霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一二章 奇(くしび)の女(をんな)〔六八六〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第21巻 如意宝珠 申の巻 篇:第3篇 男女共権 よみ(新仮名遣い):だんじょきょうけん
章:第12章 奇の女 よみ(新仮名遣い):くしびのおんな 通し章番号:686
口述日:1922(大正11)年05月20日(旧04月24日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年4月5日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
竜国別は宣伝歌を歌いながら、大谷山の谷深く進んで行った。年老いた松の木立の下で一夜の雨露を凌ごうと立ち止まった。ふと傍らを見ると、小さな祠がある。竜国別は天津祝詞を奏上し、宣伝歌を歌った。
祠の社の下で横たわっていると、夜更けに女の泣き声で眼を覚ました。数人の男が一人の女をこの場に連れてきた。
男たちは、女にアルプス教のカーリンスの奥方になるように、と無理強いしている。しかし女は強気で男たちに食ってかかり、要求を断固として拒否している。女は物怖じせずに男たちを痛罵した。
男たちは怒って、無理やり女を連れ去ろうとする。竜国別は祠の後ろから、大自在天だと言って怒鳴りつけた。驚いた男たちは走り去ってしまう。女は静かに社に進み来ると、何事か暗祈黙祷している。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-05-14 18:51:58 文字数:4347 OBC :rm2112
愛善世界社版:206頁 八幡書店版:第4輯 340頁 修補版: 校定版:212頁 普及版:93頁 初版: ページ備考:
001 竜国別(たつくにわけ)は小声(こごゑ)に宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ひながら、002大谷山(おほたにやま)の谷(たに)深(ふか)く進(すす)み入(い)る。
003 夕(ゆふ)べを告(つ)ぐる鐘(かね)の声(こゑ)、004諸行(しよぎやう)無常(むじやう)と鳴(な)り響(ひび)く。005空(そら)に烏(からす)の幾千羽(いくせんば)、006塒(ねぐら)求(もと)めてカアカアと物憂(ものう)げに啼(な)き立(た)つる。007身(み)に沁(し)む風(かぜ)は樹々(きぎ)の梢(こずゑ)を七五三(しちごさん)に揺(ゆす)つて居(ゐ)る。008竜国別(たつくにわけ)は年(とし)古(ふ)りたる松(まつ)の木立(こだち)に立(た)ち寄(よ)りて一夜(いちや)の雨露(うろ)を凌(しの)がんと、009傍(かたはら)を見(み)れば小(ちひ)さき祠(ほこら)がある。
010竜国別(たつくにわけ)『アヽ有難(ありがた)い、011何(いづ)れかの神(かみ)様(さま)のお社(やしろ)が建(た)つて居(ゐ)る。012大方(おほかた)、013山口(やまぐち)の神(かみ)様(さま)が祭(まつ)つてあるのだらう』
014と独言(ひとりご)ちつつ神前(しんぜん)に恭(うやうや)しく拍手(はくしゆ)叩頭(こうとう)し、015天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し、016宣伝歌(せんでんか)をうたつて祠(ほこら)の後(うしろ)に横(よこた)はる。017其(その)歌(うた)、
018竜国別『三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)
019玉治別(たまはるわけ)や国依別(くによりわけ)の
020神(かみ)の使(つかひ)と諸共(もろとも)に
021津田(つだ)の湖辺(こへん)に到着(たうちやく)し
022鷹依姫(たかよりひめ)が力(ちから)とも
023杖(つゑ)とも頼(たの)む秘密文(ひみつぶみ)
024ふとした事(こと)より手(て)に入(い)れて
025敵(てき)の配置(はいち)を悉(ことごと)く
026手(て)に取(と)る如(ごと)く探索(たんさく)し
027茲(ここ)に間道(かんだう)潜(くぐ)りつつ
028山野(さんや)を伝(つた)ひて来(きた)るうち
029日(ひ)は漸(やうや)くに暮(く)れ果(は)てて
030行手(ゆくて)も見(み)えずなりければ
031千引(ちびき)の岩(いは)の岩(いは)が根(ね)に
032そつと立(た)ち寄(よ)り降(ふ)る雪(ゆき)を
033凌(しの)ぎて一夜(いちや)を明(あ)かすうち
034現(あら)はれ来(きた)る妙齢(めうれい)の
035花(はな)をあざむく一(いち)婦人(ふじん)
036赤子(あかご)を胸(むね)に抱(いだ)きつつ
037寒気(かんき)に閉(と)ぢられ手(て)も足(あし)も
038儘(まま)にならねば一夜(ひとよさ)の
039我(われ)に暖気(だんき)を与(あた)へよと
040身辺(しんぺん)近(ちか)く襲(おそ)ひ来(く)る
041我(われ)は此(この)世(よ)を救(すく)うてふ
042神(かみ)の教(をしへ)の宣伝使(せんでんし)
043高春山(たかはるやま)の曲神(まがかみ)を
044言向(ことむ)け和(やは)し帰(かへ)るまで
045女(をんな)に肌(はだ)は触(ふ)れまじと
046唯(ただ)一言(いちごん)に断(ことわ)れば
047女(をんな)は又(また)もや手(て)を合(あは)せ
048火(ひ)を焚(た)き呉(く)れよと願(ねが)ひ入(い)る
049ふと傍(かたはら)に目(め)をやれば
050天(てん)の与(あた)へか枯小柴(かれこしば)
051忽(たちま)ち燧(ひうち)を打(う)ち出(い)でて
052火(ひ)を点(てん)ずれば炎々(えんえん)と
053四辺(あたり)は真昼(まひる)の如(ごと)くなり
054女(をんな)の顔(かほ)はありありと
055生地(きぢ)迄(まで)スツカリ見(み)えて来(き)た
056男尊(だんそん)女卑(ぢよひ)の言論(げんろん)と
057女尊(ぢよそん)男卑(だんぴ)の弁舌(べんぜつ)に
058天(あま)の瓊鉾(ぬぼこ)(舌)を磨(と)ぎ澄(す)まし
059火花(ひばな)を散(ち)らして戦(たたか)へば
060女(をんな)もさるもの中々(なかなか)に
061我(わが)言霊(ことたま)に怖(おそ)れない
062既(すで)に危(あやふ)く見(み)えし時(とき)
063彼方(あちら)此方(こちら)の谷々(たにだに)の
064木霊(こだま)を響(ひび)かせ進(すす)み来(く)る
065法螺貝(ほらがひ)吹(ふ)いた大男(おほをとこ)
066忽(たちま)ち此(この)場(ば)に現(あら)はれて
067魔性(ましやう)の女(をんな)を一睨(ひとにら)み
068女(をんな)は驚(おどろ)き抱(だ)きし子(こ)を
069直(すぐ)に火中(くわちう)に投(な)げ捨(す)てて
070雲(くも)を霞(かすみ)と逃(に)げて行(ゆ)く
071我(われ)は睡魔(すゐま)に襲(おそ)はれて
072夢路(ゆめぢ)を辿(たど)る折柄(をりから)に
073揺(ゆ)り起(おこ)されて目(め)を開(ひら)き
074四辺(あたり)きよろきよろ見廻(みまは)せば
075大江(おおえ)の山(やま)に現(あら)はれし
076鬼武彦(おにたけひこ)の白狐神(びやくこがみ)
077続(つづ)いて言依姫(ことよりひめの)神(かみ)
078我(わ)が眼前(がんぜん)に現(あら)はれて
079急場(きふば)を救(すく)ひ給(たま)ひつつ
080妙音(めうおん)菩薩(ぼさつ)の音楽(おんがく)に
081連(つ)れて此(この)場(ば)を消(き)えたまふ
082竜国別(たつくにわけ)は唯(ただ)一人(ひとり)
083巌(いはほ)を背(せな)にうとうとと
084睡(ねむ)りながらに明(あ)けを待(ま)つ
085雪(ゆき)は頻(しき)りに降(ふ)り来(きた)り
086道(みち)も塞(ふさ)がり進退(しんたい)の
087自由(じいう)を失(うしな)ひユキ詰(つ)まる
088中(なか)をも厭(いと)はず荒魂(あらみたま)
089勇気(ゆうき)を鼓(こ)してザクザクと
090進(すす)む折(をり)しもむくむくと
091雪(ゆき)の中(なか)より現(あら)はれし
092不思議(ふしぎ)の女(をんな)に手(て)をひかれ
093破(やぶ)れた小屋(こや)に伴(ともな)はれ
094種々(いろいろ)雑多(ざつた)の問題(もんだい)を
095吹(ふ)きかけられて困(こま)り入(い)り
096如何(いかが)はせんと思(おも)ふうち
097傘(かさ)のやうなる目(め)を剥(む)いて
098パツと消(き)えたと思(おも)ひきや
099忽(たちま)ち変(かは)る大白狐(おほびやくこ)
100山路(やまぢ)を目蒐(めが)けて駆出(かけい)だす
101よくよく見(み)ればこは如何(いか)に
102五(ご)尺(しやく)有余(いうよ)も積(つも)りたる
103雪(ゆき)の山路(やまぢ)はいつとなく
104消(き)えて僅(わづ)かな薄雪(うすゆき)に
105不審(ふしん)の胸(むね)を抱(だ)きながら
106ふと傍(かたはら)を眺(なが)むれば
107豈(あに)図(はか)らんや岩(いは)の根(ね)に
108くだらぬ夢路(ゆめぢ)を辿(たど)りつつ
109心(こころ)の眼(まなこ)を閉(と)ぢて居(ゐ)た
110朝日(あさひ)の光(ひかり)を身(み)に浴(あ)びて
111此処(ここ)を立(た)ち出(い)でスタスタと
112雪(ゆき)に印(いん)した足跡(あしあと)を
113索(たづ)ねて進(すす)む折(をり)もあれ
114雪(ゆき)踏(ふ)み分(わ)けて駆来(かけきた)る
115野猪(のじし)に出遇(であ)ひ暫(しばら)くは
116道(みち)に佇(たたず)み眺(なが)め入(い)る
117空(くう)を掠(かす)めて何処(どこ)よりか
118白羽(しらは)の征矢(そや)の飛(と)び来(きた)り
119猪(しし)の頭(かしら)に突(つ)き立(た)てば
120猪(しし)は驚(おどろ)き右左(みぎひだり)
121前(まへ)や後(うしろ)に狂(くる)ひつつ
122峰(みね)の尾上(をのへ)を打(う)ち渡(わた)り
123谷間(たにま)に身(み)をば隠(かく)したり
124鳥(とり)獣(けだもの)の末(すゑ)までも
125救(すく)ひ助(たす)くる神(かみ)の道(みち)
126これが見捨(みす)てて置(お)かれうか
127助(たす)けやらんと足跡(あしあと)を
128探(さぐ)りて谷間(たにま)に下(くだ)り往(ゆ)く
129萱(かや)茫々(ばうばう)と生(お)ひ茂(しげ)り
130人跡(じんせき)絶(た)えし谷(たに)の底(そこ)
131血糊(ちのり)を標(しる)べに来(き)て見(み)れば
132自然(しぜん)に穿(うが)てる岩(いは)の洞(ほら)
133其(その)傍(かたはら)に横(よこた)はる
134猪(しし)の屍(かばね)を愍(あは)れみて
135天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し
136蘇(よみがへ)らせて助(たす)けんと
137思(おも)ふ折(をり)しも岩窟(がんくつ)の
138中(なか)より出(い)づる鬼娘(おにむすめ)
139忽(たちま)ち猪(しし)にかぶりつき
140血汐(ちしほ)を吸(す)ひ込(こ)む嫌(いや)らしさ
141はて訝(いぶ)かしとよく見(み)れば
142高城山(たかしろやま)の近村(きんそん)に
143お竜(たつ)が娘(むすめ)と生(うま)れたる
144お光(みつ)の顔(かほ)によく似(に)たり
145お光(みつ)は血汐(ちしほ)を吸(す)ひ終(をは)り
146我(わが)顔(かほ)じつと打(う)ち眺(なが)め
147お前(まへ)は隣(となり)の小父(をぢ)さまか
148お前(まへ)はお光(みつ)か何(なん)として
149この山奥(やまおく)に忍(しの)び住(す)む
150早(はや)く帰(かへ)れと促(うなが)せば
151お光(みつ)は首(くび)をふりながら
152猪(しし)の血糊(ちのり)は吸(す)ひ飽(あ)いた
153美味(うま)い香(にほひ)のするお前(まへ)
154喰(く)はしておくれと強要(ねだり)よる
155これや大変(たいへん)と驚(おどろ)いて
156なだめ慊(すか)しついろいろと
157義理(ぎり)人情(にんじやう)を教(をし)ふれば
158お光(みつ)はフンと鼻(はな)の先(さき)
159馬耳(ばじ)東風(とうふう)と聞(き)き流(なが)し
160義理(ぎり)人情(にんじやう)を弁(わきま)へて
161如何(どう)して鬼(おに)になれますか
162お前(まへ)の生血(いきち)を唯(ただ)一度(いちど)
163飲(の)ましてくれいと云(い)ひながら
164手頃(てごろ)の石(いし)を手(て)に持(も)つて
165忽(たちま)ち砕(くだ)く我(わ)が額(ひたひ)
166血潮(ちしほ)は川(かは)と迸(ほとばし)る
167我(われ)は脆(もろ)くも気絶(きぜつ)して
168前後(ぜんご)も知(し)らずなりけるが
169俄(にはか)に吹(ふ)き来(く)る寒風(かんぷう)に
170眼(まなこ)覚(さ)ませばこは如何(いか)に
171額(ひたひ)は少(すこ)し痛(いた)けれど
172霊肉(れいにく)共(とも)に清々(すがすが)と
173洗(あら)つたやうな心地(ここち)して
174鬼(おに)の娘(むすめ)と誓約(うけひ)しつ
175やつと虎口(ここう)を逃(のが)れ出(い)で
176崎嶇(きく)たる山路(やまぢ)辿(たど)りつつ
177漸(やうや)く此処(ここ)につきにけり
178月(つき)は御空(みそら)に輝(かがや)けど
179木立(こだち)の茂(しげ)み深(ふか)くして
180我(わが)影(かげ)だにも見(み)えかぬる
181椿(つばき)の森(もり)の宮(みや)の下(した)
182明日(あす)はいよいよ大谷(おほたに)の
183山(やま)を踏(ふ)み越(こ)え高春山(たかはるやま)の
184曲(まが)の砦(とりで)に向(むか)ふなり
185あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
186御霊(みたま)幸倍(さちはへ)ましまして
187三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)
188高姫(たかひめ)黒姫(くろひめ)両人(りやうにん)を
189救(すく)ひ出(いだ)させ給(たま)へかし
190野立(のだち)の彦(ひこ)や野立姫(のだちひめ)
191神(かむ)素盞嗚(すさのをの)大御神(おほみかみ)
192木花姫(このはなひめ)の御(おん)前(まへ)に
193竜国別(たつくにわけ)の神司(かむづかさ)
194遥(はるか)に祈(いの)り奉(たてまつ)る』
195と歌(うた)ひ終(をは)つて古社(ふるやしろ)の床下(ゆかした)に横(よこた)はり居(ゐ)る。
196 夜(よ)は深々(しんしん)と更(ふ)け渡(わた)り、197寂然(せきぜん)として木(こ)の葉(は)のそよぎもピタリと止(と)まつた丑満(うしみつ)の頃(ころ)、198猿(さる)を責(せ)めるやうな女(をんな)の泣(な)き声(ごゑ)、199刻々(こくこく)に近(ちか)づき来(きた)る。200竜国別(たつくにわけ)は目(め)を醒(さ)まし耳(みみ)を傾(かたむ)けて、201何者(なにもの)なるかと息(いき)を凝(こ)らして考(かんが)へて居(ゐ)る。202バタバタと数人(すうにん)の足音(あしおと)、203女(をんな)を一人(ひとり)此(この)場(ば)に連(つ)れ来(きた)り、
204甲『サア、205もう斯(か)うなつた上(うへ)は、206じたばたしても駄目(だめ)だ。207体(てい)よくカーリンスの宣伝使(せんでんし)の奥(おく)さまになつて、208左(ひだり)団扇(うちは)で数多(あまた)の乾児(こぶん)を頤(あご)で使(つか)ふ身分(みぶん)となるのが、209却(かへ)つてお前(まへ)の身(み)に取(と)つて幸福(かうふく)だらう。210土臭(つちくさ)い田舎者(ゐなかつぺい)に心中立(しんぢうだ)てをしたつて何(なん)になるか、211サア早(はや)うウンと云(い)へ』
212女(お作)『お前(まへ)は立派(りつぱ)な男(をとこ)の癖(くせ)に、213私(わたし)のやうな繊弱(かよわ)き一人(ひとり)の女(をんな)を寄(よ)つて集(たか)つて、214無理(むり)往生(わうじやう)をさせようとは些(ちつ)と卑怯(ひけふ)ではありませぬか。215カーリンスとか云(い)ふ人(ひと)に、216それだけの徳望(とくばう)があれば、217天下(てんか)の女(をんな)は何程(なにほど)袖(そで)で蜂(はち)を掃(はら)ふやうにして居(を)つても、218獅噛(しが)みついてゆきます。219世間(せけん)から高春山(たかはるやま)のカーリンスの鬼(おに)と噂(うはさ)され、220蚰蜒(げぢげぢ)か蛇(へび)のやうに嫌(きら)はれて居(ゐ)るお方(かた)に、221誰(たれ)が靡(なび)くものが有(あ)りませう。222お前(まへ)等(ら)はその蚰蜒(げぢげぢ)に頤(あご)で使(つか)はれて居(を)る人間(にんげん)だから、223なほ更(さら)鼻持(はなもち)のならぬ男(をとこ)だ。224エヽ汚(けが)らはしい、225もう触(さは)つて下(くだ)さるな』
226乙『此奴(こいつ)中々(なかなか)剛情(がうじやう)な女(をんな)だ、227よしよし貴様(きさま)がさう出(で)れば此方(こつち)にも覚悟(かくご)がある』
228女(お作)『其(その)覚悟(かくご)を聞(き)かして貰(もら)ひませう』
229乙『そんな事(こと)は俺(おれ)達(たち)の秘密(ひみつ)だ、230貴様(きさま)に聞(き)かす必要(ひつえう)が何処(どこ)にあるか』
231女(お作)『ありますとも、232私(わたし)は貴方(あなた)等(がた)の目的物(もくてきぶつ)、233云(い)はば当局者(たうきよくしや)である。234秘密(ひみつ)を知(し)らずにどうして一(いち)日(にち)だつて治(をさ)まつて行(ゆ)きますか』
235甲『エヽ、236女(をんな)の癖(くせ)に何(なに)をツベコベと吐(ほざ)くのだ、237引(ひ)き裂(さ)いてやらうか』
238女(お作)『口(くち)を引(ひ)き裂(さ)きなさつても宜(よろ)しい。239併(しか)し乍(なが)ら万々一(まんまんいち)私(わたし)がカーリンスの女房(にようばう)になると定(きま)つたら、240お前(まへ)は私(わたし)の家来(けらい)ぢやないか。241さうすれば主人(しゆじん)の口(くち)を引(ひ)き裂(さ)き、242折角(せつかく)綺麗(きれい)な女(をんな)を傷者(きずもの)にしたと云(い)ふ罪(つみ)を、243何(ど)うしてカーリンスにお詫(わび)をなさるか、244お詫(わび)の仕方(しかた)がありますまい』
245甲『たつて引(ひ)き裂(さ)かうとは申(まを)しませぬ。246併(しか)し乍(なが)ら我々(われわれ)の要求(えうきう)を容(い)れて、247奥(おく)さまになつて下(くだ)さいますか』
248女(お作)『ホヽヽヽヽ、249好(す)かんたらしい、250カーリンスの嫁(よめ)になる位(くらゐ)なら烏(からす)の嫁(よめ)に行(ゆ)きますワ』
251甲『七(しち)尺(しやく)の男子(だんし)を貴様(きさま)は翻弄(ほんろう)するのか』
252女(お作)『定(きま)つた事(こと)ですよ。253女(をんな)と云(い)ふものは強(つよ)いものです。254女(をんな)の髪(かみ)の毛(け)一条(ひとすぢ)あれば大象(だいざう)も繋(つな)ぐと云(い)ふ魔力(まりよく)をもつて居(ゐ)る。255ヒヨツトコ野郎(やらう)の五(ご)人(にん)や六(ろく)人(にん)、256束(たば)になつて来(き)た所(ところ)が到底(たうてい)駄目(だめ)ですワ、257そんな謀反(むほん)は大抵(たいてい)にしてお止(や)めなさい。258山(やま)も田(た)も家(いへ)も倉(くら)も、259舌(した)の先(さき)や目(め)の先(さき)で一遍(いつぺん)に消滅(せうめつ)させたり、260顛覆(てんぷく)させたりするのは女(をんな)の力(ちから)です。261お前(まへ)達(たち)は男(をとこ)に生(うま)れたと言(い)つてエラさうにして居(を)るが、262多寡(たくわ)の知(し)れた青瓢箪(あをべうたん)のお化(ばけ)見(み)た様(やう)なカーリンスに、263口汚(くちぎたな)なく酷(こ)き使(つか)はれて、264満足(まんぞく)をして居(ゐ)るやうな腰抜(こしぬ)けだから、265思(おも)へば思(おも)へば気(き)の毒(どく)なものだよ』
266丙『これや女(をんな)、267そんな劫託(がふたく)を並(なら)べる癖(くせ)に、268何故(なぜ)キヤツキヤツと悲鳴(ひめい)を挙(あ)げたのだ。269そんな空威張(からいば)りをしたつて駄目(だめ)だぞ』
270女(お作)『ホヽヽヽヽ、271キヤアキヤアと云(い)ふ声(こゑ)は泣(な)き声(ごゑ)ですか。272お前(まへ)こそ女(をんな)の腐(くさ)つたやうな猿(さる)とも人間(にんげん)とも弁別(べんべつ)のつかぬ代物(しろもの)は、273キヤアキヤアと云(い)うて泣(な)くだらうが、274私(わたし)はお前(まへ)等(たち)のする事(こと)が余(あんま)り可笑(をか)しいので、275キヤツキヤツと云(い)つて笑(わら)つたのですよ』
276丁『何(なん)とマア強太(しぶと)い女(をんな)もあればあるものだなア。277俺(おれ)は生(うま)れてからこんな女(をんな)に出遇(であ)つた事(こと)がないワ』
278女(お作)『出遇(であ)つた事(こと)がない筈(はず)、279世界(せかい)の女(をんな)はお前(まへ)の姿(すがた)を見(み)ても、280お前(まへ)の方(はう)から風(かぜ)が吹(ふ)いても、281嫌(いや)がつて皆(みな)逃(に)げて仕舞(しま)ふ。282それもお前(まへ)が強(つよ)いとか、283怖(こは)いとか云(い)うて逃(に)げるのではない。284汚(けが)らはしくつて、285怪体(けつたい)な臭(にほひ)がして鼻持(はなも)ちがならないから、286化物(ばけもの)だと思(おも)つて逃(に)げるのですよ』
287丙『仕方(しかた)のない女(をんな)だなア。288こんな女(をんな)を連(つ)れて帰(かへ)つて、289カーリンスの奥(おく)さまにでもしようものなら、290俺(おれ)達(たち)の却(かへ)つて迷惑(めいわく)になるかも知(し)れやしないぞ』
291女(お作)『ナニ決(けつ)して迷惑(めいわく)にやなりませぬ。292キヨロキヨロ間誤(まご)ついて居(ゐ)ると、293ちよいちよい長煙管(ながきせる)がお前(まへ)等(たち)のお頭(つむり)にお見舞(みまひ)申(まを)す位(くらゐ)なものだよ。294けれども生命(いのち)には別条(べつでう)はないから安心(あんしん)なさい、295ホヽヽヽヽ』
296甲『女子(によし)と小人(せうじん)は養(やしな)ひ難(がた)し、297到底(たうてい)弁舌(べんぜつ)では俺(おれ)達(たち)は敗軍(はいぐん)だ。298不言(ふげん)実行(じつかう)に限(かぎ)る。299サア各自(めいめい)に手足(てあし)を取(と)り、300高春山(たかはるやま)に帰(かへ)つてゆかう。301これや女(をんな)、302何(な)んぼ頤(あご)が達者(たつしや)でも直接(ちよくせつ)行動(かうどう)には叶(かな)ふまい、303男(をとこ)は口(くち)は下手(へた)だが実地(じつち)の力(ちから)は強(つよ)いぞ』
304女(お作)『ホヽヽヽヽ、305たつた一人(ひとり)の繊弱(かよわ)い女(をんな)に対(たい)し見(み)つともない、306五(ご)人(にん)も六(ろく)人(にん)も一丈(いちぢやう)の褌(まはし)をかいた荒男(あらをとこ)が、307蚯蚓(みみづ)を蟻(あり)が寄(よ)つて集(たか)つて巣(す)へ引(ひ)き込(こ)むやうにせねば、308一人(ひとり)の女(をんな)を引捉(ひつとら)へて、309その目的(もくてき)を達(たつ)する事(こと)が出来(でき)ないとは、310何(なん)と男(をとこ)程(ほど)困(こま)つたものはないものだなア』
311甲『偉(えら)さうに云(い)ふない、312男(をとこ)は裸(はだか)百貫(ひやくくわん)と云(い)つて、313体(からだ)が一(ひと)つあれば世(よ)の中(なか)に立派(りつぱ)な一人前(いちにんまへ)の大丈夫(だいぢやうぶ)として通用(つうよう)するのだ。314女(をんな)は蔭(かげ)ものだ。315もつと女(をんな)らしく淑(しと)やかにしたら如何(どう)だい。316女(をんな)の徳(とく)は柔順(じうじゆん)にあるのだぞ』
317女(お作)『私(わたし)は柔順(じうじゆん)なんか大(だい)の嫌(きら)ひだ。318私(わたし)の女(をんな)としての徳(とく)は柔術(じうじゆつ)だ。319一(ひと)つ見本(みほん)にお前(まへ)達(たち)六(ろく)人(にん)を、320お月(つき)さまの世界(せかい)迄(まで)も放(はう)りあげて見(み)ようか』
321甲『オイ皆(みな)の奴(やつ)、322如何(どう)しようかなア。323こんな女(をんな)を迂濶(うつかり)連(つ)れて帰(かへ)らうものなら、324何(ど)んな大騒動(だいさうどう)が勃発(ぼつぱつ)するか知(し)れたものぢやないぞ』
325乙『それだと云(い)つて、326連(つ)れて帰(かへ)らねばカーリンスの親方(おやかた)に合(あは)す顔(かほ)がなし、327困(こま)つた事(こと)になつたものだなア』
328女(お作)『一(ひと)つ柔術(じうじゆつ)をお目(め)にかけませうかな、329オホヽヽヽ』
330甲『エヽ、331この上(うへ)は直接(ちよくせつ)行動(かうどう)だ。332乙(おつ)、333丙(へい)、334丁(てい)、335戊(ぼう)、336己(き)、337一度(いちど)にかかれ』
338一同『ヨシ、339合点(がつてん)だ』
340と六(ろく)人(にん)の男(をとこ)は手取(てと)り足取(あしと)り無理(むり)に女(をんな)を担(かつ)ぎ行(ゆ)かむとする。341女(をんな)は又(また)もやキヤツ キヤツと頻(しき)りに叫(さけ)ぶ。342祠(ほこら)の後(うしろ)より、
343(竜国別)『暫(しばら)く待(ま)てツ、344大自在天(だいじざいてん)大国別(おほくにわけの)命(みこと)これにあり、345申(まを)し渡(わた)す仔細(しさい)がある』
346と雷(らい)の如(ごと)く呶鳴(どな)りつけた。347六(ろく)人(にん)は女(をんな)を其(その)場(ば)に投(な)げ捨(す)て雲(くも)を霞(かすみ)と逃(に)げ散(ち)つた。348女(をんな)は静々(しづしづ)と神前(しんぜん)に詣(まう)で、349拍手(はくしゆ)しながら何事(なにごと)か暗祈(あんき)黙祷(もくたう)をして居(ゐ)る。
350(大正一一・五・二〇 旧四・二四 加藤明子録)
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