京都洛北に俗に大文字山といふ山がある、其山腹に昔から盆の十六日の宵に、沢山な薪を大の字形に積んでそれに火を点ずるが為め、京洛中より之を眺むれば恰も空中に火の大の字が浮び出て居る如く見えて非常に美観を呈するものである。此日は昔からの習慣で地獄の釜も蓋が開くといふ日で、各家庭の奉公人等は男女に拘らず皆養父入と称し、主家から開放され、又一般の休日なれば、遠近より沢山な人が集ひ来つて賑ふのである。
此の大文字の年中行事は仏教にて大般若経を読誦して一般の餓鬼に施餓鬼を行ふ意味に於て残つて居るのであるけれど、現今は京都市の観光客吸収のため繁栄策の一として之を行うて居るとか聞いて居る。