霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
×
設定
URL:
印刷用画面を開く [?]プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。[×閉じる]
話者名の追加表示 [?]セリフの前に話者名が記していない場合、誰がしゃべっているセリフなのか分からなくなってしまう場合があります。底本にはありませんが、話者名を追加して表示します。[×閉じる]
表示できる章
テキストのタイプ [?]ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。[×閉じる]

文字サイズ
行間
ルビの表示


アンカーの表示 [?]本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。[×閉じる]


宣伝歌 [?]宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。[×閉じる]
脚注[※]用語解説 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

脚注[*]編集用 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

外字の外周色 [?]一般のフォントに存在しない文字は専用の外字フォントを使用しています。目立つようにその文字の外周の色を変えます。[×閉じる]
現在のページには外字は使われていません

表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。

第一三章 国別(こくべつ)〔一七五八〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第69巻 山河草木 申の巻 篇:第3篇 神柱国礎 よみ(新仮名遣い):しんちゅうこくそ
章:第13章 国別 よみ(新仮名遣い):こくべつ 通し章番号:1758
口述日:1924(大正13)年01月24日(旧12月19日) 口述場所:伊予 山口氏邸 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1927(昭和2)年10月26日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
国照別は、魂を磨き、真の神徳を治めるため、生まれ故郷の珍の国を出ていく。
共の浅公とともに、アリナ山を下り、最初の目的地、懸橋御殿を指して、歌を歌いながら進む。
霧は深く、太陽も沈み、やむを得ず山中にて一夜を明かすことになった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:0000-00-00 00:00:00 文字数:4000 OBC :rm6913
愛善世界社版:187頁 八幡書店版:第12輯 342頁 修補版: 校定版:195頁 普及版:66頁 初版: ページ備考:
001国照別(くにてるわけ)『われは淋(さび)しき冬(ふゆ)の月(つき)
002御空(みそら)に高(たか)く打(うち)ふるひ
003中空(ちうくう)遮(さへぎ)る雲(くも)の戸(と)の
004開(ひら)くよしなき悲(かな)しさに
005苦(くるし)み悶(もだ)ゆる折(をり)もあれ
006忽(たちま)ち吹(ふ)き来(く)る時津風(ときつかぜ)
007十重(とへ)に二十重(はたへ)に包(つつ)みたる
008雲(くも)吹(ふ)き払(はら)ひ漸(やうや)くに
009地上(ちじやう)に降(くだ)る道(みち)開(ひら)く
010草(くさ)の片葉(かきは)におく霜(しも)の
011冷(つめ)たき宿(やど)を借(か)り乍(なが)ら
012都(みやこ)を後(あと)に下(くだ)りゆく
013吾(わが)身(み)の上(うへ)ぞ頼(たの)もしき
014遥(はるか)に地上(ちじやう)を見渡(みわた)せば
015虎(とら)狼(おほかみ)や獅子(しし)熊(くま)の
016伊猛(いたけ)り狂(くる)ふ荒野原(あれのはら)
017正(ただ)しき人(ひと)は醜神(しこがみ)の
018脚(あし)ににじられ踏(ふ)まれつつ
019悲鳴(ひめい)をあげて泣(な)き叫(さけ)ぶ
020曲(まが)れる人(ひと)は揚々(やうやう)と
021春野(はるの)に蝶(てふ)の舞(ま)ふ如(ごと)く
022地上(ちじやう)の悩(なや)みを他所(よそ)にして
023歌舞(かぶ)音楽(おんがく)にひたりゐる
024実(げ)にも矛盾(むじゆん)の天地(てんち)かな
025いよいよ神(かみ)が現(あら)はれて
026三千(さんぜん)世界(せかい)を引(ひき)ならし
027草(くさ)の片葉(かきは)に至(いた)る迄(まで)
028恵(めぐみ)の露(つゆ)にしたしつつ
029救(すく)はむ時(とき)ぞ近(ちか)づきぬ
030あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
031吾(わ)れは国照別(くにてるわけ)司(つかさ)
032此(この)曇(くも)りたる国土(くにつち)を
033三五(さんご)の月(つき)の御教(みをしへ)に
034照(てら)し清(きよ)めて永久(とこしへ)に
035国照別(くにてるわけ)の御世(みよ)となし
036草木(くさき)もめぐむ春乃姫(はるのひめ)
037月(つき)と花(はな)との兄妹(おとどい)が
038神(かみ)の賜(たま)ひし珍(うづ)の国(くに)
039昔(むかし)の神代(かみよ)に引(ひき)戻(もど)し
040憂(うき)に悩(なや)める人草(ひとぐさ)を
041救(すく)ひ助(たす)けむ吾(わが)願(ねが)ひ
042達(たつ)せむ為(ため)の鹿島立(かしまだち)
043守(まも)らせ給(たま)へ惟神(かむながら)
044神(かみ)の御前(みまへ)に願(ね)ぎまつる
045吹(ふ)き来(く)る風(かぜ)は荒(あら)くとも
046降(ふ)り込(こ)む雨(あめ)は強(つよ)く共(とも)
047仮令(たとへ)地(つち)揺(ゆ)り雷(いかづち)の
048頭上(づじやう)に轟(とどろ)く世(よ)あり共(とも)
049いかでか恐(おそ)れむ敷島(しきしま)の
050聖(きよ)き国照別(くにてるわけ)の魂(たま)
051如何(いか)なる権威(けんゐ)も物欲(ぶつよく)も
052左右(さいう)し得(う)べき力(ちから)なし
053珍(うづ)の御国(みくに)は云(い)ふも更(さら)
054高砂島(たかさごじま)に国(くに)と云(い)ふ
055国(くに)のことごと三五(あななひ)の
056神(かみ)の教(をしへ)とねぢ直(なほ)し
057生(い)ける真(まこと)の神(かみ)として
058降(くだ)り行(ゆ)くこそ勇(いさ)ましき
059あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
060御霊(みたま)の恩頼(ふゆ)を願(ね)ぎ奉(まつ)る』
061と歌(うた)ひ乍(なが)ら、062アリナ山(やま)の峠(たうげ)の頂上(ちやうじやう)に着(つ)いた。063国照別(くにてるわけ)は東方(とうはう)の原野(げんや)を遥(はるか)に見(み)おろし乍(なが)ら、
064『あゝ珍(うづ)の国(くに)も暫(しばら)くこれで見(み)ることが出来(でき)ないだらう。065其(その)代(かは)り今度(こんど)帰(かへ)つて来(き)た時(とき)は、066此(この)広大(くわうだい)なる荒野(あれの)ケ原(はら)も金銀(きんぎん)瑪瑙(めなう)、067瑠璃(るり)硨磲(しやこ)、068玻璃(はり)などの七宝(しつぽう)に飾(かざ)られた地上(ちじやう)天国(てんごく)に一変(いつぺん)するだらう。069雲(くも)深(ふか)き城中(じやうちう)を後(あと)に親(おや)兄弟(きやうだい)家来(けらい)を見(み)すてて、070鄙(ひな)に下(くだ)り、071今(いま)又(また)吾(わが)城下(じやうか)にも住(す)む事(こと)を得(え)ず、072心(こころ)からとは云(い)ひ乍(なが)ら、073生(うま)れ故郷(こきやう)を立(たち)去(さ)るは、074どこともなく心(こころ)淋(さび)しいやうだ。075あゝ否々(いないな)、076そんな気(き)の弱(よわ)いことで、077此(この)神業(しんげふ)が勤(つと)まらうか。078珍(うづ)の国(くに)の国司(こくし)は元(もと)は三五(あななひ)の教(をしへ)を以(もつ)て人草(ひとぐさ)を教化(けうくわ)するのが天職(てんしよく)であつた。079余(あま)り政治(せいぢ)などに心(こころ)を用(もち)ひなくても自然(しぜん)に治(をさ)まつてゐたのだ。080然(しか)し乍(なが)ら今日(こんにち)となつては国外(こくぐわい)よりいろいろの主義(しゆぎ)や思想(しさう)や無用(むよう)の学術(がくじゆつ)が流(なが)れ込(こ)んで来(き)て、081古(いにしへ)の如(ごと)き簡易(かんい)な信仰(しんかう)のみを以(もつ)て国(くに)を治(をさ)むる事(こと)は出来(でき)なくなつて了(しま)つた。082然(しか)し乍(なが)ら083どうしても世(よ)の中(なか)は知識(ちしき)や学問(がくもん)の力(ちから)では治(をさ)まるものでない。084先(ま)づ政(まつりごと)の第一(だいいち)は徳(とく)を以(もつ)てするより外(ほか)にない。085自分(じぶん)は其(その)徳(とく)を養(やしな)はむが為(ため)に、086城中(じやうちう)をぬけ出(だ)し、087最(もつと)も卑(いや)しき車夫(しやふ)の仲間(なかま)に入(い)り、088下層(かそう)社会(しやくわい)の事情(じじやう)を探(さぐ)り、089今(いま)又(また)侠客(けふかく)となつて、090市井(しせい)の巷(ちまた)に出没(しゆつぼつ)し、091吾(わが)霊魂(れいこん)をして金剛(こんがう)不壊(ふゑ)の如意(によい)宝珠(ほつしゆ)たらしめむと、092焦(あせ)れど藻掻(もが)けど如何(いか)にせむ、093永(なが)い間(あひだ)嬢(ぢやう)や坊(ぼん)にて育(そだ)てられ、094少(すこ)しの荒(あら)き風(かぜ)にさへも悩(なや)まされるやうな弱(よわ)い身体(からだ)で、095どうして衆生(しゆじやう)を安堵(あんど)せしむることが出来(でき)ようか。096何(なん)と云(い)つても自分(じぶん)は珍(うづ)の国(くに)の世子(せいし)、097清家(せいか)生活(せいくわつ)も顕要(けんえう)の地位(ちゐ)も少(すこ)しも望(のぞ)まぬけれど、098此(この)先(さき)自分(じぶん)が此(この)国(くに)に居(を)らなくなつたならば、099信仰(しんかう)の中心(ちうしん)、100尊敬(そんけい)の的(まと)、101思想(しさう)の真柱(しんばしら)を失(うしな)ふたも同然(どうぜん)、102容易(ようい)に、103如何(いか)なる賢者(けんじや)が現(あら)はれても、104徳望者(とくばうしや)が現(あら)はれても、105治(をさ)むることは難(むつ)かしいだらう。106それを思(おも)へば、107一(いち)時(じ)も早(はや)く魂(たま)を研(みが)き、108真(しん)の神徳(しんとく)を身(み)にうけて、109再(ふたた)び此(この)国(くに)に帰(かへ)つて来(こ)なくてはならうまい。110珍(うづ)の国(くに)の広(ひろ)き原野(げんや)が今(いま)吾(わが)視線(しせん)を離(はな)れるに望(のぞ)んで、111何(なん)となく、112山河(さんか)草木(さうもく)を始(はじ)め吾(わが)国(くに)衆生(しゆじやう)が恋(こひ)しくなつて来(き)た。113然(しか)し乍(なが)ら一旦(いつたん)決心(けつしん)した吾(わが)魂(たましひ)を翻(ひるがへ)すことは出来(でき)ぬ。114あゝ惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)。115国治立(くにはるたちの)大神(おほかみ)様(さま)、116何卒(なにとぞ)国照別(くにてるわけ)が赤心(まごころ)を御(ご)受納(じゆなふ)下(くだ)さいまして、117珍(うづ)の国(くに)は申(まを)すも更(さら)なり、118高砂島(たかさごじま)の天地(てんち)をして119昔(むかし)の神代(かみよ)の歓楽郷(くわんらくきやう)にねぢ直(なほ)させて下(くだ)さいませ。120又(また)両親(りやうしん)を始(はじ)め妹(いもうと)の春乃姫(はるのひめ)其(その)他(た)城中(じやうちう)の老臣(らうしん)、121及(およ)び友人(いうじん)の身(み)の上(うへ)に特別(とくべつ)の御(ご)恩寵(おんちよう)を垂(た)れさせ給(たま)ひて、122珍(うづ)の国家(こくか)を平安(へいあん)に隆昌(りうしやう)に進(すす)ませ給(たま)ふ様(やう)偏(ひとへ)に御(お)願(ねがひ)申(まをし)上(あげ)ます。123珍(うづ)の国(くに)に別(わか)るるに臨(のぞ)んで、124国魂(くにたまの)神(かみ)様(さま)の御前(みまへ)に謹(つつし)んで御(お)礼(れい)を申(まをし)上(あ)げます。125あゝ惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)』
126と感慨(かんがい)無量(むりやう)の態(てい)で、127太(ふと)い息(いき)をついてゐる。128浅公(あさこう)は珍(うづ)の原野(げんや)を見(み)おろし乍(なが)ら、
129『親分(おやぶん)さま、130何(なん)とマア珍(うづ)の国(くに)も広(ひろ)いものですなア、131そして何(なん)だか珍(うづ)の国(くに)の山河(さんか)草木(さうもく)が……浅公(あさこう)行(ゆ)くな行(ゆ)くな 132元(もと)へ返(か)やせ……と手招(てまね)きするやうな気分(きぶん)が致(いた)しまして、133之(これ)から先(さき)へ行(ゆ)くのが、134何(なん)だかおつくうなやうな、135嬉(うれ)しくない様(やう)な気(き)になりました。136今(いま)親方(おやかた)の様子(やうす)を見(み)てゐると二(ふた)つの目(め)から涙(なみだ)がポロリポロリと落(お)ちてゐましたよ。137何(なに)程(ほど)侠客(けふかく)の親分(おやぶん)でも、138人情(にんじやう)に変(かは)りはないとみえますな』
139国照(くにてる)『ウン、140生(うま)れた国(くに)といふものは、141何(なん)とはなしに恋(こひ)しいものだ。142言(い)はば自分(じぶん)等(たち)を永(なが)らく育(そだ)ててくれた真(しん)の母(はは)だからな。143幼子(をさなご)が母(はは)の懐(ふところ)をはなれて、144異郷(いきやう)の空(そら)に出(で)るのだもの、145俺(おれ)だつて、146チツトは感慨(かんがい)無量(むりやう)の涙(なみだ)にくれるのは当然(あたりまへ)だ。147涙(なみだ)のない人間(にんげん)は鬼(おに)だ。148俺(おれ)も先(ま)づ鬼(おに)の境遇(きやうぐう)だけは免(まぬが)れたとみえるワイ。149アツハヽヽヽヽ』
150と俄(にはか)に笑(わら)ひに紛(まぎ)らす。151浅公(あさこう)も泣(な)き声(ごゑ)交(まじ)りに『アツハヽヽヽヽ』と附合(つきあひ)笑(わら)ひをする。
152国照(くにてる)『浅公(あさこう)、153之(これ)から先(さき)はつまりいへば、154他国(たこく)だ。155神(かみ)様(さま)の方(はう)からいへば、156皆(みな)神(かみ)の国(くに)で境界(きやうかい)もなければ差別(さべつ)もないが、157地上(ちじやう)の人間(にんげん)共(ども)が、158之(これ)迄(まで)は珍(うづ)の国(くに)、159之(これ)から先(さき)はテルの国(くに)だとか、160カルの国(くに)だとかヒルだとかハルだとか、161勝手(かつて)に境界(きやうかい)をつけ、162互(たがひ)に権勢(けんせい)を争(あらそ)うてゐるのだから、163其(その)考(かんが)へでゐないと、164大変(たいへん)な失敗(しつぱい)をするよ。165自分(じぶん)の国内(こくない)では侠客(けふかく)も羽振(はぶり)が利(き)くが、166様子(やうす)も分(わか)らぬ他国(たこく)では、167そういふ訳(わけ)にはゆかぬからのう』
168浅(あさ)『所(ところ)で吠(ほえ)ぬ犬(いぬ)はないとかいひましてな』
169国照(くにてる)『オイ浅(あさ)、170犬(いぬ)に喩(たとへ)るとは殺生(せつしやう)ぢやないか、171ハヽヽ。172サアここを降(くだ)つて、173懸橋(かけはし)御殿(ごてん)といふのがあるさうだから、174それへ参拝(さんぱい)をして一夜(いちや)の宿(やど)を借(か)り、175ゆつくり行(ゆ)くことにせう』
176浅(あさ)『ハイ、177お伴(とも)致(いた)しませう、178あーあ、179之(これ)で故郷(こきやう)の空(そら)の暫(しばら)く見納(みをさ)めかなア………
180去(さ)りかねて振(ふ)り返(かへ)り見(み)ぬ珍(うづ)の国(くに)
181妻(つま)さへ子(こ)さへなき身(み)なれ共(ども)。
182何(なん)となく恋(こひ)しくなりぬ珍(うづ)の空(そら)
183今(いま)別(わか)れむとして涙(なみだ)こぼるる』
184国照別(くにてるわけ)『汝(なれ)も又(また)人(ひと)の御子(みこ)なれ世(よ)のあはれ
185よくも悟(さと)れり深(ふか)く覚(さと)れり。
186足乳根(たらちね)の親(おや)のまします珍(うづ)の空(そら)
187打(う)ち仰(あふ)ぎつつ別(わか)れ行(ゆ)く哉(かな)。
188国愛別(くにちかわけ)親(した)しき友(とも)は如何(いか)にして
189吾(わが)ゆく後(あと)に活動(くわつどう)やせむ。
190吾(わが)友(とも)よ暫(しばら)く待(ま)てよ国照別(くにてるわけ)
191神(かみ)と現(あら)はれ帰(かへ)り来(く)る迄(まで)。
192吾(わが)行(ゆ)くは御国(みくに)をすつる為(ため)ならず
193真(まこと)の神(かみ)の国(くに)にせむ為(ため)。
194吾(わが)ゆくは親(おや)を苦(くるし)むる為(ため)ならず
195大御心(おほみこころ)を慰(なぐさ)めむ為(ため)。
196吾(わが)ゆくは国民(くにたみ)すつる為(ため)ならず
197天国(てんごく)浄土(じやうど)に救(すく)はむが為(ため)』
198と歌(うた)ひ了(をは)り、199金剛杖(こんがうづゑ)を力(ちから)に急坂(きふはん)を下(くだ)りゆく。
200国照別(くにてるわけ)『神(かみ)の恵(めぐみ)のアリナ山(やま)
201杖(つゑ)を力(ちから)に下(くだ)りゆく
202旭(あさひ)は照(て)る共(とも)曇(くも)る共(とも)
203月(つき)は盈(み)つ共(とも)虧(か)くる共(とも)
204仮令(たとへ)大地(だいち)は沈(しづ)むとも
205誠(まこと)一(ひと)つの三五(あななひ)の
206神(かみ)に任(まか)せし吾(わが)身魂(みたま)
207神(かみ)と国(くに)とに真心(まごころ)を
208尽(つく)す吾(わが)身(み)に幸(さち)あれと
209朝夕(あさゆふ)祈(いの)る勇(いさ)ましさ
210故国(ここく)の空(そら)を後(あと)にして
211踏(ふ)みもならはぬ山阪(やまざか)を
212登(のぼ)りつ下(くだ)りつ進(すす)み行(ゆ)く
213国魂神(くにたまがみ)の竜世姫(たつよひめ)
214守(まも)らせ給(たま)へ惟神(かむながら)
215謹(つつし)み敬(うや)まひ願(ね)ぎ奉(まつ)る
216此(この)世(よ)を造(つく)り給(たま)ひたる
217国治立(くにはるたちの)大御神(おほみかみ)
218世人(よびと)を教(をし)へ諭(さと)しゆく
219瑞(みづ)の御霊(みたま)の大御神(おほみかみ)
220此(この)世(よ)の塵(ちり)を打(うち)払(はら)ふ
221科戸(しなど)の風(かぜ)や雨(あめ)となり
222雪(ゆき)ともなりて守(まも)ります
223貴(うづ)の力(ちから)を頼(たよ)りとし
224天(てん)にも地(ち)にも掛替(かけがへ)の
225なき垂乳根(たらちね)や妹(いもうと)を
226後(あと)に見(み)すてて出(い)でてゆく
227涙(なみだ)の雨(あめ)は袖(そで)に降(ふ)り
228眼(まなこ)はかすむ今日(けふ)の空(そら)
229恵(めぐ)ませ給(たま)へ惟神(かむながら)
230神(かみ)かけ念(ねん)じ奉(たてまつ)る』
231と歌(うた)ひつつ、232国照別(くにてるわけ)は先(さき)に立(た)ち、233浅公(あさこう)は杖(つゑ)を力(ちから)に足拍子(あしびやうし)を取(と)り乍(なが)ら、234九十九(つづら)曲(まが)りの石(いし)だらけの道(みち)を後(あと)に従(したが)ひ行(ゆ)く。
235浅公(あさこう)『ウントコドツコイ、アリナ山(やま)
236噂(うはさ)に聞(き)いたきつい阪(さか)
237いよいよ恋(こひ)しい珍(うづ)の国(くに)
238涙(なみだ)と共(とも)に立(たち)わかれ
239ウントコドツコイ危(あぶ)ないぞ
240石(いし)のゴラゴラする阪(さか)だ
241親方(おやかた)用心(ようじん)なさいませ
242一(いち)時(じ)も早(はや)く此(この)阪(さか)を
243無事(ぶじ)に下(くだ)つてウントコシヨ
244懸橋(かけはし)御殿(ごてん)にまゐ詣(まう)で
245足(あし)の疲(つか)れを休(やす)めませう
246鏡(かがみ)の池(いけ)とて名(な)の高(たか)い
247昔(むかし)の神(かみ)の霊跡(れいせき)が
248今(いま)に残(のこ)つてゐるといふ
249名所(めいしよ)を見(み)るのも今(いま)少時(しばし)
250あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
251何卒(なにとぞ)無事(ぶじ)に此(この)阪(さか)を
252親方(おやかた)さまと諸共(もろとも)に
253下(くだ)らせ給(たま)へ惟神(かむながら)
254御霊(みたま)の恩頼(ふゆ)を願(ね)ぎまつる
255旭(あさひ)もテルの国野原(くにのはら)
256向(むか)つておりゆく二人(ふたり)連(づ)れ
257若(も)しも国人(くにびと)吾(わが)姿(すがた)
258眺(なが)めて空(そら)から天人(てんにん)が
259降(くだ)つて来(き)たかと怪(あや)しんで
260いと珍(めづ)らしき穀物(たなつもの)
261八足(やたり)の机(つくゑ)におき並(なら)べ
262迎(むか)へてくれれば嬉(うれ)しいが
263ウントコドツコイ、アイタツタ
264メツタに左様(さやう)なうまい事(こと)
265あらうと思(おも)はぬボンの糞(くそ)
266雨露(うろ)凌(しの)がしてドツコイシヨ
267くれてもそれで満足(まんぞく)だ
268もうしもうし親分(おやぶん)よ
269俄(にはか)に霧(きり)が深(ふか)くなり
270一間先(いつけんさき)は靄(もや)の海(うみ)
271だんだん淋(さび)しうなつてくる
272一足(ひとあし)々々(ひとあし)阪路(さかみち)を
273降(くだ)る度(たび)毎(ごと)根(ね)の国(くに)や
274底(そこ)の国(くに)へと行(ゆ)く様(やう)な
275淋(さび)しい気分(きぶん)になつて来(き)た
276あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
277神(かみ)様(さま)宜(よろ)しく頼(たの)みます
278後(あと)へは返(かへ)さぬ男伊達(をとこだて)
279仮令(たとへ)命(いのち)はすつるとも
280思(おも)ひ立(た)つたる親分(おやぶん)の
281気象(きしやう)はいつかな怯(ひる)むまい
282俺(わつち)も此処(ここ)迄(まで)お伴(とも)して
283卑怯(ひけふ)未練(みれん)に引返(ひつかへ)す
284訳(わけ)にはゆかぬ男(をとこ)の意気地(いくぢ)
285斯(か)うなりやホンに侠客(けふかく)も
286ウントコドツコイ辛(つら)いもの
287旭(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
288月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも
289霧(きり)は山路(やまぢ)を包(つつ)むとも
290大蛇(をろち)の奴(やつ)が行先(ゆくさき)に
291道(みち)を塞(ふさ)いで攻(せ)め来(く)とも
292弱(よわ)きを扶(たす)け強(つよ)きをば
293挫(くじ)いて通(とほ)る男伊達(をとこだて)
294それを兼(かね)たる宣伝使(せんでんし)
295国照別(くにてるわけ)の珍(うづ)の御子(みこ)
296御供(みとも)に仕(つか)へた浅州(あさしう)は
297決(けつ)して決(けつ)してひるまない
298あゝ勇(いさ)ましや勇(いさ)ましや
299一足(ひとあし)々々(ひとあし)ウントコシヨ
300勝利(しようり)の都(みやこ)へ進(すす)み行(ゆ)く
301神(かみ)は吾(われ)等(ら)と共(とも)にあり
302親分(おやぶん)も吾(われ)等(ら)と共(とも)にあり
303吾(われ)等(ら)を守(まも)るは神(かみ)にまし
304吾(われ)等(ら)を守(まも)るは親分(おやぶん)だ
305又(また)親分(おやぶん)の身(み)の上(うへ)を
306守(まも)る真(まこと)の神(かみ)様(さま)は
307国治立(くにはるたちの)大御神(おほみかみ)
308次(つぎ)に乾児(こぶん)の浅州(あさしう)は
309朝(あさ)から晩(ばん)迄(まで)テクテクと
310御後(みあと)に従(したが)ひ進(すす)み行(ゆ)く
311どこを当(あて)とも白雲(しらくも)の
312山路(やまぢ)を別(わく)る旅(たび)の空(そら)
313実(げ)に面白(おもしろ)し勇(いさ)ましし
314あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
315御霊(みたま)幸(さち)はひましませよ
316ウントコドツコイ ドツコイシヨ
317ドツコイ ドツコイ ドツコイシヨ』
318とちぎれちぎれに山降(やまくだ)りの歌(うた)を唄(うた)ひ乍(なが)ら、319漸(やうや)くにして稍(やや)平坦(へいたん)な緩勾配(くわんこうばい)の阪道(さかみち)に着(つ)いた。320霧(きり)は益々(ますます)深(ふか)くして咫尺(しせき)を弁(べん)ぜず、321太陽(たいやう)は西天(せいてん)にかくれしと見(み)え、322暗(やみ)の帳(とばり)はチクチクと二人(ふたり)を包(つつ)んで来(き)た。323二人(ふたり)はやむを得(え)ず、324此処(ここ)に一夜(いちや)を明(あか)すこととなつた。325あゝ惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)。
326(大正一三・一・二四 旧一二・一二・一九 伊予 於山口氏邸、松村真澄録)
このページに誤字・脱字や表示乱れなどを見つけたら教えて下さい。
返信が必要な場合はメールでお送り下さい。【メールアドレス】
合言葉「みろく」を入力して下さい→