霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一七章 強請(がうせい)〔一四四七〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第56巻 真善美愛 未の巻 篇:第4篇 三五開道 よみ(新仮名遣い):あなないかいどう
章:第17章 強請 よみ(新仮名遣い):ごうせい 通し章番号:1447
口述日:1923(大正12)年03月17日(旧02月1日) 口述場所:竜宮館 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年5月3日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
オールスチンの館では、せがれのワックスが、エキス、ヘルマンの二人をあぐらをかいてひそひそ話にふけっていた。悪友のエキスとヘルマンに、ワックスはおだてられ、お金をゆすられていた。
ワックスは小国別の長女デビス姫に恋慕していたが、デビス姫は馬鹿息子のワックスをげじげじの如く喰らっていた。エキスとヘルマンの二人はワックスに入れ知恵して、如意宝珠を盗んで小国別の弱みを握り、玉を発見した者に娘をめとらせ跡継ぎにさせる計略を立てた。
当座の金をせびるエキスとワックスは喧嘩になり、そこへ外で聞き耳を立てていたオールスチンが入ってきた。エキスとヘルマンは、オールスチンに赦しを乞うが、固いオールスチンは息子と言えども重罪を許すことはできないと突っぱねる。
エキスとヘルマンは、オールスチンを襲って亡き者にしようとした。ワックスはさすがに父親の危難を救おうと奮闘する。
そこへ小国別の僕のエルが突然入ってきたので、エキスとヘルマンは逃げてしまった。エルはこの有様を報告するために館に馳せ帰った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2024-07-09 20:27:05 文字数:5233 OBC :rm5617
愛善世界社版:243頁 八幡書店版:第10輯 236頁 修補版: 校定版:257頁 普及版:116頁 初版: ページ備考:
001 オールスチンの館(やかた)には悴(せがれ)のワツクスとエキスとヘルマンの二人(ふたり)が胡床(あぐら)をかいて密々話(ひそびそばなし)に耽(ふけ)つて居(ゐ)る。
002ワツクス『お前(まへ)達(たち)二人(ふたり)はさう何遍(なんべん)も何遍(なんべん)も無心(むしん)に来(き)て呉(く)れては困(こま)るぢやないか。003俺(おれ)もお前(まへ)の知(し)つて居(ゐ)る通(とほ)り部屋住(へやずみ)だから、004さう金(かね)が自由(じいう)になるものぢやない。005あの禿(はげ)チヤンがうまく死(し)んで呉(く)れたら此(この)家(や)の財産(ざいさん)は俺(おれ)の自由(じいう)だからどうでもしてやるが……さう云(い)はずに暫(しばら)く待(ま)つて居(ゐ)て呉(く)れ、006さうすれば小国別(をくにわけ)夫婦(ふうふ)は玉(たま)の紛失(ふんしつ)の咎(とが)に依(よ)つて職務(しよくむ)を取(と)り上(あ)げられ、007厳罰(げんばつ)に処(しよ)せられて了(しま)ふ、008さうすりや俺(おれ)がこの玉(たま)を発見(はつけん)したと云(い)うて大黒主(おほくろぬし)様(さま)に届(とど)けたならば、009屹度(きつと)小国別(をくにわけ)の跡目(あとめ)相続(さうぞく)をデビスにさすに定(きま)つて居(ゐ)る。010さうすれば俺(おれ)が玉(たま)を発見(はつけん)した褒美(はうび)として婿(むこ)になるのだ。011モウそこに出世(しゆつせ)がぶらついて居(ゐ)るのだから、012さう八釜(やかま)しう云(い)はずと暫(しばら)く待(ま)つて居(ゐ)て呉(く)れ、013その代(かは)り、014お前(まへ)を重役(ぢうやく)に守(もり)立(た)て、015さうして幾何(いくら)でも金(かね)は渡(わた)してやるからなア。016親父(おやぢ)に悟(さと)られやうものなら、017家(いへ)を放逐(おひだ)され、018一(いち)も取(と)らず二(に)も取(と)らずになつて仕舞(しま)ふ。019さうすればお前(まへ)達(たち)も困(こま)るぢやないか』
020 エキス、021ヘルマンの両人(りやうにん)はワツクスの悪友(あくいう)で常(つね)に好(よ)からぬ事(こと)許(ばか)り勧(すす)めては親父(おやぢ)の金(かね)を盗(ぬす)み出(だ)させ飲(の)み喰(く)ひに費(つひや)してゐた。022ワツクスは元来(ぐわんらい)が何処(どこ)かに抜(ぬ)けた所(ところ)のある馬鹿(ばか)息子(むすこ)である。023けれども家令(かれい)の息子(むすこ)と云(い)ふ事(こと)で非常(ひじやう)に若(わか)い者(もの)の仲間(なかま)には持(も)て囃(はや)され、024調子(てうし)に乗(の)つては親父(おやぢ)の金(かね)を盗(ぬす)み出(だ)し、025悪友(あくいう)と共(とも)に飲食(いんしよく)に費(つか)つて居(ゐ)た。026父(ちち)のオールスチンは女房(にようばう)には先立(さきだ)たれ、027唯(ただ)一人(ひとり)の悴(せがれ)ワツクスを力(ちから)とし、028目(め)の中(なか)に入(はい)つても痛(いた)くない程(ほど)愛(あい)して居(ゐ)た。029それ故(ゆゑ)段々(だんだん)増長(ぞうちよう)して手(て)にも足(あし)にも合(あ)はなくなつて仕舞(しま)つた。030そしてワツクスは小国別(をくにわけ)の娘(むすめ)デビス姫(ひめ)に恋慕(れんぼ)し、031明(あ)けても暮(く)れてもデビス デビスと口癖(くちぐせ)のやうに言(い)つて居(ゐ)た。032併(しか)し肝腎(かんじん)のデビス姫(ひめ)は、033馬鹿(ばか)息子(むすこ)のワツクスを蚰蜒(げじげじ)の如(ごと)く嫌(きら)ひ、034目(め)を細(ほそ)くして言(い)ひ寄(よ)る度(たび)に、035手厳(てきび)しく肱鉄(ひぢてつ)をかませ恥(はづ)かしめて居(ゐ)た。036併(しか)し乍(なが)らワツクスは益々(ますます)恋(こひ)が募(つの)つて嫌(きら)へば嫌(きら)ふ程(ほど)可愛(かはゆ)くなり、037何(なん)とかして目的(もくてき)を達(たつ)せむものと、038エキス、039ヘルマンの二人(ふたり)に相談(さうだん)をかけた。040狡猾(わるがしこ)いエキスは一(いち)も二(に)もなく嘲笑(あざわら)つて云(い)ふ。
041エキス『デビス姫(ひめ)を君(きみ)の妻(つま)にせうと思(おも)へば何(なん)でもない事(こと)だ。042如意(によい)宝珠(ほつしゆ)をそつと盗(ぬす)み出(だ)し隠(かく)してやつたなら、043きつと監督(かんとく)不行届(ふゆきとど)きの廉(かど)によつて小国別(をくにわけ)夫婦(ふうふ)及(およ)び家族(かぞく)一同(いちどう)が免職(めんしよく)を喰(く)ひ、044その上(うへ)刑罰(けいばつ)に処(しよ)せらるるに定(きま)つて居(ゐ)る。045まづ第一(だいいち)に其(その)玉(たま)を隠(かく)し心配(しんぱい)をさせてやると、046小国別(をくにわけ)夫婦(ふうふ)が、047終(しまひ)の果(はて)には百計(ひやくけい)尽(つ)きて、048「もしもあの紛失(ふんしつ)した如意(によい)宝珠(ほつしゆ)を探(さが)して来(き)た者(もの)があつたらデビス姫(ひめ)を遣(や)らう」とか、049「婿(むこ)にせう」とか云(い)ふに定(きま)つて居(ゐ)る。050先(ま)づ其(その)玉(たま)を隠(かく)すが一番(いちばん)である』
051とエキス、052ヘルマンが知恵(ちゑ)をつけた。053そこで薄野呂(うすのろ)のワツクスは夜(よる)密(ひそか)に奥殿(おくでん)に忍(しの)び込(こ)み、054エキス、055ヘルマンと共力(きようりよく)して玉(たま)を盗(ぬす)み出(だ)し、056床下(ゆかした)を掘(ほ)つて人知(ひとし)れず隠(かく)して置(お)いた。057そして当座(たうざ)の鼻塞(はなふさ)ぎとして百(ひやく)両(りやう)宛(づつ)渡(わた)して置(お)いたのである。058併(しか)しエキス、059ヘルマンの二人(ふたり)は、060忽(たちま)ち酒食(しゆしよく)に使用(つか)つて仕舞(しま)ひ、061幾度(いくど)も幾度(いくど)も弱身(よわみ)をつけ込(こ)んでワツクスの所(ところ)へ無心(むしん)にやつて来(く)る。062其(その)度(たび)毎(ごと)にワツクスもいろいろ工夫(くふう)して渡(わた)しておいた。063併(しか)し父親(ちちおや)の金(かね)も、064もう無(な)い所(ところ)迄(まで)盗(ぬす)み出(だ)して渡(わた)して居(ゐ)たのだから、065もう幾何(いくら)請求(せいきう)されても渡(わた)す金(かね)が無(な)いのである。066それ故(ゆゑ)ワツクスは最早(もはや)一文(いちもん)も無(な)いから……暫(しばら)く待(ま)つて呉(く)れ、067今(いま)に願望(ぐわんまう)成就(じやうじゆ)すれば、068幾何(いくら)でも金(かね)をやるから……と断(ことわ)つて居(ゐ)たのである、069されどエキスは……此(この)家令(かれい)の家(いへ)には金銀(きんぎん)が目(め)を剥(む)いてゐるに違(ちが)ひない、070脅迫(けふはく)さへすれば、071この馬鹿(ばか)息子(むすこ)は幾何(いくら)でも出(だ)して来(く)るに違(ちが)ひ無(な)い……と悪胴(わるどう)を据(す)ゑ声(こゑ)を尖(とが)らし、
072エキス『オイ、073ワツクス、074余(あま)り馬鹿(ばか)にして貰(もら)ふまいかい。075金剛(こんがう)不壊(ふゑ)の如意(によい)宝珠(ほつしゆ)を命(いのち)がけで盗(ぬす)み出(だ)し、076もし発覚(はつかく)したら俺(おれ)達(たち)の命(いのち)がないのだ。077さうして甘(うま)い汁(しる)を吸(す)ふのはお前(まへ)許(ばか)りぢやないか。078天下(てんか)一品(いつぴん)のナイス、079デビス姫(ひめ)さまの婿(むこ)となり、080さうしてテルモン山(ざん)の神司(かむつかさ)となつて覇張(はばり)散(ち)らす身分(みぶん)になれるぢやないか。081俺(おれ)達(たち)両人(りやうにん)は何程(なにほど)お前(まへ)が出世(しゆつせ)した所(ところ)で、082デビスを女房(にようばう)にする訳(わけ)にも行(ゆ)かず、083神司(かむつかさ)にもなれないのだから引(ひ)き合(あ)はないのだ。084それだからお前(まへ)から酒代(さかて)でも貰(もら)つて酒(さけ)でも呑(の)まねば不安(ふあん)で苦(くる)しうて、085一(いち)日(にち)でも斯(か)うして居(ゐ)る事(こと)が出来(でき)ない。086グヅグヅ云(い)はずに百(ひやく)両(りやう)許(ばか)り出(だ)さつしやい。087夫(それ)でなければ自分(じぶん)達(たち)も罪(つみ)になるのを覚悟(かくご)して、088「恐(おそ)れ乍(なが)ら」と罪状(ざいじやう)を自白(じはく)する積(つもり)だ、089それでもよいか』
090ワツクス『さう大(おほ)きな声(こゑ)で云(い)ふものぢやない、091近所(きんじよ)に聞(きこ)えたらどうするのだ。092俺(おれ)達(たち)の迷惑(めいわく)のみではない親父(おやぢ)迄(まで)が迷惑(めいわく)するではないか』
093エキス『迷惑(めいわく)したつて何(なん)でい。094俺(おれ)アもう破(やぶ)れかぶれだ。095のうヘルマン、096犬骨(いぬぼね)折(を)つて鷹(たか)に取(と)られるやうな荒仕事(あらしごと)をやらされて耐(たま)つたものぢやない。097此奴(こいつ)はきつと目的(もくてき)が成就(じやうじゆ)したが最後(さいご)、098自分(じぶん)の権威(けんゐ)を笠(かさ)に着(き)て、099俺(おれ)達(たち)を反対(はんたい)に罪(つみ)に落(おと)すかも知(し)れないぞ。100それより今(いま)の中(うち)にもぐる丈(だけ)はもぐつて甘(うま)い汁(しる)でも吸(す)ふて置(お)かねば算盤(そろばん)が持(も)てないや。101オイ ワツクスの先生(せんせい)、102俺(おれ)が今(いま)バラしたが最後(さいご)、103お前(まへ)の笠(かさ)の台(だい)は飛(と)んで仕舞(しま)ふぞ。104百(ひやく)両(りやう)の命(いのち)は安価(やすい)ものだ、105どうだ買(か)ふ気(き)はないか』
106ワツクス『百(ひやく)両(りやう)は安価(やすい)やうなものの、107さう何遍(なんべん)も百(ひやく)両(りやう)々々(ひやくりやう)と云(い)ふて来(こ)られては堪(たま)らないぢやないか。108親父(おやぢ)の臍繰金(へそくりがね)迄(まで)皆(みな)貴様(きさま)に出(だ)してやつたし、109もう逆(さか)さに振(ふ)つたつて血(ち)も出(で)ないのだ。110些(ちつと)俺(おれ)の心(こころ)も察(さつ)して呉(く)れないか。111九分(くぶ)九厘(くりん)と云(い)ふ所(ところ)になつて引(ひつ)くり返(かへ)つては詮(つま)らないぢやないか。112俺(おれ)の目的(もくてき)さへ立(た)てば、113お前(まへ)の思(おも)ふやうにしてやるのだから』
114エキス『ヘン甘(うま)い事(こと)云(い)つて乞食(こじき)の虱(しらみ)ぢやないが、115口(くち)で殺(ころ)さうと思(おも)つても其(そ)の手(て)に乗(の)るやうな哥兄(あにい)ぢやないぞ。116末(すゑ)の百(ひやく)両(りやう)より今(いま)の五十(ごじふ)両(りやう)だ。117さつぱりと五十(ごじふ)両(りやう)にまけて置(お)く。118サアきつぱりと出(だ)したり出(だ)したり』
119ワツクス『何程(なにほど)出(だ)せと云(い)ふても無(な)い袖(そで)は振(ふ)れんぢやないか。120そんな無茶(むちや)の事(こと)を云(い)はずに、121今(いま)暫(しばら)くの所(ところ)我慢(がまん)してくれ、122掌(て)を合(あは)して頼(たの)むから』
123エキス『ヘン、124貴様(きさま)が掌(て)を合(あは)して金(かね)の一(いち)両(りやう)も降(ふ)つて来(く)るのなら辛抱(しんばう)もしない事(こと)はないが、125拝(をが)み倒(たふ)さうと思(おも)つても、126そんな事(こと)に乗(の)るやうな俺(おれ)ぢやないわい。127こんな大(おほ)きな屋台骨(やたいぼね)をした家(いへ)の悴(せがれ)でありながら、128親父(おやぢ)の金(かね)が無(な)くなつたと云(い)つたつて誰(たれ)が本当(ほんたう)にするものか、129人(ひと)を馬鹿(ばか)にするない。130出(だ)さにや出(だ)さぬでよいわ。131これから俺(おれ)が一伍(いちぶ)一什(しじふ)をデビス姫(ひめ)の所(ところ)へ知(し)らしに行(ゆ)き、132二人(ふたり)が証人(しようにん)となつて報告(はうこく)するからさう思(おも)へ。133オイ、134ヘルマン、135こんな奴(やつ)にかかつて居(ゐ)ても仕方(しかた)がないわ。136さア行(ゆ)かう』
137と立(た)ち上(あが)らうとするをワツクスは慌(あわ)てて手(て)を握(にぎ)り、138真青(まつさを)な顔(かほ)をしてビリビリ慄(ふる)ひ乍(なが)ら、
139ワツクス『オイ、140エキス、141さう短気(たんき)を出(だ)すものぢやない。142暫時(しばらく)待(ま)つてくれと頼(たの)むのにお前(まへ)も聞(き)き訳(わけ)のない男(をとこ)だなア。143お前(まへ)も俺(おれ)の心(こころ)を知(し)つとるだらう、144有(あ)る金(かね)を隠(かく)して千騎(せんき)一騎(いつき)の此(この)場合(ばあひ)、145誰(たれ)が無(な)いと云(い)ふものか。146些(ちつと)考(かんが)へて呉(く)れ』
147エキス『千騎(せんき)一騎(いつき)の場合(ばあひ)になつてゴテゴテ云(い)ふ奴(やつ)は駄目(だめ)だ。148考(かんが)へもヘチマも有(あ)つたものかい、149薬罐頭(やくわんあたま)の帰(かへ)つて来(こ)ない中(うち)に早(はや)く出(だ)さないと陰謀(いんぼう)露見(ろけん)の恐(おそ)れがあるぞ。150貴様(きさま)は親父(おやぢ)が怖(こは)いのか。151親父(おやぢ)が怖(こは)いやうな事(こと)では伊勢(いせ)神楽(かぐら)は見(み)られないぞ……、
152親(おや)の財産(ざいさん)あてにすれや
153薬罐頭(やくわんあたま)が邪魔(じやま)になる
154と云(い)ふのは俺(おれ)達(たち)の爺(おやぢ)の事(こと)だ。155貴様(きさま)らは親(おや)一人(ひとり)子(こ)一人(ひとり)、156羊羹(やうかん)よりも甘(あま)い奴(やつ)だから、157貴様(きさま)が何程(なにほど)盗(ぬす)み出(だ)して俺(おれ)に呉(く)れたとて、158悴(せがれ)の命(いのち)とつりがへだと聞(き)いたら、159滅多(めつた)に怒(おこ)る気遣(きづか)ひはない、160余程(よほど)貴様(きさま)はケチな奴(やつ)だなア』
161ワツクス『どうか頼(たの)みだから、162今日(けふ)丈(だけ)は柔順(おとなし)く帰(かへ)つて呉(く)れ、163何(なん)とか又(また)考(かんが)へて置(お)くからなア』
164エキス『俺(おれ)も男(をとこ)だ。165一旦(いつたん)口(くち)へ出(だ)した以上(いじやう)は滅多(めつた)に恥(はぢ)を掻(か)いて帰(かへ)るやうな哥兄(にいさん)ぢやないぞ。166サア、167グヅグヅ云(い)はずに出(だ)しやがらないか、168グヅグヅ云(い)ふと此(この)鉄拳(てつけん)が貴様(きさま)の頭(あたま)にお見舞(みまひ)申(まを)すぞ』
169と飛(と)びつかうとする。170ヘルマンは慌(あわて)て後(うしろ)より抱留(だきと)め、
171ヘルマン『待(ま)つた待(ま)つた、172短気(たんき)は損気(そんき)だ、173大事(だいじ)の前(まへ)の小事(せうじ)だ、174今(いま)短気(たんき)を出(だ)しては俺(おれ)達(たち)三(さん)人(にん)の首(くび)は無(な)くなるぢやないか。175首(くび)が無(な)くなつては酒(さけ)を飲(の)むと云(い)つたつて飲(の)めないぢやないか。176今日(けふ)はまア此処(ここ)の銀瓶(ぎんびん)でも持(も)つて帰(かへ)らう、177ナア、178ワツクス、179金(かね)の代(かは)りに銀瓶(ぎんびん)ならお前(まへ)も何(なん)とも云(い)ひはすまい』
180ワツクス『夫(それ)は何卒(どうぞ)耐(こら)へて呉(く)れ、181今(いま)親父(おやぢ)が帰(かへ)つて来(き)て調(しら)べたら大変(たいへん)だからのう』
182エキス『そんなら床(とこ)の置物(おきもの)が無垢(むく)らしいから、183彼品(あいつ)を攫(さら)つて行(ゆ)かう、184これなら千(せん)両(りやう)や二千(にせん)両(りやう)の価値(ねうち)はあるだらうから』
185ワツクス『何卒(どうぞ)それだけは耐(こら)へて呉(く)れ、186親父(おやぢ)に見(み)つけられては困(こま)るからなア』
187エキス『ヘン、188二(ふた)つ目(め)には親父(おやぢ)々々(おやぢ)と吐(ぬか)しやがつて、189親父(おやぢ)を煮汁(だし)に俺(おれ)達(たち)の要求(えうきう)を拒絶(きよぜつ)する考(かんが)へであらう、190同(おな)じ穴(あな)の貂(むじな)だ。191親父(おやぢ)だつて貴様(きさま)の陰謀(いんぼう)をすつかり知(し)つて居(ゐ)て、192素知(そし)らぬ顔(かほ)をしてけつかるのだ。193ええもう斯(か)うなつては構(かま)ふものか、194悪胴(わるどう)を据(す)ゑて百(ひやく)両(りやう)渡(わた)すか、195この無垢(むく)の置物(おきもの)を渡(わた)すかする迄(まで)は、196十日(とをか)でも廿日(はつか)でも坐(すわ)り込(こ)んで動(うご)かない覚悟(かくご)を定(き)めやうかい』
197ヘルマン『ワツクスの云(い)ふ通(とほ)り、198今日(けふ)は柔順(おとなし)く帰(かへ)つて遣(や)らうぢやないか、199俺(おれ)達(たち)も矢張(やはり)疵(きず)持(も)つ足(あし)だからなア』
200エキス『俺(おれ)は一旦(いつたん)云(い)ひ出(だ)した事(こと)は後(あと)へは退(ひ)かぬのだ。201馬鹿(ばか)らしい、202男(をとこ)がこれ丈(だけ)金銀(きんぎん)の目(め)を剥(む)いて居(ゐ)る家(いへ)へ来(き)て請求(せいきう)すべきものを請求(せいきう)せずして帰(かへ)る事(こと)が出来(でき)るものか、203貴様(きさま)もよい腰抜(こしぬ)けだなア』
204 ヘルマンはムツと腹(はら)を立(た)て、205顔(かほ)を真(ま)つ赤(か)にしながら、206腹立紛(はらたちまぎ)れに何(なに)も彼(か)も忘(わす)れて仕舞(しま)ひ、
207ヘルマン『こりやエキス、208悪垂口(あくたれぐち)を叩(たた)くにも程(ほど)がある。209俺(おれ)が腰抜(こしぬ)けなら貴様(きさま)は魂抜(たまぬ)けだ。210今(いま)に目(め)に物(もの)見(み)せてやらう、211覚悟(かくご)せよ』
212と云(い)ふより早(はや)く床(とこ)にあつた無垢(むく)の置物(おきもの)をグツと頭上(づじやう)にさし上(あ)げ、213エキスを目蒐(めが)けて投(な)げつけた。214エキスは避(よ)け損(そこな)うて向脛(むかうずね)にカンと打(う)ちあてられ、
215『アイタタタ』
216と云(い)つたきり座敷(ざしき)の中央(まんなか)に倒(たふ)れて仕舞(しま)つた。217折柄(をりから)門口(かどぐち)を慌(あわ)ただしく押(お)し開(あ)けて這入(はい)つて来(き)たのは此(この)家(や)の主人(しゆじん)オールスチンである。
218オールス『オイ、219ワツクス、220私(わし)の留守中(るすちう)に何(なに)を喧嘩(けんくわ)して居(ゐ)るのだ。221些(ちつと)静(しづか)にせないか』
222ワツクス『ヘエ、223ほんの酒(さけ)の上(うへ)で訳(わけ)もない喧嘩(けんくわ)をおつ初(ぱじ)めまして誠(まこと)に申訳(まをしわけ)が厶(ござ)いませぬ』
224オールス『さうではあるまい。225最前(さいぜん)から門口(かどぐち)ですつかり立聞(たちぎき)をした。226貴様(きさま)ら三(さん)人(にん)は如意(によい)宝珠(ほつしゆ)を盗(ぬす)んだ大罪人(だいざいにん)だ。227仮令(たとへ)吾(わが)子(こ)と雖(いへど)も許(ゆる)す事(こと)は出来(でき)ぬ。228サア三(さん)人(にん)とも手(て)を後(うしろ)へ廻(まは)せ』
229ワツクス『お父(とう)さま、230誠(まこと)に済(す)まぬ事(こと)を致(いた)しました。231併(しか)し乍(なが)らもう今日(こんにち)限(かぎ)り心(こころ)を改(あらた)めますから、232何卒(どうぞ)内証(ないしよう)にして下(くだ)さい』
233オールス『馬鹿(ばか)を云(い)ふな、234誠(まこと)の道(みち)に親疎(しんそ)の区別(くべつ)はない。235オールスチンの悴(せがれ)に貴様(きさま)のやうな大悪人(だいあくにん)が出来(でき)たかと思(おも)へば、236神(かみ)様(さま)に対(たい)し、237先祖(せんぞ)に対(たい)し、238申訳(まをしわけ)がない、239どうして俺(おれ)の顔(かほ)が立(た)つか。240グヅグヅ云(い)はずに罪(つみ)に伏(ふく)するが好(よ)い。241これやエキス、242ヘルマンの両人(りやうにん)、243元(もと)を云(い)へばお前(まへ)達(たち)が悴(せがれ)に知恵(ちゑ)をかつたのだから、244お前(まへ)等(ら)の罪(つみ)が最(もつと)も重(おも)い、245併(しか)し乍(なが)ら悴(せがれ)も悪(わる)いのだから免(のが)れる訳(わけ)にはゆかぬ。246三(さん)人(にん)共(とも)覚悟(かくご)してバラモンのお経(きやう)でも唱(とな)へたがよからう』
247と両眼(りやうがん)に涙(なみだ)を湛(たた)えて居(ゐ)る。248エキスは吃驚(びつくり)して、
249エキス『もしオールスチン様(さま)、250誠(まこと)に済(す)まぬ事(こと)で厶(ござ)いましたが、251是(これ)には貴方(あなた)の息子(むすこ)のワツクスも入(はい)つて居(ゐ)るのですから、252何卒(どうぞ)大目(おほめ)に見(み)て下(くだ)さい。253何卒(どうぞ)其(その)筋(すぢ)へ突(つ)き出(だ)す事(こと)だけは許(ゆる)して下(くだ)さい。254その代(かは)り玉(たま)は直様(すぐさま)お還(かへ)し申(まを)しますから』
255オールス『玉(たま)を還(かへ)す事(こと)は勿論(もちろん)だ。256併(しか)し乍(なが)ら一旦(いつたん)取(と)つた罪(つみ)はどうしても許(ゆる)す事(こと)は出来(でき)ぬ。257さてもさても困(こま)つた事(こと)をして呉(く)れたものだなア。258この儘(まま)にして置(お)いたら御(ご)主人(しゆじん)の家(いへ)は断絶(だんぜつ)、259随(したが)つて此(この)家令(かれい)も監督(かんとく)不行届(ふゆきとどき)の罪(つみ)によつて、260どんな厳罰(げんばつ)に処(しよ)せらるるかも知(し)れない。261貴様(きさま)等(ら)三(さん)人(にん)を突出(つきだ)して主家(しゆけ)と吾(わが)家(や)を守(まも)らねばならぬ。262斯様(かやう)な時(とき)に悴(せがれ)の愛(あい)に引(ひ)かれて大事(だいじ)を誤(あやま)るやうなオールスチンではないぞ』
263と声高(こわだか)に叱(しか)りつけて居(ゐ)る。264三(さん)人(にん)は平(へ)た蜘蛛(ぐも)のやうになつて畳(たたみ)に頭(かしら)をにぢりつけ、265只々(ただただ)詫入(わびい)る許(ばか)りであつた。266オールスチンは直(ただち)に神前(しんぜん)に額(ぬか)づき『吾(わが)子(こ)の罪(つみ)を許(ゆる)させたまへ』と一生(いつしやう)懸命(けんめい)に祈(いの)つて居(ゐ)る。267されど一旦(いつたん)大罪(だいざい)を犯(おか)した此(この)三(さん)人(にん)はどうしても助(たす)ける工夫(くふう)は無(な)い。268もしも自分(じぶん)の子(こ)なるが故(ゆゑ)をもつて罪(つみ)を許(ゆる)さば綱紀(かうき)紊乱(ぶんらん)の端緒(たんしよ)を発(はつ)し、269不公平(ふこうへい)の譏(そしり)を受(う)け、270誠(まこと)の道(みち)を潰(つぶ)して仕舞(しま)はねばならぬ、271ああ如何(いか)にせむと滝(たき)の如(ごと)くに落涙(らくるゐ)して居(ゐ)る。272二人(ふたり)は目(め)と目(め)を見合(みあは)せ、273後(うしろ)から細縄(ほそなは)を首(くび)に引(ひ)つかけ引倒(ひきたふ)し折重(をりかさ)なつて締(し)め殺(ころ)さうとして居(ゐ)る。274オールスチンは力(ちから)限(かぎ)りに、275防(ふせ)ぎ戦(たたか)ひ、276逃(に)げ脱(のが)れむとすれども力(ちから)足(た)らず、277彼(かれ)等(ら)がなす儘(まま)に任(まか)すより仕方(しかた)がなかつた。
278ワツクス『オイ、279エキス、280ヘルマン、281俺(おれ)の親父(おやぢ)をさう甚(ひど)い事(こと)をして呉(く)れな、282死(し)んで了(しま)ふぢやないか。283打転(うちこか)す位(くらゐ)はよいけれど、284命(いのち)迄(まで)取(と)らうとするのか』
285エキス『定(きま)つた事(こと)だい。286此奴(こいつ)の命(いのち)を取(と)らねば俺(おれ)達(たち)の命(いのち)が無(な)くなるのだ。287貴様(きさま)の命(いのち)もなくなるのだぞ。288何(なに)を呆(とぼ)けて居(ゐ)るのだ。289オイ、290ヘルマン俺(おれ)は老耄(おいぼれ)をバラして了(しま)うから、291貴様(きさま)はワツクスをやつつけて了(しま)へ』
292ヘルマン『よし来(き)た』
293とワツクスに喰(くら)ひつく。294茲(ここ)に二組(ふたくみ)の殺(ころ)し合(あ)ひが初(はじ)まり、295ジタン、296バタンと怪(あや)しき物音(ものおと)が戸外(こぐわい)まで聞(きこ)えて居(ゐ)る。297此(この)物音(ものおと)を聞(き)きつけ慌(あわ)ただしく飛(と)び込(こ)んで来(き)たのは、298小国別(をくにわけ)の僕(しもべ)エルであつた。299エキス、300ヘルマンはエルの顔(かほ)を見(み)るより一目散(いちもくさん)に裏口(うらぐち)から雲(くも)を霞(かすみ)と山越(やまごし)に逃(に)げて仕舞(しま)つた。301そしてエルは最前(さいぜん)からの喧嘩(けんくわ)の顛末(てんまつ)や由来(ゆらい)を残(のこ)らず聞(き)いて仕舞(しま)つた。302オールスチンは漸(やうや)くにして起(お)き上(あが)り首筋(くびすぢ)の痛(いた)みを撫(な)でて居(ゐ)る。303ワツクスは、304庫(くら)の中(なか)へ飛(と)び込(こ)み、305中(なか)より錠(ぢやう)を卸(おろ)して慄(ふる)つて居(ゐ)る。306エルは一目散(いちもくさん)にこの有様(ありさま)を報告(はうこく)せむと、307宙(ちう)を切(き)つて館(やかた)へ馳帰(はせかへ)り行(ゆ)く。
308(大正一二・三・一七 旧二・一 於竜宮館階上 加藤明子録)
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