霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第七章 誠(まこと)の宝(たから)〔六八一〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第21巻 如意宝珠 申の巻 篇:第2篇 是生滅法 よみ(新仮名遣い):ぜしょうめっぽう
章:第7章 誠の宝 よみ(新仮名遣い):まことのたから 通し章番号:681
口述日:1922(大正11)年05月19日(旧04月23日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年4月5日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
三州、甲州、雲州の三人は杢助の館の前までやってきた。甲州は杢助を油断させて家の中に入ろうと、玉治別の使いで死んだ杢助の女房・お杉の弔いにやってきたように見せかけるため、宣伝歌を歌った。
しかし杢助は、盗人たちの計画をすべて見抜いてしまっていた。杢助が参拝していた祠の前で、三州、甲州、雲州が杢助の金銀を盗む予行演習をしていたのであった。
杢助は、金銀はやるからその代わりに、宣伝使をやっつける計略をすべて白状しろ、と迫った。窮した三人は杢助に襲い掛かるが、杢助は難なく三人を取り押さえてしまう。
改心の見込みがないと見て取った杢助は、三人を打とうとするが、娘のお初が出てきて命乞いをする。そして、杢助の金銀は自分のために貯めてあったものだと知ると、それを今受け取り、泥棒三人に施して逃がした。
お初は、この金銀への執着が凝って母も病になって亡くなったので、これですっきりしたと喜ぶ。三人の泥棒は涙を流してお初に感謝し、逃げて行った。杢助は、金銀より尊い宝が手に入ったと悟り、お初を抱きながら涙に暮れて合掌する。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-05-09 18:59:57 文字数:5554 OBC :rm2107
愛善世界社版:137頁 八幡書店版:第4輯 315頁 修補版: 校定版:142頁 普及版:62頁 初版: ページ備考:
001 湯谷(ゆや)ケ岳(だけ)の山麓(さんろく)なる杢助(もくすけ)が住家(すみか)へ、002面白(おもしろ)からぬ目的(もくてき)を達成(たつせい)せむがために、003高天原(たかあまはら)の神国(しんこく)より根底(ねそこ)の国(くに)へ急転(きふてん)落下(らくか)したる心(こころ)の鬼(おに)の雲州(うんしう)、004三州(さんしう)、005甲州(かふしう)は、006疵(きず)持(も)つ足(あし)のきよろきよろと木挽(こびき)の小屋(こや)に近(ちか)づいた。
007雲州(うんしう)『サア兄弟(きやうだい)、008是(こ)れからが正念場(しやうねんば)だぞ。009善(ぜん)と云(い)ふ名詞(めいし)は此処(ここ)ですつかり抹殺(まつさつ)して、010飽迄(あくまで)悪(あく)で遣(や)り通(とほ)すのだ。011併(しか)し乍(なが)ら悪(あく)を為(な)さむとする者(もの)は、012悪相(あくさう)を現(あら)はしては出来(でき)ない。013善(ぜん)の仮面(かめん)を被(かぶ)らねば敵(てき)に内兜(うちかぶと)を見透(みす)かされて仕舞(しま)ふから、014三州(さんしう)、015汝(きさま)は一(ひと)つ殊勝(しゆしよう)らしいお経(きやう)を唱(とな)へるのだぞ』
016三州(さんしう)『お経(きやう)を唱(とな)へと云(い)つても、017何(なん)にもてんで知(し)らぬのだから仕方(しかた)がないワ』
018雲州(うんしう)『何(なん)でも好(い)い。019其処(そこ)らの物(もの)を出鱈目(でたらめ)放題(はうだい)に並(なら)べるのだ。020一(ひと)つ俺(おれ)が云(い)うて見(み)ようかな。021アヽ何(なに)から何(なに)迄(まで)教育(けういく)をしてやらねばならぬのか、022低能児(ていのうじ)を捉(つか)まへたテイーチヤーさんも大抵(たいてい)ぢやないワイ。023そこらの器具(きぐ)万端(ばんたん)を逆様(さかさま)に云(い)ふのだ。024先(ま)づ屏風(びやうぶ)に襖(ふすま)、025鍋(なべ)に釜(かま)、026徳利(とくり)、027杉(すぎ)に松(まつ)、028門口(かどぐち)其(その)他(た)我々(われわれ)の名(な)だ。029門口(かどぐち)に立(た)つて、030ブベウ、031マフス、032ベナーマカ、033チバヒ、034シバヒ、035ツマ、036ギス、037ドカー、038シウウン、039シウサン、040シウコウ、041ケワルハー、042マーター、043ケーワー、044ニーク、045ツター、046ケワー、047リヨーニクー、048スケモクノボウニヨーノー、049ギスーオーサン、050ダーシン、051ダーシン、052ワイカワイカ、053ワカイマツー、054カハノー、055カナーデー、056クタベツナツテ、057ルオーデー、058ローアー、059ハンニヤハラミタシンギヨウ、060ウン、061アボキヤ、062スギコーノリーモーデ、063ボードロノ、064シウレン、065オリーヤーマーシータ、066アサ、067アサ、068レコラカハレカノ、069ラカダヲ、070ラモイ、071シヨマ、072ハンニヤハラミタシンギヨー、073と斯(か)う云(い)ふのだ』
074三州(さんしう)『そんな事(こと)云(い)つたつて分(わか)りやしない。075もつと分(わか)るやうに云(い)はないか』
076雲州(うんしう)『分(わか)らないのがお経(きやう)の価値(ねうち)だ。077今時(いまどき)の蛸坊主(たこばうず)や、078宣伝使(せんでんし)に満足(まんぞく)なお経(きやう)の読(よ)める奴(やつ)があるかい』
079三州(さんしう)『オイ甲州(かふしう)、080汝(きさま)がよく似合(にあ)ふだらう。081一(ひと)つ臨時(りんじ)坊主(ばうず)が嫌(いや)なら、082三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)になつて、083宣伝歌(せんでんか)をうまく歌(うた)つたらどうだい』
084甲州(かふしう)『それの方(はう)が近道(ちかみち)だ。085彼我共(ひがとも)に意志(いし)が疎通(そつう)して面白(おもしろ)からう。086サアこれから俺(おれ)が宣伝歌(せんでんか)をやる。087さうすればきつと杢助(もくすけ)の奴(やつ)、088頭(あたま)を下(さ)げ、089尾(を)を掉(ふ)つて飛(と)びつくかも知(し)れないぞ、090汝(きさま)達(たち)は甲(かふ)さまの後(あと)から小声(こごゑ)でついて来(こ)い』
091と甲州(かふしう)は入口(いりぐち)に立(た)つて、
092甲州『三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)
093玉治別(たまはるわけ)の神司(かむつかさ)
094それに従(したが)ふ竜国別(たつくにわけ)の
095プロパガンデイストに従(したが)ひて
096湯屋(ゆや)が峠(たうげ)を打(う)ち渡(わた)り
097津田(つだ)の湖水(こすゐ)の辺(ほとり)まで
098やつと進(すす)んで来(き)た折(をり)に
099玉治別(たまはるわけ)の宣伝使(せんでんし)
100俄(にはか)に手(て)をふり首(くび)をふり
101顔色(かほいろ)変(か)へて神懸(かむがかり)
102これや大変(たいへん)な神(かみ)様(さま)が
103懸(かか)つて何(なに)か仰有(おつしや)ると
104お供(とも)をして居(ゐ)た六(ろく)人(にん)は
105息(いき)を殺(ころ)して畏(かしこ)まり
106其(その)託宣(たくせん)を待(ま)ち居(を)れば
107玉治別(たまはるわけ)のお言葉(ことば)に
108妾(わし)はお杉(すぎ)の亡霊(ばうれい)だ
109杢助(もくすけ)さまや幼児(をさなご)を
110後(あと)に残(のこ)して霊界(れいかい)に
111旅立(たびだち)したが残念(ざんねん)ぢや
112土(つち)の底(そこ)へと埋(う)められて
113頭(あたま)の上(うへ)から冷水(ひやみづ)を
114蛙(かはづ)のやうに浴(あ)びせられ
115妾(わたし)は困(こま)つて居(を)りまする
116行(ゆ)きたい所(とこ)へもよう行(ゆ)かず
117六道(ろくだう)の辻(つじ)をウロウロと
118彼方(あちら)此方(こちら)と彷徨(さまよ)ひつ
119淋(さび)しき枯野(かれの)ケ原(はら)の中(なか)
120言問(ことと)ふ人(ひと)も無(な)き折(をり)に
121実(げ)に有難(ありがた)い三五(あななひ)の
122神(かみ)の教(をしへ)の宣伝使(せんでんし)
123霊魂(みたま)の磨(みが)けた玉治別(たまはるわけ)の
124珍(うづ)の使(つかひ)の御(お)肉体(にくたい)
125一寸(ちよつと)拝借(はいしやく)致(いた)します
126可愛(かあい)い女房(にようばう)に先立(さきだ)たれ
127まだ東西(とうざい)も知(し)らぬ児(こ)を
128抱(かか)へて此(この)世(よ)を淋(さび)しげに
129暮(くら)して御座(ござ)る我(わが)夫(つま)の
130心(こころ)は如何(いか)にと朝夕(あさゆふ)に
131案(あん)じ過(す)ごして結構(けつこう)な
132高天原(たかあまはら)へもええ行(ゆ)かず
133中有(ちうう)に迷(まよ)うて居(を)りまする
134どうぞ憐(あは)れと思(お)ぼ召(しめ)し
135お杉(すぎ)の願(ねがひ)を聞(き)いてたべ
136如何(いか)に気強(きづよ)い我(わが)夫(つま)も
137二世(にせ)を契(ちぎ)つた女房(にようばう)の
138涙(なみだ)を流(なが)して頼(たの)む事(こと)
139よもや厭(いや)とは申(まを)すまい
140せめて十日(とをか)や三十(さんじふ)日(にち)
141三五教(あななひけう)に帰順(きじゆん)した
142三(さん)甲(かふ)雲(うん)の三州(さんしう)を
143我(わが)霊前(れいぜん)に額(ぬか)づかせ
144輪廻(りんね)に迷(まよ)うた我(わが)魂(たま)を
145安心(あんしん)さして下(くだ)さんせ
146もしも主人(しゆじん)がゴテゴテと
147疑(うたが)うて聞(き)かぬ事(こと)あれば
148高春山(たかはるやま)を言向(ことむ)けて
149帰(かへ)つてござる其(その)時(とき)に
150玉治別(たまはるわけ)の体(たい)を借(か)り
151一々(いちいち)細々(こまごま)ハズバンドに
152心(こころ)の底(そこ)からサツパリと
153氷解(ひようかい)するよに申(まを)しませう
154小盗人(こぬすと)ばかりを働(はたら)いた
155此(この)三(さん)人(にん)も元(もと)からの
156決(けつ)して悪(わる)い奴(やつ)でない
157神(かみ)の光(ひかり)に照(て)らされて
158身魂(みたま)の洗濯(せんたく)した上(うへ)は
159尊(たふと)き神(かみ)の分霊(わけみたま)
160一(いち)時(じ)も早(はや)く杢助(もくすけ)の
161住居(すまゐ)に駆(か)けつけ幽界(いうかい)で
162お杉(すぎ)の霊魂(みたま)が苦(くるし)んで
163迷(まよ)うて居(を)ると逐一(ちくいち)に
164話(はな)して聞(き)かして下(くだ)されと
165玉治別(たまはるわけ)の口(くち)を借(か)り
166涙(なみだ)ドツサリ流(なが)しつつ
167しみじみ頼(たの)んで居(を)らしやつた
168袖(そで)振(ふ)り合(あ)ふも多生(たしやう)の縁(えん)
169躓(つまづ)く石(いし)も縁(えん)の端(はし)
170高春山(たかはるやま)の征伐(せいばつ)に
171行(ゆ)かねばならぬ我(われ)なれど
172顕幽(けんいう)共(とも)に助(たす)け行(ゆ)く
173誠(まこと)の道(みち)のピユリタンと
174なつた我々(われわれ)三(さん)人(にん)は
175是(これ)を見捨(みす)ててなるものか
176杢助(もくすけ)さまがどのやうに
177頑張(ぐわんば)り散(ち)らして怒(おこ)るとも
178寄(よ)る辺(べ)渚(なぎさ)の捨小舟(すてをぶね)
179浪(なみ)に取(と)られた沖(おき)の舟(ふね)
180憐(あは)れ至極(しごく)のお杉(すぎ)さま
181助(たす)けて上(あ)げたいばつかりに
182岩石(がんせき)起伏(きふく)の細道(ほそみち)を
183足(あし)を痛(いた)めてようように
184此処(ここ)まで訪(たづ)ねて来(き)ましたぞ
185杢助(もくすけ)さまは在宅(ざいたく)か
186早(はや)う此(この)戸(と)を開(あ)けなされ
187お前(まへ)の大事(だいじ)な女房(にようばう)の
188私(わたし)は頼(たの)みで親切(しんせつ)に
189誠(まこと)尽(つく)しにやつて来(き)た
190よもや厭(いや)とは言(い)はりよまい
191お杉(すぎ)さまの精霊(せいれい)に頼(たの)まれて
192お前(まへ)に代(かは)つて霊前(れいぜん)に
193お給仕(きふじ)さして貰(もら)ひます
194サアサア開(あ)けた サア開(あ)けた
195開(あ)けて嬉(うれ)しい玉手箱(たまてばこ)
196これも全(まつた)く三五(あななひ)の
197神(かみ)の御(お)蔭(かげ)と感謝(かんしや)して
198お前(まへ)が今迄(いままで)貯(たくは)へた
199金(きん)と銀(ぎん)との小玉(こだま)まで
200皆(みな)霊前(れいぜん)に置(お)き並(なら)べ
201お杉(すぎ)の霊(みたま)を慰(なぐさ)めよ
202あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
203御霊(みたま)幸(さち)はひましまして
204お杉(すぎ)の精霊(せいれい)の憑(うつ)つたる
205玉治別(たまはるわけ)の宣伝使(せんでんし)
206それに従(したが)ふ雲(うん)、甲(かふ)、三(さん)
207三(さん)人(にん)さまのお目(め)にかけ
208修羅(しゆら)の妄執(まうしふ)を晴(は)らさして
209極楽(ごくらく)参(まゐ)りをさすがよい
210女房(にようばう)となるも前世(さきのよ)の
211深(ふか)い因縁(いんねん)あればこそ
212貞操(ていさう)深(ふか)いお杉(すぎ)さま
213お前(まへ)が体主(たいしゆ)霊従(れいじう)の
214欲(よく)に捉(とら)はれ金銀(きんぎん)に
215眼(まなこ)眩(くら)みて女房(にようばう)を
216根底(ねそこ)の国(くに)に突落(つきおと)し
217可愛(かあい)い子供(こども)に苦労(くらう)させ
218自分(じぶん)も死(し)んで根(ね)の国(くに)や
219底(そこ)の国(くに)へと突込(つきこ)まれ
220無限(むげん)の苦(く)をば嘗(な)めて泣(な)く
221事(こと)にてつきり定(きま)つたと
222貞操(ていさう)深(ふか)いお杉(すぎ)さまが
223大変(たいへん)心配(しんぱい)遊(あそ)ばして
224我(われ)等(ら)に伝言(ことづけ)なさつたぞ
225それは兎(と)も角(かく)一時(いつとき)も
226此(この)門(かど)開(あ)けて下(くだ)されや
227ゴテゴテ言(い)うて開(あ)けぬなら
228開(あ)けでもよいがお前(まへ)さま
229未来(みらい)の程(ほど)が恐(おそ)ろしと
230やがて気(き)が付(つ)く時(とき)が来(く)る
231神(かみ)が表(おもて)に現(あら)はれて
232善(ぜん)と悪(あく)とを立別(たてわ)けて
233お前(まへ)の身魂(みたま)の行先(ゆくさき)を
234キツと守(まも)つて下(くだ)さらう
235アヽ金(かね)が欲(ほ)しい金(かね)が欲(ほ)し
236欲(ほ)しいと云(い)ふのは俺(おれ)ぢやない
237冥途(めいど)にござるお杉(すぎ)さまだ』
238と口(くち)から出任(でまか)せに、239憐(あは)れつぽい声(こゑ)を出(だ)して歌(うた)つて居(ゐ)る。240杢助(もくすけ)フト目(め)を覚(さま)し、
241杢助(もくすけ)『なんだ。242門口(かどぐち)に乞食(こじき)が来(き)よつて、243蚊(か)の泣(な)く様(やう)な声(こゑ)で何(なん)だか言(い)つて居(ゐ)るやうだ。244腹(はら)が空(へ)つとるのだらう。245死人(しにん)に供(そな)へた飯(めし)の余(あま)りがある。246此(こ)れなつと戴(いただ)かして、247早(はや)くボツ払(ぱら)うてやらう。248……エヽこれだけ気(き)が沈淪(しづ)むで居(ゐ)るのに、249憐(あは)れつぽい声(こゑ)を出(だ)して、250益々(ますます)淋(さび)しくなるワ』
251と云(い)ひつつ、252門口(かどぐち)をサラリと開(あ)けた杢助(もくすけ)、
253杢助『何処(どこ)の物貰(ものもら)ひか知(し)らぬが、254此(この)山中(さんちう)の一(ひと)つ家(や)へ踏(ふ)み迷(まよ)うて来(き)たのか。255腹(はら)が空(へ)つたらしい、256力(ちから)のない声(こゑ)だが、257生憎(あいにく)此(この)頃(ごろ)は女房(にようばう)に死(し)なれ、258俄(にはか)に飯(めし)炊(た)く事(こと)を知(し)らず、259骨(ほね)だらけの飯(めし)が炊(た)いてある。260さうして女房(にようばう)の亡霊(ばうれい)に供(そな)へた奴(やつ)も沢山(たくさん)に蓄積(たま)つて居(ゐ)る。261恰度(ちやうど)好(い)い所(ところ)へ来(き)て呉(く)れた。262勿体(もつたい)なくて放棄(ほか)す事(こと)も出来(でき)ないので困(こま)つて居(ゐ)た所(ところ)だ。263サア遠慮(ゑんりよ)は要(い)らぬ。264這入(はい)つてドツサリと喰(く)つて呉(く)れい』
265雲州(うんしう)『夜中(やちう)にお休眠(やすみ)になつて居(ゐ)る所(ところ)を、266お目(め)を醒(さ)ましまして申訳(まをしわけ)が御座(ござ)いませぬ。267私(わたくし)は先般(こなひだ)お世話(せわ)になつた雲州(うんしう)、268この二人(ふたり)は甲州(かふしう)、269三州(さんしう)で御座(ござ)います。270宣伝使(せんでんし)のお伴(とも)をして津田(つだ)の湖辺(こへん)まで参(まゐ)りますと、271お杉(すぎ)さまの精霊(せいれい)が現(あら)はれ遊(あそ)ばして、272是非(ぜひ)共(とも)杢助(もくすけ)さまに一度(いちど)会(あ)つて来(き)て呉(く)れと仰有(おつしや)つたものですから、273高春山(たかはるやま)の征服(せいふく)の結構(けつこう)なお伴(とも)を棒(ぼう)に振(ふ)つて漸(やうや)く此処(ここ)までスタスタやつて来(き)ました』
274杢助(もくすけ)『アヽさうでしたか。275それは御(ご)親切(しんせつ)に、276女房(にようばう)の精霊(せいれい)も定(さだ)めて喜(よろこ)ぶ事(こと)でせう。277此処(ここ)は小杉(こすぎ)の森(もり)の祠(ほこら)とはチツト広(ひろ)う御座(ござ)いますから、278ユツクリとお這入(はい)り下(くだ)さいませ』
279雲州(うんしう)『何(なん)と仰有(おつしや)います。280小杉(こすぎ)の森(もり)の祠(ほこら)の前(まへ)とは、281それや貴方(あなた)御存(ごぞん)じですか』
282杢助(もくすけ)『御存(ごぞん)じも御存(ごぞん)じだ、283此家(ここ)から僅(わづ)か四五丁(しごちやう)より無(な)い。284俺(わし)の日々(にちにち)信仰(しんかう)するお宮(みや)さまだ。285其(その)神(かみ)さまは国治立(くにはるたちの)大神(おほかみ)様(さま)で、286何(なん)でもかでも信神(しんじん)の徳(とく)に依(よ)つて知(し)らして下(くだ)さるのだ。287お三人(さんにん)様(さま)、288随分(ずゐぶん)作戦(さくせん)計画(けいくわく)は手落(ておち)なく整(ととの)ひましたかなア。289イヤ成功(せいこう)する見込(みこみ)がありますかな。290玉治別(たまはるわけ)の持(も)つて居(を)る秘密(ひみつ)書類(しよるゐ)を、291遠州(ゑんしう)、292駿州(すんしう)、293武州(ぶしう)が、294今頃(いまごろ)はウマク手(て)に入(い)れて御座(ござ)るでせう。295お前(まへ)等(たち)も負(ま)けない様(やう)に計略(けいりやく)を廻(めぐ)らして、296金銀(きんぎん)の小玉(こだま)を手(て)に入(い)れたが良(よ)からうぞ』
297 三(さん)人(にん)は互(たがひ)に顔(かほ)を見合(みあは)せ、298小声(こごゑ)で、
299三(さん)人(にん)『オイ怪体(けつたい)な事(こと)を言(い)ふぢやないか。300どうしてあんな事(こと)が判(わか)つたのだらうか。301俺(おれ)達(たち)の盗賊(どろぼう)演習(えんしふ)を、302ソツと側(そば)で観戦(くわんせん)して居(ゐ)たのぢやなからうか。303これやモウ駄目(だめ)だぞ』
304杢助(もくすけ)『アハヽヽヽ、305俺(わし)が小杉(こすぎ)の森(もり)の祠(ほこら)に参拝(さんぱい)して居(を)ると、306二三(にさん)人(にん)の小盗人(こぬすと)奴(め)が、307何処(どこ)からともなくやつて来(き)やがつて、308虫(むし)のよい妙(めう)な相談(そうだん)をやつて居(ゐ)よつた。309盗(と)らぬ先(さき)から取(と)つた様(やう)な気(き)になつて、310涸(かわ)き切(き)つた智慧(ちゑ)を絞(しぼ)り出(だ)し、311終局(しまひのはて)には、312人名(じんめい)や器具(きぐ)などの名詞(めいし)を逆唱(ぎやくしやう)してお経(きやう)に見(み)せたり、313哀(あは)れつぽい宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)つて、314寒(さむ)いのにビリビリ慄(ふる)へて立(た)つて居(ゐ)やがつた奴(やつ)は誰(だ)れだあい』
315と雷(かみなり)の落(お)ちたやうな声(こゑ)で終(しまひ)の一句(いつく)を高(たか)く呶鳴(どな)りつけた。
316 雲州(うんしう)は慄(ふる)ひながら、
317雲州『ワヽ私(わたくし)は貴方(あなた)の御(ご)高名(かうめい)を一寸(ちよつと)拝借(はいしやく)致(いた)しまして、318洒落(しやれ)に芝居(しばゐ)をしたのです』
319杢助『芝居(しばゐ)なら芝居(しばゐ)でよい。320さうすれば金銀(きんぎん)の小玉(こだま)は必要(ひつえう)がないのだなア』
321雲州『ハイ、322ヒヽ必要(ひつえう)はないことはありませぬ。323併(しか)し猿猴(ゑんこう)が水(みづ)の月(つき)を探(さぐ)るやうなもので到底(たうてい)貴方(あなた)のお手(て)にある以上(いじやう)は私(わたくし)の自由(じいう)になりますまい。324オイ甲州(かふしう)、325三州(さんしう)、326汝(きさま)の意見(いけん)は何(ど)うだ。327何(なん)と云(い)うても遠州(ゑんしう)に申訳(まをしわけ)が無(な)いぢやないか』
328杢助『汝(きさま)の執着心(しふちやくしん)が、329俺所(おれんとこ)の宝(たから)に付着(ふちやく)して居(を)るから、330俺(おれ)も今日(こんにち)では、331最早(もはや)金銀(きんぎん)の恐(おそ)ろしいと云(い)ふ事(こと)を悟(さと)つたのだ。332恰度(まるで)、333蜈蚣(むかで)か蝮(はみ)か鬼(おに)のやうな心持(こころもち)がする。334夜前(やぜん)も金銀(きんぎん)の小玉(こだま)奴(め)が赤鬼(あかおに)や黒鬼(くろおに)に化(ば)けて、335鉄(かね)の棒(ぼう)をもつて俺(おれ)を突刺(つきさ)しに来(き)よつた。336今後(こんご)此(この)金(かね)を手(て)に入(い)れた奴(やつ)は皆(みな)此(この)通(とほ)りにしてやると吐(ぬか)しよつたぞ。337本当(ほんたう)に金(かね)が敵(かたき)の世(よ)の中(なか)とは好(よ)く云(い)うたものだよ。338汝(きさま)等(ら)もそれ程(ほど)金(かね)が欲(ほ)しければ持(も)つて行(い)つたがよい。339併(しか)し鬼(おに)が出(で)て即座(そくざ)に汝(きさま)の命(いのち)を取(と)つても承知(しようち)かい』
340雲州『ソヽその鬼(おに)は何時(いつ)でも出(で)ますか』
341杢助『ウン、342何時(いつ)でも出(で)て来(く)る。343汝(きさま)の現(げん)に腹(はら)の中(なか)にも鉄棒(かなぼう)を突(つ)いて現(あら)はれて居(を)るぢやないか。344そして現実(げんじつ)的(てき)に現(あら)はれた鬼(おに)は、345百人力(ひやくにんりき)の杢助(もくすけ)と云(い)ふ手(て)に合(あ)はぬやもをの鬼(おに)だ。346第一(だいいち)その鬼(おに)が最(もつと)も手(て)に合(あ)はぬのだよ、347アハヽヽヽ』
348雲州『そんなら私(わたくし)はもう是(これ)で泥棒(どろばう)は廃業(はいげふ)しますから堪(こら)へて下(くだ)さい』
349杢助『馬鹿(ばか)云(い)ふな、350地獄(ぢごく)の沙汰(さた)も金(かね)次第(しだい)だ。351金(かね)さへあれば何(ど)んな恐(こは)い鬼(おに)でも俄(にはか)に地蔵(ぢざう)様(さま)のやうになつて仕舞(しま)ふのだ。352サアサア遠慮(ゑんりよ)は要(い)らぬ、353御(ご)註文(ちゆうもん)通(どほ)り女房(にようばう)の御(ご)霊前(れいぜん)に供(そな)へてある、354トツトと持(も)つて帰(かへ)れ』
355三州『そんなら御(ご)遠慮(ゑんりよ)なう頂(いただ)いて帰(かへ)りませうか』
356杢助『薪(たきぎ)に油(あぶら)をかけ、357それを抱(だ)いて火中(くわちう)に飛(と)び込(こ)むやうな剣呑(けんのん)な芸当(げいたう)だぞ。358旨(うま)く汝(きさま)でそれが遂行(すゐかう)出来(でき)るか』
359甲州『背中(せなか)に腹(はら)は代(か)へられぬ。360一寸(ちよつと)で宜敷(よろし)いから、361長(なが)らく拝借(はいしやく)しようとは申(まを)しませぬ、362触(さは)らしてさへ下(くだ)さればよろしい』
363杢助『俺(おれ)も男(をとこ)だ。364持(も)つて去(い)ねと云(い)つたら、365綺麗(きれい)薩張(さつぱり)持(も)つて帰(かへ)れツ』
366三州『差支(さしつか)へはありませぬか』
367杢助『汝(きさま)が最前(さいぜん)小杉(こすぎ)の森(もり)で云(い)つて居(ゐ)た、368玉治別(たまはるわけ)の宣伝使(せんでんし)に従(つ)いて行(い)つた三(さん)人(にん)の計略(けいりやく)を、369逐一(ちくいち)此処(ここ)で白状(はくじやう)せい。370さうすれば其(その)白状賃(はくじやうちん)として、371あるだけ皆(みな)汝(きさま)に渡(わた)してやらう。372さうすれば汝(きさま)も泥棒(どろばう)したのでない、373俺(おれ)から報酬(ほうしう)として貰(もら)つたのだから』
374 雲州(うんしう)喉(のど)をゴロゴロ云(い)はせながら、
375雲州『それは杢助(もくすけ)さま、376真(ほんと)ですかな。377併(しか)し乍(なが)ら三(さん)人(にん)の計略(けいりやく)を此処(ここ)で薩張(さつぱり)云(い)つて了(しま)つては、378遠州(ゑんしう)の親方(おやかた)に縁(えん)を絶(き)られて仕舞(しま)ふかも知(し)れませぬ』
379杢助『泥棒(どろばう)に縁(えん)を絶(き)られても好(い)いぢやないか。380汝(きさま)はそれほど泥棒(どろばう)を結構(けつこう)な商売(しやうばい)と思(おも)うて居(を)るのか』
381雲州『金(かね)は欲(ほ)しいし、382遠州(ゑんしう)の親分(おやぶん)に縁(えん)を絶(き)られるのは辛(つら)いし、383オイ三州(さんしう)、384甲州(かふしう)、385秘密(ひみつ)を明(あ)かして金(かね)を貰(もら)つて帰(かへ)らうか………エヽ秘密(ひみつ)を云(い)つて金(かね)を貰(もら)へば我々(われわれ)の估券(こけん)が下(さ)がるなり、386何程(なにほど)此奴(こいつ)が強(つよ)いと云(い)つても知(し)れたものだ。387サア三(さん)人(にん)寄(よ)つて此奴(こいつ)をフン縛(じば)り持(も)つて帰(かへ)らう』
388と云(い)ふより早(はや)く、389杢助(もくすけ)に三方(さんぱう)から武者(むしや)振(ぶ)りついた。390杢助(もくすけ)はまるで蝶々(てふてふ)でも押(おさ)へたやうに、
391杢助『何(なに)を小癪(こしやく)な、392蠅虫(はへむし)奴(め)等(ら)』
393と三(さん)人(にん)を一緒(いつしよ)に倒(たふ)し、394グツと股(また)に支(ささ)へ、395蠑螺(さざえ)のやうな拳骨(げんこつ)を固(かた)めて、
396杢助『是(これ)程(ほど)事(こと)を分(わ)けて俺(おれ)が柔順(おとな)しく出(で)ればのし上(あが)り、397何(なん)と云(い)ふ事(こと)を致(いた)すか。398最早(もはや)汝(きさま)は改心(かいしん)の望(のぞ)みがない。399サア此(この)拳骨(げんこつ)が一(ひと)つ触(さは)るや否(いな)や、400汝(きさま)の命(いのち)はそれきりだ。401俺(おれ)の女房(にようばう)のお伴(とも)をさしてやらう』
402と今(いま)や打(う)たむとする時(とき)、403六才(むつつ)になつた娘(むすめ)のお初(はつ)は其(その)場(ば)に駆(か)け出(い)で、
404お初『お父(とう)さま、405まア待(ま)つておやりなさい。406さうして此(この)お金(かね)は此(この)人(ひと)に遣(や)つて下(くだ)さい』
407杢助『お前(まへ)が成人(せいじん)してから、408好(よ)い婿(むこ)を貰(もら)ひ、409楽(らく)に暮(くら)せる様(やう)にと思(おも)つて、410夜昼(よるひる)働(はたら)いて貯(た)めて置(お)いたお金(かね)だ。411此(この)金(かね)は詮(つま)り俺(おれ)のものぢやない、412心(こころ)の中(うち)で既(すで)にお前(まへ)にやつてあるのだ』
413お初『お父(とう)さま、414そんなら今(いま)私(わたくし)に下(くだ)さいな』
415杢助『オヽ何時(いつ)でもやる。416今(いま)か、417今(いま)やつて置(お)かう』
418お初『そんなら貰(もら)ひました。419これこれ三(さん)人(にん)のお方(かた)、420私(わたくし)が此(この)金(かね)を皆(みんな)にあげるから持(も)つて帰(かへ)りなさい。421その代(かは)りにこれで何(なん)なりと商売(しやうばい)をして、422もう此(この)先(さき)はこんな恐(こは)い商売(しやうばい)は廃(や)めなさい。423お父(とう)さま、424何卒(どうぞ)この三(さん)人(にん)を助(たす)けて上(あ)げて下(くだ)さい』
425杢助『よしよし、426ヤア命冥加(いのちみやうが)な三(さん)人(にん)の奴(やつ)、427娘(むすめ)の云(い)ふ事(こと)をよく聞(き)いて、428此(この)金(かね)をもつて何(なん)とか商売(しやうばい)をして、429今後(こんご)は悪(わる)い事(こと)をすな。430サア早(はや)く持(も)つて帰(かへ)れ』
431 三(さん)人(にん)一度(いちど)に頭(かしら)を下(さ)げ、
432三人『誠(まこと)に済(す)まぬ事(こと)で御座(ござ)いました。433そんなら暫(しばら)く拝借(はいしやく)して帰(かへ)ります。434きつと是(これ)はお返(かへ)し致(いた)します』
435お初(はつ)『貸(か)したのでは無(な)い、436進上(あげ)たのだから返(かへ)しては要(い)りませぬ。437こんな恐(こは)いものがあると私(わたくし)の将来(しやうらい)のためになりませぬ。438アヽお父(とう)さま、439これで気楽(きらく)になりました。440よう私(わたくし)を助(たす)けて下(くだ)さいました。441このお金(かね)があるばつかりで、442毎日(まいにち)日日(ひにち)恐(こは)くつて寝(ね)るのも寝(ね)られませなんだ。443お母(かあ)さまも此(この)お金(かね)のために心配(しんぱい)して、444あんな病気(びやうき)になつたのです』
445 三(さん)人(にん)はお初(はつ)の渡(わた)す金包(かねづつみ)を取(と)るより早(はや)く、446雲(くも)を霞(かすみ)と此(この)場(ば)を逃(に)げ去(さ)る。447杢助(もくすけ)はお初(はつ)を抱(いだ)き、448涙(なみだ)に暮(く)れながら、
449杢助『アヽお初(はつ)、450有(あ)り難(がた)い、451金銀(きんぎん)よりも何(なに)よりも貴(たつと)い宝(たから)が手(て)に入(い)つた。452あゝ惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)』
453と合掌(がつしやう)し、454嬉(うれ)し涙(なみだ)に暮(く)れて居(ゐ)る。
455 折(をり)から吹(ふ)き来(きた)る夜嵐(よあらし)の声(こゑ)、456雨戸(あまど)をガタガタガタと揺(ゆす)つて通(とほ)る。
457(大正一一・五・一九 旧四・二三 加藤明子録)
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