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霊界物語
如意宝珠(第13~24巻)
第21巻(申の巻)
序文
凡例
総説
第1篇 千辛万苦
第1章 高春山
第2章 夢の懸橋
第3章 月休殿
第4章 砂利喰
第5章 言の疵
第2篇 是生滅法
第6章 小杉の森
第7章 誠の宝
第8章 津田の湖
第9章 改悟の酬
第3篇 男女共権
第10章 女権拡張
第11章 鬼娘
第12章 奇の女
第13章 夢の女
第14章 恩愛の涙
第4篇 反復無常
第15章 化地蔵
第16章 約束履行
第17章 酒の息
第18章 解決
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霊界物語
>
如意宝珠(第13~24巻)
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第21巻(申の巻)
> 第1篇 千辛万苦 > 第5章 言の疵
<<< 砂利喰
(B)
(N)
小杉の森 >>>
第五章
言
(
ことば
)
の
疵
(
きず
)
〔六七九〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第21巻 如意宝珠 申の巻
篇:
第1篇 千辛万苦
よみ(新仮名遣い):
せんしんばんく
章:
第5章 言の疵
よみ(新仮名遣い):
ことばのきず
通し章番号:
679
口述日:
1922(大正11)年05月17日(旧04月21日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年4月5日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
玉治別の言葉によって六人の小盗人らは三五教に帰順し、宣伝使の供をすることとなった。
夜の山道にさしかかると、一行は狼の大群がやってくるのに出くわした。皆森林の中に逃げ込むが、玉治別だけは法螺を吹いて、狼たちの行く手に立ちはだかった。すると狼たちはその勢いに辟易したのか、向きを変えて行ってしまった。
玉治別は一人、山の上に登って行き、赤児岩と呼ばれる岩に腰を掛けていた。するとアルプス教の者と思しき二人がやってきて、玉治別を仲間と勘違いし、三五教の宣伝使をやっつける手はずの作戦書を渡して去って行った。
玉治別は書類を持ちながら歩いて行くと、谷底に人家の灯が見える。行くと、一軒の小さな木挽小屋があった。戸を叩くと杢助という男が出てきて、女房の通夜をしているという。
杢助は玉治別が宣伝使と見て取ると、通夜の番を頼んで用事を済ませに出て行ってしまった。玉治別は仕方なく死人の番をする。すると死人の蒲団から手を伸ばして、お供え物の握り飯を食べる者がある。
そこへ、竜国別と国依別ら一行がやってきて、玉治別と合流した。元盗人たちによると、木挽の杢助夫婦は腕力が強く、泥棒仲間も何度もひどい目に会わされて近づかないほどの剛の者だという。遠州ら元盗人たちは、恐れて小屋に入ろうとしない。
三人が話をしていると杢助が帰ってきた。すると死人の蒲団の中から、杢助の娘が出てきた。三人は杢助に頼まれて、死人にお経を上げる。
三人が帰ろうとすると、玉治別がアルプス教の者から受け取った包みに杢助が気づいた。中から、杢助の家の金子が出てきたことから、玉治別は泥棒の一味と間違えられてしまう。
杢助は鉞を振るって三人に襲い掛かるが、玉治別は天の数歌を唱えると、杢助は霊縛されてしまった。その間に玉治別は一部始終を物語り、誤解が解けた。
杢助の家から盗み出された金子はすべて杢助に返し、宣伝使たちはアルプス教の秘密書類だけを携えて、津田の湖に向かって進んで行った。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-05-07 19:48:55
OBC :
rm2105
愛善世界社版:
94頁
八幡書店版:
第4輯 299頁
修補版:
校定版:
98頁
普及版:
42頁
初版:
ページ備考:
001
玉治別
(
たまはるわけ
)
が
早速
(
さつそく
)
の
頓智
(
とんち
)
に、
002
六
(
ろく
)
人
(
にん
)
の
小盗人
(
こぬすと
)
は
始
(
はじ
)
めて
其
(
その
)
非
(
ひ
)
を
悟
(
さと
)
り、
003
喜
(
よろこ
)
んで
神
(
かみ
)
の
道
(
みち
)
に
帰順
(
きじゆん
)
し、
004
宣伝使
(
せんでんし
)
に
従
(
したが
)
つて
高春山
(
たかはるやま
)
に
向
(
むか
)
ふ
事
(
こと
)
となつた。
005
日
(
ひ
)
は
漸
(
やうや
)
く
暮
(
く
)
れかかり、
006
月背
(
つきしろ
)
と
見
(
み
)
えて
山
(
やま
)
と
山
(
やま
)
とに
囲
(
かこ
)
まれし
谷道
(
たにみち
)
も、
007
どことなく
明
(
あか
)
るくなつて
来
(
き
)
た。
008
されど
東西
(
とうざい
)
に
高山
(
かうざん
)
を
負
(
お
)
ひたる
谷路
(
たにみち
)
には、
009
皎々
(
かうかう
)
たる
月
(
つき
)
の
影
(
かげ
)
は
見
(
み
)
えなかつた。
010
暫
(
しばら
)
くすると
怪
(
あや
)
しき
唸
(
うな
)
り
声
(
ごゑ
)
が
前方
(
ぜんぱう
)
に
聞
(
きこ
)
え、
011
次
(
つ
)
いで
幾百
(
いくひやく
)
人
(
にん
)
とも
知
(
し
)
れぬ
人
(
ひと
)
の
足音
(
あしおと
)
らしきもの、
012
刻々
(
こくこく
)
に
聞
(
きこ
)
えて
来
(
き
)
た。
013
玉治別
(
たまはるわけ
)
『ヨー
怪
(
あや
)
しき
物音
(
ものおと
)
が
聞
(
きこ
)
えて
来
(
き
)
たぞ。
014
コレヤ
大方
(
おほかた
)
山賊
(
さんぞく
)
の
大集団
(
だいしふだん
)
の
御
(
ご
)
通過
(
つうくわ
)
と
見
(
み
)
える。
015
我々
(
われわれ
)
は
此処
(
ここ
)
に
待受
(
まちうけ
)
して、
016
片
(
かた
)
つ
端
(
ぱし
)
から
言向和
(
ことむけやは
)
し、
017
天晴
(
あつぱれ
)
大親分
(
おほおやぶん
)
となつてやらう。
018
アヽ
面白
(
おもしろ
)
い
面白
(
おもしろ
)
い。
019
天
(
てん
)
の
時節
(
じせつ
)
が
到来
(
たうらい
)
したか。
020
サア
竜
(
たつ
)
、
021
国
(
くに
)
、
022
遠州
(
ゑんしう
)
、
023
其
(
その
)
他
(
た
)
の
乾児
(
こぶん
)
共
(
ども
)
、
024
抜目
(
ぬけめ
)
なく
準備
(
じゆんび
)
を
致
(
いた
)
すのだよ』
025
国依別
(
くによりわけ
)
『ハハア、
026
又
(
また
)
商売替
(
しやうばいがへ
)
ですかな』
027
玉治別
(
たまはるわけ
)
『
機
(
き
)
に
臨
(
のぞ
)
み
変
(
へん
)
に
応
(
おう
)
ずるは
英雄
(
えいゆう
)
豪傑
(
がうけつ
)
の
本能
(
ほんのう
)
だよ』
028
遠州
(
ゑんしう
)
『モシモシあの
足音
(
あしおと
)
は
人間
(
にんげん
)
ぢやありませぬ。
029
あれは
千匹狼
(
せんびきおほかみ
)
と
云
(
い
)
つて、
030
時々
(
ときどき
)
此
(
この
)
路
(
みち
)
を
通過
(
つうくわ
)
する
猛獣
(
まうじう
)
です。
031
何程
(
なにほど
)
英雄
(
えいゆう
)
豪傑
(
がうけつ
)
でも、
032
千匹狼
(
せんびきおほかみ
)
にかかつては
叶
(
かな
)
ひませぬ。
033
サアサア
皆
(
みな
)
さま、
034
散
(
ち
)
り
散
(
ぢ
)
りバラバラになつて、
035
山林
(
さんりん
)
に
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
して
下
(
くだ
)
さい。
036
余
(
あま
)
り
密集
(
みつしふ
)
して
居
(
を
)
ると
狼
(
おほかみ
)
の
目
(
め
)
に
付
(
つ
)
いたら
大変
(
たいへん
)
です』
037
玉治別
(
たまはるわけ
)
『ナアニ、
038
善言
(
ぜんげん
)
美詞
(
びし
)
の
言霊
(
ことたま
)
を
以
(
もつ
)
て、
039
狼
(
おほかみ
)
の
奴
(
やつ
)
残
(
のこ
)
らず
言向
(
ことむ
)
け
和
(
やは
)
すのだ』
040
竜国別
(
たつくにわけ
)
『そんな
馬鹿
(
ばか
)
言
(
い
)
つてる
所
(
どころ
)
か、
041
サア
早
(
はや
)
く、
042
各自
(
めいめい
)
に
覚悟
(
かくご
)
をせよ。
043
畜生
(
ちくしやう
)
に
相手
(
あひて
)
になつて
堪
(
たま
)
るものかい。
044
怪我
(
けが
)
でもしたら、
045
それこそ
犬
(
いぬ
)
に
咬
(
か
)
まれた
様
(
やう
)
なものだ……
否
(
いや
)
狼
(
おほかみ
)
に
咬
(
か
)
まれては
損害
(
そんがい
)
賠償
(
ばいしやう
)
を
訴
(
うつた
)
へる
訳
(
わけ
)
にも
行
(
ゆ
)
かず、
046
治療代
(
ちれうだい
)
もどつからも
出
(
で
)
やせぬぞ。
047
オイ
国依別
(
くによりわけ
)
、
048
遠州
(
ゑんしう
)
、
049
駿州
(
すんしう
)
、
050
一同
(
いちどう
)
、
051
玉公
(
たまこう
)
の
言
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
くに
及
(
およ
)
ばぬ。
052
今日
(
けふ
)
は
俺
(
おれ
)
が
臨時
(
りんじ
)
の
大将
(
たいしやう
)
だ。
053
サア
早
(
はや
)
く
早
(
はや
)
く』
054
と
傍
(
かたはら
)
の
樹木
(
じゆもく
)
密生
(
みつせい
)
せる
森林
(
しんりん
)
の
中
(
なか
)
へ
駆込
(
かけこ
)
む。
055
国依別
(
くによりわけ
)
外
(
ほか
)
六
(
ろく
)
人
(
にん
)
は
竜国別
(
たつくにわけ
)
と
行動
(
かうどう
)
を
共
(
とも
)
にした。
056
玉治別
(
たまはるわけ
)
は
依然
(
いぜん
)
として
路上
(
ろじやう
)
に
立
(
た
)
ち、
057
玉治別
(
たまはるわけ
)
『アハヽヽヽ、
058
何奴
(
どいつ
)
も
此奴
(
こいつ
)
も
弱
(
よわ
)
い
奴
(
やつ
)
だなア。
059
多寡
(
たくわ
)
が
知
(
し
)
れた
四
(
よ
)
つ
足
(
あし
)
の
千匹
(
せんびき
)
万匹
(
まんびき
)
何
(
なに
)
が
怖
(
こは
)
いのだ。
060
オイ
狼
(
おほかみ
)
の
奴
(
やつ
)
、
061
幾
(
いく
)
らでも
出
(
で
)
て
来
(
こ
)
い』
062
と
呶鳴
(
どな
)
つて
居
(
を
)
る。
063
狼
(
おほかみ
)
は
五六間
(
ごろくけん
)
前
(
まへ
)
まで
列
(
れつ
)
を
組
(
く
)
んでやつて
来
(
き
)
たが、
064
路
(
みち
)
の
真
(
ま
)
ん
中
(
なか
)
に
立
(
た
)
ちはだかり、
065
捻鉢巻
(
ねぢはちまき
)
をしながら
噪
(
はし
)
やいで
居
(
ゐ
)
る
玉治別
(
たまはるわけ
)
の
勢
(
いきほひ
)
に
辟易
(
へきえき
)
したか、
066
途
(
みち
)
を
転
(
てん
)
じて
谷
(
たに
)
の
向側
(
むかふがは
)
の
山
(
やま
)
を
目
(
め
)
がけ、
067
ガサガサと
音
(
おと
)
させ
乍
(
なが
)
ら、
068
風
(
かぜ
)
の
如
(
ごと
)
くに
過
(
す
)
ぎ
去
(
さ
)
つて
了
(
しま
)
つた。
069
玉治別
(
たまはるわけ
)
は、
070
玉治別
『アハヽヽヽ、
071
弱
(
よわ
)
い
奴
(
やつ
)
だな。
072
そんな
事
(
こと
)
で
高春山
(
たかはるやま
)
の
猛悪
(
まうあく
)
な
鬼婆
(
おにばば
)
が、
073
どうして
退治
(
たいぢ
)
が
出来
(
でき
)
るかい。
074
エーいい
足手纏
(
あしてまと
)
ひだ、
075
単騎
(
たんき
)
進軍
(
しんぐん
)
と
出
(
で
)
かけよう』
076
と
四辺
(
あたり
)
に
聞
(
きこ
)
ゆる
様
(
やう
)
にワザと
大声
(
おほごゑ
)
で
喚
(
わめ
)
き
乍
(
なが
)
ら
峠
(
たうげ
)
を
登
(
のぼ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
077
竜国別
(
たつくにわけ
)
外
(
ほか
)
七
(
しち
)
人
(
にん
)
は
早
(
はや
)
くも
山
(
やま
)
を
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
駆
(
かけ
)
あがり、
078
向側
(
むかふがは
)
に
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
して
居
(
ゐ
)
た。
079
為
(
ため
)
に
玉治別
(
たまはるわけ
)
の
声
(
こゑ
)
も
聞
(
きこ
)
えなかつた。
080
玉治別
(
たまはるわけ
)
は
鼻唄
(
はなうた
)
を
唄
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
081
峠
(
たうげ
)
の
頂上
(
ちやうじやう
)
に
達
(
たつ
)
し
赤児岩
(
あかごいは
)
と
云
(
い
)
ふ
赤子
(
あかご
)
の
足型
(
あしがた
)
の
一面
(
いちめん
)
に
出来
(
でき
)
た、
082
カナリ
大
(
おほ
)
きな
岩石
(
がんせき
)
が
突
(
つ
)
き
出
(
で
)
て
居
(
ゐ
)
るのを
見付
(
みつ
)
け、
083
玉治別
『アヽ
結構
(
けつこう
)
な
天然
(
てんねん
)
椅子
(
いす
)
が
人待顔
(
ひとまちがほ
)
にチヨコナンとやつて
居
(
ゐ
)
るワイ。
084
オイ
岩椅子
(
いはいす
)
先生
(
せんせい
)
、
085
貴様
(
きさま
)
は
余程
(
よほど
)
幸福
(
かうふく
)
な
奴
(
やつ
)
だ。
086
三五教
(
あななひけう
)
の
大
(
だい
)
宣伝使
(
せんでんし
)
兼
(
けん
)
山賊
(
さんぞく
)
の
大親分
(
おほおやぶん
)
たる
玉治別
(
たまはるわけの
)
命
(
みこと
)
又
(
また
)
の
御名
(
みな
)
は
田吾作
(
たごさく
)
大明神
(
だいみやうじん
)
が、
087
少時
(
しばらく
)
尻
(
しり
)
をおろして
休息
(
きうそく
)
してやらう。
088
此
(
この
)
光栄
(
くわうえい
)
を
堅磐
(
かきは
)
常磐
(
ときは
)
に、
089
此
(
この
)
岩
(
いは
)
の
粉微塵
(
こなみじん
)
になる
千万劫
(
せんまんがふ
)
の
後
(
のち
)
迄
(
まで
)
も
忘
(
わす
)
れてはならぬぞよ。
090
躓
(
つま
)
づく
石
(
いし
)
も
縁
(
えん
)
の
端
(
はし
)
、
091
腰掛
(
こしか
)
け
岩
(
いは
)
椅子
(
いす
)
もヤツパリ
縁
(
えん
)
の
端
(
はし
)
だ。
092
……ヤア
始
(
はじ
)
めてお
月様
(
つきさま
)
のお
顔
(
かほ
)
を
拝
(
をが
)
んだ。
093
実
(
ほん
)
に
立派
(
りつぱ
)
な
美
(
うつく
)
しい
御
(
お
)
姿
(
すがた
)
だなア』
094
と
独
(
ひとり
)
ごちつつ
少
(
すこ
)
しく
眠気
(
ねむけ
)
を
催
(
もよほ
)
し、
095
フラフラと
体
(
からだ
)
を
揺
(
ゆす
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
096
其処
(
そこ
)
へスタスタと
上
(
あが
)
つて
来
(
き
)
た
二人
(
ふたり
)
の
荒男
(
あらをとこ
)
、
097
甲
(
かふ
)
『ヤア
来
(
き
)
て
居
(
を
)
る
来
(
き
)
て
居
(
を
)
る』
098
乙
(
おつ
)
『
居眠
(
ゐねむ
)
つて
居
(
ゐ
)
るぢやないか。
099
大分
(
だいぶん
)
に
草臥
(
くたび
)
れよつたと
見
(
み
)
えるワイ。
100
オイ
源州
(
げんしう
)
、
101
貴様
(
きさま
)
はこれを
持
(
も
)
つて、
102
テーリスタンに
渡
(
わた
)
すのだ。
103
俺
(
おれ
)
は
今
(
いま
)
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
が
沢山
(
たくさん
)
な
乾児
(
こぶん
)
を
連
(
つ
)
れて、
104
高春山
(
たかはるやま
)
へやつて
来
(
き
)
よるから、
105
其
(
その
)
準備
(
じゆんび
)
の
為
(
ため
)
に
行
(
ゆ
)
くのだから、
106
貴様
(
きさま
)
は
此処
(
ここ
)
に
金
(
かね
)
もあれば、
107
一切
(
いつさい
)
の
作戦
(
さくせん
)
計画
(
けいくわく
)
を
記
(
しる
)
した
人名簿
(
じんめいぼ
)
もある…しつかりと
渡
(
わた
)
して
呉
(
く
)
れよ』
108
玉治別
(
たまはるわけ
)
はワザとに
声
(
こゑ
)
をも
出
(
だ
)
さず、
109
首
(
くび
)
を
二三度
(
にさんど
)
上下
(
じやうげ
)
に
振
(
ふ
)
つて
包
(
つつ
)
みを
受取
(
うけと
)
つた。
110
二人
(
ふたり
)
の
荒男
(
あらをとこ
)
は
追手
(
おつて
)
にでも
追
(
お
)
ひかけられたやうな
調子
(
てうし
)
で、
111
峠
(
たうげ
)
を
南
(
みなみ
)
へ
地響
(
ぢひび
)
きさせ
乍
(
なが
)
ら、
112
巨岩
(
きよがん
)
が
山上
(
さんじやう
)
から
落下
(
らくか
)
する
様
(
やう
)
な
勢
(
いきほひ
)
で
駆下
(
かけくだ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
113
玉治別
(
たまはるわけ
)
『
彼奴
(
あいつ
)
はアルプス
教
(
けう
)
の……
部下
(
ぶか
)
の
者
(
もの
)
と
見
(
み
)
えるな。
114
俺
(
おれ
)
を
味方
(
みかた
)
と
見違
(
みちが
)
へて、
115
大切
(
たいせつ
)
な
物
(
もの
)
を
預
(
あづ
)
けて
行
(
ゆ
)
きよつた。
116
ヤツパリ、
117
アルプス
教
(
けう
)
の
奴
(
やつ
)
も
巡礼姿
(
じゆんれいすがた
)
になつて
居
(
ゐ
)
るのがあると
見
(
み
)
えるワイ。
118
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
此処
(
ここ
)
に
居
(
を
)
つては、
119
又
(
また
)
やつて
来
(
き
)
よつて
発覚
(
はつかく
)
されては
面白
(
おもしろ
)
くない。
120
なんとか
位置
(
ゐち
)
を
転
(
てん
)
じて、
121
ユツクリと
中
(
なか
)
の
書類
(
しよるゐ
)
を
調
(
しら
)
べて
見
(
み
)
ようかな』
122
と
小声
(
こごゑ
)
に
言
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
123
二三十
(
にさんじつ
)
間
(
けん
)
許
(
ばか
)
り
山
(
やま
)
の
尾
(
を
)
を
踏
(
ふ
)
んで、
124
月
(
つき
)
の
光
(
ひかり
)
を
賞
(
ほ
)
めつつ
歩
(
あゆ
)
み
出
(
だ
)
した。
125
谷底
(
たにそこ
)
に
当
(
あた
)
つて
幽
(
かす
)
かな
火
(
ひ
)
が、
126
木
(
こ
)
の
間
(
ま
)
に
瞬
(
またた
)
いて
居
(
ゐ
)
る。
127
これを
眺
(
なが
)
めた
玉治別
(
たまはるわけ
)
は、
128
玉治別
『アヽ
此
(
この
)
山奥
(
やまおく
)
に
火
(
ひ
)
を
点
(
とも
)
して
居
(
を
)
るのは、
129
此奴
(
こいつ
)
ア
不思議
(
ふしぎ
)
だ。
130
ヒヨツとしたら
山賊
(
さんぞく
)
の
棲家
(
すみか
)
か、
131
但
(
ただし
)
は
樵夫
(
きこり
)
か。
132
何
(
なに
)
は
兎
(
と
)
もあれ、
133
あの
火光
(
くわくわう
)
を
目当
(
めあて
)
に
近寄
(
ちかよ
)
つて、
134
様子
(
やうす
)
を
窺
(
うかが
)
うて
見
(
み
)
よう。
135
旅
(
たび
)
と
云
(
い
)
ふものは
随分
(
ずゐぶん
)
面白
(
おもしろ
)
いものだなア』
136
と
一点
(
いつてん
)
の
火
(
ひ
)
を
目標
(
めあて
)
に、
137
樹木
(
じゆもく
)
茂
(
しげ
)
れる
嶮
(
けは
)
しき
山
(
やま
)
を、
138
谷底
(
たにそこ
)
目蒐
(
めが
)
けて
下
(
くだ
)
りついた。
139
見
(
み
)
れば
笹
(
ささ
)
や
木
(
き
)
の
皮
(
かは
)
をもつて
屋根
(
やね
)
を
蔽
(
おほ
)
ひたる、
140
小
(
ちひ
)
さき
木挽
(
こびき
)
小屋
(
ごや
)
である。
141
中
(
なか
)
には
男
(
をとこ
)
のしはぶき
[
※
「しはぶき」とは、咳、咳払いのこと。
]
が
聞
(
きこ
)
えて
居
(
ゐ
)
る。
142
玉治別
(
たまはるわけ
)
『モシモシ、
143
私
(
わたくし
)
は
巡礼
(
じゆんれい
)
で
御座
(
ござ
)
いますが、
144
道
(
みち
)
に
踏
(
ふ
)
みまよひ、
145
行手
(
ゆくて
)
は
分
(
わか
)
らず、
146
幽
(
かす
)
かな
火
(
ひ
)
を
目
(
め
)
あてに
此処
(
ここ
)
まで
参
(
まゐ
)
りました。
147
どうぞ、
148
怪
(
あや
)
しい
者
(
もの
)
ではありませぬから、
149
一晩
(
ひとばん
)
泊
(
と
)
めて
下
(
くだ
)
さいな』
150
中
(
なか
)
より
男
(
をとこ
)
の
声
(
こゑ
)
、
151
男(杢助)
『ハイハイ、
152
此処
(
ここ
)
は
御存
(
ごぞん
)
じの
通
(
とほ
)
り、
153
穢苦
(
むさくる
)
しい
木挽
(
こびき
)
小屋
(
ごや
)
で
御座
(
ござ
)
いますが、
154
巡礼
(
じゆんれい
)
様
(
さま
)
なれば
大変
(
たいへん
)
結構
(
けつこう
)
で
御座
(
ござ
)
います。
155
どうぞ
御
(
お
)
這入
(
はい
)
り
下
(
くだ
)
さいませ』
156
と
快
(
こころよ
)
く
荒
(
あら
)
くたい
戸
(
と
)
を、
157
中
(
なか
)
からガタつかせ
乍
(
なが
)
ら
漸
(
やうや
)
く
開
(
ひら
)
いて、
158
奥
(
おく
)
に
案内
(
あんない
)
する。
159
玉治別
(
たまはるわけ
)
は
案内
(
あんない
)
に
連
(
つ
)
れて、
160
一寸
(
ちよつと
)
した
山中
(
さんちう
)
に
似合
(
にあ
)
はぬ
美
(
うつく
)
しい
座敷
(
ざしき
)
に
通
(
とほ
)
つた。
161
玉治別
『
此
(
この
)
深山
(
しんざん
)
にお
前
(
まへ
)
さま、
162
たつた
一人
(
ひとり
)
暮
(
くら
)
して
居
(
ゐ
)
るのかい。
163
門
(
かど
)
にて
聞
(
き
)
けば
男
(
をとこ
)
の
泣
(
な
)
き
声
(
ごゑ
)
がして
居
(
を
)
つたやうだが、
164
アレヤ
一体
(
いつたい
)
、
165
誰
(
たれ
)
が
泣
(
な
)
いてゐたのですか』
166
男
(
をとこ
)
(杢助)
『
私
(
わたくし
)
は
木挽
(
こびき
)
の
杢助
(
もくすけ
)
で
御座
(
ござ
)
いますが、
167
家内
(
かない
)
のお
杉
(
すぎ
)
が
二時
(
ふたとき
)
許
(
ばか
)
り
前
(
まへ
)
に
国替
(
くにがへ
)
を
致
(
いた
)
しまして、
168
それが
為
(
ため
)
に
死人
(
しにん
)
の
枕許
(
まくらもと
)
で、
169
此
(
この
)
世
(
よ
)
の
名残
(
なごり
)
に
女房
(
にようばう
)
に
向
(
むか
)
つて
泣
(
な
)
いてやりました。
170
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
俄
(
にはか
)
やもを
でどうする
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
ず、
171
霊前
(
れいぜん
)
に
供
(
そな
)
へる
物
(
もの
)
もないので、
172
握飯
(
にぎりめし
)
を
拵
(
こしら
)
へて
霊前
(
れいぜん
)
に
供
(
そな
)
へ、
173
戒名
(
かいみやう
)
の
代
(
かは
)
りに
板切
(
いたぎ
)
れを
削
(
けづ
)
つて、
174
斯
(
か
)
うして
祀
(
まつ
)
つて
置
(
お
)
きましたが、
175
あなたは
巡礼
(
じゆんれい
)
様
(
さま
)
ぢやと
聞
(
き
)
きましたが、
176
どうぞ
私
(
わたくし
)
がお
供
(
そな
)
へ
物
(
もの
)
の
準備
(
じゆんび
)
や、
177
其
(
その
)
外
(
ほか
)
親友
(
しんいう
)
や
寺
(
てら
)
の
坊
(
ばう
)
さまに
知
(
し
)
らして
来
(
く
)
る
間
(
あひだ
)
、
178
此処
(
ここ
)
に
留守
(
るす
)
して
居
(
ゐ
)
て
下
(
くだ
)
さいますまいか。
179
一寸
(
ちよつと
)
行
(
い
)
つて
参
(
まゐ
)
りますから……』
180
玉治別
(
たまはるわけ
)
『ヘエそれは
真
(
まこと
)
にお
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
な
事
(
こと
)
ですな。
181
私
(
わたし
)
も
急
(
いそ
)
ぐ
旅
(
たび
)
ではあるが、
182
これを
見
(
み
)
ては、
183
見棄
(
みす
)
てておく
訳
(
わけ
)
にも
行
(
ゆ
)
かぬ。
184
死人
(
しにん
)
の
夜伽
(
よとぎ
)
をして
居
(
を
)
るから、
185
サアサア
早
(
はや
)
く
行
(
い
)
て
来
(
き
)
なさい』
186
杢助
(
もくすけ
)
『
是
(
こ
)
れで
安心
(
あんしん
)
致
(
いた
)
しました。
187
どうぞ
宜
(
よろ
)
しうお
願
(
ねがひ
)
致
(
いた
)
します』
188
とイソイソ
戸外
(
こぐわい
)
に
駆出
(
かけだ
)
して
了
(
しま
)
つた。
189
玉治別
(
たまはるわけ
)
は、
190
玉治別
『エー
仕方
(
しかた
)
がない。
191
偶
(
たまたま
)
家
(
いへ
)
があると
思
(
おも
)
へば
死人
(
しにん
)
の
夜伽
(
よとぎ
)
を
命
(
めい
)
ぜられ、
192
あんまり
気分
(
きぶん
)
の
良
(
い
)
いものぢやないワ。
193
それよりも
千匹狼
(
せんびきおほかみ
)
と
戦争
(
せんそう
)
する
方
(
はう
)
が、
194
なんぼ
気
(
き
)
が
勇
(
いさ
)
んで、
195
心持
(
こころもち
)
が
良
(
い
)
いか
知
(
し
)
れない。
196
併
(
しか
)
しこれも
時
(
とき
)
の
廻
(
まは
)
り
合
(
あは
)
せだ。
197
泥棒
(
どろばう
)
から
金
(
かね
)
を
貰
(
もら
)
ひ、
198
秘密
(
ひみつ
)
書類
(
しよるゐ
)
を
巧
(
うま
)
く
手
(
て
)
に
入
(
い
)
れたと
思
(
おも
)
へば、
199
一時
(
ひととき
)
経
(
た
)
つか
経
(
た
)
たぬ
間
(
ま
)
に、
200
忽
(
たちま
)
ち
坊主
(
ばうず
)
の
代
(
かは
)
りだ。
201
蚊
(
か
)
の
喰
(
く
)
ふのに
蚊帳
(
かや
)
も
吊
(
つ
)
らずに、
202
こんな
所
(
ところ
)
にシヨビンと
残
(
のこ
)
されて、
203
蚊
(
か
)
の
施行
(
せぎやう
)
を
今晩
(
こんばん
)
はやらねばならぬか。
204
どこぞ
此処
(
ここ
)
らに
湯
(
ゆ
)
でも
沸
(
わ
)
いては
居
(
を
)
りませぬかな』
205
と
其処辺
(
そこら
)
中
(
ぢう
)
を
探
(
さが
)
して
見
(
み
)
ると、
206
口
(
くち
)
の
欠
(
か
)
けた
土瓶
(
どびん
)
が
一
(
ひと
)
つ
手
(
て
)
に
触
(
さは
)
つた。
207
玉治別
『ヨー、
208
水
(
みづ
)
も
大分
(
だいぶん
)
に
汲
(
く
)
んであるワイ。
209
一層
(
いつそ
)
のこと、
210
土瓶
(
どびん
)
に
湯
(
ゆ
)
でも
沸
(
わ
)
かして
飲
(
の
)
んでやらうかな』
211
と
木
(
き
)
の
破片
(
はつり
)
屑
(
くづ
)
[
※
「はつり」は「斫(はつ)り」で、何かを壊したり削ったりすること。
]
を
拾
(
ひろ
)
うて
竈
(
かまど
)
に
土瓶
(
どびん
)
を
懸
(
か
)
け、
212
コトコトと
焚
(
た
)
き
出
(
だ
)
した。
213
瞬
(
またた
)
く
間
(
うち
)
に
湯
(
ゆ
)
は
沸騰
(
たぎ
)
つた。
214
玉治別
『サアこれでも
飲
(
の
)
んで、
215
一
(
ひと
)
つ
夜
(
よ
)
を
徹
(
あ
)
かさうかな』
216
フト
女房
(
にようばう
)
の
死骸
(
しがい
)
の
方
(
はう
)
に
目
(
め
)
を
注
(
つ
)
けると、
217
頭
(
あたま
)
の
先
(
さき
)
に
無字
(
むじ
)
の
位牌
(
ゐはい
)
を
据
(
す
)
ゑ、
218
線香
(
せんかう
)
を
立
(
た
)
て、
219
其
(
その
)
前
(
まへ
)
に
握
(
にぎ
)
り
飯
(
めし
)
が
供
(
そな
)
へてある。
220
蒲団
(
ふとん
)
の
中
(
なか
)
から
細
(
ほそ
)
い
手
(
て
)
を
出
(
だ
)
して
握
(
にぎ
)
り
飯
(
めし
)
をグツと
掴
(
つか
)
んでは
取
(
と
)
り、
221
又
(
また
)
掴
(
つか
)
んでは
取
(
と
)
るものがある。
222
玉治別
(
たまはるわけ
)
『エー
幽霊
(
いうれい
)
の
奴
(
やつ
)
、
223
供
(
そな
)
へてある
握
(
にぎ
)
り
飯
(
めし
)
を
喰
(
くら
)
つて
居
(
ゐ
)
やがる。
224
此奴
(
こいつ
)
ア、
225
胃病
(
ゐびやう
)
かなんぞで
死
(
し
)
んだ
奴
(
やつ
)
だらう。
226
喰物
(
くひもん
)
に
執着心
(
しふちやくしん
)
の
深
(
ふか
)
い
亡者
(
まうじや
)
だなア。
227
何
(
なん
)
だか
首
(
くび
)
の
辺
(
あた
)
りがゾクゾクと
寒
(
さむ
)
うなつて
来居
(
きを
)
つた。
228
エー
構
(
かま
)
はぬ、
229
熱
(
あつ
)
い
湯
(
ゆ
)
でも
呑
(
の
)
んで
元気
(
げんき
)
でも
出
(
だ
)
さうかい』
230
と
口
(
くち
)
の
焼
(
や
)
ける
様
(
やう
)
な
湯
(
ゆ
)
を、
231
欠
(
か
)
けた
茶碗
(
ちやわん
)
に
注
(
つ
)
いで、
232
フウフウと
吹
(
ふ
)
きもつて
飲
(
の
)
み
始
(
はじ
)
め、
233
玉治別
『ヤア
何
(
なん
)
だ。
234
ここの
水
(
みづ
)
は
炭酸
(
たんさん
)
でも
含
(
ふく
)
んで
居
(
を
)
るのか、
235
怪体
(
けつたい
)
な
臭気
(
にほひ
)
がするぞ。
236
大方
(
おほかた
)
女房
(
にようばう
)
が
薬入
(
くすりい
)
れか、
237
炭酸
(
たんさん
)
曹達
(
そうだ
)
でも
入
(
い
)
れて
居
(
を
)
つた
土瓶
(
どびん
)
かも
知
(
し
)
れないぞ。
238
あんまり
慌
(
あわ
)
てて
中
(
なか
)
を
調査
(
しらべ
)
るのを
忘
(
わす
)
れて
居
(
を
)
つた。
239
ヤア
何
(
なん
)
だか
粘
(
ねば
)
つくぞ。
240
大変
(
たいへん
)
に
粘着性
(
ねんちやくせい
)
のある
水
(
みづ
)
だなア』
241
と
明
(
あか
)
りに
透
(
す
)
かして
見
(
み
)
ると、
242
燻
(
くすぶ
)
つた
中
(
なか
)
からホンノリと
文字
(
もじ
)
が
浮
(
う
)
いて
居
(
ゐ
)
る。
243
よくよく
見
(
み
)
れば「お
杉
(
すぎ
)
の
痰壺
(
たんつぼ
)
代用
(
だいよう
)
」としてある。
244
玉治別
『エー
怪
(
け
)
つ
体
(
たい
)
の
悪
(
わる
)
い、
245
此奴
(
こいつ
)
ア
失策
(
しくじ
)
つた。
246
幽霊
(
いうれい
)
は
細
(
ほそ
)
い
手
(
て
)
を
出
(
だ
)
して
握
(
にぎ
)
り
飯
(
めし
)
を
食
(
く
)
ふ、
247
此方
(
こちら
)
は
痰
(
たん
)
を
呑
(
の
)
まされる、
248
怪
(
け
)
つ
体
(
たい
)
なこともあればあるものだ。
249
……コレヤ
最前
(
さいぜん
)
の
男
(
をとこ
)
が
俺
(
おれ
)
に
与
(
く
)
れた
此
(
この
)
包
(
つつ
)
みもヒヨツトしたら
蜈蚣
(
むかで
)
か
何
(
なに
)
かが
出
(
で
)
て
来
(
く
)
るのぢやあるまいかな。
250
一度
(
いちど
)
ある
事
(
こと
)
は
三度
(
さんど
)
あると
云
(
い
)
ふから、
251
ウツカリ
此奴
(
こいつ
)
は
手
(
て
)
が
付
(
つ
)
けられぬぞ。
252
開
(
あ
)
けたが
最後
(
さいご
)
、
253
爆裂弾
(
ばくれつだん
)
でも
這入
(
はい
)
つて
居
(
を
)
つたら
大変
(
たいへん
)
だ。
254
ヤア
厭
(
いや
)
らしい、
255
又
(
また
)
細
(
ほそ
)
い
手
(
て
)
で
握
(
にぎ
)
り
飯
(
めし
)
を
掴
(
つか
)
んで
居
(
ゐ
)
やがる。
256
大方
(
おほかた
)
喰
(
く
)
うて
了
(
しま
)
ひよつた。
257
此奴
(
こいつ
)
ア、
258
中有
(
ちうう
)
なしに
直
(
すぐ
)
に
餓鬼道
(
がきだう
)
へ
落
(
お
)
ちた
精霊
(
せいれい
)
と
見
(
み
)
えるワイ。
259
こんな
所
(
とこ
)
に
厭
(
いや
)
らしうて
居
(
を
)
れるものぢやない。
260
併
(
しか
)
し
一旦
(
いつたん
)
男
(
をとこ
)
が
留守
(
るす
)
してやらうと
請合
(
うけあ
)
つた
以上
(
いじやう
)
は、
261
卑怯
(
ひけふ
)
にも
逃
(
に
)
げ
出
(
だ
)
す
訳
(
わけ
)
にも
行
(
ゆ
)
くまい。
262
やがて
帰
(
かへ
)
つて
来
(
く
)
るだらう。
263
それまで
其処辺
(
そこら
)
の
林
(
はやし
)
をぶらついて、
264
お
月様
(
つきさま
)
のお
顔
(
かほ
)
でも
拝
(
をが
)
んで
来
(
こ
)
よう。
265
斯
(
か
)
うなると、
266
我々
(
われわれ
)
に
同情
(
どうじやう
)
を
表
(
へう
)
して
呉
(
く
)
れるのはお
月様
(
つきさま
)
丈
(
だけ
)
ぢや。
267
竜国別
(
たつくにわけ
)
、
268
国依別
(
くによりわけ
)
其
(
その
)
他
(
た
)
の
腰抜
(
こしぬけ
)
は、
269
どつかへ
滅尽
(
めつじん
)
して
了
(
しま
)
ひ、
270
寂
(
さび
)
しい
事
(
こと
)
になつて
来
(
き
)
たワイ』
271
と
門口
(
かどぐち
)
を
跨
(
また
)
げ、
272
何時
(
いつ
)
とはなしに
二三丁
(
にさんちやう
)
も
歩
(
あゆ
)
み
出
(
だ
)
し、
273
谷水
(
たにみづ
)
の
流
(
なが
)
れに
水
(
みづ
)
を
掬
(
すく
)
ひ、
274
口
(
くち
)
に
含
(
ふく
)
んで
盛
(
さかん
)
に、
275
家鶏
(
にはとり
)
が
水
(
みづ
)
を
飲
(
の
)
む
様
(
やう
)
に、
276
一口
(
ひとくち
)
入
(
い
)
れては
首
(
くび
)
を
挙
(
あ
)
げ、
277
ガラガラガラ ブーブーと
吹
(
ふ
)
き、
278
又
(
また
)
一口
(
ひとくち
)
飲
(
の
)
んでは
仰向
(
あふむ
)
き、
279
ガラガラガラガラ、
280
ブーブーブーと、
281
幾度
(
いくど
)
ともなく
繰返
(
くりかへ
)
して
居
(
ゐ
)
る。
282
火影
(
ほかげ
)
を
目標
(
めあて
)
に
探
(
さぐ
)
つて
来
(
き
)
た
竜国別
(
たつくにわけ
)
、
283
国依別
(
くによりわけ
)
、
284
遠州
(
ゑんしう
)
、
285
武州
(
ぶしう
)
外
(
ほか
)
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は、
286
玉治別
(
たまはるわけ
)
の
姿
(
すがた
)
を
夜目
(
よめ
)
に
見
(
み
)
て、
287
怪
(
あや
)
しき
者
(
もの
)
と
木蔭
(
こかげ
)
に
佇
(
たたず
)
み、
288
様子
(
やうす
)
を
窺
(
うかが
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
289
遠州
(
ゑんしう
)
『モシ
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
、
290
ガラガラブーブーが
現
(
あら
)
はれました。
291
ここは
一
(
ひと
)
つ
家
(
や
)
の
木挽
(
こびき
)
小屋
(
ごや
)
、
292
何
(
なに
)
が
出
(
で
)
るやら
知
(
し
)
れませぬ。
293
アレヤきつと
化州
(
ばけしう
)
でせう』
294
国依別
(
くによりわけ
)
『ナニ
幽霊
(
いうれい
)
が
水
(
みづ
)
を
飲
(
の
)
んでゐるのだ。
295
つまり
含嗽
(
うがひ
)
をしてるのだよ。
296
貴様
(
きさま
)
行
(
い
)
つてしらべて
来
(
こ
)
い』
297
玉治別
(
たまはるわけ
)
は
木蔭
(
こかげ
)
にヒソビソ
語
(
かた
)
る
人声
(
ひとごゑ
)
を
聞
(
き
)
きつけ、
298
玉治別
『オイ
何処
(
どこ
)
の
何者
(
なにもの
)
か
知
(
し
)
らぬが、
299
俺
(
おれ
)
も
連
(
つ
)
れがなくて、
300
淋
(
さび
)
しくつて
困
(
こま
)
つて
居
(
を
)
るのだ。
301
狼
(
おほかみ
)
でも
泥棒
(
どろばう
)
でも
何
(
なん
)
でも
構
(
かま
)
はぬ。
302
遠慮
(
ゑんりよ
)
は
要
(
い
)
らぬ。
303
這入
(
はい
)
つて、
304
マア
湯
(
ゆ
)
が
沸
(
わ
)
かしてあるから、
305
ゆつくりと
飲
(
の
)
んだがよからうよ』
306
竜国別
(
たつくにわけ
)
『アヽあの
声
(
こゑ
)
は
玉治別
(
たまはるわけ
)
によく
似
(
に
)
て
居
(
ゐ
)
るぢやないか』
307
国依別
(
くによりわけ
)
『
左様
(
さう
)
々々
(
さう
)
、
308
大方
(
おほかた
)
玉公
(
たまこう
)
の
先生
(
せんせい
)
でせう……オイ
玉
(
たま
)
ぢやないか』
309
玉治別
『その
声
(
こゑ
)
は
国
(
くに
)
だなア。
310
好
(
い
)
い
所
(
とこ
)
へ
来
(
き
)
て
呉
(
く
)
れた。
311
マア
面白
(
おもしろ
)
い
見
(
み
)
せ
物
(
もの
)
も
見
(
み
)
ようと
儘
(
まま
)
だし、
312
湯
(
ゆ
)
も
沢山
(
たくさん
)
に
沸
(
わ
)
いてるから、
313
トツトと
俺
(
おれ
)
に
従
(
つ
)
いて
来
(
こ
)
い。
314
今日
(
けふ
)
は
山中
(
さんちう
)
の
一
(
ひと
)
つ
家
(
や
)
の
臨時
(
りんじ
)
御
(
ご
)
主人公
(
しゆじんこう
)
だ。
315
サア
此方
(
こちら
)
へ……』
316
と
手招
(
てまね
)
きし
乍
(
なが
)
ら、
317
月光
(
げつくわう
)
漏
(
も
)
るる
谷路
(
たにみち
)
を
帰
(
かへ
)
つて
行
(
ゆ
)
く。
318
遠州
(
ゑんしう
)
『ヤア
此家
(
ここ
)
は
杢助
(
もくすけ
)
と
云
(
い
)
ふ
強力者
(
ちからづよ
)
の
住
(
す
)
まつて
居
(
ゐ
)
る
木挽
(
こびき
)
小屋
(
ごや
)
です。
319
彼奴
(
あいつ
)
に
随分
(
ずゐぶん
)
、
320
我々
(
われわれ
)
の
仲間
(
なかま
)
は
酷
(
えら
)
い
目
(
め
)
に
遭
(
あ
)
うたものです。
321
剣術
(
けんじゆつ
)
、
322
柔術
(
じうじゆつ
)
の
達人
(
たつじん
)
で、
323
三十
(
さんじふ
)
人
(
にん
)
や
五十
(
ごじふ
)
人
(
にん
)
は
手毬
(
てまり
)
の
様
(
やう
)
に
投
(
な
)
げ
付
(
つ
)
ける
奴
(
やつ
)
ですよ。
324
さうして
立派
(
りつぱ
)
な
嬶
(
かか
)
アを
持
(
も
)
つて
居
(
ゐ
)
るのです。
325
その
嬶
(
かか
)
アが
又
(
また
)
中々
(
なかなか
)
の
強者
(
しれもの
)
で、
326
杢助
(
もくすけ
)
に
相当
(
さうたう
)
した
腕力
(
わんりよく
)
を
持
(
も
)
つて
居
(
を
)
るのだから、
327
誰
(
たれ
)
も
此処
(
ここ
)
ばつかりは、
328
怖
(
こは
)
くてよう
窺
(
うかが
)
はなかつた
所
(
ところ
)
です。
329
私
(
わたくし
)
等
(
ら
)
は
顔
(
かほ
)
をこれまでに
見
(
み
)
られて
居
(
を
)
るから
剣呑
(
けんのん
)
です。
330
貴方
(
あなた
)
がたどうぞお
這入
(
はい
)
り
下
(
くだ
)
さいませ。
331
暫時
(
しばらく
)
木蔭
(
こかげ
)
で
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
ますから』
332
竜国別
(
たつくにわけ
)
『
何
(
なに
)
、
333
我々
(
われわれ
)
が
付
(
つ
)
いて
居
(
を
)
れば
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
だ。
334
遠慮
(
ゑんりよ
)
は
要
(
い
)
らぬ。
335
今日
(
けふ
)
は
玉公
(
たまこう
)
親分
(
おやぶん
)
の
家長権
(
かちやうけん
)
を
持
(
も
)
つて
居
(
を
)
る
日
(
ひ
)
だから、
336
トツトと
這入
(
はい
)
つたがよからう』
337
遠州
(
ゑんしう
)
『それでもあんまり
閾
(
しきゐ
)
が
高
(
たか
)
く
跨
(
またが
)
れませぬワ』
338
竜国別
(
たつくにわけ
)
『ハハア、
339
ヤツパリお
前
(
まへ
)
にも
羞悪
(
しうを
)
の
心
(
こころ
)
がどつかに
残
(
のこ
)
つて
居
(
を
)
るな。
340
そんなら
暫
(
しばら
)
く
泥棒組
(
どろばうぐみ
)
は
木蔭
(
こかげ
)
に
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
て
呉
(
く
)
れ』
341
遠州
(
ゑんしう
)
『
泥棒組
(
どろばうぐみ
)
とは
酷
(
ひど
)
いぢやありませぬか。
342
最早
(
もはや
)
我々
(
われわれ
)
はピユリタン
組
(
ぐみ
)
とは
違
(
ちが
)
ひますかいな』
343
竜国別
(
たつくにわけ
)
『ピユリタン
組
(
ぐみ
)
でも
泥棒組
(
どろばうぐみ
)
でも
良
(
い
)
いワ。
344
暫
(
しばら
)
く
其処辺
(
そこら
)
へドロンと
消
(
き
)
えて、
345
待
(
ま
)
つてゐるのだよ』
346
と
云
(
い
)
ひ
棄
(
す
)
て、
347
竜
(
たつ
)
、
348
国
(
くに
)
の
両人
(
りやうにん
)
はヌツと
家中
(
うち
)
に
這入
(
はい
)
り、
349
竜国別、国依別
『ヤア
割
(
わ
)
りとは
山中
(
さんちう
)
に
似
(
に
)
ず、
350
小瀟洒
(
こざつぱり
)
とした
家
(
いへ
)
だなア』
351
玉治別
『エヽ
定
(
きま
)
つた
事
(
こと
)
だい。
352
俺
(
おれ
)
が
家長権
(
かちやうけん
)
を
握
(
にぎ
)
つた
大家庭
(
だいかてい
)
だから、
353
隅
(
すみ
)
から
隅
(
すみ
)
まで
能
(
よ
)
く
行届
(
ゆきとど
)
いて
居
(
を
)
らうがな。
354
併
(
しか
)
し
俺
(
おれ
)
の
嬶
(
かかあ
)
が
俄
(
にはか
)
の
罹病
(
わづらひ
)
で
死亡
(
しぼう
)
しよつたのだ。
355
就
(
つい
)
ては
俺
(
おれ
)
に
恋着心
(
れんちやくしん
)
が
残
(
のこ
)
つたと
見
(
み
)
えて、
356
死
(
し
)
んでからでも
細
(
ほそ
)
い
手
(
て
)
を
出
(
だ
)
して、
357
十
(
とを
)
許
(
ばか
)
りの
握
(
にぎ
)
り
飯
(
めし
)
を
既
(
すで
)
に
八
(
やつ
)
つ
許
(
ばか
)
り
平
(
たひ
)
らげて
了
(
しま
)
ひよつたのだ。
358
マア
湯
(
ゆ
)
でも
呑
(
の
)
んでユツクリと
嬶
(
かか
)
アの
夜伽
(
よとぎ
)
をしてやつて
呉
(
く
)
れ』
359
国依別
(
くによりわけ
)
『
又
(
また
)
しても、
360
しようもない。
361
本当
(
ほんたう
)
に
当家
(
たうけ
)
に
死人
(
しにん
)
があつたのか。
362
貴様
(
きさま
)
泥棒
(
どろばう
)
の
臨時
(
りんじ
)
親方
(
おやかた
)
になつたと
思
(
おも
)
うて、
363
強盗
(
がうたう
)
をやつて
此家
(
ここ
)
の
大切
(
たいせつ
)
な
嬶
(
かか
)
アを
殺
(
ころ
)
したのぢやないか』
364
玉治別
(
たまはるわけ
)
『
若
(
わか
)
い
時
(
とき
)
から、
365
女殺
(
をんなごろ
)
しの
後家倒
(
ごけだふ
)
し、
366
姫殺
(
ひめごろ
)
しと
綽名
(
あだな
)
を
取
(
と
)
つた
玉治別
(
たまはるわけ
)
ぢや。
367
口
(
くち
)
でも
殺
(
ころ
)
せば、
368
目
(
め
)
でも
殺
(
ころ
)
すと
云
(
い
)
ふ
業平
(
なりひら
)
朝臣
(
あそん
)
だから、
369
女
(
をんな
)
の
一人
(
ひとり
)
位
(
くらゐ
)
、
370
強盗
(
がうたう
)
になつて
殺
(
ころ
)
すのは
当然
(
あたりまへ
)
だよ』
371
竜国別
(
たつくにわけ
)
『マサカ
人
(
ひと
)
の
女房
(
にようばう
)
を
殺
(
ころ
)
す
様
(
やう
)
な、
372
貴様
(
きさま
)
も
悪人
(
あくにん
)
ではなかつたが、
373
三国
(
みくに
)
ケ
嶽
(
だけ
)
の
鬼婆
(
おにばば
)
の
霊
(
れい
)
でも
憑
(
つ
)
きよつたのかなア。
374
エライ
事
(
こと
)
をして
呉
(
く
)
れたものだワイ』
375
玉治別
『マアどうでも
良
(
い
)
い。
376
湯
(
ゆ
)
が
沸
(
わ
)
いて
居
(
を
)
るから
一杯
(
いつぱい
)
飲
(
の
)
んだらどうだ。
377
これも
玉治公
(
たまはるこう
)
がお
手
(
て
)
づからお
沸
(
わか
)
し
遊
(
あそ
)
ばした
結構
(
けつこう
)
なお
湯
(
ゆ
)
だ。
378
チヨツと
毒試
(
どくみ
)
をして
見
(
み
)
たが、
379
随分
(
ずゐぶん
)
セキタン
臭
(
くさ
)
い
水
(
みづ
)
だ。
380
併
(
しか
)
し
胃病
(
ゐびやう
)
の
薬
(
くすり
)
には
良
(
い
)
いかも
知
(
し
)
れないわ』
381
国依別
(
くによりわけ
)
『
一寸
(
ちよつと
)
其
(
その
)
土瓶
(
どびん
)
を
俺
(
おれ
)
に
貸
(
か
)
して
呉
(
く
)
れ。
382
調査
(
しらべ
)
る
必要
(
ひつえう
)
があるから。
383
ウツカリ
知
(
し
)
らぬ
宅
(
うち
)
へ
来
(
き
)
て、
384
湯
(
ゆ
)
でも
飲
(
の
)
まうものなら、
385
どんな
毒薬
(
どくやく
)
が
仕込
(
しこ
)
んであるか
分
(
わか
)
つたものぢやないわ』
386
玉治別
『ナアニ、
387
抜目
(
ぬけめ
)
のない
玉治公
(
たまはるこう
)
がチヤンと
査
(
しら
)
べてある。
388
決
(
けつ
)
して
毒
(
どく
)
ぢやない。
389
これは
宝丹
(
はうたん
)
の
入
(
い
)
れ
物
(
もの
)
だ。
390
それで
宝丹
(
はうたん
)
の
匂
(
にほ
)
ひが
少
(
すこ
)
しはして
居
(
を
)
る』
391
とニヤリと
笑
(
わら
)
ふ。
392
国依別
(
くによりわけ
)
は、
393
国依別
『ナニ
放痰
(
はうたん
)
、
394
いやマスマス
怪
(
あや
)
しいぞ』
395
と
無理
(
むり
)
に
取
(
と
)
り
上
(
あ
)
げ、
396
灯
(
ひ
)
にすかして
見
(
み
)
て、
397
国依別
『ヤア
何
(
なん
)
だか
印
(
しるし
)
が
付
(
つ
)
いて
居
(
ゐ
)
る……お
杉
(
すぎ
)
の
痰壺
(
たんつぼ
)
代用
(
だいよう
)
……エイ
胸
(
むね
)
の
悪
(
わる
)
い』
398
と
云
(
い
)
ひなり、
399
不潔
(
きたな
)
さうに
土瓶
(
どびん
)
を
握
(
にぎ
)
つた
手
(
て
)
を
放
(
はな
)
した。
400
土瓶
(
どびん
)
は
庭
(
には
)
にバタリと
落
(
お
)
ちて
滅茶
(
めつちや
)
々々
(
めつちや
)
に
破
(
わ
)
れ、
401
煮湯
(
にえゆ
)
はパツと
四方
(
しはう
)
に
飛
(
と
)
び
散
(
ち
)
り、
402
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
顔
(
かほ
)
に
熱
(
あつ
)
い
臭
(
くさ
)
い
奴
(
やつ
)
が、
403
厭
(
いや
)
と
云
(
い
)
ふ
程
(
ほど
)
御
(
お
)
見舞
(
みまひ
)
申
(
まを
)
した。
404
竜国別
(
たつくにわけ
)
『サツパリ
男
(
をとこ
)
の
顔
(
かほ
)
に
墨
(
すみ
)
ではなうて、
405
痰
(
たん
)
を
塗
(
ぬ
)
りやがつたな。
406
ヤアヤア
死人
(
しにん
)
がムクムクと
動
(
うご
)
き
出
(
だ
)
したぢやないか。
407
永久
(
えいきう
)
の
死人
(
しにん
)
ぢやあるまい。
408
夜分
(
やぶん
)
になつたら
臨時死
(
りんじし
)
ぬると
云
(
い
)
ふ
睡眠
(
すゐみん
)
状態
(
じやうたい
)
だらう』
409
玉治別
(
たまはるわけ
)
『そんな
死方
(
しにかた
)
なら、
410
誰
(
たれ
)
でも
毎晩
(
まいばん
)
やつて
居
(
ゐ
)
るぢやないか。
411
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
の
様
(
やう
)
な
怠惰者
(
なまくらもの
)
は
日
(
ひ
)
が
永
(
なが
)
いとか
云
(
い
)
つて、
412
木
(
き
)
の
蔭
(
かげ
)
で
一時
(
ひととき
)
も
二時
(
ふたとき
)
も、
413
チヨコチヨコ
死
(
し
)
ぬぢやないか。
414
そんな
死
(
し
)
にやうとはチツト
違
(
ちが
)
ふのだい。
415
徹底
(
てつてい
)
的
(
てき
)
の
永
(
なが
)
き
眠
(
ねむり
)
に
就
(
つ
)
いて
十万
(
じふまん
)
億土
(
おくど
)
へ
精霊
(
せいれい
)
の
旅立
(
たびだち
)
の
最中
(
さいちう
)
だ』
416
竜国別
(
たつくにわけ
)
『それにしては、
417
細
(
ほそ
)
い
手
(
て
)
を
出
(
だ
)
して
飯
(
めし
)
を
掴
(
つか
)
んで
食
(
く
)
つたり、
418
ムクムク
動
(
うご
)
いて
居
(
を
)
るぢやないか』
419
玉治別
(
たまはるわけ
)
『オイ
国依別
(
くによりわけ
)
、
420
お
前
(
まへ
)
は
宗彦
(
むねひこ
)
と
云
(
い
)
つて、
421
随分
(
ずゐぶん
)
に
嬶
(
かか
)
アを
沢山
(
たくさん
)
に
泣
(
な
)
かしたり、
422
殺
(
ころ
)
したと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
だが、
423
大方
(
おほかた
)
其
(
その
)
亡念
(
まうねん
)
が
此家
(
ここ
)
の
死人
(
しにん
)
に
憑
(
つ
)
いて
居
(
を
)
るのかも
知
(
し
)
れないぞ』
424
国依別
(
くによりわけ
)
『
何
(
なん
)
にしても
気分
(
きぶん
)
の
悪
(
わる
)
い
家
(
うち
)
だ。
425
さうして
此家
(
ここ
)
の
主人
(
しゆじん
)
は
何処
(
どこ
)
へ
行
(
い
)
つたのだい』
426
玉治別
(
たまはるわけ
)
『
一寸
(
ちよつと
)
買物
(
かひもの
)
に
行
(
い
)
つて
来
(
く
)
るから、
427
帰
(
かへ
)
るまで
留守
(
るす
)
を
頼
(
たの
)
むと
云
(
い
)
つて
出
(
で
)
たなり、
428
まだ
帰
(
かへ
)
つて
来
(
こ
)
ないのだ。
429
随分
(
ずゐぶん
)
暇
(
ひま
)
の
要
(
い
)
る
事
(
こと
)
だなア』
430
死人
(
しにん
)
を
寝
(
ね
)
かした
夜具
(
やぐ
)
は、
431
ムクムクと
動
(
うご
)
き
出
(
だ
)
した。
432
五
(
いつ
)
つ
六
(
むつ
)
つの
女
(
をんな
)
の
児
(
こ
)
がムクツと
起
(
お
)
きあがり……
433
子供
(
こども
)
『お
父
(
とう
)
さん お
父
(
とう
)
さん お
父
(
とう
)
さん』
434
と
四辺
(
あたり
)
をキヨロキヨロ
見廻
(
みまは
)
して
居
(
ゐ
)
る。
435
三
(
さん
)
人
(
にん
)
はヤツと
胸
(
むね
)
撫
(
な
)
でおろし、
436
三
(
さん
)
人
(
にん
)
『ヤアこれで
細
(
ほそ
)
い
手
(
て
)
も、
437
握
(
にぎ
)
り
飯
(
めし
)
掴
(
つか
)
みも
解決
(
かいけつ
)
がついた』
438
斯
(
か
)
かる
所
(
ところ
)
へスタスタと
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
たのは
主人
(
しゆじん
)
の
杢助
(
もくすけ
)
、
439
杢助
(
もくすけ
)
『
巡礼
(
じゆんれい
)
さま、
440
エライ
御
(
ご
)
厄介
(
やくかい
)
になりました。
441
何分
(
なにぶん
)
急
(
いそ
)
いで
行
(
い
)
つたのですけれど、
442
夜分
(
やぶん
)
の
事
(
こと
)
とて
先
(
さき
)
が
容易
(
ようい
)
に
起
(
お
)
きてくれませぬので、
443
つい
手間取
(
てまど
)
りまして、
444
エライ
御
(
ご
)
迷惑
(
めいわく
)
を
掛
(
か
)
けました』
445
玉治別
(
たまはるわけ
)
『エー
滅相
(
めつさう
)
な、
446
どう
致
(
いた
)
しまして……ここに
二人
(
ふたり
)
居
(
を
)
りますのは、
447
我々
(
われわれ
)
の
兄弟分
(
きやうだいぶん
)
で
御座
(
ござ
)
います。
448
どうぞお
見知
(
みし
)
り
置
(
お
)
かれますやうに』
449
子供
(
こども
)
は、
450
子供(お初)
『お
父
(
とう
)
さん』
451
と
走
(
はし
)
つて
抱
(
だ
)
きつく。
452
杢助
(
もくすけ
)
『アーお
前
(
まへ
)
は
賢
(
かしこ
)
い
子
(
こ
)
だ。
453
よう
留守
(
るす
)
をして
居
(
を
)
つた。
454
あんな
死
(
し
)
んだお
母
(
か
)
アの
側
(
はた
)
に
黙
(
だま
)
つて
寝
(
ね
)
て
居
(
ゐ
)
るとは、
455
肝
(
きも
)
の
太
(
ふと
)
い
奴
(
やつ
)
だ。
456
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
には
大
(
おほ
)
きな
男
(
をとこ
)
が、
457
宣伝
(
せんでん
)
をしに
歩
(
ある
)
いて
居
(
を
)
つても、
458
死人
(
しにん
)
の
側
(
そば
)
には
怖
(
こは
)
がつて、
459
三
(
さん
)
人
(
にん
)
も
五
(
ご
)
人
(
にん
)
も
居
(
を
)
らねば、
460
夜伽
(
よとぎ
)
をようせぬものだが、
461
子供
(
こども
)
はヤツパリ
罪
(
つみ
)
が
無
(
な
)
いワイ』
462
玉治別
(
たまはるわけ
)
は
頭
(
あたま
)
を
掻
(
か
)
き、
463
玉治別
『ヤア
恐
(
おそ
)
れ
入
(
い
)
りました。
464
私
(
わたくし
)
もチツとも
怖
(
こわ
)
くはありませぬ』
465
杢助
『
女房
(
にようばう
)
の
霊前
(
れいぜん
)
にお
経
(
きやう
)
を
唱
(
とな
)
へて
下
(
くだ
)
さいましたか』
466
玉治別
『ハイ、
467
お
茶湯
(
ちやたう
)
を
献
(
あ
)
げませうと
思
(
おも
)
つて、
468
つい
考
(
かんが
)
へて
居
(
を
)
りました。
469
併
(
しか
)
し
遠距離
(
ゑんきより
)
読経
(
どきやう
)
をやつて
置
(
お
)
きました。
470
それも
無形
(
むけい
)
無声
(
むせい
)
の、
471
暗祈
(
あんき
)
黙祷
(
もくたう
)
、
472
愈
(
いよいよ
)
これから
始
(
はじ
)
める
所
(
ところ
)
で
御座
(
ござ
)
います』
473
と
何
(
なに
)
が
何
(
なに
)
やら
間誤
(
まご
)
ついて、
474
支離
(
しり
)
滅裂
(
めつれつ
)
の
挨拶
(
あいさつ
)
をやつて
居
(
ゐ
)
る。
475
ここに
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
霊前
(
れいぜん
)
に
向
(
むか
)
ひ、
476
神言
(
かみごと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し、
477
お
杉
(
すぎ
)
の
冥福
(
めいふく
)
を
祈
(
いの
)
り、
478
遠州
(
ゑんしう
)
外
(
ほか
)
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
手伝
(
てつだひ
)
の
下
(
もと
)
に、
479
野辺
(
のべ
)
の
送
(
おく
)
りを
無事
(
ぶじ
)
に
済
(
す
)
ました。
480
玉治別
(
たまはるわけ
)
『ヤアこれで
無事
(
ぶじ
)
終了
(
しうれう
)
、
481
先
(
ま
)
づ
先
(
ま
)
づお
芽出
(
めで
)
……たくもありませぬ。
482
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸
(
ち
)
はへ
坐
(
ま
)
せ
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸
(
ち
)
はへ
坐
(
ま
)
せ
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸
(
ち
)
はへ
坐
(
ま
)
せ』
483
杢助
(
もくすけ
)
『
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
いました』
484
一同
(
いちどう
)
は、
485
一同
『
左様
(
さやう
)
ならば……
随分
(
ずゐぶん
)
御
(
ご
)
壮健
(
さうけん
)
でお
暮
(
くら
)
しなさいませ』
486
と
立
(
た
)
つて
行
(
ゆ
)
かむとする。
487
杢助
(
もくすけ
)
は、
488
杢助
(
もくすけ
)
『モシモシ、
489
此処
(
ここ
)
にこんな
風呂敷
(
ふろしき
)
包
(
づつみ
)
が
残
(
のこ
)
つて
居
(
ゐ
)
ます。
490
コレはお
前
(
まへ
)
さまのぢやあるまいかな』
491
玉治別
(
たまはるわけ
)
『ヤア
到頭
(
たうとう
)
忘
(
わす
)
れて
居
(
ゐ
)
た。
492
これは
私
(
わたくし
)
ので
御座
(
ござ
)
います』
493
杢助
(
もくすけ
)
『お
前
(
まへ
)
さまのに
間違
(
まちが
)
ひはないか』
494
玉治別
(
たまはるわけ
)
『
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
は
峠
(
たうげ
)
の
岩
(
いは
)
に
休息
(
きうそく
)
して
居
(
を
)
つた
時
(
とき
)
に、
495
乾児
(
こぶん
)
がやつて
来
(
き
)
て、
496
お
頭様
(
かしらさま
)
此
(
この
)
通
(
とほ
)
りと
言
(
い
)
つて
渡
(
わた
)
して
行
(
ゆ
)
きやがつたのだ。
497
金
(
かね
)
も
随分
(
ずゐぶん
)
沢山
(
たくさん
)
あるだらう』
498
杢助
(
もくすけ
)
『
其
(
その
)
方
(
はう
)
は
巡礼
(
じゆんれい
)
に
見
(
み
)
せかけ、
499
大泥棒
(
おほどろばう
)
を
働
(
はたら
)
く
奴
(
やつ
)
だ。
500
コレヤ
此
(
こ
)
の
風呂敷
(
ふろしき
)
は
現在
(
げんざい
)
杢助
(
もくすけ
)
の
所持品
(
しよぢひん
)
だ。
501
これを
見
(
み
)
よ。
502
杢
(
もく
)
の
印
(
しるし
)
が
付
(
つ
)
いて
居
(
ゐ
)
る。
503
此間
(
こなひだ
)
の
晩
(
ばん
)
に、
504
五六
(
ごろく
)
人
(
にん
)
抜刀
(
ぬきみ
)
で
躍
(
をど
)
り
込
(
こ
)
んで、
505
俺
(
おれ
)
の
留守
(
るす
)
を
幸
(
さいはひ
)
に、
506
包
(
つつ
)
みを
持
(
も
)
つて
帰
(
かへ
)
つた
小盗人
(
こぬすと
)
がある。
507
女房
(
にようばう
)
は
何時
(
いつ
)
もならば
木端
(
こつぱ
)
盗人
(
ぬすと
)
の
三十
(
さんじふ
)
や
五十
(
ごじふ
)
、
508
束
(
たば
)
になつて
来
(
き
)
た
所
(
ところ
)
が
感応
(
こた
)
へぬのだが、
509
何分
(
なにぶん
)
労咳
(
らうがい
)
で
骨
(
ほね
)
と
皮
(
かは
)
とになつて
居
(
ゐ
)
た
所
(
ところ
)
だから、
510
ミスミス
盗
(
と
)
られて
了
(
しま
)
つたのだ。
511
さうすると
貴様
(
きさま
)
はヤツパリ
泥棒
(
どろばう
)
の
親分
(
おやぶん
)
だな。
512
サア
斯
(
か
)
く
現
(
あら
)
はれし
上
(
うへ
)
は
百年目
(
ひやくねんめ
)
、
513
此
(
この
)
杢助
(
もくすけ
)
が
片
(
かた
)
つ
端
(
ぱし
)
から
素首
(
そつくび
)
を
引抜
(
ひきぬ
)
いてやらう。
514
……
何
(
いづ
)
れも
皆
(
みな
)
覚悟
(
かくご
)
せい』
515
と
鉞
(
まさかり
)
を
揮
(
ふる
)
つて
勢
(
いきほひ
)
鋭
(
するど
)
く
進
(
すす
)
んで
来
(
く
)
る。
516
玉治別
(
たまはるわけ
)
『
待
(
ま
)
つた
待
(
ま
)
つた。
517
嘘
(
うそ
)
だ
嘘
(
うそ
)
だ。
518
夜前
(
やぜん
)
泥棒
(
どろばう
)
が
俺
(
おれ
)
に
渡
(
わた
)
したのだよ。
519
俺
(
おれ
)
や
決
(
けつ
)
して
泥棒
(
どろばう
)
でも
何
(
なん
)
でもない。
520
マア
待
(
ま
)
て
待
(
ま
)
て……』
521
杢助
(
もくすけ
)
『
泥棒
(
どろばう
)
が
泥棒
(
どろばう
)
でない
者
(
もの
)
に
金
(
かね
)
を
渡
(
わた
)
すと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
があるかい。
522
貴様
(
きさま
)
もヤツパリ
泥棒
(
どろばう
)
の
張本人
(
ちやうほんにん
)
だ。
523
サア
量見
(
りやうけん
)
致
(
いた
)
さぬ』
524
と
今
(
いま
)
や
頭上
(
づじやう
)
より
玉治別
(
たまはるわけ
)
を
梨割
(
なしわり
)
にせむとする
此
(
この
)
刹那
(
せつな
)
『
一
(
ひと
)
二
(
ふた
)
三
(
み
)
四
(
よ
)
……』の
天
(
あま
)
の
数歌
(
かずうた
)
を
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
称
(
とな
)
へ
始
(
はじ
)
めた。
525
玉治別
(
たまはるわけ
)
の
手
(
て
)
を
組
(
く
)
んだ
食指
(
ひとさしゆび
)
の
尖端
(
せんたん
)
より
五色
(
ごしき
)
の
霊光
(
れいくわう
)
放射
(
はうしや
)
し、
526
杢助
(
もくすけ
)
は
身体
(
しんたい
)
強直
(
きやうちよく
)
して
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
忽
(
たちま
)
ち
銅像
(
どうざう
)
の
様
(
やう
)
になつて
了
(
しま
)
つた。
527
玉治別
(
たまはるわけ
)
『ハヽヽヽヽ』
528
竜国別
(
たつくにわけ
)
『オイ
玉公
(
たまこう
)
、
529
我々
(
われわれ
)
に
離
(
はな
)
れて
何処
(
どこ
)
へ
行
(
い
)
つたかと
思
(
おも
)
へば、
530
泥棒
(
どろばう
)
をやつて
居
(
ゐ
)
たのだな。
531
モウ
今日
(
けふ
)
限
(
かぎ
)
り
貴様
(
きさま
)
と
縁
(
えん
)
を
絶
(
き
)
るから、
532
さう
思
(
おも
)
へ』
533
国依別
(
くによりわけ
)
『オイお
前
(
まへ
)
は
何
(
なん
)
とした
卑
(
さも
)
しい
根性
(
こんじやう
)
になつたのだ。
534
俺
(
おれ
)
はモウ
合
(
あ
)
はす
顔
(
かほ
)
が
無
(
な
)
いワイ』
535
と
涙声
(
なみだごゑ
)
になる。
536
玉治別
(
たまはるわけ
)
は
一伍
(
いちぶ
)
一什
(
しじふ
)
を
詳細
(
しやうさい
)
に
物語
(
ものがた
)
り、
537
漸
(
やうや
)
く
二人
(
ふたり
)
の
疑
(
うたが
)
ひは
氷解
(
ひようかい
)
した。
538
杢助
(
もくすけ
)
は
固
(
かた
)
まつた
儘
(
まま
)
、
539
此
(
この
)
実地
(
じつち
)
を
目撃
(
もくげき
)
して、
540
玉治別
(
たまはるわけ
)
の
無実
(
むじつ
)
を
悟
(
さと
)
つた。
541
玉治別
(
たまはるわけ
)
は「ウン」と
一声
(
いつせい
)
指頭
(
しとう
)
を
以
(
もつ
)
て
霊縛
(
れいばく
)
を
解
(
と
)
いた。
542
杢助
(
もくすけ
)
は
旧
(
もと
)
の
身体
(
からだ
)
に
復
(
ふく
)
し、
543
杢助
(
もくすけ
)
『お
客
(
きやく
)
さま、
544
失礼
(
しつれい
)
な
事
(
こと
)
を
申上
(
まをしあ
)
げました。
545
どうぞ
御
(
ご
)
勘弁
(
かんべん
)
下
(
くだ
)
さいませ』
546
玉治別
(
たまはるわけ
)
『
分
(
わか
)
つたらそれで
結構
(
けつこう
)
です……
何
(
なに
)
も
言
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
はありませぬ。
547
併
(
しか
)
し
此
(
この
)
包
(
つつ
)
みはあなた
調
(
しら
)
べて
下
(
くだ
)
さい』
548
杢助
(
もくすけ
)
『そんなら
皆様
(
みなさま
)
の
前
(
まへ
)
で
検
(
しら
)
べて
見
(
み
)
ませう』
549
とガンヂガラミに
括
(
くく
)
つた
風呂敷
(
ふろしき
)
包
(
づつみ
)
を
解
(
と
)
き
開
(
ひら
)
いて
見
(
み
)
れば、
550
金色
(
きんしよく
)
燦然
(
さんぜん
)
たる
金銀
(
きんぎん
)
の
小玉
(
こだま
)
ザラザラと
現
(
あら
)
はれて
来
(
き
)
た。
551
さうして
一冊
(
いつさつ
)
の
手帳
(
てちやう
)
が
出
(
で
)
て
来
(
き
)
た。
552
開
(
ひら
)
いて
見
(
み
)
れば、
553
アルプス
教
(
けう
)
の
秘密
(
ひみつ
)
書類
(
しよるゐ
)
である。
554
三
(
さん
)
人
(
にん
)
はこれ
幸
(
さいは
)
ひと
懐中
(
くわいちゆう
)
に
収
(
をさ
)
め、
555
後
(
あと
)
は
杢助
(
もくすけ
)
に
返
(
かへ
)
し、
556
九人
(
くにん
)
連
(
づ
)
れ
此
(
この
)
家
(
や
)
を
発
(
た
)
つて
津田
(
つだ
)
の
湖辺
(
こへん
)
に
向
(
むか
)
つて
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
勢
(
いきほひ
)
よく
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
557
(
大正一一・五・一七
旧四・二一
松村真澄
録)
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