霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第八章 小蝶(こてふ)〔一一九八〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第45巻 舎身活躍 申の巻 篇:第2篇 恵の松露 よみ(新仮名遣い):めぐみのしょうろ
章:第8章 小蝶 よみ(新仮名遣い):こちょう 通し章番号:1198
口述日:1922(大正11)年12月12日(旧10月24日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年9月12日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
お千代は館の戸を開けて面に出た。すると魔我彦が腰を曲げて差し足抜き足で逃げて行く。お千代は魔我彦の後ろから笑い出した。
魔我彦は驚いて振り返り、お千代に対して、松彦と松姫の関係を蠑螈別やお寅に注進して仲を妨害してやると脅す。お千代は反対に、ウラナイ教の教義上からも二人は夫婦の身魂であると反論し、逆に逃げ腰の魔我彦を嘲笑する。
松彦と松姫は、侠客に育てられて気が強く型にはまらないお千代の気性を心配している。松彦はお千代がいつまでも魔我彦をそしる歌を歌っているので、中に入るようにと呼びにきた。
松彦と松姫はお千代を諭すが、自分はお寅みたいな中途半端な女侠客ではなく、フサの国と月の国の大親分になるつもりだと大きく出て両親をやきもきさせたり笑わせたりする。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-02-25 18:28:18 文字数:4490 OBC :rm4508
愛善世界社版:132頁 八幡書店版:第8輯 298頁 修補版: 校定版:138頁 普及版:53頁 初版: ページ備考:
001松彦(まつひこ)松姫(まつひめ)両人(りやうにん)は
002いとし盛(ざか)りの吾(わが)娘(むすめ)
003千代子(ちよこ)と共(とも)に歌垣(うたがき)に
004たちて心(こころ)の誠(まこと)をば
005語(かた)らひ居(ゐ)たる折(をり)もあれ
006突然(とつぜん)起(おこ)る笑(わら)ひ声(ごゑ)
007瓦(かはら)をぶちあけた其(その)如(ごと)く
008ガラガラガラといやらしく
009聞(きこ)え来(きた)れる其(その)音色(ねいろ)
010嫉妬(しつと)嘲笑(てうせう)交(まじ)り来(き)て
011いとも不穏(ふおん)に聞(きこ)えけり
012娘(むすめ)のお千代(ちよ)は門口(かどぐち)を
013引開(ひきあ)け外(そと)を眺(なが)むれば
014豈(あに)図(はか)らむや魔我彦(まがひこ)が
015両手(りやうて)で耳(みみ)を抑(おさ)へつつ
016腰(こし)をくの字(じ)に曲(ま)げ乍(なが)ら
017差足(さしあし)抜足(ぬきあし)逃(に)げて行(ゆ)く
018お千代(ちよ)は後(あと)を顧(かへり)みて
019やさしき声(こゑ)をふり絞(しぼ)り
020紅葉(もみぢ)の様(やう)な手(て)をふつて
021ホヽヽヽヽと笑(わら)ひ出(だ)す
022お千代(ちよ)の声(こゑ)に驚(おどろ)いて
023後(あと)振返(ふりかへ)る魔我彦(まがひこ)は
024真赤(まつか)な顔(かほ)に団栗(どんぐり)の
025はぢけた様(やう)な目(め)を剥(む)いて
026舌(した)を噛(か)み出(だ)し腮(あご)しやくり
027イヒヽヽヽヽ、イヒヽヽヽ
028勝手(かつて)な熱(ねつ)を吹(ふ)きよつて
029しつぽり泣(な)いたがよからうぞ
030之(これ)から俺(おれ)は蠑螈別(いもりわけ)
031お寅(とら)婆(ば)さまの前(まへ)に出(で)て
032一伍(いちぶ)一什(しじふ)を物語(ものがた)り
033二人(ふたり)の恋(こひ)を何処(どこ)までも
034妨害(ばうがい)せなくちやおかないぞ
035覚(おぼ)えてゐよと云(い)ひ乍(なが)ら
036お千代(ちよ)を睨(ね)めつけスタスタと
037館(やかた)をさして帰(かへ)り行(ゆ)く
038お千代(ちよ)は又(また)もや打笑(うちわら)ひ
039お千代『ホヽヽヽヽ魔我彦(まがひこ)が
040曲(まが)つた心(こころ)の恋衣(こひごろも)
041今(いま)は敢(あへ)なく破(やぶ)れけり
042破(やぶ)れかぶれの負惜(まけをし)み
043立派(りつぱ)な夫(をつと)のある人(ひと)を
044神(かみ)の教(をしへ)にあり乍(なが)ら
045女房(にようばう)にしようとは何(なん)の事(こと)
046横恋慕(よこれんぼ)も程(ほど)がある
047枉(まが)の憑(かか)つた魔我彦(まがひこ)は
048恋(こひ)に眼(まなこ)を晦(くら)ませて
049善悪(ぜんあく)邪正(じやせい)の大道(おほみち)を
050踏(ふ)み外(はづ)したる浅間(あさま)しさ
051父(ちち)と母(はは)とは昔(むかし)から
052天下(てんか)晴(は)れての夫婦仲(ふうふなか)
053誰(たれ)に憚(はばか)る事(こと)あろか
054笑(わら)へば笑(わら)へ誹(そし)るなら
055何程(いくら)なりとも誹(そし)れかし
056私(わたし)と云(い)ふものある上(うへ)は
057仮令(たとへ)蠑螈別(いもりわけ)さまが
058何(なん)と云(い)はうとも構(かま)やせぬ
059ウラナイ教(けう)のお道(みち)から
060云(い)うても父(ちち)はユラリ彦(ひこ)
061末代(まつだい)日(ひ)の王天(わうてん)の神(かみ)
062母(はは)の命(みこと)は上義姫(じやうぎひめ)
063誠(まこと)の道(みち)から云(い)うたなら
064戯(たは)けた話(はなし)であるけれど
065ウラナイ教(けう)の道(みち)として
066何(なん)とか彼(か)とか神(かみ)の名(な)を
067つけて喜(よろこ)んで居(ゐ)る上(うへ)は
068仮令(たとへ)松彦(まつひこ)父上(ちちうへ)が
069ユラリの彦(ひこ)となりすまし
070母(はは)の命(みこと)は上義姫(じやうぎひめ)
071神(かみ)と神(かみ)との夫婦(ふうふ)ぢやと
072云(い)つた処(ところ)で何悪(なにわる)い
073蠑螈別(いもりわけ)もお寅(とら)さまも
074とつくに承知(しようち)の上(うへ)ぢやないか
075何程(なにほど)魔我(まが)さまがゴテゴテと
076曲(まが)つて来(こ)やうが矢(や)も楯(たて)も
077二人(ふたり)の仲(なか)にたつものか
078ホヽヽヽヽあた可笑(をか)しい
079父(ちち)と母(はは)との久方(ひさかた)の
080睦言葉(むつみことば)を外面(そとも)から
081立聞(たちぎ)きなして妬(や)け起(おこ)し
082悋気(りんき)の焔(ほのほ)に包(つつ)まれて
083外聞(ぐわいぶん)の悪(わる)い門口(かどぐち)で
084カヽヽヽカツと笑(わら)ひ出(だ)す
085一丈(いちぢやう)二(に)尺(しやく)の褌(まはし)をば
086締(し)めた男(をとこ)のすることか
087恥(はぢ)を知(し)らぬも程(ほど)がある
088こんなお方(かた)が副教主(ふくけうしゆ)
089蠑螈別(いもりわけ)の片腕(かたうで)と
090なつて厶(ござ)ると思(おも)うたら
091仏壇(ぶつだん)の底(そこ)めげぢやないけれど
092阿弥陀(あみだ)が零(こぼ)れて来(く)るぢやないか
093オホヽヽヽヽオホヽヽヽ
094魔我彦(まがひこ)さまのスタイルは
095何(なん)と仮令(たとへ)て宜(よ)からうか
096溝(どぶ)に落(お)ちたる痩鼠(やせねずみ)
097雪隠(せんち)に落(お)ちた鶏(にはとり)が
098尾羽(をは)打枯(うちか)らし腰(こし)曲(ま)げて
099犬(いぬ)の遠吠(とほぼ)え卑怯(ひけふ)にも
100笑(わら)つて逃(に)げ行(ゆ)く浅間(あさま)しさ
101オツトドツコイ惟神(かむながら)
102神(かみ)のお道(みち)にあり乍(なが)ら
103腹立(はらだ)ち紛(まぎ)れに魔我彦(まがひこ)の
104知(し)らず知(し)らずに悪口(わるくち)を
105子供(こども)の身(み)として述(の)べ立(た)てた
106此(この)世(よ)を造(つく)りし神直日(かむなほひ)
107心(こころ)も広(ひろ)き大直日(おほなほひ)
108道理(だうり)を知(し)らぬ年若(としわか)の
109娘(むすめ)の云(い)つた世迷言(よまひごと)
110直日(なほひ)に見直(みなほ)し聞直(ききなほ)し
111悪言(あくげん)暴語(ばうご)の罪科(つみとが)を
112何卒(なにとぞ)お許(ゆる)し下(くだ)さんせ
113父(ちち)と母(はは)との身(み)の上(うへ)を
114思(おも)ひにあまつて思(おも)はざる
115脱線(だつせん)振(ぶ)りを発揮(はつき)した
116乙女心(をとめごころ)を憐(あは)れみて
117許(ゆる)させ給(たま)へ三五(あななひ)の
118皇(すめ)大神(おほかみ)の御(おん)前(まへ)に
119慎(つつし)み敬(うやま)ひ詫奉(わびまつ)る』
120松彦(まつひこ)『千代子(ちよこ)は外(そと)へ出(で)たきり、121何(なん)だか謡(うた)つてゐる様(やう)だな。122うつかりした事(こと)を云(い)つて魔我彦(まがひこ)さまの機嫌(きげん)を損(そこな)つてはならないがな』
123松姫(まつひめ)『お千代(ちよ)は何分(なにぶん)有名(いうめい)な侠客(けふかく)に育(そだ)てられ、124小(ちひ)さい時(とき)からスレツからしに育(そだ)て上(あ)げられたものだから、125肝玉(きもだま)も太(ふと)く、126年(とし)に似合(にあ)はぬ早熟(ませ)くさりで随分(ずゐぶん)偉(えら)い事(こと)を云(い)ひますよ。127時々(ときどき)脱線(だつせん)振(ぶ)りをやつて蠑螈別(いもりわけ)さまや魔我彦(まがひこ)さまをアフンとさせ、128ヤンチヤ娘(むすめ)の名(な)を擅(ほしいまま)にして居(を)ります。129それ故(ゆゑ)私(わたし)も名乗(なの)つてやり度(た)かつたなれど、130故意(わざ)とに隠(かく)して居(を)りました』
131松彦(まつひこ)『お千代(ちよ)には如何(どう)云(い)ふ機(はづみ)でお前(まへ)は会(あ)うたのだ』
132松姫(まつひめ)『あのお寅(とら)さまが連(つ)れて来(き)たのですよ。133同(おな)じ侠客(けふかく)同志(どうし)で心(こころ)安(やす)かつたと見(み)えて、134親(おや)も兄弟(きやうだい)もない娘(むすめ)だから、135ここで立派(りつぱ)に育(そだ)て上(あ)げ度(た)いと云(い)つて親切(しんせつ)に連(つ)れて来(き)たのです。136それから私(わたし)が様子(やうす)を考(かんが)へて居(を)れば全(まつた)く私(わたし)の娘(むすめ)と云(い)ふ事(こと)が分(わか)り、137矢(や)も楯(たて)も堪(たま)らず嬉(うれ)しうなつて来(き)ましたが、138今(いま)名乗(なの)つては、139あの子(こ)の為(た)めによくないと思(おも)ひ、140今日(けふ)が日(ひ)までも隠(かく)して居(を)りました。141本当(ほんたう)に子供(こども)と云(い)ふものは教育(けういく)が大切(たいせつ)ですな。142親(おや)のない子(こ)が泥棒(どろばう)になつたり、143大悪人(だいあくにん)になるのは世間(せけん)に沢山(たくさん)ある習(なら)ひですから、144これから十分(じふぶん)に気(き)をつけて教育(けういく)をしてやらねばなりますまい。145十二(じふに)や三(さん)で婆(ばば)の云(い)ふ様(やう)な事(こと)云(い)ふのですから困(こま)つて了(しま)ひますわ』
146松彦(まつひこ)『さうだな。147子供(こども)は教育(けういく)が肝腎(かんじん)だ。148子供(こども)と云(い)ふものは模倣性(もはうせい)を持(も)つてゐるから見聞(みきき)した事(こと)を自分(じぶん)が直(すぐ)に実行(じつかう)したがるものだ。149子供(こども)は親(おや)の真似(まね)をして遊(あそ)びたがるものなり、150大人(おとな)は亦(また)白(しろ)い石(いし)や黒(くろ)い石(いし)を並(なら)べて子供(こども)の真似(まね)をしたがるものだ。151これもヤツパリ因碁(いんごう)だらうよ。152アハヽヽヽヽ』
153松姫(まつひめ)『私(わたし)だつて、154貴郎(あなた)だつて今(いま)こそ神(かみ)様(さま)のお道(みち)に仕(つか)へて人(ひと)に崇(あが)められて先生顔(せんせいがほ)をして居(を)りますが、155あの子(こ)の出来(でき)た時分(じぶん)は随分(ずゐぶん)なつて居(ゐ)ませぬでしたな。156あの時(とき)の魂(たましひ)で宿(やど)つた子(こ)だもの、157碌(ろく)な子(こ)が生(うま)れさうな事(こと)がありませぬわ。158まだまア不具(かたわ)に生(うま)れて来(こ)なんだのが、159神(かみ)様(さま)のお恵(めぐ)みですよ』
160松彦(まつひこ)『然(しか)しお千代(ちよ)は何時(いつ)迄(まで)も外(そと)に立(た)つて魔我彦(まがひこ)だとか、161何(なん)とか謡(うた)つてるぢやないか。162困(こま)つたものだな。163どれお千代(ちよ)を呼(よ)んで来(こ)う』
164と云(い)ひ乍(なが)ら松彦(まつひこ)は立(た)つて門口(かどぐち)の戸(と)を開(ひら)き外(そと)を覗(のぞ)き込(こ)んだ。165お千代(ちよ)はイーンイーンをしたり、166目(め)を剥(む)いたり拳骨(げんこつ)を固(かた)めて何(なん)だか人(ひと)の頭(あたま)でも殴(なぐ)る様(やう)な真似(まね)して、167空中(くうちう)を殴(なぐ)つてゐる。
168松彦(まつひこ)『これこれお千代(ちよ)、169お前(まへ)、170そりや何(なに)をして居(ゐ)るのだい』
171千代(ちよ)『はい、172これはこれは末代(まつだい)日(ひ)の王天(わうてん)の大神(おほかみ)様(さま)、173上義姫(じやうぎひめ)との御(ご)再会(さいくわい)を祝(しゆく)するためきつく姫(ひめ)が岩戸(いはと)の外(そと)で神楽(かぐら)を奏(あ)げて居(を)りますのよ。174何(なん)ぼ娘(むすめ)だつて御(ご)夫婦(ふうふ)の久(ひさ)し振(ぶ)りの御(ご)対面(たいめん)に御(お)邪魔(じやま)になつては、175ならないと気(き)を利(き)かして居(を)りますのよ。176今(いま)の中(うち)にお母(か)アさまと、177とつくり泣(な)いたり笑(わら)うたり、178力(ちから)一杯(いつぱい)お芝居(しばゐ)を成(な)さいませ。179お父(とう)さまやお母(かあ)さまのお楽(たの)しみのお邪魔(じやま)になつてはなりませぬからな』
180松彦(まつひこ)『何(なん)と呆(あき)れたお転婆(てんば)だなア。181これ、182千代(ちよ)サン、183そんな斟酌(しんしやく)は要(い)らない、184とつとと入(はい)つておいで』
185千代(ちよ)『もう暫(しばら)くここで遊(あそ)ばして下(くだ)さいな』
186松彦(まつひこ)『遊(あそ)ぶのはいいが魔我彦(まがひこ)が何(ど)うだの斯(か)うだのと憎(にく)まれ口(ぐち)を叩(たた)いちやいけないよ』
187千代(ちよ)『だつてお父(とう)さま魔我彦(まがひこ)さまは仕方(しかた)のない男(をとこ)だもの。188チツと位(くらゐ)恥(はぢ)をかかしてやらねば後(のち)の為(た)めになりませぬわ。189男(をとこ)の癖(くせ)に間(ま)がな隙(すき)がな、190お母(か)アさまの居間(ゐま)へやつて来(き)て、191味噌(みそ)ばつかり摺(す)るのですもの、192好(す)かぬたらしい。193あたい腹(はら)が立(た)つて堪(たま)らぬのよ。194今日(けふ)まで辛抱(しんばう)して居(を)つたのだけれど、195お父(とう)さまとお母(かあ)さまが分(わか)つたからは、196もう大丈夫(だいぢやうぶ)。197魔我彦(まがひこ)位(ぐらゐ)が何(なん)ぼ束(そく)でやつて来(き)ても大丈夫(だいぢやうぶ)ですわ。198親(おや)の光(ひかり)は七里(ななさと)光(ひか)ると云(い)ふぢやありませぬか。199永(なが)い間(あひだ)親(おや)なしぢや親(おや)なしぢやと云(い)つて軽蔑(けいべつ)され、200悔(くや)し残念(ざんねん)を今(いま)まで耐(こば)つて居(を)つたのですよ。201其(その)中(なか)でも魔我(まが)が一番(いちばん)私(わたし)を軽蔑(けいべつ)したの。202さうだから日頃(ひごろ)の鬱憤(うつぷん)が破裂(はれつ)して一人(ひとり)口(くち)から悪罵(あくば)が破裂(はれつ)するのですもの。203チツとは云(い)はして下(くだ)さいな。204まだこれ位(くらゐ)云(い)つた処(ところ)で三番叟(さんばそう)ですわ』
205松彦(まつひこ)『お前(まへ)の心(こころ)になれば無理(むり)も無(な)からうが、206そこを辛抱(しんばう)するのが神(かみ)様(さま)の道(みち)だ。207さうズケズケと云(い)ひたい事(こと)を云(い)つて人(ひと)に憎(にく)まれるものではない。208子供(こども)は子供(こども)の様(やう)にして居(を)ればいいのだよ』
209千代(ちよ)『魔我彦(まがひこ)に憎(にく)まれたつて構(かま)はぬぢやありませぬか。210お父(とう)さまとお母(かあ)さまに可愛(かあい)がつて貰(もら)ひさへすれば宜(よろ)しいわ、211ねえ』
212松彦(まつひこ)『兎(と)も角(かく)お母(かあ)さまが待(ま)つてゐるからお這入(はい)りなさい』
213 お千代(ちよ)はニコニコとして松彦(まつひこ)の後(うしろ)に従(したが)ひ這入(はい)つて来(き)た。
214松彦(まつひこ)『お千代(ちよ)は随分(ずゐぶん)スレツからしになつたものだ。215困(こま)つた事(こと)だな』
216松姫(まつひめ)『本当(ほんたう)に困(こま)りますよ。217これが私(わたし)の娘(むすめ)だと大(おほ)きな声(こゑ)では云(い)はれないのですもの。218本当(ほんたう)に困(こま)つちまいます。219こんな子(こ)が成人(せいじん)したら又(また)博奕(ばくち)打(う)ちの親方(おやかた)にでもなりやせまいかと思(おも)へば末(すゑ)が恐(おそ)ろしう厶(ござ)いますわ』
220千代(ちよ)『お母(かあ)さま、221私(わたし)侠客(けふかく)になるつもりなのよ。222弱(よわ)きを助(たす)け、223強(つよ)きを挫(くじ)き、224大(おほ)きな荒男(あらをとこ)を頤(あご)で使(つか)ひ女王(ぢよわう)気取(きど)りになり、225姐貴(あねき)姐貴(あねき)と称(たた)へられて名(な)を遠近(ゑんきん)に轟(とどろ)かすのが人生(じんせい)第一(だいいち)の望(のぞみ)ですわ。226お寅(とら)婆(ば)アさまを見(み)なさい。227侠客(けふかく)だつたお蔭(かげ)で蠑螈別(いもりわけ)さまのお気(き)に入(い)りになつて居(ゐ)らつしやるぢやありませぬか』
228松姫(まつひめ)『これお千代(ちよ)、229お前(まへ)はお寅(とら)婆(ば)アさまの様(やう)になりたいのかい』
230千代(ちよ)『あたい、231お寅(とら)婆(ば)アさまの様(やう)な中途半(ちうとはん)の女侠客(をんなけふかく)は嫌(きら)ひよ。232波斯(フサ)の国(くに)、233月(つき)の国(くに)きつての大親分(おほおやぶん)にならうと思(おも)つてゐるの』
234松彦(まつひこ)『困(こま)つたな、235偉(えら)いものを生(う)んだものだ。236やつぱり種子(たね)は争(あらそ)はれぬものかいな』
237千代(ちよ)『ホヽヽヽヽ茄子(なす)の種子(たね)は茄子(なす)、238瓜(うり)の種(たね)を蒔(ま)けば瓜(うり)の苗(なへ)が生(は)えます。239私(わたし)はお父(とう)さま、240お母(かあ)さまのヤンチヤ身魂(みたま)から此(この)世(よ)に生(うま)れ、241其(その)上(うへ)侠客(けふかく)の手(て)に育(そだ)てられたものだもの、242斯(こ)んな心(こころ)になるのは当然(あたりまへ)ですわ』
243松彦(まつひこ)『お前(まへ)は神(かみ)様(さま)の宣伝使(せんでんし)になるのが宜(い)いか、244侠客(けふかく)になるのが宜(よ)いか』
245千代(ちよ)『神(かみ)様(さま)の宣伝使(せんでんし)なんて気(き)が利(き)かぬじやありませぬか。246訳(わけ)の分(わか)らぬ婆嬶(ばばかか)や時代(じだい)遅(おく)れの老爺(ぢい)さまや、247剛欲(がうよく)の人間(にんげん)や、248盲(めくら)や唖(おし)に、249不具(ふぐ)に病身者(びやうしんもの)、250一人(ひとり)だつて満足(まんぞく)のものが神(かみ)様(さま)の処(ところ)へ寄(よ)つて来(き)ますか。251たまたま体(からだ)の丈夫(ぢやうぶ)な男女(だんぢよ)が来(き)たと思(おも)へば精神(せいしん)上(じやう)に欠陥(けつかん)のある人間(にんげん)ばつかり、252そんな人(ひと)に崇(あが)められたとて何(なに)が面白(おもしろ)う厶(ござ)りませう。253理解(りかい)の上(うへ)に崇(あが)められたのなら愉快(ゆくわい)ですが、254無理解(むりかい)者(もの)から持(も)て囃(はや)されたつて何(なに)が光栄(くわうえい)ですか。255本当(ほんたう)に馬鹿(ばか)らしく消(き)え度(た)くなつて了(しま)ひますわ。256それよりも侠客(けふかく)になつて御覧(ごらん)なさい。257裸百貫(はだかひやくくわん)の荒男(あらをとこ)、258霊肉(れいにく)ともに欠陥(けつかん)のない、259男(をとこ)の中(なか)の男(をとこ)が集(あつ)まつて来(き)て義(ぎ)に勇(いさ)み、260誠(まこと)を立(た)て、261悪人(あくにん)を懲(こら)し、262まるで神(かみ)様(さま)の様(やう)な欲(よく)のない、263宵越(よひご)しの銭(ぜに)を使(つか)はぬ綺麗(きれい)薩張(さつぱ)りした人間(にんげん)ばかりに姐貴(あねき)々々(あねき)とたてられて、264此(この)世(よ)を送(おく)るほど愉快(ゆくわい)な事(こと)がありますか。265あたいは何処迄(どこまで)も女侠客(をんなけふかく)になるのが望(のぞ)みです』
266松彦(まつひこ)『ハヽヽヽヽ困(こま)つたな。267親(おや)は宣伝使(せんでんし)、268子(こ)は女侠客(をんなけふかく)、269どうも反(そり)が合(あ)はぬ様(やう)だ』
270千代(ちよ)『お父(とう)さま、271大工(だいく)の子(こ)は大工(だいく)を営(いとな)み、272医者(いしや)の子(こ)は何処迄(どこまで)も医者(いしや)をやらねばならぬと云(い)ふ規則(きそく)はありますまい。273各自(めいめい)に人間(にんげん)には、274それ相応(さうおう)の天才(てんさい)があつて凡(すべ)ての事業(じげふ)に適不適(てきふてき)があるものです。275自分(じぶん)の天才(てんさい)を十二分(じふにぶん)に発揮(はつき)するのが教育(けういく)の精神(せいしん)でせう。276圧迫(あつぱく)教育(けういく)を施(ほどこ)して児童(じどう)の本能(ほんのう)を傷(きず)つけ、277桝(ます)できり揃(そろ)へた様(やう)な団栗(どんぐり)の背競(せいくら)べの様(やう)な人間(にんげん)ばかり作(つく)り上(あ)げる様(やう)な現在(げんざい)の教育(けういく)では大人物(だいじんぶつ)は出来(でき)ませぬぜ。278植物(しよくぶつ)だつて、279枝(えだ)を曲(ま)げたり、280切(き)つたり、281針金(はりがね)で括(くく)つたり、282いろいろと干渉(かんせう)教育(けういく)を施(ほどこ)すと、283床(とこ)の間(ま)の置物(おきもの)よりなりますまい。284山(やま)の谷(たに)で自由(じいう)自在(じざい)に成育(せいいく)した樹木(じゆもく)は成人(せいじん)して立派(りつぱ)な柱(はしら)になりませう。285さうだから人間(にんげん)は如何(どう)しても天才(てんさい)を完全(くわんぜん)に発揮(はつき)させる様(やう)に教育(けういく)させなくては駄目(だめ)ですわ』
286松彦(まつひこ)『松姫(まつひめ)、287お前(まへ)の云(い)つた通(とほ)り、288何(なん)とまアこましやくれた娘(むすめ)だな。289随分(ずゐぶん)社会(しやくわい)教育(けういく)を受(う)けたと見(み)えるな』
290松姫(まつひめ)『到底(たうてい)私(わたし)の手(て)には合(あ)はない娘(むすめ)ですよ』
291松彦(まつひこ)『さうだな。292いや却(かへつ)て干渉(かんせう)せない方(はう)がよいかも知(し)れない。293一六(いちろく)ものだ。294大変(たいへん)な善人(ぜんにん)になるか、295悪人(あくにん)になるか、296先(さき)を見(み)て居(を)らねば分(わか)るまい。297到底(たうてい)親(おや)の力(ちから)では駄目(だめ)だ。298神(かみ)様(さま)にお任(まか)せするが一等(いつとう)だ』
299千代(ちよ)『それが所謂(いはゆる)惟神(かむながら)教育(けういく)ですよ。300貴方(あなた)だつて、301いつも惟神(かむながら)々々(かむながら)と仰有(おつしや)るのですもの』
302松彦(まつひこ)『アハヽヽヽヽ』
303松姫(まつひめ)『オホヽヽヽヽ』
304千代(ちよ)『惟神(かむながら)神(かみ)に任(まか)せば自(おのづか)ら
305松(まつ)の緑(みどり)は千代(ちよ)に栄(さか)ゑむ
306相生(あひおひ)の松(まつ)の下露(したつゆ)日(ひ)を受(う)けて
307生(は)え出(い)でにけり味良(あぢよ)き茸(きのこ)は』
308(大正一一・一二・一二 旧一〇・二四 北村隆光録)
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