霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二章 神木(しんぼく)〔一一九二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第45巻 舎身活躍 申の巻 篇:第1篇 小北の特使 よみ(新仮名遣い):こぎたのとくし
章:第2章 神木 よみ(新仮名遣い):しんぼく 通し章番号:1192
口述日:1922(大正11)年12月11日(旧10月23日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年9月12日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
お寅は松彦に向かって河鹿川の川岸の老松を指し、八百万の大神様がお休みする世界一の生き松であり、松彦の本守護神だという。万公がそれを茶化して、またお寅婆さんと言い合いになりながら進んで行く。
お寅は松の木の根に肝心のお仕組場があり、その因縁がわからなければ小北山の因縁がわからないと言って一同を引っ張っていく。松彦はいやいやながら付いていくと、大きな岩に玉垣をめぐらし、切り口の石を畳んで高いところに祀ってある。
そこには蠑螈別の筆跡で「さかえの神政松の御神木」と記してある。五三公がこれは何かと尋ねると、お寅は実のところは素盞嗚尊の生魂をここへ封じ込み、永遠に出てこれないようにしているのだという。
ウラナイ教総出で二十日間も寝ずに大岩を引っ張ってきて、素盞嗚尊の悪神をここに封じ込めたから、三五教は八方ふさがりになった。それで三五教の信者を小北山に引っ張り込もうという蠑螈別の御神策なのだと得意気に説明した。
万公と五三公は怒ってお寅をつかんで引き倒そうとするが、ビクともしない。二人はなぜか大岩を引っ張っており、お寅に馬鹿にされてしまう。
お寅が大門神社へ案内する急坂の途中で、松彦たちは腰を下ろして休息する。お寅は後を振り返って、万公がへたばっているのをなじる歌を歌い、万公はお寅をののしりかえす。一同は一通り歌でやり取りをした後、お寅についていく。
万公と五三公は婆の乙姫だとお寅をそしって一同の笑いを買う。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-02-21 18:21:36 文字数:4209 OBC :rm4502
愛善世界社版:23頁 八幡書店版:第8輯 261頁 修補版: 校定版:24頁 普及版:10頁 初版: ページ備考:
001 お寅(とら)婆(ば)アさまは松彦(まつひこ)に向(むか)ひ河鹿川(かじかがは)の川岸(かはぎし)に枝振(えだぶ)りのよい老松(らうしよう)が蜒々(えんえん)として枝(えだ)を四方(しはう)に広(ひろ)げ川(かは)の上(うへ)にヌツと突(つ)き出(で)て居(ゐ)るのを指(さ)し、
002お寅(とら)『もし、003末代(まつだい)日(ひ)の王天(わうてん)の大神(おほかみ)の生宮(いきみや)様(さま)、004あの松(まつ)を御覧(ごらん)なさいませ。005立派(りつぱ)なものぢや厶(ござ)りませぬか』
006松彦(まつひこ)『成(な)る程(ほど)、007川(かは)の景色(けしき)と云(い)ひ、008あの枝振(えだぶ)りと云(い)ひ青々(あをあを)とした艶(つや)と云(い)ひ、009実(じつ)に云(い)ひ分(ぶん)のない眺(なが)めですな。010随分(ずゐぶん)鶴(つる)が巣籠(すごも)りをするでせうな』
011お寅(とら)『ハイハイ、012鶴(つる)どころか、013あの松(まつ)には日(ひ)の大神(おほかみ)様(さま)、014月(つき)の大神(おほかみ)様(さま)を初(はじ)め八百万(やほよろづ)の大神(おほかみ)様(さま)がお休(やす)み遊(あそ)ばす世界一(せかいいち)の生松(いきまつ)で厶(ござ)ります。015末代(まつだい)日(ひ)の王天(わうてん)の大神(おほかみ)様(さま)の、016あれが御(ご)神体(しんたい)で厶(ござ)ります』
017松彦(まつひこ)『さうすると、018あの松(まつ)は私(わたし)の御霊(みたま)の変化(へんげ)ではあるまいかな』
019お寅(とら)『滅相(めつさう)な、020変化(へんげ)どころか、021あれが貴方(あなた)の本(ほん)守護神(しゆごじん)ですよ。022時節(じせつ)と云(い)ふものは恐(こは)いものですな。023たうとう生神(いきがみ)様(さま)の貴方(あなた)様(さま)がお越(こ)しなさる様(やう)になつたのだから、024ウラナイ教(けう)は朝日(あさひ)の豊栄昇(とよさかのぼ)り彦(ひこの)命(みこと)になります。025蠑螈別(いもりわけ)の教祖(けうそ)が仰有(おつしや)つた事(こと)は一分(いちぶ)一厘(いちりん)違(ちが)ひませぬがな』
026万公(まんこう)『アハヽヽヽ松彦(まつひこ)さま、027貴方(あんた)は不自由(ふじゆう)な体(からだ)ですな、028いつもあの川辺(かはべ)に水鏡(みづかがみ)ばつかり見(み)て鳶(とんび)鷹(たか)鷲(わし)等(など)に頭(あたま)から糞(ふん)を引(ひ)つかけられ泰然(たいぜん)自若(じじやく)として川端柳(かはばたやなぎ)を気取(きど)つて厶(ござ)るのですな。029道理(だうり)で足(あし)が重(おも)いと思(おも)うて居(ゐ)た。030本(ほん)守護神(しゆごじん)があの松(まつ)の大木(たいぼく)だと分(わか)つての上(うへ)は、031松彦(まつひこ)さまの無精(ぶしやう)なのも、032あながち責(せめ)る訳(わけ)にも行(ゆ)きますまい。033エヘヽヽヽ』
034お寅(とら)『これこれブラリ彦(ひこ)、035又(また)口(くち)八釜(やかま)しい。036左兵衛治(さひやうゑぢ)をするものぢやない』
037万公(まんこう)『これ婆(ばあ)さま、038わしは左兵衛治(さひやうゑぢ)なんて、039そんな老爺(おやぢ)めいた名(な)ぢやありませぬぞ。040万古(まんご)末代(まつだい)生通(いきとほ)しと云(い)ふ生々(いきいき)した万公(まんこう)さまだ。041余(あんま)り見損(みそこな)ひをして貰(もら)ひますまいかい』
042お寅(とら)『オホヽヽヽ何(なん)と頭(あたま)の悪(わる)い男(をとこ)だな。043左兵衛治(さひやうゑぢ)と云(い)つたら差出物(さしでもの)と云(い)ふ事(こと)だ。044何(なん)でもかンでもよく差出(さしで)て邪魔(じやま)ばつかり致(いた)すから、045左兵衛治(さひやうゑぢ)と云(い)つたのだよ。046大松(おほまつ)のお前(まへ)が差出(さしで)る処(ところ)ぢやない、047芋掘奴(いもほりやつこ)めが』
048万公(まんこう)『俺(おれ)や、049あんな大松(おほまつ)とはチツと違(ちが)ふのだ。050なんぼ大松(おほまつ)だつて松(まつ)の寿命(じゆみやう)は千(せん)年(ねん)だ。051此(この)方(はう)は万(まん)年(ねん)の寿命(じゆみやう)を保(たも)つ万公(まんこう)さまだ。052あんまり安(やす)う買(か)うて貰(もら)ひますまいかい』
053お寅(とら)『エーエ、054何(なに)から何(なに)まで教育(けういく)してやらねば訳(わけ)の分(わか)らぬ困(こま)つた男(をとこ)だな。055大松(おほまつ)と云(い)ふ事(こと)は大喰(おほぐひ)人足(にんそく)と云(い)ふ事(こと)の代名詞(だいめいし)だ。056野良(のら)へやれば蕪(かぶら)をぬいて食(く)ふ、057大根(だいこん)をかじる、058人参(にんじん)を喰(く)ふ、059薩摩芋(さつまいも)から南瓜(かぼちや)の生(なま)まで、060噛(か)じる喰(くら)ひぬけだから、061それで大松(おほまつ)と云(い)ふのだ』
062万公(まんこう)『大喰(おほぐ)ひするものを大松(おほまつ)と云(い)ふのは可笑(をか)しいぢやないか。063其(その)言葉(ことば)の起源(きげん)を説明(せつめい)して貰(もら)ひたいものだな』
064お寅(とら)『エーエ、065合点(がてん)の悪(わる)い代物(しろもの)だ、066ライオン川(がは)の杭(くひ)は、067みんな長(なが)い大(おほ)きな奴(やつ)が要(い)るので、068それで大杭(おほくひ)の長杭(ながくひ)と云(い)ふのだ。069その大杭(おほくひ)の長杭(ながくひ)は大松(おほまつ)ぢやなければ出来(でき)ぬのだから大松(おほまつ)と云(い)つたのだよ』
070 万公(まんこう)は妙(めう)な手付(てつき)をして、
071万公(まんこう)『あゝさうでおまつか、072ヘーン、073松彦(まつひこ)さまもさうすると松(まつ)に因縁(いんねん)があるから大松(おほまつ)でせうね』
074お寅(とら)『お前(まへ)の松(まつ)は杭(くひ)になつた松(まつ)だ。075此(この)お方(かた)の松(まつ)は、076あの通(とほ)り生々(いきいき)した生命(せいめい)のある松(まつ)だよ。077万古(まんご)末代(まつだい)生通(いきとほ)しの松(まつ)と、078幹(みき)を切(き)られ枝(えだ)を払(はら)はれ、079年(ねん)が年中(ねんぢう)頭(あたま)を削(けづ)られて逆(さか)トンボリにされ尻(けつ)を叩(たた)かれて、080突(つ)つ込(こ)まれて居(ゐ)る大松(おほまつ)とは、081松(まつ)が違(ちが)ふのだ。082善悪(ぜんあく)混淆(こんかう)して貰(もら)うては大変(たいへん)困(こま)りますわい。083然(しか)し松彦(まつひこ)さま、084あの松(まつ)の木(き)の根元(ねもと)に結構(けつこう)な御(ご)守護(しゆご)がしてあるのだから大門(おほもん)神社(じんしや)に行(ゆ)く迄(まで)に一寸(ちよつと)そこの神(かみ)様(さま)に参拝(さんぱい)して貰(もら)ひたいのです』
085松彦(まつひこ)『あの松(まつ)の根元(ねもと)に神(かみ)様(さま)が祀(まつ)つてあるのですかな』
086お寅(とら)『ハイハイ、087あそこが肝腎(かんじん)な御(お)仕組場(しぐみば)だ。088あの因縁(いんねん)が分(わか)らねば小北山(こぎたやま)の因縁(いんねん)が分(わか)りませぬ。089是非(ぜひ)共(とも)来(き)て貰(もら)ひ度(た)いものです』
090万公(まんこう)『さうすると、091まだ外(ほか)に神(かみ)さまが祀(まつ)つてあるのか。092一遍(いつぺん)に見(み)せると食滞(しよくたい)すると受付(うけつけ)の爺(ぢい)さまが云(い)ふた神(かみ)さまだな。093一(ひと)つ見(み)るも二(ふた)つ見(み)るも同(おな)じ事(こと)だ。094序(ついで)に観覧(くわんらん)して来(こ)ようかな。095おい、096五三公(いそこう)、097アク、098タク、099テク、100何(ど)うだ、101貴様(きさま)も一(ひと)つ見物(けんぶつ)する気(き)はないか』
102一同(いちどう)『ウン、103面白(おもしろ)からうな。104参考(さんかう)の為(ため)にお寅(とら)さまの、105亡者案内(もさひき)で見物(けんぶつ)して来(こ)ようかい。106お寅(とら)さま、107亡者案内(もさひき)賃(ちん)は安(やす)うして置(お)いてくれや、108見掛(みかけ)どりをやられると此(この)頃(ごろ)吾々(われわれ)はチツとばかり手許(てもと)不如意(ふによい)なのだから困(こま)りますぞえ』
109お寅(とら)『観覧(くわんらん)だの、110見物(けんぶつ)だのと、111何(なん)と云(い)ふ勿体(もつたい)ない事(こと)を仰有(おつしや)るのだ。112見(み)に行(ゆ)くのだない、113参拝(さんぱい)に行(ゆ)くのだ。114何故(なぜ)参拝(さんぱい)さして頂(いただ)きますと云(い)はぬのだ』
115万公(まんこう)『三杯(さんばい)どころか、116もう之(これ)丈(だ)け沢山(たくさん)に誤託宣(ごたくせん)を聞(き)かして頂(いただ)いた上(うへ)は腹一杯(はらいつぱい)胸一杯(むねいつぱい)だ、117アハヽヽヽ』
118お寅(とら)『サア、119末代(まつだい)様(さま)、120御(ご)案内(あんない)致(いた)しませう。121何卒(どうぞ)此(この)婆(ばば)について来(き)て下(くだ)さいませ』
122 松彦(まつひこ)はいやいや乍(なが)ら婆(ばば)アの後(あと)に一行(いつかう)と共(とも)に枝振(えだぶ)りのよい大松(おほまつ)の麓(ふもと)まで進(すす)んで行(い)つた。
123 見(み)れば途方(とはう)途徹(とてつ)もない大(おほ)きな岩(いは)が玉垣(たまがき)を囲(めぐ)らし切口(きりくち)の石(いし)を畳(たた)んで置物(おきもの)の様(やう)にチヨンと高(たか)い処(ところ)に立派(りつぱ)に祀(まつ)つてある。124さうして傍(かたはら)に案内石(あんないいし)が立(た)ち蠑螈別(いもりわけ)の筆跡(ひつせき)で、
125「さかえの神政松(しんせいまつ)の御(ご)神木(しんぼく)」
126と記(しる)してある。
127五三(いそ)『もしお婆(ばあ)さま、128此(この)大(おほ)きな岩(いは)は一体(いつたい)何(なん)だい。129さうして御(ご)神木(しんぼく)と記(しる)してあるが、130こりや木(き)ぢやない、131岩(いは)ぢやないか』
132お寅(とら)『そんな事(こと)は気(き)にかけいでも、133理屈(りくつ)いはいでも、134いいぢやないか。135お前(まへ)達(たち)が神木(しんぼく)する様(やう)に「さかえの神政松(しんせいまつ)の御(ご)神木(しんぼく)」と書(か)いてあるのだよ。136ここは善(ぜん)と悪(あく)との境(さかひ)だから小北山(こぎたやま)の地(ち)の高天原(たかあまはら)へ悪神(あくがみ)の這入(はい)つて来(こ)ぬ様(やう)に千引岩(ちびきいは)が斯(か)うして置(お)いてあるのだ。137表向(おもてむ)きは弥勒(みろく)様(さま)の御(ご)神体(しんたい)だと云(い)つて居(を)るのだ。138さうして十六柱(じふろくばしら)の神(かみ)様(さま)がお祀(まつ)りしてある標(しるし)だと云(い)つて十六本(じふろくぽん)の小松(こまつ)が此(この)通(とほ)り植(う)ゑてあるのだ。139然(しか)し乍(なが)ら之(これ)は表向(おもてむ)き、140実(じつ)の処(ところ)は素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)の生魂(いきだま)をここへ封(ふう)じ込(こ)んで動(うご)きのとれぬ様(やう)に周囲(ぐるり)八方(はつぱう)石畳(いしだたみ)を囲(めぐ)らし、141上(うへ)から千引(ちびき)の岩(いは)を載(の)せて、142万古(まんご)末代(まつだい)上(あが)れぬ様(やう)に封(ふう)じ込(こ)めておいたのだ。143そのために瑞(みづ)の魂(みたま)の素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)は八方(はつぱう)塞(ふさ)がり同様(どうやう)で、144二(に)ツ進(ち)も三(さ)ツ進(ち)もならぬ様(やう)になり困(こま)つてゐやがるのだ。145此(この)石(いし)をここへ運(はこ)ぶ時(とき)にも随分(ずゐぶん)苦労(くらう)をしたのだよ。146第一(だいいち)蠑螈別(いもりわけ)さま、147魔我彦(まがひこ)さま、148大将軍(たいしやうぐん)さま、149此(この)お寅(とら)等(たち)の奮励(ふんれい)努力(どりよく)と云(い)つたら大(たい)したものだつた。150夜(よる)も昼(ひる)も二十日(はつか)ばかり寝(ね)ずに活動(くわつどう)して到頭(たうとう)素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)の悪神(あくがみ)を封(ふう)じ込(こ)めてやつたのだ。151三五教(あななひけう)の奴(やつ)は何(なん)にも知(し)らずに馬鹿(ばか)だからヤツパリ素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)が此(この)世(よ)に現(あら)はれて居(ゐ)る様(やう)に思(おも)うてゐるのだよ。152斯(か)うしておけば三五教(あななひけう)の信者(しんじや)を鼠(ねづみ)が餅(もち)ひく様(やう)に皆(みな)小北山(こぎたやま)に引張込(ひつぱりこ)むと云(い)ふ蠑螈別(いもりわけ)さまの御(ご)神策(しんさく)だ。153何(なん)と偉(えら)いものだらうがな』
154 万公(まんこう)、155五三公(いそこう)の両人(りやうにん)はクワツと腹(はら)を立(た)て両方(りやうはう)から婆(ばば)の手(て)をグツとひん握(にぎ)り、
156万公(まんこう)『こりや糞婆(くそばば)、157もう量見(れうけん)ならねえ。158此(この)川(かは)へ水葬(すゐさう)してやるから、159さう思(おも)へ。160怪(け)しからぬ事(こと)を吐(ぬか)す』
161五三(いそ)『こりや、162お寅(とら)、163蛙(かへる)は口(くち)から、164吾(われ)と吾(わが)手(て)に白状(はくじやう)致(いた)した上(うへ)からは、165もはや量見(れうけん)ならぬぞ。166サア覚悟(かくご)せい。167おい万公(まんこう)、168其方(そつち)の足(あし)をとれ、169俺(おれ)も此(この)足(あし)を持(も)つて川(かは)の深淵(ふかぶち)へ担(かつ)いで行(い)つて放(はふ)り込(こ)んでやるのだ』
170お寅(とら)『オホヽヽヽ、171地(ち)から生(は)えた木(き)の様(やう)なものだ。172此(この)婆(ばば)がお前(まへ)達(たち)三(さん)人(にん)や五(ご)人(にん)に動(うご)かされる様(やう)なヘドロい婆(ばば)か。173竜宮(りうぐう)の乙姫(おとひめ)さまの御(ご)神力(しんりき)を頂(いただ)いた上(うへ)に艮(うしとらの)金神(こんじん)様(さま)の分(わ)け魂(みたま)のお憑(かか)り遊(あそ)ばした丑(うし)の年(とし)生(うま)れの寅(とら)さまだ。174丑寅(うしとら)婆(ば)アさまを何(なん)と心得(こころえ)てるのだ』
175万公(まんこう)『おい、176五三公(いそこう)、177随分(ずゐぶん)重(おも)い婆(ばば)だな。178本当(ほんたう)にビクともしやがらぬわ』
179アク『アハヽヽヽ、180ビクともせぬ筈(はず)だよ。181婆(ば)アさまは其処(そこ)に居(ゐ)るぢやないか。182お前(まへ)達(たち)は、183岩(いは)を一生(いつしやう)懸命(けんめい)動(うご)かさうとしたつて動(うご)くものかい。184それが婆(ば)アさまに見(み)えたのか』
185五三(いそ)『いや、186ほんにほんに岩(いは)だつたな。187おけおけ馬鹿(ばか)らしい。188お寅婆(とらばば)は彼処(あすこ)にけつかるぢやないか』
189お寅(とら)『オホヽヽヽ三五教(あななひけう)の信者(しんじや)の眼力(がんりき)は偉(えら)いものだな。190お寅(とら)さまとお岩(いは)さまと取違(とりちが)へするのだから』
191万公(まんこう)『エー』
192アク、193タク、194テク三(さん)人(にん)『アハヽヽヽ、195又(また)いかれやがつたな』
196お寅(とら)『あまり疑(うたが)うて居(ゐ)ると真逆(まさか)の時(とき)に眩惑(めまひ)がくるぞよ、197足許(あしもと)の深溜(ふかだまり)が目(め)に見(み)えぬ様(やう)になるぞよ。198ウフヽヽヽ』
199松彦(まつひこ)『お婆(ばあ)さま、200いや如何(どう)も感心(かんしん)致(いた)しました。201これから一(ひと)つ大門(おほもん)神社(じんしや)へ参(まゐ)りませう』
202お寅(とら)『あ、203お前(まへ)さまは末代(まつだい)様(さま)だ。204身霊(みたま)が綺麗(きれい)だと見(み)える。205あんなガラクタは後廻(あとまは)しで宜(よろ)しい。206お寅(とら)さまの後(あと)から跟(つ)いて来(き)なさい。207竜宮(りうぐう)の乙姫(おとひめ)さまが末代(まつだい)さまを御(ご)案内(あんない)致(いた)しませう』
208松彦(まつひこ)『ありがたう。209然(しか)し乍(なが)ら此(この)連中(れんちう)を捨(す)てて置(お)く訳(わけ)にも行(ゆ)かぬから連(つ)れて行(ゆ)かう』
210お寅(とら)『それは貴方(あなた)、211末代(まつだい)さまの御(ご)都合(つがふ)にして下(くだ)さい。212サア斯(か)うおいで成(な)さいませや』
213と頭(かしら)をペコペコさせ頻(しき)りに媚(こび)を呈(てい)し乍(なが)ら、214もと来(き)し道(みち)に引返(ひつかへ)し急坂(きふはん)を一行(いつかう)の先(さき)に立(た)つて上(のぼ)り行(ゆ)く。
215 急坂(きふはん)を二三丁(にさんちやう)ばかり登(のぼ)つた処(ところ)にロハ台(だい)が並(なら)んでゐる。
216万公(まんこう)『もし松彦(まつひこ)さま、217一寸(ちよつと)ここで休息(きうそく)して行(ゆ)きませうか』
218松彦(まつひこ)『ウン、219よからう』
220と腰(こし)をかけ息(いき)を休(やす)める。221お寅(とら)は怪嫌(けげん)な顔(かほ)をし乍(なが)ら後(あと)ふり返(かへ)り、
222お寅(とら)『逆理屈(さかりくつ)ばかり囀(さへづ)る万公(まんこう)が
223坂(さか)の中央(なかば)で屁古垂(へこた)れにけり。
224偉相(えらさう)に腮(あご)をたたいて居(ゐ)た万公(まんこう)
225此(この)弱(よわ)り様(やう)は何(なん)の事(こと)だい。
226鼈(すつぽん)に蓼(たで)食(く)はした様(よ)な息(いき)づかひ
227万々(まんまん)々公(まんこう)も休(やす)むがよからう』
228万公(まんこう)『迷信(めいしん)の淵(ふち)に沈(しづ)んだお寅(とら)さま
229底(そこ)知(し)れぬ淵(ふち)へバサンとはまつて。
230之(これ)程(ほど)にきつい坂(さか)をばスタスタと
231登(のぼ)るは狐(きつね)狸(たぬき)なるらむ。
232登(のぼ)り坂(さか)上手(じやうづ)な奴(やつ)は馬兎(うまうさぎ)
233丑寅(うしとら)婆(ば)さまの十八番(おはこ)なるらむ』
234お寅(とら)『糞(ばば)垂(た)れて婆(ば)さまの登(のぼ)る山道(やまみち)を
235屁古垂(へこた)れよつた万公(まんこう)の尻(けつ)。
236芋(いも)蕪(かぶら)大根(だいこん)人参(にんじん)あつたなら
237万(まん)の野郎(やらう)に喰(く)はせ度(た)きもの。
238大根(だいこん)や蕪(かぶら)がきれて息(いき)つまり
239何(なん)と茄子(なすび)の溝漬(どぶづ)け男(をとこ)』
240万公(まんこう)『臭(くさ)い奴(やつ)吾(わが)一行(いつかう)の先(さき)に立(た)つ
241腋臭(わきが)とべらの婆(ばば)の尻糞(しりくそ)』
242お寅(とら)『こりや万公(まんこう)、臭(くさ)い奴(やつ)とは何(なに)を云(い)ふ
243貴様(きさま)は臭(くさ)い穴探(あなさが)しぞや。
244彼岸(ひがん)過(す)ぎになつても穴(あな)の無(な)い蛇(へび)は
245そこら辺(あた)りをのたくり廻(まは)る。
246穴(あな)ばかり探(さが)して歩(ある)く万公(まんこう)を
247岩窟(いはや)の穴(あな)へ入(い)れてやり度(た)い』
248万公(まんこう)『何(なに)吐(ぬか)す丑寅(うしとら)婆(ばば)の尻糞(しりくそ)奴(め)
249尻(けつ)が呆(あき)れて雪隠(せんち)が踊(をど)る』
250松彦(まつひこ)『ロハ台(だい)に腰(こし)打(う)ち掛(かけ)て万公(まんこう)が
251尻(しり)のつぼめの合(あ)はぬ事(こと)言(い)ふ』
252五三公(いそこう)『ロハ台(だい)に尻(しり)を下(おろ)した万公(まんこう)さま
253糞落(くそお)ちつきのないも道理(だうり)よ』
254アク『アクアクと互(たがひ)に誹(そし)り妬(ねた)み合(あ)ひ
255無性(むしやう)矢鱈(やたら)に口(くち)をアクかな』
256タク『いろいろとタクみし証拠(しようこ)は千引岩(ちびきいは)
257松(まつ)の根元(ねもと)に沢山(たくさん)にある』
258テク『山坂(やまさか)をテクる吾(わが)身(み)は何(なん)となく
259足腰(あしこし)だるくなりにけるかな。
260面白(おもしろ)もない婆(ばあ)さまに導(みちび)かれ
261登(のぼ)るも辛(つら)し針(はり)の山坂(やまさか)』
262お寅(とら)『万公(まんこう)よアク、テク、タクの御(ご)一同(いちどう)
263此(この)坂道(さかみち)は神(かみ)の坂(さか)だよ。
264神(かみ)になり鬼(おに)になるのも此(この)坂(さか)を
265越(こ)えぬ事(こと)には分(わか)るまいぞや』
266アク『登(のぼ)りつめアクになつたら何(なん)とせう
267丑寅(うしとら)婆(ば)さまに欺(あざむ)かれつつ』
268お寅(とら)『疑(うたがひ)を晴(は)らして竜宮(りうぐう)の乙姫(おとひめ)が
269後(あと)に来(く)る身(み)は大丈夫(だいぢやうぶ)だよ』
270松彦(まつひこ)『サア一同(いちどう)、271もう行(い)つてもよからう。272乙姫(おとひめ)さま、273宜(よろ)しう頼(たの)みます』
274お寅(とら)『ホヽヽヽヽ末代(まつだい)様(さま)、275サア参(まゐ)りませう』
276万公(まんこう)『ヘン、277馬鹿(ばか)にして居(ゐ)やがる。278婆(ばば)の乙姫(おとひめ)さまも見初(みはじ)めだ。279なア五三公(いそこう)』
280五三(いそ)『きまつた事(こと)だ。281逆様(さかさま)の世(よ)の中(なか)だもの、282乙姫(おとひめ)さまだつて世界(せかい)のために御(ご)心配(しんぱい)遊(あそ)ばして厶(ござ)るのだもの、283チツたあ年(とし)も寄(よ)らうかい。284アハヽヽヽ』
285一同(いちどう)『ウフヽヽヽ』
286(大正一一・一二・一一 旧一〇・二三 北村隆光録)
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