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霊界物語
如意宝珠(第13~24巻)
第21巻(申の巻)
序文
凡例
総説
第1篇 千辛万苦
第1章 高春山
第2章 夢の懸橋
第3章 月休殿
第4章 砂利喰
第5章 言の疵
第2篇 是生滅法
第6章 小杉の森
第7章 誠の宝
第8章 津田の湖
第9章 改悟の酬
第3篇 男女共権
第10章 女権拡張
第11章 鬼娘
第12章 奇の女
第13章 夢の女
第14章 恩愛の涙
第4篇 反復無常
第15章 化地蔵
第16章 約束履行
第17章 酒の息
第18章 解決
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霊界物語
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第21巻(申の巻)
> 第1篇 千辛万苦 > 第2章 夢の懸橋
<<< 高春山
(B)
(N)
月休殿 >>>
第二章
夢
(
ゆめ
)
の
懸橋
(
かけはし
)
〔六七六〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第21巻 如意宝珠 申の巻
篇:
第1篇 千辛万苦
よみ(新仮名遣い):
せんしんばんく
章:
第2章 夢の懸橋
よみ(新仮名遣い):
ゆめのかけはし
通し章番号:
676
口述日:
1922(大正11)年05月16日(旧04月20日)
口述場所:
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年4月5日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
高姫と黒姫が、アルプス教の鷹依姫を言向け和しに出発してから、何の連絡もないまま、三ケ月が過ぎた。
言依別命は密かに竜国別(元松姫の部下の竜若)、玉治別(田吾作)、国依別(宗彦)の三人を呼んで、高春山に高姫・黒姫の消息を探りにやらせた。
三人は、鷹依姫の勢力範囲の地につながる岩の橋までやってきた。神智山の入口にあり、断崖絶壁を渡す天然の岩橋で、鬼の懸橋と呼ばれていた。
玉治別が橋を渡ると、どうしたはずみか岩橋が中ほどから脆くも折れて、玉治別ははるか下の谷川に墜落してしまった。
竜国別と国依別は青くなって、せめて遺骸を拾ってやろうと谷底まで降りてきた。すると玉治別は何事もなかったかのように、谷川で着物を絞っている。二人は、この高さから落ちて無事なことを信じられず、本当の玉治別かどうか疑う。
玉治別は神懸りの真似をして、二人が自分の無事を信じないことをなじる。国依別と竜国別も、神懸りの真似をして言い返すが、玉治別はさっさと谷川を下って行ってしまった。
すると辺りが真っ暗闇に包まれたと思うと、それは夢であった。三人は亀山の珍の館にやってきた。ここは、言依別命の命で、梅照彦・梅照姫が守っていた。
三人が珍の館の門を叩くと、梅照彦は召使の春公に、丁重に招くようにと言いつけた。しかし春公は勘違いして、立派な来客があると思い込み、みすぼらしい姿の宣伝使を乞食とみなして、追い払おうとする。
三人は怒って梅照彦を大声で呼びつけ、玉治別は抗議の宣伝歌を歌った。梅照彦はあわてて門に迎え出て、丁重に土下座をして不首尾を詫びた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
インフエルノ(インフェルノ、地獄)
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-05-02 00:44:31
OBC :
rm2102
愛善世界社版:
38頁
八幡書店版:
第4輯 278頁
修補版:
校定版:
40頁
普及版:
17頁
初版:
ページ備考:
001
高春山
(
たかはるやま
)
に
割拠
(
かつきよ
)
するバラモン
教
(
けう
)
の
一派
(
いつぱ
)
アルプス
教
(
けう
)
の
教主
(
けうしゆ
)
鷹依姫
(
たかよりひめ
)
を
言向
(
ことむ
)
け
和
(
やは
)
すべく、
002
言依別
(
ことよりわけの
)
命
(
みこと
)
の
旨
(
むね
)
を
奉
(
ほう
)
じて
天
(
あま
)
の
磐樟船
(
いはくすぶね
)
に
乗
(
の
)
り、
003
勢
(
いきほひ
)
よく
聖地
(
せいち
)
を
出発
(
しゆつぱつ
)
した
高姫
(
たかひめ
)
、
004
黒姫
(
くろひめ
)
は
殆
(
ほとん
)
ど
三
(
さん
)
ケ
月
(
げつ
)
を
経
(
ふ
)
るも
何
(
なん
)
の
消息
(
せうそく
)
もない。
005
言依別
(
ことよりわけの
)
命
(
みこと
)
は
密
(
ひそ
)
かに
竜国別
(
たつくにわけ
)
、
006
玉治別
(
たまはるわけ
)
、
007
国依別
(
くによりわけ
)
の
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
を
招
(
まね
)
き、
008
聖地
(
せいち
)
の
何人
(
なにびと
)
にも
明
(
あか
)
さず、
009
高春山
(
たかはるやま
)
に
二人
(
ふたり
)
の
消息
(
せうそく
)
を
探査
(
たんさ
)
すべく
出張
(
しゆつちやう
)
を
命
(
めい
)
じた。
010
竜国別
(
たつくにわけ
)
はもと
高城山
(
たかしろやま
)
の
松姫館
(
まつひめやかた
)
に
仕
(
つか
)
へたる
竜若
(
たつわか
)
の
改名
(
かいめい
)
である。
011
玉治別
(
たまはるわけ
)
は
田吾作
(
たごさく
)
、
012
国依別
(
くによりわけ
)
は
宗彦
(
むねひこ
)
の
改名
(
かいめい
)
である。
013
教
(
をしへ
)
の
花
(
はな
)
も
香
(
かん
)
ばしく
014
咲
(
さ
)
き
匂
(
にほ
)
ひたる
桶伏
(
をけふせ
)
の
015
山
(
やま
)
の
麓
(
ふもと
)
にそそり
立
(
た
)
つ
016
錦
(
にしき
)
の
宮
(
みや
)
を
伏
(
ふ
)
し
拝
(
をが
)
み
017
言依別
(
ことよりわけ
)
の
命令
(
めいれい
)
を
018
密
(
ひそ
)
かに
奉
(
ほう
)
じて
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
019
月
(
つき
)
の
光
(
ひかり
)
を
浴
(
あ
)
びながら
020
勇
(
いさ
)
み
進
(
すす
)
んで
石原
(
いさ
)
の
駅
(
えき
)
021
長田野
(
をさだの
)
、
土師
(
はせ
)
を
夜
(
よる
)
の
間
(
ま
)
に
022
栗毛
(
くりげ
)
の
駒
(
こま
)
に
跨
(
またが
)
りて
023
蹄
(
ひづめ
)
の
音
(
おと
)
も
勇
(
いさ
)
ましく
024
晨
(
あした
)
の
風
(
かぜ
)
の
福知山
(
ふくちやま
)
025
尻
(
しり
)
に
帆
(
ほ
)
かけてブウブウと
026
痩
(
や
)
せ
馬
(
うま
)
の
屁
(
へ
)
を
放
(
ひ
)
りながら
027
青野
(
あをの
)
ケ
原
(
はら
)
を
右左
(
みぎひだり
)
028
眺
(
なが
)
めて
走
(
はし
)
る
黒井村
(
くろゐむら
)
029
心
(
こころ
)
いそいそ
石生
(
いそ
)
の
駅
(
えき
)
030
御教
(
みのり
)
畏
(
かしこ
)
み
柏原
(
かいばら
)
の
031
田圃
(
たんぼ
)
を
越
(
こ
)
えて
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
032
此処
(
ここ
)
は
神智地
(
じんちぢ
)
山
(
やま
)
の
入口
(
いりぐち
)
、
033
アルプス
教
(
けう
)
の
鷹依姫
(
たかよりひめ
)
の
勢力
(
せいりよく
)
範囲
(
はんゐ
)
として
居
(
ゐ
)
る
十
(
じふ
)
里
(
り
)
四方
(
しはう
)
の
入口
(
いりぐち
)
である。
034
鬼
(
おに
)
の
懸橋
(
かけはし
)
と
云
(
い
)
つて、
035
谷
(
たに
)
から
谷
(
たに
)
へ
天然
(
てんねん
)
に
架
(
か
)
け
渡
(
わた
)
された
一本
(
いつぽん
)
の
岩
(
いは
)
の
橋
(
はし
)
がある。
036
此処
(
ここ
)
を
通
(
とほ
)
らねば
何
(
ど
)
うしても
高春山
(
たかはるやま
)
へ
進
(
すす
)
む
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ない
嶮要
(
けんえう
)
の
地
(
ち
)
である。
037
幾百丈
(
いくひやくぢやう
)
とも
知
(
し
)
れぬ
山
(
やま
)
の
頂
(
いただ
)
きに
天然
(
てんねん
)
に
架
(
か
)
け
渡
(
わた
)
された
石橋
(
いしばし
)
、
038
眼下
(
がんか
)
を
流
(
なが
)
るる
谷川
(
たにがは
)
の
水
(
みづ
)
は
淙々
(
そうそう
)
として
四辺
(
あたり
)
に
響
(
ひび
)
き、
039
自
(
おのづか
)
ら
凄惨
(
せいさん
)
の
気
(
き
)
に
打
(
う
)
たるる
許
(
ばか
)
りである。
040
玉治別
(
たまはるわけ
)
はこの
橋
(
はし
)
の
前
(
まへ
)
に
着
(
つ
)
くや
否
(
いな
)
や、
041
頓狂
(
とんきやう
)
な
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
して、
042
玉治別
『ヨー
要害
(
えうがい
)
堅固
(
けんご
)
の
絶所
(
ぜつしよ
)
だ。
043
アルプス
教
(
けう
)
の
奴
(
やつ
)
、
044
中々
(
なかなか
)
良
(
よ
)
い
地点
(
ちてん
)
を
撰
(
えら
)
んで
関所
(
せきしよ
)
にしやがつたものだなア。
045
我
(
わが
)
恋
(
こひ
)
は
深谷川
(
ふかたにがは
)
の
鬼
(
おに
)
かけ
橋
(
ばし
)
、
046
渡
(
わた
)
るは
怖
(
こは
)
し、
047
渡
(
わた
)
らねば、
048
恋
(
こひ
)
しと
思
(
おも
)
ふ
鷹依姫
(
たかよりひめ
)
の
鬼婆
(
おにば
)
アさんに
会
(
あ
)
はれない』
049
と
無駄口
(
むだぐち
)
を
叩
(
たた
)
きながら
半分
(
はんぶん
)
許
(
ばか
)
り
進
(
すす
)
んで
行
(
い
)
つた。
050
どうした
機
(
はづみ
)
か、
051
さしもに
長
(
なが
)
い
石橋
(
いしばし
)
は、
052
中程
(
なかほど
)
より
脆
(
もろ
)
くも
折
(
を
)
れて、
053
橋
(
はし
)
と
共
(
とも
)
に
玉治別
(
たまはるわけ
)
は
深
(
ふか
)
き
谷間
(
たにま
)
に
顛落
(
てんらく
)
し、
054
泡立
(
あわだ
)
つ
淵
(
ふち
)
にドブンと、
055
落
(
お
)
ち
込
(
こ
)
んで
仕舞
(
しま
)
つた。
056
竜国別
(
たつくにわけ
)
、
057
国依別
(
くによりわけ
)
は
此
(
この
)
変事
(
へんじ
)
に
胆
(
きも
)
を
潰
(
つぶ
)
し、
058
竜国別
『ヤア、
059
国
(
くに
)
さん、
060
何
(
ど
)
うしよう
何
(
ど
)
うしよう』
061
と
顔
(
かほ
)
を
見合
(
みあは
)
して
驚
(
おどろ
)
きの
浪
(
なみ
)
に
打
(
う
)
たれて
居
(
ゐ
)
る。
062
国依別
『
今日
(
けふ
)
は
何
(
なん
)
となしに
気分
(
きぶん
)
の
悪
(
わる
)
い
日
(
ひ
)
だと
思
(
おも
)
つて、
063
石生
(
いそ
)
の
里
(
さと
)
から
馬
(
うま
)
を
放
(
う
)
ちやり、
064
三
(
さん
)
人
(
にん
)
が
斯
(
か
)
うして
テク
ついて
来
(
き
)
たが、
065
まアまア
結構
(
けつこう
)
だつた。
066
馬
(
うま
)
にでも
乗
(
の
)
つて
居
(
を
)
らうものなら
玉治別
(
たまはるわけ
)
と
一緒
(
いつしよ
)
に
馬
(
うま
)
も
死
(
し
)
んで
仕舞
(
しま
)
ふところだつた』
067
竜国別
『
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
るのだ。
068
馬
(
うま
)
位
(
くらゐ
)
死
(
し
)
んだつて
諦
(
あきら
)
めがつくが、
069
肝腎
(
かんじん
)
の
玉治別
(
たまはるわけ
)
を
谷底
(
たにそこ
)
へ
落
(
おと
)
して
仕舞
(
しま
)
つて
詮
(
つま
)
らぬぢやないか。
070
何
(
なん
)
とか
考
(
かんが
)
へねばなるまい。
071
馬
(
うま
)
と
同
(
おな
)
じやうに
取扱
(
とりあつか
)
はれては
玉治別
(
たまはるわけ
)
も
可憐
(
かはい
)
さうだ』
072
国依別
『アヽさうだつた。
073
余
(
あま
)
り
吃驚
(
びつくり
)
して
狼狽
(
うろた
)
へたのだ。
074
サア
川下
(
かはしも
)
へいつて、
075
何処
(
どこ
)
かの
岩石
(
がんせき
)
に
宿泊
(
しゆくはく
)
して
居
(
を
)
るだらうから、
076
肉体
(
にくたい
)
なと
探
(
さが
)
してやらねばなるまい』
077
と
早
(
はや
)
くも
引返
(
ひきかへ
)
す。
078
竜国別
(
たつくにわけ
)
も
後
(
あと
)
についてトントンと
四五丁
(
しごちやう
)
ばかり
引返
(
ひきかへ
)
し、
079
谷川
(
たにがは
)
を
彼方
(
あちら
)
此方
(
こちら
)
と
眼配
(
めくば
)
り、
080
捜索
(
そうさく
)
し
始
(
はじ
)
めた。
081
いくら
探
(
さが
)
しても
影
(
かげ
)
も
形
(
かたち
)
もない。
082
二人
(
ふたり
)
は
途方
(
とはう
)
に
暮
(
く
)
れて
施
(
ほどこ
)
すべき
手段
(
てだて
)
もなく、
083
悔
(
くや
)
し
涙
(
なみだ
)
に
暮
(
く
)
れて
居
(
ゐ
)
る。
084
二三丁
(
にさんちやう
)
下手
(
しもて
)
の
方
(
はう
)
より、
085
『オーイ オーイ』
086
と
呼
(
よ
)
ぶ
者
(
もの
)
がある。
087
二人
(
ふたり
)
は、
088
竜国別、国依別
『ハテなア、
089
聞
(
き
)
き
覚
(
おぼ
)
えのある
言霊
(
ことたま
)
だ』
090
と
声
(
こゑ
)
する
方
(
はう
)
に
向
(
むか
)
つて
駆出
(
かけだ
)
した。
091
見
(
み
)
れば
玉治別
(
たまはるわけ
)
は、
092
谷川
(
たにがは
)
の
中
(
なか
)
に
立
(
た
)
つ
大岩石
(
だいがんせき
)
ホテルの
露台
(
ろだい
)
の
上
(
うへ
)
にて、
093
着物
(
きもの
)
を
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
にしぼつて
居
(
ゐ
)
る。
094
竜国別
『オー、
095
お
前
(
まへ
)
は
玉治別
(
たまはるわけ
)
ぢやないか。
096
何
(
なに
)
か
変
(
かは
)
つた
事
(
こと
)
はなかつたかなア』
097
玉治別
(
たまはるわけ
)
『
変
(
かは
)
つた
事
(
こと
)
が
大
(
おほ
)
ありだ。
098
堂々
(
だうだう
)
たる
天下
(
てんか
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
がお
通
(
とほ
)
り
遊
(
あそ
)
ばしたものだから、
099
あれだけの
大
(
おほ
)
きい
石
(
いし
)
の
橋
(
はし
)
が
脆
(
もろ
)
くも
折
(
を
)
れよつて、
100
忽
(
たちま
)
ち
玉治別
(
たまはるわけ
)
のプロパガンデイストは、
101
数千丈
(
すうせんぢやう
)
の
空中
(
くうちう
)
滑走
(
くわつそう
)
を
旨
(
うま
)
く
演
(
えん
)
じ、
102
無事
(
ぶじ
)
御
(
ご
)
着水
(
ちやくすゐ
)
、
103
直
(
す
)
ぐ
谷川
(
たにがは
)
の
水
(
みづ
)
に
送
(
おく
)
られて
殆
(
ほとん
)
ど
下流
(
かりう
)
十丁
(
じつちやう
)
許
(
ばか
)
り、
104
忽
(
たちま
)
ち
変
(
かは
)
る
男
(
をとこ
)
の
洗濯婆
(
せんたくば
)
アさま、
105
今
(
いま
)
濡
(
ぬ
)
れ
衣
(
ぎぬ
)
を
圧搾
(
あつさく
)
して
居
(
ゐ
)
る
最中
(
さいちう
)
だ、
106
アハヽヽヽ』
107
と
平気
(
へいき
)
で
笑
(
わら
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
108
国依別
『オイ、
109
貴様
(
きさま
)
は
真実
(
ほんと
)
の
玉治別
(
たまはるわけ
)
ではあるまい。
110
あれだけ
高
(
たか
)
い
石橋
(
いしばし
)
から
顛倒
(
てんたふ
)
し、
111
谷底
(
たにそこ
)
の
深淵
(
ふかぶち
)
へ
墜落
(
つゐらく
)
しながら、
112
そんな
平気
(
へいき
)
な
顔
(
かほ
)
して
居
(
を
)
れる
筈
(
はず
)
がない。
113
大方
(
おほかた
)
貴様
(
きさま
)
は
化州
(
ばけしう
)
だらう。
114
オイ
竜国別
(
たつくにわけ
)
、
115
ちつと
合点
(
がてん
)
が
行
(
ゆ
)
かぬぢやないか』
116
竜国別
『アヽさうだ。
117
彼奴
(
あいつ
)
は
何
(
なに
)
かの
変化
(
へんげ
)
であらうよ』
118
と
矢庭
(
やには
)
に
眉毛
(
まゆげ
)
に
唾
(
つばき
)
をつけて
居
(
ゐ
)
る。
119
玉治別
『
実際
(
じつさい
)
は
玉治別
(
たまはるわけ
)
は
死
(
し
)
んだのだ。
120
大岩石
(
だいがんせき
)
と
共
(
とも
)
に
墜落
(
つゐらく
)
し、
121
五体
(
ごたい
)
は
木
(
こ
)
つ
端
(
ぱ
)
微塵
(
みぢん
)
、
122
流血
(
りうけつ
)
淋漓
(
りんり
)
として
谷水
(
たにみづ
)
を
紅
(
あけ
)
に
染
(
そ
)
め、
123
忽
(
たちま
)
ち
変
(
かは
)
るインフエルノの
血
(
ち
)
の
河
(
かは
)
となつたと
思
(
おも
)
ひきや、
124
まアざつと
此
(
こ
)
の
通
(
とほ
)
り
御
(
ご
)
壮健体
(
さうけんたい
)
だ。
125
オイ
竜
(
たつ
)
、
126
国
(
くに
)
の
両人
(
りやうにん
)
、
127
お
前
(
まへ
)
も
橋
(
はし
)
は
無
(
な
)
いが、
128
あの
橋詰
(
はしづめ
)
から
一辺
(
いつぺん
)
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
んで
見
(
み
)
よ、
129
随分
(
ずゐぶん
)
愉快
(
ゆくわい
)
だよ』
130
竜国別
『
益々
(
ますます
)
怪
(
け
)
しからん
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
だ。
131
オイ
国依別
(
くによりわけ
)
、
132
も
少
(
すこ
)
し
下
(
しも
)
を
探
(
さが
)
して
死骸
(
しがい
)
でも
拾
(
ひろ
)
うて
帰
(
かへ
)
らうぢやないか』
133
玉治別
『お
前
(
まへ
)
の
探
(
さが
)
す
肝腎
(
かんじん
)
の
玉
(
たま
)
は、
134
この
岩上
(
がんじやう
)
に
洗濯爺
(
せんたくぢい
)
となつて
鎮座
(
ちんざ
)
坐
(
ま
)
しますのを
知
(
し
)
らぬのか。
135
お
前
(
まへ
)
の
考
(
かんが
)
へは
タマ
で
間違
(
まちが
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
136
玉
治別
(
たまはるわけ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
が
二人
(
ふたり
)
もあつて
たま
るものかい。
137
死骸
(
しがい
)
を
探
(
さが
)
すと
云
(
い
)
うても、
138
死
(
し
)
なぬ
者
(
もの
)
の
死骸
(
しがい
)
が
何処
(
どこ
)
にあるか。
139
そんな
至難
(
しなん
)
の
業
(
わざ
)
はよしにせよ。
140
苦労
(
くらう
)
の
仕甲斐
(
しがひ
)
がないぞよ、
141
アハヽヽヽ』
142
竜国別
(
たつくにわけ
)
『
本当
(
ほんたう
)
に
玉治別
(
たまはるわけ
)
に
間違
(
まちが
)
ひは
無
(
な
)
からうかのう、
143
国依別
(
くによりわけ
)
』
144
玉治別
『
間違
(
まちが
)
ひがあつて
耐
(
たま
)
らうかい。
145
俺
(
おれ
)
はお
勝
(
かつ
)
の
婿
(
むこ
)
の
元
(
もと
)
の
田吾作
(
たごさく
)
だ。
146
これでもまだ
疑
(
うたが
)
ふのか。
147
今
(
いま
)
の
人民
(
じんみん
)
は
薩張
(
さつぱり
)
悪
(
あく
)
の
心
(
こころ
)
になりて
仕舞
(
しま
)
うて
居
(
を
)
るから、
148
疑
(
うたがひ
)
がきつうて
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
うても
誠
(
まこと
)
に
致
(
いた
)
さず、
149
神
(
かみ
)
も
迷惑
(
めいわく
)
致
(
いた
)
すぞよ。
150
改心
(
かいしん
)
なされよ。
151
改心
(
かいしん
)
致
(
いた
)
せば
盲
(
めくら
)
も
目
(
め
)
があき、
152
聾
(
つんぼ
)
も
耳
(
みみ
)
が
聞
(
きこ
)
えるやうになるぞよ。
153
灯台下
(
とうだいもと
)
は
真闇
(
まつくら
)
がり、
154
目
(
め
)
の
前
(
まへ
)
に
居
(
を
)
る
友達
(
ともだち
)
の
真偽
(
しんぎ
)
が
分
(
わか
)
らぬとは
良
(
よ
)
くも
此処
(
ここ
)
まで
曇
(
くも
)
つたものだぞよ。
155
玉治別
(
たまはるわけ
)
の
神
(
かみ
)
も、
156
今
(
いま
)
の
人民
(
じんみん
)
さまには
往生
(
わうじやう
)
致
(
いた
)
すぞよ。
157
余
(
あんま
)
り
鼻
(
はな
)
を
高
(
たか
)
う
致
(
いた
)
すと、
158
鼻
(
はな
)
が
邪魔
(
じやま
)
して
上
(
うへ
)
も
見
(
み
)
えず、
159
向
(
むか
)
ふも
見
(
み
)
えず、
160
足許
(
あしもと
)
は
尚
(
なほ
)
見
(
み
)
えぬやうになつて
仕舞
(
しま
)
ふぞよ。
161
開
(
あ
)
いた
口
(
くち
)
が
塞
(
ふさ
)
がらぬ、
162
煎豆
(
いりまめ
)
に
花
(
はな
)
の
咲
(
さ
)
いたやうな
結構
(
けつこう
)
な
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
が、
163
目
(
め
)
の
前
(
まへ
)
にぶらついて
居
(
を
)
りながら、
164
灯台下
(
とうだいもと
)
は
真闇
(
まつくら
)
がり、
165
ほんに
可憐
(
かはい
)
さうなものであるぞよ。
166
改心
(
かいしん
)
なされよ。
167
改心
(
かいしん
)
致
(
いた
)
せば
其
(
その
)
日
(
ひ
)
から
目
(
め
)
も
見
(
み
)
えるぞよ。
168
身魂
(
みたま
)
も
光
(
ひか
)
り
出
(
だ
)
すぞよ。
169
二人
(
ふたり
)
のお
方
(
かた
)
疑
(
うたが
)
ひ
晴
(
は
)
らして
下
(
くだ
)
されよ。
170
玉治別
(
たまはるわけ
)
の
幽
(
いう
)
宣伝使
(
せんでんし
)
に
間違
(
まちが
)
ひはないぞよ。
171
これが
違
(
ちが
)
うたら
神
(
かみ
)
は
此
(
この
)
世
(
よ
)
に
居
(
を
)
らぬぞよ。
172
余
(
あんま
)
り
慢心
(
まんしん
)
致
(
いた
)
して
宣伝使
(
せんでんし
)
が
馬
(
うま
)
に
乗
(
の
)
つたり
致
(
いた
)
すから、
173
神罰
(
しんばつ
)
を
蒙
(
かうむ
)
つて、
174
結構
(
けつこう
)
な
神
(
かみ
)
のかけた
橋
(
はし
)
を
折
(
を
)
られ、
175
谷川
(
たにがは
)
に
落
(
おと
)
されてアフンと
致
(
いた
)
さなならぬと
云
(
い
)
ふ
実地
(
じつち
)
正真
(
しやうまつ
)
を
見
(
み
)
せてやつたのであるぞよ。
176
高姫
(
たかひめ
)
や
黒姫
(
くろひめ
)
を
見
(
み
)
て
改心
(
かいしん
)
なされよ。
177
結構
(
けつこう
)
な
二本
(
にほん
)
の
足
(
あし
)
を
神界
(
しんかい
)
から
頂
(
いただ
)
きながら、
178
偉
(
えら
)
さうに
飛行船
(
ひかうせん
)
に
乗
(
の
)
つて、
179
悪魔
(
あくま
)
の
征服
(
せいふく
)
なぞと
云
(
い
)
つて
出
(
で
)
かけるものだから、
180
今
(
いま
)
に
行衛
(
ゆくゑ
)
が
知
(
し
)
れぬではないか。
181
其
(
その
)
方
(
はう
)
等
(
ら
)
は
神
(
かみ
)
の
御用
(
ごよう
)
を
致
(
いた
)
す
宣伝使
(
せんでんし
)
だ。
182
鑑
(
かがみ
)
は
何程
(
いくら
)
でも
出
(
だ
)
してあるから、
183
鑑
(
かがみ
)
を
見
(
み
)
て
改心
(
かいしん
)
致
(
いた
)
されよ。
184
この
玉治別
(
たまはるわけ
)
は
誠
(
まこと
)
に
結構
(
けつこう
)
な
神
(
かみ
)
が
守護
(
しゆご
)
して
御座
(
ござ
)
るぞよ。
185
明神
(
みやうじん
)
の
高倉
(
たかくら
)
、
186
旭
(
あさひ
)
を
眷属
(
けんぞく
)
と
致
(
いた
)
して、
187
身代
(
みがは
)
りに
立
(
た
)
てたぞよ。
188
人民
(
じんみん
)
の
知
(
し
)
らぬ
事
(
こと
)
であるぞよ、
189
アハヽヽヽ』
190
国依別
『オイオイ
田吾作
(
たごさく
)
、
191
馬鹿
(
ばか
)
にするない。
192
貴様
(
きさま
)
は
稲荷
(
いなり
)
ぢやないか。
193
稲荷
(
いなり
)
なら
稲荷
(
いなり
)
で
はつきり
と
云
(
い
)
へ、
194
俺
(
おれ
)
はこれから
貴様
(
きさま
)
の
審神
(
さには
)
をしてやるから、
195
早
(
はや
)
く
素直
(
すなほ
)
に
往生
(
わうじやう
)
致
(
いた
)
さぬと
取
(
と
)
り
返
(
かへ
)
しのつかぬ
事
(
こと
)
が
出来
(
しゆつたい
)
致
(
いた
)
すぞよ。
196
ジリジリ
悶
(
もだ
)
え
致
(
いた
)
しても
後
(
あと
)
の
祭
(
まつ
)
り、
197
苦
(
くる
)
しむのを
見
(
み
)
るのが
国依別
(
くによりわけ
)
は
可憐
(
かわい
)
さうなから、
198
気
(
け
)
もない
中
(
うち
)
から
気
(
き
)
をつけるぞよ。
199
お
前
(
まへ
)
は
俺
(
おれ
)
の
妹
(
いもうと
)
のお
勝
(
かつ
)
の
婿
(
むこ
)
に
化
(
ば
)
けて
居
(
ゐ
)
るが、
200
早
(
はや
)
く
往生
(
わうじやう
)
致
(
いた
)
して
改心
(
かいしん
)
致
(
いた
)
せばよし、
201
余
(
あま
)
り
我
(
が
)
を
張通
(
はりとほ
)
すと、
202
神界
(
しんかい
)
の
規則
(
きそく
)
に
照
(
て
)
らして
帳
(
ちよう
)
を
切
(
き
)
るぞよ、
203
外国
(
ぐわいこく
)
行
(
ゆ
)
きに
致
(
いた
)
すぞよ』
204
竜国別
『こらこら
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
ふのだ。
205
彼方
(
あちら
)
にも
此方
(
こちら
)
にも、
206
しようもない
神懸
(
かむがかり
)
をやりよつて、
207
俺
(
おれ
)
を
馬鹿
(
ばか
)
にするのか』
208
玉治別
『
神
(
かみ
)
は
直
(
ぢ
)
き
直
(
ぢ
)
きにものは
云
(
い
)
はれぬから
田吾作
(
たごさく
)
の
肉体
(
にくたい
)
を
借
(
か
)
りて
気
(
き
)
をつけるぞよ。
209
実地
(
じつち
)
正真
(
しやうまつ
)
の
手本
(
てほん
)
を
見
(
み
)
せてあるぞよ。
210
大本
(
おほもと
)
の
大橋
(
おほはし
)
越
(
こ
)
えてまだ
先
(
さき
)
へ、
211
行方
(
ゆくへ
)
分
(
わか
)
らぬ
後戻
(
あともど
)
り、
212
慢心
(
まんしん
)
すると
其
(
その
)
通
(
とほ
)
り
谷底
(
たにそこ
)
へ
落
(
おと
)
されて
仕舞
(
しま
)
ふぞよ』
213
竜国別
『エヽ
怪体
(
けつたい
)
な、
214
早
(
はや
)
く
真正
(
ほんま
)
ものなら
此方
(
こつち
)
へ
出
(
で
)
て
来
(
こ
)
い』
215
玉治別
(
たまはるわけ
)
『
真正者
(
ほんまもの
)
でも
贋者
(
にせもの
)
でも、
216
何時
(
いつ
)
迄
(
まで
)
もこんな
所
(
ところ
)
に
立
(
た
)
つて
居
(
を
)
れるかい。
217
早
(
はや
)
く
改心
(
かいしん
)
して
呉
(
く
)
れ、
218
改心
(
かいしん
)
さへ
出来
(
でき
)
たなら、
219
神
(
かみ
)
はいつでも
谷
(
たに
)
を
渡
(
わた
)
つて、
220
其方
(
そちら
)
へ
行
(
い
)
つてやるぞよ』
221
国依別
(
くによりわけ
)
『
竜公
(
たつこう
)
の
改心
(
かいしん
)
の
出来
(
でき
)
ぬのは、
222
度渋太
(
どしぶと
)
い
豆狸
(
まめだぬき
)
の
守護神
(
しゆごじん
)
であるから、
223
玉治別
(
たまはるわけの
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
御
(
ご
)
降臨
(
かうりん
)
、
224
イヤ
御
(
ご
)
降来
(
くわうらい
)
遊
(
あそ
)
ばさぬのは
無理
(
むり
)
もないぞよ。
225
早
(
はや
)
く
豆狸
(
まめだぬき
)
や、
226
野天狗
(
のてんぐ
)
の
守護神
(
しゆごじん
)
を
放
(
ほ
)
り
出
(
だ
)
して、
227
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
貰
(
もら
)
うた
生粋
(
きつすゐ
)
の
水晶魂
(
すゐしやうだま
)
に
磨
(
みが
)
いて
下
(
くだ
)
されよ。
228
神
(
かみ
)
は
嘘
(
うそ
)
は
申
(
まを
)
さぬぞよ』
229
竜国別
(
たつくにわけ
)
『エヽ
兄
(
あに
)
と
弟
(
おとうと
)
と
寄
(
よ
)
りよつて、
230
此
(
この
)
谷底
(
たにそこ
)
で
竜国別
(
たつくにわけ
)
を
馬鹿
(
ばか
)
にするのか』
231
玉治別
(
たまはるわけ
)
『
馬鹿
(
ばか
)
にし
度
(
た
)
いは
山々
(
やまやま
)
なれども、
232
頂上
(
ちやうじやう
)
に
達
(
たつ
)
した
完全
(
くわんぜん
)
な
馬鹿
(
ばか
)
だから、
233
此
(
この
)
上
(
うへ
)
もう
馬鹿
(
ばか
)
にしようがないので、
234
玉
(
たま
)
もたまらぬから
神
(
かみ
)
も
胸
(
むね
)
を
痛
(
いた
)
めて
居
(
を
)
るぞよ』
235
竜国別
(
たつくにわけ
)
、
236
自暴自棄
(
やけくそ
)
になつて、
237
竜国別
『
余
(
あま
)
り
此
(
この
)
世
(
よ
)
が
上
(
のぼ
)
りつめて、
238
悪魔
(
あくま
)
計
(
ばか
)
りの
世
(
よ
)
になりて、
239
神
(
かみ
)
は
三千
(
さんぜん
)
年
(
ねん
)
の
苦労
(
くらう
)
艱難
(
かんなん
)
致
(
いた
)
して
此
(
この
)
世
(
よ
)
に
現
(
あら
)
はれて
見
(
み
)
たなれど、
240
余
(
あんま
)
り
其処辺
(
そこら
)
中
(
ぢう
)
が
穢
(
むさくる
)
しうて、
241
足
(
あし
)
突
(
つ
)
つこむ
所
(
ところ
)
も、
242
指一本
(
ゆびいつぽん
)
押
(
おさ
)
へる
処
(
ところ
)
もありは
致
(
いた
)
さぬぞよ。
243
余
(
あんま
)
り
此
(
この
)
豆狸
(
まめだぬき
)
の
身魂
(
みたま
)
が
世界
(
せかい
)
を
曇
(
くも
)
らしたによつて、
244
神
(
かみ
)
が
仕組
(
しぐみ
)
を
致
(
いた
)
して、
245
玉治別
(
たまはるわけ
)
の
身魂
(
みたま
)
を
懲戒
(
みせしめ
)
のために、
246
折
(
を
)
れる
筈
(
はず
)
のない
石橋
(
いしばし
)
をポキンと
折
(
を
)
つて、
247
神力
(
しんりき
)
を
現
(
あら
)
はし、
248
身魂
(
みたま
)
の
洗濯
(
せんたく
)
をして
見
(
み
)
せたぞよ。
249
曇
(
くも
)
つた
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
にも、
250
一人
(
ひとり
)
や
二人
(
ふたり
)
は
誠
(
まこと
)
の
者
(
もの
)
があらうかと
思
(
おも
)
うて、
251
鉄
(
かね
)
の
草鞋
(
わらぢ
)
が
破
(
やぶ
)
れる
処
(
ところ
)
迄
(
まで
)
探
(
さが
)
して
見
(
み
)
たが、
252
唯
(
たつ
)
た
一人
(
ひとり
)
誠
(
まこと
)
の
者
(
もの
)
が
現
(
あら
)
はれたぞよ。
253
之
(
これ
)
を
地
(
ぢ
)
に
致
(
いた
)
して
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
の
立替
(
たてかへ
)
立直
(
たてなほ
)
しを
致
(
いた
)
すのであるぞよ。
254
竜国別
(
たつくにわけ
)
の
身魂
(
みたま
)
は
誠
(
まこと
)
に
結構
(
けつこう
)
な
因縁
(
いんねん
)
の
身魂
(
みたま
)
であるから、
255
神
(
かみ
)
が
懸
(
うつ
)
りて
何彼
(
なにか
)
の
事
(
こと
)
を
知
(
し
)
らさねばならぬから、
256
長
(
なが
)
らく
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
になりて
居
(
を
)
るぞよ。
257
糞糟
(
くそかす
)
に
落
(
お
)
ちて
居
(
を
)
りて
下
(
くだ
)
されと
神
(
かみ
)
が
申
(
まを
)
したら、
258
一言
(
ひとこと
)
も
背
(
そむ
)
かずに
竜国別
(
たつくにわけ
)
が
聞
(
き
)
いて
下
(
くだ
)
されたおかげによつて、
259
神
(
かみ
)
の
大望
(
たいもう
)
成就
(
じやうじゆ
)
致
(
いた
)
したぞよ。
260
それについても
因縁
(
いんねん
)
の
悪
(
わる
)
い
身魂
(
みたま
)
は
玉治別
(
たまはるわけ
)
、
261
国依別
(
くによりわけ
)
のガラクタであるぞよ。
262
此
(
この
)
身魂
(
みたま
)
さへ
改心
(
かいしん
)
致
(
いた
)
せば
世界
(
せかい
)
は
一度
(
いちど
)
に
改心
(
かいしん
)
致
(
いた
)
すぞよ。
263
此
(
この
)
御
(
おん
)
方
(
かた
)
は
誠
(
まこと
)
に
結構
(
けつこう
)
な
清
(
きよ
)
く
尊
(
たふと
)
い
偉
(
えら
)
い
立派
(
りつぱ
)
な、
264
世界
(
せかい
)
にもう
一人
(
ひとり
)
とない
生粋
(
きつすゐ
)
の
根本
(
こつぽん
)
の
元
(
もと
)
の
分霊
(
わけみたま
)
であるから、
265
神
(
かみ
)
が
懸
(
うつ
)
りて
大望
(
たいまう
)
な
御用
(
ごよう
)
が
仰
(
あふ
)
せつけてあるぞよ。
266
世界
(
せかい
)
の
者
(
もの
)
よ、
267
竜国別
(
たつくにわけ
)
の
行
(
おこな
)
ひを
見
(
み
)
て
改心
(
かいしん
)
致
(
いた
)
されよ』
268
玉治別
『アハヽヽヽ、
269
何奴
(
どいつ
)
も
此奴
(
こいつ
)
も
皆
(
みな
)
神懸
(
かむがかり
)
の
真似
(
まね
)
ばかりしよるわい。
270
サアサアこんな
人足
(
にんそく
)
に
相手
(
あひて
)
になつて
居
(
を
)
れば
日
(
ひ
)
が
暮
(
く
)
れる。
271
一遍
(
いつぺん
)
出直
(
でなほ
)
して、
272
再
(
ふたた
)
び
出陣
(
しゆつぢん
)
しようかい』
273
と、
274
濡
(
ぬ
)
れた
着物
(
きもの
)
を
脇
(
わき
)
に
拘
(
かか
)
へ、
275
真裸
(
まつぱだか
)
のまますたすたと
谷
(
たに
)
の
流
(
なが
)
れを
此方
(
こちら
)
に
渡
(
わた
)
り、
276
坂道
(
さかみち
)
を
谷
(
たに
)
沿
(
ぞ
)
ひに
下
(
くだ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
277
二人
(
ふたり
)
は、
278
竜国別、国依別
『オーイ
待
(
ま
)
て』
279
と
後
(
あと
)
を
追
(
お
)
ふ。
280
折
(
をり
)
から
俄
(
にはか
)
に
黒雲
(
くろくも
)
塞
(
ふさ
)
がり、
281
咫尺
(
しせき
)
も
弁
(
べん
)
ぜざるに
至
(
いた
)
つた。
282
玉治別
(
たまはるわけ
)
は、
283
玉治別
『オーイオーイ
二人
(
ふたり
)
の
奴
(
やつ
)
、
284
俺
(
おれ
)
の
声
(
こゑ
)
を
目当
(
めあて
)
について
来
(
こ
)
い』
285
と
力
(
ちから
)
一杯
(
いつぱい
)
呶鳴
(
どな
)
り
立
(
た
)
てる。
286
竜国別
(
たつくにわけ
)
『アヽ
吃驚
(
びつくり
)
した。
287
何
(
なん
)
だい、
288
夜中
(
よなか
)
に
夢
(
ゆめ
)
を
見
(
み
)
やがつて、
289
大
(
おほ
)
きな
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
しよつて、
290
寝
(
ね
)
られぬぢやないか』
291
国依別
(
くによりわけ
)
『アヽ
俺
(
おれ
)
もエライ
夢
(
ゆめ
)
を
見
(
み
)
て
居
(
を
)
つた。
292
玉公
(
たまこう
)
の
奴
(
やつ
)
、
293
鬼
(
おに
)
の
懸橋
(
かけはし
)
から
谷川
(
たにがは
)
に
顛落
(
てんらく
)
し、
294
軈
(
やが
)
て
仕様
(
しやう
)
もない
事
(
こと
)
を
口走
(
くちばし
)
りよつたと
思
(
おも
)
つたら、
295
何
(
なん
)
だ、
296
夢
(
ゆめ
)
だつたか。
297
錦
(
にしき
)
の
宮
(
みや
)
の
高殿
(
たかどの
)
に
七五三
(
しちごさん
)
の
太鼓
(
たいこ
)
が
鳴
(
な
)
りかけた。
298
サア
早
(
はや
)
くお
礼
(
れい
)
をして、
299
言依別
(
ことよりわけ
)
様
(
さま
)
の
夜前
(
やぜん
)
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
に
云
(
い
)
ひつけられた
高春山
(
たかはるやま
)
征伐
(
せいばつ
)
に
向
(
むか
)
はうぢやないか』
300
折
(
をり
)
からの
風
(
かぜ
)
に
小雲川
(
こくもがは
)
の
水瀬
(
みなせ
)
の
音
(
おと
)
は
手
(
て
)
に
取
(
と
)
る
如
(
ごと
)
く
耳
(
みみ
)
に
入
(
い
)
る。
301
言依別
(
ことよりわけ
)
の
御言
(
みこと
)
もて
302
聖地
(
せいち
)
を
後
(
あと
)
に
竜国別
(
たつくにわけ
)
の
303
神
(
かみ
)
の
命
(
みこと
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
304
心
(
こころ
)
の
玉治別
(
たまはるわけ
)
司
(
つかさ
)
305
国依別
(
くによりわけ
)
を
伴
(
ともな
)
ひて
306
小雲
(
こくも
)
の
流
(
なが
)
れを
溯
(
さかのぼ
)
り
307
高春山
(
たかはるやま
)
の
鬼神
(
おにがみ
)
を
308
征服
(
せいふく
)
せむと
出
(
い
)
で
行
(
ゆ
)
きし
309
高姫
(
たかひめ
)
黒姫
(
くろひめ
)
両人
(
りやうにん
)
を
310
助
(
たす
)
けにや
山家
(
やまが
)
の
肥後
(
ひご
)
の
橋
(
はし
)
311
膝
(
ひざ
)
の
栗毛
(
くりげ
)
に
鞭
(
むち
)
打
(
う
)
ちて
312
草鞋
(
わらぢ
)
脚絆
(
きやはん
)
に
身
(
み
)
を
固
(
かた
)
め
313
菅
(
すげ
)
の
小笠
(
をがさ
)
の
草
(
くさ
)
や
蓑
(
みの
)
314
巡礼姿
(
じゆんれいすがた
)
に
身
(
み
)
を
窶
(
やつ
)
し
315
谷
(
たに
)
を
伝
(
つた
)
ひてテクテクと
316
須知
(
しうち
)
蒲生野
(
がまふの
)
ケ
原
(
はら
)
を
過
(
す
)
ぎ
317
観音峠
(
くわんのんたうげ
)
も
乗
(
の
)
り
越
(
こ
)
えて
318
教
(
をしへ
)
の
花
(
はな
)
の
咲
(
さ
)
き
匂
(
にほ
)
ふ
319
珍
(
うづ
)
の
園部
(
そのべ
)
や
小山郷
(
をやまがう
)
320
翼
(
つばさ
)
なけれど
鳥羽
(
とば
)
の
里
(
さと
)
321
道
(
みち
)
も
広瀬
(
ひろせ
)
の
川伝
(
かはづた
)
ひ
322
高城山
(
たかしろやま
)
を
右手
(
めて
)
に
見
(
み
)
て
323
名
(
な
)
さへ
目出度
(
めでた
)
き
亀山
(
かめやま
)
の
324
珍
(
うづ
)
の
館
(
やかた
)
に
着
(
つ
)
きにける。
325
此処
(
ここ
)
には
梅照彦
(
うめてるひこ
)
、
326
梅照姫
(
うめてるひめ
)
の
二人
(
ふたり
)
、
327
言依別
(
ことよりわけの
)
命
(
みこと
)
の
命
(
めい
)
を
奉
(
ほう
)
じ、
328
小
(
ささ
)
やかな
館
(
やかた
)
を
建
(
た
)
て、
329
教
(
をしへ
)
を
遠近
(
をちこち
)
に
伝
(
つた
)
へて
居
(
ゐ
)
た。
330
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
姿
(
すがた
)
に
驚
(
おどろ
)
いて
梅照姫
(
うめてるひめ
)
は
奥
(
おく
)
に
駆入
(
かけい
)
り、
331
梅照姫
『モシモシ
御
(
ご
)
主人
(
しゆじん
)
様
(
さま
)
、
332
妙
(
めう
)
な
男
(
をとこ
)
が
三
(
さん
)
人
(
にん
)
やつて
来
(
き
)
ました。
333
さうして
門口
(
かどぐち
)
に
立
(
た
)
つて
動
(
うご
)
きませぬ。
334
どう
致
(
いた
)
しませうか』
335
梅照彦
『
誰人
(
どなた
)
か
知
(
し
)
らぬが、
336
服装
(
ふう
)
が
悪
(
わる
)
くつても、
337
如何
(
いか
)
なる
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
化
(
ば
)
けて
御座
(
ござ
)
るか
知
(
し
)
れないから、
338
鄭重
(
ていちよう
)
にお
迎
(
むか
)
へ
申
(
まを
)
したらよからう』
339
梅照姫
(
うめてるひめ
)
は
召使
(
めしつかひ
)
の
春公
(
はるこう
)
を
招
(
まね
)
き、
340
梅照姫
『
何人
(
どなた
)
か
門
(
もん
)
に
来
(
き
)
て
居
(
を
)
られる
筈
(
はず
)
だから、
341
鄭重
(
ていちやう
)
にお
迎
(
むか
)
へ
申
(
まを
)
して
来
(
き
)
なさい』
342
春公
『
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました』
343
と
門口
(
かどぐち
)
に
走
(
はし
)
つて
出
(
で
)
た。
344
春公
(
はるこう
)
は
其処
(
そこら
)
をきよろきよろ
見廻
(
みまは
)
しながら
独言
(
ひとりごと
)
。
345
春公
『
庭長
(
ていちやう
)
にせよと
仰有
(
おつしや
)
るから
迎
(
むか
)
ひに
出
(
で
)
たが、
346
誰
(
たれ
)
も
居
(
ゐ
)
やせぬぢやないか。
347
乞食
(
こじき
)
が
三
(
さん
)
人
(
にん
)
居
(
を
)
る
計
(
ばか
)
りで、
348
大切
(
たいせつ
)
なお
客
(
きやく
)
さまは
見
(
み
)
えはせぬ。
349
ハヽア、
350
もう、
351
つい
御座
(
ござ
)
るのであらう。
352
オイ
其処
(
そこ
)
な
乞食
(
こじき
)
共
(
ども
)
、
353
其処
(
そこ
)
退
(
ど
)
いて
呉
(
く
)
れ。
354
唯今
(
ただいま
)
庭長
(
ていちやう
)
さまがお
越
(
こ
)
しになるのだから、
355
お
前
(
まへ
)
のやうな
乞食
(
こじき
)
が
門口
(
かどぐち
)
に
立
(
た
)
つて
居
(
ゐ
)
ると、
356
見
(
み
)
つとも
好
(
よ
)
くない。
357
サアサア
何処
(
どこ
)
かへ
往
(
い
)
つたり
往
(
い
)
つたり』
358
竜国別
(
たつくにわけ
)
『
貴方
(
あなた
)
は
当家
(
たうけ
)
の
召使
(
めしつかひ
)
ですか。
359
梅照彦
(
うめてるひこ
)
は
居
(
を
)
られますかな』
360
春公
『エヽ
何
(
なに
)
をごてごて
云
(
い
)
ふのだ。
361
人
(
ひと
)
を
見下
(
みさ
)
げて
召使
(
めしつかひ
)
かなんて、
362
其様
(
そん
)
なものとはちつと
違
(
ちが
)
ふのだ』
363
竜国別
(
たつくにわけ
)
『
然
(
しか
)
らば
貴方
(
あなた
)
は
当家
(
たうけ
)
の
御
(
ご
)
主人
(
しゆじん
)
ですか』
364
春公
『マアマア
何
(
ど
)
うでもよいわい。
365
どつちかの
中
(
うち
)
ぢや』
366
竜国別
『
御
(
ご
)
主人
(
しゆじん
)
とあれば、
367
一寸
(
ちよつと
)
承
(
うけたま
)
はり
度
(
た
)
い
事
(
こと
)
があつて
参
(
まゐ
)
りました』
368
春公
『そんな
者
(
もの
)
に
当家
(
たうけ
)
の
主人
(
しゆじん
)
は
用
(
よう
)
が
無
(
な
)
いわい。
369
早
(
はや
)
く
何処
(
どこ
)
かへ
退散
(
たいさん
)
せぬか。
370
今
(
いま
)
庭長
(
ていちやう
)
さまがお
越
(
こ
)
しになるのだ。
371
邪魔
(
じやま
)
を
致
(
いた
)
すと
此
(
この
)
箒
(
はうき
)
で
撲
(
なぐ
)
りつけるぞ』
372
玉治別
(
たまはるわけ
)
『これや、
373
お
前
(
まへ
)
は
此処
(
ここ
)
の
召使
(
めしつかひ
)
だらう。
374
下男
(
しもをとこ
)
だらう。
375
門前
(
もんぜん
)
に
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
が
見
(
み
)
えて
居
(
ゐ
)
るのに
主人
(
しゆじん
)
にも
取
(
と
)
り
次
(
つ
)
がず、
376
追
(
お
)
ひ
出
(
だ
)
すと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
があるものか。
377
早
(
はや
)
く
取
(
と
)
り
次
(
つ
)
いで
呉
(
く
)
れ』
378
春公
『
取
(
と
)
り
次
(
つ
)
がぬ
事
(
こと
)
もないが、
379
今日
(
けふ
)
は
俄
(
にはか
)
にお
取込
(
とりこ
)
みが
出来
(
でき
)
たのだ。
380
庭長
(
ていちやう
)
さまがお
出
(
いで
)
になるのだから、
381
何
(
いづ
)
れ
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
をせなくてはならぬ、
382
さうすれば
又
(
また
)
ちつとは
余
(
あま
)
るから、
383
明日
(
あした
)
除
(
の
)
けて
置
(
お
)
いてやるから、
384
更
(
あらた
)
めて
出
(
で
)
て
来
(
こ
)
い。
385
それ
迄
(
まで
)
其辺
(
そこら
)
うちを
迂路
(
うろ
)
ついて、
386
今日
(
けふ
)
はまア
他家
(
よそ
)
で
貰
(
もら
)
ふが
好
(
よ
)
からう』
387
玉治別
(
たまはるわけ
)
『お
前
(
まへ
)
は
我々
(
われわれ
)
を
乞食
(
こじき
)
と
見
(
み
)
て
居
(
ゐ
)
るのだなア。
388
それや
余
(
あんま
)
りぢやないか』
389
春公
『
余
(
あんま
)
りも
糞
(
くそ
)
もあつたものかい。
390
縦
(
たて
)
から
見
(
み
)
ても、
391
横
(
よこ
)
から
見
(
み
)
ても
乞食
(
こじき
)
に
間違
(
まちが
)
ひはない。
392
余
(
あんま
)
りぢやと
云
(
い
)
うたが、
393
今日
(
けふ
)
は
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
が
余
(
あんま
)
るとも
余
(
あんま
)
らぬとも
見当
(
けんたう
)
がつかぬ。
394
明日
(
あす
)
出
(
で
)
て
来
(
こ
)
い。
395
屹度
(
きつと
)
握
(
にぎ
)
り
飯
(
めし
)
の
あんまり
を
一
(
ひと
)
つ
位
(
くらゐ
)
は
俺
(
おれ
)
がそつと
除
(
の
)
けて
置
(
お
)
いてやる。
396
貴様
(
きさま
)
も
腹
(
はら
)
が
空
(
へ
)
つとるだらうが、
397
まア
辛抱
(
しんばう
)
をして
居
(
を
)
れ。
398
俺
(
おれ
)
だつて
生
(
うま
)
れつきの
悪人
(
あくにん
)
ぢやない。
399
つい
十日
(
とをか
)
程
(
ほど
)
前
(
まへ
)
まで、
400
乞食
(
こじき
)
に
歩
(
ある
)
いて、
401
道
(
みち
)
の
端
(
はた
)
で
飢
(
うゑ
)
に
迫
(
せま
)
り
倒
(
たふ
)
れて
居
(
を
)
つたところ、
402
此家
(
ここ
)
の
主人
(
しゆじん
)
が
拾
(
ひろ
)
ひ
上
(
あ
)
げて
下
(
くだ
)
さつたのだから
何処迄
(
どこまで
)
も
大切
(
たいせつ
)
に
此
(
この
)
門
(
もん
)
を
守
(
まも
)
らねばならぬのだ。
403
何卒
(
どうぞ
)
頼
(
たの
)
みだから
暫
(
しばら
)
く
他家
(
よそ
)
へ
行
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
て
呉
(
く
)
れ。
404
今
(
いま
)
庭長
(
ていちやう
)
さまがお
見
(
み
)
えになるのだ。
405
若
(
も
)
しその
庭長
(
ていちやう
)
さまが、
406
此
(
この
)
家
(
いへ
)
の
主人
(
しゆじん
)
にでも
何
(
なに
)
かの
端
(
はし
)
に、
407
此方
(
こなた
)
の
門口
(
かどぐち
)
には
乞食
(
こじき
)
が
三
(
さん
)
人
(
にん
)
立
(
た
)
つて
居
(
ゐ
)
ましたと
云
(
い
)
はつしやらうものなら、
408
それこそ
俺
(
おれ
)
は
此
(
この
)
家
(
や
)
を
放
(
ほ
)
り
出
(
だ
)
されて
又
(
また
)
元
(
もと
)
の
乞食
(
こじき
)
になり、
409
お
前
(
まへ
)
等
(
たち
)
の
仲間
(
なかま
)
に
逆転
(
ぎやくてん
)
せなくてはならぬから、
410
何
(
ど
)
うぞここは
俺
(
おれ
)
を
助
(
たす
)
けると
思
(
おも
)
つて、
411
暫
(
しばら
)
く
退却
(
たいきやく
)
して
呉
(
く
)
れ。
412
乞食
(
こじき
)
の
味
(
あぢ
)
は
俺
(
おれ
)
もよく
知
(
し
)
つて
居
(
を
)
る。
413
辛
(
つら
)
いものだ。
414
本当
(
ほんたう
)
に
同情
(
どうじやう
)
するよ。
415
訳
(
わけ
)
の
分
(
わか
)
らぬ
無慈悲
(
むじひ
)
の
奴
(
やつ
)
だと
恨
(
うら
)
めて
呉
(
く
)
れな』
416
国依別
(
くによりわけ
)
は
大声
(
おほごゑ
)
を
発
(
はつ
)
し、
417
国依別
『
梅照彦
(
うめてるひこ
)
々々々
(
うめてるひこ
)
』
418
と
呶鳴
(
どな
)
つた。
419
春
(
はる
)
は
吃驚
(
びつくり
)
して、
420
春公
『コラコラ、
421
そんな
非道
(
ひど
)
い
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふものぢやない。
422
俺
(
おれ
)
が
叱
(
しか
)
られるぢやないか。
423
乞食
(
こじき
)
が
云
(
い
)
うたと
思
(
おも
)
はずに、
424
俺
(
おれ
)
が
主人
(
しゆじん
)
を
呼
(
よ
)
び
捨
(
す
)
てにしたやうにとられては
耐
(
たま
)
らぬぢやないか。
425
些
(
ちつ
)
とは
俺
(
おれ
)
の
身
(
み
)
にもなつて
呉
(
く
)
れ』
426
竜
(
たつ
)
、
427
玉
(
たま
)
、
428
国
(
くに
)
の
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
は
一
(
いち
)
時
(
じ
)
に
声
(
こゑ
)
を
揃
(
そろ
)
へて、
429
三人
『
梅照彦
(
うめてるひこ
)
々々々
(
うめてるひこ
)
』
430
と
呶鳴
(
どな
)
り
付
(
つ
)
ける。
431
春
(
はる
)
は、
432
春公
『やアこいつは
耐
(
たま
)
らぬ、
433
ぢやと
云
(
い
)
うて
人
(
ひと
)
の
口
(
くち
)
に
戸
(
と
)
を
立
(
た
)
てる
訳
(
わけ
)
にも
行
(
ゆ
)
かないわ。
434
一
(
ひと
)
つ
奥
(
おく
)
へ
行
(
い
)
つて
言
(
い
)
ひ
訳
(
わけ
)
をして
来
(
こ
)
う』
435
とバタバタと
奥
(
おく
)
に
駆込
(
かけこ
)
む。
436
梅照彦
(
うめてるひこ
)
は
人待顔
(
ひとまちがほ
)
にて、
437
梅照彦
『お
客
(
きやく
)
さまはどうなつたか。
438
早
(
はや
)
くこちらへ
御
(
ご
)
案内
(
あんない
)
せぬか』
439
春公
『イヤ、
440
未
(
ま
)
だ
見
(
み
)
えませぬ。
441
何
(
ど
)
うしてこんなに
遅
(
おそ
)
いのでせうなア』
442
梅照彦
『
今
(
いま
)
何
(
なん
)
だか
大勢
(
おほぜい
)
の
声
(
こゑ
)
がしたではないか』
443
春公
『あれは
乞食
(
こじき
)
が
歌
(
うた
)
を
歌
(
うた
)
つて
御
(
ご
)
門前
(
もんぜん
)
を
通
(
とほ
)
つたのですよ』
444
梅照彦
『お
前
(
まへ
)
の
声
(
こゑ
)
ではなかつたかな』
445
春公
『イエイエ
滅相
(
めつさう
)
もない、
446
誰人
(
だれ
)
が
御
(
ご
)
主人
(
しゆじん
)
様
(
さま
)
を
梅照彦
(
うめてるひこ
)
なんて
呼
(
よ
)
びつけに
致
(
いた
)
しますものか。
447
何
(
なん
)
でも
貴方
(
あなた
)
のお
名
(
な
)
を
知
(
し
)
つて
居
(
を
)
る
乞食
(
こじき
)
が
云
(
い
)
つたのでせう』
448
梅照彦
『ハテナ、
449
それでも
今
(
いま
)
妻
(
つま
)
が、
450
門口
(
かどぐち
)
に
三
(
さん
)
人
(
にん
)
のお
方
(
かた
)
が
門
(
もん
)
を
開
(
あ
)
けて
呉
(
く
)
れと
云
(
い
)
つてお
待
(
ま
)
ちになつて
居
(
ゐ
)
ると
云
(
い
)
うて
居
(
ゐ
)
た。
451
今
(
いま
)
御飯
(
ごぜん
)
の
仕度
(
こしらへ
)
をすると
云
(
い
)
つて
炊事場
(
すゐじば
)
の
方
(
はう
)
にいきよつたが、
452
もうお
客
(
きやく
)
さまは
帰
(
かへ
)
つて
仕舞
(
しま
)
はれたのかなア』
453
春公
『イヽエ、
454
まだお
客
(
きやく
)
さまは
見
(
み
)
えませぬ。
455
唯
(
ただ
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
見
(
み
)
すぼら
しい
乞食
(
こじき
)
が、
456
蓑笠
(
みのかさ
)
を
着
(
き
)
て、
457
門
(
もん
)
の
傍
(
はた
)
に
立
(
た
)
つて
居
(
を
)
ります』
458
梅照彦
『
何
(
なに
)
、
459
まだ
立
(
た
)
つて
居
(
を
)
られるか』
460
春公
『
御
(
ご
)
主人
(
しゆじん
)
様
(
さま
)
、
461
貴方
(
あなた
)
はあんな
乞食
(
こじき
)
に
丁寧
(
ていねい
)
な
言葉
(
ことば
)
をお
使
(
つか
)
ひになるのですなア』
462
梅照彦
『
乞食
(
こじき
)
だつて
誰人
(
だれ
)
だつて、
463
同
(
おな
)
じ
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
から
生
(
うま
)
れた
人間
(
にんげん
)
だ。
464
丁寧
(
ていねい
)
に
致
(
いた
)
さねばならぬではないか』
465
春公
『それでも
私
(
わたし
)
に
対
(
たい
)
しては
余
(
あま
)
り
丁寧
(
ていねい
)
ぢやありませぬな。
466
いつも
春
(
はる
)
、
467
春
(
はる
)
と
呼
(
よ
)
びつけになさるでせう』
468
梅照彦
『そんならこれから、
469
春
(
はる
)
さまと
云
(
い
)
つたらお
気
(
き
)
に
入
(
い
)
りますかなア』
470
春公
『
御尤
(
ごもつと
)
もでございますなア』
471
斯
(
か
)
く
話
(
はな
)
す
折
(
をり
)
しも、
472
門口
(
かどぐち
)
から
宣伝歌
(
せんでんか
)
が
聞
(
きこ
)
え
来
(
きた
)
る。
473
(玉治別)
『
神
(
かみ
)
が
表
(
おもて
)
に
現
(
あら
)
はれて
474
善
(
ぜん
)
と
悪
(
あく
)
とを
立
(
た
)
て
別
(
わ
)
ける
475
此
(
この
)
世
(
よ
)
を
造
(
つく
)
りし
神直日
(
かむなほひ
)
476
心
(
こころ
)
も
広
(
ひろ
)
き
大直日
(
おほなほひ
)
477
唯
(
ただ
)
何事
(
なにごと
)
も
人
(
ひと
)
の
世
(
よ
)
は
478
直日
(
なほひ
)
に
見直
(
みなほ
)
せ
聞
(
き
)
き
直
(
なほ
)
せ
479
身
(
み
)
の
過
(
あやま
)
ちは
宣
(
の
)
り
直
(
なほ
)
す
480
三五教
(
あななひけう
)
の
神
(
かみ
)
の
教
(
のり
)
481
四方
(
よも
)
に
伝
(
つた
)
ふる
亀山
(
かめやま
)
の
482
珍
(
うづ
)
の
館
(
やかた
)
を
守
(
まも
)
り
居
(
ゐ
)
る
483
梅照彦
(
うめてるひこ
)
の
門
(
もん
)
の
前
(
まへ
)
484
遥々
(
はるばる
)
訪
(
たづ
)
ね
来
(
き
)
て
見
(
み
)
れば
485
佇
(
たたず
)
み
居
(
ゐ
)
たる
山
(
やま
)
の
神
(
かみ
)
486
我
(
われ
)
等
(
ら
)
の
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
るよりも
487
踵
(
きびす
)
を
返
(
かへ
)
し
奥
(
おく
)
に
入
(
い
)
る
488
嗚呼
(
ああ
)
訝
(
いぶ
)
かしや
訝
(
いぶ
)
かしや
489
主人
(
あるじ
)
の
妻
(
つま
)
か
下婢
(
はしため
)
か
490
不思議
(
ふしぎ
)
と
門
(
かど
)
に
立
(
た
)
ち
止
(
ど
)
まり
491
門
(
もん
)
の
開
(
ひら
)
くを
待
(
ま
)
つうちに
492
躍
(
をど
)
り
出
(
いで
)
たる
下男
(
しもをとこ
)
493
我
(
われ
)
等
(
ら
)
の
前
(
まへ
)
に
竹箒
(
たけばうき
)
494
掃出
(
はきだ
)
すやうな
捨言葉
(
すてことば
)
495
庭長
(
ていちやう
)
さまが
来
(
きた
)
るまで
496
帰
(
かへ
)
つて
呉
(
く
)
れいと
頑張
(
がんば
)
つて
497
又
(
また
)
もや
門
(
もん
)
をピシヤと
締
(
し
)
め
498
蒼惶
(
さうくわう
)
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
しけり
499
汝
(
なんぢ
)
梅照彦
(
うめてるひこ
)
司
(
つかさ
)
500
三五教
(
あななひけう
)
の
御教
(
みをしへ
)
を
501
何
(
なん
)
と
思
(
おも
)
ふか
世
(
よ
)
の
人
(
ひと
)
を
502
貴賤
(
きせん
)
老幼
(
らうえう
)
別
(
わか
)
ちなく
503
救
(
すく
)
ひ
助
(
たす
)
けて
皇神
(
すめかみ
)
の
504
教
(
をしへ
)
の
徳
(
とく
)
に
靡
(
なび
)
かせつ
505
世人
(
よびと
)
を
守
(
まも
)
る
神司
(
かむづかさ
)
506
世
(
よ
)
にも
尊
(
たふと
)
き
天職
(
てんしよく
)
を
507
もはや
汝
(
なんぢ
)
は
忘
(
わす
)
れしか
508
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
を
笠
(
かさ
)
に
着
(
き
)
て
509
体主
(
たいしゆ
)
霊従
(
れいじう
)
利己
(
りこ
)
主義
(
しゆぎ
)
を
510
発揮
(
はつき
)
し
居
(
を
)
るは
三五
(
あななひ
)
の
511
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
に
非
(
あら
)
ずして
512
バラモン
教
(
けう
)
の
行
(
や
)
り
方
(
かた
)
ぞ
513
我
(
われ
)
は
御国
(
みくに
)
を
救
(
すく
)
はむと
514
晨
(
あした
)
の
風
(
かぜ
)
や
夕
(
ゆふ
)
の
雨
(
あめ
)
515
そぼち
濡
(
ぬ
)
れつつ
高春
(
たかはる
)
の
516
山
(
やま
)
に
向
(
むか
)
うてアルプスの
517
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
の
司
(
つかさ
)
なる
518
鷹依姫
(
たかよりひめ
)
を
言向
(
ことむ
)
けて
519
世人
(
よびと
)
を
救
(
すく
)
ふ
神柱
(
かむばしら
)
520
言依別
(
ことよりわけ
)
の
御言
(
みこと
)
もて
521
漸
(
やうや
)
う
此処
(
ここ
)
に
来
(
きた
)
りしぞ
522
汝
(
なんぢ
)
が
日頃
(
ひごろ
)
のやり
方
(
かた
)
は
523
今
(
いま
)
現
(
あら
)
はれた
下男
(
しもをとこ
)
524
言葉
(
ことば
)
の
端
(
はし
)
によく
見
(
み
)
える
525
貴
(
たふと
)
き
衣
(
きぬ
)
を
身
(
み
)
に
纏
(
まと
)
ひ
526
表面
(
うはべ
)
を
飾
(
かざ
)
る
曲人
(
まがびと
)
を
527
喜
(
よろこ
)
び
迎
(
むか
)
へ
入
(
い
)
れながら
528
服装
(
みなり
)
卑
(
いや
)
しき
我々
(
われわれ
)
を
529
唯
(
ただ
)
一言
(
ひとくち
)
に
膠
(
にべ
)
もなく
530
追
(
お
)
ひ
帰
(
かへ
)
さむと
努
(
つと
)
むるは
531
全
(
まつた
)
く
汝
(
そなた
)
が
指金
(
さしがね
)
か
532
但
(
ただし
)
は
下男
(
しもべ
)
の
誤
(
あやま
)
りか
533
詳細
(
つぶさ
)
に
御
(
お
)
答
(
こた
)
へ
致
(
いた
)
されよ
534
朝日
(
あさひ
)
は
照
(
て
)
るとも
曇
(
くも
)
るとも
535
月
(
つき
)
は
盈
(
み
)
つとも
虧
(
か
)
くるとも
536
仮令
(
たとへ
)
大地
(
だいち
)
は
沈
(
しづ
)
むとも
537
神
(
かみ
)
に
仕
(
つか
)
へし
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
は
538
如何
(
いか
)
なる
卑
(
いや
)
しき
姿
(
すがた
)
をも
539
如何
(
いか
)
なる
見悪
(
みにく
)
き
服装
(
みなり
)
せる
540
乞食
(
こじき
)
の
端
(
はし
)
に
至
(
いた
)
るまで
541
救
(
すく
)
ひ
助
(
たす
)
けにやおかれまい
542
汝
(
なんぢ
)
は
易
(
やす
)
きに
狎
(
な
)
れ
過
(
す
)
ぎて
543
救
(
すく
)
ひの
道
(
みち
)
を
忘
(
わす
)
れしか
544
神
(
かみ
)
は
我
(
われ
)
等
(
ら
)
と
倶
(
とも
)
にあり
545
神
(
かみ
)
の
勅
(
みこと
)
を
畏
(
かしこ
)
みて
546
曲津
(
まがつ
)
の
征途
(
せいと
)
に
上
(
のぼ
)
り
行
(
ゆ
)
く
547
我
(
われ
)
等
(
ら
)
一行
(
いつかう
)
三人
(
みたり
)
連
(
づ
)
れ
548
竜国別
(
たつくにわけ
)
や
玉治別
(
たまはるわけ
)
549
国依別
(
くによりわけ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
550
此処
(
ここ
)
に
暇
(
いとま
)
を
告
(
つ
)
げまつる
551
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
552
恩頼
(
みたまのふゆ
)
を
蒙
(
かかぶ
)
りて
553
早
(
は
)
や
暮
(
く
)
れかかる
冬
(
ふゆ
)
の
日
(
ひ
)
を
554
御稜威
(
みいづ
)
も
高
(
たか
)
き
高熊
(
たかくま
)
の
555
御山
(
みやま
)
を
指
(
さ
)
して
進
(
すす
)
むべし
556
梅照彦
(
うめてるひこ
)
よ
妻神
(
つまがみ
)
よ
557
随分
(
ずゐぶん
)
お
健
(
まめ
)
でお
達者
(
たつしや
)
で
558
神
(
かみ
)
のお
道
(
みち
)
に
尽
(
つ
)
くされよ
559
私
(
わたし
)
はこれにて
暇
(
いとま
)
乞
(
ご
)
ひ
560
三人
(
みたり
)
の
司
(
つかさ
)
が
凱旋
(
がいせん
)
を
561
指
(
ゆび
)
をり
数
(
かぞ
)
へて
待
(
ま
)
つがよい
562
さアさア
往
(
ゆ
)
かうさア
往
(
ゆ
)
かう
563
門前
(
もんぜん
)
払
(
ばら
)
ひを
喰
(
く
)
はされて
564
余
(
あま
)
り
嬉
(
うれ
)
しうは
無
(
な
)
けれども
565
これも
何
(
なに
)
かのお
仕組
(
しぐみ
)
か
566
行
(
ゆ
)
けるとこ
迄
(
まで
)
行
(
い
)
つて
見
(
み
)
よう
567
決
(
けつ
)
して
世界
(
せかい
)
に
鬼
(
おに
)
は
無
(
な
)
い
568
三五教
(
あななひけう
)
の
身
(
み
)
の
内
(
うち
)
に
569
梅照彦
(
うめてるひこ
)
の
鬼
(
おに
)
が
坐
(
ま
)
す
570
もしや
我
(
われ
)
等
(
ら
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
が
571
お
気
(
き
)
に
障
(
さは
)
れば
赦
(
ゆる
)
してよ
572
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
573
御霊
(
みたま
)
の
幸
(
さち
)
を
賜
(
たま
)
へかし』
574
と
玉治別
(
たまはるわけ
)
は
大声
(
おほごゑ
)
にて
心
(
こころ
)
の
丈
(
たけ
)
を
歌
(
うた
)
ひ
終
(
をは
)
つた。
575
梅照彦
(
うめてるひこ
)
は
此
(
この
)
歌
(
うた
)
を
聞
(
き
)
くや、
576
驚
(
おどろ
)
いて
表門
(
おもてもん
)
に
駆
(
か
)
けつけ
砂上
(
しやじやう
)
に
頭
(
かうべ
)
を
下
(
さ
)
げ、
577
梅照彦
『これはこれは
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
で
御座
(
ござ
)
いましたか。
578
まことに
下男
(
しもべ
)
が
粗忽
(
そそう
)
を
致
(
いた
)
しまして、
579
申訳
(
まをしわけ
)
が
御座
(
ござ
)
いませぬ。
580
さアさアどうぞお
這入
(
はい
)
り
下
(
くだ
)
さいませ』
581
玉治別
(
たまはるわけ
)
『イヤ
有難
(
ありがた
)
う。
582
かういふ
立派
(
りつぱ
)
なお
館
(
やかた
)
へ
乞食
(
こじき
)
が
這入
(
はい
)
りましては、
583
お
館
(
やかた
)
の
名誉
(
めいよ
)
にかかはりますから、
584
今日
(
けふ
)
はまアこれで
御免
(
ごめん
)
を
蒙
(
かうむ
)
りませう』
585
梅照彦
『お
腹立
(
はらだち
)
御尤
(
ごもつと
)
もで
御座
(
ござ
)
いますが、
586
つい
失礼
(
しつれい
)
致
(
いた
)
しまして……
全
(
まつた
)
く
下男
(
しもべ
)
の
業
(
わざ
)
で
御座
(
ござ
)
いますから、
587
どうぞ
許
(
ゆる
)
して
下
(
くだ
)
さいませ。
588
さアさア
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
直
(
なほ
)
して、
589
トツトとお
這入
(
はい
)
り
下
(
くだ
)
さいませ。
590
コレ
梅照姫
(
うめてるひめ
)
、
591
春公
(
はるこう
)
、
592
お
詫
(
わび
)
を
申上
(
まをしあ
)
げないか』
593
と
呶鳴
(
どな
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
594
二人
(
ふたり
)
は
此
(
この
)
声
(
こゑ
)
に
驚
(
おどろ
)
いて
様子
(
やうす
)
は
分
(
わか
)
らねど、
595
梅照彦
(
うめてるひこ
)
が
土下座
(
どげざ
)
をして
居
(
ゐ
)
るのを
見
(
み
)
て、
596
自分
(
じぶん
)
も
同
(
おな
)
じく
大地
(
だいち
)
に
平伏
(
へいふく
)
して
頭
(
かうべ
)
を
下
(
さ
)
げた。
597
玉治別
(
たまはるわけ
)
『
今
(
いま
)
貴方
(
あなた
)
は
下男
(
しもべ
)
が
悪
(
わる
)
いのだと
云
(
い
)
はれましたな。
598
決
(
けつ
)
して
下男
(
しもべ
)
ぢやありませぬよ。
599
責任
(
せきにん
)
は
矢張
(
やつぱり
)
主人
(
しゆじん
)
にある。
600
さう
云
(
い
)
ふ
気
(
き
)
のつかない
馬鹿
(
ばか
)
な
男
(
をとこ
)
を、
601
門番
(
もんばん
)
にするのが
第一
(
だいいち
)
過
(
あやま
)
りだ』
602
梅照彦
『ハイ、
603
何
(
なん
)
と
仰
(
あふ
)
せられましても
弁解
(
べんかい
)
の
辞
(
ことば
)
がありませぬ』
604
竜国別
『サア、
605
事
(
こと
)
が
分
(
わか
)
れば
好
(
い
)
いぢやないか。
606
玉治別
(
たまはるわけ
)
、
607
国依別
(
くによりわけ
)
、
608
お
世話
(
せわ
)
になりませうかい』
609
と
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
つて
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
る。
610
二人
(
ふたり
)
もニコニコしながら、
611
玉治別、国依別
『アヽ、
612
エライお
気
(
き
)
を
揉
(
も
)
ませました。
613
もうこれで
一切
(
いつさい
)
の
経緯
(
いきさつ
)
は
帳消
(
ちやうけし
)
だ。
614
さア
梅照彦
(
うめてるひこ
)
御
(
ご
)
夫婦
(
ふうふ
)
さま、
615
春
(
はる
)
さま、
616
何
(
ど
)
うぞ
安心
(
あんしん
)
して
下
(
くだ
)
さいませ』
617
梅照彦
『
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
います』
618
と
安心
(
あんしん
)
の
胸
(
むね
)
を
撫
(
な
)
で
下
(
おろ
)
し、
619
妻
(
つま
)
諸共
(
もろとも
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
後
(
あと
)
に
従
(
つ
)
いて
奥
(
おく
)
に
入
(
い
)
る。
620
春公
(
はるこう
)
は
門
(
もん
)
の
傍
(
かたはら
)
に
佇立
(
ちよりつ
)
し、
621
春公
『アヽ
庭長
(
ていちやう
)
さまの
御
(
ご
)
挨拶
(
あいさつ
)
だつた。
622
お
蔭
(
かげ
)
で
免職
(
めんしよく
)
もどうやら
免
(
のが
)
れたやうだ』
623
(
大正一一・五・一六
旧四・二〇
加藤明子
録)
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