霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第六章 背水会(はいすいくわい)〔一七五一〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第69巻 山河草木 申の巻 篇:第1篇 清風涼雨 よみ(新仮名遣い):せいふうりょうう
章:第6章 背水会 よみ(新仮名遣い):はいすいかい 通し章番号:1751
口述日:1924(大正13)年01月22日(旧12月17日) 口述場所:伊予 山口氏邸 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1927(昭和2)年10月26日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
珍の城下に愛州(国愛別)は数百人の子分を集め、賭場を開帳しています。賭場の表看板には、世の風潮・施政を風刺した文句を金文字で大きく掲げてあります。
その看板を見て、一人の取締りが親分に会いたいとやってきます。取締りは、役頭の命令で風刺看板を取り下げさせにやってきたのでした。
応対に出た愛州の子分、照公は逆に、今の政治を批判し、取締り(佐吉)を仲間にしようと口説きます。佐吉は照公の言霊に打たれ、看板を取り下げさせに来たのがあべこべに侠客になってしまいます。
一方、大親分の愛州は二三人の幹部と共に、都の街頭に立って大演説を始めます。偽善・虚偽の生活を捨て、新しい思想に目覚めよ、と呼びかける愛州を、数十人の取締りが取り囲み、しょっ引かれます。愛州は城の牢獄に投げ込まれてしまいました。
大親分が囚われたと聞いた子分たちは手に手に武器を持って牢獄へ押しかけ、付近はたいへんな混乱・闘争が繰り広げられます。
そこへ現れたのは、馬に乗った春乃姫でした。春乃姫はまず、取締りたちを退散させ、侠客たちにも声をかけます。
子分の源州は、親分・愛州を返して欲しいと自分たちの願いを申し上げます。春乃姫は、十日の間にきっと愛州を開放すると約束します。子分たちはそれを聞いて春乃姫に感謝し、帰っていきますが、果たしてこの結果はどうなるでしょうか。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2026-10-06 17:53:37 文字数:4743 OBC :rm6906
愛善世界社版:91頁 八幡書店版:第12輯 305頁 修補版: 校定版:94頁 普及版:66頁 初版: ページ備考:
001 珍(うづ)の城下(じやうか)深溝町(ふかみぞちやう)の俥帳場(くるまちやうば)に、002車夫(しやふ)と化(ば)け込(こ)んでゐた国愛別(くにちかわけ)の愛州(あいしう)は、003取締(とりしまり)上(あが)りの幾公(いくこう)と共(とも)に、004横小路(よここうぢ)に可(か)なり広(ひろ)い邸宅(ていたく)を借(かり)受(う)け、005賭場(とば)を開帳(かいちやう)してゐた。006数百(すうひやく)人(にん)の乾児(こぶん)は忽(たちま)ち集(あつ)まり来(きた)り、007親分(おやぶん)々々(おやぶん)と尊敬(そんけい)し、008親分(おやぶん)の命令(めいれい)とあらば生命(せいめい)を鴻毛(こうまう)よりも軽(かろ)んじ、009如何(いか)なる事(こと)にも善悪(ぜんあく)共(とも)に其(その)頤使(いし)に甘(あま)んじ、010難(なん)に殉(じゆん)ずるを以(もつ)て、011乾児(こぶん)たる者(もの)の光栄(くわうえい)としてゐた。012愛州(あいしう)は普通(ふつう)の侠客(けふかく)とは違(ちが)つて、013元(もと)がヒルの国(くに)楓別(かへでわけ)の国司(こくし)の悴(せがれ)丈(だけ)あつて、014何処(どこ)とも無(な)く気品(きひん)が高(たか)く、015且(かつ)豪胆(がうたん)にして少(すこ)しも物(もの)に動(どう)ぜず、016一旦(いつたん)頼(たの)まれた事(こと)は決(けつ)して厭(いや)と云(い)はなかつた侠客(をとこだて)である。017世(よ)の中(なか)の一般(いつぱん)の行(や)り方(かた)が癪(しやく)に障(さは)つて堪(たま)らぬので、018遙々(はるばる)遠(とほ)き山阪(やまさか)を越(こ)え、019尊貴(そんき)の身(み)を捨(す)てて、020珍(うづ)の都(みやこ)迄(まで)やつて来(き)たのである。
021 生(うま)れついての皮肉家(ひにくや)で、022世(よ)の中(なか)を革正(かくせい)する為(ため)とて、023内面(ないめん)には博奕(ばくち)を渡世(とせい)となし、024表看板(おもてかんばん)には万(よろづ)案内所(あんないしよ)と云(い)ふ看板(かんばん)を金文字(きんもじ)で現(あら)はしてゐた。
 
025『一、026因循(いんじゆん)姑息(こそく)お望(のぞみ)の方(かた)は027最寄(もより)の取締所(とりしまりしよ)へお出(い)で下(くだ)され度(たく)候(さふらふ)
028一、029頑迷(ぐわんめい)無恥(むち)お望(のぞみ)の方(かた)は、030世(よ)悉(ことごと)く濁(にご)る吾(われ)独(ひと)り澄(す)むと自惚(うぬぼ)れてゐる梨田(なしだ)ドラック氏(し)へお訪(たづ)ね下(くだ)され度(たく)候(さふらふ)
031一、032喧嘩(けんくわ)乱暴(らんぼう)お望(のぞみ)の方(かた)は033惑酔会(わくすゐくわい)へお訪(たづ)ね下(くだ)され度(たく)候(さふらふ)。034又(また)口先(くちさき)計(ばか)りの自称(じしよう)対命舎(たいめいしや)及(および)政党屋(せいたうや)をお訪(たづ)ね下(くだ)され度(たく)候(さふらふ)
035一、036不親切(ふしんせつ)お望(のぞみ)の方(かた)は037口実(こうじつ)職業(しよくげふ)紹介所(せうかいしよ)へお訪(たづ)ね下(くだ)され度(たく)候(さふらふ)
038一、039多角(たかく)関係(くわんけい)お望(のぞみ)の方(かた)は040妃向国(ひむかのくに)の新(あたら)しき村(むら)へお出(い)で相成(あひなり)度(たく)候(さふらふ)
041一、042偽善(ぎぜん)生活(せいくわつ)お望(のぞみ)の方(かた)は043一度(いちど)花(はな)の都(みやこ)の一灯園(いつとうゑん)東田(ひがしだ)地香(ちかう)氏(し)方(かた)をお訪(たづ)ね下(くだ)され度(たく)候(さふらふ)。044併(しか)し乍(なが)ら同氏(どうし)に対(たい)し、045少(すこ)しにても利益(りえき)を与(あた)ふる掛合(かけあひ)ならば極(きは)めて親切(しんせつ)に取扱(とりあつか)ひくれ候(さふらふ)
046一、047山子(やまこ)欺(だまし)お望(のぞみ)の方(かた)は048変態(へんたい)愛国者(あいこくしや)苦糟(にがかす)大異(たいい)へお訪(たづ)ね下(くだ)され度(たく)候(さふらふ)。049但(ただ)し畸形(きけい)的(てき)愛国者(あいこくしや)に限(かぎ)り申候事(まうしさふらふこと)
050一、051没常識(ぼつじやうしき)お望(のぞみ)の方(かた)は052珍(うづ)の都(みやこ)の四(よ)ツ辻(つじ)便所(べんじよ)へお出(い)で下(くだ)され度(たく)候(さふらふ)
053一、054金儲(かねまうけ)お望(のぞみ)の方(かた)は055富人(ふじん)世界(せかい)雑誌社(ざつししや)並(ならび)に心零(しんれい)犬灸会(けんきうくわい)同人(どうにん)へお訪(たづ)ね下(くだ)され度(たく)候(さふらふ)
056一、057厚顔(こうがん)無恥(むち)お望(のぞみ)の方(かた)は058新聞(しんぶん)ゴロ及(および)労働(らうどう)ブローカーへお訪(たづ)ね下(くだ)され度(たく)候(さふらふ)
059一、060時代(じだい)錯誤(さくご)お望(のぞみ)の方(かた)は061石火(せきくわ)暴死団(ばうしだん)へお訪(たづ)ね有之(これあり)度(たく)候(さふらふ)
062一、063其(その)他(た)何事(なにごと)に仍(よ)らず矛盾(むじゆん)と誤解(ごかい)と虚偽(きよぎ)と偽善(ぎぜん)とお望(のぞみ)の方(かた)は064嘔吐(へど)白住持社(はくぢうぢしや)へお訪(たづ)ね下(くだ)され度(たく)候(さふらふ)
065一、066公平社(こうへいしや)と争論(さうろん)希望(きばう)の方(かた)は067惑酔会(わくすゐくわい)へお訪(たづ)ね下(くだ)され度(たく)候(さふらふ)』
 
068と云(い)ふ様(やう)な大(おほ)きな看板(かんばん)を掲(かか)げて、069往来(わうらい)の人(ひと)の足(あし)を止(と)めてゐた。070其処(そこ)へ面(かほ)を顰(しか)めて、071十手(じつて)を下(さ)げてやつて来(き)た一人(ひとり)の取締(とりしまり)がある。
072取締(とりしまり)『コリヤコリヤ073当家(たうけ)の主人(しゆじん)は居(を)るか』
074 門口(かどぐち)を掃(は)いて居(ゐ)た乾児(こぶん)の八公(はちこう)は取締(とりしまり)の姿(すがた)を見(み)て、
075八公『ハイ、076親分(おやぶん)は奥(おく)に居(を)られますが、077滅多(めつた)に博奕(ばくち)は打(う)つて居(を)りやせぬから、078何卒(どうぞ)帰(かへ)つて下(くだ)つせい』
079取締(とりしまり)『イヤ、080博奕(ばくち)は今(いま)打(う)つて居(ゐ)なくても、081拘引(こういん)せうと思(おも)へば何時(いつ)でも拘引(こういん)出来(でき)るのだ。082新刑法(しんけいはふ)に仍(よ)つて賭博(とばく)常習(じやうしふ)犯人(はんにん)とブラツクリストについて居(ゐ)るのだから、083非(ひ)現行犯(げんかうはん)で引張(ひつぱ)つてやらうかな』
084八公『ヘーン、085そんな細(ほそ)い体(からだ)をして、086キラキラ光(ひか)る物(もの)をブラつかせ威喝(ゐかつ)したつて駄目(だめ)でい。087そんなことに驚(おどろ)く親分(おやぶん)だ厶(ござ)いやせぬ哩(わい)。088わつち達(たち)の仲間(なかま)は一遍(いつぺん)でも余計(よけい)芸務所(げいむしよ)の門(もん)を潜(くぐ)つたら顔(かほ)が好(よ)う成(な)るのでげすから、089マア奥(おく)へ這入(はい)りなさい。090卑怯(ひけう)未練(みれん)に逃(に)げる様(やう)な侠客(けふかく)ア一人(ひとり)も居(を)りませぬよ。091横町(よこちやう)の蜈蚣(むかで)の権太(ごんた)の親分(おやぶん)の様(やう)に、092取締(とりしまり)が来(き)たと云(い)ふて二階(にかい)から飛(とび)出(だ)し、093脛(すね)を折(を)つたり、094腕(うで)を折(を)つたりして、095取(と)つ捉(つか)まる様(やう)なヘマなこたア致(いた)しやせぬ』
096取締(とりしまり)『汝(きさま)では訳(わけ)が分(わか)らぬ、097親分(おやぶん)を此処(ここ)へ呼(よ)んで来(こ)い』
098八(はち)『ヘン、099吾々(われわれ)に取(と)つては神(かみ)様(さま)同様(どうやう)に、100命(いのち)迄(まで)捧(ささ)げて仕(つか)へてる親分(おやぶん)、101さう易々(やすやす)動(うご)かす訳(わけ)には行(ゆ)きやせぬ哩(わい)。102愚図(ぐづ)ぐづして居(ゐ)ると、103お前(まへ)さま、104笠(かさ)の台(だい)が無(な)くなりますよ。105早(はや)く御(お)帰(かへ)りなさい』
106 斯(か)く話(はな)して居(ゐ)る所(ところ)へ、107奥(おく)から兄貴分(あにきぶん)の照公(てるこう)が二三(にさん)人(にん)の兄弟分(きやうだいぶん)と共(とも)に現(あら)はれ来(きた)り、
108照(てる)『ナヽ何(なん)だ何(なん)だ』
109八(はち)『兄貴(あにき)、110今(いま)此(この)取締(とりしまり)先生(せんせい)が、111ゲン糞(くそ)の悪(わる)い112朝(あさ)つぱらからやつて来(き)て、113グヅグヅ云(い)つてるのだ。114俺(おら)昨晩(ゆうべ)負(ま)けて来(き)て、115今日(けふ)はムカついて堪(たま)らないのに、116グヅグヅ吐(ぬ)かすんだもの、117癪(しやく)に障(さは)つて仕方(しかた)がねいんだ。118早(はや)くボツ帰(かへ)して呉(く)れないかね』
119照(てる)『ヘー、120わつちや、121愛州(あいしう)の乾児(こぶん)でげして、122照公(てるこう)と申(まを)し、123チツタア、124珍(うづ)の都(みやこ)で名(な)を知(し)られた、125ケチな野郎(やらう)でげす。126どうかお見知(みし)りおかれまして、127可愛(かあい)がつて下(くだ)せい。128侠客(けふかく)渡世(とせい)はして居(を)りましても、129面(つら)にも似合(にあ)はねえ優(やさ)しい男(をとこ)でげすよ。130八公(はちこう)がどんな無礼(ぶれい)なことを申(まを)しやしたか知(し)りやせぬが、131如何(どう)かわつちの面(つら)に免(めん)じて許(ゆる)してやつて下(くだ)つせえ。132そして今日(けふ)お出(いで)になつたのは何(なん)の御用(ごよう)でげすかなア』
133取締(とりしまり)『外(ほか)でもない、134役頭(やくがしら)の命令(めいれい)に依(よ)つて、135当家(たうけ)の看板(かんばん)を撤回(てつくわい)させに来(き)たのだ。136不穏(ふおん)文書(ぶんしよ)を張出(はりだ)し、137怪(け)しからぬと云(い)ふので、138誰(たれ)か訳(わけ)の分(わか)る男(をとこ)に屯所(とんしよ)迄(まで)来(き)て貰(もら)ひたいのだ。139そして一(いち)時(じ)も早(はや)く本漢(ほんかん)の目(め)の前(まへ)で引落(ひきおと)し、140片付(かたづ)けて了(しま)ひ、141人心(じんしん)悪化(あくくわ)の極(きよく)に達(たつ)した今日(こんにち)、142斯様(かやう)な看板(かんばん)を掲載(けいさい)されたら、143取締所(とりしまりしよ)として黙過(もくくわ)する訳(わけ)にや行(ゆ)かない。144サ、145早(はや)くお神(かみ)の命令(めいれい)だ、146撤回(てつくわい)しろ』
147照(てる)『何(なん)の御用(ごよう)かと思(おも)へば、148わつちの商売(しやうばい)の看板(かんばん)を除(と)れと仰有(おつしや)るのですか、149ソリヤなりませぬ』
150取締(とりしまり)『お神(かみ)の許可(きよか)を受(う)けた上(うへ)で、151掲揚(けいやう)するならしても可(よ)からう。152兎(と)も角(かく)速(すみやか)に下(お)ろしたが可(よ)からう』
153照(てる)『あゝ、154コリヤわつちんとこの親分(おやぶん)の商売(しやうばい)でげすから、155商売(しやうばい)の妨害(ばうがい)迄(まで)は、156何(なに)程(ほど)取締権(とりしまりけん)が絶対(ぜつたい)だと云(い)つても、157其処(そこ)迄(まで)の干渉(かんせう)は出来(でき)ますまい。158断(だん)じて撤廃(てつぱい)は致(いた)しませぬ。159抑(そもそ)も此(この)案内(あんない)の看板(かんばん)に書(か)いてあることは少(すこ)しも虚偽(きよぎ)はありませぬ。160事実(じじつ)有(あ)りの儘(まま)の事(こと)が記(しる)してあるのですから、161別(べつ)に詐欺(さぎ)でもなければ悪事(あくじ)でもありますまい。162事実(じじつ)のことをやつて居(を)るのが悪(わる)いのですか。163こんな小(ちひ)さいことを咎(とが)めるよりも、164モツト大(おほ)きい泥棒(どろばう)をお調(しら)べなさいやせ。165何十万(なんじふまん)円(ゑん)166何百万(なんびやくまん)円(ゑん)と云(い)ふ大泥棒(おほどろばう)が、167玩具(おもちや)をピカつかせて、168都大路(みやこおほぢ)を横行(わうかう)濶歩(くわつぽ)してるのが、169貴方(あなた)達(がた)のお目(め)につきませぬか。170自分(じぶん)の金(かね)で自分(じぶん)が勝負(しようぶ)してるのに、171賭博犯(とばくはん)だと云(い)つて、172拘引(こういん)したり、173牢(らう)へ打(ぶ)ち込(こ)んだり、174そんな末(すゑ)の末(すゑ)の問題(もんだい)に頭(あたま)を悩(なや)ますより、175法(はふ)の権威(けんゐ)を極端(きよくたん)に発揮(はつき)し、176天下(てんか)の大道(だいだう)を白昼(はくちう)に横行(わうかう)してる大泥棒(おほどろばう)を挙(あ)げなさい。177何(なに)程(ほど)其(その)方(はう)が国家(こくか)の為(ため)だか知(し)れやせぬよ。178お前(まへ)さまも僅(わづ)かな月給(げつきふ)でチボの後(あと)を追(お)ひかけたり、179門(かど)で片肌(かたはだ)脱(ぬ)いだり小便(せうべん)こいてる人間(にんげん)を叱(しか)り飛(と)ばしてるよりも、180どうだい、181俺(おれ)達(たち)の仲間(なかま)へ這入(はい)つて、182一生(いつしやう)を面白(おもしろ)う可笑(をか)しく快活(くわいくわつ)に暮(くら)したら、183可(い)いでせう、184どうでげす』
185取締(とりしまり)『生活(せいくわつ)の道(みち)は保証(ほしよう)して呉(く)れるだらうな』
186照(てる)『宅(うち)の親分(おやぶん)は頼(たの)むと云(い)はれて、187後(あと)へ引(ひ)く様(やう)な安(やす)つぽい腰抜(こしぬけ)男(をとこ)とは違(ちが)ひやす。188サアサア合羽(かつぱ)を脱(ぬ)いだり脱(ぬ)いだり、189ヤ、190男(をとこ)は決心(けつしん)が第一(だいいち)だ。191斯(か)うやつて出(で)て来(く)る取締(とりしまり)を片(かた)つ端(ぱし)から乾児(こぶん)にし、192珍(うづ)の都(みやこ)に取締(とりしまり)が一人(ひとり)も無(な)い所(とこ)迄(まで)やつてやらうと云(い)ふ、193背水会(はいすいくわい)の主義(しゆぎ)綱領(かうりやう)だ』
194取締(とりしまり)『イヤ、195モウ君(きみ)等(たち)に掛(かか)つたら命武者(いのちむしや)だから仕方(しかた)がない。196そんなら僕(ぼく)も、197女房(にようばう)があるでなし、198何時(いつ)雄(おん)とか雌(めん)とかを貰(もら)ふか分(わか)らぬのだから、199安全(あんぜん)地帯(ちたい)の親分(おやぶん)の膝下(しつか)に跪(ひざまづ)くことにせうかな』
200照(てる)『ヨーシ、201呑(のみ)込(こ)んだ。202直接(ちよくせつ)の親分(おやぶん)の乾児(こぶん)にはなれぬぞ。203俺(おれ)の直参(ぢきさん)だ。204俺(おれ)の上(うへ)には又(また)兄貴(あにき)がある。205其(その)兄貴(あにき)の兄貴(あにき)の兄貴(あにき)の親分(おやぶん)が大親分(おほおやぶん)だ。206先(ま)づ軍隊(ぐんたい)で云(い)へば、207俺(おれ)は少佐(せうさ)位(ぐらゐ)な者(もの)だから、208さう思(おも)うて俺(おれ)の云(い)ふことを聞(き)くのだぞ。209其(その)代(かは)りに三日(みつか)も飯(めし)を食(く)はぬと居(を)らうとママだし、210寒(かん)の中(うち)裸(はだか)で慄(ふる)はうとママだし、211アイサに拳骨(げんこつ)を二(ふた)つや三(み)つ喰(く)はされようとママだから、212マアさうして胆力(たんりよく)を練(ね)るのだなア、213アツハヽヽヽ』
214取締(とりしまり)『ウツフツフヽ』
215 取締(とりしまり)の名(な)は佐吉(さきち)と云(い)つた。216到頭(たうとう)照公(てるこう)の言霊(ことたま)に打(うち)捲(まく)られて、217取締(とりしまり)から侠客(けふかく)社会(しやくわい)へ背進(はいしん)して了(しま)つた。
218 大親分(おほおやぶん)の愛州(あいしう)は二三(にさん)の幹部(かんぶ)を伴(ともな)ひ、219裏口(うらぐち)からソツと脱(ぬ)け出(い)で珍(うづ)の都(みやこ)の十字(じふじ)街頭(がいとう)に立(た)ちつつ呶鳴(どな)り始(はじ)めた。220群衆(ぐんしう)は喧嘩(けんくわ)だ、221狂人(きやうじん)だ、222大事件(だいじけん)の突発(とつぱつ)だと口々(くちぐち)に呼(よば)はり乍(なが)ら、223蟻(あり)の如(ごと)くに愛州(あいしう)の周囲(しうゐ)を取捲(とりま)いた。224愛州(あいしう)は手近(てぢか)にあつた饂飩屋(うどんや)の牀几(しやうぎ)[※「牀几(しょうぎ)」とは腰掛けのこと。]を無断(むだん)で道路(だうろ)の真中(まんなか)に引(ひ)つ張(ぱり)出(だ)し、225其(その)上(うへ)に直立(ちよくりつ)して雷声(らいせい)を張(は)り上(あ)げ、
226愛州『珍(うづ)の国(くに)を守(まも)ると云(い)ふ武士(ぶし)達(たち)よ。227汝(なんぢ)の自己愛(じこあい)的(てき)なる厳(いか)めしき鎧甲(よろひかぶと)を脱(ぬ)げ。228排他(はいた)と猜疑(さいぎ)と狡猾(かうくわつ)と無恥(むち)とに飾(かざ)られた宗教家(しうけうか)よ、229汝(なんぢ)の着(ちやく)する法衣(はふい)を脱(ぬ)げ。230政治家(せいぢか)も教育家(けういくか)も一般(いつぱん)衆生(しゆじやう)も、231汝(なんぢ)が朝夕(てうせき)身(み)に纏(まと)へる虚偽(きよぎ)と虚礼(きよれい)と虚飾(きよしよく)の衣服(いふく)を脱(ぬ)げ。232更始(かうし)革新(かくしん)の今日(こんにち)、233一切(いつさい)の旧衣(きうい)を捨(す)て、234新(あた)らしき愛(あい)と真(しん)との浄衣(じやうい)と着替(きか)へよ。235汝(なんぢ)等(ら)の纏(まと)へる旧衣(きうい)に、236旧(ふる)き思想(しさう)と矛盾(むじゆん)の蚤(のみ)が巣(す)ぐつて居(ゐ)る。237偽善(ぎぜん)的(てき)精神(せいしん)や奴隷(どれい)的(てき)根性(こんじやう)の蛆虫(うじむし)が蔓(はびこ)つて居(ゐ)るぞ。238汝(なんぢ)等(ら)は斯(かく)の如(ごと)き弊衣(へいい)を脱(ぬ)がない限(かぎ)り、239汝(なんぢ)等(ら)の生活(せいくわつ)は虚偽(きよぎ)の生活(せいくわつ)だ、240真(まこと)の人間(にんげん)生活(せいくわつ)では無(な)いぞ。241人間(にんげん)として242人間(にんげん)の生活(せいくわつ)の出来(でき)ない位(くらゐ)詰(つま)らぬものは無(な)からうぞ。243一(いち)時(じ)も早(はや)く眼(め)を覚(さま)せよ。244一(いち)時(じ)も早(はや)く新(あた)らしき浄衣(じやうい)と着(き)かへて真実(しんじつ)の人間(にんげん)生活(せいくわつ)に入(い)れよ。245この浄衣(じやうい)には人間(にんげん)生活(せいくわつ)に必要(ひつえう)なる新思想(しんしさう)の光明(くわうみやう)が燦然(さんぜん)として輝(かがや)いて居(ゐ)るぞ。246芳(かん)ばしき蘭麝(らんじや)の香(か)が充(み)ちて居(ゐ)るぞ。247何(なに)を愚図(ぐづ)々々(ぐづ)躊躇(ちうちよ)するか。248万々一(まんまんいち)この更衣(かうい)の神業(しんげふ)に妨害(ばうがい)するものあらば、249汝(なんぢ)等(ら)の仇敵(きうてき)として其奴(そいつ)を倒(たふ)せ。250然(しか)らずんば汝(なんぢ)等(ら)は自(みづか)ら着(ちやく)せる旧衣(きうい)の為(ため)に自滅(じめつ)の厄難(やくなん)に遭(あ)ふであらう。251此(この)目的(もくてき)を貫徹(くわんてつ)するには、252何人(なにびと)も背水(はいすい)の陣(ぢん)を張(は)つてかかれ。253是(これ)位(くらゐ)の事(こと)が出来(でき)ぬ様(やう)では、254人間(にんげん)としての価値(かち)は絶無(ぜつむ)だ。255体(てい)能(よ)く人間(にんげん)を廃業(はいげふ)したが良(よ)からう。256僕(ぼく)は背水会(はいすいくわい)の会長(くわいちやう)泥池(どろいけ)の蓮公(はすこう)さまだ。257権門(けんもん)勢家(せいか)に尾(を)を掉(ふ)るな。258金銀(きんぎん)に腰(こし)を屈(くつ)するな。259時代(じだい)は浸々乎(しんしんこ)として潮(うしほ)の如(ごと)く急速(きふそく)に流(なが)れて居(ゐ)るぞ。260珍(うづ)の国(くに)の衆生(しゆじやう)は文明(ぶんめい)の世界(せかい)に於(お)ける落伍者(らくごしや)を以(もつ)て甘(あま)んずるものでは無(な)からう。261畏(かしこ)くも神(かむ)素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)の子孫(しそん)の神臨(しんりん)し玉(たま)ふ光輝(くわうき)ある歴史(れきし)を持(も)つた国民(こくみん)では無(な)いか。262豪毅(がうき)と果断(くわだん)とは汝(なんぢ)等(ら)祖先(そせん)以来(いらい)の特性(とくせい)ではないか。263時(とき)は今(いま)なり、264時(とき)は今(いま)なり、265三千万(さんぜんまん)の同胞(どうはう)266背水会(はいすいくわい)の宣言(せんげん)綱領(かうりやう)に眼(め)を覚(さ)ませ』
267と滔々(たうたう)として傍若(ばうじやく)無人(ぶじん)的(てき)に演説(えんぜつ)する時(とき)しも、268数十(すうじふ)人(にん)の取締(とりしまり)は前後(ぜんご)左右(さいう)より襲来(しふらい)して愛州(あいしう)を引摺(ひきず)り落(お)とした。269群衆(ぐんしう)はワアイワアイと動揺(どよ)めき立(た)ち、270衆生(しゆじやう)と取締(とりしまり)との血迷(ちまよ)ひ騒(さわ)ぎが各所(かくしよ)に演(えん)ぜられた。
271 愛州(あいしう)は幸(かう)か不幸(ふかう)か、272数十(すうじふ)人(にん)の取締(とりしまり)に取巻(とりま)かれ、273高手(たかて)小手(こて)に縛(しば)り上(あ)げられ、274ボロ自動車(じどうしや)に乗(の)せられて、275珍(うづ)の城下(じやうか)の暗(くら)い牢獄(らうごく)へ投込(なげこ)まれて了(しま)つた。276数多(あまた)の乾児(こぶん)共(ども)は此(この)話(はなし)を聞(き)くより、277躍気(やくき)となり、278列(れつ)を作(つく)つて赤襷(あかだすき)に赤鉢巻(あかはちまき)をし乍(なが)ら、279棍棒(こんぼう)、280竹槍(たけやり)、281薙刀(なぎなた)、282水鉄砲(みづてつぱう)等(など)を携(たづさ)へ、283牢獄(らうごく)めがけて潮(うしほ)の如(ごと)く押(おし)寄(よ)せ、284忽(たちま)ち附近(ふきん)は修羅(しゆら)の巷(ちまた)と化(くわ)して了(しま)つた。285取締(とりしまり)は逐々(おひおひ)繰出(くりだ)す。286時々(じじ)刻々(こくこく)に侠客(けふかく)の連中(れんちう)は得物(えもの)を持(も)つて蝟集(ゐしふ)し来(きた)る。287一方(いつぱう)に百(ひやく)人(にん)殖(ふ)ゆれば一方(いつぱう)に百(ひやく)人(にん)殖(ふ)ゆるといふ有様(ありさま)で、288人(ひと)を以(もつ)て附近(ふきん)の広場(ひろば)は埋(うづ)められた。289そこへ弥次馬(やじうま)が侠客(けふかく)の声援(せいゑん)をなすべく、290面白(おもしろ)半分(はんぶん)にやつて来(き)て、291後(うしろ)の方(はう)から石(いし)を投(な)げる。292忽(たちま)ち大混乱(だいこんらん)大争闘(だいそうとう)の幕(まく)がおりた。293そこへ兄(あに)の在所(ありか)を尋(たづ)ねてゐた春乃姫(はるのひめ)は、294葦毛(あしげ)の馬(うま)に鞭(むちう)ち、295此(この)場(ば)にかけ来(きた)り群集(ぐんしふ)の騒(さわ)ぐのを見(み)て、296まつしぐらにかけ入(い)り、297馬上(ばじやう)につつ立(た)ち乍(なが)ら、
298春乃(はるの)『双方(さうはう)共(とも)、299解散(かいさん)せよ』
300と優(やさ)しい涼(すず)しいカン声(ごゑ)で呼(よば)はつた。301数多(あまた)の取締(とりしまり)は春乃姫(はるのひめ)の姿(すがた)を見(み)て、302抗弁(かうべん)する訳(わけ)にもゆかず、303唯々(いい)諾々(だくだく)として一人(ひとり)も残(のこ)らず根拠地(こんきよち)へ引上(ひきあ)げて了(しま)つた。304跡(あと)にワイワイと鬨(とき)の声(こゑ)をあげて、305侠客(けふかく)の乾児(こぶん)連(れん)や弥次馬(やじうま)がドヨメキ立(た)つてゐる。306春乃姫(はるのひめ)は一同(いちどう)に向(むか)ひ、
307春乃姫『如何(いか)なる間違(まちがひ)か知(し)らぬが、308妾(わらは)がキツとあとを聞(き)いてあげるから、309一先(ひとま)づお退(ひ)きなさい』
310 乾児(こぶん)の源州(げんしう)は恐(おそ)る恐(おそ)る前(まへ)に現(あら)はれ、
311源州『今日(こんにち)の場合(ばあひ)となつては、312後(あと)へひくことは出来(でき)ませぬが、313国司(こくし)様(さま)のお姫(ひ)い様(さま)のお言葉(ことば)を畏(かしこ)み、314一先(ひとま)づ此(こ)の場(ば)は退却(たいきやく)致(いた)します。315私(わたし)は珍(うづ)の都(みやこ)の侠客(けふかく)愛州(あいしう)の身内(みうち)の者(もの)、316親分(おやぶん)愛州(あいしう)が取締(とりしまり)の為(ため)に捕(とら)へられ牢獄(らうごく)に投(とう)ぜられましたので、317之(これ)を取返(とりかへ)さむと乾児(こぶん)共(ども)が押寄(おしよ)せました所(ところ)で厶(ござ)います。318何分(なにぶん)宜(よろ)しくお願(ねがひ)申(まを)しやす』
319春乃(はるの)『あゝさうであつたか。320親分(おやぶん)一人(ひとり)の為(ため)に、321数多(あまた)の乾児(こぶん)が命(いのち)をすてて救(すくひ)に来(き)たのか、322ヤ感心(かんしん)だ。323人間(にんげん)はさうなくてはならぬ。324併(しか)し乍(なが)ら窮屈(きうくつ)な法規(はふき)が布(し)かれてある法治国(はふちこく)だから、325妾(わらは)の自由(じいう)にさう着々(ちやくちやく)と解放(かいはう)する訳(わけ)にはゆかぬ。326併(しか)し乍(なが)ら妾(わらは)が仲裁(ちうさい)に這入(はい)つた以上(いじやう)は、327キツト汝(なんぢ)等(ら)の親分(おやぶん)を救(すく)ひ出(だ)し無事(ぶじ)に渡(わた)すであらう。328先(ま)づ安心(あんしん)して引取(ひきと)つて下(くだ)さい。329今(いま)すぐといふ訳(わけ)にもゆくまいが、330今後(こんご)十日(とをか)の間(あひだ)にはキツト助(たす)けてやる程(ほど)に、331妾(わらは)の言葉(ことば)を信用(しんよう)して早(はや)くお退(ひ)きなさい』
332 源州(げんしう)は有難(ありがた)涙(なみだ)にくれ乍(なが)ら、
333源州『何分(なにぶん)宜(よろ)しくお願(ねがひ)申(まをし)ます』
334と幾度(いくど)も頭(あたま)も下(さ)げ、335数多(あまた)の乾児(こぶん)を引(ひき)つれて、336横小路(よここうぢ)の親分(おやぶん)館(やかた)へと帰(かへ)つて行(ゆ)く。337あゝ此(この)結果(けつくわ)は如何(いか)に落着(らくちやく)するであらうか。
338(大正一三・一・二二 旧一二・一二・一七 伊予 於山口氏邸、松村真澄録)
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