霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第五章 鷹魅(ようみ)〔一四三五〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第56巻 真善美愛 未の巻 篇:第1篇 自愛之柵 よみ(新仮名遣い):じあいのしがらみ
章:第5章 鷹魅 よみ(新仮名遣い):ようみ 通し章番号:1435
口述日:1923(大正12)年03月14日(旧01月27日) 口述場所:竜宮館 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年5月3日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
宣伝歌を歌いながらやってきた婆は高姫であった。高姫はこの原野は自分の管轄区域だと言うと、四人の男女に声をかけて招いた。
高姫はここは現界だと言い張ると、半ば強引に四人を自分の館に招いた。谷川のほとりに、高姫の中有界における住処である小さな萱吹きの家が建っていた。一行は橋を渡って高姫館に着いた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:0000-00-00 00:00:00 文字数:4133 OBC :rm5605
愛善世界社版:56頁 八幡書店版:第10輯 166頁 修補版: 校定版:59頁 普及版:25頁 初版: ページ備考:
001此(この)世(よ)を造(つく)りし元津祖(もとつおや)
002弥勒(みろく)の神(かみ)は高姫(たかひめ)が
003肉(にく)のお宮(みや)に憑(うつ)りたる
004日(ひ)の出神(でのかみ)とこじつけて
005金剛(こんがう)不壊(ふゑ)の如意(によい)宝珠(ほつしゆ)
006其(その)外(ほか)百(もも)の神宝(しんぱう)に
007執着(しふちやく)強(つよ)く四方(よも)の国(くに)
008海洋(かいやう)万里(ばんり)の波(なみ)渡(わた)り
009騒(さわ)ぎまはりし其(その)結果(けつくわ)
010仁慈(じんじ)無限(むげん)の瑞御霊(みづみたま)
011神(かむ)素盞嗚(すさのを)の大神(おほかみ)の
012水(みづ)も洩(も)らさぬ執成(とりなし)に
013心(こころ)の底(そこ)から悔悟(くわいご)して
014誠(まこと)の道(みち)に生(い)き復(かへ)り
015暫(しば)らく聖地(せいち)に現(あら)はれて
016教(をしへ)を伝(つた)へ居(ゐ)たりしが
017淡路(あはぢ)の里(さと)の東助(とうすけ)が
018昔馴染(むかしなじみ)と聞(き)きしより
019再(ふたた)び狂(くる)ふ心猿(しんゑん)意馬(いば)の
020止(と)め度(ど)もなしに躍動(やくどう)し
021生田(いくた)の森(もり)を後(あと)にして
022長(なが)の海山(うみやま)打渡(うちわた)り
023心(こころ)いそいそ斎苑(いそ)館(やかた)
024ウブスナ山(やま)の聖場(せいぢやう)に
025詣(まう)で来(きた)りて東助(とうすけ)に
026過(す)ぎし昔(むかし)の物語(ものがたり)
027シツポリなして旧交(きうかう)を
028回復(くわいふく)せむと恋愛(れんあい)の
029雲(くも)に包(つつ)まれ村肝(むらきも)の
030心(こころ)は暗(やみ)となりにけり
031信心(しんじん)堅固(けんご)の東助(とうすけ)は
032恋(こひ)に狂(くる)へる高姫(たかひめ)に
033只(ただ)一瞥(いちべつ)もくれずして
034いと素気(すげ)なくも刎(は)ねつける
035心(こころ)曇(くも)りし高姫(たかひめ)も
036愈(いよいよ)自暴(じばう)自棄(じき)となり
037又(また)もやもとの悪身魂(あくみたま)
038再発(さいはつ)なして河鹿山(かじかやま)
039嵐(あらし)に面(おもて)を曝(さら)しつつ
040恥(はぢ)も名誉(めいよ)も知(し)らばこそ
041玉国別(たまくにわけ)の築(きづ)きたる
042祠(ほこら)の森(もり)に立寄(たちよ)りて
043ここに教主(けうしゆ)となりすまし
044館(やかた)の主人(あるじ)珍彦(うづひこ)を
045眼下(がんか)に見下(みくだ)し居(ゐ)たる折(をり)
046大雲山(だいうんざん)に蟠(わだか)まる
047八岐(やまた)大蛇(をろち)の片腕(かたうで)と
048兇党界(きようたうかい)にて名(な)も高(たか)き
049妖幻坊(えうげんばう)に操(あやつ)られ
050斎苑(いそ)の館(やかた)の時置師(ときおかし)
051杢助(もくすけ)総務(そうむ)と誤解(ごかい)して
052うまく抱(だ)き込(こ)み一旗(ひとはた)を
053挙(あ)げて聖地(せいち)に立籠(たてこ)もる
054東野別(あづまのわけ)の向(むか)ふ張(は)り
055恋(こひ)の意趣(いしう)を晴(は)らさむと
056企(たく)み居(ゐ)たりし折(をり)もあれ
057初稚姫(はつわかひめ)が現(あら)はれて
058千変(せんぺん)万化(ばんくわ)の活動(くわつどう)に
059居堪(ゐたま)りかねて妖幻坊(えうげんばう)
060高姫(たかひめ)諸共(もろとも)森林(しんりん)を
061潜(くぐ)つてスタスタ逃(に)げ出(いだ)し
062小北(こぎた)の山(やま)の神殿(しんでん)に
063夫婦(ふうふ)気取(きどり)で進(すす)み入(い)り
064神(かみ)の光(ひかり)に照(て)らされて
065曲輪(まがわ)の玉(たま)を落(おと)しつつ
066高姫(たかひめ)諸共(もろとも)逃(に)げ出(いだ)す
067妖幻坊(えうげんばう)の杢助(もくすけ)は
068高姫司(たかひめつかさ)と諸共(もろとも)に
069バラモン軍(ぐん)の屯(たむろ)せし
070浮木(うきき)の森(もり)に現(あら)はれて
071あらゆる魔法(まはふ)を行(おこな)ひつ
072世人(よびと)を悩(なや)め居(ゐ)たる折(をり)
073三五教(あななひけう)に名(な)も高(たか)き
074天女(てんによ)に等(ひと)しき神司(かむつかさ)
075初稚姫(はつわかひめ)やスマートの
076声(こゑ)に驚(おどろ)き妖幻坊(えうげんばう)
077黒雲(くろくも)起(おこ)し高姫(たかひめ)を
078小脇(こわき)に抱(かか)へ空中(くうちう)を
079逃(に)げ行(ゆ)く折(をり)しもデカタンの
080大高原(だいかうげん)の中央(まんなか)に
081高姫司(たかひめつかさ)を遺失(ゐしつ)して
082雲(くも)を霞(かすみ)と逃(に)げて行(ゆ)く
083高姫(たかひめ)空(そら)より墜落(つゐらく)し
084人事(じんじ)不省(ふせい)に陥(おちい)りて
085霊肉(れいにく)脱離(だつり)の関門(くわんもん)を
086漸(やうや)く越(こ)えて遥々(はるばる)と
087八衢(やちまた)関所(せきしよ)に来(き)て見(み)れば
088さも勇(いさ)ましき赤白(あかしろ)の
089守衛(しゆゑい)に行途(ゆくて)を遮(さへぎ)られ
090三歳(みとせ)の間(あひだ)中有(ちうう)の
091世界(せかい)に有(あ)りて精霊(せいれい)を
092研(みが)き清(きよ)むる身(み)となりぬ
093さは去(さ)り乍(なが)ら高姫(たかひめ)の
094身魂(みたま)は地獄(ぢごく)に籍(せき)を置(お)き
095高天原(たかあまはら)の霊光(れいくわう)を
096畏(おそ)れ戦(をのの)き忌(い)み嫌(きら)ひ
097一歳(ひととせ)経(た)ちし今日(けふ)の日(ひ)も
098中有界(ちううかい)をブラブラと
099彷徨(さまよ)ひ巡(めぐ)り迷(まよ)ひ来(く)る
100百(もも)の精霊(せいれい)に相対(あひたい)し
101現実界(げんじつかい)にありし如(ごと)
102脱線(だつせん)だらけの宣伝(せんでん)を
103つづけ居(ゐ)たるぞ愚(おろか)なれ
104エリシナ谷(だに)に隠(かく)れたる
105ケリナの姫(ひめ)やバラモンの
106軍人(いくさびと)なるヘル、シャルや
107六造(ろくざう)の四(よ)人(にん)が道(みち)の辺(べ)の
108草(くさ)に隠(かく)るる姿(すがた)をば
109目敏(めざと)く眺(なが)め立止(たちど)まり
110皺枯声(しわがれごゑ)を張上(はりあ)げて
111日出(ひのでの)神(かみ)の義理(ぎり)天上(てんじやう)
112弥勒(みろく)の神(かみ)の御(お)先達(せんだつ)
113高姫司(たかひめつかさ)の生宮(いきみや)が
114汝(なんぢ)等(ら)四(よ)人(にん)に気(き)をつける
115早(はや)く草原(くさはら)飛(と)び出(だ)して
116吾(わが)生宮(いきみや)の前(まへ)に出(で)よ
117如何(いか)に如何(いか)にと呼(よ)び立(た)てる
118其(その)スタイルぞ可笑(をか)しけれ
119ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
120迷(まよ)ひ切(き)つたる霊魂(たましひ)は
121神(かみ)の力(ちから)も如何(いかん)とも
122救(すく)はむ手段(てだて)もなかりけり。
123 高姫(たかひめ)は道(みち)の辺(べ)の長(なが)い草(くさ)の中(なか)に隠(かく)れてゐる四(よ)人(にん)の男女(なんによ)に向(むか)ひ声(こゑ)を尖(とが)らし乍(なが)ら、124言葉(ことば)の尻口(しりくち)をピンとあげて口角(こうかく)泡(あわ)を飛(と)ばし、125アトラスの様(やう)な顔(かほ)を前(まへ)にニユツと出(だ)し二(ふた)つ三(み)ツつ腮(あご)をしやくり肩(かた)を揺(ゆす)り、126招(まね)き猫(ねこ)の様(やう)な手(て)つきをして二(ふた)つ三(み)ツつ空(くう)を掻(か)き乍(なが)ら、
127高姫(たかひめ)『これこれ、128何処(どこ)の方(かた)か知(し)らぬが此(この)原野(げんや)は此(この)高姫(たかひめ)の管轄(くわんかつ)区域(くゐき)だ。129何故(なぜ)こんな処(ところ)まで黙(だま)つて来(き)たのだい。130まア、131ちつと此方(こちら)へ来(き)なさい。132結構(けつこう)な話(はなし)をしてやらう。133エーエー、134辛気(しんき)臭(くさ)い。135早(はや)う出(で)なさらんかいな。136蟋蟀(いとど)か螽斯(ばつた)の様(やう)に草(くさ)の中(なか)に何時(いつ)迄(まで)すつこんで居(を)つても埒(らち)は明(あ)きませぬぞや』
137 四(よ)人(にん)は怖々(こはごは)草(くさ)を分(わ)けガサガサと高姫(たかひめ)の二三間(にさんげん)手前(てまへ)まで現(あら)はれて来(き)た。138さうして不思議(ふしぎ)相(さう)に稍(やや)俯向(うつむき)気味(きみ)になつて高姫(たかひめ)の顔(かほ)をチラチラと偸(ぬす)む様(やう)に見(み)てゐた。
139高姫(たかひめ)『これ皆(みな)さま、140お前(まへ)がここへ来(く)る途中(とちう)に一(ひと)つの家(いへ)があつただらう。141何故(なぜ)そこを黙(だま)つて通(とほ)つて来(き)たのだい。142此(この)高姫(たかひめ)はもとは三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)、143今(いま)はウラナイ教(けう)のエンゼルだぞえ。144天(てん)の弥勒(みろく)様(さま)の根本(こつぽん)の根本(こつぽん)の大柱(おほはしら)の大弥勒(おほみろく)様(さま)で、145義理(ぎり)天上(てんじやう)日出(ひのでの)神(かみ)の生宮(いきみや)で厶(ござ)るぞや。146あんまり現界(げんかい)の人間(にんげん)が身魂(みたま)が曇(くも)つてゐるので、147どうぞ助(たす)けて天国(てんごく)へやつてやり度(た)いと思(おも)つて化身(けしん)の法(はふ)を使(つか)ひ、148高姫(たかひめ)の肉宮(にくみや)を使(つか)つて此(この)大野(おほの)ケ原(はら)を往来(ゆきき)する人民(じんみん)を片端(かたつぱし)から取(と)ツ捉(つか)まへて、149誠(まこと)の教(をしへ)を聞(き)かしてゐるのだ。150さア早(はや)く出(で)て来(き)なさい』
151六造(ろくざう)『お前(まへ)さまは音(おと)に名高(なだか)い高姫(たかひめ)さまで厶(ござ)いましたか。152お名(な)は承(うけたま)はつてゐましたが、153お目(め)にかかるのは初(はじ)めてです』
154高姫(たかひめ)『うん、155さうかな。156妾(わし)の名(な)は何(なん)と云(い)つても宇宙(うちう)根本(こつぽん)の大神(おほかみ)様(さま)の生宮(いきみや)だから津々(つつ)浦々(うらうら)迄(まで)響(ひび)いてゐる筈(はず)だ。157三(さん)人(にん)のお方(かた)、158お前(まへ)等(たち)も妾(わし)の名(な)を聞(き)いて居(を)つただらうな』
159ヘル『ハイ、160根(ね)つから聞(き)いた事(こと)は厶(ござ)いませぬ。161私(わたし)は初稚姫(はつわかひめ)さまだとか、162清照姫(きよてるひめ)とか云(い)ふ立派(りつぱ)な方(かた)の名(な)は聞(き)いて居(ゐ)ますが、163高姫(たかひめ)さまと云(い)ふ名(な)は今日(こんにち)が初(はじ)めてです』
164高姫(たかひめ)『さうかいな。165何(なん)とまア遅(おく)れ耳(みみ)だこと。166天地(てんち)の間(あひだ)に義理(ぎり)天上(てんじやう)日出(ひのでの)神(かみ)の生宮(いきみや)の名(な)を知(し)らぬものは一人(ひとり)も無(な)い筈(はず)だが、167矢張(やつぱり)身魂(みたま)の因縁(いんねん)がないと、168雷(かみなり)の様(やう)な声(こゑ)で呼(よ)ばつても耳(みみ)に這入(はい)らぬと見(み)えるわい。169さア此処(ここ)で会(あ)ふたを幸(さいは)ひ、170高姫(たかひめ)の姿(すがた)を拝見(はいけん)しお声(こゑ)をよく聞(き)いておきなさい。171決(けつ)して高姫(たかひめ)が云(い)ふのぢやありませぬぞや。172底津(そこつ)磐根(いはね)の根本(こつぽん)の大弥勒(おほみろく)様(さま)が仰有(おつしや)るのだから仇(あだ)に聞(き)いては罰(ばち)が当(あた)りますぞえ』
173ヘル『何(なん)だか知(し)りませぬが、174貴方(あなた)のお声(こゑ)を聞(き)くと頭(あたま)が痛(いた)くなりますわ。175お顔(かほ)を見(み)ても気分(きぶん)がよく厶(ござ)いませぬわい』
176高姫(たかひめ)『そら、177さうだらう。178霊国(れいごく)天国(てんごく)を兼(か)ねた天人(てんにん)の身魂(みたま)だから、179身魂(みたま)の曇(くも)つた悪(あく)の守護神(しゆごじん)は高姫(たかひめ)の光明(くわうみやう)に照(て)らされて、180目(め)が眩(くら)み善言(ぜんげん)美詞(びし)の言霊(ことたま)にあてられて、181耳(みみ)が鳴(な)り頭(あたま)が痛(いた)むのだよ。182チツと確(しつか)りしなさらんか。183今(いま)ここで取違(とりちが)ひしたら、184万劫(まんごふ)末代(まつだい)浮(うか)ばれませぬぞや』
185ヘル『ヘイヘイ、186畏(かしこ)まりました。187又(また)御縁(ごえん)が厶(ござ)いましたらお世話(せわ)になりやせう』
188高姫(たかひめ)『ホホホホホ訳(わけ)の分(わか)らぬ癲狂(てんきやう)痴呆(ちはう)だこと。189あああ大慈(だいじ)大悲(だいひ)の根本(こつぽん)の大弥勒(おほみろく)さまも、190こんな没分暁漢(わからずや)を済度(さいど)なさらなならぬのか、191ホンにおいとしいわいのう、192オーンオーンオーン、193然(しか)し乍(なが)ら此(この)男(をとこ)はヘルとか聞(き)いたが、194余程(よほど)馬鹿(ばか)な奴(やつ)と見(み)える。195おい、196そこに居(ゐ)る、197も一人(ひとり)の男(をとこ)、198お前(まへ)は高姫(たかひめ)の名(な)位(ぐらゐ)は聞(き)いてゐるだらうな』
199シャル『ハイ、200聞(き)いて居(を)りますが、201私(わたし)の聞(き)いてる高姫(たかひめ)は貴女(あなた)では厶(ござ)いますまい。202世界(せかい)に同(おな)じ名(な)は沢山(たくさん)厶(ござ)いますからな』
203高姫(たかひめ)『お前(まへ)の聞(き)いてる高姫(たかひめ)と云(い)ふのは如何(どん)な性質(せいしつ)の人(ひと)だ。204一寸(ちよつと)云(い)つて御覧(ごらん)なさい』
205シャル『ヘイ、206吾々(われわれ)の親方(おやかた)にして宜(よ)い様(やう)なお方(かた)ですわ。207何(なん)でも三五教(あななひけう)とやらに這入(はい)つて金剛(こんがう)不壊(ふゑ)の如意(によい)宝珠(ほつしゆ)に現(うつつ)を抜(ぬ)かし大勢(おほぜい)の者(もの)に嫌(きら)はれ、208屁(へ)の出(で)の神(かみ)とか糞出(くそで)の神(かみ)とか云(い)つて自(みづか)ら触(ふ)れ歩(ある)き、209終(しま)ひの果(はて)には婆(ばば)の癖(くせ)に恋(こひ)に落(お)ち、210妖幻坊(えうげんばう)と云(い)ふ古狸(ふるだぬき)につままれて何処(どこ)かへ攫(さら)はれて行(い)つたと云(い)ふ事(こと)です。211その高姫(たかひめ)なら聞(き)いてゐますが随分(ずゐぶん)私(わたし)の村(むら)では悪(わる)い婆(ばば)だと云(い)ふ評判(ひやうばん)が立(た)つて居(を)りますよ』
212高姫(たかひめ)『さうかな。213矢張(やつぱり)妾(わし)の名(な)に似(に)た婆(ばば)があると見(み)えるワイ。214余(あんま)り妾(わし)の名(な)が高(たか)いものだから悪神(あくがみ)が現(あら)はれて高姫(たかひめ)の名(な)を騙(かた)り、215三五教(あななひけう)へ這入(はい)つて、216又(また)もや日出(ひのでの)神(かみ)の名(な)を騙(かた)り、217色々(いろいろ)の事(こと)を致(いた)したのだらう。218どうも油断(ゆだん)のならぬ時節(じせつ)だ。219然(しか)し妾(わし)は同(おな)じ高姫(たかひめ)でも、220そんな者(もの)とは違(ちが)ひますぞや。221月(つき)と鼈(すつぽん)、222雪(ゆき)と墨(すみ)、223同(おな)じものと見(み)られましては……ヘン……此(この)高姫(たかひめ)も根(ね)つから引合(ひきあ)ひませんわい。224オホホホホホ』
225シャル『私(わたし)は今(いま)は斯(か)うして泥坊(どろばう)商売(しやうばい)に変(かは)りましたが、226今(いま)迄(まで)はバラモン教(けう)の軍人(ぐんじん)で鬼春別(おにはるわけ)の部下(ぶか)に仕(つか)へたものです。227その時(とき)に三五教(あななひけう)の幹部(かんぶ)連(れん)の人相書(にんさうがき)や絵姿(ゑすがた)が廻(まは)つて来(き)ましたが、228妖幻坊(えうげんばう)に騙(だま)されたと云(い)ふ高姫(たかひめ)に、229お前(まへ)さまそつくりですよ。230よもや其(その)高姫(たかひめ)では厶(ござ)いますまいな。231彼奴(あいつ)の云(い)ふ事(こと)なら口(くち)と心(こころ)が裏表(うらおもて)だから決(けつ)して聞(き)いてはならないと、232バラモン教(けう)は云(い)ふに及(およ)ばず三五教(あななひけう)のピユリタンでさへも云(い)つて居(ゐ)ますよ』
233高姫(たかひめ)『ホホホホホ、234盗人(ぬすびと)の分際(ぶんざい)として高姫(たかひめ)の真偽(しんぎ)が判(わか)つて堪(たま)らうか。235あの高姫(たかひめ)と云(い)ふ奴(やつ)は実(じつ)の所(ところ)はバラモン教(けう)に居(を)つた蜈蚣姫(むかでひめ)と云(い)ふのだよ。236それが妾(わし)の名(な)を騙(かた)つて、237あんな事(こと)をやつたのだ。238三五教(あななひけう)の奴(やつ)は馬鹿(ばか)だから、239あまり御光(ごくわう)が強(つよ)いので見分(みわ)けがつかず贋者(にせもの)を掴(つか)んで居(を)つたのだ。240何(なに)は兎(と)もあれ、241この高姫(たかひめ)の隠(かく)れ家(が)迄(まで)いらつしやい。242決(けつ)して利益(ため)にならぬ事(こと)は云(い)はぬ。243皆(みんな)天国(てんごく)へ助(たす)けてやるのだからな』
244シャル『オイ、245ヘルにケリナに、246六公(ろくこう)、247如何(どう)しようかな。248一(ひと)つ此(この)婆(ばば)アの話(はなし)を聞(き)いてやらうか』
249六造(ろくざう)『うん』
250高姫(たかひめ)『エー、251そりや何(なに)を云(い)ふのだ。252此(この)婆(ばば)の話(はなし)を聞(き)いてやらうも、253糞(くそ)もあつたものかい。254底津(そこつ)磐根(いはね)の弥勒(みろく)様(さま)の生宮(いきみや)だ。255何(なん)と云(い)つても助(たす)けにや措(を)かぬ、256さア来(き)なされ来(き)なされ。257これ、258其処(そこ)な若(わか)いお女中(ぢよちう)、259お前(まへ)は一寸(ちよつと)見(み)た所(とこ)で仲々(なかなか)気(き)が利(き)いて居(ゐ)る。260事(こと)と品(しな)とによつたら妾(わし)の脇立(わきだち)に使(つか)つてやらうまいものでもない。261何(なに)せよ、262曇(くも)りきつた霊(みたま)が直(すぐ)に天国(てんごく)に行(ゆ)くと云(い)ふのは余(あんま)り気(き)が良(よ)すぎる。263中途(ちうと)で墜落(おち)る様(やう)な事(こと)をしてはならず、264苦労(くらう)の花(はな)が咲(さ)く世(よ)の中(なか)だから……天国(てんごく)紫微宮(しびきう)から人間(にんげん)の姿(すがた)となつて降(くだ)つて来(き)たのだ。265そして苦労(くらう)の手本(てほん)を見(み)せて皆(みな)に改心(かいしん)させる役(やく)だぞえ。266お前(まへ)も出(で)て来(き)て苦労(くらう)をしなさい』
267ケリナ『ハイ、268有難(ありがた)う厶(ござ)います。269実(じつ)の所(ところ)は八衢(やちまた)の関所(せきしよ)迄(まで)参(まゐ)りました所(ところ)、270まだ生命(いのち)が現世(げんせ)に残(のこ)つて居(を)るから帰(かへ)れ、271と仰有(おつしや)つたから帰(かへ)つて来(き)たのです。272最早(もはや)此処(ここ)は現界(げんかい)で厶(ござ)いますか』
273高姫(たかひめ)『きまつた事(こと)だよ。274此処(ここ)は現界(げんかい)も現界(げんかい)、275大現界(おほげんかい)だ。276現幽神(げんいうしん)三界(さんかい)の救(すく)ひ主(ぬし)だから先(ま)づ現界(げんかい)の人間(にんげん)から助(たす)けてやるのだよ』
277ヘル『あああ、278何(なに)が何(なん)だか訳(わけ)が分(わか)らなくなつて来(き)た。279然(しか)しさう聞(き)くと現界(げんかい)の様(やう)にもあるし、280も一(ひと)つ心(こころ)の底(そこ)に疑念(ぎねん)も残(のこ)つて居(ゐ)る。281こんな道端(みちばた)に立(た)つて居(ゐ)た所(ところ)が仕方(しかた)が無(な)い。282先(ま)づお婆(ば)アの後(あと)に跟(つ)いて何(なん)でも可(い)いから探(さぐ)らして貰(もら)ふ事(こと)にしようかい。283のう二男(になん)一女(いちによ)の御(ご)連中(れんちう)』
284高姫(たかひめ)『探(さぐ)らして貰(もら)ふなんて、285そりや何(なに)を云(い)ふのだい。286神(かみ)の教(をしへ)は正真(しやうじき)一方(いつぱう)だ。287水晶(すいしやう)の様(やう)につきぬけて居(を)るのだぞえ。288スパイか何(なん)ぞの様(やう)に探(さぐ)るなんて、289心(こころ)の穢(きたな)い事(こと)を云(い)ふのぢやありませぬわい。290さアさア来(き)なさい』
291と羽(は)ばたきし乍(なが)ら欣々(いそいそ)と東(ひがし)を指(さ)して小径(こみち)を歩(あゆ)み出(だ)した。292四(よ)人(にん)は兎(と)も角(かく)、293婆(ばあ)さまの館(やかた)に行(い)つて休息(きうそく)せむと重(おも)い足(あし)を引摺(ひきず)り乍(なが)ら跟(つ)いて行(ゆ)く。
294 谷川(たにがは)の辺(ほとり)に萱(かや)で葺(ふ)いた二間作(ふたまづく)りの小(ささや)かな家(いへ)が建(た)つて居(ゐ)た。295これが高姫(たかひめ)の中有界(ちううかい)に於(お)ける住家(すみか)である。296ヒヨヒヨした板(いた)の一枚橋(いちまいばし)を危(あやふ)く渡(わた)り乍(なが)ら漸(やうや)くにして四(よ)人(にん)は高姫(たかひめ)の館(やかた)にやつと着(つ)いた。
297(大正一二・三・一四 旧一・二七 於竜宮館 北村隆光録)
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