霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二〇章 蛙行列(かはづぎやうれつ)〔一二一〇〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第45巻 舎身活躍 申の巻 篇:第4篇 虎風獣雨 よみ(新仮名遣い):こふうじゅうう
章:第20章 蛙行列 よみ(新仮名遣い):かわずぎょうれつ 通し章番号:1210
口述日:1922(大正11)年12月13日(旧10月25日) 口述場所: 筆録者:外山豊二 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年9月12日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
蠑螈別は酒に酔い潰れていびきをかいていた。そこへ裏口を開いてお民がやってきた。お民は蠑螈別をゆすりおこし、二人の間のことをお寅にかぎつかれたので、今日かぎりここを逃げ出すと暇乞いをした。
蠑螈別は酔いもいっぺんに覚め、お民に野口の森で一足先に待っていてくれ、自分は金を持って後から追いかけると言い含めた。
お民が出て行ったあと、蠑螈別は身支度をして九千両の金を身に着けて門口を飛び出そうとしたとたん、あわてて柱に額を打ち、その場に倒れてしまった。
一方お寅は松姫を説きつけて、今晩のうちに松姫からお民を説得することになった。松姫はお民の寝間を指して雪の中を行ってしまった。
お寅は蠑螈別の居間に戻ると、蠑螈別は旅装束の姿で門口に打ち倒れている。お寅が蠑螈別の背中を叩いて起こすと、蠑螈別はお寅をお民だと思って話しかけ、駆け落ちの魂胆をしゃべってしまう。
お寅は怒って蠑螈別の胸ぐらをつかんで怒鳴りだした。蠑螈別はお寅に責められてお民との駆け落ちを白状した。そして床に落ちたときの音で蠑螈別が小判を持ち出そうとしていたことに気付いたお寅は怒り心頭に達して狂気のごとくになった。
しかしその勢いで火鉢につまづいたお寅は柱に額を打ちつけてうずくまってしまう。蠑螈別はこの機を逃さず小判を腰につけ直し、修業に出ると言ってお寅を金剛杖で打つと走って出て行ってしまった。お寅は怒って蠑螈別を追いかけて行ってしまう。
松彦は残った松姫らと相談の上小北山に修祓を行い、国治立大神をはじめ三五教を守る神々を鎮祭した。そして松姫、お千代、お菊、文助らに真理を説き諭してこの聖場を祀らせた。
松彦は、万公、五三公、アク、タク、テクを引き連れて、浮木の森を指して進んで行った。
ちなみに魔我彦は、お民を追いかけてお寅の後から野口の森を目当てにかけて行ってしまった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-03-06 14:51:12 文字数:3900 OBC :rm4520
愛善世界社版:287頁 八幡書店版:第8輯 352頁 修補版: 校定版:300頁 普及版:117頁 初版: ページ備考:
001 蠑螈別(いもりわけ)は前後(ぜんご)も知(し)らず、002酒(さけ)に酔(よ)ひつぶれて雷(らい)の如(や)うな鼾(いびき)をかいてゐる、003其処(そこ)へ裏口(うらぐち)の戸(と)をソツと開(ひら)いて、004震(ふる)ひ震(ふる)ひやつて来(き)たのはお民(たみ)であつた。005お民(たみ)は蠑螈別(いもりわけ)をゆすりおこし小声(こごゑ)で、
006お民(たみ)『モシ先生(せんせい)、007大変(たいへん)な事(こと)がおこりました。008私(わたし)は此処(ここ)に居(を)れませぬ。009今晩(こんばん)限(かぎ)り此処(ここ)を逃出(にげだ)しますから、010一寸(ちよつと)貴方(あなた)に応(こた)へに参(まゐ)りました。011どうぞ悪(わる)くは思(おも)つて下(くだ)さいますな』
012 蠑螈別(いもりわけ)は俄(にはか)に酒(さけ)の酔(よ)ひもさめ起上(おきあが)つて目(め)をこすり乍(なが)ら、
013蠑螈(いもり)『お前(まへ)はお民(たみ)ぢやないか。014大変(たいへん)とは何事(なにごと)だ。015グヅグヅしてゐるとお寅(とら)に見(み)つかつたら、016俺(おれ)もお前(まへ)も大変(たいへん)だから、017早(はや)く要件(えうけん)を云(い)つて、018此処(ここ)を立去(たちさ)つて呉(く)れ』
019お民(たみ)『大変(たいへん)と申(まを)すのは外(ほか)でもありませぬ、020最前(さいぜん)もお寅(とら)さまが私(わたし)の居間(ゐま)へ出(で)て来(き)て、021是非(ぜひ)共(とも)魔我彦(まがひこ)の女房(にようばう)になれと仰有(おつしや)るのです。022アタ好(す)かぬたらしい、023誰(たれ)が、024死(し)んでも女房(にようばう)になりますものか。025私(わたし)が此処(ここ)へ参(まゐ)つて来(き)て居(ゐ)るのも貴方(あなた)にお約束(やくそく)があるばつかりで、026御(お)つとめの時(とき)にチヨイチヨイお顔(かほ)を見(み)るのを楽(たの)しみに来(き)て居(ゐ)るのでせう、027それだから一寸(ちよつと)貴方(あなた)に此(この)事(こと)を申上(まをしあ)げ、028これから私(わたし)は一足先(ひとあしさき)へ帰(かへ)りますから、029御(ご)親切(しんせつ)がありますなら後(あと)から追(お)つかけて来(き)て下(くだ)さいな』
030蠑螈(いもり)『ソラ大変(たいへん)だ。031お前(まへ)は一先(ひとま)づ野口(のぐち)の森(もり)まで行(い)つて待(ま)つとつてくれ。032俺(おれ)はこれからお寅(とら)の松姫館(まつひめやかた)へ行(い)つた留守(るす)を幸(さいは)ひ、033お寅(とら)の隠(かく)しとつた金(かね)の所在(ありか)も略(ほぼ)分(わか)つたから九千(きうせん)両(りやう)の金子(かね)を腰(こし)に捲(ま)きつけ、034後(あと)から追(お)ひつくよ』
035とせきたつればお民(たみ)は莞爾(につこ)と笑(わら)ひ、
036お民(たみ)『蠑螈別(いもりわけ)さま、037キツトですよ、038そんなら一歩(ひとあし)お先(さき)へ行(い)つて居(を)りますから……』
039と云(い)ひ乍(なが)ら、040長居(ながゐ)はおそれ、041月(つき)の出(で)ぬうちにと坂道(さかみち)をスタスタと息(いき)を喘(はづ)ませ下(くだ)り行(ゆ)く。042蠑螈別(いもりわけ)は早速(さつそく)に衣類(いるゐ)を着(き)かへ、043蓑笠(みのかさ)の用意(ようい)をなし、044九千(きうせん)両(りやう)の金(かね)を内懐(うちふところ)にグツト締(し)め込(こ)み、045脚装束(あししやうぞく)をして草鞋(わらぢ)脚袢(きやはん)迄(まで)も首尾(しゆび)よくつけ、046金剛杖(こんがうづゑ)をひんにぎり、047今(いま)や門口(かどぐち)を飛(と)び出(だ)さむとして、048あわてて柱(はしら)に額(ひたひ)を打(う)ちウンと一声(ひとこゑ)其(その)場(ば)に倒(たふ)れて了(しま)つた。049こんな事(こと)が出来(でき)て居(ゐ)るとは神(かみ)ならぬ身(み)の知(し)る由(よし)もなく、050お寅(とら)は頻(しきり)に蠑螈別(いもりわけ)、051お民(たみ)の密約(みつやく)成立(せいりつ)の妨害(ばうがい)運動(うんどう)に熱中(ねつちゆう)し、052松姫(まつひめ)と膝(ひざ)を交(まじ)へてヒソヒソ話(ばなし)に耽(ふけ)つてゐる。
053お寅(とら)『コレお菊(きく)、054モウお休(やす)みと云(い)ふのに、055夜更(よふけ)まで子供(こども)が起(お)きてゐるものぢやないよ。056此(この)子(こ)はマア十七(じふしち)にもなつて一寸(ちよつと)も親(おや)の言(い)ふ事(こと)を聞(き)かない子(こ)だ。057本当(ほんたう)に困(こま)つ了(ちま)わ』
058お菊(きく)『お母(かあ)さま、059何(なん)だか目(め)がさえざえして、060一寸(ちよつと)も寝(ね)られないのよ。061今晩(こんばん)は廿一夜(にじふいちや)だから、062モウお月様(つきさま)が鎌(かま)の様(やう)な光(ひかり)を地上(ちじやう)に投(な)げて小北山(こぎたやま)を御(お)上(のぼ)り遊(あそ)ばすから、063月見(つきみ)でもした方(はう)が好(い)いわ』
064お寅(とら)『馬鹿(ばか)な事(こと)お言(い)ひでないよ。065外(そと)は凩(こがらし)が吹(ふ)いて吹雪(ふぶき)がして居(ゐ)るよ。066こんな夜(よ)さに月見(つきみ)したつて何(なに)が面白(おもしろ)いか。067又(また)風(かぜ)に当(あた)つてインフルエンザにでも罹(かか)つたら何(ど)うするのだい』
068お菊(きく)『お母(かあ)さま、069雪(ゆき)が降(ふ)つとるの、070ソレは尚(なほ)結構(けつこう)ぢやありませぬか。071空(そら)にはお月(つき)さま、072下(した)には雪(ゆき)、073そこへ花(はな)の蕾(つぼみ)のお菊(きく)の花(はな)が出(で)るのですもの、074月雪花(つきゆきはな)を一時(いつとき)に眺(なが)めるやうなものぢやありませぬか。075こんなよい機会(きくわい)は滅多(めつた)に有(あ)りはしませぬわ』
076お寅(とら)『コマシヤクレた子(こ)だな。077早(はや)く休(やす)ましてお貰(もら)ひなさらぬか。078モシ松姫(まつひめ)さま、079此(この)通(とほ)りお転婆娘(てんばむすめ)で、080本当(ほんたう)に親(おや)も手(て)こずつてゐますのよ』
081松姫(まつひめ)『さうですね、082今時(いまどき)の女(をんな)の子(こ)はどうして、083これ程(ほど)ヤン茶(ちや)になるのでせう。084お千代(ちよ)だつてコマシヤクレた事(こと)ばかり云(い)つて、085私(わたし)達(たち)に逆理屈(さかりくつ)をこね、086仕方(しかた)がありませぬわ』
087お寅(とら)『さうですねー、088こんな子(こ)は今(いま)の教育(けういく)でもさした位(くらゐ)なら、089到底(たうてい)親(おや)の挺(てこ)には合(あ)はぬようになりますぢやろ。090モウ学校(がくかう)は尋常(じんじやう)で止(や)めるつもりですわ。091高竹寺(かうちくぢ)女学校(ぢよがくかう)へでも入(い)れようものなら、092男女(だんぢよ)同権(どうけん)だとか、093女権(ぢよけん)拡張(くわくちやう)だとか、094下(くだ)らぬ屁理屈(へりくつ)をいつて両親(りやうしん)を困(こま)らせますからね』
095松姫(まつひめ)『あの高竹寺(かうちくじ)には女学校(ぢよがくかう)がありますか。096さうすると坊(ばう)さまの娘(むすめ)なんかが入学(にふがく)するのでせうね』
097お寅(とら)『イエ坊(ばう)さまの娘(むすめ)なんか一人(ひとり)も入学(にふがく)してゐやしませぬわ。098みんな毘沙(びしや)や、099首陀(しゆだ)の娘(むすめ)ばかり入学(にふがく)して毎日(まいにち)日日(ひにち)、100球突(たまつ)きだとか、101マラソン競走(きやうそう)だとか、102テニスだとか、103ダンスだとか、104せうもない事(こと)ばつかり教(をし)へられてゐますのよ』
105松姫(まつひめ)『ホヽヽヽヽ、106ソラ高竹寺(かうちくじ)女学校(ぢよがくかう)ぢやありますまい、107高等(かうとう)女学校(ぢよがくかう)でせう。108等(とう)の字(じ)を竹(ちく)と寺(じ)とに分(わ)けてお読(よ)みになつたのでせう』
109お寅(とら)『時(とき)に松姫(まつひめ)さま、110魔我彦(まがひこ)の結婚(けつこん)問題(もんだい)は何(ど)ういたしませうかなア。111是非(ぜひ)共(とも)今晩(こんばん)の間(うち)にきめたいのですが』
112松姫(まつひめ)『サ、113兎(と)も角(かく)もこれから私(わたし)が直接(ちよくせつ)にお民(たみ)さまに逢(あ)うて、114トツクリと御(ご)意見(いけん)も承(うけたま)はり、115成(な)る可(べ)く円満(ゑんまん)に話(はなし)がまとまりますやうに骨(ほね)を折(を)つて見(み)ませう』
116お寅(とら)『ソレは済(す)みませぬな、117何卒(なにとぞ)貴女(あなた)の雄弁(ゆうべん)と御(ご)神徳(しんとく)によつて成功(せいこう)する様(やう)にお願(ねが)ひ致(いた)します』
118松姫(まつひめ)『ソンなら是(これ)からお民(たみ)さまのお居間(ゐま)へ伺(うかが)ひませう』
119と云(い)ひ乍(なが)ら細(ほそ)い二百段(にひやくだん)の階段(きざはし)を下(くだ)つて行(ゆ)く。120お寅(とら)もお菊(きく)も松姫(まつひめ)の後(あと)からついて来(く)る。121松姫(まつひめ)はスツと炊事場(すゐじば)の隣室(りんしつ)、122お民(たみ)の寝間(ねま)を指(さ)して吹雪(ふぶき)をぬひつつ行(い)つて了(しま)つた。123お寅(とら)は蠑螈別(いもりわけ)の居間(ゐま)に帰(かへ)つて見(み)ると、124豈(あに)図(はか)らむや、125旅装束(たびしやうぞく)をしたまま打倒(うちたふ)れてゐる。
126お寅(とら)『コレヤまあ何(なん)の事(こと)だいなア、127コレ蠑(い)さま、128何(なに)こんな所(ところ)に厳(いか)めしい装束(しやうぞく)をして倒(たふ)れてゐるのだい。129アーア魔我彦(まがひこ)は何処(どこ)へ行(い)つたのだい。130番犬(ばんけん)を仰(おほ)せつけておくのに雪(ゆき)の降(ふ)るのに、131のそのそと夜歩(よある)きをしてをると見(み)える。132困(こま)つた男(をとこ)だな、133コレお菊(きく)、134水(みづ)を持(も)つて来(こ)い』
135お菊(きく)『水(みづ)持(も)つて来(こ)いといつたつて、136下(した)まで汲(く)みに下(お)りなくちや一滴(ひとしづく)もあれやしないわ。137ソレよりも鼻(はな)をつまんでおやり、138そしたら屹度(きつと)気(き)がつくわ』
139 お寅(とら)は合点(がつてん)だと蠑螈別(いもりわけ)の鼻(はな)を例(れい)の如(ごと)くグツと右(みぎ)の手(て)で捻(ね)ぢ、140左(ひだり)の手(て)で背(せな)を三(みつ)つ四(よ)つ喰(くら)はした。141蠑螈別(いもりわけ)はハツと気(き)がつき、
142蠑螈(いもり)『お民(たみ)、143ヨウ助(たす)けて呉(く)れた。144到頭(たうとう)走(はし)る最中(さいちう)、145蹴(け)つまづいて、146ひどい事(こと)だつた。147もうスツテの事(こと)で幽冥(いうめい)旅行(りよかう)をやるところだつた。148お寅(とら)の奴(やつ)追(お)ひかけて来(き)やがつて………』
149 お寅(とら)はグツと胸倉(むなぐら)を握(と)り、
150お寅『コラ蠑螈別(いもりわけ)、151何(なに)を云(い)ふとるのだい。152お民(たみ)が何(ど)うしたと云(い)ふのだいなア』
153 蠑螈別(いもりわけ)は此(この)声(こゑ)に驚(おどろ)いて目(め)を見(み)ひらけば、154閻魔(えんま)が駄羅助(だらすけ)を舐(ねぶ)つたやうな顔(かほ)してブルブル震(ふる)ひ乍(なが)らお寅(とら)が胸倉(むなぐら)をとり、155歯(は)をくひしめて睨(にら)んでゐる。
156蠑螈(いもり)『ナニ一寸(ちよつと)夢(ゆめ)を見(み)たのだ。157ナヽヽヽヽナンでもない、158そこ放(はな)してくれ、159苦(くる)しい、160苦(くる)しい哩(わい)』
161お寅(とら)『たいさうな脚装束(あししやうぞく)をして何処(どこ)へ行(ゆ)くつもりだい』
162蠑螈(いもり)『ナニ一寸(ちよつと)松姫(まつひめ)さまに逢(あ)ひたいと思(おも)つて』
163お寅(とら)『松姫(まつひめ)さまとこへ行(ゆ)くのに旅装束(たびしやうぞく)をして………何(なん)の事(こと)だいなア。164些(ちつと)怪(あや)しいぢやありませぬか』
165蠑螈(いもり)『ナニ一寸(ちよつと)大広間(おほひろま)まで御(お)礼(れい)に行(い)つて来(く)るつもりだ』
166お寅(とら)『此(この)雪(ゆき)の降(ふ)つて居(ゐ)るのに今日(けふ)に限(かぎ)つて行(ゆ)く必要(ひつえう)がありますか。167アンマリ馬鹿(ばか)にしなさるな、168人(ひと)を盲(めくら)にして……』
169蠑螈(いもり)『ナニ雪(ゆき)が降(ふ)つて居(ゐ)るから、170下駄(げた)の歯(は)に雪(ゆき)がつまつてこけると思(おも)つて、171草鞋(わらぢ)をはいたのだ』
172お寅(とら)『五間(ごけん)や六間(ろくけん)の距離(きより)よりない大広間(おほひろま)へ行(ゆ)くのに大変(たいへん)な旅装束(たびしやうぞく)すると云(い)ふ事(こと)がありますかい。173しかも御(ご)叮嚀(ていねい)に蓑笠(みのかさ)をかぶり、174何(なん)の事(こと)だいなア。175お前(まへ)さまの行(ゆ)く処(ところ)は外(ほか)にあるのだらう』
176蠑螈(いもり)『ウン外(ほか)にある、177笠松(かさまつ)の根元(ねもと)の御(ご)神木(しんぼく)の傍(はた)まで一寸(ちよつと)御(お)礼(れい)に行(ゆ)くのだよ』
178お寅(とら)『あまり馬鹿(ばか)になさると、179鼻(はな)を捩(ねぢ)ますぜ』
180蠑螈(いもり)『イヤ鼻(はな)ばつかりは御免(ごめん)だ』
181お寅(とら)『そんなら、182つめつて上(あ)げようかい』
183蠑螈(いもり)『イヤア此(こ)の冷(つめ)たいのに抓(つめ)るのは御免(ごめん)だ。184お寅(とら)、185モウ怺(こら)へてくれ。186もう何処(どこ)へも行(ゆ)きはせぬから』
187お寅(とら)『コレ兵六玉(ひやうろくだま)、188此(この)お寅(とら)を何(なん)と思(おも)つて居(ゐ)るのだ、189これでも浮木(うきき)の村(むら)の白浪(しらなみ)女(をんな)丑寅(うしとら)さまといつたら誰(たれ)知(し)らぬものもない姐(ねえ)さまだぞ。190此(この)姐(ねい)さまの目(め)を晦(くら)まさうと思(おも)つたつて、191野郎(やらう)の力(ちから)でくらまさるるものか、192サ綺麗(きれい)薩張(さつぱ)りと白状(はくじやう)すればよし、193白状(はくじやう)せぬに於(おい)ては、194可愛(かあい)さあまつて憎(にく)さが百倍(ひやくばい)ひねりつぶしてやるぞ』
195蠑螈(いもり)『実(じつ)はエーンその実(じつ)は………実(じつ)はやつぱり実(じつ)だ。196何(なに)を云(い)へといつたつて、197胸倉(むなぐら)とつてゐては息(いき)が苦(くる)しくつて云(い)へはせぬぢやないか。198はなせ はなせ』
199お寅(とら)『そんなら放(はな)すから、200薩張(さつぱ)り白状(はくじやう)せ、201お前(まへ)はお民(たみ)と今晩(こんばん)駆落(かけお)ちするつもりぢやろ。202お民(たみ)は野口(のぐち)の森(もり)辺(あた)りに待合(まちあは)して居(ゐ)るのだろ』
203といひ乍(なが)ら、204胸倉(むなぐら)を握(にぎ)つた手(て)をパツとはなした。205蠑螈別(いもりわけ)はスツと立(た)つた途端(とたん)に懐(ふところ)の小判(こばん)が、206ガタツと音(おと)がして落(お)ちた。207お寅(とら)は之(これ)を見(み)るより怒(いか)り心頭(しんとう)に達(たつ)し、208狂気(きやうき)の如(ごと)くなり、
209お寅(とら)『此(こ)の泥坊(どろばう)奴(め)、210金子(かね)を掻浚(かつさら)へてお民(たみ)と駆落(かけおち)するつもりだつたのだなア、211待(ま)て待(ま)て今(いま)に思(おも)ひ知(し)らしてやらう』
212とあわてて火鉢(ひばち)につまづき逆上(のぼせ)て空(そら)ぶつた身体(からだ)は忽(たちま)ちスツテンドウと倒(たふ)れて、213柱(はしら)の角(かど)に額(ひたひ)をグワンと打(う)ち「アイタ」と云(い)つたきり、214其(その)場(ば)にしやがんで仕舞(しま)つた。215蠑螈別(いもりわけ)は手早(てばや)く小判(こばん)を拾(ひろ)ひ上(あ)げ腰(こし)につけ直(なほ)し、216金剛杖(こんがうづゑ)を手(て)に持(も)ち、
217蠑螈(いもり)『お寅(とら)、218俺(おれ)は寸時(しばらく)修行(しうぎやう)に行(い)て来(く)る程(ほど)に留守(るす)を頼(たの)むぞや。219人間(にんげん)は老少(らうせう)不定(ふぢやう)、220会(あ)ふのは別(わか)れの初(はじ)めとやら、221御縁(ごえん)があつたら又(また)未来(みらい)で御(お)目(め)に掛(かか)りませう。222之(これ)がお寅(とら)さまと別(わか)れに際(さい)しての形見(かたみ)だ』
223といひ乍(なが)ら、224金剛杖(こんがうづゑ)で頭(あたま)をコツコツと打(うち)たたき「アリヨース」といひ乍(なが)ら、225雲(くも)を霞(かすみ)と駆(か)け出(だ)した。226柱(はしら)に額(ひたひ)を打(う)つて気(き)が遠(とほ)くなつてゐたお寅(とら)は、227頭(あたま)を叩(たた)かれた途端(とたん)に気(き)がつき、228面(おもて)を上(あ)げ屋外(をくぐわい)を見(み)れば、229蠑螈別(いもりわけ)は下(した)の坂(さか)を一丁(いつちやう)許(ばか)りも走(はし)つて居(ゐ)るのが、230折柄(をりから)上(のぼ)る鋭鎌(とがま)の如(ごと)き月(つき)に照(て)らされ見(み)えてゐる。231お寅(とら)は狂気(きやうき)となり、
232お寅(とら)『おのれ蠑螈別(いもりわけ)、233此(この)お寅(とら)を馬鹿(ばか)にしをつたなア』
234と怒(いか)りの声(こゑ)をはり上(あ)げ乍(なが)ら裾(すそ)もあらはに雪(ゆき)の路(みち)をこけつ転(まろ)びつ追(お)つかけて行(ゆ)く。
235○
236 偖(さ)て松彦(まつひこ)は松姫(まつひめ)を始(はじ)め万公(まんこう)、237五三公(いそこう)、238アク、239タク、240テク等(など)と相談(さうだん)の上(うへ)、241小北山(こぎたやま)に修祓(しうばつ)を行(おこな)ひ、242国治立(くにはるたち)の大神(おほかみ)を始(はじ)め三五教(あななひけう)を守(まも)ります天地(あめつち)八百万(やほよろづ)の神(かみ)を一々(いちいち)鎮祭(ちんさい)し、243松姫(まつひめ)、244お千代(ちよ)、245お菊(きく)並(ならび)に受付(うけつけ)の文助(ぶんすけ)其(その)他(た)に真理(しんり)を説(と)きさとし、246此(この)聖場(せいぢやう)を清(きよ)く正(ただ)しく祭(まつ)らしめおき、247松彦(まつひこ)、248万公(まんこう)、249五三公(いそこう)、250アク、251タク、252テクの一行(いつかう)は、253小北山(こぎたやま)を後(あと)に眺(なが)めて浮木(うきき)の森(もり)を指(さ)して足(あし)を早(はや)めた。
254 因(ちなみ)に魔我彦(まがひこ)はお民(たみ)の此(この)館(やかた)を逃去(にげさ)つた事(こと)を聞(き)き何処迄(どこまで)も探(さが)しあてねばおくものかと、255是(これ)又(また)尻(しり)ひつからげ、256お寅(とら)の後(あと)を追(お)うて三丁(さんちやう)許(ばか)り距離(きより)を保(たも)ち乍(なが)ら、257トントントンと野口(のぐち)の森(もり)を目当(めあて)にかけり行(ゆ)く。
258(大正一一・一二・一三 旧一〇・二五 外山豊二録)
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