霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一五章 四天王(してんわう)〔一七六〇〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第69巻 山河草木 申の巻 篇:第3篇 神柱国礎 よみ(新仮名遣い):しんちゅうこくそ
章:第15章 四天王 よみ(新仮名遣い):してんおう 通し章番号:1760
口述日:1924(大正13)年01月24日(旧12月19日) 口述場所:伊予 山口氏邸 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1927(昭和2)年10月26日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
国州、浅州の二人は、アリナの滝の懸橋御殿にたどり着き、月次祭に参列し、滝の禊に行く。
すると、信者風の男たち十四五人に囲まれ、取り押さえられてしまう。国照別は息を整えて跳ね起き、たちまち四五人を取って投げ、啖呵を切る。
この勢いに、男たちの中の大将・駒治は平伏し、自分たちは伊佐彦老中の手下の捕り手で、世継である国照別を連れ戻しにやってきた者たちである、と白状する。
国照別はあべこべに、自分の子分となって珍の国の立て直しに協力するよう、捕り手たちに呼びかける。駒治、市公、馬公の三人だけが十手を捨てて国照別に従い、他の捕り手は一目散に逃げていった。
一行五人は捕り手たちは捨て置き、名にし負う霊跡、鏡の池へ禊に向かっていく。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2026-10-15 18:12:51 文字数:4307 OBC :rm6915
愛善世界社版:214頁 八幡書店版:第12輯 351頁 修補版: 校定版:224頁 普及版:66頁 初版: ページ備考:
001 国州(くにしう)、002浅州(あさしう)の両人(りやうにん)は午前(ごぜん)の十時頃(じふじごろ)辛(から)うじて、003国玉依別(くにたまよりわけの)命(みこと)が主管(しゆくわん)してゐるアリナの滝(たき)の懸橋(かけはし)御殿(ごてん)の大広前(おほひろまへ)に辿(たど)りついた。004国玉依別(くにたまよりわけ)、005玉竜姫(たまたつひめ)夫婦(ふうふ)は祭服(さいふく)を着(ちやく)し、006数多(あまた)の信徒(しんと)と共(とも)に、0061月例(つきなみ)の祭典(さいてん)を了(をは)り、007宣伝歌(せんでんか)を奏上(そうじやう)してゐる。
008国玉依(くにたまより)『アリナの滝(たき)の水(みづ)清(きよ)く
009此(この)谷間(たにあひ)のいや深(ふか)き
010神(かみ)の恵(めぐみ)に包(つつ)まれて
011懸橋(かけはし)御殿(ごてん)に朝夕(あさゆふ)に
012真心(まごころ)ささげ仕(つか)へゆく
013吾(われ)は国玉依別(くにたまよりわけ)の
014神(かみ)に仕(つか)ふる宣伝使(せんでんし)
015玉竜姫(たまたつひめ)と諸共(もろとも)に
016皇(すめ)大神(おほかみ)の御教(みをしへ)を
017アリナの山(やま)の空(そら)高(たか)く
018テルの荒野(あらの)のいや広(ひろ)く
019海(うみ)の外(そと)迄(まで)伝(つた)へゆく
020あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
021世(よ)は常暗(とこやみ)となりつれど
022遠(とほ)き神代(かみよ)の昔(むかし)より
023神(かみ)の恵(めぐみ)は変(かは)りなく
024四方(よも)の民草(たみぐさ)恵(めぐ)みまし
025世(よ)の荒風(あらかぜ)も醜雨(しこあめ)も
026凌(しの)ぎて安(やす)く世(よ)をわたる
027テルの国(くに)こそめでたけれ
028旭(あさひ)は清(きよ)くテルの国(くに)
029夕日(ゆふひ)も清(きよ)くテルの国(くに)
030月(つき)は御空(みそら)に鮮(あざや)かに
031天伝(あまつた)ひつつテルの国(くに)
032浜(はま)の真砂(まさご)の数(かず)多(おほ)く
033御空(みそら)の星(ほし)もテルの国(くに)
034月照彦(つきてるひこ)の皇神(すめかみ)の
035現(あら)はれ玉(たま)ひし鏡池(かがみいけ)
036常夜(とこよ)の暗(やみ)を照(て)らしつつ
037稜威(みいづ)輝(かがや)くテルの国(くに)
038天照(あまてる)神(かみ)の恵(めぐみ)にて
039野山(のやま)は青(あを)く水(みづ)清(きよ)く
040大海原(おほうなばら)より打(うち)よする
041波(なみ)も静(しづか)に漁(すなど)りの
042わざも豊(ゆたか)に国原(くにはら)は
043稲(いね)麦(むぎ)豆(まめ)粟(あは)よく稔(みの)り
044地上(ちじやう)に生(お)ふる人草(ひとぐさ)は
045朝(あさ)な夕(ゆふ)なに嬉(うれ)しみて
046神(かみ)を敬(うやま)はぬ者(もの)ぞなし
047げに高砂(たかさご)の名(な)に負(お)へる
048底津(そこつ)岩根(いはね)のテルの国(くに)
049領有(うしはぎ)玉(たま)ふ国魂(くにたま)の
050聖(きよ)き御前(みまへ)に鹿児自(かごじ)物(もの)
051膝(ひざ)折(を)りふせて大稜威(おほみいづ)
052神嘉(かみほ)ぎ仕(つか)へ奉(たてまつ)る
053あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
054身魂(みたま)の恩頼(ふゆ)を謝(しや)し奉(まつ)る
055一(ひと)二(ふた)三(み)四(よ)五(いつ)つ六(む)つ
056七(なな)八(や)九(ここの)つ十(とを)たらり
057百(もも)千(ち)万(よろづ)の国人(くにびと)が
058朝(あさ)な夕(ゆふ)なに大前(おほまへ)に
059い寄(よ)りつどひて御恵(みめぐみ)の
060千重(ちへ)の一重(ひとへ)に酬(むく)いむと
061三五(さんご)の月(つき)の照(て)り渡(わた)る
062今日(けふ)の生日(いくひ)に月例(つきなみ)の
063御祭(みまつり)仕(つか)へ奉(たてまつ)り
064海川(うみかは)山野(やまぬ)くさぐさの
065うまし物(もの)をば横山(よこやま)の
066いとさわさわに置足(おきたら)ひ
067真心(まごころ)捧(ささ)げ仕(つか)へゆく
068旭(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
069月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも
070大西洋(たいせいやう)はあするとも
071アリナの山(やま)は崩(くづ)るとも
072滝(たき)の流(ながれ)は干(ひ)るとても
073千代(ちよ)に尽(つ)きせぬ神恩(みめぐみ)の
074露(つゆ)に霑(うるほ)ふ民草(たみぐさ)の
075心(こころ)の色(いろ)ぞ麗(うる)はしき
076心(こころ)の花(はな)ぞ麗(うるは)しき
077此(この)世(よ)を造(つく)り玉(たま)ひたる
078無限(むげん)絶対(ぜつたい)無始(むし)無終(むしう)
079神徳(しんとく)強(つよ)き国(くに)の祖(おや)
080国治立(くにはるたち)の大御神(おほみかみ)
081世人(よびと)を洽(あまね)く救(すく)ひます
082神(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)の
083貴(うづ)の御前(みまへ)に畏(かしこ)みて
084天津(あまつ)祝詞(のりと)の太祝詞(ふとのりと)
085たたへまつるぞ嬉(うれ)しけれ
086あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
087御霊(みたま)の恩頼(ふゆ)を謝(しや)しまつる』
088と歌(うた)ひ了(をは)り、089四拍手(しはくしゆ)して神前(みまへ)を退(しりぞ)き、090二柱(ふたはしら)は数多(あまた)の信徒(しんと)に笑(ゑみ)を湛(たた)へて目礼(もくれい)し乍(なが)ら、091己(おの)が居間(ゐま)へと進(すす)み入(い)る。
092 国(くに)、093浅(あさ)の両人(りやうにん)は信徒(しんと)の中(なか)に交(まじ)はりて此(この)祭典(さいてん)に列(れつ)してゐた。094浅州(あさしう)は国照別(くにてるわけ)の耳(みみ)に口(くち)を寄(よ)せ、
095浅州『何(なん)と荘厳(さうごん)な宣伝歌(せんでんか)だありませぬか。096そして此処(ここ)の神司(かむづかさ)は随分(ずいぶん)老耄(おいぼれ)の様(やう)だが、097其(その)言霊(ことたま)は十七八(じふしちはち)の若者(わかもの)の様(やう)な涼(すず)しい清(きよ)らかな声(こゑ)を出(だ)すだありませぬか。098あの声(こゑ)を聞(き)くと私(わたし)はふるひ附(つ)く程(ほど)好(すき)になりました』
099国(くに)『心(こころ)さへ清浄(しやうじやう)潔白(けつぱく)にあれば、100言霊(ことたま)も濁(にご)らないから、101あゝいふ美(うつく)しい声(こゑ)が出(で)るのだ。102俺(おれ)達(たち)も之(これ)からは魂(みたま)を清(きよ)めて声(こゑ)の年(とし)がよらないやうにしたいものだ。103ここは昔(むかし)俺(おれ)の親爺(おやぢ)から聞(き)いてゐるが、104親爺(おやぢ)の友達(ともだち)の竜国別(たつくにわけ)といふ宣伝使(せんでんし)が、105自分(じぶん)の母親(ははおや)や弟子(でし)共(ども)と共(とも)に、106玉(たま)よせの芝居(しばゐ)をやつた所(ところ)[※第29巻第1~2章参照]ださうな。107其(その)時(とき)に竜国別(たつくにわけ)母子(おやこ)がソツト黄金(こがね)の玉(たま)を失敬(しつけい)して108アリナ山(やま)を遙々(はるばる)越(こ)え珍(うづ)の原野(げんや)迄(まで)いつた所(ところ)、109神(かみ)様(さま)の戒(いましめ)に会(あ)うて悔(く)い改(あらた)め、110其(その)次(つぎ)に高姫(たかひめ)といふ我(が)の強(つよ)い宣伝使(せんでんし)がやつて来(き)て、111又(また)其(その)玉(たま)の為(ため)に神(かみ)様(さま)に脂(あぶら)を搾(しぼ)られ112改心(かいしん)した[※第29巻第8~11章参照]といふ歴史(れきし)の残(のこ)つてゐるお宮様(みやさま)だ。113竜国別(たつくにわけ)が中途(ちうと)で神(かみ)様(さま)に取上(とりあ)げられた黄金(こがね)の玉(たま)が御(ご)神体(しんたい)となつて、114此(この)お社(やしろ)に祀(まつ)つてあるといふ事(こと)だから、115俺(おれ)達(たち)も三五教(あななひけう)の信者(しんじや)たる以上(いじやう)は、116満更(まんざら)縁(えん)のない者(もの)でもない。117どうだ、118今晩(こんばん)此処(ここ)でお通夜(つうや)でもやつて御(ご)神徳(しんとく)を頂(いただ)き、119アリナの滝(たき)で身(み)をうたれ、120それからボツボツ目的地(もくてきち)へ行(ゆ)かうぢやないか』
121浅(あさ)『それは誠(まこと)に至極(しごく)結構(けつこう)でせう。122何(なん)なら親分(おやぶん)、123ヒルの国(くに)なんて、124山河(さんか)数百(すうひやく)里(り)も隔(へだ)てた遠国(ゑんごく)へ行(ゆ)くよりも、125山(やま)一(ひと)つ越(こ)ゆれば、126自分(じぶん)の生(うま)れた国(くに)だから、127一層(いつそ)の事(こと)、128此処(ここ)で暫(しばら)く尻(しり)を据(す)ゑたら何(ど)うでせう。129別(べつ)にヒルの国(くに)迄(まで)行(ゆ)かなくても、130侠客(けふかく)にはなれますよ』
131国(くに)『一旦(いつたん)男子(だんし)が思(おもひ)立(た)つた事(こと)は中途(ちうと)にやめる訳(わけ)には行(い)かない。132絶壁(ぜつぺき)前(まへ)に当(あた)るとも、133白刃(はくじん)頭上(づじやう)に閃(ひらめ)くとも、134一旦(いつたん)言(こと)あげした事(こと)は実行(じつかう)せなくちや男(をとこ)とはいはれない。135まして男(をとこ)の中(なか)の男(をとこ)一匹(いつぴき)と、136世間(せけん)に持(も)てはやされ、137仁侠(にんけふ)を以(もつ)て世(よ)を救(すく)ふ大望(たいまう)を抱(いだ)いた吾々(われわれ)、138そんな腰(こし)の弱(よわ)い事(こと)が出来(でき)ようか。139お前(まへ)は厭(いや)なら厭(いや)で可(よ)いから、140此処(ここ)に何時(いつ)迄(まで)も固着(こちやく)してゐるが良(よ)からう、141俺(おれ)は一人(ひとり)でやつて来(く)るからのう』
142浅(あさ)『どこ迄(まで)もお供(とも)致(いた)します。143然(しか)し三日(みつか)や四日(よつか)はお骨休(ほねやす)め、144足休(あしやす)めの為(ため)、145此処(ここ)でお籠(こも)りしたら何(ど)うでせうか』
146国(くに)『先(ま)づ二三(にさん)日(にち)滝(たき)に打(う)たれて、147体(からだ)を浄(きよ)め、148鏡(かがみ)の池(いけ)の神(かみ)様(さま)に神勅(しんちよく)をうけ、149そしてボツボツ行(ゆ)く事(こと)にせう』
150浅(あさ)『ヤ、151それで安心(あんしん)しました。152そんなら之(これ)からお滝(たき)へ参(まゐ)りませうか』
153国(くに)『ヨーシ、154先(ま)づ第一(だいいち)に身禊(みそぎ)をやつて来(こ)う』
155といひ乍(なが)ら、156拍手(はくしゆ)再拝(さいはい)し、157口(くち)の奥(おく)で天(あま)の数歌(かずうた)を称(とな)へてゐると、158信者(しんじや)の風(ふう)をした十四五(じふしご)人(にん)の男(をとこ)、159前後(ぜんご)左右(さいう)よりバラバラと取囲(とりかこ)み、160両人(りやうにん)の首筋(くびすぢ)をグツと握(にぎ)り、161剛力(がうりき)に任(まか)して押(おさ)へつけた。162浅公(あさこう)は驚(おどろ)いて、
163浅公『アイタヽヽヽ、164ナヽ何(なに)をさらすのだ。165コリヤお前(まへ)達(たち)ア、166神(かみ)様(さま)を信心(しんじん)してる信者(しんじや)ぢやないか。167人(ひと)の首筋(くびすぢ)を押(おさ)へて何(ど)うするつもりだ。168イイ痛(いた)いワイ、169何(なん)ぢやい。170人(ひと)の手(て)を後(うしろ)へ廻(まは)しやがつて……何(なに)俺(おれ)が悪(わる)い事(こと)したか……モシ親分(おやぶん)、171タヽ助(たす)けて下(くだ)さいな』
172 国照別(くにてるわけ)は剛力(がうりき)に押(おさ)へられ、173俯向(うつむ)いた儘(まま)、174阿呍(あうん)の息(いき)を凝(こ)らし、175隙(すき)をねらつてゐた。176息(いき)の調子(てうし)を計(はか)つて、177パツとはね起(お)き、178矢庭(やには)に大(だい)の男(をとこ)四五(しご)人(にん)を取(と)つて投(な)げた。179浅公(あさこう)を押(おさ)へてゐた大男(おほをとこ)も吃驚(びつくり)して手(て)を放(はな)した。180浅公(あさこう)は矢庭(やには)に座敷(ざしき)の真中(まんなか)につつ立(たち)上(あが)り、181大手(おほて)をひろげ、182手(て)に唾(つばき)し乍(なが)ら、
183浅公『サー来(こ)い、184珍(うづ)の都(みやこ)に於(おい)て隠(かく)れなき白浪(しらなみ)男(をとこ)の浅公(あさこう)さまとは、185こなはんのことだ。186いらざるちよつかいを出(だ)して後悔(こうくわい)を致(いた)すな。187乾児(こぶん)の俺(おれ)でさへも此(この)通(とほり)だ、188俺(おれ)の親分(おやぶん)を何(なん)と心得(こころえ)てゐるか、189珍(うづ)の一国(いつこく)の国(くに)の柱(はしら)の国(くに)さまだぞ』
190 此(この)中(なか)の最(もつと)も大将(たいしやう)らしき奴(やつ)、191行儀(ぎやうぎ)よく畳(たたみ)の上(うへ)にキチンと坐(すわ)り両手(りやうて)をついて、
192男(をとこ)(駒治)『誠(まこと)に失礼(しつれい)をいたしました。193私(わたし)は伊佐彦(いさひこ)老中(らうぢう)の部下(ぶか)に仕(つか)ふる、194はした役人(やくにん)共(ども)で厶(ござ)いまするが、195国照別(くにてるわけ)の世子(せいし)様(さま)が、196珍(うづ)の都(みやこ)に身(み)をおとして、197お忍(しの)びになつたといふ事(こと)が城下(じやうか)一般(いつぱん)にひろがり、198それから大勢(おほぜい)の者(もの)が手配(てくば)りを致(いた)しましたが、199どうしても御(お)行衛(ゆくへ)が知(し)れぬので、200ヒヨツとしたら他国(たこく)へ逐電(ちくでん)されるかも知(し)れないと、201十数(じふすう)人(にん)の手下(てした)を引(ひき)つれ、202一方口(いつばうぐち)の此(この)館(やかた)に信者(しんじや)と化込(ばけこ)み、203様子(やうす)を考(かんが)へてゐた所(ところ)、204今日(けふ)計(はか)らずも、205世子(せいし)様(さま)のお出(い)で、206誠(まこと)に恐(おそ)れ多(おほ)い事(こと)で厶(ござ)いますが、207吾々(われわれ)がお供(とも)を致(いた)しますから、208どうぞ国(くに)へお帰(かへ)り下(くだ)さいませ』
209国(くに)『お前(まへ)達(たち)は誠(まこと)に御(ご)苦労(くらう)な役(やく)だ。210願(ねがひ)によつて帰(かへ)つてやるのは易(やす)い事(こと)だが、211俺(おれ)も最早(もはや)決心(けつしん)した以上(いじやう)は、212一歩(いつぽ)も後(あと)へ返(かへ)す事(こと)は出来(でき)ない、213諦(あきら)めて帰(かへ)つてくれ。214何(いづ)れ永遠(えいゑん)に珍(うづ)の国(くに)を見(み)すてるのではない。215俺(おれ)には俺(おれ)の考(かんが)へがあつての事(こと)だから、216素直(すなほ)に帰(かへ)つたが可(よ)からう』
217男(をとこ)(駒治)『私(わたくし)は深溝(ふかみぞ)役所(やくしよ)の目付(めつけ)で厶(ござ)いまして、218駒治(こまはる)といふ者(もの)で厶(ござ)います。219左様(さやう)な事(こと)を仰(おほ)せられずに、220一先(ひとま)づ御(お)帰(かへ)り下(くだ)さいませ。221珍(うづ)の城下(じやうか)は大変(たいへん)な騒(さわぎ)で厶(ござ)いますから、222一度(いちど)帰(かへ)つて頂(いただ)かねば、223衆生(しゆじやう)が塗炭(とたん)の苦(くるし)みに陥(おちい)ります。224衆生(しゆじやう)を愛(あい)し下(くだ)さる真心(まごころ)があるなら、225どうぞ私(わたくし)がお供(とも)を致(いた)しますから、226此(この)場(ば)より御(お)帰(かへ)りを願(ねが)ひます。227貴方(あなた)が御(お)帰(かへ)り下(くだ)さらねば、228吾々(われわれ)は再(ふたた)び都(みやこ)へ帰(かへ)る訳(わけ)には参(まゐ)りませぬ』
229国(くに)『別(べつ)に都(みやこ)へ帰(かへ)る必要(ひつえう)はないぢやないか。230生活(せいくわつ)の保証(ほしよう)は俺(おれ)がしてやるから、231どうだ。232俺(おれ)は国州(くにしう)といふ侠客(けふかく)と還俗(げんぞく)したのだから、233汝(きさま)等(ら)も俺(おれ)の乾児(こぶん)となり、234天下(てんか)の男(をとこ)伊達(だて)と名(な)を売(う)つたらどうだ。235そして腕(うで)を研(みが)いた上(うへ)236俺(おれ)は故国(ここく)へ帰(かへ)り国(くに)の真柱(まはしら)となる積(つも)りだ。237其(その)時(とき)はお前(まへ)も抜擢(ばつてき)して、238大取締(おほとりしまり)位(ぐらゐ)に使(つか)つてやるが、239ここは一(ひと)つ思案(しあん)の仕所(しどころ)だ、240どうだ、241俺(おれ)のいふ事(こと)が合点(がてん)がいたら、242否応(いやおう)なしにすぐに其(その)十手(じつて)をこの谷川(たにがは)へ捨(す)てて了(しま)へ』
243 駒治(こまはる)は心(こころ)の中(なか)にて……一層(いつそ)の事(こと)、244侠客(けふかく)にならうかなア、245何(なん)といつても、246珍(うづ)一国(いつこく)の御(ご)世子(せいし)だ。247其(その)方(かた)が斯(か)うして身(み)をおとし、248白浪(しらなみ)男(をとこ)になつて世(よ)の中(なか)を救(すく)はうとなさるのだから、249何時(いつ)迄(まで)も役人(やくにん)の端(はし)に加(くは)はつて居(を)つても、250先(さき)が見(み)えてゐる。251一層(いつそ)潔(いさぎ)よく降参(かうさん)せうかな……と早(はや)くも決心(けつしん)して了(しま)つた。252然(しか)し乍(なが)ら大勢(おほぜい)の部下(ぶか)に対(たい)し、253直(ただ)ちに服従(ふくじゆう)する訳(わけ)にも行(ゆ)かず、254部下(ぶか)の顔色(かほいろ)をソツと窺(うかが)つてゐる。
255国(くに)『オイ一同(いちどう)の者(もの)共(ども)、256今日(けふ)から俺(おれ)の乾児(こぶん)だ。257侠客(けふかく)でなくつても、258高砂城(たかさごじやう)の未来(みらい)の国司(こくし)だ。259さうすりやお前(まへ)たちは皆(みな)俺(おれ)の乾児(こぶん)だ。260どうだ否応(いやおう)あるまい。261其(その)ペラペラした十手(じつて)をねぢ折(を)つて谷川(たにがは)へ放(ほ)る気(き)はないか』
262駒治(こまはる)『何卒(なにとぞ)私(わたくし)を貴方(あなた)の直参(ぢきさん)の乾児(こぶん)にして下(くだ)さいませ。263如何(いか)なる事(こと)でも御(ご)命令(めいれい)に服従(ふくじゆう)致(いた)します。264証拠(せうこ)は此(この)通(とほり)で厶(ござ)います』
265と十手(じつて)を、266眼下(がんか)の谷底(たにぞこ)へ投(なげ)込(こ)んで了(しま)つた。267他(た)の捕手(とりて)連中(れんちう)は去就(きよしう)に迷(まよ)ひ、268目(め)を白黒(しろくろ)させて駒治(こまはる)の顔(かほ)を見(み)つめてゐたが、269市公(いちこう)、270馬公(うまこう)の両人(りやうにん)を除(のぞ)く外(ほか)、271十手(じつて)に手(て)をかけたまま、272列(れつ)をつくり、273駆足(かけあし)の姿勢(しせい)で、274怖(こは)さうに館(やかた)を逃(に)げ出(だ)しアリナ山(やま)を指(さ)して逃(に)げ帰(かへ)りゆく。275後(あと)見送(みおく)つて国照別(くにてるわけ)は、
276国照別『ハヽヽヽヽ駒治(こまはる)、277市(いち)に馬(うま)、278誠(まこと)の者(もの)は三(さん)人(にん)になるかも知(し)れぬぞよ……とはよく言(い)つた事(こと)だ、279三(さん)人(にん)世(よ)の元(もと)結構(けつこう)々々(けつこう)だ。280お前(まへ)達(たち)新帰順(しんきじゆん)新侠客(しんけふかく)が三(さん)人(にん)、281俺(おれ)達(たち)二人(ふたり)を合(あは)すれば五(ご)人(にん)となる、282厳(いづ)の御霊(みたま)だ。283三五(さんご)の明月(めいげつ)だ。284ヤ、285目出(めで)たい目出(めで)たい、286サア是(これ)から神(かみ)様(さま)に御(お)礼(れい)を申(まをし)上(あ)げやう』
287駒治(こまはる)『御(ご)世子(せいし)様(さま)、288そんなら今日(けふ)から、289誠(まこと)にすみませぬが、290貴方(あなた)を親分(おやぶん)と申(まを)しても宜(よろ)しう厶(ござ)いますか』
291国(くに)『きまつた事(こと)だ、292親分(おやぶん)国州(くにしう)さまと云(い)つてくれ。293市(いち)も馬(うま)も其(その)通(とほり)だぞ。294窮屈(きうくつ)な取締(とりしまり)をやめて脛(すね)一本(いつぽん)、295沼矛(ぬぼこ)一本(いつぽん)の男(をとこ)一匹(いつぴき)になるのは男子(だんし)の本懐(ほんくわい)だ。296汝(きさま)も之(これ)で救(すく)はれたのだ。297ヤツパリ霊(みたま)がいいとみえて、298俺(おれ)の心(こころ)が分(わか)つたと見(み)えるワイ、299アツハヽヽヽヽ』
300駒治(こまはる)『エー、301親分(おやぶん)に申(まをし)上(あ)げますが、302早(はや)く此(この)場(ば)を立去(たちさ)らないと、303今(いま)帰(かへ)つた十三(じふさん)人(にん)の奴(やつ)、304都(みやこ)へ帰(かへ)り、305伊佐彦(いさひこ)老中(らうぢう)へ報告(はうこく)するに間違(まちが)ひありませぬ。306さうすりや捕手(とりて)がやつて来(く)る、307険呑(けんのん)ですから、308何(なん)とか身隠(みがく)しをせななりますまい』
309国(くに)『ナアニ、310心配(しんぱい)するな、311此(この)急阪(きふはん)を登(のぼ)り下(くだ)りして、312それから広(ひろ)い野(の)を渡(わた)り、313都(みやこ)へ帰(かへ)るにも五日(いつか)や六日(むいか)はかかる。314それからやつて来(き)た所(ところ)で、315又(また)五日(いつか)や六日(むいか)は時日(じじつ)が要(い)る。316マアここ十日(とをか)位(ぐらゐ)は大丈夫(だいぢやうぶ)だ。317ゆつくり身禊(みそぎ)でもして神勅(しんちよく)を受(う)け、318それから自分(じぶん)の方針(はうしん)を徹底(てつてい)的(てき)にきめるのだ。319そんな事(こと)に齷齪(あくせく)して頭(あたま)を痛(いた)めてゐるやうな事(こと)では320到底(たうてい)侠客(けふかく)にはなれないぞ。321ヤ面白(おもしろ)い面白(おもしろ)い、322俺(おれ)も〆(しめ)て乾児(こぶん)が四(よ)人(にん)出来(でき)たか、323四天王(してんわう)の勇士(ゆうし)、324しつかり頼(たの)むよ』
325浅(あさ)『モシモシ親分(おやぶん)さま、326四(よ)人(にん)の中(なか)で順序(じゆんじよ)を立(た)てておかねばなりませぬが、327誰(たれ)が此(この)中(なか)では一番(いちばん)兄貴(あにき)になるのですか、328キツと私(わたし)でせうね』
329国(くに)『時間(じかん)に於(おい)てはお前(まへ)が兄貴(あにき)だ。330併(しか)し乍(なが)ら胆力(たんりよく)と腕力(わんりよく)に於(おい)ては怪(あや)しいものだなア。331何(なに)は兎(と)もあれ、332お滝(たき)へ身禊(みそぎ)に行(ゆ)く事(こと)にせう、333一(いち)二(に)三(さん)四(し)』
334と言(い)ひ乍(なが)ら懸橋(かけはし)御殿(ごてん)を後(あと)に、335水音(みなおと)轟々(ぐわうぐわう)として響(ひび)きわたる瀑布(ばくふ)の傍(かたはら)に一行(いつかう)五(ご)人(にん)辿(たど)りついた。336無心(むしん)の滝水(たきみづ)は何(なに)を語(かた)るか。337囂々(がうがう)鼕々(とうとう)として地(ち)をゆるがせ、338無数(むすう)の飛沫(ひまつ)には日光(につくわう)が映(えい)じて、339えも言(い)はれぬ宝玉(ほうぎよく)の雨(あめ)を降(ふ)らしてゐる。
340(大正一三・一・二四 旧一二・一二・一九 伊予 於山口氏邸、松村真澄録)
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