霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一〇章 棚卸志(たなおろし)〔一二〇〇〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第45巻 舎身活躍 申の巻 篇:第3篇 裏名異審判 よみ(新仮名遣い):うらないしんぱん
章:第10章 棚卸志 よみ(新仮名遣い):たなおろし 通し章番号:1200
口述日:1922(大正11)年12月12日(旧10月24日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年9月12日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
魔我彦は松姫に振られ、小娘のお千代にも馬鹿にされてむしゃくしゃしていたが、松姫ばかりが女じゃないと負け惜しみに気を取り直し、広間の演壇に登って道の話を講釈しながら若い女信者を物色して悦に入っている。
続いてお寅が登壇し、蠑螈別との痴話喧嘩は棚に上げて澄ました顔で神の道を説いた。そこに、祭官のいでたちをしたお千代がやってくると臆せずに演壇に登り、神に祈願を籠めると講話をはじめ出した。
お千代は親子の縁や恩の大切さから話はじめるが、そのうちに昼間から酒におぼれる蠑螈別への苦言をあからさまに語り、教祖の行いがどうであれ主の神を敬愛するようにと伝え、檀を下りるとしずしずと松姫の館に帰って行った。
蠑螈別の醜態をお千代の口から聞いた信者たちはガヤガヤとどよめき渡り、教団の人物論に花を咲かせていた。
群衆の中から熊公と名乗る赤ら顔の四十男が立ち上がり、自分は今まで騙されていた、ウラナイ教はうその教えだなどと怒鳴り始めた。お寅はそれを聞きつけて熊公を懐柔しようとし、教団の実態を見せて誤解を解くと言って、信者たちのどよめきが収まらない広間を後にして奥へ連れてきた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-02-26 19:01:14 文字数:6532 OBC :rm4510
愛善世界社版:161頁 八幡書店版:第8輯 308頁 修補版: 校定版:169頁 普及版:63頁 初版: ページ備考:
001恋(こひ)に破(やぶ)れし魔我彦(まがひこ)は
002曲(まが)つた腰(こし)をピヨコピヨコと
003前後(ぜんご)左右(さいう)に振(ふ)り乍(なが)ら
004右手(めて)にて額(ひたひ)を打叩(うちたた)き
005左手(ゆんで)の手(て)のひら上(うへ)に向(む)け
006乞食(こじき)が物(もの)を貰(もら)うよな
007其(その)腰付(こしつき)も面白(おもしろ)く
008腹立(はらだ)たしさと阿呆(あはう)らしさ
009お千代(ちよ)の小女郎(こめらう)に笑(わら)はれて
010己(おのれ)クソとは思(おも)へ共(ども)
011子供(こども)上(あが)りの女(をんな)をば
012相手(あひて)にするのも気(き)が利(き)かぬ
013大人気(おとなげ)ないと笑(わら)はれちや
014魔我彦(まがひこ)司(つかさ)の男(をとこ)ぶり
015箔(はく)がサツパリ剥(はげ)るだろ
016勘忍(かんにん)するのは無事(ぶじ)長久(ちやうきう)
017怒(いか)るは自滅(じめつ)を招(まね)くぞと
018蠑螈別(いもりわけ)さまが仰有(おつしや)つた
019俺(おれ)も男(をとこ)ぢや腹帯(はらおび)を
020確(しつか)り締(し)めてきばらうか
021イヤ待(ま)て暫(しば)しまて暫(しば)し
022善(ぜん)と悪(あく)との境目(さかひめ)だ
023腹(はら)の虫(むし)奴(め)がムクムクと
024おこれおこれと教唆(けうさ)する
025此(この)仲裁(ちうさい)は中々(なかなか)に
026お寅(とら)婆(ば)アさまの侠客(けふかく)も
027一寸(ちよつと)容易(ようい)に治(をさ)まらぬ
028あゝ是非(ぜひ)もない是非(ぜひ)もない
029善(ぜん)と悪(あく)とのまん中(なか)を
030進(すす)んで行(ゆ)かうかオヽさうぢや
031それなら虫(むし)がチと計(ばか)り
032得心(とくしん)致(いた)すに違(ちがひ)ない
033なぞと小声(こごゑ)に囁(ささや)きつ
034畳(たたみ)けちらし棕櫚箒(しゆろばうき)
035足(あし)に引(ひつ)かけエヽ邪魔(じやま)な
036俺(おれ)の進路(しんろ)を妨(さまた)げる
037恋(こひ)ふき払(はら)ふ此(この)箒(はうき)
038頼(たの)みもせぬに横(よこ)たはり
039箒(はうき)に箒(はうき)に憚(はばか)りさま
040俺(おれ)には俺(おれ)の覚悟(かくご)ある
041松姫(まつひめ)計(ばか)りが世(よ)の中(なか)に
042決(けつ)して女(をんな)ぢやあらうまい
043此(この)神殿(しんでん)に集(あつ)まつた
044老若(らうにやく)男女(なんによ)の其(その)中(なか)に
045俺(おれ)の眼(まなこ)に叶(かな)ひたる
046ナイスが居(を)るかも分(わか)らない
047首実検(くびじつけん)と囁(ささや)きつ
048演壇(えんだん)めがけてスタスタと
049息(いき)をはづませ駆上(かけのぼ)り
050エヘンとすました咳払(せきばら)ひ
051コツプの湯(ゆ)をばグツと呑(の)み
052片手(かたて)に白扇(はくせん)ひン握(にぎ)り
053卓(たく)を二三度(にさんど)叩(たた)きつつ
054一統(いつとう)の信者(しんじや)を打(うち)ながめ
055眼(まなこ)を光(ひか)らす折(をり)もあれ
056後(うしろ)の方(かた)に扣(ひか)えたる
057二八余(にはちあま)りの優姿(やさすがた)
058一寸(ちよつと)美(うる)はしう見(み)えてゐる
059女(をんな)に視線(しせん)を集注(しふちう)し
060首(くび)をかたげて打(うち)まもる
061其(その)スタイルは夏(なつ)の蛇(へび)
062蛙(かはづ)を狙(ねら)ふ如(ごと)くなり
063異様(いやう)の姿(すがた)に一同(いちどう)は
064合点(がてん)行(ゆ)かずと打仰(うちあふ)ぎ
065思(おも)はず視線(しせん)は魔我彦(まがひこ)に
066一度(いちど)にドツと集注(しふちう)し
067面(おもて)をてらし迫(せま)れ共(ども)
068以前(いぜん)のナイスは何故(なにゆゑ)か
069顔(かほ)をかくしてうづくまり
070根(ね)つから視線(しせん)を魔我彦(まがひこ)に
071向(む)けよとせないもどかしさ
072又(また)もやエヘンと咳払(せきばらひ)
073コツプの湯(ゆ)をばグツと呑(の)み
074講談師(かうだんし)気取(きどり)で扇(あふぎ)にて
075パチパチ卓(たく)を打(う)ち乍(なが)ら
076皆(みな)さま能(よ)うこそ御(ご)参詣(さんけい)
077ウラナイ教(けう)の神(かみ)様(さま)の
078血縁(けつえん)深(ふか)き方々(かたがた)よ
079此(この)魔我彦(まがひこ)が説教(せつけう)を
080謹(つつし)みお聞(き)き遊(あそ)ばせよ
081同(おな)じ一堂(いちだう)に集(あつ)まつて
082尊(たふと)き神(かみ)の御教(みをしへ)を
083説(と)かして頂(いただ)く魔我彦(まがひこ)も
084又(また)聞(き)きなさる皆(みな)さまも
085仁慈(じんじ)の神(かみ)の引合(ひきあは)せ
086深(ふか)い御縁(ごえん)があらばこそ
087同(おな)じ時代(じだい)に生(うま)れ来(き)て
088同(おな)じ地上(ちじやう)に住(す)み乍(なが)ら
089血縁(けつえん)なくば一言(ひとこと)も
090尊(たふと)き神(かみ)の御教(みをしへ)が
091聞(き)かれず一生(いつしやう)送(おく)るもの
092何程(なにほど)あるか知(し)れませぬ
093之(これ)を思(おも)へば皆(みな)さまは
094私(わたし)と共(とも)に神(かみ)様(さま)の
095御霊(みたま)の因縁(いんねん)性来(しやうらい)で
096集(あつ)まり来(き)たのに違(ちがひ)ない
097一樹(いちじゆ)の蔭(かげ)の雨(あま)やどり
098一河(いちが)の流(なが)れを汲(く)むさへも
099深(ふか)いえにしと聞(き)きまする
100大慈(だいじ)大悲(だいひ)の神(かみ)様(さま)の
101集(あつ)まり玉(たま)ふ聖場(せいぢやう)で
102げに暖(あたたか)き御(おん)恵(めぐ)み
103ピヨピヨピヨと雛鳥(ひなどり)が
104親(おや)の羽(は)がひにつつまれて
105一蓮(いちれん)托生(たくしやう)勇(いさ)み立(た)ち
106生育(せいいく)するよな有難(ありがた)き
107皆(みな)さま御恩(ごおん)を忘(わす)れずに
108信(しん)と愛(あい)との正道(まさみち)を
109お尽(つく)しなされ神(かみ)様(さま)は
110必(かなら)ず吾(われ)等(ら)の霊(みたま)をば
111愛(あい)して救(すく)ひ玉(たま)ふべし
112夫婦(めをと)の道(みち)も其(その)通(とほ)り
113因縁(いんねん)なくては何(ど)うしても
114神(かみ)の生宮(いきみや)造(つく)り出(だ)す
115尊(たふと)き神業(しんげふ)出来(でき)ませぬ
116此(この)魔我彦(まがひこ)も独身者(ひとりもの)
117未(ま)だ女房(にようばう)はなけれ共(ども)
118いよいよ時節(じせつ)が到来(たうらい)し
119妹(いも)となるべき御(ご)信者(しんじや)が
120ここにも一人(ひとり)現(あら)はれた
121好(す)きでも厭(いや)でも神(かみ)様(さま)が
122お定(き)めなさつた縁(えん)ならば
123決(けつ)して反(そむ)きは出来(でき)ませぬ
124皆(みな)さまそこを合点(がてん)して
125今(いま)魔我彦(まがひこ)が引(ひき)はなす
126白羽(しらは)の征矢(そや)が立(た)つた人(ひと)
127否応(いやおう)なしに神(かみ)様(さま)の
128其(その)御心(みこころ)に服従(ふくじゆう)し
129信(しん)と愛(あい)とを完全(くわんぜん)に
130お守(まも)りなされ惟神(かむながら)
131神(かみ)の命令(めいれい)を畏(かしこ)みて
132一同(いちどう)の方(かた)に気(き)を付(つ)ける
133私(わたし)の妻(つま)となる人(ひと)は
134どうやら此(この)場(ば)に現(あら)はれて
135恥(はづ)かし相(さう)に顔(かほ)そむけ
136思案(しあん)にくれて居(を)られます
137これこれモウシそこの人(ひと)
138神(かみ)の道(みち)をば守(まも)るなら
139何(なん)の遠慮(ゑんりよ)がいるものか
140決(けつ)して恥(はづか)しことはない
141ウラナイ教(けう)の副教主(ふくけうしゆ)
142魔我彦(まがひこ)司(つかさ)の奥(おく)さまと
143なつて数多(あまた)の信者(しんじや)をば
144天国(てんごく)浄土(じやうど)に誘(さそ)ひ上(あ)げ
145救(すく)ひ助(たす)くる正業(まさわざ)に
146夫婦(ふうふ)並(なら)びて仕(つか)ふるは
147天下(てんか)に此上(こよ)なき光栄(くわうえい)ぞ
148人(ひと)は決心(けつしん)が第一(だいいち)だ
149世間(せけん)の人(ひと)に胡魔(ごま)かされ
150神(かみ)の結(むす)んだ縁(えにし)をば
151むげにするよな事(こと)あらば
152其(その)御(おん)方(かた)は一生(いつしやう)の間(あひだ)
153鰥寡(くわんくわ)孤独(こどく)の境遇(きやうぐう)に
154泣(な)かねばならぬ神(かみ)の罰(ばつ)
155ここの道理(だうり)を汲(く)み分(わ)けて
156魔我彦(まがひこ)司(つかさ)の云(い)ふ事(こと)を
157どなたに限(かぎ)らず喜(よろこ)んで
158お受(う)けなさるが神(かみ)様(さま)に
159対(たい)して孝行(かうかう)といふものだ
160あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
161神(かみ)に誓(ちか)ひて魔我彦(まがひこ)が
162誠(まこと)の道(みち)を伝(つた)へおく
163私(わたし)は之(これ)から降壇(かうだん)し
164次(つぎ)のお先生(せんせい)はお寅(とら)さま
165尊(たふと)き話(はなし)をトツクリと
166聞(き)いてドツサリ神徳(しんとく)を
167頂(いただ)きなされや皆(みな)の人(ひと)
168なぞと口(くち)から出放題(ではうだい)
169恋(こひ)の野望(やばう)を達(たつ)せむと
170神(かみ)を松魚節(かつぶし)に引出(ひきだ)して
171説(と)きまくるこそづうづうしけれ。
172○
173蠑螈別(いもりわけ)と奥(おく)の間(ま)で
174犬(いぬ)さへ喰(く)はぬ痴話(ちわ)喧嘩(げんくわ)
175心(こころ)ゆくまで意茶(いちや)ついて
176腕(かひな)を抓(つめ)る鼻(はな)ねぢる
177ドスンと倒(たふ)れて目(め)をまはす
178前代(ぜんだい)未聞(みもん)の大珍事(だいちんじ)
179乱痴気(らんちき)騒(さわ)ぎをやり乍(なが)ら
180そ知(し)らぬ顔(かほ)をよそほひつ
181衣服(いふく)を着飾(きかざ)り襟(えり)正(ただ)し
182神官扇(しんくわんあふぎ)を右手(めて)に持(も)ち
183紫袴(むらさきばかま)をバサバサと
184音(おと)させ乍(なが)ら広前(ひろまへ)を
185臭(くさ)い顔(かほ)して悠々(いういう)と
186進(すす)み来(く)るのはウラナイの
187第一番(だいいちばん)の熱心者(ねつしんじや)
188内事(ないじ)の司(つかさ)と選(えら)まれし
189艮(うしとら)婆(ば)サンの御(ご)登壇(とうだん)
190お寅(とら)は悠々(いういう)壇上(だんじやう)に
191つつ立(た)ち眼下(がんか)の群集(ぐんしふ)を
192隅(すみ)から隅(すみ)迄(まで)見(み)まはして
193オホンと一声(ひとこゑ)咳払(せきばらひ)
194錫(すず)の瓶(びん)から水(みづ)をつぎ
195左手(ゆんで)にコツプをひつつかみ
196グツと一口(ひとくち)呑(の)みほして
197今度(こんど)はエヘンと咳払(せきばらひ)
198お寅(とら)は口(くち)をあけて云(い)ふ
199皆(みな)さま能(よ)うこそ御(ご)参詣(さんけい)
200さぞ神(かみ)様(さま)もお喜(よろこ)び
201遊(あそ)ばしまして御(ご)神徳(しんとく)
202ドツサリ渡(わた)してくれませう
203蠑螈別(いもりわけ)の教祖(けうそ)さま
204登壇(とうだん)遊(あそ)ばすとこなれど
205神界(しんかい)御用(ごよう)が御(ご)多忙(たばう)で
206数多(あまた)の神(かみ)の御(ご)入来(にふらい)
207お酒(さけ)の接待(せつたい)忙(いそが)しく
208あつちや向(む)いてこつちや向(む)くひまもない
209さうだと申(まを)して神(かみ)様(さま)の
210定(さだ)めおかれた説教日(せつけうび)
211欠席(けつせき)するのも如何(いかが)なり
212お寅(とら)よお前(まへ)は御(ご)苦労(くらう)だが
213私(わたし)に代(かは)つて一席(いつせき)の
214尊(たふと)き神(かみ)のお話(はなし)を
215一同(いちどう)様(さま)にねもごろに
216聞(き)かしてくれよと御(ご)託宣(たくせん)
217否(いな)むに由(よし)なく此(この)婆(ばば)も
218無調法(ぶてうはふ)者(もの)とは知(し)り乍(なが)ら
219何(なに)を言(い)うても神柱(かむばしら)
220蠑螈別(いもりわけ)の御(ご)命令(めいれい)
221お受(う)け申(まを)して今(いま)ここに
222登壇(とうだん)したよな次第(しだい)です
223抑(そもそ)も神(かみ)の御(おん)道(みち)を
224信仰(しんかう)するのは人間(にんげん)の
225僅(わづか)百(ひやく)年(ねん)二百(にひやく)年(ねん)
226三百(さんびやく)年(ねん)の生命(せいめい)を
227安全(あんぜん)無事(ぶじ)に暮(くら)さうと
228するよな小(ちひ)さいことでない
229万劫(まんごふ)末代(まつだい)生(い)き通(とほ)し
230夜(よる)なく冬(ふゆ)なき天界(てんかい)の
231神(かみ)のまします霊(れい)の国(くに)
232天人(てんにん)共(ども)が永久(とことは)に
233不老(ふらう)と不死(ふし)を楽(たの)しんで
234栄(さか)えて暮(くら)す天国(てんごく)へ
235此(この)世(よ)を去(さ)つた其(その)後(のち)は
236直(ただち)に救(すく)はれ導(みちび)かれ
237五風(ごふう)十雨(じふう)の序(ついで)よく
238風(かぜ)は自然(しぜん)の音楽(おんがく)を
239無限(むげん)に奏(かな)で山(やま)や野(の)の
240草木(くさき)は自然(しぜん)の舞踏(ぶたふ)をば
241楽(たの)しみくらすパラダイス
242其(その)天国(てんごく)に救(すく)はれて
243千代(ちよ)に八千代(やちよ)に永久(とこしへ)に
244時間(じかん)空間(くうかん)超越(てうゑつ)し
245限(かぎ)りも知(し)らぬ楽(たのし)みを
246受(う)くるが為(ため)の信仰(しんかう)ぞや
247蠑螈別(いもりわけ)の教祖(けうそ)は
248高天原(たかあまはら)の霊国(れいごく)の
249神(かみ)の遣(つか)はせしエンゼルよ
250此(この)エンゼルの言(こと)の葉(は)は
251此(この)世(よ)を造(つく)り玉(たま)ひたる
252誠(まこと)の神(かみ)のぢきぢきの
253其(その)お言葉(ことば)も同(おな)じこと
254必(かなら)ず疑(うたが)ひ遊(あそ)ばすな
255智慧(ちゑ)なき人(ひと)の身(み)を以(もつ)て
256尊(たふと)き神(かみ)の言(こと)の葉(は)を
257審判(さばき)するこた出来(でき)ませぬ
258仮令(たとへ)蠑螈別(いもりわけ)さまが
259山逆(やまさか)さまに登(のぼ)れよと
260無理(むり)なことをば云(い)はれても
261決(けつ)して反(そむ)いちやなりませぬ
262只(ただ)何事(なにごと)も信仰(しんかう)が
263最第一(さいだいいち)の助(たす)け船(ぶね)
264此(この)世(よ)の泥(どろ)に漂(ただよ)へる
265賤(いや)しき吾々(われわれ)人間(にんげん)は
266何(なん)と云(い)つても神(かみ)様(さま)の
267救(すく)ひの御手(みて)に助(たす)けられ
268一寸先(いつすんさき)の見(み)えわかぬ
269夢(ゆめ)のうき世(よ)を安々(やすやす)と
270渡(わた)り行(ゆ)くのがウラナイの
271神(かみ)の信徒(しんと)の務(つと)めです
272どうぞ皆(みな)さま此(この)婆(ばば)の
273今(いま)云(い)ふことを疑(うたが)はず
274神(かみ)の教(をしへ)を喜(よろこ)んで
275此(この)世(よ)に生(い)きて御子(みこ)を生(う)み
276又(また)天国(てんごく)に昇(のぼ)りては
277常世(とこよ)の春(はる)の栄(さか)えをば
278楽(たの)しむやうに信仰(しんかう)を
279強(つよ)くお励(はげ)みなされませ
280不束者(ふつつかもの)が現(あら)はれて
281訳(わけ)の分(わか)つた皆(みな)さまに
282脱線(だつせん)だらけの説教(せつけう)を
283申上(まをしあ)げたはすまないが
284心(こころ)をひそめ胸(むね)に手(て)を
285あてて考(かんが)へなさるなら
286どこか取(と)るべき所(とこ)がある
287老婆(らうば)の話(はなし)と卻(しりぞ)けず
288直日(なほひ)に見直(みなほ)し聞直(ききなほ)し
289大神徳(だいしんとく)を身(み)と魂(たま)に
290十分(じふぶん)お受(う)けなされませ
291国治立(くにはるたち)の大御神(おほみかみ)
292五六七(みろく)成就(じやうじゆ)の大御神(おほみかみ)
293旭(あさひ)の豊栄昇(とよさかのぼり)姫(ひめ)
294左(ひだり)の脇立(わきだち)ユラリ彦(ひこ)
295其(その)妻神(つまがみ)の上義姫(じやうぎひめ)
296それに続(つづ)いて義理(ぎり)天上(てんじやう)
297日出(ひのでの)神(かみ)は云(い)ふも更(さら)
298リントウビテン大御神(おほみかみ)
299木曽(きそ)義姫(よしひめ)の大御神(おほみかみ)
300生羽(いきば)神社(じんしや)の大御神(おほみかみ)
301岩照姫(いはてるひめ)の大御神(おほみかみ)
302日(ひ)の丸姫(まるひめ)の大御神(おほみかみ)
303大将軍(だいしやうぐん)や常世姫(とこよひめ)
304ヘグレ神社(じんしや)の大御神(おほみかみ)
305種物(たねもの)神社(じんしや)御(ご)夫婦(ふうふ)の
306御前(みまへ)に謹(つつし)み艮(うしとら)が
307尊(たふと)き教(をしへ)を皆(みな)さまに
308無事(ぶじ)に伝(つた)へた御(おん)礼(れい)を
309畏(かしこ)み畏(かしこ)み申(まを)します
310御(ご)一同(いちどう)様(さま)左様(さやう)ならと
311一寸(ちよつと)会釈(ゑしやく)を施(ほどこ)して
312神官扇(しんくわんあふぎ)を斜(しや)にかまへ
313口(くち)をへの字(じ)に結(むす)びつつ
314ツンとすまして衣摺(きぬずれ)の
315音(おと)サワサワと帰(かへ)りゆく。
316斯(か)かる所(ところ)へスタスタと
317やつて来(き)たのはお千代(ちよ)さま
318蕾(つぼみ)の花(はな)の優姿(やさすがた)
319白装束(しろしやうぞく)に緋(ひ)の袴(はかま)
320ふり分(わ)け髪(がみ)を背(せ)にたらし
321小(ちひ)さき扇(あふぎ)を右手(めて)に持(も)ち
322おめずおくせず演壇(えんだん)に
323悠々(いういう)登(のぼ)りテーブルの
324下(した)から顔(かほ)を突出(つきだ)して
325紅葉(もみぢ)のやうな手(て)を合(あは)せ
326神(かみ)に祈願(きぐわん)をこめ終(をは)り
327一同(いちどう)の信者(しんじや)に打向(うちむか)ひ
328コマしやくれたる口元(くちもと)で
329神(かみ)の教(をしへ)を説(と)き始(はじ)む
330其(その)有様(ありさま)の愛(あい)らしさ
331老若(らうにやく)男女(なんによ)は肝(きも)つぶし
332目(め)を見(み)はりつつ乙女子(をとめご)の
333口(くち)の開(ひら)くを待(ま)ちゐたり
334満座(まんざ)の信者(しんじや)一同(いちどう)様(さま)
335私(わたし)は神(かみ)の神徳(しんとく)を
336力(ちから)に一口(ひとくち)お話(はなし)を
337覚束(おぼつか)乍(なが)ら皆様(みなさま)に
338言(こと)ときさして貰(もら)ひます
339此(この)世(よ)の中(なか)で一番(いちばん)に
340尊(たふと)い者(もの)は神(かみ)の愛(あい)
341それに続(つづ)いて親(おや)の愛(あい)
342愛(あい)がなければ世(よ)の中(なか)は
343殺風景(さつぷうけい)の修羅(しゆら)場裡(ぢやうり)
344地獄(ぢごく)畜生(ちくしやう)餓鬼道(がきだう)が
345忽(たちま)ち出現(しゆつげん)致(いた)します
346私(わたし)は不運(ふうん)な生(うま)れつき
347父(ちち)と母(はは)との行方(ゆくへ)をも
348知(し)らずに十二(じふに)の今日(けふ)迄(まで)も
349人(ひと)の情(なさけ)に助(たす)けられ
350此(この)世(よ)を送(おく)つて参(まゐ)りました
351山(やま)より高(たか)き父(ちち)の恩(おん)
352海(うみ)より深(ふか)き母(はは)の恩(おん)
353育(そだ)ての親(おや)の高恩(かうおん)は
354これにもましていや高(たか)く
355ますます深(ふか)きものですよ
356ウラナイ教(けう)の神(かみ)様(さま)に
357お参(まゐ)りなさるお寅(とら)さま
358いと親切(しんせつ)に私(わたくし)を
359これの聖場(せいぢやう)に導(みちび)いて
360尊(たふと)き神(かみ)の御教(みをしへ)を
361心(こころ)に刻(きざ)んで下(くだ)さつた
362其(その)お恵(めぐ)みは吾(わが)身(み)をば
363生(う)み玉(たま)ひたる父母(ちちはは)に
364百倍(ひやくばい)まして有難(ありがた)い
365御恩(ごおん)と仰(あふ)いで居(を)りまする
366茲(ここ)に並(なら)んだ皆様(みなさま)も
367父(ちち)と母(はは)との御恩(ごおん)をば
368いと有難(ありがた)く思(おも)ふなら
369それにもましていや高(たか)く
370ますます深(ふか)き神(かみ)の恩(おん)
371お悟(さと)りなさるに違(ちがひ)ない
372さは去(さ)り乍(なが)ら神(かみ)様(さま)に
373如何(いか)なる愛(あい)がゐます共(とも)
374如何(いか)なる力(ちから)がおはす共(とも)
375其(その)神徳(しんとく)を吾々(われわれ)に
376取次(とりつ)ぎ遊(あそ)ばす神司(かむつかさ)
377なけねば縁(えにし)は結(むす)ばれぬ
378之(これ)を思(おも)へばウラナイの
379蠑螈別(いもりわけ)の教祖(けうそ)さまは
380吾(われ)等(ら)を神(かみ)に導(みちび)いた
381御恩(ごおん)の深(ふか)き神柱(かむばしら)
382如何(いか)なることをなさつても
383親(おや)と主人(しゆじん)は無理(むり)をいふ
384ものだと諦(あきら)めをればよい
385とは云(い)ふものの教祖(おや)様(さま)を
386大事(だいじ)と思(おも)ふ人(ひと)あらば
387面(おもて)を冒(おか)して教祖(おや)さまを
388一(ひと)つ改心(かいしん)なさるよに
389にがい言霊(ことたま)打出(うちいだ)し
390御恩(ごおん)を返(かへ)して下(くだ)さんせ
391それが誠(まこと)の信者(しんじや)さまの
392神(かみ)にささぐる務(つと)めぞや
393私(わたし)がこんなこといへば
394至仁(しじん)至愛(しあい)の教祖(おや)さまを
395悪口(あくこう)申(まを)すと思召(おぼしめ)せど
396決(けつ)してさうではありませぬ
397天地(てんち)の神(かみ)が沢山(たくさん)に
398肉(にく)のお宮(みや)に出入(ではい)りを
399なさると甘(うま)い理屈(りくつ)つけ
400朝(あさ)から晩(ばん)までドブ酒(ざけ)を
401呑(の)んで胃腸(ゐちやう)を損害(そんがい)し
402顔(かほ)の色(いろ)まであせはてて
403青白(あをじろ)うなつて居(を)りまする
404お酒(さけ)を呑(の)めば顔色(がんしよく)が
405赤(あか)くなるのが当前(あたりまへ)
406蠑螈別(いもりわけ)の神(かみ)さまは
407呑(の)めば呑(の)む程(ほど)青(あを)くなる
408これは全(まつた)くアル中(ちう)の
409証兆(しようてう)なりと見(み)なすより
410外(ほか)に判断(はんだん)つきませぬ
411酒(さけ)ほど悪(わる)いものはない
412徳利(とくり)は踊(をど)る膳(ぜん)はとぶ
413ふすまはこける盃(さかづき)は
414木端(こつぱ)みぢんにふみ砕(くだ)く
415らんちき騒(さわ)ぎが起(おこ)るのも
416酒(さけ)と悋気(りんき)のいたづらだ
417蠑螈別(いもりわけ)は云(い)ふも更(さら)
418魔我彦(まがひこ)さまやお寅(とら)さま
419口(くち)の先(さき)ではエラ相(さう)に
420立派(りつぱ)なことを云(い)うたとて
421言行(げんかう)一致(いつち)でない上(うへ)は
422どうして権威(けんゐ)がありませう
423知(し)らぬお方(かた)のお耳(みみ)には
424殊勝(しゆしよう)らしくも聞(きこ)えませうが
425其(その)内幕(ないまく)を知悉(ちしつ)した
426私(わたし)の耳(みみ)に層一層(そういつそう)
427滑稽(こつけい)至極(しごく)に聞(きこ)えます
428あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
429神(かみ)が表(おもて)に現(あら)はれて
430善(ぜん)を表(おもて)に標榜(へうぼう)し
431ひそかに悪(あく)を敢行(かんかう)し
432此(この)世(よ)を欺(あざむ)く曲人(まがびと)を
433大鉄槌(だいてつつい)を下(くだ)されて
434いましめ玉(たま)へ天地(あめつち)の
435恵(めぐみ)の神(かみ)の御(おん)前(まへ)に
436謹(つつし)み敬(うやま)ひねぎまつる
437朝日(あさひ)は照(て)る共(とも)曇(くも)る共(とも)
438月(つき)は盈(み)つ共(とも)虧(か)くる共(とも)
439星(ほし)は天(てん)より墜(お)つる共(とも)
440神(かみ)の教(をしへ)は皆(みな)さまよ
441決(けつ)して捨(す)てちやなりませぬ
442仮令(たとへ)教祖(けうそ)の行(おこな)ひが
443神(かみ)の心(こころ)に反(そむ)く共(とも)
444曲津(まがつ)の器(うつは)であらう共(とも)
445此(この)世(よ)の元(もと)の神(かみ)様(さま)に
446決(けつ)して変(かは)りはありませぬ
447此(この)世(よ)に形(かたち)を現(あら)はした
448人(ひと)をたよりになさらずに
449肉眼(にくがん)にては見(み)えざれど
450確(たしか)にゐます主(す)の神(かみ)を
451敬(うやま)ひ愛(あい)し且(か)つ信(しん)じ
452たゆまず屈(くつ)せず信仰(しんかう)を
453励(はげ)ませ玉(たま)へと乙女子(をとめご)の
454をさなき身(み)をも省(かへり)みず
455一同(いちどう)に伝(つた)へまゐらせる
456あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
457御霊(みたま)幸倍(さちはへ)ましませよ。
458とお千代(ちよ)は両親(りやうしん)に会(あ)つた嬉(うれ)しさに勇気(ゆうき)百倍(ひやくばい)し、459小(こ)ざかしくも思(おも)ひ切(き)つて、460大胆(だいたん)に無遠慮(ぶゑんりよ)に日頃(ひごろ)の所感(しよかん)を残(のこ)らずさらけ出(だ)して了(しま)ひ、461悠々(いういう)として壇(だん)を降(くだ)り、462一同(いちどう)に軽(かる)き目礼(もくれい)を施(ほどこ)し乍(なが)ら、463松姫(まつひめ)の館(やかた)を指(さ)して徐々(しづしづ)帰(かへ)り行(ゆ)く。
464 お千代(ちよ)の乙女(をとめ)の口(くち)から遺憾(ゐかん)なく曝露(ばくろ)された蠑螈別(いもりわけ)教祖(けうそ)の醜体(しうたい)を始(はじ)めて耳(みみ)にした信者(しんじや)も少(すくな)くなかつた。465何(いづ)れも案(あん)に相違(さうゐ)な面持(おももち)で、466ガヤガヤとぞよめき渡(わた)り、467蠑螈別(いもりわけ)、468お寅(とら)婆(ば)アさま、469魔我彦(まがひこ)、470お千代(ちよ)などの人物(じんぶつ)比較論(ひかくろん)に花(はな)を咲(さ)かした。471群集(ぐんしふ)の中(なか)より赤(あか)ら顔(がほ)の四十(しじふ)男(をとこ)ムツクと立上(たちあが)り、
472(熊公)『皆(みな)さま、473私(わたくし)は酔(よひ)どれの熊公(くまこう)といはれ、474ウラル教(けう)の信者(しんじや)で厶(ござ)いました。475そした所(ところ)、476ウラル教(けう)は御存(ごぞん)じか知(し)りませぬが、477呑(の)めや騒(さわ)げよ一寸先(いつすんさき)や暗(やみ)よ……といふおつな教(をしへ)でげす。478随分(ずゐぶん)朝(あさ)から晩(ばん)までデツカンシヨ デツカンシヨで山(やま)を呑(の)み、479先祖(せんぞ)ゆづりの田畑(てんぱた)を呑(の)み、480家(いへ)を呑(の)み、481倉(くら)を呑(の)み、482何(なに)もかもスツカリコンと未練(みれん)の残(のこ)らぬ様(やう)に、483胃(ゐ)の腑(ふ)のタンクに格納(かくなふ)して了(しま)つたのです。484余(あま)り酒(さけ)を呑(の)むので、485女房(にようばう)は子供(こども)をつれて、486親(おや)の里(さと)へ帰(かへ)り、487酔(よひ)どれの熊公(くまこう)も独身(ひとりみ)の淋(さび)しさ、488フトしたことから、489人(ひと)に誘(さそ)はれてウラナイ教(けう)に入信(にふしん)致(いた)しました。490ウラナイ教(けう)は誠(まこと)に行(おこな)ひのよい教(をしへ)で、491天下(てんか)太平(たいへい)上下(じやうか)一致(いつち)、492争(あらそ)ひもなく恨(うらみ)もなく、493又(また)教祖(けうそ)様(さま)はお酒(さけ)が好(す)きださうだが、494少(すこ)しも辛抱(しんばう)しておあがり遊(あそ)ばさず、495自分(じぶん)の口(くち)へ入(い)れても皆(みな)神(かみ)様(さま)がおあがりになり、496自分(じぶん)は一滴(いつてき)もおあがりにならぬものと聞(き)いてゐました。497そした所(ところ)が豈(あに)図(はか)らむや、498今(いま)のお千代(ちよ)さまのお話(はなし)に承(うけたま)はれば、499朝(あさ)から晩(ばん)迄(まで)神(かみ)様(さま)を出汁(だし)にズブ六(ろく)に酔(よ)うて厶(ござ)るといふ事(こと)です。500子供(こども)は正直(しやうぢき)だから、501滅多(めつた)に間違(まちがひ)はありますまい、502エヽ馬鹿(ばか)らしい今(いま)までだまされて居(を)つたと思(おも)へば腹(はら)が立(た)ちますわ、503私(わたし)は別(べつ)に人間(にんげん)を信仰(しんかう)してるのでないから、504神(かみ)様(さま)を信(しん)じて居(を)れば能(よ)いといふ様(やう)なものの、505神(かみ)の御(お)取次(とりつぎ)たる教祖(けうそ)其(その)他(た)の幹部(かんぶ)の役員(やくゐん)が、506朝(あさ)から晩(ばん)迄(まで)、507人(ひと)の膏血(かうけつ)を絞(しぼ)つて、508酒(さけ)にくらひ酔(よ)つてゐるとは誠(まこと)に怪(け)しからぬでは厶(ござ)らぬか、509これでもあなた方(がた)は此(この)教(をしへ)を信仰(しんかう)致(いた)しますか。510口(くち)で何程(なにほど)立派(りつぱ)なことを云(い)つても、511行(おこな)ひの出来(でき)ぬ先生(せんせい)を手本(てほん)とすれば、512ヤツパリ品行(ひんかう)が悪(わる)うなります。513お前(まへ)さま達(たち)も大切(たいせつ)な息子(むすこ)や娘(むすめ)をお持(も)ちでせうが、514こんなこと教(をし)へられうものなら、515其(その)害(がい)の及(およ)ぶ所(ところ)、516一家(いつか)は申(まを)すに及(およ)ばず、517天下(てんか)の害毒(がいどく)になりますよ』
518と奥(おく)の間(ま)に聞(きこ)えよがしに大声(おほごゑ)に呶鳴(どな)り立(た)ててゐる。519お寅(とら)は此(この)声(こゑ)を聞(きき)つけ慌(あわ)ただしく走(はし)り来(きた)り、
520お寅(とら)『モシモシ熊(くま)さま、521お腹立(はらだち)は御尤(ごもつと)もだが、522何(なに)を云(い)つても子供(こども)の申(まを)したこと、523取上(とりあ)げるといふことがありますかいな。524あんたハンも立派(りつぱ)な男(をとこ)でゐ乍(なが)ら、525あんな小娘(こむすめ)の云(い)ふことを真(ま)に受(う)けて怒(おこ)るなんて、526ヘヽヽヽヽ、527本当(ほんたう)にやさしい方(かた)だなア、528こんな優(やさ)しい男(をとこ)だつたら、529私(わたし)もチと若(わか)ければ一苦労(ひとくらう)するのだけれどなア、530本当(ほんたう)に憎(にく)らしい程(ほど)可愛(かあい)いワ』
531と平手(ひらて)でピシヤピシヤと頬辺(ほほべた)をなぐりつける。
532熊公(くまこう)『コリヤ、533ナヽ何(なに)をさらす、534失礼(しつれい)だないか、535俺(おれ)の頬辺(ほほべた)を叩(たた)きやがつたな』
536お寅(とら)『ホヽヽヽヽ、537余(あま)り意気(いき)な男(をとこ)だから、538可愛(かあい)さ余(あま)つて憎(にく)さが百倍(ひやくばい)、539知(し)らぬ間(ま)に手(て)が出(で)たのよ、540サアそんなことを言(い)はずに、541蠑螈別(いもりわけ)様(さま)の所(ところ)へ来(き)て下(くだ)さい。542そすりや神(かみ)様(さま)がお上(あが)り遊(あそ)ばすのか、543教祖(けうそ)がおあがり遊(あそ)ばすか、544分(わか)りませう。545其(その)上(うへ)で皆様(みなさま)に証明(しようめい)して上(あ)げて下(くだ)さい。546お前(まへ)さまも酒(さけ)に苦労(くらう)したお方(かた)だから、547一寸(ちよつと)御覧(ごらん)になつたら、548忽(たちま)ち真偽(しんぎ)がお分(わか)りでせう』
549熊公(くまこう)『ウン、550さう言(い)へば分(わか)つてる、551よし、552そンなら調(しら)べて来(こ)う。553ヤア皆(みな)の信者(しんじや)さま、554どうぞゆつくりとおかげを頂(いただ)きなさいませ。555今(いま)熊公(くまこう)が申上(まをしあ)げたこと、556間違(まちが)つてゐるかゐないかといふことを、557今(いま)お寅(とら)さまに従(つ)いて教祖(けうそ)の居間(ゐま)へ進(すす)み、558検査(けんさ)をした其(その)上(うへ)で、559もしも私(わたし)の云(い)つたことが間違(まちが)つてゐたら取消(とりけ)しますし、560間違(まちが)つて居(を)らなかつたら、561信仰(しんかう)をおやめなさつたが宜(よろ)しからう、562併(しか)し乍(なが)ら信仰(しんかう)は、563貴方(あなた)方(がた)の自由(じいう)だから、564強要(きやうえう)は致(いた)しませぬ』
565お寅(とら)『コレ熊(くま)さま、566野暮(やぼ)なことをいふものだない。567サアゆきませう』
568と怪(あや)しき視線(しせん)を熊公(くまこう)に注(そそ)ぎ、569手首(てくび)を一(いつ)そ力(ちから)入(い)れてきつと握(にぎ)り、570引(ひつ)たくるよにして、571サツサと此(この)場(ば)を立(た)つて行(ゆ)く。572あとには数多(あまた)の老若(らうにやく)男女(なんによ)、573口々(くちぐち)にザワザワとぞよめきつてゐる。
574(大正一一・一二・一二 旧一〇・二四 松村真澄録)
575(昭和一〇・六・一一 王仁校正)
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