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第一八章 玉則姫(たまのりひめ)〔一二〇八〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第45巻 舎身活躍 申の巻 篇:第4篇 虎風獣雨 よみ(新仮名遣い):こふうじゅうう
章:第18章 玉則姫 よみ(新仮名遣い):たまのりひめ 通し章番号:1208
口述日:1922(大正11)年12月13日(旧10月25日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年9月12日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
お寅が蠑螈別のところに戻ると、蠑螈別は酔いつぶれて徳利と共に横たわっている。お寅は夜具をかけながら蠑螈別に対する不満を独り言につぶやく。
そこへ魔我彦がやってきて声をかけた。お寅は、魔我彦が金があるなどというから熊公に千両をゆすられたのだと食って掛かる。
魔我彦は魔我彦で、松彦がやってきたために自分が松姫と結婚できなくなったと文句を言う。そして信者のなかから物色したお民という女と結婚させてくれとお寅に頼み込んだ。
お寅はお民の視線が蠑螈別に注がれているのが怪しいと思っていたので、これを機会に魔我彦に片付けてやろうと魔我彦の仲介の頼みを聞き入れた。そして蠑螈別が自分の目を盗んでお民とあったりしないように番犬を言いつけた。
お菊に会ったお寅は、神界の御用があると言ってお民を説得しに出て行った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-03-06 14:50:22 OBC :rm4518
愛善世界社版:268頁 八幡書店版:第8輯 345頁 修補版: 校定版:281頁 普及版:108頁 初版: ページ備考:
001 蠑螈別(いもりわけ)(さけ)()ひつぶれ他愛(たあい)もなく徳利(とくり)(とも)(よこ)たはつて仕舞(しま)つた。002(とら)はソツと(うへ)から夜具(やぐ)()足音(あしおと)(しの)ばせながら、003四畳半(よでふはん)()角火鉢(かくひばち)()いて(すわ)()独言(ひとりごと)
004(とら)『ほんとに蠑螈別(いもりわけ)さまも(こま)つた(をとこ)だなア、005(これ)(ほど)親切(しんせつ)にすればする(ほど)006どことはなしに(ひや)やかになつて()(をとこ)だ、007もちつと(あたた)かい(ひと)だと(おも)うて()たに、008えらい()(かぶ)りをしたものだ。009こんなに(つめ)たいと()つたら、010(はじ)めからああ逆上(のぼ)(あが)るのぢやなかつた。011折角(せつかく)()めた財産(ざいさん)一文(いちもん)(のこ)らずお(みや)普請(ふしん)()れて仕舞(しま)ひ、012それから(また)シボクボとして()めた(せん)(りやう)(かね)熊公(くまこう)にしてやられ、013(これ)から(さき)はどうしたらよいのだらうか、014本当(ほんたう)()()める(こと)だわ。015(さけ)(あさ)から(ばん)(まで)()げなくてはならないし、016(さけ)だつて矢張(やつぱり)無代(ただ)であるものぢやないし、017一升(いつしよう)(さけ)二十五(にじふご)(せん)税金(ぜいきん)()るのだもの。018これだけ間接(かんせつ)国税(こくぜい)(をさ)めて()てはやりきれない、019ぢやと()うても(わたし)(をんな)意地(いぢ)020今更(いまさら)()ててはならず、021()てられては(なほ)ならず、022えらい羽目(はめ)(おちい)つたものだ。023沢山(たくさん)迷信家(めいしんか)(まゐ)つて()るが文助(ぶんすけ)馬鹿者(ばかもの)だから(この)(かみ)(さま)(かぶら)大根(だいこん)さへ()げればよいと(おも)つて、024(ちつと)金目(かねめ)のものを(そな)へる信者(しんじや)はなし「竜神(りうじん)さまだ」と()つては黒蛇(くろへび)北山(きたやま)(うへ)(はな)しに()(くらゐ)なものだ。025こんな(こと)でお(みや)維持(ゐぢ)026いや商売(しやうばい)出来(でき)るものか、027チヨツ、028(えら)いヂレンマに(かか)つたものだわ』
029 ()(ひと)(ごと)(つぶや)いて()(ところ)へ、030廊下(らうか)縁板(えんいた)をおどかしながら足音(あしおと)(たか)くやつて()たのは魔我彦(まがひこ)であつた。
031魔我(まが)『お(とら)さま、032まだ()きてゐらつしやるの』
033(とら)()ようと(おも)つたつて()られないぢやないか。034(まへ)仕様(しやう)もない(こと)()ふものだから、035たうとう熊公(くまこう)(やつ)(せん)(りやう)ゆかれて仕舞(しま)つたぢやないか』
036魔我(まが)『それでも(いのち)(せん)(りやう)とは(くら)べものになりませぬよ、037()()神前(しんぜん)九千(きうせん)(りやう)(のこ)つて()るのだから、038さう悲観(ひくわん)したものぢやありませぬわ、039それよりもお(とら)さま、040いつも貴女(あなた)が、041上義姫(じやうぎひめ)義理(ぎり)天上(てんじやう)夫婦(ふうふ)にしてやらうと仰有(おつしや)つたが、042末代(まつだい)()王天(わうてん)(かみ)生宮(いきみや)がやつて()たので、043サツパリ(わたし)(たこ)揚壺(あげつぼ)になつたぢやありませぬか、044貴女(あなた)()託宣(たくせん)でも時々(ときどき)(ちが)ひますな』
045(とら)『どうせ、046(ひと)つや(ふた)つや(ちが)つたて仕様(しやう)()いぢやないか、047さう執念深(しふねんぶか)くこの()()めてるのに理屈(りくつ)()つてお()れでないよ』
048魔我(まが)『お(とら)さま、049(ひと)つや(ふた)(ちが)つたて(なん)ぢやと仰有(おつしや)いましたが、050上義姫(じやうぎひめ)(わたし)との結婚(けつこん)問題(もんだい)が、051(ひと)間違(まちが)つたのは(わたし)()つては大変(たいへん)苦痛(くつう)ですよ、052(いな)(ほとん)破滅(はめつ)同様(どうやう)ですよ』
053(とら)仕方(しかた)がないぢやないか、054(かみ)(さま)は「(その)(とき)都合(つがふ)(いた)すぞよ」と仰有(おつしや)るのだから、055なんぼ義理(ぎり)天上(てんじやう)()出神(でのかみ)(えら)うても末代(まつだい)さまには(かな)ひますまい、056それよりも、057もつと(わか)綺麗(きれい)(をんな)()をつけたらどうだい、058あんな中古(ちうぶる)は、059古手屋(ふるてや)(みせ)へだつて垂下(つる)しておいても(たれ)()やしないよ。060(ひと)着古(きふる)したマントを()はうよりまだ一度(いちど)()(とほ)した(こと)のない、061シツケの()れない衣物(べべ)()つた(はう)何程(なんぼ)気持(きもち)がよいか()れないよ』
062魔我(まが)(じつ)(わたし)も、063さう(おも)つて(おも)()つたのです。064チヨツ昨日(きのふ)信者(しんじや)(なか)から物色(ぶつしよく)しましたが、065いつもよう(まゐ)つて()るお(たみ)さまを(わたし)女房(にようばう)にして()たいと(おも)ひますが、066世話(せわ)をして(もら)(わけ)には()きませぬだらうかなア』
067(とら)(なに)068あのお(たみ)女房(にようばう)にしたいと()ふのか、069ウンそれやよい了見(れうけん)だ、070(ひと)(わたし)()()つて()よう、071(しか)(うま)()くか()らぬがな』
072魔我(まが)『そこは(うま)くお(たみ)身魂(みたま)義理(ぎり)天上(てんじやう)さまの女房(にようばう)身魂(みたま)玉則姫(たまのりひめ)さまだと()ふやうに()きつけて(くだ)さいな、073(かみ)(さま)命令(めいれい)とあれば、074あれ(ほど)熱心(ねつしん)信者(しんじや)だから()いて()れませう』
075 お(とら)はニヤリと(わら)ひ、
076(とら)『これ魔我(まが)ヤン、077(まへ)何処迄(どこまで)自分(じぶん)身魂(みたま)義理(ぎり)天上(てんじやう)(おも)つて()るのか、078目出度(めでた)いぢやないか、079このお(とら)馬鹿(ばか)ぢやけれど、080昨日(きのふ)五三公(いそこう)さまの(うた)によつて、081スツカリ看破(かんぱ)して仕舞(しま)つたのよ、082蠑螈別(いもりわけ)さまは高姫(たかひめ)仕込(じこみ)精神(せいしん)(へん)だから「(たれ)身魂(みたま)(なん)だの()身魂(みたま)(なん)だの」と(くち)から出放題(ではうだい)(こと)()つて()るのだ。083(しか)しこれも商売(しやうばい)だと(おも)へば、084勘弁(かんべん)()かぬ(こと)()いが、085本当(ほんたう)にお(まへ)086義理(ぎり)天上(てんじやう)さまと(おも)うて()ては大当違(おほあてちが)ひだよ、087(まへ)身魂(みたま)(たぬき)だからねえ』
088魔我(まが)『これや()しからぬ、089そんなら(わたし)(たぬき)なら、090(とら)さまは虎猫(とらねこ)でせう』
091(とら)(わたし)守護神(しゆごじん)は、092そんな屁泥(へどろ)(もの)ぢやないよ。093五三公(いそこう)さまの(うた)()いて、094()()め、095ソツと(はら)(なか)守護神(しゆごじん)調(しら)べて()たら、096(はら)(なか)より()(こと)にや「(わし)斑狐(はんこ)ぢや、097それを盤古(ばんこ)()うて()るのぢや。098(とら)とも(うし)とも(きつね)とも(わか)らぬやうな怪物(くわいぶつ)だが、099やつぱり古狐(ふるぎつね)親分(おやぶん)で、100小北山(こぎたやま)界隈(かいわい)羽振(はぶ)りを()かして()るのだ」とよ、101本当(ほんたう)(あき)れて仕舞(しま)つたよ。102これを(おも)へばどれもこれも(みな)(きつね)(たぬき)(ばか)りだなア』
103魔我(まが)『さうすると蠑螈別(いもりわけ)さまの守護神(しゆごじん)(なん)ですか』
104(とら)(おほ)きな(こゑ)では()はれぬが、105大変(たいへん)(おほ)きな(たぬき)だよ、106さう()くと時々(ときどき)(くち)(とが)らしたり、107()をギヨロリと()いたりなさるだらう、108(しか)(たぬき)だつて斑狐(はんこ)だつて(あま)馬鹿(ばか)にはならないよ、109魔我(まが)ヤン、110(まへ)(その)心算(つもり)狐擬(きつねまが)ひになつて活動(くわつどう)しなさい、111(たぬき)()はれるより(きつね)はましだよ、112(きつね)稲荷(いなり)さまと()うて、113(みんな)(あが)めて()れるからな』
114魔我(まが)(きつね)(たぬき)(はなし)(しばら)くお(あづか)りとして(わたし)結婚(けつこん)問題(もんだい)です、115如何(どう)かしてお(たみ)さまを世話(せわ)して(くだ)さいな、116貴女(あなた)グヅグヅして()ると蠑螈別(いもりわけ)さまが()つて仕舞(しま)ひますよ』
117(とら)『ウンさうだなア、118どうもお(たみ)視線(しせん)蠑螈別(いもりわけ)さまに集注(しふちう)するやうで仕方(しかた)がないと(おも)つて()(ところ)だ、119ひよつとしたらあの阿魔(あま)ツチヨ、120蠑螈別(いもりわけ)さまに秋波(しうは)(おく)つて()るのかも()れない、121(にく)いやつだ、122どれどれ(いま)(つら)(かは)()()いてやりませうかい』
123魔我(まが)『そんな(こと)をせずに(わたし)世話(せわ)して(くだ)さつたら、124(わたし)大事(だいじ)にして、125蠑螈別(いもりわけ)さまの(はう)()()れないやうに保護(ほご)するぢやありませぬか。126さうすれや第一(だいいち)(とら)さまも安全(あんぜん)でせう』
127(とら)『さうだな、128(べつ)荒立(あらだ)てる必要(ひつえう)()いのだから()(おう)なしにお(まへ)女房(にようばう)になるやうに(ひと)懸合(かけあ)つて()よう』
129魔我(まが)『ヤアそいつは有難(ありがた)い、130(さすが)はお(とら)さまだ、131よく()()げて(くだ)さつた、132それだから取上(とりあげ)()アさまと()ふのだ、133ウフヽヽヽ』
134(とら)『そんな洒落(しやれ)(どころ)かいな、135かう()けば(いち)()(はや)(なん)とか()めないと、136蠑螈別(いもりわけ)さまが険難(けんのん)仕方(しかた)がない。137(たみ)今日(けふ)(かへ)つたと()ふことぢやないか』
138魔我(まが)(なに)(かへ)りますものか、139あの(をんな)(かみ)(さま)(まゐ)るのは(おもて)むき、140その(じつ)蠑螈別(いもりわけ)さまに百度(ひやくど)以上(いじやう)逆上(のぼせ)()るのですよ』
141とお(とら)()アさまを()きつけて自分(じぶん)縁談(えんだん)周旋(しうせん)させやうと(たく)んで()る。
142 お(とら)はカツカとなり、
143(とら)『これ魔我(まが)サン、144そのお(たみ)さまは何処(どこ)()るのだえ』
145魔我(まが)炊事場(すゐじば)(となり)()()るのですが、146(じつ)(わたし)今晩(こんばん)瀬踏(せぶみ)をして()たのですがやられました。147本当(ほんたう)本当(ほんたう)馬鹿(ばか)らしい』
148(とら)『アハヽヽヽ()()かぬ、149エツパツパを()はされて()たのだな、150それで(この)(とら)さまに応援(おうゑん)(たの)みに()たのかな、151(しか)魔我(まが)ヤン、152(まへ)(おほい)()()つた。153さうしてチヨイチヨイ邪魔(じやま)をしたり()をつけたりして(もら)はねば蠑螈別(いもりわけ)さまが険難(けんのん)仕方(しかた)がないからな。154番犬(ばんけん)には適当(てきたう)(をとこ)だ』
155魔我(まが)番犬(ばんけん)とはちと(ひど)いではありませぬか』
156(とら)番犬(ばんけん)でもいいぢやないか、157(いま)立派(りつぱ)()主人(しゆじん)にして()げるのだから、158これ魔我(まが)ヤン、159(まへ)(まへ)チヨコナンとして蠑螈別(いもりわけ)さまに()のささぬやうに番犬(ばんけん)御用(ごよう)をつとめて()るのだよ』
160()()でむとする(とき)161其辺(そこら)をうろついて()たお(きく)がやつて()た。
162(とら)『お(まへ)はお(きく)ぢやないか、163(むすめ)夜中(よなか)にどこをうろついて()るのだ』
164(きく)『あの(たがや)大神(だいじん)生宮(いきみや)()つたのよ、165それで散々(さんざん)(あぶら)()つてやつたの、166本当(ほんたう)万公(まんこう)(やつ)167(たぬき)(だま)かされよつて(たがや)大神(だいじん)だと自信(じしん)して()るのだから可笑(をか)しくて仕様(しやう)がない。168このお(きく)だつて地上姫(ちじやうひめ)でも(なん)でもあれやしないわ、169こんな(はな)(さき)(わか)れて()ない処女(しよぢよ)に、170痴情(ちじやう)があつて(たま)るものですか』
171(とら)(なに)()()()りぬいたお転婆(てんば)ぢやなア、172(わたし)一寸(ちよつと)そこ(まで)()つて()るから、173(まへ)ここで魔我彦(まがひこ)さまと()つて()るのですよ』
174(きく)『お(かあ)さま、175(をんな)夜分(やぶん)にのそのそ一人(ひとり)(ある)きするものぢやありませぬよ』
176即座(そくざ)竹篦返(しつぺいがへ)しをやつて()た。
177(とら)(わたし)神界(しんかい)御用(ごよう)があるのだよ、178(まへ)はここに神妙(しんめう)魔我(まが)ヤンと()つて()るのだよ。179そして(ねむ)くなつたら勝手(かつて)におやすみよ』
180(きく)『お(かあ)さま、181()かぬたらしい、182魔我(まが)ヤンの(かほ)()てる(くらゐ)なら、183寝間(ねま)へでも(はい)つてやすみますわ』
184(とら)『エヽ勝手(かつて)におしよ』
185()ひながら、186プイと()()で、187炊事場(すゐじば)(となり)(くら)部屋(へや)()して(あし)さぐりに(すす)んでゆく。
188大正一一・一二・一三 旧一〇・二五 加藤明子録)
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