霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二章 夢(ゆめ)の懸橋(かけはし)〔六七六〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第21巻 如意宝珠 申の巻 篇:第1篇 千辛万苦 よみ(新仮名遣い):せんしんばんく
章:第2章 夢の懸橋 よみ(新仮名遣い):ゆめのかけはし 通し章番号:676
口述日:1922(大正11)年05月16日(旧04月20日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年4月5日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
高姫と黒姫が、アルプス教の鷹依姫を言向け和しに出発してから、何の連絡もないまま、三ケ月が過ぎた。
言依別命は密かに竜国別(元松姫の部下の竜若)、玉治別(田吾作)、国依別(宗彦)の三人を呼んで、高春山に高姫・黒姫の消息を探りにやらせた。
三人は、鷹依姫の勢力範囲の地につながる岩の橋までやってきた。神智山の入口にあり、断崖絶壁を渡す天然の岩橋で、鬼の懸橋と呼ばれていた。
玉治別が橋を渡ると、どうしたはずみか岩橋が中ほどから脆くも折れて、玉治別ははるか下の谷川に墜落してしまった。
竜国別と国依別は青くなって、せめて遺骸を拾ってやろうと谷底まで降りてきた。すると玉治別は何事もなかったかのように、谷川で着物を絞っている。二人は、この高さから落ちて無事なことを信じられず、本当の玉治別かどうか疑う。
玉治別は神懸りの真似をして、二人が自分の無事を信じないことをなじる。国依別と竜国別も、神懸りの真似をして言い返すが、玉治別はさっさと谷川を下って行ってしまった。
すると辺りが真っ暗闇に包まれたと思うと、それは夢であった。三人は亀山の珍の館にやってきた。ここは、言依別命の命で、梅照彦・梅照姫が守っていた。
三人が珍の館の門を叩くと、梅照彦は召使の春公に、丁重に招くようにと言いつけた。しかし春公は勘違いして、立派な来客があると思い込み、みすぼらしい姿の宣伝使を乞食とみなして、追い払おうとする。
三人は怒って梅照彦を大声で呼びつけ、玉治別は抗議の宣伝歌を歌った。梅照彦はあわてて門に迎え出て、丁重に土下座をして不首尾を詫びた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ:インフエルノ(インフェルノ、地獄) データ凡例: データ最終更新日:2021-05-02 00:44:31 文字数:8144 OBC :rm2102
愛善世界社版:38頁 八幡書店版:第4輯 278頁 修補版: 校定版:40頁 普及版:17頁 初版: ページ備考:
001 高春山(たかはるやま)に割拠(かつきよ)するバラモン教(けう)の一派(いつぱ)アルプス教(けう)の教主(けうしゆ)鷹依姫(たかよりひめ)を言向(ことむ)け和(やは)すべく、002言依別(ことよりわけの)命(みこと)の旨(むね)を奉(ほう)じて天(あま)の磐樟船(いはくすぶね)に乗(の)り、003勢(いきほひ)よく聖地(せいち)を出発(しゆつぱつ)した高姫(たかひめ)、004黒姫(くろひめ)は殆(ほとん)ど三(さん)ケ月(げつ)を経(ふ)るも何(なん)の消息(せうそく)もない。005言依別(ことよりわけの)命(みこと)は密(ひそ)かに竜国別(たつくにわけ)、006玉治別(たまはるわけ)、007国依別(くによりわけ)の三(さん)人(にん)の宣伝使(せんでんし)を招(まね)き、008聖地(せいち)の何人(なにびと)にも明(あか)さず、009高春山(たかはるやま)に二人(ふたり)の消息(せうそく)を探査(たんさ)すべく出張(しゆつちやう)を命(めい)じた。010竜国別(たつくにわけ)はもと高城山(たかしろやま)の松姫館(まつひめやかた)に仕(つか)へたる竜若(たつわか)の改名(かいめい)である。011玉治別(たまはるわけ)は田吾作(たごさく)、012国依別(くによりわけ)は宗彦(むねひこ)の改名(かいめい)である。
013教(をしへ)の花(はな)も香(かん)ばしく
014咲(さ)き匂(にほ)ひたる桶伏(をけふせ)の
015山(やま)の麓(ふもと)にそそり立(た)つ
016錦(にしき)の宮(みや)を伏(ふ)し拝(をが)み
017言依別(ことよりわけ)の命令(めいれい)を
018密(ひそ)かに奉(ほう)じて三(さん)人(にん)は
019月(つき)の光(ひかり)を浴(あ)びながら
020勇(いさ)み進(すす)んで石原(いさ)の駅(えき)
021長田野(をさだの)、土師(はせ)を夜(よる)の間(ま)に
022栗毛(くりげ)の駒(こま)に跨(またが)りて
023蹄(ひづめ)の音(おと)も勇(いさ)ましく
024晨(あした)の風(かぜ)の福知山(ふくちやま)
025尻(しり)に帆(ほ)かけてブウブウと
026痩(や)せ馬(うま)の屁(へ)を放(ひ)りながら
027青野(あをの)ケ原(はら)を右左(みぎひだり)
028眺(なが)めて走(はし)る黒井村(くろゐむら)
029心(こころ)いそいそ石生(いそ)の駅(えき)
030御教(みのり)畏(かしこ)み柏原(かいばら)の
031田圃(たんぼ)を越(こ)えて進(すす)み行(ゆ)く。
032 此処(ここ)は神智地(じんちぢ)山(やま)の入口(いりぐち)、033アルプス教(けう)の鷹依姫(たかよりひめ)の勢力(せいりよく)範囲(はんゐ)として居(ゐ)る十(じふ)里(り)四方(しはう)の入口(いりぐち)である。034鬼(おに)の懸橋(かけはし)と云(い)つて、035谷(たに)から谷(たに)へ天然(てんねん)に架(か)け渡(わた)された一本(いつぽん)の岩(いは)の橋(はし)がある。036此処(ここ)を通(とほ)らねば何(ど)うしても高春山(たかはるやま)へ進(すす)む事(こと)が出来(でき)ない嶮要(けんえう)の地(ち)である。
037 幾百丈(いくひやくぢやう)とも知(し)れぬ山(やま)の頂(いただ)きに天然(てんねん)に架(か)け渡(わた)された石橋(いしばし)、038眼下(がんか)を流(なが)るる谷川(たにがは)の水(みづ)は淙々(そうそう)として四辺(あたり)に響(ひび)き、039自(おのづか)ら凄惨(せいさん)の気(き)に打(う)たるる許(ばか)りである。040玉治別(たまはるわけ)はこの橋(はし)の前(まへ)に着(つ)くや否(いな)や、041頓狂(とんきやう)な声(こゑ)を出(だ)して、
042玉治別『ヨー要害(えうがい)堅固(けんご)の絶所(ぜつしよ)だ。043アルプス教(けう)の奴(やつ)、044中々(なかなか)良(よ)い地点(ちてん)を撰(えら)んで関所(せきしよ)にしやがつたものだなア。045我(わが)恋(こひ)は深谷川(ふかたにがは)の鬼(おに)かけ橋(ばし)、046渡(わた)るは怖(こは)し、047渡(わた)らねば、048恋(こひ)しと思(おも)ふ鷹依姫(たかよりひめ)の鬼婆(おにば)アさんに会(あ)はれない』
049と無駄口(むだぐち)を叩(たた)きながら半分(はんぶん)許(ばか)り進(すす)んで行(い)つた。050どうした機(はづみ)か、051さしもに長(なが)い石橋(いしばし)は、052中程(なかほど)より脆(もろ)くも折(を)れて、053橋(はし)と共(とも)に玉治別(たまはるわけ)は深(ふか)き谷間(たにま)に顛落(てんらく)し、054泡立(あわだ)つ淵(ふち)にドブンと、055落(お)ち込(こ)んで仕舞(しま)つた。
056 竜国別(たつくにわけ)、057国依別(くによりわけ)は此(この)変事(へんじ)に胆(きも)を潰(つぶ)し、
058竜国別『ヤア、059国(くに)さん、060何(ど)うしよう何(ど)うしよう』
061と顔(かほ)を見合(みあは)して驚(おどろ)きの浪(なみ)に打(う)たれて居(ゐ)る。
062国依別『今日(けふ)は何(なん)となしに気分(きぶん)の悪(わる)い日(ひ)だと思(おも)つて、063石生(いそ)の里(さと)から馬(うま)を放(う)ちやり、064三(さん)人(にん)が斯(か)うしてテクついて来(き)たが、065まアまア結構(けつこう)だつた。066馬(うま)にでも乗(の)つて居(を)らうものなら玉治別(たまはるわけ)と一緒(いつしよ)に馬(うま)も死(し)んで仕舞(しま)ふところだつた』
067竜国別『何(なに)を云(い)つて居(ゐ)るのだ。068馬(うま)位(くらゐ)死(し)んだつて諦(あきら)めがつくが、069肝腎(かんじん)の玉治別(たまはるわけ)を谷底(たにそこ)へ落(おと)して仕舞(しま)つて詮(つま)らぬぢやないか。070何(なん)とか考(かんが)へねばなるまい。071馬(うま)と同(おな)じやうに取扱(とりあつか)はれては玉治別(たまはるわけ)も可憐(かはい)さうだ』
072国依別『アヽさうだつた。073余(あま)り吃驚(びつくり)して狼狽(うろた)へたのだ。074サア川下(かはしも)へいつて、075何処(どこ)かの岩石(がんせき)に宿泊(しゆくはく)して居(を)るだらうから、076肉体(にくたい)なと探(さが)してやらねばなるまい』
077と早(はや)くも引返(ひきかへ)す。078竜国別(たつくにわけ)も後(あと)についてトントンと四五丁(しごちやう)ばかり引返(ひきかへ)し、079谷川(たにがは)を彼方(あちら)此方(こちら)と眼配(めくば)り、080捜索(そうさく)し始(はじ)めた。
081 いくら探(さが)しても影(かげ)も形(かたち)もない。082二人(ふたり)は途方(とはう)に暮(く)れて施(ほどこ)すべき手段(てだて)もなく、083悔(くや)し涙(なみだ)に暮(く)れて居(ゐ)る。084二三丁(にさんちやう)下手(しもて)の方(はう)より、
085『オーイ オーイ』
086と呼(よ)ぶ者(もの)がある。087二人(ふたり)は、
088竜国別、国依別『ハテなア、089聞(き)き覚(おぼ)えのある言霊(ことたま)だ』
090と声(こゑ)する方(はう)に向(むか)つて駆出(かけだ)した。
091 見(み)れば玉治別(たまはるわけ)は、092谷川(たにがは)の中(なか)に立(た)つ大岩石(だいがんせき)ホテルの露台(ろだい)の上(うへ)にて、093着物(きもの)を一生(いつしやう)懸命(けんめい)にしぼつて居(ゐ)る。
094竜国別『オー、095お前(まへ)は玉治別(たまはるわけ)ぢやないか。096何(なに)か変(かは)つた事(こと)はなかつたかなア』
097玉治別(たまはるわけ)『変(かは)つた事(こと)が大(おほ)ありだ。098堂々(だうだう)たる天下(てんか)の宣伝使(せんでんし)がお通(とほ)り遊(あそ)ばしたものだから、099あれだけの大(おほ)きい石(いし)の橋(はし)が脆(もろ)くも折(を)れよつて、100忽(たちま)ち玉治別(たまはるわけ)のプロパガンデイストは、101数千丈(すうせんぢやう)の空中(くうちう)滑走(くわつそう)を旨(うま)く演(えん)じ、102無事(ぶじ)御(ご)着水(ちやくすゐ)、103直(す)ぐ谷川(たにがは)の水(みづ)に送(おく)られて殆(ほとん)ど下流(かりう)十丁(じつちやう)許(ばか)り、104忽(たちま)ち変(かは)る男(をとこ)の洗濯婆(せんたくば)アさま、105今(いま)濡(ぬ)れ衣(ぎぬ)を圧搾(あつさく)して居(ゐ)る最中(さいちう)だ、106アハヽヽヽ』
107と平気(へいき)で笑(わら)つて居(ゐ)る。
108国依別『オイ、109貴様(きさま)は真実(ほんと)の玉治別(たまはるわけ)ではあるまい。110あれだけ高(たか)い石橋(いしばし)から顛倒(てんたふ)し、111谷底(たにそこ)の深淵(ふかぶち)へ墜落(つゐらく)しながら、112そんな平気(へいき)な顔(かほ)して居(を)れる筈(はず)がない。113大方(おほかた)貴様(きさま)は化州(ばけしう)だらう。114オイ竜国別(たつくにわけ)、115ちつと合点(がてん)が行(ゆ)かぬぢやないか』
116竜国別『アヽさうだ。117彼奴(あいつ)は何(なに)かの変化(へんげ)であらうよ』
118と矢庭(やには)に眉毛(まゆげ)に唾(つばき)をつけて居(ゐ)る。
119玉治別『実際(じつさい)は玉治別(たまはるわけ)は死(し)んだのだ。120大岩石(だいがんせき)と共(とも)に墜落(つゐらく)し、121五体(ごたい)は木(こ)つ端(ぱ)微塵(みぢん)、122流血(りうけつ)淋漓(りんり)として谷水(たにみづ)を紅(あけ)に染(そ)め、123忽(たちま)ち変(かは)るインフエルノの血(ち)の河(かは)となつたと思(おも)ひきや、124まアざつと此(こ)の通(とほ)り御(ご)壮健体(さうけんたい)だ。125オイ竜(たつ)、126国(くに)の両人(りやうにん)、127お前(まへ)も橋(はし)は無(な)いが、128あの橋詰(はしづめ)から一辺(いつぺん)飛(と)び込(こ)んで見(み)よ、129随分(ずゐぶん)愉快(ゆくわい)だよ』
130竜国別『益々(ますます)怪(け)しからん事(こと)を云(い)ふ奴(やつ)だ。131オイ国依別(くによりわけ)、132も少(すこ)し下(しも)を探(さが)して死骸(しがい)でも拾(ひろ)うて帰(かへ)らうぢやないか』
133玉治別『お前(まへ)の探(さが)す肝腎(かんじん)の玉(たま)は、134この岩上(がんじやう)に洗濯爺(せんたくぢい)となつて鎮座(ちんざ)坐(ま)しますのを知(し)らぬのか。135お前(まへ)の考(かんが)へはタマで間違(まちが)つて居(ゐ)る。136玉治別(たまはるわけ)の宣伝使(せんでんし)が二人(ふたり)もあつてたまるものかい。137死骸(しがい)を探(さが)すと云(い)うても、138死(し)なぬ者(もの)の死骸(しがい)が何処(どこ)にあるか。139そんな至難(しなん)の業(わざ)はよしにせよ。140苦労(くらう)の仕甲斐(しがひ)がないぞよ、141アハヽヽヽ』
142竜国別(たつくにわけ)『本当(ほんたう)に玉治別(たまはるわけ)に間違(まちが)ひは無(な)からうかのう、143国依別(くによりわけ)』
144玉治別『間違(まちが)ひがあつて耐(たま)らうかい。145俺(おれ)はお勝(かつ)の婿(むこ)の元(もと)の田吾作(たごさく)だ。146これでもまだ疑(うたが)ふのか。147今(いま)の人民(じんみん)は薩張(さつぱり)悪(あく)の心(こころ)になりて仕舞(しま)うて居(を)るから、148疑(うたがひ)がきつうて何(なに)を云(い)うても誠(まこと)に致(いた)さず、149神(かみ)も迷惑(めいわく)致(いた)すぞよ。150改心(かいしん)なされよ。151改心(かいしん)致(いた)せば盲(めくら)も目(め)があき、152聾(つんぼ)も耳(みみ)が聞(きこ)えるやうになるぞよ。153灯台下(とうだいもと)は真闇(まつくら)がり、154目(め)の前(まへ)に居(を)る友達(ともだち)の真偽(しんぎ)が分(わか)らぬとは良(よ)くも此処(ここ)まで曇(くも)つたものだぞよ。155玉治別(たまはるわけ)の神(かみ)も、156今(いま)の人民(じんみん)さまには往生(わうじやう)致(いた)すぞよ。157余(あんま)り鼻(はな)を高(たか)う致(いた)すと、158鼻(はな)が邪魔(じやま)して上(うへ)も見(み)えず、159向(むか)ふも見(み)えず、160足許(あしもと)は尚(なほ)見(み)えぬやうになつて仕舞(しま)ふぞよ。161開(あ)いた口(くち)が塞(ふさ)がらぬ、162煎豆(いりまめ)に花(はな)の咲(さ)いたやうな結構(けつこう)な御(ご)神徳(しんとく)が、163目(め)の前(まへ)にぶらついて居(を)りながら、164灯台下(とうだいもと)は真闇(まつくら)がり、165ほんに可憐(かはい)さうなものであるぞよ。166改心(かいしん)なされよ。167改心(かいしん)致(いた)せば其(その)日(ひ)から目(め)も見(み)えるぞよ。168身魂(みたま)も光(ひか)り出(だ)すぞよ。169二人(ふたり)のお方(かた)疑(うたが)ひ晴(は)らして下(くだ)されよ。170玉治別(たまはるわけ)の幽(いう)宣伝使(せんでんし)に間違(まちが)ひはないぞよ。171これが違(ちが)うたら神(かみ)は此(この)世(よ)に居(を)らぬぞよ。172余(あんま)り慢心(まんしん)致(いた)して宣伝使(せんでんし)が馬(うま)に乗(の)つたり致(いた)すから、173神罰(しんばつ)を蒙(かうむ)つて、174結構(けつこう)な神(かみ)のかけた橋(はし)を折(を)られ、175谷川(たにがは)に落(おと)されてアフンと致(いた)さなならぬと云(い)ふ実地(じつち)正真(しやうまつ)を見(み)せてやつたのであるぞよ。176高姫(たかひめ)や黒姫(くろひめ)を見(み)て改心(かいしん)なされよ。177結構(けつこう)な二本(にほん)の足(あし)を神界(しんかい)から頂(いただ)きながら、178偉(えら)さうに飛行船(ひかうせん)に乗(の)つて、179悪魔(あくま)の征服(せいふく)なぞと云(い)つて出(で)かけるものだから、180今(いま)に行衛(ゆくゑ)が知(し)れぬではないか。181其(その)方(はう)等(ら)は神(かみ)の御用(ごよう)を致(いた)す宣伝使(せんでんし)だ。182鑑(かがみ)は何程(いくら)でも出(だ)してあるから、183鑑(かがみ)を見(み)て改心(かいしん)致(いた)されよ。184この玉治別(たまはるわけ)は誠(まこと)に結構(けつこう)な神(かみ)が守護(しゆご)して御座(ござ)るぞよ。185明神(みやうじん)の高倉(たかくら)、186旭(あさひ)を眷属(けんぞく)と致(いた)して、187身代(みがは)りに立(た)てたぞよ。188人民(じんみん)の知(し)らぬ事(こと)であるぞよ、189アハヽヽヽ』
190国依別『オイオイ田吾作(たごさく)、191馬鹿(ばか)にするない。192貴様(きさま)は稲荷(いなり)ぢやないか。193稲荷(いなり)なら稲荷(いなり)ではつきりと云(い)へ、194俺(おれ)はこれから貴様(きさま)の審神(さには)をしてやるから、195早(はや)く素直(すなほ)に往生(わうじやう)致(いた)さぬと取(と)り返(かへ)しのつかぬ事(こと)が出来(しゆつたい)致(いた)すぞよ。196ジリジリ悶(もだ)え致(いた)しても後(あと)の祭(まつ)り、197苦(くる)しむのを見(み)るのが国依別(くによりわけ)は可憐(かわい)さうなから、198気(け)もない中(うち)から気(き)をつけるぞよ。199お前(まへ)は俺(おれ)の妹(いもうと)のお勝(かつ)の婿(むこ)に化(ば)けて居(ゐ)るが、200早(はや)く往生(わうじやう)致(いた)して改心(かいしん)致(いた)せばよし、201余(あま)り我(が)を張通(はりとほ)すと、202神界(しんかい)の規則(きそく)に照(て)らして帳(ちよう)を切(き)るぞよ、203外国(ぐわいこく)行(ゆ)きに致(いた)すぞよ』
204竜国別『こらこら何(なに)を云(い)ふのだ。205彼方(あちら)にも此方(こちら)にも、206しようもない神懸(かむがかり)をやりよつて、207俺(おれ)を馬鹿(ばか)にするのか』
208玉治別『神(かみ)は直(ぢ)き直(ぢ)きにものは云(い)はれぬから田吾作(たごさく)の肉体(にくたい)を借(か)りて気(き)をつけるぞよ。209実地(じつち)正真(しやうまつ)の手本(てほん)を見(み)せてあるぞよ。210大本(おほもと)の大橋(おほはし)越(こ)えてまだ先(さき)へ、211行方(ゆくへ)分(わか)らぬ後戻(あともど)り、212慢心(まんしん)すると其(その)通(とほ)り谷底(たにそこ)へ落(おと)されて仕舞(しま)ふぞよ』
213竜国別『エヽ怪体(けつたい)な、214早(はや)く真正(ほんま)ものなら此方(こつち)へ出(で)て来(こ)い』
215玉治別(たまはるわけ)『真正者(ほんまもの)でも贋者(にせもの)でも、216何時(いつ)迄(まで)もこんな所(ところ)に立(た)つて居(を)れるかい。217早(はや)く改心(かいしん)して呉(く)れ、218改心(かいしん)さへ出来(でき)たなら、219神(かみ)はいつでも谷(たに)を渡(わた)つて、220其方(そちら)へ行(い)つてやるぞよ』
221国依別(くによりわけ)『竜公(たつこう)の改心(かいしん)の出来(でき)ぬのは、222度渋太(どしぶと)い豆狸(まめだぬき)の守護神(しゆごじん)であるから、223玉治別(たまはるわけの)神(かみ)様(さま)が御(ご)降臨(かうりん)、224イヤ御(ご)降来(くわうらい)遊(あそ)ばさぬのは無理(むり)もないぞよ。225早(はや)く豆狸(まめだぬき)や、226野天狗(のてんぐ)の守護神(しゆごじん)を放(ほ)り出(だ)して、227神(かみ)様(さま)に貰(もら)うた生粋(きつすゐ)の水晶魂(すゐしやうだま)に磨(みが)いて下(くだ)されよ。228神(かみ)は嘘(うそ)は申(まを)さぬぞよ』
229竜国別(たつくにわけ)『エヽ兄(あに)と弟(おとうと)と寄(よ)りよつて、230此(この)谷底(たにそこ)で竜国別(たつくにわけ)を馬鹿(ばか)にするのか』
231玉治別(たまはるわけ)『馬鹿(ばか)にし度(た)いは山々(やまやま)なれども、232頂上(ちやうじやう)に達(たつ)した完全(くわんぜん)な馬鹿(ばか)だから、233此(この)上(うへ)もう馬鹿(ばか)にしようがないので、234玉(たま)もたまらぬから神(かみ)も胸(むね)を痛(いた)めて居(を)るぞよ』
235 竜国別(たつくにわけ)、236自暴自棄(やけくそ)になつて、
237竜国別『余(あま)り此(この)世(よ)が上(のぼ)りつめて、238悪魔(あくま)計(ばか)りの世(よ)になりて、239神(かみ)は三千(さんぜん)年(ねん)の苦労(くらう)艱難(かんなん)致(いた)して此(この)世(よ)に現(あら)はれて見(み)たなれど、240余(あんま)り其処辺(そこら)中(ぢう)が穢(むさくる)しうて、241足(あし)突(つ)つこむ所(ところ)も、242指一本(ゆびいつぽん)押(おさ)へる処(ところ)もありは致(いた)さぬぞよ。243余(あんま)り此(この)豆狸(まめだぬき)の身魂(みたま)が世界(せかい)を曇(くも)らしたによつて、244神(かみ)が仕組(しぐみ)を致(いた)して、245玉治別(たまはるわけ)の身魂(みたま)を懲戒(みせしめ)のために、246折(を)れる筈(はず)のない石橋(いしばし)をポキンと折(を)つて、247神力(しんりき)を現(あら)はし、248身魂(みたま)の洗濯(せんたく)をして見(み)せたぞよ。249曇(くも)つた世(よ)の中(なか)にも、250一人(ひとり)や二人(ふたり)は誠(まこと)の者(もの)があらうかと思(おも)うて、251鉄(かね)の草鞋(わらぢ)が破(やぶ)れる処(ところ)迄(まで)探(さが)して見(み)たが、252唯(たつ)た一人(ひとり)誠(まこと)の者(もの)が現(あら)はれたぞよ。253之(これ)を地(ぢ)に致(いた)して三千(さんぜん)世界(せかい)の立替(たてかへ)立直(たてなほ)しを致(いた)すのであるぞよ。254竜国別(たつくにわけ)の身魂(みたま)は誠(まこと)に結構(けつこう)な因縁(いんねん)の身魂(みたま)であるから、255神(かみ)が懸(うつ)りて何彼(なにか)の事(こと)を知(し)らさねばならぬから、256長(なが)らく御(ご)苦労(くらう)になりて居(を)るぞよ。257糞糟(くそかす)に落(お)ちて居(を)りて下(くだ)されと神(かみ)が申(まを)したら、258一言(ひとこと)も背(そむ)かずに竜国別(たつくにわけ)が聞(き)いて下(くだ)されたおかげによつて、259神(かみ)の大望(たいもう)成就(じやうじゆ)致(いた)したぞよ。260それについても因縁(いんねん)の悪(わる)い身魂(みたま)は玉治別(たまはるわけ)、261国依別(くによりわけ)のガラクタであるぞよ。262此(この)身魂(みたま)さへ改心(かいしん)致(いた)せば世界(せかい)は一度(いちど)に改心(かいしん)致(いた)すぞよ。263此(この)御(おん)方(かた)は誠(まこと)に結構(けつこう)な清(きよ)く尊(たふと)い偉(えら)い立派(りつぱ)な、264世界(せかい)にもう一人(ひとり)とない生粋(きつすゐ)の根本(こつぽん)の元(もと)の分霊(わけみたま)であるから、265神(かみ)が懸(うつ)りて大望(たいまう)な御用(ごよう)が仰(あふ)せつけてあるぞよ。266世界(せかい)の者(もの)よ、267竜国別(たつくにわけ)の行(おこな)ひを見(み)て改心(かいしん)致(いた)されよ』
268玉治別『アハヽヽヽ、269何奴(どいつ)も此奴(こいつ)も皆(みな)神懸(かむがかり)の真似(まね)ばかりしよるわい。270サアサアこんな人足(にんそく)に相手(あひて)になつて居(を)れば日(ひ)が暮(く)れる。271一遍(いつぺん)出直(でなほ)して、272再(ふたた)び出陣(しゆつぢん)しようかい』
273と、274濡(ぬ)れた着物(きもの)を脇(わき)に拘(かか)へ、275真裸(まつぱだか)のまますたすたと谷(たに)の流(なが)れを此方(こちら)に渡(わた)り、276坂道(さかみち)を谷(たに)沿(ぞ)ひに下(くだ)り行(ゆ)く。277二人(ふたり)は、
278竜国別、国依別『オーイ待(ま)て』
279と後(あと)を追(お)ふ。
280 折(をり)から俄(にはか)に黒雲(くろくも)塞(ふさ)がり、281咫尺(しせき)も弁(べん)ぜざるに至(いた)つた。282玉治別(たまはるわけ)は、
283玉治別『オーイオーイ二人(ふたり)の奴(やつ)、284俺(おれ)の声(こゑ)を目当(めあて)について来(こ)い』
285と力(ちから)一杯(いつぱい)呶鳴(どな)り立(た)てる。
286竜国別(たつくにわけ)『アヽ吃驚(びつくり)した。287何(なん)だい、288夜中(よなか)に夢(ゆめ)を見(み)やがつて、289大(おほ)きな声(こゑ)を出(だ)しよつて、290寝(ね)られぬぢやないか』
291国依別(くによりわけ)『アヽ俺(おれ)もエライ夢(ゆめ)を見(み)て居(を)つた。292玉公(たまこう)の奴(やつ)、293鬼(おに)の懸橋(かけはし)から谷川(たにがは)に顛落(てんらく)し、294軈(やが)て仕様(しやう)もない事(こと)を口走(くちばし)りよつたと思(おも)つたら、295何(なん)だ、296夢(ゆめ)だつたか。297錦(にしき)の宮(みや)の高殿(たかどの)に七五三(しちごさん)の太鼓(たいこ)が鳴(な)りかけた。298サア早(はや)くお礼(れい)をして、299言依別(ことよりわけ)様(さま)の夜前(やぜん)俺(おれ)達(たち)に云(い)ひつけられた高春山(たかはるやま)征伐(せいばつ)に向(むか)はうぢやないか』
300 折(をり)からの風(かぜ)に小雲川(こくもがは)の水瀬(みなせ)の音(おと)は手(て)に取(と)る如(ごと)く耳(みみ)に入(い)る。
301言依別(ことよりわけ)の御言(みこと)もて
302聖地(せいち)を後(あと)に竜国別(たつくにわけ)の
303神(かみ)の命(みこと)の宣伝使(せんでんし)
304心(こころ)の玉治別(たまはるわけ)司(つかさ)
305国依別(くによりわけ)を伴(ともな)ひて
306小雲(こくも)の流(なが)れを溯(さかのぼ)り
307高春山(たかはるやま)の鬼神(おにがみ)を
308征服(せいふく)せむと出(い)で行(ゆ)きし
309高姫(たかひめ)黒姫(くろひめ)両人(りやうにん)を
310助(たす)けにや山家(やまが)の肥後(ひご)の橋(はし)
311膝(ひざ)の栗毛(くりげ)に鞭(むち)打(う)ちて
312草鞋(わらぢ)脚絆(きやはん)に身(み)を固(かた)め
313菅(すげ)の小笠(をがさ)の草(くさ)や蓑(みの)
314巡礼姿(じゆんれいすがた)に身(み)を窶(やつ)し
315谷(たに)を伝(つた)ひてテクテクと
316須知(しうち)蒲生野(がまふの)ケ原(はら)を過(す)ぎ
317観音峠(くわんのんたうげ)も乗(の)り越(こ)えて
318教(をしへ)の花(はな)の咲(さ)き匂(にほ)ふ
319珍(うづ)の園部(そのべ)や小山郷(をやまがう)
320翼(つばさ)なけれど鳥羽(とば)の里(さと)
321道(みち)も広瀬(ひろせ)の川伝(かはづた)ひ
322高城山(たかしろやま)を右手(めて)に見(み)て
323名(な)さへ目出度(めでた)き亀山(かめやま)の
324珍(うづ)の館(やかた)に着(つ)きにける。
325 此処(ここ)には梅照彦(うめてるひこ)、326梅照姫(うめてるひめ)の二人(ふたり)、327言依別(ことよりわけの)命(みこと)の命(めい)を奉(ほう)じ、328小(ささ)やかな館(やかた)を建(た)て、329教(をしへ)を遠近(をちこち)に伝(つた)へて居(ゐ)た。330三(さん)人(にん)の姿(すがた)に驚(おどろ)いて梅照姫(うめてるひめ)は奥(おく)に駆入(かけい)り、
331梅照姫『モシモシ御(ご)主人(しゆじん)様(さま)、332妙(めう)な男(をとこ)が三(さん)人(にん)やつて来(き)ました。333さうして門口(かどぐち)に立(た)つて動(うご)きませぬ。334どう致(いた)しませうか』
335梅照彦『誰人(どなた)か知(し)らぬが、336服装(ふう)が悪(わる)くつても、337如何(いか)なる神(かみ)様(さま)が化(ば)けて御座(ござ)るか知(し)れないから、338鄭重(ていちよう)にお迎(むか)へ申(まを)したらよからう』
339 梅照姫(うめてるひめ)は召使(めしつかひ)の春公(はるこう)を招(まね)き、
340梅照姫『何人(どなた)か門(もん)に来(き)て居(を)られる筈(はず)だから、341鄭重(ていちやう)にお迎(むか)へ申(まを)して来(き)なさい』
342春公『承知(しようち)致(いた)しました』
343と門口(かどぐち)に走(はし)つて出(で)た。344春公(はるこう)は其処(そこら)をきよろきよろ見廻(みまは)しながら独言(ひとりごと)。
345春公『庭長(ていちやう)にせよと仰有(おつしや)るから迎(むか)ひに出(で)たが、346誰(たれ)も居(ゐ)やせぬぢやないか。347乞食(こじき)が三(さん)人(にん)居(を)る計(ばか)りで、348大切(たいせつ)なお客(きやく)さまは見(み)えはせぬ。349ハヽア、350もう、351つい御座(ござ)るのであらう。352オイ其処(そこ)な乞食(こじき)共(ども)、353其処(そこ)退(ど)いて呉(く)れ。354唯今(ただいま)庭長(ていちやう)さまがお越(こ)しになるのだから、355お前(まへ)のやうな乞食(こじき)が門口(かどぐち)に立(た)つて居(ゐ)ると、356見(み)つとも好(よ)くない。357サアサア何処(どこ)かへ往(い)つたり往(い)つたり』
358竜国別(たつくにわけ)『貴方(あなた)は当家(たうけ)の召使(めしつかひ)ですか。359梅照彦(うめてるひこ)は居(を)られますかな』
360春公『エヽ何(なに)をごてごて云(い)ふのだ。361人(ひと)を見下(みさ)げて召使(めしつかひ)かなんて、362其様(そん)なものとはちつと違(ちが)ふのだ』
363竜国別(たつくにわけ)『然(しか)らば貴方(あなた)は当家(たうけ)の御(ご)主人(しゆじん)ですか』
364春公『マアマア何(ど)うでもよいわい。365どつちかの中(うち)ぢや』
366竜国別『御(ご)主人(しゆじん)とあれば、367一寸(ちよつと)承(うけたま)はり度(た)い事(こと)があつて参(まゐ)りました』
368春公『そんな者(もの)に当家(たうけ)の主人(しゆじん)は用(よう)が無(な)いわい。369早(はや)く何処(どこ)かへ退散(たいさん)せぬか。370今(いま)庭長(ていちやう)さまがお越(こ)しになるのだ。371邪魔(じやま)を致(いた)すと此(この)箒(はうき)で撲(なぐ)りつけるぞ』
372玉治別(たまはるわけ)『これや、373お前(まへ)は此処(ここ)の召使(めしつかひ)だらう。374下男(しもをとこ)だらう。375門前(もんぜん)に三(さん)人(にん)の宣伝使(せんでんし)が見(み)えて居(ゐ)るのに主人(しゆじん)にも取(と)り次(つ)がず、376追(お)ひ出(だ)すと云(い)ふ事(こと)があるものか。377早(はや)く取(と)り次(つ)いで呉(く)れ』
378春公『取(と)り次(つ)がぬ事(こと)もないが、379今日(けふ)は俄(にはか)にお取込(とりこ)みが出来(でき)たのだ。380庭長(ていちやう)さまがお出(いで)になるのだから、381何(いづ)れ御(ご)馳走(ちそう)をせなくてはならぬ、382さうすれば又(また)ちつとは余(あま)るから、383明日(あした)除(の)けて置(お)いてやるから、384更(あらた)めて出(で)て来(こ)い。385それ迄(まで)其辺(そこら)うちを迂路(うろ)ついて、386今日(けふ)はまア他家(よそ)で貰(もら)ふが好(よ)からう』
387玉治別(たまはるわけ)『お前(まへ)は我々(われわれ)を乞食(こじき)と見(み)て居(ゐ)るのだなア。388それや余(あんま)りぢやないか』
389春公『余(あんま)りも糞(くそ)もあつたものかい。390縦(たて)から見(み)ても、391横(よこ)から見(み)ても乞食(こじき)に間違(まちが)ひはない。392余(あんま)りぢやと云(い)うたが、393今日(けふ)は御(ご)馳走(ちそう)が余(あんま)るとも余(あんま)らぬとも見当(けんたう)がつかぬ。394明日(あす)出(で)て来(こ)い。395屹度(きつと)握(にぎ)り飯(めし)のあんまりを一(ひと)つ位(くらゐ)は俺(おれ)がそつと除(の)けて置(お)いてやる。396貴様(きさま)も腹(はら)が空(へ)つとるだらうが、397まア辛抱(しんばう)をして居(を)れ。398俺(おれ)だつて生(うま)れつきの悪人(あくにん)ぢやない。399つい十日(とをか)程(ほど)前(まへ)まで、400乞食(こじき)に歩(ある)いて、401道(みち)の端(はた)で飢(うゑ)に迫(せま)り倒(たふ)れて居(を)つたところ、402此家(ここ)の主人(しゆじん)が拾(ひろ)ひ上(あ)げて下(くだ)さつたのだから何処迄(どこまで)も大切(たいせつ)に此(この)門(もん)を守(まも)らねばならぬのだ。403何卒(どうぞ)頼(たの)みだから暫(しばら)く他家(よそ)へ行(い)つて居(ゐ)て呉(く)れ。404今(いま)庭長(ていちやう)さまがお見(み)えになるのだ。405若(も)しその庭長(ていちやう)さまが、406此(この)家(いへ)の主人(しゆじん)にでも何(なに)かの端(はし)に、407此方(こなた)の門口(かどぐち)には乞食(こじき)が三(さん)人(にん)立(た)つて居(ゐ)ましたと云(い)はつしやらうものなら、408それこそ俺(おれ)は此(この)家(や)を放(ほ)り出(だ)されて又(また)元(もと)の乞食(こじき)になり、409お前(まへ)等(たち)の仲間(なかま)に逆転(ぎやくてん)せなくてはならぬから、410何(ど)うぞここは俺(おれ)を助(たす)けると思(おも)つて、411暫(しばら)く退却(たいきやく)して呉(く)れ。412乞食(こじき)の味(あぢ)は俺(おれ)もよく知(し)つて居(を)る。413辛(つら)いものだ。414本当(ほんたう)に同情(どうじやう)するよ。415訳(わけ)の分(わか)らぬ無慈悲(むじひ)の奴(やつ)だと恨(うら)めて呉(く)れな』
416 国依別(くによりわけ)は大声(おほごゑ)を発(はつ)し、
417国依別『梅照彦(うめてるひこ) 々々々(うめてるひこ)』
418と呶鳴(どな)つた。419春(はる)は吃驚(びつくり)して、
420春公『コラコラ、421そんな非道(ひど)い事(こと)を云(い)ふものぢやない。422俺(おれ)が叱(しか)られるぢやないか。423乞食(こじき)が云(い)うたと思(おも)はずに、424俺(おれ)が主人(しゆじん)を呼(よ)び捨(す)てにしたやうにとられては耐(たま)らぬぢやないか。425些(ちつ)とは俺(おれ)の身(み)にもなつて呉(く)れ』
426 竜(たつ)、427玉(たま)、428国(くに)の三(さん)人(にん)の宣伝使(せんでんし)は一(いち)時(じ)に声(こゑ)を揃(そろ)へて、
429三人『梅照彦(うめてるひこ) 々々々(うめてるひこ)』
430と呶鳴(どな)り付(つ)ける。431春(はる)は、
432春公『やアこいつは耐(たま)らぬ、433ぢやと云(い)うて人(ひと)の口(くち)に戸(と)を立(た)てる訳(わけ)にも行(ゆ)かないわ。434一(ひと)つ奥(おく)へ行(い)つて言(い)ひ訳(わけ)をして来(こ)う』
435とバタバタと奥(おく)に駆込(かけこ)む。436梅照彦(うめてるひこ)は人待顔(ひとまちがほ)にて、
437梅照彦『お客(きやく)さまはどうなつたか。438早(はや)くこちらへ御(ご)案内(あんない)せぬか』
439春公『イヤ、440未(ま)だ見(み)えませぬ。441何(ど)うしてこんなに遅(おそ)いのでせうなア』
442梅照彦『今(いま)何(なん)だか大勢(おほぜい)の声(こゑ)がしたではないか』
443春公『あれは乞食(こじき)が歌(うた)を歌(うた)つて御(ご)門前(もんぜん)を通(とほ)つたのですよ』
444梅照彦『お前(まへ)の声(こゑ)ではなかつたかな』
445春公『イエイエ滅相(めつさう)もない、446誰人(だれ)が御(ご)主人(しゆじん)様(さま)を梅照彦(うめてるひこ)なんて呼(よ)びつけに致(いた)しますものか。447何(なん)でも貴方(あなた)のお名(な)を知(し)つて居(を)る乞食(こじき)が云(い)つたのでせう』
448梅照彦『ハテナ、449それでも今(いま)妻(つま)が、450門口(かどぐち)に三(さん)人(にん)のお方(かた)が門(もん)を開(あ)けて呉(く)れと云(い)つてお待(ま)ちになつて居(ゐ)ると云(い)うて居(ゐ)た。451今(いま)御飯(ごぜん)の仕度(こしらへ)をすると云(い)つて炊事場(すゐじば)の方(はう)にいきよつたが、452もうお客(きやく)さまは帰(かへ)つて仕舞(しま)はれたのかなア』
453春公『イヽエ、454まだお客(きやく)さまは見(み)えませぬ。455唯(ただ)三(さん)人(にん)の見(み)すぼらしい乞食(こじき)が、456蓑笠(みのかさ)を着(き)て、457門(もん)の傍(はた)に立(た)つて居(を)ります』
458梅照彦『何(なに)、459まだ立(た)つて居(を)られるか』
460春公『御(ご)主人(しゆじん)様(さま)、461貴方(あなた)はあんな乞食(こじき)に丁寧(ていねい)な言葉(ことば)をお使(つか)ひになるのですなア』
462梅照彦『乞食(こじき)だつて誰人(だれ)だつて、463同(おな)じ神(かみ)様(さま)から生(うま)れた人間(にんげん)だ。464丁寧(ていねい)に致(いた)さねばならぬではないか』
465春公『それでも私(わたし)に対(たい)しては余(あま)り丁寧(ていねい)ぢやありませぬな。466いつも春(はる)、467春(はる)と呼(よ)びつけになさるでせう』
468梅照彦『そんならこれから、469春(はる)さまと云(い)つたらお気(き)に入(い)りますかなア』
470春公『御尤(ごもつと)もでございますなア』
471 斯(か)く話(はな)す折(をり)しも、472門口(かどぐち)から宣伝歌(せんでんか)が聞(きこ)え来(きた)る。
473(玉治別)『神(かみ)が表(おもて)に現(あら)はれて
474善(ぜん)と悪(あく)とを立(た)て別(わ)ける
475此(この)世(よ)を造(つく)りし神直日(かむなほひ)
476心(こころ)も広(ひろ)き大直日(おほなほひ)
477唯(ただ)何事(なにごと)も人(ひと)の世(よ)は
478直日(なほひ)に見直(みなほ)せ聞(き)き直(なほ)せ
479身(み)の過(あやま)ちは宣(の)り直(なほ)す
480三五教(あななひけう)の神(かみ)の教(のり)
481四方(よも)に伝(つた)ふる亀山(かめやま)の
482珍(うづ)の館(やかた)を守(まも)り居(ゐ)る
483梅照彦(うめてるひこ)の門(もん)の前(まへ)
484遥々(はるばる)訪(たづ)ね来(き)て見(み)れば
485佇(たたず)み居(ゐ)たる山(やま)の神(かみ)
486我(われ)等(ら)の姿(すがた)を見(み)るよりも
487踵(きびす)を返(かへ)し奥(おく)に入(い)る
488嗚呼(ああ)訝(いぶ)かしや訝(いぶ)かしや
489主人(あるじ)の妻(つま)か下婢(はしため)か
490不思議(ふしぎ)と門(かど)に立(た)ち止(ど)まり
491門(もん)の開(ひら)くを待(ま)つうちに
492躍(をど)り出(いで)たる下男(しもをとこ)
493我(われ)等(ら)の前(まへ)に竹箒(たけばうき)
494掃出(はきだ)すやうな捨言葉(すてことば)
495庭長(ていちやう)さまが来(きた)るまで
496帰(かへ)つて呉(く)れいと頑張(がんば)つて
497又(また)もや門(もん)をピシヤと締(し)め
498蒼惶(さうくわう)姿(すがた)を隠(かく)しけり
499汝(なんぢ)梅照彦(うめてるひこ)司(つかさ)
500三五教(あななひけう)の御教(みをしへ)を
501何(なん)と思(おも)ふか世(よ)の人(ひと)を
502貴賤(きせん)老幼(らうえう)別(わか)ちなく
503救(すく)ひ助(たす)けて皇神(すめかみ)の
504教(をしへ)の徳(とく)に靡(なび)かせつ
505世人(よびと)を守(まも)る神司(かむづかさ)
506世(よ)にも尊(たふと)き天職(てんしよく)を
507もはや汝(なんぢ)は忘(わす)れしか
508神(かみ)の教(をしへ)を笠(かさ)に着(き)て
509体主(たいしゆ)霊従(れいじう)利己(りこ)主義(しゆぎ)を
510発揮(はつき)し居(を)るは三五(あななひ)の
511神(かみ)の教(をしへ)に非(あら)ずして
512バラモン教(けう)の行(や)り方(かた)ぞ
513我(われ)は御国(みくに)を救(すく)はむと
514晨(あした)の風(かぜ)や夕(ゆふ)の雨(あめ)
515そぼち濡(ぬ)れつつ高春(たかはる)の
516山(やま)に向(むか)うてアルプスの
517神(かみ)の教(をしへ)の司(つかさ)なる
518鷹依姫(たかよりひめ)を言向(ことむ)けて
519世人(よびと)を救(すく)ふ神柱(かむばしら)
520言依別(ことよりわけ)の御言(みこと)もて
521漸(やうや)う此処(ここ)に来(きた)りしぞ
522汝(なんぢ)が日頃(ひごろ)のやり方(かた)は
523今(いま)現(あら)はれた下男(しもをとこ)
524言葉(ことば)の端(はし)によく見(み)える
525貴(たふと)き衣(きぬ)を身(み)に纏(まと)ひ
526表面(うはべ)を飾(かざ)る曲人(まがびと)を
527喜(よろこ)び迎(むか)へ入(い)れながら
528服装(みなり)卑(いや)しき我々(われわれ)を
529唯(ただ)一言(ひとくち)に膠(にべ)もなく
530追(お)ひ帰(かへ)さむと努(つと)むるは
531全(まつた)く汝(そなた)が指金(さしがね)か
532但(ただし)は下男(しもべ)の誤(あやま)りか
533詳細(つぶさ)に御(お)答(こた)へ致(いた)されよ
534朝日(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
535月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも
536仮令(たとへ)大地(だいち)は沈(しづ)むとも
537神(かみ)に仕(つか)へし身(み)の上(うへ)は
538如何(いか)なる卑(いや)しき姿(すがた)をも
539如何(いか)なる見悪(みにく)き服装(みなり)せる
540乞食(こじき)の端(はし)に至(いた)るまで
541救(すく)ひ助(たす)けにやおかれまい
542汝(なんぢ)は易(やす)きに狎(な)れ過(す)ぎて
543救(すく)ひの道(みち)を忘(わす)れしか
544神(かみ)は我(われ)等(ら)と倶(とも)にあり
545神(かみ)の勅(みこと)を畏(かしこ)みて
546曲津(まがつ)の征途(せいと)に上(のぼ)り行(ゆ)く
547我(われ)等(ら)一行(いつかう)三人(みたり)連(づ)れ
548竜国別(たつくにわけ)や玉治別(たまはるわけ)
549国依別(くによりわけ)の宣伝使(せんでんし)
550此処(ここ)に暇(いとま)を告(つ)げまつる
551あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
552恩頼(みたまのふゆ)を蒙(かかぶ)りて
553早(は)や暮(く)れかかる冬(ふゆ)の日(ひ)を
554御稜威(みいづ)も高(たか)き高熊(たかくま)の
555御山(みやま)を指(さ)して進(すす)むべし
556梅照彦(うめてるひこ)よ妻神(つまがみ)よ
557随分(ずゐぶん)お健(まめ)でお達者(たつしや)で
558神(かみ)のお道(みち)に尽(つ)くされよ
559私(わたし)はこれにて暇(いとま)乞(ご)ひ
560三人(みたり)の司(つかさ)が凱旋(がいせん)を
561指(ゆび)をり数(かぞ)へて待(ま)つがよい
562さアさア往(ゆ)かうさア往(ゆ)かう
563門前(もんぜん)払(ばら)ひを喰(く)はされて
564余(あま)り嬉(うれ)しうは無(な)けれども
565これも何(なに)かのお仕組(しぐみ)か
566行(ゆ)けるとこ迄(まで)行(い)つて見(み)よう
567決(けつ)して世界(せかい)に鬼(おに)は無(な)い
568三五教(あななひけう)の身(み)の内(うち)に
569梅照彦(うめてるひこ)の鬼(おに)が坐(ま)す
570もしや我(われ)等(ら)の云(い)ふ事(こと)が
571お気(き)に障(さは)れば赦(ゆる)してよ
572あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
573御霊(みたま)の幸(さち)を賜(たま)へかし』
574と玉治別(たまはるわけ)は大声(おほごゑ)にて心(こころ)の丈(たけ)を歌(うた)ひ終(をは)つた。
575 梅照彦(うめてるひこ)は此(この)歌(うた)を聞(き)くや、576驚(おどろ)いて表門(おもてもん)に駆(か)けつけ砂上(しやじやう)に頭(かうべ)を下(さ)げ、
577梅照彦『これはこれは宣伝使(せんでんし)様(さま)で御座(ござ)いましたか。578まことに下男(しもべ)が粗忽(そそう)を致(いた)しまして、579申訳(まをしわけ)が御座(ござ)いませぬ。580さアさアどうぞお這入(はい)り下(くだ)さいませ』
581玉治別(たまはるわけ)『イヤ有難(ありがた)う。582かういふ立派(りつぱ)なお館(やかた)へ乞食(こじき)が這入(はい)りましては、583お館(やかた)の名誉(めいよ)にかかはりますから、584今日(けふ)はまアこれで御免(ごめん)を蒙(かうむ)りませう』
585梅照彦『お腹立(はらだち)御尤(ごもつと)もで御座(ござ)いますが、586つい失礼(しつれい)致(いた)しまして……全(まつた)く下男(しもべ)の業(わざ)で御座(ござ)いますから、587どうぞ許(ゆる)して下(くだ)さいませ。588さアさア御(ご)機嫌(きげん)直(なほ)して、589トツトとお這入(はい)り下(くだ)さいませ。590コレ梅照姫(うめてるひめ)、591春公(はるこう)、592お詫(わび)を申上(まをしあ)げないか』
593と呶鳴(どな)つて居(ゐ)る。594二人(ふたり)は此(この)声(こゑ)に驚(おどろ)いて様子(やうす)は分(わか)らねど、595梅照彦(うめてるひこ)が土下座(どげざ)をして居(ゐ)るのを見(み)て、596自分(じぶん)も同(おな)じく大地(だいち)に平伏(へいふく)して頭(かうべ)を下(さ)げた。
597玉治別(たまはるわけ)『今(いま)貴方(あなた)は下男(しもべ)が悪(わる)いのだと云(い)はれましたな。598決(けつ)して下男(しもべ)ぢやありませぬよ。599責任(せきにん)は矢張(やつぱり)主人(しゆじん)にある。600さう云(い)ふ気(き)のつかない馬鹿(ばか)な男(をとこ)を、601門番(もんばん)にするのが第一(だいいち)過(あやま)りだ』
602梅照彦『ハイ、603何(なん)と仰(あふ)せられましても弁解(べんかい)の辞(ことば)がありませぬ』
604竜国別『サア、605事(こと)が分(わか)れば好(い)いぢやないか。606玉治別(たまはるわけ)、607国依別(くによりわけ)、608お世話(せわ)になりませうかい』
609と先(さき)に立(た)つて進(すす)み入(い)る。610二人(ふたり)もニコニコしながら、
611玉治別、国依別『アヽ、612エライお気(き)を揉(も)ませました。613もうこれで一切(いつさい)の経緯(いきさつ)は帳消(ちやうけし)だ。614さア梅照彦(うめてるひこ)御(ご)夫婦(ふうふ)さま、615春(はる)さま、616何(ど)うぞ安心(あんしん)して下(くだ)さいませ』
617梅照彦『有難(ありがた)う御座(ござ)います』
618と安心(あんしん)の胸(むね)を撫(な)で下(おろ)し、619妻(つま)諸共(もろとも)三(さん)人(にん)の後(あと)に従(つ)いて奥(おく)に入(い)る。620春公(はるこう)は門(もん)の傍(かたはら)に佇立(ちよりつ)し、
621春公『アヽ庭長(ていちやう)さまの御(ご)挨拶(あいさつ)だつた。622お蔭(かげ)で免職(めんしよく)もどうやら免(のが)れたやうだ』
623(大正一一・五・一六 旧四・二〇 加藤明子録)
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