霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第八章 津田(つだ)の湖(うみ)〔六八二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第21巻 如意宝珠 申の巻 篇:第2篇 是生滅法 よみ(新仮名遣い):ぜしょうめっぽう
章:第8章 津田の湖 よみ(新仮名遣い):つだのうみ 通し章番号:682
口述日:1922(大正11)年05月19日(旧04月23日) 口述場所: 筆録者:外山豊二 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年4月5日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
竜国別は道を北にとって迂回し、大谷山方面からアルプス教を攻めることとなった。国依別は鼓の滝から六甲山へ至る道をとった。そして玉治別は元盗人の三人(遠州・駿州・武州)と共に、津田の湖を舟で越えるルートをとった。
しかし玉治別が舟をこいで湖の半ばにさしかかると、三人はにわかに態度を変え、玉治別の懐のアルプス教の計画書を奪おうとし始めた。三人は櫂で玉治別に打ちかかり、玉治別は湖に落ちてしまった。
三人は落ちた玉治別を櫂で殴りつけようとする。九死に一生のところで、一艘の舟が矢のように現れて、玉治別を救った。これは杢助とお初が助けに来たのであった。
盗人たち三人は杢助の出現に驚いて慌てて逃げるが、湖の中にある大岩石に衝突して舟は砕け、湖水に落ちてしまった。
玉治別は櫂をこいで行き、三人を大岩石の上に助け上げると、宣伝歌を歌って聞かせた。杢助も、三人に仲間の失敗を告げて、改心を迫る。
しかしお初は今度は三人を懲らしめた方がよいと主張し、舟は三人を湖中の大岩石の上に残したまま行ってしまった。するとにわかに湖水のかさが増して、三人は首のあたりまで水に浸かってしまった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-05-10 18:16:24 文字数:3987 OBC :rm2108
愛善世界社版:154頁 八幡書店版:第4輯 320頁 修補版: 校定版:159頁 普及版:70頁 初版: ページ備考:
001 津田(つだ)の湖辺(こへん)に現(あら)はれたる三(さん)人(にん)の宣伝使(せんでんし)を始(はじ)め、002遠(ゑん)、003駿(すん)、004武(ぶ)、005三(さん)、006甲(かふ)、007雲(うん)の六(ろく)人(にん)は高春山(たかはるやま)を遥(はるか)に眺(なが)めて、008今(いま)や三方(さんぱう)より進撃(しんげき)せんとする計画(けいくわく)を定(さだ)むる折(をり)しも、009六(ろく)人(にん)の泥棒(どろばう)は内輪(うちわ)喧嘩(げんくわ)を始(はじ)め出(だ)し、010武州(ぶしう)、011駿州(すんしう)、012遠州(ゑんしう)は向脛(むかふづね)を打(う)たれて其(その)場(ば)に倒(たふ)れたるを見(み)すまし、013三(さん)、014甲(かふ)、015雲(うん)の三(さん)人(にん)は此(この)場(ば)を見捨(みす)てて、016元(もと)来(き)し道(みち)に逃(に)げ去(さ)つた。
017 茲(ここ)に竜国別(たつくにわけ)は道(みち)を北(きた)に採(と)り、018迂回(うくわい)して大谷山(おほたにやま)より攻(せ)め上(のぼ)る事(こと)とした。019又(また)国依別(くによりわけ)は鼓(つづみ)の滝(たき)を越(こ)え六甲山(ろくかふざん)に登(のぼ)り、020魔神(まがみ)を言向(ことむ)けつつ高春山(たかはるやま)に向(むか)ふ計画(けいくわく)を定(さだ)めた。021玉治別(たまはるわけ)は湖辺(こへん)に繋(つな)ぎある舟(ふね)に身(み)を托(たく)し、022津田(つだ)の湖(うみ)を渡(わた)つて驀地(まつしぐら)に高春山(たかはるやま)に押寄(おしよ)すべく、023足(あし)を痛(いた)めた三(さん)人(にん)を舟(ふね)に乗(の)せて自(みづか)ら艪(ろ)を操(あやつ)り乍(なが)ら、024寒風(かんぷう)荒(すさ)む月(つき)の夜(よ)を西方(せいはう)の山麓(さんろく)目蒐(めが)けて漕(こ)ぎ出(い)だす。025湖水(こすゐ)の殆(ほとん)ど中央(ちうあう)まで進(すす)みし時(とき)、026三(さん)人(にん)は俄(にはか)に立上(たちあが)り、
027遠州(ゑんしう)『オイ貴様(きさま)は三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)、028誠(まこと)の道(みち)を立(た)て通(とほ)す神聖(しんせい)な役目(やくめ)であり乍(なが)ら、029秘密(ひみつ)書類(しよるゐ)を手(て)に入(い)れたを幸(さいはひ)に、030敵(てき)の備(そな)へを覚(さと)り、031三方(さんぱう)より攻(せ)め寄(よ)せむとするは実(じつ)に見下(みさ)げ果(は)てたるやり方(かた)だ。032何故(なぜ)誠(まこと)一(ひと)つで進(すす)まぬのかい』
033駿州(すんしう)『実(じつ)の処(ところ)はその手帳(てちやう)は吾々(われわれ)の仲間(なかま)に取(と)つて大切(たいせつ)な品物(しなもの)だ。034それを貴様(きさま)に奪(と)られて堪(たま)るものか。035杢助(もくすけ)の宅(たく)に於(お)いて、036この大切(たいせつ)な書類(しよるゐ)を貴様(きさま)が手(て)に入(い)れたのを覚(さと)つた故(ゆゑ)、037吾々(われわれ)六(ろく)人(にん)は道々(みちみち)符牒(ふてう)を以(もつ)て諜(しめ)し合(あ)はせ、038態(わざ)と喧嘩(けんくわ)をして見(み)せ、039脚(あし)が痛(いた)いと詐(いつは)つてこの舟(ふね)に乗込(のりこ)んだのだぞ』
040武州(ぶしう)『サア、041最早(もはや)ジタバタしても叶(かな)はぬぞ。042綺麗(きれい)薩張(さつぱり)と俺(おれ)達(たち)に返納(へんなふ)致(いた)せ。043愚図(ぐづ)々々(ぐづ)吐(ぬか)すと、044此(こ)の湖中(こちう)へ投(ほ)り込(こ)んで了(しま)ふぞ』
045玉治別(たまはるわけ)『アハヽヽヽ、046貴様(きさま)達(たち)何(なに)を吐(ぬか)すのだ。047三五教(あななひけう)の神力(しんりき)無双(むさう)の宣伝使(せんでんし)に向(むか)つて、048刃向(はむか)うとは、049生命(いのち)知(し)らずも程(ほど)がある。050蟷螂(たうらう)の斧(をの)を揮(ふる)つて竜車(りうしや)に向(むか)ふも同然(どうぜん)、051速(すみや)かに改心(かいしん)致(いた)せば赦(ゆる)してやるが、052何処(どこ)までも悪心(あくしん)を立(た)て通(とほ)すなら、053最早(もはや)是非(ぜひ)に及(およ)ばぬ、054言霊(ことたま)を以(もつ)て汝(なんぢ)が身体(からだ)を縛(しば)り上(あ)げ、055此(こ)の湖水(こすゐ)へ投(な)げ込(こ)んでやらうか』
056遠州(ゑんしう)『貴様(きさま)に言霊(ことたま)の武器(ぶき)があれば、057此方(こちら)にも言霊(ことたま)の武器(ぶき)がある。058おまけにこの鉄腕(てつわん)が唸(うな)りを立(た)てて待(ま)つて居(ゐ)るぞよ。059サア早(はや)く此(この)方(はう)に渡(わた)さないか』
060玉治別『渡(わた)せと云(い)つても俺(おれ)一人(ひとり)の物(もの)では無(な)い。061竜国別(たつくにわけ)や、062国依別(くによりわけ)に協議(けふぎ)をした上(うへ)、063渡(わた)してもよければ渡(わた)してやらう』
064遠州『馬鹿(ばか)を云(い)ふな。065竜国別(たつくにわけ)や、066国依別(くによりわけ)は吾々(われわれ)の同類(どうるゐ)が途中(とちう)に待伏(まちふ)せて、067平(たひ)らげて了(しま)ふ手筈(てはず)がチヤンと整(ととの)うて居(を)るのだ。068この湖(みづうみ)を向方(むかふ)へ渡(わた)るが最後(さいご)、069味方(みかた)のものが待(ま)ちうけて、070貴様(きさま)を嬲殺(なぶりごろ)しにする手筈(てはず)が定(きま)つて居(を)る。071驚(おどろ)いたか、072何(なん)と吾々(われわれ)の計略(けいりやく)は偉(えら)いものだらう』
073玉治別『たとへ小童(こわつぱ)どもの三(さん)人(にん)や五(ご)人(にん)、074百(ひやく)人(にん)攻(せ)め来(きた)るとも、075恟(びく)とも致(いた)すやうな玉治別(たまはるわけ)では無(な)い、076あんまり見損(みそこな)ひを致(いた)すな。077鷹依姫(たかよりひめ)は表面(おもて)にアルプス教(けう)を標榜(へうぼう)しながら、078山賊(さんぞく)の大親分(おほおやぶん)になつて居(を)るのだな』
079駿州(すんしう)『馬鹿(ばか)を云(い)ふない。080アルプス教(けう)には泥棒(どろばう)は一人(ひとり)も居(ゐ)ない。081唯(ただ)俺(おれ)達(たち)は駄賃(だちん)を貰(もら)つて此(この)仕事(しごと)をするだけだ。082実(じつ)は俺(おれ)達(たち)はアルプス教(けう)ではない。083盗人(ぬすびと)の団体(だんたい)だからトツクリ見(み)て見(み)よ。084その手帳(てちやう)に俺(おれ)達(たち)の名(な)は記(しる)してない筈(はづ)だ。085聖地(せいち)へ忍(しの)び込(こ)んだ奴(やつ)の名前(なまへ)が沢山(たくさん)あるといふことだが、086最早(もはや)貴様(きさま)にそれが判(わか)つたところで、087アルプス教(けう)は痛痒(つうよう)を感(かん)じない。088其(その)代(かは)り貴様(きさま)等(ら)三(さん)人(にん)の宣伝使(せんでんし)を亡(な)き者(もの)に致(いた)せばよいのだ。089……オイ何(ど)うだい、090此奴(こいつ)を真裸体(まつぱだか)にして秘密(ひみつ)書類(しよるゐ)をフン奪(だく)り、091高春山(たかはるやま)へ持参(ぢさん)せば結構(けつこう)な御(ご)褒美(ほうび)が頂戴(ちやうだい)出来(でき)る。092サアぬかるな』
093と三方(さんぱう)より櫂(かい)を以(もつ)て打(う)つてかかる。
094 無抵抗(むていかう)主義(しゆぎ)の三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)も、095已(や)むを得(え)ず正当(せいたう)防禦(ばうぎよ)の積(つも)りで、096両手(りやうて)を組(く)み天(あま)の数歌(かずうた)を謳(うた)つた。097されど神慮(しんりよ)に反(そむ)きし敵(てき)の秘密(ひみつ)書類(しよるゐ)を懐中(くわいちゆう)したる穢(けが)れのためか、098今日(けふ)に限(かぎ)つて天(あま)の数歌(かずうた)も、099鎮魂(ちんこん)も、100何(なん)の効果(かうくわ)も現(あら)はれなかつた。101三(さん)人(にん)は三方(さんぱう)より滅多打(めつたう)ちに打(う)ちかかる。
102 玉治別(たまはるわけ)は已(や)むを得(え)ず、103又(また)もや櫂(かい)を握(にぎ)るより早(はや)く三(さん)人(にん)の中(なか)に交(まじ)つて飛鳥(ひてう)の如(ごと)く防(ふせ)ぎ戦(たたか)うた。104如何(いか)がはしけむ、105遠州(ゑんしう)はバサリと湖中(こちう)に落(お)ちた。106二人(ふたり)に追(お)ひ詰(つ)められて玉治別(たまはるわけ)は又(また)もやザンブとばかり湖中(こちう)に真逆(まつさか)様(さま)に落込(おちこ)んだ。107舟(ふね)に掻(か)き着(つ)き上(あが)らうとすれば、108二人(ふたり)は上(うへ)より櫂(かい)を以(もつ)て頭(あたま)を撲(なぐ)りつけやうとする。109遠州(ゑんしう)は其(その)間(あひだ)に舟(ふね)に駆上(かけあが)り、
110遠州『サア玉(たま)の奴(やつ)、111神妙(しんめう)に渡(わた)せばよし、112渡(わた)さねば貴様(きさま)の生命(いのち)はモーないぞ』
113 玉治別(たまはるわけ)は一生(いつしやう)懸命(けんめい)抜(ぬ)き手(て)を切(き)つて逃出(にげだ)す。114三(さん)人(にん)は櫂(かい)を操(あやつ)り乍(なが)ら玉治別(たまはるわけ)を追(お)ひかける。115玉治別(たまはるわけ)は浮(う)きつ沈(しづ)みつ逃(に)げ廻(まは)る。116秘密(ひみつ)書類(しよるゐ)は懐中(くわいちゆう)より脱出(だつしゆつ)して水面(すゐめん)に浮(う)き上(あが)つた。117三(さん)人(にん)は手早(てばや)く之(これ)を拾(ひろ)ひ上(あ)げて、118大切(たいせつ)に濡(ぬ)れた儘(まま)そつと舟(ふね)の中(なか)に匿(かく)し、119尚(なほ)も玉治別(たまはるわけ)の浮(う)きつ沈(しづ)みつ逃(に)ぐるを追(お)ひかけ、120頭(あたま)を目蒐(めが)けて撲(なぐ)りつけようとする。121撲(なぐ)られては一大事(いちだいじ)と、122苦(くる)しき息(いき)を凝(こ)らし乍(なが)ら水底(すゐてい)を潜(くぐ)り、123一方(いつぱう)に頭(あたま)を上(あ)げて息(いき)をつぎ見(み)れば、124又(また)もや三(さん)人(にん)は舟(ふね)にて追(お)ひかけて来(く)る。
125 玉治別(たまはるわけ)は進退(しんたい)谷(きは)まり、126九死(きうし)一生(いつしやう)のところへ矢(や)を射(い)る如(ごと)く、127一人(ひとり)の子供(こども)を乗(の)せて漕(こ)ぎつけた一隻(いつさう)の舟(ふね)。128玉治別(たまはるわけ)は盲亀(まうき)の浮木(ふぼく)と喜(よろこ)び勇(いさ)んで舟(ふね)に取(とり)ついた。129舟人(ふなびと)は玉治別(たまはるわけ)を助(たす)けて舟(ふね)に乗(の)せた。130玉治別(たまはるわけ)は息(いき)も絶(た)え絶(だ)えになつてゐる。131此(こ)の時(とき)三(さん)人(にん)の盗人(ぬすびと)は、
132三人『エー邪魔(じやま)ひろぐな』
133と此(こ)の舟(ふね)目蒐(めが)けて攻(せ)めかけ来(きた)る。
134船人(ふなびと)『貴様(きさま)は遠州(ゑんしう)、135駿州(すんしう)、136武州(ぶしう)の小盗人(こぬすと)だらう。137サア、138モウ俺(おれ)が此処(ここ)に来(き)た上(うへ)は、139汝(きさま)も最早(もはや)観念(かんねん)せねばなるまい。140片(かた)つ端(ぱし)から叩(たた)き潰(つぶ)してやらう』
141 此(この)声(こゑ)に三(さん)人(にん)は驚(おどろ)いて一生(いつしやう)懸命(けんめい)に櫂(かい)を操(あやつ)り、142矢(や)を射(い)る如(ごと)くに西(にし)へ西(にし)へと逃(に)げ出(だ)した。143湖中(こちう)に突出(とつしゆつ)せる大岩石(だいがんせき)に舟(ふね)の先端(さき)を衝突(しようとつ)させ、144船体(せんたい)は木(こ)つ端(ぱ)微塵(みぢん)になつて、145ゴブゴブゴブと沈没(ちんぼつ)した。146三(さん)人(にん)は思(おも)ひ思(おも)ひに抜(ぬ)き手(て)を切(き)つて逃(に)げようとする。
147 船頭(せんどう)は三(さん)人(にん)の浮(う)いた頭(あたま)を目当(めあて)に舟(ふね)を差向(さしむ)けた。148玉治別(たまはるわけ)は漸(やうや)く気(き)がついた。149見(み)れば杢助(もくすけ)親子(おやこ)が舟(ふね)に乗(の)つて、150三(さん)人(にん)の泥棒(どろばう)の影(かげ)を目当(めあて)に走(はし)つてゐる。
151玉治別『アー貴方(あなた)は杢助(もくすけ)さま。152危(あやふ)い所(ところ)をよう助(たす)けに来(き)て下(くだ)さいました』
153杢助『話(はなし)は後(あと)でゆつくり聞(き)きませう。154愚図(ぐづ)々々(ぐづ)して居(を)れば三(さん)人(にん)の泥棒(どろばう)の生命(いのち)が失(な)くなつて了(しま)ふ。155サア貴方(あなた)も此(この)櫂(かい)を漕(こ)いで下(くだ)さい』
156 玉治別(たまはるわけ)は直(ただ)ちに櫂(かい)を漕(こ)ぎ始(はじ)めた。157漸(やうや)くにして三(さん)人(にん)の泥棒(どろばう)を救(すく)ひ上(あ)げた。158さうして以前(いぜん)の湖中(こちう)の岩(いは)の上(うへ)に三(さん)人(にん)を送(おく)り、159舟(ふね)を此方(こなた)に引返(ひきかへ)し、160十数間(じふすうけん)許(ばか)り距離(きより)を保(たも)つて、161三(さん)人(にん)に向(むか)ひ宣伝歌(せんでんか)を聞(き)かさむと、162声(こゑ)も涼(すず)しく歌(うた)ひ始(はじ)めた。
163玉治別(たまはるわけ)『朝日(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
164月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも
165仮令(たとへ)大地(だいち)は沈(しづ)むとも
166誠(まこと)の力(ちから)は世(よ)を救(すく)ふ
167誠(まこと)一(ひと)つの世(よ)の中(なか)に
168誠(まこと)の道(みち)を踏(ふ)み外(はづ)し
169天地(てんち)に罪(つみ)を重(かさ)ねつつ
170終(つひ)には根(ね)の国(くに)底(そこ)の国(くに)
171地獄(ぢごく)の底(そこ)のどん底(ぞこ)の
172焦熱(せうねつ)地獄(ぢごく)に落(おと)されて
173苦(くる)しみ悶(もだ)える幽界(いうかい)の
174掟(おきて)を知(し)らずに智慧(ちゑ)浅(あさ)き
175体主(たいしゆ)霊従(れいじう)の人々(ひとびと)が
176小(ちひ)さき欲(よく)に目(め)が眩(くら)み
177結構(けつこう)な身魂(みたま)を持(も)ち乍(なが)ら
178他(ひと)の宝(たから)を奪(うば)ひ取(と)り
179飲(の)めよ騒(さわ)げの大騒(おほさわ)ぎ
180遊(あそ)んで暮(くら)す悪企(わるだく)み
181地獄(ぢごく)の釜(かま)の道(みち)作(つく)り
182それも知(し)らずに曲道(まがみち)を
183通(とほ)る身魂(みたま)ぞいぢらしき
184仮令(たとへ)大地(だいち)は沈(しづ)むとも
185誠(まこと)の道(みち)に叶(かな)ひなば
186大慈(だいじ)大悲(だいひ)の大神(おほかみ)は
187必(かなら)ず救(たす)け給(たま)ふべし
188遠州(ゑんしう)武州(ぶしう)駿州(すんしう)よ
189汝(なんぢ)も元(もと)は神(かみ)の御子(みこ)
190聖(きよ)き身魂(みたま)を受継(うけつ)ぎし
191貴(たふと)き神(かみ)の生宮(いきみや)ぞ
192小(ちひ)さき欲(よく)にからまれて
193此(この)世(よ)からなる地獄道(ぢごくだう)
194餓鬼(がき)畜生(ちくしやう)や修羅道(しゆらだう)の
195責苦(せめく)に自(みづか)ら遭(あ)ひ乍(なが)ら
196未(ま)だ覚(さと)らずに日(ひ)に夜(よる)に
197道(みち)に背(そむ)いた事(こと)ばかり
198われは此(この)世(よ)を平(たひら)けく
199治(をさ)め鎮(しづ)むる大神(おほかみ)の
200教(をしへ)を宣(の)ぶる宣伝使(せんでんし)
201決(けつ)して憎(にく)しと思(おも)はない
202汝(なんぢ)に潜(ひそ)む曲神(まがかみ)を
203一日(ひとひ)も早(はや)く取(と)り除(の)けて
204誠(まこと)の道(みち)に救(すく)はむと
205願(ねが)ふばかりの我(わが)心(こころ)
206さはさり乍(なが)ら三五(あななひ)の
207道(みち)を教(をし)ふる神司(かむづかさ)
208其(そ)の身(み)を忘(わす)れてアルプスの
209神(かみ)の教(をしへ)に立(た)て籠(こも)る
210鷹依姫(たかよりひめ)が計略(けいりやく)を
211事(こと)も細(こま)かに記(しる)したる
212秘密(ひみつ)の鍵(かぎ)を懐(ふところ)に
213収(をさ)めて曲(まが)を倒(たふ)さむと
214思(おも)うたことは玉治別(たまはるわけ)の
215これ一生(いつしやう)の誤(あやま)りぞ
216汝(なれ)等(ら)は之(これ)を携(たづさ)へて
217高春山(たかはるやま)に持参(もちまゐ)り
218鷹依姫(たかよりひめ)に手渡(てわた)して
219手柄(てがら)を現(あら)はし御(ご)褒美(ほうび)の
220金(かね)を沢山(たくさん)貰(もろ)て来(こ)い
221さすれば汝(なんぢ)が懐(ふところ)は
222ふとつて親子(おやこ)が安々(やすやす)と
223楽(たの)しき月日(つきひ)を送(おく)るだらう
224さは云(い)ふものの三(さん)人(にん)よ
225此(この)世(よ)は仮(かり)の世(よ)の中(なか)ぞ
226万劫(まんご)末代(まつだい)生(い)き通(とほ)す
227霊魂(みたま)の生命(いのち)は限(かぎ)りなし
228なることならば三五(あななひ)の
229神(かみ)の教(をしへ)に身(み)を任(まか)せ
230天晴(あつぱ)れ世界(せかい)の塩(しほ)となり
231花(はな)ともなりて香(かん)ばしき
232実(み)のりを残(のこ)せ後(のち)の世(よ)に
233あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
234御霊(みたま)幸(さち)はひましまして
235悪魔(あくま)の為(ため)に魂(たましひ)を
236曇(くも)らされたる三(さん)人(にん)を
237直日(なほひ)に見直(みなほ)し聞直(ききなほ)し
238其(そ)の過(あやま)ちを宣(の)り直(なほ)し
239神(かみ)の大道(おほぢ)にすくすくと
240歩(あゆ)ませ給(たま)へ大御神(おほみかみ)
241珍(うづ)の御前(みまへ)に玉治別(たまはるわけ)が
242畏(かしこ)み畏(かしこ)み願(ね)ぎ奉(まつ)る』
243と歌(うた)ひ終(をは)つた。
244 三(さん)人(にん)は此(この)歌(うた)に感(かん)じてか、245但(ただし)は離(はな)れ島(じま)に捨(す)てられた悲(かな)しさに此(この)場(ば)を免(のが)れむとしてか、246一度(いちど)に玉治別(たまはるわけ)に向(むか)つて両手(りやうて)を合(あは)せ、247涙(なみだ)を流(なが)して改心(かいしん)の意(い)を表(へう)する。248杢助(もくすけ)は舟(ふね)を岩(いは)の前(まへ)に近(ちか)づけ乍(なが)ら、
249杢助(もくすけ)『オイ三(さん)人(にん)の男(をとこ)、250汝(きさま)の片割(かたわ)れ三州(さんしう)、251甲州(かふしう)、252雲州(うんしう)の三(さん)人(にん)は俺(おれ)の館(やかた)に乗(の)り込(こ)んで金銀(きんぎん)の小玉(こだま)を全部(ぜんぶ)貰(もら)つて帰(かへ)りよつた。253汝(きさま)は玉治別(たまはるわけ)の懐中(くわいちゆう)せるアルプス教(けう)の書類(しよるゐ)を狙(ねら)つてゐるさうだ。254併(しか)しそれを鷹依姫(たかよりひめ)に届(とど)けてやつたところで、255余(あま)り大(たい)した礼物(れいもつ)もくれはしよまい。256生命(いのち)を的(まと)にそんな欲(よく)の無(な)い小(ちひ)さいことを致(いた)すな。257改心(かいしん)するなら今(いま)だ。258何(なん)と云(い)つても此(こ)の離(はな)れ島(じま)に捨(す)てられては汝(きさま)も浮(うか)ぶ瀬(せ)はあるまい。259サア改心(かいしん)を誓(ちか)ふか何(ど)うだ、260改心(かいしん)致(いた)せば此(この)舟(ふね)に乗(の)せて助(たす)けてやるが』
261 三(さん)人(にん)は口(くち)を揃(そろ)へて、
262三人『改心(かいしん)します。263何(ど)うぞ赦(ゆる)して下(くだ)さいませ』
264杢助(もくすけ)『玉治別(たまはるわけ)さま、265貴方(あなた)のお考(かんが)へは何(ど)うでせうか』
266玉治別(たまはるわけ)『改心(かいしん)さへしてくれたならば四海(しかい)兄弟(きやうだい)だ、267何処(どこ)までも助(たす)けたいものですな』
268杢助『そんなら助(たす)けてやらうか』
269 お初(はつ)は首(くび)を左右(さいう)に振(ふ)り、
270お初『お父(とう)さん、271斯(こ)んな人(ひと)を助(たす)けたつて直(すぐ)に又(また)悪(わる)いことを致(いた)しますよ。272暫(しばら)くこの離(はな)れ島(じま)に預(あづ)けて置(お)いたがよろしいでせう』
273遠州(ゑんしう)『モシモシ小(ちひ)さいお方(かた)、274お前(まへ)さまは年(とし)にも似合(にあ)はぬ、275きつい人(ひと)だな。276そんな事(こと)を云(い)はずに何(ど)うぞ助(たす)けて下(くだ)さいな。277屹度(きつと)改心(かいしん)しますから』
278お初『イエイエ貴方(あなた)は未(ま)だ未(ま)だ改心(かいしん)が出来(でき)ませぬよ。279サア、280お父(とう)さま、281早(はや)く艪(ろ)を操(あやつ)つて下(くだ)さい。282小父(をぢ)さま、283櫂(かい)を漕(こ)いで下(くだ)さい。284私(わたし)も手伝(てつだ)ひませう』
285玉治別『アヽさうだ。286子供(こども)は正直(しやうぢき)だ。287此奴(こいつ)等(ら)可愛(かあい)いと思(おも)へば、288暫(しば)らく岩(いは)の上(うへ)に預(あづ)けて置(お)いた方(はう)が将来(しやうらい)のためだらう。289サア、290杢助(もくすけ)さま、291彼方(あちら)へ進(すす)みませう』
292と湖中(こちう)の岩島(いはしま)を後(あと)に、293高春山(たかはるやま)の東麓(とうろく)を指(さ)して矢(や)を射(い)る如(ごと)く進(すす)み行(ゆ)く。
294 不思議(ふしぎ)や湖水(こすゐ)の水(みづ)は見(み)る見(み)る水量(みづかさ)増(まさ)り、295さしもに高(たか)き湖中(こちう)の巌(いは)も次第(しだい)々々(しだい)に水中(すゐちう)に没(ぼつ)し、296早(はや)くも足許(あしもと)まで波(なみ)が押寄(おしよ)せて来(き)た。297刻々(こくこく)に増(まさ)る水量(みづかさ)に三(さん)人(にん)は、298最早(もはや)首(くび)の辺(あた)りまで浸(つか)つて了(しま)つた。
299(大正一一・五・一九 旧四・二三 外山豊二録)
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