霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一三章 夢(ゆめ)の女(をんな)〔六八七〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第21巻 如意宝珠 申の巻 篇:第3篇 男女共権 よみ(新仮名遣い):だんじょきょうけん
章:第13章 夢の女 よみ(新仮名遣い):ゆめのおんな 通し章番号:687
口述日:1922(大正11)年05月20日(旧04月24日) 口述場所: 筆録者:谷村真友 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年4月5日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
竜国別は社の下から這い出して、灯りをつけた。女は自分は里の娘でお作と名乗った。お作はこの社に願をかけて密かに夜分詣でていたのを、アルプス教の男たちに待ち伏せされたのだ、と語った。
女は、竜国別はアルプス教ではなく三五教の宣伝使だろう、と図星を指す。そして、自分がこの社に詣でていたのは、夫を探していて、神夢にお宮に三週間詣でると本当の夫に会える、その日が今日だから、竜国別が自分の夫だと言い出した。
竜国別は高春山の悪魔退治の途上だから、女房を持つことはおろか、後の約束でも今することはできない、と堅持する。
しかしお作は弁を尽くして竜国別に迫る。竜国別がそれなら約束だけなら、と言いかけると、頭上より「馬鹿」と竜国別に怒鳴りつける者がある。
竜国別は戒めを受けて前言を取り消すが、お作はあれは天狗の声だとなおも迫り、竜国別の手を握る。
竜国別は観念して、自分からもお作の手を握り返そうとすると、突然お作は怒って竜国別をその場に突き倒した。そして曲津退治の途上で、いかなる理由や誘惑があろうとも、決心を翻すとは何事かと竜国別を叱り付けた。
たちまちとどろく雷鳴の音に眼を覚ますと、それは夢であり、竜国別は依然として社の縁の下に身を横たえていた。
竜国別は神前に額づき、夢の教訓に感謝して心魂を練り、いよいよ高春山の征服に赴くことになった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-07-02 07:19:33 文字数:3162 OBC :rm2113
愛善世界社版:220頁 八幡書店版:第4輯 344頁 修補版: 校定版:227頁 普及版:98頁 初版: ページ備考:
001 竜国別(たつくにわけ)は祠(ほこら)の下(した)より蜘蛛(くも)の巣(す)だらけになつて現(あら)はれ来(きた)り、002あたりの木(こ)の葉(は)や枯枝(かれえだ)を集(あつ)め、003社側(しやそく)の広場(ひろば)に火(ひ)を焚(た)いた。004此(この)火光(くわくわう)に照(て)らされて以前(いぜん)の女(をんな)は、005艶麗(えんれい)譬(たと)ふるに物(もの)なく、006暗(やみ)よりポツと浮出(うきで)たかの如(や)うに輪廓(りんくわく)も判然(はんぜん)として、007竜国別(たつくにわけ)の前(まへ)に徐々(しづしづ)近寄(ちかよ)つて来(き)た。
008竜国別『ヤア何処(いづく)のお女中(ぢよちう)か知(し)りませぬが、009大変(たいへん)な危(あぶな)い事(こと)で御座(ござ)いましたなア』
010女(お作)『ハイ私(わたし)は此(この)里(さと)のもので、011お作(さく)と申(まを)す一人娘(ひとりむすめ)で御座(ござ)います』
012竜国別『貴女(あなた)は御(ご)兄弟(きやうだい)はありませぬか』
013お作『兄(あに)が二人(ふたり)、014弟(おとうと)が一人(ひとり)、015さうして両親(りやうしん)共(とも)壮健(さうけん)に暮(く)らして居(を)ります』
016竜国別『それは何(なに)よりお目出度(めでた)い事(こと)で御座(ござ)います。017併(しか)し乍(なが)ら此(この)真夜中(まよなか)にどうして、018あの様(やう)な悪漢(ならずもの)が貴女(あなた)を引攫(ひつさら)へたのでせう。019貴女(あなた)は女(をんな)に似(に)ず夜徘徊(よあるき)をなさいますと見(み)えますなア、020それ丈(だけ)親(おや)もあり御(ご)兄弟(きやうだい)もあれば、021何程(なにほど)無茶(むちや)な奴(やつ)でも、022貴女(あなた)の家(うち)へ乗込(のりこ)むことは出来(でき)ますまいに』
023お作『ハイ妾(わたし)は恥(はづ)かし乍(なが)ら一(ひと)つの御(お)願(ねがひ)があつて、024何時(いつ)も此(この)山口(やまぐち)の宮様(みやさま)へ丑満(うしみつ)の刻(こく)に、025親(おや)兄弟(きやうだい)にも知(し)らさず、026参詣(さんけい)を致(いた)して居(を)りました。027今日(けふ)は三七(さんしち)二十一(にじふいち)日(にち)の上(あが)りで御座(ござ)ります。028然(しか)るにどうして妾(わたし)のお宮詣(みやまゐ)りを覚(さと)つたか知(し)りませぬが、029此(この)お山(やま)の入口(いりぐち)に彼(かれ)等(ら)が待伏(まちぶ)せして、030妾(わたし)を惟神(かむながら)にお宮(みや)の前(まへ)に連(つ)れて来(き)て呉(く)れましたのよ』
031竜国別『さうして其(その)御(お)願(ねがひ)とは如何(いか)なる事(こと)で御座(ござ)いますか。032何(なに)か一身(いつしん)上(じやう)に関(かか)はる御(ご)難儀(なんぎ)でもおありになるのですか』
033お作『貴方(あなた)は今(いま)社(やしろ)の背後(はいご)より大自在天(だいじざいてん)大国別(おほくにわけの)命(みこと)と仰有(おつしや)りましたなア。034それは本当(ほんたう)で御座(ござ)いますか。035大自在天(だいじざいてん)大国別(おほくにわけの)命(みこと)様(さま)なれば、036彼(かれ)等(ら)悪漢(わるもの)の日頃(ひごろ)尊敬(そんけい)する、037バラモン教(けう)やアルプス教(けう)の祖神(おやがみ)様(さま)です。038それにも不拘(かかはらず)彼(かれ)等(ら)が脆(もろ)くも逃散(にげち)つたのは、039不思議(ふしぎ)ぢやありませぬか。040妾(わたし)は察(さつ)するに、041どうしても大自在天(だいじざいてん)系統(けいとう)の、042貴方(あなた)の言霊(ことたま)とは受取(うけと)れませぬ。043屹度(きつと)三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)………』
044と図星(づぼし)を指(さ)されて竜国別(たつくにわけ)は、
045竜国別『イヤもう恐(おそ)れ入(い)りました、046貴女(あなた)の御(ご)明察(めいさつ)。047さうして貴女(あなた)の御(お)願(ねが)ひの筋(すぢ)は、048何(なに)か六ケ敷(むつかし)い事(こと)が出来(でき)て居(を)るのではありませぬか』
049お作『妾(わたし)の一生(いつしやう)に取(と)つて一大事(いちだいじ)が突発(とつぱつ)したので御座(ござ)います』
050竜国別『それや又(また)どういふ理由(わけ)ですか』
051お作『ハイ妾(わたし)も最早(もはや)十八(じふはつ)才(さい)になりました。052彼方(あちら)此方(こちら)から嫁(よめ)にくれいと、053父母(ふぼ)兄弟(きやうだい)に向(むか)つて日々(にちにち)迫(せま)つて参(まゐ)ります。054然(しか)し乍(なが)ら私(わたし)としては理想(りさう)の夫(をつと)が、055まだ一人(ひとり)も見付(みつ)かりませぬ。056それ故(ゆゑ)適当(てきたう)な夫(をつと)を授(さづ)けて下(くだ)さるようにと、057今日(けふ)で三(さん)週間(しうかん)お詣(まゐ)りを致(いた)しました。058神(かみ)様(さま)の夢(ゆめ)の御(お)告(つげ)には、059三週間(さんしうかん)目(め)に宮(みや)の前(まへ)で、060一人(ひとり)の男(をとこ)に逢(あ)はして遣(や)らう。061それがお前(まへ)の本当(ほんたう)の夫(をつと)だと教(をし)へられました。062貴方(あなた)は神(かみ)様(さま)から御(お)許(ゆる)し下(くだ)された本当(ほんたう)の夫(をつと)、063どうぞ可愛(かあい)がつて下(くだ)さいませ』
064竜国別『これはしたりお女中(ぢよちう)、065聊(いささ)か迷惑(めいわく)のお言葉(ことば)』
066お作『ホヽヽヽヽ、067迷惑(めいわく)と仰有(おつしや)いますか、068貴方(あなた)は女(をんな)はお嫌(きら)ひですか。069広(ひろ)い世(よ)の中(なか)に女嫌(をんなぎら)ひな男(をとこ)はありますまい』
070竜国別『男(をとこ)の方(はう)から申(まを)し込(こ)んだ女房(にようばう)なら兎(と)も角(かく)も、071女(をんな)の方(はう)からさう出(で)られては何(なん)だか恐(おそ)ろしくて、072早速(さつそく)に御(ご)返事(へんじ)が出来(でき)ませぬワ』
073お作『貴方(あなた)は独身(どくしん)でせう。074奥(おく)さんがあれば兎(と)も角(かく)、075今(いま)のお身(み)の上(うへ)、076どうで一度(いちど)妻帯(さいたい)を遊(あそ)ばさねばならないのでせう。077神(かみ)の結(むす)んだ二人(ふたり)の縁(えん)、078どうぞ色(いろ)よき御(ご)返事(へんじ)をして下(くだ)さいな』
079竜国別『モシモシお作(さく)さんとやら、080貴女(あなた)は随分(ずゐぶん)新(あたら)しい女(をんな)と見(み)えますなア。081世(よ)の中(なか)が変(かは)つて来(く)ると、082女(をんな)の方(はう)から男(をとこ)に直接(ちよくせつ)談判(だんぱん)を始(はじ)める様(やう)になつて来(く)ると見(み)える。083ハテ変(かは)れば変(かは)るものだワイ』
084お作『どうしても私(わたし)の様(やう)な不束者(ふつつかもの)はお気(き)に入(い)らないのですか』
085竜国別『イエ滅相(めつさう)もない。086天女(てんによ)の天降(あまくだ)りか、087弁財天(べんざいてん)の再来(さいらい)とも云(い)ふ様(やう)な立派(りつぱ)な綺麗(きれい)な貴女(あなた)、088花(はな)で譬(たと)へて見(み)れば、089今(いま)半開(はんかい)の美(うつく)しき露(つゆ)を帯(お)びた最中(さいちう)、090決(けつ)して厭(いや)でも嫌(きら)ひでもありませぬが、091何(なに)を申(まを)しても、092神命(しんめい)を奉(ほう)じ高春山(たかはるやま)に悪魔(あくま)の征服(せいふく)に参(まゐ)る途中(とちう)ですから、093夫婦(ふうふ)の約束(やくそく)なぞ思(おも)ひもよらぬ事(こと)で御座(ござ)います』
094お作『それでは女(をんな)には決(けつ)して目(め)を呉(く)れないと仰有(おつしや)るのですなア』
095竜国別『勿論(もちろん)の事(こと)です。096折角(せつかく)乍(なが)ら今日(けふ)はお断(ことわ)りを申(まを)しませう』
097お作『そんなら何時(いつ)約束(やくそく)をして下(くだ)さいますか』
098竜国別『刹那心(せつなしん)です。099明日(あす)の事(こと)は分(わか)らないから、100お約束(やくそく)する訳(わけ)には参(まゐ)りませぬ』
101お作『貴方(あなた)は高春山(たかはるやま)の軍功(ぐんこう)を現(あら)はし、102其(その)上(うへ)で天下(てんか)の立派(りつぱ)な女(をんな)を抜萃(ばつすい)して、103女房(にようばう)にする考(かんが)へだから、104お前(まへ)見(み)たやうな草深(くさぶか)い山家育(やまがそだ)ちの女(をんな)には、105目(め)を呉(く)れないと云(い)ふお積(つも)りでせう』
106竜国別『イエイエ決(けつ)して決(けつ)して、107そんな事(こと)は毛頭(まうとう)、108心(こころ)には浮(うか)びませぬ。109何(なに)は兎(と)もあれ一(ひと)つの使命(しめい)を果(はた)すまでは、110女(をんな)に関係(くわんけい)は致(いた)しませぬ。111神界(しんかい)に対(たい)して恐(おそ)れ多(おほ)う御座(ござ)いますから』
112お作『神(かみ)様(さま)は高春山(たかはるやま)の征服(せいふく)が済(す)む迄(まで)は、113女(をんな)に会(あ)つて約束(やくそく)をしてはならないと仰(あふ)せられましたか、114伊邪那岐(いざなぎの)命(みこと)、115伊邪那美(いざなみの)命(みこと)様(さま)は、116夫婦(ふうふ)水火(いき)を合(あは)せて、117国生(くにう)み島産(しまう)み神産(かみう)みの神業(しんげふ)を遊(あそ)ばしたぢやありませぬか。118神(かみ)様(さま)も夫婦(ふうふ)なくては真(まこと)の御(ご)活動(くわつどう)は出来(でき)ますまい。119陰陽(いんやう)の水火(いき)を合(あは)して、120初(はじ)めて万物(ばんぶつ)が発生(はつせい)するのでせう。121然(しか)るに大切(たいせつ)なる神業(しんげふ)の途中(とちう)だから、122女(をんな)には絶対(ぜつたい)に約束(やくそく)せないと仰有(おつしや)るのは、123少(すこ)し合点(がてん)が参(まゐ)りませぬワ』
124竜国別『イヤ絶対(ぜつたい)にと申(まを)すのではありませぬが、125今度(こんど)ばかりは何卒(どうぞ)許(ゆる)して下(くだ)さいませ。126又(また)首尾好(しゆびよ)く目的(もくてき)を達(たつ)した上(うへ)、127御(ご)相談(そうだん)に乗(の)りませう』
128お作『オホヽヽヽ、129勝手(かつて)なお方(かた)、130貴方(あなた)は杢助(もくすけ)さんの奥(おく)さまの葬式(さうしき)までなさつたでせう。131それを思(おも)へば私(わたし)と今(いま)夫婦(ふうふ)の約束(やくそく)を結(むす)んだ位(くらゐ)が、132何故(なぜ)神(かみ)様(さま)のお気(き)に入(い)らないのでせう。133貴方(あなた)の御(ご)神業(しんげふ)の妨(さまた)げになるのでせうか』
134竜国別『アヽどうしたら好(よ)からうかなア。135かう追求(つゐきう)されては、136我々(われわれ)は身(み)の振方(ふりかた)に迷(まよ)はざるを得(え)ない』
137お作『宜(よろ)しいぢやありませぬか。138これだけ女(をんな)の真心(まごころ)を無(む)になされますと、139遂(つひ)には女冥加(をんなみやうが)に尽(つ)きて、140一代(いちだい)セリバシー生活(せいくわつ)を送(おく)らねばなりますまい』
141竜国別『アヽ情(じやう)に脆(もろ)いは男子(だんし)の心(こころ)、142さう懇切(こんせつ)に仰有(おつしや)つて下(くだ)さらば、143折角(せつかく)のお志(こころざし)、144無(む)にするも済(す)まない様(やう)な感(かん)じが致(いた)します。145そんなら此処(ここ)で約束(やくそく)だけ固(かた)めませうか』
146 此(この)時(とき)樹上(じゆじやう)より「馬鹿(ばか)ツ」と一喝(いつかつ)した。
147竜国別『折角(せつかく)ながらお作(さく)さんとやら、148今(いま)彼(あ)の通(とほ)り頭(あたま)の上(うへ)から私(わたくし)の言葉(ことば)に対(たい)し「馬鹿(ばか)」と呶鳴(どな)り付(つ)けました。149矢張(やつぱり)これは取消(とりけ)しませう』
150お作『男(をとこ)が一旦(いつたん)歯(は)の外(そと)へ出(だ)した言葉(ことば)を、151無責任(むせきにん)にも引込(ひつこ)めなさる積(つも)りですか。152そんな事(こと)が出来(でき)るのなれば、153吐(は)いた唾(つばき)を飲(の)んでも宜(よろ)しからう。154妾(わたし)は、155どうしても此(この)約束(やくそく)を履行(りかう)して貰(もら)はねば承知(しようち)致(いた)しませぬよ』
156竜国別『まだ約束(やくそく)はして居(ゐ)ませぬ。157約束(やくそく)をしようかと云(い)つたまでですワ』
158お作『其(その)お言葉(ことば)が出(で)るに先立(さきだ)ち、159貴方(あなた)の心(こころ)の中(うち)では既(すで)に承諾(しようだく)をしたのでせう。
 
160人(ひと)問(と)はば鬼(おに)は居(ゐ)ぬとも答(こた)ふ可(べ)し心(こころ)の問(と)はば如何(いか)に答(こた)へむ
 
161貴方(あなた)は自(みづか)ら心(こころ)を欺(あざむ)く積(つも)りですか』
162竜国別『さうぢやと言(い)つて、163どうしてこれが承諾(しようだく)出来(でき)ませう。164又(また)頭(あたま)の上(うへ)から馬鹿(ばか)呼(よ)ばはりをされますから』
165お作『オホヽヽヽヽ、166あれは何時(いつ)も此(この)森(もり)に棲(す)まひをして居(を)る、167大天狗(だいてんぐ)が云(い)つたのですよ。168貴方(あなた)は結構(けつこう)な神(かみ)様(さま)のお使(つかひ)でありながら、169天狗(てんぐ)の一匹(いつぴき)や二匹(にひき)が、170それほど怖(こは)いのですかい』
171竜国別『何(なに)天狗(てんぐ)ならば怖(こわ)くはありませぬが、172あの言葉(ことば)は、173どうしても私(わたくし)の考(かんが)へに共鳴(きようめい)して居(ゐ)る様(やう)ですから、174服従(ふくじゆう)せなくてはなりませぬ。175どうぞ此(この)場(ば)を見遁(みのが)して下(くだ)さいませ』
176お作『エヽ男(をとこ)と云(い)ふものは気(き)の弱(よわ)いものだなア。177もうかうなれば仕方(しかた)がない』
178といきなり握手(あくしゆ)した。
179竜国別『何(な)んと仰有(おつしや)つても、180こればかりは後(あと)にして下(くだ)さい』
181お作『イエイエ何(なん)と云(い)つても、182妾(わたし)の願(ねが)ひを聞(き)き容(い)れて貰(もら)はなくては放(はな)しませぬよ』
183竜国別『そんなら、184もう仕方(しかた)がない。185サア私(わたし)から進(すす)んで握手(あくしゆ)致(いた)しませう』
186と竜国別(たつくにわけ)は右手(めて)を延(の)ばして、187お作(さく)の手(て)を握(にぎ)らうとした。188お作(さく)は喜(よろこ)ぶかと思(おも)ひきや、
189お作『エヽ汚(けが)らはしき三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)竜国別(たつくにわけ)』
190と言(い)ふより早(はや)く、191満身(まんしん)の力(ちから)を籠(こ)めて其(その)場(ば)に突(つ)き倒(たふ)した。
192竜国別『これや怪(け)しからぬ。193何(なん)としたらお気(き)に入(い)るのですか』
194お作『苟(いやし)くも神命(しんめい)を受(う)けて、195曲津(まがつ)の征服(せいふく)に向(むか)ふ途中(とちう)に於(おい)て、196如何(いか)なる切(せつ)なる女(をんな)の願(ねが)ひなればとて、197堅(かた)き決心(けつしん)を翻(ひるがへ)すとは何事(なにごと)ぞ。198かかる柔弱(にうじやく)なる汝(なんぢ)の魂(たましひ)で、199どうして悪魔(あくま)の征服(せいふく)が出来(でき)ようぞ』
200竜国別『ハテ合点(がてん)の行(ゆ)かぬ女(をんな)の振舞(ふるま)ひ』
201と双手(もろて)を組(く)んで暫時(しばし)思案(しあん)に耽(ふけ)つて居(ゐ)る。202忽(たちま)ち轟(とどろ)く雷鳴(らいめい)にフト頭(かしら)を上(あ)ぐれば、203以前(いぜん)の女(をんな)は跡形(あとかた)もなく消(き)え失(う)せ、204其(その)身(み)は古社(ふるやしろ)の縁(えん)の下(した)に眠(ねむ)つて居(ゐ)た。205雷(かみなり)と聞(きこ)えしは社(やしろ)に棲(す)む古鼠(ふるねずみ)の荒(あ)れ狂(くる)ふ足音(あしおと)であつた。206竜国別(たつくにわけ)は直(ただち)に神前(しんぜん)に額(ぬか)づき、207夢(ゆめ)の教訓(けうくん)を感謝(かんしや)し心魂(しんこん)を練(ね)つて、208愈(いよいよ)高春山(たかはるやま)の征服(せいふく)に向(むか)つて進(すす)み行(ゆ)く。
209(大正一一・五・二〇 旧四・二四 谷村真友録)
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