霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第三章 月休殿(げつきうでん)〔六七七〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第21巻 如意宝珠 申の巻 篇:第1篇 千辛万苦 よみ(新仮名遣い):せんしんばんく
章:第3章 月休殿 よみ(新仮名遣い):げっきゅうでん 通し章番号:677
口述日:1922(大正11)年05月16日(旧04月20日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年4月5日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
三人は、梅照彦の館で晩餐を取り、主客四方山話にふけった。玉治別は、出発前夜に岩の橋が落ちるという大変な夢を見たために、高春山への道を変えたこと、高熊山の岩窟に参拝していくのが順当であると気づいたこと、を話した。
竜国別と国依別は、高春山に行く使命自体が、言依別命の密命であり、みだりに話すべきことではないと、玉治別に注意する。一同は口の軽さについて四方山話を繰り広げ、やがて寝につくことになった。
玉治別はすぐに寝入っていびきをかいてしまったが、国依別と竜国別の二人は寝付かれずに外に出て庭園を逍遥する。二人は月を眺めながら話をし、月宮殿の境内までやってきた。
二人は、お宮が古くて荒れていることを嘆く。国依別は、五六七の世になればこの宮が輝いて闇を照らし、高天原の霊国にある月宮殿のようになるのだが、真の徳が失せた世の中の姿がこのお宮に写されているのだ、と嘆く。
竜国別は、テンやイタチが住んでお宮を荒らしていることに、御神徳があれば、罰が当たるはずだと嘆く
すると、社の中から声がして、畜生は畜生だから罰を当てないのだ、と言う。そして二人に対して、畜生ならば罰を当てずに赦してやろう、しかし人間ならば即座に神罰を当ててやる、と返答を迫る。
二人は、畜生ではないのでそう言うわけにもいかず、しかし人間だと言うと神罰が恐ろしいので、何と答えようか相談している。社の声に脅かされて、ついに二人は畜生と人間が半分の身魂だと答えた。
すると社の中の声は、半身を引き抜いてやろう、と罰を言い渡した。二人はそろそろ、お宮の声が、田吾作の声に似ていることにきづき、怪しみ出す。二人が田吾作を呼びつけると、玉治別が社の中から出てきた。
三人は笑いながら梅照彦の館に帰って来た。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-05-02 01:11:57 文字数:6642 OBC :rm2103
愛善世界社版:62頁 八幡書店版:第4輯 287頁 修補版: 校定版:65頁 普及版:27頁 初版: ページ備考:
001 竜国別(たつくにわけ)、002玉治別(たまはるわけ)、003国依別(くによりわけ)の三(さん)人(にん)は珍(うづ)の館(やかた)の奥(おく)の室(ま)に打通(うちとほ)り、004梅照姫(うめてるひめ)が調理(てうり)せし晩餐(ばんさん)に舌鼓(したつづみ)を打(う)ち、005主客(しゆきやく)打(う)ち解(と)けて四方(よも)八方(やも)の話(はなし)に耽(ふけ)る。
006梅照彦(うめてるひこ)『最前(さいぜん)の玉治別(たまはるわけ)様(さま)のお歌(うた)に依(よ)つて、007津(つ)の国(くに)の高春山(たかはるやま)へお出(い)でになる事(こと)を承知(しようち)致(いた)しました。008然(しか)し乍(なが)ら此方(こちら)から御(お)出(い)でになるのは、009少(すこ)し迂回(うくわい)ではありませぬか』
010玉治別『少(すこ)しは迂回(うくわい)ですが是(これ)には理由(わけ)があるのです。011実(じつ)は福知山(ふくちやま)の方面(はうめん)から柏原(かいばら)を通(とほ)り鬼(おに)の懸橋(かけはし)を渡(わた)つて参(まゐ)る積(つも)りでしたが、012出発(しゆつぱつ)の前夜(ぜんや)に大変(たいへん)な夢(ゆめ)を見(み)まして……それで此方(こちら)へ途(みち)を変(か)へたのです。013さうして玉照彦(たまてるひこ)様(さま)のお出(で)ましになつた高熊山(たかくまやま)の岩窟(がんくつ)を拝(はい)して行(ゆ)くのが順当(じゆんたう)だと気(き)がついたのです。014悪魔(あくま)に対(たい)し言霊戦(ことたません)を開始(かいし)するのですから、015余程(よほど)修業(しうげふ)をして参(まゐ)らねばなりませぬ。016高姫(たかひめ)、017黒姫(くろひめ)の宣伝使(せんでんし)は、018不覚(ふかく)にも飛行船(ひかうせん)に乗(の)つて只(ただ)一息(ひといき)に苦労(くらう)も無(な)しに高(たか)い所(ところ)から敵(てき)を威喝(ゐかつ)しようと思(おも)つて出(で)たものですから、019三(さん)ケ月(げつ)有余(いうよ)も経(た)つた今日(こんにち)何(なん)の消息(せうそく)も無(な)し、020それが為(た)めに言依別(ことよりわけの)命(みこと)が我々(われわれ)を密(ひそ)かにお遣(つか)はしになるのです。021聖地(せいち)の人々(ひとびと)は我々(われわれ)三(さん)人(にん)以外(いぐわい)、022誰(たれ)一人(ひとり)知(し)つて居(ゐ)ないのです。023バラモン教(けう)やアルプス教(けう)の間者(まはしもの)が沢山(たくさん)に信者(しんじや)となつて化込(ばけこ)んで居(を)りますから、024うつかりした事(こと)は言(い)はれないのです。025又(また)仮令(たとへ)異教(いけう)の間者(まはしもの)が居(を)らないにしても幹部(かんぶ)の連中(れんちう)や信者(しんじや)に知(し)らせますと、026直(すぐ)に如何(どん)な大切(たいせつ)の事(こと)でも喋(しやべ)つて仕舞(しま)ひますから困(こま)つたものですよ。027何故(なぜ)あれだけ秘密(ひみつ)が守(まも)れないのかと不思議(ふしぎ)な位(くらゐ)です。028三(さん)人(にん)の外(ほか)に誰(たれ)にも言(い)ふなと仰有(おつしや)つたのですから、029秘密(ひみつ)は何処迄(どこまで)も守(まも)らねばなりませぬからなア』
030国依別(くによりわけ)『オイ、031玉治別(たまはるわけ)、032お前(まへ)は幹部(かんぶ)が喋舌(しやべ)ると今(いま)言(い)つたが、033我々(われわれ)両人(りやうにん)が何(なに)も言(い)はないのに、034お前(まへ)は斯(こ)んな秘密(ひみつ)を門前(かどさき)で大(おほ)きな声(こゑ)で歌(うた)つたぢやないか。035猿(さる)の尻笑(しりわら)ひと言(い)ふのはお前(まへ)の事(こと)だよ』
036竜国別(たつくにわけ)『ハヽヽヽヽ、037到頭(たうとう)秘密(ひみつ)が曝(ば)れて仕舞(しま)つたぢやないか。038「これは秘密(ひみつ)だからお前(まへ)さまより外(ほか)には言(い)はないから、039誰(たれ)にも言(い)つて下(くだ)さるな」と口止(くちど)めする。040聞(き)いた人(ひと)は「諾々(よしよし)決(けつ)して言(い)はぬ」と言(い)ひ乍(なが)ら、041又(また)次(つぎ)の人(ひと)に「此奴(こいつ)ア秘密(ひみつ)だから誰(たれ)にも言(い)はれぬ。042お前(まへ)だけに言(い)つたのだから、043屹度(きつと)他言(たごん)はして呉(く)れるな」と口止(くちど)めする。044又(また)次(つぎ)から次(つぎ)へと其(その)通(とほ)り繰返(くりかへ)されるものだ。045そして一人(ひとり)より言(い)はないと言(い)つた者(もの)が、046会(あ)ふ人(ひと)毎(ごと)に尋(たづ)ねもせぬのに「お前(まへ)一人(ひとり)だけだ」と言(い)つて、047終(しまひ)には秘密(ひみつ)の方(はう)が拡(ひろ)がるものだ。048表向(おもてむき)広告(くわうこく)的(てき)に言(い)つたのは誰(たれ)も耳(みみ)に止(と)めないから却(かへつ)て拡(ひろ)まらないものだよ。049「お前(まへ)一人(ひとり)と定(さだ)めて置(お)いて、050浮気(うはき)や其(その)日(ひ)の出来(でき)心(ごころ)」式(しき)だから困(こま)つたものだ。051なア国依別(くによりわけ)』
052国依別(くによりわけ)『そうだなア、053此(この)筆法(ひつぱふ)を宣伝(せんでん)に応用(おうよう)したら如何(どう)でせう。054不言講(いはずかう)とか言(い)つて「お前(まへ)丈(だ)けに結構(けつこう)な事(こと)を聞(き)かしてやるのだから、055主人(しゆじん)にでも……仮令(たとへ)我(わが)子(こ)にでも女房(にようばう)にでも言(い)ふ事(こと)はならぬ」と口止(くちど)めをして置(お)くと、056其(その)男(をとこ)は「俺(おれ)は身魂(みたま)が立派(りつぱ)だから、057誰(たれ)も知(し)らぬ事(こと)を神(かみ)様(さま)から彼(かれ)の口(くち)を通(とほ)して言(い)つて下(くだ)さつたのだ」「俺(おれ)の身魂(みたま)は立派(りつぱ)だから、058神慮(しんりよ)に叶(かな)つて居(を)るから、059斯(か)う言(い)ふ大切(たいせつ)な事(こと)を知(し)らして貰(もら)へるのだ」と思(おも)つて自慢(じまん)相(さう)に人々(ひとびと)に秘密(ひみつ)々々(ひみつ)と言(い)つては喋(しやべ)り散(ち)らす、060それが却(かへつ)て能(よ)く拡(ひろ)まる様(やう)なものだ。061三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)も、062その筆法(ひつぱふ)を応用(おうよう)したら、063却(かへつ)て良(い)いかも知(し)れないぞ、064アハヽヽヽ』
065玉治別(たまはるわけ)『然(しか)しそれは……さうとして、066梅照彦(うめてるひこ)さまはそんな軽薄(けいはく)な御(お)方(かた)ぢや無(な)いから、067屹度(きつと)秘密(ひみつ)を守(まも)られるでせう』
068梅照彦(うめてるひこ)『私(わたくし)は守(まも)る積(つも)りですが、069女房(にようばう)や下男(しもべ)が……余(あま)り大(おほ)きな声(こゑ)で仰有(おつしや)つたものだから……全部(すつかり)聞(き)いて居(を)りませう。070そいつア何(ど)うも請負(うけお)ふ事(こと)は出来(でき)ませぬなア』
071玉治別(たまはるわけ)『困(こま)つた事(こと)だ。072何卒(どうぞ)成就(じやうじゆ)するまで他(た)へ洩(も)れない様(やう)に……喋舌(しやべ)られては困(こま)るから……どうか暫時(しばらく)奥(おく)さまと下男(げなん)とは座敷牢(ざしきらう)にでも入(い)れて、073人(ひと)に会(あ)はさない様(やう)にして下(くだ)さいますまいかなア』
074梅照姫(うめてるひめ)『オホヽヽヽ、075妾(わたし)は滅多(めつた)に言(い)ひませぬが、076貴方(あなた)言(い)はぬ様(やう)になされませ。077屹度(きつと)道々(みちみち)秘密(ひみつ)を開(あ)け放(はな)しにして、078何(なに)も彼(か)もみんな仰有(おつしや)るでせう』
079玉治別(たまはるわけ)『イヤイヤ決(けつ)して決(けつ)して、080余(あんま)りむかついたものですから、081つい門口(かどぐち)で脱線(だつせん)したのですよ』
082梅照姫(うめてるひめ)『余程(よほど)言霊(ことたま)鉄道(てつだう)の敷設(ふせつ)工事(こうじ)が請負(うけおひ)と見(み)えて、083粗末(そまつ)な事(こと)がしてあると見(み)えてますなア、084ホヽヽヽヽ』
085竜国別(たつくにわけ)『何分(なにぶん)宇都山(うづやま)村(むら)の田吾作(たごさく)時代(じだい)には、086随分(ずゐぶん)狼狽者(あわてもの)の大将(たいしやう)だといふ評判(ひやうばん)でしたから、087矢張(やつぱり)三才児(みつご)の癖(くせ)は百歳(ひやく)迄(まで)とか言(い)つて、088仕方(しかた)の無(な)いものですワイ』
089玉治別(たまはるわけ)『そんな昔(むかし)の事(こと)をさらけ出(だ)して、090人(ひと)の前(まへ)で言(い)ふものぢやない。091竜国別(たつくにわけ)、092私(わし)が出立(しゆつたつ)の際(さい)に「何卒(どうぞ)誰(たれ)にも玉治別(たまはるわけ)は宇都山(うづやま)村(むら)の田吾作(たごさく)だと云(い)つて下(くだ)さるな、093秘密(ひみつ)にして下(くだ)さい」と頼(たの)んだ時(とき)「俺(おれ)も男(をとこ)だ、094ヨシ、095言(い)はぬと云(い)つたら首(くび)が千切(ちぎ)れても言(い)はない」と言明(げんめい)し乍(なが)ら、096三日(みつか)も経(た)たぬ間(うち)に秘密(ひみつ)を明(あか)すとは何(なん)の事(こと)だい。097余(あんま)り人(ひと)の事(こと)を云(い)ふものぢやありませぬぞ。098自分(じぶん)の過失(あやまち)は分(わか)らぬものと見(み)えますわい』
099竜国別(たつくにわけ)『ヤア此奴(こいつ)ア縮尻(しくじ)つた。100然(しか)し乍(なが)らお前(まへ)が田吾作(たごさく)だつたと言(い)つた所(ところ)で、101今回(こんくわい)の作戦(さくせん)計画(けいくわく)に齟齬(そご)を来(きた)す様(やう)な大問題(だいもんだい)ぢや無(な)いから……マア大目(おほめ)に見(み)るのだなア』
102玉治別(たまはるわけ)『小(ちひ)さい事(こと)だと云(い)つて秘密(ひみつ)を洩(も)らしても良(い)いのですか。103小(ちひ)さい事(こと)を洩(も)らすやうな人(ひと)は、104矢張(やつぱり)大事(だいじ)を洩(も)らすものですよ。105蟻穴(ぎけつ)堤防(ていばう)を崩(くづ)すとか言(い)つて、106極微細(ごくびさい)な事(こと)から大失敗(だいしつぱい)を演(えん)ずるものだ。107如何(どう)ですか』
108竜国別(たつくにわけ)『ヤア大変(たいへん)な速射砲(そくしやはう)を向(む)けられて……イヤもう恐(おそ)れ入(い)りました。109只今(ただいま)限(かぎ)り屹度(きつと)慎(つつし)みませう』
110梅照彦(うめてるひこ)『皆(みな)さま、111お疲労(くたびれ)でせうから、112もうお寝(やす)みなさいませ』
113玉治別(たまはるわけ)『何時(いつ)迄(まで)も攻撃(こうげき)計(ばか)り受(う)けて居(を)つても詮(つま)らない。114ア、115お迎(むか)ひが出(で)て来(き)た様(やう)だ。116アーアツ』
117と口(くち)の引裂(ひきさ)ける様(やう)な欠伸(あくび)をなし、118目(め)を擦(こす)つて居(ゐ)る。
119梅照姫(うめてるひめ)『サア、120お寝(やす)みなさいませ。121奥(おく)の室(ま)に寝床(ねま)が敷(し)いて御座(ござ)いますから』
122 玉治別(たまはるわけ)は、
123玉治別『皆(みな)さま、124お先(さき)へ』
125と奥(おく)の室(ま)に入(い)るや否(いな)や、126雷(らい)の如(ごと)き鼾(いびき)をかいて他愛(たあい)もなく寝入(ねい)つて了(しま)ふ。127二人(ふたり)は続(つづ)いて、
128竜国別、国依別『左様(さやう)なれば寝(やす)ませて頂(いただ)きませう』
129と奥(おく)の室(ま)に入(い)る。130玉治別(たまはるわけ)の粥(かゆ)を煮(に)る大(おほ)きな鼾(いびき)が耳(みみ)に這入(はい)つて二人(ふたり)とも寝(ね)つかれず、131そつと裏口(うらぐち)を開(あ)けて、132月(つき)を賞(ほ)め乍(なが)ら庭園(ていえん)を逍遥(せうえう)してゐる。
133竜国別(たつくにわけ)『アヽ佳(い)い月(つき)だな。134秋(あき)の月(つき)も佳(い)いが、135冬(ふゆ)の月(つき)も又(また)格別(かくべつ)綺麗(きれい)な様(やう)だ。136あの月(つき)の中(なか)に猿(さる)と兎(うさぎ)が餅(もち)を搗(つ)いて居(を)ると云(い)ふ事(こと)だが、137一(ひと)つ我々(われわれ)に搗落(つきおと)して呉(く)れさうなものだなア』
138国依別(くによりわけ)『アハヽヽヽ、139八日日(やうかび)が来(き)たら落(おと)して呉(く)れますワイ』
140竜国別(たつくにわけ)『卯月(うづき)八日(やうか)、141花(はな)より団子(だんご)と言(い)つて、142あれや餅(もち)ぢやない、143団子(だんご)ぢや』
144国依別(くによりわけ)『団子(だんご)でも餅(もち)でも、145矢張(やつぱり)搗(つ)かねばならぬよ』
146竜国別(たつくにわけ)『団子(だんご)は月(つき)が落(おと)すのぢや無(な)い。147此方(こちら)から搗(つ)いて上(あ)げるのだよ。148竹(たけ)の先(さき)に躑躅(つつじ)の花(はな)と一緒(いつしよ)に括(くく)つてな……』
149国依別(くによりわけ)『その上(あ)げた団子(だんご)を揺(ゆ)すつて落(おと)して喰(く)つて呉(く)れるのだ。150十五(じふご)の月(つき)は望月(もちづき)(餅搗(もちつき))と云(い)ふから、151屹度(きつと)十五(じふご)日(にち)になれば餅搗(もちつき)するに違(ちが)ひない』
152竜国別(たつくにわけ)『良(よ)い加減(かげん)に洒落(しやれ)て置(お)かぬか。153お月(つき)さまに恥(はづ)かしいぞよ』
154国依別(くによりわけ)『三五(さんご)の月(つき)の御教(みをしへ)を開(ひら)く我々(われわれ)宣伝使(せんでんし)は、155何(なに)……月(つき)に遠慮(ゑんりよ)する事(こと)があらうかい。156子(こ)がお母(か)アさまになんぞお呉(く)れと言(い)つて、157駄々(だだ)と団子(だんご)をこねるやうな心餅(こころもち)で居(を)るのだよ、158アハヽヽヽ』
159竜国別(たつくにわけ)『あのお月(つき)さまの顔(かほ)には痘痕(あばた)が出来(でき)て居(ゐ)るぢやないか。160円満(ゑんまん)清朗(せいろう)、161月(つき)の如(ごと)しと言(い)ふけれど、162余(あんま)りあの痘痕面(あばたづら)では立派(りつぱ)でも無(な)い様(やう)だ。163月(つき)は玉兎(ぎよくと)と云(い)ふからには、164ドコか玉治別(たまはるわけ)の円(まる)い御(ご)面相(めんさう)に似(に)た所(ところ)がある様(やう)ぢや無(な)いか』
165国依別(くによりわけ)『玉治別(たまはるわけ)の面(つら)の様(やう)に見(み)えてるのは、166矢張(やつぱり)あれは地球(ちきう)の影(かげ)が映(うつ)つて居(ゐ)るのだ。167白(しろ)い所(ところ)は水(みづ)、168黒(くろ)い所(とこ)は陸地(りくち)だ。169天体学(てんたいがく)の事(こと)なら、170何(なん)でも俺(おれ)に尋(たづ)ねたら聞(き)かしてやらう、171オホン』
172竜国別(たつくにわけ)『アハヽヽヽ、173瑞月(ずいげつ)霊界(れいかい)物語(ものがたり)の第四(だいよん)巻(くわん)を読(よ)んだのだらう』
174国依別(くによりわけ)『そんな本(ほん)が何処(どこ)にあるのだ』
175竜国別(たつくにわけ)『三十五万(さんじふごまん)年(ねん)の未来(みらい)に活版刷(くわつぱんずり)で天声社(てんせいしや)から発行(はつかう)せられた単行本(たんかうぼん)だ。176それに出(で)て居(ゐ)るぢやないか。177貴様(きさま)はまだ見(み)た事(こと)が無(な)いのだなア。178あれだけ名高(なだか)い名著(めいちよ)を知(し)らないとは余程(よほど)時代(じだい)遅(おく)れだ。179それでも宣伝使(せんでんし)だからなア』
180国依別(くによりわけ)『未来(みらい)の著述(ちよじゆつ)は見(み)ても見(み)ぬ顔(かほ)をして居(を)るものだ。181世(よ)の中(なか)が開(ひら)けて来(く)ると種々(いろいろ)の学者(がくしや)とやら、182役者(やくしや)とやらが出(で)て来(き)て、183屁理屈(へりくつ)を言(い)つて飯食(めしく)ふ種(たね)にする奴(やつ)があるから、184……それを思(おも)うと俺(おれ)も愛想(あいさう)が月(つき)さまだよ。185まア現在(げんざい)の事(こと)でさへも分(わか)らないのに、186未来(みらい)の事(こと)までも研究(けんきう)は廃(や)めて置(お)かうかい。187三五教(あななひけう)の其(その)時代(じだい)の宣伝使(せんでんし)でさへも、188読(よ)んで居(ゐ)ないものがある位(くらゐ)だからなア』
189竜国別(たつくにわけ)『未来(みらい)の宣伝使(せんでんし)は無謀(むぼう)なものだなア。190しかし大分(だいぶ)に夜露(よつゆ)を浴(あ)びた様(やう)だが、191もう徐々(そろそろ)帰(かへ)つて寝床(ねま)に横(よこた)はらうぢやないか』
192国依別(くによりわけ)『俺(おれ)はもう少時(しばらく)散歩(さんぽ)する。193却(かへつ)て一人(ひとり)の方(はう)が都合(つがふ)が好(い)いから……お前(まへ)は先(さき)へ寝(ね)たが宜(よ)からう。194又(また)肝腎(かんじん)の時(とき)になつて眠(ね)むたがると困(こま)るからなア』
195竜国別(たつくにわけ)『そんならお先(さき)へ御免(ごめん)を蒙(かうむ)る。196お前(まへ)は、197ゆつくりお月(つき)さまとオツキ合(あ)ひ話(ばなし)でもするが良(よ)いわい。198近(ちか)い所(とこ)に御座(ござ)るからよく聞(きこ)えるだらう』
199国依別(くによりわけ)『きまつた事(こと)だ。200お月様(つきさま)の分霊(ぶんれい)が……これ見(み)い、201此(この)通(とほ)り……草(くさ)の上(うへ)にも玉(たま)の如(ごと)く輝(かがや)いて御座(ござ)る。202貴様(きさま)の鬚(ひげ)にも沢山(たくさん)に天降(あまくだ)つて御座(ござ)るぢやないか。203神(かみ)様(さま)の御(ご)威徳(ゐとく)は斯(こ)んなものだ。204貴様(きさま)はお月様(つきさま)は只(ただ)御(ご)一体(いつたい)で大空(おほぞら)ばつかりに居(を)られると思(おも)つて居(ゐ)るやうだが、205仁慈(じんじ)無限(むげん)の弥勒(みろく)様(さま)だから、206草(くさ)の片葉(かきは)に至(いた)る迄(まで)此(この)通(とほ)り恵(めぐ)みの露(つゆ)を降(くだ)して、207輝(かがや)き給(たま)ふではないか』
208竜国別(たつくにわけ)『成(な)る程(ほど)、209さう言(い)へば……そうだ。210是(これ)だけは国(くに)さまの嘘月(うそつき)でも間誤月(まごつき)でもない、211併(しか)し雨露月(うろつき)だなア』
212国依別(くによりわけ)『分(わか)つたか、213「月(つき)二(ふた)つ担(にな)うて帰(かへ)る水(みづ)貰(もら)ひ」と云(い)つて、214一荷(いつか)の桶水(をけみづ)の中(なか)にも御(ご)丁寧(ていねい)に一(ひと)ツづつお月様(つきさま)は御(ご)守護(しゆご)して下(くだ)さるのだ』
215竜国別(たつくにわけ)『よく分(わか)りました。216モウ之(これ)位(くらゐ)で御(ご)中止(ちゆうし)を願(ねが)ひます』
217国依別(くによりわけ)『馬鹿(ばか)云(い)ふな。218此処(ここ)は月(つき)の名所(めいしよ)、219月宮殿(げつきうでん)の御(ご)境内(けいだい)だ。220これ丈(だ)け結構(けつこう)な月(つき)の光(ひかり)を拝(をが)んで此(この)儘(まま)寝(ね)ると云(い)ふ事(こと)があるものか。221サア今(いま)の間(うち)に月宮殿(げつきうでん)へ参拝(さんぱい)して、222その上(うへ)で寝(やす)まうぢやないか』
223竜国別(たつくにわけ)『ウン、224それもそうだ。225そんなら一(ひと)つ是(これ)からお参詣(まゐり)して来(こ)うか。226天(てん)には寒月(かんげつ)、227地(ち)には迂露月(うろつき)の影(かげ)ふるふだ、228アハヽヽヽ』
229両人『サア行(ゆ)かう』
230と両人(りやうにん)は鬱蒼(こんもり)とした森影(もりかげ)に建(た)てられたお宮(みや)の前(まへ)にすたすたと進(すす)み行(ゆ)く。
231 二人(ふたり)は月(つき)の森(もり)の月宮殿(げつきうでん)の階段(かいだん)を登(のぼ)りながら、
232竜国別(たつくにわけ)『結構(けつこう)な月(つき)だが、233斯(か)う鬱蒼(こんもり)と樹木(じゆもく)が茂(しげ)つて居(ゐ)ると、234肝腎(かんじん)の月宮殿(げつきうでん)は、235暗(やみ)も同様(どうやう)ぢやないか。236此(この)月宮殿(げつきうでん)は暗宮殿(あんきうでん)だ。237これ程(ほど)綺麗(きれい)なお月様(つきさま)が祀(まつ)つてあるのに、238何故(なぜ)此(この)森(もり)が明(あか)くないのだらう』
239国依別(くによりわけ)『馬鹿(ばか)言(い)ふな。240之(これ)は晦(つごもり)の月宮殿(げつきうでん)といつて、241お月様(つきさま)のお休(やす)み遊(あそ)ばす御殿(ごてん)だ。242宮(きう)と云(い)ふ字(じ)は休(きう)と云(い)ふ字(じ)に改(あらた)めさへすれば、243名実(めいじつ)相適(あひかな)ふのだ、244イヤ明月(めいげつ)相反(あひはん)すと言(い)ふのだ。245アハヽヽヽ』
246 神殿(しんでん)の何処(いづく)ともなく、
247『ガサガサ グヽヽヽ』
248と怪(あや)しき物音(ものおと)が聞(きこ)えて来(く)る。
249竜国別(たつくにわけ)『ヤア此(この)宮(みや)は余程(よほど)古(ふる)いと思(おも)へば、250貂(てん)か鼬(いたち)が巣(す)をしてると見(み)えて、251大変(たいへん)に暴(あば)れて居(を)るぢやないか。252「月(つき)は天(てん)に澄(す)み渡(わた)る」と詩人(しじん)が言(い)つて居(ゐ)るが、253貂(てん)は月(つき)の宮(みや)に棲(す)み渡(わた)り頭(あたま)から糞(くそ)、254小便(せうべん)を垂(た)れ流(なが)すぢやないか。255之(これ)を思(おも)へば月宮殿(げつきうでん)も薩張(さつぱり)愛想(あいさう)が月(つき)の宮(みや)ぢや。256此(この)宮(みや)も貂(てん)や鼬(いたち)の棲処(すみか)となつては最早(もはや)運(うん)の月(つき)だなア』
257国依別(くによりわけ)『人間(にんげん)の運命(うんめい)にも栄枯(ゑいこ)盛衰(せいすゐ)がある。258潮(しほ)にも満干(みちひ)がある。259此(この)宮(みや)さまは今(いま)は干潮時(ひきしほどき)ぢや。260それだからかう見窄(みすぼ)らしく荒廃(くわうはい)して居(ゐ)るのだ。261之(これ)でも五六七(みろく)の世(よ)に成(な)れば、262此(この)お宮(みや)は金光(きんくわう)燦然(さんぜん)として闇(やみ)を照(てら)し、263高天原(たかあまはら)の霊国(れいごく)にある月宮殿(げつきうでん)の様(やう)になるのだが、264何程(なにほど)結構(けつこう)な弥勒(みろく)さまのお宮(みや)でも時(とき)を得(え)ざればこんなものだ。265信真(しんしん)の徳(とく)の失(う)せたる世(よ)の中(なか)の姿(すがた)が遺憾(ゐかん)なく此(この)お宮(みや)に写(うつ)されてあるのだ。266嗚呼(ああ)如何(いか)にせんやだ』
267竜国別(たつくにわけ)『そうだなア、268社会(しやくわい)の時代(じだい)的(てき)反映(はんえい)かも知(し)れないなア。269神(かみ)様(さま)が頭(あたま)から四足(よつあし)に糞(くそ)や小便(せうべん)をかけられ、270四足(よつあし)と同居(どうきよ)して御座(ござ)る様(やう)では御(ご)神徳(しんとく)も何(なに)もあつたものぢやない。271御(ご)神徳(しんとく)さへあれば、272こんな失敬(しつけい)な……神(かみ)様(さま)の頭(あたま)の上(うへ)へ上(あが)つて糞(くそ)や小便(せうべん)を垂(た)れる奴(やつ)に、273罰(ばち)を当(あ)てて動(うご)けない様(やう)に霊縛(れいばく)なさりさうなものぢやないか』
274 社(やしろ)の中(なか)より、
275(玉治別)『此(この)方(はう)は月(つき)の大神(おほかみ)であるぞよ。276汝(なんぢ)三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)、277竜国別(たつくにわけ)、278国依別(くによりわけ)の盲目(めくら)ども、279否(いな)魔誤月(まごつき)、280嘘月(うそつき)、281キヨロ月(つき)人足(にんそく)、282神(かみ)の申(まを)すことを耳(みみ)を浚(さら)へてよつく聞(き)け。283神(かみ)は人間(にんげん)の信真(しんしん)の頭(かうべ)に宿(やど)る、284決(けつ)して畜生(ちくしやう)等(など)には神(かみ)の聖霊(せいれい)は宿(やど)らないぞ。285畜生(ちくしやう)には人間(にんげん)の副霊(ふくれい)が宿(やど)つて居(を)るのだ。286それだから神殿(しんでん)に鼬(いたち)や貂(てん)等(など)が小便(せうべん)を垂(た)れ様(やう)が、287糞(くそ)を垂(た)れ様(やう)が、288放任(はうにん)してあるのだ。289元来(ぐわんらい)が畜生(ちくしやう)の因縁(いんねん)を以(もつ)て生(うま)れて来(き)て居(ゐ)るからだ。290神(かみ)は人間(にんげん)らしき人間(にんげん)が無礼(ぶれい)を致(いた)した時(とき)は即座(そくざ)に神罰(しんばつ)を与(あた)ふるぞ。291只今(ただいま)の世(よ)の中(なか)は獣(けだもの)が人間(にんげん)の皮(かは)を被(かぶ)り白日(はくじつ)天下(てんか)を横行(わうかう)濶歩(くわつぽ)する暗(やみ)の世(よ)だ。292今(いま)、293此処(ここ)へ人一(にんいち)化九(ばけきう)の妖怪(えうくわい)が二匹(にひき)も現(あら)はれて来(き)よつたが、294之(これ)も人間(にんげん)で無(な)いから神罰(しんばつ)は当(あ)てないで差赦(さしゆる)してやらう。295サア如何(どう)ぢや、296人間(にんげん)なれば人間(にんげん)と判然(はつきり)申(まを)せ。297四足(よつあし)の容器(いれもの)なれば容器(いれもの)で御座(ござ)いますと白状(はくじやう)致(いた)せ。298神(かみ)の方(はう)にも考(かんが)へがあるぞよ』
299 国依別(くによりわけ)は小声(こごゑ)で竜国別(たつくにわけ)に向(むか)ひ、
300国依別『オイ、301何(なん)だらうな。302えらい事(こと)を言(い)ふぢやないか』
303竜国別(たつくにわけ)『あんまり神(かみ)様(さま)の悪(わる)いことを言(い)つたものだから、304神(かみ)さまが怒(おこ)つて御座(ござ)るのかも知(し)れないよ』
305国依別(くによりわけ)『罰(ばち)が当(あた)る様(やう)なことは出来(でき)はしまいかな』
306竜国別(たつくにわけ)『サア、307其処(そこ)ぢやて。308俺(おれ)も一(ひと)つ如何(どう)言(い)はうか知(し)らんと思(おも)つて心配(しんぱい)をして居(を)るのだ。309結構(けつこう)な神(かみ)の生宮(いきみや)たる万物(ばんぶつ)の霊長(れいちやう)、310大和(やまと)魂(だましひ)の人間(にんげん)で御座(ござ)いますと言(い)へば、311直(すぐ)に神罰(しんばつ)を当(あ)てられて如何(どん)な目(め)に逢(あ)はされるか知(し)れないし、312四足(よつあし)の容器(いれもの)と言(い)へば、313お咎(とが)めは無(な)いけれど本(ほん)守護神(しゆごじん)に対(たい)して申訳(まをしわけ)が立(た)たぬなり、314自分(じぶん)も何(なん)だか阿呆(あはう)らしくて、315卑怯(ひけふ)未練(みれん)にもそんな事(こと)は断然(だんぜん)、316アヽもう良(よ)う言(い)はんワ』
317 宮(みや)の御殿(ごてん)より、
318(玉治別)『人間(にんげん)か、319四足(よつあし)か、320早(はや)く返答(へんたふ)致(いた)せ。321四足(よつあし)と有体(ありてい)に白状(はくじやう)すれば今日(けふ)は断然(だんぜん)赦(ゆる)して遣(つか)はす。322人間(にんげん)と申(まを)せば此(この)儘(まま)汝(なんぢ)の生命(いのち)を取(と)つて、323根(ね)の国(くに)、324底(そこ)の国(くに)へ追(お)ひやつてやらう。325サア早(はや)く返答(へんたふ)を致(いた)さぬか』
326竜国別(たつくにわけ)『ハイ、327一寸(ちよつと)待(ま)つて下(くだ)さいませ。328今(いま)鳩首(きうしゆ)謀議(ぼうぎ)の最中(さいちう)で御座(ござ)います。329相談(そうだん)が纏(まと)まつた上(うへ)御(ご)返事(へんじ)を申上(まをしあ)げます』
330 宮(みや)の中(うち)より、
331(玉治別)『エー、332これしきの問題(もんだい)に凝議(ぎようぎ)も何(なに)もあつたものか、333一目(いちもく)瞭然(れうぜん)だ、334早(はや)く返答(へんたふ)致(いた)せ。335四足(よつあし)に間違(まちが)ひあるまいがな』
336両人(りやうにん)『へ……そ……それは……あんまり……殺生(せつしやう)で御座(ござ)います……』
337 宮(みや)の中(うち)より、
338(玉治別)『それなら誠(まこと)の人間(にんげん)と申(まを)すのか』
339国依別(くによりわけ)『ハイ……まア人間(にんげん)が半分(はんぶん)……畜生(ちくしやう)が半分(はんぶん)で人獣(にんじう)合一(がふいつ)の身魂(みたま)で御座(ござ)います』
340 宮(みや)の中(うち)より、
341(玉治別)『然(しか)らば獣(けだもの)の分(ぶん)だけは赦(ゆる)して遣(つか)はす。342半分(はんぶん)の人間(にんげん)を之(これ)から成敗(せいばい)致(いた)す。343耳(みみ)一(ひと)つ、344眼玉(めだま)一(ひと)つ、345鼻(はな)一(ひと)つ、346下腮(したあご)を取(と)り、347手(て)一本(いつぽん)、348足(あし)一本(いつぽん)引(ひ)き抜(ぬ)いてやらう。349有難(ありがた)う思(おも)へ』
350竜国別(たつくにわけ)『ヤア、351もう何卒(どうぞ)今度(こんど)に限(かぎ)り大目(おほめ)に見(み)て下(くだ)さいませ』
352 宮(みや)の中(うち)より、
353(玉治別)『何(なに)、354大目(おほめ)に見(み)て呉(く)れと申(まを)すか、355蛇(じや)の目(め)の唐傘(からかさ)の様(やう)な大(おほ)きな目(め)で睨(にら)んでやらうか』
356国依別(くによりわけ)『イエイエ滅相(めつさう)な、357そんな目(め)で睨(にら)まれては此方(こちら)も……めゝゝゝゝ迷惑(めいわく)を致(いた)します』
358 宮(みや)の中(うち)より、
359(玉治別)『此(この)方(はう)も時節(じせつ)の力(ちから)で斯(かく)の如(ごと)く屋根(やね)は雨(あめ)漏(も)り、360鼬(いたち)、361貂(てん)の棲処(すみか)となり、362些(いささ)か迷惑(めいわく)をいたして居(を)る。363どうか此(この)方(はう)の片腕(かたうで)が欲(ほ)しいと思(おも)つて居(ゐ)た矢先(やさき)だ。364いやでも応(おう)でも其(その)方(はう)達(たち)の片腕(かたうで)を取(と)つてやらう』
365竜国別(たつくにわけ)『滅相(めつさう)もない、366片腕(かたうで)どころか、367弥勒(みろく)様(さま)の為(ため)なら、368両腕(りやううで)を差上(さしあ)げて粉骨(ふんこつ)砕身(さいしん)して尽(つく)しますから、369お頼(たの)み申(まを)します』
370と泣(な)き入(い)る。371宮(みや)の中(うち)より、
372(玉治別)『よしよし、373粉骨(ふんこつ)砕身(さいしん)は註文(ちうもん)通(どほ)り赦(ゆる)してやらう。374サア脇立(わきだち)、375眷族(けんぞく)共(ども)、376両人(りやうにん)の骨(ほね)を粉(こな)にし身(み)を砕(くだ)いて参(まゐ)れ。377粉骨(ふんこつ)砕身(さいしん)して尽(つく)さして呉(く)れえと願(ねが)ひよつたぞよ』
378竜国別(たつくにわけ)『モシモシ、379その粉骨(ふんこつ)砕身(さいしん)の意味(いみ)が断然(だんぜん)違(ちが)ひます。380さう早取(はやど)りをしてもらつては困(こま)ります』
381 宮(みや)の中(うち)より、
382(玉治別)『粉骨(ふんこつ)砕身(さいしん)とは読(よ)んで字(じ)の如(ごと)しだ。383神(かみ)は正直(しやうぢき)だから誤魔化(ごまくわ)しは、384些(ちつと)も聞(き)かぬぞよ』
385国依別(くによりわけ)『オイ竜(たつ)、386此奴(こいつ)アちつと怪(あや)しいぞ』
387竜国別(たつくにわけ)『そうだなア、388田吾作(たごさく)の声(こゑ)に似(に)ては居(ゐ)やせぬかなア』
389 宮(みや)の中(うち)より、
390(玉治別)『コラコラ両人(りやうにん)、391其(その)方(はう)はまだ疑(うたが)ふのか。392此(この)方(はう)は空(そら)に輝(かがや)く月(つき)の玉治別(たまはるわけの)命(みこと)、393又(また)の御名(みな)は田吾作彦(たごさくひこ)の大神(おほかみ)であつたぞよ。394ワツハヽヽヽ』
395竜国別(たつくにわけ)『あんまり馬鹿(ばか)にすない。396俺(おれ)の胆玉(きもだま)を大方(おほかた)潰(つぶ)して仕舞(しま)ひやがつた』
397国依別(くによりわけ)『こら、398悪戯(ふざ)けた真似(まね)をしやがると承知(しようち)をせぬぞ』
399玉治別(たまはるわけ)『胆玉(きもだま)ばかりぢや無(な)からう。400睾丸(きんたま)が潰(つぶ)れかけただらう、401アハヽヽヽ』
402と笑(わら)ひ乍(なが)ら、403ドシンドシンと朽(く)ちはてた階段(かいだん)を降(くだ)つて来(く)る。404三(さん)人(にん)は笑(わら)ひ乍(なが)ら梅照彦(うめてるひこ)の館(やかた)を指(さ)して、405月(つき)を仰(あふ)ぎつつ門前(もんぜん)に着(つ)いた。406梅照彦(うめてるひこ)、407梅照姫(うめてるひめ)は、
408梅照彦、梅照姫『モシ貴方(あなた)等(がた)、409何処(どこ)へ行(い)つて居(を)られました。410俄(にはか)に三人(さんにん)様(さま)のお姿(すがた)が見(み)えぬので、411何(なに)かお気(き)に障(さは)つてお帰(かへ)りになつたかと思(おも)ひ、412大変(たいへん)に胆(きも)を潰(つぶ)しましたよ』
413玉治別(たまはるわけ)『睾丸(きんたま)は大丈夫(だいぢやうぶ)ですかな、414アハヽヽヽ』
415竜国別(たつくにわけ)『実(じつ)は我々(われわれ)両人(りやうにん)はあんまり月(つき)が佳(い)いので、416つい浮(う)かれて散歩(さんぽ)をし……月宮殿(げつきうでん)に参拝(さんぱい)して……』
417玉治別(たまはるわけ)『胆玉(きもだま)を潰(つぶ)しました』
418竜国別(たつくにわけ)『お前(まへ)、419黙(だま)つて居(を)れ。420人(ひと)の話(はなし)の尻(しり)を取(と)るものぢやない』
421玉治別(たまはるわけ)『何(なに)、422尻(しり)は取(と)りたくないが睾丸(きんたま)が取(と)り度(た)いのだ、423アハヽヽヽ』
424国依別(くによりわけ)『月宮殿(げつきうでん)と云(い)ふ所(とこ)は妙(めう)な処(ところ)ですな。425貂(てん)がものを言(い)ひましたよ。426而(しか)も神(かみ)さまの声色(こわいろ)を使(つか)つて……てんと合点(がてん)のゆかぬ事(こと)ですわい』
427梅照彦(うめてるひこ)『エ、428貂(てん)がものを言(い)ひましたか、429それや聞(き)き始(はじ)めだ。430何(なん)と云(い)ふ貂(てん)でせう』
431国依別(くによりわけ)『何(なん)でも田吾作(たごさく)とか言(い)ふ貂(てん)で、432鼬(いたち)の成上(なりあが)りださうです。433随分(ずゐぶん)気転(きてん)の利(き)かぬ馬鹿(ばか)貂(てん)の水転(みづてん)でしたよ、434アハヽヽヽ』
435 一同(いちどう)腹(はら)を抱(かか)へて『アハヽヽヽ』と笑(わら)ひ転(こ)ける。
436(大正一一・五・一六 旧四・二〇 北村隆光録)
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