霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一八章 解決(かいけつ)〔六九二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第21巻 如意宝珠 申の巻 篇:第4篇 反復無常 よみ(新仮名遣い):はんぷくむじょう
章:第18章 解決 よみ(新仮名遣い):かいけつ 通し章番号:692
口述日:1922(大正11)年05月21日(旧04月25日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年4月5日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
高姫と黒姫を閉じ込めた岩窟の前にやってきたテーリスタンは、二人に外へ出るように言って錠を開ける。高姫は鷹依姫を言向け和すのだから案内しろ、とテーリスタンに命じる。
道々、高姫はなぜテーリスタンが三五教に味方するようになったかと問いかけた。テーリスタンは、子供ながら二人を岩窟から救い出すためにやってきたお初に降参したのだ、と語る。
高姫は感心しながら鷹依姫の居間にやってきた。高姫は、自分たちを岩窟に閉じ込めて飢えさせた鷹依姫を非難する。鷹依姫は、食事を与えなかったのはテーリスタンとカーリンスだと責任を転嫁し、二人と言い争う。
テーリスタンとカーリンスは、お初に仲裁を頼むが、お初は鷹依姫も、テーリスタンもカーリンスも善人ではないから改心するように、と言い聞かせる。テーリスタンとカーリンスは赤面して反省する。
そこへ杢助、玉治別、竜国別、国依別の四人がやってきた。お初は鷹依姫に向かって底力のある声で改心を迫ると、鷹依姫ははらはらと涙を流して、遂には声を放ってその場に泣き伏した。
次にお初は高姫に向かって、改心して呑み込んだ二つの玉を返すように、と言い渡した。高姫は観念し、お初が腰を打つと、紫の玉と如意宝珠の玉を吐き出した。
お初は紫の玉を鷹依姫に返そうとするが、鷹依姫は改心した以上、玉は三五教へ献上すると答えた。そして、自分は行方をくらました極道息子との再会を願ってバラモン教に入信したが、遂には一派を立ててアルプス教を開くまでになってしまったのだ、と身の上を明かした。
鷹依姫の息子の特徴は、竜国別と一致した。お初は、竜国別は確かに鷹依姫の息子に違いないと明らかにし、高春山の途上の社で竜国別に試練を与えた女は、自分の化身であったことを明かした。
鷹依姫と竜国別は、親子の対面を果たした。お初は竜国別は額の傷によって身魂の罪は取り払われて水晶の魂となったことを宣言した。そして天津祝詞を捧げて聖地に帰るようにと一行を促した。
一同はこの言葉にはっと頭を下げ、口をすすいで天津祝詞を奏上した。そして宣伝歌を玉治別の音頭により高唱した。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-05-02 02:37:19 文字数:4431 OBC :rm2118
愛善世界社版:286頁 八幡書店版:第4輯 369頁 修補版: 校定版:295頁 普及版:130頁 初版: ページ備考:
001 テーリスタンは密室前(みつしつぜん)に現(あら)はれて、
002テーリスタン『モシモシ私(わたし)はテーリスタンで御座(ござ)います。003高姫(たかひめ)様(さま)、004黒姫(くろひめ)様(さま)、005御(ご)機嫌(きげん)は如何(いかが)で御座(ござ)いますか』
006高姫『お前(まへ)はテーリスタンだな。007いつも我々(われわれ)を軽蔑(けいべつ)して置(お)きながら、008今日(けふ)に限(かぎ)つて其(その)丁寧(ていねい)な物(もの)云(い)ひは何事(なにごと)だい。009大方(おほかた)三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)がやつて来(き)たものだから、010そんなお追従(つゐしよう)を云(い)ふのだらう。011なア黒姫(くろひめ)さま、012抜目(ぬけめ)のない男(をとこ)ぢやありませぬか』
013テーリスタン『イエ決(けつ)してさうぢや御座(ござ)いませぬが、014どうも貴方(あなた)の御(ご)神徳(しんとく)に心(こころ)の底(そこ)から感動(かんどう)しました。015何卒(どうぞ)早(はや)く出(で)て下(くだ)さいませ』
016高姫『出(で)いと云(い)つたつて、017神(かみ)様(さま)のやうに海老錠(えびぢやう)をかけて置(お)いたぢやないか。018お前(まへ)は妾(わし)等(ら)二人(ふたり)を石室(いはむろ)に入(い)れた積(つも)りか知(し)らぬが、019高姫(たかひめ)大明神(だいみやうじん)、020黒姫(くろひめ)大明神(だいみやうじん)の結構(けつこう)な御(お)扉(みと)ぢやぞエ、021何(なん)と心得(こころえ)て居(を)る。022大幣(おほぬさ)でも持(も)つて来(き)て十分(じふぶん)に祓(はら)ひ清(きよ)め、023お供(そな)へ物(もの)を沢山(どつさり)と奉(たてまつ)つて冠装束(かむりしやうぞく)で天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し、024岩戸(いはと)開(びら)きの舞(まひ)を舞(ま)はぬ事(こと)には、025此(この)女神(めがみ)さまは滅多(めつた)に出(で)はせぬぞエ』
026 テーリスタンは鍵(かぎ)を以(もつ)て、027ガタガタ云(い)はせながら石(いし)の戸(と)をパツと開(ひら)き、
028テーリスタン『サア何卒(どうぞ)お出(で)まし下(くだ)さいませ』
029黒姫『アヽ有(あ)り難(がた)う、030サア、031高姫(たかひめ)さま出(で)ませうか』
032高姫『黒姫(くろひめ)さま、033何(なに)を云(い)ひなさる、034お前(まへ)さまは呆(とぼ)けて居(ゐ)るのか。035コレヤコレヤ、036テーリスタン、037貴様(きさま)は人(ひと)の住家(すみか)の戸(と)を勝手(かつて)に開(あ)けよつて、038誰(たれ)の許可(ゆるし)を受(う)けたのだ。039家宅(かたく)侵入罪(しんにふざい)で訴(うつた)へてやるがどうだい』
040テーリスタン『高姫(たかひめ)さま、041さういちやつかずに、042御(お)頼(たの)みぢや、043出(で)て下(くだ)さいな』
044高姫『出(で)て呉(く)れいと頼(たの)むなら聞(き)いてやらぬ事(こと)もない。045今日(けふ)はお供(そな)へ物(もの)も、046祝詞(のりと)も免除(めんぢよ)してやらう。047実(じつ)は妾(わたし)も一刻(いつこく)も早(はや)く、048こんな暗(くら)い所(ところ)へ居(を)りたい事(こと)は無(な)い事(こと)は無(な)い事(こと)は無(な)いのだ。049サアサア黒姫(くろひめ)さま、050お前(まへ)さまから先(さき)に出(で)なさい。051大分(だいぶん)此(この)間(あひだ)から出(で)たさうだつたから』
052黒姫『先生(せんせい)からお先(さき)へ出(で)て下(くだ)さいませ。053あまり失礼(しつれい)ですから』
054高姫『そんならお先(さき)へ御免(ごめん)蒙(かうむ)りませう。055長(なが)らく御(ご)厄介(やくかい)になりました。056サアもう此処(ここ)まで出(で)た以上(いじやう)は、057神変(しんぺん)不思議(ふしぎ)の紫(むらさき)の玉(たま)に、058如意(によい)宝珠(ほつしゆ)の夜光(やくわう)の玉(たま)を呑(の)み込(こ)んだ此(この)高姫(たかひめ)、059仮令(たとへ)何万(なんまん)人(にん)の豪傑(がうけつ)攻(せ)め来(きた)るとも、060フンと一(ひと)つ鼻息(はないき)をしたら飛(と)び散(ち)つて仕舞(しま)ふ位(くらゐ)なものだ。061これから鷹依姫(たかよりひめ)を一(ひと)つ言向(ことむ)け和(やは)してやらうかなア』
062テーリスタン『貴女(あなた)はお腹(なか)は空(す)きませぬか。063大分(だいぶん)にお瘠(や)せになりましたな。064テーは心配(しんぱい)ですワ』
065高姫『百(ひやく)日(にち)や二百(にひやく)日(にち)食(く)はいでも瘠(やせ)るやうな高姫(たかひめ)とは些(ちつ)と違(ちが)います。066イヤ瘠(やせ)たのぢやない。067体(からだ)を細(ほそ)くして置(お)いたのだよ。068サアサア テーリスタン、069案内(あんない)をしなさい、070婆(ばば)アの傍(そば)へ』
071テーリスタン『イヤ、072もう最前(さいぜん)からカーリンスと二人(ふたり)酔(よ)つて管(くだ)をまいてまいて、073まき潰(つぶ)した所(とこ)です。074もはや我々(われわれ)は三五教(あななひけう)の信者(しんじや)ですから安心(あんしん)して下(くだ)さい』
075高姫『お前(まへ)のやうな者(もの)が信者(しんじや)になれば、076安心(あんしん)所(どころ)か、077益々(ますます)気(き)をつけねばなるまい。078誰(たれ)に許(ゆる)されて三五教(あななひけう)の信者(しんじや)になつたのだい』
079テーリスタン『私(わたくし)はお初(はつ)さまに頼(たの)みました』
080高姫『お初(はつ)さまて誰(たれ)の事(こと)だえ』
081テーリスタン『五(いつ)つ六(むつ)つのちつぽけな娘(むすめ)の子(こ)です。082貴女(あなた)を岩窟(いはや)から救(すく)ひ出(だ)さねばならぬと云(い)つて唯(ただ)一人(ひとり)子供(こども)だてらやつて来(き)たのですよ』
083高姫『さうしてお前(まへ)達(たち)は其(その)子供(こども)に降参(かうさん)したのかい』
084テーリスタン『ハイハイ何処(どこ)ともなしに御(ご)神力(しんりき)が備(そな)はつて居(ゐ)るので、085止(や)むを得(え)ず降参(かうさん)をして貴女(あなた)をお救(すく)ひ申(まを)したのです』
086高姫『何(なん)と偉(えら)い子供(こども)もあればあるものぢやなア。087子供(こども)に大人(おとな)が助(たす)けられるなんて昔(むかし)から聞(き)いた事(こと)がない。088時節(じせつ)と云(い)ふものは結構(けつこう)なものだな』
089黒姫『高姫(たかひめ)様(さま)、090それで世(よ)が逆(さか)さまになつて居(を)ると、091神(かみ)様(さま)がお筆(ふで)にお示(しめ)しになつて居(ゐ)るぢやありませぬか』
092高姫『黒姫(くろひめ)さまは暫(しばら)く沈黙(ちんもく)して居(ゐ)なさい。093言葉尻(ことばじり)を捉(つか)まへられちや却(かへつ)て不利益(ふりえき)ですよ。094女(をんな)と云(い)ふものは成(な)る可(べ)く喋舌(しやべ)らぬ方(はう)が高尚(かうしやう)に見(み)えて宜敷(よろし)い、095併(しか)し妾(わたし)は例外(れいぐわい)だ。096何(ど)うしても率先(そつせん)して云(い)はねばならぬ役廻(やくまは)りだから……これこれアルプス教(けう)の教主(けうしゆ)どの、097長(なが)らく結構(けつこう)な岩窟(がんくつ)ホテルに逗留(とうりう)さして頂(いただ)きまして、098日々(にちにち)御(ご)馳走(ちそう)を根(ね)つから頂戴(ちやうだい)致(いた)しませず、099御(ご)親切(しんせつ)の段(だん)有(あ)りがたくお礼(れい)申上(まをしあ)げませぬワイ』
100鷹依姫『別(べつ)に山中(さんちう)の事(こと)とて御(ご)馳走(ちそう)も御座(ござ)りませず、101テーリスタンやカーリンスに申付(まをしつ)けて、102三度(さんど)々々(さんど)、103相当(さうたう)の食物(しよくもつ)をお上(あ)げ申(まを)すやう命令(めいれい)して置(お)きましたが、104何(ど)うせお気(き)に召(め)すやうなものは上(あ)げられませぬでしたらう』
105テーリスタン『コレ婆(ば)アさん、106自分(じぶん)の責任(せきにん)を我々(われわれ)に転嫁(てんか)するのかい。107私(わし)がそつと隠(かく)して高姫(たかひめ)さまや黒姫(くろひめ)さまに進上(しんじやう)しようと思(おも)へば、108隼(はやぶさ)のやうな目(め)でジロジロと私(わし)を睨(にら)みつけ、109さうして水(みづ)一滴(いつてき)、110飯(めし)一粒(ひとつぶ)やつてはならない。111斯(か)うして置(お)けば、112高姫(たかひめ)がカンピンタンになるだらう。113都合(つがふ)よく干(ひ)からびた時(とき)に、114腹(はら)に呑(の)んだ紫(むらさき)の玉(たま)も如意(によい)宝珠(ほつしゆ)も刳(く)り抜(ぬ)いて取(と)ると云(い)つたのでは無(な)かつたのではないか。115今(いま)となつて、116そんな卑怯(ひけふ)な二枚舌(にまいじた)を使(つか)ふものぢや無(な)いワ。117なア、118カーリンス、119俺(おれ)の云(い)ふ事(こと)は間違(まちが)ひはあるまい』
120カーリンス『オヽ、121さうとも さうとも、122俺(おれ)達(たち)にさへけちけち云(い)つて酒(さけ)も碌(ろく)に呑(の)まさない事(こと)は無(な)い、123悪党婆(あくたうばば)アだから、124どうしてあれだけ憎(にく)んで居(ゐ)た高姫(たかひめ)さまや黒姫(くろひめ)さまに、125飲食物(いんしよくぶつ)を差上(さしあ)げる筈(はず)があらうかい』
126鷹依姫『お前(まへ)達(たち)は何(なん)と云(い)ふ嘘(うそ)を云(い)ふのだ。127私(わし)を八方(はつぱう)攻撃(こうげき)喰(く)はして困(こま)らす積(つも)りだな』
128テーリスタン『定(きま)つた事(こと)だ。129大勢(おほぜい)の人(ひと)を困(こま)らせて置(お)くと其(その)罪障(めぐり)が出(で)て来(き)て、130自分(じぶん)も又(また)困(こま)らねばならぬ事(こと)が出来(しゆつたい)致(いた)すぞよ、131と三五教(あななひけう)の神(かみ)様(さま)が仰有(おつしや)つた。132神(かみ)が表(おもて)に現(あら)はれて善(ぜん)と悪(あく)とを立(た)て別(わ)けると云(い)ふのは此(この)事(こと)だ。133現(げん)にお初(はつ)さまはまだ年(とし)は六(むつ)つだが、134尊(たふと)い神(かみ)様(さま)のお生(うま)れ代(かは)りだ。135此(この)神(かみ)様(さま)に聞(き)いて見(み)れば善悪(ぜんあく)正邪(せいじや)が一遍(いつぺん)に分(わか)るのだ……私(わたくし)が悪(わる)いですか婆(ばば)が悪(わる)いですか判断(はんだん)して下(くだ)さいな』
136お初『お婆(ば)アさまもあんまり良(よ)い事(こと)はない。137テーリスタンもカーリンスもあまり善人(ぜんにん)でもありませぬよ。138早(はや)う改心(かいしん)をしなさい。139改心(かいしん)さへすれば皆(みな)元(もと)の善人(ぜんにん)になれますよ』
140 テー、141カーの二人(ふたり)は顔(かほ)を真赤(まつか)に頭(あたま)を掻(か)いて俯(うつ)むく。142斯(か)かる所(ところ)へ表口(おもてぐち)より、143宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ひながら、144竜国別(たつくにわけ)、145玉治別(たまはるわけ)、146国依別(くによりわけ)を先頭(せんとう)に、147力強(ちからづよ)の杢助(もくすけ)、148其(その)他(た)六(ろく)人(にん)のアルプス教(けう)の信者(しんじや)を従(したが)へ、149どやどやと這入(はい)つて来(く)る。
150玉治別(たまはるわけ)『ヨー、151貴女(あなた)は高姫(たかひめ)さま、152黒姫(くろひめ)さま、153ヨウ、154マア無事(ぶじ)で居(ゐ)て下(くだ)さつた。155我々(われわれ)は言依別(ことよりわけの)命(みこと)様(さま)の内命(ないめい)を受(う)けて、156漸(やうや)く三方(さんぱう)より当山(たうざん)に攻(せ)め登(のぼ)り、157言霊戦(ことたません)に向(むか)つたのです。158あゝこれで結構(けつこう)だ。159此(この)方(かた)は湯谷(ゆや)ケ谷(だに)の杢助(もくすけ)さまと云(い)つて、160実(じつ)は時置師(ときおかしの)神(かみ)様(さま)の御(ご)変名(へんめい)、161大変(たいへん)なお世話(せわ)になつたのですワ』
162高姫『それはそれは皆(みな)さま御(ご)苦労(くらう)でした。163よう来(き)て下(くだ)さつた。164杢助(もくすけ)様(さま)とやら、165玉治別(たまはるわけ)さまがいかいお世話(せわ)になられたさうです。166私(わたし)から厚(あつ)くお礼(れい)申上(まをしあ)げます』
167黒姫『皆様(みなさま)よくこそお越(こ)し下(くだ)さいました。168時(とき)にこの婆(ば)アさまはまだ改心(かいしん)せないのかな』
169お初『サアお婆(ば)アさま、170モウ斯(か)うなつては我(が)を張(は)つても駄目(だめ)ですよ。171何(なに)も彼(か)もすつかり懺悔(ざんげ)して誠(まこと)の心(こころ)に立(た)ち帰(かへ)り、172結構(けつこう)な神(かみ)様(さま)の生宮(いきみや)として、173此(この)世(よ)を清(きよ)く麗(うるは)しくお暮(くら)しなさい』
174とお初(はつ)の小(ちひ)さき唇(くちびる)より、175何(なん)となく底力(そこぢから)のある声(こゑ)にて極(き)めつけられ、176さしもに頑固(ぐわんこ)な鷹依姫(たかよりひめ)も涙(なみだ)をハラハラと流(なが)し、177遂(つい)には声(こゑ)を放(はな)つて其(その)場(ば)に泣(な)き伏(ふ)しにける。
178お初(はつ)『サア、179これからは高姫(たかひめ)さまだ。180お前(まへ)さまはウラナイ教(けう)を樹(た)てて素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)様(さま)に反対(はんたい)をして居(を)つた時(とき)、181秋山彦(あきやまひこ)の館(やかた)に立(た)ち入(い)り、182冠島(かむりじま)の宝庫(はうこ)の鍵(かぎ)を盗(ぬす)み出(だ)し、183如意(によい)宝珠(ほつしゆ)の玉(たま)を奪(うば)ひ取(と)つて呑(の)み込(こ)んだその罪(つみ)で、184こんな岩窟(がんくつ)へ長(なが)らく閉(と)じ籠(こ)められ、185苦(くる)しんだのですよ。186何程(なにほど)負(ま)けぬ気(き)になつて空元気(からげんき)を出(だ)しても矢張(やつぱり)辛(つら)かつたでせう。187今(いま)妾(わたし)の前(まへ)にその玉(たま)を吐(は)き出(だ)しなさい。188さうして又(また)、189昔(むかし)竹熊(たけくま)と云(い)ふ悪神(わるがみ)が居(を)つて、190八尋殿(やひろどの)へ竜宮城(りうぐうじやう)の使神(ししん)を招待(せうたい)し、191芳彦(よしひこ)の持(も)つて居(を)つた紫(むらさき)の玉(たま)を取(と)つたが、192竹熊(たけくま)の終焉(しゆうえん)と共(とも)に死海(しかい)へ落(お)ち込(こ)んだ十個(じつこ)の玉(たま)の中(なか)で、193この玉(たま)ばかりは汚(けが)されず、194中空(ちうくう)に飛(と)んで自転倒(おのころ)島(じま)へ落(お)ちて来(き)た玉(たま)ですよ。195それをこの鷹依姫(たかよりひめ)が手(て)に入(い)れて、196それを御(ご)神体(しんたい)としてアルプス教(けう)を樹(た)てて居(を)つたのだが、197其(その)玉(たま)をお前(まへ)さまは又(また)呑(の)み込(こ)んで仕舞(しま)つたぢやないか。198腹(はら)の中(なか)に何程(なにほど)玉(たま)があると云(い)つても、199さう云(い)ふ悪(わる)い心(こころ)で呑(の)み込(こ)んだのだから、200少(すこ)しも光(ひかり)が出(で)ない。201サア私(わたし)が此所(ここ)で出(だ)して上(あ)げよう。202如意(によい)宝珠(ほつしゆ)の玉(たま)は素盞嗚(すさのをの)神(かみ)様(さま)に御(お)返(かへ)し申(まを)し、203紫(むらさき)の玉(たま)は鷹依姫(たかよりひめ)さまに返(かへ)してお上(あ)げなさいませ』
204高姫『ハイ仕方(しかた)が御座(ござ)いませぬ、205如何(どう)したら呑(の)み込(こ)んだ玉(たま)が出(で)ませうかなア』
206お初『心配(しんぱい)は要(い)りませぬ。207私(わたし)が今(いま)楽(らく)に出(だ)してあげませう』
208と云(い)ひつつ、209高姫(たかひめ)の腰(こし)を一(ひと)つエヽと声(こゑ)かけ打(う)つた機(はづみ)に、210ポイと口(くち)から飛(と)んで出(で)たのは紫(むらさき)の玉(たま)である。211もう一(ひと)つ左(ひだり)の手(て)で腰(こし)を打(う)つた機(はづみ)に飛(と)んで出(で)たのが如意(によい)宝珠(ほつしゆ)の玉(たま)であつた。212高姫(たかひめ)はグタリと疲(つか)れて其(その)場(ば)に倒(たふ)れる。
213お初『高姫(たかひめ)さまは斯(か)う見(み)えても心配(しんぱい)は要(い)りませぬ、214暫(しばら)く休息(きうそく)なされば元気(げんき)は元(もと)の通(とほ)りになります。215サア竜国別(たつくにわけ)さま、216貴方(あなた)は如意(によい)宝珠(ほつしゆ)を大切(たいせつ)に預(あづか)つて聖地(せいち)へお帰(かへ)りなさい。217鷹依姫(たかよりひめ)さま、218紫(むらさき)の玉(たま)は貴方(あなた)の持(も)つて居(ゐ)たものだ、219何(ど)うか受取(うけと)つて下(くだ)さい』
220鷹依姫『私(わたくし)も最早(もはや)改心(かいしん)致(いた)しました以上(いじやう)は玉(たま)の必要(ひつえう)は御座(ござ)いませぬ。221何卒(どうぞ)これを聖地(せいち)へ献上(けんじやう)致(いた)したう御座(ござ)います。222私(わたくし)も白状(はくじやう)を致(いた)しまするが、223私(わたくし)には唯(たつた)一人(ひとり)の伜(せがれ)が御座(ござ)いました。224その伜(せがれ)が極道者(ごくだうもの)で近所(きんじよ)の人(ひと)に迷惑(めいわく)をかけたり、225喧嘩(けんくわ)をする、226賭博(ばくち)はうつ、227女(をんな)にずぼる、228妾(わたし)が意見(いけん)をすれば「何(なに)、229親顔(おやがほ)をしてゴテゴテ云(い)ふな」と撲(なぐ)りつける、230終(しまひ)の果(はて)には親(おや)をふり捨(す)てて、231何処(いづこ)ともなく姿(すがた)を隠(かく)して仕舞(しま)ひました。232極道(ごくだう)の子(こ)は尚(なほ)可愛(かあい)とか申(まを)しまして、233況(ま)して一人(ひとり)の天(てん)にも地(ち)にもかけ替(が)へのない伜(せがれ)、234も一度(いちど)会(あ)ひたい事(こと)だと一生(いつしやう)懸命(けんめい)に神(かみ)様(さま)にお願(ねが)ひ致(いた)し、235とうとうバラモン教(けう)に入信(にふしん)し、236遂(つひ)にアルプス教(けう)を樹(た)てる事(こと)になつたので御座(ござ)います。237妾(わたし)のやうな不運(ふうん)なものは世界(せかい)に御座(ござ)いませぬ』
238玉治別『さうしてその伜(せがれ)の名(な)は何(なん)と云(い)ふ方(かた)でしたか』
239と玉治別(たまはるわけ)の問(と)ひに、
240鷹依姫『ハイ、241今(いま)は如何(どう)なつたか行方(ゆくへ)は分(わか)りませぬが、242顔(かほ)の特徴(とくちやう)と云(い)へば一割(いちわり)人(ひと)より鼻(はな)の高(たか)いもので御座(ござ)いました。243そして名(な)は竜若(たつわか)と申(まを)します。244偉(えら)いまあ極道(ごくだう)で親(おや)に心配(しんぱい)をかけよつたが、245今頃(いまごろ)はどうして居(ゐ)る事(こと)か、246アーア』
247と袖(そで)を絞(しぼ)る。248玉治別(たまはるわけ)は不審(ふしん)さうに、
249玉治別『コレコレ竜国別(たつくにわけ)、250お前(まへ)も竜若(たつわか)と云(い)つたぢやないか。251そして一人(ひとり)の母(はは)があると話(はな)した事(こと)があるなア。252何処(どこ)やら此(この)婆(ば)アさまに目許(めもと)、253鼻(はな)の高(たか)い具合(ぐあひ)がよく似(に)て居(ゐ)るやうだ。254もしや此(この)婆(ば)アさまぢやあるまいかな』
255 竜国別(たつくにわけ)は両手(りやうて)を組(く)み、256ウンと吐息(といき)しながら涙(なみだ)をホロホロと流(なが)して居(ゐ)る。
257お初(はつ)『鷹依姫(たかよりひめ)の伜(せがれ)は三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)竜国別(たつくにわけ)に間違(まちが)ひはない。258親子(おやこ)の対面(たいめん)させるために、259神(かみ)が仕組(しぐ)んで当山(たうざん)へ差(さ)し向(む)けられたのです。260竜国別(たつくにわけ)の改心(かいしん)に免(めん)じ、261鷹依姫(たかよりひめ)の罪(つみ)を赦(ゆる)して上(あ)げよう。262竜国別(たつくにわけ)の宣伝使(せんでんし)、263昨夜(さくや)古(ふる)き社(やしろ)の前(まへ)にて汝(なんぢ)の逢(あ)うた女(をんな)は妾(わたし)の化身(けしん)であつたぞや』
264 竜国別(たつくにわけ)は無言(むごん)の儘(まま)両手(りやうて)を合(あは)せ、265嬉(うれ)し涙(なみだ)にかき暮(く)れる。266鷹依姫(たかよりひめ)は涙(なみだ)を払(はら)ひ、
267鷹依姫『アヽ、268其方(そなた)は伜(せがれ)の竜若(たつわか)であつたか。269ヨウ、270マア改心(かいしん)して下(くだ)さつた。271立派(りつぱ)な宣伝使(せんでんし)になつたものだ。272もう是(これ)限(かぎ)り母(はは)も改心(かいしん)するから、273何卒(どうぞ)妾(わたし)の罪(つみ)をお詫(わび)して下(くだ)さい』
274竜国別『母様(ははさま)で御座(ござ)いましたか、275お懐(なつ)かしう存(ぞん)じます』
276鷹依姫『お前(まへ)、277額(ひたひ)の疵(きず)は如何(どう)なさつた。278矢張(やつぱり)人(ひと)に憎(にく)まれて怪我(けが)をしたのぢやないかな』
279竜国別『エヽ』
280お初『竜国別(たつくにわけ)は此(この)額(ひたひ)の疵(きず)によつて、281身魂(みたま)の罪(つみ)をすつかり取払(とりはら)はれ、282水晶(すゐしやう)の身魂(みたま)と生(うま)れ変(かは)れり。283其(その)徳(とく)に依(よ)り親子(おやこ)の対面(たいめん)を許(ゆる)したのである。284決(けつ)して争(あらそ)ひなどを致(いた)したのではないから、285鷹依姫(たかよりひめ)御(ご)安心(あんしん)なさるがよからう。286何時(いつ)まで云(い)うても果(はて)しがなければ、287サア皆(みな)さま、288一緒(いつしよ)に天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し、289感謝(かんしや)祈願(きぐわん)の詞(じ)を捧(ささ)げて、290聖地(せいち)へ一同(いちどう)うち揃(そろ)うて参(まゐ)りませう』
291との言葉(ことば)に一同(いちどう)ハツと頭(かしら)を下(さ)げ、292口(くち)を嗽(すす)ぎ、293手(て)を洗(あら)つて天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し、294宣伝歌(せんでんか)を玉治別(たまはるわけ)の音頭(おんど)に連(つ)れて高唱(かうしやう)する。
295(大正一一・五・二一 旧四・二五 加藤明子録)
296(昭和一〇・六・五 王仁校正)
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