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霊界物語
真善美愛(第49~60巻)
第56巻(未の巻)
序文
総説
第1篇 自愛之柵
第1章 神慮
第2章 恋淵
第3章 仇花
第4章 盗歌
第5章 鷹魅
第2篇 宿縁妄執
第6章 高圧
第7章 高鳴
第8章 愛米
第9章 我執
第3篇 月照荒野
第10章 十字
第11章 惚泥
第12章 照門颪
第13章 不動滝
第14章 方岩
第4篇 三五開道
第15章 猫背
第16章 不臣
第17章 強請
第18章 寛恕
第19章 痴漢
第20章 犬嘘
余白歌
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霊界物語
>
真善美愛(第49~60巻)
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第56巻(未の巻)
> 第1篇 自愛之柵 > 第2章 恋淵
<<< 神慮
(B)
(N)
仇花 >>>
第二章
恋淵
(
こひぶち
)
〔一四三二〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第56巻 真善美愛 未の巻
篇:
第1篇 自愛之柵
よみ(新仮名遣い):
じあいのしがらみ
章:
第2章 恋淵
よみ(新仮名遣い):
こいぶち
通し章番号:
1432
口述日:
1923(大正12)年03月14日(旧01月27日)
口述場所:
竜宮館
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年5月3日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
波斯と印度の国境にあるテルモン山には、バラモン教を開いた鬼雲彦の仮館があり、小国別・小国姫がその跡を守っていた。この夫婦にはデビス姫、ケリナ姫という娘があったが、妹のケリナ姫は近所の鎌彦という男と駆け落ちし、人跡まれなエルシナ谷のあばら家に人目を忍んで暮らしていたのであった。
しかし夫の鎌彦は一年前に行商に出立したきり、何のたよりもなくなってしまった。ケリナ姫は悲嘆に暮れながら、粗末な衣に身を包み、その日を暮していた。
ある晩、ケリナ姫は世をはかなんで、エルシナ川のほとりにやってくると身を投げた。この時、谷川の端には元バラモン兵士のベル、ヘル、シャルの三人が座って行く先を話し合っていた。三人は治道居士たちから与えられた金をすっかり遊んで使ってしまい、また泥棒に戻っていた。
誰かが谷川に身を投げた音を聞き、ヘルとシャルは助けようとして暗闇の淵に飛び込んだ。シャルはケリナ姫にしがみつかれて、危うく自分も溺れかけたがヘルが救い上げた。ベルは助けようともせず、岸上から悪口を浴びせかけている。
シャルとヘルは、ベルの冷酷さを憤慨しながら、ケリナ姫を助け上げて登ってきた。ベルはケリナ姫の容貌を見ると、態度を変えて、自分の妻にならないかと持ちかけた。
ベルはケリナ姫から拒絶され、ベル、シャルと言い争いになった。ベルは長剣を引き抜くとケリナ姫に切りかかった。ヘルとシャルが剣でそれを受け止め、三人は切り合いを始めた。暗闇のことで、三人は刀を棄てて組み打ちを始めた。
三人は取っ組み合いをするうちに転げて、谷底の淵に落ち込んでしまった。木の上に逃れて様子を見ていたケリナ姫は、自分を助けてくれた恩人を見捨てられないとまたしても淵に飛び込んだ。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2024-06-07 19:55:54
OBC :
rm5602
愛善世界社版:
18頁
八幡書店版:
第10輯 151頁
修補版:
校定版:
19頁
普及版:
6頁
初版:
ページ備考:
001
波斯
(
フサ
)
と
印度
(
ツキ
)
との
国境
(
くにざかひ
)
テルモン
山
(
ざん
)
の
山続
(
やまつづ
)
きエルシナ
谷
(
だに
)
の
山口
(
やまぐち
)
に、
002
淋
(
さび
)
しき
竈
(
かまど
)
の
煙
(
けぶり
)
も
絶
(
た
)
えて
春
(
はる
)
の
永日
(
ながひ
)
も、
003
いとど
暮
(
くら
)
し
難
(
がた
)
く
柱
(
はしら
)
はゆるぎ
梁
(
うつばり
)
朽
(
く
)
ちし
破
(
やぶ
)
れ
家
(
や
)
に、
004
火影
(
ほかげ
)
も
消
(
き
)
えし
秋
(
あき
)
の
夜
(
よ
)
の
長
(
なが
)
き
賤
(
しづ
)
が
伏家
(
ふせや
)
に
花
(
はな
)
を
欺
(
あざむ
)
く
妙齢
(
めうれい
)
の
美人
(
びじん
)
、
005
破
(
やぶ
)
れし
衣
(
きぬ
)
に
身
(
み
)
を
纒
(
まと
)
ひ
只
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
悲嘆
(
ひたん
)
に
暮
(
く
)
れて
居
(
ゐ
)
る。
006
嘗
(
かつ
)
て
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
が
仮
(
かり
)
の
館
(
やかた
)
を
結
(
むす
)
び、
007
バラモン
教
(
けう
)
を
開
(
ひら
)
きたるテルモン
山
(
ざん
)
の
神館
(
かむやかた
)
の
跡
(
あと
)
を
守
(
まも
)
る
小国別
(
をくにわけ
)
、
008
小国姫
(
をくにひめ
)
の
二人
(
ふたり
)
があつた。
009
此
(
この
)
二人
(
ふたり
)
の
夫婦
(
ふうふ
)
にはデビス
姫
(
ひめ
)
、
010
ケリナ
姫
(
ひめ
)
と
云
(
い
)
ふ
二人
(
ふたり
)
の
美
(
うつく
)
しき
娘
(
むすめ
)
を
持
(
も
)
つて
居
(
ゐ
)
た。
011
ケリナ
姫
(
ひめ
)
は
近所
(
きんじよ
)
の
鎌彦
(
かまひこ
)
と
云
(
い
)
ふ
若
(
わか
)
き
男
(
をとこ
)
と
恋
(
こひ
)
に
落
(
お
)
ち、
012
両親
(
りやうしん
)
の
目
(
め
)
を
忍
(
しの
)
びテルモン
山
(
ざん
)
の
館
(
やかた
)
を
脱
(
ぬ
)
け
出
(
だ
)
し、
013
エルシナ
谷
(
だに
)
の
一
(
ひと
)
つ
谷
(
だに
)
に
破家
(
あばらや
)
を
建
(
た
)
て、
014
夫婦
(
ふうふ
)
気取
(
きど
)
りで
暮
(
くら
)
して
居
(
ゐ
)
たのである。
015
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
夫
(
をつと
)
は
一
(
いち
)
年
(
ねん
)
以前
(
いぜん
)
に
或
(
ある
)
目的
(
もくてき
)
を
抱
(
いだい
)
て、
016
ケリナ
姫
(
ひめ
)
を
此
(
この
)
破家
(
あばらや
)
に
残
(
のこ
)
し
出
(
で
)
て
行
(
い
)
つたきり
何
(
なん
)
の
便
(
たより
)
もなく、
017
後
(
あと
)
に
残
(
のこ
)
つた
姫
(
ひめ
)
は
途方
(
とはう
)
に
暮
(
く
)
れ
親
(
おや
)
の
里
(
さと
)
に
帰
(
かへ
)
りもならず、
018
又
(
また
)
外
(
ほか
)
へ
行
(
ゆ
)
く
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
ず、
019
木
(
き
)
の
根
(
ね
)
を
食
(
くら
)
ひ、
020
或
(
あるひ
)
は
乏
(
とぼ
)
しき
果物
(
くだもの
)
等
(
など
)
を
漁
(
あさ
)
つて
僅
(
わづ
)
かに
其
(
その
)
日
(
ひ
)
を
送
(
おく
)
り、
021
夫
(
をつと
)
鎌彦
(
かまひこ
)
の
消息
(
せうそく
)
を
待
(
ま
)
ちつつあつた。
022
家
(
いへ
)
は
益々
(
ますます
)
貧
(
まづ
)
しくして
朋友
(
ほういう
)
知己
(
ちき
)
もなく
訪
(
おとな
)
ふものは
峰
(
みね
)
の
嵐
(
あらし
)
と
雨
(
あめ
)
の
音
(
おと
)
のみであつた。
023
広
(
ひろ
)
き
世界
(
せかい
)
を
自
(
みづか
)
ら
狭
(
せば
)
めて
山
(
やま
)
深
(
ふか
)
く
世
(
よ
)
に
隠
(
かく
)
れ
住
(
す
)
む
身
(
み
)
の
悲
(
かな
)
しさ、
024
やるせなく、
025
人跡
(
じんせき
)
なければ
道
(
みち
)
も
狭
(
せま
)
く
萱草
(
かやくさ
)
に
埋
(
うづ
)
もれ、
026
夏
(
なつ
)
の
炎天
(
えんてん
)
も
何
(
なん
)
となく
心
(
こころ
)
淋
(
さび
)
しく
時々
(
ときどき
)
猛獣
(
まうじう
)
の
声
(
こゑ
)
、
027
耳
(
みみ
)
を
劈裂
(
つんざ
)
き
魂
(
たましひ
)
を
宙
(
ちう
)
に
飛
(
と
)
ばすこと
幾回
(
いくくわい
)
なるを
知
(
し
)
らず。
028
何日
(
いつ
)
迄
(
まで
)
経
(
た
)
つても
帰
(
かへ
)
り
来
(
きた
)
らざる
夫
(
をつと
)
の
姿
(
すがた
)
、
029
全
(
まつた
)
く
神
(
かみ
)
の
恵
(
めぐ
)
みに
見放
(
みはな
)
され、
030
露
(
つゆ
)
の
命
(
いのち
)
を
野辺
(
のべ
)
に
曝
(
さら
)
し
玉
(
たま
)
ひしには
非
(
あら
)
ざるかと、
031
とつおひつ、
032
思案
(
しあん
)
に
暮
(
く
)
れ
乍
(
なが
)
ら
月
(
つき
)
の
光
(
ひかり
)
を
便
(
たよ
)
りに
草
(
くさ
)
を
分
(
わ
)
け、
033
漸
(
やうや
)
うにして
谷
(
たに
)
の
口
(
くち
)
の
人通
(
ひとどほ
)
りに
出
(
で
)
た。
034
ここには
可
(
か
)
なり
大
(
おほ
)
きな
谷川
(
たにがは
)
が
流
(
なが
)
れ
激流
(
げきりう
)
飛沫
(
ひまつ
)
を
飛
(
と
)
ばして
居
(
ゐ
)
る。
035
之
(
これ
)
をエルシナ
川
(
がは
)
と
云
(
い
)
ふ。
036
ケリナ
姫
(
ひめ
)
は
世
(
よ
)
を
果敢
(
はか
)
なみて
前後
(
あとさき
)
の
考
(
かんが
)
へもなく、
037
身
(
み
)
を
躍
(
をど
)
らして
崖下
(
がいか
)
の
水中
(
すいちう
)
目蒐
(
めが
)
けて
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
んだ。
038
月
(
つき
)
は
西
(
にし
)
の
峰
(
みね
)
に
隠
(
かく
)
れ
夜
(
よる
)
の
暗
(
やみ
)
は
益々
(
ますます
)
濃厚
(
のうこう
)
となつて
来
(
き
)
た。
039
此
(
この
)
時
(
とき
)
谷川
(
たにがは
)
の
端
(
ふち
)
に
長剣
(
ちやうけん
)
を
腰
(
こし
)
に
提
(
さ
)
げ
覆面
(
ふくめん
)
頭巾
(
づきん
)
の
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
男
(
をとこ
)
、
040
ひそびそと
何事
(
なにごと
)
か
囁
(
ささや
)
いてゐる。
041
甲
(
かふ
)
『おい、
042
兄弟
(
きやうだい
)
、
043
吾々
(
われわれ
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
北
(
きた
)
の
森
(
もり
)
でゼネラル
様
(
さま
)
から
六千
(
ろくせん
)
両
(
りやう
)
の
金
(
かね
)
を
貰
(
もら
)
ひ
其
(
その
)
御
(
ご
)
教訓
(
けうくん
)
によつて
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
国許
(
くにもと
)
に
帰
(
かへ
)
り、
044
親
(
おや
)
や
女房
(
にようばう
)
や
子供
(
こども
)
を
喜
(
よろこ
)
ばさうと
思
(
おも
)
つてゐたが、
045
到頭
(
たうとう
)
意
(
い
)
の
如
(
ごと
)
くならず、
046
スツカリと
恵
(
めぐ
)
みの
金
(
かね
)
は
取
(
と
)
られて
了
(
しま
)
ひ、
047
如何
(
どう
)
しても
此
(
この
)
儘
(
まま
)
で
国
(
くに
)
へ
帰
(
かへ
)
る
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ぬぢやないか。
048
何
(
なん
)
とかしてもう
一働
(
ひとはたら
)
きやつて、
049
それを
機
(
しほ
)
に
泥棒
(
どろばう
)
をスツカリ
思
(
おも
)
ひきり、
050
国許
(
くにもと
)
に
帰
(
かへ
)
つて
正業
(
せいげふ
)
に
就
(
つ
)
き
度
(
た
)
いものだな』
051
乙
(
おつ
)
(ベル)
『おい、
052
ベル、
053
貴様
(
きさま
)
も
俺
(
おれ
)
等
(
たち
)
も
皆
(
みな
)
二千
(
にせん
)
両
(
りやう
)
づつ
分配
(
ぶんぱい
)
したのだが
今
(
いま
)
は
最早
(
もはや
)
無一物
(
むいちぶつ
)
、
054
取
(
と
)
つたものを
取
(
と
)
られると
云
(
い
)
ふのは
天地
(
てんち
)
自然
(
しぜん
)
の
道理
(
だうり
)
だから、
055
悪銭
(
あくせん
)
身
(
み
)
につかず、
056
もうスツカリ
思
(
おも
)
ひきつたら
如何
(
どう
)
ぢや。
057
俺
(
おれ
)
やもう
此
(
この
)
商売
(
しやうばい
)
が
初
(
はじ
)
めから
好
(
す
)
かんのだが、
058
益々
(
ますます
)
嫌
(
いや
)
になつて
来
(
き
)
たよ。
059
折角
(
せつかく
)
盗
(
と
)
つた
金
(
かね
)
を
又
(
また
)
取
(
と
)
られてしまへば
何
(
なん
)
にもならぬぢやないか。
060
只
(
ただ
)
残
(
のこ
)
るのは
罪悪
(
ざいあく
)
ばかりだからな』
061
丙
(
へい
)
(ヘル)
『おい、
062
ベル、
063
ヘルの
両人
(
りやうにん
)
、
064
取
(
と
)
られたとはそりや
何
(
なん
)
だ。
065
吾々
(
われわれ
)
は
皆
(
みな
)
娼婦
(
ばいた
)
に
惚
(
のろ
)
け、
066
酒
(
さけ
)
に
溺
(
おぼ
)
れて
使
(
つか
)
つてしまつたぢやないか。
067
それ
丈
(
だ
)
け
愉快
(
ゆくわい
)
な
事
(
こと
)
をしたのだから
決
(
けつ
)
して
盗
(
と
)
られたのぢやないよ。
068
それよりも
之
(
これ
)
から
十
(
じふ
)
里
(
り
)
ばかり
行
(
ゆ
)
くとテルモン
山
(
ざん
)
の
神館
(
かむやかた
)
がある。
069
そこへお
詣
(
まゐ
)
りしてスツカリ
心
(
こころ
)
を
改
(
あらた
)
めてゼネラル
様
(
さま
)
の
様
(
やう
)
に
山伏
(
やまぶし
)
となり
法螺貝
(
ほらがひ
)
でも
吹
(
ふ
)
いて
廻
(
まは
)
らうぢやないか。
070
さうすれば
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
の
罪
(
つみ
)
が
滅
(
ほろ
)
びて
極楽参
(
ごくらくまゐ
)
りが
出来
(
でき
)
るかも
知
(
し
)
れないよ』
071
ベル『エー、
072
しようもない、
073
そんな
弱音
(
よわね
)
を
吹
(
ふ
)
きやがる
奴
(
やつ
)
は
此
(
この
)
谷川
(
たにがは
)
へでも
身
(
み
)
を
投
(
な
)
げて
斃
(
くたば
)
つたが
宜
(
よ
)
からう。
074
俺
(
おれ
)
は
益々
(
ますます
)
これから
泥坊学
(
どろばうがく
)
の
研究
(
けんきう
)
をして
天下
(
てんか
)
の
財宝
(
ざいほう
)
を
自由
(
じいう
)
自在
(
じざい
)
に
致
(
いた
)
す
積
(
つも
)
りだ』
075
丙
(
へい
)
(シャル)
『
然
(
しか
)
し、
076
何
(
なん
)
だか
妙
(
めう
)
な
音
(
おと
)
がしたぢやないか。
077
まさか
投身
(
みなげ
)
ではあるまいな』
078
ベル『うん、
079
どうやら
投身
(
みなげ
)
らしい。
080
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
死
(
し
)
にたい
奴
(
やつ
)
は
勝手
(
かつて
)
に
死
(
し
)
んだら
宜
(
よ
)
いのだ。
081
俺
(
おれ
)
等
(
たち
)
はどこ
迄
(
まで
)
も
生
(
せい
)
の
執着
(
しふちやく
)
が
強
(
つよ
)
いのだから
千
(
せん
)
年
(
ねん
)
も
万
(
まん
)
年
(
ねん
)
も
生通
(
いきとほ
)
すつもりだよ』
082
丙
(
へい
)
(シャル)
『
投身
(
みなげ
)
と
聞
(
き
)
けば、
083
こりや
斯
(
か
)
うしては
居
(
を
)
られぬ。
084
何
(
なん
)
とかして
助
(
たす
)
けねばなるまいぞ。
085
なあヘル』
086
ヘル『うん、
087
さうだ。
088
シャルの
云
(
い
)
ふ
通
(
とほ
)
り
之
(
これ
)
から
真裸
(
まつぱだか
)
になり
谷川
(
たにがは
)
へ
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
んで
救
(
すく
)
うてやらうかい。
089
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
してゐると
何程
(
なにほど
)
流
(
なが
)
れの
遅
(
おそ
)
い
淵
(
ふち
)
でも
死骸
(
しがい
)
がなくなるかも
知
(
し
)
れないよ』
090
シャルは『おう、
091
さうだ』と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
衣類
(
いるゐ
)
を
脱
(
ぬ
)
ぎ
棄
(
す
)
てザンブとばかり
暗
(
やみ
)
の
淵
(
ふち
)
目蒐
(
めが
)
けて
跳
(
と
)
び
込
(
こ
)
んだ。
092
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
んだ
途端
(
とたん
)
に
自分
(
じぶん
)
の
足
(
あし
)
に
力
(
ちから
)
限
(
かぎ
)
りに
喰
(
くら
)
ひついたものがある。
093
シャルは
驚
(
おどろ
)
いて
声
(
こゑ
)
を
限
(
かぎ
)
りに『
助
(
たす
)
けて
呉
(
く
)
れえ
助
(
たす
)
けて
呉
(
く
)
れえ』と
叫
(
さけ
)
ぶ。
094
ヘルは
又
(
また
)
もやザンブと
跳
(
と
)
び
込
(
こ
)
んだ。
095
見
(
み
)
れば
二人
(
ふたり
)
の
男女
(
だんぢよ
)
が
淵
(
ふち
)
に
浮
(
う
)
きつ
沈
(
しづ
)
みつ
掴
(
つか
)
み
合
(
あ
)
つてゐる。
096
ヘルは
暗
(
くら
)
がりに
髪
(
かみ
)
の
毛
(
け
)
を
掴
(
つか
)
んで
浅瀬
(
あさせ
)
に
引張
(
ひつぱ
)
り
上
(
あ
)
げた。
097
二人
(
ふたり
)
とも
多量
(
たりやう
)
に
水
(
みづ
)
を
呑
(
の
)
んで
殆
(
ほとん
)
ど
息
(
いき
)
が
絶
(
た
)
へてゐた。
098
ヘルは
声
(
こゑ
)
を
限
(
かぎ
)
りに、
099
ヘル『おい、
100
ベル、
101
大変
(
たいへん
)
だ。
102
シャル
迄
(
まで
)
が
死
(
し
)
によつた
様
(
やう
)
だ。
103
早
(
はや
)
く
来
(
き
)
て
手伝
(
てつだ
)
つて
水
(
みづ
)
を
吐
(
は
)
かして
呉
(
く
)
れ』
104
ベルは
泰然
(
たいぜん
)
として
上
(
うへ
)
の
方
(
はう
)
から、
105
ベル『おい、
106
ヘルの
奴
(
やつ
)
、
107
シャルはもう
死
(
し
)
んだか。
108
死
(
し
)
ぬ
事
(
こと
)
の
好
(
す
)
きな
奴
(
やつ
)
は
放
(
ほ
)
つといたら
宜
(
よ
)
いぢやないか。
109
そして、
110
も
一人
(
ひとり
)
の
奴
(
やつ
)
は
男
(
をとこ
)
か
女
(
をんな
)
か、
111
どちらか。
112
女
(
をんな
)
なら
助
(
たす
)
けても
宜
(
よ
)
いがな』
113
ヘルは、
114
ヘル『エー、
115
薄情
(
はくじやう
)
な
奴
(
やつ
)
め』
116
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
舞
(
ま
)
ひ
細砂
(
ごみ
)
の
上
(
うへ
)
に
二人
(
ふたり
)
を
引張
(
ひつぱ
)
り
上
(
あ
)
げ
色々
(
いろいろ
)
と
介抱
(
かいほう
)
をして
水
(
みづ
)
を
吐
(
は
)
かせた。
117
二人
(
ふたり
)
は
漸
(
やうや
)
くにして
息
(
いき
)
吹
(
ふ
)
き
返
(
かへ
)
した。
118
ヘル『おい、
119
シャル、
120
危
(
あぶ
)
ない
事
(
こと
)
だつたのう。
121
まア
気
(
き
)
がついて
何
(
なに
)
よりだ。
122
然
(
しか
)
し
何処
(
どこ
)
のお
女中
(
ぢよちう
)
か
知
(
し
)
らぬが、
123
ようまア
甦生
(
いきかへ
)
つて
下
(
くだ
)
さつた。
124
これで
吾々
(
われわれ
)
の
懸命
(
いのちがけ
)
の
働
(
はたら
)
きも
無駄
(
むだ
)
にはならない。
125
ああ
嬉
(
うれ
)
しや、
126
大自在天
(
だいじざいてん
)
様
(
さま
)
』
127
と
合掌
(
がつしやう
)
する。
128
ベルは
上
(
うへ
)
の
方
(
はう
)
からスパスパと
煙草
(
たばこ
)
を
吸
(
す
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
129
ベル『おい、
130
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
娑婆
(
しやば
)
亡者
(
まうじや
)
、
131
死損
(
しにぞこな
)
ひ
奴
(
め
)
、
132
何
(
なに
)
をグヅグヅしてゐるのだ。
133
いい
加減
(
かげん
)
に
上
(
のぼ
)
つて
来
(
こ
)
ぬかい』
134
ヘル『おい、
135
ベルの
奴
(
やつ
)
、
136
斯
(
か
)
う
暗
(
くら
)
くては
仕方
(
しかた
)
がない。
137
貴様
(
きさま
)
、
138
そこらで
一
(
ひと
)
つ
火
(
び
)
を
焚
(
た
)
いて
灯明
(
あかり
)
をつけて
呉
(
く
)
れないか。
139
上
(
あが
)
り
道
(
みち
)
が
分
(
わか
)
らぬからのう』
140
ベル『
八釜
(
やかま
)
しう
云
(
い
)
ふない。
141
泥坊
(
どろばう
)
に
火
(
ひ
)
は
禁物
(
きんもつ
)
だ。
142
幸
(
さいは
)
ひ
夏
(
なつ
)
の
事
(
こと
)
でもあり
寒
(
さむ
)
くもあるまいから、
143
夜
(
よ
)
が
明
(
あ
)
ける
迄
(
まで
)
、
144
そこへ
伏艇
(
ふくてい
)
してゐるがよからう。
145
水雷艇
(
すいらいてい
)
も
一隻
(
いつせき
)
あるさうだし、
146
都合
(
つがふ
)
が
好
(
い
)
いわ。
147
深
(
ふか
)
く
陥
(
はま
)
つた
恋
(
こひ
)
の
淵
(
ふち
)
、
148
何
(
なん
)
でも
馬鹿
(
ばか
)
な
女
(
をんな
)
が
居
(
を
)
つて
腐
(
くさ
)
れ
男
(
をとこ
)
に
心中立
(
しんぢうだて
)
をして
死
(
し
)
んだのだらう。
149
そんな
奴
(
やつ
)
を
助
(
たす
)
けに
行
(
ゆ
)
く
奴
(
やつ
)
が
何処
(
どこ
)
にあるかい。
150
余程
(
よつぽど
)
お
目出度
(
めでた
)
い
奴
(
やつ
)
だな。
151
アハハハハハ』
152
ヘル、
153
シャルの
二人
(
ふたり
)
はベルの
友情
(
いうじやう
)
を
知
(
し
)
らぬ
冷酷
(
れいこく
)
な
態度
(
たいど
)
に
憤慨
(
ふんがい
)
し
乍
(
なが
)
ら、
154
漸
(
やうや
)
くケリナ
姫
(
ひめ
)
を
助
(
たす
)
けて、
155
壁立
(
かべた
)
つ
様
(
やう
)
な
岩
(
いは
)
を
伝
(
つた
)
ふて
上
(
のぼ
)
つて
来
(
き
)
た。
156
ベルは
女
(
をんな
)
と
聞
(
き
)
くよりその
美醜
(
びしう
)
を
試
(
ため
)
さむと
枯芝
(
かれしば
)
を
集
(
あつ
)
めてパツと
火
(
ひ
)
を
焚
(
た
)
いた。
157
よくよく
見
(
み
)
れば
女
(
をんな
)
は
色
(
いろ
)
飽
(
あ
)
く
迄
(
まで
)
白
(
しろ
)
く、
158
気品
(
きひん
)
高
(
たか
)
き
妙齢
(
めうれい
)
の
美人
(
びじん
)
であるにも
拘
(
かかは
)
らず、
159
その
着衣
(
ちやくい
)
は
実
(
じつ
)
に
見窄
(
みすぼ
)
らしき
弊衣
(
へいい
)
であつた。
160
ベル『やア、
161
これはこれは
何処
(
どこ
)
のお
女中
(
ぢよちう
)
か
知
(
し
)
りませぬが、
162
随分
(
ずいぶん
)
綺麗
(
きれい
)
なお
方
(
かた
)
、
163
襤褸
(
ぼろ
)
に
黄金
(
こがね
)
の
玉
(
たま
)
を
包
(
つつ
)
んだ
様
(
やう
)
な
貴女
(
あなた
)
の
様子
(
やうす
)
、
164
さぞ
斯様
(
かやう
)
な
処
(
ところ
)
へ
投身
(
みなげ
)
をなさるに
就
(
つ
)
いては
何
(
なに
)
か
深
(
ふか
)
い
理由
(
わけ
)
があるでせう。
165
何
(
なに
)
は
兎
(
と
)
もあれ、
166
お
助
(
たす
)
け
申
(
まを
)
さねばなるまいと
存
(
ぞん
)
じ、
167
家来
(
けらい
)
のヘル、
168
シャルをして
助
(
たす
)
けにやりました。
169
さア
逐一
(
ちくいち
)
事情
(
じじやう
)
をお
話
(
はなし
)
なさいませ』
170
シャル『ヘン、
171
うまい
事
(
こと
)
仰有
(
おつしや
)
るわい。
172
俺
(
おれ
)
等
(
たち
)
が
助
(
たす
)
けてやらうかと
云
(
い
)
つた
時
(
とき
)
、
173
死
(
し
)
に
度
(
た
)
い
奴
(
やつ
)
は
勝手
(
かつて
)
に
死
(
し
)
なしたら
宜
(
よ
)
いと
吐
(
ぬか
)
したでないか。
174
のうヘル、
175
此
(
この
)
ナイスの
顔
(
かほ
)
を
見
(
み
)
て、
176
直
(
す
)
ぐアンナ
事
(
こと
)
吐
(
ぬか
)
すのだから
呆
(
あき
)
れてものが
云
(
い
)
へぬぢやないか』
177
ヘル『うん、
178
さうだ。
179
仕方
(
しかた
)
のない
奴
(
やつ
)
だ。
180
もしもしお
女中
(
ぢよちう
)
さま、
181
お
前
(
まへ
)
を
助
(
たす
)
け
様
(
やう
)
と
発企
(
ほつき
)
したのは
此
(
この
)
ヘルで
厶
(
ござ
)
ります。
182
それで
私
(
わたし
)
の
家来
(
けらい
)
のシャルが
第一着
(
だいいちちやく
)
に
跳
(
と
)
び
込
(
こ
)
み、
183
お
前
(
まへ
)
に
水中
(
すいちう
)
に
取
(
と
)
つ
捉
(
つか
)
まつて
苦
(
くる
)
しんでる
処
(
ところ
)
を
私
(
わたし
)
が
跳
(
と
)
び
込
(
こ
)
みお
二人
(
ふたり
)
とも
命
(
いのち
)
を
助
(
たす
)
けたのですよ。
184
此
(
この
)
ヘルが
居
(
を
)
らなかつたならば、
185
お
前
(
まへ
)
もシャルも
既
(
すで
)
に
冥途
(
めいど
)
の
旅立
(
たびだち
)
をして
居
(
を
)
つたのですからな』
186
ケリナ『はい、
187
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います。
188
ツヒ
女
(
をんな
)
の
小
(
ちひ
)
さい
心
(
こころ
)
からヒステリツクを
起
(
おこ
)
し、
189
一層
(
いつそう
)
斯
(
こ
)
んな
憂世
(
うきよ
)
に
居
(
ゐ
)
るよりも
極楽参
(
ごくらくまゐ
)
りをしたが
得
(
まし
)
だと、
190
無分別
(
むふんべつ
)
を
出
(
だ
)
して
跳
(
と
)
び
込
(
こ
)
んで
見
(
み
)
ましたものの
余
(
あんま
)
り
苦
(
くる
)
しいのと、
191
俄
(
にはか
)
に
娑婆
(
しやば
)
が
恋
(
こひ
)
しくなつたので
如何
(
どう
)
しようかと
藻掻
(
もが
)
いて
居
(
ゐ
)
ます
矢先
(
やさき
)
、
192
貴方
(
あなた
)
等
(
がた
)
が
現
(
あら
)
はれてお
助
(
たす
)
け
下
(
くだ
)
さいましたのは
本当
(
ほんたう
)
に
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のやうに
存
(
ぞん
)
じます。
193
ようまアお
助
(
たす
)
け
下
(
くだ
)
さいました』
194
ヘル『エヘヘヘヘおい、
195
ベル、
196
どうだ。
197
もう
貴様
(
きさま
)
の
野心
(
やしん
)
は
駄目
(
だめ
)
だぞ。
198
二人
(
ふたり
)
も
証拠人
(
しようこにん
)
が
居
(
ゐ
)
るのだからな。
199
もしもしお
女中
(
ぢよちう
)
さま、
200
此奴
(
こいつ
)
ア
大悪人
(
だいあくにん
)
の
大泥棒
(
おほどろばう
)
ですよ。
201
バラモン
教
(
けう
)
の
鬼春別
(
おにはるわけ
)
将軍
(
しやうぐん
)
様
(
さま
)
でさへも
脅
(
おど
)
かして
懐
(
ふところ
)
のお
金
(
かね
)
を
奪
(
うば
)
ひとると
云
(
い
)
ふ
悪人
(
あくにん
)
ですからな』
202
ベル『アハハハハ
俺
(
おれ
)
が
泥棒
(
どろばう
)
なら
貴様
(
きさま
)
もヤツパリ
泥棒
(
どろばう
)
ぢやないか。
203
これこれお
女中
(
ぢよちう
)
、
204
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
は
吾々
(
われわれ
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
皆
(
みんな
)
バラモン
教
(
けう
)
の
軍人
(
ぐんじん
)
であつたが、
205
鬼春別
(
おにはるわけ
)
将軍
(
しやうぐん
)
様
(
さま
)
が
猪倉山
(
ゐのくらやま
)
の
山寨
(
さんさい
)
で
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
に
言向和
(
ことむけやは
)
され
修験者
(
しうげんじや
)
になり
軍隊
(
ぐんたい
)
を
解散
(
かいさん
)
したものだから、
206
俺
(
おれ
)
等
(
たち
)
も
止
(
や
)
むを
得
(
え
)
ず
泥棒
(
どろばう
)
と
商売替
(
しやうばいが
)
へをしたのだ。
207
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
らお
前
(
まへ
)
は
心配
(
しんぱい
)
しなさるな。
208
泥棒
(
どろばう
)
は
決
(
けつ
)
して
人
(
ひと
)
の
生命
(
いのち
)
をとるのが
目的
(
もくてき
)
ぢやない、
209
宝
(
たから
)
を
横奪
(
わうだつ
)
するのが
目的
(
もくてき
)
だ。
210
お
前
(
まへ
)
から
宝
(
たから
)
を
盗
(
と
)
らうと
云
(
い
)
つた
所
(
ところ
)
で
何一
(
なにひと
)
つありやせない。
211
それだから
何
(
なに
)
も
請求
(
せいきう
)
しないわ。
212
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
只
(
ただ
)
一
(
ひと
)
つここに
請求
(
せいきう
)
がある。
213
それは
外
(
ほか
)
でもない。
214
お
前
(
まへ
)
が
今
(
いま
)
此処
(
ここ
)
で
死
(
し
)
んだと
思
(
おも
)
へば
如何
(
どん
)
な
諦
(
あきら
)
めもつく
筈
(
はず
)
だ。
215
どうだ
私
(
わし
)
の
妻
(
つま
)
に……
仮令
(
たとへ
)
三日
(
みつか
)
でもなつて
呉
(
く
)
れる
気
(
き
)
はないか』
216
ケリナ『ホホホホホ
好
(
す
)
かぬたらしい、
217
モーよう
言
(
い
)
わむワ。
218
何程
(
なにほど
)
命
(
いのち
)
が
惜
(
をし
)
うないと
云
(
い
)
つてもお
前
(
まへ
)
のやうな
鬼面
(
おにづら
)
の
泥棒
(
どろばう
)
に
身
(
み
)
を
任
(
まか
)
す
位
(
くらゐ
)
なら
潔
(
いさぎよ
)
く
淵
(
ふち
)
へ
身
(
み
)
を
投
(
な
)
げて
死
(
し
)
にますわいな。
219
妾
(
わたし
)
の
身
(
み
)
を
任
(
まか
)
す
男
(
をとこ
)
は
世界
(
せかい
)
に
只一人
(
たつたひとり
)
よりありませぬわ。
220
お
生憎
(
あいにく
)
様
(
さま
)
』
221
ベル『こりや
女
(
をんな
)
、
222
命
(
いのち
)
を
助
(
たす
)
けて
貰
(
もら
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
愛想
(
あいそ
)
づかしを
申
(
まを
)
すのか。
223
不都合
(
ふつがふ
)
千万
(
せんばん
)
な、
224
此
(
この
)
儘
(
まま
)
には
差許
(
さしゆる
)
さぬぞ』
225
ケリナ『あのまア
得手
(
えて
)
勝手
(
かつて
)
な
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
りますわいのう。
226
妾
(
わたし
)
はお
前
(
まへ
)
に
助
(
たす
)
けて
貰
(
もら
)
つたのぢやない。
227
此
(
この
)
お
二人
(
ふたり
)
の
方
(
かた
)
に
救
(
すく
)
つて
貰
(
もら
)
つたのだから
大
(
おほ
)
きに
憚
(
はばか
)
りさま。
228
ねえお
二人
(
ふたり
)
さま、
229
さうでせう。
230
生命
(
いのち
)
を
的
(
まと
)
に
助
(
たす
)
けて
下
(
くだ
)
さつたのだから、
231
これには
何
(
なに
)
かの
深
(
ふか
)
い
因縁
(
いんねん
)
がなくては
叶
(
かな
)
ひませぬわ』
232
ヘル『エヘヘヘヘおい、
233
ベルの
大将
(
たいしやう
)
、
234
如何
(
どう
)
だい。
235
世界
(
せかい
)
に
一人
(
ひとり
)
より
身
(
み
)
を
任
(
まか
)
すものはないと
此
(
この
)
ナイスが
云
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
たのを
聞
(
き
)
いてるかい。
236
貴様
(
きさま
)
を
除
(
のぞ
)
けばシャルと
俺
(
おれ
)
と
二人
(
ふたり
)
だ。
237
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
二人
(
ふたり
)
乍
(
なが
)
ら
生命
(
いのち
)
を
助
(
たす
)
けたのは
此
(
この
)
ヘルだ。
238
のうシャル、
239
よもや
俺
(
おれ
)
の
御恩
(
ごおん
)
は
忘
(
わす
)
れはしよまいな』
240
シャル『うん、
241
そりや
忘
(
わす
)
れぬ。
242
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
此
(
この
)
ナイスを
助
(
たす
)
けようと
思
(
おも
)
ふ
心
(
こころ
)
は
俺
(
おれ
)
もお
前
(
まへ
)
も
同様
(
どうやう
)
だ。
243
さうだからお
前
(
まへ
)
と
俺
(
おれ
)
と
二人
(
ふたり
)
の
中
(
なか
)
から
此
(
この
)
ナイスに
選
(
えら
)
ましたら
宜
(
よ
)
いのだ。
244
それが
順当
(
じゆんたう
)
だと
思
(
おも
)
ふよ。
245
もし、
246
ケリナさまとやら、
247
貴女
(
あなた
)
のお
考
(
かんが
)
へは
如何
(
どう
)
ですかな』
248
ケリナ『ホホホホホ』
249
ベル『エー、
250
如何
(
どう
)
しても
俺
(
おれ
)
に
靡
(
なび
)
かぬと
吐
(
ぬか
)
しや
靡
(
なび
)
かいでも
宜
(
よ
)
い。
251
ま
一度
(
いちど
)
放
(
ほ
)
り
込
(
こ
)
んでやるからさう
思
(
おも
)
へ』
252
ケリナ『あのまあベルさまとやらの
空威張
(
からゐば
)
りの
可笑
(
をか
)
しさ。
253
そんな
事
(
こと
)
で
今日
(
こんにち
)
の
女
(
をんな
)
は
脅喝
(
けふかつ
)
され、
254
男
(
をとこ
)
に
盲従
(
まうじゆう
)
するやうな
馬鹿
(
ばか
)
はありませぬぞや。
255
貴方
(
あなた
)
が
放
(
ほ
)
り
込
(
こ
)
んでやると
仰有
(
おつしや
)
るなら
美事
(
みごと
)
、
256
放
(
ほ
)
り
込
(
こ
)
んで
見
(
み
)
なさい』
257
ベル『よし、
258
御
(
ご
)
注文
(
ちうもん
)
とあれば、
259
何奴
(
どいつ
)
も
此奴
(
こいつ
)
も
皆
(
みな
)
放
(
ほ
)
り
込
(
こ
)
んでやらう。
260
さてもさても
憐
(
いぢ
)
らしいものだな。
261
ここに
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
土左
(
どざ
)
はんが
出来
(
でき
)
るかと
思
(
おも
)
へば
聊
(
いささ
)
か
同情
(
どうじやう
)
の
涙
(
なみだ
)
に
暮
(
く
)
れぬ
事
(
こと
)
もないわい、
262
イツヒヒヒヒヒヒ』
263
ヘル『さアさア ケリナさま、
264
こんな
奴
(
やつ
)
を
相手
(
あひて
)
にせず
何処
(
どこ
)
かへ
参
(
まゐ
)
りませう。
265
そして
互
(
たがひ
)
に
身
(
み
)
の
打明
(
うちあ
)
け
話
(
ばなし
)
をしようぢやありませぬか。
266
おいシャル、
267
貴様
(
きさま
)
はベル
大将
(
たいしやう
)
のお
伴
(
とも
)
を
忠実
(
ちうじつ
)
にやつたら
宜
(
よ
)
からうぞ』
268
シャル『
俺
(
おれ
)
だつて
何時
(
いつ
)
迄
(
まで
)
も
泥坊
(
どろばう
)
の
乾児
(
こぶん
)
は
御免
(
ごめん
)
蒙
(
かうむ
)
りたい。
269
ゼネラルさまの
訓戒
(
くんかい
)
を
思
(
おも
)
ひ
出
(
だ
)
せば
到底
(
たうてい
)
泥坊
(
どろばう
)
なんて、
270
恐
(
おそ
)
ろしくて
出来
(
でき
)
るものぢやないからな』
271
ヘル『そんなら、
272
シャル、
273
若夫婦
(
わかふうふ
)
のお
伴
(
とも
)
に
使
(
つか
)
つてやるから
跟
(
つ
)
いて
来
(
き
)
たら
宜
(
よ
)
からう。
274
その
代
(
かは
)
り、
275
ベルと
絶縁
(
ぜつえん
)
をするのだぞ』
276
ベルは
矢庭
(
やには
)
に
長剣
(
ちやうけん
)
を
引抜
(
ひきぬ
)
いてケリナ
姫
(
ひめ
)
に
斬
(
き
)
りつけた。
277
ヘル、
278
シャルの
両人
(
りやうにん
)
は
鞘
(
さや
)
の
儘
(
まま
)
ベルの
刀
(
かたな
)
を
受
(
う
)
け
止
(
と
)
め、
279
ケリナ
姫
(
ひめ
)
を
身
(
み
)
を
以
(
もつ
)
て
囲
(
かこ
)
ふて
居
(
ゐ
)
る。
280
此
(
この
)
間
(
あひだ
)
にケリナは
傍
(
かたはら
)
のパインの
木
(
き
)
に
猿
(
ましら
)
の
如
(
ごと
)
く
駆上
(
かけのぼ
)
つて
難
(
なん
)
を
避
(
さ
)
けた。
281
ここに
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
各
(
おのおの
)
長剣
(
ちやうけん
)
を
引抜
(
ひきぬ
)
き
闇
(
やみ
)
の
木
(
こ
)
の
間
(
ま
)
にケチヤン ケチヤンと
敵味方
(
てきみかた
)
の
区別
(
くべつ
)
もなく
刃
(
は
)
を
合
(
あは
)
せてゐる。
282
その
度
(
たび
)
毎
(
ごと
)
にピカピカと
星
(
ほし
)
の
様
(
やう
)
な
火花
(
ひばな
)
が
出
(
で
)
る。
283
カチン カチンと
刃
(
やいば
)
の
擦
(
す
)
れ
合
(
あ
)
ふ
音
(
おと
)
、
284
火花
(
ひばな
)
の
光
(
ひか
)
り、
285
吾
(
われ
)
を
忘
(
わす
)
れてケリナ
姫
(
ひめ
)
はパインの
上
(
うへ
)
から
眺
(
なが
)
めてゐる。
286
ベルは
剣
(
つるぎ
)
を
投
(
な
)
げ
棄
(
す
)
て、
287
ベル『おい、
288
ヘル、
289
シャルの
奴
(
やつ
)
、
290
到底
(
たうてい
)
此
(
この
)
闇
(
やみ
)
では
勝負
(
しようぶ
)
も
駄目
(
だめ
)
だ。
291
どうだ、
292
之
(
これ
)
から
組打
(
くみうち
)
をやらうかい』
293
『よーし
来
(
き
)
た』とヘル、
294
シャルの
二人
(
ふたり
)
は
刀
(
かたな
)
を
投
(
な
)
げ
棄
(
す
)
てた。
295
此処
(
ここ
)
に
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
腕力
(
わんりよく
)
に
任
(
まか
)
せてジタンバタンと
組合
(
くみあ
)
ふて
居
(
ゐ
)
る。
296
遂
(
つひ
)
には
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
になつて
三
(
さん
)
人
(
にん
)
組
(
く
)
んだまま
谷底
(
たにそこ
)
の
青淵
(
あをぶち
)
へドブンと
水音
(
みなおと
)
を
立
(
た
)
てて
落
(
お
)
ち
込
(
こ
)
んで
了
(
しま
)
つた。
297
パインの
上
(
うへ
)
から
見
(
み
)
てゐたケリナ
姫
(
ひめ
)
は
自分
(
じぶん
)
の
恩人
(
おんじん
)
が
陥
(
はま
)
つたのを
見
(
み
)
るより『
助
(
たす
)
けにやならぬ』と
矢庭
(
やには
)
に
木
(
き
)
を
滑
(
すべ
)
り
下
(
お
)
り、
298
又
(
また
)
もや
青淵
(
あをぶち
)
目蒐
(
めが
)
けてドブンと
跳
(
と
)
び
込
(
こ
)
んで
了
(
しま
)
つた。
299
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
果
(
はた
)
して
如何
(
いか
)
なる
運命
(
うんめい
)
に
見舞
(
みま
)
はるるであらうか。
300
(
大正一二・三・一四
旧一・二七
於竜宮館二階
北村隆光
録)
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