霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第七章 (まこと)(たから)〔六八一〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第21巻 如意宝珠 申の巻 篇:第2篇 是生滅法 よみ(新仮名遣い):ぜしょうめっぽう
章:第7章 誠の宝 よみ(新仮名遣い):まことのたから 通し章番号:681
口述日:1922(大正11)年05月19日(旧04月23日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年4月5日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
三州、甲州、雲州の三人は杢助の館の前までやってきた。甲州は杢助を油断させて家の中に入ろうと、玉治別の使いで死んだ杢助の女房・お杉の弔いにやってきたように見せかけるため、宣伝歌を歌った。
しかし杢助は、盗人たちの計画をすべて見抜いてしまっていた。杢助が参拝していた祠の前で、三州、甲州、雲州が杢助の金銀を盗む予行演習をしていたのであった。
杢助は、金銀はやるからその代わりに、宣伝使をやっつける計略をすべて白状しろ、と迫った。窮した三人は杢助に襲い掛かるが、杢助は難なく三人を取り押さえてしまう。
改心の見込みがないと見て取った杢助は、三人を打とうとするが、娘のお初が出てきて命乞いをする。そして、杢助の金銀は自分のために貯めてあったものだと知ると、それを今受け取り、泥棒三人に施して逃がした。
お初は、この金銀への執着が凝って母も病になって亡くなったので、これですっきりしたと喜ぶ。三人の泥棒は涙を流してお初に感謝し、逃げて行った。杢助は、金銀より尊い宝が手に入ったと悟り、お初を抱きながら涙に暮れて合掌する。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-05-09 18:59:57 OBC :rm2107
愛善世界社版:137頁 八幡書店版:第4輯 315頁 修補版: 校定版:142頁 普及版:62頁 初版: ページ備考:
001 湯谷(ゆや)(だけ)山麓(さんろく)なる杢助(もくすけ)住家(すみか)へ、002面白(おもしろ)からぬ目的(もくてき)達成(たつせい)せむがために、003高天原(たかあまはら)神国(しんこく)より根底(ねそこ)(くに)急転(きふてん)落下(らくか)したる(こころ)(おに)雲州(うんしう)004三州(さんしう)005甲州(かふしう)は、006(きず)()(あし)のきよろきよろと木挽(こびき)小屋(こや)(ちか)づいた。
007雲州(うんしう)『サア兄弟(きやうだい)008()れからが正念場(しやうねんば)だぞ。009(ぜん)()名詞(めいし)此処(ここ)ですつかり抹殺(まつさつ)して、010飽迄(あくまで)(あく)()(とほ)すのだ。011(しか)(なが)(あく)()さむとする(もの)は、012悪相(あくさう)(あら)はしては出来(でき)ない。013(ぜん)仮面(かめん)(かぶ)らねば(てき)内兜(うちかぶと)見透(みす)かされて仕舞(しま)ふから、014三州(さんしう)015(きさま)(ひと)殊勝(しゆしよう)らしいお(きやう)(とな)へるのだぞ』
016三州(さんしう)『お(きやう)(とな)へと()つても、017(なん)にもてん()らぬのだから仕方(しかた)がないワ』
018雲州(うんしう)(なん)でも()い。019其処(そこ)らの(もの)出鱈目(でたらめ)放題(はうだい)(なら)べるのだ。020(ひと)(おれ)()うて()ようかな。021アヽ(なに)から(なに)(まで)教育(けういく)をしてやらねばならぬのか、022低能児(ていのうじ)(つか)まへたテイーチヤーさんも大抵(たいてい)ぢやないワイ。023そこらの器具(きぐ)万端(ばんたん)逆様(さかさま)()ふのだ。024()屏風(びやうぶ)(ふすま)025(なべ)(かま)026徳利(とくり)027(すぎ)(まつ)028門口(かどぐち)(その)()我々(われわれ)()だ。029門口(かどぐち)()つて、030ブベウ、031マフス、032ベナーマカ、033チバヒ、034シバヒ、035ツマ、036ギス、037ドカー、038シウウン、039シウサン、040シウコウ、041ケワルハー、042マーター、043ケーワー、044ニーク、045ツター、046ケワー、047リヨーニクー、048スケモクノボウニヨーノー、049ギスーオーサン、050ダーシン、051ダーシン、052ワイカワイカ、053ワカイマツー、054カハノー、055カナーデー、056クタベツナツテ、057ルオーデー、058ローアー、059ハンニヤハラミタシンギヨウ、060ウン、061アボキヤ、062スギコーノリーモーデ、063ボードロノ、064シウレン、065オリーヤーマーシータ、066アサ、067アサ、068レコラカハレカノ、069ラカダヲ、070ラモイ、071シヨマ、072ハンニヤハラミタシンギヨー、073()()ふのだ』
074三州(さんしう)『そんな(こと)()つたつて(わか)りやしない。075もつと(わか)るやうに()はないか』
076雲州(うんしう)(わか)らないのがお(きやう)価値(ねうち)だ。077今時(いまどき)蛸坊主(たこばうず)や、078宣伝使(せんでんし)満足(まんぞく)なお(きやう)()める(やつ)があるかい』
079三州(さんしう)『オイ甲州(かふしう)080(きさま)がよく似合(にあ)ふだらう。081(ひと)臨時(りんじ)坊主(ばうず)(いや)なら、082三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)になつて、083宣伝歌(せんでんか)をうまく(うた)つたらどうだい』
084甲州(かふしう)『それの(はう)近道(ちかみち)だ。085彼我共(ひがとも)意志(いし)疎通(そつう)して面白(おもしろ)からう。086サアこれから(おれ)宣伝歌(せんでんか)をやる。087さうすればきつと杢助(もくすけ)(やつ)088(あたま)()げ、089()()つて()びつくかも()れないぞ、090(きさま)(たち)(かふ)さまの(あと)から小声(こごゑ)でついて()い』
091甲州(かふしう)入口(いりぐち)()つて、
092甲州三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)
093玉治別(たまはるわけ)神司(かむつかさ)
094それに(したが)竜国別(たつくにわけ)
095プロパガンデイストに(したが)ひて
096湯屋(ゆや)(たうげ)()(わた)
097津田(つだ)湖水(こすゐ)(ほとり)まで
098やつと(すす)んで()(をり)
099玉治別(たまはるわけ)宣伝使(せんでんし)
100(にはか)()をふり(くび)をふり
101顔色(かほいろ)()へて神懸(かむがかり)
102これや大変(たいへん)(かみ)(さま)
103(かか)つて(なに)仰有(おつしや)ると
104(とも)をして()(ろく)(にん)
105(いき)(ころ)して(かしこ)まり
106(その)託宣(たくせん)()()れば
107玉治別(たまはるわけ)のお言葉(ことば)
108(わし)はお(すぎ)亡霊(ばうれい)
109杢助(もくすけ)さまや幼児(をさなご)
110(あと)(のこ)して霊界(れいかい)
111旅立(たびだち)したが残念(ざんねん)ぢや
112(つち)(そこ)へと()められて
113(あたま)(うへ)から冷水(ひやみづ)
114(かはづ)のやうに()びせられ
115(わたし)(こま)つて()りまする
116()きたい(とこ)へもよう()かず
117六道(ろくだう)(つじ)をウロウロと
118彼方(あちら)此方(こちら)彷徨(さまよ)ひつ
119(さび)しき枯野(かれの)(はら)(なか)
120言問(ことと)(ひと)()(をり)
121()有難(ありがた)三五(あななひ)
122(かみ)(をしへ)宣伝使(せんでんし)
123霊魂(みたま)(みが)けた玉治別(たまはるわけ)
124(うづ)使(つかひ)()肉体(にくたい)
125一寸(ちよつと)拝借(はいしやく)(いた)します
126可愛(かあい)女房(にようばう)先立(さきだ)たれ
127まだ東西(とうざい)()らぬ()
128(かか)へて(この)()(さび)しげに
129(くら)して御座(ござ)(わが)(つま)
130(こころ)如何(いか)にと朝夕(あさゆふ)
131(あん)()ごして結構(けつこう)
132高天原(たかあまはら)へもええ()かず
133中有(ちうう)(まよ)うて()りまする
134どうぞ(あは)れと()(しめ)
135(すぎ)(ねがひ)()いてたべ
136如何(いか)気強(きづよ)(わが)(つま)
137二世(にせ)(ちぎ)つた女房(にようばう)
138(なみだ)(なが)して(たの)(こと)
139よもや(いや)とは(まを)すまい
140せめて十日(とをか)三十(さんじふ)(にち)
141三五教(あななひけう)帰順(きじゆん)した
142(さん)(かふ)(うん)三州(さんしう)
143(わが)霊前(れいぜん)(ぬか)づかせ
144輪廻(りんね)(まよ)うた(わが)(たま)
145安心(あんしん)さして(くだ)さんせ
146もしも主人(しゆじん)がゴテゴテと
147(うたが)うて()かぬ(こと)あれば
148高春山(たかはるやま)言向(ことむ)けて
149(かへ)つてござる(その)(とき)
150玉治別(たまはるわけ)(たい)()
151一々(いちいち)細々(こまごま)ハズバンドに
152(こころ)(そこ)からサツパリと
153氷解(ひようかい)するよに(まを)しませう
154小盗人(こぬすと)ばかりを(はたら)いた
155(この)(さん)(にん)(もと)からの
156(けつ)して(わる)(やつ)でない
157(かみ)(ひかり)()らされて
158身魂(みたま)洗濯(せんたく)した(うへ)
159(たふと)(かみ)分霊(わけみたま)
160(いち)()(はや)杢助(もくすけ)
161住居(すまゐ)()けつけ幽界(いうかい)
162(すぎ)霊魂(みたま)(くるし)んで
163(まよ)うて()ると逐一(ちくいち)
164(はな)して()かして(くだ)されと
165玉治別(たまはるわけ)(くち)()
166(なみだ)ドツサリ(なが)しつつ
167しみじみ(たの)んで()らしやつた
168(そで)()()ふも多生(たしやう)(えん)
169(つまづ)(いし)(えん)(はし)
170高春山(たかはるやま)征伐(せいばつ)
171()かねばならぬ(われ)なれど
172顕幽(けんいう)(とも)(たす)()
173(まこと)(みち)のピユリタンと
174なつた我々(われわれ)(さん)(にん)
175(これ)見捨(みす)ててなるものか
176杢助(もくすけ)さまがどのやうに
177頑張(ぐわんば)()らして(おこ)るとも
178()()(なぎさ)捨小舟(すてをぶね)
179(なみ)()られた(おき)(ふね)
180(あは)至極(しごく)のお(すぎ)さま
181(たす)けて()げたいばつかりに
182岩石(がんせき)起伏(きふく)細道(ほそみち)
183(あし)(いた)めてようように
184此処(ここ)まで(たづ)ねて()ましたぞ
185杢助(もくすけ)さまは在宅(ざいたく)
186(はや)(この)()()けなされ
187(まへ)大事(だいじ)女房(にようばう)
188(わたし)(たの)みで親切(しんせつ)
189(まこと)(つく)しにやつて()
190よもや(いや)とは()はりよまい
191(すぎ)さまの精霊(せいれい)(たの)まれて
192(まへ)(かは)つて霊前(れいぜん)
193給仕(きふじ)さして(もら)ひます
194サアサア()けた サア()けた
195()けて(うれ)しい玉手箱(たまてばこ)
196これも(まつた)三五(あななひ)
197(かみ)()(かげ)感謝(かんしや)して
198(まへ)今迄(いままで)(たくは)へた
199(きん)(ぎん)との小玉(こだま)まで
200(みな)霊前(れいぜん)()(なら)
201(すぎ)(みたま)(なぐさ)めよ
202あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
203御霊(みたま)(さち)はひましまして
204(すぎ)精霊(せいれい)(うつ)つたる
205玉治別(たまはるわけ)宣伝使(せんでんし)
206それに(したが)(うん)(かふ)(さん)
207(さん)(にん)さまのお()にかけ
208修羅(しゆら)妄執(まうしふ)()らさして
209極楽(ごくらく)(まゐ)りをさすがよい
210女房(にようばう)となるも前世(さきのよ)
211(ふか)因縁(いんねん)あればこそ
212貞操(ていさう)(ふか)いお(すぎ)さま
213(まへ)体主(たいしゆ)霊従(れいじう)
214(よく)(とら)はれ金銀(きんぎん)
215(まなこ)(くら)みて女房(にようばう)
216根底(ねそこ)(くに)突落(つきおと)
217可愛(かあい)子供(こども)苦労(くらう)させ
218自分(じぶん)()んで()(くに)
219(そこ)(くに)へと突込(つきこ)まれ
220無限(むげん)()をば()めて()
221(こと)てつきり(きま)つたと
222貞操(ていさう)(ふか)いお(すぎ)さまが
223大変(たいへん)心配(しんぱい)(あそ)ばして
224(われ)()伝言(ことづけ)なさつたぞ
225それは()(かく)一時(いつとき)
226(この)(かど)()けて(くだ)されや
227ゴテゴテ()うて()けぬなら
228()けでもよいがお(まへ)さま
229未来(みらい)(ほど)(おそ)ろしと
230やがて()()(とき)()
231(かみ)(おもて)(あら)はれて
232(ぜん)(あく)とを立別(たてわ)けて
233(まへ)身魂(みたま)行先(ゆくさき)
234キツと(まも)つて(くだ)さらう
235アヽ(かね)()しい(かね)()
236()しいと()ふのは(おれ)ぢやない
237冥途(めいど)にござるお(すぎ)さまだ』
238(くち)から出任(でまか)せに、239(あは)れつぽい(こゑ)()して(うた)つて()る。240杢助(もくすけ)フト()(さま)し、
241杢助(もくすけ)『なんだ。242門口(かどぐち)乞食(こじき)()よつて、243()()(やう)(こゑ)(なん)だか()つて()るやうだ。244(はら)()つとるのだらう。245死人(しにん)(そな)へた(めし)(あま)りがある。246()れなつと(いただ)かして、247(はや)くボツ(ぱら)うてやらう。248……エヽこれだけ()沈淪(しづ)むで()るのに、249(あは)れつぽい(こゑ)()して、250益々(ますます)(さび)しくなるワ』
251()ひつつ、252門口(かどぐち)をサラリと()けた杢助(もくすけ)
253杢助何処(どこ)物貰(ものもら)ひか()らぬが、254(この)山中(さんちう)(ひと)()()(まよ)うて()たのか。255(はら)()つたらしい、256(ちから)のない(こゑ)だが、257生憎(あいにく)(この)(ごろ)女房(にようばう)()なれ、258(にはか)(めし)()(こと)()らず、259(ほね)だらけの(めし)()いてある。260さうして女房(にようばう)亡霊(ばうれい)(そな)へた(やつ)沢山(たくさん)蓄積(たま)つて()る。261恰度(ちやうど)()(ところ)()()れた。262勿体(もつたい)なくて放棄(ほか)(こと)出来(でき)ないので(こま)つて()(ところ)だ。263サア遠慮(ゑんりよ)()らぬ。264這入(はい)つてドツサリと()つて()れい』
265雲州(うんしう)夜中(やちう)にお休眠(やすみ)になつて()(ところ)を、266()()ましまして申訳(まをしわけ)御座(ござ)いませぬ。267(わたくし)先般(こなひだ)世話(せわ)になつた雲州(うんしう)268この二人(ふたり)甲州(かふしう)269三州(さんしう)御座(ござ)います。270宣伝使(せんでんし)のお(とも)をして津田(つだ)湖辺(こへん)まで(まゐ)りますと、271(すぎ)さまの精霊(せいれい)(あら)はれ(あそ)ばして、272是非(ぜひ)(とも)杢助(もくすけ)さまに一度(いちど)()つて()()れと仰有(おつしや)つたものですから、273高春山(たかはるやま)征服(せいふく)結構(けつこう)なお(とも)(ぼう)()つて(やうや)此処(ここ)までスタスタやつて()ました』
274杢助(もくすけ)『アヽさうでしたか。275それは()親切(しんせつ)に、276女房(にようばう)精霊(せいれい)(さだ)めて(よろこ)(こと)でせう。277此処(ここ)小杉(こすぎ)(もり)(ほこら)とはチツト(ひろ)御座(ござ)いますから、278ユツクリとお這入(はい)(くだ)さいませ』
279雲州(うんしう)(なん)仰有(おつしや)います。280小杉(こすぎ)(もり)(ほこら)(まへ)とは、281それや貴方(あなた)御存(ごぞん)じですか』
282杢助(もくすけ)御存(ごぞん)じも御存(ごぞん)じだ、283此家(ここ)から(わづ)四五丁(しごちやう)より()い。284(わし)日々(にちにち)信仰(しんかう)するお(みや)さまだ。285(その)(かみ)さまは国治立(くにはるたちの)大神(おほかみ)(さま)で、286(なん)でもかでも信神(しんじん)(とく)()つて()らして(くだ)さるのだ。287三人(さんにん)(さま)288随分(ずゐぶん)作戦(さくせん)計画(けいくわく)手落(ておち)なく(ととの)ひましたかなア。289イヤ成功(せいこう)する見込(みこみ)がありますかな。290玉治別(たまはるわけ)()つて()秘密(ひみつ)書類(しよるゐ)を、291遠州(ゑんしう)292駿州(すんしう)293武州(ぶしう)が、294今頃(いまごろ)はウマク()()れて御座(ござ)るでせう。295(まへ)(たち)()けない(やう)計略(けいりやく)(めぐ)らして、296金銀(きんぎん)小玉(こだま)()()れたが()からうぞ』
297 (さん)(にん)(たがひ)(かほ)見合(みあは)せ、298小声(こごゑ)で、
299(さん)(にん)『オイ怪体(けつたい)(こと)()ふぢやないか。300どうしてあんな(こと)(わか)つたのだらうか。301(おれ)(たち)盗賊(どろぼう)演習(えんしふ)を、302ソツと(そば)観戦(くわんせん)して()たのぢやなからうか。303これやモウ駄目(だめ)だぞ』
304杢助(もくすけ)『アハヽヽヽ、305(わし)小杉(こすぎ)(もり)(ほこら)参拝(さんぱい)して()ると、306二三(にさん)(にん)小盗人(こぬすと)()が、307何処(どこ)からともなくやつて()やがつて、308(むし)のよい(めう)相談(そうだん)をやつて()よつた。309()らぬ(さき)から()つた(やう)()になつて、310(かわ)()つた智慧(ちゑ)(しぼ)()し、311終局(しまひのはて)には、312人名(じんめい)器具(きぐ)などの名詞(めいし)逆唱(ぎやくしやう)してお(きやう)()せたり、313(あは)れつぽい宣伝歌(せんでんか)(うた)つて、314(さむ)いのにビリビリ(ふる)へて()つて()やがつた(やつ)()れだあい』
315(かみなり)()ちたやうな(こゑ)(しまひ)一句(いつく)(たか)呶鳴(どな)りつけた。
316 雲州(うんしう)(ふる)ひながら、
317雲州『ワヽ(わたくし)貴方(あなた)()高名(かうめい)一寸(ちよつと)拝借(はいしやく)(いた)しまして、318洒落(しやれ)芝居(しばゐ)をしたのです』
319杢助芝居(しばゐ)なら芝居(しばゐ)でよい。320さうすれば金銀(きんぎん)小玉(こだま)必要(ひつえう)がないのだなア』
321雲州『ハイ、322ヒヽ必要(ひつえう)はないことはありませぬ。323(しか)猿猴(ゑんこう)(みづ)(つき)(さぐ)るやうなもので到底(たうてい)貴方(あなた)のお()にある以上(いじやう)(わたくし)自由(じいう)になりますまい。324オイ甲州(かふしう)325三州(さんしう)326(きさま)意見(いけん)()うだ。327(なん)()うても遠州(ゑんしう)申訳(まをしわけ)()いぢやないか』
328杢助(きさま)執着心(しふちやくしん)が、329俺所(おれんとこ)(たから)付着(ふちやく)して()るから、330(おれ)今日(こんにち)では、331最早(もはや)金銀(きんぎん)(おそ)ろしいと()(こと)(さと)つたのだ。332恰度(まるで)333蜈蚣(むかで)(はみ)(おに)のやうな心持(こころもち)がする。334夜前(やぜん)金銀(きんぎん)小玉(こだま)()赤鬼(あかおに)黒鬼(くろおに)()けて、335(かね)(ぼう)をもつて(おれ)突刺(つきさ)しに()よつた。336今後(こんご)(この)(かね)()()れた(やつ)(みな)(この)(とほ)りにしてやると(ぬか)しよつたぞ。337本当(ほんたう)(かね)(かたき)()(なか)とは()()うたものだよ。338(きさま)()もそれ(ほど)(かね)()しければ()つて()つたがよい。339(しか)(おに)()即座(そくざ)(きさま)(いのち)()つても承知(しようち)かい』
340雲州『ソヽその(おに)何時(いつ)でも()ますか』
341杢助『ウン、342何時(いつ)でも()()る。343(きさま)(げん)(はら)(なか)にも鉄棒(かなぼう)()いて(あら)はれて()るぢやないか。344そして現実(げんじつ)(てき)(あら)はれた(おに)は、345百人力(ひやくにんりき)杢助(もくすけ)()()()はぬやもを(おに)だ。346第一(だいいち)その(おに)(もつと)()()はぬのだよ、347アハヽヽヽ』
348雲州『そんなら(わたくし)はもう(これ)泥棒(どろばう)廃業(はいげふ)しますから(こら)へて(くだ)さい』
349杢助馬鹿(ばか)()ふな、350地獄(ぢごく)沙汰(さた)(かね)次第(しだい)だ。351(かね)さへあれば()んな(こは)(おに)でも(にはか)地蔵(ぢざう)(さま)のやうになつて仕舞(しま)ふのだ。352サアサア遠慮(ゑんりよ)()らぬ、353()註文(ちゆうもん)(どほ)女房(にようばう)()霊前(れいぜん)(そな)へてある、354トツトと()つて(かへ)れ』
355三州『そんなら()遠慮(ゑんりよ)なう(いただ)いて(かへ)りませうか』
356杢助(たきぎ)(あぶら)をかけ、357それを()いて火中(くわちう)()()むやうな剣呑(けんのん)芸当(げいたう)だぞ。358(うま)(きさま)でそれが遂行(すゐかう)出来(でき)るか』
359甲州背中(せなか)(はら)()へられぬ。360一寸(ちよつと)宜敷(よろし)いから、361(なが)らく拝借(はいしやく)しようとは(まを)しませぬ、362(さは)らしてさへ(くだ)さればよろしい』
363杢助(おれ)(をとこ)だ。364()つて()ねと()つたら、365綺麗(きれい)薩張(さつぱり)()つて(かへ)れツ』
366三州差支(さしつか)へはありませぬか』
367杢助(きさま)最前(さいぜん)小杉(こすぎ)(もり)()つて()た、368玉治別(たまはるわけ)宣伝使(せんでんし)()いて()つた(さん)(にん)計略(けいりやく)を、369逐一(ちくいち)此処(ここ)白状(はくじやう)せい。370さうすれば(その)白状賃(はくじやうちん)として、371あるだけ(みな)(きさま)(わた)してやらう。372さうすれば(きさま)泥棒(どろばう)したのでない、373(おれ)から報酬(ほうしう)として(もら)つたのだから』
374 雲州(うんしう)(のど)をゴロゴロ()はせながら、
375雲州『それは杢助(もくすけ)さま、376(ほんと)ですかな。377(しか)(なが)(さん)(にん)計略(けいりやく)此処(ここ)薩張(さつぱり)()つて(しま)つては、378遠州(ゑんしう)親方(おやかた)(えん)()られて仕舞(しま)ふかも()れませぬ』
379杢助泥棒(どろばう)(えん)()られても()いぢやないか。380(きさま)はそれほど泥棒(どろばう)結構(けつこう)商売(しやうばい)(おも)うて()るのか』
381雲州(かね)()しいし、382遠州(ゑんしう)親分(おやぶん)(えん)()られるのは(つら)いし、383オイ三州(さんしう)384甲州(かふしう)385秘密(ひみつ)()かして(かね)(もら)つて(かへ)らうか………エヽ秘密(ひみつ)()つて(かね)(もら)へば我々(われわれ)估券(こけん)()がるなり、386何程(なにほど)此奴(こいつ)(つよ)いと()つても()れたものだ。387サア(さん)(にん)()つて此奴(こいつ)をフン(じば)()つて(かへ)らう』
388()ふより(はや)く、389杢助(もくすけ)三方(さんぱう)から武者(むしや)()りついた。390杢助(もくすけ)はまるで蝶々(てふてふ)でも(おさ)へたやうに、
391杢助(なに)小癪(こしやく)な、392蠅虫(はへむし)()()
393(さん)(にん)一緒(いつしよ)(たふ)し、394グツと(また)(ささ)へ、395蠑螺(さざえ)のやうな拳骨(げんこつ)(かた)めて、
396杢助(これ)(ほど)(こと)()けて(おれ)柔順(おとな)しく()ればのし(あが)り、397(なん)()(こと)(いた)すか。398最早(もはや)(きさま)改心(かいしん)(のぞ)みがない。399サア(この)拳骨(げんこつ)(ひと)(さは)るや(いな)や、400(きさま)(いのち)はそれきりだ。401(おれ)女房(にようばう)のお(とも)をさしてやらう』
402(いま)()たむとする(とき)403六才(むつつ)になつた(むすめ)のお(はつ)(その)()()()で、
404お初『お(とう)さま、405まア()つておやりなさい。406さうして(この)(かね)(この)(ひと)()つて(くだ)さい』
407杢助『お(まへ)成人(せいじん)してから、408()婿(むこ)(もら)ひ、409(らく)(くら)せる(やう)にと(おも)つて、410夜昼(よるひる)(はたら)いて()めて()いたお(かね)だ。411(この)(かね)(つま)(おれ)のものぢやない、412(こころ)(うち)(すで)にお(まへ)にやつてあるのだ』
413お初『お(とう)さま、414そんなら(いま)(わたくし)(くだ)さいな』
415杢助『オヽ何時(いつ)でもやる。416(いま)か、417(いま)やつて()かう』
418お初『そんなら(もら)ひました。419これこれ(さん)(にん)のお(かた)420(わたくし)(この)(かね)(みんな)にあげるから()つて(かへ)りなさい。421その(かは)りにこれで(なん)なりと商売(しやうばい)をして、422もう(この)(さき)はこんな(こは)商売(しやうばい)()めなさい。423(とう)さま、424何卒(どうぞ)この(さん)(にん)(たす)けて()げて(くだ)さい』
425杢助『よしよし、426ヤア命冥加(いのちみやうが)(さん)(にん)(やつ)427(むすめ)()(こと)をよく()いて、428(この)(かね)をもつて(なん)とか商売(しやうばい)をして、429今後(こんご)(わる)(こと)をすな。430サア(はや)()つて(かへ)れ』
431 (さん)(にん)一度(いちど)(かしら)()げ、
432三人(まこと)()まぬ(こと)御座(ござ)いました。433そんなら(しばら)拝借(はいしやく)して(かへ)ります。434きつと(これ)はお(かへ)(いた)します』
435(はつ)()したのでは()い、436進上(あげ)たのだから(かへ)しては()りませぬ。437こんな(こは)いものがあると(わたくし)将来(しやうらい)のためになりませぬ。438アヽお(とう)さま、439これで気楽(きらく)になりました。440よう(わたくし)(たす)けて(くだ)さいました。441このお(かね)があるばつかりで、442毎日(まいにち)日日(ひにち)(こは)くつて()るのも()られませなんだ。443(かあ)さまも(この)(かね)のために心配(しんぱい)して、444あんな病気(びやうき)になつたのです』
445 (さん)(にん)はお(はつ)(わた)金包(かねづつみ)()るより(はや)く、446(くも)(かすみ)(この)()()()る。447杢助(もくすけ)はお(はつ)(いだ)き、448(なみだ)()れながら、
449杢助『アヽお(はつ)450()(がた)い、451金銀(きんぎん)よりも(なに)よりも(たつと)(たから)()()つた。452あゝ惟神(かむながら)(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)
453合掌(がつしやう)し、454(うれ)(なみだ)()れて()る。
455 (をり)から()(きた)夜嵐(よあらし)(こゑ)456雨戸(あまど)をガタガタガタと(ゆす)つて(とほ)る。
457大正一一・五・一九 旧四・二三 加藤明子録)
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