霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一九章 痴漢(ちかん)〔一四四九〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第56巻 真善美愛 未の巻 篇:第4篇 三五開道 よみ(新仮名遣い):あなないかいどう
章:第19章 痴漢 よみ(新仮名遣い):ちかん 通し章番号:1449
口述日:1923(大正12)年03月17日(旧02月1日) 口述場所:竜宮館 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年5月3日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
小国姫は如意宝珠の玉を持ってオールスチン、ワックス、三千彦と共に玉発見の報告に小国別の病床を訪れた。三千彦は病人に、娘たちがもうすぐ帰還することを予言した。
オールスチンと看護人に病床を任せ、小国姫、三千彦、ワックスは居間に戻ってきた。三千彦はワックスに改心を促し、小国姫も反省を迫ったが、ワックスはかえって、自分は玉の紛失にはかかわっておらず、発見者である自分こそデビス姫と結婚する権利があると強弁を始めた。
三千彦は怒って、ワックスがそういう心づもりであれば赦すことはできないと言い渡した。ワックスは自棄になって一目散に逃げ出した。小国姫は僕のエルに追跡を命じた。しかしエルは牛の尻にぶつかって人事不省になってしまった。
慌て者のエルは、小国別はすでに亡くなり、跡継ぎは家令の息子ワックスに決まったと根拠のないことを語りだした。城下の人々はこれを伝え聞いて、小国別お訃報に悲しみ、また跡継ぎの婚礼を祝い、辻辻に幟を立ててはやしまわった。
町はずれの方から宣伝歌の声が涼しく聞こえてきた。これは求道居士がデビス姫、ケリナ姫を連れて帰ってきたのであった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2024-07-17 12:36:42 文字数:4382 OBC :rm5619
愛善世界社版:267頁 八幡書店版:第10輯 245頁 修補版: 校定版:282頁 普及版:128頁 初版: ページ備考:
001 館(やかた)の主人(あるじ)、002小国別(をくにわけ)はソフアーの上(うへ)に横(よこた)はり息(いき)も絶(た)え絶(だ)えに苦(くる)しんでゐる。003二人(ふたり)の看護手(かんごしゆ)は寝食(しんしよく)を忘(わす)れて介抱(かいはう)に余念(よねん)なかつた。004小国姫(をくにひめ)はオールスチン、005三千彦(みちひこ)、006ワツクスを伴(ともな)ひ入(い)り来(きた)り、
007姫(ひめ)『旦那(だんな)様(さま)、008喜(よろこ)んで下(くだ)さいませ。009三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)三千彦(みちひこ)様(さま)のお蔭(かげ)によりまして如意(によい)宝珠(ほつしゆ)の神宝(しんぱう)が帰(かへ)りまして厶(ござ)います。010之(これ)を御覧(ごらん)なさいませ』
011と包(つつ)みを解(と)いて目(め)の前(まへ)につきつけた。012小国別(をくにわけ)は病(や)み疲(つか)れ、013衰(おとろ)へたる目(め)の光(ひか)りに玉(たま)を眺(なが)めてニヤリと笑(わら)ひ双手(もろて)を合(あは)せて感涙(かんるゐ)に咽(むせ)んでゐる。014そして只(ただ)「有難(ありがた)う」と一言(ひとくち)云(い)つたきり後(あと)の語(ご)を次(つ)ぐ事(こと)は出来(でき)なかつた。015これは衰弱(すゐじやく)の甚(はなは)だしき上(うへ)に、016余(あま)りの喜(よろこ)びに打(う)たれたからである。017三千彦(みちひこ)は病人(びやうにん)の側(そば)近(ちか)く寄(よ)り、
018三千(みち)『この通(とほ)り御(ご)神宝(しんぱう)が帰(かへ)りました上(うへ)は、019又(また)もや神(かみ)様(さま)の御恵(みめぐみ)によりまして、020屹度(きつと)ケリナ姫(ひめ)様(さま)も近(ちか)い中(うち)にお帰(かへ)りになるでせう。021御(ご)安心(あんしん)なさいませ』
022と詞(ことば)優(やさ)しく慰(なぐさ)むれば小国別(をくにわけ)は掌(て)を合(あは)せ、023娘(むすめ)の近(ちか)い中(うち)に帰(かへ)ると云(い)ふ証言(しようげん)を聞(き)くより、024稍(やや)元気(げんき)づき、
025小国(をくに)『娘(むすめ)が帰(かへ)りますか。026それは有難(ありがた)う厶(ござ)います。027到底(たうてい)私(わたし)は今度(こんど)は、028もう旅立(たびだち)をせなくてはなりませぬ。029せめてそれ迄(まで)に紛失(ふんしつ)した如意(によい)宝珠(ほつしゆ)を、030もとに還(かへ)し、031娘(むすめ)の顔(かほ)を生前(せいぜん)に一目(ひとめ)なりと見(み)て此(この)世(よ)を去(さ)り度(た)いと思(おも)うて居(を)りましたが、032斯(か)う弱(よわ)りきつては、033もう三日(みつか)も命(いのち)が続(つづ)きますまい。034成(な)る事(こと)ならば一時(ひととき)も早(はや)う引寄(ひきよ)せて頂(いただ)き度(た)う厶(ござ)います』
035三千(みち)『もう間(ま)もなくお帰(かへ)りになりませう。036私(わたし)の耳(みみ)の側(そば)で神(かみ)様(さま)がさう仰(おほ)せになりました。037併(しか)し乍(なが)ら御(ご)病気(びやうき)に障(さは)るとなりませぬから、038吾々(われわれ)は控(ひか)へさして頂(いただ)きませう』
039小国(をくに)『何卒(どうぞ)御(ご)自由(じいう)にお休(やす)み下(くだ)さいませ』
040と微(かすか)の声(こゑ)で挨拶(あいさつ)する。041家令(かれい)のオールスチンは病人(びやうにん)の側(そば)近(ちか)くより、
042オールス『旦那(だんな)様(さま)、043何卒(どうぞ)気(き)を確(しつか)りして下(くだ)さいませ。044そして如意(によい)宝珠(ほつしゆ)の玉(たま)を盗(ぬす)んで匿(かく)して居(を)つたのは私(わたくし)の悴(せがれ)ワツクスで厶(ござ)りました。045誠(まこと)に偉(えら)い御(ご)心配(しんぱい)をかけまして申訳(まをしわけ)が厶(ござ)いませぬ。046此(この)皺腹(しわばら)を切(き)つて申訳(まをしわけ)を致(いた)さむと覚悟(かくご)を定(き)めた所(ところ)を奥様(おくさま)に止(とど)められ、047惜(をし)からぬ命(いのち)を少時(しばし)延(の)ばしましたが、048何卒(どうぞ)貴方(あなた)が命数(めいすう)尽(つ)きてお国替(くにがへ)遊(あそ)ばすやうの事(こと)あれば屹度(きつと)私(わたくし)もお伴(とも)致(いた)します。049何卒(どうぞ)何処(どこ)迄(まで)も主従(しゆじゆう)の縁(えん)を断(き)らぬやうにして下(くだ)さいませ』
050 小国別(をくにわけ)は微(かすか)に首肯(うなづ)いた。051三千彦(みちひこ)はワツクスの手(て)を曳(ひ)いて自分(じぶん)の居間(ゐま)へと帰(かへ)つて行(ゆ)く。052二人(ふたり)の看護人(かんごにん)とオールスチンに小国別(をくにわけ)の介抱(かいはう)を頼(たの)み置(お)き、053小国姫(をくにひめ)は又(また)もや三千彦(みちひこ)の居間(ゐま)に来(きた)り心配(しんぱい)さうな顔(かほ)をして、
054姫(ひめ)『三千彦(みちひこ)様(さま)、055誠(まこと)に御(ご)心配(しんぱい)許(ばか)りかけまして申訳(まをしわけ)が厶(ござ)いませぬが、056主人(しゆじん)は到底(たうてい)あきますまいかな』
057三千(みち)『お気(き)の毒(どく)乍(なが)ら到底(たうてい)駄目(だめ)で厶(ござ)いませう。058併(しか)し乍(なが)ら仮令(たとへ)肉体(にくたい)はなくなつても精霊(せいれい)は活々(いきいき)として若(わか)やぎ、059霊界(れいかい)に於(おい)て神(かみ)様(さま)の為(ため)に大活動(だいくわつどう)を成(な)されますから、060御(ご)心配(しんぱい)なさいますな。061人(ひと)は諦(あきら)めが肝腎(かんじん)で厶(ござ)いますからな』
062姫(ひめ)『ハイ、063有難(ありがた)う厶(ござ)います。064最早(もはや)覚悟(かくご)は致(いた)して居(を)ります。065然(しか)し乍(なが)ら、066も一(ひと)つ心配(しんぱい)な事(こと)が厶(ござ)いますが一寸(ちよつと)伺(うかが)つて貰(もら)ふ訳(わけ)には行(ゆ)きませぬか』
067三千(みち)『何事(なにごと)か存(ぞん)じませぬが一寸(ちよつと)云(い)つて御覧(ごらん)なさいませ』
068姫(ひめ)『実(じつ)の所(ところ)は私(わたし)の娘(むすめ)デビス姫(ひめ)と申(まを)すのが、069今日(けふ)で三七(さんしち)二十一(にじふいち)日(にち)の間(あひだ)、070昼(ひる)さへ人(ひと)のよう行(ゆ)かぬアンブラツクの滝(たき)へ、071玉(たま)の所在(ありか)を知(し)らして下(くだ)さるやう、072父(ちち)の病気(びやうき)が癒(なほ)るやう、073も一(ひと)つは妹(いもうと)の所在(ありか)が判(わか)るやうと、074繊弱(かよわ)き女(をんな)の身(み)を以(もつ)て毎晩(まいばん)二(に)里(り)の道(みち)を往復(わうふく)致(いた)し、075何時(いつ)も夜明(よあ)け方(がた)に帰(かへ)つて参(まゐ)りますが、076今日(けふ)は如何(どう)したものかまだ帰(かへ)つて参(まゐ)りませぬ。077大方(おほかた)滝壺(たきつぼ)に落(お)ちて命(いのち)を捨(す)てたのでは厶(ござ)いますまいか。078但(ただ)しは猛獣(まうじう)に殺(ころ)されたのではありますまいか。079俄(にはか)に胸騒(むなさわ)ぎがして気(き)が気(き)ぢやありませぬ』
080三千(みち)『決(けつ)して御(ご)心配(しんぱい)なさいますな。081半時(はんとき)経(た)たない間(うち)に御(ご)姉妹(きやうだい)打揃(うちそろ)ふて、082一人(ひとり)の修験者(しうげんじや)に送(おく)られて無事(ぶじ)に帰(かへ)られます。083間違(まちが)ひは厶(ござ)いませぬからな』
084姫(ひめ)『左様(さやう)で厶(ござ)いますかな。085娘(むすめ)二人(ふたり)が帰(かへ)つて呉(く)れたならば、086最早(もはや)心配事(しんぱいごと)は厶(ござ)いませぬ。087ああ南無(なむ)大慈(だいじ)大自在天(だいじざいてん)様(さま)、088何卒(なにとぞ)々々(なにとぞ)一(いち)時(じ)も早(はや)く娘(むすめ)二人(ふたり)の顔(かほ)を夫(をつと)の命(いのち)のある間(うち)に見(み)せて下(くだ)さいますやうお願(ねが)ひ致(いた)します』
089と涙(なみだ)を流(なが)して祈(いの)り入(い)る。
090三千(みち)『これ、091ワツクスさま、092お前(まへ)は大(だい)それた悪(わる)い事(こと)を成(な)さつたが、093これと云(い)ふのもお前(まへ)の副(ふく)守護神(しゆごじん)がやつたのだから、094茲(ここ)に神直日(かむなほひ)大直日(おほなほひ)に見直(みなほ)し聞直(ききなほ)して頂(いただ)き、095内分(ないぶん)で済(す)ます事(こと)になつてゐますから、096之(これ)から心得(こころえ)て貰(もら)はねばなりませぬぞ』
097ワツクス『ハイ、098有難(ありがた)う厶(ござ)ります。099誠(まこと)に申訳(まをしわけ)のない不調法(ぶてうはふ)を致(いた)しました。100今度(こんど)私(わたし)の罪(つみ)をお助(たす)け下(くだ)さいますならば、101無(な)い命(いのち)と心得(こころえ)て如何(いか)様(やう)なる働(はたら)きも致(いた)し、102屹度(きつと)御(ご)恩返(おんがへ)しを致(いた)します。103モシ奥様(おくさま)、104屹度(きつと)お赦(ゆる)し下(くだ)さいますか』
105姫(ひめ)『赦(ゆる)し難(がた)い罪人(ざいにん)なれど三千彦(みちひこ)様(さま)のお計(はか)らひにより内証(ないしやう)で済(す)ます事(こと)にして上(あ)げよう。106之(これ)からキツと心得(こころえ)たがよいぞや。107年寄(としよ)つた一人(ひとり)の親(おや)に心配(しんぱい)をかけ、108本当(ほんたう)にお前(まへ)は不孝(ふかう)な者(もの)だ。109親(おや)ばかりか、110吾々(われわれ)夫婦(ふうふ)や娘(むすめ)に迄(まで)も心配(しんぱい)苦労(くらう)をかけて困(こま)らしたのだから、111今後(こんご)は屹度(きつと)慎(つつし)んで貰(もら)はねばならぬぞや』
112ワツクス『ハイ、113有難(ありがた)う厶(ござ)います。114これから貴方(あなた)様(さま)を親様(おやさま)として真心(まごころ)を尽(つく)しお仕(つか)へ申(まを)します』
115姫(ひめ)『これ、116ワツクス、117お前(まへ)は親(おや)があるぢやないか、118妾(わし)を主人(しゆじん)として仕(つか)へるべきものだ。119親(おや)として仕(つか)へる等(など)とはチツと可笑(をか)しいぢやないか』
120ワツクス『義(ぎ)に於(おい)ては御(ご)主人(しゆじん)で厶(ござ)ります。121然(しか)し情(じやう)に於(おい)ては親様(おやさま)と存(ぞん)じてツヒ不都合(ふつがふ)な事(こと)を申(まを)しました。122然(しか)しお赦(ゆる)し下(くだ)さつた以上(いじやう)は私(わたくし)を子(こ)として下(くだ)さいませうな。123実(じつ)の所(ところ)はエキス、124ヘルマンの両人(りやうにん)が盗(ぬす)み出(だ)したので厶(ござ)いますが、125私(わたくし)が種々(いろいろ)と苦心(くしん)をして玉(たま)の所在(ありか)を白状(はくじやう)させ、126お家(いへ)の為(ため)に働(はたら)いたので厶(ござ)います。127二人(ふたり)の者(もの)を助(たす)けたさに私(わたくし)が盗(と)つたと父(ちち)に申(まを)しましたが、128その実(じつ)はヘルマン、129エキスの両人(りやうにん)が盗(ぬす)み出(だ)したので厶(ござ)います。130それをば父(ちち)に匿(かく)して金(かね)をやり、131酒(さけ)を飲(の)まして白状(はくじやう)させ、132ヤツとの事(こと)で如意(によい)宝珠(ほつしゆ)を手(て)に入(い)れたので厶(ござ)います。133貴女(あなた)はお忘(わす)れでも厶(ござ)いますまいが家中(かちう)一般(いつぱん)に如意(によい)宝珠(ほつしゆ)の玉(たま)の所在(ありか)を探(さが)し、134持(も)つて来(き)たものはデビス姫(ひめ)の養子(やうし)にすると仰有(おつしや)つたぢや厶(ござ)いませぬか、135さすれば仰(おほ)せの通(とほ)り私(わたくし)は御(ご)養子(やうし)にして頂(いただ)くべき資格(しかく)があらうと存(ぞん)じます』
136姫(ひめ)『そりや、137お前(まへ)の云(い)ふ通(とほ)り、138如意(によい)宝珠(ほつしゆ)の玉(たま)を探(さが)し、139持(も)つて来(き)たものは養子(やうし)にすると云(い)ふて置(お)いた。140然(しか)しお前(まへ)は親(おや)一人(ひとり)、141子(こ)一人(ひとり)、142家令(かれい)の家(いへ)を継(つ)がねばならぬ身(み)の上(うへ)だから、143それは出来(でき)ますまい。144先祖(せんぞ)の家(いへ)を忽(おろそ)かにする訳(わけ)には行(ゆ)くまいからな』
145ワツクス『いえ、146そんな心配(しんぱい)は要(い)りませぬ。147私(わたくし)が養子(やうし)になり、148デビスさまとの間(あひだ)に三(さん)人(にん)や五(ご)人(にん)は子(こ)が出来(でき)ませうから、149其(その)中(うち)の一人(ひとり)を頂(いただ)いて、150私(わたくし)の家(いへ)を継(つ)がせば宜(よろ)しいぢやありませぬか』
151姫(ひめ)『もし三千彦(みちひこ)様(さま)、152あんな事(こと)を申(まを)しますが如何(いかが)したら宜(よろ)しう厶(ござ)いませうかな』
153 三千彦(みちひこ)はワツクスの顔(かほ)をギユツと睨(にら)みつけ口(くち)をヘの字(じ)に結(むす)んでゐる。154ワツクスは怖(こは)相(さう)に少(すこ)しばかり声(こゑ)を慄(ふる)はし乍(なが)ら、
155ワツクス『モシ、156宣伝使(せんでんし)様(さま)、157何卒(どうぞ)私(わたくし)を約束通(やくそくどほ)り、158玉(たま)の発見人(はつけんにん)ですから養子(やうし)にして下(くだ)さるやう御(お)とり成(な)しを願(ねが)ひます』
159三千(みち)『これ、160ワツクス、161お前(まへ)は吾々(われわれ)を盲(めくら)にするのか、162否(いや)御(ご)夫婦(ふうふ)を騙(たばか)る積(つも)りか。163今(いま)云(い)つた言葉(ことば)は皆(みな)詐(いつは)りだらうがな。164お前(まへ)はお家(いへ)の重宝(ぢうほう)を匿(かく)し、165御(ご)夫婦(ふうふ)を困(こま)らし、166往生(わうじやう)づくめでデビス姫(ひめ)様(さま)の夫(をつと)にならうとの計略(けいりやく)をやつたのであらう。167そんな事(こと)に誤魔化(ごまくわ)される三千彦(みちひこ)ぢやありませぬぞ』
168ワツクス『メメメ滅相(めつさう)な。169さう誤解(ごかい)をされては困(こま)ります。170あれ丈(だけ)苦心(くしん)してお家(いへ)の為(た)めになる宝(たから)を手(て)に入(い)れた此(この)忠臣(ちうしん)を、171悪人扱(あくにんあつか)ひにされては根(ね)つから勘定(かんぢやう)が合(あ)ひませぬ。172何卒(どうぞ)も一度(いちど)お考(かんが)へ直(なほ)しを願(ねが)ひます』
173三千(みち)『お黙(だま)りなさい。174左様(さやう)の事(こと)を仰有(おつしや)ると最早(もはや)容赦(ようしや)はしませぬぞ。175高手(たかて)小手(こて)に縛(いまし)め唐丸籠(たうまるかご)に乗(の)せてハルナの都(みやこ)へ送(おく)り届(とど)けませうか。176又(また)何程(なにほど)お前(まへ)がデビス姫(ひめ)様(さま)に恋慕(れんぼ)して居(を)つても、177肝腎(かんじん)の姫(ひめ)様(さま)がお嫌(きら)ひ遊(あそ)ばしたら如何(どう)する積(つも)りだ。178愛(あい)なき結婚(けつこん)でもお前(まへ)は快(こころよ)う思(おも)ふのか。179家令(かれい)の悴(せがれ)にも似(に)ず、180訳(わけ)の分(わか)らぬ事(こと)を仰有(おつしや)るぢやないか』
181ワツクス『吾々(われわれ)を威喝(ゐかつ)して二人(ふたり)の恋仲(こひなか)を遮(さへぎ)り後(あと)にヌツケリコとお前(まへ)さまが養子(やうし)に這入(はい)りこむ考(かんが)へだらう。182そんな事(こた)あチヤーンと此(こ)のワツクスは腹(はら)の底(そこ)まで読(よ)んで居(を)りますぞ』
183三千(みち)『これはしたり、184迷惑(めいわく)千万(せんばん)、185何(なん)と云(い)ふ失礼(しつれい)な事(こと)を仰(おほ)せられるか。186吾々(われわれ)は三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)、187大切(たいせつ)なるメツセージを受(う)けて或(ある)所(ところ)まで進(すす)まねばならぬ身(み)の上(うへ)、188女(をんな)を連(つ)れるなどとは思(おも)ひも寄(よ)らぬ事(こと)。189お前(まへ)の心(こころ)を以(もつ)て吾々(われわれ)の心(こころ)を測量(そくりやう)するとは些(ちつ)と失礼(しつれい)では厶(ござ)らぬか』
190ワツクス『宣伝使(せんでんし)と云(い)ふものは、191そんな事(こと)をよく云(い)ふものです。192口(くち)でこそ立派(りつぱ)に女嫌(をんなぎら)ひの様(やう)な事(こと)を云(い)つて居(ゐ)ますが蔭(かげ)に廻(まは)ると、193もとが人間(にんげん)ですから駄目(だめ)ですわい。194デビス姫(ひめ)様(さま)が欲(ほ)しけりや欲(ほ)しいとハツキリ云(い)ひなさい』
195姫(ひめ)『これ、196ワツクス、197何(なん)と云(い)ふ失礼(しつれい)な事(こと)を申(まを)すのだ。198玉盗人(たまぬすびと)はお前(まへ)に違(ちが)ひない。199現在(げんざい)お前(まへ)の親(おや)が証明(しようめい)して居(ゐ)るのぢやないか』
200 ワツクスは自棄糞(やけくそ)になり、201尻(しり)をクレツと捲(まく)つて此(この)場(ば)を後(あと)に、202一目散(いちもくさん)に表門(おもてもん)を潜(くぐ)つて駆(か)け出(だ)した。203小国姫(をくにひめ)は手(て)を拍(う)つてエルを招(まね)きワツクスの後(あと)を追跡(つゐせき)せよと命(めい)じた。204狼狽者(あわてもの)のエルは皆(みな)まで聞(き)かず、205『ハイ、206承知(しようち)しました』と又(また)もや此処(ここ)を飛(と)び出(だ)し地響(ぢひび)きさせ乍(なが)らドンドンドンと門外(もんぐわい)へ駆(か)け出(だ)し、207道(みち)の鍵(かぎ)の手(て)になつた所(とこ)を、208頭(あたま)を先(さき)につき出(だ)し体(からだ)を横(よこ)にして走(はし)る途端(とたん)に、209あまり広(ひろ)くもない道端(みちばた)の柿(かき)の木(き)に大牛(おほうし)が繋(つな)いであつた。210其(その)牛(うし)の尻(しり)にドンと、211頭突(づつき)をかました。212牛(うし)は驚(おどろ)いてポンと蹴(け)つた拍子(ひやうし)にエルはウンと許(ばか)り倒(たふ)れた。213牛(うし)は二(ふた)つ三(み)つ尻(しり)を振(ふ)つて再(ふたた)びエルの睾丸(きんたま)の端(はし)をグツと踏(ふ)み、214力(ちから)を入(い)れてグーツと捻(ねぢ)た。215エルはキヤツキヤツと悲鳴(ひめい)を挙(あ)げてゐる。216通(とほ)りかかつた旅人(たびびと)や近所(きんじよ)の家(いへ)からドヤドヤと集(あつ)まつて来(き)てエルを助(たす)け、217傍(かたはら)の或(ある)家(いへ)に担(かつ)ぎ込(こ)み、218様子(やうす)を聞(き)けばエルは顔(かほ)を顰(しか)め乍(なが)ら、
219エル『皆(みな)さま、220如意(によい)宝珠(ほつしゆ)のお宝(たから)が手(て)に入(い)りました。221そして様子(やうす)を聞(き)けばワツクスが玉(たま)の所在(ありか)を探(さが)した御(ご)褒美(ほうび)に、222デビス姫(ひめ)さまの婿(むこ)になると云(い)ふ事(こと)ですよ。223それから小国別(をくにわけ)様(さま)は御(ご)危篤(きとく)で何時(なんどき)息(いき)を引(ひ)きとられるか分(わか)りませぬ。224大方(おほかた)今頃(いまごろ)は絶命(ことぎ)れたかも知(し)れませぬ、225大変(たいへん)で厶(ござ)います。226何(どうぞ)皆(みな)さま、227一時(いつとき)も早(はや)う各自(てんで)に町内(ちやうない)を触(ふ)れまはり城内(じやうない)に悔(くや)みに行(い)つて下(くだ)さい』
228とまだ死(し)んでも居(ゐ)ないのに、229手(て)まはしよく死(し)んだものと仮定(かてい)して吹聴(ふゐちやう)した。230之(これ)を聞(き)いた老若(らうにやく)男女(なんによ)は次(つぎ)から次(つぎ)へと、231尻(しり)はし折(を)り駄賃(だちん)とらずの郵便(ゆうびん)配達(はいたつ)となつて、
232(老若男女)『如意(によい)宝珠(ほつしゆ)の玉(たま)が手(て)に入(い)つた。233そして小国別(をくにわけ)が国替(くにが)へをなさつて、234ワツクスがデビス姫(ひめ)様(さま)の婿(むこ)にきまつた』
235と一軒(いつけん)も残(のこ)らず、236御(ご)丁寧(ていねい)に布令(ふれ)まはつた。
237 テルモン山(ざん)の麓(ふもと)の町(まち)は俄(にはか)にガヤガヤと騒(さわ)ぎ出(だ)し、238衣裳(いしやう)を着替(きか)へて館(やかた)へ悔(くや)みに行(ゆ)くもの引(ひ)きもきらず、239俄(にはか)に大騒動(おほさうどう)が起(おこ)つた様(やう)になつて来(き)た。240エルは睾丸(きんたま)の端(はし)を牛(うし)の爪(つめ)にむしりとられ、241益々(ますます)体中(からだぢう)に熱(ねつ)が高(たか)まつて『死(し)んだ死(し)んだ』と囈言(うさごと)ばかり囀(さへづ)つて居(ゐ)る。
242 俄(にはか)に小国別(をくにわけ)の訃(ふ)を聞(き)いて泣(な)く老若(らうにやく)男女(なんによ)もあれば、243馬鹿(ばか)息子(むすこ)のワツクスがデビス姫(ひめ)の婿(むこ)になるげなと驚(おどろ)いて触(ふ)れる奴(やつ)もあり、244如意(によい)宝珠(ほつしゆ)の玉(たま)が帰(かへ)つたと喜(よろこ)ぶものもあり、245テルモン山(ざん)の麓(ふもと)の宮町(みやまち)は此(この)噂(うはさ)で持(も)ちきりとなつた。246気(き)の早(はや)い男(をとこ)は早(はや)くも幟(のぼり)を立(た)て「神司(かむつかさ)小国別(をくにわけ)の御(ご)他界(たかい)を弔(とむら)ふ」とか、247「如意(によい)宝珠(ほつしゆ)再出現(さいしゆつげん)」とか、248「デビス姫(ひめ)ワツクスとの御(ご)結婚(けつこん)を祝(しゆく)す」とか云(い)ふ長(なが)い幟(のぼり)を立(た)てて、249ワツシヨ ワツシヨと辻々(つじつじ)を廻(まは)り初(はじ)めた。
250 かかる所(ところ)へ宣伝歌(せんでんか)の声(こゑ)涼(すず)しく町外(まちはづ)れの方(はう)から聞(きこ)えて来(き)た。251此(この)声(こゑ)は求道(きうだう)居士(こじ)がデビス姫(ひめ)、252ケリナ姫(ひめ)を助(たす)けて帰(かへ)り来(く)るにぞありける。
253(大正一二・三・一七 旧二・一 於竜宮館 北村隆光録)
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