霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第四章 砂利喰(じやりくひ)〔六七八〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第21巻 如意宝珠 申の巻 篇:第1篇 千辛万苦 よみ(新仮名遣い):せんしんばんく
章:第4章 砂利喰 よみ(新仮名遣い):じゃりくい 通し章番号:678
口述日:1922(大正11)年05月16日(旧04月20日) 口述場所: 筆録者:外山豊二 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年4月5日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
三人は高熊山の岩窟に詣でて心を洗い魂を清め、進んでいった。戸隠岩の麓に着いて路傍の石に腰を掛けて休息を取った。
するとそこから一丁ばかり先に、五六人の怪しい男たちがたむろして、こちらを窺っている。玉治別は、盗人を改心させるには、盗人の中に入らなければならない、と二人に言う。
玉治別が玉公親分となりすまし、竜公・国公を子分として男たちのところへ行くと、自分は三国ケ岳の鬼婆の片腕だと名乗った。盗人たちは、仲間に入ってくれと言うが、玉治別は、追いはぎなどは小さい盗人のすることだ、と言って、自分に付いて来るようにと男たちを誘う。
玉治別は、黄金の玉と紫の玉があれば三千世界のことが思いのままになる、その玉を取りに行くのだ、と言って盗人たちを自分の子分にしてしまった。
盗人たちが言うには、自分たちの頭がいて、今三五教の本山に、徳公と名乗って入り込んでいるのだ、と明かした。玉治別は、徳公なら知っているが、あの程度の者を頭に頂いているよりも、自分たち宣伝使にしたがった方がよいと、正体を明かして盗人たちを諭す。
盗人たちは玉治別の説得に、一も二もなく、神様の道に仕える事を誓った。このとき、宣伝歌の声が聞こえてきた。宣伝歌は、一行が高春山に乗り込んで活躍する様を歌っていた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-05-02 01:21:24 文字数:4923 OBC :rm2104
愛善世界社版:80頁 八幡書店版:第4輯 294頁 修補版: 校定版:84頁 普及版:36頁 初版: ページ備考:
001梅照彦(うめてるひこ)が朝夕(あさゆふ)に
002神(かみ)の教(をしへ)を宣(の)り伝(つた)ふ
003珍(うづ)の館(やかた)を後(あと)にして
004ここに三人(みたり)の宣伝使(せんでんし)
005玉照彦(たまてるひこ)の生(あ)れませる
006高熊山(たかくまやま)の巌窟(がんくつ)に
007心(こころ)を洗(あら)ひ魂(たま)清(きよ)め
008神国守(かみくにもり)に送(おく)られて
009来勿止(くなどめ)館(やかた)の門前(もんぜん)に
010暇(いとま)を告(つ)げてスタスタと
011足(あし)に任(まか)せて進(すす)み行(ゆ)く
012天狗(てんぐ)の岩(いは)にて名(な)も高(たか)き
013境峠(さかひたうげ)を打渡(うちわた)り
014小幡(をばた)の川(かは)の上流(じやうりう)を
015尻(しり)を捲(まく)つて対岸(むかふぎし)
016青野(あをの)ケ原(はら)を右左(みぎひだり)
017眺(なが)めて進(すす)む法貴谷(ほふきだに)
018戸隠岩(とがくしいは)の前(まへ)に着(つ)く。
019 三(さん)人(にん)は激湍(げきたん)飛沫(ひまつ)の音(おと)高(たか)き谷川(たにがは)に沿(そ)へる、020樹木(じゆもく)鬱蒼(うつさう)たる谷道(たにみち)をエチエチ登(のぼ)つて、021漸(やうや)く戸隠岩(とがくしいは)の麓(ふもと)に着(つ)き路傍(ろばう)の岩(いは)に腰(こし)打掛(うちか)け、022息(いき)を休(やす)めてゐる。023其処(そこ)より一丁(いつちやう)許(ばか)り離(はな)れた坂道(さかみち)に五六(ごろく)人(にん)の怪(あや)しき男(をとこ)の影(かげ)、024何(なに)か頻(しき)りに囁(ささや)いてゐる。
025玉治別(たまはるわけ)『竜国別(たつくにわけ)、026国依別(くによりわけ)の兄貴(あにき)、027何(なん)だ、028向(むか)ふの方(はう)に怪体(けつたい)な奴(やつ)が囁(ささや)いてゐるぢやないか。029此(こ)の山道(やまみち)に何(なに)をして居(ゐ)るのだらうかな』
030国依別(くによりわけ)『あれは泥棒(どろばう)の群(むれ)だ。031往来(ゆきき)の人(ひと)の衣類(いるゐ)持物(もちもの)を、032すつかり脱(ぬ)がせる追剥(おひはぎ)商売(しやうばい)が現(あら)はれたのだよ。033最前(さいぜん)も真裸体(まつぱだか)になつて女(をんな)が泣(な)きもつて通(とほ)つただらう。034あれは屹度(きつと)的(てき)さんにやられたのに違(ちが)ひないぞ。035俺(おれ)達(たち)も斯(か)うして蓑笠(みのかさ)を着(き)て歩(ある)いて居(ゐ)るものだから、036彼(あ)の女(をんな)も吾々(われわれ)を同類(どうるゐ)と見(み)よつたか、037恐(こは)さうにキヤーと云(い)つて一目散(いちもくさん)に遁(に)げたぢやないか』
038竜国別(たつくにわけ)『それに間違(まちが)ひは無(な)い。039吾々(われわれ)も屹度(きつと)脱(ぬ)がされるのだな。040一(ひと)つ此処(ここ)で何(なん)とか考(かんが)へねばなるまいぞ』
041玉治別(たまはるわけ)『なアに、042往(ゆ)くとこ迄(まで)行(い)つて見(み)な分(わか)るものか、043刹那心(せつなしん)だ。044取越(とりこし)苦労(くらう)をするに及(およ)ばないぞ、045万々一(まんまんいち)先方(むかう)が泥棒(どろばう)だつたら、046此方(こちら)が率先(そつせん)して泥棒(どろばう)の仮声(こわいろ)を使(つか)ひ、047泥棒(どろばう)仲間(なかま)に交(まじ)つて、048彼奴(あいつ)等(ら)をうまく改心(かいしん)させるのだな。049木花姫(このはなひめの)命(みこと)様(さま)は三十三(さんじふさん)相(さう)に身(み)を現(げん)じ盗人(ぬすびと)を改心(かいしん)させようと思(おも)へば自分(じぶん)から盗人(ぬすびと)になつて、050一緒(いつしよ)に働(はたら)いて見(み)て「オイ、051盗人(ぬすびと)と云(い)ふものは随分(ずゐぶん)世間(せけん)の狭(せま)いものの怖(おそ)ろしいものだ。052斯(こ)んな詮(つま)らない事(こと)は止(や)めて天下(てんか)晴(は)れての正業(せいげふ)に就(つ)かうぢやないか」と云(い)つて、053盗人(ぬすびと)を改心(かいしん)させなさると云(い)ふことだ。054酒(さけ)飲(の)みを改心(かいしん)させるには、055自分(じぶん)も一緒(いつしよ)に酒(さけ)を飲(の)み、056賭博打(ばくちうち)を改心(かいしん)させるには自分(じぶん)も賭博打(ばくちう)ちになつて、057さうして改心(かいしん)させるのが神(かみ)様(さま)の御(ご)経綸(けいりん)だ。058吾々(われわれ)も一(ひと)つ先方(むかう)が盗人(ぬすびと)だつたら、059此方(こちら)も盗人(ぬすびと)に化(ば)けて、060手(て)を曳合(ひきあ)うて仲間入(なかまい)りをなし、061さうして改心(かいしん)させれば良(よ)いのだ』
062国依別(くによりわけ)『なんぼ何(ど)うでも、063盗人(ぬすびと)だけは断然(だんぜん)止(や)めたいなア』
064玉治別(たまはるわけ)『ナニ、065心(こころ)から盗人(ぬすびと)になれと云(い)ふのぢやない。066盗人(ぬすびと)を止(や)めさせるための手段(しゆだん)だから構(かま)はぬぢやないか。067それが観(くわん)自在天(じざいてん)の身魂(みたま)の働(はたら)きだ。068万一(まんいつ)先方(むかう)が盗人(ぬすびと)であつたら、069此(こ)の玉治別(たまはるわけ)が俺(おれ)は盗賊(たうぞく)の親方(おやかた)だと云(い)つて威喝(ゐかつ)するのだから、070お前(まへ)達(たち)は俺(おれ)の乾児(こぶん)に化(ば)けて居(ゐ)るのだぞ。071さうして竜国別(たつくにわけ)とか、072国依別(くによりわけ)とか、073斯(こ)んな道名(だうめい)を唱(とな)へては先方(むかう)に悟(さと)られるから、074此処(ここ)で名(な)を暫(しばら)く改(か)へて竜公(たつこう)、075国公(くにこう)、076玉公(たまこう)親分(おやぶん)で行(ゆ)くことにしよう。077先方(むかう)から「オイ旅人(たびびと)一寸(ちよつと)待(ま)つた、078持物(もちもの)一切(いつさい)渡(わた)して行(い)かつせエ」なんて言(い)はれてからは面白(おもしろ)くない。079先(さき)んずれば人(ひと)を制(せい)すだ。080泥棒(どろばう)と見込(みこ)みがついたら、081一(ひと)つ俺(おれ)の方(はう)から口火(くちび)をつけるのだ。082オイ竜公(たつこう)、083国公(くにこう)、084玉公(たまこう)親分(おやぶん)さんに従(つ)いて来(こ)い』
085竜国別(たつくにわけ)『到頭(たうとう)宣伝使(せんでんし)を泥棒(どろばう)の乾児(こぶん)にして了(しま)ひやがつたなア』
086国依別(くによりわけ)『エーこれも仕方(しかた)がない。087観(くわん)自在天(じざいてん)の御(ご)化身(けしん)になると思(おも)へば、088辛抱(しんぼう)も出来(でき)ぬことはない、089サア玉公(たまこう)親分(おやぶん)、090先(さき)へ行(い)つて下(くだ)さい』
091 玉治別(たまはるわけ)は先(さき)に立(た)ち大手(おほて)を振(ふ)り乍(なが)ら、092五六(ごろく)人(にん)の男(をとこ)の車座(くるまざ)になつて道(みち)を塞(ふさ)いで居(ゐ)る前(まへ)に近(ちか)づき見(み)れば、093今(いま)剥(は)ぎ取(と)つたらしい女(をんな)の衣服(いふく)が傍(かたはら)に在(あ)るに気(き)が付(つ)いた。094的切(てつき)り此奴(こいつ)は泥棒(どろばう)と、095玉治別(たまはるわけ)はわざと大(おほ)きな声(こゑ)で、
096玉治別(たまはるわけ)『オイ竜(たつ)、097国(くに)、098早(はや)く来(こ)んかい。099彼処(あこ)に五六(ごろく)人(にん)の男(をとこ)が居(ゐ)る。100彼奴(あいつ)の着物(きもの)をフン奪(だく)つて真裸(まつぱだか)にしてやるのだ』
101と進(すす)んで行(ゆ)く。102五六(ごろく)人(にん)の泥棒(どろばう)は此(この)声(こゑ)を聞(き)いて何(いづ)れも呆気(あつけ)にとられてゐる。
103玉治別(たまはるわけ)『コレヤ木端(こつぱ)泥棒(どろばう)、104俺(おれ)を誰(たれ)だと思(おも)つて居(ゐ)るか。105三国(みくに)ケ岳(だけ)の鬼婆(おにばば)の片腕(かたうで)と聞(きこ)えたる大泥棒(おほどろばう)の玉公(たまこう)親分(おやぶん)さんぢやぞ。106サア持物(もちもの)一切(いつさい)此(この)方(はう)にすつぱりと渡(わた)さばよし、107愚図(ぐづ)々々(ぐづ)吐(ぬか)すと何奴(どいつ)も此奴(こいつ)も一蓮(いちれん)托生(たくしやう)、108素首(そつくび)を引抜(ひきぬ)いて了(しま)ふぞ』
109甲(かふ)『喧(やかま)しう云(い)ふない。110俺(おれ)だつて同(おな)じことだ。111商売(しやうばい)の好(よし)みで、112俺(おれ)達(たち)の着物(きもの)だけは堪(こら)へて呉(く)れ』
113玉治別(たまはるわけ)『堪(こら)へて呉(く)れとぬかしやア話(はなし)の次第(しだい)によつては堪(こら)へぬ事(こと)も無(な)いが、114何(ど)うだ、115一(いち)枚(まい)だけ俺(おれ)に渡(わた)さないか。116大難(だいなん)を小難(せうなん)にして赦(ゆる)してやるのだから』
117乙(おつ)『モシ親方(おやかた)、118一寸(ちよつと)待(ま)つて下(くだ)さい。119今(いま)吾々(われわれ)が集会(しふくわい)を致(いた)しまして、120ヌースー会社(ぐわいしや)の創立(さうりつ)委員(ゐゐん)となり、121株式(かぶしき)募集(ぼしふ)の協議(けふぎ)の最中(さいちう)でございます。122貴方(あなた)もどうぞ沢山(どつさり)株(かぶ)を持(も)つて下(くだ)さい、123品(しな)に依(よ)つたら社長(しやちやう)さまに推薦(すいせん)するかも知(し)れませぬから』
124玉治別(たまはるわけ)『俺(おれ)は株(かぶ)は持(も)つてはやらうが、125一番(いちばん)の親方(おやかた)だから株代(かぶだい)は払(はら)はないぞ。126優先株(いうせんかぶ)を八百万(はつぴやくまん)株(かぶ)ばかり俺(おれ)に献上(けんじやう)致(いた)せ。127さうすれば徹胴(てつどう)敷設(ふせつ)でも何(なん)でも、128うまく認可(にんか)してやらう』
129甲(かふ)『そんな認可(にんか)をして貰(もら)つたつて、130此(こ)の泥棒(どろばう)会社(ぐわいしや)に用(よう)は無(な)い。131徹胴(てつどう)の刃過(にんか)(鉄道(てつだう)の認可(にんか))や無銭出(むせんで)ン話(わ)(無線(むせん)電話(でんわ))や田紳(でんしん)(電信(でんしん))の御(お)かげで、132吾々(われわれ)の商売(しやうばい)の大変(たいへん)邪魔(じやま)になつて居(ゐ)るのだから、133そんなものは要(い)らないわ』
134玉治別(たまはるわけ)『貴様(きさま)は矢張(やつぱり)狐鼠(こそ)盗人(ぬすと)だな。135通行人(つうかうにん)の着物(きもの)位(くらゐ)脱(ぬ)がして虐(いぢ)めて何(なん)になるかい。136モツト羽織(はおり)袴(はかま)を着(き)たり、137洋服(やうふく)をつけて立派(りつぱ)に万年筆(まんねんひつ)の先(さき)で、138一遍(いつぺん)に難渋万(なんじふまん)、139難迫万(なんびやくまん)、140難船万(なんぜんまん)と云(い)ふ泥棒(どろばう)をせぬのかい。141徹胴(てつどう)敷設(ふせつ)をすればレールをかぢり、142道路(だうろ)を開鑿(かいさく)すれば砂利(じやり)をかぢり、143軍艦(ぐんかん)を拵(こしら)へては鋼鉄(かうてつ)をかぢり、144缶詰(くわんづめ)を請負(うけお)うては石(いし)を詰込(つめこ)み、145斯(か)う云(い)ふ立派(りつぱ)な智慧(ちゑ)を出(だ)してヌースー式(しき)をやるのだ。146さうすれば別(べつ)に斯(こ)んな山奥(やまおく)に隠(かく)れて、147慄(ふる)うて居(を)らないでも好(い)いのだ、148白昼(はくちう)に堂々(だうだう)と大都会(だいとくわい)のまん中(なか)を自動車(じどうしや)を飛(と)ばし、149白首(しらくび)を乗(の)せて天下(てんか)の馬鹿者(ばかもの)どもを睥睨(へいげい)しつつ、150葉巻(はまき)を燻(くゆ)らして大(おほ)きな面(つら)をしていけるのだぞ。151モウ斯(こ)んな仕様(しやう)もない小盗人(こぬすと)は廃(や)めて、152世界一(せかいいち)の宝(たから)を手(て)に入(い)れる商売(しやうばい)に乗(の)り替(か)へたら何(ど)うだい。153軍艦(ぐんかん)かぢりよりも、154レール喰(く)ひよりも、155砂利(じやり)喰(く)ひよりも何万倍(なんまんばい)とも知(し)れぬ結構(けつこう)な商売(しやうばい)があるのだぞ』
156甲(かふ)『エヽそんな商売(しやうばい)が、157親方(おやかた)何処(どこ)にありますか』
158玉治別(たまはるわけ)『あらいでかい。159俺(おれ)にまア二三(にさん)日(にち)ついて歩(ある)いて見(み)よ。160斯(か)うして俺(おれ)は乞食(こじき)のやうな風(ふう)に化(ば)けて居(を)るが、161其(その)実(じつ)は立派(りつぱ)なものだぞ。162今(いま)の世(よ)の中(なか)は家(いへ)を飾(かざ)り、163衣服(いふく)を飾(かざ)り、164身体中(からだぢう)金(きん)ピカに扮(やつ)して居(ゐ)る奴(やつ)は、165却(かへつ)て内実(ないじつ)が苦(くる)しいものだ。166家(いへ)の中(なか)は火(ひ)の雨(あめ)が降(ふ)つて居(を)る。167俺(おれ)達(たち)は斯(か)うして表面(うはべ)は汚(きたな)い風(ふう)をして居(ゐ)る代(かは)りに、168かかりものが沢山(やつと)はかからず、169大変(たいへん)気楽(きらく)で、170世界(せかい)の者(もの)の知(し)らぬ結構(けつこう)な宝(たから)を手(て)に入(い)れて、171毎日(まいにち)日日(ひにち)嬉(うれ)し嬉(うれ)しの花(はな)を咲(さ)かして楽(たの)しんで居(ゐ)るのだ。172一(ひと)つ貴様(きさま)も俺(おれ)の乾児(こぶん)になつたらどうだ。173随分(ずゐぶん)小盗人(こぬすと)も苦(くる)しいものだらうが』
174甲(かふ)『お察(さつ)しの通(とほ)り随分(ずゐぶん)苦(くる)しいものです。175併(しか)し、176しようことなしに、177斯(こ)んな商売(しやうばい)をやつて居(ゐ)るのです』
178乙(おつ)『三国(みくに)ケ嶽(だけ)の鬼婆(おにば)アさまは、179何(なん)でも蜈蚣姫(むかでひめ)とか云(い)うたさうですな。180蜈蚣(むかで)の精(せい)から生(うま)れたのぢやありませぬか』
181玉治別(たまはるわけ)『なアに、182そんなことがあるものか、183随分(ずゐぶん)あの婆(ば)アさまは俺(おれ)の親方(おやかた)で自慢(じまん)するぢやないが偉(えら)いものだよ。184世界中(せかいぢう)の金銭(かね)を自由(じいう)にして居(ゐ)るのだ。185それだからお銭(あし)(足(あし))が、186たんと有(あ)るので蜈蚣姫(むかでひめ)と言(い)ふのだよ』
187丙(へい)『アーそれで蜈蚣姫(むかでひめ)と云(い)ふのですか。188何(なに)を云(い)つても金銭(かね)の世(よ)の中(なか)ですから、189せめて蜈蚣姫(むかでひめ)の乾児(こぶん)になりとして欲(ほ)しいものですな』
190玉治別(たまはるわけ)『俺(おれ)が蜈蚣姫(むかでひめ)の代理(だいり)を勤(つと)めて居(を)る玉公(たまこう)と云(い)ふものだ。191此処(ここ)に二人(ふたり)、192怪体(けたい)な面(つら)をして来(き)て居(を)る奴(やつ)は、193竜公(たつこう)、194国公(くにこう)と云(い)つて、195随分(ずゐぶん)貴様(きさま)の様(やう)に奴甲斐性(どがひしやう)の無(な)い、196小(ちひ)さい小盗人(こぬすと)をチヨコチヨコやつて居(を)つた奴(やつ)だが、197到頭(たうとう)往生(わうじやう)しよつて俺(おれ)の乾児(こぶん)になつたのだ。198金銭(かね)よりも何(なに)よりも、199モツトモツト立派(りつぱ)な宝(たから)が発見(はつけん)されたのだ。200それを俺(おれ)達(たち)は二人(ふたり)の乾児(こぶん)を伴(つ)れて取(と)りにゆくのだ、201それは立派(りつぱ)なものだぞ。202紫(むらさき)の玉(たま)に黄金(わうごん)の玉(たま)だ』
203乙(おつ)『へーい、204それは立派(りつぱ)なものでせうなア』
205玉治別(たまはるわけ)『その玉(たま)さへあれば、206三千(さんぜん)世界(せかい)の事(こと)は何(なん)でも彼(か)でも、207自分(じぶん)の心(こころ)の儘(まま)になるのだ。208貴様(きさま)も俺(おれ)の乾児(こぶん)にしてやるから、209御(お)供(とも)をしたらどうだい。210さうして名(な)は何(なん)と云(い)ふか』
211甲(かふ)『ハイ私(わたくし)は遠州(ゑんしう)と申(まを)します、212それから此奴(こいつ)が駿州(すんしう)、213此奴(こいつ)が甲州(かふしう)、214武州(ぶしう)に三州(さんしう)と云(い)ふものです。215モー一人(ひとり)の奴(やつ)は雲助(くもすけ)上(あ)がりだから雲州(うんしう)と云(い)ふ名(な)がつけてあるのです』
216玉治別(たまはるわけ)『さうか、217よし、218それでは小盗人(こぬすと)は今日(けふ)限(かぎ)り廃(や)めるか、219何(ど)うだ』
220 遠州(ゑんしう)始(はじ)め一同(いちどう)は、
221一同『ヘイヘイ誰(たれ)が斯(こ)んな小(ちひ)さい商売(しやうばい)を、222アタ恐(こは)い、223致(いた)しますものか。224貴方(あなた)の御(お)供(とも)を致(いた)しまして、225これから其(その)玉(たま)を取(と)りに参(まゐ)りませう』
226玉治別(たまはるわけ)『オイ此処(ここ)に居(ゐ)る竜州(たつしう)と国州(くにしう)は、227貴様(きさま)等(ら)の兄貴分(あにきぶん)だから、228よく言(い)ふ事(こと)を聞(き)かねばならぬぞ。229それも承知(しようち)か』
230遠州(ゑんしう)『私(わたくし)は承知(しようち)致(いた)しました。231一同(いちどう)の奴(やつ)も異議(いぎ)はありますまい』
232玉治別(たまはるわけ)『さうか、233それならよし。234今日(けふ)からこの玉州(たましう)さんの新乾児(しんこぶん)だ、235オイ竜州(たつしう)、236国州(くにしう)、237俺(おれ)は今(いま)俄(にはか)に腹(はら)を痛(いた)めずに、238これだけ大(おほ)きな子(こ)を生(う)んだのだから、239貴様(きさま)達(たち)は子守役(こもりやく)になつて世話(せわ)をしてやつて呉(く)れよ』
240竜国別(たつくにわけ)『エー仕方(しかた)が無(な)い。241国(くに)、242何(ど)うするつもりだい』
243国依別(くによりわけ)『どうすると云(い)つたところで、244行(ゆ)きつきばつたりだ。245まア行(い)くとこ迄(まで)行(い)つて玉(たま)を掠奪(りやくだつ)した上(うへ)のことだ。246オイオイ貴様(きさま)等(ら)は俺(おれ)の弟分(おとうとぶん)だ。247俺(おれ)達(たち)二人(ふたり)の言(い)ふ事(こと)を神妙(しんめう)に聞(き)くのだぞ。248どんな用(よう)があつても直接(ちよくせつ)に、249お頭領(かしら)の玉州(たましう)さんに口(くち)を利(き)いちやならない。250この国州(くにしう)や竜州(たつしう)に相談(そうだん)をかけ、251指揮(しき)を仰(あふ)ぐのだぞ』
252遠州(ゑんしう)『ハイ委細(ゐさい)承知(しようち)致(いた)しました。253併(しか)し乍(なが)ら私(わたくし)の大親分(おほおやぶん)に天州(てんしう)と云(い)ふ奴(やつ)があります。254此(こ)の天州(てんしう)は今(いま)三五教(あななひけう)の本山(ほんざん)へ、255何(なに)か結構(けつこう)な玉(たま)があるに違(ちが)ひないといつて、256信者(しんじや)に化込(ばけこ)んで這入(はい)つて居(を)ります。257それは徳公(とくこう)と云(い)ふ智慧(ちゑ)も力(ちから)も立派(りつぱ)に備(そな)はつた大親分(おほおやぶん)です』
258玉治別(たまはるわけ)『ナニ、259あの徳公(とくこう)が貴様(きさま)の親分(おやぶん)と云(い)ふのか。260彼奴(あいつ)は聖地(せいち)で門掃(かどはき)をして居(を)つた奴(やつ)ぢや。261あんな奴(やつ)を親分(おやぶん)に仰(あふ)ぐ貴様(きさま)だから知(し)れたものだ。262実(じつ)の所(ところ)は俺(おれ)は泥棒(どろばう)でも何(なん)でもない、263三五教(あななひけう)の誠(まこと)一(ひと)つの教(をしへ)を宣伝(せんでん)する玉治別(たまはるわけ)のプロパガンデイストだ。264さうしてこの御(お)二方(ふたかた)は竜国別(たつくにわけ)、265国依別(くによりわけ)と云(い)ふ立派(りつぱ)な宣伝使(せんでんし)だ。266サアこれから其方(そのはう)等(ら)が、267すつぱりと改心(かいしん)をして、268誠(まこと)の道(みち)に復帰(たちかへ)るか、269さうでなければ、270其(その)方(はう)達(たち)に言霊(ことたま)を発射(はつしや)して、271ビリツとも出来(でき)ないやうに、272五(ご)年(ねん)でも十(じふ)年(ねん)でも固(かた)めて置(お)くがそれでもよいか』
273一同(いちどう)『エー貴方(あなた)は、274さうすると三国(みくに)ケ嶽(だけ)の鬼婆(おにばば)の乾児(こぶん)ではないのですか』
275玉治別(たまはるわけ)『定(きま)つた事(こと)だよ。276誰(たれ)が泥棒(どろばう)商売(しやうばい)のやうな、277世間(せけん)の狭(せま)い引合(ひきあ)はぬことをするものかい。278俺(おれ)達(たち)は人(ひと)を相手(あひて)にせず、279天(てん)を相手(あひて)にすると云(い)ふ、280実(じつ)に武勇(ぶゆう)絶倫(ぜつりん)なる不世出(ふせいしゆつ)の英雄(えいゆう)豪傑(がうけつ)だ』
281甲(かふ)『泥棒(どろばう)の親分(おやぶん)でさへ結構(けつこう)だと思(おも)つてゐるのに、282三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)とは思(おも)ひもよりませなんだ。283併(しか)し泥棒(どろばう)より幾千倍(いくせんばい)、284イヤ天(てん)と地(ち)との差異(ちがひ)ある神(かみ)様(さま)の御(お)道(みち)、285どうぞ吾々(われわれ)を可愛(かあい)がつて救(すく)うて下(くだ)さいませぬか』
286玉治別(たまはるわけ)『ヨシヨシ救(すく)うてやる。287その代(かは)りに吾々(われわれ)の指揮(しき)命令(めいれい)に盲従(もうじう)を続(つづ)けるのだよ』
288 此(この)時(とき)空中(くうちう)に涼(すず)しき宣伝歌(せんでんか)と思(おも)はるる曲(きよく)が聞(きこ)えて来(き)た。
289三千(さんぜん)世界(せかい)の梅(うめ)の花(はな)
290一度(いちど)に開(ひら)く時(とき)来(きた)り
291本霊(もとつみたま)を曇(くも)らせし
292憐(あは)れな世人(よびと)を悉(ことごと)く
293誠(まこと)の神(かみ)の御教(みをしへ)に
294救(すく)ふ時(とき)とは成(な)りにけり
295この谷道(たにみち)に現(あら)はれし
296遠州(ゑんしう)、武州(ぶしう)を始(はじ)めとし
297甲州(かふしう)三州(さんしう)其(その)他(ほか)の
298曲津(まがつ)をことごと言向(ことむ)けて
299神(かみ)の誠(まこと)の教(のり)を説(と)き
300いよいよ吾(われ)等(ら)が睦(むつ)び合(あ)ひ
301力(ちから)を協(あは)せて高春(たかはる)の
302山(やま)の尾(を)の上(へ)に巣(す)を造(つく)る
303アルプス教(けう)の司神(つかさがみ)
304鷹依姫(たかよりひめ)が本城(ほんじやう)に
305どつと乗(の)り込(こ)み如意(によい)宝珠(ほつしゆ)
306黄金(こがね)の玉(たま)や紫(むらさき)の
307玉(たま)をマンマと手(て)に入(い)れて
308三千(さんぜん)世界(せかい)を神(かみ)の世(よ)に
309立直(たてなほ)さむは目(ま)の当(あた)り
310遠州(ゑんしう)駿州(すんしう)甲州(かふしう)武州(ぶしう)
311雲州(うんしう)三州(さんしう)諸共(もろとも)に
312来(きた)れや来(きた)れいざ来(きた)れ
313敵(てき)は幾万(いくまん)あるとても
314何(なん)の懼(おそ)るることやある
315直日(なほひ)の剣(つるぎ)抜(ぬ)きつれて
316群(むら)がる奴輩(やつばら)悉(ことごと)く
317神(かみ)の誠(まこと)の言霊(ことたま)に
318縦横(じうわう)無尽(むじん)に攻(せ)めなやめ
319勝鬨(かちどき)上(あ)げて神界(しんかい)の
320堅磐(かきは)常磐(ときは)の御使(みつかひ)と
321千代(ちよ)万代(よろづよ)に名(な)を揚(あ)げて
322尽(つ)きぬ生命(いのち)を何時(いつ)迄(まで)も
323生(い)かして通(とほ)る神(かみ)の道(みち)
324朝日(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
325月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも
326鷹依姫(たかよりひめ)の手(て)に持(も)てる
327宝珠(ほつしゆ)の玉(たま)を取(と)り還(かへ)し
328此(この)世(よ)を救(すく)ひの神(かみ)として
329吾(われ)等(ら)と倶(とも)に抜群(ばつぐん)の
330功名(こうみやう)手柄(てがら)をしよぢやないか
331アヽ惟神(かむながら)々々(かむながら)
332御霊(みたま)幸(さち)はひましませと
333○
 
334さしもに嶮(けは)しき山坂(やまさか)を
335先(さき)に立(た)つてぞ進(すす)み行(ゆ)く
336瑞(みづ)の御霊(みたま)の三柱(みはしら)に
337五(い)つの身魂(みたま)を加(くは)へつつ
338三五(さんご)の月(つき)照(て)る夜半(よなか)ごろ
339別院村(べつゐんむら)を乗(の)り越(こ)えて
340大槻並(おほつきなみ)や能勢(のせ)の里(さと)
341乗(の)せて馳行(はせゆ)く口車(くちぐるま)
342摂津(せつつ)の国(くに)の多田(ただ)の里(さと)
343波(なみ)を湛(たた)へし津田(つだ)の湖(うみ)
344畔(ほとり)にこそは着(つ)きにける
345○
 
346此(こ)の物語(ものがたり)長(なが)けれど
347眠(ねむ)りの神(かみ)に誘(さそ)はれて
348横(よこ)に寝(ね)乍(なが)ら根(ね)の国(くに)や
349華胥(くわしよ)の国(くに)に進(すす)み行(ゆ)く
350アヽ惟神(かむながら)々々(かむながら)
351御霊(みたま)幸(さち)はひましませと
352後(あと)振(ふ)り返(かへ)り眺(なが)むれば
353外山(とやま)の霞(かすみ)晴渡(はれわた)り
354高春山(たかはるやま)の頂(いただ)きに
355豊二(ゆたかに)照(て)らす朝日影(あさひかげ)
356上(あが)るを待(ま)つて此(こ)の続(つづ)き
357いと細(こま)やかに伝(つた)ふべし。
358(大正一一・五・一六 旧四・二〇 外山豊二録)
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