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霊界物語
山河草木(第61~72巻、入蒙記)
第69巻(申の巻)
巻頭言
第1篇 清風涼雨
第1章 大評定
第2章 老断
第3章 喬育
第4章 国の光
第5章 性明
第6章 背水会
第2篇 愛国の至情
第7章 聖子
第8章 春乃愛
第9章 迎酒
第10章 宣両
第11章 気転使
第12章 悪原眠衆
第3篇 神柱国礎
第13章 国別
第14章 暗枕
第15章 四天王
第16章 波動
第4篇 新政復興
第17章 琴玉
第18章 老狽
第19章 老水
第20章 声援
第21章 貴遇
第22章 有終
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霊界物語
>
山河草木(第61~72巻、入蒙記)
>
第69巻(申の巻)
> 第1篇 清風涼雨 > 第1章 大評定
<<< 巻頭言
(B)
(N)
老断 >>>
第一章
大評定
(
だいひやうぢやう
)
〔一七四六〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第69巻 山河草木 申の巻
篇:
第1篇 清風涼雨
よみ(新仮名遣い):
せいふうりょうう
章:
第1章 大評定
よみ(新仮名遣い):
だいひょうじょう
通し章番号:
1746
口述日:
1924(大正13)年01月22日(旧12月17日)
口述場所:
伊予 山口氏邸
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1927(昭和2)年10月26日
概要:
舞台:
高砂城
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
三五教の宣伝使国依別命が、神素盞嗚大神の末女、末子姫を娶ってより治めていた珍の国(アルゼンチン)が舞台となります。
天下泰平、四民和楽の治世も、次第に常世の国よりウラル教の思想が入り来たり、国内には他にもさまざまな悪思想がはびこり始めていました。
物語は、国司・国依別の補佐を長年勤めて来た松若彦が、部下の伊佐彦・岩治別に辞任の意を漏らすところから始まります。
松若彦は自分の老齢と、現代の情勢の厳しさを考え、退任して部下のいずれかに後を任せようとします。
伊佐彦:これまでのやり方を守り、あくまで松若彦を中心にして国を治めるべき。
岩治別:年老いた松若彦は早く退陣し、新しい考えをもった自分が国司の補佐となり、元の太平を取り戻す覚悟。
伊佐彦、岩治別は互いに意見が合わず、言い争っている。そこへ、国司国依別の長子、国照別がやってきます。若君は、浴衣の上に帯をグルグル巻きにして、鼻歌を歌いながら登場。
国照別:3人とも中途半端な骨董品だから、自分が親父に勧告して、皆職を解き、平民となって気楽に余生を送らせたいと思っているのだ。。。と3人を煙に巻いて退散します。
松若彦は若君のこの有様を見て逆に発奮し、隠退の言を撤回します。そして改革派の岩治別の任を解いてしまいます。
それだけでなく、松若彦・伊佐彦は岩治別を捉えて獄に投じようと画策します。しかし岩治別は国照別の手引きにより、城を脱出していずこかへ姿をくらまします。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm6901
愛善世界社版:
29頁
八幡書店版:
第12輯 281頁
修補版:
校定版:
31頁
普及版:
初版:
ページ備考:
派生
[?]
この文献を底本として書かれたと思われる文献です。
[×閉じる]
:
出口王仁三郎全集 > 第五巻 言霊解・其他 > 【随筆・其他】 > 霊眼に映じたアマゾン流域
001
太平
(
たいへい
)
大西
(
たいせい
)
両洋
(
りやうやう
)
に
跨
(
またが
)
り、
002
常世
(
とこよ
)
の
波
(
なみ
)
をせきとめて、
003
割
(
わ
)
つた
屠牛
(
とぎう
)
の
片脚
(
かたあし
)
の
如
(
や
)
うにブラ
下
(
さが
)
つてゐる
南米
(
なんべい
)
大陸
(
たいりく
)
は、
004
春夏
(
しゆんか
)
はあつても
秋冬
(
しうとう
)
の
気候
(
きこう
)
を
知
(
し
)
らぬ
理想
(
りさう
)
的
(
てき
)
の
天国
(
てんごく
)
である。
005
太洋
(
たいやう
)
より
絶
(
た
)
えず
吹
(
ふ
)
き
来
(
きた
)
る
清風
(
せいふう
)
は、
006
塩分
(
えんぶん
)
を
含
(
ふく
)
んで
土地
(
とち
)
を
益々
(
ますます
)
豊饒
(
ほうぜう
)
ならしめ、
007
人頭大
(
じんとうだい
)
の
果実
(
このみ
)
は
随所
(
ずいしよ
)
に
豊熟
(
ほうじゆく
)
し、
008
吾人
(
ごじん
)
が
坐
(
ざ
)
して
尚
(
なほ
)
余
(
あま
)
りある
如
(
ごと
)
き
数多
(
あまた
)
の
花
(
はな
)
は
四方
(
しはう
)
に
咲
(
さ
)
きみだれ、
009
数万種
(
すうまんしゆ
)
の
薬草
(
やくさう
)
は
至
(
いた
)
る
所
(
ところ
)
の
山野
(
さんや
)
に
芳香
(
はうかう
)
を
放
(
はな
)
つて
繁茂
(
はんも
)
し、
010
アマゾン
河
(
がは
)
におち
込
(
こ
)
む
数千
(
すうせん
)
の
支流
(
しりう
)
には
数十万
(
すうじふまん
)
種
(
しゆ
)
の
魚族
(
ぎよぞく
)
が
棲息
(
せいそく
)
し、
011
山
(
やま
)
には
金
(
きん
)
銀
(
ぎん
)
銅
(
どう
)
鉄
(
てつ
)
石炭
(
せきたん
)
等
(
とう
)
の
鉱物
(
くわうぶつ
)
を
豊富
(
ほうふ
)
に
包蔵
(
はうざう
)
し、
012
特
(
とく
)
に
石炭
(
せきたん
)
の
産額
(
さんがく
)
は
全世界
(
ぜんせかい
)
に
其
(
その
)
比
(
ひ
)
を
見
(
み
)
ざる
所
(
ところ
)
である。
013
乍併
(
しかしながら
)
現今
(
げんこん
)
は
未
(
いま
)
だ
充分
(
じゆうぶん
)
に
採掘
(
さいくつ
)
の
方法
(
はうはふ
)
が
備
(
そな
)
はつてゐないので、
014
可惜
(
あたら
)
宝庫
(
はうこ
)
を
地
(
ち
)
に
委
(
ゐ
)
してゐる
次第
(
しだい
)
である。
015
アンデス
山脈
(
さんみやく
)
は
高
(
たか
)
く
雲表
(
うんぺう
)
に
聳
(
そび
)
え、
016
海抜
(
かいばつ
)
一万
(
いちまん
)
四五千
(
しごせん
)
尺
(
しやく
)
より
三万
(
さんまん
)
尺
(
しやく
)
の
高地
(
かうち
)
が
[
*
ママ
]
ある。
017
そして
山
(
やま
)
の
頂
(
いただ
)
きには
狭
(
せま
)
くて
十
(
じふ
)
里
(
り
)
、
018
広
(
ひろ
)
きは
数十
(
すうじふ
)
里
(
り
)
に
亘
(
わた
)
る
高原
(
かうげん
)
が
展開
(
てんかい
)
してゐる。
019
樹木
(
じゆもく
)
の
数
(
かず
)
も
我
(
わが
)
国
(
くに
)
より
見
(
み
)
れば
仲々
(
なかなか
)
多
(
おほ
)
い。
020
又
(
また
)
ブラジル
国
(
こく
)
を
流
(
なが
)
るるアマゾン
河
(
がは
)
の
川幅
(
かははば
)
は、
021
日本
(
にほん
)
全国
(
ぜんこく
)
を
縦
(
たて
)
に
河中
(
かちう
)
に
放
(
ほう
)
り
込
(
こ
)
んでも、
022
まだ
余
(
あま
)
る
様
(
やう
)
な
世界一
(
せかいいち
)
の
大河
(
たいが
)
である。
023
特
(
とく
)
にペルウ、
024
ブラジル、
025
アルゼンチン
等
(
とう
)
の
原野
(
げんや
)
には、
026
日本
(
にほん
)
の
柿
(
かき
)
の
木
(
き
)
の
如
(
や
)
うな
綿
(
わた
)
の
木
(
き
)
が
所々
(
ところどころ
)
に
天然
(
てんねん
)
に
繁茂
(
はんも
)
し、
027
青
(
あを
)
、
028
黄
(
き
)
、
029
赤
(
あか
)
、
030
紫
(
むらさき
)
、
031
白
(
しろ
)
等
(
とう
)
自然
(
しぜん
)
の
色
(
いろ
)
を
保
(
たも
)
つた
綿
(
わた
)
が
年中
(
ねんぢう
)
梢
(
こずゑ
)
にブラ
下
(
さが
)
つてゐる。
032
又
(
また
)
竹
(
たけ
)
の
如
(
ごと
)
きも
日本
(
にほん
)
内地
(
ないち
)
のすすき
株
(
かぶ
)
の
様
(
やう
)
にかたまつて
生
(
は
)
え、
033
太
(
ふと
)
さは
横
(
よこ
)
に
切
(
き
)
つて、
034
棺桶
(
くわんをけ
)
や
手桶
(
てをけ
)
が
造
(
つく
)
れる
位
(
くらゐ
)
である。
035
蕗
(
ふき
)
の
如
(
ごと
)
きは
一
(
いち
)
枚
(
まい
)
の
葉
(
は
)
の
下
(
した
)
に
十
(
じふ
)
人
(
にん
)
位
(
くらゐ
)
集
(
あつ
)
まつて
雨
(
あめ
)
を
凌
(
しの
)
ぐことが
出来
(
でき
)
るやうなのがある。
036
牛
(
うし
)
馬
(
うま
)
羊
(
ひつじ
)
豚
(
ぶた
)
などは
際限
(
さいげん
)
もなき
原野
(
げんや
)
に
飼
(
かひ
)
放
(
ぱな
)
しにされてゐるが、
037
それでも
持主
(
もちぬし
)
はめいめい
定
(
き
)
まつてゐる。
038
味
(
あぢ
)
の
良
(
よ
)
き
苺
(
いちご
)
やバナナ、
039
無花果
(
いちぢく
)
などは
少
(
すこ
)
し
低地
(
ていち
)
になると
厭
(
いや
)
になる
程
(
ほど
)
沢山
(
たくさん
)
に
出来
(
でき
)
てゐる。
040
そして
猿
(
さる
)
に
鹿
(
しか
)
、
041
野猪
(
のじし
)
などは
白昼
(
はくちう
)
公然
(
こうぜん
)
と
人家
(
じんか
)
近
(
ちか
)
くよつて
来
(
き
)
て
平気
(
へいき
)
で
遊
(
あそ
)
んでゐる。
042
鷹
(
たか
)
のやうな
蝶
(
てふ
)
や
蝙蝠
(
かうもり
)
、
043
又
(
また
)
蜂
(
はち
)
のやうな
蟆子
(
ぶと
)
、
044
雀
(
すずめ
)
のやうな
蜂
(
はち
)
、
045
拳
(
こぶし
)
のやうな
蠅
(
はへ
)
が
風
(
かぜ
)
のまにまに
群
(
ぐん
)
をなしてやつて
来
(
く
)
ることもある。
046
すべてが
大陸
(
たいりく
)
的
(
てき
)
で
日本人
(
にほんじん
)
の
目
(
め
)
から
見
(
み
)
れば
実
(
じつ
)
に
肝
(
きも
)
を
冷
(
ひや
)
すやうなこと
計
(
ばか
)
りである。
047
乍併
(
しかしながら
)
瑞月
(
ずゐげつ
)
は
伊予
(
いよ
)
の
国
(
くに
)
道後
(
だうご
)
温泉
(
をんせん
)
のホテルの
三階
(
さんかい
)
に
横臥
(
わうぐわ
)
したまま
目
(
め
)
に
映
(
えい
)
じたことを
述
(
の
)
べたに
過
(
す
)
ぎないから、
048
或
(
あるひ
)
は
間違
(
まちが
)
つてゐるかも
知
(
し
)
れない。
049
南米
(
なんべい
)
の
事情
(
じじやう
)
に
詳
(
くは
)
しき
人
(
ひと
)
が
此
(
この
)
物語
(
ものがたり
)
を
読
(
よ
)
んだならば、
050
始
(
はじ
)
めて
其
(
その
)
虚実
(
きよじつ
)
が
分
(
わか
)
るであらう。
051
只
(
ただ
)
霊眼
(
れいがん
)
に
映
(
えい
)
じた
儘
(
まま
)
を
述
(
の
)
べたに
過
(
す
)
ぎない。
052
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
国依別
(
くによりわけの
)
命
(
みこと
)
が、
053
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのをの
)
大神
(
おほかみ
)
、
054
言依別
(
ことよりわけの
)
命
(
みこと
)
の
命
(
めい
)
に
依
(
よ
)
り、
055
瑞
(
みづ
)
の
御霊
(
みたま
)
の
大神
(
おほかみ
)
が
八人
(
やたり
)
乙女
(
をとめ
)
の
末女
(
まつぢよ
)
末子姫
(
すゑこひめ
)
に
娶
(
めあ
)
ひて、
056
アルゼンチンの
珍
(
うづ
)
の
都
(
みやこ
)
の
国司
(
こくし
)
となりしより、
057
天下
(
てんか
)
泰平
(
たいへい
)
国土
(
こくど
)
成就
(
じやうじゆ
)
して
四民
(
しみん
)
和楽
(
わらく
)
し、
058
珍
(
うづ
)
の
天国
(
てんごく
)
を
永久
(
えいきう
)
に
築
(
きづ
)
き
上
(
あ
)
げ、
059
国民
(
こくみん
)
は
国司
(
こくし
)
の
仁徳
(
じんとく
)
を
慕
(
した
)
ふて、
060
天来
(
てんらい
)
の
主師親
(
しゆししん
)
と
仰
(
あふ
)
ぎ
仕
(
つか
)
へまつることとなつてゐた。
061
然
(
しか
)
るに
常世
(
とこよ
)
の
国
(
くに
)
よりウラル
教
(
けう
)
の
思想
(
しさう
)
何時
(
いつ
)
とはなく、
062
交通
(
かうつう
)
の
発達
(
はつたつ
)
と
共
(
とも
)
に
輸入
(
ゆにふ
)
し
来
(
きた
)
り、
063
日
(
ひ
)
を
追
(
お
)
ひ
月
(
つき
)
を
重
(
かさ
)
ねて、
064
漸
(
やうや
)
く
国内
(
こくない
)
には
妖蔽
(
えうへい
)
の
兆
(
てう
)
を
呈
(
てい
)
して
来
(
き
)
た。
065
到
(
いた
)
る
所
(
ところ
)
に
清家
(
せいか
)
無用論
(
むようろん
)
や、
066
乗馬
(
じやうめ
)
階級
(
かいきふ
)
撤廃論
(
てつぱいろん
)
が
勃発
(
ぼつぱつ
)
し、
067
互
(
たがひ
)
に
党
(
たう
)
を
作
(
つく
)
り
派
(
は
)
を
争
(
あらそ
)
ひ、
068
さしもに
平和
(
へいわ
)
なりしアルゼンチンは、
069
漸
(
やうや
)
く
乱麻
(
らんま
)
の
如
(
ごと
)
き
世態
(
せたい
)
を
醸成
(
じやうせい
)
するに
至
(
いた
)
つたのである。
070
国依別
(
くによりわけ
)
は
漸
(
やうや
)
く
年老
(
としお
)
ひ、
071
城内
(
じやうない
)
の
歩行
(
ほかう
)
にも
杖
(
つゑ
)
を
用
(
もち
)
ゐるに
至
(
いた
)
り
頭
(
かしら
)
に
霜
(
しも
)
を
戴
(
いただ
)
き、
072
前頭部
(
ぜんとうぶ
)
は
殆
(
ほと
)
んど
電燈
(
でんとう
)
の
如
(
ごと
)
くに
光
(
ひか
)
り
出
(
だ
)
した。
073
末子姫
(
すゑこひめ
)
も
漸
(
やうや
)
く
年老
(
としお
)
ひ、
074
中婆
(
ちうばば
)
さまとなつて
了
(
しま
)
つた。
075
国依別
(
くによりわけ
)
末子姫
(
すゑこひめ
)
二人
(
ふたり
)
の
中
(
なか
)
に
国照別
(
くにてるわけ
)
、
076
春乃姫
(
はるのひめ
)
といふ
一男
(
いちなん
)
一女
(
いちぢよ
)
があつた。
077
国照別
(
くにてるわけ
)
は
父
(
ちち
)
国依別
(
くによりわけ
)
の
洒脱
(
しやだつ
)
にして
豪放
(
がうはう
)
な
気分
(
きぶん
)
を
受
(
う
)
け、
078
幼少
(
えうせう
)
より
仁侠
(
じんけふ
)
を
以
(
もつ
)
て
処世
(
しよせい
)
の
方針
(
はうしん
)
としてゐた。
079
そして
清家
(
せいか
)
生活
(
せいくわつ
)
を
非常
(
ひじやう
)
に
忌
(
い
)
み
嫌
(
きら
)
ひ、
080
隙間
(
すきま
)
があれば、
081
城内
(
じやうない
)
をぬけ
出
(
だ
)
し
簡易
(
かんい
)
なる
平民
(
へいみん
)
生活
(
せいくわつ
)
をなさむと
考
(
かんが
)
へてゐたのである。
082
国司
(
こくし
)
を
補佐
(
ほさ
)
して
忠実
(
ちうじつ
)
につとめてゐた
松若彦
(
まつわかひこ
)
、
083
捨子姫
(
すてこひめ
)
も
漸
(
やうや
)
く
年老
(
としお
)
ひ、
084
松依別
(
まつよりわけ
)
、
085
常盤姫
(
ときはひめ
)
の
二子
(
にし
)
をあげてゐた。
086
そして
松若彦
(
まつわかひこ
)
の
部下
(
ぶか
)
に
伊佐彦
(
いさひこ
)
、
087
岩治別
(
いははるわけ
)
の
左右
(
さいう
)
の
重職
(
ぢうしよく
)
があつて、
088
松若彦
(
まつわかひこ
)
の
政務
(
せいむ
)
を
補佐
(
ほさ
)
しつつあつた。
089
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのを
)
の
大神
(
おほかみ
)
が
090
皇
(
すめ
)
大神
(
おほかみ
)
の
経綸
(
けいりん
)
を
091
遂行
(
すゐかう
)
せむと
斎苑
(
いそ
)
館
(
やかた
)
092
後
(
あと
)
に
眺
(
なが
)
めてはるばると
093
天
(
あま
)
の
岩樟船
(
いはくすふね
)
に
乗
(
の
)
り
094
アルゼンチンの
珍
(
うづ
)
の
国
(
くに
)
095
珍
(
うづ
)
の
都
(
みやこ
)
に
天降
(
あも
)
りまし
096
八人
(
やたり
)
乙女
(
をとめ
)
の
末子姫
(
すゑこひめ
)
097
国
(
くに
)
の
司
(
つかさ
)
と
定
(
さだ
)
めつつ
098
国依別
(
くによりわけ
)
の
神司
(
かむづかさ
)
099
夫
(
つま
)
と
定
(
さだ
)
めて
合衾
(
がふきん
)
の
100
式
(
しき
)
を
挙
(
あ
)
げさせ
勇
(
いさ
)
み
立
(
た
)
ち
101
再
(
ふたた
)
びフサの
産土
(
うぶすな
)
の
102
厳
(
いづ
)
の
館
(
やかた
)
に
帰
(
かへ
)
りしゆ
103
三十三年
(
みそまりみとせ
)
の
星霜
(
せいさう
)
を
104
経
(
へ
)
にける
今日
(
けふ
)
の
都路
(
みやこぢ
)
は
105
薨
(
いらか
)
も
高
(
たか
)
く
立並
(
たちなら
)
び
106
数十倍
(
すうじふばい
)
の
人
(
ひと
)
の
家
(
いへ
)
107
建
(
た
)
てひろがりて
南米
(
なんべい
)
に
108
並
(
なら
)
ぶ
者
(
もの
)
無
(
な
)
き
大都会
(
だいとくわい
)
109
交通
(
かうつう
)
機関
(
きくわん
)
は
完成
(
くわんせい
)
し
110
数多
(
あまた
)
の
役所
(
やくしよ
)
は
立
(
たち
)
並
(
なら
)
び
111
大商店
(
だいしやうてん
)
は
櫛比
(
しつぴ
)
して
112
昔
(
むかし
)
のおもかげ
何処
(
どこ
)
へやら
113
うつて
変
(
かは
)
りし
繁栄
(
はんえい
)
に
114
驚
(
おどろ
)
かざるはなかりけり
115
国依別
(
くによりわけ
)
と
末子姫
(
すゑこひめ
)
116
二人
(
ふたり
)
の
中
(
なか
)
に
生
(
うま
)
れたる
117
国照別
(
くにてるわけ
)
や
春乃姫
(
はるのひめ
)
118
容色
(
ようしよく
)
衆
(
しう
)
にぬきんでて
119
珍
(
うづ
)
の
都
(
みやこ
)
の
月花
(
つきはな
)
と
120
南米
(
なんべい
)
諸国
(
しよこく
)
に
鳴
(
な
)
りわたり
121
若
(
わか
)
き
男女
(
だんぢよ
)
の
情緒
(
じやうちよ
)
をば
122
そそりて
血
(
ち
)
をばわかせたる
123
遠
(
とほ
)
き
神代
(
かみよ
)
の
物語
(
ものがたり
)
124
褥
(
しとね
)
の
上
(
うへ
)
に
横
(
よこ
)
たはり
125
言霊車
(
ことたまぐるま
)
ころぶまに
126
面白
(
おもしろ
)
可笑
(
をか
)
しく
述
(
の
)
べて
行
(
ゆ
)
く
127
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
128
御霊
(
みたま
)
幸
(
さちは
)
ひましませよ。
129
珍
(
うづ
)
の
都
(
みやこ
)
の
高砂
(
たかさご
)
城内
(
じやうない
)
評定所
(
ひやうぢやうしよ
)
の
別室
(
べつしつ
)
には、
130
大老
(
たいらう
)
松若彦
(
まつわかひこ
)
を
始
(
はじ
)
め、
131
伊佐彦
(
いさひこ
)
、
132
岩治別
(
いははるわけ
)
の
老中株
(
らうぢうかぶ
)
が
首
(
くび
)
を
鳩
(
あつ
)
めて
秘密
(
ひみつ
)
会議
(
くわいぎ
)
を
開
(
ひら
)
いてゐた。
133
空
(
そら
)
はドンヨリとして
何
(
なん
)
となく
蒸暑
(
むしあつ
)
く、
134
一種
(
いつしゆ
)
異様
(
いやう
)
の
不快
(
ふくわい
)
な
零囲気
(
ふんゐき
)
が
室内
(
しつない
)
を
包
(
つつ
)
んでゐる。
135
松若彦
(
まつわかひこ
)
は
二人
(
ふたり
)
の
老中株
(
らうぢうかぶ
)
に
打向
(
うちむか
)
ひ、
136
水
(
みづ
)
ばな
をすすり
乍
(
なが
)
ら、
137
骨
(
ほね
)
と
皮
(
かは
)
との
赤黒
(
あかぐろ
)
い
腕
(
うで
)
を
前
(
まへ
)
へニユツと
出
(
だ
)
し、
138
招
(
まねき
)
猫
(
ねこ
)
宜
(
よろ
)
しくの
体
(
てい
)
で
歯
(
は
)
のぬけた
口
(
くち
)
から、
139
慄
(
ふる
)
ひ
慄
(
ふる
)
ひ
先
(
ま
)
づ
火葢
(
ひぶた
)
を
切
(
き
)
つた。
140
『
御
(
ご
)
両所
(
りやうしよ
)
殿
(
どの
)
、
141
今日
(
こんにち
)
は
御
(
ご
)
多忙
(
たばう
)
の
処
(
ところ
)
早朝
(
さうてう
)
より
能
(
よ
)
く
御
(
ご
)
来城
(
らいじやう
)
下
(
くだ
)
さつた。
142
今日
(
けふ
)
御
(
お
)
招
(
まね
)
き
申
(
まを
)
したのは、
143
折
(
をり
)
入
(
い
)
つて
御
(
ご
)
両所
(
りやうしよ
)
に
相談
(
さうだん
)
したきことがあつて、
144
自分
(
じぶん
)
の
決心
(
けつしん
)
を
忌憚
(
きたん
)
なく
吐露
(
とろ
)
し、
145
御
(
ご
)
両所
(
りやうしよ
)
の
御
(
ご
)
援助
(
ゑんじよ
)
を
得
(
え
)
たいと
思
(
おも
)
ふのだ』
146
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
147
コーヒーを
一口
(
ひとくち
)
グツと
飲
(
の
)
んで、
148
顎鬚
(
あごひげ
)
にしたたる
露
(
つゆ
)
を、
149
分
(
ぶ
)
の
厚
(
あつ
)
いタオルでクリクリと
二三遍
(
にさんべん
)
拭
(
ぬぐ
)
ふた。
150
伊佐
(
いさ
)
『
御
(
ご
)
老体
(
らうたい
)
の
身
(
み
)
を
以
(
もつ
)
て、
151
何時
(
いつ
)
も
国家
(
こくか
)
の
重職
(
ぢうしよく
)
に
身命
(
しんめい
)
を
捧
(
ささ
)
げ
下
(
くだ
)
さる
段
(
だん
)
、
152
誠
(
まこと
)
に
感謝
(
かんしや
)
に
堪
(
た
)
へませぬ。
153
そして
今日
(
こんにち
)
吾々
(
われわれ
)
をお
招
(
まね
)
きになつた
御
(
ご
)
用件
(
ようけん
)
は
如何
(
いか
)
なる
事
(
こと
)
か
存
(
ぞん
)
じませぬが、
154
吾々
(
われわれ
)
の
力
(
ちから
)
の
及
(
およ
)
ぶ
事
(
こと
)
ならば、
155
国司
(
こくし
)
の
為
(
ため
)
、
156
珍
(
うづ
)
の
国
(
くに
)
の
為
(
ため
)
、
157
あらむ
限
(
かぎ
)
りの
努力
(
どりよく
)
を
払
(
はら
)
ふで
厶
(
ござ
)
いませう』
158
松若
(
まつわか
)
『イヤ、
159
それを
聞
(
き
)
いて
松若彦
(
まつわかひこ
)
安心
(
あんしん
)
を
致
(
いた
)
した。
160
岩治別
(
いははるわけ
)
殿
(
どの
)
、
161
貴殿
(
きでん
)
も
亦
(
また
)
伊佐彦
(
いさひこ
)
殿
(
どの
)
と
御
(
ご
)
同感
(
どうかん
)
で
厶
(
ござ
)
らうなア』
162
岩治
(
いははる
)
『いかにも、
163
左様
(
さやう
)
、
164
吾々
(
われわれ
)
は
元
(
もと
)
より
身命
(
しんめい
)
を
君国
(
くんこく
)
の
為
(
ため
)
に
捧
(
ささ
)
ぐる
者
(
もの
)
、
165
閣下
(
かくか
)
の
御
(
お
)
言葉
(
ことば
)
に
対
(
たい
)
し
一言
(
いちげん
)
半句
(
はんく
)
たり
共
(
とも
)
、
166
違背
(
ゐはい
)
致
(
いた
)
す
道理
(
だうり
)
は
厶
(
ござ
)
いませぬ。
167
乍併
(
しかしながら
)
今日
(
こんにち
)
の
世
(
よ
)
は
大
(
おほい
)
に
改
(
あらた
)
まつて
居
(
を
)
ります。
168
革新
(
かくしん
)
の
気分
(
きぶん
)
が
漲
(
みなぎ
)
つて
参
(
まゐ
)
りました。
169
それ
故
(
ゆゑ
)
慨世
(
がいせい
)
憂国
(
いうこく
)
の
吾々
(
われわれ
)
、
170
閣下
(
かくか
)
の
御
(
お
)
言葉
(
ことば
)
に
依
(
よ
)
つては
171
或
(
あるひ
)
は
国家
(
こくか
)
の
将来
(
しやうらい
)
を
慮
(
おもんぱか
)
るについて
背
(
そむ
)
かねばならないかも
分
(
わか
)
りませぬ。
172
そこは
予
(
あらかじ
)
め
御
(
ご
)
承知
(
しようち
)
を
願
(
ねが
)
つておきます』
173
松若
(
まつわか
)
『
成程
(
なるほど
)
174
貴殿
(
きでん
)
の
云
(
い
)
はるる
通
(
とほ
)
り、
175
今日
(
こんにち
)
の
社会
(
しやくわい
)
は
昔日
(
せきじつ
)
の
社会
(
しやくわい
)
ではない。
176
日進
(
につしん
)
月歩
(
げつぽ
)
177
殆
(
ほと
)
んど
止
(
とど
)
まる
所
(
ところ
)
を
知
(
し
)
らない
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
の
情勢
(
じやうせい
)
で
厶
(
ござ
)
る。
178
就
(
つい
)
ては
松若彦
(
まつわかひこ
)
が
御
(
ご
)
両所
(
りやうしよ
)
に
御
(
ご
)
相談
(
さうだん
)
と
申
(
まを
)
すのは、
179
御
(
ご
)
承知
(
しようち
)
の
通
(
とほ
)
り
老齢
(
らうれい
)
職
(
しよく
)
に
堪
(
た
)
へず、
180
大老
(
たいらう
)
の
職
(
しよく
)
を
辞
(
じ
)
し、
181
新進
(
しんしん
)
気鋭
(
きえい
)
の
御
(
ご
)
両所
(
りやうしよ
)
に
吾
(
わ
)
が
職
(
しよく
)
を
譲
(
ゆづ
)
り、
182
退隠
(
たいいん
)
の
身
(
み
)
となり、
183
光風
(
くわうふう
)
霽月
(
せいげつ
)
を
楽
(
たの
)
しみ、
184
閑地
(
かんち
)
につきたいと
欲
(
ほつ
)
するからで
厶
(
ござ
)
る。
185
何
(
なん
)
と
御
(
ご
)
両所
(
りやうしよ
)
に
於
(
おい
)
て
吾
(
わ
)
が
希望
(
きばう
)
を
容
(
い
)
れ、
186
後任者
(
こうにんしや
)
たる
事
(
こと
)
を
承諾
(
しようだく
)
しては
下
(
くだ
)
さるまいか』
187
伊佐
(
いさ
)
『これは
怪
(
け
)
しからぬ
閣下
(
かくか
)
の
仰
(
おほ
)
せかな。
188
閣下
(
かくか
)
は
珍一国
(
うづいつこく
)
の
柱石
(
ちうせき
)
では
厶
(
ござ
)
らぬか。
189
上下
(
じやうげ
)
の
一致
(
いつち
)
を
欠
(
か
)
き、
190
清家
(
せいか
)
と
衆生
(
しゆじやう
)
との
争闘
(
さうとう
)
烈
(
はげ
)
しき
今日
(
こんにち
)
、
191
国家
(
こくか
)
の
重鎮
(
ぢうちん
)
たる
閣下
(
かくか
)
が
今日
(
こんにち
)
の
場合
(
ばあひ
)
、
192
万々一
(
まんまんいち
)
退隠
(
たいいん
)
さるる
様
(
やう
)
の
事
(
こと
)
あつては、
193
それこそ
乱
(
みだ
)
れに
紊
(
みだ
)
れし
国家
(
こくか
)
はいやが
上
(
うへ
)
にも
争乱
(
さうらん
)
を
勃発
(
ぼつぱつ
)
し、
194
社稷
(
しやしよく
)
を
危
(
あやふ
)
うするの
端
(
たん
)
を
開
(
ひら
)
くのは
最
(
もつと
)
も
明
(
あきら
)
かなる
道理
(
だうり
)
で
厶
(
ござ
)
る。
195
何卒
(
なにとぞ
)
此
(
この
)
儀
(
ぎ
)
許
(
ばか
)
りは
思
(
おも
)
ひ
止
(
とど
)
まつて
頂
(
いただ
)
きたう
存
(
ぞん
)
じます』
196
松若
(
まつわか
)
『
貴殿
(
きでん
)
の
勧告
(
くわんこく
)
は
一応
(
いちおう
)
尤
(
もつと
)
も
乍
(
なが
)
ら、
197
老齢
(
らうれい
)
職
(
しよく
)
に
堪
(
た
)
へざる
身
(
み
)
を
以
(
もつ
)
て
国家
(
こくか
)
重要
(
ぢうえう
)
の
職
(
しよく
)
に
居
(
を
)
り、
198
後進者
(
こうしんしや
)
の
進路
(
しんろ
)
を
壅塞
(
ようそく
)
し、
199
国内
(
こくない
)
の
零囲気
(
ふんゐき
)
をして
益々
(
ますます
)
腐乱
(
ふらん
)
せしむるは、
200
拙者
(
せつしや
)
に
於
(
おい
)
て
忍
(
しの
)
びざる
所
(
ところ
)
、
201
何卒
(
なにとぞ
)
々々
(
なにとぞ
)
吾
(
わが
)
希望
(
きばう
)
を
容
(
い
)
れ、
202
御
(
ご
)
両所
(
りやうしよ
)
の
中
(
うち
)
に
於
(
おい
)
て
大老
(
たいらう
)
の
職
(
しよく
)
を
預
(
あづ
)
かつて
貰
(
もら
)
ひたい』
203
岩治
(
いははる
)
『
成程
(
なるほど
)
、
204
松若彦
(
まつわかひこ
)
様
(
さま
)
のお
言葉
(
ことば
)
の
通
(
とほ
)
り、
205
齢
(
よはひ
)
幾何
(
いくばく
)
もなき
老人
(
らうじん
)
が
国政
(
こくせい
)
を
執
(
と
)
るは
国家
(
こくか
)
の
進運
(
しんうん
)
を
妨
(
さまた
)
ぐること
最
(
もつと
)
も
甚
(
はなはだ
)
しく、
206
且
(
かつ
)
惟神
(
かむながら
)
の
大道
(
だいだう
)
に
違反
(
ゐはん
)
するものならば、
207
お
望
(
のぞ
)
みの
通
(
とほ
)
り
御
(
ご
)
退隠
(
たいいん
)
なさいませ。
208
拙者
(
せつしや
)
は
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
は
数年前
(
すうねんぜん
)
より
只今
(
ただいま
)
のお
言葉
(
ことば
)
を
期待
(
きたい
)
して
居
(
を
)
りました。
209
実
(
じつ
)
に
賢明
(
けんめい
)
なる
閣下
(
かくか
)
の
御
(
ご
)
心事
(
しんじ
)
、
210
イヤ
早
(
はや
)
感激
(
かんげき
)
の
至
(
いた
)
りに
堪
(
た
)
へませぬ』
211
伊佐彦
(
いさひこ
)
は
憤然
(
ふんぜん
)
として
言葉
(
ことば
)
をあららげ、
212
『コレハコレハ
御
(
ご
)
両所
(
りやうしよ
)
共
(
とも
)
、
213
以
(
もつ
)
ての
外
(
ほか
)
のお
言葉
(
ことば
)
、
214
左様
(
さやう
)
な
意志
(
いし
)
薄弱
(
はくじやく
)
なる
事
(
こと
)
では
民
(
たみ
)
を
治
(
をさ
)
むる
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ますまい。
215
飽
(
あ
)
く
迄
(
まで
)
も
国家
(
こくか
)
の
為
(
ため
)
に
犠牲
(
ぎせい
)
的
(
てき
)
精神
(
せいしん
)
を
発揮
(
はつき
)
遊
(
あそ
)
ばすのが
大老
(
たいらう
)
の
御
(
ご
)
聖職
(
せいしよく
)
では
厶
(
ござ
)
らぬか。
216
岩治別
(
いははるわけ
)
殿
(
どの
)
は
松若彦
(
まつわかひこ
)
様
(
さま
)
に
対
(
たい
)
し、
217
御
(
ご
)
諌言
(
かんげん
)
申
(
まをし
)
上
(
あ
)
ぐることを
忘
(
わす
)
れ、
218
自
(
みづか
)
ら
其
(
その
)
後釜
(
あとがま
)
に
坐
(
すわ
)
り、
219
畏
(
おそ
)
れ
多
(
おほ
)
くも、
220
国司
(
こくし
)
様
(
さま
)
の
代理権
(
だいりけん
)
を
執行
(
しつかう
)
せむとする
其
(
その
)
心底
(
しんてい
)
野望
(
やばう
)
の
程
(
ほど
)
、
221
歴然
(
れきぜん
)
と
現
(
あら
)
はれて
居
(
を
)
りますぞ。
222
左様
(
さやう
)
な
野心
(
やしん
)
を
有
(
いう
)
する
役人
(
やくにん
)
が
上
(
かみ
)
にあつては、
223
下
(
しも
)
益々
(
ますます
)
乱
(
みだ
)
れ
224
遂
(
つひ
)
には
収拾
(
しうしふ
)
す
可
(
べか
)
らざる
乱世
(
らんせい
)
となるでせう。
225
拙者
(
せつしや
)
はあく
迄
(
まで
)
も
松若彦
(
まつわかひこ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
留任
(
りうにん
)
を
希望
(
きばう
)
して
止
(
や
)
みませぬ』
226
岩治
(
いははる
)
『これは
怪
(
け
)
しからぬ
伊佐彦
(
いさひこ
)
の
言葉
(
ことば
)
、
227
拙者
(
せつしや
)
は
決
(
けつ
)
して
野心
(
やしん
)
なんか
毛頭
(
まうとう
)
持
(
も
)
つてゐませぬ。
228
よく
考
(
かんが
)
へて
御覧
(
ごらん
)
なさい。
229
松若彦
(
まつわかひこ
)
様
(
さま
)
は
已
(
すで
)
に
御
(
ご
)
頽齢
(
たいれい
)
、
230
かやうな
時
(
とき
)
には、
231
新進
(
しんしん
)
気鋭
(
きえい
)
の
若者
(
わかもの
)
でなくては
国家
(
こくか
)
を
支持
(
しぢ
)
し、
232
民心
(
みんしん
)
をつなぐ
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ますまい。
233
さすが
賢明
(
けんめい
)
なる
松若彦
(
まつわかひこ
)
様
(
さま
)
、
234
此
(
この
)
間
(
かん
)
の
消息
(
せうそく
)
を
御
(
ご
)
推知
(
すいち
)
遊
(
あそ
)
ばされ、
235
進
(
すす
)
んで
自決
(
じけつ
)
の
途
(
みち
)
に
出
(
い
)
でられたのは
236
天晴
(
あつぱれ
)
国家
(
こくか
)
の
柱石
(
ちうせき
)
と
称讃
(
しようさん
)
申
(
まをし
)
上
(
あ
)
ぐる
外
(
ほか
)
はありますまい。
237
及
(
およ
)
ばずながら
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
下
(
くだ
)
さるな。
238
みごと
拙者
(
せつしや
)
が
松若彦
(
まつわかひこ
)
の
後任者
(
こうにんしや
)
となつて、
239
上
(
かみ
)
は
国司
(
こくし
)
に
対
(
たい
)
し、
240
下
(
しも
)
国民
(
こくみん
)
に
対
(
たい
)
して、
241
至真
(
ししん
)
至粋
(
しすゐ
)
至美
(
しび
)
至愛
(
しあい
)
の
善政
(
ぜんせい
)
を
布
(
し
)
き、
242
珍
(
うづ
)
の
天地
(
てんち
)
を
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのをの
)
大神
(
おほかみ
)
が
降
(
くだ
)
らせ
玉
(
たま
)
ひし、
243
昔
(
むかし
)
の
天国
(
てんごく
)
浄土
(
じやうど
)
に
立直
(
たてなほ
)
して
御覧
(
ごらん
)
に
入
(
い
)
れませう』
244
伊佐
(
いさ
)
『おだまりなされ。
245
貴殿
(
きでん
)
は
老中
(
らうぢう
)
の
地位
(
ちゐ
)
に
在
(
あ
)
りと
雖
(
いへど
)
、
246
無能
(
むのう
)
無策
(
むさく
)
、
247
到底
(
たうてい
)
国家
(
こくか
)
の
重任
(
ぢうにん
)
に
堪
(
た
)
へざるは、
248
上下
(
じやうげ
)
一般
(
いつぱん
)
の
認
(
みと
)
むる
所
(
ところ
)
で
厶
(
ござ
)
る。
249
常
(
つね
)
に
大言
(
たいげん
)
壮語
(
さうご
)
を
吐
(
は
)
き、
250
私立
(
しりつ
)
大学
(
だいがく
)
を
創立
(
さうりつ
)
して
不良
(
ふりやう
)
青年
(
せいねん
)
を
収容
(
しうよう
)
し、
251
国家
(
こくか
)
顛覆
(
てんぷく
)
の
根源
(
こんげん
)
を
培
(
つちか
)
ふ
悪魔
(
あくま
)
の
張本
(
ちやうほん
)
、
252
到底
(
たうてい
)
城中
(
じやうちう
)
の
政治
(
せいぢ
)
を
左右
(
さいう
)
する
人格者
(
じんかくしや
)
では
厶
(
ござ
)
らぬ。
253
それだと
云
(
い
)
つて
外
(
ほか
)
に
適任者
(
てきにんしや
)
はなし、
254
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
乍
(
なが
)
ら
松若彦
(
まつわかひこ
)
様
(
さま
)
に
今一度
(
いまいちど
)
の
御
(
ご
)
奮発
(
ふんぱつ
)
を
願
(
ねが
)
はなくては、
255
忽
(
たちま
)
ち
貴殿
(
きでん
)
の
如
(
ごと
)
き
非国家
(
ひこくか
)
主義者
(
しゆぎしや
)
が
政権
(
せいけん
)
を
掌握
(
しやうあく
)
さるる
事
(
こと
)
となつて
了
(
しま
)
ふ。
256
之
(
こ
)
れ
国家
(
こくか
)
の
為
(
ため
)
に
最
(
もつと
)
も
恐
(
おそ
)
るべき
大事変
(
だいじへん
)
で
厶
(
ござ
)
る。
257
貴殿
(
きでん
)
にして
一片
(
いつぺん
)
報国
(
ほうこく
)
の
至誠
(
しせい
)
あらば
体
(
てい
)
よく
老中
(
らうぢう
)
の
地位
(
ちゐ
)
を
去
(
さ
)
り、
258
爵位
(
しやくゐ
)
を
奉還
(
ほうくわん
)
し、
259
野
(
や
)
に
下
(
くだ
)
つて、
2591
民情
(
みんじやう
)
をトクと
視察
(
しさつ
)
し
260
其
(
その
)
上
(
うへ
)
更
(
あらた
)
めて
意見
(
いけん
)
を
進言
(
しんげん
)
なされ。
261
此
(
この
)
伊佐彦
(
いさひこ
)
のある
限
(
かぎ
)
り、
262
どこ
迄
(
まで
)
も
貴殿
(
きでん
)
の
欲望
(
よくばう
)
は
遂
(
と
)
げさせませぬぞ』
263
松若彦
(
まつわかひこ
)
は
心
(
こころ
)
の
中
(
うち
)
にて……
到底
(
たうてい
)
今日
(
こんにち
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
、
264
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
通
(
どほ
)
りではやつて
行
(
ゆ
)
けないことは、
265
百
(
ひやく
)
も
千
(
せん
)
も
承知
(
しようち
)
してゐた。
266
されど
投槍
(
なげやり
)
思想
(
しさう
)
を
帯
(
お
)
びた
岩治別
(
いははるわけ
)
に
政権
(
せいけん
)
を
渡
(
わた
)
せば、
267
忽
(
たちま
)
ち
国家
(
こくか
)
の
根底
(
こんてい
)
を
覆
(
くつがへ
)
すであらうし、
268
真
(
しん
)
に
国家
(
こくか
)
を
思
(
おも
)
ふ
伊佐彦
(
いさひこ
)
に
政権
(
せいけん
)
を
渡
(
わた
)
せば、
269
時勢
(
じせい
)
おくれの
保守
(
ほしゆ
)
主義
(
しゆぎ
)
を
振
(
ふ
)
りまはし、
270
益々
(
ますます
)
民心
(
みんしん
)
離反
(
りはん
)
の
端
(
たん
)
を
開
(
ひら
)
くであらう、
271
ハテ
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
だなア、
272
退
(
ひ
)
くには
退
(
ひ
)
かれず
進
(
すす
)
むにも
進
(
すす
)
まれず、
273
国内
(
こくない
)
一般
(
いつぱん
)
の
民情
(
みんじやう
)
を
見
(
み
)
れば、
274
上
(
あ
)
げもおろしも、
275
自分
(
じぶん
)
の
力
(
ちから
)
ではならなくなつて
来
(
き
)
た。
276
到底
(
たうてい
)
清家
(
せいか
)
政治
(
せいぢ
)
や
閥族
(
ばつぞく
)
政治
(
せいぢ
)
のいつ
迄
(
まで
)
も
続
(
つづ
)
くべき
道理
(
だうり
)
がない…
否
(
いな
)
斯
(
かく
)
の
如
(
ごと
)
く
乗馬
(
じやうめ
)
階級
(
かいきふ
)
の
政治
(
せいぢ
)
的
(
てき
)
権力
(
けんりよく
)
は
最早
(
もはや
)
最後
(
さいご
)
に
瀕
(
ひん
)
してゐる。
277
何
(
なん
)
とかして
国内
(
こくない
)
の
空気
(
くうき
)
を
一新
(
いつしん
)
し、
278
人心
(
じんしん
)
の
倦怠
(
けんたい
)
を
救
(
すく
)
ひ、
279
思想
(
しさう
)
の
悪化
(
あくくわ
)
を
緩和
(
くわんわ
)
し、
280
上下
(
じやうげ
)
一致
(
いつち
)
の
新政
(
しんせい
)
を
布
(
し
)
きたいものだ。
281
あゝ
何
(
ど
)
うしたら
可
(
よ
)
からうかな、
282
……と
水
(
みづ
)
ばな
をすすり、
283
腕
(
うで
)
をくみて
両眼
(
りやうがん
)
よりは
涙
(
なみだ
)
さへ
滴
(
したた
)
らしてゐる。
284
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
何
(
いづ
)
れも
口
(
くち
)
を
噤
(
つぐ
)
んで
互
(
たがひ
)
に
顔
(
かほ
)
を
見守
(
みまも
)
つてゐる。
285
そこへ
浴衣
(
ゆかた
)
の
上
(
うへ
)
へ
無雑作
(
むざふさ
)
に
三尺帯
(
さんじやくおび
)
をグルグル
巻
(
まき
)
にして
286
鼻唄
(
はなうた
)
を
唄
(
うた
)
ひながらやつて
来
(
き
)
たのは
国照別
(
くにてるわけ
)
であつた。
287
国照
(
くにてる
)
『ヨー、
288
デクさまの
御
(
お
)
集会
(
しふくわい
)
かな、
289
到底
(
たうてい
)
、
290
干
(
ひ
)
からびた
古
(
ふる
)
い
頭
(
あたま
)
では、
291
碌
(
ろく
)
な
相談
(
さうだん
)
もまとまりはしまい、
292
…ヤアー
松若彦
(
まつわかひこ
)
、
293
お
前
(
まへ
)
は
泣
(
な
)
いてゐるのか、
294
お
前
(
まへ
)
もヤツパリ
年
(
とし
)
が
老
(
よ
)
つた
加減
(
かげん
)
か、
295
余程
(
よほど
)
涙
(
なみだ
)
つぽくなつただないか、
296
……ヤア
保守
(
ほしゆ
)
老中
(
らうぢう
)
の
伊佐彦
(
いさひこ
)
に
投槍
(
なげやり
)
老中
(
らうぢう
)
の
岩治別
(
いははるわけ
)
だな、
297
…ヤ
面白
(
おもしろ
)
からう、
298
一
(
ひと
)
つ
大議論
(
だいぎろん
)
をやつて
退屈
(
たいくつ
)
ざましに
僕
(
ぼく
)
に
聞
(
き
)
かしてくれないか。
299
僕
(
ぼく
)
も
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
は
清家
(
せいか
)
生活
(
せいくわつ
)
がイヤになつて、
300
どつかへ
飛
(
とび
)
出
(
だ
)
さうと
思
(
おも
)
つてゐるのだが、
301
何
(
なに
)
をいつても
籠
(
かご
)
の
鳥
(
とり
)
同様
(
どうやう
)
、
302
近侍
(
きんじ
)
だとか、
303
衛士
(
ゑじ
)
だとか
旧時代
(
きうじだい
)
の
遺物
(
ゐぶつ
)
が
僕
(
ぼく
)
の
身辺
(
しんぺん
)
にぶらついてゐるものだから、
304
何
(
ど
)
うすることも
出来
(
でき
)
やしない。
305
之
(
これ
)
も
要
(
えう
)
するに
頭
(
あたま
)
の
古
(
ふる
)
い
大老
(
たいらう
)
の
指図
(
さしづ
)
だらう。
306
僕
(
ぼく
)
の
親爺
(
おやぢ
)
は、
307
決
(
けつ
)
してこんな
窮屈
(
きうくつ
)
なことは、
308
好
(
この
)
まない
筈
(
はず
)
だ。
309
オイ
酒
(
さけ
)
でも
呑
(
の
)
んで、
310
いさぎようせぬかい。
311
高砂
(
たかさご
)
城内
(
じやうない
)
で
涙
(
なみだ
)
は
禁物
(
きんもつ
)
だからのう』
312
松若彦
(
まつわかひこ
)
は
手持
(
てもち
)
無沙汰
(
ぶさた
)
に
涙
(
なみだ
)
をかくし
乍
(
なが
)
ら
二三間
(
にさんげん
)
許
(
ばか
)
り
座
(
ざ
)
をしざり、
313
畳
(
たたみ
)
に
頭
(
あたま
)
をすりつけ
乍
(
なが
)
ら、
314
『コレハ コレハ、
315
若君
(
わかぎみ
)
様
(
さま
)
で
厶
(
ござ
)
いますか、
316
エライ
御
(
ご
)
無礼
(
ぶれい
)
を
致
(
いた
)
しました。
317
何卒
(
なにとぞ
)
々々
(
なにとぞ
)
神直日
(
かむなほひ
)
大直日
(
おほなほひ
)
に
見直
(
みなほ
)
し
聞直
(
ききなほ
)
し、
318
無作法
(
ぶさはふ
)
をお
赦
(
ゆる
)
し
下
(
くだ
)
さいませ』
319
国照
(
くにてる
)
『オイ、
320
爺
(
ぢい
)
、
321
ソリヤ
何
(
なに
)
をするのだ。
322
左様
(
さやう
)
な
虚礼
(
きよれい
)
虚式
(
きよしき
)
的
(
てき
)
な
事
(
こと
)
は、
323
僕
(
ぼく
)
は
大嫌
(
だいきら
)
ひだ。
324
モウちつと
活溌
(
くわつぱつ
)
に
直立
(
ちよくりつ
)
不動
(
ふどう
)
の
姿勢
(
しせい
)
を
執
(
と
)
つて、
325
簡単
(
かんたん
)
に
挙手
(
きよしゆ
)
の
礼
(
れい
)
をやつたら
何
(
ど
)
うだ、
326
余
(
あま
)
りまどろしいぢやないか』
327
松若
(
まつわか
)
『
恐
(
おそ
)
れ
入
(
い
)
りました。
328
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
城内
(
じやうない
)
には
城内
(
じやうない
)
の
規則
(
きそく
)
が
厶
(
ござ
)
いますから、
329
有職
(
いうそく
)
故実
(
こじつ
)
を
破
(
やぶ
)
る
訳
(
わけ
)
には
参
(
まゐ
)
りませぬ。
330
礼
(
れい
)
なくんば
治
(
おさ
)
まらずと
申
(
まを
)
しまして、
331
国家
(
こくか
)
を
治
(
をさ
)
むるには
礼儀
(
れいぎ
)
が
第一
(
だいいち
)
で
厶
(
ござ
)
いますから、
332
之
(
これ
)
計
(
ばか
)
りは
何
(
なに
)
程
(
ほど
)
お
気
(
き
)
に
入
(
い
)
らなくても
許
(
ゆる
)
して
頂
(
いただ
)
かねばなりませぬ。
333
之
(
これ
)
は
珍
(
うづ
)
の
国
(
くに
)
の
国粋
(
こくすゐ
)
とも
申
(
まを
)
すべき
重要
(
ぢうえう
)
なる
政治
(
せいぢ
)
の
大本
(
たいほん
)
で
厶
(
ござ
)
います。
334
礼儀
(
れいぎ
)
なければ
国家
(
こくか
)
は
直
(
ただち
)
にみだれ、
335
長幼
(
ちやうえう
)
の
序
(
じよ
)
は
破
(
やぶ
)
れ、
336
君臣
(
くんしん
)
父子
(
ふし
)
夫婦
(
ふうふ
)
の
道
(
みち
)
は
亡
(
ほろ
)
びて
了
(
しま
)
ひます』
337
国照
(
くにてる
)
『ウンさうか、
338
それも
結構
(
けつこう
)
だが、
339
お
前
(
まへ
)
が
若
(
も
)
しも
国替
(
くにがへ
)
をして、
340
居
(
を
)
らなくなつても、
341
有職
(
いうそく
)
故実
(
こじつ
)
は
保存
(
ほぞん
)
されると
思
(
おも
)
うてゐるのか、
342
今日
(
こんにち
)
の
人間
(
にんげん
)
の
心
(
こころ
)
はそんなまどろしい
事
(
こと
)
は
好
(
この
)
まないよ。
343
何事
(
なにごと
)
も
手
(
て
)
つ
取
(
とり
)
早
(
ばや
)
く
埒
(
らち
)
をつける
事
(
こと
)
が
流行
(
りうかう
)
する
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
だ。
344
昔
(
むかし
)
の
様
(
やう
)
に
歌
(
うた
)
をよんだり、
345
長袖
(
ながそで
)
を
着
(
き
)
てブラブラと
遊
(
あそ
)
んで
居
(
を
)
つた
時代
(
じだい
)
とは
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
が
変
(
かは
)
つてゐる。
346
昔
(
むかし
)
の
百倍
(
ひやくばい
)
も
千倍
(
せんばい
)
も
事務
(
じむ
)
が
煩雑
(
はんざつ
)
になつてゐるのだから、
347
そんな
辛気
(
しんき
)
臭
(
くさ
)
い
事
(
こと
)
は
到底
(
たうてい
)
、
3471
永続
(
えいぞく
)
すまいよ』
348
岩治
(
いははる
)
『
実
(
じつ
)
に
痛
(
いた
)
み
入
(
い
)
つたる
若君
(
わかぎみ
)
様
(
さま
)
のお
言葉
(
ことば
)
、
349
岩治別
(
いははるわけ
)
、
350
実
(
じつ
)
に
感激
(
かんげき
)
に
堪
(
た
)
へませぬ。
351
斯
(
かく
)
の
如
(
ごと
)
き
若君
(
わかぎみ
)
様
(
さま
)
を
得
(
え
)
てこそ、
352
珍
(
うづ
)
の
国家
(
こくか
)
は
万代
(
ばんだい
)
不易
(
ふえき
)
、
353
国家
(
こくか
)
の
隆昌
(
りうしやう
)
を
期
(
き
)
する
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
るでせう。
354
親君
(
おやぎみ
)
様
(
さま
)
は
最早
(
もはや
)
御
(
ご
)
老齢
(
らうれい
)
、
355
何時
(
いつ
)
御
(
ご
)
上天
(
しやうてん
)
遊
(
あそ
)
ばすかも
知
(
し
)
れぬ
此
(
この
)
場合
(
ばあひ
)
、
356
賢明
(
けんめい
)
なる
若君
(
わかぎみ
)
様
(
さま
)
の
御心
(
みこころ
)
を
承
(
うけたま
)
はり、
357
岩治別
(
いははるわけ
)
、
358
イヤもう、
359
大変
(
たいへん
)
な
喜
(
よろこ
)
びに
打
(
う
)
たれ、
360
勇気
(
ゆうき
)
が
勃々
(
ぼつぼつ
)
として
湧
(
わ
)
いて
参
(
まゐ
)
りました。
361
此
(
この
)
若君
(
わかぎみ
)
にして
此
(
この
)
臣
(
しん
)
あり、
362
老中
(
らうぢう
)
の
仲間
(
なかま
)
に
加
(
くは
)
へられたる
吾々
(
われわれ
)
なれど、
363
未
(
いま
)
だ
心
(
こころ
)
まで
老耄
(
らうまう
)
はして
居
(
を
)
りませぬ。
364
何卒
(
なにとぞ
)
若君
(
わかぎみ
)
様
(
さま
)
、
365
微臣
(
びしん
)
を
御心
(
みこころ
)
にかけさせられ、
366
重要
(
ぢうえう
)
事務
(
じむ
)
は
微臣
(
びしん
)
に
直接
(
ちよくせつ
)
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
下
(
くだ
)
さいませ。
367
松若彦
(
まつわかひこ
)
殿
(
どの
)
は
老齢
(
らうれい
)
職
(
しよく
)
に
堪
(
た
)
へずとして、
368
只
(
ただ
)
今
(
いま
)
吾々
(
われわれ
)
の
前
(
まへ
)
に
辞意
(
じい
)
をもらされました』
369
国照
(
くにてる
)
『ウンさうか、
370
松若彦
(
まつわかひこ
)
もモウ
退
(
ひ
)
いても
可
(
い
)
いだらう。
371
伊佐彦
(
いさひこ
)
も
随分
(
ずいぶん
)
古
(
ふる
)
い
頭
(
あたま
)
だから、
372
此奴
(
こいつ
)
も
駄目
(
だめ
)
だし、
373
岩治別
(
いははるわけ
)
は
少
(
すこ
)
し
許
(
ばか
)
り
今日
(
こんにち
)
の
時代
(
じだい
)
に
進
(
すす
)
みすぎてるやうでもあり、
374
又
(
また
)
遅
(
おく
)
れてるやうな
所
(
ところ
)
もあり、
375
到底
(
たうてい
)
完全
(
くわんぜん
)
な
政治
(
せいぢ
)
はお
前
(
まへ
)
たちの
腕
(
うで
)
では
出来
(
でき
)
相
(
さう
)
もない。
376
僕
(
ぼく
)
が
親爺
(
おやぢ
)
に
勧告
(
くわんこく
)
して
退職
(
たいしよく
)
をさせ、
377
簡易
(
かんい
)
なる
平民
(
へいみん
)
生活
(
せいくわつ
)
に
入
(
い
)
れてやり、
378
安楽
(
あんらく
)
な
余生
(
よせい
)
を
送
(
おく
)
らせたいと
思
(
おも
)
つてゐるのだから、
379
一層
(
いつそう
)
のこと、
380
お
前
(
まへ
)
たちも
大老
(
たいらう
)
や
老中
(
らうぢう
)
なんか
廃
(
よ
)
して、
381
安逸
(
あんいつ
)
な
田園
(
でんゑん
)
生活
(
せいくわつ
)
でもやつたら
何
(
ど
)
うだ。
382
僕
(
ぼく
)
も
大
(
おほい
)
に
覚悟
(
かくご
)
してゐるのだからな』
383
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
国照別
(
くにてるわけ
)
の
顔
(
かほ
)
を
無言
(
むごん
)
のまま、
384
盗
(
ぬす
)
む
様
(
やう
)
にして
打
(
うち
)
守
(
まも
)
つてゐる。
385
国照別
(
くにてるわけ
)
は
無雑作
(
むざふさ
)
に、
386
『
高砂城
(
たかさごじやう
)
の
床
(
とこ
)
の
置物
(
おきもの
)
、
387
無神経質
(
むしんけいしつ
)
の
骨董品
(
こつとうひん
)
殿
(
どの
)
、
388
三
(
さん
)
人
(
にん
)
よれば
文珠
(
もんじゆ
)
の
智慧
(
ちゑ
)
だ。
389
トツクリと
衆生
(
しゆじやう
)
の
平和
(
へいわ
)
と
幸福
(
かうふく
)
とを
擁護
(
ようご
)
し、
390
人民
(
じんみん
)
の
思想
(
しさう
)
を
善導
(
ぜんだう
)
すべく
神算
(
しんさん
)
鬼謀
(
きぼう
)
を
巡
(
めぐ
)
らしたが
可
(
よ
)
からう。
391
あゝ
六
(
むつ
)
かしい
皺苦茶
(
しわくちや
)
面
(
づら
)
を
見
(
み
)
て
肩
(
かた
)
が
凝
(
こ
)
つて
来
(
き
)
た。
392
ドーラ、
393
馬
(
うま
)
にでも
乗
(
の
)
つて
馬場
(
ばば
)
でもかけ
廻
(
まは
)
つて
来
(
こ
)
うかな』
394
と
云
(
い
)
ひすて、
395
足音
(
あしおと
)
高
(
たか
)
く
奥殿
(
おくでん
)
さして
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
る。
396
後
(
あと
)
見送
(
みおく
)
つて
松若彦
(
まつわかひこ
)
は
又
(
また
)
も
涙
(
なみだ
)
を
垂
(
た
)
らし
乍
(
なが
)
ら、
397
『
肝心要
(
かんじんかなめ
)
の
後継者
(
こうけいしや
)
たる
若君
(
わかぎみ
)
様
(
さま
)
が、
398
あのやうなお
考
(
かんが
)
へでは
最早
(
もはや
)
珍
(
うづ
)
の
国家
(
こくか
)
は
滅亡
(
めつぼう
)
するより
仕方
(
しかた
)
ない。
399
あゝ
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
になつたものだ、
400
なア
伊佐彦
(
いさひこ
)
殿
(
どの
)
』
401
伊佐彦
(
いさひこ
)
は
真青
(
まつさを
)
な
顔
(
かほ
)
して、
402
唇
(
くちびる
)
をビリビリふるはせ
乍
(
なが
)
ら
禿
(
は
)
げた
頭
(
あたま
)
をツルリと
撫
(
な
)
で、
403
『
閣下
(
かくか
)
の
云
(
い
)
はるる
通
(
とほ
)
り、
404
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
で
厶
(
ござ
)
る。
405
どうして
珍
(
うづ
)
の
衆生
(
しゆじやう
)
を
安穏
(
あんおん
)
ならしめ、
406
お
家
(
いへ
)
を
永遠
(
えいゑん
)
に
栄
(
さか
)
ゆべき
方法
(
はうはふ
)
を
講
(
かう
)
じたら
宜
(
よろ
)
しう
厶
(
ござ
)
いませうか。
407
深夜
(
しんや
)
枕
(
まくら
)
を
擡
(
もた
)
げて
国家
(
こくか
)
の
前途
(
ぜんと
)
を
思
(
おも
)
ひみれば、
408
実
(
じつ
)
に
不安
(
ふあん
)
の
情
(
じやう
)
に
堪
(
た
)
へませぬ』
409
岩治
(
いははる
)
『アツハヽヽ、
410
此
(
この
)
行詰
(
ゆきつま
)
つた
現代
(
げんだい
)
を
流通
(
りうつう
)
させ、
411
衆生
(
しゆじやう
)
が
皷腹
(
こふく
)
撃壤
(
げきじやう
)
の
天国
(
てんごく
)
的
(
てき
)
歓楽
(
くわんらく
)
に
酔
(
よ
)
ひ、
412
各
(
おのおの
)
業
(
げふ
)
を
楽
(
たのし
)
む
善政
(
ぜんせい
)
を
布
(
し
)
くは
何
(
なん
)
でもない
事
(
こと
)
で
厶
(
ござ
)
る。
413
御
(
ご
)
両所
(
りやうしよ
)
等
(
たち
)
は
斯
(
か
)
う
申
(
まを
)
すと
憚
(
はばか
)
り
多
(
おほ
)
いが、
414
頑迷
(
ぐわんめい
)
固陋
(
ころう
)
にして
時代
(
じだい
)
を
解
(
かい
)
し
玉
(
たま
)
はざる
為
(
ため
)
で
厶
(
ござ
)
いませう。
415
時代
(
じだい
)
の
潮流
(
てうりう
)
を
善導
(
ぜんだう
)
してさへ
行
(
ゆ
)
けば、
416
珍
(
うづ
)
の
衆生
(
しゆじやう
)
は
国司
(
こくし
)
の
徳
(
とく
)
を
慕
(
した
)
ひ、
417
忽
(
たちま
)
ち
天国
(
てんごく
)
の
社会
(
しやくわい
)
が
展開
(
てんかい
)
されるは
明
(
あきら
)
かな
事実
(
じじつ
)
で
厶
(
ござ
)
いますぞ。
418
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
退隠
(
たいいん
)
遊
(
あそ
)
ばすが
国家
(
こくか
)
の
進展
(
しんてん
)
上
(
じやう
)
第一
(
だいいち
)
の
手段
(
しゆだん
)
だと
考
(
かんが
)
へます。
419
徒
(
いたづら
)
に
旧套
(
きうたう
)
を
墨守
(
ぼくしゆ
)
して
衆生
(
しゆじやう
)
の
心
(
こころ
)
を
抑
(
おさ
)
へ、
420
社会
(
しやくわい
)
の
進歩
(
しんぽ
)
を
妨
(
さまた
)
ぐるに
於
(
おい
)
ては
何時
(
いつ
)
如何
(
いか
)
なる
大事
(
だいじ
)
が
脚下
(
あしもと
)
から
勃発
(
ぼつぱつ
)
するかも
知
(
し
)
れませぬぞ。
421
拙者
(
せつしや
)
は
決
(
けつ
)
して
自己
(
じこ
)
の
権利
(
けんり
)
を
得
(
え
)
むが
為
(
ため
)
、
422
又
(
また
)
は
政権
(
せいけん
)
を
壟断
(
ろうだん
)
せむが
為
(
ため
)
に
論議
(
ろんぎ
)
するのではありませぬ。
423
国家
(
こくか
)
を
救
(
すく
)
ふのは
拙者
(
せつしや
)
の
考
(
かんが
)
ふる
所
(
ところ
)
を
以
(
もつ
)
て
最善
(
さいぜん
)
の
方法
(
はうはふ
)
と
思
(
おも
)
ふからです。
424
御
(
ご
)
両所
(
りやうしよ
)
に
於
(
お
)
かせられても、
425
速
(
すみやか
)
に
色眼鏡
(
いろめがね
)
を
撤回
(
てつくわい
)
して
拙者
(
せつしや
)
の
真心
(
まごころ
)
を
御
(
ご
)
透察
(
とうさつ
)
下
(
くだ
)
さらば、
426
自
(
おのづか
)
らお
疑
(
うたがひ
)
が
解
(
と
)
けるでせう』
427
松若
(
まつわか
)
『
侫弁
(
ねいべん
)
を
以
(
もつ
)
て
己
(
おの
)
が
野心
(
やしん
)
を
遂行
(
すゐかう
)
せむとする
貴殿
(
きでん
)
の
内心
(
ないしん
)
、
428
いつかな いつかな、
429
其
(
その
)
手
(
て
)
に
乗
(
の
)
る
松若彦
(
まつわかひこ
)
では
厶
(
ござ
)
らぬ。
430
及
(
およ
)
ばず
乍
(
なが
)
ら
拙者
(
せつしや
)
は
珍
(
うづ
)
の
国
(
くに
)
の
柱石
(
ちうせき
)
、
431
かくなる
上
(
うへ
)
は
最早
(
もはや
)
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
下
(
くだ
)
さるな。
432
拙者
(
せつしや
)
は
命
(
いのち
)
のあらむ
限
(
かぎ
)
り、
433
君国
(
くんこく
)
の
為
(
ため
)
に、
434
老齢
(
らうれい
)
乍
(
なが
)
ら
奮闘
(
ふんとう
)
努力
(
どりよく
)
致
(
いた
)
して
見
(
み
)
よう。
435
就
(
つ
)
いては
伊佐彦
(
いさひこ
)
殿
(
どの
)
、
436
今日
(
こんにち
)
只今
(
ただいま
)
より
岩治別
(
いははるわけ
)
に
対
(
たい
)
し、
437
老中
(
らうぢう
)
の
職
(
しよく
)
を
解
(
と
)
くから、
438
貴殿
(
きでん
)
もさう
考
(
かんが
)
へなされ。
439
そして
今後
(
こんご
)
は
何事
(
なにごと
)
も
拙者
(
せつしや
)
と
御
(
ご
)
相談
(
さうだん
)
な
仕
(
つかまつ
)
らう』
440
伊佐彦
(
いさひこ
)
は
喜色
(
きしよく
)
満面
(
まんめん
)
に
泛
(
うか
)
べ
乍
(
なが
)
ら、
441
「ヤレ
邪魔者
(
じやまもの
)
が
排斥
(
はいせき
)
された」……と
云
(
い
)
はぬ
許
(
ばか
)
りの
態度
(
たいど
)
にて、
442
『
閣下
(
かくか
)
の
仰
(
おほせ
)
、
443
御尤
(
ごもつと
)
も
千万
(
せんばん
)
、
444
国家
(
こくか
)
の
為
(
ため
)
、
445
謹
(
つつし
)
んで
祝
(
しゆく
)
し
奉
(
たてまつ
)
ります。
446
岩治別
(
いははるわけ
)
殿
(
どの
)
、
447
大老
(
たいらう
)
よりのお
言葉
(
ことば
)
、
448
ヨモヤ
違背
(
ゐはい
)
は
厶
(
ござ
)
るまい。
449
サア
速
(
すみやか
)
に
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
退出
(
たいしゆつ
)
召
(
め
)
され』
450
と
居丈高
(
ゐたけだか
)
になつて
罵
(
ののし
)
つた。
451
岩治
(
いははる
)
『これは
怪
(
け
)
しからぬ
両所
(
りやうしよ
)
のお
言葉
(
ことば
)
、
452
拙者
(
せつしや
)
は
貴殿
(
きでん
)
等
(
ら
)
より
任命
(
にんめい
)
された
者
(
もの
)
では
厶
(
ござ
)
らぬ。
453
永年
(
ながねん
)
国務
(
こくむ
)
に
鞅掌
(
あうしやう
)
致
(
いた
)
した
功労
(
こうらう
)
を
思召
(
おぼしめ
)
され、
454
国司
(
こくし
)
より
老中
(
らうぢう
)
の
列
(
れつ
)
に
加
(
くは
)
へられたる
者
(
もの
)
、
455
然
(
しか
)
るを
大老
(
たいらう
)
の
身
(
み
)
を
以
(
もつ
)
て
吾々
(
われわれ
)
に
免職
(
めんしよく
)
を
言
(
い
)
ひつくるとは、
456
実
(
じつ
)
に
不届
(
ふとど
)
き
千万
(
せんばん
)
では
厶
(
ござ
)
らぬか。
457
貴殿
(
きでん
)
等
(
ら
)
は
神権
(
しんけん
)
を
無視
(
むし
)
し、
458
国政
(
こくせい
)
を
私
(
わたくし
)
するものと
言
(
い
)
はれても
遁
(
のが
)
るる
言葉
(
ことば
)
は
厶
(
ござ
)
りますまい。
459
乱臣
(
らんしん
)
賊子
(
ぞくし
)
とは
貴殿
(
きでん
)
等
(
ら
)
のことで
厶
(
ござ
)
る』
460
と
居丈高
(
ゐたけだか
)
になり
声
(
こゑ
)
荒
(
あら
)
らげて
睨
(
ね
)
めつけた。
461
松若彦
(
まつわかひこ
)
、
462
伊佐彦
(
いさひこ
)
は
目配
(
めくば
)
せし
乍
(
なが
)
ら、
463
ソツと
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
立
(
た
)
つて
国依別
(
くによりわけ
)
国司
(
こくし
)
の
御殿
(
ごてん
)
に
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
る。
464
後
(
あと
)
に
岩治別
(
いははるわけ
)
は
双手
(
もろて
)
を
組
(
く
)
み、
465
越方
(
こしかた
)
行末
(
ゆくすゑ
)
のことなど
思
(
おも
)
ひ
浮
(
う
)
かべて、
466
慨世
(
がいせい
)
憂国
(
いうこく
)
の
涙
(
なみだ
)
にくれてゐた。
467
そこへ
若君
(
わかぎみ
)
の
国照別
(
くにてるわけ
)
はあわただしく
只一人
(
ただひとり
)
入
(
いり
)
来
(
きた
)
り、
468
『オイ、
469
岩治別
(
いははるわけ
)
殿
(
どの
)
、
470
一時
(
いつとき
)
も
早
(
はや
)
く
裏門
(
うらもん
)
より
逃
(
のが
)
れ
出
(
い
)
でよ。
471
汝
(
なんぢ
)
を
捉
(
とら
)
へて
獄
(
ごく
)
に
投
(
とう
)
ぜむと、
472
二人
(
ふたり
)
の
老耄爺
(
おいぼれぢい
)
が
大目付
(
おほめつけ
)
を
呼
(
よ
)
び
出
(
だ
)
し
手配
(
てくば
)
りさしてゐる。
473
サア、
474
時
(
とき
)
遅
(
おく
)
れては
取返
(
とりかへ
)
しがつかぬ、
475
早
(
はや
)
く
早
(
はや
)
く』
476
とせき
立
(
た
)
てた。
477
岩治別
(
いははるわけ
)
は
挙手
(
きよしゆ
)
の
礼
(
れい
)
を
施
(
ほどこ
)
し
乍
(
なが
)
ら『ダンコン』と
只
(
ただ
)
一言
(
いちごん
)
を
残
(
のこ
)
し、
478
夕暗
(
ゆふやみ
)
を
幸
(
さいは
)
ひ、
479
姿
(
すがた
)
を
変
(
へん
)
じて
裏門
(
うらもん
)
より
何処
(
いづく
)
ともなく
消
(
き
)
えて
了
(
しま
)
つた。
480
三五
(
さんご
)
の
月
(
つき
)
は
東
(
ひがし
)
の
山
(
やま
)
の
端
(
は
)
を
照
(
てら
)
して、
481
高砂
(
たかさご
)
城内
(
じやうない
)
の
騒
(
さわ
)
ぎを
知
(
し
)
らぬ
顔
(
がほ
)
にニコニコと
眺
(
なが
)
めてゐる。
482
(
大正一三・一・二二
旧一二・一七
於伊予山口氏邸、
松村真澄
録)
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【第1章 大評定|第69巻|山河草木|霊界物語|/rm6901】
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