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霊界物語
山河草木(第61~72巻、入蒙記)
第69巻(申の巻)
巻頭言
第1篇 清風涼雨
第1章 大評定
第2章 老断
第3章 喬育
第4章 国の光
第5章 性明
第6章 背水会
第2篇 愛国の至情
第7章 聖子
第8章 春乃愛
第9章 迎酒
第10章 宣両
第11章 気転使
第12章 悪原眠衆
第3篇 神柱国礎
第13章 国別
第14章 暗枕
第15章 四天王
第16章 波動
第4篇 新政復興
第17章 琴玉
第18章 老狽
第19章 老水
第20章 声援
第21章 貴遇
第22章 有終
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霊界物語
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山河草木(第61~72巻、入蒙記)
>
第69巻(申の巻)
> 第2篇 愛国の至情 > 第12章 悪原眠衆
<<< 気転使
(B)
(N)
国別 >>>
第一二章
悪原
(
あしはら
)
眠衆
(
みんしう
)
〔一七五七〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第69巻 山河草木 申の巻
篇:
第2篇 愛国の至情
よみ(新仮名遣い):
あいこくのしじょう
章:
第12章 悪原眠衆
よみ(新仮名遣い):
あしはらみんしゅう
通し章番号:
1757
口述日:
1924(大正13)年01月23日(旧12月18日)
口述場所:
伊予 山口氏邸
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1927(昭和2)年10月26日
概要:
舞台:
松若彦の館
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
松若彦の長男・松依別は、父親に恋人との仲を無理やり裂かれてやけになり、毎日遊郭通い。娘の常盤姫は出歩いてほとんど家に戻らない。
松若彦は子供たちの行状に、妻の捨子姫に小言を言っている。
そこへ家僕の新公が慌しく入って来て、プロ階級演説会で取締と群集が衝突した事件を報告する。:闘争は不思議な天女が現れて鎮静したが、その天女の顔が常盤姫そっくりであった。また、白馬も家のものに間違いない、と。
松若彦はそれを聞いて、娘がプロ運動に参加したことに怒り、帰って来ても家に一歩も入れないように新公に言いつける。
やがて、常盤姫が帰って来る。新公は、松若彦の言葉を伝えるが、常盤姫はそれを聞いて逆に喜び、「もう二度と家には戻らない」と言って出て行ってしまう。
常盤姫は、途中で兄の松依別とすれ違う。松依別は遊郭帰りで酔っていたが、兄妹は別れを交わす。
松依別は遊郭帰りの体で屋敷に入り、酔った勢いで父親の松若彦に悪態をつく。
松若彦はそれを見て肝をつぶし、倒れて腰を打って唸ってしまう。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
オリオン座(オレオン星座)
データ凡例:
データ最終更新日:
2018-05-02 13:59:39
OBC :
rm6912
愛善世界社版:
168頁
八幡書店版:
第12輯 335頁
修補版:
校定版:
176頁
普及版:
66頁
初版:
ページ備考:
001
松若彦
(
まつわかひこ
)
は
吾
(
わが
)
館
(
やかた
)
の
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
に
捨子姫
(
すてこひめ
)
と
共
(
とも
)
に、
002
七
(
しち
)
むつかしい
面
(
つら
)
をさらしてブツブツ
小言
(
こごと
)
を
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
003
愚痴
(
ぐち
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
004
『コレ
捨子姫
(
すてこひめ
)
、
005
お
前
(
まへ
)
の
教育
(
けういく
)
があまり
放縦
(
はうじう
)
だから、
006
悴
(
せがれ
)
の
松依別
(
まつよりわけ
)
は
日日
(
ひにち
)
毎日
(
まいにち
)
変装
(
へんさう
)
して、
007
悪原
(
あしはら
)
遊廓
(
いうくわく
)
へ
通
(
かよ
)
ふなり、
008
妹
(
いもうと
)
の
常盤姫
(
ときはひめ
)
はお
転婆
(
てんば
)
になり、
009
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
の
御用
(
ごよう
)
だとか
云
(
い
)
つて、
010
家
(
うち
)
を
外
(
そと
)
なる
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
の
行状
(
ぎやうじやう
)
、
011
之
(
これ
)
では
清家
(
せいか
)
の
権威
(
けんゐ
)
も
保
(
たも
)
たれまい。
012
チとしつかりして
呉
(
く
)
れぬと
困
(
こま
)
るぢやないか。
013
俺
(
おれ
)
は
政務
(
せいむ
)
が
忙
(
いそが
)
しいので
子供
(
こども
)
の
教育
(
けういく
)
などにはかかつて
居
(
を
)
られない。
014
子供
(
こども
)
の
悪化
(
あくくわ
)
するのは
皆
(
みな
)
母親
(
ははおや
)
の
教育
(
けういく
)
が
悪
(
わる
)
いからだ』
015
捨子
(
すてこ
)
『
仰
(
おほせ
)
迄
(
まで
)
もなく、
016
妾
(
わらは
)
は
充分
(
じゆうぶん
)
の
教育
(
けういく
)
を
施
(
ほどこ
)
して
居
(
を
)
りますが、
017
別
(
べつ
)
に
清家
(
せいか
)
の
悴
(
せがれ
)
、
018
娘
(
むすめ
)
として
恥
(
はづか
)
しい
様
(
やう
)
な
育
(
そだ
)
て
方
(
かた
)
はして
無
(
な
)
いと
考
(
かんが
)
へて
居
(
を
)
ります』
019
松若彦
(
まつわかひこ
)
は
声
(
こゑ
)
を
尖
(
とが
)
らし、
020
『
悪原
(
あしはら
)
遊廓
(
いうくわく
)
へ
夜
(
よ
)
な
夜
(
よ
)
な
通
(
かよ
)
ふ
様
(
やう
)
な
育
(
そだ
)
て
方
(
かた
)
をしておいて、
021
それでも
其方
(
そち
)
は
良
(
よ
)
いと
申
(
まを
)
すのか。
022
非常識
(
ひじやうしき
)
にも
程
(
ほど
)
があるぞよ』
023
捨子
(
すてこ
)
『
悴
(
せがれ
)
も
年頃
(
としごろ
)
の
身分
(
みぶん
)
、
024
最早
(
もはや
)
妻帯
(
さいたい
)
をさせねばならぬ
年頃
(
としごろ
)
で
厶
(
ござ
)
いますのに、
025
貴方
(
あなた
)
が
何時
(
いつ
)
も
家庭
(
かてい
)
が
何
(
ど
)
うだの、
026
資格
(
しかく
)
が
何
(
ど
)
うだのと、
027
古
(
ふる
)
めかしい
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
りますので、
028
悴
(
せがれ
)
も
失恋
(
しつれん
)
の
結果
(
けつくわ
)
自棄
(
やけ
)
気味
(
ぎみ
)
になつてるので
厶
(
ござ
)
います。
029
悴
(
せがれ
)
の
愛
(
あい
)
してる
女
(
をんな
)
は、
030
貴方
(
あなた
)
も
御存
(
ごぞん
)
じの
饂飩屋
(
うどんや
)
の
娘
(
むすめ
)
お
福
(
ふく
)
と
云
(
い
)
ふ
者
(
もの
)
、
031
其
(
その
)
福
(
ふく
)
の
神
(
かみ
)
を
貴方
(
あなた
)
は
地位
(
ちゐ
)
が
釣合
(
つりあ
)
はぬとか
云
(
い
)
つて、
032
家来
(
けらい
)
を
廻
(
まは
)
し
圧迫
(
あつぱく
)
的
(
てき
)
に
縁
(
えん
)
をお
切
(
き
)
りになつたぢやありませぬか。
033
それ
故
(
ゆゑ
)
悴
(
せがれ
)
は
失恋
(
しつれん
)
の
結果
(
けつくわ
)
、
034
如何
(
いか
)
なる
事
(
こと
)
を
仕出
(
しで
)
かすかと、
035
心配
(
しんぱい
)
で
夜
(
よ
)
の
目
(
め
)
も
寝
(
ね
)
られ
無
(
な
)
かつたので
厶
(
ござ
)
います。
036
世間
(
せけん
)
にある
慣
(
なら
)
ひ、
037
失恋
(
しつれん
)
の
結果
(
けつくわ
)
淵川
(
ふちかは
)
へ
身
(
み
)
を
投
(
な
)
げて
無理
(
むり
)
心中
(
しんぢう
)
をしたり、
038
鉄道
(
てつだう
)
往生
(
わうじやう
)
、
039
或
(
あるひ
)
は
鉄砲腹
(
てつぱうばら
)
、
040
首吊
(
くびつ
)
りなど
失恋者
(
しつれんしや
)
の
最後
(
さいご
)
は
色々
(
いろいろ
)
厶
(
ござ
)
います。
041
それ
故
(
ゆゑ
)
悴
(
せがれ
)
は
如何
(
どう
)
するであらうかと
心配
(
しんぱい
)
致
(
いた
)
し
042
三五
(
あななひ
)
の
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
に
祈願
(
きぐわん
)
をして
居
(
ゐ
)
ました
所
(
ところ
)
、
043
悴
(
せがれ
)
も
神直日
(
かむなほひ
)
大直日
(
おほなほひ
)
に
見直
(
みなほ
)
し
聞直
(
ききなほ
)
しが
出来
(
でき
)
たと
見
(
み
)
えて、
044
いきりぬきに
悪原
(
あしはら
)
遊廓
(
いうくわく
)
に
通
(
かよ
)
ふ
様
(
やう
)
になつたのでせう。
045
失恋者
(
しつれんしや
)
の
行
(
ゆ
)
くべき
結果
(
けつくわ
)
としては
046
最善
(
さいぜん
)
の
方法
(
はうはふ
)
を
選
(
えら
)
んだものだと
感心
(
かんしん
)
を
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
ります』
047
松若
(
まつわか
)
『コレ
捨子
(
すてご
)
、
048
イヤ
婆
(
ばば
)
ア
殿
(
どの
)
、
049
お
前
(
まへ
)
そんなこと
正気
(
しやうき
)
で
云
(
い
)
つてるのか。
050
家名
(
かめい
)
を
毀損
(
きそん
)
する
悴
(
せがれ
)
、
051
手討
(
てうち
)
に
致
(
いた
)
しても
飽
(
あ
)
き
足
(
た
)
らぬ
奴
(
やつ
)
、
052
それに
其方
(
そなた
)
は
賛成
(
さんせい
)
と
見
(
み
)
えるな、
053
怪
(
け
)
しからぬぢやないか。
054
吾
(
わが
)
家
(
いへ
)
は
正鹿山津見
(
まさかやまづみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
時代
(
じだい
)
より
珍
(
うづ
)
一国
(
いつこく
)
の
代理権
(
だいりけん
)
を
任
(
まか
)
され、
055
権門
(
けんもん
)
勢家
(
せいか
)
として
今日
(
こんにち
)
迄
(
まで
)
伝
(
つた
)
はつて
来
(
き
)
た
立派
(
りつぱ
)
な
家筋
(
いへすぢ
)
だ。
056
其
(
その
)
家筋
(
いへすぢ
)
に
汚点
(
をてん
)
を
印
(
いん
)
する
者
(
もの
)
ならば、
057
何
(
なに
)
程
(
ほど
)
大切
(
たいせつ
)
な
悴
(
せがれ
)
でも
許
(
ゆる
)
すことは
出来
(
でき
)
ないではないか』
058
捨子
(
すてこ
)
『それは
数十
(
すうじふ
)
年前
(
ねんまへ
)
の
道徳律
(
だうとくりつ
)
で
厶
(
ござ
)
いませう。
059
道徳
(
だうとく
)
も
政治
(
せいぢ
)
も
宗教
(
しうけう
)
も
人情
(
にんじやう
)
風俗
(
ふうぞく
)
も
日進
(
につしん
)
月歩
(
げつぽ
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
、
060
さういふカビの
生
(
は
)
えた
思想
(
しさう
)
は、
061
今日
(
こんにち
)
では
通用
(
つうよう
)
致
(
いた
)
しますまい。
062
貴方
(
あなた
)
は
一国
(
いつこく
)
の
宰相
(
さいしやう
)
であり
乍
(
なが
)
ら、
063
さういふ
古
(
ふる
)
い
頭
(
あたま
)
で、
064
良
(
よ
)
く
衆生
(
しゆじやう
)
が
納得
(
なつとく
)
する
事
(
こと
)
だと、
065
何時
(
いつ
)
も
不思議
(
ふしぎ
)
がつて
居
(
ゐ
)
るので
厶
(
ござ
)
いますワ。
066
幸
(
さいはひ
)
に
悴
(
せがれ
)
なり
娘
(
むすめ
)
が
時代
(
じだい
)
相応
(
さうおう
)
の
魂
(
たましひ
)
に
生
(
うま
)
れてくれたので、
067
まだしもそれを
老後
(
らうご
)
の
楽
(
たのし
)
みと
致
(
いた
)
しまして、
068
不平
(
ふへい
)
でならぬ
月日
(
つきひ
)
を
送
(
おく
)
つて
居
(
を
)
ります』
069
と
何
(
なん
)
と
思
(
おも
)
つたか、
070
捨子姫
(
すてこひめ
)
も
今日
(
けふ
)
は
捨鉢
(
すてばち
)
気味
(
ぎみ
)
となつて、
071
怯
(
お
)
めず
臆
(
おく
)
せずやつて
退
(
の
)
けた。
072
松若彦
(
まつわかひこ
)
は
数十
(
すうじふ
)
年
(
ねん
)
添
(
そ
)
うて
来
(
き
)
た
柔順
(
じうじゆん
)
な
女房
(
にようばう
)
が、
073
こんな
思
(
おも
)
ひ
切
(
き
)
つた
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
はうとは
夢
(
ゆめ
)
にも
知
(
し
)
らず、
074
始
(
はじ
)
めての
事
(
こと
)
なので、
075
若
(
もし
)
や
狂気
(
きやうき
)
したのではあるまいかと
案
(
あん
)
じ
出
(
だ
)
し、
076
先
(
ま
)
づ
何
(
なに
)
よりも
逆
(
さか
)
らはぬが
第一
(
だいいち
)
だ、
077
先
(
ま
)
づ
少
(
すこ
)
し
許
(
ばか
)
り
熱
(
ねつ
)
の
冷
(
さ
)
める
迄
(
まで
)
、
078
彼
(
かれ
)
の
云
(
い
)
ふ
様
(
やう
)
にしてやらうかと
心
(
こころ
)
を
定
(
さだ
)
め、
079
猫撫
(
ねこな
)
で
声
(
ごゑ
)
を
出
(
だ
)
して、
080
背
(
せな
)
を
撫
(
な
)
で
乍
(
なが
)
ら、
081
松若
(
まつわか
)
『コレ
捨子姫
(
すてこひめ
)
殿
(
どの
)
、
082
お
前
(
まへ
)
の
云
(
い
)
ふ
通
(
とほ
)
りだ。
083
テモ
扨
(
さて
)
も
明敏
(
めいびん
)
な
頭脳
(
づなう
)
だな。
084
お
前
(
まへ
)
はチト
激
(
げき
)
して
居
(
ゐ
)
る
様
(
やう
)
だから、
085
今日
(
けふ
)
はモウ
何
(
なに
)
も
云
(
い
)
はない。
086
ゆつくりと
奥
(
おく
)
へ
行
(
い
)
つて
静
(
しづ
)
かに
休
(
やす
)
んだが
良
(
よ
)
からう』
087
捨子姫
(
すてこひめ
)
は
松若彦
(
まつわかひこ
)
の
心
(
こころ
)
を
早
(
はや
)
くも
読
(
よ
)
んで
了
(
しま
)
つた。
088
自分
(
じぶん
)
を
逆上
(
ぎやくじやう
)
して
居
(
ゐ
)
ると
信
(
しん
)
じて
居
(
ゐ
)
るのを
幸
(
さいは
)
ひ、
089
日頃
(
ひごろ
)
鬱積
(
うつせき
)
して
居
(
ゐ
)
る
自分
(
じぶん
)
の
意見
(
いけん
)
を
全部
(
ぜんぶ
)
此所
(
ここ
)
で
喋
(
しやべ
)
り
立
(
た
)
てて
松若彦
(
まつわかひこ
)
の
決心
(
けつしん
)
を
促
(
うなが
)
さむと
覚悟
(
かくご
)
をきはめ、
090
ワザと
空
(
そら
)
とぼけて、
091
『ホヽヽヽ、
092
あのマア
御前
(
ごぜん
)
様
(
さま
)
のむつかしいお
顔
(
かほ
)
わいの。
093
妾
(
わらは
)
は
之
(
これ
)
から
淵川
(
ふちかは
)
へ
身
(
み
)
を
投
(
な
)
げて
永
(
なが
)
のお
別
(
わか
)
れを
致
(
いた
)
しますから、
094
どうぞ
暇
(
ひま
)
を
下
(
くだ
)
さいませ。
095
暇
(
ひま
)
をやらぬと
仰有
(
おつしや
)
つても、
096
妾
(
わらは
)
が
覚悟
(
かくご
)
を
定
(
さだ
)
めた
以上
(
いじやう
)
は
舌
(
した
)
を
噛
(
か
)
んでも
死
(
し
)
んで
見
(
み
)
せませう。
097
マア
死
(
し
)
にたいワ、
098
ホヽヽヽ。
099
霊肉
(
れいにく
)
脱離
(
だつり
)
の
境
(
さかひ
)
を
越
(
こ
)
え、
100
一刻
(
いつこく
)
も
早
(
はや
)
く
天国
(
てんごく
)
に
上
(
のぼ
)
り、
101
清
(
きよ
)
く
楽
(
たの
)
しく
第二
(
だいに
)
の
生活
(
せいくわつ
)
に
入
(
い
)
り
度
(
た
)
う
厶
(
ござ
)
います。
102
アレアレ、
103
エンゼル
様
(
さま
)
が、
104
黄金
(
こがね
)
の
扇
(
あふぎ
)
を
披
(
ひら
)
いて
妾
(
わらは
)
に
来
(
きた
)
れ
来
(
きた
)
れと
招
(
まね
)
いて
居
(
ゐ
)
らつしやる。
105
あゝ
早
(
はや
)
く
行
(
ゆ
)
き
度
(
た
)
いものだなア』
106
松若彦
(
まつわかひこ
)
は
益々
(
ますます
)
驚
(
おどろ
)
いて、
107
……あゝ
此奴
(
こいつ
)
ア
丸気違
(
まるきちが
)
ひだ。
108
仕方
(
しかた
)
が
無
(
な
)
い、
109
先
(
ま
)
づ
機嫌
(
きげん
)
を
損
(
そん
)
じ
無
(
な
)
い
様
(
やう
)
にせなくちやなるまい……と、
110
『アイヤ
捨子姫
(
すてこひめ
)
殿
(
どの
)
、
111
其方
(
そなた
)
の
云
(
い
)
ふ
通
(
とほ
)
り、
112
此
(
この
)
松若彦
(
まつわかひこ
)
はどんな
事
(
こと
)
でも
聞
(
き
)
いて
上
(
あ
)
げるから、
113
天国
(
てんごく
)
なんか
行
(
ゆ
)
かぬやうにして
呉
(
く
)
れ。
114
年
(
とし
)
が
老
(
よ
)
つてから
女房
(
にようばう
)
に
先立
(
さきだ
)
たれちや、
115
淋
(
さび
)
しいからなア』
116
捨子
(
すてこ
)
『
妾
(
わらは
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を、
117
ハイハイと
云
(
い
)
つて、
118
一言
(
ひとこと
)
も
反
(
そむ
)
かず
聞
(
き
)
いて
下
(
くだ
)
さいますか』
119
松若
(
まつわか
)
『ウン、
120
何
(
なん
)
でも
聞
(
き
)
いてやらう。
121
遠慮
(
ゑんりよ
)
なしに
云
(
い
)
つて
見
(
み
)
たが
良
(
よ
)
からう』
122
捨子
(
すてこ
)
『そんなら
申
(
まをし
)
上
(
あ
)
げます。
123
先
(
ま
)
づ
第一
(
だいいち
)
に
大老職
(
たいらうしよく
)
を
返上
(
へんじやう
)
し、
124
どうぞ
妾
(
わらは
)
と
一緒
(
いつしよ
)
に
民間
(
みんかん
)
に
下
(
くだ
)
つて、
125
衆生
(
しゆじやう
)
の
怨府
(
ゑんぷ
)
を
遁
(
のが
)
れて
下
(
くだ
)
さいませ。
126
そして
衆生
(
しゆじやう
)
に
政権
(
せいけん
)
をお
渡
(
わた
)
し
下
(
くだ
)
さいますれば、
127
衆生
(
しゆじやう
)
はキツト
国司家
(
こくしけ
)
を
中心
(
ちうしん
)
として
立派
(
りつぱ
)
な
政治
(
せいぢ
)
が
行
(
おこな
)
はれるで
厶
(
ござ
)
いませう』
128
松若彦
(
まつわかひこ
)
は
迷惑
(
めいわく
)
の
体
(
てい
)
で
面
(
つら
)
を
顰
(
しか
)
めたが、
129
エー
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
逆
(
さか
)
らうて
発動
(
はつどう
)
されちや
堪
(
たま
)
らない。
130
何
(
なん
)
でもいい、
131
気違
(
きちが
)
ひの
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
だから、
132
ウンウンと
云
(
い
)
ふて
置
(
お
)
けば
良
(
よ
)
い……とズルイ
考
(
かんが
)
へを
起
(
おこ
)
し、
133
松若
(
まつわか
)
『ウン、
134
ヨシヨシ、
135
何時
(
いつ
)
でも
返上
(
へんじやう
)
する
積
(
つも
)
りだ』
136
捨子
(
すてこ
)
『あゝ
嬉
(
うれ
)
しい
事
(
こと
)
、
137
流石
(
さすが
)
は
松若彦
(
まつわかひこ
)
様
(
さま
)
、
138
それでこそ
妾
(
わらは
)
の
夫
(
をつと
)
で
厶
(
ござ
)
いますワ。
139
どうぞ
御意
(
ぎよい
)
の
変
(
かは
)
らぬ
内
(
うち
)
、
140
大老職
(
たいらうしよく
)
の
辞表
(
じへう
)
を
認
(
したた
)
め、
141
実印
(
じついん
)
を
捺
(
お
)
して
下
(
くだ
)
さいませ。
142
さうでなければ、
143
妾
(
わらは
)
は
死
(
し
)
んで
天国
(
てんごく
)
へ
参
(
まゐ
)
ります』
144
松若
(
まつわか
)
『チエ
困
(
こま
)
つた
気違
(
きちが
)
ひだなア。
145
先
(
まづ
)
書
(
か
)
いてやらねば
治
(
おさ
)
まらない。
146
書
(
か
)
いた
所
(
ところ
)
で
出
(
だ
)
さなければ
良
(
よ
)
いのだ』
147
と
文机
(
ふづくゑ
)
から
料紙
(
れうし
)
を
取出
(
とりだ
)
し
墨
(
すみ
)
をすつて
筆
(
ふで
)
に
墨
(
すみ
)
し、
148
大老
(
たいらう
)
の
辞表
(
じへう
)
をスラスラと
書
(
か
)
き
認
(
したた
)
め、
149
捨子姫
(
すてこひめ
)
の
前
(
まへ
)
で
実印
(
じついん
)
を
押捺
(
あふなつ
)
し、
150
松若
(
まつわか
)
『サア
捨子姫
(
すてこひめ
)
、
151
之
(
これ
)
で
得心
(
とくしん
)
だらうなア』
152
捨子
(
すてこ
)
『ハイ
得心
(
とくしん
)
で
厶
(
ござ
)
います。
153
どうぞ
其
(
その
)
辞表
(
じへう
)
を、
154
妾
(
わらは
)
に
御
(
お
)
渡
(
わた
)
し
下
(
くだ
)
さいませ』
155
松若
(
まつわか
)
『イヤイヤ
156
斯
(
か
)
うしておけば
何時
(
いつ
)
でも
出
(
だ
)
せるのだ。
157
若
(
も
)
しお
前
(
まへ
)
に
持
(
も
)
たしておいて、
158
そこらへ
落
(
お
)
とされては
大変
(
たいへん
)
だから、
159
先
(
ま
)
づ
渡
(
わた
)
すこと
丈
(
だけ
)
は
止
(
や
)
めておかう』
160
捨子
(
すてこ
)
『それでは
貴方
(
あなた
)
は
妾
(
わらは
)
を
詐
(
いつは
)
つて
居
(
ゐ
)
らつしやるのでせう。
161
政権
(
せいけん
)
や
顕職
(
けんしよく
)
に
恋々
(
れんれん
)
として
162
居
(
ゐ
)
らつしやるのでせうがな』
163
松若彦
(
まつわかひこ
)
は
癪
(
しやく
)
にさへて、
164
『エ、
165
やかましい、
166
きまつた
事
(
こと
)
だ。
167
今日
(
こんにち
)
の
地位
(
ちゐ
)
は
決
(
けつ
)
して
此
(
この
)
松若彦
(
まつわかひこ
)
が
得
(
え
)
たのでない。
168
言
(
い
)
はば
祖先
(
そせん
)
の
名代
(
みやうだい
)
も
同
(
おな
)
じ
事
(
こと
)
だ。
169
軽々
(
かるがる
)
しく
俺
(
おれ
)
一了見
(
いちれうけん
)
では
左様
(
さやう
)
な
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
るものか。
170
御
(
ご
)
先祖
(
せんぞ
)
様
(
さま
)
を
地下
(
ちか
)
から
呼
(
よ
)
び
起
(
おこ
)
し、
171
お
許
(
ゆる
)
しを
受
(
う
)
けずばなるまい。
172
其方
(
そなた
)
には
八岐
(
やまた
)
の
大蛇
(
をろち
)
が
魅入
(
みい
)
つて
居
(
を
)
るのであらう。
173
汚
(
けが
)
らはしい、
174
そちらへ
行
(
ゆ
)
けツ』
175
と
焼糞
(
やけくそ
)
になつて
呶鳴
(
どな
)
りつけた。
176
捨子姫
(
すてこひめ
)
は
177
……
老人
(
としより
)
を
余
(
あま
)
り
腹立
(
はらだ
)
てさすのも
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
だ、
178
ここらで
幕
(
まく
)
の
切所
(
きりどころ
)
だ……と
従順
(
じうじゆん
)
に
沈黙
(
ちんもく
)
に
入
(
い
)
つて
了
(
しま
)
つた。
179
松若彦
(
まつわかひこ
)
は
杖
(
つゑ
)
をつき
乍
(
なが
)
ら、
180
憂
(
う
)
さ
晴
(
は
)
らしの
為
(
ため
)
庭先
(
にはさき
)
の
花
(
はな
)
を
見
(
み
)
むとて、
181
二足
(
ふたあし
)
三足
(
みあし
)
外
(
そと
)
へ
出
(
で
)
た
所
(
ところ
)
へ
家僕
(
かぼく
)
の
新公
(
しんこう
)
が
慌
(
あわただ
)
しく
帰
(
かへ
)
り
来
(
きた
)
り、
182
『
御前
(
ごぜん
)
様
(
さま
)
へ
申
(
まをし
)
上
(
あ
)
げます』
183
松若彦
(
まつわかひこ
)
は
驚
(
おどろ
)
いて、
184
『ヤ、
185
お
前
(
まへ
)
は
新
(
しん
)
ぢやないか。
186
其
(
その
)
慌
(
あわ
)
てた
様子
(
やうす
)
は
何事
(
なにごと
)
ぞ。
187
又
(
また
)
プロ
運動
(
うんどう
)
でもおつ
始
(
ぱじ
)
まつたのか』
188
此
(
この
)
親爺
(
おやぢ
)
、
189
プロ
運動
(
うんどう
)
が
気
(
き
)
に
懸
(
か
)
かると
見
(
み
)
えて、
190
二
(
ふた
)
つ
目
(
め
)
にはプロ
運動
(
うんどう
)
が
突発
(
とつぱつ
)
したのではないか
191
と
尋
(
たづ
)
ねるのが
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
の
習慣
(
しふくわん
)
となつて
居
(
ゐ
)
た。
192
新公
(
しんこう
)
『
仰
(
おほせ
)
の
如
(
ごと
)
く、
193
たつた
今
(
いま
)
、
194
赤切
(
あかぎれ
)
公園
(
こうゑん
)
に
於
(
おい
)
て、
195
プロ
階級
(
かいきふ
)
演説会
(
えんぜつくわい
)
が
始
(
はじ
)
まり、
196
大変
(
たいへん
)
な
取締
(
とりしまり
)
と
衆生
(
しゆじやう
)
との
衝突
(
しようとつ
)
で、
197
血
(
ち
)
まぶれ
騒
(
さわ
)
ぎが
勃発
(
ぼつぱつ
)
致
(
いた
)
しました』
198
松若
(
まつわか
)
『ナアニ、
199
プロ
階級
(
かいきふ
)
演説会
(
えんぜつくわい
)
?、
1991
そして
血
(
ち
)
まぶれ
騒
(
さわ
)
ぎ、
200
其
(
その
)
後
(
あと
)
は
何
(
ど
)
うなつた』
201
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
202
驚
(
おどろ
)
いて
庭
(
には
)
の
敷石
(
しきいし
)
の
上
(
うへ
)
にドスンと
尻餅
(
しりもち
)
をつき
203
……『アイタタツタ』と
面
(
つら
)
顰
(
しか
)
めて
居
(
ゐ
)
る。
204
新公
(
しんこう
)
『お
蔭
(
かげ
)
で、
205
其
(
その
)
騒
(
さわぎ
)
も
鎮静
(
ちんせい
)
致
(
いた
)
しましたが、
206
不思議
(
ふしぎ
)
な
事
(
こと
)
には、
207
エンゼルだと
云
(
い
)
つて、
208
白馬
(
はくば
)
に
跨
(
またが
)
り、
209
妙齢
(
めうれい
)
の
美人
(
びじん
)
が
現
(
あら
)
はれ
210
……
松若彦
(
まつわかひこ
)
も
悪
(
わる
)
いが、
211
衆生
(
しゆじやう
)
も
悪
(
わる
)
い……テな
事
(
こと
)
を
歌
(
うた
)
ひましたら、
212
不思議
(
ふしぎ
)
な
者
(
もの
)
でげすな、
213
ピタリと
争闘
(
さうとう
)
が
止
(
と
)
まりました。
214
然
(
しか
)
しながら
其
(
その
)
エンゼルの
顔
(
かほ
)
が
当家
(
たうけ
)
のお
嬢様
(
ぢやうさま
)
にソツクリでした。
215
お
乗
(
の
)
り
遊
(
あそ
)
ばした
馬
(
うま
)
も、
216
お
邸
(
やしき
)
のに
寸分
(
すんぶん
)
違
(
ちが
)
はぬ
白馬
(
はくば
)
で
厶
(
ござ
)
ります。
217
若
(
も
)
しも、
2171
お
嬢様
(
ぢやうさま
)
も
宅
(
たく
)
に
居
(
ゐ
)
られず
白馬
(
はくば
)
も
居
(
ゐ
)
ないとすれば、
218
テツキリ
常磐姫
(
ときはひめ
)
様
(
さま
)
に
間違
(
まちが
)
ひ
厶
(
ござ
)
いますまい』
219
松若
(
まつわか
)
『
今朝
(
けさ
)
から
姫
(
ひめ
)
も
居
(
を
)
らず、
220
馬
(
うま
)
も
居
(
ゐ
)
ないから、
221
あのお
転婆娘
(
てんばむすめ
)
どつかの
公園
(
こうゑん
)
に
散歩
(
さんぽ
)
に
行
(
い
)
つたと
思
(
おも
)
つて
居
(
ゐ
)
たが、
222
プロ
運動
(
うんどう
)
に
加
(
くは
)
はり
居
(
を
)
つたか。
223
そして
衆生
(
しゆじやう
)
の
前
(
まへ
)
に
松若彦
(
まつわかひこ
)
が
悪
(
わる
)
いなどと
云
(
い
)
へば、
224
火
(
ひ
)
の
中
(
なか
)
へ
薪
(
たきぎ
)
に
油
(
あぶら
)
をかけて
飛
(
とび
)
込
(
こ
)
む
様
(
やう
)
なものだ。
225
益々
(
ますます
)
プロ
運動
(
うんどう
)
を
熾烈
(
しれつ
)
ならしめ、
226
国家
(
こくか
)
の
基礎
(
きそ
)
を
危
(
あやふ
)
くする
事
(
こと
)
になる。
227
新公
(
しんこう
)
、
228
若
(
も
)
しも
姫
(
ひめ
)
が
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
ても
松若彦
(
まつわかひこ
)
が
許
(
ゆる
)
さぬ
限
(
かぎ
)
り、
229
一歩
(
いつぽ
)
も
入
(
い
)
れてはならぬぞ。
230
あーあ、
231
子
(
こ
)
が
無
(
な
)
くて
心配
(
しんぱい
)
する
親
(
おや
)
は
無
(
な
)
いが、
232
子
(
こ
)
の
為
(
ため
)
に
親
(
おや
)
は
心配
(
しんぱい
)
せねばならぬか』
233
新公
(
しんこう
)
『
御前
(
ごぜん
)
様
(
さま
)
、
234
子
(
こ
)
が
有
(
あ
)
る
為
(
ため
)
に
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
になりますか。
235
さうすればお
金
(
かね
)
のある
為
(
ため
)
、
236
爵位
(
しやくゐ
)
のある
為
(
ため
)
には
一入
(
ひとしほ
)
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
で
厶
(
ござ
)
いませうな』
237
松若
(
まつわか
)
『
爵位
(
しやくゐ
)
が
有
(
あ
)
る
為
(
ため
)
、
238
黄金
(
わうごん
)
が
有
(
あ
)
る
為
(
ため
)
の
心配
(
しんぱい
)
は
心配
(
しんぱい
)
にはならぬ。
239
此
(
この
)
老体
(
らうたい
)
もそれある
為
(
ため
)
に
息
(
いき
)
をして
居
(
ゐ
)
るのだ。
240
アツハヽヽヽ』
241
と
冷
(
ひや
)
やかに
笑
(
わら
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
242
杖
(
つゑ
)
を
力
(
ちから
)
にエチエチと
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
さして
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
る。
243
新公
(
しんこう
)
は
箒
(
はうき
)
を
手
(
て
)
にし
乍
(
なが
)
ら、
244
独
(
ひと
)
り
呟
(
つぶや
)
いて
居
(
ゐ
)
る。
245
『よい
年
(
とし
)
をして
執着心
(
しふちやくしん
)
の
深
(
ふか
)
い
老耄爺
(
おいぼれぢい
)
だな。
246
国司
(
こくし
)
様
(
さま
)
から
貰
(
もら
)
つたお
菓子
(
くわし
)
も
葡萄酒
(
ぶだうしゆ
)
も、
247
又
(
また
)
沢山
(
たくさん
)
な
政治家
(
せいぢか
)
連
(
れん
)
や
出入
(
でいり
)
の
者
(
もの
)
や
乾児
(
こぶん
)
共
(
ども
)
から
病気
(
びやうき
)
見舞
(
みまひ
)
だと
云
(
い
)
つて
持
(
も
)
つて
来
(
く
)
るサイダーにビール、
248
林檎
(
りんご
)
や
菓子
(
くわし
)
、
249
一
(
ひと
)
つも
自分
(
じぶん
)
も
喰
(
く
)
はず
人
(
ひと
)
にも
能
(
よ
)
う
呉
(
く
)
れやがらず、
250
皆
(
みな
)
金
(
かね
)
にして
郵便局
(
ゆうびんきよく
)
に
預
(
あづ
)
け、
251
金
(
かね
)
のたまるのを
唯一
(
ゆゐいつ
)
の
楽
(
たのし
)
みとして
居
(
ゐ
)
る
欲惚
(
よくぼ
)
け
爺
(
ぢぢ
)
だから、
252
サツパリ
駄目
(
だめ
)
だワイ。
253
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
にビールの
一本
(
いつぽん
)
も
振舞
(
ふるま
)
つてよかりさうなものだのに、
254
毎日
(
まいにち
)
日日
(
ひにち
)
車力
(
しやりき
)
に
積
(
つ
)
んで
売
(
う
)
りにやりあがる。
255
本当
(
ほんたう
)
に
吝
(
けち
)
な
爺
(
ぢぢ
)
だ。
256
それだから
良
(
よ
)
うしたものだ、
257
親
(
おや
)
辛
(
しん
)
労
(
ど
)
子
(
こ
)
楽
(
らく
)
、
258
孫乞食
(
まごこじき
)
と
云
(
い
)
つて、
259
三代目
(
さんだいめ
)
になれば、
260
此
(
この
)
財産
(
ざいさん
)
もスツカリ
飛
(
と
)
んで
了
(
しま
)
ふのは
今
(
いま
)
から
見
(
み
)
えて
居
(
ゐ
)
る。
261
松依別
(
まつよりわけ
)
さまの
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
の
悪原
(
あしはら
)
通
(
がよ
)
ひと
云
(
い
)
つたら、
262
本当
(
ほんたう
)
に
痛快
(
つうくわい
)
だ。
263
印形
(
いんぎやう
)
を
盗
(
ぬす
)
み
出
(
だ
)
しては
銀行
(
ぎんかう
)
から
金
(
かね
)
を
出
(
だ
)
し、
264
金銭
(
きんせん
)
を
湯水
(
ゆみづ
)
の
如
(
ごと
)
くに
使
(
つか
)
ひ、
265
大尽
(
だいじん
)
遊
(
あそ
)
びをやつて
居
(
ゐ
)
らつしやるのに、
266
欲
(
よく
)
に
目
(
め
)
が
眩
(
くら
)
んで、
267
何
(
なに
)
も
知
(
し
)
らずに
居
(
ゐ
)
るとは
可哀相
(
かあいさう
)
なものだな。
268
金
(
かね
)
を
拵
(
こしら
)
へて
番
(
ばん
)
する
身魂
(
みたま
)
と、
269
金
(
かね
)
を
使
(
つか
)
ふ
身魂
(
みたま
)
とがあると
見
(
み
)
えるワイ。
270
アツハヽヽヽ』
271
と
独
(
ひと
)
り
笑
(
わら
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
272
其処
(
そこ
)
へ
馬
(
うま
)
に
跨
(
またが
)
つて、
273
悠々
(
いういう
)
と
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
たのは
盛装
(
せいさう
)
を
凝
(
こ
)
らした
常磐姫
(
ときはひめ
)
であつた。
274
新公
(
しんこう
)
『ヤ、
275
お
嬢
(
ぢやう
)
さま、
276
お
帰
(
かへ
)
りなさいませ。
277
貴方
(
あなた
)
はオレオン
星座
(
せいざ
)
からお
降
(
くだ
)
りになつた、
278
エンゼルの
松代姫
(
まつよひめ
)
さまぢや
厶
(
ござ
)
りませぬかな』
279
常磐
(
ときは
)
『ホヽヽヽ
新
(
しん
)
さま、
280
お
前
(
まへ
)
見
(
み
)
て
居
(
ゐ
)
たのかえ』
281
新公
(
しんこう
)
『ヘーヘー
貴女
(
あなた
)
のお
芝居
(
しばゐ
)
は
此
(
この
)
新公
(
しんこう
)
、
282
目敏
(
めざと
)
くも
看破
(
かんぱ
)
して
居
(
を
)
りましたが、
283
然
(
しか
)
しながら
衆生
(
しゆじやう
)
があれ
丈
(
だけ
)
不思議
(
ふしぎ
)
がつて
居
(
ゐ
)
るのに、
284
素破
(
すつぱ
)
抜
(
ぬ
)
いちや
面白
(
おもしろ
)
うないと
思
(
おも
)
つて、
285
黙
(
だま
)
つて
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
ました。
286
そして
御前
(
ごぜん
)
様
(
さま
)
に
一寸
(
ちよつと
)
話
(
はなし
)
ました
所
(
ところ
)
、
287
大変
(
たいへん
)
な
御
(
ご
)
立腹
(
りつぷく
)
で、
288
……
清家
(
せいか
)
の
娘
(
むすめ
)
がプロ
運動
(
うんどう
)
の
煽動
(
せんどう
)
をする
様
(
やう
)
なことでは、
289
此
(
この
)
内
(
うち
)
へは
入
(
い
)
れられぬ、
290
門前払
(
もんぜんばらい
)
を
喰
(
く
)
はせ……とそれはそれはえらい
勢
(
いきほひ
)
で
厶
(
ござ
)
いましたよ。
291
マア
一寸
(
ちよつと
)
此
(
この
)
門
(
もん
)
潜
(
くぐ
)
るのは
見合
(
みあ
)
はして
頂
(
いただ
)
きませう。
292
御前
(
ごぜん
)
様
(
さま
)
の
代理権
(
だいりけん
)
を
持
(
も
)
つて
居
(
を
)
りますから
断
(
だん
)
じて
入
(
い
)
れませぬ』
293
常磐
(
ときは
)
『ホヽヽヽ、
294
大分
(
だいぶん
)
面白
(
おもしろ
)
うなつて
来
(
き
)
たね。
295
さうすると
父上
(
ちちうへ
)
は
今日
(
けふ
)
限
(
かぎ
)
り、
296
お
暇
(
ひま
)
を
下
(
くだ
)
さるのだらうか。
297
さうなれば、
298
妾
(
わらは
)
も
願望
(
ぐわんまう
)
成就
(
じやうじゆ
)
だワ。
299
そんなら、
300
父上
(
ちちうへ
)
に、
301
之
(
これ
)
つきり、
302
お
目
(
め
)
にかかりませぬから、
303
……
随分
(
ずいぶん
)
御
(
おん
)
身
(
み
)
を
大切
(
たいせつ
)
になさいませ……と
云
(
い
)
つたと
伝
(
つた
)
へて
呉
(
く
)
れ、
304
左様
(
さやう
)
なら』
305
と
駒
(
こま
)
の
頭
(
かしら
)
を
立直
(
たてなほ
)
し、
306
出
(
いで
)
行
(
ゆ
)
かむとするを、
307
新公
(
しんこう
)
は
驚
(
おどろ
)
いて、
308
『あゝ、
309
若
(
も
)
し
若
(
も
)
しお
嬢様
(
ぢやうさま
)
、
310
少時
(
しばらく
)
お
待
(
ま
)
ち
下
(
くだ
)
さいませ。
311
何
(
なに
)
程
(
ほど
)
厳
(
きび
)
しく
仰有
(
おつしや
)
つても、
312
子
(
こ
)
の
可愛
(
かあ
)
ゆう
無
(
な
)
い
親
(
おや
)
は
厶
(
ござ
)
いませぬ。
313
貴方
(
あなた
)
が
御
(
ご
)
改心
(
かいしん
)
下
(
くだ
)
さらば、
314
キツトお
許
(
ゆる
)
し
下
(
くだ
)
さいますから、
315
御前
(
ごぜん
)
様
(
さま
)
に
伺
(
うかが
)
つて
来
(
く
)
る
迄
(
まで
)
、
316
マアマア
一寸
(
ちよつと
)
御
(
お
)
待
(
ま
)
ち
下
(
くだ
)
さいませ』
317
常磐
(
ときは
)
『オイ
新
(
しん
)
さま、
318
折角
(
せつかく
)
解放
(
かいはう
)
された
妾
(
わらは
)
を、
319
再
(
ふたた
)
び
苦
(
くるし
)
める
様
(
やう
)
な
事
(
こと
)
はして
下
(
くだ
)
さるな。
320
父上
(
ちちうへ
)
の
其
(
その
)
伝言
(
でんごん
)
を
聞
(
き
)
く
上
(
うへ
)
は、
321
妾
(
わらは
)
も
世界晴
(
せかいばれ
)
のしたやうな
心持
(
こころもち
)
がして
来
(
き
)
た……
左様
(
さやう
)
なら、
322
父上
(
ちちうへ
)
母上
(
ははうへ
)
に
宜
(
よろ
)
しう
云
(
い
)
つてお
呉
(
く
)
れ』
323
と
言
(
い
)
ひ
残
(
のこ
)
し
手綱
(
たづな
)
かいくり、
324
館
(
やかた
)
の
門前
(
もんぜん
)
の
階段
(
かいだん
)
を、
325
『ハイハイ』と
馬
(
うま
)
をいましめ
乍
(
なが
)
ら
降
(
くだ
)
つて
行
(
ゆ
)
く。
326
其処
(
そこ
)
へヅブ
六
(
ろく
)
に
酔
(
よ
)
ふて、
327
兄
(
あに
)
の
松依別
(
まつよりわけ
)
が
懐手
(
ふところで
)
をし
乍
(
なが
)
ら、
328
三尺帯
(
さんじやくおび
)
を
尻
(
しり
)
のあたりに
締
(
し
)
め、
329
自堕落
(
じだらく
)
な
風
(
ふう
)
をして、
330
頬冠
(
ほほかむ
)
りを
七分
(
しちぶ
)
三分
(
さんぶ
)
に
被
(
かぶ
)
り、
331
『
失恋
(
しつれん
)
したとて
短気
(
たんき
)
を
出
(
だ
)
すな
332
悪原廓
(
あしはらくるわ
)
に
花
(
はな
)
が
咲
(
さ
)
く……と。
333
日々
(
ひにち
)
毎日
(
まいにち
)
悪原
(
あしはら
)
通
(
がよ
)
ひ
334
早
(
はや
)
く
親爺
(
おやぢ
)
に
死
(
し
)
んで
欲
(
ほ
)
しい……と。
335
家
(
いへ
)
の
親爺
(
おやぢ
)
は
雪隠
(
せんち
)
のそばの
柿
(
かき
)
よ
336
渋
(
しぶ
)
うて
汚
(
きたな
)
うて
細
(
こま
)
こてくはれない……と』
337
と
千鳥足
(
ちどりあし
)
になつて、
338
階段
(
かいだん
)
を
昇
(
のぼ
)
つて
来
(
く
)
ると、
339
妹
(
いもうと
)
の
馬
(
うま
)
とベタリ
出会
(
でつくは
)
し、
340
松依
(
まつより
)
『こんな
狭
(
せま
)
い
所
(
ところ
)
を
馬
(
うま
)
に
乗
(
の
)
りやがつて、
341
ドヽ
何奴
(
どいつ
)
だい。
342
見
(
み
)
た
所
(
ところ
)
、
343
一寸
(
ちよつと
)
渋皮
(
しぶかは
)
の
剥
(
む
)
けたナイスと
見
(
み
)
えるが、
344
一寸
(
ちよつと
)
馬
(
うま
)
から
下
(
お
)
りて
来
(
こ
)
い。
345
握手
(
あくしゆ
)
の
一
(
ひと
)
つもやつてやらア。
346
エー、
347
ゲー、
348
アツプー、
349
エー
苦
(
くる
)
しい
苦
(
くる
)
しい。
350
なんぼ
苦
(
くる
)
しいても
美人
(
びじん
)
の
顔
(
かほ
)
見
(
み
)
りや
気分
(
きぶん
)
が
悪
(
わる
)
くないものだ』
351
常磐姫
(
ときはひめ
)
352
馬上
(
ばじやう
)
より、
353
『あゝ
見
(
み
)
つともない、
354
兄
(
にい
)
さまぢや
厶
(
ござ
)
いませぬか。
355
妾
(
わらは
)
は
常磐姫
(
ときはひめ
)
で
厶
(
ござ
)
いますよ』
356
松依
(
まつより
)
『
時
(
とき
)
は
今
(
いま
)
、
357
親爺
(
おやぢ
)
の
亡
(
ほろ
)
ぶ
間際
(
まぎは
)
哉
(
かな
)
……とか
何
(
なん
)
とか
仰有
(
おつしや
)
いましてね、
358
……あゝ
面白
(
おもしろ
)
い
面白
(
おもしろ
)
い、
359
これから
帰
(
い
)
んで、
360
薬鑵頭
(
やくわんあたま
)
のお
小言
(
こごと
)
を
頂戴
(
ちやうだい
)
するのかな』
361
常磐
(
ときは
)
『コレ
兄
(
にい
)
さま、
362
しつかりなさいませ。
363
妹
(
いもうと
)
で
厶
(
ござ
)
いますよ』
364
松依
(
まつより
)
『
妹
(
いもうと
)
でも
何
(
なん
)
でも
構
(
かま
)
ふものか、
365
……
妹
(
いも
)
と
背
(
せ
)
の
中
(
なか
)
を
隔
(
へだ
)
つる
吉野川
(
よしのがは
)
……(
唄
(
うた
)
)
悪原通
(
あしはらがよひ
)
でいきりぬく』
366
常磐姫
(
ときはひめ
)
は
止
(
や
)
むを
得
(
え
)
ず、
367
馬
(
うま
)
からヒラリと
飛下
(
とびお
)
り
松依別
(
まつよりわけ
)
の
背
(
せな
)
を
叩
(
たた
)
き
乍
(
なが
)
ら、
368
『
兄
(
にい
)
さま、
369
しつかりして
下
(
くだ
)
さいませ、
370
妾
(
わらは
)
は
之
(
これ
)
から
父
(
ちち
)
の
怒
(
いかり
)
に
触
(
ふ
)
れ、
371
家出
(
いへで
)
を
致
(
いた
)
します。
372
貴方
(
あなた
)
はどうぞ
両親
(
りやうしん
)
に
心
(
こころ
)
を
直
(
なほ
)
して、
373
良
(
よ
)
く
仕
(
つか
)
へて
下
(
くだ
)
さいませ。
374
之
(
これ
)
が
此
(
この
)
世
(
よ
)
の
別
(
わか
)
れにならうも
知
(
し
)
れませぬから……』
375
と
流石
(
さすが
)
気丈
(
きぢやう
)
の
常磐姫
(
ときはひめ
)
も、
376
涙
(
なみだ
)
に
湿
(
しめ
)
つた
声
(
こゑ
)
を
絞
(
しぼ
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
377
松依別
(
まつよりわけ
)
は
始
(
はじ
)
めて
妹
(
いもうと
)
と
悟
(
さと
)
り、
378
俄
(
にはか
)
に
気
(
き
)
がついた
様
(
やう
)
に、
379
『ヤア
妹
(
いもうと
)
か、
380
一体
(
いつたい
)
何処
(
どこ
)
へ
行
(
ゆ
)
くのだ』
381
常磐
(
ときは
)
『ハイ、
382
父
(
ちち
)
に
勘当
(
かんどう
)
されましたので、
383
之
(
これ
)
から
誰
(
たれ
)
憚
(
はばか
)
らず、
384
プロ
運動
(
うんどう
)
にでも
出
(
で
)
かける
積
(
つも
)
りで
厶
(
ござ
)
いますワ』
385
松依
(
まつより
)
『ナアニ、
386
プロ
運動
(
うんどう
)
?
結構
(
けつこう
)
々々
(
けつこう
)
、
387
それも
結構
(
けつこう
)
だが、
388
悪原
(
あしはら
)
通
(
がよ
)
ひも
結構
(
けつこう
)
だらう。
389
親爺
(
おやぢ
)
の
奴
(
やつ
)
衆生
(
しゆじやう
)
の
膏血
(
かうけつ
)
を
絞
(
しぼ
)
り、
390
沢山
(
たくさん
)
の
金
(
かね
)
を
蓄
(
ため
)
て
置
(
お
)
きやがつたものだから、
391
死
(
し
)
ぬにも
死
(
し
)
ねず、
392
行
(
ゆ
)
く
所
(
ところ
)
へも
行
(
ゆ
)
けず
苦
(
くるし
)
んで
居
(
ゐ
)
るから、
393
チツと
其
(
その
)
金
(
かね
)
を
浪費
(
らうひ
)
し、
394
深
(
ふか
)
い
罪
(
つみ
)
をチツトでも
軽
(
かる
)
うしてやらうと
思
(
おも
)
つて、
395
今
(
いま
)
頻
(
しき
)
りに
孝行
(
かうかう
)
運動
(
うんどう
)
の
最中
(
さいちう
)
だ。
396
お
前
(
まへ
)
も
之
(
これ
)
からプロ
運動
(
うんどう
)
をやり、
397
親爺
(
おやぢ
)
の
内閣
(
ないかく
)
を
倒
(
たふ
)
し、
398
チツと
罪
(
つみ
)
を
取
(
と
)
つてやれ。
399
お
前
(
まへ
)
も
之
(
これ
)
から
親孝行
(
おやかうかう
)
を
励
(
はげ
)
むがよいぞ、
400
左様
(
さやう
)
なら……』
401
と
又
(
また
)
もや
門
(
もん
)
をくぐり、
402
松依別
(
まつよりわけ
)
『
兄
(
あに
)
は
悪原
(
あしはら
)
妹
(
いもと
)
の
奴
(
やつ
)
は
403
プロ
運動
(
うんどう
)
で
孝行
(
かうかう
)
する……と』
404
新公
(
しんこう
)
は
箒
(
はうき
)
を
持
(
も
)
つた
儘
(
まま
)
、
405
庭園
(
ていえん
)
の
隅
(
すみ
)
つこから
走
(
はし
)
つて
来
(
き
)
て、
406
『
若様
(
わかさま
)
、
407
御前
(
ごぜん
)
様
(
さま
)
が
大変
(
たいへん
)
な
御
(
ご
)
立腹
(
りつぷく
)
で
厶
(
ござ
)
います。
408
どうぞ
着物
(
きもの
)
を
着替
(
きか
)
へて、
409
お
這入
(
はい
)
り
下
(
くだ
)
さいませぬと、
410
其
(
その
)
ザマでお
這入
(
はい
)
りになつては、
411
大
(
おほき
)
な
雷
(
かみなり
)
が
落
(
お
)
ちます。
412
すると
吾々
(
われわれ
)
迄
(
まで
)
が
迷惑
(
めいわく
)
致
(
いた
)
しますから、
413
チツと
低
(
ひく
)
い
声
(
こゑ
)
でものを
仰有
(
おつしや
)
つて
下
(
くだ
)
さいませ』
414
松依
(
まつより
)
『エツヘヽヽヽ、
415
面白
(
おもしろ
)
いな、
416
胸
(
むね
)
がスイとする
様
(
やう
)
な
雷
(
かみなり
)
に
一遍
(
いつぺん
)
落
(
お
)
ちて
貰
(
もら
)
ひたいものだ。
417
……
地震
(
じしん
)
雷
(
かみなり
)
火事
(
くわじ
)
親爺
(
おやぢ
)
、
418
親爺
(
おやぢ
)
が
恐
(
こは
)
くて
大神楽
(
だいかぐら
)
が
見
(
み
)
られぬ……と、
419
アーア
碌
(
ろく
)
でもない
酒
(
さけ
)
を
無茶
(
むちや
)
苦茶
(
くちや
)
に、
420
お
里
(
さと
)
の
女
(
あま
)
奴
(
め
)
強
(
し
)
ひるものだから、
421
内
(
うち
)
へ
帰
(
かへ
)
つても
未
(
ま
)
だ
酒
(
さけ
)
の
気
(
き
)
が
残
(
のこ
)
つてけつかる。
422
あ
423
然
(
しか
)
し
愉快
(
ゆくわい
)
だ、
424
……オイ
親爺
(
おやぢ
)
、
425
妹
(
いもうと
)
を
放
(
ほ
)
り
出
(
だ
)
して、
426
どうする
積
(
つも
)
りだ。
427
妹
(
いもうと
)
を
放
(
ほ
)
り
出
(
だ
)
すのなら、
428
何故
(
なぜ
)
兄
(
あに
)
から
放
(
ほ
)
り
出
(
だ
)
さぬのぢやい。
429
よう
放
(
ほ
)
り
出
(
だ
)
さぬのか、
430
俺
(
おれ
)
の
方
(
はう
)
から
放
(
ほ
)
り
出
(
で
)
てやらうか』
431
とダミ
声
(
ごゑ
)
を
振
(
ふり
)
上
(
あ
)
げて
呶鳴
(
どな
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
432
松若彦
(
まつわかひこ
)
は
何
(
なん
)
だか
妙
(
めう
)
な
声
(
こゑ
)
が
屋外
(
をくぐわい
)
に
聞
(
きこ
)
えるので、
433
杖
(
つゑ
)
をついて
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
434
窓
(
まど
)
からソツと
覗
(
のぞ
)
いて、
435
松依別
(
まつよりわけ
)
の
姿
(
すがた
)
に
肝
(
きも
)
を
潰
(
つぶ
)
し、
436
『アツ』と
云
(
い
)
つた
儘
(
まま
)
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
倒
(
たふ
)
れ、
437
したたか
腰
(
こし
)
を
打
(
う
)
つて、
438
ウンウンと
唸
(
うな
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
439
館
(
やかた
)
の
中
(
なか
)
は
上
(
うへ
)
を
下
(
した
)
への
大騒動
(
おほさうどう
)
、
440
水
(
みづ
)
よ
薬
(
くすり
)
よ
医者
(
いしや
)
よと、
441
家令
(
かれい
)
や
家扶
(
かふ
)
家従
(
かじゆう
)
の
面々
(
めんめん
)
が
自動車
(
じどうしや
)
や
自用俥
(
じようしや
)
を
飛
(
と
)
ばして
大活動
(
だいくわつどう
)
を
始
(
はじ
)
め
出
(
だ
)
した。
442
松依別
(
まつよりわけ
)
は
懐手
(
ふところで
)
をし
乍
(
なが
)
ら、
443
ブラリブラリと
又
(
また
)
もや
門口
(
かどぐち
)
指
(
さ
)
して
出
(
いで
)
て
行
(
ゆ
)
く。
444
(
大正一三・一・二三
旧一二・一二・一八
伊予 於山口氏邸、
松村真澄
録)
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(B)
(N)
国別 >>>
霊界物語
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山河草木(第61~72巻、入蒙記)
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