霊界物語.ネット
~出口王仁三郎 大図書館~
設定
|
ヘルプ
ホーム
霊界物語
如意宝珠(第13~24巻)
第21巻(申の巻)
序文
凡例
総説
第1篇 千辛万苦
第1章 高春山
第2章 夢の懸橋
第3章 月休殿
第4章 砂利喰
第5章 言の疵
第2篇 是生滅法
第6章 小杉の森
第7章 誠の宝
第8章 津田の湖
第9章 改悟の酬
第3篇 男女共権
第10章 女権拡張
第11章 鬼娘
第12章 奇の女
第13章 夢の女
第14章 恩愛の涙
第4篇 反復無常
第15章 化地蔵
第16章 約束履行
第17章 酒の息
第18章 解決
余白歌
×
設定
この文献を王仁DBで開く
印刷用画面を開く
[?]
プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。
[×閉じる]
話者名の追加表示
[?]
セリフの前に話者名が記していない場合、誰がしゃべっているセリフなのか分からなくなってしまう場合があります。底本にはありませんが、話者名を追加して表示します。
[×閉じる]
追加表示する
追加表示しない
【標準】
表示できる章
テキストのタイプ
[?]
ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。
[×閉じる]
通常のテキスト
【標準】
コピー用のテキスト
文字サイズ
S
【標準】
M
L
ルビの表示
通常表示
【標準】
括弧の中に表示
表示しない
アンカーの表示
[?]
本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。
[×閉じる]
左側だけに表示する
【標準】
表示しない
全てのアンカーを表示
宣伝歌
[?]
宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。
[×閉じる]
一段組
【標準】
二段組
脚注[※]用語解説
[?]
[※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。
[×閉じる]
脚注マークを表示する
【標準】
脚注マークを表示しない
脚注[*]編集用
[?]
[※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。
[×閉じる]
脚注マークを表示する
脚注マークを表示しない
【標準】
外字の外周色
[?]
一般のフォントに存在しない文字は専用の外字フォントを使用しています。目立つようにその文字の外周の色を変えます。
[×閉じる]
無色
【標準】
赤色
現在のページには外字は使われていません
表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。
【新着情報】
サイトをリニューアルしました。不具合がある場合は
従来バージョン
をお使い下さい|
サブスク
のお知らせ
霊界物語
>
如意宝珠(第13~24巻)
>
第21巻(申の巻)
> 第2篇 是生滅法 > 第6章 小杉の森
<<< 言の疵
(B)
(N)
誠の宝 >>>
第六章
小杉
(
こすぎ
)
の
森
(
もり
)
〔六八〇〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第21巻 如意宝珠 申の巻
篇:
第2篇 是生滅法
よみ(新仮名遣い):
ぜしょうめっぽう
章:
第6章 小杉の森
よみ(新仮名遣い):
こすぎのもり
通し章番号:
680
口述日:
1922(大正11)年05月19日(旧04月23日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年4月5日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
[×閉じる]
:
玉治別の導きでいったんは改心した六人の小盗人たちは、杢助の家で金銀を見てから、また元の泥棒に逆戻りし、津田の湖で宣伝使を亡き者にして金目のものを奪おうと画策していた。
三州、甲州、雲州の三人は、突然仲間割れに見せかけて遠州、駿州、武州のすねを打ち、宣伝使たちを罵って、泥棒に戻るのだと言って出て行ってしまう。
これは芝居で、すねを打たれた三人が津田の湖を舟で渡ろうと宣伝使に持ちかけ、船上で宣伝使をやっつけてしまおうという計略であった。
一方で三州、甲州、雲州の脱退組は、前夜に杢助の女房の通夜を手伝った縁で杢助を油断させて、金銀を奪い取ろうとしていた。三人は滑稽な予行演習を行った上、杢助の館へと自信なさげに震えながら進んで行った。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-05-08 14:46:56
OBC :
rm2106
愛善世界社版:
117頁
八幡書店版:
第4輯 307頁
修補版:
校定版:
121頁
普及版:
53頁
初版:
ページ備考:
001
高春山
(
たかはるやま
)
の
岩窟
(
がんくつ
)
に
002
巣
(
す
)
を
構
(
かま
)
へたる
曲神
(
まがかみ
)
の
003
鷹依姫
(
たかよりひめ
)
を
言向
(
ことむ
)
けて
004
誠
(
まこと
)
の
神
(
かみ
)
の
御教
(
みをしへ
)
に
005
靡
(
なび
)
かせ
見
(
み
)
むと
三五
(
あななひ
)
の
006
道
(
みち
)
の
教
(
をしへ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
007
鼻
(
はな
)
も
高姫
(
たかひめ
)
黒姫
(
くろひめ
)
が
008
天
(
あま
)
の
岩樟船
(
いはくすぶね
)
に
乗
(
の
)
り
009
意気
(
いき
)
昇天
(
しようてん
)
の
勢
(
いきほひ
)
で
010
高天原
(
たかあまはら
)
を
後
(
あと
)
にして
011
天空
(
てんくう
)
高
(
たか
)
く
飛
(
と
)
んで
行
(
ゆ
)
く
012
三月
(
みつき
)
経
(
た
)
ちたる
冬
(
ふゆ
)
の
空
(
そら
)
013
何
(
なん
)
の
便
(
たよ
)
りも
無
(
な
)
き
儘
(
まま
)
に
014
言依別
(
ことよりわけ
)
の
神司
(
かむづかさ
)
015
竜国別
(
たつくにわけ
)
や
国依別
(
くによりわけ
)
016
玉治別
(
たまはるわけ
)
の
三柱
(
みはしら
)
に
017
密
(
ひそ
)
かに
旨
(
むね
)
を
含
(
ふく
)
ませつ
018
高春山
(
たかはるやま
)
に
向
(
むか
)
はしむ
019
ここに
三人
(
みたり
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
020
草鞋
(
わらぢ
)
脚袢
(
きやはん
)
に
蓑笠
(
みのかさ
)
や
021
軽
(
かる
)
き
姿
(
すがた
)
の
扮装
(
いでたち
)
に
022
万代
(
よろづよ
)
寿
(
ことほ
)
ぐ
亀山
(
かめやま
)
の
023
梅照彦
(
うめてるひこ
)
が
神館
(
かむやかた
)
024
一夜
(
いちや
)
を
明
(
あ
)
かし
高熊
(
たかくま
)
の
025
稜威
(
いづ
)
の
岩窟
(
いはや
)
に
参拝
(
さんぱい
)
し
026
神
(
かみ
)
の
御言
(
みこと
)
を
拝聴
(
はいちやう
)
し
027
来勿止
(
くなどめ
)
神
(
がみ
)
に
送
(
おく
)
られて
028
善悪
(
ぜんあく
)
正邪
(
せいじや
)
の
大峠
(
おほたうげ
)
029
越
(
こ
)
えて
漸
(
やうや
)
う
法貴谷
(
ほふきだに
)
030
戸隠岩
(
とがくしいは
)
の
傍
(
かたはら
)
に
031
登
(
のぼ
)
りて
見
(
み
)
ればこは
如何
(
いか
)
に
032
行手
(
ゆくて
)
に
当
(
あた
)
りて
四五
(
しご
)
人
(
にん
)
の
033
怪
(
あや
)
しき
影
(
かげ
)
は
山賊
(
さんぞく
)
の
034
群
(
むれ
)
と
玉治別
(
たまはるわけ
)
司
(
つかさ
)
035
俄
(
にはか
)
に
変
(
かは
)
る
三国岳
(
みくにだけ
)
036
蜈蚣
(
むかで
)
の
姫
(
ひめ
)
の
片腕
(
かたうで
)
と
037
早速
(
さそく
)
の
頓智
(
とんち
)
に
山賊
(
さんぞく
)
は
038
一
(
いち
)
時
(
じ
)
は
兜
(
かぶと
)
を
脱
(
ぬ
)
ぎたれど
039
元来
(
ぐわんらい
)
ねぢけた
曲霊
(
まがみたま
)
040
湯谷
(
ゆや
)
が
峠
(
たうげ
)
の
谷底
(
たにそこ
)
の
041
木挽
(
こびき
)
小屋
(
ごや
)
なる
杢助
(
もくすけ
)
が
042
家
(
いへ
)
に
立寄
(
たちよ
)
り
金銀
(
きんぎん
)
の
043
包
(
つつ
)
みの
光
(
ひかり
)
に
目
(
め
)
が
眩
(
くら
)
み
044
又
(
また
)
もや
元
(
もと
)
の
曲津
(
まがつ
)
神
(
かみ
)
045
心
(
こころ
)
の
鬼
(
おに
)
に
遮
(
さへぎ
)
られ
046
悪魔
(
あくま
)
の
道
(
みち
)
に
逆転
(
ぎやくてん
)
し
047
心
(
こころ
)
秘
(
ひそ
)
かに
六
(
ろく
)
人
(
にん
)
は
048
目
(
め
)
と
目
(
め
)
を
互
(
たがひ
)
に
見合
(
みあは
)
せつ
049
竜国別
(
たつくにわけ
)
に
従
(
したが
)
ひて
050
津田
(
つだ
)
の
湖水
(
こすゐ
)
の
畔
(
ほとり
)
まで
051
素知
(
そし
)
らぬ
顔
(
かほ
)
を
装
(
よそほ
)
ひつ
052
三人
(
みたり
)
の
司
(
つかさ
)
と
諸共
(
もろとも
)
に
053
やうやう
湖辺
(
こへん
)
に
着
(
つ
)
きにける。
054
三州
(
さんしう
)
『モシ
玉治別
(
たまはるわけ
)
さま、
055
あなたは
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
と
云
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
るが、
056
実際
(
じつさい
)
は
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
の
乾児
(
こぶん
)
の
玉公
(
たまこう
)
に
間違
(
まちが
)
ひはあるめい』
057
玉治別
(
たまはるわけ
)
『
馬鹿
(
ばか
)
を
言
(
い
)
つては
困
(
こま
)
るよ。
058
汝
(
きさま
)
はどうして、
059
俺
(
おれ
)
がそんな
悪神
(
あくがみ
)
に
見
(
み
)
えるのだ』
060
三州
(
さんしう
)
『
論
(
ろん
)
より
証拠
(
しようこ
)
、
061
泥棒
(
どろばう
)
の
乾児
(
こぶん
)
を
使
(
つか
)
つて、
062
杢助
(
もくすけ
)
の
宅
(
うち
)
へ
忍
(
しの
)
び
入
(
い
)
らせ、
063
沢山
(
たくさん
)
の
金銀
(
きんぎん
)
を
強奪
(
がうだつ
)
しお
前
(
まへ
)
は
赤児岩
(
あかごいは
)
に
待伏
(
まちぶ
)
せして、
064
乾児
(
こぶん
)
から
受取
(
うけと
)
つたのだらう。
065
直接
(
ちよくせつ
)
に
盗
(
と
)
らないと
言
(
い
)
つてもやはり
人
(
ひと
)
を
使
(
つか
)
つて
盗
(
ぬす
)
ませたのだから、
066
要
(
えう
)
するに
今回
(
こんくわい
)
の
強盗
(
がうたう
)
事件
(
じけん
)
の
張本人
(
ちやうほんにん
)
だよ』
067
玉治別
(
たまはるわけ
)
『
汝
(
きさま
)
は
今
(
いま
)
になつて、
068
まだそんな
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
ふのか。
069
俺
(
おれ
)
の
無実
(
むじつ
)
は
既
(
すで
)
に
杢助
(
もくすけ
)
始
(
はじ
)
め、
070
大勢
(
おほぜい
)
の
者
(
もの
)
が
氷解
(
ひようかい
)
してゐるぢやないか』
071
三州
(
さんしう
)
『それでも
戸隠岩
(
とがくしいは
)
の
麓
(
ふもと
)
で、
072
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
の
片腕
(
かたうで
)
だと
自白
(
じはく
)
したぢやないか。
073
ナア
甲州
(
かふしう
)
、
074
雲州
(
うんしう
)
汝
(
きさま
)
が
証拠人
(
しようこにん
)
だ』
075
甲州
(
かふしう
)
『そらそうだ。
076
蛙
(
かはづ
)
は
口
(
くち
)
から、
077
吾
(
わ
)
れと
吾
(
わが
)
手
(
て
)
に
白状
(
はくじやう
)
すると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
がある。
078
……オイ
玉州
(
たましう
)
モウ
駄目
(
だめ
)
だぞ。
079
何
(
なん
)
と
言
(
い
)
つても
自分
(
じぶん
)
の
口
(
くち
)
から
言
(
い
)
つたのだから、
080
竜州
(
たつしう
)
に
国州
(
くにしう
)
、
081
俺
(
おれ
)
の
観察
(
くわんさつ
)
は
誤謬
(
あやまり
)
はあるまい。
082
斯
(
か
)
う
大地
(
だいち
)
に
打
(
うち
)
おろす
此
(
この
)
杖
(
つゑ
)
は
外
(
はづ
)
れても、
083
俺
(
おれ
)
の
言葉
(
ことば
)
は
外
(
はづ
)
れよまいぞよ』
084
玉治別
(
たまはるわけ
)
『アヽこれは
聊
(
いささ
)
か
迷惑
(
めいわく
)
の
至
(
いた
)
りだ。
085
あの
時
(
とき
)
は
汝
(
きさま
)
等
(
ら
)
を
改心
(
かいしん
)
させる
為
(
ため
)
に、
086
三十三
(
さんじふさん
)
相
(
さう
)
の
観
(
くわん
)
自在天
(
じざいてん
)
の
真似
(
まね
)
をして
方便
(
はうべん
)
を
使
(
つか
)
つたのだ。
087
これから
高春山
(
たかはるやま
)
の
曲神
(
まがかみ
)
の
征伐
(
せいばつ
)
に
向
(
むか
)
ふと
云
(
い
)
ふ
真最中
(
まつさいちう
)
、
088
内訌
(
ないこう
)
を
起
(
おこ
)
しては
味方
(
みかた
)
の
不利益
(
ふりえき
)
だから、
089
そんな
事
(
こと
)
は
後
(
のち
)
に
詳
(
くは
)
しく、
090
合点
(
がてん
)
の
行
(
ゆ
)
く
様
(
やう
)
に
説明
(
せつめい
)
してやらう。
091
今日
(
けふ
)
は
先
(
ま
)
づ
沈黙
(
ちんもく
)
を
守
(
まも
)
るがよい』
092
三州
(
さんしう
)
『
仮
(
かり
)
にも
欺
(
あざむ
)
く
勿
(
なか
)
れと
云
(
い
)
ふ
宣伝使
(
せんでんし
)
が、
093
方便
(
はうべん
)
を
使
(
つか
)
つたり、
094
嘘
(
うそ
)
を
言
(
い
)
つて
良
(
い
)
いものか。
095
嘘
(
うそ
)
から
出
(
で
)
た
真
(
まこと
)
でなくて、
096
真
(
まこと
)
から
出
(
で
)
た
嘘
(
うそ
)
を
云
(
い
)
ふお
前
(
まへ
)
は
大泥棒
(
おほどろばう
)
だ』
097
遠州
(
ゑんしう
)
『コラ
三州
(
さんしう
)
の
野郎
(
やらう
)
、
098
尊
(
たふと
)
き
宣伝使
(
せんでんし
)
に
向
(
むか
)
つて、
099
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
雑言
(
ざふごん
)
無礼
(
ぶれい
)
を
吐
(
ほざ
)
くのだ。
100
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
吐
(
ぬか
)
すと
此
(
この
)
遠州
(
ゑんしう
)
が
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
さぬぞ』
101
三州
(
さんしう
)
『
今迄
(
いままで
)
は
遠州
(
ゑんしう
)
の
哥兄
(
あにい
)
と
尊敬
(
そんけい
)
して
来
(
き
)
たが、
102
汝
(
きさま
)
の
様
(
やう
)
な
泥棒心
(
どろばうごころ
)
の
俄
(
にはか
)
に
消滅
(
せうめつ
)
する
様
(
やう
)
な、
103
腰抜
(
こしぬけ
)
は
今日
(
こんにち
)
限
(
かぎ
)
り
俺
(
おれ
)
の
方
(
はう
)
から
縁
(
えん
)
を
絶
(
き
)
つてやらう。
104
泥棒
(
どろばう
)
ならば
徹底
(
てつてい
)
的
(
てき
)
になぜ
泥棒
(
どろばう
)
で
通
(
とほ
)
さぬのだ、
105
又
(
また
)
改心
(
かいしん
)
するならば、
106
本当
(
ほんたう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
に
従
(
したが
)
つて
誠
(
まこと
)
の
道
(
みち
)
へ
這入
(
はい
)
るのなれば、
107
俺
(
おれ
)
だとてチツトも
不服
(
ふふく
)
は
称
(
とな
)
へないが、
108
此
(
この
)
玉
(
たま
)
に
竜
(
たつ
)
、
109
国
(
くに
)
と
云
(
い
)
ふ
代物
(
しろもの
)
は、
110
どこまでもヅウヅウしく
宣伝使
(
せんでんし
)
だなぞと、
111
仮面
(
かめん
)
を
被
(
かぶ
)
つて
居
(
ゐ
)
やがるからムカツクのだよ』
112
遠州
(
ゑんしう
)
『オイ
駿州
(
すんしう
)
、
113
武州
(
ぶしう
)
、
114
汝
(
きさま
)
はどう
思
(
おも
)
ふ?
俺
(
おれ
)
はどうしても
立派
(
りつぱ
)
な
宣伝使
(
せんでんし
)
と
観測
(
くわんそく
)
して
居
(
ゐ
)
るのだ』
115
駿州
(
すんしう
)
『
俺
(
おれ
)
もそうだ』
116
武州
(
ぶしう
)
『
定
(
きま
)
つた
事
(
こと
)
だ。
117
グヅグヅ
吐
(
ぬか
)
すと、
118
三
(
さん
)
甲
(
かふ
)
雲
(
うん
)
の
木端
(
こつぱ
)
盗人
(
ぬすと
)
、
119
雁首
(
がんくび
)
を
引抜
(
ひきぬ
)
いてやらうか』
120
三州
『ナニ
猪口才
(
ちよこざい
)
な』
121
と
三州
(
さんしう
)
は
俄作
(
にはかづく
)
りの
有合
(
ありあは
)
せの
杖
(
つゑ
)
を
以
(
もつ
)
て、
122
武州
(
ぶしう
)
の
向脛
(
むかふづね
)
を
擲
(
なぐ
)
りつけた。
123
武州
(
ぶしう
)
は『アイタヽ』と
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
顔
(
かほ
)
を
顰
(
しか
)
めて
倒
(
たふ
)
れた。
124
続
(
つづ
)
いて
甲州
(
かふしう
)
、
125
雲州
(
うんしう
)
の
二人
(
ふたり
)
、
126
遠州
(
ゑんしう
)
、
127
駿州
(
すんしう
)
を
目蒐
(
めが
)
け、
128
向脛
(
むかうづね
)
を
厭
(
いや
)
と
云
(
い
)
ふ
程
(
ほど
)
擲
(
なぐ
)
りつける。
129
脆
(
もろ
)
くも
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
踞
(
しやが
)
んで
顔
(
かほ
)
を
顰
(
しか
)
め、
130
笑
(
わら
)
つたり、
131
泣
(
な
)
いたり、
132
怒
(
おこ
)
つたりして
居
(
ゐ
)
る。
133
遠州
(
ゑんしう
)
『
蟻
(
あり
)
も
這
(
は
)
はすなと
云
(
い
)
ふ
大切
(
だいじ
)
な
向脛
(
むかうづね
)
を
叩
(
たた
)
きやがつて、
134
……
覚
(
おぼ
)
えて
居
(
を
)
れ』
135
三州
(
さんしう
)
『
杢助爺
(
もくすけおやぢ
)
ぢやないが、
136
肝腎
(
かんじん
)
のおアシをとられて
苦
(
くる
)
しからう。
137
おアシの
沢山
(
たくさん
)
な
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
さまの
乾児
(
こぶん
)
共
(
ども
)
に
修繕
(
しうぜん
)
して
貰
(
もら
)
へ。
138
俺
(
おれ
)
は
最早
(
もはや
)
汝
(
きさま
)
等
(
ら
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
とは
縁絶
(
えんぎ
)
れだ。
139
勿論
(
もちろん
)
玉
(
たま
)
、
140
竜
(
たつ
)
、
141
国
(
くに
)
の
奴盗人
(
どぬすと
)
とも
同様
(
どうやう
)
だ。
142
こんな
所
(
ところ
)
に
居
(
を
)
るのは
胸
(
むね
)
が
悪
(
わる
)
い。
143
これから
先
(
さき
)
は
善
(
ぜん
)
になるか
悪
(
あく
)
になるか、
144
我々
(
われわれ
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
都合
(
つがふ
)
にする。
145
汝
(
きさま
)
等
(
ら
)
は
鷹依姫
(
たかよりひめ
)
に
散々
(
さんざん
)
脂
(
あぶら
)
を
搾
(
しぼ
)
られ、
146
高姫
(
たかひめ
)
、
147
黒姫
(
くろひめ
)
の
様
(
やう
)
に
岩窟
(
いはや
)
の
中
(
なか
)
へ
閉
(
と
)
ぢ
込
(
こ
)
められて、
148
木乃伊
(
みいら
)
になるのが
性
(
しやう
)
に
合
(
あ
)
うて
居
(
ゐ
)
るワ……アバヨ』
149
と
歯
(
は
)
を
剥
(
む
)
き
出
(
だ
)
し、
150
腮
(
あご
)
をしやくり、
151
尻
(
しり
)
を
叩
(
たた
)
いて、
152
あらゆる
嘲笑
(
てうせう
)
を
加
(
くは
)
へ、
153
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
棄
(
す
)
て、
154
湯谷
(
ゆや
)
ケ
岳
(
だけ
)
の
方面
(
はうめん
)
指
(
さ
)
して
駆
(
か
)
けて
行
(
ゆ
)
く。
155
三州
(
さんしう
)
、
156
甲州
(
かふしう
)
、
157
雲州
(
うんしう
)
の
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
津田
(
つだ
)
の
湖辺
(
こへん
)
を
後
(
あと
)
に、
158
湯谷
(
ゆや
)
ケ
岳
(
だけ
)
の
山麓
(
さんろく
)
に
着
(
つ
)
いた。
159
此処
(
ここ
)
には
少彦名
(
すくなひこなの
)
神
(
かみ
)
を
祀
(
まつ
)
りたる
形
(
かたち
)
ばかりの
小
(
ちひ
)
さき
祠
(
ほこら
)
がある。
160
樫
(
かし
)
の
大木
(
たいぼく
)
は
半
(
なか
)
ば
枯
(
か
)
れながら、
161
皮
(
かは
)
ばかりになつて、
162
若
(
わか
)
き
枝
(
えだ
)
より
稠密
(
ちうみつ
)
な
葉
(
は
)
を
出
(
だ
)
し、
163
空
(
そら
)
を
封
(
ふう
)
じて
居
(
ゐ
)
る。
164
猿
(
ましら
)
の
声
(
こゑ
)
はキヤツキヤツと
祠
(
ほこら
)
の
背後
(
はいご
)
の
木
(
き
)
の
茂
(
しげ
)
みに
聞
(
きこ
)
えて
居
(
ゐ
)
る。
165
三州
(
さんしう
)
『オイ、
166
ここまで
漸
(
やうや
)
く
来
(
く
)
るは
来
(
き
)
たが、
167
玉治別
(
たまはるわけ
)
以下
(
いか
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
はどうだらう。
168
我々
(
われわれ
)
を
此
(
この
)
儘
(
まま
)
にして
放任
(
はうにん
)
して
置
(
お
)
くだらうかな。
169
彼奴
(
あいつ
)
は
馬鹿
(
ばか
)
正直者
(
しやうぢきもの
)
だから、
170
「
折角
(
せつかく
)
神
(
かみ
)
の
綱
(
つな
)
の
懸
(
かか
)
つた
三
(
さん
)
人
(
にん
)
、
171
再
(
ふたた
)
び
邪道
(
じやだう
)
へ
逆転
(
ぎやくてん
)
させては、
172
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
に
申訳
(
まをしわけ
)
がない」とかなんとか
云
(
い
)
つて、
173
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
後
(
あと
)
を
追
(
お
)
つかけて
来
(
き
)
はせまいかと、
174
そればつかりが
気
(
き
)
にかかるよ』
175
甲州
(
かふしう
)
『
向
(
むか
)
うにも
現
(
げん
)
に
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
足
(
あし
)
を
折
(
を
)
られた
連中
(
れんちう
)
が
居
(
を
)
るのだから、
176
去
(
さ
)
る
者
(
もの
)
は
追
(
お
)
はず、
177
来
(
きた
)
る
者
(
もの
)
は
拒
(
こば
)
まずとか、
178
何
(
なん
)
とか
御
(
ご
)
都合
(
つがふ
)
の
好
(
よ
)
い
理屈
(
りくつ
)
を
付
(
つ
)
けて、
179
此
(
この
)
アタ
辛
(
つら
)
い
山坂
(
やまさか
)
を、
180
行方
(
ゆくへ
)
も
知
(
し
)
れぬ
我々
(
われわれ
)
の
後
(
あと
)
を
追
(
お
)
つかけて
来
(
き
)
さうな
筈
(
はず
)
がない。
181
マア
安心
(
あんしん
)
したが
宜
(
よ
)
からうぞ』
182
雲州
(
うんしう
)
『そんな
心配
(
しんぱい
)
は
要
(
い
)
らないよ。
183
三
(
さん
)
人
(
にん
)
残
(
のこ
)
してあるのだから、
184
三
(
さん
)
人
(
にん
)
が
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
足
(
あし
)
にでも
喰
(
くら
)
ひ
付
(
つ
)
いて、
185
何
(
なん
)
とか
此方
(
こちら
)
へ
来
(
こ
)
ない
様
(
やう
)
に
工夫
(
くふう
)
をするだらう。
186
そんな
取越
(
とりこし
)
苦労
(
くらう
)
は
止
(
や
)
めたが
良
(
よ
)
いワイ。
187
彼奴
(
あいつ
)
等
(
ら
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
足
(
あし
)
が
痛
(
いた
)
いと
云
(
い
)
つて、
188
キツと
津田
(
つだ
)
の
湖
(
うみ
)
を、
189
玉治別
(
たまはるわけ
)
と
一緒
(
いつしよ
)
に
船
(
ふね
)
に
乗
(
の
)
つて
高春山
(
たかはるやま
)
の
山麓
(
さんろく
)
に
渡
(
わた
)
る
手段
(
しゆだん
)
をとり、
190
湖水
(
こすゐ
)
のまん
中
(
なか
)
程
(
ほど
)
で、
191
俄
(
にはか
)
に
足痛
(
あしいた
)
が
癒
(
なほ
)
り、
192
彼奴
(
あいつ
)
の
懐
(
ふところ
)
の
秘密
(
ひみつ
)
書類
(
しよるゐ
)
を
取
(
と
)
り
返
(
かへ
)
し、
193
ウマク
目的
(
もくてき
)
を
達
(
たつ
)
するに
定
(
き
)
まつて
居
(
を
)
る。
194
それよりも
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
は
軍用金
(
ぐんようきん
)
の
調達
(
てうたつ
)
が
肝腎
(
かんじん
)
だから、
195
自分
(
じぶん
)
の……これから
作戦
(
さくせん
)
計画
(
けいくわく
)
を
進
(
すす
)
める
事
(
こと
)
にしようぢやないか』
196
三州
(
さんしう
)
『
何
(
なに
)
を
言
(
い
)
つても、
197
百人力
(
ひやくにんりき
)
と
云
(
い
)
ふ
豪傑
(
がうけつ
)
の
杢助
(
もくすけ
)
だから、
198
到底
(
たうてい
)
正面
(
しやうめん
)
攻撃
(
こうげき
)
では
目的
(
もくてき
)
を
達
(
たつ
)
する
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ない。
199
幸
(
さいは
)
ひに
女房
(
にようばう
)
の
葬式
(
さうしき
)
の
手伝
(
てつだ
)
ひや、
200
穴掘
(
あなほり
)
までしてやつたのだから、
201
先方
(
むかふ
)
は
気
(
き
)
を
許
(
ゆる
)
して
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
を
歓迎
(
くわんげい
)
するにきまつて
居
(
ゐ
)
る。
202
さうしてまだ
女房
(
にようばう
)
の
一七日
(
ひとなぬか
)
は
経
(
た
)
たないのだから、
203
彼奴
(
あいつ
)
も
菩提心
(
ぼだいしん
)
を
出
(
だ
)
して、
204
手荒
(
てあら
)
い
事
(
こと
)
はせないに
定
(
きま
)
つて
居
(
ゐ
)
るよ』
205
甲州
(
かふしう
)
『
併
(
しか
)
し
高春山
(
たかはるやま
)
に
行
(
ゆ
)
くと
云
(
い
)
つて
出
(
で
)
たのだから、
206
今更
(
いまさら
)
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つて、
207
杢助
(
もくすけ
)
をチヨロ
魔化
(
まくわ
)
さうか、
208
ウツカリ
拙劣
(
へた
)
な
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふと、
209
計略
(
けいりやく
)
の
裏
(
うら
)
をかかれて、
210
取返
(
とりかへ
)
しのならぬ
大失敗
(
だいしつぱい
)
に
陥
(
おちい
)
るかも
知
(
し
)
れない。
211
爰
(
ここ
)
は
余程
(
よほど
)
智慧
(
ちゑ
)
袋
(
ぶくろ
)
を
圧搾
(
あつさく
)
して、
212
違算
(
ゐさん
)
なき
様
(
やう
)
に
仕組
(
しぐ
)
んでいかねばなるまい。
213
一
(
ひと
)
つ
此処
(
ここ
)
で
練習
(
れんしふ
)
をやつて
行
(
ゆ
)
かうではないか』
214
三州
(
さんしう
)
『オヽそれが
宜
(
よ
)
からう』
215
甲州
(
かふしう
)
『
三州
(
さんしう
)
、
216
お
前
(
まへ
)
は
杢助
(
もくすけ
)
になるのだ。
217
さうして
俺
(
おれ
)
と
雲州
(
うんしう
)
がウマク
化
(
ば
)
け
込
(
こ
)
んで
這入
(
はい
)
るのだ。
218
其
(
その
)
時
(
とき
)
の
問答
(
もんだふ
)
を、
219
今
(
いま
)
から
研究
(
けんきう
)
して
置
(
お
)
かねばならぬからのう』
220
三州
(
さんしう
)
『
杢助
(
もくすけ
)
の
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
が
分
(
わか
)
らぬぢやないか。
221
それから
観測
(
くわんそく
)
せぬ
事
(
こと
)
には
此
(
この
)
練習
(
れんしふ
)
も
駄目
(
だめ
)
だぞ。
222
……
雲州
(
うんしう
)
、
223
汝
(
きさま
)
が
一層
(
いつそ
)
の
事
(
こと
)
、
224
杢助
(
もくすけ
)
になつたらどうだ。
225
体
(
からだ
)
も
大
(
おほ
)
きいなり、
226
どこともなしにスタイルが
似
(
に
)
て
居
(
を
)
るからなア』
227
雲州
(
うんしう
)
『
俺
(
おれ
)
も
俄
(
にはか
)
に
百人力
(
ひやくにんりき
)
の
勇士
(
ゆうし
)
になつたのかな。
228
ヨシヨシ
芝居
(
しばゐ
)
をするにも、
229
憎
(
にく
)
まれ
役
(
やく
)
は
引合
(
ひきあ
)
はぬ。
230
汝
(
きさま
)
は
小盗人
(
こぬすと
)
役
(
やく
)
、
231
此
(
この
)
雲州
(
うんしう
)
が
杢助
(
もくすけ
)
だ。
232
サア
何
(
なん
)
なとウマく
瞞
(
だま
)
して
来
(
こ
)
い……
雲州
(
うんしう
)
否
(
いな
)
杢助
(
もくすけ
)
は
智勇
(
ちゆう
)
兼備
(
けんび
)
の
豪傑
(
がうけつ
)
だから、
233
借
(
か
)
つて
来
(
き
)
た
智慧
(
ちゑ
)
や、
234
一夜作
(
いちやづく
)
りの
考
(
かんが
)
へではチヨロ
魔化
(
まくわ
)
す
事
(
こと
)
は
到底
(
たうてい
)
駄目
(
だめ
)
だぞ。
235
此
(
この
)
祠
(
ほこら
)
を
杢助
(
もくすけ
)
の
館
(
やかた
)
と
仮定
(
かてい
)
して、
236
貴様
(
きさま
)
等
(
ら
)
両人
(
りやうにん
)
が
金銀
(
きんぎん
)
の
小玉
(
こだま
)
を、
237
ウマく
手
(
て
)
に
入
(
い
)
れるべく
言葉
(
ことば
)
を
尽
(
つく
)
して
来
(
く
)
るのだよ』
238
三州
(
さんしう
)
『
定
(
きま
)
つた
事
(
こと
)
だ。
239
シツカリして
肝腎
(
かんじん
)
の
宝
(
たから
)
を、
240
……
杢助
(
もくすけ
)
……どうして
俺
(
おれ
)
が
盗
(
と
)
るか、
241
妙案
(
めうあん
)
奇策
(
きさく
)
を
出
(
だ
)
して
来
(
く
)
るから、
242
今後
(
こんご
)
の
参考
(
さんかう
)
資料
(
しれう
)
にするがよからう。
243
泥棒学
(
どろばうがく
)
の
及第点
(
きふだいてん
)
を
貰
(
もら
)
ふか、
244
貰
(
もら
)
へぬか、
245
ここが
成功
(
せいこう
)
不成功
(
ふせいこう
)
の
分界線
(
ぶんかいせん
)
だ。
246
サア
甲州
(
かふしう
)
、
247
二三丁
(
にさんちやう
)
出直
(
でなほ
)
して、
248
改
(
あらた
)
めて
杢助館
(
もくすけやかた
)
へ
乗
(
の
)
り
込
(
こ
)
むとしようかい』
249
と
二人
(
ふたり
)
は
此
(
この
)
場
(
ば
)
より
姿
(
すがた
)
を
消
(
け
)
した。
250
雲州
(
うんしう
)
『
暫
(
しばら
)
く
此
(
この
)
祠
(
ほこら
)
を
拝借
(
はいしやく
)
して、
251
杢助館
(
もくすけやかた
)
と
仮定
(
かてい
)
し、
252
泥棒
(
どろばう
)
の
襲来
(
しふらい
)
に
備
(
そな
)
へねばなるまい。
253
併
(
しか
)
し
盗人
(
ぬすと
)
は
何時
(
いつ
)
来
(
く
)
るか
分
(
わか
)
らないから、
254
常
(
つね
)
に
戸締
(
とじま
)
りを
厳重
(
げんぢう
)
にして
置
(
お
)
くのだが、
255
今度
(
こんど
)
の
盗人
(
ぬすと
)
は
予告
(
よこく
)
して
来
(
く
)
るのだから、
256
充分
(
じうぶん
)
の
用意
(
ようい
)
が
出来
(
でき
)
さうなものだが、
257
さて
差当
(
さしあた
)
つて
防禦
(
ばうぎよ
)
の
方法
(
はうはふ
)
が
無
(
な
)
い。
258
本当
(
ほんたう
)
の
杢助
(
もくすけ
)
なれば
小盗人
(
こぬすと
)
の
五十
(
ごじふ
)
や
百
(
ひやく
)
は
手玉
(
てだま
)
に
取
(
と
)
つて
振
(
ふ
)
るのだが、
259
此
(
この
)
杢助
(
もくすけ
)
はそう
云
(
い
)
ふ
訳
(
わけ
)
にも
行
(
ゆ
)
かず、
260
何
(
なん
)
とか
工夫
(
くふう
)
をせねばなるまい……オウさうだ。
261
今
(
いま
)
持
(
も
)
つて
帰
(
かへ
)
ると
云
(
い
)
ふ
所
(
ところ
)
へ、
262
コラツと
大喝
(
だいかつ
)
一声
(
いつせい
)
腰
(
こし
)
を
抜
(
ぬ
)
いてやるに
限
(
かぎ
)
る。
263
玉治別
(
たまはるわけ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
が
何事
(
なにごと
)
も
言霊
(
ことたま
)
で
解決
(
かいけつ
)
がつくと
云
(
い
)
ひよつた。
264
一
(
ひと
)
つ
力
(
ちから
)
一杯
(
いつぱい
)
呶鳴
(
どな
)
つてやらう。
265
併
(
しか
)
し
此処
(
ここ
)
に
金銀
(
きんぎん
)
の
代
(
かは
)
りに
砂利
(
じやり
)
でも
拾
(
ひろ
)
つて、
266
褌
(
ふんどし
)
に
包
(
つつ
)
んで、
267
分
(
わか
)
らぬ
様
(
やう
)
に
置
(
お
)
いとくのだなア』
268
と
真黒
(
まつくろ
)
の
褌
(
ふんどし
)
の
包
(
つつみ
)
を
祠
(
ほこら
)
の
下
(
した
)
にソツと
隠
(
かく
)
した。
269
三州
(
さんしう
)
『オイ
甲州
(
かふしう
)
、
270
本当
(
ほんたう
)
の
杢助
(
もくすけ
)
だないから、
271
盗
(
と
)
るのは
容易
(
ようい
)
だが、
272
併
(
しか
)
しそれでは
本当
(
ほんたう
)
の
練習
(
れんしふ
)
にならぬ。
273
何
(
なん
)
とか
本真者
(
ほんまもの
)
と
見做
(
みな
)
してゆかねば、
274
本場
(
ほんば
)
になつてから
当
(
あて
)
が
外
(
はづ
)
れ、
275
首
(
くび
)
つ
玉
(
たま
)
でも
抜
(
ぬ
)
かれたら
大変
(
たいへん
)
だからのう』
276
甲州
(
かふしう
)
『
到底
(
たうてい
)
強盗
(
がうたう
)
は
駄目
(
だめ
)
だ。
277
マア
住込
(
すみこ
)
み
泥棒
(
どろばう
)
の
方法
(
はうはふ
)
が
安全
(
あんぜん
)
第一
(
だいいち
)
だらう。
278
彼奴
(
あいつ
)
は
嬶
(
かか
)
アに
死
(
し
)
なれて
困
(
こま
)
つて
居
(
を
)
る
所
(
ところ
)
、
279
我々
(
われわれ
)
が
親切
(
しんせつ
)
に
隠坊
(
おんぼ
)
の
役
(
やく
)
まで
勤
(
つと
)
めてやつたのだから、
280
巧妙
(
うま
)
く
行
(
や
)
つたら
杢助
(
もくすけ
)
も
気
(
き
)
を
許
(
ゆる
)
して、
281
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
を
泊
(
と
)
めて
呉
(
く
)
れるに
違
(
ちが
)
ひはない……サア
其
(
その
)
覚悟
(
かくご
)
で
行
(
ゆ
)
くのだよ』
282
「ヨシヨシ」と
三州
(
さんしう
)
は
勢
(
いきほひ
)
込
(
こ
)
んで
行
(
ゆ
)
かうとする。
283
甲州
(
かふしう
)
は
袖
(
そで
)
をグツと
握
(
にぎ
)
り、
284
甲州
(
かふしう
)
『オイオイそんな
戦
(
いくさ
)
に
行
(
い
)
く
様
(
やう
)
な
調子
(
てうし
)
で
行
(
い
)
つては
駄目
(
だめ
)
だ。
285
涙
(
なみだ
)
でもドツサリと
目
(
め
)
に
溜
(
た
)
めて、
286
如何
(
いか
)
にも
同情
(
どうじやう
)
に
堪
(
た
)
へないと
云
(
い
)
ふ
態度
(
たいど
)
を
示
(
しめ
)
して
行
(
ゆ
)
かねば
先方
(
むかふ
)
が
気
(
き
)
を
許
(
ゆる
)
さぬぢやないか』
287
三州
(
さんしう
)
『まだ
一二丁
(
いちにちやう
)
もあるから、
288
ここで
目
(
め
)
に
唾
(
つば
)
をつけても、
289
到着
(
たうちやく
)
までには
風
(
かぜ
)
がスツカリ
拭
(
ふ
)
き
取
(
と
)
つて
了
(
しま
)
ひよる。
290
先方
(
むかう
)
へ
行
(
い
)
つてから、
291
ソツと
唾
(
つば
)
を
付
(
つ
)
けるのだ。
292
忘
(
わす
)
れちや
可
(
い
)
かぬよ』
293
甲州
(
かふしう
)
『
忘
(
わす
)
れるものかい』
294
とコソコソと
足音
(
あしおと
)
を
忍
(
しの
)
ばせ
乍
(
なが
)
ら、
295
甲州
『モシモシ
杢助
(
もくすけ
)
様
(
さま
)
、
296
私
(
わたくし
)
は
此間
(
こなひだ
)
御
(
お
)
宅
(
たく
)
で
御
(
お
)
世話
(
せわ
)
になつたり、
297
あんまり
人
(
ひと
)
の
喜
(
よろこ
)
ばぬ
隠坊
(
おんぼ
)
までさして
戴
(
いただ
)
きました
三州
(
さんしう
)
、
298
甲州
(
かふしう
)
……モ
一人
(
ひとり
)
は
半鐘
(
はんしよう
)
泥棒
(
どろばう
)
の
雲州
(
うんしう
)
で
御座
(
ござ
)
います。
299
併
(
しか
)
し
雲州
(
うんしう
)
は
其
(
その
)
名
(
な
)
の
如
(
ごと
)
く、
300
どつかへウンでもやりに
行
(
い
)
つたと
見
(
み
)
えて
遅
(
おく
)
れましたが、
301
やがて
後
(
あと
)
から
来
(
く
)
るでせう。
302
あんな
奴
(
やつ
)
はどうでも
良
(
い
)
いのだ。
303
折角
(
せつかく
)
盗
(
と
)
つた
宝
(
たから
)
を
分配
(
ぶんぱい
)
するのにも
配当
(
わけまへ
)
が
少
(
すく
)
なくなるから、
304
同
(
おな
)
じ
事
(
こと
)
なら
二人
(
ふたり
)
が
成功
(
せいこう
)
すれば、
305
それの
方
(
はう
)
が
余程
(
よほど
)
結構
(
けつこう
)
だ』
306
三州
(
さんしう
)
『コラコラそんな
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
を
先
(
さき
)
へ
言
(
い
)
つて
了
(
しま
)
ふとスツカリ
落第
(
らくだい
)
だ。
307
不成功
(
ふせいこう
)
疑
(
うたがひ
)
なし。
308
ここは
杢助館
(
もくすけやかた
)
ぢやないか』
309
甲州
(
かふしう
)
『
杢助
(
もくすけ
)
なれば
又
(
また
)
其
(
その
)
考
(
かんが
)
へも
出
(
で
)
るのだが、
310
現在
(
げんざい
)
雲州
(
うんしう
)
が
此処
(
ここ
)
に
居
(
を
)
ると
思
(
おも
)
へば、
311
本気
(
ほんき
)
になつて
泥棒
(
どろばう
)
の
練習
(
れんしふ
)
も
出来
(
でき
)
ぬぢやないか』
312
三州
(
さんしう
)
『
幸
(
さいは
)
ひ、
313
雲州
(
うんしう
)
の
杢助
(
もくすけ
)
がどつかへ
行
(
い
)
つて
居
(
を
)
ると
見
(
み
)
えて、
314
不在
(
るす
)
だから
良
(
い
)
いものの、
315
そんな
事
(
こと
)
が
聞
(
きこ
)
えたら、
316
サツパリ
駄目
(
だめ
)
だぞ』
317
甲州
(
かふしう
)
『さうだと
云
(
い
)
つて、
318
我
(
わが
)
良心
(
りやうしん
)
の
詐
(
いつは
)
らざる
告白
(
こくはく
)
だもの』
319
三州
(
さんしう
)
『
良心
(
りやうしん
)
が
聞
(
き
)
いて
呆
(
あき
)
れるワ。
320
貴様
(
きさま
)
の
両親
(
りやうしん
)
もエライ
放蕩
(
ごくだう
)
の
子
(
こ
)
を
持
(
も
)
つたものぢや……と
云
(
い
)
つて
泣
(
な
)
きの
涙
(
なみだ
)
で
暮
(
くら
)
して
居
(
を
)
るだらう』
321
甲州
(
かふしう
)
『ヤア
其
(
その
)
涙
(
なみだ
)
で
思
(
おも
)
ひ
出
(
だ
)
した。
322
早
(
はや
)
く
唾
(
つばき
)
を
付
(
つ
)
けぬかい』
323
三州
(
さんしう
)
『そんな
大
(
おほ
)
きな
声
(
こゑ
)
で
言
(
い
)
うと、
324
発覚
(
ばれ
)
て
了
(
しま
)
ふぞ。
325
此方
(
こちら
)
は
何程
(
なにほど
)
目
(
め
)
に
唾
(
つばき
)
を
付
(
つ
)
けても、
326
先方
(
むかふ
)
が
音
(
おと
)
に
聞
(
きこ
)
えた
ツバ
者
(
もの
)
だから、
327
グヅグヅしてると、
328
一
(
いち
)
も
取
(
と
)
らず
二
(
に
)
も
取
(
と
)
らず、
329
アフンとせねばなるまいぞ。
330
……モシモシ
杢助
(
もくすけ
)
さま、
331
其
(
その
)
後
(
ご
)
、
332
よう
御
(
お
)
訪
(
たづ
)
ねを
致
(
いた
)
しませなんだが、
333
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
は
宜
(
よろ
)
しいかな、
334
お
嬢
(
ぢやう
)
さまも
御
(
お
)
変
(
かは
)
りはありませぬか』
335
雲州
(
うんしう
)
『
此
(
この
)
真夜中
(
まよなか
)
にお
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
は
何
(
なに
)
しに
来
(
き
)
たのだ。
336
折角
(
せつかく
)
改心
(
かいしん
)
し
乍
(
なが
)
ら、
337
俺
(
おれ
)
の
持
(
も
)
つて
居
(
を
)
る
金銀
(
きんぎん
)
に
眼
(
まなこ
)
が
眩
(
くら
)
んで、
338
魔道
(
まだう
)
へ
逆転
(
ぎやくてん
)
して
来
(
き
)
たのだらう。
339
モウ
良
(
い
)
い
加減
(
かげん
)
に
改心
(
かいしん
)
をしたらどうだ。
340
悪
(
あく
)
をする
程
(
ほど
)
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
に
馬鹿
(
ばか
)
な
奴
(
やつ
)
はありませぬぞ。
341
仮令
(
たとへ
)
人間
(
にんげん
)
は
知
(
し
)
らずとも、
342
天
(
てん
)
知
(
し
)
る
地
(
ち
)
知
(
し
)
る、
343
自分
(
じぶん
)
の
精霊
(
せいれい
)
たる
本
(
ほん
)
守護神
(
しゆごじん
)
も、
344
副
(
ふく
)
守護神
(
しゆごじん
)
も
皆
(
みな
)
知
(
し
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
345
天網
(
てんまう
)
恢々
(
くわいくわい
)
疎
(
そ
)
にして
漏
(
も
)
らさず。
346
良
(
い
)
い
加減
(
かげん
)
に
小盗人
(
こぬすと
)
を
廃
(
や
)
めて、
347
結構
(
けつこう
)
な
無形
(
むけい
)
の
宝
(
たから
)
を
手
(
て
)
に
入
(
い
)
れる
事
(
こと
)
を、
348
何故
(
なぜ
)
心
(
こころ
)
がけぬか。
349
俺
(
おれ
)
は
女房
(
にようばう
)
がなくなつて
非常
(
ひじやう
)
に
無情
(
むじやう
)
を
感
(
かん
)
じて
居
(
を
)
るのだ。
350
白銀
(
しろがね
)
も
黄金
(
こがね
)
も
玉
(
たま
)
も
何
(
なに
)
かせん
女房
(
にようばう
)
にます
宝
(
たから
)
世
(
よ
)
にあらめやも
351
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
肉体
(
にくたい
)
のある
限
(
かぎ
)
り、
352
衣食住
(
いしよくぢう
)
の
必要
(
ひつえう
)
がある。
353
汝
(
きさま
)
に
慈善
(
じぜん
)
的
(
てき
)
に
盗
(
と
)
らしてやりたいのは
山々
(
やまやま
)
であるが、
354
さうウマくは
問屋
(
とひや
)
が
卸
(
おろ
)
さぬ。
355
それよりも
善心
(
ぜんしん
)
に
立帰
(
たちかへ
)
つたらどうだい』
356
三州
(
さんしう
)
『オイ
雲州
(
うんしう
)
、
357
しようも
無
(
な
)
い
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
ひよると、
358
張合
(
はりあひ
)
が
抜
(
ぬ
)
けて
泥棒
(
どろばう
)
が
出来
(
でき
)
ないぢやないか。
359
アーアーもう
廃業
(
はいげふ
)
したくなつた。
360
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
遠州
(
ゑんしう
)
、
361
駿州
(
すんしう
)
、
362
武州
(
ぶしう
)
に
対
(
たい
)
しても、
363
足
(
あし
)
まで
叩
(
たた
)
き
懲
(
こら
)
して
仕組
(
しぐ
)
んだ
狂言
(
きやうげん
)
だから、
364
不成功
(
ふせいこう
)
に
終
(
をは
)
れば
彼奴
(
あいつ
)
等
(
ら
)
に
合
(
あ
)
はす
顔
(
かほ
)
がない。
365
モウちつと
変
(
かは
)
つた
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
つてくれ』
366
雲州
(
うんしう
)
『ヨシ、
367
御
(
ご
)
註文
(
ちうもん
)
通
(
どほ
)
り
変
(
かは
)
つた
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
つてやらう……
其
(
その
)
方
(
はう
)
はアルプス
教
(
けう
)
の
鬼婆
(
おにばば
)
の
乾児
(
こぶん
)
であらうがな。
368
改心
(
かいしん
)
したと
見
(
み
)
せかけ、
369
目
(
め
)
に
唾
(
つばき
)
を
付
(
つ
)
け、
370
俺
(
おれ
)
の
心
(
こころ
)
に
油断
(
ゆだん
)
をさせ、
371
金銀
(
きんぎん
)
の
小玉
(
こだま
)
をウマくシテやらうと
思
(
おも
)
つて
来
(
き
)
たのだらう。
372
そんな
事
(
こと
)
は
俺
(
おれ
)
の
天眼通
(
てんがんつう
)
でチヤンと
前
(
さき
)
に
承知
(
しようち
)
して
居
(
を
)
るのだ。
373
此
(
この
)
閾
(
しきゐ
)
一足
(
ひとあし
)
でも
跨
(
また
)
げるなら
跨
(
また
)
げて
見
(
み
)
よ。
374
百人力
(
ひやくにんりき
)
の
杢助
(
もくすけ
)
だ。
375
手足
(
てあし
)
を
引
(
ひ
)
き
千切
(
ちぎ
)
つて、
376
亡
(
な
)
き
女房
(
にようばう
)
の
御
(
お
)
供
(
そな
)
へにしてやらうか。
377
狐鼠
(
こそ
)
盗人
(
ぬすびと
)
奴
(
め
)
』
378
三州
(
さんしう
)
『オイオイ
雲州
(
うんしう
)
、
379
さう
出
(
で
)
られては
俺
(
おれ
)
の
施
(
ほどこ
)
すべき
手段
(
しゆだん
)
がないぢやないか。
380
女郎屋
(
ぢよらうや
)
の
二階
(
にかい
)
で
孔子
(
こうし
)
の
教
(
をしへ
)
を
説
(
と
)
く
様
(
やう
)
な
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
ひよるものだから、
381
拍子
(
ひやうし
)
が
抜
(
ぬ
)
けたワイ。
382
強
(
つよ
)
く
出
(
で
)
いと
云
(
い
)
へばそんな
縁起
(
えんぎ
)
の
悪
(
わる
)
い
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
ひよつて、
383
どうする
積
(
つも
)
りだ。
384
チツとは
俺
(
おれ
)
の
立場
(
たちば
)
になつて
見
(
み
)
よ』
385
雲州
(
うんしう
)
『サア
勝手
(
かつて
)
に
持
(
も
)
つて
帰
(
かへ
)
れ。
386
貴様
(
きさま
)
の
執着心
(
しふちやくしん
)
の
懸
(
かか
)
つたこの
金銀
(
きんぎん
)
、
387
長
(
なが
)
い
浮世
(
うきよ
)
を
短
(
みじか
)
う
太
(
ふと
)
う
暮
(
くら
)
さうと
汝
(
きさま
)
は
思
(
おも
)
つて
居
(
を
)
るが、
388
幽界
(
いうかい
)
へ
行
(
い
)
つて
鬼
(
おに
)
に
金
(
かね
)
の
蔓
(
つる
)
で
首
(
くび
)
を
絞
(
し
)
められ、
389
逆様
(
さかさま
)
に
吊
(
つ
)
られるのを
覚悟
(
かくご
)
して
持
(
も
)
つて
帰
(
かへ
)
れ』
390
甲州
(
かふしう
)
『コレヤ
雲州
(
うんしう
)
の
奴
(
やつ
)
、
391
しようも
無
(
な
)
い
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふない。
392
そんな
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
くと
泥棒
(
どろばう
)
も
出来
(
でき
)
ぬぢやないか』
393
雲州
(
うんしう
)
『さうだと
云
(
い
)
つて
真理
(
しんり
)
は
依然
(
やつぱり
)
真理
(
しんり
)
だ。
394
取
(
と
)
りたい
物
(
もの
)
は
幾
(
いく
)
らでも
取
(
と
)
らしてやらう。
395
其
(
その
)
代
(
かは
)
りに
俺
(
おれ
)
も
取
(
と
)
つてやらう。
396
汝
(
きさま
)
の
一
(
ひと
)
つより
無
(
な
)
い
生命
(
いのち
)
を……
金
(
かね
)
が
大事
(
だいじ
)
か
生命
(
いのち
)
が
大事
(
だいじ
)
か、
397
事
(
こと
)
の
大小
(
だいせう
)
軽重
(
けいぢゆう
)
をよく
考
(
かんが
)
へて
見
(
み
)
い』
398
甲州
(
かふしう
)
『そんな
事
(
こと
)
を
考
(
かんが
)
へて
居
(
を
)
つて、
399
泥棒
(
どろばう
)
商売
(
しやうばい
)
が
出来
(
でき
)
るものかい』
400
雲州
(
うんしう
)
『
泥棒
(
どろばう
)
商売
(
しやうばい
)
が
辛
(
つら
)
けれや
働
(
はたら
)
け。
401
働
(
はたら
)
くのが
厭
(
いや
)
なら
睾丸
(
きんたま
)
なつと
銜
(
くは
)
へて
死
(
し
)
ぬるか、
402
首
(
くび
)
でも
吊
(
つ
)
つた
方
(
はう
)
が
良
(
い
)
いワイ』
403
三州
(
さんしう
)
『ヤア
此奴
(
こいつ
)
ア
駄目
(
だめ
)
だ。
404
モウ
練習
(
れんしふ
)
も
打切
(
うちき
)
りにしようかい』
405
雲州
(
うんしう
)
『さうすると
汝
(
きさま
)
は
最早
(
もはや
)
断念
(
だんねん
)
したのか。
406
腰抜
(
こしぬけ
)
野郎
(
やらう
)
だなア。
407
それだから
天州
(
てんしう
)
の
乾児
(
こぶん
)
になつて、
408
ヘイヘイ ハイハイと
箱根
(
はこね
)
の
坂
(
さか
)
を
痩馬
(
やせうま
)
を
追
(
お
)
ふ
様
(
やう
)
に
言
(
い
)
つて、
409
いつ
迄
(
まで
)
も
頭
(
あたま
)
が
上
(
あ
)
がらないのだ。
410
鉄槌
(
かなづち
)
の
川流
(
かはなが
)
れとは
汝
(
きさま
)
の
事
(
こと
)
だよ。
411
何
(
なに
)
なつと
持
(
も
)
つて
行
(
ゆ
)
かぬかい』
412
三州
(
さんしう
)
『
持
(
も
)
つて
帰
(
い
)
ねと
言
(
い
)
つた
所
(
ところ
)
で、
413
何
(
なに
)
も
無
(
な
)
いぢやないか』
414
雲州
(
うんしう
)
『
其処辺
(
そこら
)
を
探
(
さが
)
して
見
(
み
)
い。
415
金銀
(
きんぎん
)
の
妄念
(
もうねん
)
が
褌
(
ふんどし
)
に
包
(
つつ
)
んであるかも
知
(
し
)
れぬ』
416
甲州
(
かふしう
)
『オイ
三州
(
さんしう
)
、
417
どうしよう。
418
何
(
なん
)
でも
好
(
い
)
いから
手
(
て
)
に
入
(
い
)
れた
摸擬
(
かた
)
をせぬ
事
(
こと
)
には、
419
練習
(
れんしふ
)
にならぬぢやないか』
420
三州
(
さんしう
)
『さうだと
云
(
い
)
つて、
421
プンプン
臭気
(
にほひ
)
のする、
422
斯
(
こ
)
んな
褌
(
ふんどし
)
が、
423
どうして
懐
(
ふところ
)
へ
入
(
い
)
れられるものか。
424
屋根葺
(
やねふき
)
の
褌
(
ふんどし
)
を
三年
(
さんねん
)
三月
(
みつき
)
、
425
鰯
(
いはし
)
の
糞壺
(
どうけんつぼ
)
の
中
(
なか
)
へ
突込
(
つつこ
)
んで
置
(
お
)
いた
様
(
やう
)
な
臭気
(
にほひ
)
がして
居
(
を
)
るワ……
汝
(
きさま
)
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
だが、
426
懐
(
ふところ
)
へ
入
(
い
)
れてくれ。
427
之
(
これ
)
でもヤツパリ
金包
(
きんつつみ
)
だ、
428
黄金色
(
わうごんいろ
)
の
新
(
あたら
)
しい
奴
(
やつ
)
がそこらに
付着
(
ふちやく
)
して
居
(
を
)
るぞ。
429
褌
(
まはし
)
は
古
(
ふる
)
うても
尻糞
(
しりくそ
)
は
新
(
あたら
)
しい。
430
早
(
はや
)
く
処置
(
しよち
)
を
付
(
つ
)
けて、
431
此奴
(
こいつ
)
の
化物
(
ばけもの
)
ぢやないが、
432
カイた
物
(
もの
)
がものを
言
(
い
)
ふ
時節
(
じせつ
)
だ。
433
併
(
しか
)
し
書
(
か
)
いた
物
(
もの
)
と
言
(
い
)
へば、
434
玉治別
(
たまはるわけ
)
の
懐
(
ふところ
)
にある
一件
(
いつけん
)
書類
(
しよるゐ
)
を
巧妙
(
うま
)
く
遠州
(
ゑんしう
)
の
奴
(
やつ
)
、
435
取返
(
とりかへ
)
しよつたか
知
(
し
)
らぬて』
436
雲州
(
うんしう
)
『そんな
外
(
ほか
)
の
話
(
はなし
)
をする
所
(
どころ
)
ぢやない。
437
一意
(
いちい
)
専心
(
せんしん
)
、
438
さしせまつた
大問題
(
だいもんだい
)
を
研究
(
けんきう
)
しなくてはなるまいが』
439
三州
(
さんしう
)
『
杢助
(
もくすけ
)
さま、
440
私
(
わたくし
)
は
真実
(
しんじつ
)
改心
(
かいしん
)
致
(
いた
)
しました。
441
玉治別
(
たまはるわけ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
の
仰有
(
おつしや
)
るには……
多寡
(
たくわ
)
が
知
(
し
)
れた
高春山
(
たかはるやま
)
の
鬼婆
(
おにばば
)
位
(
ぐらゐ
)
に、
442
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
大勢
(
おほぜい
)
をゴテゴテ
連
(
つ
)
れて
行
(
ゆ
)
くと
見
(
み
)
つともない。
443
三
(
さん
)
人
(
にん
)
居
(
を
)
れば
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
だ。
444
それよりも
早
(
はや
)
く
杢助
(
もくすけ
)
さまの
宅
(
うち
)
へ
行
(
い
)
つて、
445
亡
(
な
)
くなられた
奥
(
おく
)
さまの
御
(
ご
)
霊前
(
れいぜん
)
で
祝詞
(
のりと
)
を
奏
(
あ
)
げて
来
(
こ
)
い。
446
何
(
いづ
)
れ
帰路
(
かへり
)
には
杢助
(
もくすけ
)
さまのお
宅
(
うち
)
へ
寄
(
よ
)
るから、
447
それまで
毎日
(
まいにち
)
神妙
(
しんめう
)
にお
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は、
448
故人
(
こじん
)
の
霊
(
れい
)
を
慰
(
なぐさ
)
めるのだ。
449
又
(
また
)
杢助
(
もくすけ
)
さまも
寂
(
さび
)
しいだらうから、
450
話相手
(
はなしあひて
)
になつてあげるが
良
(
い
)
い。
451
嬶
(
かか
)
アに
死
(
し
)
なれた
時
(
とき
)
は
何
(
なん
)
となく、
452
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
が
寂寥
(
せきれう
)
になり、
453
憂愁
(
いうしう
)
の
涙
(
なみだ
)
に
暮
(
く
)
れるものだから、
454
面白
(
おもしろ
)
い
話
(
はなし
)
でもして、
455
一呼吸
(
ひといき
)
の
間
(
ま
)
でも、
456
心
(
こころ
)
を
慰
(
なぐさ
)
めてあげるが
宜
(
よ
)
い。
457
それが
一番
(
いちばん
)
に
亡者
(
まうじや
)
の
精霊
(
せいれい
)
に
対
(
たい
)
しても、
458
杢助
(
もくすけ
)
さまに
対
(
たい
)
しても、
459
最善
(
さいぜん
)
の
道
(
みち
)
だ……と
斯
(
か
)
う
仰有
(
おつしや
)
つた。
460
それで
暫
(
しばら
)
くの
間
(
あひだ
)
お
宅
(
うち
)
へ
御
(
ご
)
厄介
(
やくかい
)
に
参
(
まゐ
)
りました。
461
決
(
けつ
)
して
金銀
(
きんぎん
)
などを
盗
(
と
)
らうと
思
(
おも
)
うて
三
(
さん
)
人
(
にん
)
が
相談
(
そうだん
)
して
来
(
き
)
たのぢやありませぬから、
462
留守
(
るす
)
は
私
(
わたくし
)
等
(
ら
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
が
立派
(
りつぱ
)
にしてあげます。
463
サア
暫
(
しばら
)
く
都会
(
ひろみ
)
へでも
出
(
で
)
て
遊
(
あそ
)
んで
来
(
き
)
なさるか、
464
友達
(
ともだち
)
の
宅
(
うち
)
へでも
行
(
い
)
つて、
465
酒
(
さけ
)
でも
飲
(
の
)
んで
来
(
き
)
なさい。
466
あなたの
奥
(
おく
)
さまの
霊
(
れい
)
が
玉治別
(
たまはるわけ
)
さまに
姿
(
すがた
)
を
現
(
あら
)
はして、
467
涙
(
なみだ
)
を
零
(
こぼ
)
して
頼
(
たの
)
まれたさうです。
468
さうして
金
(
かね
)
を
見
(
み
)
えぬ
所
(
ところ
)
へ
隠
(
かく
)
して
置
(
お
)
くのは、
469
金
(
かね
)
に
対
(
たい
)
して
殺生
(
せつしやう
)
だ。
470
妾
(
わたし
)
の
死骸
(
しがい
)
を
埋葬
(
いけ
)
たも
同然
(
どうぜん
)
だから、
471
よく
分
(
わか
)
る
所
(
ところ
)
へ
出
(
だ
)
し、
472
さうして
妾
(
わたし
)
にも
一遍
(
いつぺん
)
見
(
み
)
せる
為
(
ため
)
に、
473
霊前
(
れいぜん
)
へ
三四日
(
さんよつか
)
供
(
そな
)
へて
置
(
お
)
いて
下
(
くだ
)
さい。
474
さうすれば
妾
(
わたし
)
は
天晴
(
あつぱ
)
れ
成仏
(
じやうぶつ
)
致
(
いた
)
します…………と
斯
(
か
)
う
仰有
(
おつしや
)
つたさうで、
475
玉治別
(
たまはるわけ
)
さまが……エー
此
(
この
)
亡者
(
まうじや
)
は
執着心
(
しふちやくしん
)
が
強
(
つよ
)
いと
見
(
み
)
えて、
476
死
(
し
)
んでからまでも
金銀
(
きんぎん
)
に
目
(
め
)
をくれるのか、
477
身魂
(
みたま
)
の
因縁
(
いんねん
)
と
云
(
い
)
ふものは
仕方
(
しかた
)
のないものだ…………と
仰有
(
おつしや
)
いました。
478
どうぞ
霊前
(
れいぜん
)
へお
供
(
そな
)
へになつても、
479
我々
(
われわれ
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
が
盗
(
と
)
るのぢやありませぬ。
480
万一
(
まんいち
)
無
(
な
)
くなつたら、
481
それはインヘルノの
立派
(
りつぱ
)
な
旅館
(
りよくわん
)
で
宿泊
(
とま
)
る
旅費
(
りよひ
)
に、
482
奥
(
おく
)
さまが
持
(
も
)
つて
行
(
ゆ
)
かれたのでせうから、
483
惜気
(
をしげ
)
なく
執着心
(
しふちやくしん
)
を
棄
(
す
)
てて
御
(
お
)
出
(
だ
)
しなさる
方
(
はう
)
が
宜
(
よろ
)
しからう……なア
杢助
(
もくすけ
)
さま』
484
雲州
(
うんしう
)
『
此
(
この
)
杢助
(
もくすけ
)
は
金
(
かね
)
なんかに
執着
(
しふちやく
)
はない。
485
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
人間
(
にんげん
)
と
云
(
い
)
ふ
者
(
もの
)
は
宝
(
たから
)
を
見
(
み
)
るとつい
悪心
(
あくしん
)
が
起
(
おこ
)
るものだから、
486
折角
(
せつかく
)
改心
(
かいしん
)
したお
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
に
又
(
また
)
罪
(
つみ
)
を
作
(
つく
)
らすは
可哀相
(
かはいさう
)
だによつて、
487
マア
金
(
かね
)
の
在処
(
ありか
)
は
知
(
し
)
らさぬがよい。
488
強
(
た
)
つて、
489
それでも
知
(
し
)
りたければ
知
(
し
)
らしてやらぬ
事
(
こと
)
は
無
(
な
)
い。
490
嬶
(
かか
)
アの
死骸
(
しがい
)
の
懐
(
ふところ
)
に
持
(
も
)
たして
帰
(
い
)
なしてあるのだから、
491
玉治別
(
たまはるわけ
)
の
神
(
かみ
)
さまの
前
(
まへ
)
へ
現
(
あら
)
はれてそんな
事
(
こと
)
を
女房
(
にようばう
)
が
言
(
い
)
ふ
筈
(
はず
)
がない。
492
大方
(
おほかた
)
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
が
仕組
(
しぐ
)
んで
来
(
き
)
たのだらう。
493
これから
墓
(
はか
)
へいつて
土
(
つち
)
を
掘
(
ほ
)
り
起
(
おこ
)
し、
494
逆様
(
さかさま
)
に
首
(
くび
)
を
突込
(
つきこ
)
んで、
495
懐
(
ふところ
)
の
金
(
かね
)
を
盗
(
と
)
るなら
取
(
と
)
つて
見
(
み
)
い。
496
女房
(
にようばう
)
は
金
(
かね
)
に
執着心
(
しふちやくしん
)
の
強
(
つよ
)
い
奴
(
やつ
)
だから、
497
キツト
冷
(
つめ
)
たい
手
(
て
)
で、
498
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
の
素首
(
そつくび
)
にギユツと
抱付
(
だきつ
)
き、
499
頭
(
あたま
)
を
下
(
した
)
にしられて、
500
汝
(
きさま
)
の
尻
(
しり
)
の
穴
(
あな
)
を
花立
(
はなたて
)
に
代用
(
だいよう
)
するかも
知
(
し
)
れやしないぞ。
501
それでも
承知
(
しようち
)
なら
墓
(
はか
)
へいつて
掘
(
ほ
)
つて
行
(
い
)
かつしやい』
502
三州
(
さんしう
)
『オイ
雲州
(
うんしう
)
、
503
モウ
汝
(
きさま
)
の
杢助
(
もくすけ
)
は
駄目
(
だめ
)
だ。
504
臨機
(
りんき
)
応変
(
おうへん
)
、
505
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
杢助
(
もくすけ
)
の
住家
(
すみか
)
へいつてから、
506
当意
(
たうい
)
即妙
(
そくめう
)
の
知識
(
ちしき
)
を
発揮
(
はつき
)
する
事
(
こと
)
にしよう。
507
何事
(
なにごと
)
も
俺
(
おれ
)
の
云
(
い
)
ふ
通
(
とほ
)
りにするのだぞ。
508
衆口
(
しうこう
)
金
(
きん
)
を
溶
(
とろ
)
かす……と
云
(
い
)
つて、
509
大勢
(
おほぜい
)
が
喋舌
(
しやべ
)
ると、
510
目的
(
もくてき
)
の
金銀
(
きんぎん
)
が
溶
(
とろ
)
けて
無
(
な
)
くなつて
了
(
しま
)
うと
困
(
こま
)
るから、
511
総
(
すべ
)
て
俺
(
おれ
)
に
一任
(
いちにん
)
せいよ』
512
雲州
(
うんしう
)
『
何
(
なん
)
だか
雲
(
くも
)
でも
無
(
な
)
い
様
(
やう
)
な
気
(
き
)
になつて
了
(
しま
)
つた。
513
杢助
(
もくすけ
)
気分
(
きぶん
)
が
漂
(
ただよ
)
うて、
514
汝
(
きさま
)
等
(
ら
)
が
泥棒
(
どろばう
)
に
見
(
み
)
えて
仕方
(
しかた
)
が
無
(
な
)
いワ』
515
三州
(
さんしう
)
『
汝
(
きさま
)
も
泥棒
(
どろばう
)
ぢやないかい』
516
雲州
(
うんしう
)
『モウ
此
(
この
)
計画
(
けいくわく
)
は
中止
(
ちゆうし
)
したらどうだ。
517
何
(
なん
)
とはなしに
大変
(
たいへん
)
な
罪悪
(
ざいあく
)
を
犯
(
をか
)
す
様
(
やう
)
な
気
(
き
)
がしてならないのだよ』
518
甲州
(
かふしう
)
『
何
(
いづ
)
れ
善
(
ぜん
)
ではない。
519
併
(
しか
)
し
我々
(
われわれ
)
泥棒
(
どろばう
)
としては、
520
巧妙
(
うま
)
く
手
(
て
)
に
入
(
い
)
れるのが
最善
(
さいぜん
)
の
方法
(
はうはふ
)
だ。
521
善
(
ぜん
)
とか
悪
(
あく
)
とか、
522
そんな
事
(
こと
)
に
心
(
こころ
)
を
奪
(
うば
)
はれて、
523
どうして
此
(
この
)
商売
(
しやうばい
)
が
発展
(
はつてん
)
するか。
524
サア
大分
(
だいぶん
)
に
夜
(
よ
)
も
更
(
ふ
)
けた、
525
これからボツボツ
行
(
ゆ
)
かう』
526
と
十丁
(
じつちやう
)
許
(
ばか
)
り
前方
(
むかう
)
の
杢助
(
もくすけ
)
が
館
(
やかた
)
に、
527
体
(
からだ
)
を
胴震
(
どうぶる
)
ひさせ
乍
(
なが
)
ら、
528
萱
(
かや
)
の
穂
(
ほ
)
のそよぎにも
胸
(
むね
)
を
轟
(
とどろ
)
かせつつ
心細々
(
こころほそぼそ
)
脚
(
あし
)
もワナワナガタガタ
震
(
ぶる
)
ひで
進
(
すす
)
んで
行
(
ゆ
)
く。
529
(
大正一一・五・一九
旧四・二三
松村真澄
録)
Δこのページの一番上に戻るΔ
<<< 言の疵
(B)
(N)
誠の宝 >>>
霊界物語
>
如意宝珠(第13~24巻)
>
第21巻(申の巻)
> 第2篇 是生滅法 > 第6章 小杉の森
このページに誤字・脱字や表示乱れなどを見つけたら教えて下さい。
返信が必要な場合はメールでお送り下さい。【
メールアドレス
】
【第6章 小杉の森|第21巻|如意宝珠|霊界物語|/rm2106】
合言葉「みろく」を入力して下さい→