク様(さま)、179今(いま)家令(かれい)の申(まを)した通(とほ)り、180主人(しゆじん)が待(ま)つて居(を)りますから一寸(ちよつと)行(い)つて参(まゐ)りますから何卒(どうぞ)御緩(ごゆつく)りとお休(やす)み下(くだ)さいませ』
181と言(い)ひ捨(す)てて忙(いそが)しげに此(この)場(ば)を立(た)つて行(ゆ)く。
182 オールスチンは三千彦(みちひこ)に向(むか)ひ、
183オールス『宣伝使(せんでんし)様(さま)、184どうも御(ご)苦労(くらう)様(さま)で厶(ござ)います。185お聞(きき)及(およ)びの通(とほ)り此(この)お館(やかた)には大事(だいじ)が突発(とつぱつ)致(いた)しまして上(うへ)を下(した)へと騒(さわ)ぎ廻(まは)つて居(を)ります。186どうか貴方(あなた)の御(ご)神徳(しんとく)によりまして、187此(この)急場(きふば)が逃(のが)れますやうにお願(ねが)ひ致(いた)し度(た)う厶(ござ)います。188そして神(かみ)様(さま)の御(ご)神勅(しんちよく)は如何(いかが)で厶(ござ)いましたか』
189三千(みち)『御(ご)心配(しんぱい)なさいますな。190如意(によい)宝珠(ほつしゆ)の玉(たま)は決(けつ)して外(そと)へ紛失(ふんしつ)はして居(を)りませぬ。191此(この)お館(やかた)に出入(でいり)する相当(さうたう)な役員(やくゐん)の息子(むすこ)が、192或(ある)目的(もくてき)を抱(いだ)いて玉(たま)を匿(かく)して居(を)ると云(い)ふ事(こと)が、193神(かみ)様(さま)のお告(つ)げで分(わか)りました。194軈(やが)て出(で)て来(く)るで厶(ござ)いませう』
195オールス『エ、196何(なん)と仰有(おつしや)ります、197あの如意(によい)宝珠(ほつしゆ)の宝玉(はうぎよく)を此(この)身内(みうち)の者(もの)が匿(かく)して居(を)ると仰有(おつしや)るのですか。198そして此(この)館(やかた)へ出入(でいり)する重(おも)なる役員(やくゐん)の息子(むすこ)とは誰(たれ)で厶(ござ)いませう。199参考(さんかう)のためにお名(な)を聞(き)かして頂(いただ)き度(た)う厶(ござ)いますが……』
200三千(みち)『まだ私(わたくし)も修行(しゆぎやう)が足(た)りませぬので、201隠(かく)した人(ひと)の姓名(せいめい)まで明白(はつき)り云(い)ふ事(こと)は出来(でき)ませぬ。202丸顔(まるがほ)の色白(いろじろ)い男(をとこ)だと云(い)ふ事(こと)だけは確(たしか)に分(わか)つて居(を)ります』
203オールス『はてなア、204妙(めう)な事(こと)を聞(き)きまする。205然(しか)し乍(なが)ら誰(たれ)が匿(かく)してあるにせよ、206之(これ)を探(さが)し出(だ)さねば小国別(をくにわけ)[※底本では「小国彦」]様(さま)の言(い)ひ訳(わけ)が立(た)たず、207又(また)此(この)館(やかた)の役員(やくゐん)迄(まで)が大黒主(おほくろぬし)から厳(きび)しい罰(ばつ)を受(う)けねばなりませぬ。208そしてその玉(たま)は近(ちか)いうちに現(あら)はれるで厶(ござ)いませうか』
209三千(みち)『屹度(きつと)現(あら)はれます。210成(な)るべく事(こと)を穏(おだや)かに済(す)ませ度(た)いと思(おも)ひますから、211何卒(どうぞ)秘密(ひみつ)にして置(お)いて下(くだ)さいませ。212互(たがひ)に瑕(きず)がついてはなりませぬからな』
213オールス『成程(なるほど)、214仰有(おつしや)る通(とほ)りで厶(ござ)います。215こんな事(こと)が外(ほか)へ洩(も)れては一大事(いちだいじ)、216一(いち)時(じ)も早(はや)く現(あら)はれますやう、217そして旦那(だんな)様(さま)に一(いち)時(じ)も早(はや)く安心(あんしん)の行(ゆ)くやう、218願(ねが)つて下(くだ)さいませ』
219三千(みち)『ハイ、220承知(しようち)致(いた)しました』
221 斯(か)かる所(ところ)へ小国姫(をくにひめ)は再(ふたた)び現(あら)はれ来(きた)り、
222姫(ひめ)『もし、223宣伝使(せんでんし)様(さま)、224主人(しゆじん)が大変(たいへん)に様子(やうす)が悪(わる)うなりましたから、225何卒(どうぞ)一(ひと)つ御(ご)祈祷(きとう)をしてやつて下(くだ)さいますまいかな』
226三千(みち)『それはお困(こま)りです。227然(しか)らば参(まゐ)りませう』
228と云(い)ひ乍(なが)ら家令(かれい)と共(とも)に主人(しゆじん)の居間(ゐま)に通(とほ)つた。
229 小国別(をくにわけ)[※底本では「小国彦」]は熱(ねつ)に浮(う)かされて囈言(うさごと)を云(い)つて居(ゐ)る。230そして時々(ときどき)、231ワツクス ワツクスと呻(うめ)いて居(ゐ)る。232ワツクスとは家令(かれい)のオールスチンが息子(むすこ)である。233オールスチンは之(これ)を聞(き)くよりハツと胸(むね)を撫(な)で、234俯向(うつむ)いて思案(しあん)に暮(く)れて居(ゐ)る。235小国姫(をくにひめ)は少(すこ)しく声(こゑ)を尖(とが)らし乍(なが)ら、
236姫(ひめ)『これ、237オールスチン、238今(いま)旦那(だんな)様(さま)が夢中(むちう)になつて「ワツクス ワツクス」と仰有(おつしや)るのはお前(まへ)の悴(せがれ)の名(な)に違(ちが)ひない。239何(なに)か旦那(だんな)様(さま)に対(たい)し、240御(ご)無礼(ぶれい)の事(こと)をして居(ゐ)るのではあるまいか。241よく調(しら)べて下(くだ)さい。242此(この)宣伝使(せんでんし)様(さま)にお尋(たづ)ねすれば直(すぐ)分(わか)るだらうけれど、243斯(こ)んな事(こと)まで御(ご)苦労(くらう)になるのは畏(おそ)れ多(おほ)い事(こと)だから、244お前(まへ)、245心(こころ)に当(あた)る事(こと)があるなら包(つつ)まず隠(かく)さず、246ワツクスの事(こと)に就(つ)いて述(の)べて下(くだ)さい』
247オールス『ハイ、248心当(こころあた)りと申(まを)しては何(なに)も厶(ござ)いませぬが、249兎(と)も角(かく)宅(うち)へ帰(かへ)りまして悴(せがれ)を調(しら)べて見(み)ませう。250暫(しばら)くお待(ま)ち下(くだ)さいませ。251然(しか)らば奥様(おくさま)、252旦那(だんな)様(さま)をお大切(たいせつ)にして下(くだ)さいませ。253アンブラツク様(さま)、254左様(さやう)ならば一寸(ちよつと)宅(たく)まで帰(かへ)つて参(まゐ)ります。255何卒(どうぞ)宜(よろ)しうお願(ねが)ひ申(まを)します』
256と言葉(ことば)を残(のこ)し急(いそ)ぎ吾(わが)家(や)を指(さ)して帰(かへ)り行(ゆ)く。
257 オールスチンは館(やかた)を出(い)でて吾(わが)家(や)に帰(かへ)る道(みち)すがら幾度(いくたび)となく吐息(といき)をつき、258何事(なにごと)か心(こころ)に当(あた)るものの如(ごと)く首(くび)を傾(かたむ)け乍(なが)ら、259杖(つゑ)を突(つ)きトボトボとして吾(わが)家(や)に帰(かへ)り行(ゆ)く。260田圃(たんぼ)の稲葉(いなば)は風(かぜ)に煽(あふ)られてサラサラと勇(いさ)ましく鳴(な)つて居(ゐ)る。261燕(つばめ)は前後(ぜんご)左右(さいう)に梭(おさ)をうつ様(やう)に黒(くろ)い羽根(はね)の間(あひ)から白(しろ)い羽毛(うまう)を現(あら)はし、262或(あるひ)は高(たか)く或(あるひ)は低(ひく)く大車輪(だいしやりん)の活動(くわつどう)を稲田(いなだ)の上(うへ)にやつて居(ゐ)る。263寝(ね)むたさうに梟(ふくろ)の声(こゑ)はホウホウと家(いへ)の後(うしろ)の森林(しんりん)から聞(きこ)えて居(ゐ)る。264オールスチンは秘(ひそ)かに吾(わが)家(や)の門口(かどぐち)に帰(かへ)つて見(み)ると二三(にさん)人(にん)の人声(ひとごゑ)が盛(さかん)に聞(きこ)えて居(ゐ)る。265心(こころ)にかかるオールスチンは耳(みみ)をすませて門(かど)の戸(と)に凭(もた)れ話(はなし)の様子(やうす)を立聞(たちぎ)きし居(ゐ)たりけり。
266(大正一二・三・一七 旧二・一 於竜宮館 北村隆光録)
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