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第一八章 老狽(らうばい)〔一七六三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第69巻 山河草木 申の巻 篇:第4篇 新政復興 よみ(新仮名遣い):しんせいふっこう
章:第18章 老狽 よみ(新仮名遣い):ろうばい 通し章番号:1763
口述日:1924(大正13)年01月24日(旧12月19日) 口述場所:伊予 山口氏邸 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1927(昭和2)年10月26日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
清香姫は侍女・春子姫の手引きで深夜一緒に館を抜け出すが、秋山別・モリスはいち早く変事に気づく。
秋山別・モリスは、清香姫の逐電が人に知られて責任を問われる前に、姫を連れ戻そうと、二人だけで追いかけてゆく。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例:238「泣声」は原文ママ。 データ最終更新日:2019-04-13 03:49:53 OBC :rm6918
愛善世界社版:252頁 八幡書店版:第12輯 365頁 修補版: 校定版:265頁 普及版:66頁 初版: ページ備考:
001清香姫(きよかひめ)千早(ちはや)(ふる)神代(かみよ)(むかし)天教(てんけう)
002(やま)より天降(あも)(たま)ひたる
003日出(ひのでの)(かみ)神柱(かむばしら)
004(わが)祖先(おやがみ)(みちび)きて
005(この)()(きよ)むる三五(あななひ)
006(をしへ)(ひら)かせ(たま)ひしゆ
007(かみ)御稜威(みいづ)四方(よも)(くに)
008(しま)崎々(さきざき)(いそ)隈々(くまぐま)
009()ちなく()れなく(ひろ)ごりて
010(あめ)(した)には(まが)()
011青人草(あをひとぐさ)村肝(むらきも)
012(こころ)(うち)より(むつ)()
013さながら天津(あまつ)御国(みくに)天国(てんごく)
014姿(すがた)(うつ)せしヒルの(くに)
015インカの(すゑ)(あが)められ
016(おや)(おや)とは底津根(そこつね)
017堅磐(かきは)常磐(ときは)(いは)()
018(うづ)宮居(みやゐ)(きづ)きつつ
019(うづ)(はしら)のいや(ふと)
020立栄(たちさか)えたる神柱(かむばしら)
021諸人(もろびと)(あふ)がぬ(もの)もなし
022(ちか)御代(みよ)より常世国(とこよくに)
023(よこさ)(をしへ)(はびこ)りて
024(あめ)(くも)らせ(つち)(けが)
025青山(あをやま)をば枯山(からやま)となし
026世人(よびと)(こころ)(すさ)()
027(むかし)(まま)神国(かみぐに)
028(いま)魔国(まぐに)とならむとす
029深夜(しんや)(まくら)(もた)げつつ
030()行先(ゆくさき)(うかが)へば
031ヒルの(みやこ)醜鬼(しこおに)
032棲家(すみか)ありとふ(かみ)(のり)
033八岐(やまた)大蛇(をろち)(おほかみ)
034(とら)獅子(しし)(くま)猛獣(まうじう)
035(つめ)(かく)して()()ると
036御神(みかみ)御告(みつ)()くにつけ
037(むね)(いた)みぬ(こころ)さやぎぬ
038あゝ(わらは)如何(いか)にして
039国司(こくし)御子(みこ)(うま)れしぞ
040(ひな)(そだ)ちし()にしあれば
041()かる(なや)みもあらまじものを
042清家(せいか)とふ()まはしき空衣(からごろも)(つつ)まれて
043身動(みうご)きならぬ(くる)しさよ
044(あはれ)(たま)天地(あめつち)(かみ)
045(あに)(ちか)ひし(こと)()
046(まも)りて()づるヒルの(しろ)
047(よる)(まぎ)れて山路(やまみち)
048(つた)(つた)ひて(すす)()
049(みち)行手(ゆくて)(くま)()
050(やす)(まも)らせ(たま)へかし
051高倉山(たかくらやま)(この)(しろ)
052(まも)らせ(たま)(うぢ)(かみ)
053ヒルの御国(みくに)永久(とこしへ)
054領有(うしは)(たま)国魂(くにたま)(かみ)
055大御前(おほみまへ)八雲(やくも)小琴(をごと)(だん)じつつ
056(こころ)すがすがすが()きの
057(いと)二筋(ふたすぢ)真心(まごころ)
058(ただ)一筋(ひとすぢ)(いの)るなり
059あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
060御霊(みたま)恩頼(ふゆ)(たま)へかし』
061 ()(うた)つて()(をり)しも、062烏羽玉(うばたま)()(おそ)ふて()た。063清香姫(きよかひめ)(ひそ)かに()(まは)りの準備(こしらへ)などして()(こく)(いた)るを()つた。
064 城内(じやうない)(あかり)()えて四辺(あたり)閑寂(かんじやく)()(ただよ)ひ、065(ただ)天井(てんじやう)(ねずみ)(はし)(おと)がシト シト シトと(かす)かに(きこ)ゆるのみであつた。066時分(じぶん)はよしと、067清香姫(きよかひめ)(ひそ)かに(わが)居間(ゐま)(しの)()でむとする(ところ)へ、068侍女(じぢよ)春子姫(はるこひめ)足音(あしおと)(しの)ばせ(きた)り、
069(ひめ)(さま)070()だお(やす)みぢや(ござ)いませぬか』
071 (この)(こゑ)清香姫(きよかひめ)はハツと(おどろ)(なが)ら、072素知(そし)らぬ(かほ)して、
073『あ、074其方(そなた)春子姫(はるこひめ)か、075(まへ)まだ(やす)めないの』
076春子(はるこ)『ハイ、077(なん)だか、078今晩(こんばん)(かぎ)つて()がさえざえと(いた)しまして、079(ひめ)(さま)のお()(うへ)()にかかり、080(なん)だか()られないので(ござ)りますよ』
081清香(きよか)『お(まへ)()られないかね、082(わらは)(なん)だかチツトも(やす)めないワ』
083春子(はるこ)(ひめ)(さま)084(うた)でも()んで()(あか)しませうか』
085 清香姫(きよかひめ)迷惑(めいわく)(なが)らも、
086(わらは)もやがて(ねむ)れるだらうが、087(しか)一二首(いちにしゆ)(うた)()んで(わか)れませう』
088春子(はるこ)『ハイ、089有難(ありがた)(ござ)います』
090春子姫(はるこひめ)(ひめ)(そば)(ちか)()()め、
091高倉(たかくら)(おもて)()てる鉄門守(かなどもり)
092(その)まなざしの血走(ちばし)りて()えぬ。
093十五夜(じふごや)月光(つきかげ)(のぞ)裏門(うらもん)
094いとも(しづ)けし(かぜ)さへもなし』
095 清香姫(きよかひめ)(はじ)めて春子姫(はるこひめ)が、096自分(じぶん)今夜(こんや)()()すことを(さと)り、097裏門(うらもん)から()()せと(をし)へて()れたのだらうと感謝(かんしや)(なが)ら、
098(ゆく)(はる)(つき)(ひかり)(てら)されて
099(きよ)(かを)れる(うめ)初花(はつはな)
100(にほ)ふとは()白梅(しらうめ)(おく)(ふか)
101谷間(たにま)にもゆる姿(すがた)かしこし』
102(たがひ)(うた)をかはし、103清香姫(きよかひめ)は、
104(つき)庭園(ていえん)をチツトばかり逍遥(せうえう)して()ますから、105春子(はるこ)106其方(そなた)(この)(こと)(だん)じて()つてゐて(くだ)さい』
107()(なが)裏口(うらぐち)へと(しの)()く。108裏口(うらぐち)には蓑笠(みのかさ)109手甲(てかふ)脚絆(きやはん)110(つゑ)(その)()一切(いつさい)(たび)必要(ひつえう)なものがチヤンと(ととの)へてあつた。111春子姫(はるこひめ)(なみだ)(うか)(なが)ら、
112(ひめ)(さま)113(けつ)して、114貴女(あなた)一人(ひとり)(たび)はさせませぬ、115どうぞ()安心(あんしん)なさいませ』
116小声(こごゑ)()へば、117清香姫(きよかひめ)(あと)(ふり)(かへ)り、
118何処(どこ)()くのも(かみ)(さま)二人(ふたり)()れ、119()()んで(くだ)さるな』
120()(のこ)し、121()つけられては一大事(いちだいじ)裏口(うらぐち)()で、122手早(てばや)()づくろひをなし、123裏門(うらもん)からソツト()()し、124馬場(ばんば)木立(こだち)(した)(くぐ)つて(みなみ)(みなみ)へと(いそ)ぐのであつた。125(あと)春子姫(はるこひめ)126二絃琴(にげんきん)()り、127(へだ)ての(ふすま)(ぢやう)をかけて、128(こと)(だん)じつつ(うた)つて()る。
129此処(ここ)(よる)なきヒルの(くに)
130ヒルの(みやこ)中心地(ちうしんち)
131(かみ)御稜威(みいづ)高倉山(たかくらやま)
132岩根(いはね)()ちし(うづ)(しろ)
133日出(ひのでの)(かみ)(むかし)より
134三五教(あななひけう)大神(おほかみ)
135(いつ)きまつりし(うづ)(しろ)
136さはさり(なが)(ほし)(うつ)
137月日(つきひ)(なが)()くに()
138(ひと)(こころ)(やうや)くに
139あらぬ(かた)へと(うつ)ろひて
140()刈菰(かりごも)(みだ)れゆく
141()(あさ)ましき(この)天地(てんち)
142(きよ)めむ(ため)皇神(すめかみ)
143御心(みこころ)(ふか)(さと)りまし
144若君(わかぎみ)(はじ)(ひめ)(さま)
145(おも)()つての鹿島立(かしまだち)
146(おも)へば(おも)へば(わが)(なみだ)
147淵瀬(ふちせ)(なが)れて()()なし
148(この)()(かみ)のます(かぎ)
149若君(わかぎみ)(さま)姫君(ひめぎみ)
150(ふと)(いさを)()てまして
151(やが)てはヒルの神柱(かむばしら)
152(すく)ひの(きみ)(あふ)がれて
153これの御国(みくに)()ふも(さら)
154高砂島(たかさごじま)端々(はしばし)
155(みな)(その)(とく)(まつろ)へて
156(むかし)(かは)るインカの(さか)
157(まつ)目出度(めでた)高砂(たかさご)
158(じやう)(うば)との末永(すゑなが)
159(をさ)まる御代(みよ)()たれける
160あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
161(すめ)大神(おほかみ)御恵(みめぐみ)
162姫君(ひめぎみ)(さま)行衛(ゆくへ)をば
163何卒(なにとぞ)(やす)(うづ)(くに)
164(あに)(みこと)のましませる
165霊地(れいち)無事(ぶじ)(おく)りませ
166御側(みそば)(ちか)(つか)へたる
167春子(はるこ)(ひめ)赤心(まごころ)
168(ささ)げて(いの)(たてまつ)る』
169 秋山別(あきやまわけ)170モリスは(わが)()(かへ)つて()たが、171(なん)だか胸騒(むなさわ)ぎがしてならぬので、172(ひめ)()(うへ)変事(へんじ)はなきかと、173両人(りやうにん)()せずして、174()(こく)(すぎ)表門(おもてもん)(くぐ)つて(いり)(きた)り、175各自(めいめい)事務室(じむしつ)()つて監視(かんし)(やく)(つと)めて()る。176(ひめ)居間(ゐま)よりは流暢(りうちやう)(こと)()(きこ)えて()た。177秋山別(あきやまわけ)178モリス両人(りやうにん)(こと)()()いて(ひと)()安心(あんしん)し、179両人(りやうにん)愉快気(ゆくわいげ)(こゑ)(たか)らかに談話(だんわ)(はじ)めて()る。
180秋山(あきやま)『モリス殿(どの)181(この)深夜(しんや)()老体(らうたい)貴殿(きでん)182()苦労(くらう)千万(せんばん)(ござ)る。183(なに)急用(きふよう)でも出来(でき)たので(ござ)るかな』
184モリス『(べつ)(これ)といふ急用(きふよう)()けれども、185(なん)だか胸騒(むなさわ)ぎが(いた)し、186(あるひ)城中(じやうちう)(ひめ)(さま)()(うへ)(つい)変事(へんじ)突発(とつぱつ)せしに(あら)ずやと、187()(もの)(とり)(あへ)ず、188夜中(やちう)(なが)らも、189(とも)をも()れずソツト()(まゐ)つた次第(しだい)(ござ)る。190そして貴殿(きでん)(また)夜陰(やいん)()登城(とじやう)になつたのは、191(なに)(かん)ずる(ところ)があつての(こと)(ござ)るかな』
192秋山(あきやま)吾々(われわれ)貴殿(きでん)()(かんが)への(ごと)く、193(なん)だか胸騒(むなさわ)ぎが(いた)すので、194(ひめ)()(うへ)(かは)つた(こと)はなきやと心配(しんぱい)でならず(まか)()したので(ござ)る。195(しか)(なが)(ひめ)()居間(ゐま)(ちか)(うかが)()つて、196様子(やうす)(さぐ)れば、197いと流暢(りうちやう)なる(こと)音色(ねいろ)198ヤレ安心(あんしん)とここ(まで)引返(ひきかへ)して休息(きうそく)(いた)して()(ところ)(ござ)る。199どうやら(ひめ)(さま)もお()()したと()えて、200明日(あす)()()たれてならぬか、201一目(ひとめ)()ずに(こと)(だん)じて()られるとは、202(これ)(まで)にない(こと)(ござ)る。203テも(さて)(よろこ)ばしい瑞祥(ずゐしやう)では(ござ)らぬか』
204モリス『如何(いか)にも()(せつ)(とほ)吾々(われわれ)若返(わかがへ)つた(やう)()(いた)すで(ござ)る。205一度(いちど)(もと)(むかし)(わか)()(うへ)になつて()たい(やう)(ござ)るワイ。206アツハヽヽヽ』
207秋山(あきやま)(とき)にモリス殿(どの)208(ひめ)(さま)何号(なんがう)がお(のぞ)みであらうかな』
209モリス『あの(うた)によれば、210一号(いちがう)二号(にがう)三号(さんがう)四号(しがう)駄目(だめ)でせう、211()五号(ごがう)()採用(さいよう)になるでせう。212秋山別(あきやまわけ)殿(どの)213()芽出度(めでた)(ござ)る。214貴殿(きでん)()子息(しそく)では(ござ)らぬか』
215秋山(あきやま)成程(なるほど)216拙者(せつしや)(せがれ)菊彦(きくひこ)果報者(くわはうもの)(ござ)るワイ。217拙者(せつしや)貴殿(きでん)とは当城(たうじやう)()娘子(むすめご)紅井姫(くれなゐひめ)(さま)(たい)し、218大変(たいへん)苦労(くらう)(いた)して、219(つひ)にはあの結果(けつくわ)220(じつ)若気(わかげ)(いた)りとは(まを)(なが)ら、221エライ(はぢ)をかいたもので(ござ)るが、222(わが)(せがれ)(ちち)(まさ)つて、223(ひめ)(さま)御意(ぎよい)(かな)ふとは、224テもさても()(なか)(かは)つたもので(ござ)るワ、225オツホヽヽヽ』
226笑壺(ゑつぼ)()つて()る。
227 一方(いつぱう)春子姫(はるこひめ)は……最早(もはや)(ひめ)(さま)(おち)のびられたであらう、228ヨモヤ追手(おつて)もかかるまい。229サア(これ)から(わらは)もお(あと)(した)ひ、230(ひめ)(おん)()保護(ほご)せねばなるまい。231照国(てるくに)街道(かいだう)一筋道(ひとすぢみち)232夜明(よあ)けに()のない(とら)(こく)233グヅグヅしては()られない……と足装束(あししやうぞく)(かた)め、234裏門(うらもん)より一散走(いちさんばし)りに()()した。
235 城内(じやうない)洋犬(かめ)()える(こゑ)がワウ ワウ ワウと(しき)りに(ひび)(きた)る。236秋山別(あきやまわけ)237モリスは(この)(こゑ)(みみ)()ませ、
238秋山(あきやま)何時(いつ)にない(いぬ)泣声(なきごゑ)239コリヤ一通(ひととほり)では(ござ)るまい。240第一(だいいち)241(ひめ)(さま)のお()(うへ)()づかはしい』
242()(なが)ら、243(ひめ)居間(ゐま)(まへ)(かけ)つけて()ると、244(こと)()はピタリと()んで()る。
245秋山(あきやま)(ひめ)(さま)246御免(ごめん)
247()(なが)ら、248(へだて)(ふすま)をガラリと引開(ひきあ)け、249(のぞ)()れば豈計(あにはか)らむや、250(こと)(ぬし)藻脱(もぬ)けの(から)251()しや便所(べんじよ)ではあるまいかと、252(さが)(まは)れども、253(ひめ)気配(けはい)もせぬ。254春子姫(はるこひめ)(おこ)して(たづ)ねむかと、255春子(はるこ)居間(ゐま)()つて()れば、256(これ)(また)藻脱(もぬ)けの(から)……
257秋山(あきやま)『コリヤ大変(たいへん)だ、258(しか)(なが)らこんな失態(しつたい)(えん)(なが)ら、259国司(こくし)()夫婦(ふうふ)(まをし)()げることは出来(でき)まい。260(さき)には若君(わかぎみ)取逃(とりにが)し、261今度(こんど)(また)姫君(ひめぎみ)取逃(とりにが)したと()はれては、262吾々(われわれ)両人(りやうにん)(しわ)(ぱら)()つて(まをし)(わけ)をするより(みち)()からう。263(さいはひ)まだ(たれ)()らぬ(うち)だ。264モリス殿(どの)265貴殿(きでん)両人(りやうにん)がソツと(さが)さうでは(ござ)らぬか』
266モリス『秋山別(あきやまわけ)殿(どの)267如何(いか)にも左様(さやう)268吾々(われわれ)大責任(だいせきにん)(ござ)れば、269城内(じやうない)人々(ひとびと)(わか)らぬ(うち)270(あま)(とほ)くは(まゐ)りますまい、271捜索(そうさく)(いた)しませう。272表門(おもてもん)(ひと)()()つ、273()づは裏門(うらもん)より』
274裏門(うらもん)()して(いそ)()く。275裏門(うらもん)()無造作(むざうさ)()(はな)たれ、276(をんな)半巾(はんかち)(ひと)()ちて()る。277モリスは(はや)くも半巾(はんかち)(ひろ)()げ、278夜明前(よあけまへ)月光(げつくわう)(てら)して()れば、279(はる)(しるし)がついて()る。280……テツキリ(これ)春子(はるこ)(ひめ)(さま)(しめ)(あは)せ、281逐電(ちくでん)したに(ちが)ひない……と()(なが)ら、282両人(りやうにん)裏門外(うらもんぐわい)階段(かいだん)をトントントンと()(なが)ら、283(つゑ)(ちから)()けつ(まろ)びつ、284馬場(ばんば)()(しげ)みを()して()つかけ()く。
285大正一三・一・二四 旧一二・一二・一九 伊予 於山口氏邸、松村真澄録)
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