霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二一章 貴遇(きぐう)〔一七六六〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第69巻 山河草木 申の巻 篇:第4篇 新政復興 よみ(新仮名遣い):しんせいふっこう
章:第21章 貴遇 よみ(新仮名遣い):きぐう 通し章番号:1766
口述日:1924(大正13)年01月25日(旧12月20日) 口述場所:伊予 山口氏邸 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1927(昭和2)年10月26日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
宣伝歌の主は、国照別一行であった。
国照別は、二人の女が山賊に襲われているところに出くわし、間に飛び込んで加勢をする。その勢いに山賊たちは切りたてられ、ほうほうの体で逃げていく。
清香姫・春子姫は、国愛別の密使により、国照別の素性をあらかじめ知っていた。また清香姫は兄より、国照別こそ将来の夫、と聞かされていた。そこで、一緒にヒルの国で立て直しの活動をしようともちかける。
国照別も、ヒルの国にやってきたのは、実は国愛別との約束「珍の国の改良は国愛別が、ヒルの国は国照別が改革する」にしたがってのことであったと、明かす。
一行はヒルの都の場末にやって来た。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:0000-00-00 00:00:00 文字数:4095 OBC :rm6921
愛善世界社版:289頁 八幡書店版:第12輯 378頁 修補版: 校定版:304頁 普及版:66頁 初版: ページ備考:
001『桃上彦(ももがみひこ)の昔(むかし)より
002万古(ばんこ)不易(ふえき)の国体(こくたい)を
003保(たも)ち来(きた)りし珍(うづ)の国(くに)
004神(かみ)の恵(めぐみ)もアルゼンチンの
005高砂城(たかさごじやう)の国司(こくし)の悴(せがれ)
006われは国照別(くにてるわけ)司(つかさ)
007此(この)世(よ)の暗(やみ)を晴(は)らさむと
008雲霧(くもきり)分(わ)けて天(あま)さかる
009市井(しせい)の巷(ちまた)に身(み)をやつし
010下人草(しもひとぐさ)の窮状(きうじやう)を
011窺(うかが)ひすまし新(あたら)しき
012五六七(みろく)の御代(みよ)の柱(はしら)をば
013堅磐(かきは)常磐(ときは)に立(た)てむとて
014生(うま)れついたる仁侠(にんけふ)の
015引(ひ)くに退(ひ)かれぬ男伊達(をとこだて)
016故郷(こきやう)の空(そら)を後(あと)にして
017踏(ふ)みもならはぬ旅(たび)の空(そら)
018心(こころ)を研(みが)き肝(きも)をねり
019醜(しこ)の大蛇(をろち)も曲神(まがかみ)も
020地震(ぢしん)雷(かみなり)火(ひ)の雨(あめ)も
021いつかな恐(おそ)れぬ魂(たま)となり
022天(あめ)と地(つち)とに蟠(わだか)まる
023八岐(やまた)大蛇(をろち)や醜狐(しこぎつね)
024其(その)外(ほか)百(もも)の曲鬼(まがおに)を
025言霊剣(ことたまつるぎ)抜(ぬ)きもちて
026言向和(ことむけやは)し天国(てんごく)の
027御園(みその)を開(ひら)く吾(わが)望(のぞみ)
028守(まも)らせ給(たま)へ惟神(かむながら)
029神(かみ)に仕(つか)へし吾(わが)父(ちち)は
030既(すで)に年老(としお)い給(たま)へども
031新進(しんしん)気鋭(きえい)の魂(たましひ)を
032深(ふか)く秘(かく)して忍(しの)びます
033其(その)御心(みこころ)を思(おも)ひやり
034子(こ)としていかで悠々(いういう)と
035遊惰(いうだ)に日(ひ)をば送(おく)らむや
036思(おも)ひ切(き)つたる今日(けふ)の旅(たび)
037日出(ひのでの)神(かみ)の現(あら)はれて
038開(ひら)き給(たま)ひしヒルの国(くに)
039ヒルの都(みやこ)に身(み)を隠(かく)し
040南(みなみ)と北(きた)と相応(あひおう)じ
041此(この)高砂(たかさご)の天地(てんち)をば
042昔(むかし)の神代(かみよ)にねぢ直(なほ)し
043神人(しんじん)和合(わがふ)の楽園(らくゑん)に
044進(すす)ませ給(たま)へ惟神(かむながら)
045竜世(たつよ)の姫(ひめ)の御(おん)前(まへ)に
046謹(つつし)み敬(うやま)ひ願(ね)ぎまつる
047旭(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
048月(つき)落(お)ち星(ほし)は失(う)するとも
049神(かみ)の守(まも)りのある限(かぎ)り
050いかで恐(おそ)れむ敷島(しきしま)の
051大和(やまと)男子(をのこ)の魂(たましひ)は
052金鉄(きんてつ)よりも尚(なほ)堅(かた)し
053勇(いさ)めよ勇(いさ)め乾児(こぶん)共(ども)
054進(すす)めや進(すす)めヒルの国(くに)
055高照山(たかてるやま)は峻(さか)しとも
056吹(ふ)き来(く)る嵐(あらし)は強(つよ)くとも
057道(みち)の行方(ゆくへ)は遠(とほ)くとも
058いかで怯(ひる)まむ男伊達(をとこだて)
059男(をとこ)の中(なか)の男(をとこ)よと
060世(よ)に謳(うた)はれて世(よ)を救(すく)ふ
061之(これ)ぞ吾(われ)等(ら)の望(のぞみ)なり
062之(これ)ぞ吾(われ)等(ら)の願(ねがひ)なり
063あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
064御霊(みたま)幸(さち)はひましませよ』
065 国照別(くにてるわけ)の国州(くにしう)始(はじ)め駒治(こまはる)、066市(いち)、067馬(うま)、068浅(あさ)の一行(いつかう)五(ご)人(にん)は捩鉢巻(ねぢはちまき)をし乍(なが)ら、069真黒(まつくろ)の腕(うで)をヌツト出(だ)し、070埃(ほこり)まぶれの毛(け)だらけの脛(すね)を引(ひき)摺(ず)り乍(なが)ら、071此処(ここ)までやつて来(き)た。072見(み)れば怪(あや)しき人(ひと)の喚(わめ)き声(ごゑ)、073唯事(ただごと)ならじと近寄(ちかよ)り見(み)れば、074孱弱(かよわ)き二人(ふたり)の女(をんな)を相手(あひて)に大(だい)の男(をとこ)が詰(つ)めかけて居(ゐ)る。075国州(くにしう)は男(をとこ)を売(う)るは今(いま)此(この)時(とき)と、076赤裸(まつぱだか)の褌(まはし)一(ひと)つとなり、077喧嘩(けんくわ)の中(なか)に矢庭(やには)に飛(とび)込(こ)み、078大音声(だいおんじやう)にて、
079『待(ま)つた待(ま)つた、080此(この)喧嘩(けんくわ)、081俺(おれ)が預(あづ)かつた』
082と大(だい)の字(じ)になつて、083立(た)ちはだかれば、084此(この)声(こゑ)に何(いづ)れも二三間(にさんげん)許(ばか)り後(あと)へ退(ひ)いて息(いき)を休(やす)めて居(ゐ)る。085源九郎(げんくらう)は冷(ひや)やかに之(これ)を眺(なが)めて、
086『オイ、087どこの唐変木(たうへんぼく)か知(し)らねいが、088俺(おれ)達(たち)の喧嘩(けんくわ)に這入(はい)つた以上(いじやう)は、089みん事(ごと)、090埒(らち)をあけるだらうのう。091なまじひ挨拶(あいさつ)なら、092やらねえが良(よ)いぞ、093みん事(ごと)、094甲斐性(かひしやう)があるか』
095国(くに)『アツハヽヽヽ、096耄碌(まうろく)共(ども)、097確(しつ)かり聞(き)け。098其(その)方(はう)等(ら)は旅人(たびびと)を掠(かす)むる悪逆(あくぎやく)無道(ぶだう)の泥棒(どろばう)ぢやねえか、099俺(おれ)はかう見(み)えても天下(てんか)の侠客(けふかく)だ。100義(ぎ)の為(ため)には命(いのち)を惜(をし)まねえお兄(にい)さまだ。101泥棒(どろばう)が旅人(りよにん)を掠(かす)めてる所(ところ)へ入(いり)込(こ)んで来(き)たのは102仲裁(ちうさい)ではねえぞ、103懲(こら)しめの為(ため)にやつて来(き)たのだ。104どうだ、105其(その)方(はう)を始(はじ)め一同(いちどう)の奴(やつ)、106改心(かいしん)を致(いた)して真人間(まにんげん)になるか、107返答(へんたふ)聞(き)かう』
108源(げん)『ワツハヽヽヽ、109蟷螂(かまきり)の空威張(からゐばり)奴(め)、110そんなおどし文句(もんく)で驚(おどろ)く様(やう)な源九郎(げんくらう)ぢやねえぞ、111俺(おれ)達(たち)は人(ひと)を裸(はだか)にして、112財物(ざいもつ)を盗(と)れば可(い)いのだ。113それを否(いな)む奴(やつ)は、114気(き)の毒(どく)乍(なが)ら命(いのち)を取(と)つても目的(もくてき)を達(たつ)するのだ。115其(その)方(はう)もいらざる空威張(からゐば)りを致(いた)すより、116赤裸(まつぱだか)のまま、1161トツトと帰(かへ)れ。117いらざるチヨツカイを出(だ)すと、118気(き)の毒(どく)乍(なが)ら命(いのち)がねえぞ』
119国(くに)『ハツハヽヽヽ、120盗人(ぬすびと)猛々(たけだけ)しいとはよく云(い)つたものだ、121取(と)れるなら取(と)つて見(み)よ』
122 源九郎(げんくらう)は髪(かみ)を逆立(さかだ)て乍(なが)ら、
123『オイ乾児(こぶん)共(ども)、124何(なに)を躊躇(ちうちよ)して居(ゐ)る。125タカが侠客(けふかく)の四(よ)人(にん)や五(ご)人(にん)、126ばらして了(しま)へ』
127と下知(げち)すれば、128又(また)もや十数(じふすう)人(にん)の小盗人(こぬすびと)は四方(しはう)八方(はつぱう)より切(き)つてかかる。129清香姫(きよかひめ)、130春子姫(はるこひめ)は之(これ)に力(ちから)を得(え)、131前後(ぜんご)左右(さいう)に敵(てき)を潜(くぐ)つて、132切(きり)立(た)て薙(なぎ)立(た)てる。133瞬(またた)く間(うち)に、134十数(じふすう)人(にん)の奴(やつ)は鼻(はな)を削(そ)がれ、135腕(うで)をかすられ、136足(あし)を突(つ)かれ、137ホウボウの体(てい)で算(さん)を乱(みだ)して逃(にげ)出(いだ)す。138源九郎(げんくらう)も此(この)体(てい)を見(み)て、139大人気(おとなげ)なくも、140高照山(たかてるやま)の山頂(さんちやう)目懸(めが)け刀(かたな)を打(うち)振(ふ)り乍(なが)ら、141殿(しんがり)を守(まも)り、142味方(みかた)を浚(さら)へて逃(に)げて行(ゆ)く。143国州(くにしう)は追(お)ひかけるも無用(むよう)と、144谷川(たにがは)の水(みづ)を手(て)に掬(すく)ふて喉(のど)を潤(うるほ)し、145身(み)づくろひをし乍(なが)ら、
146『オイ駒(こま)、147如何(どう)だつた、148チツト泡(あわ)吹(ふ)いただらうな』
149駒(こま)『侠客(けふかく)の喧嘩(けんくわ)なら喧嘩(けんくわ)の仕応(しごた)へもありますが、150何(なに)を云(い)つても151一方(いつぱう)が泥棒(どろばう)だから険呑(けんのん)でなりませぬワ。152マアマア御(お)蔭(かげ)で吾々(われわれ)一同(いちどう)には怪我(けが)が無(な)くて結構(けつこう)でした』
153国(くに)『泥棒(どろばう)だつて、154侠客(けふかく)だつて、155喧嘩(けんくわ)に変(かは)りは無(な)い。156併(しか)し乍(なが)らお前(まへ)達(たち)も、157此処(ここ)でゆつくり一服(いつぷく)するが可(い)い。158此(この)姫(ひめ)様(さま)は如何(どう)して又(また)あんな者(もの)と喧嘩(けんくわ)をなさつただらうかな』
159と云(い)ひ乍(なが)ら、160清香姫(きよかひめ)の側(そば)に寄(よ)り、
161国(くに)『エー姫(ひめ)様(さま)、162危(あぶ)ねえこつて厶(ござ)えやした。163先(ま)づ御(お)怪我(けが)が無(な)くて、164お芽出度(めでた)う厶(ござ)いやす。165わつちや、166国州(くにしう)と云(い)つて、167珍(うづ)の国(くに)の者(もの)、168ヒルの国(くに)へ行(ゆ)く途中(とちう)、169計(はか)らずも泥棒(どろばう)に出会(でつくは)し、170一(ひと)つ目覚(めざま)しをやつて見(み)ましたが、171イヤ早(はや)もろい者(もの)で厶(ござ)えやした。172アツハヽヽヽ』
173清香(きよか)『ハイ有難(ありがた)う厶(ござ)います、174危(あやふ)い所(ところ)へお出(いで)下(くだ)さいまして、175こんな嬉(うれ)しいことは厶(ござ)いませぬ。176貴方(あなた)は今(いま)、177珍(うづ)の国(くに)の国州(くにしう)と云(い)ふ侠客(けふかく)だと仰有(おつしや)いましたが、178そんなら貴方(あなた)は妾(わらは)の尋(たづ)ぬるお方(かた)、179国照別(くにてるわけ)さまぢや厶(ござ)いませぬか』
180 浅公(あさこう)は側(そば)より、
181『左様(さやう)々々(さやう)、182今(いま)こそ侠客(けふかく)になつて厶(ござ)るけれど、183珍(うづ)の都(みやこ)の御(お)世継(よつぎ)国照別(くにてるわけ)様(さま)で厶(ござ)いますよ。184用(よう)も無(な)いのにヒルの都(みやこ)へ行(ゆ)かうと仰有(おつしや)るので、185乾児(こぶん)の悲(かな)しさ已(やむ)を得(え)ず従(つ)いて来(き)ましたが……ヘヽヽヽこんな別嬪(べつぴん)さまが厶(ござ)るので、186親分(おやぶん)さまも御(お)越(こ)しになつたのだな、187イヤ分(わか)りました、188親分(おやぶん)さま、189一杯(いつぱい)買(か)うて貰(もら)はにやなりませぬぞ』
190国(くに)『エ、191仕方(しかた)の無(な)い男(をとこ)だなア。192之(これ)だから口(くち)の軽(かる)い奴(やつ)ア、193困(こま)ると云(い)ふのだ。194チツト控(ひか)へて居(を)らう』
195浅(あさ)『何(なん)とマア、196親分(おやぶん)の愉快(ゆくわい)相(さう)な顔(かほ)、197そらさうだらう。198乾児(こぶん)の私(わし)だつて、199愉快(ゆくわい)で堪(たま)らないもの……若(も)し姫(ひめ)さま喜(よろこ)びなさい。200貴女(あなた)が遥々(はるばる)慕(した)ふて怖(こは)い目(め)をして、201尋(たづ)ねて来(き)た三国一(さんごくいち)の婿(むこ)さまは、202ヘエー、203此(この)親方(おやかた)で厶(ござ)いますよ。204何(なに)をグヅグヅして厶(ござ)る、205恥(はづ)かしい事(こと)も何(なに)もない、206及(およ)ばず乍(なが)ら207此(この)浅公(あさこう)が月下氷人(なかうど)となつて握手(あくしゆ)をさせませう。208何(なん)と悪(わる)うは厶(ござ)いますまいがな』
209清香(きよか)『妾(わらは)は余(あま)りの驚(おどろ)きで何(なに)も申(まをし)上(あ)げる事(こと)は出来(でき)ませぬ。210春子姫(はるこひめ)、211お前(まへ)代(かは)つて、212あの国(くに)さまにお話(はなし)をして下(くだ)さいな』
213春子(はるこ)『これはこれは危(あやふ)い所(ところ)、214お助(たす)け下(くだ)さいまして、215厚(あつ)く御(お)礼(れい)を申(まをし)上(あ)げまする。216貴方(あなた)が噂(うはさ)に高(たか)き珍(うづ)の国(くに)の国照別(くにてるわけ)様(さま)で厶(ござ)いますか、217存(ぞん)ぜぬ事(こと)とて御(ご)無礼(ぶれい)を致(いた)しました。218姫(ひめ)様(さま)の仰(おほ)せに従(したが)ひ、219妾(わらは)が代(かは)つて御(お)話(はなし)を申(まをし)上(あ)げ度(た)う厶(ござ)いますが、220姫(ひめ)様(さま)はお兄様(あにさま)と牒(しめ)し合(あは)せ、221国家(こくか)の窮状(きうじやう)を救(すく)はむとして、222色々(いろいろ)と画策(くわくさく)を遊(あそ)ばされ、223今(いま)又(また)お兄様(あにさま)の密使(みつし)に依(よ)つて……珍(うづ)の国(くに)の国州(くにしう)さまと云(い)ふ侠客(けふかく)にお前(まへ)を娶合(めあは)してやらう、224さうすればヒルの国(くに)を救(すく)ふ事(こと)が出来(でき)る……と御(ご)通知(つうち)が厶(ござ)いましたので、225取(と)る物(もの)も取敢(とりあへ)ず此処(ここ)迄(まで)参(まゐ)つたので厶(ござ)います。226果(はた)して貴方(あなた)が国照別(くにてるわけ)様(さま)ならば、227こんな好都合(かうつがふ)は厶(ござ)いませぬ。228之(これ)からヒルの国(くに)へお伴(とも)をして帰(かへ)り度(た)う厶(ござ)います。229どうぞ此(この)儀(ぎ)御(お)聞届(ききとどけ)を願(ねが)ひます』
230国(くに)『ウン、231貴女(あなた)が国愛別(くにちかわけ)様(さま)のお妹御(いもうとご)で厶(ござ)つたか。232兼々(かねがね)兄上(あにうへ)より貴女(あなた)の思想(しさう)も御(ご)器量(きりやう)も承(うけたま)はつて居(を)りました。233実(じつ)の所(ところ)は234此(この)国照別(くにてるわけ)もヒルの都(みやこ)を指(さ)して来(き)たのは、235貴女(あなた)に会(あ)ひ度(た)くもあり、236又(また)一(ひと)つ珍(うづ)の国(くに)は国愛別(くにちかわけ)様(さま)に御(お)願(ねが)ひ申(まを)して改良(かいりやう)して頂(いただ)き、237其(その)代(かは)りとして拙者(せつしや)がヒルの国(くに)を根本(こんぽん)的(てき)に改革(かいかく)せむと、238侠客(けふかく)となつて浮世(うきよ)を忍(しの)び下層(かそう)生活(せいくわつ)をし乍(なが)ら、239回天(くわいてん)動地(どうち)の大業(たいげふ)を為(な)さむと、240此処(ここ)迄(まで)やつて参(まゐ)りました。241之(これ)は願(ねが)ふても無(な)き互(たがひ)の奇遇(きぐう)、242然(しか)らば之(これ)より姫(ひめ)様(さま)の御(お)伴(とも)を致(いた)し、243ヒルの城下(じやうか)へ参(まゐ)りませう』
244 之(これ)より一行(いつかう)男女(だんぢよ)七(しち)人(にん)は堂々(だうだう)として、245大道(だいだう)の正中(まんなか)を宣伝歌(せんでんか)を唄(うた)ひ乍(なが)ら、246ヒルの都(みやこ)を指(さ)して進(すす)み行(ゆ)く。247浅公(あさこう)は先(さき)に立(た)つて、248道々(みちみち)宣伝歌(せんでんか)を唄(うた)ふ。
249『テルとカルとの国境(くにざかひ)
250高照山(たかてるやま)の山麓(さんろく)に
251高砂島(たかさごじま)で名(な)も高(たか)い
252大親分(おほおやぶん)の国(くに)さまと
253あたりを払(はら)ひ堂々(だうだう)と
254地(つち)踏(ふ)みならし進(すす)み来(く)る
255時(とき)しもあれや谷川(たにがは)の
256傍辺(かたへ)に怪(あや)しき人(ひと)の声(こゑ)
257何事(なにごと)ならむと近寄(ちかよ)れば
258豈計(あにはか)らむや雲(くも)をつく
259ばかりの大(おほ)きな泥棒(どろばう)が
260長(なが)い奴(やつ)をば引(ひき)抜(ぬ)いて
261二人(ふたり)の姫(ひめ)をまん中(なか)に
262前後(ぜんご)左右(さいう)から切(き)りつける
263此奴(こいつ)ア救(すく)はにやなるまいと
264親分(おやぶん)さまが赤裸(まつぱだか)
265喧嘩(けんくわ)の中(なか)に跳(おど)り入(い)り
266待(ま)つた待(ま)つたと四股(しこ)踏(ふ)めば
267さすがの泥棒(どろぼう)肝(きも)つぶし
268二足(ふたあし)三足(みあし)後(あと)しざり
269蜥蜴(とかげ)が欠伸(あくび)をした様(やう)に
270空(そら)を仰(あふ)いで呆(あき)れ顔(がほ)
271親分(おやぶん)さまの掛合(かけあひ)で
272木(こ)つ端(ぱ)泥棒(どろぼう)は悉(ことごと)く
273大切(だいじ)の大切(だいじ)の仕事(しごと)をば
274可惜(あつたら)棒(ぼう)に振(ふ)り乍(なが)ら
275手疵(てきず)を負(お)ふて逃(に)げて行(ゆ)く
276後(あと)に国照別(くにてるわけ)さまは
277ヒルの国(くに)からやつて来(き)た
278天女(てんによ)のやうな姫(ひめ)様(さま)と
279二世(にせ)の約束(やくそく)堅(かた)めつつ
280吾(われ)等(ら)乾児(こぶん)を引(ひき)伴(つ)れて
281そんならお前(まへ)の云(い)ふ通(とほ)り
282之(これ)からヒルの都路(みやこぢ)へ
283行(い)つてやらうと嬉(うれ)し気(げ)に
284云(い)はれた時(とき)の姫(ひめ)の顔(かほ)
285側(そば)に見(み)てゐる俺(おれ)さへも
286何(なん)だか嬉(うれ)しうなつてきた
287オイオイ駒治(こまはる)、市(いち)、馬(うま)よ
288お前(まへ)は元(もと)は取締(とりしまり)
289現在(げんざい)泥棒(どろぼう)を目(め)の前(まへ)に
290眺(なが)め乍(なが)らに何(なん)のザマ
291コラツと一声(ひとこゑ)かけもせず
292青(あを)い面(つら)して慄(ふる)ふて居(ゐ)た
293こんな取締(とりしまり)が世(よ)の中(なか)に
294あると思(おも)へば衆生(しゆじやう)も
295枕(まくら)を高(たか)う寝(ね)られない
296何奴(どいつ)も此奴(こいつ)も腰抜(こしぬけ)だ
297親分(おやぶん)さまの御(お)光(ひか)りで
298ここまで御(お)伴(とも)はしたものの
299若(も)しも一人(ひとり)になつたなら
300キツト泥棒(どろばう)にこみわられ
301腕(かひな)の一本(いつぽん)も捩(も)ぎ取(と)られ
302ベソをかいたに違(ちが)ひない
303あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
304之(これ)を思(おも)へば浅公(あさこう)は
305矢張(やつぱ)り肝(きも)が太(ふと)いワイ
306サア之(これ)からは浅公(あさこう)が
307親分(おやぶん)さまの一(いち)の枝(えだ)
308お前(まへ)は乾児(こぶん)になるがよい
309ウントコドツコイ ドツコイシヨ
310天(てん)を封(ふう)じた老木(らうぼく)の
311並木(なみき)の街道(かいだう)を進(すす)み行(ゆ)く
312吾(われ)等(ら)一行(いつかう)は何(なん)と無(な)く
313勝利(しようり)の都(みやこ)へ行(ゆ)くやうな
314涼(すず)しい気分(きぶん)になつて来(き)た
315谷(たに)の流(なが)れは淙々(そうそう)と
316飛沫(ひまつ)の玉(たま)を飾(かざ)りつつ
317吾(わが)一行(いつかう)を歓迎(くわんげい)し
318琴(こと)を弾(だん)じて待(ま)つて居(ゐ)る
319峰(みね)の嵐(あらし)は松柏(しようはく)の
320梢(こずゑ)を吹(ふ)いて吾々(われわれ)を
321謳歌(おうか)して居(ゐ)る勇(いさ)ましさ
322ウントコドツコイ ドツコイシヨ
323今(いま)は侠客(けふかく)渡世(とせい)だが
324親分(おやぶん)さまがたつた今(いま)
325ヒルの都(みやこ)に現(あら)はれて
326清香(きよか)の姫(ひめ)の婿(むこ)となり
327国(くに)の政治(せいぢ)を執(と)られたら
328必(かなら)ず抜擢(ばつてき)遊(あそ)ばして
329使(つか)ふて下(くだ)さるだろ程(ほど)に
330駒公(こまこう)市公(いちこう)馬公(うまこう)よ
331それをば先(さき)の楽(たのし)みと
332思(おも)つて俺(おれ)に従(つ)いて来(こ)い
333前途(ぜんと)はいよいよ有望(いうばう)だ
334思(おも)へば思(おも)へば身(み)も魂(たま)も
335勇(いさ)みに勇(いさ)み跳(おど)り出(だ)す
336何(なに)程(ほど)坂(さか)はきつくとも
337何(なに)程(ほど)日(ひ)かげは暑(あつ)くとも
338前途(ぜんと)に望(のぞ)みを抱(かか)へたる
339吾(われ)等(ら)一行(いつかう)の魂(たましひ)は
340火(ひ)にも焼(や)けない又(また)水(みづ)に
341溺(おぼ)るる事(こと)なき大丈夫(だいぢやうぶ)
342大和(やまと)男子(をのこ)の典型(てんけい)と
343末代(まつだい)迄(まで)も名(な)を揚(あ)げて
344国(くに)の柱(はしら)となるだらう
345あゝ勇(いさ)ましや勇(いさ)ましや
346全隊(ぜんたい)進(すす)めいざ進(すす)め
347勝利(しようり)の都(みやこ)が近(ちか)づいた
348勝利(しようり)の都(みやこ)はヒルの国(くに)
349あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
350国魂神(くにたまがみ)の御(おん)前(まへ)に
351吾(われ)等(ら)が前途(ぜんと)の幸福(かうふく)を
352守(まも)らせ給(たま)へと願(ね)ぎ奉(まつ)る』
353 斯(か)く代(かは)る代(がは)る行進歌(かうしんか)を唄(うた)ひ乍(なが)ら、354十数日(じふすうじつ)を経(へ)た黄昏(たそがれ)頃(ごろ)ヒルの都(みやこ)の町末(まちすゑ)の或(あ)る茅屋(ばうをく)に着(つ)いた。
355(大正一三・一・二五 旧一二・一二・二〇 伊予 於山口氏邸、松村真澄録)
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