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霊界物語
真善美愛(第49~60巻)
第56巻(未の巻)
序文
総説
第1篇 自愛之柵
第1章 神慮
第2章 恋淵
第3章 仇花
第4章 盗歌
第5章 鷹魅
第2篇 宿縁妄執
第6章 高圧
第7章 高鳴
第8章 愛米
第9章 我執
第3篇 月照荒野
第10章 十字
第11章 惚泥
第12章 照門颪
第13章 不動滝
第14章 方岩
第4篇 三五開道
第15章 猫背
第16章 不臣
第17章 強請
第18章 寛恕
第19章 痴漢
第20章 犬嘘
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(B)
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不臣 >>>
第一五章
猫背
(
ねこぜ
)
〔一四四五〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第56巻 真善美愛 未の巻
篇:
第4篇 三五開道
よみ(新仮名遣い):
あなないかいどう
章:
第15章 猫背
よみ(新仮名遣い):
ねこぜ
通し章番号:
1445
口述日:
1923(大正12)年03月17日(旧02月1日)
口述場所:
竜宮館
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年5月3日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
玉国別の一行は、ライオン河を渡るやバラモン軍の残党に襲われ、伊太彦は槍に刺されて傷を負い生死のほどもわからなくなり、玉国別と真純彦もどこに行ったかわからなくなってしまった。三千彦は一人先に進み、テルモン山のアン・ブラック川までやってきた。
三千彦は師や仲間たちの無事を神様に祈っている。このときにわかに強い川風が吹いて、堤の上にいた三千彦は泥田の中に転げ込んでしまった。泥にはまって苦しむ三千彦を、霊犬スマートが救い上げた。これは初稚姫が三千彦の難儀を前知して、救援に向かわせたのであった。
三千彦の着物にはヒルが喰いついてはなれない。困っていると、スマートがバラモン教の宣伝使服をくわえてきた。三千彦はこれも神様の思し召しだろうと、服を着てバラモン教の宣伝使の格好になった。スマートはすでにはるか遠くの山を駆け上って行ってしまった。
三千彦はバラモンの経文を唱えながら進んで行く。するとテルモン山の神館を守る小国別の妻・小国姫と名乗る老婆の一行に出会った。小国姫は三千彦を館に招いた。
名を尋ねられた三千彦は、自分は鬼春別の軍に同行していた従軍宣伝使であったが、鬼春別敗北よりここまで逃げてきたと身の上を語り、とっさに名前を川から取ってアン・ブラックと名乗った。
小国姫は、アン・ブラック川の岸辺に行けば自分を助けてくれる真人に会える、という夢のお告げがあったことを語り、川と同じ名前の宣伝使に会えたことを喜んだ。
三千彦の背中にはいつのまにか、ブクブクとしたこぶができて猫背のようになっていた。案内されて館に入ると、いつの間にか猫背は元のとおりに直っていた。これはスマートの霊が三千彦を無事に館内に送り、かつその身辺を守るためであった。スマートは館の床下に隠れて守っている。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm5615
愛善世界社版:
219頁
八幡書店版:
第10輯 227頁
修補版:
校定版:
231頁
普及版:
104頁
初版:
ページ備考:
001
三千彦
(
みちひこ
)
『
厳
(
いづ
)
の
御霊
(
みたま
)
と
現
(
あ
)
れませる
002
高皇
(
たかみ
)
産霊
(
むすび
)
の
大御神
(
おほみかみ
)
003
瑞
(
みづ
)
の
御霊
(
みたま
)
と
現
(
あ
)
れませる
004
神皇
(
かむみ
)
産霊
(
むすび
)
の
大御神
(
おほみかみ
)
005
珍
(
うづ
)
の
御水火
(
みいき
)
に
現
(
あ
)
れませる
006
三五教
(
あななひけう
)
の
大神
(
おほかみ
)
は
007
埴安彦
(
はにやすひこ
)
や
埴安姫
(
はにやすひめ
)
の
008
神
(
かみ
)
の
命
(
みこと
)
を
世
(
よ
)
に
降
(
くだ
)
し
009
天地
(
あめつち
)
百
(
もも
)
の
神人
(
しんじん
)
の
010
霊
(
みたま
)
を
浄
(
きよ
)
め
天国
(
てんごく
)
の
011
清
(
きよ
)
き
聖場
(
せいぢやう
)
に
救
(
すく
)
はむと
012
心
(
こころ
)
を
配
(
くば
)
らせ
玉
(
たま
)
ひつつ
013
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのを
)
の
大神
(
おほかみ
)
に
014
其
(
その
)
神業
(
しんげふ
)
を
任
(
ま
)
け
玉
(
たま
)
ひ
015
茲
(
ここ
)
に
瑞
(
みづ
)
の
大神
(
おほかみ
)
は
016
神漏岐
(
かむろぎ
)
神漏美
(
かむろみ
)
二柱
(
ふたはしら
)
017
神
(
かみ
)
の
御言
(
みこと
)
を
天地
(
あめつち
)
に
018
麻柱
(
あななひ
)
奉
(
まつ
)
り
常暗
(
とこやみ
)
の
019
世
(
よ
)
を
平
(
たひら
)
けく
安
(
やす
)
らけく
020
治
(
をさ
)
めて
松
(
まつ
)
の
御世
(
みよ
)
となし
021
日出
(
ひので
)
の
守護
(
しゆご
)
に
復
(
かへ
)
さむと
022
百
(
もも
)
の
司
(
つかさ
)
を
養成
(
やうせい
)
し
023
豊葦原
(
とよあしはら
)
の
中津国
(
なかつくに
)
024
国
(
くに
)
の
八十国
(
やそくに
)
八十
(
やそ
)
の
島
(
しま
)
025
残
(
のこ
)
る
隈
(
くま
)
なく
巡
(
めぐ
)
らせて
026
天国
(
てんごく
)
浄土
(
じやうど
)
の
福音
(
ふくいん
)
を
027
拡充
(
かくじゆう
)
せしめ
玉
(
たま
)
ひけり
028
天足
(
あだる
)
の
彦
(
ひこ
)
や
胞場姫
(
えばひめ
)
の
029
曲
(
まが
)
のすさびにつけ
入
(
い
)
りて
030
此
(
この
)
世
(
よ
)
を
紊
(
みだ
)
す
曲津
(
まがつ
)
神
(
かみ
)
031
八岐
(
やまた
)
大蛇
(
をろち
)
や
醜狐
(
しこぎつね
)
032
曲鬼
(
まがおに
)
共
(
ども
)
は
天
(
あめ
)
の
下
(
した
)
033
治
(
をさ
)
むる
国
(
くに
)
の
司人
(
つかさびと
)
034
其
(
その
)
外
(
ほか
)
百
(
もも
)
の
人々
(
ひとびと
)
に
035
憑
(
うつ
)
りて
所在
(
あらゆる
)
曲
(
まが
)
わざを
036
縦横
(
じうわう
)
無尽
(
むじん
)
に
敢行
(
かんかう
)
し
037
日
(
ひ
)
に
夜
(
よ
)
に
世界
(
せかい
)
を
汚
(
けが
)
し
行
(
ゆ
)
く
038
醜
(
しこ
)
のすさびぞうたてけれ
039
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
040
玉国別
(
たまくにわけ
)
の
弟子
(
でし
)
となり
041
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
を
四方
(
よも
)
の
国
(
くに
)
042
伝
(
つた
)
へむものと
真心
(
まごころ
)
の
043
思
(
おも
)
ひは
胸
(
むね
)
に
三千彦
(
みちひこ
)
が
044
ライオン
河
(
がは
)
を
渡
(
わた
)
りてゆ
045
広野
(
ひろの
)
の
中
(
なか
)
に
日
(
ひ
)
をくらし
046
やむなく
眠
(
ねむ
)
る
露
(
つゆ
)
の
宿
(
やど
)
047
暗路
(
やみぢ
)
を
辿
(
たど
)
る
折柄
(
をりから
)
に
048
バラモン
教
(
けう
)
の
落武者
(
おちむしや
)
が
049
幾百
(
いくひやく
)
人
(
にん
)
とも
限
(
かぎ
)
りなく
050
手
(
て
)
に
手
(
て
)
に
兇器
(
きやうき
)
を
携
(
たづさ
)
へて
051
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
052
鏖殺
(
あうさつ
)
せむといきり
立
(
た
)
ち
053
吾
(
わが
)
一行
(
いつかう
)
の
身辺
(
しんぺん
)
を
054
十重
(
とへ
)
や
二十重
(
はたへ
)
に
取囲
(
とりかこ
)
み
055
剣
(
つるぎ
)
をかざし
石
(
いし
)
を
投
(
な
)
げ
056
勢
(
いきほひ
)
猛
(
たけ
)
く
攻
(
せ
)
め
来
(
きた
)
る
057
玉国別
(
たまくにわけ
)
の
師
(
し
)
の
君
(
きみ
)
や
058
真純
(
ますみ
)
の
彦
(
ひこ
)
は
言霊
(
ことたま
)
を
059
力
(
ちから
)
限
(
かぎ
)
りに
打出
(
うちだ
)
して
060
防戦
(
ばうせん
)
したる
折
(
をり
)
もあれ
061
敵
(
てき
)
の
突出
(
つきだ
)
す
槍先
(
やりさき
)
に
062
股
(
もも
)
をさされて
伊太彦
(
いたひこ
)
が
063
其
(
その
)
場
(
ば
)
にドツと
倒
(
たふ
)
れ
伏
(
ふ
)
す
064
見
(
み
)
るより
驚
(
おどろ
)
き
真純彦
(
ますみひこ
)
065
伊太彦
(
いたひこ
)
小脇
(
こわき
)
にかい
込
(
こ
)
んで
066
敵
(
てき
)
の
重囲
(
ぢうゐ
)
を
切
(
き
)
りぬけつ
067
何処
(
いづこ
)
ともなく
逃
(
に
)
げ
行
(
ゆ
)
きぬ
068
吾
(
わが
)
師
(
し
)
の
君
(
きみ
)
も
大勢
(
おほぜい
)
に
069
取囲
(
とりかこ
)
まれて
何処
(
どこ
)
となく
070
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
し
玉
(
たま
)
ひける
071
後
(
あと
)
に
残
(
のこ
)
りし
三千彦
(
みちひこ
)
は
072
俄
(
にはか
)
に
言霊
(
ことたま
)
渋
(
しぶ
)
りきて
073
詮術
(
せんすべ
)
もなき
悲
(
かな
)
しさに
074
命
(
いのち
)
カラガラ
囲
(
かこみ
)
をば
075
突破
(
とつぱ
)
し
乍
(
なが
)
ら
漸
(
やうや
)
くに
076
吾
(
わが
)
師
(
し
)
の
跡
(
あと
)
を
尋
(
たづ
)
ねつつ
077
此処
(
ここ
)
迄
(
まで
)
進
(
すす
)
み
来
(
きた
)
りけり
078
ああ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
079
尊
(
たふと
)
き
神
(
かみ
)
の
御
(
おん
)
守
(
まもり
)
080
吾
(
わが
)
師
(
し
)
の
上
(
うへ
)
に
顕
(
あ
)
れまして
081
神
(
かみ
)
に
受
(
う
)
けたる
使命
(
しめい
)
をば
082
完全
(
うまら
)
に
委曲
(
つばら
)
に
果
(
はた
)
すべく
083
恵
(
めぐみ
)
の
露
(
つゆ
)
を
賜
(
たま
)
へかし
084
真純
(
ますみ
)
の
彦
(
ひこ
)
は
今
(
いま
)
何処
(
いづこ
)
085
伊太彦
(
いたひこ
)
司
(
つかさ
)
の
槍創
(
やりきづ
)
は
086
最早
(
もはや
)
癒
(
い
)
えしか
或
(
あるひ
)
は
又
(
また
)
087
深手
(
ふかで
)
に
悩
(
なや
)
み
山奥
(
やまおく
)
に
088
隠
(
かく
)
れて
病
(
やまひ
)
を
養
(
やしな
)
ふか
089
聞
(
き
)
かまほしやと
思
(
おも
)
へども
090
曇
(
くも
)
りし
霊
(
たま
)
の
吾々
(
われわれ
)
は
091
神
(
かみ
)
に
伺
(
うかが
)
ふ
由
(
よし
)
もなく
092
道
(
みち
)
の
行手
(
ゆくて
)
を
気遣
(
きづか
)
ひつ
093
バラモン
教
(
けう
)
の
籠
(
こ
)
もりたる
094
テルモン
山
(
ざん
)
の
近
(
ちか
)
く
迄
(
まで
)
095
知
(
し
)
らず
知
(
し
)
らずに
着
(
つ
)
きにけり
096
油断
(
ゆだん
)
のならぬ
敵
(
てき
)
の
前
(
まへ
)
097
企
(
たく
)
みの
穴
(
あな
)
の
陥穽
(
おとしあな
)
098
数多
(
あまた
)
拵
(
こしら
)
へ
三五
(
あななひ
)
の
099
教司
(
をしへつかさ
)
の
来
(
きた
)
るをば
100
手具脛
(
てぐすね
)
ひいて
待
(
ま
)
つと
聞
(
き
)
く
101
ああ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
102
尊
(
たふと
)
き
神
(
かみ
)
の
御
(
おん
)
前
(
まへ
)
に
103
吾
(
わが
)
師
(
し
)
の
君
(
きみ
)
を
始
(
はじ
)
めとし
104
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
一行
(
いつかう
)
の
幸運
(
かううん
)
を
105
謹
(
つつし
)
み
敬
(
うやま
)
ひ
願
(
ね
)
ぎまつる』
106
と
密々
(
ひそびそ
)
唄
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
107
テルモン
山
(
ざん
)
より
流
(
なが
)
れ
落
(
お
)
つるアン・ブラツク
河
(
がは
)
の
川辺
(
かはべり
)
に
着
(
つ
)
いた。
108
頃
(
ころ
)
しも
夏
(
なつ
)
の
半
(
なかば
)
にて
半
(
はん
)
円
(
ゑん
)
の
月
(
つき
)
は
西天
(
せいてん
)
にかかり、
109
利鎌
(
とがま
)
のやうな
鋭
(
するど
)
い
光
(
ひかり
)
を
投
(
な
)
げてゐる。
110
三千彦
(
みちひこ
)
は
日
(
ひ
)
の
暮
(
く
)
れたのを
幸
(
さいはひ
)
、
111
川堤
(
かはどて
)
に
腰
(
こし
)
をおろし、
112
小声
(
こごゑ
)
になつて
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し、
113
終
(
をは
)
つて
独
(
ひと
)
り
言
(
ごと
)
、
114
三千
(
みち
)
『ああ、
115
水
(
みづ
)
の
流
(
なが
)
れと
人
(
ひと
)
の
行末
(
ゆくすゑ
)
、
116
変
(
かは
)
れば
変
(
かは
)
るものだなア。
117
玉国別
(
たまくにわけ
)
の
師
(
し
)
の
君
(
きみ
)
のお
伴
(
とも
)
をなし、
118
去年
(
きよねん
)
の
冬
(
ふゆ
)
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
を
立出
(
たちい
)
でてより、
119
浮
(
うき
)
つ
沈
(
しづ
)
みつ、
120
種々
(
いろいろ
)
雑多
(
ざつた
)
の
艱難
(
かんなん
)
苦労
(
くらう
)
、
121
其
(
その
)
中
(
うち
)
にも
吾
(
わが
)
師
(
し
)
の
君
(
きみ
)
は、
122
懐谷
(
ふところだに
)
に
於
(
おい
)
て
猿
(
さる
)
に
眼
(
め
)
を
破
(
やぶ
)
られ
玉
(
たま
)
ひ、
123
止
(
や
)
むを
得
(
え
)
ず
祠
(
ほこら
)
の
森
(
もり
)
に
立
(
た
)
て
籠
(
こも
)
り、
124
御
(
ご
)
神勅
(
しんちよく
)
のまにまに、
125
祠
(
ほこら
)
の
宮
(
みや
)
を
建設
(
けんせつ
)
遊
(
あそ
)
ばし、
126
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
弟子
(
でし
)
と
共
(
とも
)
に
潔
(
いさぎよ
)
く
月
(
つき
)
の
国
(
くに
)
ハルナの
都
(
みやこ
)
へ、
127
神
(
かみ
)
の
依
(
よ
)
さしのメツセージを
果
(
は
)
たさむと、
128
勇
(
いさ
)
み
進
(
すす
)
んで
来
(
きた
)
る
折
(
をり
)
しも
俄
(
にはか
)
の
雨
(
あめ
)
にライオン
河
(
がは
)
の
大激流
(
だいげきりう
)
、
129
目
(
め
)
も
届
(
とど
)
かぬ
許
(
ばか
)
りの
川巾
(
かははば
)
を
水馬
(
すゐば
)
に
跨
(
またが
)
り、
130
命
(
いのち
)
カラガラ
此方
(
こちら
)
へ
渡
(
わた
)
り、
131
日
(
ひ
)
を
暮
(
く
)
らして、
132
広野
(
ひろの
)
の
中
(
なか
)
に
一夜
(
いちや
)
を
眠
(
ねむ
)
る
時
(
とき
)
しも、
133
バラモン
教
(
けう
)
の
残党
(
ざんたう
)
数多
(
あまた
)
襲
(
おそ
)
ひ
来
(
きた
)
り、
134
吾
(
わが
)
友
(
とも
)
の
伊太彦
(
いたひこ
)
は
敵
(
てき
)
の
鋭
(
するど
)
き
手槍
(
てやり
)
に
刺
(
さ
)
され、
135
生死
(
せいし
)
の
程
(
ほど
)
もさだかならず、
136
師
(
し
)
の
君
(
きみ
)
を
初
(
はじ
)
め
真純彦
(
ますみひこ
)
は
今
(
いま
)
何処
(
どこ
)
へ
行
(
ゆ
)
かれたか、
137
何
(
なん
)
の
便
(
たよ
)
りも
夏
(
なつ
)
の
夜
(
よ
)
の、
138
月
(
つき
)
に
向
(
むか
)
つてなく
涙
(
なみだ
)
、
139
乾
(
かわ
)
く
由
(
よし
)
なき
袖
(
そで
)
の
露
(
つゆ
)
、
140
憐
(
あは
)
れみ
給
(
たま
)
へ
月照彦
(
つきてるひこ
)
の
神
(
かみ
)
』
141
と
述懐
(
じゆつくわい
)
を
述
(
の
)
べ、
142
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
祈
(
いの
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
143
三千彦
(
みちひこ
)
は
漸
(
やうや
)
くにして、
144
川
(
かは
)
の
堤
(
つつみ
)
の
青草
(
あをぐさ
)
の
上
(
うへ
)
に
眠
(
ねむり
)
に
就
(
つ
)
いた。
145
沢山
(
たくさん
)
の
蚊
(
か
)
が
人間
(
にんげん
)
の
匂
(
にほ
)
ひを
嗅
(
か
)
ぎつけて、
146
珍
(
めづ
)
らしげに
集
(
あつ
)
まり
来
(
きた
)
り、
147
ワンワンワンと
厭
(
いや
)
らしい
声
(
こゑ
)
を
立
(
た
)
て、
148
三千彦
(
みちひこ
)
の
体
(
からだ
)
一面
(
いちめん
)
に
折重
(
をりかさ
)
なつて
喰
(
くら
)
ひついてゐる。
149
此
(
この
)
時
(
とき
)
俄
(
にはか
)
にレコード
破
(
やぶ
)
りの
川風
(
かはかぜ
)
吹
(
ふ
)
き
来
(
きた
)
り、
150
堤上
(
ていじやう
)
に
眠
(
ねむ
)
つてゐた
三千彦
(
みちひこ
)
の
体
(
からだ
)
を
鞠
(
まり
)
の
如
(
ごと
)
く
転
(
ころ
)
がして、
151
あたりの
泥田
(
どろた
)
の
中
(
なか
)
へ
吹
(
ふ
)
き
込
(
こ
)
んで
了
(
しま
)
つた。
152
三千彦
(
みちひこ
)
は
驚
(
おどろ
)
いて
立
(
た
)
ち
上
(
あが
)
らうとすれ
共
(
ども
)
、
153
泥
(
どろ
)
深
(
ふか
)
くして
腰
(
こし
)
のあたりまで
体
(
からだ
)
がにえこみ、
154
何
(
ど
)
うする
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
ず、
155
チクチクと
身
(
み
)
は
泥田
(
どろた
)
に
没
(
ぼつ
)
し、
156
最早
(
もはや
)
首
(
くび
)
丈
(
だけ
)
になつて
了
(
しま
)
つた。
157
此
(
この
)
儘
(
まま
)
にしておけば
全身
(
ぜんしん
)
泥
(
どろ
)
に
没
(
ぼつ
)
し、
158
三千彦
(
みちひこ
)
の
生命
(
せいめい
)
は
既
(
すで
)
に
嵐
(
あらし
)
の
前
(
まへ
)
に
灯火
(
ともしび
)
の
如
(
ごと
)
き
運命
(
うんめい
)
に
陥
(
おちい
)
つて
了
(
しま
)
つた。
159
三千彦
(
みちひこ
)
は
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し、
160
せめて
肉体
(
にくたい
)
は
泥田
(
どろた
)
の
中
(
なか
)
に
埋
(
うづ
)
めて
死
(
し
)
す
共
(
とも
)
、
161
吾
(
わが
)
精霊
(
せいれい
)
を
天国
(
てんごく
)
に
救
(
すく
)
はせ
玉
(
たま
)
へと、
162
声
(
こゑ
)
を
限
(
かぎ
)
りに
祈
(
いの
)
つてゐる。
163
斯
(
か
)
かる
所
(
ところ
)
へ
黒
(
くろ
)
い
四
(
よ
)
つ
足
(
あし
)
の
影
(
かげ
)
、
164
何処
(
いづく
)
ともなく
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
165
三千彦
(
みちひこ
)
の
体
(
からだ
)
の
囲
(
まわり
)
の
泥土
(
どろ
)
をかきのけ、
166
泥
(
どろ
)
のついた
着物
(
きもの
)
を
喰
(
く
)
わへて、
167
自分
(
じぶん
)
も
亦
(
また
)
体
(
からだ
)
を
半分
(
はんぶん
)
以上
(
いじやう
)
泥土
(
どろ
)
に
没
(
ぼつ
)
し
乍
(
なが
)
ら、
168
漸
(
やうや
)
く
堤
(
どて
)
の
上
(
うへ
)
に
救
(
すく
)
ひ
上
(
あ
)
げた。
169
三千彦
(
みちひこ
)
は
如何
(
いか
)
なる
獣
(
けもの
)
か
知
(
し
)
らね
共
(
ども
)
、
170
自分
(
じぶん
)
を
助
(
たす
)
けてくれたのは、
171
全
(
まつた
)
く
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
使
(
つかひ
)
に
違
(
ちが
)
ひあるまいと、
172
双手
(
もろて
)
を
合
(
あは
)
せて、
173
黒
(
くろ
)
い
獣
(
けもの
)
を
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
拝
(
をが
)
み、
174
泥
(
どろ
)
だらけの
着物
(
きもの
)
を
着
(
つ
)
けたまま
川
(
かは
)
の
浅瀬
(
あさせ
)
に
飛入
(
とびい
)
り、
175
ソロソロ
洗濯
(
せんたく
)
を
始
(
はじ
)
め
出
(
だ
)
した。
176
黒
(
くろ
)
い
影
(
かげ
)
の
獣
(
けだもの
)
は
復
(
また
)
川中
(
かはなか
)
にバサバサと
飛込
(
とびこ
)
み、
177
自分
(
じぶん
)
の
体
(
からだ
)
を
洗
(
あら
)
つてゐる。
178
三千彦
(
みちひこ
)
はザツと
衣類
(
いるゐ
)
の
洗濯
(
せんたく
)
をなし、
179
夏
(
なつ
)
の
事
(
こと
)
とて、
180
白
(
しろ
)
く
焼
(
や
)
けた
河原
(
かはら
)
の
砂利
(
じやり
)
の
上
(
うへ
)
に
着物
(
きもの
)
を
干
(
ほ
)
し、
181
自分
(
じぶん
)
は
蚊
(
か
)
を
防
(
ふせ
)
ぐ
為
(
ため
)
に、
182
全身
(
ぜんしん
)
を
水
(
みづ
)
に
浸
(
つ
)
けて
夜
(
よ
)
を
明
(
あ
)
かすこととなつた。
183
獣
(
けだもの
)
の
影
(
かげ
)
は
何時
(
いつ
)
しか
見
(
み
)
えなくなつてゐる。
184
夏
(
なつ
)
の
一夜
(
ひとよ
)
を
漸
(
やうや
)
く
明
(
あ
)
かし、
185
能
(
よ
)
く
能
(
よ
)
く
自分
(
じぶん
)
の
衣類
(
いるゐ
)
を
見
(
み
)
れば、
186
着物
(
きもの
)
一面
(
いちめん
)
に
毛
(
け
)
の
生
(
は
)
えた
如
(
ごと
)
く、
187
厭
(
いや
)
らしい
蛭
(
ひる
)
が
喰付
(
くつつ
)
いて
居
(
ゐ
)
る。
188
粘着性
(
ねんちやくせい
)
の
強
(
つよ
)
い
蛭
(
ひる
)
で
容易
(
ようい
)
におちない、
189
手
(
て
)
を
以
(
もつ
)
て
落
(
お
)
とさうとすれば
手
(
て
)
に
喰付
(
くひつ
)
き、
190
どこ
迄
(
まで
)
も
離
(
はな
)
れてくれぬ。
191
『エー
一層
(
いつそう
)
の
事
(
こと
)
、
192
此
(
この
)
着物
(
きもの
)
は
川
(
かは
)
へ
棄
(
す
)
て、
193
裸
(
はだか
)
の
道中
(
だうちう
)
で、
194
行
(
ゆ
)
く
所
(
ところ
)
迄
(
まで
)
行
(
い
)
つてやらうか』と
思案
(
しあん
)
を
定
(
さだ
)
めてみたり、
195
『いやいや
待
(
ま
)
て
待
(
ま
)
て、
196
夜分
(
やぶん
)
になれば、
197
又
(
また
)
蚊
(
か
)
の
襲撃
(
しふげき
)
を
防
(
ふせ
)
ぐ
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ぬ、
198
ぢやと
云
(
い
)
つてこれ
丈
(
だけ
)
沢山
(
たくさん
)
の
蛭
(
ひる
)
のついた
着物
(
きもの
)
を
身
(
み
)
につけば
又
(
また
)
血
(
ち
)
を
吸
(
す
)
はれる、
199
ハテどうしたらよからうか』と
身
(
み
)
の
不遇
(
ふぐう
)
を
嘆
(
なげ
)
き、
200
再
(
ふたた
)
び
堤
(
どて
)
に
上
(
のぼ
)
つて、
201
涙
(
なみだ
)
にくれてゐた。
202
遙
(
はるか
)
向方
(
むかふ
)
の
方
(
かた
)
より
夜前
(
やぜん
)
見
(
み
)
た
黒
(
くろ
)
い
獣
(
けもの
)
が
矢
(
や
)
を
射
(
い
)
る
如
(
ごと
)
く
此方
(
こちら
)
に
向
(
むか
)
つて
走
(
はし
)
つてくる。
203
これは
初稚姫
(
はつわかひめ
)
が
三千彦
(
みちひこ
)
の
難儀
(
なんぎ
)
を
前知
(
ぜんち
)
して、
204
スマートに
言
(
い
)
ひ
含
(
ふく
)
め、
205
救援
(
きうゑん
)
に
向
(
むか
)
はしめ
玉
(
たま
)
うたのである。
206
スマートは、
207
立派
(
りつぱ
)
なバラモン
教
(
けう
)
宣伝使
(
せんでんし
)
の
服
(
ふく
)
を
喰
(
く
)
わへて
来
(
き
)
た。
208
そして
三千彦
(
みちひこ
)
の
前
(
まへ
)
に
二声
(
ふたこゑ
)
三声
(
みこゑ
)
、
209
ワンワンと
吠
(
ほえ
)
乍
(
なが
)
ら、
210
尾
(
を
)
を
振
(
ふ
)
つて、
211
之
(
これ
)
を
着
(
き
)
よとすすむる
如
(
ごと
)
き
形容
(
けいよう
)
を
示
(
しめ
)
した。
212
三千彦
(
みちひこ
)
は
感涙
(
かんるゐ
)
に
咽
(
むせ
)
び
乍
(
なが
)
ら、
213
三千
(
みち
)
『ああお
前
(
まへ
)
は
畜生
(
ちくしやう
)
にも
似
(
に
)
ず、
214
賢
(
かしこ
)
い
犬
(
いぬ
)
だなア、
215
よう
助
(
たす
)
けてくれた。
216
キツと
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
使
(
つかひ
)
に
違
(
ちが
)
ひなからう。
217
ついては
此
(
この
)
服
(
ふく
)
は
私
(
わたし
)
が
頂戴
(
ちやうだい
)
する。
218
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
らバラモン
教
(
けう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
服
(
ふく
)
だ。
219
之
(
これ
)
も
何
(
なに
)
か
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
深
(
ふか
)
い
思召
(
おぼしめし
)
があるだらう。
220
之
(
これ
)
を
幸
(
さいはひ
)
、
221
バラモン
教
(
けう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
と
化
(
ば
)
け
込
(
こ
)
んで、
222
此
(
この
)
テルモン
山
(
ざん
)
を
向方
(
むかう
)
へ
渉
(
わた
)
つてみようかなア』
223
と
独
(
ひとり
)
ごちつつ、
224
手早
(
てばや
)
く
服
(
ふく
)
を
身
(
み
)
に
纒
(
まと
)
うた。
225
フツと
足許
(
あしもと
)
を
見
(
み
)
れば、
226
最早
(
もはや
)
犬
(
いぬ
)
の
影
(
かげ
)
はなくなつてゐた。
227
遙
(
はるか
)
向方
(
むかう
)
の
禿山
(
はげやま
)
を
駆
(
か
)
け
登
(
のぼ
)
る
犬
(
いぬ
)
の
影
(
かげ
)
、
228
猫
(
ねこ
)
ほどに
見
(
み
)
えてゐる。
229
三千彦
(
みちひこ
)
は
浅瀬
(
あさせ
)
を
渡
(
わた
)
つて
西岸
(
せいがん
)
へ
着
(
つ
)
き、
230
ワザとバラモンの
宣伝使
(
せんでんし
)
気取
(
きどり
)
になつて、
231
経文
(
きやうもん
)
を
唱
(
とな
)
へ
乍
(
なが
)
ら
進
(
すす
)
んで
行
(
ゆ
)
く。
232
六十
(
ろくじふ
)
許
(
ばか
)
りの
白髪交
(
しらがまじ
)
りの
婆々
(
ばば
)
アが
二人
(
ふたり
)
の
侍女
(
じぢよ
)
を
伴
(
ともな
)
ひ、
233
杖
(
つゑ
)
をつき
乍
(
なが
)
ら
此方
(
こちら
)
に
向
(
むか
)
つて
進
(
すす
)
み
来
(
く
)
る。
234
三千彦
(
みちひこ
)
は
道
(
みち
)
の
片方
(
かたへ
)
に
立止
(
たちと
)
まり、
235
『ハテ
不思議
(
ふしぎ
)
な
婆々
(
ばば
)
アだ。
236
毘舎
(
びしや
)
や
首陀
(
しゆだ
)
とは
違
(
ちが
)
つて、
237
どこ
共
(
とも
)
なしに
気高
(
けだか
)
い
所
(
ところ
)
がある。
238
之
(
これ
)
は
大方
(
おほかた
)
小国別
(
をくにわけ
)
の
奥方
(
おくがた
)
ではあるまいか』と
独
(
ひとり
)
ごちつつゐる
所
(
ところ
)
へ
早
(
はや
)
くも
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
近
(
ちか
)
づき
来
(
きた
)
り、
239
婆
(
ばば
)
『お
前
(
まへ
)
さまはバラモン
教
(
けう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
と
見
(
み
)
えるが、
240
私
(
わたし
)
はテルモン
山
(
ざん
)
の
館
(
やかた
)
を
守
(
まも
)
る
小国別
(
をくにわけ
)
の
妻
(
つま
)
小国姫
(
をくにひめ
)
で
厶
(
ござ
)
います。
241
何卒
(
どうぞ
)
むさ
苦
(
くる
)
しい
所
(
ところ
)
で
厶
(
ござ
)
いますが、
242
一寸
(
ちよつと
)
立
(
たち
)
よつて
下
(
くだ
)
さいますまいか、
243
そしてお
名
(
な
)
は
何
(
なん
)
と
申
(
まを
)
しますか』
244
と
矢
(
や
)
つぎ
早
(
ばや
)
に
尋
(
たづ
)
ねられ、
245
三千彦
(
みちひこ
)
は
俄
(
にはか
)
に
仮
(
かり
)
の
名
(
な
)
を
思
(
おも
)
ひ
出
(
だ
)
す
訳
(
わけ
)
には
行
(
ゆ
)
かず、
246
三千
(
みち
)
『ハイ
私
(
わたくし
)
はお
察
(
さつ
)
しの
通
(
とほ
)
り、
247
バラモン
教
(
けう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
で
厶
(
ござ
)
います。
248
此
(
この
)
度
(
たび
)
、
249
鬼春別
(
おにはるわけ
)
将軍
(
しやうぐん
)
様
(
さま
)
の
陣中
(
ぢんちう
)
に
交
(
まじ
)
はり、
250
宣伝使
(
せんでんし
)
専門
(
せんもん
)
の
役
(
やく
)
を
勤
(
つと
)
めて
参
(
まゐ
)
りました
所
(
ところ
)
、
251
お
聞
(
きき
)
及
(
およ
)
びも
厶
(
ござ
)
いませうが、
252
鬼春別
(
おにはるわけ
)
様
(
さま
)
は
敵
(
てき
)
の
為
(
ため
)
に
手
(
て
)
いたく
敗北
(
はいぼく
)
遊
(
あそ
)
ばし、
253
やむを
得
(
え
)
ず
私
(
わたくし
)
は
只
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
で
此処
(
ここ
)
まで
参
(
まゐ
)
つたので
厶
(
ござ
)
います。
254
テルモン
山
(
ざん
)
の
御
(
ご
)
旧蹟
(
きうせき
)
を
拝
(
はい
)
したいと
存
(
ぞん
)
じ、
255
ヤツとのことで
夜
(
よ
)
を
日
(
ひ
)
についで、
256
霊地
(
れいち
)
へ
足
(
あし
)
を
踏
(
ふ
)
み
入
(
い
)
れたとこで
厶
(
ござ
)
います』
257
と
長
(
なが
)
い
口上
(
こうじやう
)
を
云
(
い
)
つて、
258
其
(
その
)
間
(
あひだ
)
に
自分
(
じぶん
)
の
名
(
な
)
を
考
(
かんが
)
へ
出
(
だ
)
さうとしてゐる。
259
もしもバラモン
教
(
けう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
や
錚々
(
さうさう
)
たる
人物
(
じんぶつ
)
の
名
(
な
)
に
匹敵
(
ひつてき
)
した
事
(
こと
)
を
喋
(
しやべ
)
つては
直
(
ただち
)
に
看破
(
かんぱ
)
さるる
虞
(
おそれ
)
があると
気遣
(
きづか
)
ひ、
260
どう
云
(
い
)
つたら
無難
(
ぶなん
)
であらうかと
考
(
かんが
)
へた
末
(
すゑ
)
、
261
今
(
いま
)
渡
(
わた
)
つて
来
(
き
)
た
川
(
かは
)
の
名
(
な
)
を
思
(
おも
)
ひ
出
(
だ
)
し、
262
俄
(
にはか
)
に
元気
(
げんき
)
よく、
263
『
私
(
わたくし
)
は
宣伝使
(
せんでんし
)
と
云
(
い
)
つても、
264
ホンのホヤホヤで
厶
(
ござ
)
いますから、
265
名
(
な
)
のあるやうな
者
(
もの
)
では
厶
(
ござ
)
いませぬ、
266
アン・ブラツクと
申
(
まを
)
すヘボ
宣伝使
(
せんでんし
)
で
厶
(
ござ
)
いますが、
267
何卒
(
どうぞ
)
一度
(
いちど
)
お
館
(
やかた
)
に
参拝
(
さんぱい
)
をさして
頂
(
いただ
)
きたいもので
厶
(
ござ
)
います』
268
姫
(
ひめ
)
『あ、
269
左様
(
さやう
)
で
厶
(
ござ
)
いますか、
270
貴方
(
あなた
)
のお
名
(
な
)
はアン・ブラツク
様
(
さま
)
でしたか、
271
何
(
なん
)
と
目出
(
めで
)
たいお
名
(
な
)
で
厶
(
ござ
)
いますなア、
272
此
(
この
)
アン・ブラツク
川
(
がは
)
は
昔
(
むかし
)
から
濁
(
にご
)
つた
事
(
こと
)
のない
清川
(
せいせん
)
で
厶
(
ござ
)
いますが、
273
其
(
その
)
名
(
な
)
を
負
(
お
)
はせ
玉
(
たま
)
ふ
宣伝使
(
せんでんし
)
に
出会
(
であ
)
うとは、
274
何
(
なん
)
といふ
結構
(
けつこう
)
な
事
(
こと
)
でせう。
275
之
(
これ
)
でテルモン
山
(
ざん
)
の
館
(
やかた
)
も、
276
万世
(
ばんせい
)
不動
(
ふどう
)
の
基礎
(
きそ
)
が
固
(
かた
)
まるでせう。
277
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
は
夢
(
ゆめ
)
のお
告
(
つげ
)
に「アン・ブラツク
川
(
がは
)
の
岸辺
(
きしべ
)
に
行
(
ゆ
)
け、
278
さうすればお
前
(
まへ
)
を
助
(
たす
)
ける
真人
(
しんじん
)
が
現
(
あら
)
はれる」との
事
(
こと
)
で
厶
(
ござ
)
いましたので、
279
信頼
(
たより
)
ない
夢
(
ゆめ
)
を
力
(
ちから
)
として
参
(
まゐ
)
りましたが、
280
矢張
(
やつぱ
)
り
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
告
(
つ
)
げと
見
(
み
)
えて、
281
尊
(
たふと
)
い
名
(
な
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
に
会
(
あ
)
ふ
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ました。
282
ああ
有難
(
ありがた
)
い
有難
(
ありがた
)
い』
283
と
嬉
(
うれ
)
し
涙
(
なみだ
)
をたらし
乍
(
なが
)
ら
合掌
(
がつしやう
)
する。
284
三千彦
(
みちひこ
)
は
真面目
(
まじめ
)
な
顔
(
かほ
)
して、
285
三千
(
みち
)
『ハイ
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました。
286
然
(
しか
)
らばお
世話
(
せわ
)
に
与
(
あづか
)
りませう』
287
姫
(
ひめ
)
『
早速
(
さつそく
)
の
御
(
ご
)
承知
(
しようち
)
、
288
満足
(
まんぞく
)
に
存
(
ぞん
)
じます。
289
……コレ、
290
ケーや、
291
セミスや、
292
宣伝使
(
せんでんし
)
のお
荷物
(
にもつ
)
を
持
(
も
)
たして
頂
(
いただ
)
きなさい』
293
ケー『ハイ
何
(
なん
)
でも
持
(
も
)
たして
頂
(
いただ
)
きますが、
294
別
(
べつ
)
に
何
(
なに
)
もお
持
(
もち
)
になつてはゐないぢや
厶
(
ござ
)
いませぬか』
295
姫
(
ひめ
)
『それでもお
背
(
せな
)
に
沢山
(
たくさん
)
の
荷物
(
にもつ
)
を
負
(
お
)
うてゐらつしやるぢやないか』
296
ケー『
奥様
(
おくさま
)
、
297
あれは
荷物
(
にもつ
)
ぢや
厶
(
ござ
)
いませぬ、
298
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
が
猫
(
ねこ
)
を
負
(
お
)
うてゐらつしやるのですよ。
299
なア、
300
セミスさま、
301
さうぢや
厶
(
ござ
)
いませぬか』
302
三千彦
(
みちひこ
)
は
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にやら
背中
(
せなか
)
にブクブクとした
瘤
(
こぶ
)
が
出来
(
でき
)
てゐたが、
303
背中
(
せなか
)
の
事
(
こと
)
とて
少
(
すこ
)
しも
気
(
き
)
がつかなかつた。
304
三千
(
みち
)
『アハハハハ、
305
猫
(
ねこ
)
に
見
(
み
)
えますかな、
306
どうで
犬
(
いぬ
)
に……』
307
と
云
(
い
)
ひかけて
俄
(
にはか
)
に
口
(
くち
)
をつぐみ、
308
三千
(
みち
)
『
犬
(
いぬ
)
か
猫
(
ねこ
)
のやうな
霊
(
みたま
)
ですから、
309
仕方
(
しかた
)
がありませぬ。
310
まアさう
仰有
(
おつしや
)
らずに
可愛
(
かあい
)
がつて
下
(
くだ
)
さいませ』
311
小国姫
(
をくにひめ
)
は『サア
参
(
まゐ
)
りませう』と
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
つて
行
(
ゆ
)
く。
312
三千彦
(
みちひこ
)
は
半安
(
はんあん
)
半危
(
はんき
)
の
面持
(
おももち
)
にて
門内
(
もんない
)
深
(
ふか
)
く
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
り、
313
小国姫
(
をくにひめ
)
と
共
(
とも
)
に
直
(
ただ
)
ちに
神殿
(
しんでん
)
に
至
(
いた
)
つてバラモン
教
(
けう
)
の
経文
(
きやうもん
)
を
称
(
とな
)
へた。
314
三千彦
(
みちひこ
)
は
只
(
ただ
)
聞
(
き
)
き
覚
(
おぼ
)
へに
経文
(
きやうもん
)
のそしり
走
(
ばし
)
りを
知
(
し
)
つてゐる
許
(
ばか
)
りで、
315
余
(
あま
)
り
大
(
おほ
)
きな
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
し、
316
間違
(
まちが
)
つた
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
つては、
317
忽
(
たちま
)
ち
看破
(
かんぱ
)
さるる
事
(
こと
)
を
恐
(
おそ
)
れ、
318
ワザと
小声
(
こごゑ
)
になり、
319
教服
(
けうふく
)
に
添
(
そ
)
へてあつた
数珠
(
じゆず
)
を
爪繰
(
つまぐ
)
り
乍
(
なが
)
ら、
320
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
念
(
ねん
)
じてゐる。
321
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にやら
三千彦
(
みちひこ
)
の
猫背
(
ねこぜ
)
は
元
(
もと
)
の
通
(
とほ
)
りに
痕跡
(
あとかた
)
もなく
直
(
なほ
)
つてゐた。
322
これはスマートの
霊
(
れい
)
が
三千彦
(
みちひこ
)
を
無事
(
ぶじ
)
に
館内
(
くわんない
)
に
送
(
おく
)
り
且
(
か
)
つ
其
(
その
)
身辺
(
しんぺん
)
を
守
(
まも
)
らむが
為
(
ため
)
であつた。
323
スマートは
館
(
やかた
)
の
床下
(
ゆかした
)
に
隠
(
かく
)
れて
守
(
まも
)
つてゐる。
324
(
大正一二・三・一七
旧二・一
於竜宮館
松村真澄
録)
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