石垣を築くに就て

　石垣を築くには其(その)土質及(および)高さ面積等を能(よ)く考慮して設計をせねばならぬ、昔の築城には其(その)基礎とも云ふべき石垣には金力と労力と材料を惜(をし)まず使用して、最善の方法を尽(つく)して築かれたものである、現代の石垣の多くは四角な平面を有した錐尖形(すゐせんけい)切石(きりいし)を以て築かれてあるから、表面に現はれた所は石と石と密着して隙間なく外観は甚(はなは)だよいが、裏石(うらいし)（栗石(くりいし)）の使ひ方が少(すくな)いため、長雨などで裏面に水が含まれた場合は土砂と共に押出(おしだ)され石垣面が膨張して来る憂(うれ)ひがある。尚(なほ)又内部即ち土に面した方は細く錐状(すゐじやう)であるから、表面の噛み合(あは)せに狂ひの生じた時は自然(おのづ)と外部に抜け出すのは当然の理ぢや。地震の時なども崩れ易い。丸石を以て積む場合は石の噛み合せを完全にせねばならぬ、一つの石を中心と定め其(その)周囲を囲む石の数が六ツ巻(まき)又は八ツ巻というて、六箇若(もし)くば八箇なる時は中心の石が自然と脱け出して弱いものであるから五つとか七つとかの奇数が良いのである。そして裏石(うらいし)（栗石(くりいし)）を充分に入れて置くと、長雨が降つても裏に水の含むことは無い。地震の時も裏に空虚があるから揺すれば揺する程(ほど)、裏石（栗石）が締(しま)つて行くに随(したが)つて、石垣の面は其(その)中央部に於(おい)て裏面(りめん)の方へ凹んで行くから、表面の噛み合(あひ)が益々(ますます)緊縮して一枚岩石の如くなつて末代崩れる事の無いものである。