霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第四章 霊(みたま)の淫念(いんねん)〔一一九四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第45巻 舎身活躍 申の巻 篇:第1篇 小北の特使 よみ(新仮名遣い):こぎたのとくし
章:第4章 霊の淫念 よみ(新仮名遣い):みたまのいんねん 通し章番号:1194
口述日:1922(大正11)年12月11日(旧10月23日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年9月12日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
蠑螈別は数多の神が自分の体に出入りするので、神様にお神酒を祀るのだと言って、朝から晩まで酒盛りをしていた。
お寅に酌をさせながら高姫を思ったり、奥の間に居る松姫をお酌に呼ばせようとしたりして、お寅と喧嘩になってしまう。
お寅は嫉妬のあまり、松彦を受け付けに待たせていることも忘れて蠑螈別を押さえつけ、徳利や盃はめちゃめちゃに砕けた。
魔我彦がやってきてお寅をたしなめるが、お寅は蠑螈別に思われてウラナイ教に入ってやったのに、その恩も忘れてほかの女に色目を使うと怒って、ますます蠑螈別を押さえつけ殴りつける。蠑螈別は助けてくれと叫ぶ。
文助がやってきて、教祖が呼び戻した末代日の王天の神の身魂という松彦が、受け付けでしびれを切らしていると注進する。お寅は蠑螈別を離し、捨て台詞を残して受付に帰って行く。
魔我彦はこんな醜態を松彦たちに見られてはたいへんと蠑螈別を奥へ引っ張って行って寝かせてしまった。お寅は松彦一行を導き、この場の荒れた様子を猫のせいにして魔我彦に片付けさせた。
お寅は、奥にいる松姫は上義姫の身魂であり、松彦と夫婦となって活動する因縁なのだという。松彦は迷惑な話だと居住まいを正している。万公は偽の神がかりをやって、自分は耕し大神だと自称する。
奥からは蠑螈別が、お寅をからかったために大変な目にあった、高姫がなつかしいとうわごとを言っているのが聞こえてきた。お寅は病気の信者に悪霊がかかって、教祖の声色でひとをだますのだとごまかしている。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2025-10-28 09:52:52 文字数:7590 OBC :rm4504
愛善世界社版:54頁 八幡書店版:第8輯 272頁 修補版: 校定版:58頁 普及版:23頁 初版: ページ備考:
001朝(あさ)から晩(ばん)まで酒盛(さかもり)の
002蠑螈別(いもりわけ)の神司(かむづかさ)
003数多(あまた)の神(かみ)の出入(しゆつにふ)に
004酒(くし)を祀(まつ)ると云(い)ひ乍(なが)ら
005頬(ほほ)べた迄(まで)も赤(あか)くして
006臭(くさ)い息(いき)をば吹(ふき)まくり
007侍者(じしや)の鼻(はな)をばゆがませつ
008腋臭(わきが)のかほり紛々(ぷんぷん)と
009あたりの空気(くうき)を改悪(かいあく)し
010天津(あまつ)祝詞(のりと)の言霊(ことたま)を
011呂律(ろれつ)もまはらぬ舌(した)の根(ね)に
012ころばせ乍(なが)ら朝(あさ)の中(うち)
013ウラナイ教(けう)の神言(かみごと)を
014汗(あせ)をタラタラ絞(しぼ)りつつ
015唱(とな)へて又(また)もや神(かみ)様(さま)に
016うましき酒(さけ)を献(たてまつ)り
017づぶ六(ろく)サンになつた上(うへ)
018真昼(まひる)が来(く)れば神前(しんぜん)に
019足許(あしもと)怪(あや)しく進(すす)みより
020天(てん)にまします吾(わが)父(ちち)よ
021御国(みくに)を来(きた)らせ玉(たま)へかし
022天(てん)になります其(その)如(ごと)く
023地(ち)にも天国(てんごく)建(た)てさせよ
024アーメン、ソーメン、トコロテン
025ウドンに蕎麦(そば)に焼芋(やきいも)の
026肴(さかな)をドツサリ前(まへ)に据(す)ゑ
027曲津(まがつ)の神(かみ)の御(ご)光来(くわうらい)
028いと叮嚀(ていねい)に歓迎(くわんげい)し
029絶対(ぜつたい)的(てき)に博愛(はくあい)の
030趣旨(しゆし)を貫徹(くわんてつ)させ乍(なが)ら
031夕(ゆふ)べになれば正宗(まさむね)の
032酒(さけ)にはあらぬ肉(にく)の宮(みや)
033蠑螈別(いもりわけ)は数珠(じゆず)をもみ
034南無(なむ)阿弥陀仏(あみだぶつ)南無(なむ)阿弥陀(あみだ)
035般若(はんにや)心経(しんぎやう)波羅蜜(はらみつ)経(きやう)
036節面白(ふしおもしろ)く唱(とな)へ上(あ)げ
037三教(さんけう)合同(がふどう)の御(ご)本尊(ほんぞん)
038床次(とこなみ)さまの後(あと)をつぎ
039天晴(あつぱ)れ教主(けうしゆ)と成(な)りすまし
040酒(さけ)の機嫌(きげん)でドラ声(ごゑ)を
041張上(はりあ)げ唸(うな)るお寅(とら)さま
042小皺(こじわ)のよつた手(て)を出(だ)して
043燗徳利(かんどつくり)をひん握(にぎ)り
044朝顔型(あさがおがた)の盃(さかづき)を
045前(まへ)につき出(だ)し目(め)を細(ほそ)うし
046お酒(さけ)の功徳(くどく)も大広木(おほひろき)
047正宗(まさむね)さまよコレちよいと
048お過(す)ごしあれと差出(さしだ)せば
049酒(さけ)のタンクの正宗(まさむね)は
050御(ご)機嫌斜(きげんななめ)ならずして
051お寅(とら)よお前(まへ)は偉(えら)い奴(やつ)
052年(とし)はとつても姥桜(うばざくら)
053まだどこやらに花(はな)の香(か)が
054プンプン残(のこ)つて居(ゐ)るやうだ
055お前(まへ)の優(やさ)しい其(その)目許(めもと)
056オツトヽヽヽヽヽこぼれます
057あまり勢(いきほひ)が強(つよ)い故(ゆゑ)
058情(じやう)が余(あま)つて迸(ほとばし)り
059一張羅(いつちやうら)のお小袖(こそで)が
060サツパリわやになりました
061さは去(さ)り乍(なが)ら之(これ)も亦(また)
062正宗(まさむね)さまの御(おん)酒(さけ)に
063よごされたりと見直(みなほ)せば
064却(かへつ)て私(わたし)は有難(ありがた)い
065可愛(かあい)いお方(かた)が好(す)き好(この)む
066霊(みたま)の籠(こも)つた露(つゆ)ぢやもの
067如何(どう)して不足(ふそく)に思(おも)ひませう
068一献(いつこん)あがれと徳利(とくり)を
069又(また)もや前(まへ)に突出(つきだ)せば
070正宗(まさむね)さまは悦(えつ)に入(い)り
071あゝ世(よ)の中(なか)に酒(さけ)と云(い)ふ
072奴(やつ)程(ほど)可愛(かあい)いものはない
073お酒(さけ)が俺(おれ)の生命(せいめい)だ
074酒(さけ)さへあらば如何(いか)様(やう)な
075ナイスも嬶(かかあ)も要(い)るものか
076お寅(とら)のさした盃(さかづき)は
077高姫(たかひめ)さまの口元(くちもと)に
078どことはなしによく似(に)とる
079此(この)盃(さかづき)を唇(くちびる)に
080あててキツスをする時(とき)は
081何(なん)ともいへぬ味(あぢ)がする
082あゝ有難(ありがた)い有難(ありがた)い
083これ高姫(たかひめ)よ高姫(たかひめ)よ
084大(おほ)けな口(くち)を開(あ)け乍(なが)ら
085ここに居(ゐ)ますと一言(ひとこと)の
086なぜ言問(ことと)ひをしてくれぬ
087口(くち)ばつかりがあつたとて
088肝腎要(かんじんかなめ)の肉(にく)の宮(みや)
089お目(め)にかからな気(き)がゆかぬ
090ホンに思(おも)へば情(なさけ)ない
091夢(ゆめ)の浮世(うきよ)といふことは
092こんなことをば言(い)ふのだろ
093夢(ゆめ)の蠑螈別(いもりわけ)さまと
094播陽(ばんやう)さまが言(い)ひよつた
095コレコレ丑寅(うしとら)婆(ば)アさまよ
096お前(まへ)ぢや根(ね)つから気(き)がゆかぬ
097大奥(おほおく)に居(ゐ)る上義姫(じやうぎひめ)
098肉(にく)の宮(みや)をば呼(よ)んで来(き)て
099酒(さけ)の相手(あひて)をさしてくれ
100何(なん)とはなしに淋(さび)しうて
101そこらが冷(つめ)たくなつて来(き)た
102そも人間(にんげん)といふ奴(やつ)は
103異性(いせい)がなくては面白(おもしろ)く
104可笑(をか)しう此(この)世(よ)が渡(わた)れない
105サアサア早(はや)う上義姫(じやうぎひめ)
106呼(よ)んでお出(い)でとダダこねる
107丑寅(うしとら)婆(ば)さまはキツとなり
108口角泡(こうかくあわ)をとばしつつ
109団栗(どんぐり)眼(まなこ)をむきいだし
110蠑螈別(いもりわけ)の旦那(だんな)さま
111私(わたし)の前(まへ)でそんな事(こと)
112どこを押(おさ)へたら言(い)へますか
113過(す)ぎし逢瀬(あふせ)の睦言(むつごと)を
114最早(もはや)お忘(わす)れなさつたか
115ホンに薄情(はくじやう)なお前(まへ)さま
116私(わたし)は今(いま)は年老(としよ)つて
117皺苦茶(しわくちや)婆(ば)アになつたれど
118浮木(うきき)の村(むら)の侠客(けふかく)で
119丑寅(うしとら)さまと仇名(あだな)をば
120取(と)つたる女侠客(をんなけふかく)だ
121バカになさるも程(ほど)がある
122何程(なにほど)神(かみ)が沢山(たくさん)に
123お出入(でい)りなさるか知(し)らね共(ども)
124さうクレクレと猫(ねこ)の目(め)の
125お変(かは)り易(やす)い恋衣(こひごろも)
126破(やぶ)つて貰(もら)つちやたまらない
127私(わたし)も了見(れうけん)ある程(ほど)に
128覚(おぼ)えてゐろよと言(い)ひ乍(なが)ら
129松彦(まつひこ)さまを受付(うけつけ)に
130待(ま)たしたことを打忘(うちわす)れ
131蠑螈別(いもりわけ)の胸倉(むなぐら)を
132力(ちから)に任(まか)せてグツと取(と)り
133コリヤコリヤ正宗(まさむね)大広木(おほひろき)
134蠑螈別(いもりわけ)よバカにすな
135お寅(とら)の腕(うで)には骨(ほね)がある
136モウ此(この)儘(まま)ですまさぬぞ
137どうぢやどうぢやと胸板(むないた)を
138力(ちから)に任(まか)してもみつぶす
139蠑螈別(いもりわけ)は泡(あわ)を吹(ふ)き
140顔(かほ)を蒼青(まつさを)にサツと変(か)へ
141アイタタタツタ待(ま)つてくれ
142どうやら息(いき)が切(き)れさうだ
143もう是(これ)からはスツパリと
144松姫(まつひめ)さまの上義姫(じやうぎひめ)
145肉(にく)の宮(みや)をば思(おも)ひ切(き)り
146お前(まへ)を大事(だいじ)にする程(ほど)に
147放(はな)せよ放(はな)せ胸倉(むなぐら)を
148アイタタタツタ ウンウンウン
149苦(くる)しいわいの、コラヤお寅(とら)
150許(ゆる)してくれよと手(て)を合(あ)はし
151剛情(がうじやう)我慢(がまん)の正宗(まさむね)も
152命(いのち)惜(をし)さに詫入(わびい)れば
153呆(あき)れてこける燗徳利(かんどくり)
154盃(さかづき)までがメチヤメチヤに
155砕(くだ)けて笑(わら)ふ面白(おもしろ)さ
156ガチヤン ガチヤンと拍子(ひやうし)取(と)り
157土瓶(どびん)は躍(をど)る徳利(とくり)舞(ま)ふ
158朝顔型(あさがほがた)の盃(さかづき)は
159落花(らくくわ)微塵(みぢん)となりはてて
160姿(すがた)小(ちひ)さく数(かず)多(おほ)く
161変化(へんげ)したるぞ可笑(をか)しけれ
162お寅(とら)は尚(なほ)も承知(しようち)せず
163コリヤコリヤ正宗(まさむね)大広木(おほひろき)
164口先(くちさき)ばかりでツベコベと
165ゴマかしよるか、そんな事(こと)
166聞(き)くよな婆(ばば)ぢやない程(ほど)に
167以後(いご)のみせしめ今一(いまひと)つ
168あの世(よ)この世(よ)の境(さかひ)まで
169やつてやらねばおかないと
170鬼(おに)の蕨(わらび)をふり立(た)てて
171悋気(りんき)の勢(いきほひ)凄(すさま)じく
172ポカンポカンと打(うち)たたく
173目(め)を白黒(しろくろ)とさせ乍(なが)ら
174アイタタ タツタ コリヤ許(ゆる)せ
175金輪(こんりん)奈落(ならく)天(てん)が地(ち)と
176なる世(よ)が来(き)ても正宗(まさむね)は
177決(けつ)してお前(まへ)を捨(す)てはせぬ
178疑(うたがひ)はらして其(その)手(て)をば
179早(はや)く放(はな)してくれぬかい
180折角(せつかく)呑(の)んだ酒(さけ)迄(まで)が
181早(はや)遠国(ゑんごく)へ出奔(しゆつぽん)し
182ゾツと身(み)に沁(し)む秋(あき)の風(かぜ)
183冬(ふゆ)の薄衣(うすぎぬ)ブルブルと
184身体(からだ)一面(いちめん)慄(ふる)ひ出(だ)した
185あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
186御霊(みたま)幸(さちは)ひましませよ
187涙(なみだ)と共(とも)に手(て)を合(あは)せ
188願(ねが)へばお寅(とら)はつけ上(あが)り
189今日(けふ)はどしても許(ゆる)しやせぬ
190松姫(まつひめ)さまに涎(よだれ)くり
191怪体(けたい)な細目(ほそめ)をむきやがつて
192私(わたし)を盲目(めくら)にしたぢやないか
193今日(けふ)はドツサリ身(み)のあぶら
194絞(しぼ)つてやらねば虫(むし)がいえぬ
195たかが男(をとこ)の一人(ひとり)位(くらゐ)
196殺(ころ)した所(ところ)で何(なに)惜(をし)い
197観念(くわんねん)せよと言(い)ひ乍(なが)ら
198怒(いか)りの面色(めんしよく)凄(すさま)じく
199何時(いつ)果(は)つべしとも見(み)えざりし
200所(ところ)へスタスタやつて来(く)る
201魔我彦(まがひこ)さまの義理(ぎり)天上(てんじやう)
202日(ひ)の出神(でのかみ)の肉宮(にくみや)が
203見(み)るより忽(たちま)ち仰天(ぎやうてん)し
204アツとばかりに尻餅(しりもち)を
205ついたる様(さま)の可笑(をか)しさよ
206魔我彦(まがひこ)漸(やうや)く口(くち)をあけ
207コリヤコリヤお寅(とら)婆(ば)アさまよ
208正宗(まさむね)さまの肉宮(にくみや)を
209なぜ其(その)様(やう)に失礼(しつれい)な
210無体(むたい)なことを致(いた)すのか
211痩(やせ)てもこけてもウラナイの
212神(かみ)の教(をしへ)の教祖(けうそ)様(さま)
213神(かみ)の出入(でいり)の生宮(いきみや)を
214打擲(ちやうちやく)するとは何(なん)の事(こと)
215覿面(てきめん)に罰(ばち)が当(あた)るぞや
216早(はや)く其(その)手(て)を放(はな)さんせ
217言(い)へばお寅(とら)は目(め)をすえて
218コリヤコリヤ魔我彦(まがひこ)義理(ぎり)天上(てんじやう)
219訳(わけ)も知(し)らずにツベコベと
220仲裁(ちうさい)だてが気(き)にくはぬ
221唐変木(たうへんぼく)のお前(まへ)さまに
222此(この)いきさつが分(わか)らうか
223モウ斯(か)くなれば何(なに)もかも
224一切(いつさい)曝露(ばくろ)して了(しま)ふ
225実(じつ)の所(ところ)は此(この)お寅(とら)
226正宗(まさむね)さまに思(おも)はれて
227夜(よ)は暖(あたたか)き敷蒲団(しきぶとん)
228恩(おん)も知(し)らずに此(この)色魔(しきま)
229人(ひと)もあらうに神(かみ)様(さま)の
230御用(ごよう)を遊(あそ)ばす松姫(まつひめ)に
231秋波(しうは)を送(おく)り二世(にせ)三世(さんせ)
232百生(ひやくしやう)迄(まで)も夫婦(ふうふ)ぞと
233約束(やくそく)したる此(この)わしを
234邪魔者(じやまもの)扱(あつかひ)にさらす故(ゆゑ)
235お寅(とら)の顔(かほ)が立(た)たないと
236今(いま)折檻(せつかん)をするとこぢや
237子供(こども)の出(で)て来(く)る幕(まく)でない
238グヅグヅしてると飛(と)ばしづく
239どこへかかるか知(し)れないぞ
240お前(まへ)の足元(あしもと)明(あか)い内(うち)
241どこなと勝手(かつて)に逃(に)げなされ
242サア是(これ)からが荒料理(あられうり)
243腹(はら)わた迄(まで)もゑぐり出(だ)し
244大洗濯(おほせんたく)をしてやらな
245中々(なかなか)改心(かいしん)致(いた)すまい
246ここらが百尋(ひやくひろ)胃袋(ゐぶくろ)と
247無性(むしやう)矢鱈(やたら)にひつつかみ
248鷲(わし)のやうなる爪(つめ)たてて
249引(ひつ)かきむしるぞ恐(おそ)ろしき
250蠑螈別(いもりわけ)は顔(かほ)しかめ
251半死(はんし)半生(はんしやう)の為体(ていたらく)
252アイタタ タツタ ウンウンウン
253苦(くる)しい苦(くる)しい魔我彦(まがひこ)よ
254どうぞ助(たす)けてくれぬかい
255アイタタ タツタ アイタタタ
256お寅(とら)といふ奴(やつ)アこれ程(ほど)に
257悋気(りんき)の強(つよ)い女(をんな)だと
258思(おも)はなかつたあゝ苦(くる)しい
259助(たす)けてくれえと声(こゑ)限(かぎ)り
260呼(よ)ばはり居(ゐ)たる折(をり)もあれ
261目(め)かいの見(み)えぬ文助(ぶんすけ)が
262コレコレ申(まを)し教祖(けうそ)さま
263あなたがお呼(よ)びなさつたる
264末代(まつだい)日(ひ)の王天(わうてん)の神(かみ)
265生宮(いきみや)さまが受付(うけつけ)に
266しびれ切(き)らして待(ま)つて厶(ござ)る
267早(はや)くお出会(であひ)なされませ
268何(なん)だか知(し)らぬがガヤガヤと
269いと騒(さわ)がしい音(おと)がする
270痛(いた)い痛(いた)いと仰有(おつしや)るが
271頭痛(づつう)がするのか但(ただ)し又(また)
272お肩(かた)がこるのか知(し)らね共(ども)
273余(あま)り人(ひと)を待(ま)たしては
274御(ご)無礼(ぶれい)になるかも知(し)れませぬ
275目(め)かいの見(み)えぬ文助(ぶんすけ)は
276此(この)場(ば)の様子(やうす)を露(つゆ)知(し)らず
277平気(へいき)な事(こと)を言(い)うてゐる
278お寅(とら)はハツと気(き)がついて
279オウオウさうぢやオウさうぢや
280末代(まつだい)日(ひ)の王天(わうてん)の神(かみ)
281此(この)門口(もんぐち)に待(ま)つて厶(ござ)る
282コリヤコリヤ正宗(まさむね)大広木(おほひろき)
283末代(まつだい)様(さま)のお出(い)で故(ゆゑ)
284今日(けふ)は許(ゆる)しておく程(ほど)に
285モウこれからは馬鹿(ばか)なこと
286したり言(い)うたり致(いた)したら
287お前(まへ)の首(くび)はない程(ほど)に
288覚悟(かくご)はよいかと云(い)ひ乍(なが)ら
289パツと放(はな)せば正宗(まさむね)は
290ハツと一息(ひといき)鼻汁(はな)をかみ
291涙(なみだ)を拭(ぬぐ)ふ可笑(をか)しさよ
292お寅(とら)は尻目(しりめ)にかけ乍(なが)ら
293素知(そし)らぬ顔(かほ)をよそほひつ
294襟(えり)をば直(なほ)しソロソロと
295受付(うけつけ)さして出(い)でて行(ゆ)く。
296 お寅(とら)婆(ば)アさまの受付(うけつけ)へ出(で)た後(あと)で、297魔我彦(まがひこ)は松彦(まつひこ)にこんな所(ところ)を見(み)られては大変(たいへん)だと思(おも)ひ、298蠑螈別(いもりわけ)の手(て)を引(ひ)いて奥(おく)の一間(ひとま)へ寝(ね)かせて了(しま)つた。299蠑螈別(いもりわけ)は夢現(ゆめうつつ)になつて、300訳(わけ)の分(わか)らぬ事(こと)を呶鳴(どな)つてゐる。301其(その)間(ま)にお寅(とら)は松彦(まつひこ)一行(いつかう)を叮嚀(ていねい)に導(みちび)き、302奥(おく)の間(ま)へ伴(つ)れて来(き)た。
303お寅(とら)『あゝあ、304油断(ゆだん)のならぬ悪(わる)い猫(ねこ)奴(め)が徳利(とつくり)をこかす、305盃(さかづき)をふみわる、306なんのこつちやいな、307エーエ気(き)のつかぬ、308魔我彦(まがひこ)は何(なに)しとるのぢやいな。309其(その)間(ま)に座敷(ざしき)を片付(かたづ)けてくれるかと思(おも)ひ、310ワザと暇(ひま)を入(い)れて居(を)つたのに……私(わたし)がしたのだないから知(し)らぬ……といふ様(やう)な他人(たにん)行儀(ぎやうぎ)の魔我彦(まがひこ)の仕方(しかた)、311エーエ仕方(しかた)のないものだ』
312と小声(こごゑ)で呟(つぶや)いてゐる。
313松彦(まつひこ)『お寅(とら)さま、314大変(たいへん)大(おほ)きな猫(ねこ)がゐると見(み)えますなア。315盃(さかづき)を踏(ふ)みわるなんて、316随分(ずゐぶん)立派(りつぱ)な物(もの)でせう』
317 魔我彦(まがひこ)は次(つぎ)の間(ま)からヌツと顔(かほ)を出(だ)した。318お寅(とら)は目(め)に角(かど)を立(た)て、
319お寅(とら)『コレ、320天上(てんじやう)さま、321気(き)のつかぬ方(かた)ぢやなア。322これ程(ほど)猫(ねこ)があばれてるのに、323なぜ片付(かたづ)けないのだい。324お客(きやく)さまがお出(い)でになつたのに、325みつともないぢやないか』
326魔我(まが)『ハイ実(じつ)の所(ところ)は牡猫(をねこ)と牝猫(めねこ)が二疋(にひき)やつて来(き)やがつて、327噛(か)み合(あ)ひをやつたのですよ。328牡(をす)の方(はう)は酒(さけ)の好(す)きな猫(ねこ)で、329ヘベレケになり、330一方(いつぱう)はドテライ牝猫(めんねこ)で而(しか)も寅猫(とらねこ)でした。331滅多(めつた)矢鱈(やたら)に咬合(かみあ)ふものだから、332火箸(ひばし)でなぐらうと思(おも)うたトタンに、333猫(ねこ)はなぐれず盃(さかづき)をなぐつて、334此(この)通(とほ)りメチヤメチヤにして了(しま)うたのですよ』
335お寅(とら)『エーエ、336何(なに)をさしても気(き)の利(き)かぬ方(かた)だな、337サア、338早(はや)く片付(かたづ)けなさい、339人様(ひとさま)にザマが悪(わる)いぢやないかい』
340 魔我彦(まがひこ)は苦笑(にがわら)ひし乍(なが)ら、
341魔我(まが)『ザマの悪(わる)い事(こと)は誰(たれ)がしたのだ。342ヘン馬鹿(ばか)らしい』
343と口(くち)の中(なか)で呟(つぶや)き乍(なが)ら、344不精(ふしやう)無精(ぶしやう)に座敷(ざしき)を片(かた)づける。345松彦(まつひこ)一党(いつたう)は居間(ゐま)の入口(いりぐち)に手持(てもち)無沙汰(ぶさた)な風(ふう)をして立待(たちま)ちをして居(ゐ)る。346魔我彦(まがひこ)はあわただしく一間(ひとま)の掃除(さうぢ)をなし、347火鉢(ひばち)、348鉄瓶(てつびん)、349徳利(とくり)、350膳(ぜん)などの置場所(おきばしよ)を直(なほ)し、351座蒲団(ざぶとん)を七(しち)枚(まい)布(し)き終(をは)り、
352魔我(まが)『サアえらうお待(ま)たせしました。353末代(まつだい)日(ひ)の王天(わうてん)の大神(おほかみ)の生宮(いきみや)様(さま)、354どうぞ正座(しやうざ)にお直(なほ)り下(くだ)さいませ』
355松彦(まつひこ)『天(てん)の大神(おほかみ)も随分(ずゐぶん)落(お)ちぶれて居(を)りました』
356と言(い)ひ乍(なが)ら、357差図(さしづ)する儘(まま)に正座(しやうざ)に坐(すわ)つた。
358お寅(とら)『これはこれはよくマアお出(い)で下(くだ)さいました。359上義姫(じやうぎひめ)様(さま)の肉(にく)の宮(みや)が大変(たいへん)にお待受(まちうけ)で厶(ござ)いますよ。360神(かみ)様(さま)だつて夫婦(ふうふ)がなければ、361誠(まこと)の御(ご)神業(しんげふ)は出来(でき)ませぬからなア』
362松彦(まつひこ)『吾々(われわれ)にはそんな粋事(すゐごと)はありませぬ。363お見(み)かけ通(どほ)りの木石漢(ぼくせきかん)ですからなア』
364 お寅(とら)はツツと傍(そば)へ寄(よ)り、365松彦(まつひこ)の手(て)の甲(かふ)をソツと押(おさ)へて細目(ほそめ)をし乍(なが)ら、
366お寅(とら)『ヘヽヽ、367うまい事(こと)を仰有(おつしや)いますな。368流石(さすが)姫殺(ひめごろし)だ。369恋(こひ)の上手(じやうづ)はやつれてかかるとか言(い)ひましてな。370本当(ほんたう)に至(いた)れり尽(つく)せりだ。371蠑螈別(いもりわけ)オツトドツコイ……大分(だいぶん)に違(ちが)ひますわい。372此(この)婆(ばば)アだつて貴方(あなた)の様(やう)な男(をとこ)らしい生神(いきがみ)様(さま)だつたら、373モウ二十(にじふ)年(ねん)も若(わか)かつたら一苦労(ひとくらう)して見(み)ますがなア。374ホツホヽヽヽ』
375 松彦(まつひこ)は渋(しぶ)をかんだ様(やう)な面付(かほつき)で、
376松彦(まつひこ)『どうぞ揶揄(からかひ)はやめて下(くだ)さい。377吾々(われわれ)は大切(たいせつ)な御用(ごよう)のある身体(からだ)、378其(その)寸暇(すんか)を伺(うかが)つてあなたのお勧(すす)めに任(まか)せ参(まゐ)つたのですから、379下(くだ)らぬ話(はなし)をなさるのならば、380最早(もはや)お暇(いとま)を致(いた)します』
381と箱(はこ)さしたやうなスタイルでキチンとすわつてゐる。
382お寅(とら)『これはしたり、383誠(まこと)に失礼(しつれい)なことを申上(まをしあ)げました。384併(しか)しねえ、385さう仰有(おつしや)つても、386ヤツパリ人間(にんげん)には裏表(うらおもて)がありますからなア』
387松彦(まつひこ)『ハヽヽヽ』
388魔我(まが)『末代(まつだい)日(ひ)の王(わう)様(さま)の生宮(いきみや)様(さま)、389よくマア御(ご)入来(じゆらい)下(くだ)さいました。390神政(しんせい)成就(じやうじゆ)の太柱(ふとばしら)様(さま)、391どうぞあなたも身魂(みたま)の因縁(いんねん)だから、392他所(よそ)へは行(ゆ)かずに、393神政(しんせい)成就(じやうじゆ)の暁(あかつき)迄(まで)、394何卒(どうぞ)ここに御(ご)逗留(とうりう)を願(ねが)ひます』
395松彦(まつひこ)『それは聊(いささ)か迷惑(めいわく)、396半時(はんとき)ばかり御(お)邪魔(じやま)を致(いた)し、397今度(こんど)は是非(ぜひ)共(とも)お暇(ひま)を頂(いただ)きませう』
398魔我(まが)『何(なん)と仰有(おつしや)つても、399身魂(みたま)の因縁(いんねん)で引寄(ひきよ)せられ遊(あそ)ばしたのだから、400そりや駄目(だめ)でせう。401マアゆつくりとして下(くだ)さいませ』
402松彦(まつひこ)『ハイ有難(ありがた)う』
403万公(まんこう)『モシ義理(ぎり)天上(てんじやう)さま、404此(この)ブラリ彦(ひこ)は何時(いつ)帰(かへ)つたら宜(よろ)しいかな』
405魔我(まが)『どうぞ貴方(あなた)の御(ご)随意(ずゐい)になさつて下(くだ)さいませ。406御(ご)都合(つがふ)が悪(わる)ければ、407今(いま)直(すぐ)に御(お)帰(かへ)りになりましても構(かま)ひませぬ』
408万公(まんこう)『山竹姫(やまたけひめ)の口(くち)から生(うま)れた生宮(いきみや)ぢやないが、409マンマンマン ウマーと呆(あき)れざるを得(え)ませぬわい。410ヘン』
411魔我(まが)『お前(まへ)はウラナイ教(けう)を研究(けんきう)しましたか。412ようそんな細(こま)かいことまで御存(ごぞん)じですな』
413万公(まんこう)『ハイ此(この)中(なか)でウラナイ教(けう)通(つう)と云(い)つたら、414マア私(わたし)位(くらゐ)な者(もの)でせう。415私(わたし)はお寅(とら)さまの内(うち)の入婿(いりむこ)でしたからなア。416何(なに)か因縁(いんねん)があるので、417神(かみ)様(さま)が知(し)らして下(くだ)さいますわ。418山竹姫(やまたけひめ)さまは馬(うま)が出来(でき)たので、419ビツクリして今度目(こんどめ)に又(また)、420天(てん)の大神(おほかみ)様(さま)にお祈(いの)り遊(あそ)ばし、421猪(ゐのしし)を生(う)まれたでせう。422それから又(また)次(つぎ)に口(くち)から玉(たま)を生(う)み出(だ)し、423其(その)玉(たま)がヘグれて孔雀(くじやく)が生(うま)れたでせうがなア。424其(その)位(くらゐ)なことはチヤーンと此(この)万公(まんこう)は知(し)つてゐるのですからなア』
425魔我(まが)『成程(なるほど)コリヤ感心(かんしん)だ』
426万公(まんこう)『私(わたし)の随意(ずゐい)にこれから御(お)暇(いとま)を致(いた)しませうか』
427お寅(とら)『コレコレ万(まん)さま、428お前(まへ)、429何時(いつ)の間(ま)にそんなおかげを頂(いただ)いたのだい。430それを聞(き)くからは、431帰(い)のうといつたとて帰(い)なしはせぬぞや。432それではヤツパリお前(まへ)の霊(みたま)はブラリ彦(ひこ)ではなかつた。433耕(たがや)し大神(だいじん)の霊(みたま)かも知(し)れぬぞえ。434なア魔我彦(まがひこ)さま、435どうも耕(たがや)し大神(おほかみ)の様(やう)ですなア』
436魔我(まが)『メツタにタガヤ……シませぬぢやらうかな。437私(わたし)や疑(うたが)やしませぬけれどなア。438耕(たがや)し大神(おほかみ)にしてはチツと軽(かる)いやうな気(き)がしますがなア』
439 万公(まんこう)は両手(りやうて)を組(く)み、440目(め)を閉(ふさ)ぎ『ウン』と飛上(とびあが)り、
441万公(まんこう)『コリヤ、442魔我彦(まがひこ)、443其(その)方(はう)は耕(たがや)し大神(だいじん)の霊(みたま)を何(なん)と心得(こころえ)て居(ゐ)る、444そんなことで義理(ぎり)天上(てんじやう)日出(ひのでの)神(かみ)の生宮(いきみや)と言(い)へるかア。445三千(さんぜん)世界(せかい)の事(こと)なら、446隅(すみ)から隅(すみ)迄(まで)、447何(なに)もかも知(し)つて知(し)つて知(し)りぬいた此(この)方(はう)だぞウ』
448魔我(まが)『ハイ恐(おそ)れ入(い)りました』
449お寅(とら)『これはこれは万公(まんこう)、450イヤイヤ耕(たがや)し大神(だいじん)の生宮(いきみや)様(さま)、451誠(まこと)にすまぬことを致(いた)しました。452コレコレお菊(きく)、453教祖(けうそ)様(さま)がいつも言(い)うて厶(ござ)つただらう、454お前(まへ)の霊(みたま)は地上姫(ちじやうひめ)だ、455地上姫(ちじやうひめ)の夫(をつと)は耕(たがや)し大神(だいじん)の生宮(いきみや)と仰有(おつしや)つたぢやないか。456サア早(はや)うこちらへ来(き)て御(ご)挨拶(あいさつ)を申上(まをしあ)げないか』
457と大(おほ)きな声(こゑ)で呼(よ)ばはつた。458お菊(きく)は驚(おどろ)いて此(この)場(ば)に走(はし)り来(きた)り、
459お菊(きく)『お母(か)アさま、460耕(たがや)し大神(だいじん)の生宮(いきみや)さまて、461どなた? 此(この)お方(かた)ですか』
462と松彦(まつひこ)を指(ゆび)さす。463万公(まんこう)は包(つつ)みきれぬ嬉(うれ)しさと可笑(をか)しさを無理(むり)に笑(わら)ふまいと気張(きば)つてゐる。464成(な)るべくコクメンな素知(そし)らぬ体(てい)を装(よそほ)うとしたが、465どうしても堪(こら)へ切(き)れなくなり、
466万公(まんこう)『パーハツハヽヽヽ』
467と吹出(ふきだ)した。
468お寅(とら)『マアマア耕(たがや)し大神(だいじん)様(さま)の御(ご)機嫌(きげん)のよいこと、469ソラさうだろ、470永(なが)らく地(ち)の底(そこ)へ落(おち)ぶれて厶(ござ)つたのだもの、471ここで肉(にく)の宮(みや)と肉(にく)の宮(みや)の御(ご)対面(たいめん)を、472天晴(あつぱれ)と現(あら)はれてなさつたのだから嘸(さぞ)御(ご)満足(まんぞく)で厶(ござ)いませう。473コレお菊(きく)、474耕(たがや)し大神(だいじん)の肉(にく)の宮(みや)はあの万公(まんこう)さまだよ』
475お菊(きく)『エーエ好(す)かンたらしい、476あたしイヤだわ。477あんな黒(くろ)い褌(ふんどし)しとつた男(をとこ)、478それお母(あ)アさま、479にえ茶(ちや)を呑(の)ンでこけた時(とき)、480あれ思(おも)ひ出(だ)すと、481何(なん)ぼ耕(たがや)し大神(だいじん)さまだつて、482愛想(あいさう)がつきますワ』
483五三(いそ)『ウツフヽヽヽ』
484 アク、485タク、486テク一度(いちど)に『ワアハツハヽヽヽ』
487アク『何(なん)とマア都合(つがふ)のよい教(をしへ)だなア。488俺(おれ)も今日(けふ)からスツパリとウラナイ教(けう)へ入(い)れて貰(もら)はうか知(し)らぬてなア。489サア何(なん)と言(い)つたらよからうかな。490アクビ直(なほ)し彦(ひこ)でもつまらぬし……ウンさうだ、491同(おな)じアのつく天若彦(あまわかひこ)になつてやらう。492ウンウンウン』
493 ドスン……
494アク『此(この)方(はう)は悪(あく)にみせて善(ぜん)を働(はたら)く天若彦(あまわかひこ)であるぞよ』
495お寅(とら)『オホヽヽヽ』
496魔我(まが)『アハヽヽヽ』
497お寅(とら)『おきやんせいなア。498そんな受売(うけうり)をしたつて誰(たれ)が買(か)ふものか。499よいかげんに冗談(じやうだん)もなさるがよい。500悪垂彦(あくたれひこの)命(みこと)奴(め)が』
501アク『あゝあ、502たうとう尻尾(しつぽ)を見(み)られて了(しま)つた』
503お寅(とら)『心得(こころえ)なされや、504私(わたし)の前(まへ)だからよいが、505よそへ行(い)つて、506そんな山子(やまこ)をなさると、507ドテライ恥(はぢ)をかきますぞや』
508五三(いそ)『ウツフヽヽヽ、509たうとう悪(あく)の企(たく)みの現(あら)はれ口(ぐち)だ。510口(くち)は災(わざはひ)の門(かど)とは能(よ)く云(い)つたものだな、511無茶(むちや)苦茶(くちや)に口(くち)をアクとアカンことになるのだ、512のうテク、513タク、514俺(おれ)達(たち)の面(つら)よごしだ』
515アク『万公(まんこう)だつて、516さうぢやないか、517万公(まんこう)の言(い)ふことが通用(つうよう)して、518俺(おれ)のいふことが通用(つうよう)せぬといふ理屈(りくつ)がどこにあるかい』
519五三(いそ)『アリヤ万(まん)が良(よ)いのだ。520アハヽヽヽ』
521松彦(まつひこ)『肝腎(かんじん)の大広木(おほひろき)正宗(まさむね)さまは何処(どこ)にゐられますか。522私(わたし)は正宗(まさむね)様(さま)に会(あ)うてくれと仰有(おつしや)つたので参(まゐ)つたのですが、523御(ご)本人(ほんにん)が居(を)られぬとすれば仕方(しかた)がありませぬ。524帰(かへ)りませうかな』
525お寅(とら)『ヤ、526居(を)られます。527併(しか)し今(いま)御(お)神懸(かむがかり)の最中(さいちう)ですから、528どうぞ暫(しばら)く御(お)待(ま)ち下(くだ)さいませ。529奥(おく)の間(ま)にお伺(うかが)ひの最中(さいちう)で厶(ござ)います』
530松彦(まつひこ)『私(わたし)も何(なん)となく気(き)がせきますから、531そんなら私(わたし)の方(はう)から伺(うかが)ひませう』
532とツツと立(た)ち、533行(ゆ)かうとする、534お寅(とら)は酔(よ)ひつぶれた蠑螈別(いもりわけ)を見(み)られては大変(たいへん)と、535両手(りやうて)を拡(ひろ)げ、
536お寅(とら)『マアマアマア、537待(ま)つて下(くだ)さい。538今(いま)貴方(あなた)に行(ゆ)かれては、539一寸(ちよつと)都合(つがふ)の悪(わる)いことが厶(ござ)います』
540五三(いそ)『松彦(まつひこ)さま、541酒(さけ)に酔(よ)うて厶(ござ)るのですよ。542受付(うけつけ)へ聞(きこ)えとつたでせう、543此(この)お寅(とら)さまと酒(さけ)に酔(よ)ひ、544イチヤ付(つき)喧嘩(けんくわ)をして、545胸倉(むなぐら)をとられたり、546頭(あたま)をコツかれたり、547助(たす)けてくれ……と叫(さけ)んでゐられたでせう。548盃(さかづき)を破(わ)つたのも猫(ねこ)ぢやありませぬよ、549皆(みな)二人(ふたり)の意茶付(いちやつき)喧嘩(げんくわ)の産物(さんぶつ)です、550シツカリせぬとゴマかされて了(しま)ひますで』
551松彦(まつひこ)『アハヽヽヽ、552人(ひと)さまの内(うち)のことは言(い)ふものぢやない。553沈黙(ちんもく)しなさい』
554と云(い)ひ乍(なが)ら再(ふたた)び元(もと)の座(ざ)に着(つ)いた。555隣(となり)の間(ま)には蠑螈別(いもりわけ)が酒(さけ)に酔(よ)ひつぶれ、556うつつになつて囈語(たわごと)を言(い)ひ出(だ)した。557其(その)声(こゑ)は次(つぎ)の間(ま)へ筒抜(つつぬ)けに聞(きこ)えて来(く)る。
558蠑螈(いもり)『あゝあ、559エライことになつたものだ。560つひ酒(さけ)の勢(いきほひ)で南瓜(かぼちや)みたやうなお寅婆(とらばば)アをなぶつたのが病(や)み付(つき)で、561こんな目(め)に会(あ)はされたのだ。562あゝあ之(これ)を思(おも)へば高姫(たかひめ)は親切(しんせつ)だ。563あゝあ高姫(たかひめ)は如何(どう)して居(ゐ)るだらうなア。564高姫(たかひめ)ー々々(たかひめ)、565会(あ)ひたいわいのう。566ウニヤ ウニヤ ウニヤ ウーン』
567 お寅(とら)の顔色(かほいろ)は俄(にはか)に変(かは)つて来(き)た。
568魔我(まが)『エヘヽヽヽお寅(とら)さま、569お気(き)のもめる事(こと)でせうなア』
570お寅(とら)『アリヤ信者(しんじや)の病人(びやうにん)があんなこと言(い)つてるのだよ。571ここへ時々(ときどき)気(き)のふれた者(もの)が参(まゐ)つて来(く)るから……厄介(やくかい)な事(こと)だ』
572魔我(まが)『それでも教祖(けうそ)さまの声(こゑ)にソツクリぢやありませぬか』
573お寅(とら)『サアそこが気違(きちがひ)だ。574悪神(あくがみ)が憑(うつ)つて教祖(けうそ)様(さま)の声色(こわいろ)を使(つか)つてるのだ。575そんなことが分(わか)らいで、576仮令(たとへ)看板(かんばん)丈(だけ)でも、577副教祖(ふくけうそ)が勤(つと)まりますか。578すまないが此(この)お寅(とら)は教祖(けうそ)様(さま)の……ウンではない……エヽ二世(にせ)の○○(まるまる)だよ。579お寅(とら)さまを差(さし)おいてヅケヅケと言(い)ふものでない。580スツ込(こ)んでゐなされや』
581魔我(まが)『義理(ぎり)天上(てんじやう)日出(ひのでの)神(かみ)もお寅(とら)さまにかかつては駄目(だめ)ですわい』
582 万公(まんこう)は長(なが)らく手(て)を組(く)んでゐたが、583足(あし)はしびれ、584手(て)はだるくなつて堪(こら)え切(き)れなくなり、585ワザとにドスンと飛上(とびあが)り、586空呆(そらとぼ)けた顔(かほ)をし乍(なが)ら、
587万公(まんこう)『あゝ、588あゝ大変(たいへん)な夢(ゆめ)を見(み)て居(を)つた。589綺麗(きれい)な別嬪(べつぴん)さまと祝言(しうげん)の盃(さかづき)をしたと思(おも)へば……何(なん)だ夢(ゆめ)だつたかいな。590オヽそれそれ其(その)お菊(きく)とソツクリの女(をんな)だつた。591何(なん)とマア妙(めう)なことがあるものだなア』
592お寅(とら)『ナアニ、593お菊(きく)と同(おな)じ美人(びじん)と結婚(けつこん)をしたことが霊眼(れいがん)にうつつたのかな。594オヽさうだろさうだろ、595それで益々(ますます)確実(かくじつ)になつて来(き)た。596神(かみ)様(さま)の仰有(おつしや)つたことは違(ちが)はぬワイ……神(かみ)様(さま)、597有難(ありがた)う厶(ござ)います、598惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)』
599と蠑螈別(いもりわけ)の腹立(はらだち)を忘(わす)れてお菊(きく)の為(ため)に祈(いの)つてゐる。
600(大正一一・一二・一一 旧一〇・二三 松村真澄録)
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