霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第四章 国(くに)の光(ひかり)〔一七四九〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第69巻 山河草木 申の巻 篇:第1篇 清風涼雨 よみ(新仮名遣い):せいふうりょうう
章:第4章 国の光 よみ(新仮名遣い):くにのひかり 通し章番号:1749
口述日:1924(大正13)年01月19日(旧12月14日) 口述場所:伊予 道後ホテル 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1927(昭和2)年10月26日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
珍の都にも、貧しい人々がかなり出てくるようになり、松若彦以下の施政方針に対して、いたるところに不平不満が勃発してきています。
人力車の帳場に、三人の車夫が、政治談義にふけっています。
国公:上流階級の出だが、わけあって車夫になっているようです。
愛公:社会改造のために地位を捨て、民情を研究し、上下揃え升掛けひきならす活動をしようと目論んでいます。
浅公:現在の不公平な施政に不満を持つ車夫。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ:国公(国照別)、愛公(国愛別) データ凡例: データ最終更新日:2026-10-04 17:18:31 文字数:3272 OBC :rm6904
愛善世界社版:71頁 八幡書店版:第12輯 297頁 修補版: 校定版:73頁 普及版:66頁 初版: ページ備考:
001 珍(うづ)の都(みやこ)の大都会(だいとくわい)にも、002世(よ)の変遷(へんせん)につれて立(た)チン坊(ばう)や貧民窟(ひんみんくつ)が、003場末(ばすゑ)の方(はう)には、004可(か)なり沢山(たくさん)に出来(でき)た。005そして国依別(くによりわけ)の国司(こくし)に対(たい)しては余(あま)り怨嗟(ゑんさ)の声(こゑ)も放(はな)たなかつたが、006松若彦(まつわかひこ)以下(いか)の施政(しせい)方針(はうしん)については、007至(いた)る所(ところ)に不平(ふへい)の声(こゑ)が勃発(ぼつぱつ)し、008何時(いつ)不祥(ふしやう)事件(じけん)が突発(とつぱつ)するかも分(わか)らないやうになつて来(き)た。009人力車(くるま)の帳場(ちやうば)に二三(にさん)人(にん)の輓(ひ)き子(こ)があぐら座(ざ)になつて、010配達(はいたつ)して来(く)る新聞紙(しんぶんし)を読(よ)み乍(なが)ら、011捩鉢巻(ねじはちまき)した儘(まま)政治談(せいぢだん)に耽(ふけ)つてゐる。
012甲(かふ)(浅)『オイ愛州(あいしう)、013つまらぬぢやないか、014俺(おれ)達(たち)は朝(あさ)から晩(ばん)迄(まで)、015額(ひたひ)に汗(あせ)をし埃(ほこり)まぶれになつて、016ゼントルメンとかいふ奴(やつ)の馬(うま)となり、017重(おも)たいゴム輪(わ)をひいて送(おく)つてやつた所(ところ)で、018御(ご)苦労(くらう)とも吐(ぬ)かさず、019お札(ふだ)さまを一(いち)枚(まい)程(ほど)与(あた)へられ、020ヘイヘイハイハイと米(こめ)つきバツタ宜(よろ)しくといふ体裁(ていさい)で生活(せいくわつ)を送(おく)つてゐるのだが、021此(この)世(よ)に平等愛(べうどうあい)の神(かみ)が厶(ござ)るとすれば、022なぜ何時(いつ)までも、023こんなみじめな生涯(しやうがい)に俺(おれ)達(たち)を見(み)すてておくのだらうか、024本当(ほんたう)に合点(がつてん)がゆかぬ』
025愛(あい)『オイ浅(あさ)、026今日(けふ)も亦(また)弱音(よわね)を吹(ふ)くのか、027チツとしつかりせい。028車輓(くるまひき)だつて、029さう悲観(ひくわん)したものだない。030珍(うづ)の都(みやこ)の国司(こくし)だつて、031若(わか)い時(とき)は、032バラモン教(けう)の巡礼(じゆんれい)にもなり、033人(ひと)の門(かど)に立(た)つて乞食(こじき)もなさつたといふ事(こと)だ。034車夫(しやふ)だつて時(とき)が来(く)れば、035どんな出世(しゆつせ)が出来(でき)よまいものでもないワ。036なア国公(くにこう)、037お前(まへ)何(ど)う思(おも)ふか』
038国(くに)『ウン、039そらさうだ。040余(あま)り苦(く)にする必要(ひつえう)もあるまい。041己(おれ)がたつた今(いま)、042アルゼンチンの大統領(だいとうりやう)となつてお前(まへ)たちを救(すく)ふてやるから楽(たのし)んで待(ま)つてゐるが宜(よ)いワ。043何(なん)と云(い)つても国(くに)さまは国(くに)の代表者(だいへうしや)……ヲツトドツコイ国(くに)の柱(はしら)だからなア』
044浅(あさ)『ヘン、045偉(えら)さうに云(い)ふない、046蛇(じや)は寸(すん)にして人(ひと)を呑(の)む、047栴檀(せんだん)は二葉(ふたば)より芳(かん)ばしいといふぢやないか、048お前(まへ)のやうな青瓢箪(あをべうたん)の蒲柳性(ほりうせい)の肉体(にくたい)を持(も)つてゐて、049何(ど)うしてそんな大(だい)それた事(こと)が出来(でき)やうかい、050法螺(ほら)を吹(ふ)くも程(ほど)があるワイ』
051国(くに)『マア見(み)ておれ、052新政党(しんせいたう)でも組織(そしき)して衆生(しゆじやう)を教導(けうだう)し、053捲土(けんど)重来(ぢうらい)、054タコマ山(やま)の風雲(ふううん)をまき起(おこ)し、055一挙(いつきよ)にして天教(てんけう)地教(ちけう)の山(やま)を踏(ふ)み砕(くだ)き、056天国(てんごく)浄土(じやうど)を建設(けんせつ)してみせる。057俺(おれ)は天下(てんか)の救世主(きうせいしゆ)だからなア。058汝(きさま)の様(やう)に与力(よりき)同心(どうしん)が恐(おそろ)しうて、059自転倒(おのころ)島(じま)の地震(ぢしん)のやうにビリビリ慄(ふる)つてゐるやうな天(あま)ん若(じやく)は例外(れいぐわい)だが、060俺(おれ)達(たち)は、061俺(おれ)達(たち)としての成案(せいあん)が十二分(じふにぶん)にあるのだ』
062浅(あさ)『ヘン、063誰(たれ)が慄(ふる)うてゐるか、064国(くに)、065汝(きさま)こそ陰弁慶(かげべんけい)の外(そと)すぼり、066朝寒(あさざむ)にボロ一(いち)枚(まい)で慄(ふる)ひ通(とほ)してゐるだないか。067余(あま)り振(ふる)つた事(こと)をいふと、068車夫(しやふ)仲間(なかま)から除名(ぢよめい)するぞ、069アン』
070国(くに)『ハヽヽヽ、071慄(ふる)ふのは此(この)頃(ごろ)の流行物(りうかうぶつ)だ。072不断(ふだん)的(てき)の大地(だいち)の震動(しんどう)は云(い)ふも更(さら)なりだが、073先(ま)づ世(よ)の中(なか)の人間(にんげん)共(ども)の行(や)る事(こと)を考(かんが)へてみよ。074皆(みな)慄(ふる)うてるだないか。075汝(きさま)が女房(にようばう)を貰(もら)ふた時(とき)にも三々(さんさん)九度(くど)を行(や)つただらう。076其(その)時(とき)には手(て)が慄(ふる)ひ胴体(どうたい)迄(まで)慄(ふる)うたといふだないか。077始(はじ)めての泥棒(どろばう)に、078近所(きんじよ)の火事(くわじ)、079遺書(かきおき)の文句(もんく)、080女房(にようばう)から貰(もら)うた三行半(みくだりはん)をよむ時(とき)、081始(はじ)めての大道(だいだう)演説(えんぜつ)、082葱(ねぶか)の義太夫(ぎだいう)に出歯(でば)包丁(ばうちやう)の小包(こづつみ)を貰(もら)うた時(とき)、083取締(とりしまり)に一喝(いつかつ)された時(とき)、084咬(か)んだ唇(くちびる)、085弱虫(よわむし)の夜道(よみち)、086死刑(しけい)の宣告(せんこく)、087まあザツとこんなものだ、088皆(みな)ふるつてゐるだらう。089慄(ふる)ふのが今日(こんにち)の世態(せたい)だ。090普選(ふせん)即行(そくかう)だと云(い)つて、091衆生(しゆじやう)が一致(いつち)団結(だんけつ)、092城下(じやうか)に迫(せま)るや否(いな)や、093元老(げんらう)の自由(じいう)とか言論(げんろん)の自由(じいう)とかが、094圧迫(あつぱく)するとか、095圧迫(あつぱく)されたとか云(い)つてふるひ落(おと)されるだないか。096清遊会(せいいうくわい)でさへも分裂(ぶんれつ)して新党(しんたう)を樹(た)て、097悪玉(あくだま)をふるひおとしてゐるだないか。098まだもふるふてゐるのは、099古手(ふるて)親爺(おやぢ)の跋扈(ばつこ)跳梁(てうりやう)だ。100車夫(しやふ)だつて、101古(ふるく)なりや車(くるま)もロクに輓(ひ)けやしないぞ。102車夫(しやふ)組合(くみあひ)でも作(つく)つて、103お前(まへ)達(たち)のやうな老齢(らうれい)職(しよく)にたへざる者(もの)は振(ふる)ひおとす考(かんが)へだ、104イツヒヽヽヽヽ』
105浅(あさ)『オイ愛公(あいこう)、106汝(きさま)も一(ひと)つ加勢(かせい)してくれ、107国公(くにこう)は其(その)筋(すぢ)の犬(いぬ)かも知(し)れないよ。108どうみても乗馬面(じやうめづら)をしてゐるだないか。109松若彦(まつわかひこ)の奴(やつ)、110世(よ)の中(なか)が怖(おそ)ろしくなつたものだから、111俺(おれ)等(たち)の仲間(なかま)の様子(やうす)を考(かんが)へようと思(おも)つて国公(くにこう)をよこしよつたのかも知(し)れぬ。112此奴(こいつ)、113車夫(しやふ)に似合(にあ)はぬ銭使(ぜにつか)ひがあらい。114そしていつも帳場(ちやうば)に座(すわ)つて、115足(あし)が痛(いた)いの腰(こし)が痛(いた)いのと吐(ぬ)かして、116一度(いちど)も客(きやく)を乗(の)せた事(こと)はないぢやないか。117うつかりしてると足許(あしもと)から鳥(とり)が立(た)つやうな目(め)に合(あは)されるかも知(し)れぬぞ。118俺(おれ)達(たち)下層(かそう)社会(しやくわい)の秘密(ひみつ)を探(さぐ)つてる奴(やつ)だから、119どうだ今(いま)の内(うち)に殺(たた)んで了(しま)はふだないか、120エヽーー』
121愛(あい)『オイ浅(あさ)、122汝(きさま)は国公(くにこう)を今(いま)迄(まで)普通(ふつう)の車夫(しやふ)と思(おも)つてゐたのか、123エヽトンマだな。124そんなウス野呂(のろ)では車夫(しやふ)だつて勤(つと)まりやしないぞ。125今日(こんにち)の世(よ)の中(なか)の有様(ありさま)を考(かんが)へてみろ、126宣伝使(せんでんし)や比丘(びく)の連中(れんちう)はいかめしく法衣(ほふい)をまとつて淫事(いんじ)に耽(ふけ)り、127神仏(しんぶつ)を悪用(あくよう)して正直(しやうぢき)な人間(にんげん)をだまし、128武士(さむらい)は銭(ぜに)を愛(あい)し129暫消(ざんせう)の力(ちから)を悪用(あくよう)して衆生(しゆじやう)を圧迫(あつぱく)し、130黄金力(わうごんりよく)を濫用(らんよう)してトラストを作(つく)り、131利権(りけん)を獲得(くわくとく)し、132不時(ふじ)の災害(さいがい)に附(つけ)込(こ)んで暴利(ばうり)を貪(むさぼ)る商人(せうにん)が頻出(ひんしゆつ)し、133懺悔(ざんげ)の生活(せいくわつ)を喰物(くひもの)にする偽君子(ぎくんし)が現(あら)はれた世(よ)の中(なか)だ。134俺(おれ)等(たち)のやうにボロ車(ぐるま)を輓(ひ)いたり、135其(その)間(あひだ)には俯向(うつむ)いて土(つち)を掘(ほ)り、136汗(あせ)や脂(あぶら)で取(とり)上(あ)げた収獲(しうくわく)を吸(す)ひとられ137本当(ほんたう)に地獄道(ぢごくだう)の生活(せいくわつ)をしてゐるやうなものだ。138大(おほ)きな面(つら)をしてゐやがる連中(れんちう)は139懐手(ふところで)で握(にぎ)り睾丸(きんたま)で飯(めし)をくらひ、140白昼(はくちう)大道(だいだう)の真中(まんなか)を自動車(じどうしや)の土埃(つちぼこり)を立(た)て乍(なが)ら、141売笑婦(ばいた)と共(とも)にかけ廻(まは)り142人(ひと)の迷惑(めいわく)はそ知(し)らぬ顔(かほ)、143おまけに俺(おれ)達(たち)の子供(こども)を引(ひき)倒(たふ)しておいて、144屁(へ)一(ひと)つ放(ひ)りかけてゆくといふ不人情(ふにんじやう)な、145不合理(ふがふり)な、146不正義(ふせいぎ)な無人道(むじんだう)な世(よ)の中(なか)を誰(たれ)だつて歎(なげ)かないものがあらうか。147俺(おれ)達(たち)は之(これ)からかふいふ邪道(じやだう)を通(とほ)る横着者(わうちやくもの)の内面(ないめん)を悉(ことごと)く暴露(ばくろ)し、148天地(てんち)の道理(だうり)を明(あきら)かにして、149純真(じゆんしん)な人道(じんだう)に返(かへ)し、150此(この)宇宙(うちう)をして光明(くわうみやう)世界(せかい)に捩直(ねぢなほ)さねばならないのだ。151実(じつ)の所(ところ)を云(い)へば、152此(この)国(くに)さまも此(この)愛(あい)さまも、153生(うま)れついての車夫(しやふ)だない。154一寸(ちよつと)様子(やうす)があつて社会(しやくわい)改造(かいざう)の為(ため)に、155顕要(けんえう)の地位(ちゐ)をすて、156両親(りやうしん)や家来(けらい)に叛(そむ)いて、157貧民窟(ひんみんくつ)の研究(けんきう)にかかつてゐるのだ。158実際(じつさい)の事(こと)いへばお前(まへ)達(たち)は可愛相(かあいさう)なものだ。159弥勒(みろく)菩薩(ぼさつ)は土(つち)から現(あら)はれると云(い)ふことだが、160今日(こんにち)の乗馬(じやうめ)社会(しやくわい)には吾々(われわれ)を徹底(てつてい)的(てき)に救(すく)ふて呉(く)れるやうな聖人(せいじん)君子(くんし)は現(あら)はれないだらう。161それだから俺(おれ)達(たち)も身(み)を下(くだ)して下層(かそう)社会(しやくわい)の仲間(なかま)に入(い)り、162民情(みんじやう)を研究(けんきう)してゐるのだ。163併(しか)し乍(なが)ら最早(もはや)天運(てんうん)循環(じゆんくわん)、164上下(うへした)揃(そろ)へて桝(ます)かけひきならす165と云(い)ふ御(ご)神勅(しんちよく)の実現期(じつげんき)が近付(ちかづ)いたのだから166まア安心(あんしん)し玉(たま)へ。167やがて普選(ふせん)にもなるだらうから、168其(その)時(とき)はお前(まへ)も代議士(だいぎし)の名乗(なのり)を上(あ)げて議政(ぎせい)壇上(だんじやう)に咆哮(はうかう)し、169珍(うづ)の天地(てんち)を昔(むかし)の神代(かみよ)に返(かへ)すのだな、170アツハヽヽヽ』
171浅(あさ)『果(はた)して普選(ふせん)が即行(そくかう)され172俺(おれ)達(たち)でも代議士(だいぎし)になつて社会(しやくわい)の為(ため)に尽(つく)す様(やう)なことがあるだらうかな。173凡(すべ)て世(よ)の中(なか)は思(おも)ふやうに行(ゆ)かぬものだ。174まして現代(げんだい)の如(ごと)き信用(しんよう)の出来(でき)ぬ世(よ)の中(なか)では、175俺(おれ)達(たち)を買(か)うて呉(く)れるものはあるまい。176何(なに)程(ほど)普選(ふせん)を即行(そくかう)しても177矢張(やは)り、1771ゼントルマンが黄白(くわうはく)をまきちらして、178益々(ますます)俺(おれ)達(たち)を泥濘(でいねい)の中(なか)へつき落(おと)すに違(ちが)ひなからうと思(おも)ふよ。179何故(なぜ)に又(また)之(これ)程(ほど)虚偽(きよぎ)と罪悪(ざいあく)に充(み)ちた世(よ)の中(なか)だらう。180よく考(かんが)へて見(み)ろ、181一(ひと)つだつて信用(しんよう)されることはないぢやないか。182地震(ぢしん)博士(はかせ)の予言(よげん)、183天気(てんき)予報(よはう)、184海老茶(ゑびちや)式部(しきぶ)の兄(にい)さまと云(い)ひ、185媒介者(なかうど)の口(くち)から云(い)ふ初婚(しよこん)と品行(ひんかう)問題(もんだい)、186新聞(しんぶん)の攻撃(こうげき)記事(きじ)俄(にはか)の中止(ちうし)、187如何(いか)なる重症(ぢうしやう)も一(いつ)週間(しうかん)に根治(こんぢ)すると云(い)ふ梨田(なしだ)ドラックの広告(くわうこく)、188新聞(しんぶん)雑誌(ざつし)の発行(はつかう)部数(ぶすう)、189福引(ふくびき)の一等(いつとう)当選品(たうせんひん)の行衛(ゆくへ)、190葬礼(さうれい)の出棺(しゆつくわん)時間(じかん)、191売薬屋(ばいやくや)の御(お)礼(れい)広告(くわうこく)、192連日(れんじつ)連夜(れんや)満員(まんゐん)大入(おほいり)の提灯持(ちやうちんもち)、193正何時(しやうなんじ)に御(ご)来会(らいくわい)下(くだ)され度候(たくさふらふ)、194天下(てんか)無比(むひ)の大(だい)勉強店(べんきやうてん)は弊店(へいてん)のみ195と、196何(なに)から何(なに)迄(まで)嘘(うそ)で固(かた)めた世(よ)の中(なか)ぢやないか。197普選(ふせん)だつて、198矢張(やつぱり)売薬屋(ばいやくや)の広告(くわうこく)同様(どうやう)で、199一(いち)時(じ)遁(のが)れの人気取(にんきとり)だらうよ。200俺(おれ)は決(けつ)してここ二(に)年(ねん)や三(さん)年(ねん)の間(あひだ)には普選(ふせん)が実行(じつかう)されるものとは思(おも)はないね。201マア孫(まご)の代(だい)位(ぐらゐ)になつたら、202せうことなしに普選(ふせん)断行(だんかう)と出(で)かけるだらうよ。203それよりも俥夫(しやふ)は俥夫(しやふ)としての立場(たちば)から、204一文(いちもん)でも高値(たかね)を吹(ふ)きかけて、205不当(ふたう)の賃銭(ちんせん)を取(と)つてやるのだなア。206お前(まへ)達(たち)両人(ふたり)は何(なん)だか乗馬(じやうめ)出(で)の様(やう)な口吻(くちぶり)をもらしてゐたが、207自分(じぶん)から名乗(なの)る奴(やつ)にロクな奴(やつ)アありやしないワ。208大方(おほかた)稲田(いなだ)大学(だいがく)の落第生(らくだいせい)位(ぐらゐ)だらうよ。209取締(とりしまり)にもなれず、210教員(けうゐん)にもなれず、211政治家(せいぢか)になるには金(かね)が要(い)るし、212放蕩(はうたう)の結果(けつくわ)俥夫(しやふ)に成(な)り下(さが)り213見事(みごと)理窟(りくつ)丈(だけ)覚(おぼ)えて来(き)て法螺(ほら)を吹(ふ)いてるのだらう。214俺(おれ)の霊眼(れいがん)に215汝(きさま)の顔(かほ)に堕落生(だらくせい)だと書(か)いてあるのが見(み)えすいてゐるのだからな、216ウツフツフヽ』
217と互(たがひ)に不得(ふとく)要領(えうりやう)な法螺(ほら)を云(い)ひかはしてゐる。218其処(そこ)へ靴音(くつおと)忍(しの)ばせやつて来(き)たのは交通係(かうつうがかり)の印(しるし)を腕(うで)に巻(ま)いた色(いろ)の青白(あをじろ)い営養(えいやう)不良(ふりやう)的(てき)な面(つら)をした取締(とりしまり)であつた。219三(さん)人(にん)は思(おも)はず、220かいてゐた胡坐(あぐら)を元(もと)へ直(なほ)し、221キチンとすわり込(こ)んだ儘(まま)取締(とりしまり)の面(かほ)を見上(みあ)げた。
222(大正一三・一・一九 旧一二・一二・一四 於道後ホテル、松村真澄録)
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