霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
×
設定
URL:
印刷用画面を開く [?]プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。[×閉じる]
話者名の追加表示 [?]セリフの前に話者名が記していない場合、誰がしゃべっているセリフなのか分からなくなってしまう場合があります。底本にはありませんが、話者名を追加して表示します。[×閉じる]
表示できる章
テキストのタイプ [?]ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。[×閉じる]

文字サイズ
行間
ルビの表示


アンカーの表示 [?]本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。[×閉じる]


宣伝歌 [?]宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。[×閉じる]
脚注[※]用語解説 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

脚注[*]編集用 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

外字の外周色 [?]一般のフォントに存在しない文字は専用の外字フォントを使用しています。目立つようにその文字の外周の色を変えます。[×閉じる]
現在のページには外字は使われていません

表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。

第七章 聖子(せいし)〔一七五二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第69巻 山河草木 申の巻 篇:第2篇 愛国の至情 よみ(新仮名遣い):あいこくのしじょう
章:第7章 聖子 よみ(新仮名遣い):せいし 通し章番号:1752
口述日:1924(大正13)年01月23日(旧12月18日) 口述場所:伊予 山口氏邸 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1927(昭和2)年10月26日
概要: 舞台:高砂城 あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
進歩派の老中・岩治別が、守旧派の追及を逃れて城を飛び出して以来、社会の不安が増し、世の中の立替が起こるとの流言が飛び交い、容易ならぬ雰囲気になってきた。
実は岩治別は侠客・愛州のもとに潜んでいた。
さて、高砂城内では、世継の国照別が城を飛び出し、行方をくらましてしまった件について、協議がなされていた。
結論:監督責任のあった老中伊佐彦、松若彦は今回の件おとがめなし、そして、国照別の代わりに妹の春乃姫を世継に立てる。
ただし、春乃姫は世継になるにあたって、城の出入りの自由、結婚相手選択の自由、進退の自由、老中任免権、を要求する。老中もしぶしぶこれを認めざるをえなかった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2026-10-07 16:29:21 文字数:5553 OBC :rm6907
愛善世界社版:105頁 八幡書店版:第12輯 311頁 修補版: 校定版:109頁 普及版:66頁 初版: ページ備考:
001 珍(うづ)の都(みやこ)高砂(たかさご)城内(じやうない)に於(おい)て、002進歩(しんぽ)老中(らうぢう)或(あるひ)は投槍(なげやり)老中(らうぢう)と仇名(あだな)を取(と)つてゐた岩治別(いははるわけ)が、003風(かぜ)を喰(くら)つて何処(いづこ)ともなく姿(すがた)を隠(かく)せしより、004彼(かれ)は何事(なにごと)か大望(たいまう)を画策(くわくさく)し、005酒偽者(しゆぎしや)と語(かた)らひ捲土(けんど)重来(ぢうらい)して、006一挙(いつきよ)に松若彦(まつわかひこ)、007伊佐彦(いさひこ)両老(りやうらう)を引退(いんたい)させ、008珍(うづ)の天地(てんち)の空気(くうき)を一掃(いつさう)し、009再(ふたた)び正鹿(まさか)山津見(やまづみの)神(かみ)の聖代(せいだい)に世(よ)が立直(たてなほ)るならむと、010種々(しゆじゆ)の流言(りうげん)蜚語(ひご)が盛(さかん)に行(おこな)はれ、011人心(じんしん)恟々(きようきよう)として安(やす)からず、012よるとさはると、013どこの大路(おほぢ)も、014裏町(うらまち)も、015長屋(ながや)の嬶(かかあ)連(れん)が井戸端(ゐどばた)会議(くわいぎ)にも喧伝(けんでん)さるる様(やう)になつて来(き)た。016松若彦(まつわかひこ)は事態(じたい)容易(ようい)ならずとして、017老衰(らうすゐ)の身(み)を起(おこ)し、018賢平(けんぺい)や取締(とりしまり)などを市中(しちう)隈(くま)なく配置(はいち)し、019或(あるひ)は私服(しふく)取締(とりしまり)を辻々(つじつじ)に横行(わうかう)せしめ、020怪(あや)しき言(げん)をなす者(もの)は片(かた)つ端(ぱし)から検挙(けんきよ)せしめ、021夜中(やちう)になれば恐(おそ)れて一人(ひとり)も外出(ぐわいしゆつ)する者(もの)なく、022さしも繁華(はんくわ)な都大路(みやこおほぢ)は曠野(くわうや)の観(くわん)を呈(てい)し、023火(ひ)の消(き)えたる如(ごと)く淋(さび)しくなつて来(き)た。
024 岩治別(いははるわけ)は其(その)実(じつ)岩公(いはこう)と名(な)を変(へん)じ、025侠客(けふかく)の愛州(あいしう)が館(やかた)の奥(おく)深(ふか)く普通(ふつう)の侠客(けふかく)となつて住(す)み込(こ)んでゐた。026命知(いのちし)らずの若者(わかもの)許(ばか)り数百(すうひやく)人(にん)、027蜂(はち)の巣(す)の如(ごと)く固(かた)まつてゐるので、028流石(さすが)の賢平(けんぺい)も取締(とりしまり)も此(この)館(やかた)のみは一指(いつし)を染(そ)むる事(こと)だも躊躇(ちうちよ)してゐたのである。029愛州(あいしう)親分(おやぶん)は岩公(いはこう)の岩治別(いははるわけ)老中(らうぢう)なることは当人(たうにん)の懇請(こんせい)に仍(よ)つて、030万事(ばんじ)呑込(のみこ)んでゐたが、031併(しか)し乍(なが)ら胸中(きようちう)深(ふか)く秘(ひ)め置(お)いて、032他(ほか)の乾児(こぶん)共(ども)には一言(ひとこと)も示(しめ)さなかつた。033それ故(ゆゑ)数多(あまた)の乾児(こぶん)は老耄(おいぼれ)親爺(おやぢ)の岩州(いはしう)と口汚(くちぎたな)く酷(こ)き使(つか)ひ、034よその見(み)る目(め)も気(き)の毒(どく)な次第(しだい)であつた。
035 話(はなし)替(かは)つて高砂城(たかさごじやう)の大奥(おほおく)には、036国依別(くによりわけ)の国司(こくし)を始(はじ)め、037末子姫(すゑこひめ)、038春乃姫(はるのひめ)、039松若彦(まつわかひこ)、040伊佐彦(いさひこ)の五柱(いつはしら)が卓(たく)を囲(かこ)んで、041何事(なにごと)か重要(ぢうえう)会議(くわいぎ)を開(ひら)いてゐた。
042国依(くにより)『松若彦(まつわかひこ)殿(どの)、043爾(なんぢ)も老齢(らうれい)の身(み)を持(も)ち乍(なが)ら、044昼夜(ちうや)寝食(しんしよく)を忘(わす)れて国務(こくむ)に鞅掌(おうしやう)する其(その)誠実(せいじつ)は実(じつ)に感歎(かんたん)の至(いた)りだ。045予(よ)も末子姫(すゑこひめ)も常(つね)に爾(なんぢ)の至誠(しせい)至実(しじつ)なる行動(かうどう)について時々(ときどき)感謝(かんしや)の意(い)を表(へう)し、046何(なに)よりも先(さき)に爾(なんぢ)の噂(うはさ)をしてゐるのだよ。047併(しか)し今日(こんにち)爾(なんぢ)の請求(せいきう)に依(よ)つて、048予(よ)は妻子(さいし)と共(とも)に爾(なんぢ)両人(りやうにん)と何事(なにごと)か協議(けふぎ)する運(はこ)びに至(いた)つたのは、049要(えう)するに神(かみ)の摂理(せつり)であらう。050今日(こんにち)は真面目(まじめ)に予(よ)も耳(みみ)を傾(かたむ)けるから、051忌憚(きたん)なく両人(りやうにん)とも意見(いけん)を吐露(とろ)せよ』
052 松若彦(まつわかひこ)は嬉(うれ)しげに笑(ゑみ)を泛(うか)べて、
053松若(まつわか)『常(つね)になき吾(わが)君(きみ)のお言葉(ことば)、054此(この)老体(らうたい)も始(はじ)めて甦(よみがへ)つた如(ごと)き心地(ここち)が致(いた)しまする。055誠(まこと)に申(まをし)上(あげ)にくい事(こと)乍(なが)ら、056御(ご)世子(せいし)国照別(くにてるわけ)様(さま)は御(お)行衛(ゆくへ)が分(わか)らなくなりましたので、057大責任(だいせきにん)の地位(ちゐ)にある微臣(びしん)、058吾(わが)君(きみ)に対(たい)して申(まをし)訳(わけ)なく、059又(また)衆生(しゆじやう)に対(たい)しても会(あ)はす顔(かほ)が厶(ござ)いませぬ。060夫(そ)れ故(ゆゑ)吾(わが)君様(きみさま)には済(す)まぬ事(こと)乍(なが)ら、061内々(ないない)探(さぐ)りを市中(しちう)に配(くば)り、062捜索(そうさく)致(いた)させましたなれど、063今(いま)にお行衛(ゆくへ)が分(わか)りませぬ。064誠(まこと)に監督(かんとく)不行届(ふゆきとどき)の罪(つみ)、065万死(ばんし)に値(あたひ)致(いた)しますれば、066松若彦(まつわかひこ)は此(この)責任(せきにん)を負(お)ふて、067大老職(たいらうしよく)を拝辞(はいじ)し、068一切(いつさい)の政務(せいむ)を伊佐彦(いさひこ)殿(どの)に譲(ゆづ)らうと存(ぞん)じまする。069何卒(なにとぞ)々々(なにとぞ)此(この)儀(ぎ)御(ご)聴許(ちやうきよ)下(くだ)さいますれば有難(ありがた)う存(ぞん)じまする』
070国依(くにより)『ハツハヽヽヽ、071悴(せがれ)が行衛(ゆくへ)を晦(くら)ましたのは、072予(よ)はとつくに存(ぞん)じてゐる。073別(べつ)に心配(しんぱい)する必要(ひつえう)はない。074如何(いか)に親(おや)なればとて、075吾(わが)子(こ)の思想(しさう)迄(まで)束縛(そくばく)する訳(わけ)にも行(ゆ)かない。076其(その)事(こと)については決(けつ)して心配(しんぱい)致(いた)すな』
077と平然(へいぜん)として笑(わら)つてゐる。078松若彦(まつわかひこ)は国司(こくし)の怒(いかり)に触(ふ)れ、079雷(らい)の如(ごと)くに叱咤(しつた)さるるかと思(おも)ひの外(ほか)、080余(あま)り平然(へいぜん)たる態度(たいど)に呆(あき)れ果(は)て、081返(かへ)す言葉(ことば)も出(で)なかつた。
082伊佐(いさ)『吾(わが)君様(きみさま)、083斯(か)かる重要(ぢうえう)問題(もんだい)が突発(とつぱつ)致(いた)しましたのは、084全(まつた)く微臣(びしん)等(ら)の罪(つみ)の致(いた)す所(ところ)、085何卒(なにとぞ)厳重(げんぢう)なる御(ご)処分(しよぶん)を願(ねが)ひたう厶(ござ)ります』
086国依(くにより)『去(さ)る者(もの)は逐(お)はず来(きた)る者(もの)は拒(こば)まずだ。087何(なに)程(ほど)引止(ひきと)めようとしても、088逃(に)げよう逃(に)げようと考(かんが)へてゐる者(もの)は駄目(だめ)だ。089悴(せがれ)も比較(ひかく)的(てき)大人物(だいじんぶつ)になつたと見(み)えて、090此(この)狭苦(せまくる)しい鳥屋(とや)の中(なか)が厭(いや)になつたと見(み)えるワイ。091そして爾(なんぢ)等(ら)両人(りやうにん)骸骨(がいこつ)を乞(こ)はむと申(まをし)出(で)て居(を)るが、092爾(なんぢ)等(ら)両人(りやうにん)が幽霊(いうれい)となれば後(あと)の国政(こくせい)は何(ど)う致(いた)す考(かんが)へだ。093後任者(こうにんしや)を推薦(すいせん)して、094向後(かうご)の国政(こくせい)上(じやう)支障(ししやう)なき迄(まで)に準備(じゆんび)を整(ととの)へ、095而(しか)して後(のち)骸骨(がいこつ)を請(こ)へよ。096後継者(こうけいしや)の物色(ぶつしよく)は済(す)んだのか、097それが先(ま)づ先決(せんけつ)問題(もんだい)だ』
098松若(まつわか)『ハイ、099恐(おそ)れ入(い)りました。100併(しか)し乍(なが)ら此(この)珍(うづ)の国(くに)におきまして寡聞(くわぶん)なる吾々(われわれ)の目(め)より窺(うかが)ひますれば、101一人(ひとり)として国家(こくか)の重職(ぢうしよく)に適当(てきたう)な人物(じんぶつ)はない様(やう)で厶(ござ)ります。102何(いづ)れの役人(やくにん)も皆(みな)ハイカラ的(てき)気分(きぶん)に襲(おそ)はれ、103真面目(まじめ)に国家(こくか)を思(おも)ふ者(もの)は一人(ひとり)として見当(みあた)りませぬ。104実(じつ)に国家(こくか)の前途(ぜんと)は寒心(かんしん)に堪(た)へませぬ』
105国依(くにより)『あゝさうすると、106後継者(こうけいしや)の適当(てきたう)な者(もの)が無(な)いと云(い)ふのか。107爾(なんぢ)等(ら)両人(りやうにん)は実(じつ)に不忠(ふちう)不義(ふぎ)の甚(はなはだ)しき者(もの)だ。108下(さが)り居(を)れツ』
109と雷声(らいせい)を発(はつ)して厳(きび)しく叱咤(しつた)した。110両人(りやうにん)は縮(ちぢ)み上(あが)り涙(なみだ)を押(おさ)へ乍(なが)ら、111口(くち)を揃(そろ)へて、
112両人(りやうにん)『吾々(われわれ)は不肖(ふせう)乍(なが)ら、113主家(しゆか)の為(ため)国家(こくか)の為(ため)身命(しんめい)を賭(と)して国務(こくむ)に鞅掌(おうしやう)致(いた)して居(を)りまする。114然(しか)るに只今(ただいま)のお言葉(ことば)、115不忠(ふちう)不義(ふぎ)とは心得(こころえ)ませぬ。116仮令(たとへ)国司(こくし)なればとて、117此(この)お言葉(ことば)に対(たい)しては何処(どこ)迄(まで)も明(あか)りを立(た)てて頂(いただ)かねば、118吾々(われわれ)は一歩(いつぽ)も此(この)場(ば)を退(しりぞ)きませぬ』
119国依(くにより)『爾(なんぢ)等(ら)、120予(よ)を詐(いつは)つて居(ゐ)るではないか。121老齢(らうれい)職(しよく)に堪(た)へずとか、122責任(せきにん)を負(お)ひて辞任(じにん)するとか云(い)ひ乍(なが)ら、123国家(こくか)の柱石(ちうせき)たる人物(じんぶつ)がないと云(い)つたでないか。124後継者(こうけいしや)無(な)きを知(し)り乍(なが)ら辞任(じにん)を申(まをし)出(い)づるは、125全(まつた)く国司家(こくしけ)を脅(おびや)かす者(もの)だ。126否(いな)予(よ)をして困惑(こんわく)せしむる者(もの)だ。127斯(か)かる心理(しんり)を抱持(はうぢ)してゐる爾(なんぢ)両人(りやうにん)に対(たい)し、128不忠(ふちう)不義(ふぎ)と云(い)つたのが、129何処(どこ)が悪(わる)い』
130と一層(いつそう)強(つよ)く怒鳴(どな)り立(た)てられ、131両人(りやうにん)は一(ひと)たまりもなく縮(ちぢ)み上(あが)つて了(しま)つた。132末子姫(すゑこひめ)は此(この)体(てい)を見(み)て気(き)の毒(どく)がり、
133末子姫『吾(わが)君様(きみさま)、134暫(しばら)くお待(ま)ち下(くだ)さいませ。135彼(かれ)等(ら)両人(りやうにん)は国家(こくか)を思(おも)ふの余(あま)り、136君(きみ)の決心(けつしん)を促(うなが)さむと、137今(いま)の如(ごと)き詭弁(きべん)を弄(ろう)し奉(たてまつ)つたので厶(ござ)いませう。138何(なん)と云(い)つても珍(うづ)一国(いつこく)の柱石(ちうせき)、139少々(せうせう)の過(あやまち)は赦(ゆる)しておやりなさいませ』
140国依(くにより)『赦(ゆる)されぬ此(この)場(ば)の仕儀(しぎ)なれ共(ども)、141最愛(さいあい)の末子姫(すゑこひめ)殿(どの)の御(ご)仲裁(ちうさい)とあらば止(や)むを得(え)ない、142先(ま)づ盲従(まうじゆう)しておかうかい、143アツハヽヽヽ』
144と最前(さいぜん)の怒(いかり)声(ごゑ)は何処(どこ)へやら、145気楽(きらく)相(さう)に大口(おほぐち)開(あ)けて笑(わら)ひ出(だ)した。146両人(りやうにん)はハツと息(いき)をつぎ、147縮(ちぢ)み上(あが)つた睾丸(きんたま)の皺(しわ)を漸(やうや)く伸(のば)し始(はじ)めた。
148松若(まつわか)『年(とし)にも似合(にあ)はず吾(わが)君(きみ)に対(たい)し、149不都合(ふつがふ)な事(こと)を申(まをし)上(あ)げ恐(おそれ)入(い)りまして厶(ござ)います。150何卒(どうぞ)唯今(ただいま)の私(わたくし)の失言(しつげん)は、151広(ひろ)き仁慈(じんじ)の御心(みこころ)に見直(みなほ)し聞直(ききなほ)し下(くだ)さいまして、152従前(じゆうぜん)の通(とほ)りお召使(めしつかひ)を願(ねが)ひ度(た)う存(ぞん)じます』
153伊佐(いさ)『微臣(びしん)も同様(どうやう)、154御(ご)使用(しよう)の程(ほど)を御(お)願(ねがひ)申(まをし)上(あ)げます』
155国依(くにより)『ウン、156ヨシヨシ、157分(わか)れば別(べつ)に文句(もんく)は無(な)いのだ。158モウ之(これ)からは心(こころ)にも無(な)い辞令(じれい)を振(ふ)りまはすな。159汝(なんぢ)等(ら)両人(りやうにん)の内心(ないしん)は何処(どこ)迄(まで)も政権(せいけん)に恋々(れんれん)として、160其(その)執着(しふちやく)を去(さ)る事(こと)は出来(でき)ないであらうがな』
161 両人(りやうにん)『ハツ』と顔(かほ)を赤(あか)らめ、162無言(むごん)の儘(まま)俯(うつむ)く。
163末子(すゑこ)『時(とき)に吾(わが)君様(きみさま)、164今日(こんにち)両老(りやうらう)が君(きみ)の御(ご)出場(しゆつぢやう)を願(ねが)ひましたる要件(えうけん)と申(まを)しますのは、165既(すで)に御(ご)承知(しようち)の通(とほ)り、166世子(せいし)国照別(くにてるわけ)の行衛(ゆくへ)が分(わか)りませぬので、167一層(いつそ)の事(こと)、168春乃姫(はるのひめ)を後継者(こうけいしや)となし、169上下(じやうげ)人心(じんしん)の安定(あんてい)を計(はか)らねばならないと両老(りやうらう)から申(まをし)出(い)でまして、170其(その)御(ご)承認(しようにん)を得(え)たい為(ため)で厶(ござ)いますれば、171よく御(ご)熟考(じゆくかう)下(くだ)さいまして何(いづ)れなり共(とも)、172都合(つがふ)好(よ)き御(ご)命令(めいれい)を仰(あふ)ぎたいので厶(ござ)います』
173 国依別(くによりわけ)は無頓着(むとんちやく)に、
174国依別『ウンさうだ、175春乃姫(はるのひめ)さへ承認(しようにん)すればそれで可(よ)い。176姫(ひめ)の意思(いし)迄(まで)強圧(きやうあつ)的(てき)に曲(ま)げる事(こと)は出来(でき)ぬ。177此(この)問題(もんだい)は姫(ひめ)に聞(き)いたが早道(はやみち)だらう』
178末子(すゑこ)『女(をんな)が後(あと)を継(つ)ぐとは前代(ぜんだい)未聞(みもん)では厶(ござ)いませぬか、179養子(やうし)でもせなくちやなりますまい。180さうすれば万代(ばんだい)不易(ふえき)の国司家(こくしけ)は断絶(だんぜつ)するぢやありませぬか』
181国依(くにより)『三五教(あななひけう)の教(をしへ)にも女(をんな)の御(お)世継(よつぎ)が良(よ)いと示(しめ)されてあるではないか。182女(をんな)の世継(よつぎ)としておけば、183腹(はら)から腹(はら)へ伝(つた)はつて行(ゆ)くのだから、184其(その)血統(けつとう)に少(すこ)しも間違(まちが)ひはない。185若(も)し男子(だんし)の世継(よつぎ)とすれば、186一方(いつぱう)の妻(つま)の方(はう)に於(おい)て、187夫(をつと)に知(し)らさず第二(だいに)の夫(をつと)を拵(こしら)へてゐた場合(ばあひ)、188其(その)生(うま)れた子(こ)は何方(どちら)の子(こ)か分(わか)らぬやうになつて来(く)る。189それだから却(かへつ)て女(をんな)の方(はう)が確実(かくじつ)だ、190現(げん)に国照別(くにてるわけ)だつて、191予(よ)の正胤(せいいん)であるか、192或(あるひ)は末子姫(すゑこひめ)殿(どの)が第二(だいに)の夫(をつと)を私(ひそ)かに拵(こしら)へて其(その)胤(たね)を宿(やど)したのか、193分(わか)つたものぢやないからのう、194ハツハヽヽヽ』
195 末子姫(すゑこひめ)は泣声(なきごゑ)になつて、
196末子姫『お情(なさけ)ない吾(わが)君(きみ)のお言葉(ことば)、197妾(わらは)がそれ丈(だけ)不信用(ふしんよう)で厶(ござ)いますか。198又(また)誰(たれ)かと姦通(かんつう)をしたと仰有(おつしや)るので厶(ござ)いますか、199残念(ざんねん)で厶(ござ)います』
200と地(ち)に伏(ふ)して泣(な)く。
201国依(くにより)『ハヽヽ、202嘘(うそ)だ嘘(うそ)だ、203比喩(たとへ)にひいた迄(まで)だ。204貞操(ていさう)の神(かみ)と迄(まで)尊敬(そんけい)されてゐる、205家庭(かてい)の女神(めがみ)様(さま)だ。206予(よ)は決(けつ)して毛筋(けすぢ)の横巾(よこはば)程(ほど)も、207汝(そなた)の行状(ぎやうじやう)に就(つい)て疑(うたが)つてはゐない。208否(いな)209大(おほ)いに感謝(かんしや)してゐるのだ。210マア心配(しんぱい)するな、211比喩(たとへ)だからのう』
212と背中(せなか)を二三遍(にさんぺん)撫(な)でさする。213末子姫(すゑこひめ)は漸(やうや)く機嫌(きげん)を直(なほ)し、214涙(なみだ)と笑顔(ゑがほ)を一緒(いつしよ)に手巾(はんけち)で拭(ふ)き乍(なが)ら、
215末子姫『ホヽヽそれで安心(あんしん)致(いた)しました。216そんなら吾(わが)君様(きみさま)、217妾(わらは)をどこ迄(まで)も信用(しんよう)して下(くだ)さいますね』
218国依(くにより)『雀(すずめ)百(ひやく)迄(まで)牝鳥(めんどり)を忘(わす)れぬと云(い)つて、219今(いま)は夫婦(めうと)共(とも)皺苦茶(しわくちや)だらけの爺婆(ぢぢばば)になつて了(しま)つたが、220時々(ときどき)昔(むかし)のあでやかなお前(まへ)の姿(すがた)を心(こころ)に描(ゑが)いて、221笑壺(ゑつぼ)に入(い)つてゐるのだ。222其(その)時(とき)丈(だけ)は実(じつ)にはなやかな思(おも)ひがするよ』
223末子(すゑこ)『そりや違(ちが)ひませう。224昔(むかし)の事(こと)を思(おも)ひ出(だ)し、225はなやかな気分(きぶん)に御(お)なりなさる肝心(かんじん)の玉(たま)はお勝(かつ)さまぢや厶(ござ)いませぬか』
226国依(くにより)『ウン、227お勝(かつ)もヤツパリ追想中(つゐさうちう)の一人(ひとり)だ。228乍併(しかしながら)最(もつと)も秀(すぐ)れて印象(いんしやう)に残(のこ)つてゐるのはヤツパリお前(まへ)と結婚(けつこん)当時(たうじ)の艶麗(えんれい)な姿(すがた)だよ、229ハツハヽヽヽヽ』
230と娘(むすめ)や老臣(らうしん)の前(まへ)で夫婦(めうと)が、231あどけなき意茶(いちや)つき合(あ)ひを始(はじ)めてゐる。232松若彦(まつわかひこ)、233伊佐彦(いさひこ)もつい話(はなし)に引(ひき)ずられて腮(あご)の紐(ひも)をとき、234粘着性(ねんちやくせい)の強(つよ)い涎(よだれ)を七八寸(しちはちすん)斗(ばか)り、235天井(てんじやう)から蜘蛛(くも)が下(さが)つたやうに糸(いと)を垂(た)れてゐる。
236国依(くにより)『春乃姫(はるのひめ)さま、237最前(さいぜん)から一同(いちどう)の話(はなし)を聞(き)いて略(ほぼ)承知(しようち)だらうが、238どうだ、239世継(よつぎ)になる気(き)はないかな』
240春乃(はるの)『厭(いや)ですよ、241人生(じんせい)長者(ちやうじや)となる勿(なか)れといふ諺(ことわざ)も厶(ござ)いませう。242窮屈(きうくつ)な籠(かご)の中(なか)へ祭(まつ)り込(こ)まれて、243心(こころ)にもなき追従(つゐしよう)の雨(あめ)をあびせかけられ、244敬遠(けいゑん)主義(しゆぎ)を取(と)られ、245二三(にさん)政治家(せいぢか)の傀儡(くわいらい)となつて一生(いつしやう)を送(おく)るといふ様(やう)な不幸(ふかう)な事(こと)は厶(ござ)いませぬワ。246妾(わらは)はお父(とう)さまやお母(か)アさまのお身(み)の上(うへ)を見(み)て、247実(じつ)にお気(き)の毒(どく)な境遇(きやうぐう)だと同情(どうじやう)の涙(なみだ)にくれてゐるのですよ。248兄(にい)さまも亦(また)お父(とう)さまの二(に)の舞(まひ)をなさるかと思(おも)へば、249気(き)の毒(どく)で堪(たま)らなかつたのですよ。250流石(さすが)の兄(にい)さまも二三(にさん)政治家(せいぢか)の傀儡(くわいらい)に祭(まつ)り込(こ)まれるのは人間(にんげん)として気(き)が利(き)かないと云(い)つて、251風(かぜ)をくらつてどつかへ逃(にげ)出(だ)し、252自由(じいう)の天地(てんち)に横行(わうかう)濶歩(くわつぽ)する幸福(かうふく)な身分(みぶん)となつてゐられます。253本当(ほんたう)に賢明(けんめい)な兄(にい)さまですワ。254妾(わらは)も兄(にい)さまの兄妹(きやうだい)、255自(みづか)ら知(し)つて窮屈(きうくつ)な不自由(ふじゆう)な身分(みぶん)となりたくはありませぬ。256之(これ)斗(ばか)りは御(お)赦免(ゆるし)を願(ねが)いたいもので厶(ござ)いますワ』
257国依(くにより)『ハヽヽヽ、258さうだらう 259さうだらう、260父(ちち)もかねて覚悟(かくご)してゐたのだ。261厭(いや)がる者(もの)を無理(むり)に押(おさ)へつけるのは無慈悲(むじひ)だ。262親(おや)たる者(もの)のなすべき事(こと)ではない。263お前(まへ)の好(す)きな様(やう)にしたが可(よ)からうぞ』
264末子(すゑこ)『モシ吾(わが)君様(きみさま)、265兄(あに)の国照別(くにてるわけ)は家出(いへで)をするなり、266妹(いもうと)の春乃姫(はるのひめ)は世継(よつぎ)は厭(いや)だと申(まをし)ましたならば、267国司家(こくしけ)は茲(ここ)に断絶(だんぜつ)するぢやありませぬか。268貴方(あなた)は如何(いか)なる御(お)考(かんが)へで左様(さやう)な気楽(きらく)なことを仰(あふ)せられます。269茲(ここ)は可哀相(かあいさう)でも春乃姫(はるのひめ)にトツクと言(いひ)聞(き)かせ、270国柱(こくちう)保存(ほぞん)上(じやう)、271厭(いや)でも応(おう)でも、272世継(よつぎ)になつて貰(もら)はねばなりますまい』
273国依(くにより)『フン、274別(べつ)に春乃姫(はるのひめ)に限(かぎ)つた事(こと)はない。275松若彦(まつわかひこ)にも悴(せがれ)もあり娘(むすめ)もある事(こと)だから、276一層(いつそ)の事(こと)松若彦(まつわかひこ)の悴(せがれ)松依別(まつよりわけ)を吾(わが)養子(やうし)として後(あと)をつがせたら何(ど)うだ。277それも本人(ほんにん)の意思(いし)に任(まか)すより仕方(しかた)がない。278松若彦(まつわかひこ)、279お前(まへ)はどう思(おも)ふか』
280 松若彦(まつわかひこ)はおどろいて、
281松若彦『これはこれは、282吾(わが)君様(きみさま)とも覚(おぼ)えぬお言葉(ことば)、283未(いま)だ臣(しん)を以(もつ)て君(きみ)となした例(ためし)は厶(ござ)いませぬ。284左様(さやう)な事(こと)を仰(あふ)せられずに、285茲(ここ)は春乃姫(はるのひめ)様(さま)に御(お)願(ねがひ)申(まをし)上(あ)げ、286御(お)世継(よつぎ)となつて頂(いただ)きたいもので厶(ござ)います。287ましてや愚鈍(ぐどん)な悴(せがれ)、288左様(さやう)な事(こと)が何(ど)うして勤(つと)まりませう。289之(これ)計(ばか)りは平(ひら)に御(お)断(ことわり)を申(まをし)上(あ)げます』
290国依(くにより)『何事(なにごと)も惟神(かむながら)に任(まか)すのだなア』
291末子(すゑこ)『いつも貴方(あなた)は惟神(かむながら)々々(かむながら)と云(い)つて、292凡(すべ)ての問題(もんだい)を葬(はうむ)らうとなさいますが、293斯(か)かる重要(ぢうえう)事件(じけん)はさう惟神(かむながら)計(ばか)りでは行(ゆ)きますまい』
294国依(くにより)『サアそこが惟神(かむながら)だよ。295身魂(みたま)の濁(にご)つた国依別(くによりわけ)の血統(ちすぢ)を以(もつ)て床(とこ)の置物(おきもの)にせなくても置物(おきもの)になりたがつてるお人好(ひとよ)しは三千万(さんぜんまん)人(にん)の中(うち)には三(さん)人(にん)や五(ご)人(にん)はキツトある。296そんな心配(しんぱい)は要(い)らぬ。297……どんな身魂(みたま)がおとしてあるか分(わか)らぬぞよ……と御(ご)神諭(しんゆ)にも現(あら)はれてるぢやないか。298観報(くわんぱう)を以(もつ)て床(とこ)の置物(おきもの)召集令(せうしふれい)を発(はつ)するか、299新聞(しんぶん)記者(きしや)を呼(よ)んで広告欄(くわうこくらん)に載(の)せさすか、300幾(いく)らでも方法(はうはふ)がある。301それで行(ゆ)かねば、302お神(かみ)の力(ちから)を以(もつ)て、303気(き)の善(よ)い人物(じんぶつ)を物色(ぶつしよく)するのだ』
304と気楽(きらく)相(さう)に言(い)つてのける。
305末子(すゑこ)『それでは世(よ)が治(をさ)まりますまい。306匹夫(ひつぷ)下郎(げらう)が俄(にはか)に高(たか)い所(ところ)へ上(のぼ)つた所(ところ)で、307国民(こくみん)の信用(しんよう)が保(たも)てますまい』
308国依(くにより)『国民(こくみん)は汝(おまえ)等(たち)の思(おも)ふ如(ごと)く吾々(われわれ)を尊敬(そんけい)しては居(ゐ)ないよ。309又(また)吾々(われわれ)の腹(はら)から出(で)た娘(むすめ)だと云(い)つて、310心(こころ)の底(そこ)から敬意(けいい)を払(はら)つてゐるのではない。311バラモン的(てき)色彩(しきさい)を以(もつ)て包(つつ)んでゐるから、312止(や)むを得(え)ず、313畏敬(いけい)の念(ねん)を払(はら)つてゐるのだ。314そんな事(こと)を思(おも)つてゐると、315時勢(じせい)に目(め)のない馬鹿者(ばかもの)と、316衆生(しゆじやう)から馬鹿(ばか)にされるよ、317アツハヽヽヽヽ』
318松若(まつわか)『何(なん)と仰(おほ)せられましても、319かうなる上(うへ)は春乃姫(はるのひめ)様(さま)を御(お)願(ねが)ひ申(まを)さねばなりませぬ』
320春乃(はるの)『厭(いや)だよ厭(いや)だよ、321怺(こら)へて頂戴(ちやうだい)よ』
322伊佐(いさ)『是非(ぜひ)共(とも)、323姫(ひめ)様(さま)に御(お)願(ねがひ)申(まをし)上(あ)げまする』
324春乃(はるの)『エヽ好(す)かんたらしい爺(ぢい)だね。325一度(いちど)厭(いや)と云(い)つたら厭(いや)だのに、326………ねーお母(かあ)さま、327お父(とう)さま、328人(ひと)の意思(いし)を束縛(そくばく)することは罪悪(ざいあく)ですからねえ』
329末子(すゑこ)『何(なん)と云(い)つても此(この)場合(ばあひ)、330国司家(こくしけ)と国家(こくか)の為(ため)に犠牲(ぎせい)的(てき)精神(せいしん)を発揮(はつき)して、331世継(よつぎ)になつて下(くだ)さい。332母(はは)が一生(いつしやう)の御(お)願(ねがひ)だから……』
333春乃(はるの)『妾(わらは)に註文(ちうもん)が厶(ござ)いますが、334それを承諾(しようだく)して下(くだ)されば、335世子(せいし)になつても宜(よろ)しい』
336末子(すゑこ)『どんな事(こと)でも、337貴女(あなた)の要求(えうきう)を容(い)れますから、338世子(せいし)になつて下(くだ)さるでせうな。339そして其(その)註文(ちうもん)とはどんな用件(ようけん)ですか』
340春乃(はるの)『一、341自由(じいう)自在(じざい)に城(しろ)の内外(ないぐわい)を問(と)はず出入(しゆつにふ)し得(う)る事(こと)、
342 一、343吾(わが)身辺(しんぺん)に侍女(じぢよ)又(また)は厳(いかめ)しき士(さむらい)を附随(ふずい)せしめざる事(こと)、
344 一、345自分(じぶん)の夫(をつと)は自分(じぶん)にて選定(せんてい)する事(こと)、
346 一、347化儀(けぎ)に依(よ)りては世子(せいし)を辞(じ)し、348理想(りさう)の生活(せいくわつ)を営(いとな)むやも知(し)れざる事(こと)、
349 一、350罪(つみ)を寛恕(くわんじよ)する事(こと)、
351 一、352大老(たいらう)、353老中(らうぢう)以下(いか)の任免(にんめん)黜陟(ちゆつちよく)をなす実権(じつけん)を有(いう)する事(こと)、
354以上(いじやう)マアざつと之(こ)れ丈(だけ)の条件(でうけん)は、355御(ご)承知(しようち)を御(ご)両親(りやうしん)に願(ねが)つて置(お)きたう厶(ござ)います』
356国依(くにより)『面白(おもしろ)い面白(おもしろ)い、357吾(わが)意(い)を得(え)たりと云(い)ふべしだ。358流石(さすが)は春乃姫(はるのひめ)、359偉(えら)いものだな。360之(これ)には両老(りやうらう)も参(まゐ)つただらう、361アツハヽヽヽヽヽ』
362 松若彦(まつわかひこ)、363伊佐彦(いさひこ)両人(りやうにん)は渋々(しぶしぶ)乍(なが)ら、364已(や)むを得(え)ずとして春乃姫(はるのひめ)の条件(でうけん)を容(い)れ、365世子(せいし)と定(さだ)め吐息(といき)をつき乍(なが)ら、366神殿(しんでん)に感謝(かんしや)祈願(きぐわん)の詞(ことば)を奏上(そうじやう)し、367国司(こくし)夫妻(ふさい)に慇懃(いんぎん)に挨拶(あいさつ)をなし、368吾(わが)館(やかた)を指(さ)して帰(かへ)り行(ゆ)く。
369 此(この)日(ひ)蒼空(さうくう)に一点(いつてん)の雲翳(うんえい)もなく、370太陽(たいやう)の光(ひかり)は殊更(ことさら)清(きよ)く、371赤(あか)く、372涼風(りやうふう)徐(おもむ)ろに吹(ふき)来(きた)り、373百鳥(ももどり)の鳴(な)く声(こゑ)もいと爽(さは)やかに聞(きこ)え、374四辺(あたり)の雰囲気(ふんゐき)は何(なん)となく爽快(さうくわい)に、375天空(てんくう)よりは微妙(びめう)の音楽(おんがく)響(ひび)き渡(わた)り、376芳香(はうかう)四方(よも)に薫(くん)じ、377恰(あたか)も第一(だいいち)天国(てんごく)の紫微宮(しびきう)にあるの面持(おももち)であつた。378あゝ惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)。
379(大正一三・一・二三 旧一二・一二・一八 伊予 於山口氏邸、松村真澄録)
このページに誤字・脱字や表示乱れなどを見つけたら教えて下さい。
返信が必要な場合はメールでお送り下さい。【メールアドレス】
合言葉「みろく」を入力して下さい→