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霊界物語
山河草木(第61~72巻、入蒙記)
第69巻(申の巻)
巻頭言
第1篇 清風涼雨
第1章 大評定
第2章 老断
第3章 喬育
第4章 国の光
第5章 性明
第6章 背水会
第2篇 愛国の至情
第7章 聖子
第8章 春乃愛
第9章 迎酒
第10章 宣両
第11章 気転使
第12章 悪原眠衆
第3篇 神柱国礎
第13章 国別
第14章 暗枕
第15章 四天王
第16章 波動
第4篇 新政復興
第17章 琴玉
第18章 老狽
第19章 老水
第20章 声援
第21章 貴遇
第22章 有終
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霊界物語
>
山河草木(第61~72巻、入蒙記)
>
第69巻(申の巻)
> 第1篇 清風涼雨 > 第2章 老断
<<< 大評定
(B)
(N)
喬育 >>>
第二章
老断
(
らうだん
)
〔一七四七〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第69巻 山河草木 申の巻
篇:
第1篇 清風涼雨
よみ(新仮名遣い):
せいふうりょうう
章:
第2章 老断
よみ(新仮名遣い):
ろうだん
通し章番号:
1747
口述日:
1924(大正13)年01月22日(旧12月17日)
口述場所:
伊予 山口氏邸
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1927(昭和2)年10月26日
概要:
舞台:
高砂城
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
岩治別が行方をくらました後、松若彦と伊佐彦は、善後策について、謀議をめぐらします。そこへ再び国照別が入ってきて、二人の古い考え方をやっつけます。国照別は、近いうちに城を出て、社会改革のために自ら民間に下るとの謎をかけて、その場を立ち去ります。
また、次に妹の春乃姫がやってきて松若彦、伊佐彦に隠退を勧告し、その古い頭を非難して、去って行きます。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm6902
愛善世界社版:
47頁
八幡書店版:
第12輯 288頁
修補版:
校定版:
49頁
普及版:
66頁
初版:
ページ備考:
001
松若彦
(
まつわかひこ
)
、
002
伊佐彦
(
いさひこ
)
の
大老
(
たいらう
)
、
003
老中株
(
らうぢうかぶ
)
は
数多
(
あまた
)
の
目付
(
めつけ
)
を
指揮
(
しき
)
し、
004
急進派
(
きふしんは
)
の
老中
(
らうぢう
)
岩治別
(
いははるわけ
)
を
捉
(
とら
)
へしめむとしたが、
005
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にやら
耳
(
みみ
)
ざとくも
城内
(
じやうない
)
を
脱
(
ぬ
)
け
出
(
だ
)
し
姿
(
すがた
)
をかくして
了
(
しま
)
つたので、
006
心配
(
しんぱい
)
は
益々
(
ますます
)
深
(
ふか
)
くなり、
007
煩悶
(
はんもん
)
苦悩
(
くなう
)
の
吐息
(
といき
)
をもらし、
008
両人
(
りやうにん
)
は
再
(
ふたた
)
び
評定所
(
ひやうぢやうしよ
)
に
卓子
(
テーブル
)
を
囲
(
かこ
)
んで、
009
コーヒーをすすり
乍
(
なが
)
ら
善後策
(
ぜんごさく
)
を
協議
(
けふぎ
)
してゐる。
010
松若彦
(
まつわかひこ
)
は
悲痛
(
ひつう
)
な
声
(
こゑ
)
で、
011
『
伊佐彦
(
いさひこ
)
殿
(
どの
)
、
012
国家
(
こくか
)
は
真
(
まこと
)
に
暴風
(
ばうふう
)
の
前
(
まへ
)
の
灯火
(
ともしび
)
に
等
(
ひと
)
しき
危機
(
きき
)
に
瀕
(
ひん
)
したでは
厶
(
ござ
)
らぬか。
013
少
(
すこ
)
し
許
(
ばかり
)
進歩
(
しんぽ
)
した
頭
(
あたま
)
だ
位
(
ぐらゐ
)
に
思
(
おも
)
つて、
014
彼
(
か
)
れ
岩治別
(
いははるわけ
)
を
老中
(
らうぢう
)
に
推薦
(
すいせん
)
し、
015
国務
(
こくむ
)
の
枢機
(
すうき
)
に
参加
(
さんか
)
せしめむとし、
016
彼
(
かれ
)
を
招
(
まね
)
いて
吾
(
わが
)
退職
(
たいしよく
)
を
口実
(
こうじつ
)
に
意見
(
いけん
)
を
叩
(
たた
)
いてみれば、
017
天地
(
てんち
)
容
(
い
)
れざる
国家
(
こくか
)
の
逆賊
(
ぎやくぞく
)
、
018
大野望
(
だいやばう
)
を
包蔵
(
はうざう
)
してゐる
岩治別
(
いははるわけ
)
、
019
如何
(
いか
)
にせば
此
(
この
)
珍
(
うづ
)
の
国家
(
こくか
)
を
泰山
(
たいざん
)
の
安
(
やす
)
きにおく
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
るであらうかな』
020
と
早
(
はや
)
くも
両眼
(
りやうがん
)
より
紅涙
(
こうるい
)
滂沱
(
ばうだ
)
と
滴
(
したた
)
らしてゐる。
021
伊佐彦
(
いさひこ
)
は
深
(
ふか
)
い
吐息
(
といき
)
をつき
乍
(
なが
)
ら、
022
『
如何
(
いか
)
にも
閣下
(
かくか
)
のお
言葉
(
ことば
)
の
通
(
とほ
)
り、
023
実
(
じつ
)
に
深憂
(
しんいう
)
に
堪
(
た
)
へませぬ。
024
乍併
(
しかしながら
)
最早
(
もはや
)
かくなる
上
(
うへ
)
は
025
閣下
(
かくか
)
と
拙者
(
せつしや
)
とあらむ
限
(
かぎ
)
りの
努力
(
どりよく
)
を
以
(
もつ
)
て
国家
(
こくか
)
を
未倒
(
みたう
)
に
救
(
すく
)
ひ、
026
国司
(
こくし
)
の
御心
(
みこころ
)
を
慰
(
なぐさ
)
め
奉
(
まつ
)
り、
027
国民
(
こくみん
)
安堵
(
あんど
)
の
途
(
みち
)
を
開
(
ひら
)
かねばなりませぬ。
028
乍併
(
しかしながら
)
彼
(
か
)
れ
岩治別
(
いははるわけ
)
、
029
敏捷
(
びんせふ
)
にも
罪
(
つみ
)
の
其
(
その
)
身
(
み
)
に
及
(
およ
)
ばむことを
前知
(
ぜんち
)
し、
030
鳩
(
はと
)
の
如
(
ごと
)
く
鼠
(
ねずみ
)
の
如
(
ごと
)
く、
0301
暗
(
やみ
)
に
紛
(
まぎ
)
れて
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
しました
以上
(
いじやう
)
は、
031
何
(
いづ
)
れどつかの
国
(
くに
)
の
涯
(
はて
)
にひそみ、
032
三平社
(
さんぺいしや
)
や
労働者
(
らうどうしや
)
、
033
対命舎
(
たいめいしや
)
等
(
など
)
を
駆
(
か
)
り
集
(
あつ
)
め、
034
国家
(
こくか
)
顛覆
(
てんぷく
)
を
企図
(
きと
)
し、
035
己
(
おの
)
が
欲望
(
よくばう
)
を
達
(
たつ
)
せむとして、
036
時
(
とき
)
を
俟
(
ま
)
ち
捲土
(
けんど
)
重来
(
ぢうらい
)
せむは
案
(
あん
)
の
内
(
うち
)
、
037
何
(
なん
)
とか
予防
(
よばう
)
の
方法
(
はうはふ
)
…
否
(
いな
)
彼
(
かれ
)
を
討滅
(
たうめつ
)
の
手段
(
しゆだん
)
を
講究
(
かうきう
)
しなくてはなりますまい。
038
かかる
天地
(
てんち
)
容
(
い
)
れざる
逆賊
(
ぎやくぞく
)
を
国内
(
こくない
)
に
放養
(
はうやう
)
しおくは、
039
猛虎
(
まうこ
)
を
野
(
の
)
に
放
(
はな
)
つよりは
危険
(
きけん
)
なことで
厶
(
ござ
)
りませう。
040
閣下
(
かくか
)
に
於
(
おい
)
ては、
041
定
(
さだ
)
めて
妙案
(
めうあん
)
奇策
(
きさく
)
のおはしますことと
存
(
ぞん
)
じますが…』
042
と
心配気
(
しんぱいげ
)
に
松若彦
(
まつわかひこ
)
の
顔
(
かほ
)
を
眼鏡越
(
めがねごし
)
に
覗
(
のぞ
)
きあげ、
043
光
(
ひか
)
つた
頭
(
あたま
)
を
右
(
みぎ
)
の
手
(
て
)
でツルリツルリと
二三
(
にさん
)
べん
撫
(
な
)
でまはし、
044
薬鑵
(
やくわん
)
の
尻
(
しり
)
を
手巾
(
はんけち
)
で
拭
(
ぬぐ
)
うた。
045
松若
(
まつわか
)
『
本当
(
ほんたう
)
に
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
だ。
046
最早
(
もはや
)
斯
(
か
)
うなる
上
(
うへ
)
は
手
(
て
)
ぬるい
手段
(
しゆだん
)
では
駄目
(
だめ
)
であらう。
047
此
(
この
)
城下
(
じやうか
)
に
保安令
(
ほあんれい
)
を
布
(
し
)
き、
048
目付
(
めつけ
)
やサグリを
増員
(
ぞうゐん
)
し
貧民窟
(
ひんみんくつ
)
の
隅々
(
すみずみ
)
迄
(
まで
)
も、
049
疑
(
うたが
)
はしき
者
(
もの
)
は
否応
(
いやおう
)
言
(
い
)
はさず
拘引
(
こういん
)
し、
050
大老
(
たいらう
)
の
権威
(
けんゐ
)
を
見
(
み
)
せなくては、
051
到底
(
たうてい
)
此
(
この
)
人心
(
じんしん
)
を
収攬
(
しうらん
)
することは
望
(
のぞ
)
まれないであらう。
052
現代
(
げんだい
)
の
如
(
ごと
)
き
人心
(
じんしん
)
悪化
(
あくくわ
)
の
頂点
(
ちやうてん
)
に
達
(
たつ
)
した
社会
(
しやくわい
)
には、
053
最早
(
もはや
)
、
054
煎薬
(
せんやく
)
や
水薬
(
みづぐすり
)
の
治療
(
ちりやう
)
では
駄目
(
だめ
)
で
厶
(
ござ
)
る。
055
外科
(
げくわ
)
的
(
てき
)
大手術
(
だいしゆじゆつ
)
を
施
(
ほどこ
)
し、
056
彼
(
かれ
)
等
(
ら
)
醜類
(
しうるゐ
)
を
根底
(
こんてい
)
より
剿滅
(
さうめつ
)
し、
057
国難
(
こくなん
)
を
未然
(
みぜん
)
に
防
(
ふせ
)
ぐより
方法
(
はうはふ
)
は
厶
(
ござ
)
るまい。
058
幸
(
さいは
)
ひ
吾々
(
われわれ
)
は
目付
(
めつけ
)
の
権
(
けん
)
を
手
(
て
)
に
握
(
にぎ
)
り、
059
且
(
かつ
)
有事
(
いうじ
)
の
日
(
ひ
)
には
大名
(
だいみやう
)
、
060
士
(
さむらい
)
を
使役
(
しえき
)
するの
特権
(
とくけん
)
を
有
(
いう
)
し
居
(
を
)
れば、
061
吾々
(
われわれ
)
の
今日
(
こんにち
)
の
立場
(
たちば
)
として、
062
最早
(
もはや
)
懐柔
(
くわいじう
)
も
善政
(
ぜんせい
)
も
駄目
(
だめ
)
で
厶
(
ござ
)
らう』
063
伊佐
(
いさ
)
『
成程
(
なるほど
)
仰
(
おほ
)
せ
御尤
(
ごもつと
)
も
乍
(
なが
)
ら…
私
(
わたし
)
は
考
(
かんが
)
へます、
064
先
(
ま
)
づ
衆生
(
しゆじやう
)
の
喜
(
よろこ
)
ぶ
相談権
(
さうだんけん
)
を
与
(
あた
)
へ、
065
徳政案
(
とくせいあん
)
とか
其
(
その
)
外
(
ほか
)
衆生
(
しゆじやう
)
の
人気
(
にんき
)
に
投
(
とう
)
ずる
政策
(
せいさく
)
を
標榜
(
へうばう
)
し、
066
以
(
もつ
)
て
今
(
いま
)
や
破裂
(
はれつ
)
せむとする
噴火口
(
ふんくわこう
)
を
防
(
ふせ
)
ぎ
067
曠日
(
くわうじつ
)
瀰久
(
びきう
)
、
068
以
(
もつ
)
て
一
(
いち
)
時
(
じ
)
登
(
のぼ
)
りつめたる
人心
(
じんしん
)
を
倦
(
う
)
ましめ、
069
骨
(
ほね
)
を
抜
(
ぬ
)
き、
070
血
(
ち
)
を
絞
(
しぼ
)
り、
071
元気
(
げんき
)
を
消耗
(
せうまう
)
せしめて、
072
併
(
しか
)
して
後
(
のち
)
絶対
(
ぜつたい
)
無限
(
むげん
)
の
権威
(
けんゐ
)
を
示
(
しめ
)
しなば、
073
さしもに
熾烈
(
しれつ
)
なる
衆生
(
しゆじやう
)
運動
(
うんどう
)
も、
074
投槍
(
なげやり
)
思想
(
しさう
)
も
其
(
そ
)
の
他
(
た
)
の
悪思想
(
あくしさう
)
も
首
(
くび
)
を
擡
(
もた
)
ぐるに
由
(
よし
)
なく
自滅
(
じめつ
)
するで
厶
(
ござ
)
らう。
075
閣下
(
かくか
)
の
御
(
ご
)
意見
(
いけん
)
は
如何
(
いかが
)
で
厶
(
ござ
)
いまするか』
076
松若
(
まつわか
)
『
拙者
(
せつしや
)
とても
妄
(
みだ
)
りに
国家
(
こくか
)
の
干城
(
かんじやう
)
を
動員
(
どうゐん
)
し、
077
或
(
あるひ
)
は
衆生
(
しゆじやう
)
を
目付
(
めつけ
)
やサグリを
以
(
もつ
)
て
鎮圧
(
ちんあつ
)
するは
拙
(
せつ
)
の
拙
(
せつ
)
なるものたる
事
(
こと
)
は
承知
(
しようち
)
し
居
(
を
)
れ
共
(
ども
)
、
078
焦頭
(
せうとう
)
爛額
(
らんがく
)
の
急
(
きふ
)
に
迫
(
せま
)
つた
今日
(
こんにち
)
の
場合
(
ばあひ
)
、
079
之
(
これ
)
より
方法
(
はうはふ
)
はあるまいと
存
(
ぞん
)
ずるからだ。
080
直
(
ぢき
)
相談案
(
さうだんあん
)
の
餌
(
ゑ
)
に、
081
民心
(
みんしん
)
を
籠絡
(
ろうらく
)
するも
一策
(
いつさく
)
だらう、
082
徳政案
(
とくせいあん
)
も
一
(
いち
)
時
(
じ
)
の
緩和剤
(
くわんわざい
)
となるだらう。
083
今日
(
こんにち
)
は
最早
(
もはや
)
正直
(
しやうぢき
)
では
執
(
と
)
れない。
084
某々
(
ぼうぼう
)
の
如
(
ごと
)
き
政治家
(
せいぢか
)
は
正直
(
しやうぢき
)
過
(
す
)
ぎるから、
085
何時
(
いつ
)
も
内甲
(
うちかぶと
)
を
見
(
み
)
すかされ、
086
失敗
(
しつぱい
)
を
繰返
(
くりかへ
)
し、
087
遂
(
つひ
)
には
党
(
たう
)
の
分裂
(
ぶんれつ
)
を
来
(
きた
)
したではないか。
088
非常
(
ひじやう
)
の
時
(
とき
)
には
非常
(
ひじやう
)
の
手段
(
しゆだん
)
が
必要
(
ひつえう
)
だらう。
089
伊佐彦
(
いさひこ
)
殿
(
どの
)
、
090
如何
(
いかが
)
で
厶
(
ござ
)
らうかな』
091
伊佐
(
いさ
)
『
成程
(
なるほど
)
、
092
今日
(
こんにち
)
の
時局
(
じきよく
)
に
対
(
たい
)
しては
清廉
(
せいれん
)
潔白
(
けつぱく
)
とか
正直
(
しやうぢき
)
とか
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は、
093
害
(
がい
)
あつて
益
(
えき
)
ないことで
厶
(
ござ
)
いませう。
094
仰
(
おほ
)
せの
如
(
ごと
)
く
権謀
(
けんぼう
)
術数
(
じゆつすう
)
、
095
或
(
あるひ
)
は
妥協
(
だけふ
)
政治
(
せいぢ
)
を
以
(
もつ
)
て
現代
(
げんだい
)
に
処
(
しよ
)
するのが
最
(
もつと
)
も
賢明
(
けんめい
)
なる
行方
(
やりかた
)
で
厶
(
ござ
)
いませう』
096
と
次第
(
しだい
)
に
声
(
こゑ
)
が
高
(
たか
)
くなり、
097
両人
(
りやうにん
)
は
拳
(
こぶし
)
を
握
(
にぎ
)
り、
098
卓
(
たく
)
を
叩
(
たた
)
いて
花瓶
(
くわびん
)
にさした
山吹
(
やまぶき
)
の
花弁
(
はなびら
)
を
一面
(
いちめん
)
に
散
(
ち
)
らしてゐる。
099
そこへ
軽装
(
けいさう
)
をして
又
(
また
)
もや
国照別
(
くにてるわけ
)
が
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
100
国照
(
くにてる
)
『ハヽヽ
御
(
ご
)
両所
(
りやうしよ
)
共
(
とも
)
、
101
国家
(
こくか
)
の
為
(
ため
)
心慮
(
しんりよ
)
を
悩
(
なや
)
ませられ、
102
国照別
(
くにてるわけ
)
身
(
み
)
に
取
(
と
)
り
恐懼
(
きようく
)
措
(
お
)
く
所
(
ところ
)
を
知
(
し
)
らざる
次第
(
しだい
)
で
厶
(
ござ
)
います。
103
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
珍
(
うづ
)
の
国
(
くに
)
第一流
(
だいいちりう
)
の
大
(
だい
)
政治家
(
せいぢか
)
の
巨頭
(
きよとう
)
の
会合
(
くわいがふ
)
、
104
定
(
さだ
)
めて
神案
(
しんあん
)
妙策
(
めうさく
)
がひねり
出
(
だ
)
された
事
(
こと
)
でせう』
105
と
揶揄
(
からか
)
ひ
始
(
はじ
)
めた。
106
二人
(
ふたり
)
は
若君
(
わかぎみ
)
に
茶化
(
ちやくわ
)
されて
怒
(
おこ
)
る
訳
(
わけ
)
にもゆかず、
107
「チエー」と
秘
(
ひそ
)
かに
舌打
(
したうち
)
し
乍
(
なが
)
ら、
108
ワザと
謹厳
(
きんげん
)
な
態度
(
たいど
)
で
椅子
(
いす
)
を
離
(
はな
)
れ、
109
直立
(
ちよくりつ
)
して
両手
(
りやうて
)
を
帯
(
おび
)
の
下
(
した
)
あたりまで
垂直
(
すゐちよく
)
に
下
(
さ
)
げ、
110
立礼
(
りつれい
)
を
施
(
ほどこ
)
し
乍
(
なが
)
ら、
111
松若
(
まつわか
)
『
若君
(
わかぎみ
)
様
(
さま
)
、
112
能
(
よ
)
くこそ
入
(
い
)
らせられました。
113
微臣
(
びしん
)
等
(
ら
)
には
国政
(
こくせい
)
上
(
じやう
)
の
問題
(
もんだい
)
に
就
(
つ
)
き、
114
秘密
(
ひみつ
)
の
相談
(
さうだん
)
も
厶
(
ござ
)
いますれば、
115
どうか
暫
(
しばら
)
く、
116
恐
(
おそ
)
れ
乍
(
なが
)
ら
奥殿
(
おくでん
)
へ
御
(
お
)
帰
(
かへ
)
り
下
(
くだ
)
さいませ』
117
伊佐
(
いさ
)
『
大老
(
たいらう
)
の
仰
(
おほ
)
せの
如
(
ごと
)
く、
118
只
(
ただ
)
今
(
いま
)
国務
(
こくむ
)
上
(
じやう
)
の
件
(
けん
)
に
就
(
つ
)
き、
119
大至急
(
だいしきふ
)
相談
(
さうだん
)
を
要
(
えう
)
する
場合
(
ばあひ
)
で
厶
(
ござ
)
いますれば、
120
恐
(
おそ
)
れ
乍
(
なが
)
らどうぞ
少時
(
しばらく
)
お
引取
(
ひきとり
)
を
願
(
ねが
)
ひまする』
121
国照
(
くにてる
)
『ハヽヽ
岩治別
(
いははるわけ
)
の
投槍
(
なげやり
)
老中
(
らうぢう
)
が
消滅
(
せうめつ
)
したので、
122
定
(
さだ
)
めて、
123
円満
(
ゑんまん
)
な
熟議
(
じゆくぎ
)
が
凝
(
こ
)
らされるだらう。
124
ヤ、
125
国家
(
こくか
)
の
為
(
ため
)
拙者
(
せつしや
)
は
大慶
(
だいけい
)
至極
(
しごく
)
に
存
(
ぞん
)
ずる。
126
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
両老
(
りやうらう
)
に
尋
(
たづ
)
ねたい
事
(
こと
)
がある』
127
松若
(
まつわか
)
『ハイ
恐
(
おそ
)
れ
入
(
い
)
りました。
128
何事
(
なにごと
)
なり
共
(
とも
)
御
(
お
)
尋
(
たづ
)
ね
下
(
くだ
)
さいませ』
129
国照
(
くにてる
)
『お
前
(
まへ
)
は
今
(
いま
)
廊下
(
らうか
)
で
聞
(
き
)
いて
居
(
を
)
れば、
130
某々
(
ぼうぼう
)
は
正直
(
しやうぢき
)
すぎるから、
131
党
(
たう
)
の
内紛
(
ないふん
)
を
醸
(
かも
)
し
失敗
(
しつぱい
)
したと
云
(
い
)
ふたぢやないか。
132
正直
(
しやうぢき
)
すぎるとは、
133
ソラ
一体
(
いつたい
)
何
(
なん
)
の
事
(
こと
)
か。
134
要
(
えう
)
するに
正直
(
しやうぢき
)
もよいが、
135
チツとは
詐欺
(
さぎ
)
もやれ、
136
権謀
(
けんぼう
)
術数
(
じゆつすう
)
を
用
(
もち
)
ひなくては
今日
(
こんにち
)
の
政局
(
せいきよく
)
は
保
(
たも
)
てないといふのであらう。
137
某
(
ぼう
)
の
如
(
ごと
)
く
正直
(
しやうぢき
)
過
(
す
)
ぎる
為
(
ため
)
失敗
(
しつぱい
)
したのならば、
138
本望
(
ほんまう
)
ではないか。
139
上下
(
じやうか
)
一般
(
いつぱん
)
の
人間
(
にんげん
)
を
詐
(
いつは
)
つてまで、
140
政権
(
せいけん
)
を
掌握
(
しやうあく
)
する
必要
(
ひつえう
)
がどこにあるか。
141
正直
(
しやうぢき
)
過
(
すぎ
)
るといふ
其
(
その
)
意味
(
いみ
)
を
聞
(
き
)
かして
貰
(
もら
)
ひたいものだ』
142
とつめかけられ、
143
両人
(
りやうにん
)
は
返答
(
へんたふ
)
に
詰
(
つ
)
まり、
144
顔
(
かほ
)
赤
(
あか
)
らめて、
145
『ハイ』と
云
(
い
)
つたきり
俯向
(
うつむ
)
いてゐる。
146
国照
(
くにてる
)
『ハヽヽ、
147
ヨモヤ
返答
(
へんたふ
)
は
出来
(
でき
)
ようまい。
148
正直
(
しやうぢき
)
過
(
す
)
ぎる
政治家
(
せいぢか
)
が
用
(
もち
)
ひられない
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
だから、
149
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
の
羽振
(
はぶり
)
が
利
(
き
)
くのだらう。
150
そしてモ
一
(
ひと
)
つ
問
(
と
)
ひたい
事
(
こと
)
がある……
国家
(
こくか
)
枢要
(
すうえう
)
の
事務
(
じむ
)
を
協議
(
けふぎ
)
してゐる
最中
(
さいちう
)
だから、
151
奥
(
おく
)
へ
引取
(
ひきと
)
つてくれといつたでないか。
152
なぜ
政治
(
せいぢ
)
の
枢機
(
すうき
)
に
俺
(
おれ
)
が
参加
(
さんか
)
することが
出来
(
でき
)
ないのだ。
153
若輩者
(
じやくはいしや
)
と
見
(
み
)
くびつての
故
(
ゆゑ
)
か、
154
但
(
ただ
)
しは
俺
(
おれ
)
を
信用
(
しんよう
)
しないのか、
155
言葉
(
ことば
)
の
上
(
うへ
)
に
於
(
おい
)
て
若君
(
わかぎみ
)
々々
(
わかぎみ
)
と
尊敬
(
そんけい
)
し
乍
(
なが
)
ら、
156
汝
(
おまへ
)
等
(
たち
)
の
心中
(
しんちう
)
に
於
(
おい
)
ては、
157
已
(
すで
)
に
俺
(
おれ
)
を
認
(
みと
)
めてゐないのか、
158
サア
其
(
その
)
返答
(
へんたふ
)
を
聞
(
き
)
かして
貰
(
もら
)
はう』
159
と
二
(
に
)
の
矢
(
や
)
をさされて
二人
(
ふたり
)
はグウの
音
(
ね
)
も
出
(
で
)
ず、
160
俯
(
うつ
)
むいて
慄
(
ふる
)
うてゐる。
161
国照
(
くにてる
)
『アツハヽヽヽ、
162
オイ、
163
両人
(
りやうにん
)
、
164
薬鑵
(
やくわん
)
が
漏
(
も
)
つてゐるぢやないか、
165
みつともないぞ。
166
一層
(
いつそ
)
の
事
(
こと
)
、
167
両人
(
りやうにん
)
共
(
とも
)
国家
(
こくか
)
の
為
(
ため
)
に
老職
(
らうしよく
)
を
廃業
(
はいげふ
)
して、
168
市井
(
しせい
)
の
巷
(
ちまた
)
に
下
(
くだ
)
り、
169
饂飩屋
(
うどんや
)
でもやつたらどうだ。
170
それの
方
(
はう
)
が
余程
(
よほど
)
国家
(
こくか
)
の
利益
(
りえき
)
になるかも
知
(
し
)
れないぞ。
171
岩治別
(
いははるわけ
)
のやうにトツトと
尻
(
しり
)
をからげて
退却
(
たいきやく
)
した
方
(
はう
)
が、
172
何
(
なに
)
程
(
ほど
)
衆生
(
しゆじやう
)
の
気受
(
きうけ
)
がよいか
分
(
わか
)
つたものぢやない。
173
腐
(
くさ
)
り
鰯
(
いわし
)
が
火箸
(
ひばし
)
にひつついたやうに、
174
いつ
迄
(
まで
)
もコビリついてゐると、
175
誰
(
たれ
)
も
見返
(
みかへ
)
る
者
(
もの
)
がなくなつて
了
(
しま
)
ふぞ。
176
一
(
いち
)
にも
権力
(
けんりよく
)
、
177
二
(
に
)
にも
暴力
(
ばうりよく
)
を
唯一
(
ゆゐいつ
)
の
武器
(
ぶき
)
として
国政
(
こくせい
)
を
維持
(
ゐぢ
)
するやうな
事
(
こと
)
で、
178
何
(
ど
)
うして
王道
(
わうだう
)
仁政
(
じんせい
)
が
布
(
し
)
かれると
思
(
おも
)
ふか。
179
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
の
行
(
や
)
る
政治
(
せいぢ
)
は
所謂
(
いはゆる
)
権道
(
けんだう
)
だ、
180
覇道
(
はだう
)
だ、
181
強
(
つよ
)
きを
扶
(
たす
)
け、
182
弱
(
よわ
)
きを
圧倒
(
あつたう
)
せむとする
悪魔
(
あくま
)
の
政治
(
せいぢ
)
だ。
183
僕
(
ぼく
)
はお
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
の
陰謀
(
いんぼう
)
を
前知
(
ぜんち
)
し
184
岩治別
(
いははるわけ
)
に
内報
(
ないはう
)
して
裏門
(
うらもん
)
より
遁走
(
とんそう
)
させ、
185
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
の
計略
(
けいりやく
)
の
裏
(
うら
)
をかかしてやつたのだ。
186
それが
分
(
わか
)
らぬやうな
事
(
こと
)
で、
187
どうして
一国
(
いつこく
)
の
大老
(
たいらう
)
がつとまるか。
188
沐猴
(
もくこう
)
の
冠
(
くわん
)
するといふは
所謂
(
いはゆる
)
デモ
大老
(
たいらう
)
の
状態
(
じやうたい
)
を
遺憾
(
ゐかん
)
なく
云
(
い
)
ひ
現
(
あら
)
はした
言葉
(
ことば
)
であらうよ、
189
アツハヽヽ。
190
テモ
扨
(
さて
)
もつまらな
相
(
さう
)
な……
心配
(
しんぱい
)
相
(
さう
)
な
面付
(
つらつき
)
だのう。
191
到底
(
たうてい
)
其
(
その
)
顔
(
かほ
)
は
二
(
に
)
年
(
ねん
)
や
三
(
さん
)
年
(
ねん
)
では
復興
(
ふくこう
)
せうまいよ。
192
自転倒
(
おのころ
)
島
(
じま
)
の
震災
(
しんさい
)
の
様
(
やう
)
に
復興
(
ふくこう
)
するのは
容易
(
ようい
)
だあるまい、
193
アツハヽヽ』
194
松若彦
(
まつわかひこ
)
は
容
(
かたち
)
を
正
(
ただ
)
し、
195
『コレハ コレハ
若君
(
わかぎみ
)
様
(
さま
)
の
御諚
(
ごぢやう
)
とはいひ、
196
余
(
あま
)
りに
理不尽
(
りふじん
)
なお
言葉
(
ことば
)
、
197
此
(
この
)
老臣
(
らうしん
)
を
見
(
み
)
るに
牛馬
(
ぎうば
)
を
以
(
もつ
)
て
遇
(
ぐう
)
せらるるは
怪
(
け
)
しからぬ
事
(
こと
)
では
厶
(
ござ
)
らぬか。
198
拙者
(
せつしや
)
は
正鹿
(
まさか
)
山津見
(
やまづみの
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御代
(
みよ
)
より
祖先
(
そせん
)
代々
(
だいだい
)
国政
(
こくせい
)
を
預
(
あづか
)
り、
199
御
(
おん
)
母上
(
ははうへ
)
末子姫
(
すゑこひめ
)
様
(
さま
)
に
此
(
この
)
国土
(
こくど
)
を
奉還
(
ほうくわん
)
致
(
いた
)
し、
200
御
(
おん
)
父上
(
ちちうへ
)
を
迎
(
むか
)
へて
国司
(
こくし
)
と
仰
(
あふ
)
ぎ
仕
(
つか
)
へまつり
来
(
きた
)
りし
者
(
もの
)
、
201
外
(
ほか
)
の
臣下
(
しんか
)
とは
少
(
すこ
)
しく
違
(
ちが
)
ひますぞ。
202
如何
(
いか
)
に
珍
(
うづ
)
の
国司
(
こくし
)
の
若君
(
わかぎみ
)
なればとて、
203
拙者
(
せつしや
)
をさしおき、
204
自由
(
じいう
)
に
施政
(
しせい
)
方針
(
はうしん
)
をおきめ
遊
(
あそ
)
ばす
事
(
こと
)
は
事実
(
じじつ
)
に
於
(
おい
)
て
出来
(
でき
)
ないといふ
不文律
(
ふぶんりつ
)
が
定
(
た
)
つて
居
(
を
)
りますぞ』
205
と
祖先
(
そせん
)
を
引張
(
ひつぱり
)
出
(
だ
)
して
気色
(
きしよく
)
ばみ
乍
(
なが
)
ら
一矢
(
いつし
)
を
酬
(
むく
)
うた。
206
国照別
(
くにてるわけ
)
は
平然
(
へいぜん
)
として、
207
『ハツハヽヽヽ、
208
昔
(
むかし
)
の
歴史
(
れきし
)
を
引張
(
ひつぱり
)
出
(
だ
)
して、
209
何某
(
なにがし
)
の
国司
(
こくし
)
累代
(
るゐだい
)
の
後胤
(
こういん
)
などといふ
様
(
やう
)
なバラモン
的
(
てき
)
言草
(
いひぐさ
)
は
210
数十
(
すうじふ
)
年
(
ねん
)
過去
(
くわこ
)
の
時代
(
じだい
)
に
用
(
もち
)
ゐられた
言葉
(
ことば
)
だ、
211
さやうな
古
(
ふる
)
い
脳味噌
(
なうみそ
)
だから
国家
(
こくか
)
が
治
(
をさ
)
まらないのだ。
212
今日
(
こんにち
)
珍
(
うづ
)
の
国
(
くに
)
の
人心
(
じんしん
)
の
荒
(
すさ
)
んでゐるのは、
213
要
(
えう
)
するに
国司
(
こくし
)
の
罪
(
つみ
)
でもない。
214
此
(
この
)
国
(
くに
)
は
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
守
(
まも
)
りある
以上
(
いじやう
)
、
215
決
(
けつ
)
して
亡
(
ほろ
)
ぶるものではない。
216
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
汝
(
おまへ
)
の
如
(
ごと
)
き
没常識漢
(
わからずや
)
が
上
(
うへ
)
にある
間
(
あひだ
)
は
217
世
(
よ
)
はいつ
迄
(
まで
)
も
平安
(
へいあん
)
なることは
望
(
のぞ
)
まれない。
218
珍
(
うづ
)
の
国
(
くに
)
を
今日
(
こんにち
)
の
状態
(
じやうたい
)
に
導
(
みちび
)
いたのは
汝
(
おまへ
)
等
(
ら
)
の
大責任
(
だいせきにん
)
であるぞ。
219
能
(
よ
)
く
両人
(
りやうにん
)
共
(
とも
)
胸
(
むね
)
に
手
(
て
)
を
当
(
あ
)
て、
220
自
(
みづか
)
ら
省
(
かへり
)
み、
221
自
(
みづか
)
ら
悔
(
く
)
い、
222
其
(
その
)
無能
(
むのう
)
を
恥
(
は
)
ぢ、
223
無智
(
むち
)
を
覚
(
さと
)
り、
224
時代
(
じだい
)
に
目
(
め
)
を
醒
(
さ
)
まし、
225
天命
(
てんめい
)
を
畏
(
おそ
)
れ、
226
以
(
もつ
)
て
最善
(
さいぜん
)
の
処決
(
しよけつ
)
をしたが
可
(
よ
)
からう。
227
俺
(
おれ
)
も
何時
(
いつ
)
迄
(
まで
)
も
若君
(
わかぎみ
)
様
(
さま
)
では
居
(
を
)
られないのだから………』
228
松若
(
まつわか
)
『そらさうで
厶
(
ござ
)
いませう
共
(
とも
)
、
229
国司
(
こくし
)
様
(
さま
)
は
御
(
ご
)
老齢
(
らうれい
)
、
230
何時
(
いつ
)
も
御
(
ご
)
病気
(
びやうき
)
勝
(
がち
)
、
231
何時
(
いつ
)
御
(
ご
)
上天
(
しやうてん
)
遊
(
あそ
)
ばすかも
知
(
し
)
れませぬ。
232
さうなれば
若君
(
あなた
)
が
一国
(
いつこく
)
の
柱石
(
ちうせき
)
、
233
いつ
迄
(
まで
)
も
嬢
(
ぢやう
)
や
坊
(
ぼん
)
でも
居
(
ゐ
)
られますまい。
234
それだから
少
(
すこ
)
しは
爺
(
ぢい
)
の
云
(
い
)
ふこともお
耳
(
みみ
)
に
止
(
と
)
めて
頂
(
いただ
)
かねばなりませぬ』
235
と
顔
(
かほ
)
の
居
(
ゐ
)
ずまひを
直
(
なほ
)
し、
236
仔細
(
しさい
)
らしく
述
(
の
)
べ
立
(
た
)
てる。
237
併
(
しか
)
し
今
(
いま
)
国照別
(
くにてるわけ
)
が………
何時
(
いつ
)
迄
(
まで
)
も
若君
(
わかぎみ
)
様
(
さま
)
ではをられない……と
云
(
い
)
つたのは、
238
近
(
ちか
)
い
内
(
うち
)
清家
(
せいか
)
生活
(
せいくわつ
)
から
放
(
はな
)
れ、
239
民間
(
みんかん
)
に
下
(
くだ
)
つて
徹底
(
てつてい
)
的
(
てき
)
に
社会
(
しやくわい
)
を
改造
(
かいざう
)
せむと
考
(
かんが
)
へてゐた
事
(
こと
)
をフツと
漏
(
も
)
らしたのである。
240
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
両人
(
りやうにん
)
は
若君
(
わかぎみ
)
にそんな
考
(
かんが
)
へがあるとは
神
(
かみ
)
ならぬ
身
(
み
)
の
夢
(
ゆめ
)
にも
知
(
し
)
らなかつたので、
241
此
(
この
)
場
(
ば
)
は
無難
(
ぶなん
)
に
済
(
す
)
んだのである。
242
国照別
(
くにてるわけ
)
は
冷笑
(
れいせう
)
を
泛
(
うか
)
べ
乍
(
なが
)
ら、
243
足音
(
あしおと
)
高
(
たか
)
く
吾
(
わが
)
居間
(
ゐま
)
に
帰
(
かへ
)
つてゆく。
244
後
(
あと
)
に
二人
(
ふたり
)
は
首
(
くび
)
を
鳩
(
あつ
)
め、
245
声
(
こゑ
)
を
低
(
ひく
)
うして、
246
松若
(
まつわか
)
『
伊佐彦
(
いさひこ
)
殿
(
どの
)
、
247
若君
(
わかぎみ
)
様
(
さま
)
があゝいふ
御
(
ご
)
精神
(
せいしん
)
では
248
吾々
(
われわれ
)
も
到底
(
たうてい
)
職
(
しよく
)
に
止
(
とど
)
まることが
出来
(
でき
)
ぬでは
厶
(
ござ
)
らぬか。
249
一層
(
いつそ
)
のこと
潔
(
いさぎよ
)
く
辞職
(
じしよく
)
を
致
(
いた
)
し、
250
閑地
(
かんち
)
については
如何
(
どう
)
で
厶
(
ござ
)
らうかな』
251
伊佐
(
いさ
)
『
貴方
(
あなた
)
のお
言葉
(
ことば
)
とも
覚
(
おぼ
)
えませぬ。
252
貴方
(
あなた
)
は
国司
(
こくし
)
を
補佐
(
ほさ
)
すべき
御
(
お
)
家柄
(
いへがら
)
の
生
(
うま
)
れ、
253
吾々
(
われわれ
)
の
如
(
ごと
)
き
氏素性
(
うぢすじやう
)
の
卑
(
いや
)
しき
者
(
もの
)
と
同日
(
どうじつ
)
に
考
(
かんが
)
へることは
出来
(
でき
)
ますまい。
254
仮令
(
たとへ
)
御
(
ご
)
退隠
(
たいいん
)
遊
(
あそ
)
ばしても、
255
内局
(
ないきよく
)
組織
(
そしき
)
の
時
(
とき
)
には
国司
(
こくし
)
からもキツとお
尋
(
たづ
)
ねもあるだらうし、
256
又
(
また
)
腰抜
(
こしぬけ
)
の
政治家
(
せいぢか
)
共
(
ども
)
がお
百度
(
ひやくど
)
参
(
まゐ
)
りをしてお
指図
(
さしづ
)
を
仰
(
あふ
)
ぎに
行
(
ゆ
)
くでせうから、
257
到底
(
たうてい
)
貴方
(
あなた
)
は
珍
(
うづ
)
の
国
(
くに
)
の
政治
(
せいぢ
)
圏外
(
けんぐわい
)
を
脱
(
だつ
)
することは
出来
(
でき
)
ますまい。
258
それが
貴方
(
あなた
)
の
珍
(
うづ
)
の
国
(
くに
)
に
対
(
たい
)
する
忠誠
(
ちうせい
)
で
厶
(
ござ
)
いますからな』
259
松若
(
まつわか
)
『なる
程
(
ほど
)
、
260
それも
思
(
おも
)
はぬではないが、
261
余
(
あま
)
りのことで
実
(
じつ
)
は
心
(
こころ
)
が
迷
(
まよ
)
ふのだ。
262
あゝ
人生
(
じんせい
)
政治家
(
せいぢか
)
となる
勿
(
なか
)
れ……とはよく
言
(
い
)
つたものだなア』
263
と
青
(
あを
)
い
吐息
(
といき
)
をつく。
264
伊佐
(
いさ
)
『
御
(
ご
)
苦心
(
くしん
)
御
(
お
)
察
(
さつ
)
し
申
(
まを
)
します。
265
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
国司
(
こくし
)
様
(
さま
)
の
前
(
まへ
)
で、
266
貴方
(
あなた
)
は
仮
(
か
)
りにも
辞意
(
じい
)
をお
洩
(
も
)
らしになつてはいけませぬぞ。
267
御
(
ご
)
老齢
(
らうれい
)
の
国司
(
こくし
)
に
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
をかけては、
268
臣子
(
しんし
)
たる
者
(
もの
)
の
役
(
やく
)
がすみませぬからなア。
269
それ
丈
(
だけ
)
は
伊佐彦
(
いさひこ
)
が
命
(
いのち
)
に
替
(
か
)
へても
御
(
ご
)
注意
(
ちうい
)
を
申
(
まをし
)
上
(
あ
)
げておきます』
270
松若
(
まつわか
)
『いかにも
貴殿
(
きでん
)
の
言
(
い
)
はるる
通
(
とほ
)
りだ。
271
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
進
(
すす
)
みもならず
退
(
しりぞ
)
きもならず、
272
実
(
じつ
)
に
困
(
こま
)
つた
世態
(
せたい
)
になつたものだなア。
273
アヽ
何
(
ど
)
うしたら
可
(
よ
)
からうかなア』
274
次
(
つぎ
)
の
間
(
ま
)
から
若
(
わか
)
い
声
(
こゑ
)
で
275
『
展開
(
てんかい
)
の
道
(
みち
)
は
只
(
ただ
)
辞職
(
じしよく
)
の
一途
(
いつと
)
あるのみだ』
276
と
叫
(
さけ
)
ぶ
声
(
こゑ
)
が
聞
(
きこ
)
えて
来
(
く
)
る。
277
二人
(
ふたり
)
はハツと
驚
(
おどろ
)
き
耳
(
みみ
)
欹
(
そばだ
)
てて
考
(
かんが
)
へ
込
(
こ
)
んでゐる。
278
少時
(
しばらく
)
すると、
279
隔
(
へだて
)
の
襖
(
ふすま
)
を
無雑作
(
むざふさ
)
に
押
(
おし
)
開
(
ひら
)
き、
280
浴衣
(
ゆかた
)
の
儘
(
まま
)
現
(
あら
)
はれ
来
(
き
)
たのは
春乃姫
(
はるのひめ
)
であつた。
281
春乃
(
はるの
)
『
二人
(
ふたり
)
の
老爺
(
おぢい
)
さま、
282
お
兄
(
あに
)
さまのあれ
丈
(
だけ
)
の
御
(
ご
)
注意
(
ちうい
)
が
未
(
いま
)
だ
分
(
わか
)
らないのかい。
283
本当
(
ほんたう
)
に
古
(
ふる
)
い
頭
(
あたま
)
だね』
284
二人
(
ふたり
)
は
春乃姫
(
はるのひめ
)
の
顔
(
かほ
)
を
見
(
み
)
るより、
285
俄
(
にはか
)
に
威儀
(
ゐぎ
)
を
正
(
ただ
)
し、
286
頭
(
かしら
)
を
下
(
さ
)
げ
乍
(
なが
)
ら、
287
松若
(
まつわか
)
『
恐
(
おそ
)
れ
入
(
い
)
ります。
288
何分
(
なにぶん
)
任
(
にん
)
重
(
おも
)
くして
徳
(
とく
)
足
(
た
)
らず、
289
実
(
じつ
)
に
国司
(
こくし
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
心慮
(
しんりよ
)
を
悩
(
なや
)
まし
奉
(
まつ
)
り、
290
申
(
まを
)
し
訳
(
わけ
)
が
厶
(
ござ
)
いませぬ』
291
春乃
(
はるの
)
『ホヽヽヽ
嘘
(
うそ
)
許
(
ばか
)
り
爺
(
ぢい
)
達
(
たち
)
は
云
(
い
)
ふぢやないか。
292
任
(
にん
)
重
(
おも
)
くして
徳
(
とく
)
足
(
た
)
らぬといふ
事
(
こと
)
の
自覚
(
じかく
)
がついてゐるのなら、
293
なぜ
早
(
はや
)
く
挂冠
(
けいくわん
)
をせないのか。
294
今
(
いま
)
妾
(
わらは
)
に
云
(
い
)
つた
事
(
こと
)
は
表面
(
へうめん
)
を
飾
(
かざ
)
る
辞令
(
じれい
)
にすぎないのだらう。
295
任
(
にん
)
は
重
(
おも
)
し、
296
徳
(
とく
)
あり
智
(
ち
)
あれ
共
(
ども
)
時代
(
じだい
)
の
進展
(
しんてん
)
上
(
じやう
)
此
(
この
)
上
(
うへ
)
施
(
ほどこ
)
すべき
手段
(
しゆだん
)
なし、
297
吾
(
われ
)
にして
斯
(
かく
)
の
如
(
ごと
)
しとすれば、
298
其
(
その
)
他
(
た
)
の
末輩
(
まつぱい
)
共
(
ども
)
が
幾度
(
いくど
)
出
(
い
)
でて
其
(
その
)
任
(
にん
)
に
当
(
あた
)
るとも、
299
到底
(
たうてい
)
吾
(
われ
)
以上
(
いじやう
)
の
政治
(
せいぢ
)
はなし
能
(
あた
)
はざるべし。
300
忽
(
たちま
)
ち
国家
(
こくか
)
を
滅亡
(
めつぼう
)
の
淵
(
ふち
)
に
投入
(
なげい
)
るるならむ。
301
乃公
(
だいこう
)
出
(
い
)
でずむば、
302
此
(
この
)
国家
(
こくか
)
と
蒼生
(
さうせい
)
を
如何
(
いか
)
にせむ
底
(
てい
)
の
自負心
(
じふしん
)
にかられてゐるのだらう。
303
それに
違
(
ちが
)
ひはあるまいがな、
304
ホヽヽヽ。
305
若
(
わか
)
い
女
(
をんな
)
の
分際
(
ぶんざい
)
として
経験
(
けいけん
)
深
(
ふか
)
きお
爺
(
ぢい
)
さま
達
(
たち
)
に
失礼
(
しつれい
)
なことを
申
(
まを
)
しました。
306
神直日
(
かむなほひ
)
大直日
(
おほなほひ
)
に
見直
(
みなほ
)
し
聞直
(
ききなほ
)
し、
307
速
(
すみやか
)
に
許
(
ゆる
)
して
頂戴
(
ちやうだい
)
ね。
308
大
(
おほ
)
きに
失礼
(
しつれい
)
さま、
309
ホヽヽヽヽ』
310
と
笑
(
わら
)
ひ
乍
(
なが
)
らスタスタと
廊下
(
らうか
)
を
伝
(
つた
)
うて
奥殿
(
おくでん
)
に
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
る。
311
二人
(
ふたり
)
は
少時
(
しばらく
)
熟議
(
じゆくぎ
)
を
凝
(
こら
)
した
上
(
うへ
)
、
312
相携
(
あひたづさ
)
へて
国司
(
こくし
)
の
居間
(
ゐま
)
に、
313
何事
(
なにごと
)
か
進言
(
しんげん
)
せむと
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
314
俄
(
にはか
)
に
聞
(
きこ
)
ゆる
警鐘
(
けいしよう
)
乱打
(
らんだ
)
の
声
(
こゑ
)
、
315
フト
廊下
(
らうか
)
の
高欄
(
かうらん
)
から
城下
(
じやうか
)
を
瞰下
(
みおろ
)
せば、
316
遠方
(
ゑんぱう
)
の
方
(
はう
)
に
黒煙
(
こくえん
)
天
(
てん
)
を
焦
(
こが
)
し、
317
可
(
か
)
なり
大
(
おほ
)
きい
火災
(
くわさい
)
が
起
(
おこ
)
つてゐる。
318
(
大正一三・一・二二
旧一二・一二・一七
伊予 於山口氏邸
松村真澄
録)
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